《速報解説》 直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税非課税特例が拡充・延長 ~消費税率10%時で非課税限度額最大3,000万円(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士 齋藤 和助 「平成27年度税制改正大綱」(以下「大綱」)において、平成26年12月31日が適用期限であった「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」(措法70の2)の拡充・延長が明記されるとともに、「特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例」(措法70の3)についても増改築等要件の見直し・延長が明らかとなった。 1 改正の趣旨 大綱では、前段の「基本的考え方」において次のように記載されている(大綱p5)。 2 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の拡充・延長 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、次の措置を講じた上、その適用期限が平成31年6月30日まで延長されることとなった。 3 相続時精算課税制度の住宅取得等資金特例における適用対象の拡充・延長 「特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例」について、適用対象となる増改築等の範囲に、一定の省エネ改修工事、バリアフリー改修工事及び給排水管又は雨水の浸入を防止する部分に係る工事を加えた上、その適用期限を平成31年6月30日まで延長する。 4 適用時期 上記の改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用する。 (了) 【参考図】(2015/1/8追記) (※) 財務省ホームページより ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税特例が創設 ~非課税枠は1,000万円まで。教育資金一括贈与特例の延長も(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」(自由民主党・公明党)において、(1)結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設、及び(2)直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し・延長が行われる予定であることが明らかになった。 本稿では、これらにつき説明を行うこととする。 1 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設 急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少を歯止めることが重要であり、この問題に対応するため、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設が平成27年度税制改正で行われる予定である(大綱p.43)。 これは、「将来の経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の一つとなっていることを踏まえ、祖父母や両親の資産を早期に移転することを通じて、子や孫の結婚・出産・育児を後押しするため、これらに要する資金の一括贈与に係る非課税措置を講ずる」(大綱p.7)という趣旨から創設される制度である。 分かりやすく言えば、教育の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(教育資金贈与特例)の結婚・子育て資金版ということになる。 (1) 制度の概要 個人(20歳以上50歳未満の者に限る)の結婚・子育て資金の支払に充てるために、その直系尊属が、金銭等を拠出し、金融機関に信託等を設定した場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,000万円までの金額に相当する部分の価額については、贈与税を課さない。なお、この贈与税が非課税とされる1,000万円のうち、結婚に際して支出する費用については300万円が限度とされている。 この制度における「結婚・子育て資金」の定義は、内閣総理大臣が定める次に掲げる費用に充てるための金銭をいう。 この制度は、平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に拠出されるものに適用される。 (2) 適用手続 (結婚・子育て資金の贈与時) 受贈者は、この特例を受ける場合、本特例の適用を受けるようとする旨等を記載した非課税申告書を、金融機関を経由して受贈者の納税地の管轄税務署長へ提出する。