件すべての結果を表示
New
お知らせ
所得税
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
速報解説一覧
《速報解説》 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し~令和8年度税制改正大綱~
《速報解説》 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」において、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置につき、以下の見直しが行われた。 1 改正の趣旨 極めて高い水準の所得者に対する負担の適正化措置は、令和5年度税制改正において導入された。これはいわゆる「1億円の壁」対策として設けられたものである。 本来、所得税は給与等が高ければ高いほど税率が高くなる累進課税で計算されるものであるが、配当所得や株式などの一部の譲渡所得は所得税率が一律15%の分離課税方式で課税される。そして高所得者ほど配当所得や株式等の譲渡所得が所得に占める割合が高いため、「高所得者ほど税負担が下がる」という逆転現象が起きていた。 (出典) 内閣府「第3回 活力ある長寿社会に向けたライフコースに中立な税制に関する専門家会合(2025年11月13日)財務省資料」 令和5年度税制改正では、この課税の不公平を是正し、富の再分配を適正に行わせるべく、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が導入された。 これにより、確定申告不要制度の対象となる上場株式等の配当所得等を含む基準所得金額が3億3,000万円を超えると、次のような算式で納税額を計算することとなった。これは令和7年分の所得税から適用されている。 今回の税制改正では、税負担の公平性の確保という観点から、上記計算のうち、特別控除額の引き下げと適用税率の引き上げが行われた。 2 改正の内容 令和8年度税制改正により、この適正化措置は次の2点で変更となった。 (1) 特別控除額の引き下げ これまで3億3,000万円だったが、改正により1億6,500万円となった。 (2) 適用税率の引き上げ これまで税率22.5%だったが、改正により30%となった。 結果、負担の適正化措置における課税計算は次のようになる。 なお、この改正は令和9年分の所得税から適用される。 3 注意点 今回の改正で注意したいのは次の2点である。 (了)
New
お知らせ
その他お知らせ
プロフェッションジャーナル No.651が公開されました!~今週のお薦め記事~
2026年1月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.651を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
New
税務
税務・会計
解説
解説一覧
monthly TAX views -No.155-「「年収の壁」議論の総括」
monthly TAX views -No.155- 「年収の壁」議論の総括 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 昨年末、2年越しの議論であった「年収の壁」問題が決着した。国民民主党が主張した「103万円の壁」が178万円になったということで、国民の高い賛意を受け、国民民主党の支持率も上がり、政治ショーとしては大成功だった。 一方、税制という観点から見ると、この議論は基礎控除の物価調整の必要性など様々な課題を浮き彫りにさせたという点では評価できるが、見直しの結果はとても褒められたものではない。これで新たな労働供給が増えるのか、社会保険の壁はどうなるのか、低所得者対策として問題はないのかなど疑問が湧いてくる。この議論の意義を改めて考えてみたい。 * * * 税制はなぜ存在するのか。最大の機能は「公共サービス提供のための財源確保」である。その上で、税制を立案する際の最大の哲学が「公平性」である。現実の税制はこの2つをもとに、所得再分配や経済安定を目的として構築されている。 これを「年収の壁」問題に当てはめるとどうなるのか。 まずは「公平性」の問題だ。どのような趣旨・目的で、どの層の負担を動かしていくのかという点が問題になる。「年収の壁」見直し1年目は、低所得層に手厚い減税となり、2年目の今年は中所得者により手厚い減税となった。 物価対策という観点からは、低所得者層の方がより深刻なので、こちらを手厚くすべきだが、結果は2年間の合算で、概ね年収200万円で2.6万円、年収600万円で5.6万円と中間層により手厚い減税となった。「公平性」の観点からは問題があると言わざるを得ない。 そもそも「103万円の壁」が就労の妨げになっているという国民民主党の主張は正しくない。 これを超えれば所得税の最低税率である5%がかかる。10万円追加で働けば税負担が5,000円かかるが、手取りは9.5万円増える。住民税の10%(1万円)を加味しても手取りは8.5万円増え、いわゆる逆転現象は生じない。つまり「壁」という表現は間違いであり、あえて言うなら「坂」であろう。 「年収の壁」見直しにより手取りを増やしたことが、わが国の労働供給にどの程度効果があるのか、アルバイト大学生や夫の扶養に入るパート主婦に限定した話ではないか、就職氷河期世代の非正規労働者やネットの発達で増加しているギグワーカーにはどの程度の影響があるのかなど、2年間の議論を通じて十分なエビデンスに基づく議論が行われてきたとはいいがたい。 とりわけ減収額を抑えるため給与所得控除の引上げが目立ったが、個人事業者との間のアンバランスの問題をどう考えるのか全く議論されなかったのは問題だ。これまでサラリーマンの経費としての給与所得控除の水準は高すぎるといわれ、連年のように適正化が行われてきただけに、双方とのバランス論が「公平性」の問題として残された。 「年収の壁」の議論が、税の公平性という論理を超え、連立の組み換えなども念頭に置いた政治ショーであったことを裏付けているといえる。 私見を述べれば、年収が課税最低限を超え、晴れて納税者(タックスペーヤー)となったことは、社会の一員となったことのあかしだ。「所得税がかかり始めるラインが上がり、より多くの人が安心して働けるようになり、労働参加を促す」というが、所得税を負担しない人を増やすことが良い社会を作るとは思えない。 * * * 次に財源確保の問題だ。 当初の国民民主党の案は、国・地方税双方の基礎控除を引き上げるもので、7~8兆円の減税と言われた。財政難に苦しむ政府(とりわけ地方)としては、これだけの恒久財源を失うことはできない。そこで1年目の改正では減収が1.2兆円(議員立法による加算分を除く)、2年目では0.7兆円、合計で1.9兆円と試算される減税内容となった。 この減収分は、暫定措置ということで代替財源が確保されていない。インフレで生じるブラケットクリープ効果などによる自然増収の範囲内で賄えるということなのだろうが、暫定措置でも代替財源を確保するというのがこれまでの党税調の対応であったはずだ。 手取りの逆転現象が生じるリアルな壁は、パートの「130万円の壁」で、今後はこちらの議論に移るのだろう。これは第3号被保険者の問題であるが、生涯ベースで考えると、厚生年金への加入は決して損ではない。平均余命を超えると受益超過になるので、「壁」といって騒ぎ立てることには問題がある。しかし、近視眼的なバイアスから現実に「壁」(就労調整)が生じており、廃止・手直しに向けた検討を行う必要がある。 そして、これらを抜本的に改革するのが「給付付き税額控除」であることも忘れてはならない。 (了)
New
税務
税務・会計
解説
解説一覧
上西左大信・佐藤善恵の 「令和8年度税制改正大綱」のここに注目! 【第1回】「令和8年度税制改正の基本的考え方①」
上西左大信・佐藤善恵の 「令和8年度税制改正大綱」のここに注目! 【第1回】令和8年度税制改正の基本的考え方① 税理士法人ゆづりは 税理士 上西左大信 税理士 佐藤 善恵 令和7年12月19日、自由民主党・日本維新の会による「令和8年度税制改正大綱」が公表された。 今回の大綱は、高市政権が掲げる「強い経済」「世界で輝く日本」の実現に向けた税制面からのアプローチが色濃く反映されている。基礎控除等の物価連動、賃上げ促進税制の見直し、研究開発税制の拡充など、多岐にわたる改正が盛り込まれた。 【第1回】では、大綱の基本的考え方を中心に、前文から読み取れる政府の方針と注目すべきポイントについて解説する。 ※本対談は2025年12月26日に収録しました。 新たな連立の枠組みと税制調査会の体制 上西:今回の大綱は、自由民主党・日本維新の会という新たな連立の枠組みのもとで作成されました。19日に、大綱案と大綱が続いて公表されました。大綱案は自由民主党の名前だけですが、大綱は両党の連名となっています。 佐藤:日本維新の会は今回新たに税制調査会を立ち上げたそうですが、これ、大綱に「新たに税制調査会を立ち上げた」ってわざわざ書いてあるのが面白いですよね。 上西:そうですね。10月に発足したとのことです。 佐藤:自民党の税調も今回体制が変わって、従来インナーとして中心的役割を果たしてきた宮沢洋一先生から小野寺五典先生に引き継がれましたね。 上西:小野寺先生は松下政経塾の後輩なんですよ。長年、宮沢先生を中心に政策税制がまとめられてきましたが、新たな体制でどう変わっていくか注目ですね。 