2026年6月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.672を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第94回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 ウ ブロックチェーン分析を用いた暗号資産脱税事件(米国の事例) 米国において、初期のビットコイン投資家が、取得価額の水増し、複数ウォレットの利用、対面取引、ミキサーの活用などを駆使して暗号資産取引による利益を過少申告・無申告とし、結果として100万ドルを超える税損失(脱税額)を生じさせたことで、虚偽申告の罪により2年の実刑判決を受けた事例がある。 本件は、米国において、暗号資産取引を中心とする所得隠ぺいについて、刑事責任を問われ、実刑判決に至った初の事例とされる点で象徴的意義を有する。 (ア) 事案の概要 公表資料によれば、納税者は2015年にCoinbase口座を通じて約1,366BTCを購入し、2017年10月にはそのうち約640BTC(当時約5,807ドル/1BTC)を売却して約370万ドルを得た。 しかし、2017年分の申告においては、実際よりも著しく高額な取得価額を申告し、キャピタルゲインを過少に計上した。 さらに、2018年及び2019年にもビットコインを売却して65万ドル超を得ていたが、これを申告しなかった。 また、公表資料によれば、納税者は次のような方法を用いていた。 これらの行為は、資金移動の連続性を分断し、取引の流れを把握しにくくするものである。 (イ) ブロックチェーン分析の関与 IRSは Chainalysis のリアクターを活用し、取引開始から処分までの流れを追跡し、日付、評価額、取引相手などの詳細を特定した。 Chainalysisの専門的分析により、多数のウォレットに関わる資金の流れが順を追って示され、タイムスタンプと評価額の検証に役立ったとされている。 また、IRS は、納税者から提供された記録を相互参照するために、複数の取引所からトランザクション記録とブロックチェーンデータを取得した。 これらを通じて、IRSは、取得価額が水増しされていることを突き止めたようだ。 この点は、ブロックチェーンの履歴、取引所のデータ、価格データを客観的に突き合わせることにより、取得価額の不自然さを論理的に示すことが可能であることを示唆している。 さらに、ウォレット間の資金移転経路の追跡により、取得から売却、売却代金の処分に至るまでの資金移動の連続性が確認された可能性が高い。 (ウ) 捜査・立証活動 本件の意義は、単に資金の流れを追跡できたという点にとどまらない。 本件では、「損益計算に用いる数値そのものを操作する方法(取得価額水増し)」と、「資金移動の履歴を追いにくくする方法(複数ウォレット・ミキサー利用)」の両方が用いられていた。 ここで重要なのは、損益計算に用いる数値の虚偽も、取引所のデータやブロックチェーンの履歴という客観データとの照合によって検証対象となりうるという点である。 暗号資産課税においては、次の事実を正確に把握することが重要である。 ブロックチェーンは、少なくとも売却数量や移転履歴については改ざん困難な客観情報を提供する。 したがって、申告計算上の数値とブロックチェーンの履歴との不整合は、過少申告等の有無を判断するための客観的な検証材料となる。もちろん、取引所で取引をしている場合には、取引所のデータを参照することも有効である。 また、複数のウォレットやミキシングサービスの利用があったにもかかわらず追跡が成功していることからは、例えば次の点が分析に用いられ、それらが一定程度有効に機能した可能性がある。 (エ) 公開情報と情報分析・変換能力 本件は、暗号資産の匿名性に対する一般的理解に対して重要な示唆を与える。 納税者はミキシングサービスの利用等により追跡困難化を図ったようであるが、それでも資金の流れが再構成され、追跡された。 この点について、次の点を確認しておく必要がある。 結局のところ、本件は、暗号資産取引が「原理的に追跡不能」であるわけではないことを示している。 もっとも、本件は米国内の事例であり、刑事捜査権、召喚権限、事業者協力体制、証拠開示制度といった制度的背景が影響している可能性がある。 少なくとも、本件は「ブロックチェーン分析が万能である」ことを示すものではない。 むしろ、高度な分析能力と、取引所等から情報を取得できる法的権限とが相まって、税額の確定や刑事責任の追及に結び付くことを示した事例と理解するのが妥当であろう。 (オ) 総括 本件は、暗号資産の仮名性と公開性という技術的特性が、相応の分析能力と制度的枠組みによって担保されることで、虚偽申告を裏付ける証拠として活用されうることを示した事例である。 同時に、その効果は分析能力と法制度の実効性に依存する。 「ブロックチェーンは公開台帳である」という事実が、直ちに税額の確定や刑事責任の追及を可能にするわけではない。両者の間には、単なる情報の閲覧能力を超えた、高度な情報分析能力と制度的裏付けが不可欠である。 この点は、暗号資産課税の実務を考える上で、技術と法制度の相互作用を理解することの重要性を示している。 (出典) U.S.DEP’T OF JUSTICE,Early Bitcoin Investor Sentenced for Filing Tax Returns that Falsely Reported His Cryptocurrency Gains(Dec.12,2024),.Chainalysis「Chainalysis in Action―米国における画期的な事例が暗号資産関連の脱税捜査の先例に―」(2025.1.27)参照。 (出典) United States v.Roger Keith Ver,No.2:24-cr-00103-MWF(C.D.Cal.indictment filed Feb.15,2024),;U.S. ATTORNEY’S OFFICE,C.D.CAL.,Early Bitcoin Investor Known as‘Bitcoin Jesus’ Indicted for Allegedly Committing Tax Fraud and Causing $48 Million Loss to IRS(Apr.30,2024), (了)
〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第1回】 「国際税務において最初におさえるべき考え方」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 ◆ ◇ ◆ 連載開始にあたって ◆ ◇ ◆ 「海外取引や国際税務は難解で、全体像が見えにくい」―そう感じてはいませんか? 近年、中小企業においても海外進出やクロスボーダー取引は珍しいものではなくなりました。それに伴い、顧問税理士や企業の経理・財務担当者にも国際税務への対応が求められる場面が増えています。しかし、日々の業務に追われる中で、分厚い専門書を読み解く時間を確保するのは容易ではないのが実情でしょう。 本連載は、そのような悩みを持つ方々が「最短ルートで実務の全体像をつかむ」ことを目的とした実務ガイドです。具体的には、以下の3点を意識して解説を進めていきます。 各回、具体的なQ&Aを通じて実務のポイントを押さえつつ、制度の骨格についても解説していきます。実務において特に重要なのは、「何が論点になり得るか」に気づけるかどうかではないかと筆者は感じております。 本連載が、読者の皆様にとって視点を整理する一助となれば幸いです。 * * * Q 最近、顧問先でも海外進出やクロスボーダー取引が増えてきました。これから国際税務を検討するにあたり、そもそも国際税務とはどのような仕組みで、顧問税理士としてまず何を理解しておくべきでしょうか。 A 国際税務とは、国境を越えた取引や投資活動を前提に、課税の重複と抜け穴の双方を防ぐための各国の税制を調整するルールであると言えるでしょう。 