つまり、贈与者(受贈者の直系尊属)が結婚・子育て資金の支払に充てるための金銭等を、金融機関(信託会社(信託銀行を含む)、銀行等及び金融商品取引業者(第一種金融商品取引行を行う者に限る))に拠出し信託等した場合に、その金融機関へ非課税申告書を提出することとなる。 (結婚・子育て資金の払出し時) 受贈者は、結婚・子育て資金の定義にあう金銭を払い出した場合には、金融機関に結婚・子育て資金の支払いに充当したことを証する書類を提出する。金融機関は、提出書類により、払い出された金銭が結婚・子育て資金の支払いに充当されたことを確認し、提出書類等を一定期間保存する。 (結婚・子育て資金管理契約の終了時) 上記のように、結婚・子育て資金の拠出を受けた金融機関は、その後、拠出された結婚・子育て資金の管理を行うことになる。この管理は、受贈者と金融機関との間で、結婚・子育て資金管理契約を締結することで行われるが、以下の場合には、その管理契約は終了する。 本管理契約が終了する場合には、金融機関は、本特例の適用を受けて信託等がされた金銭等の合計金額(非課税拠出額)及び結婚・子育て資金管理契約の期間中に結婚・子育て資金として払い出された金額の合計金額(結婚・子育て資金支出額)その他の事項を記載した調書を、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する。 (3) 結婚・子育て資金管理契約期間中に贈与者が死亡した場合の取扱い 教育資金贈与特例の結婚・子育て資金版と考えれば、本特例は理解しやすいが、結婚・子育て資金管理契約期間中に贈与者が死亡した場合の取扱いは、教育資金贈与特例の考え方とは異なっており、注意が必要である。 結婚・子育て資金管理契約期間中(信託等があった日から結婚・子育て資金管理契約の終了の日まで)に、贈与者が死亡した場合、当該死亡の日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額については、受贈者が贈与者から相続・遺贈により取得したものとみなして、相続税の課税価格に加算する。 ただし、 こととされている。 (4) 結婚・子育て資金管理契約終了時における取扱い (受贈者が50歳に達した場合) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、受贈者が50歳に達した日に、当該残額の贈与があったものとして、受贈者に贈与税が課税される。 (信託財産等の価額が零となった場合において終了の合意があったとき) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、信託財産等の価額が零となった場合において終了の合意があった日に、当該残額の贈与があったものとして、受贈者に贈与税が課税される。 (受贈者が死亡した場合) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときでも、受贈者に贈与税は課税されない。 (5) その他 創設される結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税特例についての詳細は、後日公表される法令・通達を待つ必要がある。 2 直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し・延長 直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置、いわゆる教育資金贈与特例は、一定の見直しが行われた上で、適用が延長されることが予定されている(大綱p.46)。 (1) 見直しされる事項 (特例の対象となる教育資金の使途の範囲) 特例の対象となる教育資金の使途の範囲に、通学定期券代、留学渡航費等を加える。 (金融機関への領収量等の提出) 金融機関への領収書等の提出について、領収書等に記載された支払金額が1万円以下で、かつ、その年中における合計支払金額が24万円に達するまでのものについては、当該領収書等に代えて、支払先・支払金額等の明細を記載した書類を提出することができることとする。 なお、上記提出書類の見直しは、平成28年1月1日以降に提出する書類について適用される。 (2) 適用期間の延長 上記(1)の見直しを行った上で、適用期限が平成31年3月31日まで延長される。 (了) 【参考図】(2015/1/8追記) (※) 財務省ホームページより
