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2025年5月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.618を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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国際課税レポート 【第14回】「トランプ大統領令への欧州(EU)の対応と今後の動向」
国際課税レポート 【第14回】 「トランプ大統領令への欧州(EU)の対応と今後の動向」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 トランプ関税を巡る各国の交渉が本格化していることが報じられている。 デジタル課税を巡るOECDの2つの柱による解決策からの“離脱”と外国の差別的・域外適用的な課税への対抗策を命じたトランプ国際課税について、ホワイトハウスに報告書が提出された(公表されてはいない)。 米国の積極的な反対を受け、米国議会が強く反対しているデジタルサービス税や、国内法で15%グローバルミニマム課税を導入済みの欧州連合(EU)は、米国との妥協を図る動きが出ている。 本稿では、トランプ関税及びトランプ国際課税とデジタルサービス税及び15%グローバルミニマム課税を仕掛けたEUの動きについて、本稿執筆時点(2025年5月14日)の限られた情報によるものとはなるが、今後の展望を予想する参考としてまとめておきたい。 トランプ関税及びトランプ国際課税に追いつめられる欧州 2025年5月8日、米国と英国は関税交渉において合意に達した。グローバルに一律10%の普遍関税、相手国ごとに設定される相互関税、自動車・鉄鋼・アルミニウムについての関税など、4月2日の米国大統領令をはじめとして公表された一連の“トランプ関税”引下げ交渉のうち、最初に達成された合意だ。 ロイター通信(5月9日)によれば、英国は今回の関税に関する“ディール”をまとめるにあたり、デジタルサービス税について譲歩しないで済んだようだ。米国と欧州の間の国際課税の最大の問題は、なんといっても米国のテクノロジー企業を狙い撃ちにしたと米国が主張するデジタルサービス税だったはずである。この問題は、両国間でデジタル貿易に関する交渉を開始し、その中で解決されることとなった。 米国は英国との間では貿易黒字であるが、欧州連合(EU)との間では巨額の貿易赤字を抱えている。それでは、EUとの交渉はどうか。EUと米国の関税・貿易協議は本稿執筆時点(2025年5月14日)において、そもそも開始されていない。 4月29日の記者会見で、米国ベッセント財務長官は欧州との関税協議の現状について記者から問われた際、「フランス、イタリア等はデジタルサービス税を導入している(※1)一方、ドイツ等は導入していない。米国の偉大な産業に対する不公平な課税であるデジタルサービス税は撤廃してもらわねばならない。EUは外部との交渉を始める前に、EU内部の問題を解決する必要がある」と応じている。 (※1) 本連載【第12回】の【図2】参照。 税を巡り欧州は欧州が一枚岩になることが容易でないことはこれまでの経験から明らかであり、交渉上のやり取りだとしても、半ば突き放した格好だ。 一方、欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・ライエン氏は、米・欧間の関税交渉が進展しない場合、デジタル広告サービスに対する独自の課税を選択肢として検討する可能性に言及するなど、緊張を高める発言をしている。 これは、EUにとって現実的な選択肢ではないだろう。2018年3月、欧州委員会は統一的なデジタルサービス税を提案したが、アイルランドや北欧の数ヶ国が反対したため、合意には至らなかった経緯があるからだ。 地理的広がりを欠くグローバルミニマム課税 OECD事務総長が2025年2月にG20財務大臣・中央銀行会議に提出した恒例の報告書(4頁)では、すでに55ヶ国が第2の柱の税制を国内立法したと述べている。 一方、米国の有力な租税法学者は、グローバルミニマム課税は欧州とアジアの一部以外の国への広がりは限定的であり、米国と中国の参加もない。このため欧州の税制になっていると指摘している(※2)。 (※2) 「Pillar 2 at a crossroads US policy & what comes next」Tax Notes(2025.4.23)ウェビナーにおけるパネリストの発言。 【表】グローバルミニマム課税の導入状況 (※) 数字は導入年。CbCR法人数は、OECD法人統計による。 (注1) G20のうち、EU加盟国はフランス、ドイツ、イタリア。 (注2) G20の導入8ヶ国は、オーストラリア、カナダ、インドネシア、日本、トルコ、イギリス、南アフリカ(UTPRを除く)、韓国(QDMTT除く)。 (注3) G20非導入9ヶ国は、アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、米国。 (出所) 筆者作成。2025年5月14日時点の情報による。 【表】からは次のことを読み取ることができる。 OECDによる導入国(55ヶ国)の約半数は、2022年12月のEU指令で加盟国に導入を義務付けたEU(27ヶ国)である。 コミュニケで「2本の柱」プロジェクトを奨励してきたG20(主権国家19ヶ国)のうち、8ヶ国はグローバルミニマム課税を支持し奨励しながらも、自身では導入に至っていない。 EU及びG20加盟国には合計6,744社の多国籍企業が存在する。うち、グローバルミニマム課税を導入した国に3,873社(57%)、非導入国に2,871社(42%)が所在している。 現状に照らせば、ラテンアメリカ、アフリカ諸国への広がりを欠いている。グローバルミニマム課税は欧州の税制になったという前述の米国租税法学者の指摘は、グローバルミニマム課税を国内法に導入していない国からみれば、全く的外れなものとまでは言えないと思われる。 グローバルミニマム課税と欧州の事情 グローバルミニマム課税につながる動きは、ドイツ議長国の下で開催された2017年3月のG20に端を発している。 ところで、欧州がOECDでの議論を必要とした理由は何だろうか。 1つは、巨大テクノロジー企業や多国籍企業が十分な納税をしていないと伝えられることへの市民レベルの反発に対する政治的な対応が必要だったということがある。 そしてもう1つは、設立の自由を保障するEU条約により、域内のタックスヘイブン的な国への利益移転を、ペーパーカンパニーや技巧的な取引であることなどの理由がなければ否認できないというEU固有の構造問題がある。 欧州では、日本や米国のようなタックスヘイブン対策税制を適用して否認することができない。このため、OECD合意は、欧州固有の法的制約を回避するための抜け道だという有力な指摘がある。 欧州の“米国対策” それでは、トランプ大統領令がターゲットにしていると目される「デジタルサービス税」、「グローバルミニマム課税」を推進してきた欧州は、この大統領令にどのように反応しているのだろうか。 報道によれば、ドイツ産業界、ドイツ各州財務大臣、ハンガリーの財務大臣からは、第2の柱の措置に疑問を呈し、その一時停止を求める声もあがっている。 米国が第2の柱に積極的に反対し、導入国を攻撃する以上、ミニマム課税はグローバルなものとはならない。 グローバルミニマム課税のため、OECDにおいて数百頁にも及ぶ複雑な制度作りを主導してきたEUだが、ホークストラ税制担当委員は、「米国企業のために規則を緩めることも排除しない」と発言している(※3)。 (※3) 「EU Tax Commissioner Against Throwing Pillar 2 ‘in the Dustbin’」Tax Notes International(2025.3.19) 2025年5月現在、欧州理事会議長国のポーランドは、米国企業にUTPRが適用されないようにするため、妥協策として次の3つの選択肢を提示したと伝えられる。 欧州とOECDのジレンマ・「解釈拡大」という暴走? OECDは2025年5月8日、「GloBEモデルルールの統合コメンタリ」を公表した。これは400頁近い膨大なものであり、過去3年分のコメンタリを統合したものとされる。 「GloBEモデルルール」(2021年12月)は、15%のグローバルミニマム課税を各国が国内法に導入するためのもので、いわば「法律」だ。そして、コメンタリはモデルルール(それに準拠した国内法)を適用する税務当局と、納税者に解釈上の助言を与えるためのもので、いわば「解釈指針」(「法律」でないという意味で「通達」に類似)である。 ここで問題なのは、OECDはモデルルールの範囲を逸脱した内容をコメンタリに追加してきていることである。欧州では、2022年12月14日の「指令」により加盟各国に15%グローバルミニマム課税の導入を義務付けた。この指令は加盟国の反対もあり、紆余曲折を経て合意したものであるため、現時点で改めて新しい内容を含む「指令」に合意することは非現実的と言われている。 