「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例19(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成24年から25年分の所得税につき、上場株式等の配当等を、源泉分離課税による申告不要制度を選択して申告したが、総合課税で申告しても純損失の繰越控除により、合計所得がゼロとなるため、総合課税で申告すれば、配当控除の適用が受けられ、さらに、源泉徴収された所得税や住民税が控除でき、有利であった。これにより、過大納付となった所得税及び住民税200万円につき賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 H25.3.15 平成24年分の所得税を上場株式等の配当等を源泉分離課税で申告。 H26.3.15 平成25年分の所得税を上場株式等の配当等を源泉分離課税で申告。 H26.8.1 依頼者からの問い合わせにより配当所得を総合課税で再計算したところ、総合課税が有利であることが判明。 H26.9.15 所轄税務署に更正の請求書を提出。 H26.10.6 所轄税務署より更正の請求は認められないため、取り下げるよう連絡あり。 H26.10.14 関与先に報告し、賠償請求を受ける。 《基礎知識》 ◆上場株式等の配当所得に対する課税 配当所得は、原則として確定申告の対象とされるが、源泉分離課税による確定申告不要制度を選択することもできる。また、平成21年1月1日以後に支払いを受けるべき上場株式等の配当所得については、総合課税によらず、申告分離課税を選択することができる。 (1) 総合課税(所法22) 各種所得の金額を合計して所得税額を計算するもので、総合課税の対象とした配当所得については、一定のものを除き配当控除の適用を受けることができる。 (2) 申告分離課税(措法8の4) 申告分離課税を選択する場合には、申告する上場株式等の配当等の全額について、総合課税と申告分離課税のいずれかを選択する必要がある。 税率は年度により次表のようになる。 (3) 確定申告不要制度(措法8の5①) 上場株式等の配当等については、納税者の判断により確定申告不要制度を選択することができる(大口株主等を除く)。 この制度を適用するかどうかは、1回に支払いを受けるべき配当等の額ごとに選択することができる(源泉徴収選択口座内の配当等については、口座ごとに選択することができる)。なお、確定申告不要制度を選択した配当所得に係る源泉徴収税額は、その年分の所得税額から差し引くことはできない。 税率は年度により次表のようになる。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 上場株式等の配当等は、原則として確定申告の対象とされるが、源泉分離課税による確定申告不要制度を選択することもできる。依頼者には平成22年に多額の純損失が発生しており、平成25年までは純損失の繰越控除が可能であった。そして、平成25年は繰越期限を迎えて切捨てとなった純損失の金額が2,000万円あった。 したがって、平成23年の上場株式等の配当所得400万円及び平成24年の上場株式等の配当所得850万円を総合課税で申告しても、総合課税による合計所得はゼロであり、配当控除の適用が受けられ、さらに、源泉徴収された所得税や住民税が控除でき、有利であった。 しかし、税理士はこれに気づかず、源泉分離課税による申告不要制度を選択して申告してしまい、依頼者からの指摘によりはじめてそのミスに気づいている。確定申告に当たり、いずれが有利であるかを事前に検討していれば、総合課税は選択できたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 事前に有利不利の検討を行う 上場株式等の配当所得に対する課税のように、税制選択のある制度については、思い込みによらず、必ず事前に有利不利の選択を行い、必ず納税者に説明するようにしたい。 [ポイント②] チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築 申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第12回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括①」 公認会計士 佐藤 信祐 東京地裁平成26年3月18日判決は、いずれとも包括的租税回避防止規定について争われたが、第1回から第8回までで解説した事件はみなし共同事業要件の濫用について争われ、第9回から第11回までで解説した事件は資産調整勘定について争われた。 第12回以降は、両事件において提出された鑑定意見書として注目されている朝長英樹氏の鑑定意見書について考察を行う。なお、同氏の鑑定意見書については、『組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟(朝長英樹著、清文社)』(平成26年)に掲載されている。 