顧問税理士の役割としては、国際税務に特有の課税もれリスクを点検しつつ、二重課税などの税負担を極力排除できるよう配意することが重要ではないかと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ 国際税務と聞くと、世界共通で適用される特別な国際租税法のようなものが存在するように感じるかもしれませんが、実際にはそのような単一の法律は存在しません。 国際税務は、複数国の国内税法が同一の所得に対して同時に課税権を主張することにより生ずる二重課税や課税権の競合について、租税条約や外国税額控除などの制度を通じて、その調整を図る役割を担います。 国際取引が発生すると、同じ所得に対して複数の国が課税しようとする場面が生じます。 この「課税の重なり」をどう調整するか、そして「過度な課税逃れ」をどう防ぐか―これが国際税務の出発点です。 実務担当者がまず意識すべき国際税務の大きなポイントは、次の三点と言えるでしょう。 1 なぜ国際課税が問題になるのか― 課税権の競合という出発点 ― 国際取引において最も基本的な問題は、1つの所得に対して複数の国が課税権を主張することです。これを調整しないまま放置すると、企業は同じ利益に対して二重(それ以上)に税金を支払うことになり、国際ビジネスは課税によって大きく阻害されてしまいます。これは「税の中立性」の要請にも反することとなり、非常に憂慮すべき事態です。 この問題の背景には、次の2つの課税原則の考え方があります。 例えば、日本の会社が米国で事業を行い利益を上げた場合、日本は「日本法人の所得だから」と課税し(居住地国課税)、米国は「米国内で生じた利益だから」と課税しよう(源泉地国課税)とします。このような居住地国と源泉地国との課税権の競合を調整するために用いられるのが、租税条約や各国の調整制度です。 2 二重課税をどのように解消するか― 実務で押さえるべき2つの仕組み ― こうした二重課税を防ぐため、実務担当者が必ず押さえておくべき代表的な手段が、租税条約と外国税額控除です。 (1) 租税条約 ― 課税権そのものを制限する仕組み ― 租税条約は、日本と相手国との間で締結される「税金に関する取り決め」です。 日本では、原則として租税条約に従って国内法の適用が調整されます。 実務で特に頻出するのは、「配当・利子・使用料(ロイヤルティ)」に対する源泉税の軽減や免除です。例えば、海外子会社から配当を受け取る場合、相手国の国内法では20%の源泉税が課されるケースでも、租税条約を適用すれば10%、あるいは0%などに軽減されることがあります。租税条約は、新たに課税関係を生み出すものではなく、現状の課税関係の中で、主に源泉地国の課税権の縮小を図り、二重課税を極力排除するための仕組みなのです。 実務上のチェックポイント 取引や送金の前に、次の点を必ず確認する必要があります。これらを事前に確認することで、不要な税金のキャッシュアウトを防ぐことができます。 相手国と日本の間で租税条約が締結されているか 条約適用のための届出書(租税条約に関する届出書、特典条項に関する付表、居住者証明など)が必要か (2) 外国税額控除 ― 国内で二重課税を調整する仕組み ― 租税条約を適用しても、源泉地国で税金が0にならない限り、そのままでは二重課税は完全に排除できません。 その際に用いられるのが外国税額控除です。 これは、海外で実際に支払った税金を、日本の法人税額から一定の限度内で差し引くことで二重課税を排除する制度です。 実務上のチェックポイント 外国税額控除は自動的に適用されるものではなく、法人税申告書において、国外所得の金額や控除限度額を精緻に計算することで、二重課税の排除の恩恵を享受することが可能になります。 ただし、支払った外国税額の全額が必ず控除できるわけではなく、控除限度額を超えた部分については、二重課税が残ることになります。そのため、事前に外国税額控除の適用を前提とした税負担のシミュレーションを行うことは、税のリスク管理の観点からも望ましいものと言えます。 (了)
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第6回 妻のへそくり 〈JUN税会〉 税理士 杉澤 雄一 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長の奥さんへのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました(※1)。 (※1) 平成19年4月11日裁決 東裁(諸)平18-230【TAINSコード:F0-3-312】を参考に筆者が作成。 2 法的論点の整理 (1) 名義預金の定義 名義預金については、相続税法上に明確な定義はありませんが、国税庁HPでは、被相続人名義以外の財産に関して次のとおり記載されています(※2)。 (※2) 国税庁 HP「誤りやすい事例⑥-申告書第11表の付表3関係-」より引用。 すなわち、名義預金とは、被相続人以外の者の名義となっている預金のうち、被相続人の財産と認められるものをいいます。 (2) 名義預金に該当するかの判断基準 ある預貯金が名義預金であるかどうかの判断基準として、裁判例を確認すると、東京地方裁判所平成20年10月17日判決 において次のような判断が下されています。 この判示を整理すると次の5つのポイントを総合的に勘案して事実認定が行われることになります。 これらの要素は、どれかひとつを満たせば成立するというものではなく、各自が相互に関連しながら事実認定が実施されます。また、それぞれの間で明確な優先順位は定められていませんが、税務調査の際には特に①の出捐者と②の管理及び運用について、重点的に質問や確認が行われています。 なお、税務調査の際には事実関係を調べるために次のような確認作業が行われます。 3 本件事例への当てはめ (1) その財産又はその購入原資の出捐者→誰が資金の拠出者なのか 奥さんのへそくりは、社長が働いて稼いだお金をもとに形成された現預金と推認されます。したがって、この要件にあてはめると社長の財産に該当することになります。 たとえ「残りのお金はお前にやる。好きにしてよい。」と約束していたとしても、このような生活費として手渡された金銭の法的性質は、裁判例等において夫婦共同生活の基金と解されています(※3)。 (※3) (※1)裁決事例参照。 そのため、預金の名義が奥さんのものになっていたとしても、直ちにその全額が奥さん固有の財産になるとはいえないでしょう。 (2) その財産の管理及び運用の状況→誰が管理・運用していたのか 奥さんが自身の口座の開設や入出金の手続きを行い、印鑑や通帳も手元で管理していたのは、この要件を検討するうえで、重要な判断材料となります。また、社長の通帳や預金の管理もしていたということですが、この点については、一般的に夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をするのはよくあることです。 事実認定については意見の分かれやすいところではありますが、要するに奥さんが口座を実際に管理していた事実があったとしても「老後の楽しみに備えて貯める一方で特に使っていなかった」という運用実態では、奥さんがその預金を夫の意向にかかわりなく自己のものとして利得したことを示す根拠としては乏しいといえるでしょう。そのため、今回の説例に関しては、夫の意向にかかわりなく自己のものとして利得したという実質が伴っていないため、名義預金として認定される可能性が高いと考えます(※4)。 (※4) 東京地方裁判所平成20年10月17日判決【TAINSコード:Z258-11053】参照。 (3) その他の要件について 加えて、次の事情を考慮すると、奥さん固有の財産と主張するための要素は乏しいと評価せざるを得ません。 以上の各要素を総合的に勘案すると将来的に社長に相続が発生し税務調査が実施された場合には、今回の設例の奥さんのへそくりは、名義預金として税務署から指摘を受ける可能性が高いといえるでしょう。今あるへそくりは、これ以上増えないように使っていくなど対策を講じる必要があります。これを機に奥さんには、贈与の手続きが曖昧なへそくりは、節税にはならないと認識を改めてもらいましょう。 