日本の企業税制 【第6回】 「課税ベース各論」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 政府税制調査会・法人課税ディスカッショングループでは、早くも法人税課税ベースの拡大の議論が進められている。 3月31日に開催された第2回会合では、欠損金繰越控除制度と受取配当等の益金不算入制度につき議論された。4月14日には減価償却、政策税制(租税特別措置法)がテーマに上げられている。 そこで、課税ベースの各論として、これらの問題の概要と、現時点における経団連の見解を明らかにしておきたい。 2 繰越欠損金 法人は継続的に事業を営んでいることから、ある事業年度の欠損金額を他の事業年度の利益金額と通算せずに、利益の生じた事業年度についてだけ課税するならば、税負担が過重となる。 欠損金の繰越控除制度については、どの国にも存在しているが、繰越期間をみると、先進国の中でも欧州主要国の無制限、米国の20年に比べ、日本の現行制度9年は非常に短い。 現行80%である繰越控除額の使用制限の引下げについては、繰越期間延長とセットで考えてはどうかとの主張がなされているが、「8割×9年間=6割×12年間」などという単純な議論はできない。 欠損金の繰越控除に制限を設けているのは、主要国ではドイツのみであるが、ドイツでは繰越期間が無期限であることから、わが国の欠損金の繰越期間について、大幅な延長が必要である。 また、繰延税金資産のある企業への会計上の影響も念頭に置いた議論が必要である。 なお、日本の欠損法人割合が70%という数字が取り沙汰されているが、その原因の一つとみられるのは、米国よりも多い日本の課税対象法人数であり、その主因である法人成りであると考えられる。 政府税調で示された財務省資料では、米国のデータにおいて法人税が課税されない“S法人”が含まれている一方、日本のデータにおいては、法人税が課税される法人のみが対象となっていたが、S法人の欠損は個人の損失として処理されるため、S法人自体には繰越欠損金は生じることはなく、繰越欠損金の損金算入後の欠損法人の数をカウントするにあたっては、S法人を対象にするのは誤解を招く恐れがある。 法人税が課される普通法人のみを見ると、米国も欠損法人割合が70%となり、日本と類似する。 【米国における法人の状況】 さらに、欠損法人が全く税金を払っていないかのごとく認識されがちだが、欠損法人でも、固定資産税、事業所税、住民税均等割など、所得に関わらず負担すべき税が多いことにも留意すべきである。 【所得に関わらず法人が負担する税の国際比較(対税収総額比)】 3 受取配当益金不算入 法人擬制説では、法人段階で課税された法人税相当額を、配当を受けた個人の段階で所得税から控除する必要がある。 内国法人と個人株主の間に他の法人が株主として存在するときは、中間段階にある法人が受け取る配当にそのまま課税すると、個人段階で所得税から控除する法人税相当額を控除する際に、中間段階で法人税が課された回数に応じてその都度配当控除額を定めなければならないが、そのような計算は不可能であることから、法人が受け取る配当は益金の額に算入しないことで解決している。 現行、持株比率25%未満の株式に係る配当については、50%しか益金不算入を認められていないが、株式保有によって一定の支配や影響力を持ちつつ、事業を展開し、配当で回収することは、資本主義下における当然の経営手法であり、25%未満であっても、他企業とのアライアンス確保や、インフラ事業のように当局による持株制限がある場合もあるので、現行25%で益金不算入制限を区切る考え方には、経営感覚として違和感がある。 また、英国、ドイツなどでは出資比率に関わらず益金不算入とされており、イコールフッティングの確保という観点も重要と考える。 経営上の要請ではなく、ポートフォリオとして保有している分であるとすれば、大量保有報告の基準である5%以下がせいぜいである。 4 減価償却制度 法人が事業に使用する固定資産を取得するために支出した費用の額(取得費)は、その固定資産が事業のために使用されることにより年々、減価する部分に相当する金額を費用として計上することが合理的である。 減価償却については、期間差異に過ぎず、現行の200%定率法を廃止し、定額法一本としても全法定耐用年数内で損金とできる額は変わらないとの見方もされているが、投資コストの早期償却は企業の国際競争力の観点からは軽視できない。 また、減価償却制度については、平成19年度改正において、250%定率法導入、残存価額、償却可能限度額廃止などの大改正が行われたのにもかかわらず、平成23年度改正では、200%定率法へと変更されている。 頻繁な制度改正は、企業の投資計画にも悪影響をもたらすものである。 5 政策税制 政策税制については、各税制措置の内容が政策目的に沿ったものか検証が必要である。 特に、国際標準ないし国際的な動向に沿い、国際的イコールフッティングを実現するために不可欠な制度は恒久化すべきである。 (1) 研究開発税制 諸外国では、法人税率の引下げと研究開発税制の継続・深堀りを同時に実施しており、控除上限・繰越期間等日本よりも優遇されている。また、日本のように政策税制としてではなく、本法で恒久化されている例も多い。 日本が科学技術立国を標榜する以上、成長戦略を実行する上で企業の研究開発は生命線であり、研究開発投資を継続していく上で、特に恒久措置となっている総額部分は、不可欠の制度であり、縮減は絶対に行うべきでない。 (2) 原料用途免税 ナフサ等原料用途については免税が国際標準となっている中、各国とも本則化されているにもかかわらず、日本では「期限の定めのない」租税特別措置に留まっている。 (3) 減耗控除 わが国経済が持続的な成長を実現するためには資源・エネルギーの安定供給の確保が重要であるが、近年は探鉱開発費の高騰、資源獲得競争の激化、国際資源メジャーの寡占化、資源国のナショナリズムの高揚などにより、資源の安定供給確保は以前に比べ、格段に困難さを増している。 減耗控除制度、海外減耗控除制度ともに3年間の期限付きで創設され、直近では平成25年度税制改正において延長・拡充が行われたが、エネルギー資源に乏しい我が国において必要不可欠な制度である。 (4) トン数標準税制 主要海運国においては、1996年以降、トン数標準税制の導入が相次ぎ、同税制は海運業界の世界標準となっている。 わが国においても2008年より適用対象を日本船舶に限定したトン数標準税制が導入され、2013年4月からは一定条件を満たした外国船舶(準日本船舶)にも適用対象の拡大が図られたが、一定の条件の下、全運航船(自国船舶・外国船舶)が適用対象となる諸外国と比較すると依然として適用割合が低い状況となっており、徹底した国際競争条件均衡化の観点からの改善が不可欠である。 * * * 政策税制の見直しについては、あくまでも政策目的と効果の検証がなされることが前提であり、財源策として考えることは問題であると考える。 (了)
区分所有登記要件をめぐる 小規模宅地評価減特例 【第2回】 「所有権の構成と相続開始時期による適用判定ケーススタディ」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 前回は小規模宅地評価減特例(措法69の4)についての平成25年度税制改正の内容を確認し、判定に当たっての論点を整理した。 今回は具体的なケースにより、小規模宅地評価減特例(特定居住用宅地等、配偶者以外の同居親族が相続する場合)の適用について、 に分けて、それぞれ検討していくこととする。 なお、本稿は区分所有登記要件をめぐる小規模宅地評価減特例がテーマであるが、区分所有でない建物との比較において説明をすることにより理解が深まると考えられるため、区分所有でない建物の小規模宅地評価減特例についても検討を行い、区分所有か否かでどのように影響があるのか、理解を深めることする。 検討するのは、以下の6パターンである。 また前提となる土地・建物は下図のとおり。 【前提となる土地・建物】 《ケース1》 二世帯住宅(単独所有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース2》 二世帯住宅(単独所有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居とは判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース3》 二世帯住宅(共有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース4》 二世帯住宅(共有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居とは判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21(上記〈ケース2〉参照)に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される(他の要件を満たしている前提)。 区分所有ではない建物であるため、一棟の建物に住んでいれば(構造上、内部で行き来できなくても)、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 《ケース5》 二世帯住宅(区分所有) [構造上、内部で行き来ができるもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 個人的には、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用されると考える(他の要件を満たしている前提)。 構造上、内部で行き来ができるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されるためである(平成25年度税制改正前は、区分所有登記の有無による判断はなく、あくまで構造上、内部で行き来できるか否かで判断されると思われる)。 また、建物の左側部分だけでなく右側部分に相当する土地についても(つまり土地全体について)、限度面積まで、特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例が適用される。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 区分所有である建物であるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 《ケース6》 二世帯住宅(区分所有) [構造上、内部で行き来ができないもの] 〈平成25年12月31日までに他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 構造上、内部で行き来ができないため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 なお、被相続人Aには配偶者Bがいるため、改正前措置法通達69の4-21(上記〈ケース2〉参照)に定められていた同居特例は適用できず、この点でも被相続人Aと長男Cとは同居として判断することはできない。 〈平成26年1月1日以降に他界〉 特定居住用宅地等として小規模宅地評価減特例は適用できない。 区分所有である建物であるため、被相続人A及び長男Cは同居と判定されないためである。 - まとめ - 上記〈ケース1〉から〈ケース6〉については、被相続人Aには配偶者Bがおり、また、生計別の長男Cが二世帯住宅に住んでいること、長男Cが相続ですべての土地を取得することを前提としている。 ケースによっては、以下のような状況もあり、その場合には特定居住用宅地等としての小規模宅地評価減特例の適用関係も変わってくる可能性があるため、留意が必要である。 賃貸併用二世帯住宅(一棟のマンションを所有しており、その一部に居住し、その他は賃貸しているケースも含む)の場合もあり、小規模宅地評価減特例の適用は相当程度複雑になっている。 平成27年1月1日以降に他界した被相続人の相続税申告からは、基礎控除が引き下がることもあり、都市部で相続税申告業務が増加することが予想されるが、小規模宅地評価減特例の適用がより重要になってくるため、しっかりと理解をし、慎重に対応する必要がある。 (連載了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載58〕 所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と 別表6(20)新様式の変更点 税理士 竹内 陽一 はじめに 所得拡大促進税制(措法42の12の4)は平成25年度改正で導入されたが、当初は適用要件である給与増加額(雇用者給与等支給増加額の基準雇用者給与等支給額に対する割合)のハ-ドルが5%以上と高く、現実に適用例が出るか懸念された。 平成26年度改正において、この増加額が2%以上に縮小されたため、今後の適用の増加が予想されると同時に、適用できるにもかかわらず、失念したなどのリスクも増大している。 そこで以下では、平成26年度改正で公布された改正政省令を踏まえ、本制度の適用要件を改めて確認するとともに、4月14日付けで公布された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」で明らかとなった法人税申告書別表6(20)「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の新様式における主な変更点をまとめた。 1 用語の整理 (1) 雇用者給与等支給額 国内雇用者(※1)の適用年度損金算入給与等(※2)支給額で、国内事業所賃金台帳(※3)記載ベ-スである(この点は以下(3)まで同じ)。 (※1) 対象は法人の使用人に限られ、役員及びその親族を除く(措令27の12の4①)。 (※2) 給与等とは、所得税法28条1項の給与等をいう。 (※3) 労働基準法108条に規定する賃金台帳(措令27の12の4②)。 (2) 基準雇用者給与等支給額 平成24年度の上記(1)の支給額(個人は平成25年)である。 3月決算法人は最も古く「平成24年3月終了事業年度」であり、2月決算法人は最も新しく「平成25年2月終了事業年度」となる。 (3) 比較雇用者給与等支給額 適用年度前期の決算期の上記(1)の支給額である。 (※) 以上(1)から(3)は、賃金台帳ベ-スで計算する。また下記(4)から(6)はその中で継続雇用者に係るものとなるため、雇用保険の一般被保険者ベ-スで計算することとなる。 (4) 平均給与等支給額 継続雇用者給与等支給額を適用年度の給与等月別支給対象者数の合計額で除した金額である。 継続雇用者給与等支給額は、平成26年度改正前は、「(1)から日雇労働者を除く」であったが、平成26年度改正により、2期連続継続雇用者のうち、雇用保険一般被保険者の給与等(継続雇用者給与等支給額)とされた。 したがって上記(1)から(3)までは賃金台帳ベ-スであるが、(4)は賃金台帳のうち、雇用保険の一般被保険者ベ-スとなった(企業において、雇用者が雇用保険一般被保険者のみの場合、これは一致する)。 「継続雇用者」とは、「2期にわたる雇用者」をいい、適用年度でみて、新入社員は前期入社を含み、当期入社を除く。 また退職社員の給与は、前期退職者は除き、当期退職者は含む。 なお、当期定年退職者について「高年齢者継続雇用者」となった場合、その継続雇用に係る給与等は除かれる(措法42の12の4②六・七、措令27の12の4⑪⑫、措規20の9)。 この(4)と下記(5)は月別平均計算であるため、このためにのみ、2期における給与等月別支給対象者数を各月別に計算し合計する必要がある(措法42の12の4②七、措令27の12の4⑬⑭)。 (5) 比較平均給与等支給額 (4)の前期分である。 この(4)(5)及び(6)の給与等月別支給対象者の合計数は、雇用保険一般被保険者ベ-スで、(4)(5)は年間合計額を、(6)は月別で人数を計算し合計する。 (6) 月別支給対象者の合計数 (4)(5)の平均給与等支給額を求めるためには、この2期において、この雇用保険の一般被保険者の月別支給対象者数を合計し、その各期の数を合計する(措令27の12の4⑫)。 この(4)から(6)についての継続雇用者及び継続雇用者の給与等を図示すると、下記のようになる。 赤の部分が継続雇用者及び継続雇用者給与等支給額に該当し、青の部分が継続雇用者及び継続雇用者給与等支給額から除かれることになる。 「定年退職者高年齢継続雇用者」は、その支給額がこの所得拡大促進税制の「継続雇用者給与等支給額」から除かれることになり、その受給者は給与等月別支給対象数からも除かれることになる。 ※高年齢者雇用安定法9①二に規定する継続雇用制度による。 なお、雇用保険の一般保険者は次図を参照いただきたい。 