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パワーハラスメントの実態と対策 【第3回】「判例と法的解釈」

パワーハラスメントの実態と対策 【第3回】 「判例と法的解釈」   特定社会保険労務士 大東 恵子   職場のパワーハラスメント(パワハラ)は、裁判ではどのように判断されるのか。 いくつか判例をご紹介したい。 ① 日研化学事件(2007年) 2007年に判決が出た「日研化学事件」では、上司の叱責・暴言が原因で被害者が自殺した。 被害者は上司から「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」「おまえは会社を食い物にしている給料泥棒」などの暴言を繰り返し受けていた。 裁判では、これらの行為は、「過度に厳しく、キャリアを否定し人格・存在自体を否定するものだ」と判断され、労災認定までも行われた。 この裁判では、このような言動は、部下の指導の範疇を超え、まさにパワハラ行為そのものと判断された。 【解説】 パワハラ行為は、加害者がどんなに指導と言い張っても通用しない。加害者がパワハラだという認識がなくても、その言動が「社会通念上、客観的に見て過重なもの」と判断されれば、パワハラに該当する。 ここでポイントとなるのが、「社会通念上、客観的に見て過重なもの」という点である。 次に、これによって判決が覆った例を紹介する。   ② 前田道路パワハラ自殺事件(2009年) 2009年に判決が出た「前田道路パワハラ自殺事件」では、不正経理やその隠ぺいを行っていた被害者が、不正を上司から厳しく問いただされたことを苦にして自殺した。 この事件について、2008年の松山地裁の判決では、上司の叱責は「業務上の指導の範疇を超えるもの」と評価され、会社に3,100万円の支払いが命ぜられた。ところが、2009年の高松高裁判決では、「不正経理等についてある程度の厳しい改善指導をすることは、上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるというべきものであり、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものと評価することはできない」とした。 さらに、自殺についても会社側が予見できたかについて、「予見可能性はなかった」として、会社の不法行為責任を否定し、原告の訴えは棄却された。 【解説】 この判例は、「社会通念上、客観的に見て過重なもの」かどうかという論点が、判決を覆した結果となったものである。この点が、パワハラを考える上で重要となる。 しかし、この前田道路パワハラ自殺事件のように、会社側が直接の不法行為責任はなかったと判断されたものであっても、一方で職場の安全配慮義務を怠ったとして債務不履行として責任を問われる可能性がある。 ③ 川崎市水道局事件(2003年) 会社側の債務不履行責任を問われたものとして、川崎市水道局事件がある。 これは水道局職員が職場内におけるいじめや嫌がらせなどにより自殺し、職員の遺族が使用者である市に対して損害賠償を求めたケースである(川崎市水道局事件 東京高裁 平15.3.25判決)。 この判例では、いじめの制止や謝罪など、適切な対応策を講じなかった市に対して、国家賠償法上の責任により、2,300万円の損害賠償義務が命ぜられた。 【解説】 使用者である会社側には、安全配慮義務に基づいて、労働者の就労を妨げるような行為の発生を未然に防ぐとともに、発生した場合には、ただちに是正措置を講ずる義務があるとされている。これらの対応義務を怠り、従業員や第三者に人的・物的損害を与えた場合には、損害賠償等の責任を問われる場合もある。 これは、パワハラにおいても同様であり、発生した場合は相応の対応が必要となる。これを怠ると、上記の判例のように損害賠償義務が命ぜられることもある。 パワハラが発生した際の適切な対応の必要性は、これらの判例から見てとれる。 *  *  * パワハラ行為そのものは、裁判においてどのような判断が下ったとしても、当事者にとっては辛く悲しい出来事に違いはない。会社は、未然に防ぐ対策や、実際に起きたときの解決策が必要となる。 次回は、パワハラの防止策について触れたい。 (了)

#No. 65(掲載号)
#大東 恵子
2014/04/17

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第3回】「契約書の「〇〇円(税込)」という記載と買いたたき」