3 2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括 (1) 平成23年10月28日付鑑定意見書 東京地裁に提出された意見書は3つ存在し、平成23年10月28日にみなし共同事業要件について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第228号)に対して提出され、平成24年7月12日に補充意見書として提出されている。さらに、平成24年5月14日には資産調整勘定について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第698号)に対しても提出されている。 まず、最初の意見書であるが、以下の内容について所見を述べるものとなっている。 このうち、本稿においては、(ⅰ)(ⅲ)を重要な論点として取り上げるものとする。 まず、本鑑定意見書のうち、上記(ⅰ)については、みなし共同事業要件と税制適格要件における共同事業要件の比較を行っているが、みなし共同事業要件においては、「特定資本関係の発生前の期間、特定資本関係の発生から組織再編成までの期間、そして、組織再編成以後の期間という三つの期間において過去の事業の状態の継続性を考える必要がある。」と書かれている。 なるほど、特定役員引継要件については、共同事業要件においては、組織再編成前の特定役員が組織再編成以後に引き継がれているかどうかが問題となっているが、みなし共同事業要件においては、特定資本関係発生日前の役員であることも要件となっているため、この点については、組織再編税制に関与したことのある税理士であれば共通認識となっている点であると考えられる。 さらに、本鑑定意見書は、みなし共同事業要件の個別の要件についても解説がなされているが、「社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役」の定義について、「常務に従事」といった文言や「経営に従事」という文言も付されていない点について、「常務取締役以上の役員に関しては、通常、常務に従事し、経営に従事することとなっているため、そのような理解の下に『特定役員』の上記の定義が設けられており、基本的には、『特定役員』が常務に従事していなかったり経営に従事していないという状態は予定されていない。」と解説されている。 この点につき、「常務に従事」という日本語については、専属たる役員である必要まではないと考えられる。なぜなら、役員たる職務は時間の切り売りではなく、委任契約に基づき、株主から期待されている成果を達成することを職務としていることから、週に1日程度の出勤であったとしても、その職務の執行に支障がないのであれば、特段問題する必要はなく、「常務に従事」という日本語については柔軟に解釈すべきであろう。 とりわけ、非上場会社においては、複数社の代表取締役社長を兼務している者も少なからず存在するところであり、いわゆる法人税法施行規則3条1項1号ロに規定する事業関連性要件における事業の意義において、「役員にあっては、その法人の業務に専ら従事するものに限る。」とされているのとは同等に捉えるべきではないと考えられる。 また、本論点の中心となっている点ではあるが、朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演禄集』日本租税研究協会90頁(平成23年)において、「課税の特例の適用を受けるために、短期間だけ役員にするといったような不自然、不合理なものは別にして」と述べられている点を紹介されている。 これは、実務上も頻繁に議論になる点であるが、特定資本関係発生日の直前や合併の直後に短期間だけ特定役員に就任させようとする租税回避行為が考えられ、そのような場合には、特定役員としての権限や責任を与えられていることは考えにくいため、事実認定により否認を受ける可能性は十分に考えられる。しかしながら、本事件においては、副社長としての権限や責任を与えられていたために、包括的租税回避防止規定によらなければ否認ができなかったという特殊性を有している。 この点について、本鑑定意見書においては、 として、「不自然、不合理」という文言を使用されているという点が特徴的である。 さらに、(ⅲ)については、本事件への当てはめを行っており、鑑定意見を述べる者として事実を確認する任にないことから、一般論として述べられているが、「短期間」であるということを問題視されているとともに、「特定資本関係の発生以後」の積極的な関与については、「引継ぎを肯定するための材料とはなり難い」ものとしている。しかしながら、本事件においては、「特定資本関係の発生前」における積極的な関与についても推認できる事実関係が判決文に記載されているという点が興味深い。 なお、本意見書の結びにおいては、「事業目的が存在して要件さえ形式的に満たしていれば全てが容認されるというわけではない」ということが述べられているが、この点については、誰しもが同意する点であり、僅かな事業目的をことさらに主張することの意義はそれほど大きくはない。 