《速報解説》 国税庁、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」を改訂 ~3割特例に関し、計3問を新設~ 税理士 石川 幸恵 令和8年4月1日、国税庁は「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」の令和8年4月改訂版を公表した。 適格請求書発行事業者以外の者からの仕入れに関する経過措置の改正(7・5・3割控除)、小規模個人事業者に係る税額控除に関する経過措置の改正(3割特例)が主な内容である。 また、特定金属くず特例が新たに設けられ、古物商特例と並んで位置付けられているほか、令和10年4月施行予定の特定少額資産の譲渡に関しても補足的な言及がみられる。 1 新設された3割特例の概要(問114-2、問115-2、問117-3) 2割特例の適用可能期間終了後において、適格請求書発行事業者の登録により課税事業者となった個人事業者については2割特例と同様の経過措置(3割特例)が設けられた。 3割特例のポイントは次の2つである(問115-2) また、問117-3では、2割特定の適用を受けていた小売業者は、2割特例の終了後、3割特例を適用するよりも簡易課税制度を適用した方が、基本的には納付税額が少なくなる点が示されている。この点に関し、簡易課税制度選択届出書の提出期限が、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る「確定申告期限」とされたことは注目である。さらに申告期限と同様、提出期限が土日等に当たる場合には翌日が期限となる。 2 実務への影響 3割特例は、令和9年及び令和10年に新たに適格請求書発行事業者の登録を受ける場合に限られず、制度開始時点(令和5年10月1日)から登録を受けている個人事業者にも適用される。このため、基準期間の課税売上高が1千万円以下である個人事業者の適格請求書発行事業者については、小売業を除き3割特例に移行するケースが多いと考えられる。 一方で、法人については3割特例の適用がないため、令和8年9月30日までの日の属する課税期間の翌課税期間からは簡易課税制度の選択を検討する必要がある。 この点、簡易課税制度選択届出書の提出期限について次のような見直しがされている(28年改正法附則51の2⑥、51の3⑤)ので注意されたい(問117)。 なお、令和9年以降に3割特例の適用を受ける個人事業者がその特例を受けられないこととなる場合も、簡易課税選択届出書の提出期限は、その適用できなくなる課税期間に係る確定申告書の提出期限である。 従前は2割特例が適用できなくなる課税期間中に簡易課税制度選択届出書の提出が求められていたため失念の恐れがあったが、確定申告期限まで延長されたことにより、実務上の負担は軽減されたといえる。 また、8割控除・5割控除を前提として、適格請求書発行事業者以外の仕入先との価格交渉を行ってきた事業者も多いと考えられる。従前、「令和8年10月1日からは本体価格+消費税相当の50%」と取り決めてきたところ、7割控除が導入されるので見直しを検討する必要がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁等がコーポレートガバナンス・コード改訂案を公表 ~成長投資の促進、取締役会の機能強化、有報の定時株主総会前の開示等を記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026(令和8)年4月10日、金融庁、東京証券取引所から、コーポレートガバナンス・コード改訂案が公表され、意見募集が行われている。 今般の改訂は、コーポレートガバナンス・コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返るためのいわば「コードの実質化」を狙いとしているとのことである。「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実効的な実施を支援するための具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」が新設されている。 意見募集期間は2026年5月15日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 成長投資の促進 コード改訂案は、取締役会の役割・責務として、成長投資等に向けた取組みの重要性を明記している。 例えば以下のことである。 現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきであることなどが記載されている。 Ⅲ 取締役会の機能強化 コード改訂案は、取締役会における独立社外取締役が占める割合が増加し、独立社外取締役の主たる役割・責務である監督機能をより効果的に果たすための環境が整いつつあることも踏まえ、特に独立社外取締役の実効性向上に向け、独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・量の確保、独立性確保の重要性を強調している。 Ⅳ 有価証券報告書の定時株主総会前の開示 コード改訂案の原則において、有価証券報告書を株主総会前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として記載している(【原則1-2.株主総会における権利行使】)。 Ⅴ コードの改訂の適用 上場会社は、遅くとも2027年7月までに、改訂コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出するよう求めることが考えられる。 