このことを避けるため、OECDは「解釈」で対応しようとしているが、モデルルールにない事項をコメンタリだけで対応することは行き過ぎであり、既に多くの批判がある。租税法律主義や、国際約束と国内法の優劣関係を巡って、各国の基準は異なっている。そのため、各国の運用が均質なものでなくなることは避けられないと思われる。 しかも、制度の中核的な部分を薄めてしまえば、「グローバルに最低15%の税負担を確保する」という制度本来の趣旨は損なわれるだろう。欧州とOECDは深刻なジレンマを抱えることになる。 おわりに EU各国の経済団体の連合体であるビジネスヨーロッパは、4月7日ホークストラEU税制委員に送った書簡で、「世界的なコンセンサスがなければ第2の柱(グローバルミニマム課税)は市場の歪みをもたらし、欧州企業に競争上・事務負担上の不利をもたらす」として、再考を強く求めている。このままではレベル・プレイング・フィールド(公平な競争条件)の確保は期待できないというのだ。これはそのまま日本の多国籍企業にもあてはまるだろう。 欧州の中に、米国と妥協するための“ディール”を望んでいる声が広がっていることは確かだ。日本の立場からは、それがどのように決着するのかが重要になる。 欧州議会の税制小委員会は、トランプ大統領のOECDグローバルディール離脱指令を受けて、公聴会を開催する予定になっている。今後の動向に注目しておきたい。 (了)
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仕入税額控除制度における用途区分の再検討-ADW事件最高裁判決から考える- 【第2回】
仕入税額控除制度における用途区分の再検討 -ADW事件最高裁判決から考える- 【第2回】 森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士・税理士 栗原 宏幸 3 問題の所在-用途区分の判断の難しさ 法が認めている控除税額の計算方法のうち、「課税売上げに対応する課税仕入れに係る消費税額のみを控除の対象とする」という仕入税額控除の考え方に最も忠実な計算方法は、個別対応方式である。統計等は公表されていないが、大手企業を中心に、本則課税のもとで全額控除の適用を受けられない事業者の場合、一括比例配分方式よりも個別対応方式の方が控除税額が多くなるとして、個別対応方式の適用を選択している事業者が多いのではないかと推測される。 しかしながら、詰めて考えるならば、個別対応方式の適用は困難を伴う(はずである)。その理由は、同方式の要である用途区分の判断基準が、法律の定めからは明らかとは言い難いからである。 すなわち、前回の2(3)のとおり、消費税法の条文は、課税仕入れの3つの区分を「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」と定義するが(同法30条2項)、これらに共通する「に・・・要する」の意味は、その文理から一義的に明らかであるとはいえず、用途区分の判断を、どのような観点から、どのような事実ないし状況を考慮して行うべきかが、これらの定めから明らかであるとは言い難い。 例えば、企業が資金を銀行の普通預金に預け入れた場合、非課税売上げである預金の受取利息が生じる。そのため、企業の本社等における一般管理費(賃料、光熱費など)の課税仕入れについては、仮に本業の売上げが課税売上げであるとしても、当該売上げのみならず受取利息(非課税売上げ)にも対応するものとして、共通対応に区分している企業が多いのではないかと思われる。 しかしながら、この取扱いが前述の条文の定めから自明かというと、そうとは言えない。とりわけ、企業が何のためにその課税仕入れを行っているのかという課税仕入れの目的を重視して用途区分の判断を行うとすれば、企業は、あくまで本業の売上げ(課税売上げ)を得るために一般管理費の課税仕入れを行っているのであって、預金の受取利息を得るために行っているわけではないから、一般管理費の課税仕入れは預金の受取利息に要するものではなく、課税対応に区分すべきであるとの見解も成り立ち得るところである。また、課税仕入れの目的を用途区分の判断において重視する見解をとらなくても、「一般管理費の課税仕入れを行うこと」と「預金の受取利息が発生すること」は、客観的な因果関係が希薄であるとして、課税対応に区分する見解もあり得よう。 この問題の解決をさらに困難にしているのは、用途区分の判断の基準時点である。すなわち、用途区分の判断は、実際にその課税仕入れによってどのような売上げが発生したかという「結果」に基づいて行うのではなく、その課税仕入れの時点における「将来予測」に基づいて行うと解するのが一般的な見解であり、通達も基本的にはその見解を採用している(消費税法基本通達11-2-20)。この見解に従う限り、将来の見込みに過ぎない対応関係をどの程度の実現可能性まで考慮して判断するのかという問題も生じる。 以上の点が問題となったのが、次に紹介するエー・ディー・ワークス事件である。 4 エー・ディー・ワークス事件 (1) 事案の概要 本件の納税者(エー・ディー・ワークス株式会社、以下「ADW社」)は、主にマンションに関する収益不動産事業を行っていた。 収益不動産事業には様々なビジネスモデルがあるが、ADW社が行っていた収益不動産事業は、賃貸用の中古マンションを購入した上で、購入したマンションについて物件価値向上のための諸施策(リノベーション、適正賃料での居室の貸付けなど)を行い、投資家にマンションを販売するというものであり、物件価値の向上により生じる販売価格と購入価格の差額を収益源とするものであった。なお、購入から販売までの期間は数か月程度と比較的短期間であり、購入したマンションはADW社の会計・税務上、棚卸資産に計上されていた。 本件で問題となったのは、マンション(建物・土地)のうち建物の購入という課税仕入れの用途区分である(※2)。 (※2) 土地の譲渡は非課税取引であるから、土地の購入は課税仕入れには当たらない。 前述のとおり、ADW社の収益不動産事業のビジネスモデルは、購入したマンションを短期間のうちに販売するというものであるから、建物の購入が当該建物の販売(課税売上げ)に対応することについて、ADW社と課税庁の間に争いはなかった(※3)。 (※3) マンションの販売に当たっては、建物と土地が一体として譲渡されることから、建物の購入は、建物の販売のみならず土地の販売にも対応する(したがって共通対応に区分される)という見解も成り立ち得るように思われるが、本件の課税庁はそのような見解をとらず、専ら次に述べる住宅貸付けに着目し、共通対応を主張していた。 他方で、ADW社が購入するマンションは上記のとおり賃貸用であるから、同社は、マンションの購入に伴ってその各居室の貸主の地位を承継し、借主に対して住宅貸付けを行うことになるところ、住宅貸付けは消費税法上の非課税取引に該当すること(同法6条1項、別表第2第13号)から、建物の購入は、建物の販売だけでなく、住宅貸付けにも対応するのではないかという点が問題とされた。 建物の購入は、住宅貸付けにも対応する場合には共通対応に区分されることになるのに対し、住宅貸付けには対応しない場合には課税対応に区分されることになる。ADW社の課税売上割合は40%を切っていたことから、どちらに区分されるかによって建物の購入に関して控除できる消費税額が大きく変わる状況にあった。 以上の点がADW社と課税庁の間で争われ、一審判決は、建物の購入は課税対応に区分されると判断したのに対し、控訴審判決は共通対応に区分されると判断した。 (2) 最高裁判決の概要 最高裁判決は、以下のとおり判示し、建物の購入は共通対応課税仕入れに該当すると判示した(以下の判示に付した下線は筆者による。)。 ① 用途区分の法令解釈に関する判示 ② 本件への当てはめに関する判示 (続く)
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消費税・地方消費税
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〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第9回】「新リース会計基準適用後のオペレーティング・リースの借手の消費税に関する会計処理」