「強い経済」「世界で輝く日本」というビジョン 佐藤:今回の大綱を読んで、「強い経済」「世界で輝く日本」というフレーズが何度も出てくるのが印象的でした。 上西:これは高市総理が総裁選の際から一貫して掲げてこられたメッセージです。総理のご著書にも繰り返し登場する表現です。今回の大綱は、このビジョンを税制面から具体化したものと言えるでしょう。 佐藤:「令和8年度税制改正の基本的考え方」では「投資により生産性が向上し、その果実が分配されることで国民が豊かになり、それが更に新たな投資につながる好循環を実現していく」と書かれていますね。いわゆる良いスパイラルを目指すということですが、税制がその好循環をどう後押しするかという視点で今回の改正を見ていく必要がありますね。 上西:その通りです。そして、ここで非常に重要な認識が示されているのが雇用と賃金に関する記述なんです。大綱では「有効求人倍率が安定的な水準を維持し、足元では人手不足が大きな課題となっている」と指摘され、さらに「賃金面でも過去に例を見ない水準の賃上げが広がりつつある中、中小企業では人材確保のための防衛的賃上げまで広がりつつある」と記されています。 佐藤:防衛的賃上げとは、企業が人材流出を防ぐことや、新たな従業員を確保するためにやむを得ず賃金を引き上げることですが、顧客からもしばしば相談を受けます。 新入社員の給料を上げたら、既存社員も上げないとモチベーションが下がってしまうという話はよく聞きます。 上西:給与水準や、給与体系の見直しが求められています。さて、この「防衛的賃上げ」という認識が、後ほど触れる賃上げ促進税制の大幅な見直しにつながっているわけです。 物価高への対応と公平性の確保 佐藤:大綱では物価高への対応も大きなテーマになっていますね。「近年の物価上昇は国民生活に影響を及ぼしており」という記述がありますが、確かに実感としても物価上昇は深刻です。 上西:はい。ここで重要なのは、単なる再分配機能の強化だけでなく、「格差の固定化を防止し、全ての人に挑戦の機会のある社会を実現する観点から、公平性の確保も求められている」と明記されている点です。 また、米国による関税措置についても言及があり、「わが国経済のみならず、世界経済全体に不透明感を与えている」との認識が示されています。 佐藤:トランプ政権の関税政策が今後日本経済にどう影響するか、実際に注視していく必要がありますね。 上西:そうです。国際情勢の不確実性が高まる中で、わが国としてどう対応していくか、税制面からも手を打っていく必要があるという問題意識が背景にあります。 佐藤:ただ、公平性の確保と言っても、実際の改正内容を見ると、本当に公平性が確保されているのかは議論の余地がありそうです。 上西:「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し」では、基礎控除額を3億3,000万円から1億6,500万円に引き下げて、税率を22.5%から30%に引き上げるとなっています。 物価連動による基礎控除等の引上げ──新たな仕組みの創設 上西:今回の改正で最も画期的な制度変更の一つが、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みの創設です。 佐藤:これは今までなかった制度です。ずっと据え置かれてきて、物価が上がると実質的な負担が増えるという問題がありましたから。 上西:「ブラケットクリープ」といい、賃金上昇以上に税負担がじわじわ増える(creep:忍び寄る)現象をいいます。それを解消するために、今後は定期的に見直しを行うことになったのです。 佐藤:具体的にはどういう仕組みなんですか。 上西:基礎控除の本則部分について、見直し前の控除額に税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗じて調整します。給与所得控除の最低保障額についても同様の措置を講じます。 佐藤:2年ごとの見直しということですが、これは源泉徴収義務者等の事務負担に配慮したものですね。 上西:見直しの結果、控除額に端数が生じる場合には万円単位で調整しますし、見直し初年は月次の源泉徴収等では対応せず、年末調整からの対応とされています。 令和8年度税制改正においては、令和5年10月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえ、基礎控除の本則については現行58万円を62万円に、給与所得控除の最低保障額については現行65万円を69万円にそれぞれ引き上げられました。 佐藤:物価に応じて自動的に調整される仕組みができたことで、今後は物価上昇によって実質的な税負担が増えるという問題が軽減されるわけです。所得税の分野における、いわゆる「壁問題」はこれで一段落したと思われます。 個人住民税のあり方と社会保険料の負担については、引き続きの議論は残ります。 上西:ただし、この引上げは物価調整を行うものであることを踏まえ、特段の財源確保措置を要しないこととされています。税収も物価上昇に伴って増加していることが前提となっているわけです。 佐藤:なるほど。物価が上がれば税収も上がるから、その範囲で控除額を上げても財政には影響しないという理屈ですね。 (続く)
New
税務
税務・会計
解説
解説一覧
上西左大信・佐藤善恵の 「令和8年度税制改正大綱」のここに注目! 【第2回】「令和8年度税制改正の基本的考え方②」
上西左大信・佐藤善恵の 「令和8年度税制改正大綱」のここに注目! 【第2回】令和8年度税制改正の基本的考え方② 税理士法人ゆづりは 代表社員税理士 上西左大信 社員税理士 佐藤 善恵 「年収の壁」、178万円へ──三党・四党合意の背景 佐藤:「年収の壁」の問題については、今回大きな動きがありました。国民民主党の玉木代表がかなり強く主張されていた内容だと思いますが。 上西:これは非常に注目すべき改正です。12月18日に自由民主党と国民民主党の間で二党合意が成立し、「年収の壁」を「178万円」まで引き上げることが合意されました。その後、同じく12月18日には自由民主党・日本維新の会・国民民主党・公明党の四党による合意が成立しました。 佐藤:公明党も入っているのが興味深いです。連立を離れたにもかかわらず、税制改正では協力している。 上西:そうなんです。これは非常に戦略的な動きだと思います。自由民主党としては、連立相手の日本維新の会、178万円で協力した国民民主党、そして与党から離れた公明党の協力を得て、幅広い政治的支持を確保したということでしょう。国会運営を考えると、この四党で合意できれば税制については相当安定します。 佐藤:具体的にはどのような仕組みで178万円を実現しているんですか。かなり複雑な構造になっているようですが。 上西:ええ、少し複雑なんですが、まず本則部分として、基礎控除を58万円から62万円へ4万円引き上げ、給与所得控除の最低保障額を65万円から69万円へ4万円引き上げました。これで合計123万円から131万円になります。 佐藤:引き上げの4万円は、「税制改正時の直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率」つまり、令和6年(+2.6%)と令和7年(+3.3%)の実績を乗じて万円未満を切り上げた金額ということですね。 上西:ただ、それだけでは178万円に届かないです。そこで、基礎控除の37万円の加算措置を5万円引き上げて42万円としたので、基礎控除は104万円となります。また、給与所得控除についても5万円加算して最低保障額が74万円となります。その合計で178万円を実現しているわけです。 佐藤:本則と特例を組み合わせているんですね。その特例措置というのは時限的なものですか。 上西:はい。この特例については、物価高で厳しい状況にある中低所得者に配慮したものであることや、給付付き税額控除の議論の中で中低所得者層の給付・負担のあり方を検討していくことを踏まえ、令和8年・9年の時限措置として講じられています。 佐藤:2年間だけということは、その後はどうなるんですか。 上西:見直しについては、今後、生活保護基準額が178万円に達するまでは、課税最低限178万円を維持しつつ、物価連動による基礎控除の本則部分と給与所得控除の最低保障額の引上げに応じて、引き上げた額を特例措置からそれぞれ振り替えていくこととされています。 佐藤:つまり、物価が上がって本則部分が引き上げられたら、その分だけ特例部分を減らしていって、合計で178万円をキープするということですね。 上西:その通りです。国民民主党の粘り勝ちといえるでしょう。 佐藤:大綱には「全ての納税義務者の所得税の負担開始水準は178万円以上となる」って書いてあるんですけど、これって給与所得者だけの話ですよね。事業所得者は基礎控除の分の改正だけです。 上西:これは四党合意が給与収入ベースで議論されたことの影響です。政治的には「働き控え」の問題が重視されましたから、給与所得者に焦点が当たった表現と思われます。 給付付き税額控除は実現するのか 佐藤:合意文書の中で「給付付き税額控除」という言葉が出てきますが、これは本当に実現するんでしょうか。私の周りでも「どうせ実現しないでしょう」という声が多いのですが。 上西:この点は慎重に読む必要があります。二党合意・四党合意では「所得税の人的控除のあり方について、給付付き税額控除など新たな制度の導入を念頭に、3年以内に抜本的な見直しを行う」とされていますが、大綱本文をよく見ると、「給付付き税額控除の議論の中で中低所得者層の給付・負担のあり方を検討していく」という表現になっています。 