〈雇用保険の適用基準(一般被保険者)〉 (厚生労働省資料より) 2 法人税申告書別表6(20)新様式の変更点 平成26年度改正に対応した別表6(20)「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」は、平成26年4月14日付けで公布された「法人税法施行規則の一部を改正する省令」において明らかとなった(官報号外第84号P17)。 新たな様式は下記のとおりであり、赤枠が新規追加部分、青枠が一部改正部分、緑枠が微修正部分となっている(改正前の旧様式はこちら)。 【別表6(20)新様式】 (1) [4欄]雇用者給与等支給増加割合 ※様式変更なし [4欄]「雇用者給与等支給増加割合」については、様式に変更はないが、判定が5%以上から2%等以上に改定されている点に注意が必要である。 【別表6(20)新様式より抜粋】 (2) 平均給与等支給額等の計算 上記青枠部分である「平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算」枠(下記抜粋)においては、1で解説した平成26年度改正を受け、下記の変更が行われているので注意したい。 [22欄]「雇用者給与等支給額」:賃金台帳記載額 [23欄]「同上のうち一般被保険者である継続雇用者に係る金額」:同上のうち、一般被保険者の継続雇用者、すなわ2期継続雇用者なので、当期入社社員と前期退職者の給与を除いた金額 [24欄]「同上のうち継続雇用制度対象者に係る金額」:当期において定年退職後に高年齢継続雇用者となった継続雇用者給与(高年齢者雇用安定法9①二に規定する継続雇用制度による) [25欄]「継続雇用者給与等支給額」:[23欄]-[24欄] [26欄]「月別支給対象者の合計額」:[23欄]の月別社員数-[24欄]の月別社員数 [27欄]「平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額」:[25欄]/[26欄] 【別表6(20)新様式より抜粋】 (3) 新規に追加された「各経過年数における計算」 上記の赤枠部分(下記抜粋)は、平成26年改正法附則82条2項の適用を受ける場合の記載事項である。 【別表6(20)新様式より抜粋】 3 その他の注意点 企業グル-プ内において、出向があり、かつ、その者の給与について出向先と出向元が負担している場合は、賃金台帳に記載された給与となるそれぞれの負担額=損金算入額を給与等支給額とする(財務省「平成25年度税制改正の解説」p.435)。 この点はこの解説で明快であるが、平成26年度改正により、平均給与等支給額計算において、継続雇用者が雇用保険一般被保険者となった場合、この出向者給与分担金を支出する企業の取扱いは定かではないが、このように、出向元と出向先の両方で賃金が支払われる場合は、雇用保険の被保険者は主たる賃金を支払う事業主との雇用関係についての被保険者となるため、その企業における継続雇用者となると考える。 4 平成26年3月決算法人の注意点 下図のとおり、旧基準を満たす場合は旧基準のみの適用となる。 詳しくは本誌掲載の拙稿「所得拡大促進税制の経過措置(平成26年度税制改正)-3月決算法人の場合-」を参照いただきたい。 【参考図】 ((出典)長谷川敏也「所得拡大促進税制の拡充と平成25年度申告実務の留意点」『T&A master』(No.539(2014.3.17)p.16)) (了)
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第4回】 「「有利選択」のケーススタディ① 事業用不動産の譲渡があるケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 本連載では消費税の仕入税額控除の実務についてみているところであるが、第4回となる今回からは、個別対応方式・一括比例配分方式「有利選択」の実務と題して、ケーススタディ形式でいずれが有利か見ていくこととする。 最初のケーススタディは事業用不動産の譲渡があるケースである。 《損益計算書》 税込(単位:円) 《上記損益計算書に係る留意事項》 ① 売上高の内訳 売上高はすべて国内における商品売上高である。 ② 当期商品仕入高の内訳 当期商品仕入高はすべて国内における商品仕入高である。 ③ 販売費及び一般管理費の内訳 ④ 受取利息配当金の内訳 受取利息配当金の内訳は銀行預金利息6,800円と上場株式の配当金100,000円である。 ⑤ 支払利息 支払利息は銀行からの借入金に関する利息である。 ⑥ 貸倒損失 貸倒損失は国内の商品売上に係る売掛金の貸倒額で、すべて平成27年3月期の売上分に係るものである。 ⑦ 不動産売却益 不動産売却益は事業用不動産を120,000,000円で売却したときの、その帳簿価額100,000,000円及び仲介手数料3,240,000円(税込)を控除した金額である。 ⑧ 基準期間の課税売上高 基準期間の課税売上高は458,200,000円である。 《課税売上割合の計算》 ① 課税資産の譲渡等の対価の額を計算する。 ② 非課税売上高を計算する。 なお、上場株式の配当金は課税対象外(不課税)である。 ③ 資産の譲渡等の対価の額を計算する。 ④ 課税売上割合を計算する。 《課税仕入れに係る消費税額の計算》 次に課税仕入れに係る消費税額を計算する。 ① 課税仕入れに係る支払対価の額 ② 課税仕入れに係る消費税額 《個別対応方式による場合の控除税額》 ① 課税売上対応分 ② 共通売上対応分 ③ 個別対応方式による場合の控除税額の計算 《一括比例配分方式による場合の控除税額》 《個別対応方式又は一括比例配分方式の選択》 《貸倒損失》 6.3%課税売上(税率8%のうちの国税分)に係る売掛債権の貸倒れについては、その領収できなくなった日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その領収することができなくなった課税資産の譲渡等の税込価格に係る消費税額の合計額を控除することとなる(消法39①)。 ◆本ケースの評価◆ 本ケースは、通常の課税期間であれば課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が500,000,000円以下であるため、仕入税額の全額控除が受けられたにもかかわらず、たまたま非課税取引となる事業用不動産である土地の譲渡があったため、課税売上割合が大幅に低下したことから、仕入税額控除に関し個別対応方式と一括比例配分方式の選択適用が求められることとなった事案である。 本ケースの場合、課税売上割合も低下したが、一括比例配分方式による仕入控除税額も課税売上割合の低下に合わせて減額した。また、課税仕入れに係る消費税額のうちその大部分を課税売上対応分に分類することができた。 このように、個別対応方式の用途区分を的確に分類でき、かつ課税売上対応分にできるだけ金額を寄せることができる場合には、一般に個別対応方式を選択する方が有利である。 なお、課税仕入れに係る消費税額であるが、消費税においては法人税のような費用収益対応の原則が適用されず、ある課税期間に仕入れた物品やサービスに係る税額は、対応する売上の計上すべきタイミングにかかわらず、原則としてその課税期間において控除される。したがって、当期商品仕入高(8%適用)は当課税期間において仕入税額控除を行い、期首商品棚卸高に含まれる税額は前課税期間以前に既に仕入税額控除を行っていることとなる。 * * * 次回は、医療機関のケースについて検討を行う。 (了)
まだある!消費税率引上げをめぐる実務のギモン 【第8回】 「売上の計上基準における適用税率の取扱い」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 寺村 維基(執筆) 第8回である今回は、事業者間で売上・仕入の計上基準が異なる場合について、以下の具体的な事例を交えて解説を行うこととする。 【解 説】 消費税の新税率は、経過措置の適用がある場合を除き、施行日以後に行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等に適用される(改正法附則2)。 上記事例の場合、売り手側が施行日前に行った課税資産の譲渡等に該当するので、買い手側においても、旧税率による仕入税額控除の計算を行うこととなる。結果として、売り手側も買い手側も旧税率による処理を行うこととされる。 まず、消費税における棚卸資産の引渡しの時期については、売り手側は原則として消費税法基本通達9-1-2(※1)によるものと考えられ、買い手側は消費税法基本通達11-3-1(※2)により「資産の譲渡等の時期の取扱いに準ずる」ものとされている。 この取扱いによると、検収基準を継続して採用している場合には、施行日以後に検収したものは新税率である8%を適用することが想定される。 しかしながら、請求書等で「本体価格○○円、消費税××円」、「○○円(うち消費税××円)」と記載されていることにより、その商品に係る消費税率が明らかな場合には、売り手側と買い手側の適用税率に相違が生まれ、検収基準を適用する買い手側が有利となってしまうことを、課税の公平の観点からも売り手側の適用税率に合わせることを要請したものと思われる。また、売上げに係る対価の返還等について、平成25年4月公表の「消費税率の経過措置Q&A」における取扱いにおいても、売り手側と買い手側との適用税率を統一することを前提としている。 よって、実務的には、売り手側が発行した請求書等に記載された税率に従って買い手側も処理することが、平成26年1月公表の「消費税率引上げに伴う資産の譲渡等の適用税率に関するQ&A」において明記された。 なお、買い手側は、4月に検収した商品について一律に新税率を適用して仕入税額控除の計算を行うことができなくなり、売り手側が5%で売上計上した部分を抜き出すために請求書と突合する作業を行わなくてはならなくなり、事務処理の手間が増えることとなる。 また、請求書にて税込金額のみを記載(総額表示)しているような場合には、新税率、旧税率のどちらの税率の適用時の分を請求されたものか判断できないため、請求書への適用税率の付記や再発行してもらう等の対応が必要になるものと思われる。 【解 説】 委託販売を行っている場合において、委託者が消費税法基本通達9-1-3のただし書きによる売上計算書が到着した日に売上計上を行っている(いわゆる仕切計算書到達日基準を採用している)ときは、施行日以後に到着した売上計算書に受託者が施行日前に販売した商品の売上げが含まれていても、その売上げについても原則として委託者は新税率である8%を適用することとなる。 ただし、売上計算書おいて委託した商品の譲渡日が明らかな場合には、原則通り施行日前に売り上げたものは旧税率である5%、施行日以後に売り上げたものは新税率である8%を適用することとなる。 例えば、平成26年3月21日から4月20日までの間に行われた委託品の販売状況が記載された売上計算書が4月25日に届いた場合において、その売上計算書で譲渡日が明らかにされているときは、平成26年3月21日から平成26年3月31日までの間に譲渡されたものは5%、平成26年4月1日から平成26年4月20日までの間に譲渡されたものは8%の税率が適用される。 なお、売上計算書において譲渡日が明らかでない場合には、売上計算書の到着日における適用税率を採用することとなる。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第27問】 「転勤のため単身赴任し、妻子の住む家屋を譲渡した場合」 -配偶者等の居住用家屋- 税理士 大久保 昭佳 Q 会社員Xは、5年前に会社から大阪勤務を命ぜられ、妻子を東京に残して単身赴任しました。 