第三者行為災害による自動車事故と企業対応策 【第5回】 (最終回) 「実務上のポイントQ&A(後半)」 社会保険労務士 井下 英誉 はじめに 第5回は、前回に引き続き第1回から第3回まで解説した内容を踏まえた実務上のポイントについてQ&Aを用いて解説する。 (連載了)
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第1話】 「定期異動」 税理士 堀内 章典 税務署に定期異動の日がやってきた。 毎年7月10日に行われる定期異動は、国税の年中行事で税務署によっても異なるが、例年3割程度の職員が異動するのが通例である。 平均すると、職員一人がひとつの署に在籍するのは3年、ということになる。 今年の東上野税務署の定期異動は職員210名のうち74名。74名とは東上野署から国税局や他の税務署に異動する人の数であり、多楠調査官のように、署内の法人課税第1部門から法人課税第5部門に異動する人は含まれない。 昨年私立大学を卒業し、国税専門官で国税局に採用された多楠は、3ヶ月の税務大学校和光校舎での研修を経て、昨年7月、東上野署に配属された。24歳、褐色の肌、身長175㎝、幼いころから水泳で鍛えた体育会系の青年である。 1年間は法人課税第1部門において、会社税務である法人税、消費税、源泉所得税などの内部事務を担当、縁の下の力持ち的な仕事を経験した。 そして今年は晴れて念願の調査部門への配属になった。 定期異動の数日前、法人担当副署長の安倍から法人課税第5部門に配属されるとの内示を受けた。 ▼ ▲ ▼ 多楠には、5部門の中で気になっている先輩調査官がいた。 その調査官の名は、新田。 法人課税全部門は同じフロアにあるため、新田調査官と上司の田村統括官が勤務時間中よく大きな声を張り上げてやりあっている姿をこの1年間、多楠はよく目にした。 この新田と田村が5部門メンバーの残留組であった。 田村と多楠は内部事務の関係で会話をする機会が多かった。定年まであとわずかと聞いている田村統括官は小太りで人当たりが良く、多楠にも気さくに声をかけるなど、多楠は田村が直属の自分の上司になることで安心していた。 一方、気になるのは新田である。 小柄で細身、眼光がやたら鋭く、1部門の先輩から聞いたところによると、自分より8歳年上32歳。 多楠は、新田とは普段からあいさつを交わす程度。しかも、あいさつをしても、いつも面白くなさそうにソッポを向きながらあいさつを返す新田に対して、多楠は良い印象を持つことができなかった。 副署長から内示を聞いた多楠は、そのあとこっそり5部門へ、同じ部門になったということであいさつに行った。 田村はいつもどおりの笑顔で、 「期待しているよ、多楠君。頑張ってね。君は若手でウチの署のホープだからね。」 と言葉をかけられた。 一方の新田は 「・・・・・。」 いかにも関心がないといった感じで、軽くうなずく程度であった。 多楠は気が重くなった。 ▼ ▲ ▼ さらに追い打ちをかけるような出来事があった。 異動日当日、5部門の自席に座った多楠を見るなり、すかさず田村がいつもの笑顔で多楠を呼んだ。しかも新田にも声をかけた。 さっそく何事かと思って田村のデスク前に立った多楠と新田に対し、田村が改まった声で 「多楠君、君は専科生(国税専門官のこと)で去年税務署に配属なったばかりだから、会社の調査は初めてだよね。調査1年目の調査官には必ず指導育成する先輩調査官を付けることになっている。 その指導役を新田調査官にお願いすることになった。 新田君はこの署に来る前、築地税務署で特別調査部門に所属していて、だいぶん事績を挙げた人だから、新田君に調査を教わればいろいろ勉強になると思うよ。」 「新田調査官、そんなわけで多楠君の面倒を見てあげて。」 新田はいつもどおり無表情のまま 「で、いつまで指導すればいいんですか。」 いかにもやりたくないという質問のように多楠は感じ取れた。 田村 「副署長からは特に言われなかったが、とりあえず半年間、今年の12月までかな。 いずれにしても新田君、よろしくね。 多楠君、いろいろと教わるといいよ。良い機会だから。」 “確かに新田調査官は田村統括官が言うように、頭が切れて調査ができそうだ。”でも、自分に対する冷たい態度、変人のような振る舞いの新田と半年間も付き合わなければいけないのかと思うと、さらに落ち込み、この先が不安になる多楠であった。 (続く)
