2026年3月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.659を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.157- 「責任ある積極財政、判断するのは国民」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 総選挙で大勝した高市首相、2月の施政方針演説で政策の本丸は「責任ある積極財政」と改めて述べた。 今のところ「責任ある積極財政」を占うのは、令和8年度予算案だ。令和8年度予算案は、一般会計ベースで「国債費を除く一般歳出等」と「公債金収入を除く税収等」を比べると後者の方が1.7兆円ほど多く、プライマリーバランスの黒字になっている。 これを総理や財務大臣は、「責任ある」と胸を張っている。しかしそのプライマリーバランス単年度黒字化という財政目標を取り下げ、複数年度で判断できるようにするとも言明している。この辺りの整合性はどうなるのだろうか。単年度で赤字になっても、翌年度、あるいは翌々年度でつじつまを合わせるということなのだろうか。 * * * 次に責任が問われるのは、2年間食料品消費税ゼロ(以下消費税減税)だ。特例公債は出さないというが、財源は不明確で、また2年間で終わるかどうかもわからない。「責任ある」かどうか、いつの時点で、誰が判断するのか、仮に無責任ということになると引き返すことはできるのか、考えれば考えるほど疑問が湧いてくるスローガンだ。 消費税減税には単年度5兆円の財源が必要になる。特例公債は出さないということなので、外為特会や日銀保有のETFの売却(日銀納付金として税外収入の増加となる)、基金の整理統合などいわゆる「埋蔵金」から捻出する議論が進んでいる。 そのあと給付付き税額控除を導入する予定なので、その財源も必要になる。3月の訪米を終えればたちまち防衛費の増額が大きな課題となる。 何とか埋蔵金から5兆円捻出できても、マーケットは今度、防衛費の財源探しに目を向けるだろう。中期的なわが国の財政需要にきちんと答えているのかどうかという判断となる。 * * * 難しいのは、消費税減税を2年でやめることと給付付き税額控除のつなぎをどうするかという点だ。消費税減税は年金生活者など国民全員に恩恵が行くが、給付付き税額控除は基本的に勤労者をターゲットにしたもので、受益者は異なる。そうなると、2年後に年金生活者などは食料品が8%に増税となり、給付はないということになりかねない。これで政治的に耐えられるのだろうか。 基礎年金については、別途「年金底上げ」の議論が必要で、年金改革として議論をして基礎年金の充実を図るべきだと考えるが、この辺りをどう設計するのだろうか。 「責任ある」かどうかを判断するのは、一義的には市場(マーケット)ということになるが、市場というのはグリーディーな投資家のあつまる金儲けの場でもある。その判断が必ずしも絶対ということにはならない。最終的には国民が判断するべきだと考える。 * * * 更なる円安が進みインフレ要因となれば中低所得者には大きな打撃となる。国債金利が上昇すれば、住宅ローン金利や中小企業の借入金利の上昇につながり、国民生活に大きな影響が及ぶ。「責任ある財政政策」の最終的な影響は国民自らに降りかかる。安易な消費税減税を喜んでいいのかどうか。 国民会議では、今後増加が予想される防衛費や社会保障費などすべてをテーブルに乗せて大きな議論をすることが必要だ。部分的な解決では大きな方向を見誤ってしまう。 (了)
《税務必敗法》 【第10回】 「税務手続の情報提供を忘れた」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 X会計事務所の顧問先である3月決算の株式会社A社(資本金1,000万円)は消費税の納税義務者である。X会計事務所は、A社の申告を電子申告で行っている。一方、A社はダイレクト納付の申込みはしておらず、これまで納付は金融機関の窓口で行っている。 前々事業年度および前事業年度は、法人税等は地方税の均等割のみの納付で、消費税等は還付であった。そのため、A社の経理担当者は、この2年間、消費税の納付経験がなかった。 当事業年度は、法人税等は引き続き地方税の均等割のみの納付であったが、消費税は納付となった。X会計事務所は、5月第3週目にA社の法人税等および消費税等の確定申告書を電子申告により提出し、併せて納付一覧を送付して、5月末日までに納付するよう伝えた。 その後、5月第4週目に入り、A社の経理担当者から次のような電話があった。 「地方税の均等割は納付書が届いたので納付したが、まだ消費税の納付書が届いていない。どのような方法で納付すればよいのか。」 これに対して、X会計事務所の担当者は「2024年5月送付分からe-Taxで申告している法人には納付書は送付されなくなったため、税務署で納付書を入手して納付してほしい。」と回答した。 すると、A社の経理担当者からは「そのような重要な変更は、もっと早く説明してほしかった。」と不満を述べられた。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「税務手続の情報提供を忘れた」である。 ここ数年、国税庁からは行政コストの抑制や税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の観点から、税務手続の見直しが行われている。 例えば、一部納税者に対する納付書の事前送付の取りやめと、申告書等の控えへの収受日付印の押なつの廃止が挙げられる。 近年は、キャッシュレス納付や電子申告が普及しているものの、依然として納付書による納付や紙面による申告書等の提出を行っている納税者も多い。 そのため、このような納税者に対しては、税務手続の見直しに関する情報を提供する必要がある。また、納税者は1年経過すると忘れてしまう可能性があるので、この情報提供は毎年行うことがよいであろう。 さらに、納付書の事前送付の取りやめは、地方自治体にも拡大しているので、今後も注意が必要である。 そこで、今回は、会計事務所が税務手続の情報提供を毎年行う必要性について説明する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 最近の税務手続の改正 現在は2026年3月であるが、直近約2年間で以下の税務手続の改正が行われた。 (1) 一部納税者に対する納付書の事前送付の取りやめ 2024年5月送付分からe-Taxにより申告書を提出している法人やe-Taxによる申告書の提出が義務化されている法人などの一部の納税者を対象として、納付書の事前送付は行われなくなった。(国税庁「納付書の事前送付に関するお知らせ」) (2) 申告書等の控えへの収受日付印の押なつの廃止 2025年1月から、申告書等を紙面で提出する場合、申告書等の控えに収受日付印の押なつが行われなくなった。(国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」) 3 地方自治体による納付書の事前送付の取りやめ 地方税についてもeLTAXで申告書等を提出している法人に対して事前送付の取りやめを行う地方自治体が増加している。以下は、福井県と神奈川県茅ヶ崎市の例である。 4 税務手続に関する情報提供を忘れた場合の影響 (1) 納付書の事前送付の取りやめに関する影響 ① 延滞税等の発生の可能性 納付書で納付している顧問先が、納付書の入手が遅れて期限後納付となった場合、延滞税や延滞金が発生する可能性がある。 ② 納期限直前の混乱の可能性 納期限直前だと、経理担当者の都合により金融機関等に行く時間がとれない可能性もある。また、社内決裁が間に合わない可能性もある。 ③ 顧問先から不満を持たれる 納期限近くに「納付書は送られてこない」と伝えると、顧問先からは「なぜ早く教えてくれなかったのか」と不満を持たれる可能性がある。 (2) 収受日付印の押なつの廃止に関する影響 ① 顧問先からの問い合わせ 顧問先に申告書等の控えが送られてこないと「控えはいつ送ってくれるのか」と問い合わせが来る可能性がある。 ② 金融機関からの融資・補助金等に関するトラブル 収受日付印がない紙の確定申告書の場合、金融機関からの融資や補助金・助成金の申請などにおいて手続きが進みにくくなる場合もあり、顧問先が不安になる可能性がある。 5 対策 (1) 共通事項 納付書の事前送付の取りやめと収受日付印の廃止に関する共通の対策は以下の通りである。 ① 毎年、念押しで伝える 顧問先によっては1年経つと忘れてしまうこともある。近年の改正税務手続については、決算期に入る前に毎年再度確認をするとよいであろう。 ② 経理担当者が変わった場合 経理担当者が変わった場合も注意すべきである。引継がうまく行われていないと、新しい経理担当者が税務手続の変更を知らない可能性がある。したがって、経理担当者が変わった場合の情報提供は重要である。 (2) 納付書の事前送付の取りやめ ① 法人税予定申告も注意する 法人税の予定申告分の納付書の事前送付も取りやめになったため、法人税の予定申告分の納付失念が生じる恐れがある。こちらも1年経つと忘れてしまう可能性があるので、毎年再度確認を徹底することが望まれる。 ② 地方税も注意する 前述の3で述べたように、地方税でも納付書の事前送付の取りやめを行う地方自治体が増えている。そのため、納付書で地方税を納付している顧問先があれば、決算期に入る前に情報提供をすることが望まれる。 ③ 他の納付手続の案内をする 納付書がなくても、インターネットバンキングなど他の手段で納付できる可能性もあるので、その案内も行うとよいであろう。 ④ 印刷した場合の注意喚起をする 税務申告ソフト等を使って印刷した納付書は、機械の読み取りの問題があるため、国税庁は税務署で用意した所定の納付書の使用を案内している。印刷した納付書はリスクがあることも説明しておくとよいであろう。 (3) 収受日付印の廃止 ① 申告済であることの説明をする 申告書等の控えがないと顧問先は不安になる可能性が高い。そのため、申告書等を税務署に提出したことを顧問先に報告することが望まれる。 ② 他の手段による確認方法を紹介する 紙による提出であっても、「申告書等の閲覧サービス」によって確認することが可能であることも説明しておくとよいであろう。 個人所得税の場合は「申告書等情報取得サービス」、「保有個人情報の開示請求」も設けられている。 ③ 計算書類等を別送した場合 電子申告を行っている場合でも、計算書類等は紙で別送している会計事務所もあるであろう。例えば、公益法人など非営利法人は、e-Taxのフォームが対応していないため、紙で別送せざるを得ない。 計算書類等も控えはないこともあらかじめ説明しておくとよいであろう。 6 おわりに 今回は、近年の税務手続の改正に関する情報提供の必要性について説明した。 納付書の事前送付の取りやめと申告書等への収受印の押なつの廃止はすでに行われているものの、1年経つと忘れてしまっている顧問先もあるので、毎年確認の案内をしておくとよいであろう。 また、地方自治体による納付書の事前送付の取りやめも増加しているので、納付書については引き続き注意が必要である。 対策として最も有効なのは、キャッシュレス納付と電子申告の導入である。会計事務所は、顧問先に対して積極的に推奨することが望まれる。 本稿が皆様の実務の参考になれば幸いである。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例84】 「支払先の個人名が明らかでない外国政府関係者への支払いの損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、九州のとある県庁所在地に本社がある半導体関連の化学材料を製造している株式会社X(資本金10億円で3月決算)において、経理部長を務めております。 半導体業界の動向ですが、これまで何度も好況・不況の波を繰り返しながら、全般的には拡大傾向にあるものと考えられます。しばらく前までは、いわゆるコロナ禍に見舞われる中において、テレワークの増加によるノートパソコンの需要、公共交通機関の利用を避けるための自家用車の需要が急増し、自動車メーカーでは半導体不足による減産・操業停止に追い込まれるほどでした。しかし、コロナ禍が終息するとテレワーク需要が減少し、それまで堅調だったPC・タブレット・スマートフォン向けの半導体に関しては、ブームが過ぎて多くを期待できなくなったものと考えられます。 一方で、IoT・AI・5G・ビッグデータ活用など、グローバルな規模で社会のデジタル化への移行が一気に進んでいるため、中長期的な視点から見れば、半導体の需要は今後も高い水準を継続するものと推察されます。