《速報解説》 「法人税改革に当たっての基本認識と論点」 (与党税制協議会)の公表について 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 近年、わが国では、急速な少子・高齢化によって成熟した社会を迎え、さらにはデフレ経済の長期化によって経済成長が停滞し、財政の悪化がますます進行しているという状況の中で、社会的なコストを国民全員で負担するという「支え合う社会」を回復するための税制改革が相次いでなされている。その第一歩として、消費税率の引上げが実現したことは記憶に新しいところであるが、この税制改革については、消費税率の引上げにとどまらず、「支え合う社会」の回復という目標に向けて、法人税の観点からは、法人税の実効税率引下げが議論されている。 このような大きな流れの中で、自民党・公明党の与党税制調査会は、本年6月5日付けで、法人税率の引下げの実現に向けて、「法人税改革に当たっての基本認識と論点」を公表した。 法人税率の引下げについては、与党税制調査会が昨年発表した平成26年度税制改正大綱でも謳われていたところであるが、その具体的な方向性についてさらに議論が一歩進められたことになる。 2 法人税改革の基本的な考え方 与党税制調査会では、デフレ脱却と日本経済再生のためには、法人税の税率引下げによる経済の活性化が必要であり、その財源については、「支え合う社会」という観点から、赤字企業に対する課税を含めた課税ベースの拡大を基本的な考え方としている。 具体的には、法人税を納付している企業が全体の3割という税収の偏在状況、地方税における応益課税の考え方(赤字企業であっても企業活動を行うに当たって行政サービスを享受していること)などから、地方税における外形標準課税の強化による課税ベースの拡大が示唆されている。 これにより財源を確保した上で、法人税の実効税率を引き下げることで、収益力の高い企業(黒字企業)の競争力を強化し、さらには海外からの投資を呼び込むことで、経済を活性化することが意図されている。 現在、諸外国では、国内投資を誘致するために法人税の税率引下げがなされる傾向にあるといえ、法人税改革の考え方はその傾向にもマッチすることになる。 3 今後の見通し 以上の考え方は改革の展望を示したものであり、今後の政治状況・経済状況によって変化することが当然あり得る。特に、外形標準課税の強化については、中小企業の体力を奪うことにもなり兼ねないことから、慎重な配慮が求められることになろう。 それでも、特に大企業を中心として法人税の減税を求める声は強いこと、消費税率の引上げによる国民の負担増との均衡などから、法人税の税率引下げは何らかの形で実現する可能性がある。 今後も、法人税改革をめぐっては、その動向に注視する必要があるといえよう。 (了)
《速報解説》 「産業競争力強化法に基づく 会計監査に係る監査上の取扱い」等の改正について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年6月3日付(掲載日6月6日)で、 日本公認会計士協会は、次の監査・保証実務委員会実務指針等を公表した。 これは、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)が廃止され、平成26年1月20日に施行された産業競争力強化法において、産活法と同様の措置(事業再編の促進措置)が講じられたことに対応するための改正である。 経済産業省からは、産業競争力強化法における「債権放棄を含む計画Q&A」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 基本的に、用語の改正を内容とするものであり、「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法)の記載から「産業競争力強化法」(強化法)の記載に改正されている。 産業競争力強化法(強化法)の施行により、年次報告及び半期報告において監査を受けた貸借対照表及び損益計算書の添付が必要となる計画は、債権放棄を含む「事業再編計画」及び「特定事業再編計画」の2計画となった(監査・保証実務委員会実務指針第89号、3-2項)。 「独立監査人の監査報告書」、「合意された手続実施結果報告書」についても、根拠規定に関する改正が行われているので、注意が必要である。 Ⅲ 適用時期 平成26年6月改正の監査・保証実務委員会実務指針第89号は、平成26年6月3日以後適用する。 (了)
2014年6月5日(木)AM10:30、Profession Journal No.72 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