株式会社プロフェッションネットワーク主催の笹岡宏保氏セミナー「【裁決事例から学ぶ】相続(贈与)税、財産評価に関する実務重要事項の確認」の開催が、11月3日(祝・月)とせまってまいりました。 お申込みは、11月2日(日)17時まで受け付けておりますが、銀行振込をご利用の場合、お申込み・入金期限は 10月30日(木)までとなりますので、ご注意ください。 ※このセミナーのお申し込みは終了しました。 セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 「企業会計審議会総会」が開催(10/28) ~IFRS任意適用拡大の取組み強化に向け「会計部会」の設置を提示~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年10月28日、企業会計審議会総会が開催され、「国際会計基準をめぐる最近の対応及び審議会の今後の運営」について協議が行われた。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計部会の設置 企業会計審議会に「会計部会」を設置し、次の事項を審議する案が提示された。 会計部会の設置に伴い、従来の企画調整部会は廃止されることとなる。 このため、企業会計審議会の組織図は次のようになる。 (出所:企業会計審議会の組織(案)) Ⅲ IFRSをめぐる最近の対応 金融庁と企業会計基準委員会から、「国際会計基準をめぐる最近の対応」が説明されている。 金融庁による資料(「国際会計基準をめぐる最近の対応」(資料1))では、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」、IFRS任意適用要件の緩和、「修正国際基準」の公開草案の公表、ASBJによる国際的な意見発信の取組み、IFRS任意適用会社(適用予定会社を含む)などが述べられている。 「IFRS任意適用会社(適用予定会社を含む)」では、2014年10月9日時点で、48社の任意適用会社が紹介されている。 内訳は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 改正金商法を受け 「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」等の改正公開草案が公表 ~「買付け等の通知書」における押印の不要化など~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年10月27日、 金融庁は「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」等の改正案(公開草案)を公表した。 「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」、「発行者による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令」など多くの内閣府令等が改正される予定である。 意見募集は、平成26年11月27日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令及び発行者による上場株券等の公開買付けの開示について 次の改正が提案されている。 ②及び③は、発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令のみである。 Ⅲ 株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令について 大量保有報告書等の提出者が個人である場合には、当局に対して「番地」及び「生年月日」を記載した書面を提出することを条件に、大量保有報告書等におけるこれらの記載を不要とする。 Ⅳ 適用時期 金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号)の施行の日(公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日)から施行する予定である。 ただし、「金融商品取引法第6章の2の規定による課徴金に関する内閣府令」については、本件に係る内閣府令の公布の日から施行する予定である。 (了)
《速報解説》 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」等が確定 ~プリンシプル・ベースのアプローチを整備。ライツ・オファリングの規制を強化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 日本取引所自主規制法人と東京証券取引所から、それぞれ次のものが公表されている。 これにより、公開草案(平成26年8月26日付け及び平成26年9月3日付けで意見募集)が確定することになる。 ①「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」は、プリンシプル・ベースのアプローチの考え方を基礎にして、尊重されるべき原理・原則(プリンシプル)を「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」として取りまとめている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」 1 基本的な認識 次の問題意識がある。 そこで、ルール・ベースのアプローチに加え、プリンシプル・ベースのアプローチを組み合わせることが有効であると考えられた。 