《速報解説》 会計士協会が一体書類に対する監査報告書の実務ガイダンスを公表 ~監査報告書の文例について再検討、旧ガイダンスは廃止~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年4月17日付けで(ホームページ掲載日は2026年4月20日)、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス実務ガイダンス第3号「事業報告等と有価証券報告書の一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書に係る実務ガイダンス(2026年4月版)」を公表した。 これにより、2026年2月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して、特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、2021年8月に公表されたものを改正するものであり、現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について再度検討を行い、より実務的なガイダンスとして新たに取りまとめたものである。 なお、2026年4月17日付けで、監査基準報告書700 実務ガイダンス第2号「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に係る実務ガイダンス」は廃止された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 実務ガイダンスは、現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について検討し、各種の文例を示している。 一体書類とは、一つの書類により、計算書類、事業報告(これらの附属明細書が含まれるときはこれらの附属明細書を含む)及び連結計算書類並びに有価証券報告書を作成する場合における当該書類をいう(3項)。 2 適用される財務報告の枠組み 一体書類においては、表示及び開示に関する財務諸表等規則等及び会社計算規則の両方が適用されることとなる(4項)。 一体書類に含まれる財務諸表等(財務諸表及び連結財務諸表並びに計算書類(その附属明細書が一体書類に含まれるときは附属明細書を含む)及び連結計算書類をいう)に対して監査を行う場合、監査人は、現行法制度下においては、金融商品取引法及び会社法のそれぞれの財務報告の枠組みが同時に適用されるものと考えている(5項)。 キャッシュ・フロー計算書は、会社法及び会社計算規則において開示対象及び監査対象とされないことから、監査報告書上も、その点が明確になる文例を示している(6項)。 3 一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書と内部統制監査報告書の一体作成 有価証券報告書提出会社が金融商品取引法及び会社法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体的に作成することを妨げる理由が見当たらず、そのため、実務ガイダンスにおいては一体的に作成することとしている(7項)。 (了)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.665を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第150回】 「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 2月26日、社会保障国民会議の第1回会合が開催された。同会議は、政府と、消費税が社会保障の貴重な財源であるとの認識を有し、給付付き税額控除の実現に取り組む政党が共同で開催するものとして設置された。国民にも見える形で丁寧かつスピード感をもって検討を進めることとされており、夏前までに中間とりまとめが行われる予定である。 社会保障国民会議そのものは、下図のように親会議の位置付けにあり、議論の開始時や中間とりまとめなどの節目で開催される見込みである。具体的な議論については、親会議の下に設置された「給付付き税額控除等に関する実務者会議」と「有識者会議」が担うこととなる。 〈図:社会保障国民会議全体イメージ図〉 実務者会議のメンバーとしては、自由民主党の小野寺五典税制調査会長が議長を務め、各党から2名の「実務者」が参加する。また、城内実全世代型社会保障改革担当大臣と有識者会議座長も政府側を代表して参加するほか、必要に応じて財務大臣と総務大臣も参加する。実務者会議は3月12日に初回が開催されて以降、4月8日までにすでに5回開催されており、参加する政党も徐々に拡大している。これまで主に消費税に関する関係者からのヒアリングが行われているほか、有識者会議の模様も随時報告されている。 〈第5回実務者会議(4月8日開催)の政党側出席者〉 有識者会議では、日本赤十字社社長で慶應義塾学事顧問の清家篤氏が座長を務め、学者や研究者、エコノミスト、経済団体等から成る12名の「有識者」が参加する。