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プロフェッションジャーナル No.497が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年12月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.497を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/12/01

monthly TAX views -No.119-「いつまで住民税非課税世帯基準を使うのか」

monthly TAX views -No.119- 「いつまで住民税非課税世帯基準を使うのか」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   新型コロナウイルス感染症に関連して様々な給付金が支払われている。最近では、1世帯当たり10万円の「臨時特別給付金」、電力、ガス、食料品などの価格高騰に対する支援として1世帯当たり5万円の「緊急支援給付金」がある。 問題は、これらの給付の対象者が、「住民税非課税世帯」というアナログ的な基準によって判断される点だ。 *  *  * どこに問題があるのか。 第一に、住民税非課税世帯の多くが高齢の年金受給世帯で、必ずしも生活困窮者ではないという点だ。非課税かどうかという基準は「所得」なので、給与所得者より高水準の公的年金等控除がある年金受給者は、勤労者より高水準の「収入」でも住民税非課税になる。 具体的には、夫婦2人世帯で、年金受給者の課税最低限は208万円、給与所得者の課税最低限は168.8万円と年金受給者有利になっている(具体的な金額は自治体によって異なる)。とりわけ65歳以上の者については、110万円という控除の最低保証がある。世代間の公平に反しているともいえよう。 そもそも高齢者は若者と比べて「資産」を保有している割合が圧倒的に多いが、これが考慮されていないというのも問題だ。 この結果、住民税を負担しているが困窮している勤労世帯が給付から外れることになる。単身の給与所得者は年収100万円が住民税課税ラインだが、厚生労働省調査での貧困ライン(等価可処分所得の中央値の半分、平成21年)は 112万円となっている。 次に、給付が世帯当たりで一律の金額となっており、世帯の人数が給付額に反映されていないことだ。4人世帯と1人世帯では、困窮度が異なるはずだが、その点は考慮されていない(住民税非課税かどうかの判定には考慮されている)。 このように、住民税非課税世帯基準では、困窮度の高くない高齢年金世帯が給付を受ける一方で困窮世帯が外れるなど財源の無駄遣いや不公平が生じている。 *  *  * 下図は、米国のコロナ関連給付金だが、世帯の人数と所得という2つの判断基準できめ細かく給付されている。 (出典) Tax Foundationホームページより筆者加工。 このようなことを解決するには、マイナンバー制度を活用して、所得と給付とを連動させることが必要だ。マイナンバー制度導入の理念は、「より公平・公正な社会の実現、社会保障がきめ細やかかつ的確に行われる社会の実現」のはずだ。 問題は、所得と給付の連動に関して、将来像すら政府部内で共有されていないことだ。以下は筆者が、デジタル庁や内閣府の有識者会議で提言しているコンセプトである。 国税庁や日本年金機構が取得した所得情報をデータ化し、他の機関が利活用できる情報集約データベース(データ・ハブ)を国が作る。サラリーマン、年金受給者、個人事業者などの収入情報がデータとして提供され、プラットフォーム経由で報酬を得るギグワーカーについてはプラットフォーマーから、フリーランスについては発注主から収入情報をデータで送付させる。これにより大半の勤労者の収入情報をカバーすることができる。 こうすれば、住民税非課税世帯というアナログ基準に頼ることなく、社会保障やコロナ給付などの対象者を見つけて、きめ細かい給付が可能になる。「106万円の壁」を打破するためのきめ細かな給付も可能になるなど、計り知れないメリットがある。 政府は、他国と比べ遅れている「デジタル・セーフティネット」の構築を急ぐ必要がある。 (了)

#No. 497(掲載号)
#森信 茂樹
2022/12/01

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第6回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第6回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (3) 暗号資産を譲渡した場合の計算に関する規定 ア 棚卸資産と売上原価の計算 棚卸資産を譲渡した場合には、総収入金額から、これに対応する売上原価等を控除して、所得を算出する(所法27、36、37)。 棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法について、所得税法47条は、要旨次のとおり定めている。 これを受けて、政令では、次のような規定が整備されている。 このような規定が整備されていることから、棚卸資産の売上原価の計算は、おおむね次ののようなもの(※3)であると解されている(なお、棚卸資産に準ずる資産に係る売上原価の計算については、所基通47-15参照)。 【棚卸資産の販売による所得金額の計算】 上記の(※3)の売上原価の算式のうち、①の「前年末の棚卸資産評価額」(期首棚卸評価額)は前年末の数字をそのまま使用できる、②の「当年中の棚卸資産仕入額」は帳簿上明らかであるから、問題は③の「当年末の棚卸資産評価額」ということになる。 上記の所得税法47条が評価方法等を定めているのはまさにこの部分である。 さて、この場合の棚卸資産からは暗号資産が除外されているため(所法2①十六)、上記の各規定は暗号資産には適用されない。その代わりに、暗号資産を譲渡した場合の計算に関する規定が別途、整備されている。 イ 暗号資産の譲渡原価の計算 暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法について、所得税法48条の2は、要旨次のとおり定めている。 この所得税法48条の2の規定は、事業所得の金額又は雑所得の金額の必要経費に関する定めであるが、その規定ぶりからすると、暗号資産に係る所得の所得区分を事業所得又は雑所得に限定する趣旨までも含むものではないと解される。 細かい規定については後で確認するが、条文を見比べてもわかるとおり、暗号資産の譲渡原価の計算方法は、棚卸資産の売上原価の計算方法と同様である。 【暗号資産の譲渡による譲渡原価の計算】 上記③の当年末の暗号資産評価額は、「当年末時点の1単位当たりの取得価額 × 当年末時点の保有数量」で算出することができる。ここでは暗号資産の「取得価額」がポイントとなり、2つの種類の「取得価額」を観念しておくとわかりやすい。 1つは、「当年末時点の1単位当たりの」取得価額である。 これは、移動平均法又は総平均法によって算出されるものであり、この算出した取得価額をもって当年末の暗号資産(期末暗号資産)の評価額とされる(所令119の2)。 もう1つは、上記の暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額である。 これは、暗号資産を取得する取引ごとに観念されるものであり、例えば、暗号資産を購入する取引であれば、購入の代価と購入のために要した費用である。 なお、ここで所得税法は、暗号資産の譲渡による譲渡原価を算定する際に、期末に保有する暗号資産(③当年末の暗号資産)を一定の方法により「評価」すると表現していることに留意する必要がある。この視点は、法人税法において、期末に法人が有する暗号資産を時価で「評価」する規定との対比で理解しておく必要がある(詳細は後述)。 ウ 暗号資産の取得価額 暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額、すなわち年末時点での1単位当たりの取得価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、その取得の方法に応じて、それぞれ次のように定められている(所法40、所令119の6、国税庁FAQ「4 暗号資産の取得価額」)。 (※) 暗号資産同士の交換、マイニング(採掘)、フォーク(分裂・分岐)などによる取得がこれに該当するが、フォーク(分裂・分岐)により暗号資産を取得した場合の取得価額はゼロ円と考えられている(国税庁FAQ「5 暗号資産の分裂(分岐)により暗号資産を取得した場合」)。 対価を支払って暗号資産を購入した場合の取得価額は、購入の代価に、購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用の額を加算した額となる。 したがって、上記例では、取得価額は10,000,330円(税抜経理方式を採用している場合は、10,000,300円)となる。 なお、消費税法上、暗号資産の譲渡は非課税であるが(消法6①、別表第一・第二、消令9④)、上記のような暗号資産交換業者に対して取引の仲介料として支払う手数料は、仲介に係る役務の提供の対価に該当し、消費税の課税対象になる(国税庁FAQ「4 暗号資産の取得価額」)。 贈与又は遺贈により暗号資産を取得した場合(③の場合を除く) におけるその取得した暗号資産の取得価額は、贈与又は遺贈の時の価額(時価)である。 したがって、上記例では、取得価額は10,000,000円となる。 なお、個人が、贈与又は遺贈により暗号資産を取得した場合(③の場合を除く)により、暗号資産を移転させた場合には、その個人(すなわち贈与者又は遺贈者)の所得税の計算上、その贈与又は遺贈の時における暗号資産の価額(時価)を総収入金額に算入する必要があることに注意が必要である(本連載第5回参照)。 (了)

