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プロフェッションジャーナル No.645が公開されました!~今週のお薦め記事~
2025年11月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.645を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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日本の企業税制 【第145回】「ガソリン暫定税率廃止に関する6党合意」
日本の企業税制 【第145回】 「ガソリン暫定税率廃止に関する6党合意」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 11月5日、自由民主党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、公明党、日本共産党の与野党6党は、8月から協議を続けていたガソリン税及び軽油引取税の暫定税率の廃止について合意に至った。 自由民主党からは小野寺五典税制調査会長、立憲民主党からは重徳和彦税制調査会長、日本維新の会からは梅村聡税制調査会長、国民民主党からは浜口誠政務調査会長、公明党からは赤羽一嘉税制調査会長、日本共産党からは辰巳孝太郎衆議院国会対策副委員長の6名が合意文書に署名し、昨年から続くガソリン暫定税率の与野党協議に一定の結論が出された。 〇 政治情勢の変化 遡れば、令和7年度税制改正の議論が行われていた2024年12月、自由民主党、公明党、国民民主党の間で三党税調協議が進められ、12月11日に3党の幹事長同士による合意文書が作成された。そこでは、「いわゆる『ガソリンの暫定税率』は、廃止する」と明記されるとともに、「具体的な実施方法等については、引き続き関係者間で誠実に協議を進める」こととされていた。 また、与党の令和7年度税制改正大綱では合意文書の引用に続いて、「自由民主党・公明党としては、引き続き、真摯に協議を行っていく」と記載した上で、自動車関係諸税の見直しについては、車体課税・燃料課税を含む総合的な観点から検討し、産業の成長と財政健全化の好循環の形成につなげていく旨とともに、車体課税については令和8年度税制改正において結論を得ることとされていた。 今年3月には、税制改正法案に関する国会審議において、「揮発油税及び地方揮発油税の『当分の間税率』は廃止に向けた検討を速やかに行うとともに、その廃止に当たっては、流通への影響や関係事業者の事務負担等に配慮するとともに、国及び地方公共団体の財政に悪影響を及ぼすことがないよう、安定的な財源を確保するなど必要な措置を講ずるものとすること」との附帯決議が行われた。 その後、7月の参議院議員選挙を経て8月から、自由民主党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、公明党、日本共産党の与野党6党による協議が続けられていたが、事務負担や安定財源等をめぐる結論が出ない状態であった。 転機となったのは、自由民主党の総裁選挙を経て高市早苗新総裁が誕生したことが挙げられる。自由民主党執行部や閣僚の顔ぶれに大きな変化が生じる中、自由民主党税制調査会についてもメンバーの交代が行われ、公明党による連立政権の離脱と日本維新の会との連立合意を含めた政治情勢の変化が与野党協議にも影響を与えたと思われる。 〇 与野党6党による合意文書 〇 残された論点 今後、残された論点として、安定財源や現場の事務負担に関する議論の深掘りが行われることとなる。 現状で自動車関係諸税は、国・地方を合わせて5兆8,027億円の税収で、そのうち車体課税が2兆7,076億円、燃料課税が3兆951億円となっている。車体課税の内訳としては、自動車重量税が7,153億円、自動車税が1兆6,551億円、軽自動車税が3,372億円である。燃料課税の内訳としては、揮発油税等が2兆1,874億円、軽油引取税が8,997億円、石油ガス税が80億円である。そのうち、暫定税率による税収は、揮発油税等が1兆205億円、軽油引取税が4,793億円の合計1兆4,998億円である。 合意文書に記載のとおり、徹底した歳出改革等の努力による財源捻出を前提としつつ、国際競争力の確保、実質賃金の動向等を見極めながら、法人税関係租税特別措置の見直し、極めて高い所得の負担の見直し等の税制措置が検討され、令和7年末までに結論が出されることから、今月から来月にかけて税制調査会で議論されると見込まれる。 また、流通の現場において問題が生じると考えられるのは、蔵出し課税として製油所から油槽所に移転する際に暫定税率で課税されているガソリンの在庫分が、補助金の支給停止後に販売される場合である。そのため、事業者が在庫量を計測した上で税務申告を行う際に本則税率との差額相当分を控除(還付)する仕組みを講じることで、混乱を回避することが考えられている。 (了)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第76回】「不相当に高額な部分の判断につき加重平均法を採用した事例」