しかしながら、本事件においては、僅かな事業目的ではなく、しっかりとした事業目的が存在し、特定資本関係発生日前における副社長就任についても、不自然・不合理なものとは言い難かったという事実関係も存在し、それが故に、東京地裁の判決文についても、 としており、副社長就任という事実関係について、「不自然・不合理なもの」であるという認定までは行われていない。 そのため、この段階における鑑定意見書については、組織再編税制に関与する多くの専門家からすると、ほぼ同意できる内容が記載されており、本事件のような画期的な判決に繋がるような内容とまではなっていない。 さらに、本事件においては、2つの意見書が出されているが、次回以降においてはその内容について解説を行う予定である。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第12回】 「非居住者へ支払う家賃から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 先日、当社のオフィスが入居する建物を管理している不動産会社より、「建物の所有者が日本人のA氏から中国人のB氏に変更になったので、今後はオフィスの家賃をB氏の口座へ振り込むように」との連絡がありました。それに伴い、10月末までに11月分の家賃をB氏の口座へ振り込まなければなりません。オフィスの家賃は、月額20万円です。B氏は、中国に在住しており、所得税法上の非居住者です。 非居住者へ支払う家賃から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 非居住者へ家賃を支払う場合、20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。ただし、非居住者から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けた場合及び“個人”が自己又はその親族の“居住用”として不動産を賃借する場合は、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなくてもよい(所得税法施行令328条2号)。 今回のケースにおいては、賃借人が“法人”、かつ、“事業用”であるため、B氏から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けていない限り、20.42%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。 以下、「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けていない場合と提示を受けた場合に分けて解説する。 ① B氏から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けていない場合 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税40,840円を11月10日までに納付しなければならない。 ② B氏から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けた場合 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【46】 〔第6章〕判例の見方 (その4) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ④ 結論と理由付け 判例とは、当該事件の論点について裁判所の下した判断であるが、論点についての判断は、その結論の部分と結論の理由付けの部分とに分けることができる(もっとも、最高裁判所の判決には、結論を示しただけで、理由付けのないものもあるが)。 結論の部分は、論点の内容に応じて、「本件の具体的事実からすれば、本件の契約は公序良俗に反して無効である」とか、「〇法〇条は憲法〇条に違反し、無効である」といった命題の形で示される。 これに対し、理由付けの部分には、様々なものがある。先例としての意味を持たないその事件限りの説明にすぎない部分もある。それに対し、判例となり得るのは、先例としての意味を持ち得る一般的な性質を持った理由付けの命題の部分である。 もっともこの理由付けの部分は、判例ではないという見解もある。 例えば、ある認定された事実が一定の法令上の概念に該当することを理由付けるためにその概念の一般的な定義が示されることがある。 もう少し具体的に示せば、ある行為とある事実との間に因果関係が認められるか否かが論点である場合に、この因果関係を肯定する結論を導くための理由として、「Aという行為が存在しなければBという事実は生起しなかっただろうという関係があれば、AとBとの間には法律上の因果関係がある。」という一般的な命題が判示されたとする。 この部分は他の多くの事案にも適用することができる命題であるから、判例となるのではないかという見解と、判例となるのは結論の部分だけであるという見解が対立している。 