《速報解説》 法人税率はH27.4.1以後開始事業年度から23.9%に ~中小法人の軽減税率は据置き(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 衆議院議員選挙の影響もあって決定が遅れていた、与党による「平成27年度税制改正大綱」が去る12月30日に公表された。本年の大綱もまた127ページにわたるもので、前年の133ページよりはいくぶん薄くなったものの、相変わらず多岐にわたる内容が盛り込まれている。 本稿では、平成27年度税制改正大綱の目玉ともいえる、法人税の税率引下げについて、概要をまとめておきたい。 なお、新聞報道等によれば、税制改正大綱は、1月上旬に政府が閣議決定することが予定されている。 2 法人税改革の必要性について 税制改正大綱冒頭の「平成27年度税制改正の基本的な考え方」には、法人税改革の必要性について、次のように説明されている。 平成27年税制改正の特徴としては、「経済の好循環を力強く後押しするために」、財源確保に優先して、税率引下げを先行させることにあろう。現行34.62%の法人実効税率は、平成27年度に32.11%(現行比▲2.51%)に引き下げられ、平成28年度には31.33%(現行比▲3.29%)とするのみならず、平成28年度以降の税制改正においても、「20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続」することが明記された。 3 法人税率について 法人税においては、25.5%の基本税率を、平成27年4月1日以後に開始する法人の事業年度については、23.9%まで引き下げることとした。 現行15%の税率が適用されている中小法人の軽減税率の特例(所得の金額のうち年800万円以下の部分に対する税率)については、適用期限を2年延長することとされた。同時に、中小法人の軽減税率(本則)の19%についても、「中小法人課税全体の見直しの中で検討する」方針が明記された。 なお、平成28年度以降の法人税の基本税率引下げについては、大綱には記載がない。 4 法人税率引下げに伴う財源の確保 平成27年度税制改正における法人実効税率の引下げは、上述のとおり、減税が先行する形となるが、財源確保のための施策として、「課税ベースの拡大」が挙げられ、「平成29年度にかけて段階的に財源が確保される」とされている。 税率引下げと課税ベースの拡大等は、以下の2段階に分けて進められる。 (1) 第1段階 平成27年度税制改正において、欠損金繰越控除の見直し、受取配当等の益金不算入の見直し、法人事業税の外形標準課税の拡大、租税特別措置の見直しを行う。これらの見直し等は、中小法人への影響に配慮して、大法人を中心に改革を行うこととされている。 (2) 第2段階 平成28年度税制改正においては、以下の項目をはじめとして、幅広く検討を行い、税率引下げ幅のさらなる上乗せを図ることとされている。 5 これまでの法人税率の推移 (了)
《速報解説》 平成27年度税制改正大綱が公表 ~法人税率の引下げ、消費増税の先送り、景気刺激策等の内容が明らかに Profession Journal編集部 衆議院選挙の影響により取りまとめが遅れていた「平成27年度税制改正大綱」(いわゆる与党税制改正大綱)が2014年12月30日に公表された。 〇法人税率引下げと課税ベース拡大は2段階で 最終段階まで調整が続いた法人税率の引下げについては平成27年4月1日以後開始事業年度より23.9%(現行25.5%)とされた。なお中小法人の軽減税率についてはその影響を配慮し継続とされた(大綱p3)。 税率引下げによる代替財源の確保策については、欠損金の繰越控除の見直し(繰越控除額の縮小と繰越期間の延長、※中小法人は現行制度を存置)、受取配当等の益金不算入の見直し(保有割合の区分細分化)、外形標準課税の見直し(外形基準の比重増、付加価値割における所得拡大促進税制の導入)による対策を第一段階とし、大法人向け外形標準課税の更なる拡大、生産性向上設備投資促進税制・所得拡大促進税制・研究開発税制の取扱い、減価償却方法の定額法一本化などを第二段階として、平成28年度税制改正において検討することとされた(法人課税関係は大綱p60~)。 結果として資本金1億円以下の中小法人については本改正の影響はほぼないこととなるが、以下のとおり中小法人のあり方については検討事項とされており、今後の動向に注視する必要がある(大綱p5)。 その他、法人税関係としては、平成26年度税制改正で要件が緩和された所得拡大促進税制について、当初、雇用者給与等支給増加割合の要件は (平成26年4月1日以後開始事業年度:2%以上) 平成27年4月1日以後開始事業年度:3%以上 平成28年4月1日以後開始事業年度:5%以上 と縮減される予定であったが、以下のとおりその要件が緩和されることとなった(大綱p65)。 また中小企業等の貸倒引当金の特例について、実質的に債権とみられない金額の計算について基準年度実績による簡便法を用いる場合の基準年度(現行平成10年4月1日から平成12年3月31日まで)を平成 27 年4月1日から平成 29 年3月 31 日までの間に開始した各事業年度に見直すこととされた(所得税についても同様)(大綱p73)。 