佐藤:「給付付き税額控除をやる」とは書いていないわけですね。「議論の中で検討する」ですから、かなりトーンダウンしている。 上西:そうなんです。「議論の中で検討する」。しかも「検討するのは中低所得者層の給付・負担のあり方」。給付付き税額控除そのものを検討するとはダイレクトに書いていないんです。 佐藤:給付付き税額控除の今後の見込みはどうなるんですか。 上西:減税と現金給付を組み合わせた給付付き税額控除は、中低所得者を所得に応じて支援する仕組みです。社会保障制度改革を議論するために創設される「国民会議」で協議される予定です。 賃上げ促進税制の見直し 佐藤:先ほど出てきた「防衛的賃上げ」という認識が、賃上げ促進税制の見直しにつながっているということですが、具体的にはどう変わるんですか。 上西:大綱では「足元では賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸び率を示しており、本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にある」と指摘されています。つまり、この数年間で状況が大きく変わってしまったわけです。 佐藤:それで制度を見直すと。 上西:そうです。具体的には、大企業向けの措置については、適用期限を待たずに廃止することになりました。令和9年3月末まで残っていたんですが、それを待たずに終了です。 佐藤:かなり思い切った判断ですね。 上西:中堅企業向けの措置については、令和8年度はより高い賃上げを促す方向で要件を強化しつつ継続し、適用期限(令和9年3月31日)をもって廃止します。 一方、中小企業向けの措置については、人材確保のための防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとし、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討するとされています。 佐藤:人手不足が深刻なのは圧倒的に中小企業ですから、そこへの配慮は必要ですね。大企業は人材確保できているけれど、中小企業は必死で人を集めている。 上西:そうなんですよ。大企業はもう十分に賃上げができている、あるいは人材を確保できている。でも中小企業は違う。必死で人材確保のために賃上げをしている。その実態を踏まえた改正だと評価できます。 なお、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件については廃止されることになりました。 佐藤:上乗せ要件は、教育訓練費の額が前年と比べて5%以上増加していることと教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であること、の2つでしたね。 要件を満たせば、10%の税額控除率が上乗せされるというものですが、それが廃止されるのはなぜでしょうか。 上西:会計検査院から「教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合がある」という指摘を受けたんです。つまり、ちょっと教育訓練費を増やすだけで大きな税額控除が受けられるという事例があった。 実務で見ていてもそうなんですよ。従業員1人当たり0.05%以上というと、平均給与が500万円だとして1人当たり2,500円。100人の企業でも25万円の教育訓練費ということになります。前年比5%増という要件も満たす必要がありますが、少額の支出で結構大きな控除が受けられたりする。 佐藤:それは確かに、費用対効果が良すぎますね。 研究開発税制の拡充──「戦略技術領域型」の創設 佐藤:研究開発税制についても大きな改正がありますね。「強い経済」を実現するための柱の一つだと思いますが。 上西:特に注目すべきは、「戦略技術領域型」という新たな類型の創設です。これは完全に国策、というか西側諸国の連合体の国策と考えます。 佐藤:具体的にはどのような分野が対象になるのですか。 上西:産業技術力強化法に規定される「重点産業技術」が対象となります。具体的には、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙といった分野です。 佐藤:まさに最先端の技術分野ばかりですね。控除率はどのくらいなんですか。 上西:戦略技術領域型については、控除率が原則40%と非常に高く設定されており、さらに認定研究開発機関との共同・委託研究については50%という破格の控除率が適用されます。控除上限は法人税額の10%で、3年間の繰越控除も認められます。 佐藤:50%というのはすごいですね。研究開発費の半分が税額控除で戻ってくる。 上西:国家として重点的に投資すべき分野については、税制面からも強力に後押しするという明確な意思表示です。 一方で、海外への委託研究費については、国内の研究人材や研究開発拠点の強化の観点から、諸外国と同様に一定の制限を設けることになりました。令和8年度は70%、令和9年度は60%、令和10年度は50%という段階的な制限です。 佐藤:「海外でやるな、わが国でやれ」と捉えることができますが、国内の研究開発拠点を維持・強化するという意味合いの方が大きいでしょうね。技術が流出するのを防ぐという側面もあります。 「経済あっての財政」と複数年財政均衡 佐藤:大綱の前文には、「経済あっての財政」という方針が明記されていますね。これは従来の「財政健全化優先」という考え方とはかなり違う印象を受けます。 上西:その点はよく見ておられますね。「経済あっての財政」の方針に基づき、大胆な「危機管理投資」「成長投資」による力強い経済成長の実現に向けて取り組む、と書かれています。そして「経済の足を引っ張る財政であってはならない」とも述べられています。 佐藤:財政健全化と経済成長のバランスをどう取るか、という問題ですが、今回はかなり経済成長に軸足を置いている印象です。 上西:そうですね。特に興味深いのは、「恒久政策には安定財源の思想を堅持しつつ、予算の単年度主義に過度にとらわれる硬直的な税制ではなく、複数年の財政均衡について一歩を踏み出す時に来ている」という記述です。 佐藤:単年度で見るのではなく、数年のスパンで財政を考えるということですね。従来の財政規律の考え方からすると、かなり踏み込んだ表現だと思います。 上西:高市政権の経済重視の姿勢が表れていると言えるでしょう。 租税特別措置の適用除外制度の強化 佐藤:大綱の2ページに「賃上げや設備投資に積極的ではない企業については租税特別措置の適用除外とする制度の強化・拡充を断行」という記述がありますが、これは具体的にはどういうことですか。 上西:これは非常に重要なポイントです。要するに、賃上げや設備投資を頑張っている企業には税制優遇を手厚くする一方、頑張っていない企業には租税特別措置を使わせないということです。「積極的に挑戦する企業を集中的に支援する制度に変えていく」とはっきり書いてあります。 佐藤:メリハリをつけるということですね。 上西:ただし、今回の大綱では具体的な措置は盛り込まれていません。「今後更なる適用拡大についても検討を行う」とされているので、来年度以降の課題ということになります。 佐藤:一方で、大綱には「累次の法人税率引下げによって、企業の利益が設備投資・研究開発そして賃上げの原資として適切に投資されてきたのか、不断の検証と改革も求められる」という記述もありますね。 上西:これは結構厳しい指摘ですよ。法人税率を下げてきたのは、企業が投資や賃上げに回すという前提だったわけです。でも本当にそうなっているのか、ちゃんと検証すべきと言っている。 佐藤:内部留保が増えているだけじゃないか、という批判もありますからね。 上西:そういうことです。今後、この検証結果次第では、租税特別措置のあり方がさらに変わる可能性もあります。 国境を越えた電子商取引と公平性 佐藤:大綱の2ページにかけて、「国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化」という記述があります。これは具体的にはどういう問題なんですか。 上西:国内外での公平性の確保という観点からの改正です。海外の事業者から日本の消費者が物品を購入する場合、現行では少額なものについては消費税が課税されない仕組みになっています。 佐藤:今まではデジタルサービスのプラットフォーマーだけが対象でしたが、さらに、「物品」に関するプラットフォーマーも対象にする。それが国内事業者との競争上不公平だということですね。 上西:その通りです。今回の改正では、プラットフォーム事業者に納税義務を転換する制度を導入します。大きなプラットフォーマー、具体的には取引額が50億円超のところに課税義務を負わせる。 佐藤:具体的な企業名を出すのはまずいですけど、誰でも思いつくような大手プラットフォーマーは該当するでしょう。 それから、国内に所在する不動産について、非居住者が仲介手数料を支払う場合、現行では消費税が課税されないんですが、これも課税対象にします。国内の不動産なのに、買う人が海外にいるだけで消費税がかからないのはおかしいと考えます。 上西:確かに、不動産は国内にあるわけですから、居住者・非居住者で差をつける理由はないですね。 外国人旅行者向け免税制度とふるさと納税 上西:公平性の確保という観点では、外国人旅行者向け免税制度についても今後見直しの検討が行われることになっています。