4 調査の現場で経験した事例 実際に税務調査で名義預金として指摘された事例を紹介します。 【資金移動が行われた際に、受贈者に収入がなかった事例】 5 実務上の対応策 今回の無理難題のような事態をかわすために実務では、次のようなポイントに注意しましょう。 (1) まずは、贈与者と受贈者の間で贈与の意思確認を行いましょう。なお、民法549条(贈与)によると「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と定められており、贈与者と受贈者の贈与の意思表示が合致すれば口頭による場合でも成立しますが、証拠資料として主張するためにも生活費の残額について贈与契約書を作成しましょう。なお、贈与契約書については、公証役場で確定日付を付けてもらうのが良いでしょう。 (2) 受贈者が口座の開設等の手続きを行い、通帳や印鑑の管理も行いましょう。そのうえで、自身がその預貯金について自由に使える状態であることがポイントになります。名義預金という疑義を持たれないためにもお金は貯めるだけでなく必要に応じて実際に使うことが重要です。なお、印鑑は家族で使い回すのではなく各自のものを使用するのが望ましいといえます。 (3) 税務調査の際には、その預貯金が贈与されたものなのか、親からの相続等により取得したものなのか説明ができるようにしましょう。仮に「分からない」など曖昧な返答をすると名義預金かもしれないという心証を調査官に強く与えてしまいます。 (4) 現時点で、名義預金が発生している場合には、その預金を解消するために貯めるのではなく今後の生活費として費消していくか、出捐者の元へ返金するのかを慎重に検討する必要があります。 (※5) 国税不服審判所令和元年9月10日裁決【TAINSコード:F0-3-725】参照。 (※6) 国税不服審判所令和4年2月15日裁決【TAINSコード:J126-3-04】参照。名義預金の立証責任は課税庁側にありますが、審判所は課税庁が採用した収入比率を用いたあん分計算による財産の帰属を判断する方法について「原処分庁の主張する本件被相続人及び本件配偶者の収入比率は、正確性を欠くものといわざるを得ず、これを前提に本件現金等の帰属を判断することはできない。」と判断しました。すなわち、収入比率は、客観的合理性を有する方法により各人の生涯収入の金額を推認できなければならないものと考えられます。
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第21回】 「税務申告の名義と実態はどのように判断されるのか」 税理士 石川 幸恵 【Q】 家族で建築業を営んでいます。一般建設業の許可を受けているのは弟であり、許可の更新手続きの都合上、弟の名義で所得税や消費税の申告を行っています。一方で、実質的な営業活動や契約、資金管理はすべて私が行っていますが、税務上、どのような問題が生じますか。 【A】 実質的に事業を経営しているあなた自身の所得として所得税の申告をし、消費税もあなた自身が資産の譲渡等の対価を享受したものとして申告しなければなりません。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 1 実質所得者課税に関する規定 所得税法には次のように実質所得者課税の原則が設けられており、消費税法にも資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定という規定が設けられている。 〈所得税法第12条:実質所得者課税の原則〉 〈消費税法第13条:資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定〉 なお、法人税法第11条にも「実質所得者課税の原則」が規定されている。 2 実質所得者の判断ポイント 鉄筋工事業に係る事業所得が誰に帰属するかについて、納税者と税務署の間で争われた裁判例(大阪地裁令和3年1月27日判決(TAINSコード:Z271-13513))がある。本裁判例から、税務上「実質所得者が誰であるのか」を判定する際のポイントを確認したい。 (1) 事案の概要 本件は、一般建設業の許可や税務申告は「弟」名義でしていたものの、裁判所は、事業に係る収益を管理・処分していたのは「兄」であると認め、兄が所得税、消費税の納税義務者であり、かつ源泉所得税の徴収義務を負う者であると判断した事案である。 本来の納税義務者である兄が申告していなかったことから、無申告加算税も課されることとなった。 (2) 実質所得者の認定理由と兄弟の役割 裁判所は、事業に対する弟と兄の関与の実態を比較したうえで、一般建設業の許可を受け、税務申告を行ったのは弟であったが、所得税法上の事業から生ずる収益及び消費税法上の資産の譲渡等に係る対価を享受しているのは兄であると認めた。 〈弟(名義人)の役割〉 〈兄(実質所得者と判断された者)の役割〉 (3) 実務上の留意点 本件の背景には、一般建設業許可の更新手続きに確定申告書の写しが必要となるため、便宜上、許可の名義に合わせて弟名義で税務申告を行っていたという事情がある。 しかし、裁判所は名義ではなく、事業の収益を実際に管理・処分していた者を真の納税義務者として厳格に判断している。許認可の維持等の目的であったとしても、事業の実態に合わせて許認可名義や事業形態を適正に見直し、事業主体と申告名義人を一致させることが望ましかったと考えられる。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第75回】 「賃貸不動産の承継上の留意点」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 佐藤 達夫 相談内容 私は、製造業を営むX社を経営しており、X社株式及びX社へ賃貸している不動産1棟(本社として使用)を所有しています。X社株式は昨年の12月に長男へ生前贈与を行いましたが、X社への賃貸不動産は、私がまだ所有しています。 この賃貸不動産はX社が本社ビルとして使用しているため、将来的にはX社自らが所有することが望ましいと考えています。そのため、賃貸不動産について、生前にX社へ譲渡することを考えていますが、賃貸不動産からの収益があるため、相続まで所有したいという考えもあります。 当該不動産について、生前にX社へ譲渡する場合と、相続まで所有し続け、長男が相続により承継した後に、長男からX社へ譲渡するときのそれぞれの課税上の留意事項を教えてください。 私が所有する資産・負債は、次のとおりです。 相続人は、長男になります。 《私の資産・債務》 (注1) 賃貸不動産 市場価格(時価):600,000千円 取得価額:500,000千円 帳簿価額:400,000千円 (注2) 借入金は、賃貸不動産を購入する際に銀行から借り入れたものです。 (注3) 預り敷金は、賃貸不動産をX社へ賃貸するにあたり、X社から差し入れられたものです。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 課税上の留意点 賃貸不動産について、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかを判断するための課税上の留意点は、次のとおりです。 (1) 賃貸不動産の相続税評価 相続時における賃貸不動産の相続税評価額は、次のとおり計算します。 (注1) 借地権割合:30%~90% (注2) 借家権割合:30% 賃貸不動産の市場価格(時価)は、主に収益性によって価格決定が行われているのに対し、相続税評価額は、路線価評価又は倍率評価をもとに借家権等を評価減して算定されます。そのため、将来の期待収益の上昇につれて市場価格(時価)が上昇するほど、相続税評価額との乖離が大きくなる傾向にあります。そのため、相続税評価額は市場価格(時価)の25%~30%程度になります。 こうした観点から、賃貸不動産を生前に譲渡した場合には、市場価格(時価)の80%程度(市場価格(時価)から譲渡所得税・住民税を控除後)が相続税の課税対象になるのに対し、相続後に譲渡した場合には、市場価格(時価)の25%~30%程度が相続税の課税対象になることから、賃貸不動産の市場価格(時価)が高い物件ほど、相続後に譲渡したほうが有利になります。 (2) 小規模宅地等の特例 相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続人が相当の対価を得て申告期限まで継続的に賃貸しているときは、土地の相続税評価額から限度面積までの一定の金額が減額されます(措法69の4)。 この場合の限度面積や減額割合は、X社の事業内容や親族の発行済株式に占める所有比率により、次のとおりになります。また、この減額を受ける場合には、相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続税の申告期限までに、遺産分割が成立していることが必要です。 この規定により、相続財産としての賃貸不動産のうち、土地については相続税評価額から一定額減額することが可能となります。 (3) 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈により財産を取得し、相続税が課された者は、相続又は遺贈により取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税申告書の提出期限の翌日以後3年以内(相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内)に譲渡した場合には、課された相続税額のうち、譲渡した資産に対応する部分の金額として次の算式により計算金額が、譲渡した資産の取得費に加算して譲渡所得を計算することができます(措法39)。 そのため、長男が、相続後に相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に、X社へ賃貸不動産を譲渡した場合には、譲渡所得の計算において、課税された相続税の一定額を取得費に加算することができるため、生前に譲渡する場合に比べて、譲渡所得税・住民税が軽減されます。 [2] 事例へのあてはめ 生前に譲渡した場合と相続後に譲渡した場合との比較は、次のとおりです。 〈前提〉 《比較検証》 (注1) 譲渡所得税・住民税 〈生前に譲渡した場合〉 譲渡所得:200,000千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円) 譲渡所得税・住民税:40,630千円(200,000千円×20.315%) 〈相続後に譲渡した場合〉 譲渡所得:198,596千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円-相続税の取得費加算1,404千円(注2)) 譲渡所得税・住民税:40,345千円(198,596千円×20.315%) (注2) 相続税の取得費加算 17,000千円×36,000千円(※1)÷436,000千円(※2)=1,404千円 (※1) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円 (※2) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円 (注3) 相続税のうち賃貸不動産対応分 〈生前に譲渡した場合〉 課税価格:639,370千円(売却代金600,000千円-譲渡所得税・住民税40,630千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:603,370千円(課税価格639,370千円-基礎控除36,000千円) 相続税:259,854千円(603,370千円×55%-72,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:97,286千円(相続税259,854千円×239,370千円(※)÷課税価格639,370千円) (※) 売却代金600,000千円-譲渡所得・住民税40,630千円-借入金・預り敷金320,000千円 〈相続後に譲渡した場合〉 課税価格:116,000千円(賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:80,000千円(課税価格116,000千円-基礎控除36,000千円) 相続税:17,000千円(80,000千円×30%-7,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:0千円(相続税17,000千円×0千円(※)÷課税価格116,000千円) (※) 賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円-借入金・預り敷金320,000千円 ∴△284,000千円 ⇒ 0千円 [3] 結論 賃貸不動産については、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離しやすいため、賃貸不動産の市場価格(時価)を不動産鑑定等で把握してから、相続税評価額の算定を行うことにより、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかのシミュレーションが可能になります。 なお、相続開始直前に、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離する賃貸不動産を購入し、相続税を圧縮する行為については、税務調査により否認される可能性があるため留意が必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第187回】 unbanked株式会社 「調査委員会調査報告書(公表版)(2026年2月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【unbanked株式会社調査委員会による調査の概要】 【unbanked株式会社の概要】 unbanked株式会社(以下、「unbanked」と略称する)は、1972年11月、第一商品株式会社と高津商事株式会社との新設合併により設立。設立時の社名は第一商品株式会社。2024年7月、商号をUNBANKED株式会社に変更した後、2025年7月に現商号に変更した。金地金事業を主たる事業とし、連結子会社でノンバンク事業(貸金業)を行っている。連結子会社4社、持分法適用会社1社によりグループを構成している。売上高9,489百万円、経常利益308百万円、資本金100百万円、従業員数8人。取締役5名のうち、代表取締役社長の安達哲也氏(以下、「安達氏」と略称する)及び取締役管理本部長の七條利明氏(以下、「七條氏」と略称する)の2名が業務執行を行い、他の3名は社外取締役監査等委員である(いずれも2025年3月期有価証券報告書による)。本店所在地は東京都渋谷区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は、2025年3月期決算までフロンティア監査法人、2025年6月27日付で、監査法人アリアが就任している。 【unbankedが調査報告書公表に至るまでの経緯】 2025年7月25日 unbankedの筆頭株主が、CB戦略1号投資事業有限責任組合から、Akatsuki Capital Works株式会社(以下、「Akatsuki」と略称する)に変更。Akatsukiは議決権の17.94%を保有。 