〇消費税率の10%引上げは景気判断条項を削除し平成29年4月から~軽減税率は平成29年度からの導入を目標 11月18日に行われた安倍総理の会見のとおり、消費税率の10%引上げは当初の平成27年10月から1年6ヶ月先送りされ、平成29年4月からとされた(転嫁対策法の適用期限も延長)。またその際に、改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)附則第18条《消費税率の引上げに当たっての措置》第3項の景気判断条項(以下参照)は削除することとされた(大綱p82)。 なお、軽減税率の導入については平成26年度税制改正大綱の表記と同様に「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率 10%時に導入する。」としつつも、その後に以下の文言が付け加えられた(大綱p9)。 〇高齢者層から若年層への資産の早期移転対策 世代間の資産の早期移転を促進する目的で新たに、子や孫の結婚・子育て資金に充てるために直系尊属から拠出された信託等については1,000万円まで非課税とする「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設された(平成 27 年4月1日から平成 31 年3月 31 日までの間に拠出されるものに限る)(大綱p43)。 また平成25年度改正で創設された教育資金一括贈与の贈与税非課税措置については、教育資金の使途の範囲に通学定期券代、留学渡航費等を加える等の見直しを行うとともに、その適用期限が平成31年3月31日まで延長された(大綱p46)。 金融庁から要望のあった「未成年者口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」(いわゆるジュニアNISA)については平成28年から導入されることとなり(非課税限度額毎年80万円)、NISAの非課税限度額も120万円(現行100万円)と拡充された(平成28年から)(大綱p13)。 〇住宅市場等の活性化を目的とした景気刺激策 国土交通省から拡充要望のあった住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置については、住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 10%である場合で良質な住宅家屋を取得等する場合、平成 28 年 10 月~平成 29 年9月の取得等については非課税枠を最大3,000万円とする措置が講じられた(適用期限は平成31年6月30日とされ非課税枠は順次縮減)(大綱p41)。 住宅ローン取得等に係る以下の措置については、その適用期限を平成31年6月30日まで延長することとされた(現行は平成29年12月31日)(大綱p21)。 適用期限が平成26年12月31日とされその延長有無が注目されていた特定事業用資産の買換え特例のうち長期保有資産(いわゆる9号買換え)については、買換資産から機械装置及びコンテナ用の貨車を除外する等の見直しを行い、その適用期限を2年3月(平成29年3月31日まで)延長することとされた(法人税・所得税同様)(大綱p78)。 〇出国税の創設、財産債務明細書は財産債務調書へ 金融資産の国外移転を防止する観点から、国外転出をする居住者で合計1億円以上の有価証券等を有する場合に国外転出の際に有価証券等の譲渡等をしたものとみなして課税する、いわゆる出国税が創設されることとなった(平成27年7月1日以後の国外転出から)。また、日本国外に居住する親族に係る扶養控除等については一定の添付書類を義務化する措置も設けられる(平成28年から)(大綱p27)。 この出国税の創設に伴い、現行、所得金額が2,000万円以上の者に提出が義務付けられている「財産債務明細書」について要件の見直しを行い、上記の要件に加え、「その年の 12 月 31 日において有する財産の価額の合計額が3億円以上であること、または、同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること」を提出基準とした「財産債務調書」が新たに整備されることとなった(平成28年1月1日以後)。同調書の提出に関する調査に係る質問検査権の規定整備も明記されていることから、昨年から導入された「国外財産調書」に加え、対象者の判定については注視しておきたい(大綱p113)。 その他、政府税制調査会で議論されていた国境を越えた役務提供に対する消費課税の見直しとして、電気通信役務の提供に係る内外判定基準の見直し、課税方式の見直し(リバースチャージ方式の導入)は平成27年10月1日以後に国内において行う資産の譲渡等から適用することとされた(大綱p84)。 〇マイナンバー制度に係る改正事項 平成28年からのマイナンバー制度の開始に伴い、確定申告書等に住民票の写しを添付することとされている次の特例について、税務署長がマイナンバー法の規定により氏名及び住所等を確認することができるときは、住民票の写しの添付を要しないこととされた(大綱p23,58)。 また、マイナンバーに関連して銀行等に対する義務が以下のとおり記述されており、今後の制度運営等が注目される(大綱p114)。 【参考図】(2015/1/8追記) (※) 財務省ホームページより (了)