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第9回】 「新リース会計基準適用後のオペレーティング・リースの 借手の消費税に関する会計処理」 税理士 石川 幸恵 【Q】 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下「新リース会計基準」という)では、これまでオフバランスとされていたオペレーティング・リースもオンバランスで処理することになるそうですが、消費税の取扱いについて教えてください。 【A】 新リース会計基準では、借手はすべてのリースについてオンバランス処理し、オペレーティング・リースの定額費用処理ができなくなります。 リースの借手は、リース開始日において未払いである借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により「リース負債」という負債勘定を算定します(新リース会計基準34項)。利息相当額は借手のリース期間にわたり、原則として利息法により配分されます(同36項)。 消費税では、オペレーティング・リースについては資産の賃貸借として考えられており、新リース会計基準が公表されてもこの取扱いについての変更は示されていません。そのため、リース料の支払いの都度、仕入税額控除を行うこととなります。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 新リース会計基準とそれに関わる消費税の処理について、オペレーティング・リースの借手に注目して整理したい。 1 新リース会計基準の概要 新リース会計基準の概要について簡単に整理しておく。 (1) 適用企業 新リース会計基準は上場会社と、未上場会社のうち会計監査人を選定する必要がある大会社に強制適用される。 (2) 新リース会計基準の適用開始時期 2027年4月以降に開始する事業年度の期首から適用される。ただし、2025年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することも可能である(新リース会計基準58項)。 (3) オペレーティング・リースの消費税における取扱い 新リース会計基準の適用の有無に関係なく、オペレーティング・リースは資産の売買ではなく、賃貸借として取り扱われる。そのため、リース料を支払うべき課税期間の課税仕入れとして取り扱われる。 2 リース取引の会計処理 以下では、ASBJが公表している[設例20]を基にオペレーティング・リースに関する消費税の処理について検討する。 〈前提条件〉 (1) オペレーティング・リースについて現行基準で行われている会計処理 課税仕入れであるリース料が借方に計上され、それに伴って仮払消費税等が計上される。税抜経理方式であれば上記のような仕訳となる。 (2) 新リース会計基準によるリース開始時の会計処理 毎年1回、3月末に年額10,000千円のリース料を支払っている。このリース契約については、新リース会計基準では貸借対照表に次のように計上する。 リース負債の計上額を算定するにあたり、原則としてリース開始日において未払いである借手のリース料(10,000千円 × 5回 = 50,000千円)からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する。 通常、借手は貸手の計算利子率を把握できないため、借手の追加借入利子率(設例では5%)を用いて次のように割引計算を行う(新リース会計基準34項)。 以上の合計が43,295千円となる。仕組みを紐解けば電卓でも計算可能である。 (注) 上記記載の各数値は、計算過程ごとに四捨五入しているため、単純合計は43,294千円となる。一方、端数処理前の数値を合計し、最終的に四捨五入した場合の合計額は43,295千円である。 (3) 新リース会計基準による第1回リース料支払い時 (※) 2,165千円 = 43,295千円 × 5% 新リース会計基準ではリース料の支払いにあたり利息相当額とリース負債の取崩額をそれぞれ計上することとなる。この場合、借方科目は本来課税仕入れに該当しない「支払利息」及び債務の取崩額であるにもかかわらず、仮払消費税等が計上されるため、上記(1)のような一般的な課税仕入れの仕訳と異なる形となる。 しかし、この点については、割戻し計算ではなく積上げ計算によって仮払消費税等を計上していると考えれば、ある程度納得できる。 なお、仕入税額と売上税額の計算方法の組み合わせにおいて、売上税額に割戻し・積上げ計算のいずれを用いていても仕入税額の計算で積上げ計算は選択可能であるため、問題はない。 (4) 会計処理の方法と消費税額の計算が異なる場合-所有権移転外ファイナンス・リース 会計処理で求められる勘定科目や金額と仮払消費税等が対応しない問題は、所有権移転外ファイナンス・リースでも生じている。 上記の例をファイナンス・リースに置き換えた場合に、売買処理で会計処理するときの仕訳は下記となる。消費税はリース料総額に対する額となる。 国税庁の質疑応答事例では、会計処理の方法と消費税額の計算方法が異なる場合、帳簿の摘要欄にリース料総額を記載するか、会計上のリース資産の計上額から消費税における課税仕入れに係る支払対価の額を算出するための資料を作成し、整理の上綴って保存することなどにより帳簿においてリース料総額(対価の額)を明らかにする必要がある、と示している。 この考え方をオペレーティング・リースに当てはめると、支払リース料について摘要欄などで明示する対応が求められる可能性がある。 (了)
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税務
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財産評価
Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第54回】「〔第5表〕貸付金債権の評価」-債務者が相続開始前までに解散していた場合-
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第54回】 「〔第5表〕貸付金債権の評価」 -債務者が相続開始前までに解散していた場合- 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和7年4月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男乙が相続しています。甲株式会社は平成20年4月1日に甲の兄が100%保有している乙株式会社(建設業)に70,000,000円の貸付(金利1%、30年間の元利均等返済、毎月月末払い)を行い、乙株式会社は予定通り借入返済を行っていましたが、甲の兄が高齢で事業を継続することが困難で、後継者もいないことから、事業を廃止し会社を清算することになりました。令和6年4月1日に解散を行っていますが、同日以降については、元金は据え置き、甲株式会社に利息のみを支払っていました。乙株式会社は、土地(空き地)を保有しており、その土地の売却後に借入金の返済を行うことになっていましたが、その前に甲に相続が発生しています。 甲株式会社及び乙株式会社はそれぞれ3月決算です。 【乙株式会社の相続開始日現在の資産及び負債の状況】 (※) 土地について公示価格を基に算定した価額は35,000,000円である。 甲株式会社の株式価額の算定上、乙株式会社の貸付金債権の相続税評価について第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する相続税評価額は、上記の相続開始日時点の相続税評価額における資産から負債を控除した差引金額3,282,732円を回収不能額として相続開始時点における貸付金債権の金額(35,282,732円)から控除しても問題ないでしょうか。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の貸付金債権の相続税評価額から3,282,732円を回収不能額として控除することは認められず、額面金額35,282,732円を計上することになります。 ◆ ◆ ◆ 1 貸付金債権の評価 貸付金債権の評価については、財産評価基本通達204及び205において下記の通り定められています。 財産評価基本通達204(貸付金債権の評価) 財産評価基本通達205(貸付金債権等の元本価額の範囲) (下線部は筆者による) 上記の通り、貸付金債権の評価は、貸付金の元本の価額と利息の価額との合計額により評価する旨を定めています。そして、貸付金債権の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において上記の財産評価基本通達205(1)から(3)までに掲げる金額に記載されている金額(以下「法令等に基づく回収不能額」という)その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない旨を定めています。本問の場合には、「法令等に基づく回収不能額」に該当するものはありませんので、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」に該当するかどうかが問題となります。 もっとも、本問の場合には、乙株式会社(債務者)は相続開始前に解散しており、上記(1)へに記載の「その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき」に該当しているのではないかとの疑問があるかもしれませんが、上記(1)へについては、「業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、・・・」とあるため、事業廃止又は休業に至った理由も重要となります。