〔小説〕
『東上野税務署の多楠と新田』
~税務調査官の思考法~
【第8話】
「多楠の失敗」
税理士 堀内 章典
《前回までの主な登場人物》
◆多楠調査官
東上野税務署に入って2年目、今回初めて調査部門である法人課税第5部門に配属。
◆新田調査官
多楠の調査指導役、調査はできるが、なぜか多楠には冷たく当たる、近づきがたい先輩調査官。
◆田村統括官
法人課税第5部門の責任者である統括官、定年まであとわずか、小太りで好人物。
◆法人課税第5部門のメンバー
・三浦上席調査官(淡路の調査指導役)
・小泉調査官(調査経験4年目、寡黙な調査官)
・淡路調査官(多楠と同じ調査1年目の女性調査官)
準備調査の内容
(前回までのあらすじ)
新田・多楠調査官は、急きょ田村統括官から御徒町駅の近くにあるすし屋を調査するよう指令される。担当者は普段から物静かな小泉調査官だが、一人で無予告調査を行うのは難しいということで、田村が新田・多楠ペアに支援を依頼することになったのだ。
初めての無予告調査に緊張する多楠、嫌な予感が脳裏をかすめた。そして、その悪しき予感が的中する。
- 会社名:有限会社 すし勢
- 納税地:台東区上野3丁目(店舗所在地)
- 社長:藤田 茂男(39歳)
- 自宅:文京区白山1丁目
- 業種:寿司業
- 決算:3月決算
- 売上:最終期 9,000万円
- 申告所得:最終期 ▲200万円(累積欠損金750万円)
- 役員報酬
社 長:藤田 茂男 年間600万円
取締役:今泉 ミキ(妹) 年間360万円 - 税理士:林 肇
調査着手前の内偵調査によると、店の営業時間は、ランチが11時30分から14時、夜は18時から深夜1時まで、休みは不定期となっていた。2週間前の金曜日20時過ぎに、内偵で店に入った田村と小泉、店は活況を呈していることを把握していた。
田村統括官から指令を受けた小泉、新田、多楠調査官らは、新田の席で打ち合わせを始めた。机の反対側に座っている淡路調査官は、興味津々でヒソヒソ話をする3人に聞き耳を立てていたが、あいにく指導役の三浦上席に呼ばれたため、渋々席を立った。
小泉調査官はいつものように落ち着いた口調で、事案の概要について用意していた準備調査のペーパーをもとに説明を始めた。
小泉は新田よりも2、3歳年長だが、総務課主任の在籍が長く、法人税調査は4年目とそんなに経験豊富とは言えない。しかし、総務課を経験したからか、常に物腰が柔らかく、落ち着いて丁寧な口調で話をする調査官であった。
淡々と事案説明をする小泉に、新田は無言でときどきうなずく程度、多楠は初めて耳にする調査用語も出てきて、小泉の説明を聞いているだけで、ドキドキしていた。
数週間前に行った内偵調査の結果、つかんだことは次のとおり。
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