-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第21回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い⑥」 ~子会社への投資に係る一時差異 公認会計士 阿部 光成 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、子会社への投資に係る一時差異について規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 子会社への投資に係る一時差異 1 投資時の一時差異 子会社へ投資を行ったときには、投資の取得価額と投資の連結貸借対照表上の価額(子会社資本の親会社持分額と資産の部に計上されたのれんとの合計額)とは一致し、親会社にとって投資に係る一時差異は生じないことになる(次図参照。連結税効果実務指針29項、53項)。 2 投資後の一時差異 投資後、子会社では損益が計上され、また、為替換算調整勘定及びのれんの償却等により、投資の連結貸借対照表上の価額が変動することになる。 その結果、子会社への投資の連結貸借対照表上の価額と、親会社の個別貸借対照表上の投資簿価との間に差額が生ずる。当該差額が連結財務諸表固有の一時差異に該当する(連結税効果実務指針29項)。 この関係を図解すると、次のようになる(連結税効果実務指針53項)。 Ⅱ 将来減算一時差異と将来加算一時差異 1 将来減算一時差異 子会社への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回るときは、将来減算一時差異が生ずる。 投資に係る将来減算一時差異は、投資後に子会社が計上した損失の親会社持分額、為替換算調整勘定及びのれんの償却額からなる(連結税効果実務指針31項)。 2 将来加算一時差異 子会社への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を上回るときは、将来加算一時差異が生ずる。 投資に係る将来加算一時差異は、投資後に増加した子会社の留保利益(親会社持分に限る)、為替換算調整勘定又は負ののれんの償却もしくは発生益からなる(連結税効果実務指針33項)。 Ⅲ 一時差異の解消 子会社への投資に係る一時差異は、次の事由により解消する(連結税効果実務指針30項)。解消時に、親会社において税金を増額又は減額する効果が生ずる。 次の規定に留意が必要である(連結税効果実務指針30項)。 子会社への投資に係る一時差異については、それぞれ該当する解消事由ごとに親会社において税効果額を見積もり、連結税効果実務指針29項から38-3項に従って繰延税金資産及び繰延税金負債としての計上の可否及び計上額を決めることになる。 (了)
年金制度をめぐる 最新の法改正と留意点 【第1回】 「第3号被保険者不整合期間の対応(その1)」 ~不整合期間の特定期間化~ 特定社会保険労務士 佐竹 康男 はじめに(改正の背景) 国民年金の年金記録において、実態は第1号被保険者であったにもかかわらず、第3号被保険者のままとなっている記録(以下「不整合記録」といい、その記録に関する期間を「不整合期間」という)の問題への対応策として、不整合期間に係る特例等を定めた「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第63号)が、平成25年6月26日に公布され、平成25年7月1日から施行されている。 1 第3号被保険者とその認定 第3号被保険者とは、第2号被保険者の配偶者であって、主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの(第2号被保険者であるものを除く。「被扶養配偶者」という)のうち20歳以上60歳未満の人をいう(下図参照)。 その認定は日本年金機構によって行われるが、具体的には、年収が130万円未満であることなど、健康保険の被扶養者(配偶者)と同様の認定基準が定められている。 2 種別変更漏れ (1) 種別変更届漏れ 国民年金の種別(第1号被保険者、第2号被保険者及び第3号被保険者)に変更があった場合には、種別変更届が必要になる。例えば、サラリ-マンの夫が退職して自営業者になった場合は、夫は2号から1号へ、妻は3号から1号への種別変更届が必要になる。 ところが、この種別の変更の届出をせず、3号のまま記録されている人が数十万人いると言われている。 ◎届出漏れの具体例◎ 〈法定どおりの取扱い〉 〈問題となっているケ-ス〉 種別変更の届出が行われていないと、夫の転職後も妻は第3号被保険者のままになってしまう。 3 対応策 〈不整合期間対応のスケジュ-ル〉 (1) 時効消滅不整合期間の届出(特定期間該当届) 被保険者又は被保険者であった者は、第3号被保険者とされていた被保険者期間(平成25年6月以前の保険料納付済期間に限る)のうち時効消滅不整合期間について、厚生労働大臣に届出(以下「特定期間該当届」という)することができることとなった。 特定期間該当届は、年金事務所に提出する。提出期限は設けられておらず、届出を行い時効消滅不整合期間が特定期間とされたときは、年金機構から「時効消滅不整合期間に係る特定期間該当届受理通知書」が送られる。 (2) 特定期間及びその効果 届出が行われた時効消滅不整合期間は特定期間となり、その届出が行われた日以後、年金額には反映しないが、年金の受給資格要件や保険料納付要件を判定する場合に、保険料免除期間(学生納付特例の期間)と同等のものとして取り扱われる期間とみなされる。 (3) 特定保険料の納付 特定期間は年金額には反映されないため、被保険者又は被保険者であった者は、厚生労働大臣の承認を受け、特定期間について保険料を特例追納することができる。 (4) 特例追納が可能となる期間 特例追納が可能な期間は、平成27年4月1日から平成30年3月31日までの3年間となる。なお、特例追納の申込書の提出は、平成27年2月1日から行うことができる。 (5) 特例追納の対象期間 特例追納の対象期間は、それぞれ次に掲げる期間となる。 (6) 特定保険料の額 特定保険料の額は、それぞれ次に掲げる額となる。 また、特例追納は、先に経過した月から順次行うこととされている。 また、平成27年度の特定保険料の額については、平成26年度末に、具体的な額が告示されることになる。 (7) 特例追納の効果 特例追納が行われたときは、特例追納が行われた日に、特例追納した月の保険料が納付されたものとみなされる。 (8) 後納制度との関係 平成24年10月1日から平成27年9月30日までの間、被保険者等については「後納制度」(*)を利用することができる。 特例追納の対象期間と後納制度の対象期間が重なる場合には、当該期間の保険料を納付するにあたり、後納制度を利用することとされている。 (*) 国民年金の保険料を遡って支払う場合は、2年より前の期間は時効により、納付することができなかったが、平成24年10月より3年間に限って、納付可能な期間が2年から10年に延長された制度。 (了)
建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第5回】 (最終回) 「建設業で起こりがちな労務トラブル(その2)」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 前回に引き続き、建設業で起こりがちな労務トラブルとはどのようなものが多いのか、どんな点に注意をするべきなのか確認をしたい。 3 安全衛生に関する違反や、モラルの低い社員による服務規律違反が未だ多い 残念ながら安全衛生面での対応や、モラルの低い営業マンによる売上げ着服など、犯罪につながるような服務規律(=日常の業務を行うためのルール)違反が多いのが実態である。 服務規律については、通常、就業規則において定められているが、その内容については具体的になっているものはまだまだ少ない。 ひな形の就業規則にあるような、広く一般的な内容を定めておけばいいというものではなく、業界の特性や自社として守るべきルール・守ってほしいルールを「より具体的に」定めることで、結果として労務トラブルから企業を守ることができる。 服務規律は懲戒処分とも連動するものでもあり、「より注意深く扱う必要がある」との意識に立って取り扱うべきである。 4 就業環境の整備不足から発生する労災と労災隠しによる事業所の検挙 平成24年度の労働災害による死亡者が1,093名(内、建設業367名で最多)、死傷者が119,576名(内、建設業17,073名とこちらも最多)と、依然として災害発生は高い水準となっている。 特に建設業では、作業主任者の未選任、建設機械や建築部材でのはさまり・巻き込まれによる事故、墜落・転落事故につながるおそれのある足場の墜落防止措置が不十分であったりなど、労働災害時の安全衛生法違反による検挙数が減少せず、また工事現場での労災事故の届出を行わない等の労災隠しも平成24年度は送検数14件で過去10年で最高となっているのが実情である。 これらはいずれも就業環境の整備不足が原因で発生しているものであり、現場ごとの環境整備が求められている。 厚生労働省では、平成25年度からの5年間を計画期間とする「第12次労働災害防止計画」を策定しており、「長期的な災害動向と社会情勢の変化を踏まえて、重点対策を絞り込む」「重点業種・疾病ごとに数値目標を設定し、社会情勢の変化も踏まえつつ進捗状況を評価する」という基本的な考え方の下、6つの重点施策をたてている。 建設業では、「労働災害、業務上疾病発生状況の変化に合わせた対策の重点化」という施策の下、以下の重点対策を掲げ、死亡者数を20%削減するという目標をたてている。 〈連載のまとめ〉 これまで5回にわたり、建設業の労務管理についてお伝えしてきた。 業界特有の問題と片付けずに、1つずつ地道に解決していくことが就業環境の改善につながるものと考えている。 また機会があったら、深掘りした内容をお伝えしたい。 (連載了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第21回】 「固定資産管理のKPI (その② 有形固定資産現物管理)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、固定資産管理を構成する複数のKPIから、「有形固定資産現物管理」のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 有形固定資産は、販売を予定した棚卸資産と異なり、会社がその営業目的を達成するため長期間にわたり利用することを予定しているため、適正な管理を行う必要がある。