公開日: 2016/07/07 (掲載号:No.176)
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商業登記申請時の株主リスト添付義務化について 【第1回】「改正内容と登記実務への影響」

筆者: 本橋 寛樹

商業登記申請時の株主リスト添付義務化について

【第1回】

「改正内容と登記実務への影響」

 

司法書士法人F&Partners
司法書士 本橋 寛樹

 

【改正の概要】

平成28年4月20日「商業登記規則等の一部を改正する省令」(平成28年法務省令第32号)が公布された。施行日は平成28年10月1日となる。本改正により、登記すべき事項で株主総会の決議を要する場合、登記申請の際に、株主総会議事録に加え、主要株主のリスト(以下、「株主リスト」という)を法務局に提出することが義務づけられる。例えば、取締役の変更や定款変更に係る目的変更、商号変更登記手続で株主リストが求められることになる。

改正の背景の1つに、株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することにより、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ、登記の真実性の確保につながることが挙げられる。

 

【株主リストとは】

株主リストとは、

「登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主の議決権の数に対する(A)その有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる10名の株主 又は (B)その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面」

である(改正商業登記規則61条3項)(下線部、記号は筆者)。

上記条文中、(A)又は(B)それぞれの内容について詳しく見ていく。

(A)は、1人あたりの株主がそれぞれ有する議決権数が少ない場合、(B)は、全体からみて大多数を占める議決権を有する株主が存在する場合が想定される。

以下、事例に即する書式を示した。なお、今後法務省から書式例が公開される可能性がある旨を付記しておく。

〔編集部追記:2016/7/21〕
7月21日付け下記法務省ホームページにて、「株主リスト書式例及び記載例」が掲載されました。
「株主リスト」が登記の添付書面となります」(法務省)

【事例①】

  • 単一株式発行会社(1種類の株式のみ発行する会社)
  • 発行済株式の総数:100株
  • 議決権数:1株1議決権
  • 株主:
    A30株、株式会社B10株、C5株、D3株、E合同会社3株、F3株、G3株、H株式会社3株、I3株、J2株 その他保有株式数1株の株主数35名

(A)証明書例】
証明書 商業登記規則第61条第3項に定める事項は、以下のとおりであることを証明いたします。  氏名又は名称 住所 所有株式数 議決権数 総株主の議決権数に対する その保有株式の割合 A 東京都品川区・・・ 30株 30個 30% 株式会社B 横浜市港北区・・・ 10株 10個 10% C 名古屋市中村区・・・ 5株 5個 5% D 京都市下京区・・・ 3株 3個 3% E合同会社 大阪市淀川区・・・ 3株 3個 3% F 神戸市中央区・・・ 3株 3個 3% G 岡山市北区・・・ 3株 3個 3% H株式会社 広島市南区・・・ 3株 3個 3% I 北九州市小倉北区・・・ 3株 3個 3% J 福岡市博多区・・・ 2株 2個 2% 東京都千代田区丸の内・・・ 株式会社XYZ 代表取締役 甲

議決権の割合が多い株主Aから順に加算しても、総株主の議決権に対する割合が3分の2に達しないが、株主数が10名に達したので、条文の要件を満たす。その他保有株式数1株の株主数35名が存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。

【事例②】

  • 単一株式発行会社(1種類の株式のみ発行する会社)
  • 発行済株式の総数:100株
  • 株主:A60株、株式会社B30株、C10株
  • 議決権数:1株1議決権

(B)証明書例】
証明書 商業登記規則第61条第3項に定める事項は、以下のとおりであることを証明いたします。  氏名又は名称 住所 所有株式数 議決権数 総株主の議決権数に対する その保有株式の割合 A 東京都品川区・・・ 60株 60個 60% 株式会社B 横浜市港北区・・・ 30株 30個 30% 東京都千代田区丸の内・・・ 株式会社XYZ 代表取締役 甲

議決権の割合が多い順の株主Aと株式会社Bの議決権数により、総株主の議決権数に対する割合が3分の2に達するため、条文の要件を満たす。その他保有株式数10株の株主Cが存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。

 

【株主リスト作成のためには】

株主リストを作成するにあたっては、株主名簿で記載されている情報が基礎となる。

株主名簿には、原則として以下の事項を記載する必要がある(会社法121条)。

 株主の氏名又は名称及び住所

 株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

 株主が株式を取得した日

 株式会社が株券発行会社である場合には、株式に係る株券の番号(ただし、株式が発行されているものに限る。)

 

【株主名簿の記載例】

表中、アミカケの箇所は、株主名簿と(B)の株主リストの記載事項が重複するところである。株主リストの記載事項中、議決権数、総株主の議決権数に対するその保有株式の割合は、株主名簿の記載事項を参照して導くことができる。

したがって、株主リストの作成に株主名簿は欠かせない資料といえる。

 