《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成26年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成26年12月18日、「平成26年4月から6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。 今回追加されたのは表のとおり、全16件の裁決となっている。相続税法関係で5件(うち3件は財産評価)、国税通則法の区分された3件のうち2件も相続税をめぐる不服審査となっており、相続税に関するものが多く公表されているのが今回の特徴である。 今回公表された裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部取り消された事例が8件、すべて棄却された事例が7件、却下された事例が1件であった。税法・税目として所得税法関係が5件、相続税法関係が6件、国税通則法3件、法人税法及び消費税法が1件であった。 【公表裁決事例平成26年4月~6月の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された16件の裁決事例のうち、注目される事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛し、複数の請求人が存する事例についても、請求人が単独であるかのように表記させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 更正の請求(基礎となった事実関係に関する判決等)・・・① (1) 本件和解の概要 請求人、R社及び相続人との間で、第14回弁論準備手続期日に、要旨次のとおりの和解が成立し、弁論準備手続調書に記載された。 (2) 審判所の判断 審判所は、以下のような事実認定に基づき、 と判断した。 2 重加算税(隠ぺい、仮装の認定)・・・② (1) 事例の概要 請求人は、平成24年2月、K税務署長に対して、郵送されたお尋ね書の用紙を使用し、「被相続人から相続により取得した遺産の課税価格(6,000万円)が遺産に係る基礎控除額(7,000万円)以下のため、申告は不要と思っています」という内容の回答を送付し、本件相続に係る相続税の法定申告期限までに、相続税の申告書を提出しなかった。 その後、請求人は、K税務署の調査担当職員の調査に基づき、平成24年11月5日、相続税の期限後申告書に遺産分割協議書を添付して、K税務署長に提出した。 K税務署長は、期限後申告書の提出により納付すべき税額に対して、平成24年11月9日付で、重加算税の賦課決定処分をしたところ、請求人は、賦課決定処分を不服として、異議申立を経て、審査請求を行ったものである。 (2) 審判所の判断――争点①「無期限内申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があると認められる場合に該当するか否か」 争点の1つめは、異議申立によって、重加算税の賦課決定処分の一部が取り消され、無申告加算税が賦課決定された点についての「正当な理由」の存否であった。 請求人は、法定申告期限内にもう一人の相続人が死亡したことに伴い、当初の法定相続分よりも多くの遺産を相続することになったのみならず、死亡した相続人に係る遺産分割協議の結果、法定相続分を超える遺産を相続することになったという特殊な事情に鑑み、審判所は、以下のように判断して、無申告加算税の一部は取り消されるべきであるとした。 (3) 審判所の判断――争点②「請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、重加算税の賦課要件を満たすか否か」 原処分庁は、請求人が、遺産が基礎控除額を超えることを知りながら、お尋ね書に一部の財産のみを記載し、申告は不要と思っているとして提出したことは、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」又は「相続財産を申告しないとの意図を外部からもうかがい得る特段の行動」と認められることから、重加算税の賦課決定処分を行った。 