給付付き税額控除や食料品の消費税率ゼロの制度化を念頭に、様々な立場から、専門的・技術的な論点を集中的に検討・精査する。有識者会議は3月24日に初回が開催されて以降、4月9日までに3回開催されている。給付付き税額控除については、論点を洗い出した上で制度化に向けた議論を深めているほか、実務者会議の模様も報告されている。 〈有識者会議構成員〉 こうした中、経団連は4月14日、提言「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方」を取りまとめて公表した。経緯としては、高市政権で動き出した「責任ある積極財政」と社会保障国民会議の設置という好機を捉え、2024年12月9日に公表した「Future Design 2040(FD2040)」のロードマップの一環として、税・財政・社会保障一体改革の実現に向けた基本的考え方を示したものである。 一体改革を通じて目指す姿は、FD2040で示した内容を踏襲して、公正・公平で持続可能な社会である。成長と分配の好循環を継続させ、分厚い中間層を形成し、中福祉・中負担程度の社会保障制度を構築することを掲げている。しかし、現状では、少子高齢化・人口減少の加速で、現役世代の社会保険料負担が今後もさらに増加することが懸念されている。 内閣府の中長期試算をもとにすると、企業がマインドセットを転換し、積極的に投資を拡大する投資牽引型経済によって、全要素生産性(TFP)上昇率が過去40年平均の1.1%程度まで高まり、実質成長率が1%を安定的に上回る成長、名目成長率は中長期的に3%程度の成長を実現することが、とりもなおさず、財政健全化や社会保障の持続可能性を高めることに繋がる。そのため、税・財政・社会保障一体改革では、個々の政策による部分最適ではなく、全体最適を目指すことが肝要となる。政府のみならず、企業、国民がそれぞれの役割を果たすことで、初めて一体改革が実現する。 例えば、経済財政運営のあり方としては、市場の信認維持に十分留意する必要性があり、債務残高対GDP比の安定的・継続的な引き下げを財政健全化目標とすることや、さらに、複眼的な視点でのモニタリングとして、複数年度のプライマリーバランスや利払費にも着目すべきである。予算編成については、歳出の目安の見直しや、複数年度予算、当初予算での措置が重要となる。加えて、国会等への独立財政機関の設置も検討すべきである。 社会保障国民会議では、中長期の給付と負担の見通し等を示すことを通じて、広く国民の理解を得つつ、ビジョンを共有しながら議論を進めることが求められる。当面、給付付き税額控除と消費税減税の検討を集中的に行うこととされているが、給付付き税額控除については、2年を待たずに簡素な形で導入すること、マイナンバーの徹底活用を進めることを提言している。また、消費税減税については、代替財源の確保が大前提であり、それ以外の様々な課題に対しても議論を尽くす必要がある。また、早期に検討すべき事項としては、医療・介護の提供体制やDX、テクノロジーの活用、攻めの予防医療と健康経営、高齢者医療・介護の自己負担の見直し等も列挙している。 社会保障国民会議の役割には大いに期待が高まっており、広く国民を巻き込んで議論していくことが重要である。データを用いて、現状と将来見通しをわかりやすく説明しつつ、全体最適の観点から改革の全体像を示していくことが求められる。経団連では、今後も必要に応じて改革の実現に向けた提言を行う所存であり、同時に、企業のマインドセットを転換し、「投資牽引型経済」を実現することを通じて、「成長と分配の好循環」を加速・拡大させるべく取り組んでいく予定である。 (了)
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第1回 従業員用の借上げ社宅① ~従業員社宅制度の基本と税務上のメリット~ 公認会計士・税理士 桝井 康弘 ◇◆◇連載開始にあたって◇◆◇ 法人が従業員や役員に社宅を貸与する際の税務処理は、多くの実務家が直面する重要なテーマです。適切な家賃設定を行わなければ、給与認定による源泉徴収漏れや追徴課税といった重大なリスクを招く可能性があります。 本連載では、社宅制度における税務上の取扱いやその周辺知識を体系的に解説してまいります。従業員と役員では課税上の扱いが大きく異なり、福利厚生費として処理できるか、給与課税されるかの分岐点を正確に理解することが不可欠です。 特に役員社宅については、裁判例や税務通達における判断基準が複雑で、実務上も判断を誤りやすい論点といえます。税務調査でも着目されやすい項目であることから、国税庁の見解(タックスアンサー・質疑応答事例)や裁判例を交えながら、実務的な対応策や判断のポイントを丁寧に紹介していきます。 