なお以下、一般的な性質を持った理由付けの命題の部分を「理由付け命題」、結論の部分の命題を「結論命題」ということにする。 ⑤ 結論的判断の抽象化 判決では、法律的な判断は、当該事件の具体的事実を前提としてその法律的効果を述べる、という形で示される。しかし、具体的な事実は事案ごとに異なっており、全く同じということはほとんどない。 したがって、判例といった場合には、その事実が他の事実と入れ替わっても結論に変わりがないような事実を、その具体的事実の中から取り除いて、結論にとって意味のある事実だけを残すことによって抽象化された内容ということになる。抽象化されることにより、他の同種の事案に適用できるものとなる。 具体的な事実を抽象化していった結果残された事実、その有無により結論が変わるような事実は「重要な事実(material fact)」と呼ばれる。 そして、この重要な事実が多ければ多いほど他の事案に適用する際には限定する項目が増えるため、適用に際して判例としての射程範囲、すなわち適用される場合の範囲は狭くなる。それに対して、この重要な事実が少なければ少ないほど、限定する項目が減るため、判例としての射程範囲が広くなる。 何がこの重要な事実かは、判決を下した裁判官が示すわけではないため、第三者的な立場から客観的に判定されるべきものであり、判定者(実際には後の裁判所)が独自に、その事実が違えば結論が変わるか否かという基準によって決定することになる。 ⑥ 理由付けの判断は判例か 判例といえるためには、他の事案の事実にそれを適用して論点についての結論を直接に導き出せるようなものでなければならない。したがって、そのような直接の理由付け命題の正しいことを説明するためになんらかの一般的命題がさらに付加されていても、それは判例となる資格を持たない傍論ということになる。また、その事件の事実と異なる事実を仮定して述べられた命題は、判例とはならない。 したがって、理由付け命題が判例だとしても、理由付けの中に述べられたすべての命題が判例となるのではなく、それによって論点についての結論を直接導き出す命題だけが判例となり得るものと思われる。すなわち、当該事案の具体的事実を「小前提」とし三段論法によって結論を出すときの「大前提」に相当する命題に限られるということになる。 ところで、この理由付け命題は2種類のものがあるとされている。 その一つは、その事件の結論を抽象化した結論命題と内容において一致する理由付け命題であり、いま一つは、それよりも内容の広い、より一般化された法命題である。 ひとつ例を挙げて説明しよう。 某株式会社を侮辱する内容のビラを公開の場所に貼ったという事案についての昭和58年11月1日最高裁判所第一小法廷決定を見てみよう。この事案は、刑法231条の侮辱罪の成立を認めたものであるが、そこでの論点は、法人であるその株式会社が侮辱罪の客体である「人」といえるかという問題であった。 この決定の理由には、「なお、刑法231条にいう「人」には法人も含まれると解すべきであり」という理由付け命題が示されている。しかしこれは、この決定の理由付けというだけではなく、結論命題を抽象化したものに等しくなる。 大前提となる命題は、本来結論となる部分を含んでいて、かつ、それよりも広いものである。一方、結論命題を抽象化してその適用範囲を広げていくと、それは大前提としての機能を有するようになる。 この種の型の命題は、結論命題であると同時に理由付け命題であるという両者の性質を持っているため、この種の法命題については、結論命題だけが判例だと考える者にとっても、理由付け命題もまた判例であると考える者にとっても、これが判例とされることに異論はない。 それゆえ、判例であるかどうかが問題とされる理由付け命題は、先に挙げた2つのうちの後者である、より一般化された法命題の方である。すなわち、当該事件の結論命題としての抽象化の限度を越えて、より一般化された命題となったものである。法令上のある概念や関係を一般的に定義した命題などがそれである。 (続く)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第8回:2014年10月改訂】 「交際費と給与を区別する」 公認会計士・税理士 新名 貴則 会社が事業を行うに当たり、本来自社の役員や使用人が負担すべき費用を、会社が負担することがある。 このとき、この支出を「交際費等」として扱うのか「給与」として扱うのかで、課税関係が異なる。 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(措法61の4④)。 これに対して「給与」とは、勤務先から受ける給料、賞与などの所得をいう。 これには金銭で支給されるもののほか、給与支払者から受けた次のような「経済的利益」も含まれる。 役員や使用人が本来負担すべき費用を法人が負担した場合、税務上は交際費等と判断されると、原則として損金には算入されなくなる。資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)は下図のとおり損金に算入されるが、上限を超える部分についてはやはり損金に算入されない。 