すなわち、取得、支払、減価償却費の計上、リース料の計上、現物実査、資産評価、メンテナンス実行、除却といった一連の活動が発生する。 そこで、今回は、有形固定資産管理について、その効率性や適正人員配置の判断、自社による管理と外部業者への委託の是非に関する経営意思決定に役立つKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回述べたとおり、経済産業省スタンダードでは、固定資産管理において、会社が担う一般的な機能として、「資産取得」、「減価償却費管理」、「現物管理」、「資産評価(減損)」、「メンテナンス対応」、「資産除却」、「リース管理」、「固定資産税申告・納付」という8個の機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「現物管理」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:固定資産管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「現物管理」に関連する業務プロセスとして、固定資産台帳管理と現物実査を次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:4.5.1固定資産台帳管理〉 〈経済産業省スタンダード:4.5.2現物実査〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 固定資産台帳管理では、固定資産の種類毎に管理番号を付し、取得、減価償却費の計上、減損、メンテナンス、除却、休止、移動の有無を確認し、その情報を固定資産台帳に記録する。そして、このような固定資産台帳の記録の正確性を担保するのが現物実査である。 現物実査では、定期的に固定資産の現物を直接視察し、その使用状況、所有権、移動を確認し、実査の結果と固定資産台帳の記録を照合する。照合の結果、両者に乖離があった場合には、原因を究明し、固定資産台帳を修正する。 今回のKPIは、有形固定資産の現物管理に関する一連の業務プロセスを前提に、有形固定資産において発生する取得件数と除却件数の合計が有形固定資産管理の業務量に比例する傾向があることに着目し、効率性の観点から、有形固定資産管理担当者1人あたりの件数を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 KPIの算出式の分母にあたる「有形固定資産管理担当者のべ人数」とは、固定資産利用部門ではなく、経理財務部門における固定資産管理台帳の管理者が、有形固定資産管理に費やす時間をのべ人数で表したものをさす。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、有形固定資産管理にかかる人員を適正なレベルに保つことが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 そこで、有形固定資産管理という業務により処理される量を反映する取得件数と除却件数を会社間で比較し、効率性のレベルを測ることにしたのである。スコアリングモデルでは、この件数が多い会社が少ない会社よりも相対的に望ましいと考えている。 ところで、このKPIは、1人あたり件数を算出したものであるが、有形固定資産管理にかかる人員の適正配置を考えるには、分子と分母を逆にして、有形固定資産管理にかかるコストを測定できていることが望ましい。 すなわち、管理会計の整備である。 人的資源に関連するコストは、財務会計においては人件費として表現されているが、財務会計上の勘定科目である人件費を、日常的管理になじむ有形固定資産管理という活動の単位で再集計し、有形固定資産管理にどれだけの人的資源を費やしているのかを金額によって把握するのである。管理会計では、個別の活動にかかるコストの再集計結果をコストプールと呼び、個別の活動量に影響を与える要因をコストドライバーと呼ぶ。 有形固定資産管理担当者のべ人数は、人件費を有形固定資産管理という個別の活動にかかる人件費として再集計するためのコストプールとなる。 有形固定資産管理のコストドライバーを特定するには、まずそれを構成する活動を明らかにする。活動を細かく分解すれば際限がないが、一般的には、取得、支払、減価償却費の計上、リース料の計上、現物実査、資産評価、メンテナンス実行、除却が挙げられる。このような活動の情報は、保有する有形固定資産の数が増えたり減ったりするたびに、固定資産台帳に記録される。このような考察から、有形固定資産の取得件数と除却件数が、有形固定資産管理の業務量に最も影響を与えるコストドライバーと考えられる。 このように、コストドライバーとコストプールを使って有形固定資産1件あたりの人件費を算出することにより、自社で有形固定資産管理を処理した場合のサービス原価が算出される。