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《速報解説》新リース会計基準等を受けた「会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される~「リースに関する注記」として新たな注記事項を規定~

《速報解説》 新リース会計基準等を受けた 「会社計算規則の一部を改正する省令」が公布される ~「リースに関する注記」として新たな注記事項を規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年3月31日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第14号)が公布された。これにより、2025年2月5日から意見募集されていた法務省令案が確定することになる。法務省令案に対する意見の概要及び意見に対する法務省の考え方も公表されている。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)の公表等を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 定義 使用権資産、ファイナンス・リースなどの定義について改正する(会社計算規則2条)。 例えば、使用権資産とは、リースの対象となる資産を使用する権利をいう。 2 資産の部の区分及び負債の部の区分 使用権資産、リース負債などについて規定する(会社計算規則74条、75条)。 3 注記事項 「リースに関する注記」とし、次の事項の注記を規定する。ただし、会社法440条4項に規定する株式会社以外の株式会社は、これらの事項の注記を要しない(会社計算規則98条、108条)。 新リース会計基準を適用しない会社のリースに関しては、実務上の負担等も考慮し、引き続き従前の注記を許容することを意図していることから、法務省令案に対する意見を踏まえ、会社計算規則108条1項の注記については、有価証券報告書提出会社以外の株式会社は要しないことを明らかにしている。 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表における会社計算規則108条1項(第1号イを除く)の注記を要しない(会社計算規則108条2項)などの規定を設ける。 また、会社計算規則108条1項の規定にかかわらず、ファイナンス・リースの借手である株式会社が当該ファイナンス・リースについて資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合の個別注記表におけるリースに関する注記は、リースの対象となる資産(固定資産に限る)に関する事項とする(会社計算規則108条4項)。 この場合において、当該資産の全部又は一部に係る次に掲げる事項(各資産について一括して注記する場合にあっては、一括して注記すべき資産に関する事項)を含めることを妨げない。 会社計算規則108条4項は、現行の会社計算規則108条の内容を引き継ぐものであり、同条の適用されるリースについて、引き続き同様の注記を求めるものであって、その適用範囲を変更するものではないとのことである。 このため、会社計算規則108条4項は、新リース適用指針114項で要求されている通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用しているリースのほか、新リース会計基準を適用しない株式会社におけるリースなど、ファイナンス・リースにつき資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合に適用されることとなる。 「金融商品に関する注記」(会社計算規則109条)、「賃貸等不動産に関する注記」(会社計算規則110条)も改正する。   Ⅲ 施行期日等 公布の日(2025(令和7)年3月31日)から施行する。 改正後の会社計算規則(以下「新会社計算規則」という)の規定は、2027(令和9)年4月1日以後に開始する事業年度及び連結会計年度に係る計算書類及び連結計算書類について適用し、同日前に開始する事業年度及び連結会計年度に係るものについては、なお従前の例による。 ただし、2025(令和7)年4月1日以後に開始する事業年度及び連結会計年度に係るものについては、新会社計算規則の規定を適用することができる。 会計方針の変更の注記に注意する。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#阿部 光成
2025/03/31

