〔小説〕
『東上野税務署の多楠と新田』
~税務調査官の思考法~
【第5話】
「単独調査」
税理士 堀内 章典
《前回までの主な登場人物》
◆多楠調査官
東上野税務署に入って2年目、今回初めて調査部門である法人課税第5部門に配属。
◆新田調査官
多楠の調査指導役、調査はできるが、なぜか多楠には冷たく当たる、近づきがたい先輩調査官。
◆田村統括官
法人課税第5部門の責任者である統括官、定年まであとわずか、小太りで好人物。
◆法人課税第5部門のメンバー
・三浦上席調査官(淡路の調査指導役)
・小泉調査官(調査経験4年目、寡黙な調査官)
・淡路調査官(多楠と同じ調査1年目の女性調査官)
孤独な調査官
(前回までのあらすじ)
新人調査官である多楠は、新田が調査指導役として自分に何も教えてくれないのは、異動直後から毛嫌いされているからだと思い込んでいる。
その後、多楠は有限会社金杉商店の法人税調査において、新田の神業的な調査を目の当たりにした。“よし、新田さんが教えてくれないなら自分から新田さんの調査のやり方を盗んでやろう”と決意する多楠であった。
「“できる調査官”のオーラ、か・・・」
カーブの多い京成電車に揺られ、町屋税務署での調査1年目研修を終えて帰宅する多楠は、つり革につかまり外の景色を見ている。
金杉商店の調査から1月ほど経った10月半ば、城東ブロックの税務署数署が持ち回りで行う調査1年目研修も上期は今日の町屋署で終了、年明けに行う1年目調査官各人が実際に調査した事案を持ち寄る発表会を残すのみとなっていた。
多楠は同じ部門で調査1年目の女性調査官淡路と今日昼食を共にしたときの会話を思い出していた。
▼ ▲ ▼
「多楠君も大変よね。新田さんと多楠君が会話をしているの見たことないもの。」
小顔で細い眉をひそめながら、淡路がテーブルを挟んで対面の多楠にささやく。2人は食事を終えコーヒーを飲んでいた。
「新田さんとは異動してから何回くらい話をしたの?」
笑いながら多楠
「さすがに何回ということはないけど、もう少し話をしてほしいというか・・・。正直いろいろ教えてほしいですよね。」
淡路
「そうよね。金杉では大きな不正を出したんでしょう。新田さんって、自慢はしないけど“できる調査官”のオーラは何となく感じるわよね。もっともっと多楠君に教えるべき調査のノウハウを持っていると思うんだけど。」
多楠は黙ってコーヒーを飲んだ。
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