〔小説〕
『東上野税務署の多楠と新田』
~税務調査官の思考法~
【第2話】
「赤羽のスナックにて」
税理士 堀内 章典
《前回までの主な登場人物》
◆多楠調査官
東上野税務署に入って2年目、今回初めて調査部門である法人課税第5部門に配属。
◆新田調査官
多楠の調査指導役、調査はできるが、なぜか多楠には冷たく当たる、近づきがたい先輩調査官。
◆田村統括官
法人課税第5部門の責任者である統括官、定年まであとわずか、小太りで好人物。
▼ ▲ ▼
上野のとある日本料理店の座敷で、酒を酌み交わす6名の男女がいた。
東上野税務署法人課税第5部門の田村統括官をはじめとする5名の部下、新田調査官と多楠調査官、そして他署から異動してきた三浦上席調査官、小泉調査官、淡路調査官が初めてそろった部門の顔合わせ会である。
調査官の序列は、小泉、新田、淡路、多楠といった並びである。
淡路調査官は女性で、今回の異動で希望が叶い、十条税務署管理運営部門から法人の調査部門に配属になった。法人課税第1部門の経験はあるが、調査は多楠と同じく初めてである。三浦上席が淡路の指導役として指名されていた。
同じ部門に調査経験1年目の調査官が2人、職員の若返りが進んでいる最近の税務署ではけっして珍しい配置ではない。ベテランの調査官が毎年続々と定年で退官し、新たに採用された若手職員が調査官として調査部門に補充されているというのが主な理由である。
飲み会も開始から30分を過ぎ、メンバーが席の移動を始めたころ、末席にいた多楠ははじめに田村にビールを注ぎに、次に新田のところに行った。新田は東北出身ということもあり(1部門で同じだった先輩から聞いた)、先ほどから手酌で一人、冷酒を飲んでいた。
多楠が新田に対しあいさつ以外で言葉を交わすのは初めてであった。
恐る恐る冷酒を注いだが、緊張で少々手が震えていた。
「新田先輩、よろしくお願します。調査は初めてなのでいろいろと教えてください。」
新田は冷酒の入った杯を見つめながら、ポツリと言った。
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