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和6年7月~9月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和6年7月~9月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2025(令和7)年3月25日、「令和6年7月から9月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係、所得税法関係及び国税徴収法関係がそれぞれ2件と相続税法関係が1件で、合計7件となっている。公表された裁決のうち「全部取消し」となった事例は2件で、「一部取消し」が1件、残りは「棄却」又は「却下」となっている。 【表:公表裁決事例令和6年7月から9月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された7件の裁決事例のうち、行政指導を行わずに過少申告加算税の賦課決定処分を行うことが不当かどうかが争われた事例(①)、訴訟上の和解により得た解決金が遺留分侵害請求(※)に基づく価額弁償金に該当するかどうかが争われた事例(⑤)に加えて、同一の滞納納税者が有する土地に対する公売公告処分について、国税不服審判所の判断が分かれた2つの事例(⑥、⑦)の合計4件について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 (※) 現行民法では、第1046条で「遺留分侵害額の請求」を規定しているが、本事例では、被相続人が、民法が改正される前の2016(平成28)年6月に死亡しているため、裁決の引用では、「遺留分減殺請求」と表記している。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみに絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 過少申告加算税と行政指導・・・① (1) 事案の概要 本件は、一般労働者派遣事業などを目的とする法人である審査請求人(以下「請求人」という)が、令和4年10月1日から令和5年9月30日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の確定申告に当たり本則課税制度により控除対象仕入税額を計算したことについて、請求人は消費税簡易課税制度選択届出書を提出していることから、簡易課税制度を適用して控除対象仕入税額を計算すべきであるとする原処分庁からの指摘に従い修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、確定申告書を提出した際に、原処分庁が上記指摘をするなどの行政指導を行わずに過少申告加算税を賦課したことは不当であるなどとして、原処分の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 原処分庁が行政指導を行わずに本件調査を行い課した本件賦課決定処分は、不当か否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、法律解釈として、処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用により違法であるとまではいえないが、その処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうことから、処分が不当といえるためには、その前提として、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていることを要するものと解するのが相当であるという判断を示した。 そのうえで、本件について国税不服審判所は、過少申告加算税を規定する国税通則法第65条第1項及び第2項の規定において、過少申告加算税の賦課決定やその額の計算について、原処分庁に裁量権が付与されたものとは解されず、他にも裁量権が付与されたと解すべき法律上の根拠もないことから、本件賦課決定処分をするに当たり、原処分庁に裁量権が付与されていたとはいえないため、処分の不当性を検討する前提が欠けるから、本件賦課決定処分は不当ではないこととなり、請求人による審査請求は理由がないから、これを棄却することとするという裁決を行った。   2 和解による解決金と遺留分減殺請求に基づく価額弁償金・・・⑤ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が請求人の兄を相手方とする訴訟において、訴訟上の和解が成立し、当該和解により兄から請求人に対して支払われることとなった解決金について、原処分庁が、当該解決金は遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であって、当該金額のうち請求人の相続税の申告において課税価格に含まれていなかった金額を課税価格に算入する旨の相続税の更正処分を行ったところ、請求人が当該更正処分において課税価格に算入された金額は、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金を超過する金額であって、損害賠償金に該当するものであるから相続税の課税価格に算入されないなどとして原処分の全部の取消しを求めた事案である。 なお、請求人は、主位的には、被相続人による公正証書遺言は無効であり、相続について法定相続分に応じて本件被相続人の財産を相続したとして、予備的には、仮に公正証書遺言が有効であるとしても、遺留分減殺請求権を行使したとして、兄を被告として訴訟を提起したものである。 (2) 訴訟上の和解 裁判所が提示した和解案に基づき、請求人とその兄は、令和4年3月、訴訟上の和解が成立した。和解条項は以下のとおりである。 (3) 争点 本件解決金は、請求人の兄に対する遺留分減殺請求に基づく価額弁償金に該当するか否か。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、本件解決金の性質について、和解調書には、本件解決金が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であることを示す記載はないから、本件解決金の法的性質を判断することはできないとしたうえで、訴訟代理人による申述及び和解案を作成した裁判所の判断などを参照して、本件解決金の中に、請求人の遺留分減殺請求に基づく価額弁償金が含まれていること自体は認められるものの、訴訟の担当裁判官が、本件解決金のうち、どの部分を遺留分減殺請求に基づく価額弁償金とし、どの部分をそれ以外の性質のものと考えていたのかは定かではないといわざるを得ないと判断し、少なくとも本件解決金の全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると認めることはできないという見解を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、原処分は法定申告期限から5年経過後の令和5年7月7日に、国税通則法第70条第1項第1号が規定する更正の除斥期間を経過して行われたものであり、原処分庁は、本件和解により、兄が請求人に対し遺留分減殺請求に基づく価額弁償金として本件解決金を支払うことが確定したことは、相続税法第32条第1項第3号の事由(遺留分による減殺の請求に基づき弁償すべき額が確定したこと)に該当するとして、本件相続に係る兄の相続税について、更正の請求に基づく更正をし、一方、請求人に対しては、本件更正処分をしたと解されるが、本件金員は、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると断定することはできないのであるから、本件金員について、遺留分による減殺の請求に基づき弁償すべき額が確定したとはいえず、原処分は、相続税法第35条第3項第1号の要件を満たさないから違法であり、その全部を取り消すべきであると判断して、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととするという裁決を行った。   3 公売公告処分の違法もしくは不当、又は瑕疵・・・⑥、⑦ (1) 事案の概要 本件(事例⑥及び⑦)は、原処分庁が納税者G社(以下「滞納会社」という)所有の土地を公売に付するため、公売公告処分をしたところ、当該土地に借地権を有すると主張する審査請求人2名(以下、事例⑥に係る請求人を「請求人A」、事例⑦に係る請求人を「請求人B」と区分する)が、当該公売公告処分は、違法又は不当であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。 (2) 事実関係と審査請求に至る経緯 滞納会社は、滞納会社の所有する土地の一部(本件土地)をHに賃貸する契約を締結していて、Hが本件土地の上に建物(本件建物)を所有していたところ、Hが平成25年11月に死亡したため、Hの子である請求人A及び請求人Bが相続人となり、本件建物の所有権については、請求人Bを単独所有者として所有権移転登記を行った。 原処分庁は、平成28年5月2日付で、滞納会社の滞納国税を徴収するため、本件土地を差し押さえた(本件差押処分)。なお、原処分庁は、本件差押処分につき、徴収法第55条の規定による通知(差押通知)を、請求人A及び請求人Bに対してしていない。 請求人A及び請求人Bと滞納会社は、平成28年10月4日、請求人A及び請求人Bが本件建物を本件借地権とともに滞納会社に売却する旨の借地権付建物売買契約を締結した。本件各建物は、平成28年12月12日付で、原因を「平成28年10月21日取壊し」とする閉鎖登記がなされた。請求人A及び請求人Bは、売買契約の約定に従い、平成28年10月31日までに本件建物を解体したにもかかわらず、滞納会社が売買代金を弁済しないとして、令和2年1月22日付で、滞納会社に対し、売買契約の取消し又は解除をする旨の通知書面を送付し、同書面は同月24日に滞納会社に到達した。 原処分庁は、令和〇年〇月〇日付で、滞納会社の滞納国税を徴収するため、本件土地について、徴収法第95条第1項の規定に基づき、公売の開始及び締切りの日時を〇年〇月〇日〇時〇分から〇月〇日〇時〇分まで、売却決定の日時を〇年〇月〇日〇時〇分、買受代金の納付の期限を〇日〇時〇分などとする公売公告兼見積価額公告を行った(本件公売公告処分)。 (3) 争点 (4) 争点1に係る国税不服審判所の判断 争点1について、国税不服審判所は、まず、請求人Aについては、本件公売公告処分に基づく公売の結果、本件借地権を失うから、本件公売公告処分により、自己の権利を侵害されるおそれのある者というべきであり、請求人Aは、本件公売公告処分について不服申立てをすることができる者に該当するとの判断を示した。 一方、請求人Bについては、国税不服審判所は、本件差押処分時において、請求人は、本件土地の借地人であり、差押通知を受けるべき借地権者であり、かつ、差押換請求権を有する者であることから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当するとの判断を示した。 (5) 争点2に係る国税不服審判所の判断 争点2について、国税不服審判所は、請求人Aについて、請求人Aは差押通知を受けるべき者には当たらず、また、原処分庁は差押財産である本件土地について公売の日の10日前までに公売財産の名称等の所定の事項を公告しているから、本件公売公告処分は、国税徴収法第95条の規定に基づき適法に行われているうえ、提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められないことから、請求人Aによる審査請求は理由がないから、これを棄却するという裁決をした。 一方、請求人Bについては、国税不服審判所は、争点1で判示したとおり、原処分庁は、請求人Bに対し、本件公売公告処分に先立ち差押通知をしなかったことから、本件公売公告処分には、取り消し得べき瑕疵があること、さらに、本件公売公告処分には、買受人が引き受けるべき公売財産上の負担である請求人の借地権という「公売に関し重要と認められる事項」の記載が漏れているという、取り消し得べき瑕疵が認められることから、本件公売公告処分は、その全部を取り消すべきであり、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととするという裁決をした。 (了)

