書籍『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか』の書評が 日経新聞(11/2・日)に掲載されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 国税庁、HPに「社会保障・税番号制度について」を設置 ~平成28年以降活用が開始される個人番号・法人番号についてFAQで解説 Profession Journal編集部 平成27年10月から通知が始まる個人番号・法人番号は、平成28年1月から順次、社会保障、税、災害対策分野で利用が開始される予定だ。 番号の通知は、来年10月に予定されているが、およそ11ヶ月前となった10月29日、国税庁は、ホームページに「社会保障・税番号制度について」を公表。混乱が予想される番号の扱いなどの番号制度に対して、FAQなどを用いて周知に動き出した。 ◆FAQで国税関係の影響の把握が可能 国税庁のHPの「社会保障・税番号制度について」では、番号制度に関する概要や、「法人番号制度に関するFAQ」「国税分野におけるFAQ」を公開し、国税分野の解説を行っている。 番号制度の導入による税分野のメリットとしては、国税当局に関しては、提出される申告書・法定調書等の税務関係書類に個人番号及び法人番号が記載されることによって、法定調書の名寄せや申告書との突合がより正確かつ効率的に行えるようになるため所得の正確な捕捉が可能になる。他方、納税者にとってのメリットは、次の点を挙げている。 番号は、大きく「個人番号」と「法人番号」に大別されるわけだが、番号法で規定される個人番号は、市町村長により指定され、厳格に用途が定められ、その管理が求められているため、漏えい等が生じた場合には罰則が用意されている。だが、一方の国税庁長官が指定する法人番号は、一般の利用も可能とするなど取扱いは大きく異なっている。 ◆申告の場面でも影響 税務における番号の扱いについては、既に関係省令等の改正が行われており、申告書や法定調書等の税務関係書類に納税者の個人・法人番号を記入することが求められることとなるわけだが、関与先の申告書を提出する場合でも、リスクに対応するために、これまでとは異なる厳格な本人確認が義務付けられている。 申告に当たって、税理士は番号法19条に定める委託者と位置付けられ、申告書等作成のために番号の保有者から個人番号を提供されることが認められているわけだが、税理士が顧客の個人番号を記載した申告書等を提出する際には、代理権、代理人の身元及び本人の番号が確認されることになる。 税理士が、その際に提示を求められるものは、①委任状、②代理人の個人番号カードや運転免許証(身元確認)、③顧客の個人番号カードや通知カードの写しなどだ。 なお、番号法施行規則において、税理士が代理権に基づき申告を行う際は、原則的な方法による身元確認が困難な場合には税理士名簿の確認(身元確認)等による方法も認められている。 番号の申告書等への記載の開始時期だが、所得税については平成28年分の申告書から、法人税については平成28年1月以降に開始する事業年度に係る申告書から、法定調書については平成28年1月以降の金銭等の支払い等に係るものから、申請書等については平成28年1月以降に提出すべきものからとなる。 【参考】 税務関係書類への番号記載時期 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国税庁ホームページより (了)
2014年10月30日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.92 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
〈平成26年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「注意しておきたい最近の改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) 給与所得控除の上限設定 平成24年度の税制改正により、給与所得控除に上限が設定され、給与等の収入金額が1,500万円を超える場合の給与所得控除額は、一律245万円となった(所法28③六)。この改正は、平成25年分以後の所得税について適用されている。 詳しくは、拙稿「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第1回】「(1) 給与所得控除の上限設定」」(本誌No.41掲載)をご覧いただきたい。 なお、平成26年度の税制改正により、給与所得控除の上限をさらに段階的に引き下げることが決まっているが、当該改正は平成28年分以後の所得税に対して適用されるため、今年及び来年分の年末調整には影響しない。 (※) 給与所得控除に関する平成26年度改正については、拙稿「《速報解説》 給与所得控除の見直し(縮小)~平成26年度税制改正大綱~」(2013年12月18日公開)をご確認いただきたい。 (2) 復興特別所得税の創設 平成25年1月1日から平成49年12月31日までの各年においては、所得税と併せて復興特別所得税が課される(復興財確法9①)。平成26年度の税制改正により、復興特別法人税は1年前倒しで廃止されたが、復興特別所得税には改正が行われていない。よって、復興特別所得税は、平成26年分以後も平成25年分と同様に課税される。 復興特別所得税の額は、基準所得税額(その年分の所得税の額)の2.1%相当額であり、源泉徴収及び年末調整において所得税とともに徴収、精算される(復興財確法28①、30①)。 詳しくは、拙稿「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第3回】「復興特別所得税(その1)」」(本誌No.43掲載)及び「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第4回】「復興特別所得税(その2)」」(本誌No.44掲載)をご覧いただきたい。 (3) 生命保険料控除の改組 平成22年度の税制改正により、平成24年分以後の生命保険料控除に、新たに介護医療保険料控除が加わった。改正後の生命保険料控除は、一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除、介護医療保険料控除の3本立てとなっている(所法76①②③)。 控除額を算出するための計算式は、保険契約の締結時期が平成24年1月1日以降(新契約)か、平成23年12月31日以前(旧契約)かによって異なる。また、適用限度額は、3つの控除の合計で12万円である(所法76④)。 改正内容の詳細や控除額の計算式及び計算例は、拙稿「平成24年分 おさえておきたい年末調整のポイント①今年度適用となる改正事項」(本誌創刊準備2号掲載)及び「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第2回】「生命保険料控除について」」(本誌No.42掲載)をご覧いただきたい。 (4) 扶養控除の見直し 平成22年度の税制改正では、扶養控除の見直しが行われた。この改正は、子ども手当の創設及び高等学校の実質無償化に伴い、従来の扶養控除の一部を廃止するものであり、平成23年分以後の所得税に適用されている。 改正点は、次の2つである。 改正後の扶養控除額を一覧にすると、〈図1〉のとおりとなる。 〈図1〉 年齢別の扶養控除額 (※) 参考:国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(平成22年4月)」 (5) 同居特別障害者加算措置の改組 平成22年分以前の所得税においては、控除対象配偶者又は扶養親族が同居特別障害者である場合には、扶養控除の額が35万円上乗せされていた。この取扱いが、平成22年度の税制改正により、扶養控除ではなく、障害者控除の額に35万円上乗せする方法に変更された。 この改正は、上記(4)により、年少扶養親族に対する扶養控除が廃止されたことに伴うものであり、平成23年分以後の所得税に適用されている。 改正により、扶養親族のうち特別障害者である者が、所得者、その所得者の配偶者もしくはその所得者と生計を一にするその他の親族のいずれかと同居している場合には、障害者控除の額が75万円(特別障害者である場合の障害者控除40万円に、同居特別障害者としての35万円を加算した額)となった(所法79③)。 なお、年少扶養親族が障害者である場合、扶養控除の適用はないが、障害者控除(一般の障害者27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円)を受けることはできるので注意が必要である(所法79①②)。 【参考】 年少扶養親族(6歳未満)が障害者に該当する場合の控除額 * * * 次回は所得税法施行令の一部改正(平成26年10月17日公布)に伴う「通勤手当の非課税限度額の引上げ」について解説を行う予定である。 (了)
有料老人ホームをめぐる 税務上の留意点 【第5回】 (最終回) 「老人ホームに入居していた場合の小規模宅地等の特例」 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成25年度税制改正では、基礎控除の縮減、税率の見直し等とともに、小規模宅地等の特例に係る大幅な見直しが行われた。 具体的には、 特定居住用宅地等の面積制限の330㎡(改正前240㎡)への拡充 特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等の限度面積までの完全併用(最大730㎡) 二世帯住宅及び老人ホームに入居している場合の適用関係 などである。 本連載の最終回となる今回は、被相続人が老人ホームに入居していた場合の小規模宅地等の特例の改正点を確認し、その留意点をみていく。 2 改正前の取扱い 国税庁はホームページで(事例1)入院により空家となっていた建物、(事例2)老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例について、それぞれ質疑応答事例を公表している。 (事例1) 入院により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例 (事例2) 老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例 したがって、(事例1)入院により空家となった建物の敷地は原則として被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当し、(事例2)老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地は上記4要件((1)~(4))を満たせば、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当する。 3 改正後の取扱い 上記(事例1)については、平成25年度改正による変更はなく、今までどおり被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当する。 上記(事例2)については、(2)と(4)の要件が廃止され、老人ホームに入所するまで居住の用に供していた宅地等は、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等とされる。具体的には次の2つの要件に該当するものが認められる(措令40の2②③)。 なお、改正前は上記要件(1)において「介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所することとなったもの」とされ、入居の際に介護が必要であることが要件となっていたが、改正後は「要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が有料老人ホーム等に入所等していたこと」とされ、相続開始時点で判定することとなるため、入所等前にこれらの認定を受けている必要はない。 (連載了)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第10回:2014年10月改訂】 (最終回) 「法人税申告書[別表15]記載のポイント」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 交際費課税の改正と別表15の様式変更 ① 平成25年度税制改正後 【中小法人の特例のイメージ】 ② 平成26年度税制改正後 平成26年度税制改正における交際費課税の改正ポイントは次のとおりである。 【接待飲食費の50%損金算入のイメージ】 これに伴い、法人税申告書別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」の様式も変更されている。 平成26年4月1日以後終了事業年度分の別表15の様式は、次のとおりである。 厳密には、平成26年度改正後の交際費課税制度が適用されるのは平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度であるが、平成26年4月1日以後に終了する事業年度からは、この別表15を使用することになる。 例えば、平成25年9月1日から平成26年8月31日までの事業年度であれば、平成26年度改正前の交際費課税が適用されるが、別表15は新様式を使用することになる。 【別表15「交際費等の損金算入に関する明細書」】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイル(国税庁ホームページ)が開きます。 2 別表15のケーススタディ 次の事例に基づいて、別表15の記載上の留意点を解説する。 ◆ケース Ⅰ ◆ 資本金5億円の場合 資本金が1億円を超えているため、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)は適用されない。しかし、平成26年度税制改正による交際費課税の適用後であれば、接待飲食費の50%損金算入が適用される。 ① 平成26年3月31日までに開始した事業年度の場合 この場合、接待飲食費の50%損金算入は適用されないため、交際費等10,000,000円の全額が損金不算入となる。 (別表15の記載例①) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 平成26年4月1日以後に開始した事業年度の場合 この場合、接待飲食費の50%損金算入が適用されるため、接待飲食費6,000,000円の50%に相当する3,000,000円が損金に算入される。この結果、交際費等10,000,000円のうち7,000,000円が損金不算入となる。 (別表15の記載例②) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ◆ケース Ⅱ ◆ 資本金1億円の場合 (資本金5億円以上の大法人の完全子会社ではない) 資本金が1億円以下であるため、中小法人の特例(年間800万円まで全額損金算入)が認められる。また、平成26年度税制改正による交際費課税の適用後であれば、接待飲食費の50%損金算入が適用され、中小法人の特例との選択適用が可能である。 ① 平成26年3月31日までに開始した事業年度の場合 この場合、接待飲食費の50%損金算入は適用されないため、中小法人の特例を適用し年間800万円までが全額損金に算入される。 したがって、交際費等10,000,000円のうち2,000,000円が損金不算入となる。 (別表15の記載例③) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 平成26年4月1日以後に開始した事業年度の場合 この場合、接待飲食費の50%損金算入が適用される。これを適用した場合、接待飲食費6,000,000円の50%に相当する3,000,000円が損金に算入される。この結果、交際費等10,000,000円のうち7,000,000円が損金不算入となる。 ただし、中小法人の特例も選択適用することが可能であり、こちらを選択すると①の場合と同様、損金不算入額は2,000,000円となる。したがって、通常はこちらを選択することになる。 (別表15の記載例④) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (連載了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第29回】 「判例分析⑮」 公認会計士 佐藤 信祐 本事件についての第一審判決の内容は第28回で解説した通りである。本稿においては、控訴審判決、最高裁判決について触れたうえで、低利貸付けについての法人税法上の考え方について考察を行うこととする。 (2) 控訴審・名古屋高裁金沢支部平成14年5月15日判決(税資252号順号9121) 第28回で解説した第一審判決の内容に一部修正を加えたうえで、控訴審判決の判決文が書かれているものの、それほど大きな内容の変化があるものではなく、概ね第一審判決とほぼ同じ判断が下されている。 (3) 最高裁平成14年10月15日判決(税資252号順号9213) 上告理由が民事訴訟法に規定する事由に該当しないことから、不受理となった。 (4) 本事件についての評釈 ① 概要 このように、本事件については、債権放棄を行った場合には法人税基本通達9-6-1(4)、9-4-2を適用することができない事案について、「増資払込み+株式譲渡」というスキームを選択したとしても、そもそもの有価証券の取得価額を構成せず、寄附金として処理されてしまうことから、法人税法上、有価証券譲渡損は発生せず、損金の額に算入することはできないことが明らかにされた事案である。 