これに対して、審判所は、「お尋ね回答書の提出は、認識ある無申告と同等の行為と評価することができる」としたうえで、「請求人が、無申告行為とは別に、『本件被相続人名義財産について申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動』をしたなどと評価することはできないとして、「重加算税の賦課要件を満たすものとすることは相当でない」と判断して、これをすべて取り消したものである。 3 譲渡所得の計算における譲渡費用の該当性について・・・⑦ (1) 事例の概要 請求人は、コンサルタント料は土地の取得費又は譲渡費用に該当するとして、次のとおり主張している。 請求人は、合意に基づいて、32,000,000円のコンサルタント料を支払ったが、原処分庁はこれを、譲渡費用には該当しないものとして更正処分を行ったため、その取消しを求めて、審査請求を行ったもである。 (2) 審判所の判断 こうした請求人の主張に対して、審判所は、以下のとおり、判断して、主張を斥けた。 まず、取得費等については、以下のように定義している。 そのうえで、コンサルタント料については、「土地の取得の説得に係る対価又は謝礼は、本件土地の客観的価格を構成すべき取得代金にも、本件土地を取得するための付随費用にも当たらない」ことから、取得費に該当しない、と結論づけた。 一方、譲渡費用についても、以下のように定義している。 そして、請求人が主張する建物の改良行為については、「いずれも本件各建物を通常使用した場合に必要となる一般の修繕又は維持管理であり、本件各建物の価値を高めるもの」とは認められないことから、「不動産所得に係る必要経費」であり、客観的にみて「土地の譲渡を実現するために必要な費用に該当するということはできない」として、原処分庁による更正処分を認め、請求人の申立てを棄却した。 (了)
《速報解説》 国税庁、美術品等についての減価償却資産の判定について改正通達を発出 ~経過措置により過去に取得した20万円以上100万円未満の美術品等の償却が可能に Profession Journal編集部 既報のとおり、国税庁は、法人税基本通達7-1-1(書画、骨とう等)に定める減価しない美術品等の範囲について、取得価額20万円以上から100万円以上へと引き上げる見直し案をパブリックコメントに付したが、12月25日これを受けて改正通達を発出した。 ●減価償却しない美術品は「取得価額100円以上」で統一 改正された法人税基本通達は、「7-1-1(美術品等についての減価償却資産の判定)」とされ、改正の内容は、下記のとおりパブリックコメント時とほとんど同様となっている。 ●パブコメにより経過措置を見直し しかし、パブコメの内容から大きく修正された箇所が、経過措置となる「経過的取扱い・・・改正通達の適用時期」だ。 ここでは、既に取得している美術品等のうち、これまで減価償却ができなかった取得価額20万円以上100万円未満のものについて、1月1日以降開始する事業年度に償却が可能としていたわけだが、その償却の対応が明らかとなっている。 ●過去取得の取得価額20万円以上~100万円未満の美術品等の償却 対象となる過去取得の取得価額20万円以上~100万円未満の美術品等については、これまで償却が不可であったことから、1月以降もそのまま償却を行わないという選択【選択1】がある。 一方、1月以降に開始する事業年度で償却を行う場合には、原則として、保有する美術品等の取得時期が、償却方法の改正が行われた平成19年4月1日前の取得か、19年4月1日以後の取得かにより、大きく2つの区分に分けられる。 19年4月1日前に取得の場合は、旧定率・旧定額法によって償却を開始することになる【選択2-1】。 また、19年4月1日以後に取得の場合は、新定率法・新定額法によるわけだが、定率法の適用に際しては平成19年4月1日~24年3月31日の取得であれば250%定率法【選択2-2-1】が、24年4月1日~26年12月31日であれば200%定率法【選択2-2-2】がそれぞれ適用となる。 以上が原則的な扱いだが、注目されるのが、特例的な取扱いとして、過去取得の美術品等であっても1月1日以降に取得したとする「みなし取得」の規定をおいている点だ。 つまり、たとえ19年以前の取得であったとしても、取得時期を27年1月1日以後とみなすことで、現行の償却方法を認めるというものだ【選択3】。 この措置によって、中小企業者等については取得価額30万円未満の減価償却資産の即時償却を認める措置法67条の5(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)の適用が可能となる。 〈取得価額が20万円以上~100万円未満の美術品等〉 平成27年1月1日以後開始する事業年度で・・・ ●法人の状況に応じて有利判断を 以上のように、これまで償却できなかった取得価額20万円以上~100万円未満の美術品等について償却する場合には、みなし取得も認められるため、法人の状況に応じた償却の判断が求められる。 その留意点は、次のとおり。 この改正については同じ内容を定める所得税基本通達2-14や連結納税基本通達6-1-1も同様に見直されている。 (了)