7月29日 Akatsukiから派遣されたY氏から、安達氏に対して、新たに刻印のないスクラップ品の金地金取引を行いたいと提案 7月31日 第1回のスクラップ金地金取引を開始 11月19・20日 第26回、第27回のスクラップ金地金取引を実施 12月1日 第26回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月2日 第27回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月15日 売上債権1,340百万円に対して、貸倒引当金の計上見込を公表 2026年1月30日 調査委員会の設置を公表 2月4日 回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ 2月24日 Akatsukiを債務者とする仮差押決定 2月27日 Akatsuki等に対する訴訟の提起 3月2日 調査委員会による調査結果を公表 【調査委員会による調査結果報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 unbankedは、2025年11月19日及び同月20日に行った同一の販売先との間の2件の金地金取引について、代金の支払日である同年12月1日及び同月2日を過ぎても当該販売先から支払がなされなかったことから、同月15日、計13億4,000万円の売上債権に対する貸倒引当金の計上見込みに関する開示を行った。その後も当該販売先から上記の金地金取引に係る販売代金の支払がなされなかったことから、unbankedは、2025年12月30日、上記の売上債権の全額について貸倒引当金を計上することを決定した。 2026年1月になっても上記の販売先から販売代金の支払がなされることはなかったため、unbankedの監査等委員会は、同月28日、独立した立場を有する外部の弁護士に対し、本件の事実関係等の調査等を行う目的で、外部弁護士による調査委員会を設置して調査を委嘱することを決定し、同月30日、unbankedの取締役会は、同様の決議を行った。 2 調査委員会による調査結果の概要 調査委員会による調査結果の概要は次のとおりである。 (1) スクラップ品の金地金取引の開始経緯 unbankedは、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員(X氏、Y氏など)を受け入れていたところ、Akatsukiがunbankedの株式を取得してから7日後の2025年7月29日、Y氏は、安達氏に対し、unbankedにおいて新たにスクラップ品の金地金取引を行いたいとの提案を行った。安達氏は、unbankedの金地金取引の実務に深く関与していなかったことから、Y氏に対し、七條氏に相談するよう伝え、同日、Y氏は、七條氏及びunbankedにおける金地金取引の実務を担当するA氏に対して、同様の提案を行った。 Y氏の説明の概要は次のとおりである。 七條氏及びA氏は、unbankedにおいてそれまでスクラップ品の金地金取引を行ったことがなかったことに加え、スクラップ品の金地金は出所についての疑義(例えば、盗品や密輸品であるなど)が払しょくできないことから、Y氏の上記提案に対し懸念を示した。 これに対し、Y氏は、オーナー案件なのでどうしても行いたい、オーナーが保証するなどと述べ、自身が提案するスクラップ品の金地金取引を行うことを強く求めた。 その後、Y氏に対する質問への回答などから、七條氏としては、循環取引ではないことの確認が取れたことや、筆頭株主であるAkatsukiが取引の安全性を保証していること、何より、筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろうと考えたことから、当時unbanked単体の業績が赤字であったことも踏まえ、本件取引によりunbankedの毎月の販売費及び一般管理費(約2,000万円)を賄える程度の利益を確保できる規模感で本件取引を行うことを考えて、Y氏の提案に応じることにした。 (2) 回収遅延に至った経緯 unbankedにおける26回目の取引に係る販売代金の支払期限は2025年12月1日であったところ、同日の前営業日になってもc社から予約振込を行ったことを証する画面のスクリーンショットが送られておらず、また、同社の担当者に電話をしても応答がなかったため、七條氏は、Y氏に対し、別の手段で連絡を取ることができないか尋ねたところ、Y氏は、自身も電話番号以外の連絡先は把握していないと返答した。 七條氏は、c社の状況を確認するため、同日午後、同社の本店所在地に赴いたが、そこはシェアオフィスであり、当該シェアオフィスの受付で確認したところ、同社との間で利用契約は締結されていないことが判明した。 支払期日である12月1日午後になっても入金はなかったが、午後3時33分頃、c社担当者から七條氏に電話があり、c社は転売先複数社から入金がないためunbankedへの支払が行えない状況であるとの連絡があった。これに対し、七條氏は、c社に対し、状況が分かり次第、逐一報告するとともに、c社の代表者の連絡先、経理担当者の連絡先及び転売先の会社名・住所・取引書類を至急共有するよう要求した。 翌2日午前9時59分、c社経理担当者からの転売先の情報として、同社がg社に発行した2025年11月19日付の請求書及び同月20日付の請求書のPDFデータが送付された。なお、それぞれの請求書に記載されたスクラップ品の重量は、unbankedがc社に販売した重量と一致していた。 翌3日昼頃、七條氏が、c社代表取締役のマイナンバーカードに住所として記載されていたマンションを訪問し、インターフォンで呼び出したが、応答はなかった。マンションの受付で確認したところ、c社代表取締役の名前の契約者は存在しない、住所として記載されていた当該マンションの部屋には2025年2月から別の入居者が居住しているとの説明を受けた。 同日午後8時3分、c社経理担当者から、七條氏に対し、メールで、同月19日には全額支払うことができる見通しである、部分的にでも支払ができる分は都度支払う、という連絡があった。 同月5日午後1時30分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に871万1,371円が入金されたことを確認し、c社経理担当者に対し、メールで、入金確認の連絡をするとともに、債務確認書の提出及び回答を要請した各事項に対する回答を要請した。 同月11日午後8時37分、七條氏からY氏に対し、「c社の経理担当者と本日ついに連絡がとれなくなりました。オーナーが責任をもって支払わなければ、回収不能です。どう解決するつもりなのか、状況を教えてください。」と連絡した。 翌12日午後2時40分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に1,000万円が入金されたことを確認した。 同月19日午前9時55分、七條氏は、c社経理担当者に対し、メールで、残金である13億4,000万円の入金が確認できないがいつまでに全額支払われるのかを確認し、並行して、電話もしたが、応答しなかった。その後、同日午後3時34分、c社経理担当者から、「お支払いが遅れており大変申し訳ございません。こちらへの着金予定が遅れており取引先へ問い合わせをしている次第です。予定わかりましたらご連絡させて頂きます。」との返信があった。 これ以降、c社経理担当者、代表取締役、他の担当者とは連絡が取れていない。 (3) 調査委員会による評価 調査委員会は、本件取引は、unbankedの筆頭株主となったAkatsukiの「オーナー」なる人物が、Y氏を通じてunbankedに提案し、実行させたものであり、Akatsuki側の主導の下で行われたものであって、本件取引の取引日時、取引量、代金の支払期限といった具体的な取引条件については、Akatsuki側が決定し、それがY氏を通じて七條氏らに伝えられており、22回目の取引で取引量の増加が見送られた時を除けば、Y氏から伝えられたとおりの内容で本件取引が実行されており、本件取引により生じるunbankedの利益額(買取価格と販売価格の差額)の設定についても、unbankedの要望が受け入れられることはなく、Akatsukiのオーナーの意向を踏まえて決定されていたことが認められると事実認定を行った。 そのうえで、調査委員会は、Y氏が、Akatsukiのオーナーの伝書鳩としての役割しか果たしていないと述べており、Akatsukiのオーナーからの指示を受けて動いていたことは事実であると考えられるものの、Y氏は、七條氏らの確認依頼や質問に対して数分以内に回答している場面が何度もあり、c社の取引担当者と直接連絡を取っている事実も認められることから、Y氏に対し、全く裁量が与えられていなかったとまでは認めがたく、Y氏自身も、本件取引の全体像やAkatsukiとc社等の取引先との関係性を一定程度理解した上で、本件取引を実行するために重要な役割を果たしていたというべきであり、伝書鳩としての役割しか果たしていないと評価されるものではないと考えるとしている。