しかしながら、本事件において、このようなスキームが選択された理由としては、そもそも法人税基本通達9-4-2のハードルが高く、容易に認められるものではないという点が挙げられる。そこで、本稿では、まず、法人税基本通達9-4-2に関する他の判例を紹介することにより、法人税基本通達9-4-2の適用可能性について検討を行うこととする。 ② 法人税基本通達9-4-2の適用 法人税基本通達9-4-2においては、「例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるとき」には、債権放棄等により生じた損失について、寄附金として処理しないものとしている。また、法人税基本通達9-4-2の内容については、国税庁のHPにおいて、「No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」が紹介されている。しかしながら、実務上、そのハードルはかなり高く、実際に認められている事例はそれほど多くはない。 過去の判例においても、第一審においては法人税基本通達9-4-2の適用が認められたものの、控訴審、上告審においてそれを否定された事例も存在する(第一審大阪地裁平成15年10月15日判決、控訴審大阪高裁平成17年2月18日判決、上告審平成18年1月26日判決)。大阪地裁平成15年10月15日判決(税資253号順号9454)においては、債務超過の状態が継続しているものとは認めながらも、 として、法人税基本通達9-6-1(4)の適用を認めなかった。しかしながら、法人税基本通達9-4-2の適用については、「必要性」と「相当性」の2つの要件を挙げたうえで、「必要性」については とし、「相当性」のうち、債権放棄額の相当性については、Bの貸借対照表上の債務超過額が1億9,443万3,963円であり、債権放棄額が2億円であることから、その額について合理性があり、かつ、Bが保有している資産に含み益があるといっても、 としている。さらに、単独で債権放棄を行っているという点については、 として、法人税基本通達9-4-2の適用を認めている。 これに対し、大阪高裁平成17年2月18日判決(税資255号順号9936)においては、 として、債権放棄の「必要性」がないという理由により法人税基本通達9-4-2の適用を否定している。 そして、東京地裁平成19年6月12日判決においては、子会社に対する原告の債権が、子会社が新たに投資を行うための障害になっていたために債権放棄を行ったという経営判断を認めながらも、 と判示しており、法人税基本通達9-4-2の適用については、かなり厳格な判断が必要になってくることが分かる。 さらに、法人税基本通達9-4-2に該当するか否かの立証責任については、 としている。この点につき、品川芳宣教授は、法人税法22条3項において損金の規定が定められており、別段の定めである法人税法37条の寄附金の規定により損金性が否定されることを理由として、 と述べられている。私見ではあるが、債権放棄を行った場合には、別段の定めである法人税法37条に該当するのが原則であり、その例外として法人税基本通達9-4-2が存在するというのが実務的な考え方であり、裁判所の判断はそれに沿ったものであるため、基本的な立証責任は納税者に課されているとみるべきと考えられる。さらに、法人税基本通達9-4-2の議論を税務調査等で課税当局の方々と行うと、他の条文と比べて奇妙なくらいに判断が厳しいという実態があり、理論上はともかくとして、裁判所の判断通りの実務が行われているとみることができる。 このように、法人税基本通達9-4-2を適用するためのハードルは極めて高いと言わざるを得ないと考えられる。この点につき、立替金債権の放棄が経済的な利益の無償の供与(寄附金)に当たるとした事例(東京地裁平成19年9月27日判決)に対する評釈として、税理士の竹村仁志氏が、 と述べられているが、まさに同感である。 なお、本事件において寄附金の認定がなされたものの、資本等取引であるとして債務免除益の認定はなされなかった。次回においては、債務免除益の認定可能性について解説を行う予定である。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第20回】 「貸倒引当金の繰入れ」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 貸倒引当金制度の適用対象法人 平成24年4月1日以後に開始する事業年度から、貸倒引当金を繰り入れることのできる法人は、次の法人に限定されています(法法52、法令96)。 また、貸倒引当金制度の適用対象外となる法人については、平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する事業年度について、改正前の規定により計算した繰入限度額に以下の表中の割合を乗じた金額を繰入限度額とする経過措置が設けられています(平成23.12改正法附則13①)。 2 貸倒引当金制度のあらまし 企業会計では、将来における債権の貸倒損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等については個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を貸倒引当金として計上します。 一方、法人税法では、回収不能見込額を合理的に算定することは非常に難しいことなどから、一定の繰入限度額の範囲内で、損金経理を要件に貸倒引当金繰入額の損金算入を認めています(法法52)。 貸倒引当金の繰入限度額の算定に際しては、金銭債権を個別評価金銭債権と一括評価金銭債権に区分し、各々に繰入限度額を算定します。また、個別評価金銭債権については、債務者毎に繰入限度額を算定することが必要です。 