そのため、半導体メーカーは製造キャパシティを増やすための設備投資を大胆に行っており、今後の需要に備えているものと考えてよいでしょう。すなわち、これまでスマートフォン・PC・サーバーが占めていた半導体へのニーズは、将来的には産業用途・医療・自動車向けのものに変わるものと予想されるというわけです。 さて、そのような中、わが社に国税局から数年に1回の税務調査が入り、主査と調査官がやって来たため、私は現在部下と共にその対応に追われております。今回の調査で問題となっているのは、アジアのある国において材料調達を円滑に進めるために、その国の高官に金品を交付したのですが、当該支払いは損金不算入ではないかという点です。調査官は、その相手先が分からない以上、架空の支払いではないかと詰め寄ってきますが、支払の記録がある以上、架空とされる余地はないものと考えるのですが、税法上どう考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 仮にアジアのある国の高官に金品を交付することが業務を円滑に進める上で必要なことであったとしても、実際にその金銭が高官に渡ったということを客観的に証明する証憑書類等の存在を納税者側が示すことができないのであれば、その支払いの真実性を証明することは困難であり、業務との関連性が明らかではないことから、損金の額に算入することはできないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 損金の意義と不正な支出の損金性 法人税法上、損金とは一般に、第一に、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、第二に、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額、第三に、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものをいうものとされている(法法22③)。 上記でいう「損金」というものは、原則としてすべての費用と損失を含む広い観念と理解され、費用として損金への計上が認められるためには、必要性の要件を満たせば十分であって、通常性の要件を満たす必要はないものと解されている(※1)。したがって、不法ないし違法な支出であっても、それが収益を得るために直接に必要なものである限り、一般に費用として認められ、損金に算入されることとなる。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)350頁参照。 一方で、不正な支出の損金算入の可否については、平成18年度の税制改正で以下の2つの規定が整備された。一つは、内国法人が所得の金額もしくは欠損金額又は法人税の課税要件事実の全部又は一部の隠蔽・仮装により法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合には、その隠蔽・仮装行為に要する費用の額、又はそれにより生ずる損失の額は損金に算入されないという規定である(法法55①)。もう一つは、内国法人が供与する刑法第198条に規定する賄賂又は不正競争防止法第18条第1項に規定する金銭その他の利益の合計額に相当する費用又は損失の額は損金に算入されないという規定である(法法55⑤)。 (2) 更正の請求の意義 更正の請求とは、一般に、申告によっていったん確定した課税標準等又は税額等を、納税者に有利に変更すべきことを税務署長に求める行為のことをいう(※2)。更正の請求には2つの類型があり、一つは納税申告書に記載した課税標準等又は税額等に誤り、すなわちそれらが納税者の考える金額よりも多い金額であるため、その是正を求める更正の請求(通常の更正の請求)であり、もう一つは後発的理由によって課税標準等又は税額等の計算の基礎に変動が生じたため、その是正を求める更正の請求(後発的理由による更正の請求)である。 (※2) 金子前掲(※1)書967頁参照。 前者の「通常の更正の請求」は、原則として、法定申告期限から5年以内(※3)に税務署長に対して更正すべき旨を請求することができる(通法23①一)。当該期間は平成23年12月の税制改正で、従来の1年から原則5年に延長されたが、それにより、税務調査で納税者が課税庁の修正申告の勧奨に従って修正申告を行ったものの、その後気が変わって当該修正申告を是正するため、当該更正の請求を行うことにより納税者の権利救済のルートが開けたと評価することも可能である(※4)。 (※3) 贈与税は6年(相法32②)、法人税の欠損金の繰越控除は10年となる。 (※4) もっとも、これにより実際に従来よりも権利救済の道が広がったかと言えば、残念ながら必ずしもそのように評価できるほどの変化があったようには見受けられないところである。 (3) 支払先の個人名が明らかでない外国政府関係者への支払いの損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、支払先の個人名が明らかでない外国(中国)政府関係者への支払いの損金性が争われた事例(長野地裁平成30年6月29日判決・税資268号-55(順号13160)、TAINSコード:Z268-13160)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、安全立体駐車装置の製造・販売等を目的とする株式会社である原告が、平成24年4月1日ないし平成25年3月31日の事業年度(平成25年3月期)、平成25年4月1日ないし平成26年3月31日の事業年度(平成26年3月期)及び平成26年4月1日ないし平成27年3月31日の事業年度(平成27年3月期)の法人税の確定申告書及び修正申告書を提出した後、原告が、本件各事業年度において、中華人民共和国(中国)内で中国企業と取引を行うために中国政府関係者に現金で支払った礼金(アンダーテーブル)は、中国の商慣習上必要な費用であり、法人税法第22条第3項に規定する損金の額に算入すべきであるとして、原告の本件各事業年度の法人税についてそれぞれ更正をすべき旨の請求をしたことに対し、上田税務署長が、本件各礼金に係る具体的な支出内容及び支出先が明らかでなく、損金の額に算入すべきものとは認められないとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、原告が、被告に対し、本件各通知処分の取消しを求める事案である。 ② 事案の争点 本件の争点は、原告による本件各礼金の支払の事実の有無及び本件各礼金が法人税法第22条第3項に規定する損金の額に算入すべき金額に当たるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、納税者が行った当初申告に対し、課税庁が税務調査を行いその結果修正申告の勧奨を行ったことから、納税者はまずそれに応じた。その後納税者は、当該修正申告の内容に誤りがある(修正申告額が過大である)として、更正の請求を行ったのに対し、課税庁が「更正をすべき理由がない旨の通知処分」を行ったため、その取消しを求めて提訴したものである。 更正の請求については、平成23年12月の税制改正で、その期間が従来の法定申告期限から1年だったものが原則5年に延長されたところであるが、筆者はこの延長について従来かなり楽観的な見通しを持ってとらえていた。 すなわち、改正後は税務調査の終了時において、納税者が「一応修正申告の提出に応じるものの、更正の請求の権利を留保する」という選択肢を採れるようになり、納税者の権利救済の道が広がったとポジティブにとらえていたのであるが、実際の課税庁の運用をみてみると、これは実態から外れた机上の空論であり、実は改正の前後で課税庁のスタンスは何ら変わっていないのであった。 更正の請求は、納税者の当初申告ないし修正申告の内容が「過大申告」であったため、それを是正するために課税庁に申請する手続きであるが、一度納税者が「正しい」と認識して申告した(と表面的にはとれる)内容を、後で取り消すという行為は、課税庁から見ればおおよそ「信用ならん」として厳しくとらえられ、更正の請求が認められる事案は極めて限定的であるよう見受けられるところである。 したがって、納税者としては、自らの申告内容に自信があるのであれば、加算税賦課というリスク回避のため当初申告で「固め」の申告を行い、のちに更正の請求で税額引き下げを狙うといった「保守的な」戦略は、残念ながらほぼ功を奏しないため行うべきではない、すなわち当初申告から「攻めた」申告を行うべきだ、といえそうである。 (4) 本件へのあてはめ 仮にアジアのある国の高官に金品を交付することが業務を円滑に進める上で必要なことであったとしても、実際にその金銭が高官に渡ったということを客観的に証明する証憑書類等の存在を納税者側が示すことができないのであれば、その支払いの真実性を証明することは困難であり、業務との関連性が明らかではないことから、損金の額に算入することはできないものと考えられる。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q103】 「不動産セキュリティトークンの譲渡益」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 不動産セキュリティトークンが特定受益証券発行信託に該当する場合の取扱い (1) 特定受益証券発行信託としてのセキュリティトークン 不動産セキュリティトークンの税務上の取扱いを考える際には、その不動産セキュリティトークンがどのような法形式で組成されているのかを確認することが必要ですが、現状、流通しているものは、主に、受益証券発行信託を利用して組成されています。そして、一般に、税務上、特定受益証券発行信託として、集団投資信託に分類されています(詳細は、Q100参照)。 (2) 特定受益証券発行信託に係る譲渡損益の課税関係 不動産セキュリティトークンが特定受益証券発行信託の受益権であり、その信託契約の締結時において委託者が取得する受益権の募集が公募により行われたものである場合は、上場株式等として取り扱われることになります。 上場株式等の譲渡から生じる所得については、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得として、申告分離課税が適用され、20.315%(所得税及び復興特別所得税 15.315%、地方税 5%)の税率で課税されます。また、上場株式等について譲渡損が生じた場合には、上場株式等の配当所得等の金額(申告分離課税を選択したもの)との通算や、翌年以降3年間にわたって損失を繰り越す特例が認められています。 2 本件へのあてはめ 税務上、特定受益証券発行信託に該当する不動産セキュリティトークンとのことですので、受益権の募集が公募により行われたものである場合には、上場株式等として取り扱われることになります。したがって、当該不動産セキュリティトークンに係る譲渡益は、申告分離課税の対象となります。 また、譲渡損が生じる場合には、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等の金額との通算が認められていますので、当該不動産セキュリティトークンの配当について申告分離課税を選択することで、譲渡損との通算をすることができるものと考えられます。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第62回】 「外国法人に対する実質的支配関係」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 諸外国の法制度が我が国と異なり得ることから、外国子会社合算税制の適用に当たり、外国法人の株式又は出資の態様が必ずしも明確ではない場合には、どのように判断するのでしょうか。 〔A〕 平成29年度税制改正による実質支配関係の導入前の事例であっても、判定基準を構成する『株式等』(株式又は出資)について、我が国における『株式』又は『出資』と完全に同じものを指すと解することはできず、外国法人を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を指すものと解するのが相当という考え方が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 実質支配関係の導入 外国子会社合算税制における「実質支配関係」の概念は、平成29年度税制改正で導入され、居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある外国法人は、外国子会社合算税制の適用対象とされる外国関係会社に該当することとされた(措法66の6②一ロ)。 