これは大綱の2ページに書かれています。 佐藤:具体的にはどういう問題があるんですか。 上西:外国人旅行者向けの免税販売制度が、本来の趣旨を逸脱して使われているケースがあるという指摘があります。詳細は今後の検討ということですが、適正化に向けた動きは注目しておく必要があります。 また、ふるさと納税についても「健全な運用に向けた見直しを行い、制度導入時の崇高な理念の実現に向けた改正を行う」とされています。 佐藤:ふるさと納税は返礼品競争が過熱していますからね。 上西:大綱では「税制上の控除を利用して集められたふるさと納税の寄附は、まさに公金である」とはっきり書いています。「地方公共団体において、住民サービスの充実や地域振興のために活用されるべきことは言うまでもない」と。 佐藤:世田谷区なんかは、ふるさと納税で住民税がどんどん流出して、学校の維持すら一部できなくなったという話もありますね。 上西:そうなんです。豊かな自治体から貧しい自治体への再分配という当初の理念からかけ離れた状況になっている。 今回の改正では、地方公共団体が実施する事業に活用できる寄附金の割合を60%以上にするとともに、その使途の公表を求めることになりました。また、高所得者について、上限なく増える特例控除額について、給与収入1億円相当(特例控除上限193万円)までという定額上限を設けます。 佐藤:1億円ですか。これを仮に5,000万円まで下ろしても、3,000万円まで下ろしても、90数%の人には関係ないんですよね。 上西:上限を設けたことは一定の評価はあると思いますが、私個人としては、ふるさと納税制度そのものは上限や返礼品のあり方を見直しながら上手に育てていけばいい制度だと思うんですよ。 佐藤:というと? 上西:返礼品は、地方公共団体が条例に基づいて出しているものであり、ふるさと納税の仕組みとは本来関係ない。被災地に対して返礼品なしで寄附する人たちもいっぱいいたわけですから。 高市総理の所信表明演説──防衛力強化への強い意志 佐藤:今回の大綱では防衛力強化に係る財源確保も大きなテーマになっていますが、これは高市総理の所信表明演説とも関連していますね。 上西:そうです。令和7年10月24日の所信表明演説で、高市総理は非常に踏み込んだ発言をされています。 佐藤:国名を出して言及しているんですね。 上西:そうなんです。はっきりと固有名詞を出している。そして「2022年12月の国家安全保障戦略を始めとする三文書の策定以降、新しい戦い方の顕在化など、様々な安全保障環境の変化も見られます。我が国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要です」と述べられています。 佐藤:「対GDP比2%水準」についても言及されていますね。 上西:「国家安全保障戦略に定める対GDP比2%水準について、補正予算と合わせて、今年度中に前倒して措置を講じます」と明言されています。さらに「来年中に三文書を改定することを目指し、検討を開始します」とも。 佐藤:かなり強い意志が感じられます。 上西:そうですね。この所信表明演説を読むと、高市総理が防衛力強化に本気で取り組むつもりだということがよく分かります。そして、その財源確保のために税制面からも対応するというのが今回の大綱の方針です。 (続く)
New
所得税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
令和7年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「給与所得控除の見直し等が確定申告実務に及ぼす影響」
令和7年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「給与所得控除の見直し等が確定申告実務に及ぼす影響」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回(第1回)に引き続き、令和7年度の税制改正事項が確定申告実務に及ぼす影響について解説する。本稿(第2回)は、「給与所得控除の見直し」と「同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の見直し」の影響について取り上げる。 【1】 概要 給与所得控除の見直し及び同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の見直し(表①)により、収入金額が令和6年分と同額であっても、令和7年分の所得税計算において新たに配偶者控除、扶養控除、障害者控除の対象となる配偶者や親族を有することになる場合がある。また、所得者本人について、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除を適用できるようになる場合もある。 〇改正の概要(表➀) 【2】 新たに配偶者控除等の対象となる配偶者や親族を有することになるケース 給与所得控除の最低保障額の10万円引上げ、及び同一生計配偶者や扶養親族の所得要件の10万円引上げにより、同一生計配偶者及び扶養親族の令和7年分の所得税における所得要件(給与所得のみの場合)は、収入金額ベースでみると令和6年分よりも20万円増えている。 〇同一生計配偶者・扶養親族の所得要件(表②) (1) 同一生計配偶者の範囲 配偶者控除の対象となる配偶者(控除対象配偶者)は、同一生計配偶者のうち合計所得金額が1,000万円以下の居住者の配偶者である(所法2①三十三の二)。 配偶者の所得が給与所得のみの場合、所得者本人(居住者)の合計所得金額が1,000万円以下であれば、給与収入103万円超123万円以下の配偶者は、令和6年分の所得税では配偶者控除の対象外であったが(※)、令和7年分の所得税では配偶者控除の対象となる。 (※) 令和6年分の所得税では配偶者特別控除の対象 (2) 扶養親族の範囲 扶養控除の対象となる扶養親族(控除対象扶養親族)は、扶養親族のうち年齢16歳以上の者(居住者の場合)である(所法2①三十四の二イ)。 居住者である親族の所得が給与所得のみの場合、年齢16歳以上であれば、給与収入103万円超123万円以下の親族は、令和6年分の所得税では扶養控除の対象外であったが、令和7年分の所得税では扶養控除の対象となる。 (3) 障害者控除の適用範囲 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者(特別障害者含む)である場合には、障害者控除の適用を受けることができる(所法79②③)。 (1)及び(2)で示したとおり、同一生計配偶者及び扶養親族の範囲が広がったことに伴い、令和7年分の所得税から新たに障害者控除の対象となる配偶者や親族を有することとなるケースがある。 【3】 新たに寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除を適用できるようになるケース 給与所得控除の最低保障額の10万円引上げ、及び寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除に関連する所得要件の10万円引上げにより、所得者本人が寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除を受けることができる令和7年分の所得要件(給与所得のみの場合)は、収入金額ベースでみると令和6年分よりも20万円増えている。 〇寡婦控除・ひとり親控除、勤労学生控除の所得要件(表③) 【4】 具体例 【2】及び【3】について、具体例を示す。 〇改正の及ぼす影響(例)(表④) * * * 次回(第3回)は、令和7年分の税制改正事項を中心に、確定申告実務に関する留意点をQ&A方式で解説する予定である。 (了)
New
所得税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
金融・投資商品の税務Q&A 【Q101】「外国親会社に株式を売り渡した場合の課税関係」
金融・投資商品の税務Q&A 【Q101】 「外国親会社に株式を売り渡した場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 非上場株式を外国法人である発行法人に譲渡した場合の課税上の取扱い (1) みなし配当 株式をその発行法人に譲渡した場合には、譲渡損益のうち一部の金額が配当とみなされることがあります。具体的には、株式を譲渡した株主が発行法人から交付を受ける金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額のうち、発行法人の対応資本金等の額を超える部分の金額が、配当とみなされることになります(Q38参照)。この取扱いは、発行法人が外国法人である場合も同様であり、外国法人である発行法人から交付を受ける金銭等のうち、対応資本金等の額を超える部分の金額があるか否かを確認する必要があります。 非上場株式を発行法人に譲渡したことに伴い生じるみなし配当の金額は、原則として、一般株式等に係る配当所得として確定申告する必要があります。上場株式に係る配当と異なり申告分離課税の適用はなく、総合課税(最高税率約56%)の対象となります。 (2) 譲渡損益 発行法人から交付を受ける金銭等の額のうちみなし配当を除いた部分の金額は、株式の譲渡収入の金額として取り扱われます。