3 個別評価による貸倒引当金の繰入限度額 個別評価金銭債権とは、事業年度末において、その一部に貸倒等による損失が見込まれる金銭債権をいいます。 個別評価金銭債権は、次の(1)から(4)の区分に応じ、各々の金銭債権の債務者毎に、繰入限度額の計算方法が定められています(法法52①、法令96①)。 【設問の場合】 A社に対する債権は、債務超過の状態が相当期間継続し事業好転の見通しが立っておらず、金銭債権の全額について回収の見込みがないと認められるため、実質基準による個別評価金銭債権に該当します。したがって、対象金銭債権の額から、A社の代表者による債務保証による回収可能額を除いた金額が繰入限度額となります。 また、B社に対する債権は、当事業年度中において民事再生法の申立手続をしているため、形式基準による個別評価金銭債権に該当します。実質的に債権とみられない金額や担保権の実行により取立て等の見込みのある金額もありませんので、対象金銭債権の50%相当額が繰入限度額となります。 したがって、個別評価金銭債権にかかる繰入限度額は、2,000,000円+2,500,000円=4,500,000円となります。 4 一括評価による貸倒引当金の繰入限度額 一括評価金銭債権とは、売掛金、貸付金等の金銭債権で、個別評価金銭債権を除いたものをいいます(法法52②、法基通11-2-16~18)。 貸倒引当金の設定対象となるものは、例えば、次のように整理されます。 【設問の場合】 貸付金として50万円を計上していますが、これは従業員に対する前払給料であり、将来精算される費用の前払いとして一時的に仮払いしたものであり、金銭債権に該当しませんので、貸倒引当金の設定対象とはなりません。 (1) 実績繰入率による繰入れ 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額は、貸倒実績率により算定します(法令96⑥)。 また、貸倒実績率は、過去3年間の貸倒損失の額に基づき、次のように算定します(法令96⑥)。 (2) 法定繰入率による繰入れ 期末における資本金の額が1億円以下の中小法人は、一括評価金銭債権について、主たる事業ごとの法定繰入率と実績繰入率の選択適用が認められています(措令33の9④)。 また、実績率による繰入れと法定繰入率による繰入れは、事業年度毎に有利な方法を選択することができます。 【設問の場合】 過去に債権が貸し倒れたことはないとのことですので、過去3年間の貸倒損失の額に基づいて算定される貸倒実績率は0となります。ただし、資本金額1,000万円の法人ですので中小法人に該当し、法定繰入率を用いることができます。お尋ねの場合、食料品製造業を営んでいますので、法定繰入率は1000分の8となります。 C社に対しては売掛金450万円と買掛金50万円があります。C社に対する債権債務は事業年度末時点において相殺適状にありますので、買掛金50万円は、実質的に債権とみられない金額として、一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額から控除する必要があります。 E社から受け取った手形100万円は売掛金の回収として受け取ったものであり、財務諸表に割引手形として注記していますので、貸倒引当金の設定対象に含めます。 一括評価金銭債権の金額は、次のとおりにまとめられます。 したがって、一括評価金銭債権にかかる繰入限度額は、10,000,000円×8/1000=80,000円となります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第21回】 株式会社富士通ビー・エス・シー・ 「従業員による不正行為に関する第三者委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概 要】 【株式会社富士通ビー・エス・シーの概要】 株式会社富士通ビー・エス・シー(以下「BSC」という)は、1963(昭和38)年創業。創業時の社名は、日産リース株式会社。その後、日産コンピュータ株式会社への社名変更を経て、1975(昭和50)年から富士通株式会社(以下「富士通」という)の子会社となる。現在の富士通による持株比率は56.44%。各種システム用ソフトウエア開発を主たる事業とする。連結売上高31,547百万円、連結経常利益1,375百万円。従業員数2,119名(数字はいずれも平成26年3月期)。本店所在地、東京都港区。JASDAQ上場。 【報告書のポイント】 1 調査に至った経緯 (1) 経理部による決算資料作成 4月28日、経理部は、平成26年3月期決算の説明準備段階において、甲社に対する売掛金残高が1年前の約5億円から、約8億円に増加していることを把握し、担当の管理部門に対する問い合わせの結果、甲社に対する売掛金の大部分が未請求売掛金(工事進行基準の適用により売上計上されたが、未検収であるため未だ取引先に対して請求をしていないものをいう。以下同じ)であり、中には、平成21年11月1日に作業を開始したオーダに係るもの(4年以上滞留)も存在することが判明した。 (2) 代表取締役社長による回収促進の指示 5月19日、経営会議において、経理部長から月次決算の説明があり、甲社に対する未請求売掛金が8憶4,400万円存在することが報告され、小島代表取締役社長は、これを受け、甲社を担当する本部の本部長である小林取締役(当時。現在は常勤監査役。以下「小林元本部長」という)に対して、当該売掛金の回収促進を指示した。 その後、5月26日の経営会議でも同様の指示を受けた小林元本部長は、不正行為の実行者であった甲社担当のA部長、B本部長代理から事情聴取を行い、副本部長らを通じて、甲社担当者との面談実施など、売掛金回収を図るが、不正行為の実行者であるA部長は、甲社担当者との接触を阻害するなどして、回収交渉は捗らなかった。 (3) 不正行為実行者による自白 甲社に対する未請求売掛金の回収交渉が進まない中、A部長は、本件不正のもう一人の実行者であるB本部長代理が責任逃れの供述を行っていることを知り、不正行為の責任を自分一人がとらされることとなるとおそれ、6月20日になって、未請求売掛金が架空のものであることを自白した。 