#米澤 勝
2025/03/28

プロフェッションジャーナル No.612が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年3月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.612を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/03/27

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第47回】「税法における「住所」の意義」-住所国外移転(武富士)事件・最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第47回】 「税法における「住所」の意義」 -住所国外移転(武富士)事件・最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、住所国外移転(武富士)事件・最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁(以下「平成23年最判」という)を取り上げ、税法における「住所」の意義について、これを機能的意義と内容的意義とに分けて検討することにする。 その検討に入る前に、特に税法における「住所」の機能的意義に関する検討の観点を明確にする意味も込めて、一般に「武富士事件」と呼ばれる本件の事案を以下で簡単に述べておくことにする。 大手消費者金融株式会社武富士の創業者兼代表取締役Aの長男Xは、平成11年12月27日付けでその両親A及びBから、オランダ法人C(その総資産の8割以上はA及びBから平成10年3月27日付けで譲渡された武富士株で占められていた)に係る出資持分の贈与(以下「本件贈与」という)を受けたが、その約2年半前に香港に赴任し、その後通算約3年半にわたる赴任期間中の約3分の2の日数を香港の居宅に滞在しその間に現地での業務に従事しつつ、上記赴任期間中の約4分の1の日数を国内の居宅に滞在しその間に国内での業務に従事し、しかもそのように国内外での滞在日数を調整することによって当時の相続税法の下では本件贈与に対する贈与税の課税を回避することができることを認識していた。このような事実関係の下で、Xが国内に「住所」を有していたと認められるか否かが争われたのが本件である。 本件贈与は国外財産(Cに係る出資持分)の贈与であるから、本件当時の相続税法によれば、Xが国内に「住所」を有していたと認められる場合には贈与税が課税されるのに対して、Xが国内に「住所」を有していたとは認められない場合には贈与税が課税されないことになる。したがって、本件において「住所」はわが国の課税権の及ぶ範囲を決定する機能を有することになる。以下では、まず、わが国の課税権の範囲決定という観点から「住所」の機能的意義を検討することにする。 なお、国家の課税権の範囲決定について、筆者は、国際私法上の概念である「連結点」を借用して、課税上の連結点という概念を用いて論ずることもある(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【5】等参照)。国際私法上の連結点については、「国際私法上、単位法律関係を構成する要素のうち、準拠法を指定する(正確には法域の指定)にあたり媒介とされるもの。連結素ともいい、国籍や住所のような法律概念が連結点として用いられる場合、連結概念ともいう。」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第6版〕』(有斐閣・2025年)1410頁)と解説されている。   Ⅱ 「住所」の機能的意義 一般に国家の課税権の範囲決定について理論的検討を加えた先駆的研究業績として、シャンツ(Georg von Schanz)の「納税義務の問題について」という論文がある(Schanz, Zur Frage der Steuerpflicht, FinArch. 1892, 365. この論文については拙稿「モデル租税条約の展開(1)-租税条約における『国家間の公平』の考察-」甲南法学25巻3・4合併号(1985年)243頁、254頁以下で紹介・検討した)。この論文は所得課税に関する共同体間の二重課税排除の前提となる課税権の範囲決定(Abgrenzung der Steuergewalt)を論ずるものであるが、ここでは、この論文に即してシャンツの考え方を簡単にみておこう。 シャンツは、共同体の課税権の範囲決定に関する基準となる国家と人との結びつきとして、法的所属(rechtliche Zugehörigkeit)、現在地所属(Ortszugehörigkeit)、居住地所属(Domizilzugehörigkeit)及び経済的所属(wirtschaftliche Zugehörigkeit)の4つを挙げ、「租税が共同体を維持するための分担金すなわち共同体の支出に対する一般的対価である限りにおいては、共同体への何らかの所属で十分であり、このような所属はわれわれが論じている4つのグループのいずれについても妥当する。」(Schanz, aaO, 369.)と述べた上で、それぞれについて目的適合性の観点から、すなわち、租税の内在的性質及び実行可能性の観点から検討を加えた結果、経済的所属が課税権の範囲決定の基準として最も目的適合的であると結論づけた(Schanz, aaO, 373.)。 すなわち、シャンツは、「われわれがこれ[=経済的所属という国家と人との経済的な結びつき]に基礎を置くとき、特に共同体の活動とその活動から利益を受ける人の範囲とが最もよく一致する。」(Schanz, aaO, 372.)、「ここ[=共同体の領域内]から生み出される財貨は第一次的な課税の基礎(prinzipaler Steuerfond)であることが保証(setempeln)されている。というのも、そこ[=共同体の領域内]は強制手段及びコントルール手段が最も有効に機能する領域であ[る]・・・・・・からである。」(Schanz, aaO, 373.)と説き、前記の結論を導き出したのである。 シャンツはこのような考え方を租税原則との関係では次のとおり敷衍した(Schanz, aaO, 372. 下線筆者)。 要するに、シャンツは経済的所属という基準による国家の課税権の範囲決定という考え方すなわち経済的所属原則(Prinzip der Wirtschaftszugehörigkeit)については、その正当根拠として租税の内在的性質の観点から応益原則を援用し、かつ、課税の実行可能性の観点からもこれを支持したのであるが、同原則の下で具体的には居住地と所得の源泉地を課税上の連結点として説いた(Schanz, aaO, 375.)。 経済的所属原則は、その後、国際連盟の財政委員会(Financial Committee)において1921年に4名の著名な経済学者によって組織された経済学者委員会(Committee of Economic Experts)が1923年に財政委員会に提出した報告書(Report on Double Taxation Submitted to the Financial Committee by Professors Bruins, Einaudi, Seligman and Sir Josiah Stamp, League of Nations Doc. E. F. S.73. F.19. (1923))においても、「[所得に対する国際的二重課税排除の前提となる課税権の範囲決定に関する]近代的理論の出発点は経済的所属原則(principle of economic allegiance)でなければならない」(Id.)として、採り入れられたが、その具体的内容を形成する課税上の連接点もシャンツの説くところと基本的には同じものであった(前掲拙稿260-261頁、青山慶二「最近の税務判決から分析する国際課税 第1回:全世界所得課税対象者としての居住者」TKC税研情報19巻3号(2010年)80頁、81頁等参照)。 