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第76回】 「不相当に高額な部分の判断につき加重平均法を採用した事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 不相当に高額な部分の金額に係る判断についての裁判所の傾向 役員給与の過大性判断、つまり不相当に高額な部分の金額があるかどうかの判断については、法人税法34条2項及び法人税法施行令70条1号イによって、「当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等」に鑑みた判断が行われることとなっている。しかし実際に、少なくとも更正処分の場面では、専ら同業類似法人の支給状況に照らした判断が行われていると思われる。 そのような中、近年の裁判例においては注目すべき事例がいくつか現れており、このような形式的判断に変化の兆しが見え始めていると思われる。具体的には、残波事件(※1)に始まり、1.5倍事件(※2)、マレーシア中古車輸出業事件(※3)という注目事例がある。これらの事例からは、裁判所が役員の実際の職務状況等に鑑みた検討を試みようとした姿勢が垣間見えると思われる。 (※1) 最高裁平成30年1月25日決定(税務訴訟資料268号順号13118)。(※3)までの事例については、【第59回】等参照。 (※2) 東京地裁平成29年10月13日判決(税務訴訟資料267号順号13076)、東京高裁平成30年4月25日判決(訟務⽉報65巻2号133⾴)。なお、1.5倍のくだりは高裁では削除されている。 (※3) 東京地裁令和2年1月30日判決(判例タイムズ1499号176⾴)。 ここで、更正処分の時点において、課税庁側が同業類似法人の支給状況を基礎とした上で、役員の職務状況に鑑みて加重平均法によって一定の調整を行った事例があるため、以下にその概要について触れる。 (2) 課税庁が更正処分の時点で加重平均法を採用した事例 このように、更正処分の時点で同業類似法人の支給状況を基礎として加重平均法による調整が行われた事例として、東京地裁令和5年3月23日判決・東京高裁令和6年1月18日判決・最高裁令和6年12月12日決定がある(※4)。 (※4) 地裁:税務訴訟資料273号順号13836。高裁:金融・商事判例1693号36頁。最高裁:判例集等未登載、TAINS:Z888-2704。 この事例は京醍醐味噌事件と呼ばれており、ファブレス事業が卸売業に当たるとして同業類似法人の抽出を行うことは合理的だと示されたこと、そして不相当に高額な部分の金額とされた金額が他社事例に比して極めて高額であったためにメディア等にも注目された事例である。このように、この事例に注目すべき点はいくつかあるが、ここでは加重平均法を中心に取り上げる。 本件裁判例につき、納税者の売上高や売上総利益は減少傾向にあり、かつ経常利益がマイナスとなっていた他、平成28年9月期に30億円を超える株式売却益を計上したにもかかわらず経常利益は32億円の赤字であった。また、納税者が甲・乙・丙に対して支給していた役員給与の額は以下の通りである。 このうち、乙に関しては甲の実弟であり、納税者のベトナムでの新規事業進出を乙が担当して検討するに当たり、現地の課税関係を調査したところ想定と異なったために進出自体をペンディングしていたという事実がある。そのような中で、平成28年9月期における取締役会にて、ベトナム新規事業からの収益は生まれないままに月2億5,000万円の役員給与を支給することを決議している。 課税庁側は、更正処分時には加重平均法を採用していたが、その後は平均額法による主張に差し替えている。しかし、地裁は、甲と丙を対象に「本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当であると判断して、原告と本件類似法人との間に存する偏差を調整するために、法人税法施行令70条1号イにおいて適正給与額の判断要素として規定している『事業規模』の指標に当たるものとして売上高、『収益』に当たるものとして改定営業利益及び個人換算所得・・・を勘案要素として考慮した本件算式(筆者注:加重平均法)を用いて算出したことは合理的である」と示した。併せて、乙については、上記の事情を背景に加重平均法を認めなかった。これに対し高裁では、上記の通り「事業規模」について地裁の判断を否定する判断が示されている。 (3) 本件裁判例の意義 本件裁判例の地裁においても加重平均法が認められたのは、残波事件に端を発し、役員の適正報酬のあり方について議論が盛んになってきた結果であると評価する意見がある(※5)。 (※5) 渡辺充「役員給与の損金不算入-京醍醐味噌事件-」税理66巻(2023)12号213頁。 この意見は、高裁において、納税者が役員個々の職務上の能力を最大考慮要素として判断すべきと主張したことを予測した上で、高裁が「役員の職務上の能力は、『事業規模』(法人税法施行令70条1号イ)を示すものには該当しない」と示したことが残波事件よりもさらに後退した判断であるという批判につながっている(※6)。ここでは、役員給与税制についていよいよ立法論的解決を図るべきであるとも指摘がなされている。この点、同業類似法人から導かれる支給額について「平均額か最高額かまたは加重平均法を用いたかどうかが問題ではなく、卓越した業績をあげる役員の業績を測るのに適しているかどうかが重要である」との指摘もある(※7)。 (※6) 渡辺充「京醍醐味噌事件【控訴審判決】」税理67巻(2024)14号73頁以下。 (※7) 赤坂高司「役員給与の不相当に高額な部分の金額-京醍醐味噌事件-」税理68巻(2025)6号90-92頁。このような場合には「同業類似法人を抽出して適正役員給与額を算出する方法を採用せずに、当該役員の職務内容から不相当に高額な部分があるかどうかを判断すべき」との指摘がなされている。 このように、本件裁判例は、高裁に対する批判がある他、同業類似法人の情報を基礎とすること自体に対する批判も生じている。 これに対して、実務上の観点からは、財務内容と役員給与の支給額のバランスが取れていなかったことこそ更正処分を招いた要因であると思われる。というのも、当該納税者は、マレーシア中古車輸出業事件と同様に、法人の財務内容の悪化に比して役員給与の額が極めて高額であったことに加え、平成28年9月期において株式売却益と役員給与の額を相殺しようとしたということは見て取れる。 そのような中で乙を含めて高額な役員給与を支給しようとすれば、課税庁から指摘を受けるのは当然であるといえる。なお、そのような状況であっても、課税庁は、不相当に高額な部分の金額の判断において更正処分時点で加重平均法を採用したという点に特徴があるため、課税庁も役員の経営能力等に焦点を当てようとしたという背景があったのではないかと思われる。 したがって、本件裁判例から分かる教訓としては、現行の役員給与税制においては、改めて財務内容と役員給与の額のバランスに留意しておくべきであることがいえるだろう。 (了)