その後、A部長の作成した資料をもとにさらなる調査を進め、B本部長代理が担当する乙社等との取引に係る未契約仕掛品残高についても調査の必要があることが判明し。石川取締役ビジネスサポート本部長(当時)らが、6月30日、B本部長代理に対し、事情聴取を行ったところ、乙社等に対する未契約仕掛品残高は、証憑書類の偽造により計上されたものであることを認めた。 2 調査報告書により判明した事実 (1) 不正の発端となった損失処理と原価の付替え 調査報告書によると、不正の発端は、平成14年から15年にかけて、A部長が担当した甲社関係の取引において発生した損失を、一部をB本部長代理が他の取引に係る損失として処理し、残りを他の甲社取引の原価として振り向ける方法により、解消したことにあった。その後、A部長は、平成19年12月頃から、甲社との取引において正式受注が見込めるオーダについて、注文書を偽造することを繰り返すようになった。 一方、B本部長代理は、平成17年から18年にかけて、乙社等との取引において、各オーダの原価率が85%を超えないように見せかけるため、架空の内示オーダ(仮受注)を発行して、正式オーダで発生した原価の一部を付け替えるようになり、その結果、未契約仕掛品(取引先より作業依頼の内示を受けて作業を行ったことにより発生した原価のうち、未だ契約の締結には至っていないものをいう)残高が約260百万円に達していた(平成25年3月期)。 (2) 不正の手口 A部長が行った不正の手口は、甲社が発行すべき注文書を偽造して、正式受注オーダに基づき工事進行基準により売上を計上するというものであった。当初は、正式受注が見込めるオーダについて正式注文書が出る前に偽造していたものであり、その後、甲社から正式に受注して売上が計上できれば問題のないものであったが、平成20年頃からは、甲社関係取引の各オーダの原価率が85%を超えないように見せかけるため、架空のオーダを使って、原価の付替えを繰り返すようになっていた。 また、A部長は、B本部長代理からの依頼に応じて、乙社等との取引で発生した未契約仕掛品(原価)を、甲社関係の取引オーダに付け替えることとなったため、甲社関係取引に係る架空の売上計上がさらに多額なものとなっていった。 【オーダ発行から売上計上までの流れ】 (3) ビジネスサポート本部における不十分な連携 BSCビジネスサポート本部には、経理部、業務部、監査部及び業務プロセス改革推進部が置かれ、それぞれの立場から、本件不正の端緒に触れる機会があったものと考えられるが、部門間の連携に欠け、早期に発見することはできなかった。 経理部は、乙社等との取引における未契約仕掛品残高については、以前から注視し、取締役会にも報告していた。しかし、未請求売掛金については、 等の観点から、その残高の推移及び年齢調べ等の管理を行っていなかった。 なお、経理部のこうした姿勢は、会計監査人にも共通のものであり、未請求売掛金が長期間にわたり計上され、年々その残高が増加していた事実を把握していなかった。 監査部は、内部監査を通じて、未請求売掛金残高の存在や原価の付替えなどの事実を把握しており、指摘事項を継続監視していれば、早期の発見につながった可能性が高いが、フォローアップが行われておらず、また、他部署との情報共有が図られていなかったことから、不正の発見には至らなかった。 (4) 守られていなかった与信管理規定 調査報告書によれば、甲社に対する売掛金残高(未検収売掛金を含む)は、平成22年3月期の約1億5,000万円から、一貫して増加しており、平成25年3月期には5億3,000万円、平成26年3月期には8億3,000万円を超えていたが、同社に対する与信限度額は1億円であり、限度額超過が常態となっていたものの、問題とはならなかった。 これは、BSCでは、未検収売掛金は確定債権ではないことから、与信限度額管理の対象外となっていたことが理由であるが、本来であれば「営業債権に準じて与信管理の対象とすべき(調査報告書より)」であり、与信限度額の増額申請などの社内手続によっては、甲社取引における売上計上の適正性について、社内関連部署間の情報共有により、本件不正をより早期に発覚できた可能性があった。 (5) 従業員の不正行為が業績に与えた影響 報告書及び訂正された有価証券報告書から、従業員の不正行為の訂正によって、売上高が858百万円、営業利益が1,098百万円、純資産額が738百万円減少した。 年度ごとの影響額は以下のとおりである(単位:百万円)。 3 ホットラインへの情報提供とアンケート調査 本件調査の特徴の1つに、ホットラインによる情報提供及び全役職員に対するアンケート調査についての、次のような記述がある。 いわば、一種のリーニエンシー制度の導入である。数は決して多くないが、せっかく調査委員会を設置して不正調査を行ったにもかかわらず、最初の調査では発覚しなかった不正が後日判明するという事例が見られることを考えれば、こうした制度によって自主申告を促すことは、不正の根絶に向けた対策としては効果があると言えよう。 実際、本件調査でも、ホットラインへの情報提供者が32名、アンケート調査では、不適切な原価付替えを行った者が回答者の15.6%に当たる297名もいたことなど、確実に効果が出ているのではないかと考えられる。 4 問題点及び再発防止策 第三者委員会による問題点の指摘とこれに見合った再発防止策の提言は、項目数にして12と非常に多岐にわたっている。また、再発防止策が、BSCの組織、事業内容などに合わせた格好で、かなり具体的に提示されているのも、本報告書の特徴であるといえよう。 BSCが第三者委員会報告公表時のリリースには、「対応方針」の最後に、次のような文章があり、再発防止策を真摯に受け止めている様子がうかがわれる。同社に止まらず、すべての企業の管理部門担当者にとっての課題であるともいえるかと考え、以下に引用したい。