そして、こうしたY氏とAkatsukiとの関係性からすれば、Y氏は、Akatsukiのオーナー、株主、実質的支配者に関する情報を(少なくとも部分的には)知っていると考えられるにもかかわらず、調査委員会のヒアリングにおいて、オーナー等の氏名その他の具体的な情報を回答することはなかったとまとめている。 3 原因分析(調査報告書31頁以下) 調査委員会は、原因分析として、次の4項目を挙げている。 (1) 新株主に関する事実確認等を行わないまま本件取引を実施したこと 調査委員会は、本件取引はAkatsukiの主導の下で行われたものであるとしたうえで、株主の意向により行う取引であるとしても、その取引自体に経済合理性が認められること、つまり、取引により得られるリターンと取引におけるリスクが見合っていることも含まれると述べた。そのうえで、本件取引における主なリスクとは、スクラップ品の金地金の出所に係る法的リスク、循環取引やマネー・ロンダリングの該当性、販売先に対する債権回収の可能性等が挙げられるところ、これらの点についてリスクが低いとunbankedが判断したのは、自社の株主であるAkatsukiへの信頼が前提となっていた。安達氏及び七條氏が、「筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と考えた点にあると認定した。 調査委員会は、安達氏及び七條氏は、Akatsukiが資本金30万円の設立後間もない会社であること、unbanked株式の取得にあたり多額の借入を行っていることなど、Akatsukiには代表取締役のほかに実質的支配者が存在する可能性が高いことを認識していた。にもかかわらず、Akatsukiの実質的支配者が誰であるかについて深く追及しないまま、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員を受け入れたうえ、株式譲渡から10日も経たないうちにAkatsukiから派遣されたY氏の提案を受け入れて本件取引を行っている。その際にも、安達氏及び七條氏が、「オーナーが保証する」というY氏の説明を鵜呑みにしたことについても、オーナーの実態が不明であるにもかかわらず説明を鵜呑みにした点は、unbankedの経営責任を担う取締役の対応として不適切であったと言わざるを得ないうえ、「筆頭株主が出資先に対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と安易に考えたことは、取締役として慎重さを欠いていたと評価せざるを得ないと分析している。 そして、調査委員会は、Akatsukiの実態が何ら明らかになっていないまま、筆頭株主というだけでAkatsukiを信用してY氏の提案に応じたことが、取引先の実態の確認不足に繋がったのであり、まさに、本件取引において未収金が発生した根本の原因であると考えられるとまとめている。 (2) 取引開始にあたり取引先の実態に関する事前確認が不十分であったこと 次に、調査委員会は、本件取引のリスクや、これまで取り扱ったことがないスクラップ品を対象とすること、5営業日とはいえ数億円を超える多額の売掛債権が生じることといった本件取引の内容に鑑みれば、本件取引の販売先について信用調査の必要性が高いことは明らかであったと評価した。しかし、unbankedが、取引開始にあたって販売先であるc社の実態や与信情報等について十分な確認を行わなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるとした。特に、本件取引に関与した役職員の全員が与信管理規程という重要な規程の存在を失念していたことは、あまりにも稚拙であったと言わざるを得ないと断じている。 (3) 取引開始後、c社の与信について懸念を持つ契機となる事象が生じていたにもかかわらず、信用調査等を行わないまま本件取引を継続したこと 調査委員会は、本件取引の開始当初から、c社からの販売代金の支払が円滑に行われないことが何度もあったが、Y氏を通じて得たc社の回答は、合理的・説得的な回答とは思われないにもかかわらず、七條氏らは、支払が遅れた理由をそれ以上追及することはなかったと認定したうえで、七條氏らは、少なくとも、与信懸念事象が生じた段階で、c社の信用調査を実施する、掛け取引を止める、取引量を減らす、取引自体を停止する、といった対応について具体的に検討・実施すべきであったと考えられ、そのような対応を全く行っていなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるという判断を示している。 (4) 取締役会に十分な情報が提供されていないこと 調査委員会は、unbankedの取締役会には、本件取引に関する情報が十分に共有されていたとはいえないが、unbankedの機関設計がモニタリングモデルに親和的な監査等委員会設置会社であることも踏まえれば、事業上の取引の一つにすぎない本件取引に関する細かな報告が取締役会において十分になされていなかったとしても、そのこと自体は直ちに不適切であるとはいえないと考えられるとの見解を示している。 しかし、実態として、unbankedの取締役会では、毎月、当月の金地金の売上高及び販売量や毎月の損益計算書及び貸借対照表の状況など、事業上の細かな情報についても報告がなされていたことからすれば、グループ会社から貸付金の繰上返済を受けてまで掛け取引である本件取引を行っていたことや、本件取引における販売先からの入金が円滑に行われない事象が何度も生じていたことについても、明示的に報告することが望ましかったものという考えを示し、仮に、unbankedの取締役会において本件取引に関する情報が十分に報告されていれば、監査等委員の指摘等により、本件取引の見直し等について議論がなされ、未収金の発生を防げた可能性はあるのではないかと指摘した。 さらに、監査等委員会について、調査委員会は、スクラップ品という違いがあるとはいえ、本件取引が金地金事業の中の一つの取引という位置づけであり、全くの新規事業とは異なること、また、販売先との間で掛け取引となることの説明を明示的に受けていなかったことに鑑みると、監査等委員から本件取引の詳細について積極的に確認しなかったこと自体は、不合理とまではいえないとしながらも、Akatsukiについて実質的支配者などの詳細な説明が安達氏及び七條氏からなかった点については、監査等委員として、疑問を呈するなど、積極的に確認するなどの行動があってしかるべきであったとしている。 4 再発防止策の提言(調査報告書34頁以下) 調査委員会は、再発防止策の提言として、次の3項目を挙げている。 (1) 株主とのコミュニケーションの実質化 調査委員会は、本件取引において未収金が発生した根本の原因は、その実態が何ら明らかになっていないまま筆頭株主というだけでAkatsukiを信用したことにあると考えられるとしたうえで、unbankedとしては、自社の株主、特に、主要株主や相当程度の株式を新たに取得した株主について、株主の実質的支配者の確認に努めることはもちろん、株主がどのような目的で自社の株式を保有しているのか、株主からの提案が自社の企業価値を真に高めるものであるのか、しっかりと対話を行い、確認すべきであると提言を行った。そのうえで、unbankedとしては、まずもって、各経営陣が株主との対話の重要性を意識する必要があるといえ、その上で、株主と実質的なコミュニケーションを行うための仕組みや体制を策定することが望ましいとまとめている。 (2) 与信管理の徹底 調査委員会は、unbankedの役職員は与信管理規程の存在そのものを失念しており、まずは、社内規程の存在を再度周知し、各役職員が、与信管理の重要性を認識したうえで、与信管理規程に定められたルールを理解し、実践する必要があるとしたうえで、金地金取引のように1回の取引金額が多額となる取引については、売掛先の与信管理が特に重要となる。