以上において、所得課税の分野における国家の課税権の及ぶ範囲の決定について経済的所属原則に従って居住地と所得の源泉地を課税上の連結点とするシャンツや国際連盟経済学者委員会の見解をみてきたが、この見解は、各国の国内税法の定める課税上の連結点についても基本的には妥当するといえる。特に居住地という課税上の連結点は、本件で問題となった贈与税やこれが補完する相続税の分野においても、国内税法上採用されてきたといってよかろう。 そうすると、税法における居住地とりわけその中心をなす「住所」の機能的意義は、国家と人との課税上の連結点としての意義であるということができよう。   Ⅲ 「住所」の内容的意義 1 借用概念の解釈 さて、相続税法(贈与税)における「住所」の意義(意味内容)について、平成23年最判は、次のとおり判示した(下線・【①】【②】【③】筆者)。 上記の最高裁判決(①②③)はいずれも公職選挙法上の「住所」の意義に関するものであるが、平成23年最判は①の大法廷判決を基本としこれに②③を加味した判断を示している。このような判例理論は、民法上の「住所」(22条)概念を借用したものであり、税法の分野では借用概念の解釈に関する統一説に基づくものと解される(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)128頁、前掲拙著【52】等参照)。 ただ、統一説といっても、今日わが国において通説的地位を占める統一説(以下「通説的統一説」という)は、次のとおり(金子・前掲書127-128頁。下線筆者)、下線部の留保付で私法との統一的解釈を説くものである。 平成23年最判の評釈の中には、私法との統一的解釈に対する上記の留保に着目し、これを平成23年最判の前記引用判示における「反対の解釈をすべき特段の事由はない以上」との留保と等置して、「この[平成23年最判の]考え方は、『別異に解すべきこと』又は『別[ママ]段の事由』が存すれば、『住所』という借用概念であっても、それらの事情を考慮して税法独自の解釈があり得ることを示唆しているものと解される。」(品川芳宣「判批」TKC税研情報20巻4号(2011年)188頁、199頁)として次のとおり(同201頁。下線筆者)説くものがある。 しかし、上記の判例評釈の見解は、通説的統一説を正解するものとはいえないように思われる。というのも、通説的統一説は、確かに、「別異に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合は別として」という留保付で統一的解釈を説くものではあるが、しかし、上記の判例評釈の見解のいう「租税法上の要請をより強く受け止めた上での解釈」をすべきことが「租税法規の明文またはその趣旨から明らか」とはいえないからである。 むしろ、相続税法が、Ⅱで述べたように、「贈与税の納税義務者」規定において「住所」を課税上の連結点として定めていることは明らかである以上、わが国への経済的所属を具体化するものとして「住所」概念を解釈すべきであるから、これを「生活の本拠」と解しその該当性を「客観的に生活の本拠たる実体」をもって決するとすることは妥当な判断である(結論は異にするが検討の観点を同じくする見解として、藤谷俊之「判批」行政判例研究会編『平成20年 行政関係判例解説』(ぎょうせい・2010年)118頁、124-125頁参照)。そこに、上記の判例評釈の見解の説くような贈与税回避の目的(租税回避目的)を考慮する余地がないことについては、平成23年最判が「主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではない」と判示するところである。 そうすると、上記の判例評釈の見解のいう「租税法上の要請をより強く受け止めた上での解釈」は、「いわゆる実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈を持ち込むこと」(金子宏『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)386頁[初出・1978年])になりかねず、このことに対して「歯止めをかける」(同頁)という借用概念論の税法解釈論上の実践的意図(第12回Ⅱ参照)に反する結果をもたらすおそれがあると考えるところである。 2 【補論】税法上の「住所」の認定(課税要件事実の認定) ところで、前記の判例理論は、既に下級審レベルで所得税法上の「住所」について形成されつつあった。例えば、東京高判平成20年2月28日判タ1278号163頁は、原審・東京地判平成19年9月14日判タ1277号173頁の次の判示(下線筆者)を引用しその判断を支持した。 この判示は、後半において民法上の「住所」すなわち「各人の生活の本拠」の認定に関する客観説と主観説との対立(谷口知平=石田喜久夫編『新版 注釈民法(1) 総則(1)〔改訂版〕』(有斐閣・2002年)403頁以下[石田喜久夫・石田剛執筆]参照)を想定した上で、税法上は客観説を支持する旨の判断を示したものと解されるが、平成23年最判も前記引用判示のとおり「一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきもの」とした上で、これを繰り返し述べつつ「主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではない」として客観説の立場から判断を示したものと解される。 このような判断は、原審・東京高判平成20年1月23日訟月55巻2号244頁が次のとおり(下線筆者)「客観的事実」に「居住意思」を総合して判断する旨を判示したことを受けて、これを否定するために示したものと解される。 もっとも、この点については、次の指摘(渕圭吾「判批」ジュリスト1440号(2012年)215頁、216頁)がされている。 しかし、平成23年最判が客観説の立場から原審の判断を否定したのは、原審の判断を主観説の立場に立つものと理解した上でこれを否定したことを意味するものではなく、上記の指摘にいう「租税回避という動機」すなわち租税回避目的を、「住所」という課税要件事実の認定において「住所」の国外(香港)における不存在・国内における存在を推認させる重要な間接事実とするいわゆる事実認定による否認論(前掲拙著【73】~【75】参照)を否定したことを意味するものであると解される。 要するに、平成23年最判は、「主観的に贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実体が消滅するものではない」という判示でもって、「住所」の認定において事実認定による否認論を明確かつ直接的に否定したところに意義があると考えられる(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)212-215頁[初出・2011年]参照)。   Ⅳ おわりに 今回は、税法における「住所」の意義について、これを機能的意義と内容的意義とに分けて検討したが、前者を課税上の連結点の観点から理解し、その理解をもって後者に関する文理解釈(借用概念の解釈に関する統一説が法解釈方法論的には文理解釈の一種であることについては前掲拙著『税法基本講義』【53】参照)を正当化する解釈論を展開した。 このような解釈論は、「従来、租税法における借用概念の解釈方法が『特段の事由(事情)』の存否を直接判断せずに私法上の解釈に安易に同調してきた節も見られるところである。」(品川・前掲「判批」202頁)という借用概念論に対する批判に応えるためにも、更に深化させ展開する必要があるように思われる。そのような批判が、前記Ⅲ1で述べたように「租税法上の要請をより強く受け止めた上での解釈」を通じて「いわゆる実質課税の原則を根拠として租税法に自由な解釈を持ち込むこと」に帰着するものであることを考えると、尚更である。 なお、前記Ⅲの2では、【補論】として、相続税法上の「住所」の認定について、平成23年最判が事実認定による否認論を否定した判決としても意義を有することを述べた(事実認定による否認論をめぐる判例の動向については,前掲拙著『租税回避論』第3章、第15回及び第25回も参照)。 (了)