【平成25年度税制改正後の中小企業の交際費等の取扱い】 ただし、平成26年度税制改正後は、資本金1億円超の法人であっても、交際費等のうち接待飲食費についてのみ、その50%を損金算入できるようになった。また、資本金1億円以下の法人においては、上図の「年間800万円まで全額損金算入」と「接待飲食費の50%損金算入」を選択適用できることになった。 これに対して、税務上は給与であると判断されると損金には算入されるが、給与所得として所得税の源泉徴収が必要となる。また、対象が役員である場合は定期同額給与や事前確定届出給与に該当しない限り、損金には算入されない。 このように「交際費等」となるか「給与」となるかで課税関係の違いが生じるので、実務において適切に判断を行う必要がある。 ここで、役員や使用人に対する次のような支給は、交際費等ではなく給与として扱うこととされている(措通61の4(1)-12)。 したがって、対象が使用人であれば当然に損金に算入され、役員であれば定期同額給与等に該当すれば損金にされることになる。また、役員か使用人かを問わず、所得税の源泉徴収が必要となる。 昼食代等の50%以上を本人から徴収している場合は、所得税は非課税となる(法人の負担額が月額3,500円を超える部分は課税)(所基通36-38の2)。 通常の勤務時間外の勤務として、残業や宿日直を行った者に支給する食事代も、所得税は非課税となる(所基通36-24)。 使用人等に対する値引き販売であっても、次の要件をすべて満たす場合は、所得税は非課税となる(所基通36-23)。 いわゆる「渡切り交際費」といわれるものである。 使用人に対する支給であれば問題なく損金に算入されるが、役員に対する支給である場合は注意が必要である。 この渡切り交際費についても定期同額給与等の要件を満たす場合のみ、損金に算入されることになる。 (了)
IFRS導入プロジェクト再開に向け、 その目的を問う デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 CFO サービスユニット シニアマネジャー 大木 和俊 ◆IFRS導入プロジェクト再開の背景◆ 2009年6月、金融庁よりIFRS 適用ロードマップ(「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」)が公表されて以来、IFRS導入プロジェクトに着手する企業が増えていった。しかし2011年に入り、当時金融担当大臣であった自見氏のIFRS 適用に関する発言を契機に、多くの企業がIFRS 導入プロジェクトの規模を大幅に縮小または中断し、別の経営課題の検討にシフトしていった。 ところが、ここ最近になって企業のグローバル競争力強化に関して報道や紙面を賑わすようになったのに加えて、従来のIFRS 任意適用要件が緩和されたことも重なり、IFRS 導入の動きが再び活発化している。 具体的には、従来は国際的な財務・事業活動を実施かつ海外子会社の資本金が20億円以上という要件であったが、今後はIFRS 連結財務諸表を適正に作成できる体制等を整備すれば上場及び公開準備企業でも適用可能とされている。 このような中、新規にIFRS導入に取り組もうとする企業も多いと思われるが、以前にIFRS導入を推進していたものの断念してしまい、検討再開を図る企業もある。 ◆IFRS 導入の目的を見直す◆ IFRS 導入に関わらず、あらゆる経営課題に取り組むにあたっては、まず最初に明確な目的を設定する必要がある。なぜならば、導入目的によってIFRS 導入のアプローチが異なるためである。 IFRS 導入を単なる制度対応として考えるか、経営管理高度化まで視野に入れて取り組むかで、アプローチやプロジェクト体制が大きく変わってくる。経営環境の違いにより目的の設定も異なると考えられるため、再開される場合は、当時と現在の経営環境の違いを踏まえて導入目的を再考することをお勧めする。 また、明確な導入目的がなければ、再び外的要因によってプロジェクトが再度中止になる恐れがある。IFRS を先行導入した企業は外的要因に左右されることなくIFRS 導入を完遂している。それは、外的要因に左右されない確固たるIFRS 導入の目的があったからだと考えられる。 例えばある企業では、IFRS 適用により、海外の投資家や取引先等からの信頼を高め、資金調達力の向上や株価適正化につながることを期待し、経営者が音頭をとって推進していた。そのため、国内の強制適用動向や、他社の動向に過度に影響されることなくIFRS 導入を完遂した。 もちろん中止の理由は各社の事情によってさまざまであり、一概には言えないかもしれないが、IFRS 導入を中止した企業は、IFRS導入の目的(期待効果)が明確でなく、少なからず同業他社や世論の動きに合わせたものになっていた面があったのではないか。だとすると、以前と同様の目的設定でIFRS 導入を再開しても、外的要件の変化によって再び中止される可能性もあり、それまで検討にかけた時間とコストが、またもや水泡に帰すことにもなりかねない。 したがって、前回の轍を踏まないよう、再開の際には何よりもまず「IFRS 導入の目的」を見直す必要がある。 ◆IFRS導入のメリット◆ 目的を見直すうえでは、IFRS導入のメリットを認識しておく必要がある。 IFRS 導入によって得られるメリットとは何かを考えると、2つの側面がある。 まず、1つ目にあげられるのは、IFRS が世界に受け入れられている国際標準であるという事実そのものによるメリットである。 IFRS に基づく財務情報を開示することで、世界中の投資家に対して比較可能性や、透明性の高い情報を提供することができる。また、海外での社債発行や、新株発行、海外市場への上場についても、日本基準の時代に比べると格段にハードルが下がり、資金調達の幅を広げることが期待できる。こうしたことが、IFRS が国際標準であること自体によるメリットである。 また、IFRS には、グループ企業全体で統一した会計処理が求められることや、日本基準に比較して、非常に範囲が広く詳細な注記開示が求められるなどの特徴がある。IFRS を導入するということは、IFRS のこうしたルールを受け入れることを意味し、企業としては、これらのルールを守るために、何らかのかたちで、グループ全体の会計の標準化や情報の集約等を行う必要が出てくる。このことは、IFRS 自体の特性がもたらすメリットと言える。 2つ目は、IFRS 導入を制度対応のみに終わらせず、経営改革に繋げていくことによって得られるメリットである。 IFRS 導入を契機とした、グループ会計システムの統合化や、グローバルレベルの業務の標準化、企業価値経営の考え方を取り入れた経営管理の導入など、多くの取り組みが考えられる。 IFRS 導入を機会に、これまで取り組めなかった経営課題を解決することができれば、企業の成長のための大きな財産を獲得することになる。 ◆プロジェクト推進における目的設定の重要性◆ 制度対応だからといって、目的(why?)を問う余地はない、と考えるのは早計である。あまりに「義務感」が強調されてしまうと、IFRS 導入に対する視野を狭め、導入作業や新業務に対する負担感が先に立って、IFRS 適用に対するモチベーションの低下を引き起こす恐れもある。 IFRS 導入のメリットをよく理解し、中長期的な視点で自社にとっての「Why」の答えを明確にすることが重要である。 IFRS 導入は、時間も手間もかかる、それだけでも非常に難しい仕事だ。多くのコストと時間を費やして得るものが単なる制度対応では、士気も下がってしまう。 ゴールを高く設定すれば、それだけプロジェクト遂行の難しさは増すことになるが、業務効率化や経営改革という自発的な目的を持つほうが、プロジェクトの範囲が広がり、プロジェクトメンバーや関係者のモチベーションも高まり、より良い結果が期待できるのではないだろうか。 (了)
減損会計を学ぶ 【第19回】 「割引率①」 ~割引計算の考え方~ 公認会計士 阿部 光成 減損会計では、使用価値の算定に際して、割引率を用いて将来キャッシュ・フローの現在価値が計算される(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)、二5)。 割引率については、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)45項において、4つの方法が示されている。 今回は、割引率に関する論点について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 割り引くということ 現在、100万円の預金をもっていたとする。 これと、1年後の預金100万円は価値が同じかどうかを考える。 もし、預金の利率が5%であった場合、現在の預金を銀行に預け入れると、1年後には105万円の預金(=100万円+100万円×5%)となる。つまり、現在の100万円は、1年後には105万円の価値になるということである。 今度は、1年後の預金105万円をベースに考えて、時間を反転し、1年後の預金105万円は、現在の価値としてはいくらになるのかという考え方をしてみる。 つまり、1年後の105万円を(1+0.05)で除することにより、現在の100万円と同じ価値であるという計算が行われる。 このように、将来の105万円が、現在時点ではいくらの価値になるのかを計算することを「割り引く」という。 固定資産は、耐用年数にわたって将来キャッシュ・フローを生み出すので、当該将来キャッシュ・フローを、「現在」という時点に換算して価値を算出する方法が「割り引く」ということであり、その率を「割引率」という。 Ⅱ 割引計算を行うとどうなるのか 将来キャッシュ・フローの見積額が同額であったとしても、割引計算を行うことにより、現在価値の金額は異なってくる。 数値を用いて示すと次のようになる。 将来キャッシュ・フローは、それぞれの年度の最後に発生するものとし、割引率は5%とする。 Ⅲ 将来キャッシュ・フローに関する最頻値と期待値 1 最頻値と期待値 減損会計基準は、将来キャッシュ・フローの見積金額について、次の2つの方法を規定している(減損会計基準、二4(3))。 