monthly TAX views -No.17- 「OECD自動的情報交換とマイナンバーの既存口座付番」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 OECDの場で、各国の所得情報を当局間で自動的に交換するという話が急ピッチで進んでいる。 税務当局間の情報交換というのは、納税者の取引などの税に関する情報を異なる国の税務当局間で互いに提供する仕組みのことである。 租税条約に基づくものとしては、 ① 要請に基づく情報交換 ② 自発的情報交換 ③ 自動的情報交換 の3形態があり、①②についてはこれまで拡充が図られてきたが、今回話が進んでいるのは、③のケースである。 この結果、イメージとして次のようなことが行われるようになる。 この自動的情報交換は、今のところおおむね次のようなスケジュール感で進んでいくようだ。 まず、2014年央までに自動的情報交換の技術的様式を完成させることへのコミットが行われる予定である。その後2015年末までにG20諸国間で自動的情報交換が開始されることが期待されている。 そこでOECDは、2014年央までに、共通報告基準の統一的適用を確保するための実施細目、及び、税務当局間の情報に用いるデータ言語構造や情報の送受信手段等の必要な技術的側面を決定することになっている。 このような大きなプロジェクトが国際税務当局間で動く背景には、どのような事情があるのだろうか。 直接のきっかけは、2008年のリーマンショックである。 リーマンショックの原因となるマネーの出所をたどっていくと、タックスヘイブンからの不透明な資金であったということが判明した。そこで、今後ふたたび金融不安を生じさせないために、タックスヘイブンマネーの透明性を求める声が国際社会から上がったのである。加えて、スイスUBSが米国の脱税ほう助を行うという事件やリヒテンシュタインの投資銀行の事件などもあり、2009年4月のG20サミットで、「銀行機密の時代は終わった」という有名な宣言がなされた。これにより、資金の透明性を求める声は一気に加速した。 実は、この問題は、わが国で議論されている預金口座に番号(マイナンバー)を付けるかどうかの議論に大きな影響を与える。 国内の議論いかんにかかわらず、OECDの情報交換が合意されれば、先進諸国の税務当局はこれを実行せねばならなくなる。そうなれば、国内非居住者の口座にはマイナンバーが付されるとともに、外国の金融機関に口座を保有する日本居住者について、口座開設時にわが国の番号(マイナンバー)を告知しなければならなくなる。対象の口座は順次「既存の」口座にも広がっていく。そうでなければ情報交換の意味はない。 このような広がりが、わが国の預金口座への付番、さらには「既存」口座にさかのぼって付番すべきという議論に広がっていくことは確実だ。 思わぬところから、「既存」預金口座への付番という議論に、新たな展開が始まる。 (了)
所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる 「従業者」に関する要件整理 ~雇用形態による適用関係の差異を検討する~ 【第2回】 「雇用形態ごとの適用可否を検討」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 前回の説明により、所得拡大促進税制における「国内雇用者」は賃金台帳に記載のある者が対象となり、雇用促進税制における「雇用者」は雇用保険の一般被保険者が対象となることをご理解いただけたと思う。 それを踏まえた上で、今回は以下の雇用形態について、所得拡大促進税制及び雇用促進税制の適用可否を検討していくこととする(なお説明の都合上、60歳定年制を前提とする)。 (1) 60歳未満の正社員(定年退職前) 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。 〔雇用促進税制〕 雇用保険の一般被保険者でもあることから、雇用促進税制の適用対象となる。 (2) 60歳で定年退職後、65歳まで継続雇用制度の適用を受けている正社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、継続雇用制度の適用を受けることから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 継続雇用制度の適用を受けたとしても引き続き一般被保険者の資格を有していることから、雇用促進税制の適用対象となる。 (3) 65歳以降も勤務している正社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳への記載対象であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 2つのケースが考えられる。