本問の場合には、高齢に伴うものですので、上記(1)へには該当しないことになります。 2 回収不能額の算定方法 「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」の意義については、【第53回】で解説をしていますが、令和3年1月13日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z271-13503)において下記の通り判示しています。 ところで、債務者が相続開始前に解散している場合には、貸付金債権の返済原資は残余財産となりますので、例えば資産が10,000,000円の預金しかなく、負債が借入金30,000,000円であれば10,000,000円は回収可能であり、20,000,000円が回収不能となります。反対に資産が30,000,000円の預金で負債が借入金10,000,000円の場合には、全額回収可能となりますので、回収不能額はありません。 したがって、法人が相続開始前において解散をしている場合には、相続開始時点における残余財産を基に回収不能額の有無を検討する必要があります。 平成28年12月12日の裁決(TAINSコード:F0-3-510)では、法人が相続開始前において解散をしている場合における回収不能額が争点となりました。本事例において貸付金等の債務者であるA社(被相続人が代表取締役を務めていた法人)は、相続開始日において清算手続中であり、貸付金等の引き当てとなるのは本件宅地を含むA社の残余財産でした。 残余財産を計算する際に本件宅地の評価が争点になりましたが、納税者は、本件宅地を不動産鑑定価額で評価を行ったのに対して、課税庁は公示価格を算定の基礎にしました。国税不服審判所は、公示価格について「地価公示地の公示価格は、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格であり、いわゆる時価の概念と同意義であると解されていることから、時価の検討に当たっては、公示価格を考慮することが相当である。」とし、課税庁の残余財産の算出方法を相当と判断しています。 なお、課税庁(原処分庁)は下記の通り宅地の価額を算出しています。まず、地価公示地の価格について時点修正を行い1㎡当たりの価格を算出(下記④の金額)し、地価公示地(本件地価公示地)と対象地(本件宅地)の相続税評価額の価額比を基に計算を行っています(下記⑨の金額)。 (※) TAINSコード:F0-3-510の別紙の別表8より抜粋 3 本問の場合の当てはめ 相続開始時点において清算手続き中である場合における貸付金債権の回収不能額については、不動産については公示価格を基に算出し残余財産を確認する必要があります。公示価格を基に計算した場合には、「資産の価額の合計額 > 借入金の金額」となり、回収不能額はないため、額面通りの金額で評価することになります。 ☆実務上のポイント☆ 相続開始時点において、債務者が清算手続き中である場合における貸付金債権の評価については、相続開始時点における残余財産の価額を基に回収不能額の確認を行います。その場合の残余財産の価額に土地が含まれている場合には、土地の評価については相続税評価額ではなく、公示価格を基に計算する必要があります。 (了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第67回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第67回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 27 DeFi取引と課税②:流動性供給開始は課税イベントか 以下では、所得税法上、個人が行うDeFi取引の入り口場面ともいうべきトークンの移転、とりわけ暗号資産(トークン)の流動性供給の開始やラップは課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)であるか、言い換えれば、含み損益を課税所得に反映させる事象であるかという点を検討する。 暗号資産の流動性供給の開始やラップに係る各時点の処理は、それぞれ流動性の供給を解除する又はラップとは逆にアンラップする場合にも影響を与える可能性があることとも相まって、関係者の関心が高い論点である。 にもかかわらず、他国の状況も概観する限り、DeFi取引の課税関係を明記する法令がなく、課税庁のガイダンスも乏しい。このため、暗号資産の損益計算ソフトに関連するものも含めて、この点に関して積極・消極両方の見解がある。両論併記されることも少なくない。 このほか、課税リスクを踏まえた保守的見地等から、以下のような対応が取られる場合もある。 以下では、相手方として権利の帰属主体が存在するか、処分権の移転があるかなどの点に着目することで、暗号資産の流動性供給の開始やラップが課税イベントではないという見解を示す。 (1) 課税イベントになるという見解 流動性を供給するユーザーであるLPによる流動性供給開始は課税イベントであるかという点が世界的に問題となっている。 保有する暗号資産の移転と引き換えに、異なる種類の暗号資産を得る場合には、暗号資産同士の交換に該当し、課税イベントであるという見解は珍しくない。 欧州最大のDeFi活用地域ともいわれる英国では、歳入関税庁がDeFiの課税上の取扱いのガイダンスを公表している。同庁のCryptoassets Manualは、次の点を明らかにしている(※)。 (※) GOV.UK「CRYPTO22100」及び「CRYPTO61620」参照 この点に関して、beneficial ownershipの移転の有無を判断するのは納税者の責任であるが、これは複雑な法律問題であり、手助けとなるガイダンスや事例は同庁からほとんど示されていないとの指摘がある(Recap「Is Beneficial Ownership(BO) Transferred?(2022)」)。 また、オーストラリア国税庁のスタッフは、LPトークンと引き換えにトークンをプールに預けることは、トークンの処分とみなされて、キャピタルゲイン課税の対象であると回答している。 他方、オーストラリアとニュージーランドの会計・税務の専門家団体による共同文書は、英国歳入関税庁の上記ガイダンスに触れつつ、第三者が流動性プールと取引するたびに、取引手数料とともに、一方のデジタル資産を他方のデジタル資産の処分の対価として受け取ることになり、その時まで、流動性プールの中の資産に対して継続的なbeneficial connectionを証明できる納税者が多いことを指摘している。 (2) 課税イベントと実現 Uniswapの利用場面を念頭に流動性供給開始が課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)であるかを検討する前に、そもそも、所得税法上、どの時点で資産の含み損益が課税の対象となるのかを考察する。 所得税法は、包括的な所得概念を採用しており、個人が保有する資産の値上がり益も所得であると考えられている。ただし、値上がり益に対して課税する場合、時価評価が難しい資産があるという問題や、まだ売却していないので納税資金の用意が難しいといった問題に突き当たる。そこで、実際の所得税法は、所得が実現した時に課税する、裏を返せば所得が実現した時まで課税を繰り延べている。 すなわち、所得税法は、所得を収入、すなわち経済的価値の外部からの流入という形態で捉えた上で、いずれの所得についてもその金額を(総)収入金額として規定するとともに、「その年において収入すべき金額」を各種所得の(総)収入金額としている(所法23~35、36)。 同法は、原則として、収入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得(保有資産の価値の増加益)を課税の対象から除外している(金子宏「租税法における所得概念の構成」同『所得概念の研究』74頁(有斐閣1995)、増井良啓『租税法入門(第3版)』117~119頁(有斐閣2023)参照)。 そうすると、実現の意義が重要な問題となるが、次のとおり、この点については種々の見解がある。 上記のほか、「アメリカ法を前提とするならば、実現とは、何か資産を手放して、その代わりに別の資産をもらったことを指すといえる。ただし、手放した資産と、受領した資産が種類または性質において実質的に異なっていなければならない」とした上で、ここから、いまだ実現に至らない未実現の状態として、資産を手放さず保有し続ける未実現の基本形である第一類型、贈与や相続による財産の移転など資産を手放すが、その代わりに取得した物がない第二類型、一定の譲渡担保など、資産を手放してそれと実質的に異ならない物を取得する第三類型の3つが考えられるという見解もある(渡辺徹也「実現主義の再考」税研147号70頁参照)。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 これらの見解の共通点や法的根拠を意識してみると次のことがいえる。 