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第10回】 「賃貸等不動産の注記」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、賃貸等不動産の注記について解説する。中でも賃貸等不動産の時価の算定を中心に解説する。 賃貸等不動産の注記の検討は、以下の5つのSTEPに分けることができる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されていない不動産であって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファインス・リース取引の貸手における不動産を除く)をいう(企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準(以下、「基準」という)」4(2))。 具体的には、賃貸等不動産の範囲は以下の順に決定する。 なお、連結財務諸表において賃貸等不動産の注記を行う場合、賃貸等不動産に該当するか否かは、連結の観点から行う。例えば、連結会社間で賃貸されている不動産は、連結貸借対照表上、賃貸等不動産に該当しない(企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)」3)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 棚卸資産に該当するか 不動産のうち、流動資産に分類されている棚卸資産(販売用不動産、開発事業等支出金等)は、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」で評価基準が定められているため、賃貸等不動産には含めない(基準19)。 (2) 貸借対照表の投資不動産に該当するか 貸借対照表において投資不動産(投資の目的で所有する土地、建物その他の不動産)として区分されている場合、賃貸等不動産に該当する(基準5(1))。ここには、現在のみならず、将来において投資不動産として使用される予定で開発中の不動産や継続して投資不動産として使用される予定で再開発中の不動産も含まれる(基準6)。 (3) 将来の使用が見込まれていない遊休不動産に該当するか 将来の使用が見込まれていない遊休不動産は、売却が予定されている不動産と同様に、処分によるキャッシュ・フローしか期待されないため、時価が企業にとっての価値を示す(基準23)。そのため、将来の使用が見込まれていない遊休不動産も賃貸等不動産に該当する(基準5(2))。 (4) 不動産は賃貸を目的として所有しているか 上記、(2)及び(3)以外の不動産で、賃貸を目的としている不動産は賃貸等不動産に該当する(基準5(3))。ここには、現在のみならず、将来において賃貸不動産として使用される予定で開発中の不動産や継続して賃貸不動産として使用される予定で再開発中の不動産も含まれる(基準6)。さらに、賃貸を目的として保有されているにもかかわらず、一時的に借手が存在していない不動産も含まれる(基準6)。 ① 不動産全部を賃貸しているか 不動産の全部を賃貸している場合、当然に不動産の全部が賃貸等不動産に該当する(基準5(3))。 ② 不動産の一部を賃貸している場合で、その賃貸部分の割合は低いか 不動産の一部を賃貸している場合、賃貸している部分のみ賃貸等不動産に含める。ただし、賃貸部分の割合が低い場合、賃貸等不動産に含めないことができる(基準7)。賃貸部分の割合が低いか否かにより賃貸等不動産の範囲が異なるため、その割合の基準を各社で定める必要がある。 また、賃貸部分の割合が低くなく、賃貸部分の時価又は損益を、実務上把握することが困難な場合、賃貸している部分とそれ以外の部分を区分せずに、当該不動産全体を注記の対象とすることができる。この場合、その旨を注記し、かつ、【STEP5】の注記を他の賃貸等不動産とは別に注記する(適用指針17)。 具体的な勘定科目としては、以下のものが賃貸等不動産に該当する(又は、該当する可能性がある)。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 賃貸等不動産がある場合、必ずしも注記が必要なわけではない。賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 重要性が乏しいか否かは、以下の算式で判定する(適用指針23)。重要性が乏しいか否かの水準は、基準や適用指針で定められていないため、各社で重要性が乏しい水準を決定する必要がある。 (※) 賃貸等不動産の総額の重要性が明らかに乏しいと判断される場合、上記の算式で判定せずに、注記を省略することができる(適用指針23)。 上記の算式に用いる賃貸等不動産の時価には、以下のものを用いることができる。 重要性が乏しいと判定した場合、【STEP3】以降の検討は不要である。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 賃貸等不動産の総額に重要性がある場合、個々の賃貸等不動産の時価の算定を行うことになるが、賃貸等不動産によっては、時価を把握することが極めて困難な場合もある。 そのため、時価を把握することが「極めて困難な場合」と「極めて困難とはいえない場合」で検討過程が異なる。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 個々の賃貸等不動産について時価を把握することが極めて困難か否か ここでは、個々の賃貸等不動産について時価を把握することできるか否かを判断する。時価を把握することが極めて困難ではない場合、【STEP4】以降を検討する。時価を把握することが極めて困難な場合、以下の(2)について検討する。 