ひとつは、65歳まで継続雇用制度の適用を受けつつ、その終了後も引き続き就業するケース、もう1つは、65歳以降全く新しい企業に就業するケースである。 前者のケースは、65歳をまたいで同一の企業に所属していることから、雇用保険の「高年齢継続被保険者」の資格を得ることとなる。しかしこれは、雇用促進税制の適用上は「高年齢雇用者」に該当するため、基準雇用者数の算定上控除されることとなり、結果として、雇用促進税制の適用対象とはならない。 これに対して後者のケースは、そもそも雇用保険に加入することができない(一般被保険者は65歳まで)うえ、高年齢継続被保険者の資格要件も満たさないことから、やはり雇用促進税制の適用対象とはならない。 (4) 在籍出向者(出向元で正社員、出向先で役員又は使用人兼務役員) 〔所得拡大促進税制〕 出向者(在籍出向)については、出向元との雇用契約を維持したまま、出向先とも雇用契約が成立する状態にあることから、賃金台帳については出向元と出向先のそれぞれで整備する必要がある。 しかしながら、出向先で役員となっている場合には、賃金台帳の記載対象から除外されるほか、使用人兼務役員については、使用人分給与について賃金台帳への記載が必要ではあるが、いずれにしても国内雇用者の定義から除外されている。 したがって、出向先で役員又は使用人兼務役員になっている者については、出向先において所得拡大促進税制を適用することはできない。 なお、出向元法人では所得拡大促進税制の適用を受けることができると考えられるが、出向先法人から支払を受ける給与負担金については、「他の者から支払を受ける額」として控除する必要がある(措法42の12の4②三、措通42の12の4-2(2))。 〔雇用促進税制〕 雇用保険については原則として、出向元法人において加入していると考えられるため、出向先法人においては対象とならない。 ただし、出向先法人で使用人兼務役員となる場合において、雇用保険の一般被保険者となる場合は少なからずあると考えられる(詳細は労務の問題であり、本稿ではこれ以上は踏み込まない)。仮に出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合には、雇用促進税制の適用対象に含まれるものと考えられる。 (5) 在籍出向者(出向元で正社員、出向先でも正社員) 〔所得拡大促進税制〕 出向者(在籍出向)については、出向元との雇用契約を維持したまま、出向先とも雇用契約が成立する状態にあることから、賃金台帳については出向元と出向先のそれぞれで整備する必要がある。 したがって、出向先で社員である者については、賃金台帳への記載対象となることから、出向先において所得拡大促進税制を適用することはできる。この場合、出向元法人に対して支払う給与負担金の額は雇用者給与等支給額に含まれる(措通42の12の4-3)。ただし、出向先法人において雇用保険の一般被保険者に該当しない場合には、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 なお、出向元法人でも所得拡大促進税制の適用を受けることができると考えられるが、出向先法人から支払を受ける給与負担金については、「他の者から支払を受ける額」として控除する必要がある(措法42の12の4②三、措通42の12の4-2(2))。 〔雇用促進税制〕 雇用保険については原則として、出向元法人において加入していると考えられるため、出向先法人においては対象とならない。 ただし、出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合は少なからずあると考えられる(詳細は労務の問題であり、本稿ではこれ以上は踏み込まない)。仮に出向先法人で雇用保険の一般被保険者となる場合には、雇用促進税制の適用対象に含まれるものと考えられる。 (6) 嘱託社員・契約社員 〔所得拡大促進税制〕 嘱託社員、契約社員といった非正規雇用形態の社員であっても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。 ただし、雇用保険の一般被保険者に該当しない場合には、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 就業形態によって雇用保険の加入要否が異なるため一概には言えないが、仮に雇用保険の要件(31日以上の雇用見込、週間所定労働時間20時間以上)を満たせば一般被保険者となることから、その場合には雇用促進税制の適用対象に含まれると考えられる。 (7) 派遣社員 〔所得拡大促進税制〕 派遣社員については、労働基準法第108条に定める賃金台帳ではなく、労働者派遣法第42条に定める派遣先管理台帳の整備が求められている。賃金台帳への記載は行われないため、所得拡大促進税制の適用対象とはならない。 