上述のとおり、所得税法は、原則として、収入、すなわち経済的価値の外部からの流入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得(保有資産の価値の増加益)を課税の対象から除外している。 上記の見解のうち、別の資産をもらう、現金等の資産(対価)と交換されるという叙述は、実現の要素を所得税法36条1項の収入の存在に求めたり、実現の実定法上の根拠を同条に求めるという着想につながる。 また、所得税法33条1項は、譲渡所得とは資産の譲渡による所得であることを定めている。 上記の見解のうち、保有する資産を手放したり、資産の権利を保有する者が変わるという叙述は、資産の譲渡を中心とした人的帰属の変更が実現概念と関係していることを示唆するとともに、実現の実定法上の根拠を所得税法33条ないし同条が定める譲渡に求めるという着想につながる。 実現は、上記のような所得概念や人的帰属のほか、課税のタイミング(所得の年度帰属)とも関係していることに注意を要する。 課税のタイミングに関しては、例えば、「収入すべき金額」とは、実現した収益、すなわちまだ収入がなくても「収入すべき権利の確定した金額」のことであり、したがってこの規定は広義の発生主義のうちいわゆる権利確定主義を採用したものであると説明される(金子宏『租税法〔第24版〕』317頁(弘文堂2021))。 権利確定主義とは、「外部の世界との間で取引が行われ、その対価を収受すべき権利が確定した時点をもって所得の実現の時期と見る」考え方である。このような権利確定主義が妥当し得ない例外的な場合においては「利得が利得者の管理支配の下に入った場合に所得として実現したものとする」考え方である管理支配基準が採用されると解されている(金子・前掲書303頁、金子宏「所得の年度帰属」同『所得概念の研究』284頁(有斐閣1995)参照)。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第169回】株式会社不動テトラ「社内調査委員会調査報告書(開示版)(2025年3月31日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第169回】 株式会社不動テトラ 「社内調査委員会調査報告書(開示版)(2025年3月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社不動テトラ社内調査委員会の概要】 【株式会社不動テトラの概要】 株式会社不動テトラ(以下「不動テトラ」と略称する)は、2006(平成18)年、株式会社テトラと不動建設株式会社が合併し、不動建設株式会社を存続会社とするとともに、商業を不動テトラに変更した。 不動建設株式会社は、1947(昭和22)年、建設業を主たる事業目的として設立。設立時の社名は株式会社瀧田ノ組。1956(昭和31)年、不動建設株式会社に社名を変更。 株式会社テトラは、1961(昭和36)年、テトラポッドの製作、販売及び同工事の設計、施工を事業目的として設立。設立時の社名は首都圏印刷製本株式会社。1995(平成7)年、株式会社テトラに社名を変更。 不動テトラは、土木事業、地盤事業及びブロック事業を主たる事業とし、子会社7社と持分法適用関連会社1社を有している。連結売上高67,947百万円、連結経常利益2,947百万円、資本金5,000百万円。従業員数986名(2024年3月期連結実績)。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、有限責任あずさ監査法人。 【社内調査委員会による調査報告書の概要】 1 社内調査委員会設置の経緯 不動テトラでは、2024年12月上旬頃、外部機関の指摘を受け、東京地盤工事部に属する管理職従業員が、同事業に係る一部の取引において、複数年にわたって特定の工事資機材販売業者に対し、水増し又は架空発注を行い、その発注相当額の一部で商品券を購入する形をとって自らに還流させて着服するほか、地盤本部に属し工事現場の所長(以下「工事所長」という)を務める従業員が同工事資機材販売業者に対する水増し又は架空発注の方法を用いて、当該発注額を同業者にプールさせたうえで、別工事の工事資機材代金に充てるよう依頼し、又は正規に処理できない領収書を買い取らせていたこと(以下「本件架空発注等」と総称する)が判明した。 これを受け、不動テトラは、同月10日、社外取締役を含む全取締役に対し本件架空発注等の状況を報告するとともに、緊急の対応として、管理本部を中心に初期的な状況把握を行い、同月23日開催の臨時リスク管理委員会で審議・承認された対応方針に従い、翌24日、地盤本部以外の管理本部、監査部を中心とする役職員によって構成される緊急対策本部を設置して本件架空発注等の事案解明のための調査を開始し、直ちに関与者のヒアリング、上記各従業員の直近1年間のメールデータの保全、解析等を実施した(以下「予備調査」という)。予備調査の結果、地盤本部に属する他の複数の従業員においても、当該工事資機材販売業者等を通して実際と異なる経費処理等を行っているのではないかとの疑念が生じた。 予備調査の結果を受けて、不動テトラは、不動テトラとは利害関係を有せず、不正調査の経験が豊富な外部専門家2名(弁護士1名、公認会計士1名)と社外取締役監査等委員(弁護士)を委員とすること、その補助者(弁護士及び公認会計士数名)を確保することを進めたうえで、2025年1月23日の臨時リスク管理委員会の審議を経て、同月27日開催の取締役会において社内調査委員会を発足させる旨を決議し、同日、第1回社内調査委員会を開催した。 2 2022年3月に判明した不適切な会計処理(2022年案件) 不動テトラでは、2022年3月まで行われた税務調査において、中部支店の地盤改良工事について、協力業者に支払う工事費の仮装計上等の不適切な会計処理が判明し、社内調査を行い、同年6月に調査結果をまとめ、再発防止策を策定してそれを実行してきた。この2022年案件は、地盤改良事業の一部工事において、工事の業績が予想以上に好業績となった反面、協力業者における窮状や損失負担の状況を慮って架空や仮装の発注処理をし、相手方への利益供与や工事現場の原価付替を行ったものであった。 同調査の結果、2022年案件が生じた原因として、(1)コンプライアンス意識の欠如、(2)業績管理への過度なプレッシャー、(3)不適切処理のチェック体制の不備が指摘された。 なお、2022年案件は、その規模等から業績や会計処理に与える影響が僅少であったため、不動テトラは、社内調査として必要な調査を行い、対外的な開示は実施しなかった。 不動テトラでは、再発防止策として、以下の項目について、詳細な実行計画を策定し、この計画に従い進捗状況が管理されるとともに、取締役会への定期的な報告が行われてきた。 3 社内調査委員会による調査の結果判明した事実 (1) 調査結果の概要 社内調査委員会は、調査の結果、不動テトラ東京地盤工事部部長であるA氏及び地盤本部工事部工事課に所属するB氏その他9名の従業員並びに東京本店地盤営業部の従業員1名が、工事資機材販売業者であるX社との間で本件架空発注等の不適切な取引を行っていたこと、X社以外の燃料・資機材販売業者との間でも、X社との間で行われた本件架空発注等と類似した不適切な取引が行われていたことが判明したとしている。 本件架空発注等は、従業員が外部の協力業者に対して架空の発注又は本来の金額よりも水増した金額での発注を行う形で実行されていた。こうした架空又は水増しの発注の目的としては、以下のものがある。 調査の結果判明した架空発注等の金額は約40百万円であり、資金使途としては、「従業員による金品受領(上記③)」が約15百万円、「同一工事内での費目付替(上記①)」が約5百万円、「別工事への原価付替(上記②)」が約7百万円、残額が約13百万円となっている。 (2) 作業所決裁 不動テトラでは、工事原価の発注については、基本的に購入要求書により拠点の部課長や購買部のチェックを経る体制が整えられていたものの、その例外として、工事の施工品質に影響を及ぼさない範囲における業務の迅速化・省力化の目的で、下請負契約を除く50万円以下の発注など一定の取引について、購入要求書による発注手続を省略することができる取引として定め、拠点の部課長や購買部のチェックを経ることなく、工事所長において発注を行うことが可能となっていた。 不動テトラは、2022年案件を受けて、工事費の仮装計上といった不適切な会計処理の防止を図るため、発注の実在性についての確認を強化していたが、作業所決裁による発注については、拠点の部課長や購買部のチェックを経ることなく行われ、実態として納品書が残されないこともあって、管理部門や監査部による事後的な実在性の確認が困難な取引類型として残されており、実際に社内調査委員会の調査の結果判明した不適切な取引の多くは、拠点の部課長や購買部のチェックを経て発注がなされたものではなく、上記の下請負契約を除く50万円以下の発注の類型として、作業所決裁による発注が認められたものであった。 (3) 東京地盤工事部部長A氏による不適切行為 社内調査委員会の調査によれば、A氏は、東京地盤工事部課長であった 2017年9月以降、商品券を受領したい旨の意向と受領したい商品券の金額をX社の担当者に伝え、実際には現場で納品を受けない架空の品物について、それらの合計金額が希望する商品券の金額の倍額程度となるように複数リストアップし、架空の納品リストをメール又はファックスによりX社の担当者に送付し、さらに同担当者に対して請求先の工事現場を複数指定して、X社から当社に対する請求書に、当該架空の品物とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、X社から不動テトラに対して架空発注額を含めた金額での請求をさせていた。 A氏は、自身が部長としての立場で管轄する東京地盤工事部の複数の工事現場において、X社からの請求書に架空の品物とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、架空発注額の請求を行っていたものであるが、対象となった各工事現場を担当する工事所長の中には、X社からの請求書に、自身が発注しておらず、実際には納品を受けていない品物が含まれていることに気が付いた者もいたものの、A氏が他の現場で発注した品物を当該工事現場に請求させているものと考えたり、東京港総合事務所等に備える共通の物品を当該現場に対して請求しているものと理解したりして、特段実際の取引の有無の確認や、架空水増請求ではないことの確認を行う者はいなかった。 不動テトラは、X社から請求を受けた架空発注額を、X社に対してそのまま支払い、X社は、受領した架空発注額のおよそ半額に相当する商品券を、A氏が指定する東京港総合事務所又は工事事務所に郵送し、A氏は同所において商品券を受領したあと、金券ショップにおいて換金し、現金化していたものである。 調査対象期間(2019年4月1日から2024年12月31日。以下、同じ)においてA氏がX社に請求させた架空発注額は合計13,393,880円(税別)であり、このうち、A氏がX社から受領した商品券の金額の合計は6,400,000円であった。 (4) 地盤本部工事部工事課B氏による不適切行為 社内調査委員会の調査によれば、地盤本部工事部工事課B氏は、2018年1月以降、自己の担当する現場で利益が確保できた際に、次の現場での工事資機材を購入するための費用をプールする目的で、X社に対して、実際には現場で納品を受けない架空の工事資機材及び数量を指定して、X社から当社に対する請求書に架空の工事資機材とそれらの金額を上乗せした金額を記載させ、X社から不動テトラに対して架空発注額を含めた金額での請求をさせることで、その架空発注額の一部をX社にプールさせていた。 また、B氏は、X社に対し、社内で正規に処理できない私的利用に基づく領収書も含む領収書を送付し、後日、X社に、そのプール金を原資として領収書記載金額に相当する現金を郵送させ、自ら受け取っていた(プール金による領収書の買取り)。 調査対象期間においてB氏がX社に請求させた架空発注額は合計8,337,400円(税別)であり、B氏がプール金による原価付替を行った金額は合計1,100,000円(税別)、B氏がプール金による領収書の買取りによって受領した金額は合計3,390,404円であるとともに、B氏へのヒアリング等によれば、2024年12月末日時点のX社に対するB氏のプール金の残高は170,546円であると推計される。 (5) X社との間のその他の不適切な取引 社内調査委員会の調査によれば、地盤本部工事部工事課のC氏以下8名、東京地盤営業部のL氏が、X社との間で不適切な取引を行っていたことが判明している。 (6) その他の協力業者との間で生じた不適切な取引 社内調査委員会の調査によれば、X社以外の12社に対して、架空発注が行われ、その総額は9,435,000円(税別)であったことが判明している。 4 発生原因の分析(調査報告書44ページ以下) 社内調査委員会は、調査の結果から、なぜ、地盤改良事業、特に東京地盤工事部管轄の現場において不適切行為が2022年以降も発生し、かつ、複数発生したのか、本件の行為者に共通する事情及び特有な事情は何か、2022年案件への対応はそれらの点にどのような影響を与えていたのか、といった点の分析が必要と判断し、A氏に関する行為とB氏に代表される行為を評価したうえで、原因分析を行った。 (1) A氏の行為の評価 社内調査委員会は、A氏は、その地位・権限、行為態様、規模等から本件の不適切行為の行為者の中で異例であり、その行為の原因としても、A氏固有の事情が左右した面は否定できないと考えるとしたうえで、動機については、東京地盤工事部課長時代の上司や他の拠点幹部等を交えた飲み会等の費用精算担当となる中で、個人でその費用を負担し、会社費用としての精算をできなかったこと等から、カード債務が嵩んで経済的に困難を抱え、飲み会等の支払やカード債務の返済のために金銭を必要としていたことを挙げ、機会という点では、A氏は、工事所長の経験を経て、東京地盤工事部長に昇格し、その地位、仕事ぶり等から、周囲から相当程度の信頼を得ており、各工事現場に必要と思われるような物品を負担させることを各工事所長から不自然に思われない、あるいは、工事所長からの指摘を容易に回避できる状況にあったことを指摘している。 さらに、A氏は、多くの仕事をこなして周囲からも信頼を得、順調に地位も上がり、会社の屋台骨である地盤事業、特に重要な拠点である東京地盤工事部を支えているという意識を有しており、2022年案件はあるにせよ、多少会社のお金を自分が使っても、それは実質会社が負担すべきものでありながら自分が負担している債務を支払うため、また、仕事に役立てるためであって、自分がこれだけ頑張って会社のためになっているからよいのではないか、という誤った意識をもって、自身の行為を正当化しながらX社との不適切な取引を繰り返していたと評価している。 (2) B氏その他の行為者の評価 社内調査委員会は、B氏とC氏その他の行為者は、ほぼ同種類型と評価できるとしたうえで、ただ、B氏は、規模、私的流用の大きさという点では特異性を有していることから、B氏について検討している。 B氏の認識では、工事現場の売上総利益率の確保と予算と実績との整合性は工事所長の人事評価の考慮要素の1つであり、B氏は、自身が担当する地盤改良工事について、現場によっては予算が限られており利益が出しづらいものもあったため、利益が予算上の想定を上回ることが見込まれる現場の予算を転用したいとの希望を有していたところ、Y社長から、プール金を使って原価付替に対応するという提案を受けるという機会を得て、実際に次の現場に備えるためのプール金を作りたいとの動機を実現できることになり、架空発注額の支払及びプール金による原価付替を行うようになった。 さらに、B氏は、Y社長からプール金による領収書買取りのスキームにも応じるとの話を聞き、業務上発生した交際費であって正規に処理しにくい領収書を処理したいという動機に合致するものとして、領収書の買取りを求めるようになり、コロナ禍以降は、Y社長からX社の期末処理の要請(プール金を期末で0にする)を機会として、プール金消化のために私的利用に基づく領収書の買取りも可能と認識し、自身の欲求を満たす意味でもこのスキームを利用するようになった。B氏は、これらのスキームが作業所決裁によって可能となることを認識し、その機会を利用するとともに、プール金原価付替、領収書買取りについて、単に工事費用の付替を行っているという、本来は会社が負担すべき経費の精算であるとの認識であり、不正に当社の費用を流出させてはいないという意識の下で自己の行為を正当化していた。 B氏に比較して、C氏以下の他の行為者については、個々に多少の違いはあるものの、B氏における私的利用の領収書の買取りの部分以外は、一人所長である点、作業所決裁を利用していること、X社を中心に自身の意向を拒絶することなく従う協力業者を利用したことなど、動機、機会、正当化の点で、ほぼ同様の分析があてはまるとしたうえで、費用の付替の点は、作業所決裁という現場への牽制が弱い中(機会)で、業務上の費用とそれを処理する面倒さ、より効率的に費用を充足できる簡便な手段の存在(動機)と、業務に必要であって会社の経費となることは変わらないし、2022年案件と性質が異なる(正当化)といった意識も原因となっていたと考えられるとまとめている。 (3) 事業特性・風土、企業文化と一部従業員のコンプライアンス意識の低さの残存 社内調査委員会は、地盤改良事業の事業特性・慣習・実態を分析して、地盤改良事業は、主に下請事業であり、個々の工事は土木事業などに比べると小規模かつ短期間の工事であることが大半であって、従業員の配置も1人の工事所長のみであり、工種が単一であることも相まって協力業者として取引相手となる業者が固定化する傾向があり、また、海上地盤工事等では臨機に物品等を調達することに不便さがみられ、長年付き合いのある協力業者を頼るとともに協力業者側でも工事所長の要請に従う状況があったことなどが認められ、土木事業、ブロック事業と異なる特徴であり、本件架空発注等が地盤改良事業で生じた原因の背景と考えられるとしている。 