その結果、有形固定資産管理を自社の人員で処理するのが良いのか、それとも外部の経理サービス会社に委託するのが良いのか、そのときに支払うべき対価はどの程度が適正か、社内の人員配置と外部委託をどのように行うのが良いかを判断できるようになる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、どのような事態が想定されるのか。 まず、有形固定資産管理に隠れている効率性の問題が発見されず、過剰又は過少な人員配置が放置されたままになる可能性がある。 また、グループ内に経理業務受託サービス会社を設置しようとしても、その会社が提供できる有形固定資産管理サービスの処理量やコストが適正に把握できないため、適正な利益を確保するサービス価格を設定することが困難となる。 さらに、管理会計を整備しないまま合併や買収で規模を拡大する場合、各工場が旧来のままのやり方で管理を行うため、経営統合が進まず、複数の工場経理の効率性の差異や非効率が改善されず放置されてしまうことが非常に多い。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、一定の頻度で適正な現物実査により固定資産台帳を管理する業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、固定資産管理規程を閲覧し、目的、管理責任部門、管理方法が定められていることを確認することが考えられる。 それを前提に、例えば、固定資産管理台帳を閲覧し、取得件数、除却件数を確認する。業務時間実績報告表を閲覧し、有形固定資産管理時間として1人あたり所定労働時間で割り戻した数値を算出する。有形固定資産管理業務以外の業務を兼務している場合、合理的な比率で有形固定資産管理業務にかかるのべ人数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、有形固定資産管理担当者1人あたりの取得及び除却の件数は何件になったであろうか。 * * * 次回は、「固定資産管理」を構成する複数のKPIから、「取得後追加支出」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第8回】 「今の事務所ホームページ、最低限ここだけは点検してください」 ~リンクは切れていませんか~ データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 今回は、前回に引き続き、公開中のご自分の事務所のホームページを見直していく際のポイントをお話します。 「最低限、これだけはすぐに直しましょう!」の後半です。 * * * 今回の1つ目のポイントは、「リンク切れ」及び「リンク違い」です。 前回、少しだけ、リンクと遷移のお話をしました。メニューやバナーをクリックするとそのホームページ内の他のページや、そのホームページとは異なる他のホームページに遷移するというお話でした。 前者を「内部リンク」、後者を「外部リンク」と呼びます。 また、リンクは、メニューやバナーだけではなく、ホームページ内の文章の一部分に張ってあることもあります。通常は、リンクが張ってあることが一目でわかるように、アンダーラインを引いて目立たせており、さらにマウスのカーソルをその部分に近づけると、該当部分の色が変わったりします(試しに、上記の「前回」という青い文字の部分へ、マウスのカーソルを近づけてみてください)。 さて、「リンク切れ」と「リンク違い」の違いをご説明しますと、「リンク切れ」とは、リンク部分をクリックしても遷移しない場合であり、「リンク違い」とは、メニューやバナーに表示しているリンク先(遷移すべきページ)と違うページに遷移してしまう場合をいいます。 例えば、「お問い合わせ」と書いてあるバナーをクリックしたのにどの画面にも遷移しないとか、「事務所案内」というメニューをクリックしたのに料金表のページに遷移してしまうとか、さらには「Not Found」なんて書いてあるページに遷移してしまう場合です。 ちなみに、「Not Found」は、遷移先として指定されている「ページが存在しない」場合に表示されます。 これらの原因は、そもそも制作時に正確にリンクされていなかったか、制作時には正確にリンクされていたのにその後リンク先のページが削除又は変更されてしまったかです。 特に、リンク先が自分の事務所のホームページ内(内部リンク)なのに、リンク切れやリンク違いを起こしていると、前回の「表示崩れ」と同様、見た人にいい加減な印象を与えてしまいます。 それにより、事務所に悪い印象をもたれることもありますので、ホームページの大幅な更新をする場合には、更新作業によりリンク切れやリンク違いを起こしていないか、きちんとチェックするようにしましょう。 また、この機会に、ご自分の事務所のホームページのリンクの点検をしてみましょう。 点検の仕方は、少し手間がかかるのですが、「すべてのページ」で「すべてのリンク」をチェックするのが確実な方法です。 例えば、前回使用したサンプルページ(下記)の例では、トップページに「HOME」「事務所案内」「遺産分割について」「相続問題について」「相続税対策について」「費用(報酬)」という6つの「メニュー」がありました。 これらのメニューは、通常、すべてのページで表示されています。 このメニューのリンクの確認として、トップページでメニューの「遺産分割について」をクリックすると「遺産分割について」のページに正常に遷移したとします。 