〔雇用促進税制〕 派遣社員は、派遣会社において雇用保険に加入するものであるため、派遣先企業における雇用促進税制の適用対象にはならない。 (8) 海外勤務社員 〔所得拡大促進税制〕 賃金台帳は、国内事業所において作成されるものであるから、国内事業所に所属しない海外勤務社員は賃金台帳の記載対象外となる。したがって、所得拡大促進税制の適用対象とはならない。 〔雇用促進税制〕 海外企業への転籍を伴わない限り、海外勤務に伴いただちに雇用保険の資格を失うものではないと考えられるため、引き続き雇用保険の一般被保険者の資格が維持される。この限りにおいて、雇用促進税制の適用対象に含まれると考えられる。 (9) パート、アルバイト 〔所得拡大促進税制〕 パート社員及びアルバイト社員についても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。ただし、雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 パート社員、アルバイト社員が雇用保険に加入する場合には、一般被保険者ではなく「短期雇用特例被保険者」となると考えられるため、雇用促進税制の適用対象とはならない。 (10) 日雇い労働者 〔所得拡大促進税制〕 日雇い労働者についても、賃金台帳への記載は必要であることから、所得拡大促進税制の適用対象となる。雇用保険の一般被保険者には該当しないことから、平均給与等支給額の算定上は、該当の金額を控除する必要がある。 〔雇用促進税制〕 日雇い労働者が雇用保険に加入する場合には、一般被保険者ではなく「日雇労働被保険者」となると考えられるため、雇用促進税制の適用対象とはならない。 * * * ま と め 最後に総括として、雇用形態ごとの賃金台帳記載要否と雇用保険の有無についてまとめると、下表のようになる。 〈所得拡大促進税制・雇用促進税制の適用対象者となる「従業者」の分類〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上表のうち、緑のアミカケ部分が所得拡大促進税制または雇用促進税制の適用対象となる。 賃金台帳記載対象者は所得拡大促進税制の適用を受けることができるとともに、その中でも雇用保険一般被保険者の資格を有する者については、さらに雇用促進税制の適用対象になると考えられる。 ただし、両者の税制は同時に適用することはできず、いずれか有利な制度を選択適用することとなる(措法42の12の4①)。 (連載了)
生産性向上設備投資促進税制の実務 【第3回】 「生産ラインやオペレーションの改善に資する 設備投資計画の確認申請書〔記載例〕」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 前回は、生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)のうち「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」について解説した。 その中で、経済産業大臣確認までの手続を説明したが、今回は設備ユーザーが作成する「産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書」の具体的な記載例を紹介する。 なお、この書類には別紙として確認申請書の根拠資料や公認会計士又は税理士による事前確認書を求められているが、紙面の関係上それらについては次回以降に紹介する。 《記載例》 「産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第19回】 「判例分析⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 日本興業銀行事件にかかわる第1審判決、控訴審判決及び上告審判決の内容は、第15回から第18回までで解説した通りである。 第19回目以降においては、これらの判決の内容について分析を行い、貸倒損失についての法人税法上の考え方について考察を行うこととする。 (4) 評釈 ① 法人税法22条の考え方について (ⅰ) 法人税法22条3項 法人税法22条3項柱書においては、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。」としており、同項3号において、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」を掲げている。すなわち、法人税法37項に規定する寄附金に該当しない限り、貸倒損失を損金の額に算入することができるという整理になる。 すなわち、まずは法人税法22条3項3号をどのように解釈すべきであるかという点が問題になる。