平成29年度改正前は、外国関係会社は居住者・内国法人との間の資本関係に基づいて判定していたため、外国法人との資本関係を意図的に断絶しつつ、契約関係等によりその外国法人に対する支配を実質的に維持することで制度の適用を免れることが可能となっていたが、同改正により、資本関係がなくとも、居住者・内国法人がその外国法人の残余財産のおおむね全部について分配を請求することができるなど会社財産に対する支配関係がある場合には、その外国法人を外国関係会社とするとされた(下線筆者)(※1)。 (※1) 財務省「平成29年度税制改正の解説」660頁 改正後の外国子会社合算税制における「実質支配関係」とは、居住者又は内国法人(以下「居住者等」という。)と外国法人との間に次に掲げる事実その他これに類する事実が存在する場合における当該居住者等と当該外国法人との間の関係をいう(措法66の6②五、措令39の16①)。 上記①及び②でいう「居住者等」は、単一の居住者又は内国法人をいうとされるため、例えば、複数の居住者等が有する権利を合計したところで初めて外国法人の残余財産のおおむね全部を請求する権利を有することとなる場合や、外国法人の財産の処分の方針のおおむね全部を決定することができることとなる場合は、実質支配関係がある場合には該当しないこととされる(※2)。 (※2) 前掲(※1)664頁 上記①は、解散や清算など一定の状況の下での会社の財産に対する権利を通じた支配関係に着目したもので、①でいう「おおむね全部」とは、全部ではないものの相当程度高い割合を有する場合が想定されており、これは、第三者に僅かな残余財産の分配請求権を持たせることにより実質支配関係への該当を回避するループホールを防ぐために「おおむね全部」とされている(※3)。 (※3) 前掲(※1)664頁 一方②は、財産は残余財産に限定されていないため、財産の処分は解散や清算といった場面に限定されておらず、例えば、会社の通常の事業活動における商品の販売等もこれに含むものとされる。すなわち、②の基準は、様々な局面における財産の処分に関する方針のおおむね全部について決定することができる旨の契約その他の取決めを通じた支配関係に着目したものである。実質支配関係がある外国法人については、その所得の100%が合算課税の対象とされることから、企業にとっての不確実性や事務負担を考慮して、実質支配関係の類型は上記①及び②のような形で会社財産に対する支配関係があると認められる場合に限定される(※4)。 (※4) 前掲(※1)664頁 以下では、平成29年度税制改正前の事例ではあるが、必ずしも資本関係が明確ではない場合における本税制の適用の是非が争われた裁判例を検討する。 2 裁判例 《東京地裁令和7年9月12日判決(令和6年(行ウ)第134号)》(※5) (※5) TAINSコード:Z888-2826 (1) 事案の概要 本件は、居住者である原告Xが、リヒテンシュタイン公国に所在し、Xがその資本金の全額を拠出している財団(以下「本件財団」という。)を通じて、バハマに所在する外国法人(以下「本件外国法人」という。)の発行済株式の全部を間接保有していたことから、所轄税務署長Yが、本件外国法人は平成29年改正前の措置法40条の4第1項の「特定外国子会社等」に該当するなどとして所得税等に係る更正処分等をしたのに対し、Xが、本件財団には保有の対象となるべき「株式等」は存在しないから、本件外国法人の発行済株式の全部を間接保有しておらず、本件外国法人はXに係る「外国関係会社」(同条2項1号)に該当しない旨主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。 Xは、2005年(平成17年)4月、A社(※6)を信託設立者として、「リヒテンシュタイン公国の人及び会社に関する法律」に基づき法人格を有する本件財団を設立するよう指示し、本件財団は、同年5月に設立され、Xは、3万スイスフランを払い込んだ。本件外国法人は、2005年(平成17年)5月、バハマ法に基づき設立され、本件財団がその発行済株式の全部を保有していた。本件の取引概要は以下のとおり。 (※6) A社の所在地国は、判決文からは不明であるが、図では仮に日本国内とした。 (2) 争点とXの主張 本件の争点は、Xが本件財団の発行済株式等の全部を有しているか否かであるが、Xは、要旨、以下のように主張した。 (3) 裁判所の判断 東京地裁は、次のとおり判示し、Xは本件財団の発行済株式等の全部を有していたものと認められるとして、Xの請求を棄却した。 ① 判断枠組み ② 認定事実 (イ) 本件財団の設立及びXによる資本金の拠出(出資) (ロ) 自益権と同視できる権利ないし地位の有無について (ハ) 共益権と同視できる権利ないし地位の有無について ③ 小括 (4) 検討 我が国の外国子会社合算税制は、伝統的に、外国法人の発行済株式等を直接間接に保有する場合を対象としてきたが、諸外国の制度の中では、必ずしも我が国でいう株式又は出資の概念と符合しないケースもあり得る中で、外国法人に対する支配力の観点から、「措置法40条の4の規定は、(中略)外国法人を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を指すものと解するのが相当であって、居住者等がこのような法的地位を取得しているか否かについては、当該外国法人の設立準拠法だけでなく、当該外国法人の定款や会社規則等の具体的事情を総合的に考慮して判定すべきである」と判示し、法的地位に着目した判断基準を示したところに本判決の意義がある。したがって、本判決は、この解釈が、平成29年度税制改正により実質的支配基準が導入される以前においても有効であることを示したものといえる。とりわけ、Xが本件財団の実質的な設立者であること、本件財団の資本金を全額拠出したことなどから、本件財団の自益権及び共益権と同視できる権利ないし地位を全部保有していたと結論付けた点は注目に値する。 