非上場株式の場合、取得費を控除した金額を一般株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得として確定申告する必要があり、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象となります。 なお、譲渡損が生じる場合、他の一般株式等の譲渡益と通算することができますが、上記(1)で記載したみなし配当など、配当所得の金額と相殺することはできません。 (3) 外国税額控除 交付を受ける金銭等について、外国の租税が課された場合には、確定申告の際に、外国税額控除の適用により二重課税が調整される可能性があります(Q25参照)。 2 本件へのあてはめ インセンティブ報酬として交付された外国親会社の株式は非上場株式であり、これを当該外国親会社に売り渡すとのことですので、当該売り渡しに伴い交付を受ける金銭等に含まれる当該外国親会社の対応資本金等の額を把握して、みなし配当があるか否かを確認しなければなりません。そして、みなし配当が生じている場合には、原則として、配当所得として確定申告する必要があります。 また、交付を受ける金銭等からみなし配当を控除した金額を譲渡収入として、譲渡損益を認識する必要があります。インセンティブ報酬として交付された株式とのことですので、報酬として株式が交付された時の価額(時価)を取得費として取り扱い、譲渡損益を計算するものと考えられます。譲渡損が生じたとしてもみなし配当の金額と相殺することはできませんので注意が必要です。 なお、交付を受ける金銭等について源泉徴収などにより外国の租税が課された場合には、外国税額控除の適用対象となる可能性がありますので、勤務先企業等から課税に関する明細書等を入手することをお勧めします。 (了)
New
法人税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例82】「食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理」
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例82】 「食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中国地方において食品等の製造加工等を営む株式会社(資本金9,000万円で3月決算)において経理部長を務めております。 世界経済を混乱に陥れたコロナ禍からようやく抜け出して、今年こそはと意気込んで2025年の年明けを迎えたわが食品業界でしたが、代わりに2022年以来のロシアによるウクライナ侵攻が思いのほか長引いて出口が見えなくなっている上に、アメリカのトランプ大統領が自国中心主義を貫き、高額な関税の賦課による恫喝的な二国間交渉を強引に進めている影響で、円安とインフレが進み、輸入物価の高騰がわが国経済の全般的な体力を日に日に奪っている今日この頃です。 また、最近のわが国の主食であるコメの価格高騰は、わが社における原材料コスト上昇の多くの割合を占めていますが、これははっきり言って、政府や農林水産省の政策の失敗のツケを国民が負わされたとでもいうべき人災であり、非常に腹立たしい思いでいっぱいです。 しかし、いくら自社の経営状況が厳しいと言っても、誰かが助けてくれるわけではなく、当然のことながら自助努力によるしか道は開けないことから、社員一丸になって販路開拓やコスト削減につながるようなあらゆる手段を講じているところです。そのような中、先週から税務署の税務調査を受けているところですが、その際に一点、気になる指摘をされ戸惑っております。 それは、わが社が大量に保有している食品運搬用のコンテナが、果たして減価償却資産に該当するのか、それとも消耗品に該当するのかという点です。わが社としては、コンテナは1個あたりの単価も安いことから消耗品であると主張していますが、税務署の調査官は、わが社におけるコンテナの実際の使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用することから、減価償却資産と解するのが正当であると言って譲りません。税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 企業の有する資産が消耗品等の棚卸資産に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのかについては、一般に、通常1年以内に販売又は消費の対象となり、それが所有者の手元を離れて外部に売却され、又は内部的にそれが原材料や消耗品等として使用されるものといえるのか、それとも、企業の内部にとどまって総体的に繰り返し使用される資産といえるかという点に着目して判別することになるものと考えられます。 本件の場合、食品運搬用のコンテナは、その使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用するものであることから、減価償却資産に該当するものと解するのが妥当と考えられるため、その減価償却費の計上に関しては、損金経理が要件となります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却資産と減価償却の意義 これまで本連載で何度か触れたことではあるが、改めて減価償却資産及び減価償却の意義について確認しておきたい。減価償却資産とは、固定資産のうち、使用又は時間の経過によって価値が減少するものをいう(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)389頁参照。 また、当該資産は、企業において長期間にわたり収益を生み出す源泉であるから、その取得に要した金額である取得価額は、費用収益対応の原則から、取得の年度に一括して費用に計上するのではなく、使用又は時間の経過に応じてそれが減価するのに応じて徐々に費用化すべきこととなる。 そのため、法人税法においては、減価償却資産の償却費の計算と償却方法について、企業会計における減価償却の考え方を基礎としつつ、納税者が選定した償却方法で計算した金額を損金に算入されるべき限度額(償却限度額)とし、実際に減価償却費として損金に算入されるのは、法人が償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額としている(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書390頁参照。 (2) 減価償却と損金経理 上記(1)の通り、法人税法上、減価償却資産の償却費の損金算入をするには、法人が償却費につき損金経理をすることが前提となっている(法法31①)。その理由は一般に以下の通り解されている。 すなわち、法人の行う取引は外部取引と内部取引とに区別することができるところ、内部取引は、法人の中だけで生じ、客観的事実として存するものではないという特徴がある。減価償却は内部取引の1つとされているところ、内部取引は、法人の意思決定があって初めて取引として存在が認められるものであるから、株主総会等の承認を受けた決算(確定した決算)に組み込ませることにより、内部取引の発生すなわち法人の意思決定があったことを客観化するため、損金経理を要件としたものである。 また、減価償却費などの内部取引の費用及び損失の経理については、外部取引に係る実体的な費用及び損失の経理に比べて当該法人の裁量的な判断の余地が大きく、ともすると当該法人の判断が課税の公平を損なう恣意的な利益操作につながりやすく、極端な場合には不正計算に手を貸すような簿外資産の減価償却にも及びかねないため、当該法人の裁量的な判断を損金経理によって統制し(自己拘束的規制)、企業経理の適正化を推進するため、法人が確定した決算において進んで償却費として計上したものについてのみ、償却費の損金算入を認めるべきであるから、損金経理を要件としている。 つまり、償却費として損金経理をするかどうかは、法人の任意であるが、法人がその損金経理をしない限り、償却費を損金算入することができないこととし、例えば、簿外資産については、償却費としての損金経理がないから、法人がその資産を帳簿に計上し償却をしない限り、税務計算では減価償却をすることができないようにしたのである。 このような減価償却に係る損金経理の要件の趣旨を踏まえると、その要件は厳格に解されるべきであり、たとえそれが少額の減価償却資産の取得価額に相当する金額だとしても、損金経理をしなければ、特段の事情がない限り、当該金額につき損金算入をすることはできないと解するのが相当ということになる。 (3) 食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理要件が争われた事例 それでは本件と同様に、食品運搬用コンテナは減価償却資産なのか棚卸資産(消耗品)なのかについてと、減価償却資産である場合の損金経理要件とが争われた事例(大阪地裁令和5年1月11日判決・税資273号(順号13799)、TAINSコード:Z273-13799))について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 食品等の製造加工等を営む株式会社である原告は、食品運搬用コンテナ等の備品の購入金額を製造消耗品費等として損金に計上するなどして申告していた。 