しかし、これをもって、「遺産分割について」のメニューのリンクは正常だとは言い切れません。 というのは、別のページ、例えば「相続問題について」のページにおいてメニューの「遺産分割について」をクリックしたらリンク切れだったなんて場合もあり得るからです。 このようなことがないように、リンクの点検では、全ページの全リンクを確認しておきましょう。 さらに、外部リンクがある場合には、外部のページがいつの間にか削除や変更されてしまっていることもありますので、最低でも年1回は外部リンクの点検をしておきましょう。 * * * さて、2つ目のポイントは、ホームページの「記事内容」のお話です。 税理士や公認会計士の事務所ページの場合、どうしても税務や会計の分野の解説記事を掲載することが多くなります。 ご存知のように、これらの分野は毎年のように制度が変更されますので、記事内容がすぐに古くなってしまい、「現行の制度に照らしたら誤りだった!」という場合も出てきます。 ご経験のある方もおられると思いますが、例えば事業承継や相続など、特定の分野で税制を調べようと検索サイトで検索してみると、昔の制度をそのまま掲載し続けている税理士や公認会計士の事務所のホームページがすぐに見つかると思います。 その「特定の分野」について税理士や公認会計士を探している人は、その分野の記述をいくつものホームページで見比べて依頼する事務所を選別しますので、専門分野の記述が誤っていることは、集客に逆効果となります。 このため、手間を惜しまず、専門分野の解説記事については、最低でも年1回は読み返して、必要があれば内容を更新しましょう。 (了)
カウンターで2人連れの若い女客が傍若無人に喋り続けている。この店で若い女は珍らしい。2席空けて上森くんがバーボンを飲んでいるが迷惑そうな顔ではない。上森くんもジャズが好きなわけではない。 時計を見れば10時半、たぶん今夜の客はこの3人だけだろう。 「マスター、この店はいつからやってるんですか」と女客のひとりから定番の質問をされた。だれも音楽など聴いていない。この場は会話に切り替えて滞留時間を延ばした方がよさそうだ。 バーでは話し方にもマナーがある。私はゆったりとしたスピードと静かな声量で、彼女たちに身を持って示さなければならない。 会話に男は結果を求め、女は会話を楽しむことが目的らしい。深い話は避けて、たのしげな浅い話題を選ばねばならない。いつものように店に関することを自虐的に話せばいいだろう。あとは無難な質問でいい。 相手の質問に応え、「会社が近いんですか」「入るのに勇気が必要だったでしょ」などと定番の質問をこちらからもして、女客とはだいぶ打ち解けた。 グラスを見ればふたりとも空いている。でもおかわりはしない。 「休日はなにをしてるんですか」 今までと同じような毒のない質問をもうひとつ並べた。 「ほとんど家のことで潰れちゃいますけど、たまにテニスかな」「わたしもたまに」 よし、と思い上森くんを見ると彼もこちらを見ている。 「上森くん、テニスやってたよね」 「ええ、軟式ですけどインハイにも出ました」 「えー、すごいですね」「すごーい」 3人はテニスの話で盛り上がっている。これでもっと飲んでくれれば文句はない。 しばらく放っておいたがどうもつまらない。話し声も大きくなってきてうるさい。それでも女客のおかわりはない。そうだ、あの話をしてもらおう。 「上森くん、上森くんの『あの話』してよ」 「あ、はい」と今までの勢いで上森くんはとてもドラマチッックに語った。 上森くんが話し終えると、途中で小さな悲鳴をあげていた女性たちは、ほっとしたような、おあいそのような表情で笑った。 「じゃあ、そろそろ」「そうね、失礼しましょうか」と一杯ずつふたり別々に勘定をして帰った。 上森くんの『あの話』とはこんな話だ。 上森くんの出身地、奈良の山奥の村は今でも土葬だ。日本では3ヶ所だけだそうだ。 死ぬと棺は本人の孫たちが「お山」まで担いでいたが今は専用の軽トラが村にある。 「お山」は山全体が墓地で墓石はない。墓穴は深さ約2メートルで縁者が掘る。 上森くんも掘ったことがある。 ふたりで交代で掘るのだが、相棒である年長者はすぐに疲れたと言って、ほとんど上森くんが掘っていた。途中でなんだか土が柔らかくて掘り易いと思っていたら、白っぽい木の破片が出てきた。先住者がいたのだ。 亡くなった年齢によって高年齢になるほど頂上に近い場所に埋葬される。最近は医療のおかげでだいたい同じぐらいの年齢で亡くなるので、困ったことに一部の埋葬地ばかりに集中してしまうのだ。 私は上森くんが女性にこの話をして退かれた経験が何度もあるのを知っていた。 気がつけば上森くんは高いバーボンを4杯も飲んでいた。 「どうしたら女にモテるんでしょうね」、「いつも『いい人だけど』で終わっちゃうんです」などとこぼしながら、このあともう2杯飲んで終電を心配しながら出ていった。 上森くんは人がいい。 (了)