事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第3回】 「契約書の「〇〇円(税込)」という記載と買いたたき」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳     1 「買いたたき」と「合理的な理由」 消費税転嫁対策特別措置法が禁止する「買いたたき」とは、「商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと」をいう(同法3条1号)。 そして、「通常支払われる対価」とは、通常は、特定事業者(買手)と特定供給事業者(売手)との間で取引している商品・役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいうとされる(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)第1部第1の3(2))。 つまり、平成26年3月に税込105円で購入していた商品については、108円が「通常支払われる対価」であり、同年4月以降、108円を下回る価格(105円はもちろん、106円や107円を含む)で購入することは、原則として「買いたたき」に当たる。 そして、このような「通常支払われる対価」を下回る価格での購入が許されるのは、「合理的な理由」がある場合に限られる(公取委ガイドライン第1部第1の3(3))。   2 契約書等における価格表示と「買いたたき」 契約書等において商品や役務の対価の額を合意する場合、消費税に関する表示の方法には様々なバリエーションが考えられる。 そこで、契約書等における価格表示と「買いたたき」の関係を整理すると、以下のようになる。 ア 「100円(消費税別)」 この場合、契約当事者間は、「100円」という本体価格を決めた上で、当該本体価格に法定の税率を乗じた消費税相当額を別途支払うことを合意したものとみられる。 したがって、消費税率引上げ後に合理的な理由なく税込105円のまま据え置くことは、買いたたきに当たる。 イ 「100円(別途消費税5円)」 この場合は、消費税相当額が「5円」と明記されている点が、上記アと異なる。 しかし、契約当事者の意思を合理的に解釈すると、契約当時の消費税率が5%であったことから「5円」という金額を明示したというにすぎず、消費税率が引き上げられた場合に本体価格を減額してでも「5円」という消費税相当額を維持することを合意したものとみることはできない。 したがって、この場合も上記アと同様、消費税率引上げ後に合理的な理由なく税込105円のまま据え置くことは、買いたたきに当たる。 ウ 「100円(税込)」 設問の事例である。 これについては、「消費税価格転嫁等総合相談センターの応答事例」に、以下のとおり同様の事例が掲載されている。 つまり、契約当事者の意思を合理的に解釈すると、「100円(税込)」という記載は、契約当時の消費税率が5%であったことを前提に、本体価格と5%の消費税相当額を合わせて100円とすることを合意したものであり、消費税率が引き上げられた場合にまで本体価格と消費税相当額の合計を100円に据え置くことを合意したものとみることはできない。 したがって、8%の税率により計算した消費税相当額を支払う必要があるのに、契約書に「100円(税込)」と記載されているからといって税込価格を据え置くことは、「合理的な理由」があるとはいえず、「買いたたき」に当たる。 しかし、法律や税務になじみのない企業担当者が、「100円(税込)」という記載を読み、特に悪気もないまま、消費税率引上げ後も100円のまま据え置いて構わないと文字どおりに解釈し、対価を据え置こうとする場合があり得るだろう。 このような事態が起こらないよう、注意が必要である。   3 企業がとるべき対応 契約書に「100円(別途消費税5円)」(前記イ)や「100円(税込)」(前記ウ)と記載されている場合は、消費税率引上げに当たって混乱を生じないよう、引上げ後の税率を前提とした記載の契約書を新たに締結したり、その旨の覚書・合意書を締結したりすることが望ましい。 また、そのような対応が困難な場合であっても、「買いたたき」を行わないために、8%の消費税率を前提とした支払を行うようにすることは必要不可欠である。 (了)

#No. 65(掲載号)
#大東 泰雄、山田 瞳
2014/04/17

女性会計士の奮闘記 【第16話】「お客様の状況によって提案も変化する」

女性会計士の奮闘記 【第16話】 「お客様の状況によって提案も変化する」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   《主な中小企業の税制メリット》 ① 法人税率について軽減措置があります。 〈普通法人の税率一覧〉   ※ 資本金5億円以上の法人等の100%子法人は適用されません。 ② 交際費課税について特例措置があります。 法人が支出した交際費等は租税特別措置法により損金不算入とされていますが、 中小法人は、 上記ア)とイ)の選択適用を可能とする措置が平成28年3月31日までに開始する事業年度まで講じられます。ただし、イ)は中小企業以外にも認められています。 ③ 中小企業投資促進税制の拡充・延長 中小企業の一定の要件を備えた生産性向上に向けた設備投資(ソフトウエア組込型装置 を含む)を即時償却することが認められています。 以前、資本金3,000万円超の法人は一定の設備投資に対して税額控除が認められていませんでしたが、平成26年度の税制改正で、資本金1億円以下の法人に税額控除が認められるようになりました。 ④ 中小企業等の小額減価償却資産の取得価額の損金算入の延長 取得価額30万円未満のすべての減価償却資産を対象に、平成28年3月31日までに開始する事業年度まで全額即時償却損金算入が認められています。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の状況は日々変わります。 すべてを把握できるわけではありませんが、できれば月に1回は訪問し、この1ヶ月間の出来事や今後数ヶ月の予想される事項を伺い、その状況に応じた適切なアドバイスをしましょう。 その際、口頭だけでなく、分かりやすい資料を使って説明することも大切です。 (了)