#No. 497(掲載号)
#泉 絢也
2022/12/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例47】「経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例47】 「経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、東海地方において工作機械を製造・販売する株式会社Xで経理部長を務めております。あらゆる機械やその部品類は基本的に当社が扱うような工作機械によって製造されるため、工作機械は一般に「機械を作る機械」「(和製英語ですが)マザーマシン」といわれており、有力な自動車製造会社が複数存在する東海地方においては、伝統的に工作機械メーカーが多数立地しています。戦後創業した当社もその一角として、これまで順調に事業活動を展開してきました。 しかし、近年、当業界においても中国メーカーの台頭などもあって国際的な競争が激しくなり、事業再編の話がひっきりなしに飛び交っています。そんな中、数年前に、東海地方にある有力な自動車部品メーカー甲の子会社のうちの一社(乙)に関する事業譲渡の話が当社に持ち込まれました。すなわち、乙社は従業員の高齢化によりここ数年経営成績が低迷しており、甲のグループ企業再編の一環で整理する必要に迫られていたものの、甲に対して自社製造の工作機械を納入し、またそのメンテナンスを行ってきたため、今後も確実な売上が望めるという話でした。 そこで、当社は甲から乙の株式全部の譲渡を受けることとなりました。その株式譲渡価格の算定においては、乙の簿価純資産価額がほぼゼロであることを考慮しつつ、甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権があることを斟酌し、後者の価値を過去の実績から1億2,000万円と見積もりました。 当社は乙の株式の譲渡を甲から受けたのち、乙の甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を営業権と認定して、その価格1億2,000万円を3年間にわたって均等償却し、各事業年度において損金に算入していました。 ところが先日受けた税務調査で、税務署の調査官から、甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権なるものは実体がなく、営業権と呼べるものではないため、償却費の損金算入は認められないと言い渡されました。調査官の当該主張には到底承服できないのですが、法人税法上どのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。 【A】 法人税法上、無形の減価償却資産である営業権とは一般に、企業の超過収益力を指し、当該企業の長年にわたる伝統や社会的信用、特殊の製造技術や取引関係の存在等に基づき生じる、他の企業を上回る収益を稼得することを可能とする無形の財産的価値を有する事実関係をいうものと解されます。 したがって、本件のように、経営譲渡契約に伴い第三者に支払った金銭が営業権の対価であるといえるかどうかは、その実体において、譲り受けた法人乙が甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を今後保持し続けているなど、経済的価値を認定できるかどうかにかかっているものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の営業権の意義 営業権とは一般に会計学上の用語で、無形固定資産に分類されるが(企業会計原則第三の四(一)B)、会社法上はのれん(暖簾)と称され、得意先関係、営業上の秘訣(ノウハウ等)など、法的権利とは認められていないが、経済的価値のある事実関係であると解されている(※1)。のれんは営業権の中核をなし、企業の超過収益力をいうものと一般に解される(※2)。 (※1) 江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣・2021年)677頁。 (※2) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)394頁。 平成21年改正の会社計算規則においては、会社は吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができるとされている(会規11)。 一方、法人税法において、営業権は減価償却資産で無形固定資産に分類されるが(法令13八ワ)、判例上、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係である、と解されている(最高裁昭和51年7月13日判決・訟月22巻7号1954頁)。   (2) 工作機械業界の動向 機械は、素材を削ったり、穴をあけたりして作られる部品や金型によって作られる部品により構成されるが、そのような部品類を精密かつ効率的に製作するために必要な機械である工作機械は、一般に、「機械を作る機械」ないし「マザーマシン(和製英語)」といわれている。狭義の工作機械は、主として金属の不要な部分を削り取って所要の形状に仕上げる機械(金属切削工作機械)を指し、広義の工作機械は、金属切削工作機械に加えてプレス(鍛圧)機械や木工機械も含めることとなる。 また、工作機械は更に、作業者がハンドルを回すなどマニュアルで操作する汎用工作機械と、コンピュータ等による数値制御で自動運転を行うNC(Numerically Control)工作機械とに分けることがある。現在、わが国における工作機械に占めるNC工作機械の割合は約9割である。 工作機械に関する数値制御の技術は、戦後アメリカで開発されたものであるが、わが国のメーカーはいち早くその技術を導入し応用開発に取り組んだことから、1982年には世界一の生産国となった。その後その地位を30年近く保持したものの、2009年以降中国にその座を譲り、現在はドイツと2位を争っているところである。 わが国における工作機械需給状況の推移を図で示すと以下の通りとなる。 〈工作機械需給状況の推移〉 (出典) 日本工作機械工業会HPより筆者作成。   (3) 経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性 本件のように、経営譲渡契約に基づき第三者に支払った営業権の償却費について、その損金性が争われたものとして、大分地裁平成17年3月24日判決・判タ1217号218頁(TAINSコード:Z255-09969)があるので、以下でみていきたい。 ① 事案の概要 本件は、砂利採取販売業、生コンクリートの資材販売業等を営む株式会社である原告が、経営譲渡契約に基づき第三者に支払った5,430万円を3事業年度にわたって営業権にかかる償却費として損金経理処理をしたところ、被告である日田税務署長が、同金額を営業権の対価と認めず、法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、原告がこれを不服として取消しを求めた事案である。 株式会社Bは、平成3年7月1日に設立された法人で、生コンクリート等の製造販売を主な事業としている。平成7年9月1日当時のBの発行済み株式の総数は100株、資本の額は1,000万円であり、株式会社Cは、Bの全株式を所有し、親会社の立場にあった。 なお、Cと株式会社Dとはグループ会社であり、平成14年4月にCはDに吸収合併され、解散した(以下、Cが解散するまでのDとCを併せて「E」という)。 なお、原告、B、Eは、平成7年10月6日付けで本件譲渡契約書の変更等についての確認書を作成し、本件譲渡契約書第2条に定める原告からEに支払う営業権の対価を5,430万円と改めた。 原告は、本件譲渡契約に基づいてEに支払った5,430万円は資材納入権及び事業用動産の対価であり、法人税法第2条第23号及び同法施行令第13条第8号ル(当時)に規定する営業権に該当するとして、平成11年6月期において3,290万円、平成12年6月期において1,892万円、平成13年6月期において248万円をそれぞれ営業権にかかる償却費として損金経理処理をした。 一方、被告・税務署長は、原告に対し、本件損金処理金員が、原告がBの発行済株式の全株式を取得することにより、Bの事業活動のすべてを支配下に置き企業支配を行うための支出であり、営業権の対価とは認められず、当該株式の取得価額を構成するものであること、Eから原告に対する動産の譲渡は実際には行われていないことなどを理由として、原告の確定申告における営業権の各償却費を損金として認めず、各償却費分を各事業年度の所得金額に加算し、法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 ② 本裁判例の争点 本件損金処理金員が、法人税法等所定の営業権の対価及び動産取得に要した費用に該当するのか、それとも株式の取得価額を構成するものかであり、要は、本件譲渡契約の譲渡対象は何か、である。 ③ 裁判所の判断 ④ 本裁判例からいえること 本裁判例は、原告・納税者側が、セメント業界において観念されている「資材納入権」という権利関係が営業権に含まれると主張したのに対し、裁判所がそれを否定した事例である。資材納入権というのものが、例えば市場価格よりも高い価格で独占的に他社に資材を納入できる権利であるとすれば、財産的価値のある営業権であると認定される余地があることから、資材納入権が営業権に含まれるか否かは、正に具体的事実ごとに判断されるべき問題であるといえよう(※3)。 (※3) 金子前掲(※2)書386~387頁参照。 本裁判例において裁判所は、原告の主張する資材納入権は、譲渡契約書上その内容が曖昧であり、また、経営権とは離れた独立の権利であるかどうか疑わしいことから、仮に譲渡契約において、資材納入権が譲渡対象とされていたとしても、Bの経営権譲渡におけるいわば付け足しであって、独自に価格評価がなされたものとは到底考えられないため、営業権には含まれないと判断している。本件における資材納入権には、他の企業を上回る企業収益(超過収益力)を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係というように認定され得る要素がなかったということであり、営業権を認識することは困難ということであろう。   (4) 本件へのあてはめ 法人税法上、無形の減価償却資産である営業権とは一般に、企業の超過収益力を指し、当該企業の長年にわたる伝統や社会的信用、特殊の製造技術や取引関係の存在等に基づき生じる、他の企業を上回る収益を稼得することを可能とする無形の財産的価値を有する事実関係をいうものと解される。 したがって、本件のように、経営譲渡契約に伴い第三者に支払った金銭が営業権の対価であるといえるかどうかは、少なくともその実体において、譲り受けた法人乙が甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を今後保持し続けているなど、経済的価値を認定できるかどうかにかかっているものと考えられる。 (了)