この点につきXは、株式等の保有は、飽くまでも形式的な資本関係に基づいて判定されるものであり、実質的な観点から判定されるものではなく、平成29年度の税制改正によって、発行済株式等の保有がなくても会社を実質的に支配する地位を有する者(「実質支配関係」がある場合)にまで外国子会社合算税制の適用対象が拡張されたと主張したが、東京地裁は、外国関係会社であるか否かは居住者等との資本関係に基づいて判定していたため、外国法人との資本関係を意図的に断絶しつつ、契約関係等によりその外国法人に対する支配を実質的に維持することで外国子会社合算税制の適用を免れることが可能になっていたとして、いわゆる租税回避行為への対応という見地から改正が行われたという理解を示している(※7)。そして、Xが本件財団に対して有する地位は、本件財団の実質的な設立者として、本件財団の設立を指示し、資本金の全額を単独で拠出したことなどによって得られたものと認められるのであり、資本関係を離れた実質的な支配関係をもって外国子会社合算税制の要件該当性を判定しているものではないとし、Xの主張を排斥している。 (※7) 前掲(※1)664頁 本件は、富裕層の節税スキームとして話題となった事例(※8)であり、自らの資産運用の手段としてA社に信託設立の指示をしたとすれば、「Xは、本件財団から一切の経済的な利益を受けることができない旨が財団評議会による追加条件として定められている。」「Xが行った、本件財団に対する3万スイスフランの払込みは、対価性のない寄附又は寄贈であり、その出資(払込み)の対価として自益権及び共益権に相当する権利ないし地位が付与されるものではない。」等の主張はにわかに首肯できるものではない。 (※8) 週刊税務通信(No.3868 令和7年9月22日)9頁 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第51回】 「配当議案に記載された配当総額の訂正」 公認会計士 石王丸 周夫 1 配当総額を訂正 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 配当総額の計算ミスです。 今回は、株主総会招集通知において株主総会参考書類として掲載されている議案での誤記載です。議案は計算書類ではありませんが、株主総会招集通知に掲載され、計算書類等と併せて読まれる情報なので、以下で取り上げることとします。 誤記載が発生したのは、配当議案です。この定時株主総会で決議する予定の配当議案において、配当総額の金額が間違っていました。 では早速、事例を見ていきましょう。 【事例51】 配当議案の配当総額を訂正した事例 〈訂正前〉 (出所) オリエンタル白石株式会社「第74期定時株主総会招集ご通知」(2025年6月9日付、同社ウェブサイトでの開示は2025年5月28日)及び「「第74 期定時株主総会招集ご通知」の一部訂正に関するお知らせ」(2025年6月6日付、同社ウェブサイトでの開示は2025年6月7日) この事例の会社は、2025年5月28日に本事例を含む「第74 期定時株主総会招集ご通知」を公表し、2025年6月6日付で当該一部訂正を公表しています。 訂正された箇所は【事例51】の赤枠で囲った箇所です。配当議案に記載した配当総額について、「951,874,665」を「996,472,583」に訂正しています。 2 訂正前の配当総額はどのように計算されたのか? 配当総額は、株主総会招集通知に記載されている情報を使って検算することができます。1株当たり配当金に配当対象株式数を掛けることで、配当総額が計算できます。 1株当たり配当金については、【事例51】の配当議案に記載されているとおり、普通株式1株につき7.5円です。 配当対象株式数は、株主総会招集通知に添付されている事業報告に情報があります。「会社の株式に関する事項」という項目に、発行済株式の総数は132,863,011株と記載されています。この株式数は自己株式5,946,389株を除いたものであることもかっこ書きで示されています。自己株式には配当はなされないので、これを除いた発行済株式数が配当対象株式数となります。 以上から、配当総額は次のように計算されます。 訂正後の配当総額は上記計算結果と一致しています。正しく訂正されたことがわかりました。 では、訂正前の金額は何だったのかについても考えてみましょう。 訂正前の金額を1株当たり配当金7.5円で除してみます。 この株式数と配当対象株式数の差額を計算します。 訂正前の配当総額は、その計算に際して、配当対象株式数を5,946,389株少なくしてしまっていたようです。 5,946,389株が何の株式数か気づきましたか? 前掲のとおり、自己株式の数です。 つまり、配当総額の計算に際して、発行済株式総数(自己株式を除く)132,863,011株から再度自己株式数を控除してしまい、その株式数に1株当たり配当金の額を掛けたとみられます。その結果、配当総額が少なく計算されてしまったのでしょう。 なぜそのようなミスが起きてしまったのかはわかりませんが、うっかりミスとはそういうものです。 応用論点になりますが、上記の自己株式数5,946,389株は、個別注記表に記載されている「当事業年度末における自己株式の種類及び株式数 普通株式7,579,489株」とは一致していません。その差は1,633,100株です。 この1,633,100株は、取締役等に対する株式報酬制度のために信託で保有している自社の株式です。当該株式については、貸借対照表(連結貸借対照表)上、自己株式に含めて表示されていますが、配当の対象となります。したがって、配当総額の計算では自己株式数に含めないことになっています。 3 連結注記表との突合 【事例51】のミスを開示前に見つける方法を確認します。 定時株主総会の配当議案の内容については、連結計算書類に注記されています。連結注記表の連結株主資本等変動計算書に関する注記のうち、配当に関する事項として、定時株主総会で決議予定の配当につき、配当金の総額は996百万円であると記載しています。 議案の内容をこの注記と突合すれば、整合性を確認することができます。両方の記載内容を同じように間違えている場合は、間違いに気づくことができませんが、作成担当者(または作成担当部署)が異なっていれば、同時に同じように間違う可能性は高くはないと考えられます。 なお、本連載の【事例9】では、【事例51】とは逆に、連結注記表の記載で間違い、それを議案と突合して確認するという事例の解説をしています。併せてご一読ください。 