#No. 65(掲載号)
#小長谷 敦子
2014/04/17

《速報解説》 平成26年度改正に対応した「法人税」及び「地方法人税」の申告書(別表)様式の変更について

《速報解説》 平成26年度改正に対応した 「法人税」及び「地方法人税」の申告書(別表)様式の変更について   Profession Journal編集部   平成26年度税制改正関連法令の公布を受け、4月14日付け官報号外第84号において「法人税法施行規則の一部を改正する省令」等が公布された。 これにより、平成26年4月1日以後終了事業年度から適用される法人税申告書(別表)様式の改正内容が明らかとなった(「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」も同日公布)。 また、平成26年度改正で創設された地方法人税についての申告書及び付表が同日公布の「地方法人税法施行規則及び法人税法施行規則の一部を改正する省令」で明らかにされている。 同省令の施行に伴い、平成26年10月1日以後終了事業年度から適用される「法人税法施行規則の一部改正」が別途行われていることから、事業年度による申告書様式の改正については注意を要する。 〈平成26年4月1日以後終了事業年度から適用される法人税申告書〉 今回明らかとなった様式の改正のうち、主なものは下記のとおりである。 別表6(6):試験研究費の総額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(7):中小企業者等が試験研究を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(8):試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(12):中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※中小企業投資促進税制 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(15):国家戦略特別区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ⇒★新設(措置法42の10) ※別表6(16)は「国際戦略総合特別区域において機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(措置法42の11) 別表6(17):雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※雇用促進税制 ⇒一部改正 (旧様式はこちら)   別表6(20):雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※所得拡大促進税制 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表6(21):生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 ※生産性向上設備投資促進税制 ⇒★新設 別表12(1):海外投資等損失準備金の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表12(2):新事業開拓事業者投資損失準備金の損金算入に関する明細書 ※ベンチャー投資促進税制 ⇒★創設 別表12(3):特定事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書 ※事業再編促進税制 ⇒★創設 別表15:交際費等の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら) 別表15の2:交際費等の損金算入に関する明細書 ⇒全表改正 (旧様式はこちら)   〈地方法人税(平成26年10月1日以後開始事業年度から適用)に関する申告書様式(すべて創設)〉 別表1 各課税事業年度の地方法人税(確定)申告書 別表2 外国税額の控除に関する明細書 別表2付表 各連結法人の外国税額の控除に関する明細書 別表3 法第16条《中間申告:編集部注》第1項の規定による予定申告書 別表3付表1 中間納付額の調整計算に関する明細書 別表3付表2 最初の連結事業年度の前期実績基準相当額並びに連結納税の承認の取消し及び連結納税への加入の場合の調整額の計算に関する明細書 別表3付表3 合併及び残余財産確定の場合の調整額の計算に関する明細書 別表4 退職年金等積立金に係る地方法人税の申告書―退職年金業務等を行う法人の分 (了)