それに対して彦根税務署長は、上記備品が納入された事実がないにもかかわらず、納入されたように仮装した納入伝票に基づいて上記製造消耗品費等が計上されているため、その計上された金額又は同金額から実際に納入された購入金額を差し引いた金額については、法人税に関する損金の額に算入することができず、また、上記の計上された金額については消費税に関する課税仕入れに係る支払対価の額と認めることができないなどとして、令和元年6月26日付けで、各更正処分及び各重加算税賦課決定処分を行った。 ② 事案の争点 本件コンテナ等は、消耗品(棚卸資産)に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのか。また、本件コンテナ等が減価償却資産に該当する場合、法人税法施行令第133条の要件のうち損金経理の要件(「その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたとき」)を満たすとして、同条を適用して、本件コンテナ等の取得価額を、本件コンテナ等を取得した日すなわち事業の用に供した日の属する事業年度の損金の額に算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例で注目されるのは、「1個当たりの単価は500円程度」で「原告において、標準在庫20万枚、年間の平均購入枚数約4万枚とされている」コンテナのような「その単価が比較的安価なもので、原告において大量に購入、保有するものといえるため、単価及び保有量の点においては、消耗品にその実態が類似している面があるといえる」ものが、法人税法上、減価償却資産として取り扱われるという「意外性」である。裁判所がこのように単価の安いコンテナを消耗品ではなく減価償却資産として取り扱う理由は以下のとおりである。 このようなコンテナは、耐用年数省令の分類では、「「種類」が「器具及び備品」で、「構造又は用途」が「6 容器及び金庫」で、「細目」が「ドラムかん、コンテナーその他の容器」のうち「その他のもの」のうち「その他のもの」(「耐用年数」が2年とされているもの)」に該当することとなり、減価償却資産として減価償却することとなるのである。 そうなると、コンテナに係る減価償却費の計上のためには、損金経理が要件となるのであるが、本裁判例の原告においては、実際に納入された本件コンテナ等について、取引先に留保させていた「預け金」の残高で代金を賄っていたのであり、特に経理処理を行っていないことから、損金経理要件を満たしているとはいえないわけである。要するに、「簿外の」減価償却資産については、その償却費を損金に計上することはできないということである。 (4) 本件へのあてはめ 企業の有する資産が消耗品等の棚卸資産に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのかについては、一般に、通常1年以内に販売又は消費の対象となり、それが所有者の手元を離れて外部に売却され、又は内部的にそれが原材料や消耗品等として使用されるものといえるのか、それとも、企業の内部にとどまって総体的に繰り返し使用される資産といえるかという点に着目して判別することになるものと考えられる。 本件の場合、食品運搬用のコンテナは、その使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用するものであることから、減価償却資産に該当するものと解するのが妥当であると考えられるため、その減価償却費の計上に関しては、損金経理が要件となる。 (了)
New
国税通則
税務
税務・会計
解説
解説一覧
《税務必敗法》 【第8回】「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」
《税務必敗法》 【第8回】 「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 ×7年7月、X会計事務所はA社との新規契約にあたり、過去5年分の確定申告書や過去に提出した届出書、申請書の提示を求めたが、消費税簡易課税制度選択届出書の提示はなかった。 A社は過去5年間原則課税であったため、担当税理士の甲は「A社は原則課税適用会社である」と思い込み、原則課税を継続した。なお、×6年度の課税売上高は5,000万円以下であった。 予想では、翌×8年度は売上が大きく減少し、消費税も還付となると見込まれたため、×7年度中にその旨をA社に伝えた。×8年度終了後、予想通り消費税は還付となったため還付申告書を所轄税務署に提出した。 すると、提出後、所轄税務署から「A社は消費税簡易課税制度選択届出書が提出されているので簡易課税となる。」という電話があった。 実は、A社は20年前の設立時に消費税簡易課税制度選択届出書を提出しており、当初は簡易課税の適用を受けていたものの、課税売上高が5,000万円を超える年度が続き、長年にわたり原則課税となっていたのだった。 その結果、A社は消費税の還付を受けられず、納付となった。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」である。 新規契約時においては、見込み客が過去に提出した届出書や申請書の確認を行うべきであるが、その確認を怠ると事故につながる可能性もある。 特に消費税に関する届出書提出の有無の確認漏れが最も危険であるが、今回は消費税を含む他の税目等に関する届出書・申請書の確認ミスの想定事例と対策を解説する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 想定されるケース (1) 消費税簡易課税制度選択届出書の提出の有無の確認漏れ 消費税簡易課税制度選択届出書が過去に提出されていたことの確認の失念が想定される。 原則課税の申告が続いていたため原則課税だと思っていたら、過去に消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていたため簡易課税の適用となり、消費税の還付を受けることができなかったという事故は非常に多い。 (2) 青色申告承認申請書提出の確認漏れ 本連載の【第3回】で紹介した事例だが、青色申告承認申請書提出の確認漏れのケースがある。 (3) 棚卸資産の評価方法等の届出書の確認漏れ 棚卸資産、減価償却方法等について、棚卸資産の評価方法等に関する届出書を出している場合に、それを確認しないケースも想定される。これを失念すると、届け出た評価方法等とは異なる評価方法等で税金計算を続けてしまうことになる。 (4) 事前確定届出給与に関する届出書など給与関係書類の確認漏れ 法人の事前確定届出給与に関する届出書や、個人事業者の青色事業専従者給与に関する届出書といった給与関係に関する届出書の提出の有無の確認漏れも想定される。 (5) 申告期限の延長の特例の申請書の確認漏れ 申告期限の延長の特例の申請書の確認が漏れるケースも想定される。例えば、当該申請書が提出されていないにもかかわらず、申告期限を延長していると思い込むケースである。 例えば、現行制度では、消費税の申告期限も延長できるようになったが、法人税の申告期限が延長されていても、消費税の申告期限は延長していないという会社もある。したがって、法人税・消費税両方について当該申請書の確認を行う必要がある(参考:本連載【第1回】「申告書の提出を行っていなかった」)。 3 確認を怠った場合の影響 (1) 損害賠償の可能性 消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていることの確認を失念した場合、もし顧問先が消費税の還付を受けられず過大納付となると、損害賠償となる可能性がある。 例えば、事例のように消費税簡易課税制度選択届出書を提出しているものの、基準期間の課税売上高が5,000万円超である期間が続き、原則課税が続いている場合、一見すると原則課税を適用しているように見えてしまう。 しかし、原則課税であれば消費税の還付が生じる課税期間について、その基準期間の課税売上高が5,000万円以下だった場合、その課税期間は簡易課税となるため還付を受けることができなくなってしまう。 新規契約時に消費税簡易課税制度選択届出書が提出されているかどうかを確認しておかないと、このようなリスクがあるので注意が必要である。 (2) 修正申告などの可能性 前記2の(2)~(4)において、確認漏れで誤った処理をしていることに税理士が気付かなかった場合、税務署から指摘される、あるいは税務調査で指摘される可能性がある。その場合、修正申告となる可能性がある。なお、修正申告となると延滞税・延滞金、過少申告加算税なども発生する可能性がある。 ① 青色申告承認申請書が提出されていない場合 この場合、白色申告書で再提出を行うことになる。また、欠損金の繰越控除ができなくなるなどの影響が出る可能性がある(本連載【第3回】「青色申告承認申請書の提出を忘れた」参照)。 ② 棚卸資産の評価方法等の計算方法が異なっていた場合 棚卸資産の評価方法や減価償却方法などが届出の方法と異なっていた場合、所得の金額や法人税等の額が異なってくるため、修正申告の可能性が出てくる。 ③ 届出書を提出していないのに事前確定届出給与等を計上している場合 届出書を提出していないのに事前確定届出給与や専従者給与を計上していた場合、その計上は認められないので修正申告となる可能性がある。 (3) 確定申告書の期限後提出 前記2の(5)のように申告期限の延長の特例の申請書の確認漏れがあると、誤って期限後申告となってしまう可能性がある。