〇社宅制度の導入の相談 〇課税の仕組み 〇具体的なシミュレーション 【物件情報】 〇経済効果の比較 【住宅手当の場合】 【借上げ社宅の場合】 (次回に続く)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第80回】 「渡切交際費と役員給与等」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員給与と渡切交際費の関係 法人が、取引先との関係を円滑にするため等の目的で交際費を支出した場合、その際に受領した領収書をエビデンスに、税務上の交際費等として取り扱うのが通常である。これに対して、法人が役員や従業員に対して使途を明らかにすることを求めず、精算も行わないことを前提に、交際費見合いの金銭を前渡しの形で支給することがある。いわゆる「渡切交際費」と呼ばれるものである。このような渡切交際費は、中小企業の実態に鑑みれば特に役員に対して支給するケースが大多数であるだろう。 渡切交際費は、法人税基本通達9-2-9(9)にて「役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの」とされているものであり、これは役員給与について定める法人税法34条4項にて、役員に対する経済的利益に当たるとされている。そして、同通達9-2-11(3)では、役員に対する渡切交際費を毎月定額で支給する場合には、「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」(法令69①二)に該当するとしている。つまり、毎月一定の額を渡切交際費として役員に支給している場合、定期同額給与としての損金算入の可否判断に移るものとして整理されることとなる。なお、このように整理される場合、所得税において給与課税を行う必要がある(所法36①)。さらに消費税において仕入税額控除の対象とならない(消基通11-2-23)。 このように、渡切交際費は使途を明らかにしないまま支出されるものであるが、役員に支給された役員給与であるために、その部分についての所得税等を負担した役員が個人的に交際費を費消したものとして整理されている。 (2) 渡切交際費と使途秘匿金の関係 上記(1)に対して、法人が金銭を費消し、その使途等に加え相手方が不明な場合に適用される「使途秘匿金」課税がある。使途秘匿金が認められた場合、損金算入が認められないばかりか、その額に対して40%に相当する法人税が課されるものであり(措法62①)、法人にとって負担は大きいといえる。 この使途秘匿金課税は、他者を通じた支出であっても実質的に使途秘匿金であると認められた場合にも適用されるため(措令38③)、上記のような役員に対する渡切交際費の形を取ることで使途秘匿金課税の適用があるのではないかとも思われる。また、法人税基本通達9-7-20では、「使途不明金」について「法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない」としており、こちらについても渡切交際費との関係について整理が必要となる。 これらの点については、詳細に整理した見解が存在している。具体的には、役員に対する渡切交際費を支出した場合には租税特別措置法施行令38条3項の適用はないとした上で、「明らかに『使途秘匿金』とすべきものを役員に支給したように仮装している場合は、・・・使途秘匿金の支出がある場合の特例が適用され」るとするものがある(※1)。役員への渡切交際費は、定期同額給与への該当性に留意することで損金算入が可能となるため、法人が使途を明らかにしたくない支出を渡切交際費として仮装することで、損金算入を図ることもでき得るのである。この場合において、同見解では、使途秘匿金課税と法人税基本通達9-7-20による費途不明の交際費等としての損金不算入、そして重加算税の適用があるという可能性について指摘されている。 (※1) 森田政夫・西尾宇一郎『令和7年6月改訂 問答式 交際費・寄附金等の税務と会計』(清文社、2025)429頁以降。なお、渡切交際費のため役員給与とすべきところ、仮払金として処理すると、その仮払金が使途秘匿金と認定される恐れがあるとも指摘されている(430頁)。 (3) 使途不明金と役員賞与との関係 中小企業における税務調査においては、使途不明金と役員賞与の線引きについて議論となるケースがある(※2)。例えば、法人が、取引先をかばう意図で取引先に支払った内容を課税庁に説明したがらない等の意図的な場合や、法人の帳簿書類管理等がずさんで調査時に支払いの使途を明らかにできない等の無自覚な場合等が考えられる。つまり、法人が支出した金銭が、法人の必要経費であるのか、それとも代表者等の役員らが個人的に費消したものなのかが帳簿書類等から説明できないケースである。 (※2) 認定賞与については、【第21回】参照。この回は代表取締役自身が行った横領を取り扱っている。 この場合、上記法人税基本通達9-7-20の使途不明金として損金不算入となる。しかし、税務調査時において代表取締役らに対する認定賞与に該当する旨の指摘を受けたことで、それを回避するために役員貸付金として処理する交渉や調整が行われたりするケースがある。役員賞与とされ得る要件について裁判例や裁決例を確認すると、事例自体は相当数が存在しており、例えば以下のものがある。 