#No. 64(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2014/04/16

《速報解説》 財産評価基本通達改正に伴うパブリックコメントの公募について

 《速報解説》 財産評価基本通達改正に伴う パブリックコメントの公募について   税理士 小幡 修大   国税庁では、現下の社会経済の実態等を踏まえ「財産評価基本通達」の改正を予定しており、以下の点について平成26年5月2日までパブリックコメントを公募している。   1 上場新株予約権の評価 (1) 新株予約権無償割当て及び上場新株予約権 会社の資金調達手段の一つとして、株主にその有する株式の数に応じて当該会社の株式の交付を受けることができる新株予約権を無償で付与し、その権利行使を受けて株式を交付する、「新株予約権無償割当て」(会社法277)という制度がある。 その新株予約権は、会社の申請により新株予約権証券を金融商品取引所に上場することができ(上場新株予約権)、その事例が増加しているが、この場合の新株予約権の評価が明らかにされていないことから、次のとおり評価方法を明らかにする。 (2) 評価方法 新株予約権無償割当てにより株主に割り当てられた新株予約権で、①金融商品取引所に上場されているもの、及び②上場廃止後権利行使期間内にあるものを「上場新株予約権」と定義し、①と②の期間の別に、それぞれ次のように評価する。 ① 上場期間内にある場合 その新株予約権が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格と上場期間中の毎日の最終価格の平均額のいずれか低い金額 (注) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した場合には、金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格 ② 上場廃止後権利行使期間内にある場合 課税時期におけるその目的たる株式の価額から権利行使価額を控除した金額に、新株予約権1個の行使により取得できる株式数を乗じて計算した金額 (注) 権利行使期間内に権利行使されなかった新株予約権について発行法人が取得する旨の条項が付されている場合には、上記②の金額と取得条項に基づく取得価格のいずれか低い金額   2 ストックオプションの定義 上記「上場新株予約権の評価」を新設することに伴い、ストックオプションの定義(評基通168(8))から上場新株予約権に該当するものを除く改正を行う。   3 証券投資信託受益証券の評価 証券投資信託受益証券のうち、上場されているものについては、上場株式における権利落や配当落に相当する現象が生じることを踏まえ、これらを評価方法に反映させる内容の改正を行う。 具体的には、上場株式と同様に以下の定めに準じて評価する。   4 受益証券発行信託証券等の評価 (1) 受益証券発行信託 受益証券発行信託とは、受益証券という有価証券を発行する信託のことで、委託者から拠出された信託財産を信託受託者が管理し、信託財産からの収益や信託財産を受領する権利等(受益権)を受益証券という形にして発行される。その受益証券は証券取引所に上場され、株式と同様に金融商品取引所で売買されている。 このような金融商品取引所に上場される受益証券発行信託の受益証券(具体的には「ETN」と呼称される「指標連動証券」等)が増加しているが、このような受益証券発行信託の受益証券の評価方法が明らかにされていないことから、次のとおり評価方法を明らかにする。 (2) 評価方法 上場されている受益証券発行信託の受益証券については、ETFと呼称される「上場証券投資信託」と同様に評基通199《証券投資信託受益証券の評価》の(注)と同様、この取引相場を基に評価することとする。 また、株式における配当期待権に相当する金銭分配期待権については、評基通193《配当期待権の評価》に準じて評価する。   5 公開途上にある株式の評価 「公開途上にある株式」とは、株式公開が明らかにされた日から株式公開(上場)の前日までの間にある株式をいうところ、現在は金融商品取引所が株式公開(上場)を承認した旨を対外的に公表する手続とされている。 株式の公開価格については、現在、競争入札方式とブックビルディング方式のいずれかの方法により決定することとされている。 これらのことを踏まえ、公開途上にある株式の評価は公開価格(金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる競争入札方式又はブックビルディング方式のいずれかの方式によって決定される公募等の価格)により評価する。 (了)

#No. 64(掲載号)
#小幡 修大
2014/04/15

《速報解説》 「『不服審査基本通達(審査請求関係)の制定について』の一部改正」

 《速報解説》 「『不服審査基本通達(審査請求関係)の制定について』の一部改正」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   1 はじめに 平成25年12月に公表された与党による平成26年度税制改正大綱には、「国税不服制度の見直し」が含まれているが、その多くは、本稿執筆現在、国会にて審議中の行政不服審査法の改正が実現した後に改正される内容となっている。 その中で、唯一、去る3月31日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律」(法律第10号)の中に含まれていた国税通則法第99条の改正を受けて、3月31日付けで「不服審査基本通達(審査請求関係)」の一部が改正された。 本稿では、公布された通則法99条の規定とともに、国税不服審査手続における変更点を検討する。   2 国税通則法第99条の改正事項 改正後の国税通則法第99条は以下のとおりである(下線部分が改正点)。 まず、見出しが、「国税庁長官の指示等」から「国税庁長官の法令の解釈と異なる解釈等による裁決」に改められた。 次いで、「国税庁長官による国税不服審判所長への指示を」という文言が削除されるとともに、国税審議会への諮問は、これまで国税庁長官が単独で行っていたところを、国税庁長官と国税不服審判所長が共同して行うこととなり、審判所長は、国税審議会の議決に基づいて裁決しなければならないという条項が加わった。   3 不服審査基本通達(審査請求関係)の改正 上記の国税通則法第99条の改正を受け、不服審査基本通達(審査請求関係)の一部改正が、3月31日付け、国税庁長官から発遣された(4月9日に国税庁ホームページにて公表)。 具体的には、通達から、以下の規定を削除するというものである。   4 国税不服審判所による説明 本改正に伴い、国税不服審判所が公表した新しいパンフレット「審判所ってどんなところ? 国税不服審判所の扱う審査請求のあらまし」には、以下のような表記がある(7ページ)。   5 改正による影響 本改正により、国税庁長官の発遣した通達に縛られていると言われ続けてきた不服審査のあり方がどのように変わるか、注目される。 よく引き合いに出されるように、内閣府(行政救済制度検討チーム)資料によれば、これまで、国税通則法第99条の規定による国税不服審判所長の申出はわずか9件に過ぎなかったため、国税不服審判所が国税庁から独立していないことの証左の一つとされてきた。 今回の通則法改正によって、国税庁長官の指示が削除され、国税不服審判所長は、国税庁長官が国税不服審判所長の意見を認めない場合でも、国税庁長官と共同して国税審議会に諮問できることとなった。 とすれば、次は、国税審議会がどのように運営されているかが課題となるのではないだろうか。 本制度の透明化、実効性の向上にあたっては、国税庁長官と国税不服審判所長が共同して国税審議会に諮問した場合には、諮問内容と審議結果を適時に開示すべきであろう。 (了)