〈今回のまとめ〉 配当議案については、連結注記表に記載されている配当に関する事項の注記と整合性を確認しましょう。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第16回】 「子会社株式の追加取得」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに ある会社の発行する株式を取得して支配を獲得し連結子会社としたのち、さらに当該連結子会社の株式を追加取得することがある。 今回は、子会社株式の追加取得に関する会計処理について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社株式の追加取得 1 基本的な会計処理 子会社株式を追加取得した場合には、追加取得した株式に対応する持分を非支配株主持分から減額し、追加取得により増加した親会社の持分(以下「追加取得持分」という)を追加投資額と相殺消去する(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)28項、(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号。以下「資本連結実務指針」という)37項)。 この際、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理する(連結会計基準28項)。 子会社株式を追加取得し、持分が変動する場合、非支配株主持分にも評価差額が計上されていて、支配獲得後は時価による評価替えを行わないため、追加取得前の非支配株主持分のうち追加取得持分に相当する額をそのまま非支配株主持分から親会社持分へ振り替えることになる(資本連結実務指針39項)。 この場合、増額する追加取得に係る親会社持分額及び減額する非支配株主持分額は等しいため、減額する非支配株主持分額(=増額する親会社持分額)と追加投資額との差額が資本剰余金となる(資本連結実務指針39項)。 2 考え方 平成20年12月に公表された「連結財務諸表に関する会計基準」では、子会社株式を追加取得した場合に、投資と資本の相殺消去の結果、借方に差額が生じたときは、当該差額はのれんとして処理すると規定していた。 平成25年に改正された連結会計基準では、子会社株式を追加取得した場合の親会社の持分変動による差額は、資本剰余金として処理することとされた(連結会計基準53-2項(1))。 これは、それまでの会計処理方法の問題点を、最も簡潔に対応する方法が損益を計上する取引の範囲を狭めることであるとも考えられたことによる(連結会計基準51-2項)。 3 投資と資本の相殺消去(非支配株主持分のあるケース) 設例を用いて、子会社株式の追加取得に関する会計処理を説明すると次のようになる。 Ⅲ 資本剰余金が負の値となる場合 資本剰余金は、連結貸借対照表の純資産の部に表示されるので、通常、貸方に発生するものである。 ところが、支配獲得後の親会社の持分変動による差額は資本剰余金とするとされたことに伴い、資本剰余金の期末残高が負の値(借方)となる場合があり得る。 上記の設例では、子会社株式の追加取得により、資本剰余金20千円が借方に発生している。 資本剰余金が負の値となる場合、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)40項と同様に、連結会計年度末において、資本剰余金を零とし、当該負の値を利益剰余金から減額すると規定されている(連結会計基準30-2項、67-2項、資本連結実務指針39-2項)。 なお、連結財務諸表においては、資本剰余金の内訳を区分表示しないことから、当該取扱いは、資本剰余金全体が負の値となる場合であることに留意する(連結会計基準67-2項、資本連結実務指針39-2項)。 (了)
〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第2話 剛速球の田中 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 新任の挨拶で、永途は少し緊張しながら、田中審判官の前に立っている。 田中審判官は、第二部門の担当審判官である。 「君は・・・法人部門だったね」 田中審判官は、永途の履歴に目を落としたまま、確認するように言った。 「はい。法人税部門には5年間、勤務しておりました」 「5年か。実調はどの程度経験した?」 「法人を中心に、120件ほどかと思います」 田中審判官の前任職は、国税局の調査部の統括官である。国税局内の噂では、相当な理論家であるらしい。それゆえ、『剛速球の田中』というあだ名がついているくらいだ。 「君は会計士の資格を持っているそうだな」 田中審判官は、山口統括官の報告書で、永途が一昨年、公認会計士に合格したことを知っているらしい。 「はい。一昨年、何とか合格することができました」 「会計理論と税法理論。両方の視点を持つことは重要だ。特に法人税の事案では、会計処理の妥当性と税務上の取扱いが必ずしも一致しない。その狭間で、我々は法的な判断を下さなければならない」 田中審判官は、顔を上げて永途を見据えた。 「最近、法人税の事案が増えている。君の経験と知識に期待しているよ」 そう言うと、田中審判官は早速、永途に一件のファイルを差し出した。 「交際費の事案だ。争点は明確だが、理論構成は単純ではない。最初の事案としては、君の力量を見るのに適当だろう」 ファイルされている資料を田中審判官から受け取った永途は、それを右脇に抱えながら、自分の席にスタスタと戻る。 第二部門の田中担当審判官グループの座席配置は、整然と並んでいる。 永途が机の上に資料を置くと、横に座っている木下審判官が、興味深そうに声をかけてきた。 「それは、法人の事案ですか?」 木下審判官は、審判所に配属される前は、某税務署の副署長をしていたらしい。 そして、次の人事異動では、どこかの署長に昇進することは間違いないと噂されている。 永途は、その話を前任の審査官から、引き継ぎの際に聞いている。 「ええ、法人の事案です。争点は・・・交際費該当性のようです」 永途は、資料をペラペラとめくりながら、答えた。 「交際費か・・・」 木下審判官は、少し困ったような表情を浮かべた。 「実を言うと、僕は徴収の出身でね。