unbankedにおける金地金取引の実態を踏まえた上で、実効的かつ継続的に運用可能な与信ルールを策定することが望ましいと提言している。 (3) 取締役会における議論の実質化 調査委員会は、unbankedの取締役会では、新たに筆頭株主となったAkatsukiの具体的な情報について、社内取締役から特に報告もなく、監査等委員からの指摘や質問もなかったこと、七條氏から本件取引について実態と反する報告がなされた際も、他の取締役や陪席者から訂正がなされることもなかったことが認められたとしたうえで、取締役会としては、月次の財務情報の確認などの定例的な報告事項を処理するだけでなく、監査等委員を含む各取締役が、中長期的な企業価値向上に向けた経営戦略や自社が有するリスクへの対処のために取締役会として議論すべき事項が何であるかを認識し、そのような議論が実質的になされているかどうか、取締役会の実効性評価等の過程で、確認・検討することを提言している。 【調査報告書の特徴】 大手金地金取扱業者による刻印のない金地金を「スクラップ品」と呼ぶことはもちろん、スクラップ品の金地金が流通していること自体、筆者は、unbankedが公表した調査報告書を読んで初めて知ったわけだが、売買契約書だけで資金が移動する本件取引は、取引金額が回を追って多額になっていくこと、支払いが常に先行し、売掛金の回収は滞りがちであったこと、販売先による支払遅延の理由が合理的・説得的でなかったことなど、架空取引であることを推認させる事態が頻出しており、架空循環取引であると評価していいだろう。 筆頭株主により斡旋された取引により多額の未収金を生じたunbankedは、その後、筆頭株主らを被告とする訴訟を提起するが、その機先を制するかのように、Akatsukiは臨時株主総会の開催を請求し、取締役の解任を求めるという事態に陥っている。 なお、会社の概要でも記したとおり、unbankedの取締役会は5名で構成されており、うち3名は社外取締役監査等委員であるが、常勤の監査等委員は置かれていない。 1 Akatsukiに対する訴訟の提起 2026年2月4日にunbankedは、「(開示事項の経過)回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ」をリリースして、販売先である調査報告書上の「c社」は、株式会社アニススタイル(以下、「アニススタイル」と略称する)であったことを公表した。 次いで、同月24日にunbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社を債務者とする仮差押決定に関するお知らせ」をリリースして、東京地方裁判所に申し立てていたAkatsukiに対する仮差押えが、2月13日付で決定したことを公表した。 さらに、同月27日には、unbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社等に対する訴訟の提起に関するお知らせ」をリリースして、Akatsuki、アニススタイルを含む法人6社と個人9名(のちに8名に修正)に対して、総額1,417百万円余りの損害賠償請求訴訟を提起したことを公表した。請求金額については、次のように説明している。 2 Akatsukiによる臨時株主総会招集 unbankedが調査委員会の設置を公表した同日の1月30日、「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」もリリースされて、Akatsukiから1月29日付で、臨時株主総会招集の請求があったことを公表した。株主総会の目的事項としては、現在の取締役5名全員の解任と、新たに2名の取締役及び3名の監査等委員である取締役の選任となっている。 unbankedは、5月13日、「(開示事項の経過)臨時株主総会の開催日時及び場所、付議議案並びに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」をリリースして、臨時株主総会を6月5日に開催すること、会社提案による付議議案として、取締役7名選任、監査等委員である取締役3名選任の件を公表した。 その後、5月29日において、unbankedは、「(開示事項の経過)株主による臨時株主総会の招集請求の撤回に関するお知らせ」をリリースして、Akatsukiから、臨時株主総会の招集請求及び株主提案を撤回する旨の通知書を受け取ったことを公表した。Akatsukiによる撤回の理由は次のとおりである。 撤回の通知書を受けて、unbankedは、株主提案の議案をすべて取り下げたうえで、会社提案による、取締役7名選任(6月3日付で6名に修正)、監査等委員である取締役3名選任の件のみを取り扱うこととなった。 予定どおり、6月5日に開催された臨時株主総会では、会社提案の第1号議案と第2号議案が承認可決され、unbankedは6名の取締役(うち2名が社外取締役)と監査等委員である社外取締役5名で構成されることとなった。なお、引き続き、常勤の監査等委員は置かれていない。 3 再発防止策 2026年3月6日、unbankedは、「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、調査委員会の提言を踏まえた再発防止策を公表した。その項目は次のとおりである。 なお、unbankedは、再発防止策の説明の前文で、次のように今後の方針を述べており、与信管理上は、この方針が遵守されることがベストだと評価できる。 4 東京証券取引所による改善報告書及び上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、2026年5月25日、「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求」をリリースして、unbankedに対して、株式を5月26日付で特別注意銘柄に指定するとともに、上場違約金1,440万円を徴求することを公表した。その理由として、企業行動規範の遵守すべき事項(業務の適正を確保するために必要な体制整備)の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと認められるため(有価証券上場規程第509条第1項第2号)として、詳細を次のように説明している。 旧社名だった2020年7月11日付での特設注意市場銘柄指定に続き2回目の措置であり、特別注意銘柄指定の解除には高いハードルが課せられることになることが予想される。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年5月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年5月1日から5月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ① 関東財務局管内の上場企業における人的資本及び政策保有株式の開示と関連する取組 (内容:関東財務局管内の上場企業における人的資本及び政策保有株式の開示について紹介するもの。関東財務局) ② 「事業報告等と有価証券報告書の一体開示・一体的開示FAQ(制度編)」の更新 (内容:会社法・金融商品取引法等の改正、株主総会前に有価証券報告書を提出する企業の増加傾向などを受けて更新。経済産業省) Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① サステナビリティ及び外部の専門家の作業の利用等に関する「倫理規則」の改正(定期総会に付議する予定の改正案の公表)及び「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」」の改正について (内容:サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論が進められていることなどを踏まえ改正するもの) ② 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案(報酬依存度及び支配関係) (内容:報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応するもの) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第22回】 「人員削減局面における退職勧奨の実務」 -トーキングポイントと禁止事項- 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社においてはAIの導入等に伴い省人化が進んでおり、ここ数年、新卒採用数を減少していますが、いまだに人員の余剰を感じています。 