【株主名簿を整備する必要性】

従来、登記手続の添付書面として株主名簿が求められるのは、株券を発行する旨の定めの廃止の登記において、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(商業登記法63条)として株主名簿を添付する場面等に限定されていた。また、株主に関する情報として、株主総会議事録に出席株主数や議決権数等を記載することがあるが、株主の具体的な住所、氏名まで求められることは通常なかった。すなわち、株主の具体的な情報を記載した株主名簿を外部に提出する機会がほとんどなかったといえる。

しかし、株主リストの提供に係る改正商業登記規則施行後においては、登記事項で株主総会決議を前提とする取締役や監査役の選任をはじめとして、定款変更を伴う本店移転、目的変更、商号変更等の登記手続において、株主の住所や氏名といった具体的な情報が記載されたものを提供しなければならない。特に役員の任期満了による改選は定期的に行う必要があるため、株主総会議事録とあわせて株主リストも定期的に作成することになる。

つまるところ、役員の任期管理に加え、株主変動の管理についてもより忠実に行わなければならないことを意味する。

株主名簿の整備が進んでいない会社においては、まず株主リストの提出を要する登記手続に備え、株主名簿の整備が急がれる。

株主名簿を整備することにより、登記手続に対応しやすくなるだけではなく、株主構成の把握による会社のリスクマネジメントにつながる。

*   *   *

次回(2016/7/21公開)は、株主名簿整備の方法と、会社のリスクマネジメントについて述べていく。

【参考URL】
法務省webサイト:『「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集

【参考文献】

  • 後藤孝典=野入美和子=牧口晴一(2015)『中小企業における株式管理の実務 事業承継・株主管理・資本政策 ~中小企業の株式を戦略的にマネジメントする!~』(日本加除出版
  • 江頭憲治郎(2015)『株式会社法[第6版]』有斐閣
  • 内藤卓「「株主リスト」を添付書面とする商業登記規則の改正案等について」登記情報第56巻(2016)3号
  • 梅田亜由美(2016)『中小企業M&A実務必携 法務編』きんざい

(了)

商業登記申請時の株主リスト添付義務化について

【第1回】

「改正内容と登記実務への影響」

 

司法書士法人F&Partners
司法書士 本橋 寛樹

 

【改正の概要】

平成28年4月20日「商業登記規則等の一部を改正する省令」(平成28年法務省令第32号)が公布された。施行日は平成28年10月1日となる。本改正により、登記すべき事項で株主総会の決議を要する場合、登記申請の際に、株主総会議事録に加え、主要株主のリスト(以下、「株主リスト」という)を法務局に提出することが義務づけられる。例えば、取締役の変更や定款変更に係る目的変更、商号変更登記手続で株主リストが求められることになる。

改正の背景の1つに、株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することにより、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ、登記の真実性の確保につながることが挙げられる。

 

【株主リストとは】

株主リストとは、

「登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主の議決権の数に対する(A)その有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる10名の株主 又は (B)その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面」

である(改正商業登記規則61条3項)(下線部、記号は筆者)。

上記条文中、(A)又は(B)それぞれの内容について詳しく見ていく。

(A)は、1人あたりの株主がそれぞれ有する議決権数が少ない場合、(B)は、全体からみて大多数を占める議決権を有する株主が存在する場合が想定される。

以下、事例に即する書式を示した。なお、今後法務省から書式例が公開される可能性がある旨を付記しておく。

〔編集部追記:2016/7/21〕
7月21日付け下記法務省ホームページにて、「株主リスト書式例及び記載例」が掲載されました。
「株主リスト」が登記の添付書面となります」(法務省)

【事例①】

  • 単一株式発行会社(1種類の株式のみ発行する会社)
  • 発行済株式の総数:100株
  • 議決権数:1株1議決権
  • 株主:
    A30株、株式会社B10株、C5株、D3株、E合同会社3株、F3株、G3株、H株式会社3株、I3株、J2株 その他保有株式数1株の株主数35名

(A)証明書例】
証明書 商業登記規則第61条第3項に定める事項は、以下のとおりであることを証明いたします。  氏名又は名称 住所 所有株式数 議決権数 総株主の議決権数に対する その保有株式の割合 A 東京都品川区・・・ 30株 30個 30% 株式会社B 横浜市港北区・・・ 10株 10個 10% C 名古屋市中村区・・・ 5株 5個 5% D 京都市下京区・・・ 3株 3個 3% E合同会社 大阪市淀川区・・・ 3株 3個 3% F 神戸市中央区・・・ 3株 3個 3% G 岡山市北区・・・ 3株 3個 3% H株式会社 広島市南区・・・ 3株 3個 3% I 北九州市小倉北区・・・ 3株 3個 3% J 福岡市博多区・・・ 2株 2個 2% 東京都千代田区丸の内・・・ 株式会社XYZ 代表取締役 甲