プリンシプル・ベースのアプローチとは、上場会社や市場関係者が、尊重すべき重要な規範や行動原則(プリンシプル)を確認し、互いに共有したうえで、各自がそのプリンシプルに沿って行動することを通じて、市場全体の質的向上の実現を目指す取組みである(「エクイティ・ファイナンスの品質向上に向けて」2ページ)。 日本取引所自主規制法人は、プリンシプルを浸透させるために、今後、事例解説集の発刊、セミナー、寄稿等による解説などの活動を予定しているとのことである。 2 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」 エクイティ・ファイナンスのプリンシプルとして、次の事項が述べられている。 より詳細な部分の記述に関しては「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」を、ぜひ、お読みいただきたい。 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」(案)に寄せられたコメントに対して日本取引所自主規制法人の考え方が示されている。 公開草案から一部修正が行われている部分があること、また、寄せられたコメントのうち現行のルールですでに対応しているものであることなどが述べられている。 Ⅲ 「新株予約権証券の上場制度の見直しについて」 ライツ・オファリングについては、業績が悪く公募や第三者割当等での資本調達が困難な会社が、最後に残された手段として利用しているとの懸念があるなど、問題が指摘されている。 「『新株予約権証券の上場制度の見直しについて』に寄せられたパブリック・コメントの結果について」において、寄せられたコメントとそれに対する東京証券取引所の考え方が示されている。 東京証券取引所は、「改正概要」として次のことを示している。 (出所:新株予約権証券の上場制度の見直しに係る取引参加者規程等の一部改正について) Ⅳ 適用時期 「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」は、平成26年10月1日付で確定している。 「新株予約権証券の上場制度の見直しに係る取引参加者規程等の一部改正について」は、平成26年10月31日から施行される。ただし、【改正の概要】の2の「新株予約権証券の上場日は、行使期間の初日以降の日とします。」との規定については、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行の日から実施される。 (了)
《速報解説》 女性の登用等の記載義務付けに関する「開示府令の一部改正」が公布 ~平成27年3月31日以後終了事業年度の有価証券報告書等から適用~ 大阪経済大学教授 小谷 融 Ⅰ 改正された内閣府令 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第70号)が、平成26年10月23日に公布され、平成27年3月31日から施行される。 Ⅱ 主な改正内容 有価証券届出書および有価証券報告書の【役員の状況】欄においては、様式に、役員ごとの「役名」・「職名」・「氏名」・「生年月日」・「略歴」・「任期」・「所有株式数」を記載することになっている。 改正開示府令では、下表に示すとおり、その様式の欄外に が設けられ、「役員の男女別人数を記載するとともに、役員のうち女性の比率を括弧内に記載する」こととされた。 〈表〉 開示府令第2号様式(有価証券届出書)第二部第4【提出会社の状況】 なお、パブリックコメントに対する金融庁の考え方によると、次のことが明らかにされている。 また、四半期報告書および半期報告書については、【役員の状況】欄に異動後の役員の男女別人数を記載するとともに、役員のうち女性の比率を括弧内に記載することが追加されている。 この際、「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」によると、【役員の状況】欄に役員の男女別人数および女性の比率に変化のない役職の異動のみを記載する場合には、異動後の役員の男女別人数および女性比率を記載する必要はないとしている。 Ⅲ 適用時期 改正後の規定は、平成27年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書およびその事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。 具体的には次のとおり。 (了)