#No. 497(掲載号)
#安部 和彦
2022/12/01

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第62回】「特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制との有利選択」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第62回】 「特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制との有利選択」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲は個人事業主で事業を行っていましたが、令和4年11月22日に相続が発生しました。甲の相続人は、長男である乙と二男である丙の2人となります。相続後、甲の個人事業は乙が承継しています。乙及び丙が下記のとおり甲の財産を相続した場合において個人版事業承継税制を適用した方がいいのか、それとも個人版事業承継税制を適用しないで小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用をした方がいいのか、どのように判断すればよいのでしょうか。 特定事業用資産の内訳は、下記のとおりです。 (※) 特定事業用宅地等の特例の要件、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の要件のいずれも満たしています。 [A] 個人版事業承継税制と小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例は選択適用とされていますので、それぞれの場合で相続税の納付税額の計算を行い比較する必要があります。 下記の表のとおり、乙の納付税額については個人版事業承継税制の適用を受けた方が有利となりますが、丙の納付税額については、個人版事業承継税制を適用しない方が有利となります。全体の相続税の納付税額の合計額については、個人版事業承継税制の適用をした方が有利となりますので、特定事業用宅地等の特例を適用しないことによる丙の納付税額の増加部分については、乙及び丙に説明を行うとともに、遺産分割の調整や乙から丙への金銭贈与を行う等の配慮も必要になります。 また、税額比較の他に納税猶予適用後の期限確定事由や免除事由の可能性、納税猶予適用時と適用後における税理士等の報酬も含めて、最終的に個人版事業承継税制を適用した方がいいかどうかを検討する必要があります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の計算 個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の具体的な計算方法は、下記の3ステップにより計算することになります。 〈個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の計算〉 (出典) 国税庁ホームページ「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし(令和4年5月)」9頁 ■ ステップ1 の計算 通常の相続税の計算と同様に相続人等が取得した全ての財産に基づき相続税の総額を算出し、それぞれの相続人等が実際に取得した正味の遺産額の割合に応じて按分し、各相続人等の算出税額等を計算します。 ■ ステップ2 の計算 後継者の相続税の猶予税額を計算します。相続税の猶予税額は、相続税の課税価格の計算において相続税の納税猶予の適用を受ける特定事業用資産(以下「特例事業用資産」という)の価額(後継者が債務・葬式費用を承継負担している場合には、特定債務額(※)を控除した残額。以下「特定価額」という)と他の相続人等が取得した全ての財産の価額の合計額を課税価格とみなして計算した相続税の総額のうち特定価額に対応する税額(相続税額の2割加算の適用がある場合及び暦年課税分の税額控除の適用がある場合にはその適用後の金額)が相続税の猶予税額となります(措法70の6の10②三、措令40の7の10⑨⑩⑪)。 ■ ステップ3 ステップ1で計算した後継者の税額とステップ2で計算した後継者の猶予税額との差額が後継者の納付税額となります。   2 本問の場合の納付税額と猶予税額の計算 個人版事業承継税制の適用の有無の場合で乙の納付税額、猶予税額及び丙の納付税額は、それぞれ下記のとおりとなります。 (1) 個人版事業承継税制の適用あり(特定事業用宅地等の特例の適用なし) ステップ1 通常の計算 ステップ2 乙が特定事業用資産のみを取得したものとして計算(乙の猶予税額) ステップ3 後継者の納税額 (2) 個人版事業承継税制の適用なし(特定事業用宅地等の特例の適用あり)   ★実務上のポイント★ 相続の場合には、都道府県の認定申請を相続の開始の⽇の翌⽇から8ヶ⽉以内に申請する必要もあり、遺産分割協議をそれまでにまとめる必要もありますので、検討時間に余裕がないことも想定されます。したがって、早めにシミュレートを行い、検討を進める必要があります。   (了)