法人税や所得税といった実体法は、正直なところ、あまり得意ではないんだ」 木下審判官は、照れながら言う。 永途は、黙って聞いている。 「まあ、これから君に教えてもらうことが多々あると思う。こちらは徴収実務なら何でも答えられるから、お互い様ということで・・・よろしく頼むよ、本当に」 木下審判官は、あくまで低姿勢である。 永途は、税務署にいたときには、署長や副署長とほとんど話したことがない。こうして対等に会話できる環境に、まだ戸惑いを感じている。 「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」 永途は、椅子に座りながら頭を下げる。そして、再び資料の中を確認する。 永途は、国税不服審判所に配属される前に、2週間、和光市の税務大学校で国税審査官研修を受けた。 その時に、「国税不服審判所の審理の進め方」というフローチャートが与えられた。 【国税不服審判所の審理の進め方】 永途は、田中審判官から受け取った資料を調べると、この事案では、既に「形式審査」及び「担当審判官等の指定」は終わっているらしい。 「これから実質的な調査、審理をすることになる・・・」 永途は、ファイルから「審査請求書」を取り出す。 審査請求の趣旨には、「全部取消し」に丸がついている。 そして、「審査請求の理由」は、次のように記載されていた。 3,500万円。代表者の認定賞与か、それとも交際費か。 一見単純に見える争点だが、田中審判官が「理論構成は単純ではない」と言った意味が、少しずつ分かりかけてきた。 交際費として損金算入が制限されるのか、それとも役員賞与として全額損金不算入となるのか。課税当局は後者を選択した。しかし、納税者はそれに異を唱えている。 永途は、ファイルをゆっくりと閉じた。 これが、審判所における永途の最初の事案となる。 (つづく)
〈執筆:編集X〉 書く論 第3回 「執筆依頼は断ることも大切」 全国の編集者を敵にまわすようなタイトルになってしまいました。。。 今回は少し趣向を変えて、「見られている」ということについて、お伝えします。 事務所や法人に勤務されていた士業者の方が、独立を機に本を出したい、原稿を書いてみたいということで、お話をいただくことがよくあります。 こちらとしても大変うれしくありがたいお話で、編集者として(いつもより?)積極的にその熱意をサポートしたいというものです。 ただこの時、あえて以下のようにお伝えすることがあります。 「今後、先生が執筆を続けていかれる中で、ご自身の著作歴については、十分注意してください」 原稿を書くことをはじめると、予想もしなかったところから執筆依頼が舞い込むこともあります。それらの媒体にはそれぞれの読者対象があり、運営する目的があります。 例えば専門家を読者対象とする出版社であれば「内容が正確で、実務に使える解説を書籍や雑誌等として販売したい」と考えるでしょうし、Webの広告収入で運営しているところであれば「来訪者(ページビュー数)を多くしたい」と考えるかもしれません。聞いたところでは、媒体に原稿を載せることで執筆した方からお金をいただくという仕組みのところもあるようです。 これら複数の媒体からの執筆依頼について、よく吟味せずに「依頼していただくのはありがたい話だし、とりあえず先方の要望に応えるような原稿を書こう」という姿勢を続けると、気づかないうちにご自身の目的と周りの環境が乖離してしまうことがあります。 例えば、しっかりとした実務図書を刊行している出版社A(比較的老舗のところが多い)で苦労して書籍を書いた方がいるとします。今後も長く専門書籍を書いていきたいとはりきっておられます。 ある時その方へ、まったく別の出版社Bや媒体Cから「法律の抜け穴を突いた(違法スレスレの)原稿」の執筆依頼が来て、持ち前のサービス精神も働き過剰な言い回しで原稿を書いたとすると、その後なぜか出版社Aに何度良い企画を持ち込んでも採用されない(または執筆の依頼自体が来ない)かもしれません。 それは出版社Aの編集者が、その方が発刊した書籍や書かれた原稿を読んで、「A社から発刊するにはリスクがある著者である」と判断された可能性があります。版元としては読者の方々からの信頼が大切ですから、そういう事前の調査はしっかり行います。書いたご本人のスタンスは変わらなくても、そういうふうに見られてしまうのです。 今はネット書店で著者ごとの著作歴がひと目で分かりますので、しっかりした書籍がたくさん並んでいたとしても、そのうちの1冊が怪しい内容のものであれば、非常に(悪)目立ちします(それは名前で検索すると記事がヒットするWeb媒体も同様です)。 また別の例では、「広く一般の方に向けたやさしい内容の本を書いて、集客につなげたい」と考えている方が、特定の専門家を読者対象とする出版社からいくら本を出しても、効果は薄いでしょう(もちろん高度な専門書を執筆することで得られる信頼はあります)。そういう方は今の時代、SNSや動画配信、noteなどのホームページを充実させるほうが戦略的といえます。 すでにたくさんの著作があり編集Xの尊敬する先生は、事前に数年先のご自身の著作予定をしっかり管理し、ブランディングの構築を見事に、かつ、着実に行っておられます(逆にそれ以外の執筆はほぼ断られてしまいます。。。)。 このように、舞い込んだ執筆依頼はよく吟味し、ご自身への反響をしっかり考慮した上で受けられた方がよい(目的と異なる依頼なら断った方がよい)と編集Xは考えます。 最後に、別の意味で依頼を断った方がよいケースについて。 冒頭に述べたような、独立を機にこれから原稿をどんどん書いていきたいという方は、環境の変化による不安もあってか、執筆に限らず様々なお仕事を受けがちです。そしてその後、業務過多で体調を崩されるケースも何度か目にしてきました。編集者側もその熱心な姿勢に甘えて次々と依頼してしまうのですが、そのようなケースを経た反省を踏まえ、今は 「今後、先生が執筆を続けていかれる中で、ご自身の著作歴については、十分注意してください」 に続いてこうお伝えします。 「何より身体が資本ですので、お忙しくて執筆が難しいときは、しっかり断ってください」 信頼できる先生になっていただければ、一度断られたぐらいで距離は置かず、次の機会にまた依頼させていただきます(≒つまり「逃がしませんよー」)ということです。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)