2014年10月23日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.91 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第4回】 「法人税率引下げの財源課税」 税理士 山本 守之 季節が秋になると、そろそろ平成27年度の税制改正が話題になります。 そのうち一番大きな問題は、法人税率の引下げとその財源としての税制改正案です。 安倍首相が記者会見で述べたのは「われわれが目指しているのはまずドイツだ」ということですから、現在の法人税実効税率35.64%を数年でドイツの全国平均29.59%に下げるということでしょう。 財源については決定権を持っている自民党税制調査会の案が決まっていませんが、政府税制調査会の法人課税ディスカッショングループ(座長大田弘子氏)の案は発表されており、その内容は次のとおりです。 (1) 租税特別措置 租税特別措置は次の3つの基準で見直すことになっています。 これらは筆者としては賛成ですが、政治家が中心の党税制調査会で実行できるのでしょうか。それでも設備投資や雇用促進税制の廃止で5,000億円の増収を見込んでいます(経済産業省では1兆5,000億円)。 (2) 欠損金の繰越控除 法人税の理論からすれば、欠損金の繰越控除は無期限で行うのが正しく、イギリス、ドイツ、フランスは無期限で、アメリカは20年です。 これは、黒字の時だけツマミ食い的に課税し、欠損金を控除しなければ、企業の資本が維持できないからです。ただ、欠損金に手を付けるのが一番安易な財源調達方法ですから、課税当局が目を付けます。税制調査会のディスカッショングループ(DG)では、 としており、控除期間を延ばした上で控除額を6割程度とし、3,000億円~3,500億円の税収を見込んでいます。 (3) 減価償却 減価償却の方法では定率法を廃止し、定額法に限定することにより4,500億円の財源を確保する予定です。 定率法に限定する理由について税制調査会のDGでは、 としていますが、実務家からみれば、定率法も定額法もそれぞれの理論を持っており、その方法は企業の選択に委ねているのですが、学者を中心とする政府税制調査会の説明は納得いきません。 実は、この方法は2008年の税制改正でドイツが採った方法ですが、当時、筆者はドイツの首相府のMichael Sell氏(首相府経済総局次長)に「理論的に定率法よりも定額法の方が正しいのか」と質問したところ「法人税率引下げの財源として金が欲しいからで、定率法と定額法はいずれが理論的に正しいとはいえない」と正直に答えてくれました。 税制調査会委員もドイツへ行ってもっと勉強してほしいと思っています。 政府税制調査会の学者委員に聞きたいのは、大学に戻っても学生に「定率法は所得操作のために選択する」と教えるのでしょうか。技術革新が激しい機械を導入した際には、投資を早期に回収するために企業が定率法を選択することをどのように説明するのでしょうか。 なお、財務省では、減価償却を定額法に限定するのは第二段階である2017年から適用することを考えているようです。 (注) 中小企業課税の見直しとアベノミクスの廃止も2017年からとなるでしょう。 (4) 受取配当等益金不算入 受取配当金を益金不算入としていたのは、次の2つの理由からだと説明されていました。 ただ、実際には、法人の受け取る配当等については、持分割合が25%以上の株式の配当等の場合はその全額を、25%未満の場合はその50%を益金不算入としています。 政府税制調査会では、 としています。 現実には、企業の持株の目的を「企業支配か」「資産運用か」で区分することは難しいのですが、持株割合に応じて、益金不算入とするものを決めることになるでしょう。 (5) 地方税の損金算入 わが国の法人税では、法人の納付する法人事業税や固定資産税等は、所得(利益)から納付する法人税や法人住民税とは異なり、事業に関連して発生する税であることから費用性があるものと認められ、税負担額が損金に算入されています。 しかし、2008年のドイツの税制改正では、営業税(日本の事業税)は損金不算入とされました。これに対して日本の政府税制調査会では、 としていますが、理由は明確ではありません。 それぞれの税の損金性については、税の性格、目的、任意性などによって定められるものです。しかし、法人税率引下げの財源として政府の都合がよい理論を構築するのは考えものです。 もっと正直に「税率引下げ」のために財源として金が欲しいと正直に言った方がよいでしょう。 (6) 中小法人課税 「中小法人」は、法人税法上資本金1億円以下の企業とされており、税率のほか各種の優遇措置が適用されています。しかし、所得金額を基準としていないので、会計検査院から「多額の所得を得ながら中小企業向け優遇税制を受けている企業が存在する」と批判されているので、この基準を変えようとしています。 しかし、日本で法人成りが不必要に多いのは法人を優遇し、個人に負担を求めているからですから、これも含めて見直すべきでしょう。 (7) 公益法人課税 政府税制調査会では、公益法人は次の3点の優遇をしているとしています。 しかし、政府税制調査会のDGでは、公益事業を経営形態だけで定義することに問題があるとし、 としています。問題なのは、収益事業について、 としていることです。 この見直しが、「課税要件明確主義」に反する執行にならないことを願っています。 (8) 地方法人課税 政府税制調査会では、地方法人課税については、次のように述べています。 ここでは、中小法人(資本金1億円以下)にも、法人事業税の付加価値割を導入すべきと言うのです。 しかし、中小企業団体からは「中小企業に応能課税の原則(税を納める能力に応じて課税すること)を適用しないのは問題だ」という批判が出ています。 なお、財務省によると、次の2段階で改正することを考えているようです。 (了)