#No. 497(掲載号)
#柴田 健次
2022/12/01

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第25回】「外国パートナーシップ持分の現物出資の適格要件とは」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第25回】 「外国パートナーシップ持分の現物出資の適格要件とは」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 外国法人に対する現物出資が適格と判定されるための要件である「対象資産が国内にある事業所に属する資産に該当しないこと」は、どのように判断すべきでしょうか。 〔A〕 本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、当該資産が国内又は国外の事業所のいずれの帳簿に記帳されているかにより判定するという基準に沿って検討するのが相当であり、外国パートナーシップ持分は、パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであり、同持分の管理が行われていた事業所とは、外国パートナーシップの事業用財産の管理が行われていた事業所であるとされています。 ●●●〔解説〕●●● 1 外国パートナーシップ持分の現物出資 (1) 我が国の組織再編税制と国際租税 平成13年度税制改正により導入された我が国組織再編税制は、現在、①合併、②分割型分割、③分社型分割、④現物出資、⑤現物分配、⑥株式分配、⑦株式交換、⑧全部取得条項付き種類株式に係る取得決議、⑨株式の併合、⑩株式の売渡請求に係る承認、及び⑪株式移転の11類型が制度化されており、それぞれにおいて適格組織再編成の要件を満たせば、移転する資産に係る譲渡損益の課税の繰延べが認められる。 国際租税の分野においても、当然に、適格組織再編成適用の是非が問われる局面が存在し、今回はその中でも、外国法人に対する現物出資について検討する。 (2) 適格現物出資の概要 現物出資とは、法人への出資に際して、金銭以外の財産をその出資の目的とすることをいい(会社法28、199他)、土地・建物といった資産単体のみならず、事業単位の現物出資もあり得る。適格現物出資とは、〈1〉完全支配関係がある法人間で行う現物出資(法法2十二の十四イ、法令4の3⑬)、〈2〉支配関係にある法人で行う現物出資(法法2十二の十四ロ、法令4の3⑭)、及び〈3〉共同事業を行うための現物出資(法法2十二の十四ハ、法令4の3⑮)のいずれかに該当する現物出資で、現物出資法人(法法2十二の四)に被現物出資法人(法法2十二の五)の株式のみが交付されるものに限られるが、現物出資法人が行う適格現物出資については、移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる(法法62の2①)。 ただし、上記〈1〉ないし〈3〉に該当するものであっても、被現物出資法人が外国法人であり、当該外国法人に国内にある含み益を有する資産の現物出資を行った場合、その含み益に対する我が国課税権が確保されないと、課税機会の喪失に繋がるため、次の①~④に掲げるものについては、適格現物出資から除外することとされている(法法2十二の十四括弧書き、法令4の3⑩⑪⑫)(以下「適格現物出資の除外要件」という)。 今回は、英領ケイマン諸島において設立された特例有限責任パートナーシップ(Exempted Limited Partnership:ELP)の持分を現物出資した場合の適格性が問題となった裁判例を取り上げる。   2 過去の裁判例 《塩野義事件》(※4) (※4) (第一審) 東京地裁令和2年3月11日判決・TAINSコード:Z270-13394 (控訴審) 東京高裁令和3年4月14日判決・TAINSコード:Z888-2369 (1) 事案の概要 本件は、内国法人である納税者(原告X)が、米国法人との間でジョイントベンチャーを形成する契約を締結し、ケイマンにおいて特例有限責任パートナーシップであるCILPを設立し、そのCILPのパートナーシップ持分全部をXの英国完全子会社に対し現物出資により移転した上で、当該現物出資は適格現物出資に該当するとして確定申告をしたところ、課税庁(被告Y)から、本件現物出資は「国内にある事業所に属する資産」に該当し、適格現物出資に該当しないとして更正処分等を受けたため、処分の取消しを求めた事案である。 主たる争点は、本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かであった。 (2) 裁判所の判断 本件の第一審である東京地裁は、まず、本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かの判断基準である法人税基本通達1-4-12(本件通達)を引用し、資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するという基準に沿って検討するのが相当であるとした。 次に、本件現物出資の対象資産は本件CILP持分で、その内実はCILPの事業用財産の共有持分と有限責任パートナー(LP)としての契約上の地位とが不可分に結合された資産で、これらが全て結合された1個の資産とみて、その管理が行われていた事業所を特定するのが相当であると判示し、その管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でも主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当であり、その事業所は米国その他の我が国以外の地域に所在していたと認定し、本件CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとし、Yの処分を取り消した。 Yは第一審の結果を不服として控訴したが、控訴審である東京高裁は、若干の独自解釈を交えながらもほぼ原審の判断を踏襲し、本件現物出資の対象資産であるCILP持分は、パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであり、CILP持分の管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所とした。 その上で、CILPの事業用財産が現金、知的財産のライセンス及び治験データ等で構成されていたことから、これらが我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていた点を考慮し、本件持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとし、その結果、本件は適格現物出資の要件を満たすとして、Yの控訴を棄却した。本件は、Yが上告等を行わなかったため高裁で確定している。 (3) 外国パートナーシップ持分の管理の場所に関する考察 本件でX及びYは、本件通達に従い、主として、現物出資対象資産の管理の場所がどこであるかについて主張(※5)し、裁判所もその主張に沿って審理した。しかしながら、仮に現物出資対象資産が国外にある資産と認定されたとしても、現物出資後に、Xが資本関係を有する外国法人が当該現物出資対象資産を保有している限りにおいて、当該資産の含み益は、結局、被現物出資法人の株式に転換されてXの手元に残ることになるのではないかと考えられる。 (※5) 本件において、Yは、本件CLIP持分は国内の事業所で記帳され経常的に管理されているとして国内資産等に該当すると主張したのに対し、Xは、CLIPの事業用財産は米国の事業所で記帳され経常的に管理されており、国内資産等に該当しないと主張していた。 裁判所の認定事実によれば、CILPに対する出資については、Xの本社の経理財務部において管理されている帳簿に勘定科目を「投資有価証券」として記帳されており、Xが本件を適格現物出資として確定申告したことから、本件現物出資後は同じ「投資有価証券」としてのXの英国子会社株式勘定に勘定振替されたと思われる。すなわち、本件現物出資の対象資産である本件CILP持分が、本件現物出資によって、英国子会社の株式に(帳簿価額を維持しながら)転換されたというべきであり、本件CILP持分が有していた「含み益」相当分は、Xにおいて実現することなくそのまま英国子会社の株式として維持されたと考えられる(※6)。 (※6) 西中間浩「最新判例・係争中事例の要点解説」税経通信(2020年9月)182頁は、「本件は原告の英国所在の完全子会社への現物出資であったため、同完全子会社の株式の含み益という形で日本の課税権は確保されているとの見方も可能である。」と述べている。 以上を踏まえると、パートナーシップの事業用資産の所在がどこかに関わりなく、結果的に、内国法人が有する(可能性のある)含み益が国外に流出していないと考えられる場合、我が国課税権の確保という制度趣旨から、現物出資の適格性には問題がないことになる(※7)。すなわち、本件の結論を導くに当たり、現物出資対象資産の管理地の所在の議論は決定的なものでなかった可能性がある。 (※7) 西中間・前掲(※6)182~183頁は、「立法論になるかも知れないが、出資割合25%以上の持分については、国外におけるLPS等の各種事業体をも含めた組織の再編成を妨げることのないように、法人税法施行令4条の3第9項(現10項)の例外規定を適用ないし準用させ(同令4の3(現②二ロ)で同条の『株式』については『出資』を含むとされている)、国内にある持分の現物出資であっても適格扱いすればバランスの取れた解決が図れると考えられる。」と述べている。 (了)