そこで、一定数の従業員に対して退職勧奨を行うことになりましたが、退職勧奨に際して準備すべきことや注意すべきポイントがあったら教えてください。 【Answer】 退職勧奨に際しては、対象者の自由な意思を抑圧しないよう、言動に気を付ける必要があります。 よって、事前に「トーキングポイント」(伝えるべき要点)と「べし・べからず集」(伝えるべきことと伝えるべきでないことをまとめたリスト)を準備し、これに沿って退職勧奨を実施することをお勧めいたします。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 新卒採用について、つい最近までは空前の売り手市場であるといわれていたが、一転、最近は新卒採用を減らす企業が増えている。読者においても、様々な事情により採用を増やしてきたものの、最近は人員の余剰を感じており、削減を考えているという企業が少なくないのではないか。 人員削減を行う場合は、まず、退職勧奨を行って、対象従業員がこれに応じる場合は合意退職する、という流れを経ることが一般的である。この点、日本企業において従業員を退職させることはよくあることではないため、退職勧奨を行うことに慣れていない会社が多い。従業員の自由な意思を抑圧し社会的相当性を欠く退職勧奨は不法行為に該当し、損害賠償請求の対象となり得るし、そのような退職勧奨によりなされた合意退職は無効となる可能性がある(拙稿第6回参照)。よって、退職勧奨に際しては、対象者の自由な意思を抑圧しないよう、言動に気を付ける必要がある。 また、退職勧奨の面談においては、対象者が動揺し、怒ったり、時には泣き出したりすることもあり、退職勧奨を行う者においては冷静な対応が求められる。よって、退職勧奨が違法となるリスクを避けつつ落ち着いて退職勧奨を実施できるよう、事前に「トーキングポイント」(伝えるべき要点)と「べし・べからず集」(伝えるべきことと伝えるべきでないことをまとめたリスト)を準備し、これに沿って退職勧奨を実施することが推奨される。 本稿においては、人員削減のための退職面談におけるトーキングポイント及び「べし・べからず集」の例並びにポイントを解説する。 2 トーキングポイント (1) 具体例 (2) ポイント 3 べし・べからず集 対象者の自由な意思を抑圧しないように退職勧奨を進めるための留意点及び禁止事項は以下のとおりである。 (1) 面談実施にあたっての留意点 (2) 禁止事項 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第31回】 「本人が亡くなったら?」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 成年後見人として業務を行ってきましたが、本人の体調が悪化し残念ながらあまり長くないと医師から連絡がありました。 本人が亡くなるとどのようなことをしなければならないのでしょうか。 【A】 原則として成年後見人の権限は本人の死亡により消滅します。 あとは死亡時点での財産目録を作成し、東京法務局へ終了の登記を申請、財産を相続人に引き渡し、家庭裁判所に報告を行えば業務完了となります。 ただし、実際には本人の死亡後に発生する様々な事務を成年後見人が担わなければならないケースが多く、頭を悩ませることになります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 本人が死亡すれば原則として業務が終わる 成年後見人の権限は本人の死亡により消滅します。成年後見人であった者としては、死亡時点の財産目録を作成し、東京法務局への後見の終了の登記申請、相続人への財産の引き渡し、家庭裁判所への報告を行えば業務が終了します。 本人の遺体の引き取りや、火葬や葬儀の手配、病院代などの債務の支払いの仕事は本来相続人が行うことです。しかし、相続人と連絡が取れない、あるいは連絡は取れても協力的でないケースも少なくないため、事実上本人の死亡直後に発生する様々な事務を成年後見人が担う必要に迫られることがあります。 2 事務を行う法的根拠 成年後見人が本人の死亡後に発生する事務を担うといっても、成年後見人ではなくなっているため、どのような根拠で事務にあたっているのかを理解しておく必要があります。 成年後見の実務では、民法上の「事務管理」(民法697条~702条)と委任契約における「応急処分義務」(民法654条、874条において後見に準用)に根拠を求めて死後事務が行われてきました。 「事務管理」とは、依頼を受けるなどして義務が生じているわけでないけれども、他人の事務を始めたケースに適用される規定です。事務管理の規定が適用される事例としてよく紹介されるのは、隣家の留守中に窓ガラスが破損した場合に、親切心で補修をしてあげた場合などがあります。事務管理の規定のなかでは、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務管理を行い、本人またはその相続人もしくは法定代理人が管理をすることができるようになるまで、事務管理を継続しなければならないとされています。 「応急処分義務」とは、委任が終了した場合において急迫の事情があるときは、受任者が委任者やその相続人等が事務処理を行えるようになるまで必要な対応をとることを義務付けている規定です。委任契約に関する規定ですが、後見人にも準用がされています。 実務の現場ではこれらの規定を根拠に試行錯誤しながら対応が行われてきましたが、正面から成年後見人が行う死後事務について定めた規定ではないため、根拠として弱い面があることは否めませんでした。善意で対応したにもかかわらず、のちに相続人から権限外の行為であるとしてクレームを言われるリスクにも慎重に気を配る必要がありました。 そこでこうした状況を改善するため法律が改正され、以下に定める死後事務については成年後見人の権限に含まれることが明記されました。 【民法で定められた成年後見人の死後事務(民法873条の2)】 ① 個々の相続財産の保存に必要な行為 ② 弁済期が到来した債務の弁済 ③ 死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為 ①の「個々の相続財産の保存に必要な行為」の具体例としては、本人が所有していた不動産に雨漏りが生じている場合に修繕することが挙げられます。 ②の「弁済期が到来した債務の弁済」の具体例としては、本人が入院していた病院の費用の支払いや、公共料金の支払いが挙げられます。 ③の「死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」の具体例としては、明記されている遺体の火葬に関する契約の締結のほか、本人の居室に関する電気やガスの契約の解約が挙げられます。 ただし、成年後見人がこれらの死後事務を行うためには、(ⅰ)成年後見人が死後事務を行う必要があること、(ⅱ)相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと、(ⅲ)成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないこと、という要件を満たしている必要があります。③の「死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」を行うためには家庭裁判所の許可が必要とされていることにも注意が必要です。 なお、この規定は成年後見人を対象にしたものであり、保佐や補助には適用がありません。 (了)