期限後申告となると、無申告加算税や不申告加算金などが発生する可能性がある。一定の要件を満たした場合は無申告加算税が課されない場合もあるが注意が必要である。 (4) 契約解除 このような届出書や申請書の提出の有無の確認を怠り、損害賠償や修正申告に至った場合、顧問先から信用を失い、契約解除となる恐れもある。 4 対策 (1) リストを作成し必ずチェックする 新規契約時における法人税・消費税に係る届出書や申請書の確認リストを作成し、すべて提示してもらうことを徹底することが望まれる。 (2) 税務署の閲覧コーナーの利用 顧問先によっては「税務は前任の先生にお任せしていたのでわかりません」と回答され、資料が十分に提示されないことがある。そのような場合は、税務署による申告書等閲覧サービスを利用して、過去に提出した届出書や申請書を閲覧するとよいであろう。 なお、コピーを取ることはできず、写真撮影のみが許可されている。 (3) 過去のメッセージボックスの閲覧 電子で届出書や申請書を提出している場合、過去のメッセージボックスにその履歴が残っている場合があるので、メッセージボックスも閲覧して提出の有無を調べることが望まれる。 (4) 顧問先の回答を鵜呑みにしないこと 「この届出書は過去に提出したことはないですか」と質問すると「多分ないと思います」といった曖昧な回答をされることもある。しかし、このような回答を鵜呑みにせず、必ず自分で確かめる必要がある。 5 おわりに 今回は、新規契約時において届出書や申請書の提出状況を確認する重要性を解説した。特に、消費税簡易課税制度選択届出書の提出の有無を確認しておくことは重要である。 現状では、過去の届出書や申請書を確認するには、前記4で述べたように控えの閲覧や税務署の申告書等閲覧サービスの利用などにとどまるが、将来オンラインで確認できるようになれば事故も減るであろう。 本稿が実務の参考となれば幸いである。 (了)
New
国際課税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第60回】「米国スピンオフは分割型分割か」
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第60回】 「米国スピンオフは分割型分割か」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 米国法人が行うスピンオフは我が国法人税法に定める分割型分割に該当するとした場合、交付される株式の価額に係る課税関係はどのようになるのでしょうか。 〔A〕 個人株主が証券会社を訴えた裁判では、新株の評価額全部がみなし配当金額となるとすることは法的根拠を欠くという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 スピンオフとは (1) 米国スピンオフの概要 米国における会社分割の手法として多く用いられているスピンオフ(Spin-off)を規律しているのは、米国内国歳入法§368(a)(1)(D)及び同法§355であり、主として、前者が組織再編における会社分割を規定し、後者が税制上の適格要件を規定している。スピンオフは、(a)事業を移転された法人が、事業を移転した法人から完全に引き離されていること(我が国の用語でいえば、分割承継法人が分割法人の子会社として留まっていないこと)、及び(b)分割の対価である株式が持株数に応じて比例的に分配されることを特徴とするものである(※1)。上記の規定に準拠するスピンオフの場合、事業を移転した法人及びその株主双方の課税が繰り延べられる。 (※1) 渡辺徹也『スタンダード法人税法』(2018年、弘文堂)269頁参照。ただし、比例的でない株式の分配の手法(Split-offと呼ばれる)もある。 我が国では、平成29年度税制改正において、日本版スピンオフとして、単独新設分割型分割が導入された。これは、分割法人のその分割前に行う事業を分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割(法法2⑫の11二)をいうとされ、①分割法人の株主の持株数に応じて(比例的分配)分割承継法人の株式のみが交付され(法法2⑫の11本文括弧書き)、②分割前に分割法人が他の者による支配関係がなく(単独要件)、かつ、分割後に分割承継法人と他の者との間に支配関係が見込まれないこと(法令4の3⑨一)その他を税制適格の要件とするものである。この2つの要件は、単独要件を除き、米国スピンオフの特徴と類似するものである。なお、我が国の単独新設分割型分割のその他の税制適格要件には、役員等引継要件(同二)、資産負債引継要件(同三)、従業者引継要件(同四)及び事業継続要件(同五)がある(※2)。 (※2) もっとも、これらその他の税制適格要件は、米国内国歳入法上明示されていないが、同法§355(b)(1)にいう積極的事業活動要件に包含されると解される。 (2) 米国法人のスピンオフにより株式の交付を受けた場合の課税関係 我が国居住者が、我が国証券会社に口座を開設して米国上場会社に投資する場合、当該米国法人がスピンオフにより新設法人の株式を同証券会社を経由してその株主に交付することがあり得る(※3)。かかる株式交付は、所得税法上、配当所得(所法24①及び同法25①)に分類される(※4)ため、「支払の取扱者」(措法9の3の2)たる証券会社が所得税等の源泉徴収義務を負うか否かが問題となる。この場合の源泉徴収の方法については、課税当局から、何らガイダンス等が公表されていないことから、証券会社では、実務上、①新株の価額の全額をみなし配当として源泉徴収を行う、②新株の価額の一部(※5)をみなし配当として源泉徴収を行う、及び③源泉徴収を全く行っていないという3つのパターンによる対応がなされているとのことである(※6)。なお、①及び②の場合、株式交付には源泉徴収のための原資がないため、証券会社は、顧客である株主に源泉所得税等の納付のための預託金を請求するのが一般的である。 (※3) やや古いデータではあるが、S&P Global Market Intelligence Quantamental Researchによれば、1989年から2016年に至るまでの27年間における米国上場会社によるスピンオフの件数は617件に上っている(太田洋「スピンオフ税制の導入と我が国上場会社への影響(上)」商事法務No.2133(2017年5月)63頁)とのことである。これは、単純計算で毎月2件の割合であり、我が国証券会社を経由して米国上場会社に投資している居住者が一定数存在すると仮定すれば、スピンオフにより新設法人の株式の交付を受けた我が国居住者の数も少なくないと思われる。 (※4) 本件と同様の課税関係の例として、本連載【第49回】の「自社株買いの設例」を参照されたい。 (※5) 株式の価額のうち、資本金等の金額に対応する部分以外をみなし配当として税額を算定していると思われる。 (※6) T&Amaster No.1092(2025.9.29)4頁参照。 以下では、米国スピンオフにより新株の交付を受けた場合に、支払の取扱者たる証券会社が源泉徴収すべきみなし配当の金額について争われた裁判例を検討する。 2 裁判例 《東京地裁令和7年7月28日判決(令和6年(行ワ)第21118号)》(※7) (※7) TAINSコード:Z999-5517 (1) 事案の概要 本件は、原告Xが、証券会社である被告Yに外国証券取引口座等を開設して、米国法人AT&Tの株式100株を保有していたところ、AT&Tが会社分割をし、Xに新株を割り当てたことから、Yは、Xに所得税法25条1項2号のいわゆるみなし配当があったものとして、所得税等の源泉徴収等(道府県民税の特別徴収を含む)として、上記口座等から合計1万5,923円を徴収(以下「本件徴収」という)したことに対し、Xが、本件徴収は誤徴収であるとして、本件徴収のためにYに対して行った預託金の返還等を求める事案である(※8)。 (※8) 本件においてYはXに対し、Xの口座に1万6,000円の預託を求め、Xがそのとおり実行している。 AT&Tは令和4年4月頃、その事業の一部を切り離す会社分割(以下「本件会社分割」という)を行い、これに伴い、その株主に対し、AT&Tの株式1株当たり、新設会社であるWORNER BROS. DISCOVERY INC.(以下「WED」という)の株式0.241917株を割り当てた。その結果、Xは、WBD株式24.1917株(以下「本件株式」という)につき、Yを介して本件株式の交付(以下「本件株式交付」という)を受けた。 Yは、令和4年5月31日、本件株式交付に係る源泉徴収等として、本件株式の評価金額7万8,383円の全額が課税対象となることを前提に税額を算出し、翌月10日に納付した。 (2) 争点とYの主張 本件の争点は、本件徴収の適法性(他の争点は略)であるが、Yは以下のように主張した。 (3) 裁判所の判断 東京地裁は、本件会社分割が所得税法25条1項2号にいう分割型分割に当たり、本件株式交付が同項柱書所定の範囲で同法24条1項にいう配当とみなされ、課税対象となり、その場合、Yが、本件株式交付に際し、支払の取扱者(措法9の3の2)として、その源泉徴収を行うこととなると認定した上で、以下のように判示し、本件株式の評価額全部がみなし配当額とする法的根拠を欠き、これを前提として行われた本件徴収は、Xの自認する565円を除き、適法であるとは認められないと結論付けた。 (4) 検討 ① 米国スピンオフは分割型分割か 本判決で東京地裁は、当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる前提事実として、「本件会社分割は、所得税法25条1項2号にいう分割型分割(いわゆる非適格分割)に当たる。」と認定している(※9)。しかし、本件は処分庁を訴訟の相手方とする行政訴訟ではない点、及び上記解釈は、国税庁の公式見解や他の裁判例と異なる点に注意する必要がある。 (※9) 渡辺徹也『企業組織再編成と課税』(弘文堂、2006年)192頁は、「これら(筆者注:米国のSpin-off、Split-off、及びSplit-upの3つを指す。)は、いずれも親会社が(既存または新設の)子会社株式を親会社に分配する(distribute)取引である。したがって、アメリカ法における法人分割は、我が国でいう『分割型』分割である。」と述べている。 (i) 国税不服審判所の裁決 本件同様米国法人のスピンオフにより交付された株式に係る所得区分について争われた国税不服審判所令和元年8月1日裁決(※10)(以下「令和元年裁決」という)では、 と説示し、スピンオフにより取得した株式の所得区分については、所得税法25条1項のみなし配当ではなく、同法24条1項に規定する剰余金の配当(※12)であると結論付けている。 (※10) 裁決事例集116集23頁、TAINSコード:J116-2-02 (※11) 前記1の(1)のとおり、平成29年度税制改正において導入された単独新設分割型分割は、米国スピンオフに極めて類似した制度であり、「一般承継」という観点からも、両者には実質的な差異はないと思われる。なお、令和元年裁決についての評釈として、柴由花「外国法人のスピンオフにより取得した株式が所得税法24条1項の配当所得にあたるとされた事例」(ジュリストNo.1550(2020年12月))11頁は、「外国の法令に準拠して行われる法律行為について単純に承継に係る法的効果のみを比較するだけでは不十分ともいえよう。」と述べ、分割会社は分割後も存続するので包括承継という概念を使うのは必ずしも適切でないとする見解(神田秀樹『会社法〔第22版〕』(弘文堂、2020)396頁)を紹介している。 (※12) 所得税法24条1項本文括弧書きは、剰余金の配当から、資本剰余金の減少に伴うもの並びに分割型分割によるものを除くと規定しており、令和元年裁決は、このいずれにも該当しないものとして、同項所定の配当等に該当すると結論付けた。 米国法人のスピンオフにより交付を受けた株式が剰余金の配当であると解する限り、当該株式の価額全額が配当所得となる。そうすると、本件株式の価額の全額が課税対象となるとしたYの判断は適切で、「顧客にとっては、いつの時点で納付するかは異なるものの、最終的に納付する税額は一緒である」というYの主張は正しいことになる。仮にXが令和元年裁決に準拠して源泉徴収を行っていたとしたら、本判決の結果はXにとって酷なものとなろう。 (ii) タイコ・インターナショナル事件 タイコ・インターナショナル事件判決(※13)は、本件と同様に、米国法人であるタイコ・インターナショナルLTD(以下「タイコ」という)が行ったスピンオフにより交付を受けた株式に係る源泉徴収の是非が争われたものであるが、源泉徴収税額を立替払いした証券会社が原告で、所得税等を支払うべき理由はないと主張した株主を被告とした点が本件の逆となっている。 (※13) 東京地裁平成21年11月12日判決(平成21年(ワ)第4746号)、TAINSコード:Z999-5192) 東京地裁は、スピンオフの形式で分社化した株式をタイコの株主に割り当てるに当たり、その原資にタイコの資本剰余金が充てられていることが認められる(※14)ことから、タイコによる株式割り当ては、所得税法25条1項3号(現行4号)にいう、「資本の払戻し」に該当すると結論付けた。タイコ事件では、本件と異なり、原告が、株式割り当ては分割型分割に該当するという主張を行っていなかったため、裁判所は、原告の主張に沿って、「資本の払戻し」に該当すると判示したものと解される。 (※14) タイコの公表連結株主資本変動計算書(2007年9月28日付FORM10-K-我が国の有価証券報告書に該当)において、会社分割(スピンオフ)により、その他資本剰余金(Contributed Surplus, Net)及び利益剰余金(Accumulated Earnings)双方がそれぞれ減少していることからそのように認定したものと思われる。 確かに、弁論主義に立つ民事訴訟では、当事者の主張にない事柄、すなわちタイコ事件では分割型分割該当性について論じることはないことは理解できる。しかし、実際には、新たな法人が組成され、組織再編が行われていることは明らかであるばかりか、そもそも、所得税法25条1項3号の「資本の払戻し」が、資本剰余金の減少を伴う剰余金の配当から分割型分割を除外するという条文構造となっていることからも、文理解釈として分割型分割に触れないのは片手落ちであろう。もっとも、「資本の払戻し」に該当しようが、「分割型分割」に該当しようが、みなし配当の金額の算定結果に変わりはないのは確かである。 ② 残された課題-外国法人の資本金等の額は算定可能か? 本件判決文によれば、東京地裁は、訴外A証券会社が契約する情報ベンダーによるWED1株当たりのみなし配当額0.9263127ドルを是とし、Xが自認する565円(※15)が適法な源泉徴収額等であったと認定している。そうすると、上記情報ベンダーは、法人税法施行令8条に規定する「資本金等の額」を25.0736873ドルと算定したと推測される。しかし、AT&Tの資本金等の額を算定することは同社が外国法人である以上、不可能である(※16)。そうすると、上記情報ベンダーは、AT&Tの公表財務諸表の貸借対照表から関連する金額を抽出した可能性がある。 (※15) 本件株式評価額7万8,383円 ×(0.9263127/26.00)× 20.315% = 567円 ≒ 565円 (※16) 資本金等の額とは、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいい(法法2十六)、その額が増減する事由について政令で細かく規定されており(法令8①)、法人の外部者が容易に知り得ることは通常ない。そこで、みなし配当の支払者には、1株当たりのみなし配当の金額や株式の譲渡損益の計算基礎となる割合などを株主に通知する義務が課されている(所法225②二、所規92①)。外国法人は当該規制の対象外であることはいうまでもない。 上記タイコ事件では、同社の公表連結貸借対照表中「株主資本(Common Shares)」、「株式払込剰余金(Share Premiums)」及び「その他の資本剰余金(Contributed Surplus)の金額の三者合計を「資本金等の額」とみなして、みなし配当の額を算出している。しかしながらこの三者の合計額は米国会計基準に準拠したものであり、我が国法人税法に準拠した「資本金等の額」とは似て非なるものである(※17)。 (※17) 日本公認会計士協会租税調査会研究報告第17号『国外における組織再編等に係る国内税法に適用関係について(中間報告)』(平成21年2月17日)12頁は、「資本剰余金を原資とする分配が行われたと判断されると、その外国子会社について本邦税法に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の計算が必須となる。この際に、外国の制度に基づく当該分配の会計上・税務上のカテゴリー分類や金額計算方法を考慮することなく、我が国独自の制度に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の再計算を行う必要がある。(中略)このような問題に直面した企業は、現地会社法上(会計上)の資本金プラス資本剰余金及び利益剰余金の金額を、本邦の税務上の資本金等の額及び利益積立金の金額とみなして計算をしているケースが多いのではないかと思われる。実際、現実的にはこの方法しか採り得ない。しかし、これはあくまでも簡便計算であって、法人税法上は原則的には許容されないものである。(下線筆者)」と述べている。 また、タイコ事件における三者合計は、スピンオフが行われた基準日(2007年6月18日)のものではなく、タイコの同年9月28日を決算日とする事業年度の第2四半期末である同年3月30日の連結貸借対照表の金額である(※18)。おそらく、株式割当ての実行日(2007年6月29日)では、直近の財務諸表が公表されておらず、次善の策として、約3ヶ月前の四半期連結貸借対照表の金額を借用せざるを得なかったのではないかと思われる。 (※18) タイコ社の2007年3月30日付けFORM 10-Q(我が国の四半期報告書に該当する)において確認できる。 このように見てくると、Xの「外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収については、必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難である(下線筆者)」という主張は極めて正当で、証券会社にとって極めて切実な事情であったということができる。 繰り返しになるが、課税当局からの明確なガイダンスがない中で、本判決の結論は、Xにとって酷であり、受け入れ難いものではないだろうか。 (了)