#No. 497(掲載号)
#霞 晴久
2022/12/01

租税争訟レポート 【第64回】「派遣社員による不正行為と重加算税(第1審:大阪地方裁判所令和元年8月9日判決、 控訴審:大阪高等裁判所令和2年1月28日判決)」

租税争訟レポート 【第64回】 「派遣社員による不正行為と重加算税 (第1審:大阪地方裁判所令和元年8月9日判決、 控訴審:大阪高等裁判所令和2年1月28日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈第1審判決の概要〉 〈控訴審判決の概要〉   【事案の概要】 本件は、原告が、平成24年12月1日~平成25年11月30日の期間及び同年12月1日~平成26年11月30日の期間に係る法人税、復興特別法人税及び消費税等につき、確定申告をしたところ、東税務署長から、原告の関連会社である株式会社Bの従業員(当時)であり原告に派遣されていた乙がした架空仕入計上、売上過少計上及び架空減価償却費計上を理由に、前記各期に係る各更正処分及び各重加算税賦課決定処分(本件各賦課決定処分)をされたため、本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。 原告は、C社又はB社が医療機関に納入した医療機器等の保守・修理等を業とする株式会社であり、代表取締役甲の親族が発行済株式総数の全てを保有する同族会社である。原告には、平成25年11月期及び平成26年11月期において、固有の従業員はおらず、B社の従業員が原告に派遣されその事務を兼務していた。 B社は、医療機器・光学機器の販売等を業とする株式会社であり、その代表取締役である甲、原告及び原告の100%子会社である株式会社D等が発行済株式総数の約72%を保有する同族会社であり、原告、C社等を関連会社とする企業グループ(Bグループ)の基幹法人である。C社は、理化学機器の販売等を業とする株式会社であり、B社が発行済株式総数の全てを保有する同族会社で、C社の代表取締役のうち1名は甲である。 乙は、平成18年12月11日にB社に入社し、平成19年5月頃から平成27年5月頃の間、①原告の業務を兼務し、経理部門の責任者であり、乙同様、B社から原告に派遣されていた丙の下で、経費等の支払依頼書の作成、原告の総勘定元帳の記帳及び確定申告手続等の経理業務に従事するとともに、②C社の業務を兼務し、総勘定元帳の記帳、給与・賞与の振込等の経理業務に従事し、C社が給与の振込みに利用するG銀行大阪中央支店のC社名義の預金口座からの給与振込みに関し、給与データの作成等の権限を与えられていた。   【第1審判決の概要】 1 乙による不正行為 (1) 架空仕入の計上 (2) 売上の過少計上 ① C社から原告への架空請求 乙は、原告に保守・修理等の業務の発注事実が存しないにもかかわらず、C社から原告に宛てて、合計5,715万円の架空請求書を作成し、甲宛ての支払依頼書を作成したうえで、順次、丙を経由して甲に決裁をさせ、架空請求書に係る支払依頼は、乙同様、B社から原告に派遣されている他の経理担当者により、平成26年9月16日、本件原告口座からC社名義の預金口座に振り込まれた。 ② B社に対する原告による請求と売上の過少計上 原告は、B社に対し、平成26年2月6日~同年9月4日の間に、B社から受注したEの保守業務に係る代金として、次の各金員の支払の請求をし、本件原告口座に合計2億4,906万6,511円の振込みを受けた。 乙は、上記のB社からの振込額に関し、その一部のみを元帳に記帳し、振込額の合計額2億4,906万6,511円と記帳額の合計額1億9,506万6,511円との差額5,400万円(消費税等相当額を加えた額は5,715万円)の保守業務に係る代金については元帳に記帳せず、売上を過少計上した。 (3) 架空の減価償却費計上 (4) 乙による領得行為 乙は、上記(1)①②、(2)①及び(3)①で作成した架空請求書に基づき、原告の預金口座からC社名義の預金口座に振り込まれた金員約1億7,000万円を、インターネットバンキングを利用して、乙の預貯金口座に送金して領得した。 2 争点 乙が行った架空仕入計上並びに売上過少計上及び架空減価償却費計上が、原告に係る平成25年11月期及び平成26年11月期の法人税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠蔽し、又は仮装した行為に該当することは当事者間に争いがない。 本件における争点は、乙による前記仮装隠蔽行為を納税者本人である原告の行為と同視し、原告に対して本件各賦課決定処分を行うことができるか否かである。また、争点に関する被告の主張が認められた場合の税額算定過程等については、当事者間に争いがない。 3 争点に対する原告の主張 原告は、従業員による隠蔽仮装行為を納税者によるものと同視することができるか否かは、①納税者の従業員が専ら自己の利益のみを図って隠蔽仮装行為をしたか、②当該従業員の納税者の内部における地位がどのようなものであったか等によって、異なり得るものであり、納税者が法人である場合、その経営に参画していた役員、一定の重要な経営上の権限を与えられていた従業員等による隠蔽仮装行為であれば、当該行為が専ら当該法人以外の者の利益を図るために行われ、その代表者が当該行為を知らなくとも、当該行為を法人の行為と同視して重加算税を賦課するものであるという前提のうえで、乙が原告の経理担当者として従事した業務は、①修理メンテナンス業務の売上計上及び同業務に係るB社からの入金の計上、②経費等の支払依頼、③仕訳業務、④確定申告書の提出業務(会計ソフトのデータを税理士に交付して決算処理を依頼し、税理士が行った処理に基づき確定申告書を作成して税務署に提出する。)という、いずれも経理処理の基本業務であるか単純作業であり、乙が原告の経営に参画する地位にある者とはいえないことは明らかであるから、乙の行為を法人の行為と同視することはできないと主張した。 さらに、本件架空仕入計上がされた平成25年11月期は、メンテナンス業務が増大していた時期と重なり、甲が、平成25年11月期の仕入高や買掛金の金額が不自然であると認識することは困難であったこと、本件売上過少計上は、乙が平成25年11月期の本件架空仕入計上とのつじつまを合わせるために実際よりも仕入高を減少させる会計処理が行われたものであること、Bグループの当時の事業規模が年商約200億円であったことからすれば、架空器具備品購入費の3,500万円は高すぎる金額ではなく、本件架空減価償却費計上を発見、阻止することは容易ではなかった。さらに、乙が作成した架空請求書は、C社が立替経費の請求に用いる請求書と同じ書式であったから、日々多数の請求書等を決裁する中で、請求書を偽造であると判別することは容易ではなかったことなどを挙げて、甲による確認行為の懈怠を否定する主張を行った。 4 第1審大阪地方裁判所の判断 (1) 判断の枠組み 大阪地方裁判所は、重加算税制度について、納税者が過少申告をするにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであると定義づけ、最高裁判決を引用する形で、重加算税制度は、納税者自身による隠蔽仮装行為の防止を企図したものと解されるが、納税者以外の者が隠蔽仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の課税が許されないとすると、制度の趣旨及び目的を没却することになると述べた。 そのうえで、納税者である法人において、その従業員が隠蔽仮装行為をして過少申告がされた場合にも、法人は、雇用契約等に基づき、従業員に対して業務全般について広く指揮監督を行う権限を有することに鑑みれば、法人において、従業員に対する指揮監督を通じ、従業員の隠蔽仮装行為を認識し、又は認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、法人において、これを防止せずに隠蔽仮装行為が行われ、過少申告がされたときには、隠蔽仮装行為を納税者本人たる法人の行為と同視することができ、法人に対して重加算税を課することができると解するのが相当であるとする判断の枠組みを示した。 (2) 争点1(本件架空仕入計上を原告の行為と同視することができるか否か) 大阪地方裁判所は、乙による架空仕入の計上について、原告の代表者である甲は、乙による隠蔽仮装・領得行為が行われないように指揮監督の権限を行使すべきところ、これを行使することなく、乙により隠蔽仮装・領得行為が行われ得る状況を放置したものであるが、以下の確認行為を行っていれば、隠蔽仮装・領得行為の一環として行われた架空仕入計上を容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたことから、本件架空仕入計上は、納税者本人たる原告の行為と同視することができ、これを前提としてされた賦課決定処分のうち平成25年11月期に係る部分は、適法であるという判断を示した。 原告代表者である甲が怠った確認行為として、裁判所は次の2点を指摘した。 (3) 争点2(本件売上過少計上及び本件架空減価償却費計上を原告の行為と同視することができるか否か) 大阪地方裁判所は、乙による売上の過少計上及び架空減価償却費の計上についても、争点1における判断と同じく、原告の代表者である甲が、以下の確認行為を行っていれば、隠蔽仮装・領得行為の一環として行われた売上の過少計上及び架空減価償却費の計上を容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたことから、本件売上の過少計上及び架空減価償却費の計上は、納税者本人たる原告の行為と同視することができ、これを前提としてされた賦課決定処分のうち平成26年11月期に係る部分は、適法である判断を示した。 原告代表者である甲が怠った確認行為として、裁判所は次の3点を指摘した。   【控訴審判決の概要】 1 控訴審における控訴人(第一審原告)の補充主張 控訴人は、控訴審では、次のように補充主張を行い、本件に国税通則法68条1項の適用はないと主張した。 2 控訴審大阪高等裁判所の判断 大阪高等裁判所は原判決を支持したうえで、次のように原判決を一部改めるとともに、控訴人の主張について判断を示している。 (1) 乙の業務内容について 裁判所は、架空仕入、売上過少計上及び架空減価償却費計上のそれぞれについて、乙の業務内容と甲による監督義務についての判断を示しているが、ほぼ同様の判断が示されているので、本稿では、架空仕入計上に関する裁判所の判断を示しておきたい。 (2) 控訴人の補充主張について 控訴人の補充主張について、大阪高等裁判所は、次のように判示して、控訴人の主張は採用することができないとしたうえで、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴には理由がないから、これを棄却するという判決を示した。   【解説】 関係会社から派遣されていた従業員が、別の派遣先の預金口座から振込出金できる立場を悪用して、派遣先会社に対する架空請求書を作成して派遣先に対する支払いをさせたうえで、別の派遣先の預金口座から不正に金員を領得した事件において、第一審・控訴審ともに、裁判所は、派遣従業員の隠蔽仮想行為を納税者である法人の行為と同視することができ、重加算税の賦課決定処分は違法ではないという判断を下して、判決が確定した。本判決を通して、改めて、従業員による不正行為と重加算税の関係について考えてみたい。 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)には、従業員による不正行為と重加算税の関係について、次のような見解を示している。 これらの記述は、一部、かな書きと漢字との相違があったり、括弧書きの位置が変わったりしているものの、旧版からずっと踏襲され続けており、金子名誉教授は、従業員の横領などの不正行為により所得が社外に流出している場合には、重加算税の賦課要件を満たさないという見解に立っているように解釈できる。 本件判決は、乙による領得があったにもかかわらず、原告代表者である甲が、従業員の管理監督を怠っていたために、隠蔽・仮装行為に気づくことができなかったことに着目して、従業員の行為を納税者である法人の行為と同視することができることから、重加算税の賦課決定処分は適法であるという判断を示したものであり、とくに控訴審判決は、「乙が隠蔽仮装行為を行ったのが、自己の利益を図るためであった」としても、納税者の行為と同視し得るという判断を示しており、金子名誉教授の見解とは立場を異にしているように思料する。   (了)