2022年案件の発生とその再発防止策により、企業トップの強いメッセージが発出され、問題点を社内に周知し、教育研修にも力を入れるなど、コンプライアンス意識を向上させる対策が繰り返し取られたことから、その効果は一定程度あって、風土・文化の改善が進んでおり、それ以前のような工事原価の付替はほぼなくなったのでないかと評価しているが、地盤改良事業の一部の現場におけるコンプライアンス意識が完全に変わったとは言えず、2022年案件で社内調査の対象となった工事間の原価付替以外は問題ないとの誤った解釈を述べる者や、社長通達に関して具体性がなく効き目がない、マインド面を訴えただけで当社としての仕組みが変わっていない等と述べる者もおり、依然として、企業風土に根ざすコンプライアンス意識の低さの問題は払拭されていなかったことが今回の原因になっていると分析している。 (4) 不適切な対応を許容する協力業者の存在 社内調査委員会は、本件架空発注等は一部他の協力業者によるものがあったものの、特にA氏の特有な事象は、X社の関与なしでは成立しなかったとしたうえで、証拠に基づく明確な認定はできないものの、X社が薄々A氏の意図等に気づきつつ、頼まれた以上何でも調達するのが自らの仕事であり、使い道はA氏側(会社側)の問題という整理をして、拒否することなく応じてきた(工事所長からすれば容易に頼めた)ことが本件の原因の1つと評価できるのではないかとの見解をまとめている。 (5) 業務フロー上の問題点(一人所長による作業所決裁) 社内調査委員会は、土木事業では、工事所長の決裁ではありながら、工事現場には複数の担当者が存在して一人所長という状況はなく、発注の必要性、現実の納品等について所長以外の担当者の目に触れ、事実上チェックされる状況があり、不正をすると発覚するかもしれないとの抑制が働くものと考えられるが、他方、地盤改良事業の一人所長の場合の作業所決裁フローが、工事所長のレベルだけでなく、拠点の管理職による監督の面でも、内部統制上の牽制を事実上緩和してしまう可能性が存在することは否定できず、本件の原因の1つと解されると評価した。 しかし、年間300件に上る短期間工事を効率的にこなしていくうえで、全ての現場購買について、発注段階から拠点又は本部の管理下に置くことは極めて煩雑であり、現場の作業効率を下げ、工期遵守面でも影響を及ぼすとともに、本部等の体制としても応対できない面があり、こうした管理を実行することは当社の利益の稼ぎ頭である地盤改良事業の売上総利益率を落とし、当社の企業価値自体を下げるおそれがあるという側面も理解できるとして、一人所長による作業所決裁の存在は、本件の原因ではあるものの、それをどのように再構築すべきかは、今後の従業員に対する教育、人事対応、システムによる補完等も考慮しつつ、対応内容、実施時期、期間等との兼ね合いで検討すべきではないかとまとめている。 (6) コンプライアンス体制上の問題 社内調査委員会は、コンプライアンス体制上の問題として、まず、内部監査について、監査部3名体制では、全国に多数の工事現場を抱える中、十分な内部監査を完遂することは困難であり、業務効率性も重視される作業所決裁について内部監査の目が及ばなかったことは原因の1つであると評価している。 さらに、内部通報制度の周知や、実効性を確保するための対応が不足していたことも原因の1つであると分析している。 5 再発防止策の内容(調査報告書52ページ以下) 社内調査委員会は、再発防止策検討のための視点として、まず、不適切事案の再発を許した当社の風土・文化の面及び従業員のコンプライアンス意識の面で改善すべき点は何かを再度真摯に検討すべきであるものの、2022年案件の対応により当社の多くの従業員がコンプライアンス意識を変えている中で、不適切行為者は一定範囲の行為にとどまっていること、個人的な理由も背景に特異な行為態様を示した者はごく一部にとどまることからすると、業務フローの見直しの対象及び内容の検討において、それに要するコスト、業務効率性への影響との比較などの考慮要素を踏まえ、当社の現状を踏まえた最適な業務フロー等をどのように構築するか、といった観点で十分な検討が必要になるという見解を示したうえで、再発防止策として以下の項目を列挙している。 社内調査委員会は、架空発注に利用された作業所決裁について、作業所決裁自体は、人員が不足する中で効率化を図るために必要な制度であると理解を示したうえで、納品書を確実に保存するルールを明確化して事後的なチェックを可能にすること、工事現場の予算、特に交際費の使用に関するルールの曖昧さを解消することを挙げている。 また、協力会社については、不動テトラのトップとして、協力業者に対してコンプライアンスを最重視する当社の姿勢を示したうえで、今後、万一当社側関係者からの不適切な要求があれば、頑なにこれを拒絶すること、そして当社の内部通報窓口に対し通報を行うことを、改めて強く要請すること、当社の考えるコンプライアンスの水準や不適切な取引を、協力業者に理解してもらうために、協力業者向けの教育・研修を行うこと、さらに、当社従業員との間で新たな不適切な取引が行われていないか、平時から協力業者へのコンプライアンスアンケートを実施することなどを提言している。 【調査報告書の特徴】 老舗の土木会社で発生した従業員不正は、過年度の有価証券報告書を訂正するには至らない程度の損益インパクトではあったが、2022年3月に不適切な会計処理事案が発覚して、再発防止策を履行している中で、管理職を含む複数の従業員が同時多発的に不正を行っていたという点は、経営陣に与えた衝撃は大きかったのではないかと思料する。 調査報告書では、2022年3月に行われた調査の内容についての評価が述べられておらず、社内調査の対象となったのは工事間の原価付替が対象であったことに触れられているにすぎないが、この時点で、大規模な調査が行われていれば、被害額はより少なくて済んだ可能性は高い。不正による損害額は約40百万円であり、過去の各期に与える業績への影響は軽微であることを強調した不動テトラではあるが、5月9日に公表された2025年3月期の決算短信によれば、「不正調査費用」が111百万円計上されている。 1 不正を助長した協力会社 A氏をはじめ、多くの社員の不正を手助けてしてきたX社は、神奈川県横浜市に本社をおく土木建設資材の製造及び販売を目的とする会社であり、代表取締役はY社長である。X社の主力事業である土木資材卸部門は、海洋土木や浚渫工事、作業船舶に使用される資材を取り扱っており、不動テトラの海上地盤改良工事との親和性が高く、また工事現場に必要な仮資機材等の適時な納品対応が可能であるため、1件当たりの取引金額は少額ではあるが、多くの工事所長と長年の取引関係を有していた。2024年3月期の取引実績は、104件約17百万円であり、過去5年において、13百万円から20百万円の間で推移している。 社内調査委員会によるインタビューに対して、Y社長は以下のように答えている。 2 関係者の処分 不動テトラは、調査報告書の公表と同じリリースにおいて「役員報酬の減額と関係者の処分」という項目を設けて、代表取締役を含む取締役4名と執行役員4名の報酬について減額し、不正行為の対象者及び対象者を管理監督する立場にあった従業員については、就業規則等の社内規定に則り、厳正な処分を行うことを公表している。 (了)
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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2025年4月】
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 〇 企業会計基準公開草案第83号「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等 (内容:中間会計基準及び四半期会計基準等を統合するもの。意見募集期間は2025年6月30日まで) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第31号) (内容:「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)の改正を受けたもの) ② 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和7年度)」 (内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載している。「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」に関する調査実施を表明。金融庁) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準報告書560周知文書第1号「事後判明事実への対応に関する周知文書」 (内容:事後判明事実への対応について、日本公認会計士協会の会員の理解に資するために公表するもの) ② 「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案) (内容:倫理規則改正に伴って記載及び関係様式を変更するもの。意見募集期間は2025年5月21日まで) (了)