国税不服審判所平成19年10月3日裁決では(※3)、「いわゆる同族会社で、代表者が当該法人の実権を唯一有する場合においては、代表者によって支出された現金等の使途が不明で、会社のために支出したと認められないときには、他の役員、株主等による抑制が困難であり、代表者はその取得・費消することが極めて容易な立場にあることから、他に特段の事情がない限り、当該法人の実権を唯一有するその代表者がその現金等を取得したものと推認するのが相当である」とされている。また、東京高裁昭和56年6月19日判決では(※4)、「代表者個人の認定賞与と認めるには、右払戻金を被控訴人代表者において取得した事実、少くとも同人において取得したと合理的に推認することができる事実について、課税当局である控訴人においてこれを主張、立証する必要がある」とされている。 (※3) 裁決事例集74巻111頁。 (※4) 税務訴訟資料117号675頁。 これらのことから、役員賞与と認定されるためには、少なくとも、代表取締役等の役員が法人の金銭を個人的に費消したものと認められる事情が必要となると思われる。もっとも、この件は事実認定の問題となるが、税務調査の現場においては、金銭消費貸借契約書を準備することにより、役員貸付金とすることで終結させるケースも一定数あるといえるだろう。要因となった使途不明金の発生について、役員が負う善管注意義務がその背景にあると考えられる。 (了)
相続税の実務問答 【第118回】 「両親からの贈与について相続時精算課税を適用した場合の基礎控除額」 税理士 梶野 研二 [答] 2名以上の者からの贈与について相続時精算課税を適用する場合、控除することができる基礎控除額は、110万円を贈与者ごとの贈与財産の価額で按分計算した金額となります。ご質問の場合には、お父様及びお母様のそれぞれから贈与により取得した財産の価額(課税価格)から、110万円をその価額比で按分計算して求めた価額が基礎控除額となります。 なお、相続時精算課税に係る特別控除額は基礎控除後の課税価格から控除することとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る基礎控除額 暦年課税制度においては少額不追及の観点から基礎控除額が設けられていましたが、相続時精算課税においては、生前贈与と相続を通じた税の課税を相続時に一括して行うことを前提とした制度であるため、基礎控除は設けられていませんでした。基礎控除額が設けられていないということは、相続時精算課税を選択した年の翌年以降は、少額の贈与についても申告が必要であることを意味し、そのことが相続時精算課税の利用が進まない原因の一つだとも指摘されていました。 そこで、相続時精算課税の利用を促進する観点から、令和5年の税制改正において、相続時精算課税に係る基礎控除額の定めが設けられ、令和6年1月1日以降の相続時精算課税を適用する贈与については、贈与を受けた財産の価額の合計額(贈与税の課税価格)から、最大110万円の基礎控除額(注)の控除をすることができることとなりました(『令和5年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2023年)447頁参照)。 (注) 相続税法第21条の11の2第1項では、基礎控除額は60万円と規定されていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項において、「60万円」は「110万円」に読み替えられています。 なお、相続時精算課税を選択した年分が、令和5年以前であったとしても、令和6年以降の特定贈与者からの贈与については、贈与を受けた財産の価額から基礎控除額の控除をすることができることとされています(令和5年所得税法等の一部を改正する法律附則19④)。 2 2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の基礎控除額 相続時精算課税適用者が、2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の基礎控除額について、①特定贈与者ごとに最大110万円の基礎控除額を控除することができるのか、あるいは②すべての特定贈与者からの贈与を通じて最大110万円の控除を適用することとなるのか、その場合に特定贈与者からの贈与ごとの控除額をどのように計算するのかが問題となります。 この点について、租税特別措置法第70条の3の2第3項及び租税特別措置法施行令第40条の5の2は、②であるとし、その場合の特定贈与者ごとの基礎控除額を、110万円に特定贈与者ごとの贈与税の課税価格が当該課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて計算すると定めています。 これを算式で示すと次のとおりとなります。 なお、この計算結果は、その年における各特定贈与者からの贈与に適用する相続時精算課税の特別控除額のほか、翌年以降に繰り越される相続時精算課税の特別控除額や特定贈与者に相続が開始した場合の相続税の課税価格に加算又は算入する金額にも関わりますので、申告書の控えを確実に保管するなどして、特定贈与者に相続が開始するまで、確実に管理しておく必要があります。 