これらの提出時期については、東京証券取引所において、具体的に検討を行う。 (了)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年4月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.664を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第41回】 「国税通則法122条(117条~121条、123条~125条)」 -国税債権と私債権(国に対する納税者の金銭債権)との相殺の禁止- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法122条(国税に関する相殺) 1 はじめに 今回は国税通則法第9章(雑則)の諸規定のうち同法122条(国税に関する相殺)を取り上げ検討することにする。この規定を今回の検討対象としたのは、本連載を始めるに当たって立てた方針に従い、「国税通則法制定の趣旨」を重視したからである(第1回2参照)。すなわち、国税通則法は「およそ租税法の基礎にあるべき基本的な法律関係、すなわち政府と納税者との間における権利・義務の態様や限界に関する制度上の仕組み」ないし「租税に関する基本的な法律構成」を明らかにすることが必要であるとの認識に基づき制定されたものであること(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)1-2頁参照)からすると、国税に関する相殺すなわち国税債権と国に対する納税者の金銭債権との相殺は、「雑則」の中で定められているとはいえ、国税債権・債務の消滅の効果をもつ以上、「国税通則法制定の趣旨」の観点からみて重要な事項であり、本連載において取り上げ検討すべきであると考えるところである。 国税通則法122条は、国税に関する相殺を原則として禁止する旨を定めているが、その例外として定められた「法律の別段の規定」は現行法上はまだ存在しない(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大蔵財務協会・2025年)1420頁参照)。ただ、同条後段は、納税者が有する還付金等に係る債権と国に対する金銭債務との相殺についても同様とする旨を規定しているところ、還付金等の充当(税通57条)は還付金等と納付すべき国税との相殺の性質を有する(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)220頁、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【116】参照)。厳密にいえば、それは「国税との相殺を事実上認めているものとして、・・・・・・、『証券を以てする歳入納付に関する法律』の規定により証券をもってする納付を認めるという方法によっている。」(志場ほか共編・前掲書1420頁)と解説されている。 なお、民法では、相殺は「互いに同種の債権を有する当事者間において、相対立する債権債務を簡易な方法によつて決済し、もつて両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度」(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁)と解されている(詳しくは山田誠一編『新注釈民法(10) 債権(3)』(有斐閣・2024年)508頁以下[深谷格執筆]参照)。 2 「公法上の債権と私法上の債権との相殺」否定論(本質論的相殺否定論) 前述のように、現行法上は、国税に関する相殺は明文の規定で禁止されているが、そのような明文の規定がなかった時代には、相殺に関する民法の規定(505条以下)が租税債権と私債権との相殺に適用又は準用されるか否かについて争いがあった。 戦前の判例では、「村税納付義務ト当該村ニ対スル実費弁償請求権ト相殺ヲ主張シ得ヘキ法律上何等規定ナキヲ以テ原告カ其ノ西穂高村ヨリ受クヘキ費用弁償金ト本件滞納村税納付義務ト相殺スルトキハ費用弁償請求権尚余アリ且同村ニ於テハ此等ノ相殺ヲ為スヲ恒例ト為スヲ以テ本件滞納処分ハ之ヲ為スノ必要ナキモノナリト為ス主張ハ不当ナリ」(行判大正13年4月25日行録35輯242頁)として、法律上の根拠規定の不存在を理由に否定説の立場が採られていた(なお、公法上の権利と消費貸借の権利との相殺については大判大正元年10月15日民録18輯861頁参照)。 学説では、公法・私法二元論(戦前の議論については塩野宏『公法と私法』(有斐閣・1989年)3頁以下参照)を前提にして「本質論的相殺否定論」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)892頁)ともいうべき考え方を説く次のような見解(美濃部達吉『評釋公法判例大系 上巻』(有斐閣・1933年)35頁。旧漢字は改めた)が通説であった。 ただ、上記の美濃部達吉博士の見解は、公法=権力関係論(これを基礎とする穂積八束理論については塩野・前掲書13頁参照)を基礎とするものではなく(公法概念に関する穂積八束理論と美濃部達吉理論との違いについては塩野・前掲書42頁以下参照)、したがって、租税法律関係に関していえば租税権力関係説ではなく、むしろ租税債務関係説と親和性があるように思われる。というのも、1930年代以降になると、おそらくはドイツの租税債務関係説の紹介・研究(アルベルト・ヘンゼル著/杉村章三郎訳『獨逸租税法論』(有斐閣・1931年)等参照)の影響を受けたものと思われるが、前記の見解を説かれた美濃部博士は、納税義務の成立を租税債務関係説に基づいて観念したものと解される下記の見解(同『日本行政法 下巻』(有斐閣・1940年/復刻版1986年)1124頁。