Xは大阪で社宅住まいをし、妻子はX所有の東京の家屋に引き続き居住していましたが、このほど、東京の家屋を売却して大阪で家族一緒に住むことにしました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、当該事情が解消したときは当該配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋は、その者にとっても、その居住の用に供している家屋に該当する(措通31の3-2(居住用家屋の範囲)(1))。 ただし、その者が、その居住の用に供している家屋を2以上所有する場合は、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋のみが「特例」の対象となる家屋に該当することにも留意が必要である(措通31の3-2(1)(注))。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【33】 〔第5章〕法令用語 (その19) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 11 取消・無効・撤回 前回や前々回に解説した「期限や期日を示す表現」では、単に法令用語というのみならず、民法等の他の法令による解釈をも交えて解説した。 引き続き、類似の意味を有する用語ではあるが、その意義については民法上に規定がある「取消」と「無効」について確認する。そしてこの「取消」と似た意味を有する「撤回」(この意味でありながら、かつては条文上「取消」と記されていたものもあった(改正前民法521条))についてもここで説明する。 ① 民法上の意義 外形的に見ると法律上の効果を求めた法律行為ないし意思表示がありながら、法律がこれに対して直接にその効力を否定する(無効)、又は行為者にその効力を否定する事を認めている場合がある。そしてこの後者の場合においても、はじめに遡って効力を否定するもの(取消)と、はじめに遡ることはせず将来にわたりその効力を失わせるもの(撤回)とがある。 では、この差異について詳しく見てみよう。 Ⅰ 無効 「法律行為の無効」とは、法律行為が有効となるための要件を満たしていないために、その行為が法律効果を生じないことをいう。また、「意思表示の無効」とは、表意者に行為能力がない場合等、主観的有効要件を満たしていないために、その行為がその法律効果を生じないことをいう。 そして無効は、法律がこれに対して直接にその効力を否定するものであるから、誰でも無効を主張でき、その及ぶ範囲も当事者に限られないのが原則である。また民法119条に「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない」と規定されているように、追認は認められないのが原則である。 しかし、この無効にもいくつか種類があるため、以下に説明する。 (1) 無効主張権者及び無効の及ぶ範囲による分類 (A) 絶対的無効 当事者間だけではなく、第三者に対しても主張できる無効である。また当事者だけでなく第三者からも主張できる無効である(公序良俗違反の法律行為や強行法規違反の法律行為がこれに該当する)。民法上の無効は、絶対的無効が原則である。 (B) 相対的無効 無効の主張が当事者間のみにしか許されず、善意の第三者に対しては主張できないものをいう。この意味から当然、第三者からの主張は原則認められない。 (C) 取消的無効 相対的無効の一種であるが、その中で無効の主張が当事者の一方にしか許されないものをいう。例えば、錯誤(民法95条)による無効は表意者を保護するための制度であることから、無効主張は原則として表意者のみが主張できるものとされている。ただし、例外的に表意者自身が要素の錯誤を認めている場合に、第三者に債権保全の必要があるときには表意者の債権の代位行使が許されるとして、第三者からの無効主張が認められている(最判昭和45年3月26日民集24巻3号151頁)。 この取消的無効は、取消的とあるように取消に近いものであるが(このように判例等で無効が取消類似のものになることを、一般的に「無効の取消化」という)、完全に同じものではない。例えば無効な法律行為は初めから効力がない為に時間が経過しても法律上の効力を生じることはないが、取消の場合は取消権が時効期間等にかかって消滅すると取消はできなくなる。 (2) 他の要素を変更や追認などにより有効なものに転換しうるか否かによる分類 (A) 確定的無効(確定無効) 他の要素を変更しても有効になることはない無効である。公序良俗違反の法律行為や強行法規違反の法律行為は追認や他の要素を変更しても有効とはならないので確定的無効である。したがって、追認によっても、その効力を生じないのが原則である(民法119条)。民法上の無効行為の原則は確定的無効である。 (B) 不確定的無効(未確定無効) 他の要素を変更すると有効となりうる無効のこと。例えば、無権代理行為による無効は、本人の追認によりその効力は本人に帰属することになる(民法113条)。ただし、追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなされるので、原則、遡って有効となるわけではない(民法119条)。 Ⅱ 取消 取り消すことのできる行為(「取り消しうべき行為」ともいう)は、取消権を行使までは有効であるが、取消権が行使されると、初めから無効であったとみなされる(民法121条)。 