《速報解説》 連結財務諸表規則等の改正(IFRS任意適用要件の緩和)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年10月28日、金融庁は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等を公表した。 これにより、平成25年8月26日に公開していた「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等が確定することになる。 内閣府令等の公表に際して、「『連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「金融庁の考え方」という)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 連結財務諸表規則等関係 IFRSの任意適用要件が緩和され、IFRSの任意適用が可能な会社(特定会社)の要件についてIFRSに基づいて作成する連結財務諸表の適正性を確保する取組・体制整備とされている。現行の上場企業及び国際的な財務活動・事業活動の要件については撤廃された。 2 新たに上場する会社が有価証券届出書等に組み込む連結財務諸表の開示(比較情報の取扱い) 今回の改正により、新たに上場する会社が有価証券届出書等に組み込む連結財務諸表の開示(比較情報の取扱い)についてコメントが寄せられている。 現在、新たに上場する会社が有価証券届出書等に組み込む連結財務諸表を作成する場合、当該連結財務諸表には比較情報(連結財務諸表規則第8条の3)を含めず、前連結会計年度に係る連結財務諸表と当連結会計年度に係る連結財務諸表をそれぞれ単年度の連結財務諸表のみを作成することとされている(連結財務諸表規則附則第2項及び第3項)。 一方、国際財務報告基準においては、連結財務諸表の作成に当たり比較情報の作成は必須とされており(国際財務報告基準第1号「国際財務報告基準の初度適用」第21項又は国際会計基準第1号「財務諸表の表示」第38A項)、単年度ベースの連結財務諸表の作成は基準上、認められていない。 このため、新たに上場する会社が有価証券届出書に記載する連結財務諸表を国際財務報告基準で作成する場合、比較情報の取扱いはどのようになるのかという疑問がある。 これについて、「金融庁の考え方」は次のように述べているので注意が必要である。 このほか、「金融庁の考え方」では、有価証券届出書等における「主要な経営指標等の推移」について、IFRSプロフォーマ数値での記載ができるかどうかについても述べている。 3 適用時期等 公布の日(平成25年10月28日)から施行する。 (了)
〈平成25年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「給与所得控除の上限設定」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 はじめに 今年も年末調整の準備を行う時期となった。 本連載では、平成25年分の年末調整事務に関係する税制改正の内容及び年末調整に関して質問を受けることが多い事項等について解説することとする。 税制改正事項のうち、平成25年分の年末調整事務に関係するものは、下記の2つである。 第1回目は、上記の税制改正事項のうち、今年から適用される「給与所得控除の上限設定」について取り上げる。 〈平成25年分給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿(一部抜粋)〉 (国税庁ホームページより) 1 給与所得控除とは 給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて求められる(所法28②)。 給与所得控除の制度趣旨は、「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」にあるとされており、給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて一定の計算式により算出する。 2 改正の内容 改正前の給与所得控除は、給与等の収入金額に応じて控除額が増える仕組みとなっており、その金額に上限はなかった。 給与所得者全体を平均すると、適用されている給与所得控除額は給与等の収入金額の30%程度となっている。このことについて、従来から実際の勤務費用に比べて高い水準にあるのではないか、また主要各国との比較においても高い水準になっているとの指摘があった。また、給与所得者が大半を占めるわが国の現状においては、「他の所得との負担調整」を行う必要性が薄らいでいるとの指摘もある。 そこで、平成24年度の税制改正により、給与等の収入金額が1,500万円を超える場合には、給与所得控除額を一律245万円とすることになった(所法28③六)。 この改正は、平成25年分以後の所得税について適用される。 年末調整の対象者は、特別な場合を除き、年末まで在籍している甲欄適用者のうち給与等の収入金額が2,000万円以下の者である。 したがって、「給与所得控除の上限設定」は、今年の年末調整事務に影響を及ぼす。 〈給与所得控除額の計算式〉 *赤字が今回の改正部分である。 当該改正に伴い、平成25年分の「給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)」及び「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」も変更されており、すでに月次の給与や賞与については、新たな表を適用した上で所得税及び復興特別所得税の源泉徴収が行われている。 