なぜなら、同項2号においては、「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」としており債務確定主義が明確に規定されているものの、貸倒損失の根拠規定である同項3号においては、債務確定主義が明確に規定されていないからである。 この点が、最高裁における上告申立て理由にも「損失の損金算入要件という重要な法令事項に関する重大な解釈の誤り」として記載されており、納税者側の主張としては、第1号に定める「原価」、第2号に定める「費用」と異なり、第3号に定める「損失」については、「確定」という概念は存在せず、「損失」という事実が発生した事業年度において損金の額に算入されるべきであると記載されている。 最高裁判決においては直接的にはこの点には触れられておらず、貸倒損失の計上においては金銭債権の全額が回収不能であることを要するとしているに過ぎないが、控訴審判決においては、「ある損金をどの事業年度に計上すべきかは、具体的には、収益についてと同様、その実現があった時、すなわち、その損金が確定したときの属する年度に計上すべきものと解すべき」であるとしており、「損失」についても「確定」していることが必要であると指摘している。 また、品川芳宣教授によると、 と指摘されている。 これに対し、大淵博義教授は、 と指摘されている。 このように、学説上は争いがあるものの、資産の評価損について「別段の定め」により法人税法33条において厳格に規定されているのに対し、貸倒損失について確定という要素がいらないということになれば、実質的に金銭債権の評価損を認めることになってしまうため、実務上は、貸倒損失についても確定という要素が必要であると解するべきであると考えられる。 (ⅱ) 法人税法22条4項 さらに、法人税法22条4項において、「前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」としているため、貸倒損失の計上については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って処理されることになるはずである。 この点につき、品川芳宣教授は、 として、大阪地裁昭和44年5月24日判決を紹介されている。 さらに、日本興業銀行事件における控訴審判決では、 として、法人税法独自の基準により公正処理基準の検討を行うべきであるとしている。 また、品川芳宣教授が紹介された大阪地裁昭和44年5月24日判決(行集20巻5・6号675頁、判タ238号263頁、金判168号8頁、税資56号703頁)であるが、 と判示している。ただし、本判決については、貸倒損失に関する通達が現在ほどは整備されておらず、「売掛債権の償却の特例等について(昭和29年7月24日直法1-140、直所1-77)」に委ねられていた時代であり、かつ、納税者側も と主張し、結果として、債権金額の全額ではなく、一部についての損金処理を争っていることから、ある程度は割り引いて読む必要がある判決ではある。しかしながら、前述のように、日本興業銀行事件における控訴審において、同趣旨の内容が判決文に記載されていることや、上告審においても、「当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される」としていることから、企業会計よりも厳格に捉えるべきということになると考えられる。 これに対し、山田二郎弁護士は、銀行業の統一経理基準について触れたうえで、 としたうえで、 と批判されている(※)。 (※)そのほかにも、公正処理基準の中に法人税法独自の基準を入れることは許されないという意見として、大淵博義(2009)、中里実(2002)がある。 このように異論はあるものの、過去の判例を見る限り、法人税法における貸倒損失については、その損失の確定について、かなり厳格に捉える必要があるというのが実務的な解釈になると考えられ、むしろ、日本興業銀行事件では、債務者側の事情だけでなく、債権者側の事情も考慮すべきであるとした点で、過去の判例よりも納税者にとって有利に判断していると考えられる。 次回以降は、第1審判決において、被告及び原告のいずれとも論拠として主張している法人税基本通達9-6-1(3)(4)、9-6-2、9-4-1に当てはめを行う形でそれぞれ検討を行うこととする。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第23回】 「小規模宅地特例の適用をめぐる判断」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 企業オーナーや大規模な土地所有者ではない、一般の方の相続税申告業務を行う場合で、東京のような都市部に自宅を所有しているケースでは、自宅土地の評価、及びその小規模宅地特例の適用が、非常に重要となる。 