無効は当然に初めから効力を生じないのに対し、取消は効力が一応生じている法律行為につき法律で認められた取消権者が取消をなすことによってはじめに遡って効力を失うことになる点で異なる。 また上記のように、無効な法律行為は初めから効力がないために時間が経過しても法律上の効力を生じることはないが、取消の場合は取消権が時効期間等にかかって消滅すると取消はできなくなる。 また原則、無効な行為は追認によってもその効力を生じないが、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときには新たな行為をしたものとみなされ、その追認の時から効力を生じることになる(119条)。これに対して、取消は、取消権を行使するまでは有効なのであるから、追認権者が追認したときは以後は取消ができなくなり確定的なものになるにすぎず、はじめから有効なものである。 Ⅲ 撤回 一般的には、申し出た事柄を取りやめて、当該申し出がなかったことにするという意味で用いられる。しかし民法上は、表意者が、ある行為を将来に向かって無効とさせることである。撤回行使時まではその意思表示は有効であり、撤回行使時からその意思表示が無効となる。また撤回は、未だ効力が生じていない法律行為や意思表示についてなされるものであり、その効力の発生を阻止する点で取消や解除(一方の当事者の意思表示によって有効に締結された契約を解消し、これによって生じた債権債務関係を契約成立前の状態に復する制度)等と異なる。 (次回に続く)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第11回】 「諸税金に関する会計処理」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 前述のとおり、平成23年3月29日付で、過年度遡及会計基準を受けて、「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)が改正されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 主な改正内容 アンダーラインの部分が改正された部分である。 Ⅱ 過去の誤謬に起因するもの 前述のとおり、実務指針63号では、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づき処理することになる。 その際、実務指針63号では、 と規定している。 ここで、「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかについては、事実関係を把握し、慎重に判断する必要があると考えられる。 例えば、課税所得に乗ずる法人税率について、誤った税率を用いていた場合には、特段の理由がない限り、「過去の誤謬に起因するもの」に該当すると考えられる。 一方、税務上、損金算入が可能と判断し、税金計算を行ったところ、後日、税務調査が行われて当該損金算入が否定されることがありうる。 この場合、過年度の税務上の判断が「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかは慎重に判断する必要がある。 例えば、当時の損金算入を可能とする判断について、事実関係の把握を十分に行い、関連する税法を調査し、税務の専門家に相談したうえで、損金算入可能と判断していた場合には、必ずしも「過去の誤謬に起因するもの」とは言えないと考えられる。 ただし、当時の損金算入を可能とする判断について、事実関係の把握や関連する税法の調査などがずさんである場合には、「過去の誤謬に起因するもの」と判断されるケースもありうると考えられる。 このため、「過去の誤謬に起因するもの」に該当するかどうかについては、損金算入可能と判断した経緯などを十分に踏まえて、慎重に判断する必要があると考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第40回】 退職給付会計⑦ 「退職給付債務―割引率について」 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (*1) 当期の勤務費用36+当期の利息費用6 なお、個別財務諸表上の会計処理は上記のとおりですが、連結上は「退職給付に係る負債」という勘定を使用するため、下記の組替仕訳が必要となります。 (連結修正仕訳) 〈会計処理の解説〉 すでに解説したとおり、退職給付債務の計算は以下の3つのステップに分けることができます(図1)。 退職給付債務は、退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算します。 今回はSTEP3の割引計算で利用する割引率について解説します。 《図1》(再掲) STEP3の割引計算は、期末までの発生額を期末時点の現在価値に引きなおすための計算であり、その際に用いる利率を「割引率」といいます。 退職給付債務の計算における割引率は、国債、政府機関債、優良社債等の期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として設定するとされています。そして、優良社債には、例えば、複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債等が含まれます(退職給付に関する会計基準の適用指針第24項)。 割引率は、退職給付支払ごとの支払見込期間を反映するものでなければなりません。その割引率としては、例えば、退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が含まれます(退職給付に関する会計基準の適用指針第24項)。 (了) ※5月は、過年度遡及会計を取り上げます。