#No. 612(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/03/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例144(相続税)】 「配偶者の実子であり、養子の数の制限にかからないにもかかわらず、制限されるものと思い込み、法定相続人の数を少ないまま相続税の計算を行ってしまい、更正の請求の期限後に相続人から指摘を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例144(相続税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆法定相続人の数の制限(相法15②) 被相続人に養子がある場合の法定相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める養子の数に限るものとする。 ◆実子とみなされる養子(相法15③) 相続税法15条2項(上記「法定相続人の数の制限」)の適用については、次に掲げる者は実子とみなす。 ◆相続人の数に算入される養子の数の否認規定の適用範囲(相基通63-1) 相続人の数に算入される養子の数の否認規定が適用される事項は、次の4つに限られる。       (了)

#No. 612(掲載号)
#齋藤 和助
2025/03/27

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第64回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第64回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   25 ビットコインETFと分離課税(その9):国税庁の回答 筆者は、日本の居住者から委任を受けて、申告期限等の前に「具体的な取引等に係る税務上の取扱い」に関して国税局に文書回答を求める「事前照会に対する文書回答手続」を利用して、東京国税局に対して「米国ビットコインETFを譲渡した場合の所得は分離課税になるか」という照会を行った。 これに対して、文書回答の要件を満たさないと判断されたものの、2024年12月5日に、東京国税局経由で、国税庁から「分離課税の対象となる」という口頭回答を得た。 国税庁の回答の要旨は次のとおりである。 本連載第63回では、本信託の日本法における信託、外国投資信託、外国投資法人等該当性については、さらに精査をする余地があるのではないか、特に、本信託が信託ではなく、法人又は人格のない社団等に該当することにより本件分離課税特例の適用が肯定されるようなルートの探索も必要ではないか、という疑問を提起した。 要するに、米国ビットコインETFの信託は、日本の税法上の「信託」なのか、米国で「trust」とされているものが、日本の信託法上の「信託」に該当するのか、ひいては日本の税法上の「信託」なのか、という疑問である。一般に「trust」という英語が「信託」と日本語で訳されているという一般論だけで法律関係を論断することはできない。 これに対して、国税庁は、その回答をするに当たり、「本件持分は信託の持分である」という前提を置くことで、上記のような困難な問題に深入りせずに分離課税という回答に到達している。 いずれにしても、今回の国税庁の回答の取扱いについて、次のとおり、いくつか注意すべき点がある。 上記のような注意点はあるものの、今回の国税庁の回答は、現在日本でなされている、暗号資産取引から生じた所得を雑所得として最高55%の税率で課税することの是非や分離課税の導入の是非の議論に一定の影響を与える可能性はある。 特に、日本の居住者が、米国の取引所で米国ビットコインETFを容易に売買できるようなルートがある場合には、国内の暗号資産取引所等から資金が米国市場へと流出する可能性もあるため、国内で行われる暗号資産取引に対して分離課税を適用する声が強まるかもしれない。   (了)