3 ご質問の場合 あなたは、お父様からの贈与についてはすでに相続時精算課税を選択していますので、令和8年のお母様からの贈与について相続時精算課税を選択するとすれば、相続税の基礎控除額110万円は、次のとおりお父様からの贈与価額から控除する金額とお母様からの贈与価額から控除する金額に按分計算する必要があります。 ① お父様からの贈与に係る基礎控除額 ② お母様からの贈与に係る基礎控除額 なお、相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除は、暦年課税に係る贈与税の課税価格とは別の控除として定められていますので、同一の年において、相続時精算課税に係る基礎控除と暦年贈与に係る基礎控除をそれぞれ適用することができます。 ご質問の場合、令和8年分のお母様からの贈与について相続時精算課税を選択しなければ、お父様からの相続時精算課税を適用する贈与について110万円の基礎控除、お母様からの暦年課税贈与について110万円の基礎控除、併せて220万円の基礎控除額を適用することができます。 (了)
給与計算の質問箱 【第76回】 「注意したい令和8年4月からの改正事項」 ~在職老齢年金制度の改正、通勤手当の非課税限度額及び食事の現物支給の非課税限度額の引上げ~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 給与計算に関連する令和8年4月からの改正事項があればご教示ください。 A ①在職老齢年金制度の改正、②通勤手当の非課税限度額の引上げ、③食事の現物支給の非課税限度額の引上げの3つに注意したい。 * * 解 説 * * 1 在職老齢年金制度の改正 令和8年3月までは給料と老齢厚生年金の合計額が51万円を超えると、超えた金額の2分の1の老齢厚生年金が支給停止されたが、令和8年4月からは給料と老齢厚生年金の合計額が65万円を超えると超えた金額の2分の1の老齢厚生年金が支給停止されることになった。 (出典) 厚生労働省リーフレット 2 通勤手当の非課税限度額の引上げ 令和8年4月1日以後に自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当のうち、片道65km以上の非課税限度額が引き上げられた。 また、通勤距離の区分に応じた非課税限度額に1ヶ月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算した金額を非課税限度額とすることとされた。 (出典) 国税庁ホームページ(赤囲みは筆者による) 3 食事の現物支給の非課税限度額の引上げ 令和8年4月1日以後に支給する食事の現物支給の非課税限度額が月額3,500円から月額7,500円に引き上げられた。また、使用者が深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について所得税を課税しないこととされる1回の支給額についても、300円以下から650円以下に引き上げられた。 (了)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第19回】 「複数シナリオで未来を読む ~気候シナリオ分析の考え方」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * 気候関連開示におけるシナリオ分析とは、将来の気候変動の進展や気候政策、市場・技術動向などに関する複数の将来像(気候シナリオ)を想定し、それぞれの状況下で企業の事業や財務に生じ得る影響を評価する手法をいいます。企業は、この分析を通じて気候関連のリスク及び機会を把握し、自社の戦略やビジネスモデルが異なる将来環境に対してどの程度レジリエンス(耐性)を有するかを検討します。 SSBJ基準では、企業が気候関連のリスク及び機会を評価し、戦略に反映する際の重要な分析手法としてシナリオ分析が位置付けられています(【第16回】参照)。 * * * * * * 気候シナリオとして特定の温度水準の使用が義務付けられているわけではありませんが、多くの企業では、「温暖化が抑制される世界」と「進行する世界」という対照的な将来像を示すため、「1.5℃シナリオ」や「4℃シナリオ」などが用いられています。ここでいう1.5℃や4℃は、産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇幅を指します。 1.5℃シナリオは、温室効果ガス削減が進み、脱炭素への移行が進む世界を想定するものです。規制強化や技術転換に伴う移行リスクが高まる特徴があります。 一方、4℃シナリオは、温室効果ガス削減が進まず、温暖化が大きく進行する世界を想定するものです。異常気象や海面上昇などによる物理的リスクが顕在化することが見込まれます。 これらの気候シナリオは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などの国際機関が公表している将来シナリオを参照して設定されることが一般的です。 * * * * * * SSBJ基準の気候基準は、気候関連の開示内容を定めたものであり、シナリオ分析の具体的な実施手順までは規定していません。各企業は、TCFDの実務ガイドなどを参考にシナリオ分析の手順を設定しています。 一般的な実務の進め方としては、まず、分析を行う体制の構築や、分析対象・時間軸などを設定します。次に、その対象において想定される気候関連のリスク及び機会を特定し、重要度を検討します。そのうえで、前述のような複数の気候シナリオを設定し、それぞれのシナリオの下でリスク及び機会が事業や財務に与える影響を評価します。さらに、その影響を踏まえて、戦略や対応策を検討し、異なる将来環境の下で自社の戦略やビジネスモデルがどの程度レジリエンスを有するかを評価します。 * * * * * * 【日本ハム(株)2025年3月期有価証券報告書】 (第2 【事業の状況】 2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】より抜粋) (★:筆者注) SSP1-1.9/SSP1-2.6:IPCCが公表している低排出シナリオで、温暖化が1.5℃〜2℃程度に抑えられる将来像 SSP3-7.0:IPCCが公表している高排出シナリオで、温暖化が大きく進行する将来像 IEA-NetZero:IEAが公表している脱炭素シナリオで、2050年頃に世界全体の温室効果ガス排出が実質ゼロとなる経路 * * * * * * 【日本ハム(株)2025年3月期有価証券報告書】 (上記箇所より抜粋) * * * * * * シナリオ分析は、気候関連のリスク及び機会の財務影響を評価するとともに、その影響を踏まえた戦略や対応策の検討につなげるプロセスです。同社の開示例を続けて見てみましょう。 【日本ハム(株)2025年3月期有価証券報告書】 (上記箇所より抜粋) * * * * * * SSBJ基準は、シナリオ分析の実施や開示に関し、企業の実務負担にも配慮しています。企業の状況や利用可能なデータの範囲に応じて、定性的分析から定量分析まで段階的なアプローチを取り得ることが示されています。したがって、すべての企業に高度な定量分析が必ず求められるわけではありません。 また、シナリオ分析自体は毎期必ず詳細に実施し直すことが求められているものではなく、前提条件に重要な変化があった場合に更新する形で運用されることが一般的です。ただし、気候関連のリスク及び機会や戦略に関する開示自体は毎期更新されるため、シナリオ分析の前提や結果に重要な変化が生じた場合には、その内容を開示に反映する必要があります。 * * * * * * Q 気候関連開示におけるシナリオ分析とはどのようなもの? A 将来の気候変動の進行度合いが異なる複数のシナリオ(例:1.5℃シナリオ、4℃シナリオ)を用いて、気候関連のリスクや機会が企業の財務や戦略に与える影響を評価するものです。シナリオ分析の結果は戦略開示の中核となる情報として位置付けられます。 (了)
連結会計を学ぶ(改) 【第19回】 「子会社の時価発行増資等、完全子会社株式の配当」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回まで、親会社における子会社株式の追加取得や売却により、資本連結手続がどのように行われるのかについて解説してきた。 今回は、子会社において時価発行増資等が行われた場合の資本連結手続について、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)及び「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 また、完全子会社株式を配当した場合の処理についても解説する。これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理に関する規定である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社の時価発行増資等 1 基本的な会計処理 子会社の時価発行増資等に伴い、親会社の払込額と親会社の持分の増減額との間に差額が生じた場合(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る)には、当該差額は資本剰余金として処理する(連結会計基準30項)。 そして、子会社の時価発行増資等に伴い生じる差額の計算に関しては、売却持分及び増額する非支配株主持分は、親会社の持分のうち売却した株式に対応する部分として計算する方法に準じて処理すると規定されている(連結会計基準注解(注9)(1)(3))。 2 子会社の時価発行増資等に伴い親会社の持分が増減した場合の処理 子会社の時価発行増資等に伴い、親会社の引受割合が増資前の持分比率と異なるために増資後の持分比率に変動が生ずる場合、一旦、従来の持分比率で株式を引き受けたように算定する。 