#No. 64(掲載号)
#米澤 勝
2014/04/15

《速報解説》 監査基準委員会報告書800 「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」 等の確定について

《速報解説》 監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」等の確定について   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年4月4日付(常務理事会の承認は3月19日)で、日本公認会計士協会は次のものを、新たに公表した。 これは、平成26年2月18日付けで企業会計審議会から公表された「監査基準の改訂に関する意見書」に対応するものである。 これらについては公開草案が公表されていたものであり、今回、確定することとなる。 これらに関連して、品質管理基準委員会報告書第1号「監査事務所における品質管理」、監査基準委員会報告書(序)「監査基準委員会報告書の体系及び用語」、監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」など多くのものが改正されている。 また、改正に関して「公開草案に対するコメントの概要及び対応について」が公表されているので、参考にしていただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 「一般目的の財務報告の枠組み」及び「特別目的の財務報告の枠組み」と「適正表示の枠組み」及び「準拠性の枠組み」 1 適用される財務報告の枠組み 平成26年2月18日付で公表された「監査基準の改訂に関する意見書」では、従来の適正性に関する意見の表明の形式に加えて、準拠性に関する意見の表明の形式を監査基準に導入している。 改訂された監査基準では、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表とのそれぞれについて適正性に関する意見の表明と準拠性に関する意見の表明とがあり得る。 監基研Q&Aの「Q2 適用される財務報告の枠組み」では、財務報告の枠組みは次の2つの視点から分類されると述べられている。 財務報告の枠組みが上記のそれぞれの視点においていずれに分類されるかは、監査契約の新規の締結又は更新や監査報告に影響するため重要となる。 一般目的の財務報告の枠組み及び特別目的の財務報告の枠組みは、いずれも、適正表示の枠組みであることもあれば、準拠性の枠組みであることもある(監基研Q&AのQ7)。 監基研Q&AのQ7では、Q4及びQ6に対する回答に記載したそれぞれの分類の性質から、以下の傾向が生じると述べられている。 監基研Q&AのQ7において、次の図が示されている。 2 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例 監基研Q&Aの「Q5 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例」は、特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例として、次のものを挙げている。 監査基準委員会報告書800の付録には、以下の特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査報告書の文例が示されている。 特別目的の財務報告の枠組みを理解するうえで参考になるものと考えられる。   Ⅲ 公開草案からの主な変更点 (了)

#No. 64(掲載号)
#阿部 光成
2014/04/14

《速報解説》 協会公表物デュー・プロセスについて

《速報解説》 協会公表物デュー・プロセスについて   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年4月8日付で、日本公認会計士協会 協会公表物デュー・プロセス検討プロジェクトチームは、「協会公表物デュー・プロセス検討プロジェクトチーム報告-協会公表物のデュー・プロセス透明化に向けた施策について-」を公表した。 日本公認会計士協会が果たすべき役割の拡大、公表物の利用者が会員のみならず広く一般社会へと拡がり、また、その影響もますます大きなものになってきているなどの社会情勢を踏まえ、デュー・プロセスの透明化について検討を行ってきたものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な提言の内容 1 コメント対応について 早急に対処すべき課題として「公開草案に対して寄せられたコメントへの対応」(以下「コメント対応」という)の方法について、提言として取りまとめられている。 公開草案に対して寄せられたコメントへの対応としては、すでに次のものが公表されている。   2 その他 上記のコメント対応のほか、当面実施が可能でかつ委員会の実務指針等の検討内容の透明化に効果的と考える施策として、次のものの実施が提言されている。 (了)