年末調整の手続においては、上記〈給与所得控除額の計算式〉に基づいて給与所得控除額を計算するのではなく、給与等の収入金額を、別表第5「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(第28条、第190条関係)」に当てはめ、給与所得控除後の給与等の金額を直接求める方法が用いられている。 この別表第5も、源泉徴収時に使用する表と同じ趣旨で改正されているので、平成25年分の年末調整については、改正後の表を適用するよう確認されたい。 〈別表5「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表(第28条、第190条関係)」(九)(改正部分のみ抜粋)〉 *赤字が今回の改正部分である。 【平成24年度分以前】 【平成25年度分以後】 3 計算例と改正の影響 今回の改正は、給与等の収入金額が1,500万円超の者に対してのみ影響があり、給与等の収入金額が1,500万円以下の者については昨年までの取扱いと変わりはない。 改正前と改正後を比較すると、給与所得控除額が260万円から245万円へ15万円(=(1,800-1,500)×5%)減少し、税額計算の基礎となる給与所得控除後の給与等の金額が同額(15万円)増加している。 参考までに、算出所得税額(源泉徴収簿「年末調整」⑲欄)に対する改正の影響額を示すと、次のとおりとなる。 〈算出所得税額に対する改正の影響〉 *所得控除額を330万円と仮定、算出所得税額には復興特別所得税は含まれていない。 (了)
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第8回】 「武富士事件(その2)」 ~東京高裁判決と最高裁判決~ 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 1 判決の要旨 (1) 〔第一審〕東京地裁平成19年5月23日判決・・・X勝訴 東京地裁は、Xは3年半ほどの本件滞在期間中、香港に住居を設け、同期間中の約65%に相当する日数、香港に滞在して起臥寝食する一方、国内には約26%に相当する日数しか滞在していなかったのであるから、本件贈与日において、Xが日本国内に住所すなわち生活の本拠を有していたと認定することは困難であるとして、Xの請求を認容した。 (2) 〔控訴審〕東京高裁平成20年1月23日判決・・・X敗訴 東京高裁は、「Xは、本件滞在期間以前は、本件杉並居宅に亡B、Cらとともに居住し、本件杉並居宅を生活の本拠としていたものである。」とし、次のように認定した上で、Xの請求を棄却した。 そして、これらを考え合わせた上で、次のように国内に住所があったと判示した。 (3) 〔上告審〕最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決・・・X勝訴 最高裁は、次のように国内に住所はなかったと判示し、Xの請求を認容した。 2 検討 このように、武富士事件は、第一審、控訴審、上告審と、判断が二転三転した事例である。 同じ事実認定の下でもこれだけ判断が揺れ動くところに、住所の認定の難しさが垣間見えるといえよう。 注目したいのは、東京高裁が、 としており、最高裁が、 としているところである。 一見すると住所概念の理解については、ほぼ一致した見解のようにみえる。なぜなら、両裁判所ともに、相続税法上の「住所」は「生活の本拠」を指すものとするのが相当であるとしているからである。 しかしながら、前述のとおり、両裁判所の判断は分かれたのである。そこで、東京高裁と最高裁における判断の相違点を理解するために、各裁判所の認定事実と判断を整理すると、次表のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 このようにみると、東京高裁と最高裁の判断の最も重要な相違点は、①Xの「居住意思」を重視すべきか否か(東京高裁:重視すべき、最高裁:重視すべきでない)、②客観的判断基準の要素として滞在日数の多寡を考慮すべきか否か、すなわち、滞在日数は「租税回避の意図」によって操作し得るため、これを否定すべきか否か(東京高裁:滞在日数の多寡は考慮すべきでない、最高裁:これを考慮すべきである)、の2点にあるといえよう。 (続く)
民法900条4号前段但書に係る最高裁決定を受けた 国税庁情報の確認と実務上の留意点 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 国税庁情報「相続税法における民法第900条第4号ただし書前段の取扱いについて(平成25年9月4日付最高裁判所の決定を受けた対応)」について、本誌9月30日公開の《速報解説》で取り上げ、その概要を解説した。 その内容は、違憲判断のあった平成25年9月5日以後に相続税額が確定する場合は、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」とする民法第900条第4号但書前段(以下「嫡出に関する規定」という)がないものとして民法第900条第4号の規定を適用した相続分に基づいて相続税額を計算し、平成25年9月4日以前に相続税額が確定している場合は、従前通り嫡出に関する規定を適用した相続分に基づいて相続税額を計算するというものであった。 