下線筆者)を説かれるようになったからである。このような見解は、租税法律主義を租税債務関係説に基づいて再構成し厳格化する考え方とみることができるので、筆者は「租税法律主義の債務関係説的再構成」と呼んでいる(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)16頁以下[初出・2020年]参照)。 3 「租税債権と私債権との相殺」肯定論 租税法律主義の債務関係説的再構成は、戦後になって、下記の発言(租税法研究会編『租税法総論』(有斐閣・1958年)35-36頁[田中二郎発言]。下線筆者)にいう「今の新しい考え方」として、租税債権と私債権との相殺の許容性の問題が再び議論される契機となったように思われる。 実際、下級審の裁判例の中には、租税債権と私債権との相殺を認めるものが登場したのである(租税法研究会編・前掲書37頁[田中二郎発言、杉本良吉発言]参照)。東京地判昭和30年10月18日下級民集6巻10号2158頁がこれであり次のとおり判示した(下線筆者)。 この判示は、公法上の債権としての租税債権の特殊性を重視するのではなく、租税債権と私債権とを基本的に同じ性質の金銭債権として捉える考え方に基づき両債権の相殺を認めたものであると解される。このような考え方は租税債務関係説からの帰結とみることができよう。 学説においても、これと基本的に同じ趣旨と解される下記のような見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])M104-M105頁[吉良実執筆]。ただし、下記の引用部分は同書発行当時[1963年]の国税通則法94条に関するものである)が説かれるようになった(志場ほか共編・前掲書1418頁、金子・前掲書892頁も同旨)。 4 相殺禁止規定に関する創設規定説 このように、戦後は、本質論的相殺否定論は克服されるようになったが、しかし、租税徴収制度調査会「租税徴収制度の改正に関する答申」(昭和33年12月8日)42頁が下記のとおり述べたことを受け、(昭和34年法律第147号による改正前の)旧国税徴収法180条は「この問題の立法的解決を図るため、国税が大量現象であり、会計技術的にも問題が多いことにかえりみ、原則として両者の相殺を禁止し、ただ例外として将来の立法により相殺が認められるものとした」(志場ほか共編・前掲書1418頁。中川=清永編・前掲書M106-M107頁[吉良執筆]も参照)のである。 上記の答申にいう「多数の納税者と多数の分立した行政機関との間において生ずる問題」が相殺禁止の理由とされているのは、次のような「実質的な理由」(志場ほか共編・前掲書1419頁)を考慮したものと解される。 また、上記の答申で「国又は地方公共団体の財政制度や内部会計手続とも関連する」というのは次の発言、すなわち、「財政法、会計法が収入と支出を混同しないということを原則に立てているわけですね。従って収入は収入のルート、支出は支出のルート、それを交わらせないという考え方がありまして、それが相殺を妨げていた大きな理由であったという気もするのです。」(租税法研究会編・前掲書36-37頁[忠佐市発言])という発言の中で述べられている「原則」によるものと解される。そのような「原則」は「歳入歳出混同禁止原則」(金子・前掲書892頁)と呼ばれる。 以上のような2つの法政策的考慮に基づき、国税通則法は「右の規定[=旧国税徴収法180条]を国税に関する通則的事項としてそのまま承継したもの」(志場ほか共編・前掲書1418頁)と解される。このような理解によれば、国税通則法122条は、かつての本質論的相殺否定論からの帰結を確認する規定(確認規定)ではなく、前記のような法政策的考慮に基づき租税債権と私債権との相殺を禁止することを定める規定として性格づけるのが相当である(相殺禁止規定に関する創設規定説)。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第74回】 「MBO後の税務対策」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕 相談内容 私は上場会社J(資本金3億円)の15%の議決権を持つ創業者社長(G氏)です。近年の物言う株主からの圧力、短期的な利益追求について、もう少し中期的な経営の自由度が欲しいと思っていたところ、証券会社からMBOの提案を受けました。 そこで、私はMBOを実行しJ社の上場を廃止することにしました。 スキームとしては、私が100%出資する資産管理会社(資本金100万円)としてA社を設立し、金融機関から100億円融資を受けて上場会社Jの株式85%を買い取り、その後株式交換によりA社がJ社の100%親会社となりました。 今後、非上場会社として税務上注意することはありますでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ 近年、上場維持コストの上昇や短期的な利益追求への市場の圧力から脱却し、中長期的な視点で経営改革を行うことを目的として、上場を廃止する企業が増えています。2025年の上場廃止数は125社であり、支配株主や他社による買収が大多数ですが、MBOはその内26社となっています(※)。 (※) 日本取引所グループHP「上場廃止銘柄一覧」参照 [1] 法人税の対策 (1) 資本金の減少の検討 まず、J社の資本金が3億円のため、今後J社は特定同族会社として留保金課税の対象となるので、減資を検討することが一般的です(法法67)。 資本金を1億円以下とする減資による効果として、法人税法上は中小法人となるため各種中小法人税制の恩恵を受けることができます。