ここで、時価を把握することが極めて困難な場合とは、例えば、現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林や着工して間もない大規模開発中の不動産などが考えられる(適用指針34)。 (2) 時価を把握することが極めて困難な場合 時価を把握することが極めて困難な賃貸等不動産のうち、重要性が乏しい場合と乏しくない場合で注記内容が異なる。重要性が乏しいか否かの水準は、基準や適用指針で定められていないため、各社で重要性が乏しい水準を決定する必要がある。 ① 重要性が乏しくない場合 時価を把握することが極めて困難な賃貸等不動産で重要性が乏しくない場合、時価を注記せず、その事由、当該賃貸等不動産の概要及び貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に注記する(適用指針14)。なお、損益が発生している場合、その損益については、他の賃貸等不動産と一緒に注記することになると考えられる。なお、【STEP4】以降の検討は不要である。 ② 重要性が乏しい場合 時価を把握することが極めて困難な賃貸等不動産で重要性が乏しい場合、当該賃貸等不動産の概要、貸借対照表計上額及び時価については注記を省略することができると考えられる。なお、損益が発生している場合、重要性を考慮して注記を省略することできると考えられる。なお、【STEP4】以降の検討は不要である。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 時価を把握することができる賃貸等不動産について、重要性に応じて用いる時価を変えることができる。重要性が乏しいか否かの水準は、基準や適用指針で定められていないため、各社で重要性が乏しい水準を決定する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 個々の賃貸等不動産の重要性が乏しい場合 重要性が乏しい賃貸等不動産については、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額(例えば、公示価格、都道府県基準値価格、路線価による相続税評価額÷80%、固定資産税評価額÷70%)等を時価とみなすことができる。建物等の償却資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができる(適用指針33)。 (2) 個々の賃貸等不動産の重要性が乏しくない場合 重要性が乏しくない賃貸等不動産については、第三者からの取得時(連結子会社の保有する賃貸等不動産については、当該子会社を支配した時を含む)又は直近の原則的な時価算定(下記①参照)を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標の変動の度合い(①重要な変動が生じている場合、②軽微な場合、③それ(①、②)以外の場合)により、用いることができる時価が異なる(適用指針12、32)。 なお、ここでの判断は、あくまでも適切に市場価格を反映している固定資産税評価額等の指標をもとに行う必要がある。適切に市場価格を反映していない指標をもとに判断してはならない。 ① 重要な変動が生じている場合 第三者からの取得時(連結子会社の保有する賃貸等不動産については、当該子会社を支配した時を含む)又は直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動が生じている場合、原則的な方法で時価算定を行う(適用指針12、32)。 ここで、原則的な方法で算定した時価とは以下のものをいう(適用指針11)。 ② 変動が軽微な場合 第三者からの取得時(連結子会社の保有する賃貸等不動産については、当該子会社を支配した時を含む)又は直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標の変動が軽微な場合、取得時の価額又は直近の原則的な時価算定による価額を時価とみなすことができる(適用指針12)。 ③ 上記①、②以外の場合 第三者からの取得時(連結子会社の保有する賃貸等不動産については、当該子会社を支配した時を含む)又は直近の原則的な時価算定を行った時から、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に重要な変動ではなく、かつ、軽微な変動でもない場合、当該評価額や指標を用いて調整した金額を時価とみなすことができる。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 賃貸等不動産の注記では、以下の内容を注記する(基準8)。注記例は下記参照。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 賃貸等不動産の概要 賃貸等不動産の概要には、主な賃貸等不動産の内容、種類、場所を含めて注記する(適用指針9)。 (2) 賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動 賃貸等不動産の貸借対照表計上額を注記する。また、期中の変動に重要性がある場合、その事由及び金額を注記する(適用指針10)。 (3) 賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法 賃貸等不動産の当期末における時価金額及びその算定方法を注記する。 (4) 賃貸等不動産に関する損益 重要性が乏しい場合を除き、賃貸等不動産に関する賃貸収益と賃貸費用による損益、売却損益、減損損失及びその他の損益等を適切に区分して注記する(適用指針16(2))。 なお、賃貸収益と賃貸費用による損益については、収益と費用を総額で記載することができる。また、賃貸費用は、主な費用に区分して注記することができる(適用指針16(3))。 【賃貸等不動産の注記例】 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)