〔小説〕
『東上野税務署の多楠と新田』
~税務調査官の思考法~
【第12話】
(最終回)
「明かされた真実」
税理士 堀内 章典
《前回までの主な登場人物》
◆多楠調査官
東上野税務署に入って2年目、今回初めて調査部門である法人課税第5部門に配属。
◆新田調査官
多楠の調査指導役、調査はできるが、なぜか多楠には冷たく当たる、近づきがたい先輩調査官。
◆田村統括官
法人課税第5部門の責任者である統括官、定年まであとわずか、小太りで好人物。
◆法人課税第5部門のメンバー
・三浦上席調査官(淡路の調査指導役)
・小泉調査官(調査経験4年目、寡黙な調査官)
・淡路調査官(多楠と同じ調査1年目の女性調査官)
多楠が見せた意地
(前回までのあらすじ)
年明け、多楠調査官は株式会社丸誠紙業の調査に着手する。すし勢の雪辱を心に期す多楠は、一人果敢に丸誠の得意先に反面調査を実施するも、思ったような成果が挙がらない。不正が見つからず諦めかけていた多楠は、最後の反面先として選んだ三本木商会株式会社に臨場する。
- 会社名:有限会社 丸誠紙業
- 納税地:台東区上野4丁目(アメ横)
- 社長:丸野 誠(78歳)
- 専務:丸野 繁(45歳)、社長誠の娘婿
- 業種:事務用品の業務用小売
- 決算:9月決算
- 売上:最終期 1億9,000万円
- 申告所得:最終期 130万円の黒字
- 税理士:三村一成
反面調査2日目、4時過ぎに臨場した三本木商会で、経理課長の峰岸から提示を受けた経費帳をさっそくチェックする多楠。手元にある丸誠の売上管理用Excel写しと入念に突合したが、すべての売上と経費帳の計上額が合致した。
“やはりダメか・・・丸誠は岩井上席が言うところの「例外の会社」だったのか。”
多楠はガックリと肩を落とした。
多楠がその場から引き上げようとカバンに手をかけたとき、峰岸がポツリ、
「そうそう、今見せた帳簿は第1営業部のもの。5年前にできた第2営業部も確か丸誠と取引があったはずだよ。確か4年ぐらい前からかなぁ。」
と記憶をたどるように話をした。
「えっ!」
驚く多楠、体内に稲妻が走ったような衝撃を受けた。
そしてこの峰岸の機転が、思わぬ展開をもたらすことになった。
▼ ▲ ▼
丸誠のExcelには毎月三本木商会の売上が計上されている。先ほど峰岸から提示された第1営業部の経費帳の計上額と丸誠の売上がすべて合致していることをすでに確認している。
“まだほかに売上があるというのか・・・”
心がはやる多楠であったが、肝心の峰岸は気になる発言をした後、事務室に戻ったきり一向に姿を現そうとしない。
イラ立つ多楠であったが、協力してもらっている以上、下手に事務室に踏み込んで不興を買い、協力を得られなくなったら元も子もなくなる。ここはひたすら我慢を決め込むと腹を決めた多楠であったが、5分が30分、10分が1時間にも感じていた。
やがて峰岸が帳簿を抱えてパーティション内に戻ってきた。
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