【嫡出子と非嫡出子の法定相続分】 (注1) 平成13年7月以後に開始された相続に限る。 (注2) 財産の申告漏れ、評価誤りなどに係る部分は「嫡出子1:非嫡出子1」。 本稿では、これを以下の3つに区分し、その内容の詳解と実務における留意点について検証した。 2 平成25年9月4日以前に相続税額が確定している場合 (1) 取扱いの確認 「相続税額が確定した日」とは、通常、相続税申告の日又は更正・決定等の処分があった日である。 違憲決定では、嫡出に関する規定について 旨の判示がなされている。 この「確定的なものとなった法律関係」とは、相続税額の確定を意味する。 したがって、平成25年9月4日以前に相続税額が確定している場合には、従前通り嫡出に関する規定を適用した相続分に基づいて相続税額を計算するため、嫡出に関する規定がないものとした相続分に基づいて相続税額を計算することによって、相続税額が減額する場合でも、そのことのみでは、更正の請求の事由には該当しない。 ただし、9月4日以前に申告をしていても、これから法定申告期限が到来する申告については、期限内に申告書を出し直すことによって、嫡出に関する規定がないものとして相続税の総額を計算することができる。 (2) 実務上の留意点 この区分における実務上の留意点は、相続税額が減額する場合でも、そのことのみでは、更正の請求の事由には該当しない。つまり確定分に関しては更正の請求はできないという点につきる。 3 平成25年9月4日以前に申告をし、9月5日以後に相続税額が異動する場合 (1) 取扱いの確認 9月4日以前に相続税法第55条(未分割遺産に対する課税)の規定に基づき相続税額を計算し、相続税の申告をした場合で、遺産分割協議の確定により、9月5日以後に相続税法第32条第1項に基づく更正の請求や、相続税法第31条に基づく修正申告をした場合には、更正の請求や修正申告は、新たな相続税額の確定に該当するため、嫡出に関する規定がないものとして相続税額を計算する。 また、9月4日以前に相続税の申告や処分で相続税額が確定していても、財産の申告漏れや評価誤りなどの理由により、9月5日以後に、国税通則法第23条に基づく更正の請求や国税通則法第19条に基づく修正申告をした場合も、9月5日以後に改めて相続税額を確定させることになるため、嫡出に関する規定がないものとして相続税額を計算する。 すなわち、9月4日以前に分割確定、更正の請求、税務調査等があっても、相続税額の確定行為である申告、更正、決定等が9月5日以後に行われた場合には、嫡出に関する規定がないものとして相続税額を計算する。 (2) 実務上の留意点 この区分における実務上の留意点は、遺産分割をめぐって係争中の案件がある場合には、非嫡出子の相続分が従前の2倍になること、したがって、遺留分も従前の2倍になること、非嫡出子の相続税の負担額が増加することをあらかじめ伝えておくことである。 これにより、まとまりかけていた分割協議もふりだしに戻るかもしれない。しかし、これは相続税の申告業務を受任した税理士の責務である。 4 平成25年9月5日以後に相続税額が確定する場合 (1) 取扱いの確認 9月5日以後に相続税の申告をする場合は、嫡出に関する規定がないものとした相続分に基づいて相続税額を計算する。 極端な例を挙げれば、法定申告期限が9月4日以前であっても、9月5日以後に期限後申告をした場合も上記と同様である。 なお、9月5日以後に、現行民法に基づき、嫡出に関する規定を適用して申告をしている場合には、9月5日以後に相続税額が確定しているため、最高裁の違憲決定の影響を受ける。 したがって、嫡出に関する規定を適用しないで相続税額が減額する場合には、そのことのみで、更正の請求をすることができる。 (2) 実務上の留意点 この区分における実務上の留意点は、遺言や相続税対策の見直しである。上記3に記載したように、非嫡出子の相続分が従前の2倍になり、遺留分も従前の2倍になる。 従前の相続分を念頭に生前贈与を実行している場合や、遺言を準備している場合には、非嫡出子の相続分の増加により、遺留分の侵害がないかどうかを改めて確認しておく必要がある。 また、いわゆる事業承継税制において、遺留分に関する民法の特例の適用を受けている場合には、非嫡出子の遺留分増加による影響を検証しておくことも必要である。 5 おわりに 相続税の計算において、基礎控除の算定に係る相続人の人数の考え方に嫡出子、非嫡出子の区別はない。したがって、今回の違憲決定により嫡出子と非嫡出子の相続分が同等になっても、非嫡出子の相続税の負担が増加するだけで、相続税の総額に対する影響は少ない。 このことを念頭に置けば、今回の違憲決定のポイントは推定相続人間の財産分割の見直しにつきることになる。 すなわち、非嫡出子の相続分を嫡出子と同等に考え、今まで行ってきた贈与、遺言、事業承継等の生前対策を見直すことである。 しかし、我々税理士が助言できるのは、あくまでも非嫡出子の存在が明らかな場合である。非嫡出子の存在が明らかでない(非嫡出子の認知は遺言で行うことが可能である)場合には、今回の違憲決定により、今まで以上に遺産分割が困難になることが想定される。 したがって、心当たりのある父親はこれを機に、必要に応じた争族対策を講じておくべきである。 (了)