#No. 64(掲載号)
#阿部 光成
2014/04/14

《速報解説》 税理士法改正に伴う「税理士法基本通達」の一部改正について

 《速報解説》 税理士法改正に伴う「税理士法基本通達」の一部改正について   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 平成26年度税制改正に伴う通達改正の一環として、平成26年3月31日付けで、税理士法基本通達の一部改正がなされた。 税理士法については、平成26年度税制改正で大幅な改正がなされているが、今回の通達改正は、改正項目のうち、「登録拒否事由」(税理士法24条)に関するものが中心となっている。 なお、平成26年度税制改正については、平成26年3月31日に所得税法等の一部を改正する法律(平成26年法律第10号)が公布されており、それと同日で、関係する政省令の改正についても公布がなされている。 特に税理士法の改正については、一部の重要な内容が省令に委任されていることから、改正全体を正確に把握するためには、法律改正のみならず、省令改正の内容も確認する必要があるので、留意されたい。   2 登録拒否事由に関する税理士法の改正 税理士登録の申請がなされた際に、登録を受けることができないとされる登録拒否事由として、欠格条項(税理士法4条)に該当していた者(税理士となる資格を喪失していた者)が一定の年数経過によって欠格条項に該当しなくなった(税理士となる資格が復活した)場合に、なお税理士業務を行わせることがその適正を欠くおそれがあるとき、というものが追加された。 従前は、いったん欠格条項に該当したとしても、一定の年数を経過することで特に要件なくして登録が認められるものとされていた。 ところが、今回の改正では、適正を欠くおそれがないという要件が加重され、一定の場合に登録拒否が認められることとなった。 なお、今回の改正では、欠格条項に該当する者として、懲戒免職の処分を受けた公務員のほか、懲戒免職相当で退職手当等の支給を制限する処分を受けた公務員が追加されており、これらの場合は、処分から3年を経過するまで、税理士となる資格を喪失するものとされている。   3 通達改正のポイント 今回の税理士法の改正で追加された登録拒否の要件は、「おそれがある」という不確定概念であり、処分をする側に一定の裁量が認められる余地がある。 そこで、その裁量が適正に行使されるようにするために、税理士法基本通達の一部改正として、「おそれがある」と認められるための一定の基準が定められた。 具体的には、非行の性質や内容、経過期間、本人の反省や謹慎などの具体的状況等を総合的に勘案して判定するものとされており(新税基通24-7)、その基準自体は適切なものといえる。 ここでのポイントは、なお書きとして、懲戒免職された税務職員などを念頭において、期間の経過というごく形式的な基準のみによって安易に登録を認めることのないようにすべきとされていることに意義があるといえよう。 なお、これと平仄を合わせて、税理士の信用又は品位を害する「おそれがある」(税理士法24条7号前段)との要件に該当するための基準も新たに定められている(新税基通24-8)。 (了)

#No. 64(掲載号)
#木村 浩之
2014/04/11

《速報解説》 「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」等の改正について

《速報解説》 「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」等の改正について   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年4月9日付(常務理事会の承認は3月19日)で、日本公認会計士協会は次のものを改正し、公表した。 新たに「監査及び四半期レビュー契約書」を締結する際に、実務の参考になるものと考えられる。 研究報告14号は、監査及び四半期レビュー契約書を対象としており、それに限定されない契約書作成のための概括的な内容、例えば、契約書作成の目的、押印、本文の訂正方法等は、上記①の法規委員会研究報告第10号に記載されている。 研究報告第10号の改正については、字句修正のほか、印紙に関する記載が従来よりも詳細になっている(研究報告第10号、Ⅱ3(6))。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 研究報告14号の主な改正事項 1 国際会計基準(IFRS)任意適用会社 「国際会計基準(IFRS)任意適用会社の監査及び四半期レビュー契約書」の作成例が新設されている。 あわせて、「様式4:監査法人用(会社法監査・金融商品取引法監査、指定社員制度利用)」が新設されている。 2 任意監査の定義 任意監査について、公認会計士法2条1項業務のうち、法令で求められている業務を除く監査(品質管理基準委員会報告書第1号34-2項)をいうとされている(研究報告第14号、Ⅲ1(3))。 3 グループ監査 「構成単位の監査人の側の監査契約書」において、詳細な事項が述べられており、監査契約書において、「親会社の監査人との間のコミュニケーション」に関する例示が示されている(研究報告第14号、Ⅲ2(10)②)。 ただし、これは一例であり、業務ごとに、その必要性や実情に応じた契約書の形式や文言を用いることが望まれると述べられている。 (了)

#No. 64(掲載号)
#阿部 光成
2014/04/10
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