#No. 612(掲載号)
#泉 絢也
2025/03/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第47回】「検収事業年度の前事業年度において設置された機械装置を使用して収益を上げたとしても、まだ取得していないことから減価償却費等の損金算入が認められなかった事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第47回】 「検収事業年度の前事業年度において設置された機械装置を使用して収益を上げたとしても、まだ取得していないことから減価償却費等の損金算入が認められなかった事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産の減価償却と「取得日」「事業供用日」 減価償却は、時の経過や使用により価値の減少する資産については、その資産について使用可能な期間を通じて、一定の方法に基づいて費用化することであるが、これは企業会計において「適正な費用配分を行なうことによって、毎期の損益計算を正確ならしめること」が求められていることによる(「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」「第三 有形固定資産の減価償却について」「第一 企業会計原則と減価償却」)。 税法も企業会計の考え方を原則的には踏襲しているが、課税の公平を実現するために減価償却資産の耐用年数等に関する省令において、必要経費や損金に算入することが認められる金額の計算の基となる耐用年数が定められている。 減価償却資産を取得した場合、減価償却は事業の用に供した日からとされている(法人税法施行令13条)。ここで「事業の用に供した日」とは、一般的にはその減価償却資産の持つ属性に従って本来の目的のために使用を開始するに至った日をいうことから、例えば、機械等を購入した場合は、機械を工場内に搬入しただけでは事業の用に供したとはいえず、その機械を据え付け、試運転を完了し、製品等の生産を開始した日が「事業の用に供した日」とされている。 では「取得の日」はいつかということであるが、所得税基本通達33-9(資産の取得の日)において、次のように定められている。 ◆所得税基本通達33-9(資産の取得の日) 法人税も原則的には所得税と同じ考え方によるものと考えられる。一般的には、減価償却資産の「取得の日」以後に「事業の用に供した日」がある。 では、「事業の用に供した日」が「取得の日」より前であった場合、事業の用に供した日から減価償却をすることができるか。今回はこの件で争われた事例を検討する。   ▷どのような事例か 菓子製造販売業を営む株式会社である納税者は、平成24年6月18日に、機械装置に関する業務請負基本契約を締結した。この契約書によると、動作確認・検証が取れた後に検収し、代金を支払うこととされていた。 また、平成24年6月18日に、覚書を取り交わした。この覚書によると、検収時に成果物の引渡しがあったものとし、契約代金全額を支払った時に、成果物の所有権が移転するものとされていた。 その後、平成24年11月5日に機械装置を組み立て、設置工事を着工した。平成25年5月27日に検収書を発行し、平成25年7月10日に請負代金の40%に相当する残代金を支払った(契約時30%・着工時30%・検収時40%を現金にて支払い)。 納税者は平成25年3月期の法人税・消費税の申告をしたが、本件機械装置について、減価償却並びに準備金方式による特別償却(租税特別措置法52条の3)を適用した。 平成27年6月26日、課税庁は、本件機械装置に関して事業年度終了の時までに取得していないとして更正処分等をしたところ、不服な納税者が異議を申し立て、審査請求をしたが棄却されたため、納税者が訴えたのが本事例である。   ▷「争点」及び「納税者が検収前事業年度に減価償却費等を計上した事由」 争点は、減価償却費等を平成25年3月期の損金に算入することができるか、機械装置に係る支払対価の額に対する消費税額を本課税期間の控除対象仕入税額とすることができるか、具体的には、原告が平成25年3月期終了の時において、本件機械装置を「取得」していたか否かである。 なぜなら、法人税法31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)では、損金に算入される金額を計算する場合の重要な要素として「取得の日」があり、租税特別措置法52条の3においても「取得し、事業の用に供すること」が要件となっているからである。 納税者が平成25年3月期に減価償却費等として損金算入したのは、平成25年2月及び3月において、機械装置を用いて製品の出荷、販売の実績を上げていたからである。つまり、平成25年3月期において本件機械装置は事業の用に供されて収益を計上しているため、これに対応する本件機械装置の減価償却費を計上しないのは、費用収益対応の原則に反し、所得課税の基本理念(純所得課税の原則)にも反すると考えたからである。 なお、検収が平成25年5月27日となったのは、同年2月18日ないし2月20日に機械装置の設置、立会いを完了したが、不具合が生じたことから、その対応を行ったためとしている。   ▷地裁の判断は 裁判所は、納税者の請求を棄却した。その判断は以下のとおり。 法人税法31条1項は、減価償却資産について普通償却に係る減価償却費を各事業年度の損金の額に算入するためには、減価償却資産を「取得」していることが要件とされているものといえる。また、租税特別措置法の特別償却に関する規定においても、特別償却に関する規定の適用を受けるためには減価償却資産を「取得」していることが要件とされている。準備金方式による特別償却制度も特別償却に関する規定と同様、適用を受けるためには、適用を受けようとする事業年度において、資産を「取得」していることが要件とされている。 「取得」とは、固定資産に係る所有権移転の原因となる私法上の法律行為又はこれと同視することのできる行為をいうものが相当であり、「取得」の時期はその原因行為による所有権移転の時期がこれに当たるものと解すべきである。 機械装置等を設置し、稼働させることを目的とする請負契約は、単に、機械装置が注文者の工場に移管され、注文者がこれを事実上占有するに至ったというだけでは、請負人の仕事は完成しておらず、注文者において完成した目的物の引渡しを受けたものということはできない。 請負契約書によると、本件機械装置は、納税者が検収書に押印した時に引き渡され、契約代金の全額を支払った時に所有権が移転するとされている。平成25年2月20日に機械装置の設置及び関係者による立会いが完了していたものの、翌日以降不具合が生じたために不具合の調整や改善が必要になったことから、検収日は5月27日となったので、引渡しが行われたのは5月27日であり、残代金が支払われたのは7月10日であることから、この日に所有権が移転したと認められる。 そうすると、機械装置を「取得」したのは、早くとも引渡しが行われた5月27日であるから、平成25年3月期において減価償却費等を損金の額に算入することができない。また、消費税の計算上、機械装置に係る消費税額を控除することができない。 納税者の主張の実質は、固定資産を法人の事業の用に供しているか否かのみによって固定資産に係る減価償却の可否を判断すべきというものといわざるを得ない。納税義務者が固定資産の減価を費用として計上するためには、納税義務者が固定資産の所有権等を法律上取得しているか、又はこれと同視することができる事情が認められるべきことは当然の前提であるというべきだから、納税者の主張は認められない。 また、納税者は、収益の額は益金に算入され法人税の課税対象になるにもかかわらず、収益の発生源泉である減価償却費の額が損金の額に算入されないことは、公正処理基準、所得課税の基本理念(純所得課税の原則)及び所得課税に関する憲法の理念に反すると主張する。しかし、いずれも納税義務者が固定資産の使用収益を実質的に取得しているならば、固定資産に係る減価償却費の損金算入を認めるべきであるという主張を前提とするものであり、これを採用することはできないのは既に説示したとおりであるとした。 *   *   * この判決に不服な納税者は控訴したが、高裁でも棄却され、上告したが、上告は棄却され、不受理で確定となった。 このように、固定資産の減価償却は「事業の用に供した日」からであるが、条文の建付けから、固定資産の「取得」が前提となる。固定資産の「取得日」よりも「事業の用に供した日」が先になったとしても、その時点から減価償却費が損金に算入されることはない。 (了)