ただし、資本金が1億円以下の法人であっても過去3年の課税所得の平均が15億円を超える場合は、租税特別措置法上の一部の優遇措置を受けることができません(措法42の4⑲八)。 次に、地方税においては外形標準課税の対象になるかどうかの検討が必要となります。令和6年度税制改正において、資本金を1億円以下に減資することによる外形標準課税逃れの防止規定が設けられました。以下の要件全てを満たす法人は、減資後に資本金1億円以下の法人になったとしても、外形標準課税の対象となります。 なお、資本金の減資には、債権者保護を目的として、減資効力発生日の1ヶ月以上前より官報等へ減資する旨の公告の掲載が必要となります。3月末決算の場合、3月末までに減資の効力を生じさせないと中小法人となることはできませんので、2月初旬より手続きを始める必要があります。 (2) グループ通算制度の導入 A社は、支払利息が多額に生じる一方、100%子会社であるJ社からの配当収入は益金不算入となるため、法人税法上は赤字の会社となる見込みです。今後、金利の上昇が想定されることから、赤字額が大きくなることが見込まれるので、その課税所得のマイナスの有効活用を目的として、グループ通算制度の検討が必要となります。検討に際しては、以下の点が重要です。 [2] 事業承継対策の検討 MBOを行ったことから、今後は非上場会社として親族内承継を前提に考えることになりますので、承継対策を検討する際の株価は原則として、証券取引所での取引価格から財産評価基本通達により計算した株価となります。 一般的にMBO時には市場価格にプレミアムを付けて株式を買い取ることから、株式交換によりG氏の株式を取得した後でも、A社におけるJ社株式の取得単価は高額になっていると想定されます。 例えば、J社株式は類似業種比準価額、A社株式は純資産価額方式による評価方法が適用される場合に、J社株式の評価額が60億円であると仮定すると、借入金が60億円を下回るまでは、財産評価基本通達による評価上、A社は債務超過となります。つまり、A社の株価はゼロ円となります。 どのタイミングで、次世代へ株式を承継するかを事前に検討しておくべきでしょう。 〈財産評価通達による株価計算後のBS〉 [3] 結論 上場会社を非公開化することにより、各種の税メリットを受ける選択肢が増えるため、非公開化の準備段階から計画的に進める必要があります。一方、金融機関から多額の資金を借り入れる場合は、借入金を一定金額返済するまでコベナンツがつけられることが一般的です。一定期間は資産管理会社株式の贈与・売却はできない可能性が高いですが、その条件が外されるタイミングに向けて事業承継の準備を進めることが望ましいと言えます。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談のうえ、実行されることをお勧めします。 (了)
国際課税レポート 【第25回】 「消費税の負担軽減策」 ~国際的な知恵に学ぶ選択肢の考え方~ 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団名誉フェロー 2026年2月26日、高市政権による「社会保障国民会議」が始まった。高市早苗総理が“改革の本丸”と位置付ける給付付き税額控除の制度設計、そして、それまでのつなぎとしての飲食料品の消費税率ゼロについて議論するためのものだ。中核となるテーマは、「消費税率ゼロ(物価高対策・負担軽減策)」「中低所得者・現役世代の負担軽減」といった点だ。 政策提言を目的とするものではないが、消費税の負担軽減策(逆進性対策)を巡る各国の経験について紹介する。 消費税の逆進性~優等生のアキレス腱 消費税は、景気の波に左右されにくく税収の安定性に優れており、所得を生み出す現役世代が大きく減少するわが国において、社会保障の安定財源として適している。しかし、利点の多い消費税なのに、「廃止せよ」という声もある。所得税や社会保険料については、「負担を減らせ」という声はあっても、廃止とまで言い切る人はいない。消費税についての厳しい声の背景には、所得の低い人ほど相対的に重い負担を強いられるという消費税の逆進性の存在がある。 【図1】に示すように、OECD加盟国37ヶ国(VAT を持たない米国を除く)のすべての国がVAT(一般消費税)を導入しており、標準税率は単純平均19.3%(2024年)だが、食料品が標準税率なのは チリ、デンマーク、エストニア、韓国、リトアニア、ニュージーランドの6ヶ国である。また、【図2】に示すように、食料品に適用される税率(単純平均)は約8%である。 【図1】 消費税標準税率(%)(2024年) (注) 平均は、単純平均による。 (出所) OECD, Consumption Tax Trends 2024, Annex 食料品に適用される消費税率を【図2】に示す。例えば、イギリスは標準税率20%に対して、食料品は0%など、標準税率と大きな開きがある国もある。わが国も、標準税率については10%であり、OECD(VATを持たない米国を除く)の平均19.3%の半分程度だが、食料品の8%については、G7国では最も高く(英、加(0%)、伊(4%) 、仏(5.5%)、独(7%))、OECD平均の約8%(OECD資料に基づき筆者が計算)と同水準である。 【図2】 食料品に適用される消費税率(%)(2024年) (注) 平均は、単純平均による。食料品に適用される税率が複数ある場合、主要食料品に適用される税率、又はアルコールを除く食料品に適用される税率を用いた。時限的な税率引下げは含めていない。なお、財務省HPにも各国の税率についての資料が掲載されている。 (出所) OECD, Consumption Tax Trends 2024, Annexより筆者作成 消費税負担軽減(逆進性対策)の選択肢 消費税の逆進性対策や中低所得者の負担軽減のための仕組みを論じる際、「消費税(食料品)の税率を下げるか」、「給付で対応するか」、という二者択一に目が向きがちである。 しかし、各国の経験に目を転じると、選択肢には「消費税の内部で対応する方法」「消費税の外部で、財政ミックスにより対応する方法」といった幅があり、次の4つに整理して考えることができる。 消費税の逆進性対策や低所得者への支援は、わが国に限らず、各国に共通する政策ニーズ・政策目的である。問題は、そうした政策目的をどのような仕組みで達成することが、再分配の実効性を高め、かつ幅広い国民の支持を得られるかという点にある。制度の政治的なアピールの強さだけでなく、再分配の精度、事業者のコンプライアンス・コスト、行政執行コスト、デジタル基盤、国民の受容可能性まで含めて検討する必要がある。 消費税における逆進性対策には事業者の協力が不可欠 消費税は、事業者が申告・納付する税であり、消費者は法律上の納税義務者ではない。制度の設計としては、価格に上乗せされた税負担が最終的には消費者に帰着することが予定されている。法的には事業者納付、経済的には消費者負担が制度上予定されているという構造がある。であるから、消費税の逆進性対策を税率で設計する場合、家計負担だけでなく、仕入税額控除、価格転嫁、業種間の負担のずれまで視野に入れなければならないことになる。 伝統的アプローチ(消費税の内側で対応) 各国が伝統的に採用してきた軽減税率や食料品ゼロ税率は、直感的には分かりやすいが、制度としてはいくつかの弱点を抱える。 第一に、品目基準の減税である以上、低所得者だけでなく高所得者にも同じように恩恵が及ぶ。必需品の税率を下げれば低所得者支援になるようにみえても、消費額それ自体は高所得層の方が大きいため、減税の恩恵が高所得者にも及んでしまう。 第二に、軽減税率は線引きを複雑にし、税収を失うだけでなく、事業者のコンプライアンスや執行のコストも高める。 第三に、税率引下げ分がそのまま価格低下として消費者に還元されるとは限らない。価格形成は市場や取引慣行の影響を受けるため、税率を下げても価格が機械的に下がるわけではない。さらに、食料品をゼロ税率にすると、消費税の納税義務者は事業者であることから、飲食店と食料品の間で線引きを巡る摩擦や競争上の歪みを生みうる。 もっとも、食料品にゼロ税率を適用する7ヶ国でも、アイルランドを除き、飲食店には標準税率を適用している。 IMFは2024年のワーキングペーパーで、食料品に対する軽減税率を「伝統的アプローチ」と位置付け、その限界を整理している。要点は、税収減、制度の複雑化、中立性の損失というコストに比べ、逆進性の緩和効果が必ずしも大きくないことである。 財政ミックスによるアプローチ(消費税の外側(給付)で対応) これは、単一税率・広い課税ベースを維持しつつ、低所得世帯には給付や税額控除で対応する方式である。本稿では、便宜上「財政ミックスによるアプローチ」と呼ぶ。 カナダのGST/HST(連邦税・統一売上税)creditは、その典型であり、税申告情報に基づいて低・中所得世帯に四半期ごとに給付を行う。 ニュージーランドも、GST導入や税率改定に際して、給付や所得税減税を組み合わせることにより、逆進性への対応を図ってきた。国際比較上、ニュージーランドがしばしば参照されるのは、単一税率に近い構造と高いVAT税収パフォーマンスを両立しているからである。 高市総理の主張は、食料品の消費税率ゼロ(伝統的アプローチ)は“つなぎ”であり、「本丸」は給付付き税額控除(財政ミックスによるアプローチ)への移行を見据えた戦略的なタイムラインであると理解することができる。 もっとも、給付付き税額控除や現金給付にも弱点はある。 前述したように、現実には軽減税率が広く支持されているが、理由は、理論的に優れているからではなく、レジのその場で負担が軽く見えるという可視性が高いからでもある。 所得や資産の確認が不要な制度(本人確認等は必要) 問題となるのは対象者をどのように絞り込むかだ。このためには、以下の方法が考えられる。 (1) リアルタイム補填方式(IMFワーキングペーパー提案) IMFスタッフが2024年4月に公表したワーキングペーパー(スタッフの個人的な見解であり、組織としてのIMFのものではない)では、逆進性対策のためのイノベーティブな案として、消費税額補填方式(便宜上「リアルタイム補填方式」と呼ぶ)による逆進性対応策を示している。 注目したいのは、所得確認を要しない設計もありうる制度が提示されている点だ。対象者を所得で限定しない「ユニバーサル補填方式」(universal subsidy)のアイデアを紹介してみたい(※)。 (※) IMFペーパーは、低所得層ターゲット型についても論じている。 これは、すべての消費者を対象にしつつ、一定の補填上限額に達するまでVAT相当額を消費時点(支払時点)にリアルタイムで還付する方式である。消費者はリアルタイムで消費税相当額を補填された残額を事業者に支払えばよく、体感的には、消費税が免除されるのと同じことになる。 累積補填額の管理が新たに必要になるため、①本人確認:事業者がレジ等において本人確認(ID確認)を行い、②取引情報の連携:事業者の情報端末から「中央台帳」に利用者のIDや取引情報を連携し、③応答:「中央台帳」が補填額が上限に達していないことを判定して事業者に通知する、という一連の処理を行うためのシステムが新たに必要になる。 負担軽減策の対象を、軽減税率の対象となる「品目」で切り分けるのではなく、個々の消費者という「人」に結び付ける点に、この構想の本質と斬新さがある。 この発想の利点は明快である。第一に、低所得者の消費税負担を下げたいのであれば、食料品だけを特別扱いする必要はない。