そこで今回は、相続税の小規模宅地特例の評価について説明を行うこととする。 1 小規模宅地特例の概要 小規模宅地特例(正式には「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(租税特別措置法69条の4))とは、自宅土地に関してわかりやすくいえば、他界した方・相続で取得した方が生前から自宅として居住しており、かつ、相続後も、相続で取得した方が自宅として居住している場合に、このような自宅土地に対して、現預金などの相続財産と同じように相続税を課するのは酷であろうという趣旨から設けられた制度であると考えられ、その自宅土地の相続税評価額が一定割合減額される特例制度である。 つまり、自宅土地について、相続前後で居住用として継続利用されている場合、潜在的には経済的な価値はある一方で、売却せずに居住継続している場合には、その経済的な価値に見合う金融資産を得るわけではないため、現預金のような相続財産と同様に相続税を課税するのは酷であろうという判断がされていると推測される。 小規模宅地特例が適用される宅地としては、以下のものがある(租税特別措置法69条の4第3項)。 企業オーナーや個人事業主以外の、一般の方の相続税申告業務という観点からは、(1)特定居住用宅地等及び(2)貸付事業用宅地等のみが対象となるため、本稿ではこの2つに限定して説明を行う。 (1) 特定居住用宅地等 分かりやすく言えば、他界した方の自宅土地が、この特定居住用宅地等に該当する(*1)。 具体的な要件については次回に検討するが、特定居住用宅地等として小規模宅地特例が適用できる場合には、上限240㎡までの自宅土地について、相続税評価額の80%が評価減されることとなる(租税特別措置法69条の4第2項)(*2)。 (2) 貸付事業用宅地等 賃貸アパート、マンションなどの敷地が該当する。 こちらも具体的な適用要件については次回に検討を行うが、貸付事業用宅地等として小規模宅地特例が適用できる場合には、上限200㎡までの当該土地について、相続税評価額の50%が評価減されることとなる(租税特別措置法69条の4第2項)。 2 小規模宅地特例の適用判断 小規模宅地特例が適用できる土地が1つのみである場合には、小規模宅地特例を適用する土地について「どこを選択するか」という問題は生じない。 不動産としては自宅土地のみを所有する方の相続税申告案件であれば、「特定居住用宅地等として小規模宅地特例が適用できるか否か」の判断がポイントとなる。 一方、自宅土地と賃貸アパートを所有している方の相続税申告業務では、以下の判断が必要となる。 上記のうち(1)相続税の対象となる土地(借地権含む)のそれぞれについて、小規模宅地特例の適用要件を満たしているか否かの判断、つまり、小規模宅地特例の適用要件については次回に検討することとし、今回は(2)小規模宅地特例の適用要件を満たす土地について、どの土地に小規模宅地特例を適用するかの判断について検討を行うこととする。 (A) 賃貸アパート敷地が複数あり、いずれにも小規模宅地特例が適用できる場合 相続人全員の相続税総額を最小にするという視点から、以下すべて検討を行う。 小規模宅地特例が適用できる賃貸アパート敷地が複数ある場合、それぞれの土地の㎡当たりの相続税評価額が高いものから順番に適用し、適用上限面積200㎡まで選択することで、相続税総額を最小化することになる。 (B) 自宅土地と賃貸アパート敷地が一箇所ずつあり、いずれにも小規模宅地特例が適用できる場合 それぞれの土地の㎡当たりの相続税評価額が同じであれば、自宅土地についてまず小規模宅地特例を適用し、適用できる枠が余っている場合には、賃貸アパート敷地について、その適用できる枠まで適用する(*5)。 自宅土地と賃貸アパート敷地とが近隣にある場合、賃貸アパート敷地は貸家建付地評価となるため、自用地評価の約8割となり、多くの場合では、自宅敷地のほうが賃貸アパート敷地よりも㎡当たりの相続税評価額は大きくなることが多い。 この場合にも、自宅敷地にまず小規模宅地特例を適用し、適用できる枠が余っている場合には、賃貸アパート敷地について、その適用できる枠まで適用する。 自宅土地よりも賃貸アパート敷地のほうが、㎡当たりの相続税路線価が高い場合には、それぞれに小規模宅地特例を優先的に適用した場合の土地評価圧縮額を各々計算し、有利な方を選択することとなる。 (了)