いずれの方法も適用できるとされている(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四2(4)③、減損適用指針120項)。 「最頻値」とは、もっとも起こりやすい数値をもって予測値とする方法であり、「期待値」とはそれぞれのキャッシュ・フローの起こりやすさをその確率で加重平均して予測値とする方法である(監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)166ページ)。 数値を用いて示すと次のようになる。 【最頻値法】 【期待値法】 出所:監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)166ページ 前述のように、最頻値法と期待値法は、いずれも適用できるが、減損適用指針はそれぞれについて次のように述べている(減損適用指針120項)。 2 見積値から乖離するリスク 1で述べたように、将来キャッシュ・フローの見積方法には、最頻値と期待値がある。 いずれの方法を適用する場合でも、使用価値の算定においては、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクについて、将来キャッシュ・フローの見積りと割引率のいずれかに反映させる必要がある(減損会計基準注解(注6)、減損適用指針39項)。 減損適用指針39項では、次のように述べられている。 実務上、①の方法を採用していることが多いと思われる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第60回】 ストック・オプション④ 「ストック・オプションの条件変更」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説:公正な評価単価に関する条件変更〉 〈会計処理〉 1 X6年3月決算仕訳 【条件変更前から行われてきた費用計上】 「条件変更前から行われてきた費用計上」の詳細は、経理担当者のためのベーシック会計Q&A【第57回】ストック・オプション①をご参照ください。 【条件変更による価値増加分の費用計上】 【条件変更による価値増加分の算定】 (100名-6名)×50個=4,700個 4,700個×(140-120)円=94,000円 【X6年3月期に属する費用額の算定】 94,000円×9ヶ月(B:X5年7月~X6年3月)÷12ヶ月(A:X5年7月~X6年6月) =70,500円 2 X7年3月決算仕訳 【条件変更前から行われてきた費用計上】 「条件変更前から行われてきた費用計上」の詳細は、経理担当者のためのベーシック会計Q&A【第57回】ストック・オプション①をご参照ください。 【条件変更による価値増加分の費用計上】 【条件変更による価値増加分の算定】 (100名-5名)×50個=4,750個 4,750個×(140-120)円=95,000円 【X7年3月期に属する費用額の算定】 95,000円×12ヶ月(A:X5年7月~X6年6月)÷12ヶ月(同左)-70,500円 (X7年3月期に費用化された金額)=24,500円 〈会計処理の解説〉 1 付与時の費用計上 条件変更日(条件変更が行われた日のうち、特に条件変更以後をいう)におけるストック・オプションの公正な評価単価(140円)が、付与日における公正な評価単価(120円)を上回る場合には、条件変更前から行われてきた付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価に基づく公正な評価額による費用計上(286,500円)を継続して行います。 2 条件変更による価値増加分の算定について 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価を上回る部分(20円=140円-120円)に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の増加額(94,000円)を算定します。ただし、条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価が付与日における公正な評価単価(120円)以下となる場合には、条件変更日以後においても、条件変更前から行われてきた、ストック・オプションの付与日における公正な評価単価に基づく公正な評価額による費用計上(286,500円)を継続します。 なお、新たな条件のストック・オプションの付与と引換えに、当初付与したストック・オプションを取り消す場合には、実質的に当初付与したストック・オプションの条件変更と同じ経済実態を有すると考えられる限り、ストック・オプションの条件変更とみなして会計処理を行います。 3 各期の費用額の算定について 算定した報酬費用総額を、対象勤務期間(付与日から権利確定日までの期間)を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき、当期に発生したと認められる額を算定し、当期の費用として計上します。ここで、ストック・オプションに係る条件変更がなされた場合、条件変更日から権利確定日までの期間(以下、残余期間:X5年7月~X6年6月)を基礎とする方法で解説しています。 ※11月は包括利益の会計基準を取り上げます。 (了)