人基準の補填であれば、低所得者が支出するすべての課税消費を対象に実効負担を下げることができるので、食料品と外食の線引き問題や、消費額の多い高所得者に青天井で恩恵が及ぶという軽減税率の弱点を回避しやすい。補填額の上限をどう設定するかが鍵となるが、ある意味、「消費税を廃止せよ」という主張が低所得者については実現することになる。 第二に、購入時補填は、後日の給付よりも「その場で軽減された」という実感を与えやすく、制度への納得を得やすい。第三に、単一税率・広い課税ベースを維持できるため、消費税の簡素性や中立性を損ないにくい。要するに、軽減税率の可視性と、給付において要請されるターゲティング能力を、デジタル基盤によって結び付けようとする試みである。 (2) アベノミクス時代の知恵~還付ポイント制度提案(実施せず) 興味深いのは、わが国には「補填方式」と同じ発想があったことである。税率10%への引上げを控えた2015年9月10日の与党税制協議では、「還付ポイント制度」と呼ばれる日本型軽減税率の具体案が示された。これは、対象品目の購入時にマイナンバーカード等を用いてポイントを付与し、後日口座還付する仕組みであり、複数税率を流通の各段階に持ち込むのではなく、最終消費段階で補填を行うという発想に立っていた。 リアルタイム補填ではなく事後還付である点はリアルタイム補填方式(IMF案)と異なるが、単一税率を維持しながら、購入情報に基づいて負担調整を行うという点は同じである。 まとめ~消費税逆進性対策を巡る国際的な知恵 安定して、効率よく財源を生み出す消費税のアキレス腱ともいえる逆進性の問題に対応するための制度についての議論や国際的な経験を、イノベーティブなものも含めてみてきた。それらを【表1】にまとめる。 【表1】 消費税逆進性対策を巡る国際的な経験 (出所) 筆者作成。なお、還付ポイント制度の対象者について、高所得者への過大な恩恵がないかという観点から検討とされていた。 購入時におけるリアルタイム型(軽減税率、リアルタイム補填方式)であれ、事後給付型(給付付き税額控除)であれ、システム対応が必要になる。軽減税率(食料品ゼロ税率)の場合、レジの改変等が、給付の場合、所得や資産の確認や給付のための行政庁等の間における情報連携やシステム整備が、また、リアルタイム補填方式の場合、小売店の端末からの情報伝達と、中央データーベースによる累積補填額の管理などが必要になる。 日本ではキャッシュレス決済の比率が2025年には58%に達しており、2030年までに65%にするという目標達成に向け堅調に拡大している(※)。基盤整備は一定程度前進しており、こうしたデジタルインフラ整備の成果も将来の制度設計に生かしていくべきだろう。 (※) 経済産業省「2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました」 デジタルの恩恵を生かすという観点は重要だ。IMFペーパーにあるリアルタイム補填方式は、現在のわが国における検討における直接の制度候補という位置づけではなく、日本の制度設計を将来志向で考えるための有益な思考実験として参考にすることができるだろう。 (了)
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第4回 海外赴任と納税管理人 〈JUN税会〉 税理士 廣瀬 周平 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 居住者と非居住者の定義と課税範囲(所法2、5、7) 所得税法において、納税義務者は「居住者」と「非居住者」に区分され、それぞれ課税範囲が異なります。 区分 定義 課税範囲 居住者 永住者 国内に「住所」を有し、又は現在まで引き続いて1年以上「居所」を有する個人 全ての所得 (国内源泉所得 + 国外源泉所得) 非永住者 日本の国籍を有さず、かつ過去10年以内に日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の個人 国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われたもの又は国外から送金されたもの 非居住者 居住者以外の個人 国内源泉所得 【海外勤務者の区分】 (2) 非居住者の国内源泉所得に係る課税(所法161、164) 非居住者は、国内源泉所得についてのみ日本で課税されます。国内源泉所得には、総合課税に係るものと源泉分離課税に係るものがあります。 非居住者は、日本国内で発生した所得(国内源泉所得)のうち、総合課税に係る所得を有する場合に確定申告が必要になります。 ① 総合課税に係る所得 総合課税とは、確定申告により、他の所得と合算して税金を計算する制度です。 【具体例】 ② 源泉分離課税に係る所得 源泉分離課税とは、他の所得とは関係なく、所得を受け取るときに一定の税額が源泉徴収され、それで全ての納税が完結する制度です(確定申告することはできません)。 【具体例】 (3) 納税管理人の選任 ① 納税管理人とは(通法117) 納税管理人とは、納税者に代わって国税や地方税に関する申告・納付・書類受領などを行う人をいいます。特に、日本国内に住所や事業所を持たない個人や法人が、課税関係を円滑に行うために設置される制度です。 【主な役割】 ② 納税管理人の選任方法 【留意点】 ③ 納税管理人の届出書 【提出手続き】 (※) 1月1日時点で日本国内に居住していた場合は、住民税の納税義務が発生します。固定資産税も居住者、非居住者問わず、1月1日時点での不動産所有者に課税されます。 ④ 納税管理人による確定申告 ★ 国外転出時までに「納税管理人の届出書」を提出した場合は、確定申告期限内に申告を行うことで、振替納税を継続して利用することができます。 ★ 還付金はあくまで本人に帰属するものであり、納税管理人は、還付申告書の提出や手続きを代行できますが、還付金そのものは「納税者本人の口座」か「納税管理人の口座」に振り込むかを選べます。 ただし、納税者本人の口座は、日本国内の金融機関口座であることが必要です。 納税者本人の国内口座がない場合には、納付の場合、納税管理人が納付書で納付します。また、還付の場合、納税管理人の口座へ還付金が還付されます。 後日、納税者本人と納税管理人間で精算します。 (4) 国外転出時課税制度(所法60の2) 保有する株式等の時価や未決済デリバティブ取引等の含み損益の合計額が1億円以上の居住者が、日本国内に5年を超えて住所または居所を有していた場合に国外転出する際、保有する有価証券等を譲渡したものとみなして含み益に課税される制度です。 ① 納税管理人の届出による違い ② 納税猶予制度 国外転出時までに納税管理人の届出を行い、確定申告書に納税猶予を受ける旨を記載し、明細書等を添付して一定の担保を提供することで、国外転出の日から5年4か月間(申請により10年4か月間)納税が猶予されます。 3 本件事例への当てはめ (1) 非居住者の該当性 海外への赴任期間が3年間を予定しており、出国日の翌日(9月11日)から非居住者となります。 (2) 国内源泉所得の有無 海外へ赴任後に国外での勤務に対して支払われる給与は、国外源泉所得に該当します。 日本で支払われる留守宅手当も従業員の勤務が現地国で行われているため、国外源泉所得とみなされます。 一方で、自宅マンションを賃借することは、不動産所得となり、国内源泉所得のうち、総合課税に係る所得となります。 したがって、日本国内で発生した所得(国内源泉所得)のうち、総合課税に係る所得を有するため、確定申告が必要になります。 (3) 納税管理人の選任 非居住者が確定申告を行う場合、自分で現地からe-Taxによる電子申告ができないため、日本で納税管理人を選任して確定申告をする必要があります。 家族も海外赴任に帯同するため、出国日までに親や兄弟、税理士等に納税管理人の依頼をして「納税管理人の選任届出書」を提出しなければなりません。 (4) 国外転出時課税制度の適用 1億円以上の有価証券等を保有していないため、国外転出時課税制度の適用はありません。 NISA口座は、出国前日までに証券会社へ「継続適用届出書」を提出すれば、NISA口座の資産を最長5年間、非課税のまま保有(売却は可能)できます。ただし、海外在住中は新規の購入(積立)はできません。 iDeCo(イデコ)は海外赴任中も、日本の厚生年金に加入し続ける(国内企業からの転勤)場合、掛金の拠出と運用をそのまま継続可能です。ただし、海外在住中は掛金の所得控除は適用できません。 (※) 金融機関により対応は異なるため、各金融機関への事前の問合せが必要です。 4 実務上の留意点 (1) 納税管理人の選任 出国日までに「納税管理人の選任届出書」を提出しなかった場合、出国日までに、出国日までの準確定申告や国外転出時課税に係る申告、納付を行わなければなりません。 出国日までに「納税管理人の選任届出書」を提出した場合は、翌年3月15日までに申告、納付を行います。 (2) 非居住者となった後の確定申告 ① 出国年の確定申告 年の中途で海外赴任のため非居住者となった年は、その年1月1日から出国する日までの間に生じた全ての所得(居住者としての所得)と、出国した日の翌日からその年12月31日までの間に生じた国内源泉所得(非居住者としての所得)を合計して確定申告します。 ② 海外在住時の確定申告 国内源泉所得のうち、総合課税に係る所得について、確定申告します。(源泉分離課税となるものは除きます) (3) 源泉徴収の注意点 不動産の貸主が非居住者である場合には、原則として借主は賃借料の支払の都度、支払金額の20.42%を源泉徴収し、翌月10日までに税務署に納付をしなければなりません。ただし、賃借人が個人であり、その個人またはその親族が居住の用に供する目的で借りている場合には、賃借料の支払い時に源泉徴収を行わなくてもよいこととされています。 (4) 振替納税、国内口座振替の利用 国内に銀行等の口座を残す場合、所得税や住民税、固定資産税などの振替納税制度を継続して利用できるため、納税管理人制度とあわせて活用することで、納税漏れのリスクを軽減することができます。
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第19回】 「宿泊予約サイトを介した取引に係る消費税の課税関係が契約内容によってどう変わるか」 税理士 石川 幸恵 【Q】 社員寮に空きがあるので、インターネット上の宿泊予約サイト(運営会社は外国法人)を通じて旅行者向けに短期で貸し出そうと考えています。サイトの運営会社の規約を確認すると、下図のようなお金の流れになるということでした。 この場合、当社はサイトの運営会社からの入金額を課税売上げとして処理して差し支えないでしょうか。 なお、当社の消費税申告は一般課税で課税売上割合は常に95%以上です。 【A】 社員寮の空き部屋を旅行者向けに短期で貸し出す取引には、貴社、宿泊予約サイト運営会社、旅行者の三者が関わっています。このような取引においては、「誰が、誰に対して、いくらで、どのようなことを行うのか」という内容を、宿泊予約サイト運営会社との契約内容や規約などに基づいて整理したうえで、課税関係を判断する必要があります。 お金の流れのみに着目すると、課税標準額や課税時期を誤り、納税義務判定や簡易課税制度の適用の判断にも影響を及ぼす可能性があります。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 例題のような民泊のほか、宿泊業においては宿泊予約サイトが介在する取引が多く見られる。