企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第4回】 「取得関連費用(付随費用)の会計処理」 公認会計士 布施 伸章 ◆ 解説 ◆ 1 企業結合における取得関連費用(付随費用を含む)の取扱い 平成25年改正の企業結合会計基準では、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は発生した事業年度の費用として処理することとされ(企業結合会計基準26項)、また、主要な取得関連費用の内容及び金額の注記が求められることとされた(企業結合会計基準49項(3)④)。 2 個別上の子会社株式の取得原価の算定における付随費用の取扱い 個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、金融商品会計基準及び金融商品会計実務指針に従って算定することになる(企業結合会計基準94項)。 金融商品会計実務指針56項では、金融資産(デリバティブを除く)の取得時における付随費用(支払手数料等)は、取得した金融資産の取得価額に含めることとされており(経常的に発生する費用で、個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用は、取得価額に含めないことができる)、また、金融商品会計Q&AのQ15-2では、個別財務諸表における子会社株式の取得原価には、購入手数料その他、その有価証券の購入のために直接要した費用を含めることとされている。 3 取得関連費用と付随費用との関係 子会社株式の取得原価に含める付随費用(支払手数料等)は、改正前企業結合会計基準26項の「取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等」が相当するものと考えられる。 他方、平成25年改正の企業結合会計基準26項における取得関連費用には間接費も含まれるものと考えられることから(企業結合会計基準94項)、取得関連費用には、付随費用より広い範囲の支出が含まれるものと考えられる(金融商品会計Q&AのQ15-2)。 4 付随費用に関する連結財務諸表と個別財務諸表との調整 子会社株式の取得及び一部売却したときの取得関連費用(付随費用)の個別上と連結上の会計処理を設例により解説する。 なお、以下の解説中の仕訳では、付随費用の会計処理に焦点を当てるため、付随費用に関する部分を区分して記載している。 〔前提〕 X1年3月にX社はY社株式のすべて(100株)を1,000(@10)で購入し、その際、手数料等の付随費用を100支払った。 支配獲得時のY社の純資産は1,000であり、その時価と簿価は一致していた。 X2年3月にX社はY社株式の一部(60株)を1,200(@20)で売却した。なお、X2年3月期のY社の損益はゼロであった。 なお、本設例は、付随費用の会計処理の理解を目的とするため、残存株式の保有割合と有価証券の保有区分との関係は無視する。 (1) 子会社株式取得時の付随費用の会計処理 子会社株式の取得関連費用(付随費用を含む)(100)は、個別上は、付随費用は子会社株式の取得価額に含めることとされているが、連結上、発生した連結会計年度の費用として処理される。 (2) 子会社株式売却時の付随費用の会計処理 【ケース1】 子会社株式の一部売却後も支配関係が継続している場合 (※) NCI(Non Controlling Interest)=非支配株主持分 子会社株式を一部売却したものの、残存株式が子会社株式である場合(支配は継続)、連結上、親会社の持分変動による差額は資本剰余金に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は資本剰余金に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、資本剰余金に振り替えることになる。 【ケース2】 子会社株式の一部売却により、残存株式が関連会社株式となった場合 (※) 開始仕訳及びその振戻処理は省略している。 子会社株式の一部売却により、残存株式が関連会社株式となった場合(支配の喪失)、連結上、親会社の持分変動による差額は損益に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は損益に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、個別財務諸表に計上された子会社株式売却損益の修正として処理することになる。 なお、持分法適用関連会社の株式の帳簿価額には、原則として付随費用が含まれることになるが(持分法実務指針2-2項(3))、本設例のように、支配を喪失して子会社から関連会社となり、持分法を適用することとなった場合には、連結上、支配獲得時に生じた取得関連費用は発生時に費用処理されていることから、関連会社株式の投資原価には過年度に費用処理した支配獲得時の付随費用を含めないことになる(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 【ケース3】 子会社株式の一部売却により、残存株式がその他有価証券となった場合 (※) 開始仕訳及びその振戻処理は省略している。 