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《速報解説》 ASBJより「自己株式等会計基準」「退職給付会計基準」「在外子会社の取扱いに関する実務対応報告」等の改正(公開草案)が公表 ~各改正の適用時期に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年12月24日、企業会計基準委員会は次の公開草案を公表した。 意見募集期間は、平成27年2月24日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(案)等 1 主な改正内容 平成26年3月26日付の「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第19号)の単体開示の簡素化により、財務諸表等規則107条2項では、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、自己株式に関する注記を要しないと規定されている。 当該規定に対応して、以下のように改正する。 なお、アンダーラインは筆者が記載したものである。 2 適用時期等 改正された会計基準等は、公表日以後適用する。 Ⅲ 退職給付に関する会計基準の適用指針(案) 1 主な改正内容 平成24年1月31日付で厚生労働省から発出された、厚生労働省通知「厚生年金基金の財政運営について等の一部改正及び特例的扱いについて」などにおいて、厚生年金基金及び確定給付企業年金に関する財務諸表の表示方法について変更が行われている。 当該変更に対応して、複数事業主制度の会計処理及び開示に関する「確定拠出制度に準じた場合の開示」について改正する(「退職給付に関する会計基準の適用指針(案)」65項)。 2 適用時期等 改正された適用指針は、公表日以後適用する。 当該改正の適用にあたっては、表示方法の変更として取り扱い、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)14項の定めに従って、表示する過去の期間における適用指針(案)65項の注記についても新たな表示方法を適用する。 Ⅳ 連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案) 1 主な改正内容 平成26年1月に改正された米国におけるのれんに関する会計基準への対応及び平成25年9月に改正された「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)への対応として、次の改正を行う。 2 適用時期等 改正された実務対応報告は、平成27年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用する。 適用に際しての詳細な規定が設けられているので、注意が必要である。 (了)
2014年12月25日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.100 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第6回】 「寄附金課税を考える」 税理士 山本 守之 1 寄附金はなぜ損金不算入か 寄附金の損金不算入規定が創設されたのは昭和17年2月(太平洋戦争〈昭和16年12月8日〉勃発の直後)でしたから、この規定の趣旨は、寄附金を損金の額に算入すると、企業が負担する税の減少を生じ、寄附金の一部を国が負担したと同じような結果になって課税の公平上好ましくないというものでした。 ただ、現行の法人税法においても損金不算入の規制を行っているのは、財政収入の確保や課税の公平の見地からだけでなく、費用収益対応の所得計算原理が大きく影響していると考えるべきでしょう。 すなわち、寄附金は反対給付がなく、個々の寄附金支出について、これが法人の事業に直接関連があるものであるか否か明確ではなく、かつ、直接関連のあるものとないものを区別することは実務上極めて困難ですから、一種の形式基準によって事業に関連あるものを擬制的に定め(損金算入限度額)、これを超える金額を損金不算入としているのです。 この点について、昭和38年12月6日の大阪地裁では、 としています。 2 税制調査会委員の誤り 税制調査会の討議のなかで、次のように誤った指摘があります。 ①は税制調査会が個人と法人との間の所得計算における「必要経費」と「損金」の違いを理解していないために生じたものでしょう。 個人の「必要経費」は、収入を得るために直接要した費用としているため、それが収入を得るために必要な費用か否かで必要経費性を判断すればよいので、事業関連のない寄附金は必要経費ではないのです。