本稿ではその典型的な形態として二つのパターンを取り上げて整理する。 1 宿泊予約サイトが宿泊施設の広告宣伝を行う場合 宿泊予約サイトが広告宣伝を行う場合には、貴社が旅行者に対して宿泊サービスを提供することになる。この点は後述する「空室を再販する場合」との違いとして重要である。 宿泊予約サイトは貴社に対して広告サービスを提供し、その対価として宿泊料の一定割合を受け取る。 宿泊料を10,000円として取引の流れを書き込むと次のとおりである。 貴社の社員寮が国内にあれば10,000円が貴社の税込み売上高となる。課税売上げの時期は旅行者が宿泊した日である。 一方で宿泊サービスの対価10,000円と入金額との差額2,000円は広告サービスの対価である。外国法人である宿泊予約サイト運営会社が提供する広告サービスについてはリバースチャージについて検討する必要がある。ただし、今回、貴社の消費税申告は一般課税で、課税売上割合は常に95%以上である。この場合は、その課税期間中に行った特定課税仕入れはなかったものとされる(27年改正法附則42)。 以上より会計処理は次のようになる。 (※) 区分の名称は会計ソフトによって異なります。 2 宿泊予約サイトが空室を再販する場合 宿泊予約サイトが空室を買取り、自らの名で旅行客に再販するパターンもある(下図)。 この場合、貴社は旅行者ではなく宿泊予約サイトに宿泊サービスを提供することになる。したがって、貴社の売上高は税込み8,000円となり、【Q】のように入金額と売上高が一致する。 このような取引は一般に「空室卸売り」等と呼ばれるが、実質的には宿泊サービスの提供であるため、課税売上げの時期は実際の宿泊日と考えられる。 会計処理は次のようになる。 1のような宿泊サービスと広告宣伝の両建てであるにもかかわらず、2のように空室卸売りとして処理すると、当課税期間の課税標準額を過少に計算してしまう恐れがある。その影響は2事業年度後の基準期間における課税売上高の計算にも及ぶため、取引内容の整理には十分注意が必要である。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第90回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 31 暗号資産と税務調査②:ブロックチェーン分析 (1) ブロックチェーン分析とは何か ア ブロックチェーン分析とは 暗号資産の匿名性と分散性に起因する税務執行上の問題に対処するために力を発揮する調査手法としてブロックチェーン分析がある。 税務当局にとっては、申告漏れや無申告取引の把握、国外流出資産の追跡などに活用しうる重要な手法となる。 ブロックチェーン上のトランザクションを分析することで、エンティティ間のパターン、関係性、活動を一定の蓋然性をもって把握することが可能となる点が注目される。 エンティティについて、実務上は、単一のアドレスではなく、次に示すような、アドレスの使用パターンに基づくヒューリスティック(経験則)による分析に基づいて認識される複数アドレスの集合体として把握されることが多い。 ブロックチェーン分析によって、次のようなプロセスで身元特定につながる場合がある。 上記2の「同一主体によって管理されている」との判断は、ブロックチェーン分析単体で完結するものではない。 実務上は、取引所側のKYC(顧客確認)情報、IPアドレス、ログイン履歴、登録出金先アドレス情報、入出金履歴等といったオフチェーン情報との照合を通じて総合的に評価されるのが通常である。 イ パブリックブロックチェーンの「公開性」と「仮名性」 ブロックチェーン、とりわけ誰でも許可を得ることなく自由に参加できるパブリックブロックチェーンに記録された暗号資産のトランザクションは、公開されているため、ノードを運用するか、ブロックチェーンエクスプローラー等を通じて、誰でも確認できる。 例えば、BitcoinやEthereumのような代表的なパブリックブロックチェーンでは、特定のアドレスに紐づく送受信履歴や現在残高(未使用トランザクション出力の合計額又はアカウント残高)は、ブロックチェーンエクスプローラーを通じて誰でも閲覧可能である。 このようなブロックチェーンはネットワーク全体の合意形成(コンセンサス)によって維持されている。この合意形成が機能している限りにおいては、改ざんが極めて困難な形でトランザクション履歴が保存されているという特徴がある。 ウォレットアドレスがわかれば、そのアドレスに関連づけられた暗号資産のトランザクションや残高を把握することができるが、そこから直ちに「同一主体によって管理されているCEX口座や他のウォレット」を把握できるわけではなく、ブロックチェーン分析やオフチェーン情報との照合を経て、関連性が評価されることになる。 注意すべきことに、暗号資産は匿名性が高いと誤解されがちであるが、実際にはブロックチェーンは“匿名”取引ではなく、アドレスに紐づく“仮名”取引のようなものである。すなわち、アドレス自体には氏名等の個人情報は含まれないが、ひとたび現実世界の身元情報と結びつけば、トランザクション履歴を横断的に追跡し、分析することが可能となる(本連載第79回・第80回参照)。 このように、ブロックチェーン分析は、暗号資産の追跡可能性・透明性に加えて、仮名性を前提とする調査手法である。 もちろん、ブロックチェーンには個人を特定する情報は記録されていない。 この点はしばしば「だから追跡は困難である」と理解される。しかし、実務上問題となるのは「ブロックチェーン単体で完結する情報」ではなく、「ブロックチェーン外部の情報と組み合わせた場合の特定可能性」である。 (了)