法人税改革における『減価償却方法の見直し』が 企業経営へ与える影響 【第2回】 「減価償却の金融効果」 税理士 小谷 羊太 前回は「減価償却費の償却方法と課税の公平」として検討したが、今回は「減価償却の金融効果」という視点で、この減価償却制度の見直しが実現した場合の影響について検討する。 ◆減価償却費の計上と金融効果 減価償却の手続きは、単なる費用の計上と考えてはいけない。 減価償却費の計上は、会社にとっては最重要課題でもある金融効果が含まれている。 ここで詳しいことを述べると論点がズレてしまうため、極力簡単に説明する。 ◆取得時には資金が流出する 減価償却資産を購入した際には、資産を取得するために金銭的な資金の流出がある。 その後、減価償却費の計上をするということは、つまり、金銭的な資金の流出を伴わない費用の計上となるため、その減価償却費部分の金額に相当する現金が会社に残る結果となる。 ◆減価償却費は現金を残す 例えば、次の取引のみの会社があった場合には、売上1,000円に対する費用は、減価償却費の300円とその他経費の700円となり、利益は0円となる。 そして、現金の流れのみを追っていくと、「1,000円-700円=300円」。 減価償却費として計上した費用の300円は、現金支出が伴わないのに計上された費用であるために、利益が0円であるにもかかわらず、300円の現金が残るのである。 ◆減価償却の手続きは資金プールの手続き つまり、減価償却資産における減価償却費の計上は、最初に資産を購入したときに支出した現金をその後の減価償却を通じて回収する効果(金融効果)があり、その減価償却費として計上した金額に相当する現金を会社にプールしておくことにより、取得価額の全額について減価償却費の計上が終了したあかつきには、新しい資産の購入資金が会社に確保されていることとなる。 会社はこの金融効果を計算に入れながら、いずれ入れ替えるべき資産の購入資金を確保するために、その資産の減価償却費を計上する必要があるのである。 ◆定額法の選択により購入資金が用意できない状態となる ここで、定額法による毎期一定額の減価償却費の計上を強要された会社が、法定耐用年数の経過を待たずして新しい資産を購入する、ということがどういうことなのかを想定すると、結論を言ってしまえば、金融効果以上の資金がなければ、新しい資産の購入は実現できないこととなる。 つまり、前回に述べた「使用する機器が古いために同業との競合に敗れ、淘汰される会社が増える」という危険性は、十分に考えられる事態となるのである。 ◆早期償却は景気対策に寄与している 定率法による償却や特別償却の措置により早期償却を実現させようとする国の政策は、実はこういった金融効果を期待することにより、企業に対して早期の特定設備の買換えを助長したり、日本経済の活性化を促すための景気対策の一環に寄与する税制となっていることは忘れてはならない。 ◆償却費が減少すると利益は増加する 減価償却方法が定額法のみになると、会社の減価償却費は一定額となり、新しい設備を導入した会社は、定率法を選択した場合と比較して、初期段階における減価償却費の費用計上額は減ることとなり、その分利益が上昇する。 ◆減価償却費の減少は企業の空洞化につながる しかし、この減価償却費の減少は同時に、企業のキャッシュフローの側面においても、プールできる資金が減少する結果となり、「利益は出てるが金は無し」という企業実態の空洞化を促進することとなる。 ◆改革によるこの先10年の見通し 改正から1~2年後においては、適用を受ける企業の利益は一旦底上げされるが、その後2~3年中には企業実態の空洞化が問題になることが想定される。 しかし、その空洞化や新設備の導入資金の確保に耐えきれないような力のない会社や形だけの節税会社は徐々に淘汰され、その後においては、法定耐用年数の整備や真に必要とされるべき内容の特別償却制度の実施により、その問題はすぐにでも平準化されるであろう。 長い目で日本経済をみた場合には、6~7年後を見据えた上で、それほど大げさに日本経済が揺らぐような改革ではないことは明らかである。 今回の減価償却の改革については、税制調査会での話し合いを読む限りでは、最もらしい理由をかかげているように見えて、いささかトンチンカンな理論付けとしか思えないものもあるが、その本心が東京オリンピックを見据えたうえでの税制のグローバル化を意識した改革であり、かつ、それまでにおける膿だし(淘汰されるべき企業の淘汰)の効果を期待するものなのであれば、それは現在の日本経済に必要な、的を射た鋭い改革なのではなかろうかとも思う。 (連載了)