#No. 497(掲載号)
#米澤 勝
2022/12/01

〈注記事項から見えた〉減損の深層 【第10回】「タクシー会社が減損に至った経緯」-顧客関連資産減損の読み方-

〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第10回】 「タクシー会社が減損に至った経緯」 -顧客関連資産減損の読み方-   公認会計士 石王丸 周夫   〈はじめに〉 今回は、東京の大手タクシー会社として知られる大和自動車交通の減損事例を取り上げます。減損された資産は顧客関連資産という耳慣れない資産です。顧客関連資産とは何か、なぜ減損に至ったのかということを、この会社の中期経営計画も見ながら探っていきましょう。   〈今回の注記事例〉 (出所:第115期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者 注記からわかるとおり、大和自動車交通は2022年3月期において総額213百万円の減損損失を計上しました。その中に、顧客関連資産という資産の減損が44百万円含まれています。顧客関連資産の減損が発生したのは、この会社のサービス・メンテナンス事業です。まずは当該事業の内容を確認しておきます。 有価証券報告書の「事業の内容」によると、サービス・メンテナンス事業は、清掃、サービス・メンテナンス事業とのことです。当該事業を担う主要な会社は、スリーディとトータルメンテナンスジャパンの2社だといいます。 さらに、有価証券報告書の「重要な会計上の見積り」の注記によると、顧客関連資産の減損が発生したのは、上記2社のうちトータルメンテナンスジャパンの方だとわかります。 (出所:第115期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者   〈顧客関連資産とはなにか、減損の経緯は?〉 では、トータルメンテナンスジャパンに係る顧客関連資産とは何かというと、やはり「重要な会計上の見積り」の注記に説明があります。 (出所:第115期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者 顧客関連資産は、大和自動車交通グループがトータルメンテナンスジャパンを買収した際に計上されたものです。簡単にいうと、買収価額が買収対象会社の資産・負債(顧客関連資産及びのれん認識前の時価)の純額を超過した部分を、顧客関連資産とのれんに計上したということになります。 《顧客関連資産のイメージ》 一般に、顧客関連資産は、顧客リストをはじめとする顧客との取引関係に資産価値を見出して計上するもので、買収対象会社の既存顧客が今後もたらすキャッシュ・フローをベースに算定されます。トータルメンテナンスジャパンの買収でも、買収年度の大和自動車交通の有価証券報告書の「企業結合等関係」の注記に次のような記載があり、顧客関連資産の意味合いは同様とみられます。 (出所:第114期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者 では、当該顧客からの今後の収益をどう見積もっているのかというと、これも「重要な会計上の見積り」の注記に説明があります。 (出所:第115期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者 見積りの主要な仮定は2つあって、売上高の逓減率と割引率だということです。そして、当該注記の別の箇所には次のような記載もあります。 (出所:第115期 有価証券報告書) (※) 下線は筆者 一般に、顧客というのは、営業努力をしなければ時間の経過とともに減少していくと考えられ、既存顧客を獲得した効果を評価する場合、そこから生まれる売上高は逓減していくと仮定します。この点について、大和自動車交通の前年度の有価証券報告書では、毎年5%の減少になるという仮定を置いていましたが、減損実施年度において、この前提が崩れたようです。 以上から、大和自動車交通は、トータルメンテナンスジャパンの買収によりゴルフ場のクラブハウス及びオフィスビルの清掃・メンテナンスに係る収益を見込んだが、当該事業の事業計画の見直しを迫られ、顧客関連資産の減損に至ったというわけです。   〈買収は失敗ではなかった?〉 買収の翌年度に、買収した事業に係る顧客関連資産等の減損を実施しなければならないというのは、結果だけを見れば、その買収は失敗だったということになります。 しかし、必ずしも断定はできません。次のような資料があるからです。2022年3月期決算が確定する直前である2022年3月30日に公表された、大和自動車交通の中期経営計画です。 「中期経営計画2024(2022年度-2024年度)」では、その前提となる長期ビジョンとして、「生活様式の変化」という経営環境の変化に着目しています。どのような変化かというと、人々の移動ニーズはコロナ禍前の水準には戻らないとしているのです。具体的には、「ビジネス需要の減少」と「会食等の減少」だといいます。 たとえば、会議のオンライン化でしょうか。 コロナ禍前は、会議のメンバーのうち社外の人たち(たとえば社外取締役等)については、会議に出席するためにタクシーに乗ってくることも多かったと思います。しかし現在では、オンライン化により開催地に足を運ぶ必要はなく、タクシーの利用機会は減りました。 会議というのは、出席者同士が積極的に意見交換するようなものもありますが、情報共有と定例的な確認のために開催されているものも多く、出席者の中には傍聴するだけの人もいます。そうであるならば、なにも顔を合わせる必要はなく、オンライン会議で十分です。おそらく、多くの会議でコロナ終息後もオンライン形態が続くものと考えられます。 このような前提の下、大和自動車交通はいくつかの取組みテーマを示しています。その1つとして、「新規ニーズの獲得と周辺事業の強化」というのがあります。トータルメンテナンスジャパンの担っている事業はまさしくこれに該当し、大和自動車交通グループの事業領域の拡大につながると位置づけられているのです。 つまり、大和自動車交通は、トータルメンテナンスジャパンの顧客関連資産について減損損失を計上したものの、グループ経営上、この事業に収益源泉の分散という重要な役割を期待しているとみられるのです。 新型コロナウイルス感染拡大は、リモートワークという新たな勤務形態を一定程度定着させました。こうした経営環境の変化に際して、将来の減損処理を危惧して買収を躊躇するのではなく、積極的に事業領域を拡大してリスク分散を図ったというのが、今回の事例の1つの見方です。大和自動車交通がトータルメンテナンスジャパンを買収したのが、新型コロナウイルス感染拡大後の2020年10月であることを考えると、その解釈は成立しそうです。しかし、買収の翌年度に事業計画が悪化して減損に至ったことも事実です。会計的には、決算書上における買収の効果が過大にならないように、減損処理により適正化したという意味合いがあります。経営の実態をどう読むかは難しいといえます。 (了)