第三者行為災害による自動車事故と企業対応策 【第4回】 「実務上のポイントQ&A(前半)」 社会保険労務士 井下 英誉 はじめに 第4回、第5回では、第1回から第3回まで解説した内容を踏まえ、実務上のポイントについてQ&Aを用いて解説する。 * * * 次回も引き続き、Q&A形式でポイント解説を行う。 (了)
現代金融用語の基礎知識 【第11回】 「太陽光ファンド」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 注目される太陽光発電投資 広い土地一面に設置された太陽光パネルの写真や映像を誰でも一度は見たことがあるだろう。それは太陽光発電のための設備なのだが、現在、それへの投資に投資家や企業の関心が集まっている(そして、実際にお金が集まっている)。太陽光発電の将来性への期待もあるのかもしれないが、何よりも非常に魅力のある投資対象だからである。 2 太陽光発電投資の魅力 太陽光発電が非常に魅力のある投資対象であるのは、現在のところ確実に利益が得られるからである。なぜかというと、太陽光発電で得られた電気は、電力会社が一定の価格(電気を売る側が利益を得られるような価格)で買い取ることとされているからである。その制度を「固定価格買取制度」という。 太陽光発電で得られる電気の量は、気象状況の影響を受けるとしても、それほど大きく変動するものではないため、固定価格買取制度により売上の額は予め確定することになる。そして、費用も、主なものは土地の賃借料や減価償却費であり、その額は予め確定しているため、利益の額が予め確定することになるのである。 また、「グリーン投資減税」の恩恵を受けることもできる。グリーン投資減税とは、一定規模以上の太陽光発電設備を取得し、1年以内に事業の用に供した場合、①普通償却に加えて取得価額の30%相当額の特別償却、②即時償却(100%償却)、③取得価額の7%相当額の税額控除(中小企業者等のみ)、のうちいずれかの優遇措置を受けられるというものである。 3 太陽光ファンド このように非常に魅力のある太陽光発電投資だが、数億円の資金が必要となるため、財政的に余裕のある企業でない限り、そう簡単に行えるものではない。銀行からの借入れにも限界がある。そこでよく行われているのが、いわゆる投資ファンドを組成して投資家から資金を調達することであり、その投資ファンドがいわゆる「太陽光ファンド」である。 投資ファンドは「組合」の仕組みを利用して組成されることが多いが、太陽光ファンドの場合は、通常、「匿名組合」の仕組みを利用して組成される。匿名組合とは、商法で定められている仕組みで、投資家が組合の管理者の営業のために出資をして、その営業により生じる利益の分配を受けることを約束する契約のことである。民法で定められている「任意組合」の場合は、その契約書に出資する投資家全員の名前が列挙されるのだが、匿名組合の場合は、管理者が投資家それぞれと契約を結び、投資家は互いの名前や出資額を知らないため、「匿名」が付くのである。 任意組合では投資家が無限責任を負うため、多数の投資家からの資金調達には適さない。それに対して、匿名組合では投資家が有限責任を負うだけなので、多数の投資家からの資金調達が可能になる。そのため、太陽光ファンドでは、通常、匿名組合の仕組みが利用されるのである。なお、投資ファンドというと、「投資事業有限責任組合」を思い浮かべるかもしれないが、投資対象が有価証券等に限られるため、太陽光ファンドでは利用されない。 4 太陽光ファンドの注意点 太陽光発電投資に関心があり、太陽光ファンドを組成しようとする場合や、それに投資しようとする場合は、注意しなければならない点がある。 まず太陽光ファンドを組成する場合、専門知識が必要とされることを認識しておかなければならない。太陽光ファンドの組成に当たっては第二種金融商品取引業への登録が必要となり、その後の管理にも専門知識が必要とされるため、素人だけで全てを行うのは困難である。実際、管理に不備があるとして、証券取引等監視委員会に摘発されるケースも出てきている。 そして、太陽光ファンドを組成する場合だけでなく、それに投資する場合も、太陽光発電投資により得られる利益は今後も約束されたものではないということを認識しておかなければならない。上述のとおり現在のところ確実に利益が得られるのは固定価格買取制度によるのだが、その制度は今後もずっと継続されるとは限らないからである。 固定価格買取制度では電力会社に損失が生じるが、その損失は電力会社が負担しているわけではない。実は電気利用者が負担しており、電気利用者から再生可能エネルギー賦課金という名目で徴収されているのである(電気利用者は電気料金に加えて再生可能エネルギー賦課金を支払っている)。実質的に投資家が得る利益を電気利用者が負担していることになるため、固定価格買取制度に対しては批判があるということを留意しておく必要があるだろう。 【太陽光ファンドの利益はどこから?】 (了)