そこで、損金算入限度額のような特別の規定を税法に置く必要はないのですが、法人の場合は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準からみて費用であれば原則として損金ですから、一般寄附金のように損金算入について規制を設ける必要があるものについては別段の定めを置いているのです。 ②については、例えば、アメリカの内国歳入法典162条(a)項では、 としています。 したがって、会計とセパレートとなっているアメリカの課税所得計算では、費用が「通常かつ必要でない」と認められれば、もともと損金の額に算入されないので、一般寄附金もその内容に応じて「通常かつ必要なものか否か」で振り分けられるため、一般寄附金の損金算入限度額を設ける必要がないのです。 このような意味からすれば、税調委員の指摘は的はずれといえます。 もともと、寄附金損金不算入という規定では海外にはないものです。例えば、日本では、親会社が子会社を援助すると直ちに寄附金の支出があったものとする税務執行が行われていますが、アメリカでは、親会社が子会社を援助するのは当然と考えており、強いて言えば一種の投資を行ったと考えるのです。 この点については、かつて筆者がアメリカの財務省(Department of Treasury)を訪問した際に財務副長官代理(制度問題担当)=〈当時〉のEric SOLOMON氏に「日本の税務では、親会社が子会社を援助すると寄附金として損金の額に算入されません。」と説明したところ、「それはおかしい。親会社が子会社を援助するのは当然だ。アメリカでは特別の場合は出資となるが、寄附金として損金不算入とすることはしない。」と抗議されました。日本の規定は戦費調達のために設けられたものですから、不合理なのは仕方ありません。 3 寄附金の課税 法人税法第37条第8項では、法人が資産の譲渡又は経済的利益の供与をした場合に、その譲渡又は供与の対価の額がその資産の譲渡時の時価又はその経済的利益の供与時の時価の額に比べて低いときは、その対価の額と時価との差額のうち実質的に贈与又は無償の給与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含めることを明らかにしています。 これは、有償契約であっても、売買価額等を低くすることによって実質的に贈与する場合は、売買と贈与の混合した取引ですから、寄附金に含めようとするのです。 ところで、子会社(A社)が他に販売した鋼材を親会社(X社)が時価によって買戻しを行い、これを転売したところ鋼材の相場が下落したため損失が生じたという取引について争われた事件があります。 この事件で原処分庁(国税局)は、 として更正したのです。 これに対して、裁判所では、 として課税処分を取り消しました。 上記の判決文のうち、「自己の損失において専ら他の者に利益を供するという行為だけが寄附金になる」としたのは、寄附金の課税要件を示したものとして評価されます。 寄附金に該当すべき要件(課税要件)を整理してみると、次のようになります。 4 寄附金とならない場合の事例 自動車メーカーでは部品供給について「カンバン方式」(ジャスト・イン・タイム生産)を採用しているところが多いようです。これは後工程から前工程に部品運搬を指示するカンバンを回し、前工程はカンバンをみながら引き取られた分だけ部品を補充するというもので、過大な部品在庫は不要になります。 自動車メーカーが部品在庫を持たないとなると、部品メーカー等が災害で被害を受け、生産を停止すると、その納入を受けている自動車メーカーの生産がストップします。 自動車を構成する部品は3万点になりますが、部品在庫を減らすための「カンバン方式」は日本の自動車メーカーのコスト競争力の原点ともなっているのです。 このため、災害時には「如何に止めないか」より、「如何に再開するか」に力点が置かれるのです。 自動車メーカーと部品メーカーが一種の運命共同体となっているとき、自動車メーカーの部品メーカーに対する支援を単に贈与とみて寄附金課税をしてよいか否かが問題となります。 事例のように部品会社1社(A社)の災害による操業停止が次々と自動車メーカーに連鎖するのは、既に述べたカンバン方式(在庫を極力持たない)とともに、集中購買戦略によるコストの引下げという背景があるのです。 いずれにしても、部品在庫を持たない自動車メーカーは、部品メーカーの災害による生産の停止により部品の供給がストップし、自らの自動車生産の停止に追い込まれたのです。 このため、A社に災害復旧のために応援人員を配置したのです。 これは、部品メーカーの救済を通して、自動車メーカーが自ら被るであろう損失を回避するための費用支出です。寄附金になるはずはありません。 寄附金について、訴訟の場において判決文から捉えると次のようになります。 寄附金は、単に贈与又は経済的利益の供与という現象面からだけ捉えるのではなく、行為の背景を有機的に捉えて判断すべきです。 (了)