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従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第9回】「採用内定の法的性質と内定取消しの留意点」-適正に判断するための取組み-
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第9回】 「採用内定の法的性質と内定取消しの留意点」 -適正に判断するための取組み- 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社においては、昨今の人手不足などを受けて、従前よりも採用基準を下げて採用を行っていますが、そのためか、入社後に社員に問題を感じるケースが増えているように感じています。何か良い対策はあるでしょうか。 【Answer】 内定期間中(採用内定後、正式入社までの間)における労働契約の解約(いわゆる「内定取消し」)であれば、正式入社後に解雇する場合に比べて、有効性が緩やかに認められる傾向にあります。 よって、内定者と接する機会(研修等)を設けることで、内定期間中に内定者の問題点を把握するよう努めることが、対策の1つとして考えられます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 内定取消し (1) 採用内定の法的性質 新卒採用においては、正式入社日(4月1日)の前年10月1日に内定通知が行われることが多いが、内定通知から正式入社日までの間に内定を取り消すことができるかは、採用内定の法的性質によることになる。 “採用内定の法的性質を定めた法令”はなく、あくまで個々の契約内容の解釈によって決せられることになるが、最判昭和54年7月20日(大日本印刷事件)は以下のとおり判示して、採用内定により労働契約が成立するとした。 上記最判に照らすと、内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない場合には、内定通知により解約権留保付の労働契約が成立すると解される可能性が高いものと思われ、その場合には、会社と内定者の間に労働契約に係る規制が及ぶことになる。 (2) 内定取消しの可否 上記のとおり、採用内定により内定者と会社の間に労働契約が成立することから、内定取消しは労働契約の解約に該当し、解雇規制(労働契約法16条)が及ぶことになる。すなわち、内定取消しについて「客観的に合理的な理由」と「社会的相当性」(労働契約法16条)が認められる場合でなければ、当該内定取消しが無効となることになる。 また、内定取消しの事由として認められるのは、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実に限られる(※1)。 (※1) 前掲大日本印刷事件は内定事由について「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、・・・解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判示した。 なお、「客観的に合理的な理由」と「社会的相当性」については、採用内定時点では労働者の資質、性格、能力等の適格性を判断するための判断材料を十分に得ることができないことや、正式採用前で現実の就労がなく、会社と内定者の結びつきが比較的弱いことなどに照らし、正式採用後の解雇と比べて比較的緩やかに認められる。 2 「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」を発見する方法 (1) 経歴調査 正式採用後に従業員を解雇することの難しさは本連載において何度か述べてきたとおりであるが、これらに照らすと、会社としては、いかに正式採用前に「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、・・・解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」を発見するかが重要になる。 この点、多くの会社が求職者や内定者の経歴調査を実施しているが、以下のとおり、職業安定法や個人情報保護法による制約があることに留意すべきである。 (※2) 「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号、最終改正:令和6年厚生労働省告示第318号)第5.1(2) (2) 研修・インターン等の利用 一方、経歴上明らかとならない勤務成績や勤務態度上の問題点は、ある程度内定者と接触する機会がなければ発見することは難しい。そこで、内定者に対する研修やインターン等を通じて内定者と接する機会を設けることも検討に値する。 内定者に内定期間中における研修への参加義務が認められるか否かについては、個々の契約の内容によるものと考えられる。上記のとおり、会社と内定者との間に労働契約が成立することに照らすと、使用者が有する指揮命令権に基づいて内定者に対して研修への参加を命じることができるようにも思われる。 しかし、正式採用前で現実の就労がなく、労働と賃金の対価関係が発生していないことに照らすと、特段の合意がない限り、内定者が会社の指示に従う義務を負わないと考えるのが当事者間の合理的意思に即しているのではないかと思われる。よって、内定者に研修やインターンに参加させるのであれば、その旨の合意を内定者と締結しておくべきである。 また、インターンシップには概要以下の2つのタイプがあり、②に該当する場合には内定者から労務の提供を得ているものとして賃金の支払いが必要となる可能性があるため(※3)、注意が必要である。 (※3) 「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」(平成9.9.18基発636号、最終改正:令和4年6月13日) (了)
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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第18回】「任意後見契約における「3つの類型」」
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第18回】 「任意後見契約における「3つの類型」」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 私(税理士)は顧客から、「将来自分が認知症になった場合に、後見人になってほしい」と依頼を受けています。顧客とはかなり長い付き合いがあるため、私が後見人として活動することが、ご本人やそのご家族にとっても良いように思えます。 そこで任意後見契約を提案しようと思いますが、どのような形で契約を締結すべきでしょうか。 【A】 税理士の仕事は、特定の顧客と継続的な関係が生じやすい仕事であるため、信頼関係が構築されている場合には顧客から税理士に「後見人になってほしい」という依頼が寄せられることがあります。 任意後見契約を締結しておけば、顧客の希望通り税理士が後見人として活動することができますが、契約の内容を検討する上で、任意後見契約には3つのパターンがあることを理解する必要があります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 任意後見契約とは 「任意後見契約」とは、将来自らが認知症等により判断能力が不十分になった場合に備えて、本人と、あらかじめ後見人になってほしいと考える人(任意後見受任者)との間で締結する契約です。いわば「後見人の予約」ともいえます。 任意後見契約は財産の管理など後見人の権限等を定めて、公正証書により締結をすることになりますが、任意後見契約を締結しても直ちにその効力が発生するわけではありません。任意後見契約の締結時点では、本人に一定程度の判断能力は残っているのであり、契約締結時点では任意後見人によるサポートが必要とは限らないからです。 任意後見契約の効力は、本人の判断能力が衰えたときに、本人や任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで生じます。 2 任意後見契約における3つのパターン 任意後見契約は締結時点では即効力が生じないことから、締結の在り方として以下の3パターンがあります。 税理士が顧客との間で任意後見契約を締結する場合は、任意後見契約をしていなくても本人と継続的な交流があるのであれば、①(将来型)でもいいでしょうが、そうでなければ②(移行型)を選択するとよいでしょう。 本人の意向をしっかりヒアリングしながら進めることが求められます。 (了)