#No. 497(掲載号)
#石王丸 周夫
2022/12/01

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第4回】「ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引」

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第4回】 「ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   【第3回】では、リース取引の流れについて整理しました。リース契約を締結すると、今後、リース会社と取引が発生し会計処理を行います。どのような会計処理を行うか、その判断に必要になってくるのが、リース取引の判定です。   1 リース取引の全体像 まずは、リース取引の全体像をみていきましょう。リース取引には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引があり、オペレーティング・リース取引はファイナンス・リース取引以外の取引と定義されています。また、ファイナンス・リース取引には、所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引があります。 今回は、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の判定について、ファイナンス・リース取引の定義、ファイナンス・リース取引の条件をみていきます。   2 ファイナンス・リース取引の定義 企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第5項では、ファイナンス・リース取引を次のとおり定義しています(下線筆者)。 長い文章ですが、簡単にすると、以下2つの条件をどちらも満たすことでファイナンス・リース取引と判定します。   3 ファイナンス・リース取引の条件 次に、上記2つの条件について、具体的にみていきましょう。 ① リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずる取引(中途解約不能) 「リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引」は、契約書上にリース期間中に解約することができないと明記されている場合です。また、「これに準ずる取引」は、契約書上はリース期間中に解約可能であっても事実上解約できないと考えられる契約のことを指します。具体的には、以下のような場合です。 つまり、リース期間中に解約できたとしても、上記2つのような場合は、多額の規定損害金を支払うこととなるため事実上解約できず、中途解約不能といえるでしょう。 ② 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト) 「借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ」るとは、リース物件を使用することで得られる利益をほとんどすべて得られるということです。また、「当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する」とは、リース物件を使用する場合にかかってくるコスト(リース物件の取得価額相当額、維持管理費用等)のほとんどすべてを負担することをいいます。 つまり、リース物件を使用する場合にかかってくるほとんどすべてのコストを負担する代わりに、リース物件を使用することで得られる利益ほとんどすべてを得られる場合、この条件を満たします。すなわち、物件を購入した場合と、変わらない実態といえるでしょう。この条件を満たすリース取引は、フルペイアウトのリース取引といわれます。 では、フルペイアウトのリース取引かどうかは具体的にどのように判断されるのでしょうか。以下2つの判断方法があります。   4 ファイナンス・リース取引:フルペイアウトの判断基準 ① リース料総額で判断する場合(現在価値基準) これは、解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値と、リース物件を仮に購入した場合に支払う金額を比較する方法です。つまり、リース契約でも、物件を購入した場合と変わらないコストを支払っている場合はフルペイアウトと判断されます。 具体的には、解約不能のリース期間中のリース料総額は、毎月支払うリース料を単純に合計したものには、リース会社に支払う利息が含まれています。そのため、リース料総額からリース会社に支払う利息部分を除いた価値(リース料総額の現在価値)と仮に購入する場合に支払う金額を比較し、リース料総額の現在価値が仮に購入する場合に支払う金額の90%以上である場合は、フルペイアウトのリース取引と判断します。購入する場合に支払う金額を「見積購入価額」、リース料総額で判断する方法を「現在価値基準」と呼んでいます。 ② リース期間で判断する場合(経済的耐用年数基準) これは、解約不能のリース期間とリース物件の経済的耐用年数を比較する方法です。つまり、経済的耐用年数(使用可能な期間)のほとんどすべての期間にわたり、リース物件を使用している場合はフルペイアウトと判断されます。 具体的には、解約不能のリース期間がリース物件の経済的耐用年数の75%以上である場合は、フルペイアウトと判断します。リース期間で判断する方法を「経済的耐用年数基準」と呼んでいます。 このように、フルペイアウトのリース取引かどうかの判断には2つの基準が設けられていますが、原則は①現在価値基準で判断します。ただ、現在価値基準を計算することが実務上は大変なので、②経済的耐用年数基準も設けられています。 *  *  * 今回は、ファイナンス・リース取引の判定基準についてみてきましたが、少しややこしく感じたかもしれません。 最後にまとめると、「中途解約不能」かつ「フルペイアウトのリース取引」をファイナンス・リース取引といい、「中途解約不能」と「フルペイアウトのリース取引」のどちらか一方でも満たさない取引はオペレーティング・リース取引と判定します。 また、前述のとおり「フルペイアウトのリース取引」の判断基準には、「現在価値基準」と「経済的耐用年数基準」があります。以上を下図にまとめましたので参考にしてみてください。 (了)