#No. 612(掲載号)
#菅野 真美
2025/03/27

学会(学術団体)の税務Q&A 【第15回】「学術集会における仕入税額控除の留意点」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第15回】 「学術集会における仕入税額控除の留意点」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学術集会は大規模なイベントであるため、開催するにあたっては多種多様な取引が発生する。そのため、学術集会の運営は学会本部の事務局が行うのではなく、大規模イベントの開催を専門としたコンベンション会社に業務を委託し、学術集会の経費の大部分に関しては、コンベンション会社に対して支払うケースが多い。 コンベンション会社に対する業務委託費は10%課税仕入の取引であり、通常、コンベンション会社は適格請求書発行事業者であるため、仕入税額控除が可能である。 他方で、コンベンション会社に対する支払いの中には、コンベンション会社の業務委託費のほかに、コンベンション会社が立替払いした経費の精算として支払っている内容が含まれているのが通常である。 立替払い精算に関しては、その立替払いした経費の内容やインボイスの有無によって、課税区分の扱いが異なる。 立替払いの代表例と仕入税額控除にあたっての留意点は、次の通りである。 学術集会の経費に関して、どの部分が業務委託費の一部であり、どの部分が立替払い精算なのか、という点については、コンベンション会社によって異なり、どのコンベンション会社を利用するのかという点については、同じ学会であっても開催年度によって異なる。また、仮に、同じコンベンション会社を利用する場合であっても、開催年度によって開催会場が異なるため、どの部分が業務委託費の一部であり、どの部分が立替払い精算なのかという点について異なる場合がある。 そのため、学術集会の経費に関しては、単純にコンベンション会社に対する業務委託費のため10%課税仕入の取引として判定するのではなく、学術集会の経費に関する証憑の内容を個別具体的に確認した上で、課税区分を判定することが重要となる。   (了)

#No. 612(掲載号)
#岡部 正義
2025/03/27

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第68回】「バークレイズ銀行事件-実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否-(地判令4.2.1)(その2)」~所得税法12条の規定の趣旨~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第68回】 「バークレイズ銀行事件 -実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否- (地判令4.2.1) (その2)」 ~所得税法12条の規定の趣旨~   税理士 吉村 優     4 判旨 認容。 (1) 判断枠組み (下線・網掛は筆者による。以下同様) (2) 当てはめ (3) 被告の主張について   5 考察 裁判所は、「実質所得者の判断に当たっては、前記(1)の事情を総合的に考慮して判断されるべきものと解され、その一つの事情として経済的損益の帰属等を考慮することが許容されないとは解されず・・・」と述べている。これは、実質所得者を判断する際に経済的帰属説を採用しているということではなく、法律的帰属説の立場に立ってはいるものの、それに固執することなく経済的損益の帰属等も考慮しながらの総合的な判断を要請しており、妥当なものと考えられる。 本件は、資産(社債)の所有者とその資産から生ずる果実(社債利息)の権利者が異なる場合に、どのように取り扱われることになるのかが争点である。 被告である課税庁は、「課税物件たる所得の帰属に関し、名義や形式にとらわれることなく、法律的実質に着目して判断されなければならないから、社債の所有者が単なる名義人かどうか、また、収益を享受する社債の実質的所有者(利子を収受する実質的な権利者)が誰かについての判断に当たっては、社債及び利子に関連する契約内容や取引の実態から、社債及び利子の譲渡の目的、社債及び利子の法的な処分権限、利子の経済的利益の帰属先、利子の入金口座の管理状況などを検討して、総合的に判断するのが相当である。」と述べているが、最終的にBが社債の所有者であり、かつ社債利子を収受する実質的権利者でもあると主張している。一連の社債に関連する取引について各契約内容を精査し、真に総合的に判断しているとは考え難い。 本件社債の発行に関連する各契約については、原告グループ以外の第三者が取引に係るリスクを一切負担せずかつ一定の手数料収入を享受でき、一方で本件社債等に関する経済的な損益を最終的にロンドン本店に帰属させるためのスキームが慎重に検討されていると考えられる。 裁判所は、「本件資金調達取引は、本件本支店間融資取引の経済的実質を変えず、原告グループにおける財務効率を改善させることを目的として作り上げられたものであるところ、 BやCの財務状況には一切悪影響を与えず、一定の手数料収入のみを取得させることを不可欠の要素としていたこと、本件各契約の関係者の財務諸表においても、本件社債及び本件利子についてはロンドン本店の資産又は収益として計上され、Bの資産又は収益としては計上されていないことが認められるなど、本件資金調達取引が行われるに至る経緯や関係者の認識としても本件社債等に係る損益につきロンドン本店に全て帰属させることを想定していたものである。」と認定しており、一連の取引関係者の認識とそれぞれの契約内容との間に齟齬がなく、租税回避を目的とすることを前提としたスキーム(著しく濫用的な租税回避スキーム)であるとは判断していない。 課税庁側が上訴せず判決が確定している点からも、地裁の判断を覆すことは困難であると判断したものと思われる。本判決は、資産の所有者とその資産から生ずる果実の権利者が異なる場合において、所得税法12条の規定の趣旨が適切に判断された妥当な判決であると考える。 宮本十至子教授は、国境を越えて国際的に活動している銀行(以下「多国籍銀行企業」という)で、主たる業務が資金の貸付であり、それによって利益を得ている場合、「顧客への資金調達のため、頻繁に本支店間、支店相互間で資金の回金が行われる。当該取引が課税上認識されるかどうかは、支店の利得の算定上、重要な問題である。」(※1)と述べ、本支店間の内部利子をめぐる課税問題について詳細に検討している。 (※1) 宮本十至子「多国籍銀行企業の恒久的施設課税」税法学560号(1984)175頁-176頁 この中で、「日本は、企業の他の部門から調達した資金を用いて支店が貸出した貸付金について、当該企業の外部の貸主からの資金の原始的供給にまで遡るトレーシング方式(資金源追跡方式)をとっている。その方式によると、資金の源泉が追跡確認でき、それが立証される場合に限り、本支店間の内部利子の損金算入を認める。しかしながら、上述のように資金のトレースは不可能に近いので、支店は合理的な推計によることも、独立企業原則に従っている限り、認められている。」(※2)と述べ、銀行内部の支払利子について損金算入しなければならないとする多くのOECD加盟国の見解との乖離は小さいとの見解を示している。 (※2) 宮本・前掲(※1)179頁 多国籍銀行企業において、企業全体としての資金調達コストを最小化しようとする取組みは今後も継続的に行われ、様々な複雑なスキームが実施されるものと考えられる。それらスキームの各々について取引実態や契約内容を詳細に調査し、法律の抜け穴をかいくぐる課税逃れとして不適切なものがあれば、丁寧にその抜け穴を塞いでいく努力が必要であろう。   (了)