設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる ~設備投資における管理会計のポイント~ 【第8回】 「「設備投資の経済性計算」では判断が難しい場合」 公認会計士・税理士 若松 弘之 〈「設備投資の経済性計算」では判断が難しい場合とは〉 【第6回】・【第7回】で解説してきた「設備投資の経済性計算」は、あくまで計算に必要な金額や情報が適切に集計できることを前提としていた。 ところが、実務や現場では必ずしもそのように簡単に事が進まず、ある設備投資を実行することによって、どの程度の売上(または収入)もしくは利益(または正味キャッシュ・フロー)が増えるかという直接的な投資効果がはっきりと分からない場面も多いであろう。 完結した新製品製造ラインを導入した場合や、今まで人手をかけて行っていた作業をすべて機械が代替するようになった場合など、直接的な設備投資効果が分かりやすい設備投資ばかりではないのである。 例えば、既存製造ラインの一部設備のみを取替更新する場合や、製品不良率を抑えるため、または品質維持のため新しい機械を導入する場合などは、歩留り率向上による原価低減効果を間接的に測定する必要があり、適切な原価計算システムが構築されていることが大前提となる。 大まかに分類すると、設備投資は次の4つのパターンになる。 (ア)については、売上数量や単価の増加を合理的に予測し、設備投資の結果として売上高がどの程度増えるのかを測定することになる。 (イ)については設備投資によって、直接的に売上高が増えるわけではないが、不良率が下がることで原材料投入量が少なくて済んだり、稼働時間が短くなったり、電気・水道代が減少したりするなどにより、費用がどの程度減るのかを測定することになる。 (ア)と(イ)とも、結果的には利益および正味キャッシュ・フローの増加につながるものであり、「設備投資の経済性計算」になじむものであるため、何らかの形で売上増加額または費用削減額を測定したり、見積もったりする努力が必要となる。 一方、(ウ)は現状設備でも事業に差し支えはないが、設備の老朽化に伴い不具合や修理頻度が増加することに対応し、設備や部品などを更新することで一定水準の生産性を維持しようというものである。 また、これにより現有設備全体の寿命が延びるという効果もある。 この場合に「差額キャッシュ・フロー」の視点が必要となる。 例えば、現状設備を使用し続ける場合に増大するメンテナンスコストや修理費用、トラブルによって製造ラインがストップすることに伴うコストが年間100万円とする。 一方、300万円の最新鋭設備を導入した場合、メンテナンスコストは発生しなくなるとしよう。 仮に5年間その状態が維持できるとするならば、5年間におけるキャッシュ・フロー比較は下表のようになり、設備投資による差額キャッシュ・フローは+200万円となる(厳密には5年にわたるキャッシュの時間的価値を考慮すべき)。 したがって、(ウ)のような設備投資においては、設備投資しなかった場合に発生するマイナス影響である機会損失としての「差額キャッシュ・フロー」を適切に把握することが大事である。 そして「差額キャッシュ・フロー」がプラスになるのであれば、追加的な設備投資を積極的に検討することになる。 大事なポイントは、設備使用が長期間に及ぶ場合、現状に満足することなく、常に「差額キャッシュ・フロー」がプラスになるような代替的かつ追加的な設備投資機会を模索することである。 最後に(エ)のような設備投資であるが、これが最も意思決定を困難にするものとなる。 これらは、生産能力や品質向上・維持には直接的な関連性はないが、従業員の労働環境や意欲、利便性などを向上させるため建物、附属設備、備品などの投資を行ったり、万が一の自然災害や労災回避、または周辺環境や地域住民などに対する社会的な責任として設備投資を行ったりする場合などである。 例えば、発生可能性はさほど高くないとしても、ひとたび大地震が発生してしまった場合に、耐震補強工事を怠っていたことが原因で、建物や工場が倒壊して、企業に甚大な被害が及ぶかもしれない。 また、有害物質を除去する設備が不十分であったために、環境汚染を引き起こしてしまい、企業の信用が大きく失墜してしまうかもしれない。 これら様々なリスクに関して、未然に回避しようという設備投資も重要である。 一方、従業員の労働環境等の向上は、企業への定着率や生産性を高める効果があると思われるが、必ずしも客観的数値を測定することは容易ではない。 (エ)は、前述(ア)や(イ)の設備投資と比較した場合、企業への利益貢献が明らかでないため、単なる「設備投資の経済性計算」のうえでは、正味現在価値がマイナス評価となり、設備投資案から排除される可能性もある。 しかしながら、定量化できないリスクと向きあい、経験則に基づいてこれらの発生を回避することも重要な経営施策といえよう。 よって、発生リスクと企業への影響度を網羅的に把握し、優先順位の高いものから、政策的判断で設備投資の意思決定を行うことも必要となるのではないだろうか。 〈設備投資の意思決定を適切に実行する経営管理体制〉 設備投資は企業が持続的に成長していくために欠かすことのできない施策であり、金額や規模の多寡はあれども、毎期複数発生するものである。 したがって、本来、すべての企業において、長年かけて構築してきた設備投資の検討体制や仕組みがあるはずである。 以下に設備投資に関する経営管理体制のポイント例を示すので、自社の状況を踏まえて、ぜひセルフチェックをしていただきたい。 * * * 最終回である次回は、第1回から今回までの総まとめをしながら、設備投資減税を正しく活用するポイントについてあらためて確認する。 (了)