子会社株式の一部売却により残存株式がその他有価証券となった場合には、連結上、親会社の持分変動による差額は損益に計上されるため、売却価額(1,200)と親会社持分の減少額(600=1,000×60%)との差額(600)は損益に計上される。 付随費用については、子会社株式の売却持分に対応した額(60)を、連結上は、個別財務諸表に計上された子会社株式売却損益の修正として処理することになる。 また、売却後のその他有価証券の帳簿価額は、個別上の帳簿価額によることになる(当該帳簿価額には付随費用(40)が含まれる)。このため、連結上、既に費用処理されている付随費用を資産計上するため、連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に「連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)」等、その内容を示す適当な名称をもって計上することになる(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 5 税効果会計との関係 子会社株式に関する支配獲得時の付随費用や追加取得時の付随費用の会計処理が、連結上と個別上とで異なることから、子会社への投資の個別貸借対照表上の価額と連結貸借対照表上の価額との間に差額が生じることになる。 当該差額は、連結財務諸表固有の一時差異に該当するため、連結税効果実務指針32項(子会社への投資に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上するための要件)又は37項(配当送金されると見込まれるもの以外の将来加算一時差異)に準じて繰延税金資産又は繰延税金負債の計上の可否及び計上額を決定する。なお、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上するときの相手勘定は、法人税等調整額となる(連結税効果実務指針40項及び40-2項のなお書き)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第45回】 資産除去債務① 「会計処理の概要」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X1年4月1日(設備Aの購入時) ② X2年3月31日(期末時) ③ X6年3月31日(設備Aの除去時) 〈会計処理の解説〉 資産除去債務とは、有形固定資産に係る将来の不可避的な義務に関連して生じる除去費用を当期の負債として財務諸表に反映させたものをいいます。 我が国においては、資産除去債務に関する会計基準が適用される前は、電力業界の原子力発電施設の解体費用等の例を除き、有形固定資産の除去に係る将来の不可避的な義務を財務諸表に反映させる会計処理は、行われていませんでした。 しかし、資産除去債務に関する会計基準の適用によって、例えば、定期借地権契約で賃借した土地の上に建設した建物等を除去する義務、鉱山等の原状回復義務、建物等の除去に伴い付随的に発生するアスベストやPCBを除去する義務等はすべて資産除去債務として整理されることとなりました。 それでは、資産除去債務の会計処理の概要を本事例に沿って見てみましょう。 本事例においては、まず、設備Aを取得した時点で、当該設備を使用後に除去する法的義務が生じることが明らかであるため、資産除去債務を計上する必要があります。 そのため、設備Aの除去に要する将来キャッシュ・フロー100を見積もり、当該将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いた86が資産除去債務として負債に計上されます。同時に、資産除去債務として計上された86と同額を、設備Aの帳簿価額に加えます(①の仕訳)。 設備Aの帳簿価額に加えられた86は、減価償却を通じて、設備Aの残存耐用年数である5年間にわたり、各期に費用配分されます。また、時の経過による資産除去債務の調整額3は、発生時に利息費用として処理します。当該調整額3は、期首の資産除去債務の帳簿価額86に当初資産除去債務計上時の割引率である3%を乗じて算定されます(②の仕訳)。 なお、資産除去債務の履行時の資産除去債務残高100と資産除去債務の履行のために実際に支払われた額120との差額20は発生時の費用として認識されます(③の仕訳)。 設備Aの取得から除去までの費用計上額と資産除去債務の変動をまとめると、下記の表のとおりとなります。 * * * 次回は「資産除去債務の適用範囲」です。資産除去債務についてもう少し詳しく見てみましょう。 (了)