#No. 612(掲載号)
#吉村 優
2025/03/27

2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】

2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回)   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   Ⅸ 分配可能額 配当や自己株式の取得は、債権者保護の観点から、分配可能額を超えて行うことができないとされている(会社法461①)。しかし、昨今、分配可能額を超えた剰余金の配当や自己株式の取得が行われている事例が発生している。そのため、ここでは分配可能額の算定について、解説する。 分配可能額は、以下の流れで算定する。   1 事業年度末日における剰余金の額の算定 まず、事業年度末日における剰余金の額を、以下のように算定する(会社法446)。以下に従って算定すると、決算日における剰余金の額は、「その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額」となる。   2 分配時点における剰余金の算定 次に、分配時点における剰余金を算定する(会社法446)。   3 分配可能額の算定 最後に、分配可能額を算定する(会社法461)。ここで算定した分配可能額を超えて配当を行ってはならない。   4 実務上の留意点 上記1から3で計算式を解説したが、最初から細かい検証をするのではなく、まず、配当総額や自己株式取得総額と「期末日におけるその他資本剰余金+その他利益剰余金」を比較し、配当総額や自己株式取得総額が十分に下回っているか確認することが重要である。 一方、十分に下回っていない場合は、詳細に検証する必要がある。その際には、監査人や顧問弁護士等に相談しながら慎重に検証する必要がある。   Ⅹ 改正リース基準の準備 ASBJより2024年9月13日に「企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「改正リース基準」という)が公表された。 改正リース基準は、今までオペレーティング・リース取引であったものについても、原則、資産計上が必要であるため、大きな影響がある改正である。 適用時期は、以下のとおりである。 適用にあたって、特に以下の2点について早急に検討を行う必要がある。   1 契約の洗い出し ファイナンス・リースのみならず、オペレーティング・リースを含めて全てのリース(借りているもの)について、会計処理の検討をする必要があるため、まずは全てのリース(借りている)契約を網羅的に洗い出す必要がある。 その際には、経理だけでは全てのリース契約を把握していないことが考えられるため、以下を行って契約を網羅的に洗い出すことが考えられる。   2 システム導入の検討 ファイナンス・リースのみならず、オペレーティング・リースを含めて全てのリース(借りているもの)について、会計処理の検討をする必要があるため、件数が多くなりエクセルで管理することが難しい場合もあると考えらえる。また、単純な件数のみならず、会計と税務で差が生じること、リース期間の設定、注記への対応等も検討しなければならない。そのため、エクセル管理できるのかどうか、システム導入が必要かどうかを会計基準の適用に間に合うように検討する必要がある。   Ⅺ 有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項 2024年3月29日に金融庁より「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」が公表された。今回は、有価証券報告書作成にあたって留意すべき事項を解説する。 また、「サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集」も合わせて公表されている。サステナビリティ開示と政策保有株式関連について、自主的な改善のために参考となる事例も公表されているため、参考にされたい。   1 サステナビリティ開示 〈有価証券報告書におけるサステナビリティに関する考え方及び取組の記載の全体像〉 (出所:金融庁「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」P.5) (1) ガバナンス (2) リスク管理 (3) 戦略並びに指標及び目標 (4) 人的資本に関する方針、指標、目標及び実績 (5) サステナビリティに関する考え方及び取組の参照方法   2 従業員の状況及びコーポレート・ガバナンスの状況等の開示 (1) 女性管理職比率 (2) コーポレート・ガバナンスの概要 (3) 内部監査の状況 (4) 政策保有株式 (連載了)

#No. 612(掲載号)
#西田 友洋
2025/03/27
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