議決権の割合が多い株主Aから順に加算しても、総株主の議決権に対する割合が3分の2に達しないが、株主数が10名に達したので、条文の要件を満たす。その他保有株式数1株の株主数35名が存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。

【事例②】

  • 単一株式発行会社(1種類の株式のみ発行する会社)
  • 発行済株式の総数:100株
  • 株主:A60株、株式会社B30株、C10株
  • 議決権数:1株1議決権

(B)証明書例】
証明書 商業登記規則第61条第3項に定める事項は、以下のとおりであることを証明いたします。  氏名又は名称 住所 所有株式数 議決権数 総株主の議決権数に対する その保有株式の割合 A 東京都品川区・・・ 60株 60個 60% 株式会社B 横浜市港北区・・・ 30株 30個 30% 東京都千代田区丸の内・・・ 株式会社XYZ 代表取締役 甲

議決権の割合が多い順の株主Aと株式会社Bの議決権数により、総株主の議決権数に対する割合が3分の2に達するため、条文の要件を満たす。その他保有株式数10株の株主Cが存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。

 

【株主リスト作成のためには】

株主リストを作成するにあたっては、株主名簿で記載されている情報が基礎となる。

株主名簿には、原則として以下の事項を記載する必要がある(会社法121条)。

 株主の氏名又は名称及び住所

 株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

 株主が株式を取得した日

 株式会社が株券発行会社である場合には、株式に係る株券の番号(ただし、株式が発行されているものに限る。)

 

【株主名簿の記載例】

表中、アミカケの箇所は、株主名簿と(B)の株主リストの記載事項が重複するところである。株主リストの記載事項中、議決権数、総株主の議決権数に対するその保有株式の割合は、株主名簿の記載事項を参照して導くことができる。

したがって、株主リストの作成に株主名簿は欠かせない資料といえる。

 

【株主名簿を整備する必要性】

従来、登記手続の添付書面として株主名簿が求められるのは、株券を発行する旨の定めの廃止の登記において、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(商業登記法63条)として株主名簿を添付する場面等に限定されていた。また、株主に関する情報として、株主総会議事録に出席株主数や議決権数等を記載することがあるが、株主の具体的な住所、氏名まで求められることは通常なかった。すなわち、株主の具体的な情報を記載した株主名簿を外部に提出する機会がほとんどなかったといえる。

しかし、株主リストの提供に係る改正商業登記規則施行後においては、登記事項で株主総会決議を前提とする取締役や監査役の選任をはじめとして、定款変更を伴う本店移転、目的変更、商号変更等の登記手続において、株主の住所や氏名といった具体的な情報が記載されたものを提供しなければならない。特に役員の任期満了による改選は定期的に行う必要があるため、株主総会議事録とあわせて株主リストも定期的に作成することになる。

つまるところ、役員の任期管理に加え、株主変動の管理についてもより忠実に行わなければならないことを意味する。

株主名簿の整備が進んでいない会社においては、まず株主リストの提出を要する登記手続に備え、株主名簿の整備が急がれる。

株主名簿を整備することにより、登記手続に対応しやすくなるだけではなく、株主構成の把握による会社のリスクマネジメントにつながる。

*   *   *

次回(2016/7/21公開)は、株主名簿整備の方法と、会社のリスクマネジメントについて述べていく。

【参考URL】
法務省webサイト:『「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集

【参考文献】

  • 後藤孝典=野入美和子=牧口晴一(2015)『中小企業における株式管理の実務 事業承継・株主管理・資本政策 ~中小企業の株式を戦略的にマネジメントする!~』(日本加除出版
  • 江頭憲治郎(2015)『株式会社法[第6版]』有斐閣
  • 内藤卓「「株主リスト」を添付書面とする商業登記規則の改正案等について」登記情報第56巻(2016)3号
  • 梅田亜由美(2016)『中小企業M&A実務必携 法務編』きんざい

(了)

連載目次

筆者紹介

本橋 寛樹

(もとはし・ひろき)

司法書士

東京都出身
平成23年3月 早稲田大学社会科学部社会科学科卒
平成24年10月 司法書士試験合格
東京都内の司法書士法人に勤務、相続・商業登記を中心に実務経験を積む
平成28年3月 司法書士法人F&Partners入所

【事務所】
司法書士法人F&Partners(東京事務所)
〒101-0038
東京都千代田区神田美倉町10番地 喜助新神田ビル2階
TEL:03-6265-6493
FAX:03-6265-6497
URL:http://www.256.co.jp/

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弁護士 辺見 紀男、弁護士 武井 洋一、税理士・公認会計士 山田 美代子 編集代表  弁護士 ?田 由貴、弁護士 岸本 寛之、弁護士 畑中 淳子、弁護士 平井 智子、弁護士 川見 友康、社会保険労務士 椎野 登貴子、司法書士 高津 笑、行政書士 鈴木 康子 編集委員
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