そして、その後に追加取得(親会社の持分比率が増加する場合)又は一部売却(親会社の持分比率が減少する場合)を行ったものとみなして会計処理する(資本連結実務指針47項)。 この場合、追加取得とみなす場合のみなし取得価額は、増資額のうち、親会社が従来の持分比率により引き受けたとみなした金額を上回る実際引受額であり、また、一部売却とみなす場合のみなし売却価額は、従来の持分比率により引き受けたとみなした金額を下回る実際引受額である。 株式の発行価格が増資前の1株当たり純資産額と等しければ、みなし取得価額又はみなし売却価額と親会社持分の増加額又は減少額との間に差額は発生しないが、これらが異なるときは親会社の持分変動による差額が生ずることとなる(資本連結実務指針47項)。 子会社の時価発行増資等に伴い、親会社の払込額と親会社の持分の増減額との間に差額が生じた場合(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る)には、当該差額は資本剰余金として処理される(連結会計基準30項、注解(注9)(3)、資本連結実務指針37項、39項、42項及び44項)。 具体的な計算方法は、資本連結実務指針の「設例8 時価発行増資により持分比率が増加した場合」及び「設例9 時価発行増資により持分比率が減少した場合」に記載されている「所有株数及び親会社の持分変動表(評価差額を含む。)」を参考にしていただきたい。 Ⅲ 完全子会社株式を配当した場合の処理 2024年3月22日、企業会計基準委員会は、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(改正企業会計基準適用指針第2号)等を公表している。これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置が設けられている(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)。 改正企業会計基準適用指針第2号等を受けて、資本連結実務指針も改正され、保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、次のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行うこととされている(資本連結実務指針46-3項、46-4項、66-8項、66-9項、66-10項)。 「設例7-2 株式の配当により持分比率が100%(連結)から30%(持分法)になった場合」、「設例7-3 株式の配当により持分比率が100%(連結)から10%(原価法)になった場合」を参考にしていただきたい。 項目 会計処理 (1) 配当前の投資の修正額(付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金を除く)とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額 連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。 (2) 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額 ① 連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。 ② 個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額については、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正する。 ③ 子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額を修正する。 (3) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社になった場合) ① 当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されないため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、投資の修正額のうち配当後持分額が加減されることで、持分法による投資評価額に修正される。 ② この場合、当該持分法による投資評価額には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の取得関連費用を含めない(資本連結実務指針46-2項)。 ③ 同様にのれんの未償却額の取扱いは、子会社株式を売却し当該会社に対する支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い(資本連結実務指針45-2項)に準じて行う。 (4) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合) 残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。 (了)