#No. 497(掲載号)
#喜多 弘美
2022/12/01

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第33回】「M&A後にできる買い手の努力」~工夫して売り手を補い、M&A後の成長を目指す~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第33回】 「M&A後にできる買い手の努力」 ~工夫して売り手を補い、M&A後の成長を目指す~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&A後に買い手の力でM&Aを成功に導くためのヒントを得る。 売り手企業 ⇒買い手にM&A後の経営を託せるのかを考えるヒントにする。 支援機関(第三者) ⇒M&A後に期待できる買い手の努力を踏まえて、M&Aの助言に役立てる。 その他の対象者 ⇒M&A後の買い手に期待できるポイントを理解する。   1 妥協を成長に変えるための買い手の工夫 中小企業のM&Aにおいて、満足、納得のいくM&Aはどれほど実現するでしょうか。そのような声を拾う場は多くないのではっきりとしたことはわかりませんが、買い手を例にとると、おそらくは相当のケースで、コスト面にせよ、条件面にせよ、意思決定には妥協を伴って、場合によっては妥協に妥協を重ねて、それでも何とかなるさと前向きに捉えてM&Aをするケースは少なくないように思います。 M&Aの買い手にとって、理想的な相手を探すのは不可能とはいいませんが、その労力と時間をかけられる余力のある企業はそう多くないでしょうし、良い条件で交渉できる企業は、規模が大きく、潤沢な資金を用意できるような、最初から良い買い手であることが多いものです。つまり、一般的な中小企業は、M&Aの買い手になっても、ある程度相手の条件を呑むか、買い手の望むすべての条件が叶うことはないと割り切って、M&A後に買い手自身の努力で売り手を補い、フォローしながら、M&A後の成長を目指すことになります。 しかし、だからといって、理想的な相手の不存在を嘆くのでなく、M&Aを断念しない代わりに、妥協を成長に変えるために工夫できる余地もあると考えられます。今回は、そのようなケースにおけるヒントやポイントを紹介します。   2 売り手に不足するリソースを買い手が用意する (1) 売り手に不足する経営資源探し 売り手だけの力ではM&A後の自力成長が見込めない理由はM&Aのケースの数だけ存在します。そのため、網羅できるわけではありませんが、以下のうち何かの要素は売り手に欠けているはずです。 このとき、買い手がM&A後にするべきことは、売り手に不足するリソースを買い手自身が用意すること、言い換えれば、買い手自身が売り手のリソースの一部になり、ファンクションの1つとして活動することです。いわば、売り手の組織図の中に「買い手部買い手課」という部署を置くかのごとく部門として機能すれば、売り手になかったか、欠けていた組織の一部が満たされ、不足するパーツが埋まっていきます。 売り手に欠けたピースを埋める作業を買い手が用意する準備に向けて、M&Aの段階では、売り手に不足する経営資源を探し、把握して、買い手がそのうちの何を提供できるかを考え、買い手と売り手を合わせた経営資源によって、M&Aの後にどの程度売り手の成長を導いてあげられるかを熟考します。その勝算があれば、妥協型のM&Aであっても成り立つ可能性がアップするはずです。 (2) 買い手の機能化 買い手の支援といってもよいのかもしれませんが、敢えてそう言わずに買い手の「機能」化としたのは、「支援」では他人事で終わってしまうからです。コンサルティングでは頻繁に支援という言葉が使われますが、結局のところ他人だからいつでも見捨てることができ、当事者であるようで当事者ではないから支援止まりなのだと思います。もちろん、第三者だからズバズバと物言いができるなどの利点もありますが、買い手と売り手のような逃げられない関係ではありません。 実務上は買い手も支援気分でいるケースが多いように記憶しますが、売り手の一部として機能しなくては、売り手を補うことは到底かないません。だからこその「機能」化が必要だと考えられます。 売り手が小規模企業であるとの想定の下、買い手が代わることのできる機能、関わることのできる機能の一例をセクションごとに以下のとおり挙げました。 ① 経営者 経営者たる存在が売り手にいないか不足していれば、自らがなるしか選択肢はありません。経営者は兼業で務まるほど甘いものではありませんから、買い手にとって一時とはいえ人材の放出は痛いでしょうが、経営ポジションを経験させるための人材育成と捉えれば、買い手・売り手双方の環境を活かした人事異動になるわけですので、良き事と捉えてもいいはずです。 手段が派遣、出向の形をとろうが、売り手の中に将来の経営者になりえる人材がいたとして、その人材を育成する立場で関わろうが、機会を活かせば買い手、売り手にとって損な話ではありません。 ② 直接部門 本稿では、営業、製造などの部門を直接部門、経理などの部門を間接部門として説明します。直接部門は挙げた部門以外にもありますが、便宜上、営業と製造だけをピックアップして考えるだけでも、買い手にできる関わり方が複数あるのがわかります。 売り手の相当数は販路に苦しんでいます。ですから、買い手の取引先の一部でも紹介があれば、あるいは、同行訪問などで売り手の既存得意先や仕入先との交渉に買い手も加わってくれれば心強いです。 同業であれば買い手のノウハウをもって直接の技術指導で売り手の技術力を伸ばすのが可能ですし、資金があれば設備投資、研究開発で貢献するのも可能です。資金がなくても諦めるのではなく、設備の貸与、共同研究開発で買い手のリソースをそのまま活用できる道を模索することだってできます。 また、グループ全体の決算を考えれば、例として挙げた共同仕入だけでなく、かなりの重なる分野で協力できる業務が多いのではないでしょうか。その結果、全体のコスト削減、高効率、生産性向上、高収益化に少しでも近づけられる可能性が高まります。 ③ 間接部門 総務、人事、財務、経営企画、法務が存在するほど大きくない企業でも経理機能はあるはずです。買い手が代わりに行う手段として、機能を買い手自身が担う方法、つまり代行が考えられます。アウトソーシング、シェアードサービスの形式面にはこだわらず、売り手の業務を受託することで売り手の負担軽減に繋げ、買い手の持っているスキルによってレベルアップを図れれば、グループの価値も向上します。 買い手にノウハウやスキルを持っていかれるのがまずいようであれば、売り手自身で仕組みを回せるように買い手が指導する立場を担うのも考えられます。間接部門には毎月、毎年行う定型的な業務もありますので、いったん対応できれば買い手の手を離れやすい項目も多数存在します。 ④ 取引先、金融機関 中小企業のM&Aの場合、売り手に欠けていそうな要素の1つに、外部に対する信用があります。商売自体の信用がないわけではありませんが、規模、商材、業績などの諸要素を総合すると、取引上の与信が十分でないケースは多いです。 そこで、買い手が加わることで売り手の与信不足を補えれば、売り手の商売の幅が広がるきっかけがつくれます。具体的には、取引保証、債務保証、保証金の差し入れなどが考えられ、いずれも買い手が何らかのリスク、負担を負う形にはなりますが、いつか保証が外れ、バックアップが不要になる日を目指して売り手を成功に導くのも買い手の役割、責任の1つです。 以上は、簡単な組織図を用いた例示ですが、個々のケースにおいて、売り手のリソース不足を考慮すれば、いくらでも買い手にできる策はあります。始めから何でも揃っている会社を買うという点にこだわらずに、買い手がいくらでも工夫すればいいではないかと考えられるなら、買い手にとって売り手の選択肢の幅は広がり、M&Aを通じて買い手の向上、成長機会を見いだせる道も見つかるはずです。 (了)

#No. 497(掲載号)
#荻窪 輝明
2022/12/01
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