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国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正-防衛特別法人税等の企業への影響- 【第9回】
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第9回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 32 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う防衛特別法人税額の還付の特例 法人税では、仮装経理に基づく過大申告について内国法人が修正経理を受け入れ、過大申告をした事業年度の更正が行われた場合、減額された法人税額は原則として還付されず(仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の還付の特例)、5年繰越控除が行われる(法法135、70)。ただし、更正の日の属する課税事業年度開始の日前1年以内に開始する各課税事業年度の確定法人税額がある場合や、5年繰越控除で控除しきれなかった金額は還付される(法法135)。 このような法人税の取扱いを踏まえて、仮装経理防衛特別法人税額(仮装経理に基づく過大申告をした事業年度の更正が行われた場合に減額された防衛特別法人税額)についても、原則として還付されず(防衛特別法人税額の還付の特例)(防衛財確法39①、防衛特法令18①)。防衛特別法人税額の還付の特例の適用があったときは、その更正に係る仮装経理防衛特別法人税額が防衛特別法人税額から控除される(防衛財確法20)。 仮装経理防衛特別法人税額が還付されるのは、以下の場合とされ、いずれの還付金についても、還付加算金が付される(防衛財確法39、通法58)。 33 連帯納付責任 法人税法で規定されている納税義務の連帯納付責任に対応し、防衛特別法人税でも同様の規定を設けている。通算法人(グループ通算制度の適用法人)は、他の通算法人との間に通算完全支配関係がある期間内に納税義務が成立した、他の通算法人の各課税事業年度の法人税について、連帯納付責任を負い、防衛特別法人税についても同様とされる(防衛財確法41①一)。 受託者が2以上ある法人課税信託に係る受託法人は、その法人課税信託に係る法人税について連帯納付責任を負い、防衛特別法人税についても同様とされる(防衛財確法41①二)。 34 税務調査に係る質問検査権 法人税及び地方法人税の税務調査に係る質問検査と同様に、防衛特別法人税の調査についても、以下の者に対して、質問し、事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件の提示若しくは提出を求めることができるとされる(防衛財確法42①、通法74の2①二)。 35 罰則 法人税法における罰則と同様の罰則(ほ脱犯、無申告ほ脱犯、申告書不提出犯、中間申告書虚偽記載犯、検査忌避、両罰規定等)が定められている(防衛財確法44~48)。 36 通算法人に係る取扱い 防衛特別法人税における通算法人の取扱いについては、法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定のほかに、防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定がある。 法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定には、①通算子法人の課税事業年度、②仮決算をした場合の法人税の中間申告書の提出、③災害等による中間申告書・確定申告書の提出期限の延長、④清算中の内国法人の確定申告、⑤電子情報処理組織による申告の特例、⑥通算法人の連帯納付責任、⑦青色申告の取消し、⑧通算税効果額の取扱い、⑨電子情報処理組織による申請等、がある。 防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定には、⑩基礎控除額の計算と、⑪通算法人に係る外国税額控除額の計算がある。 ① 通算子法人の課税事業年度 防衛特別法人税の課税事業年度は、法人の2026年4月1日以後開始事業年度である(防衛財確法11)が、通算子法人の場合は、通算親法人の2026年4月1日以後に開始する事業年度内に開始する事業年度である(防衛財確法11)。 法人税の課税期間について、通算子法人の事業年度が通算親法人の事業年度と異なる場合には、通算親法人の事業年度とすることとされており(法法14)、防衛特別法人税の基準法人税額の計算期間と一致させるために、通算子法人について法人税の課税期間とされている。 【通算子法人の課税事業年度】 (出典:財務省ホームページ「令和7年度税制改正の解説」) ② 仮決算をした場合の法人税の中間申告書の提出 法人税中間申告書を提出すべき法人は、法人防衛特別法人税の中間申告書を提出することとされている(防衛財確法21①)。通算子法人の通算承認の効力が生じた日が通算親法人の事業年度開始の日以後6月を経過した日以後であるときは、通算承認の効力が生じた日の属する事業年度について法人税中間申告書の提出義務がないため、防衛特別法人税の中間申告書の提出義務もない。 法人税中間申告書の提出義務のない通算法人が、以下の場合に法人税の仮決算による中間申告書を提出した場合には、仮決算による防衛特別法人税の中間申告書の提出義務がある(防衛財確法22①)。ただし、前期の法人税額の2分の1の全通算法人分の合計額より仮決算による法人税額の全通算法人分の合計額の方が大きい場合は除かれる。 ③ 災害等による中間申告書・確定申告書の提出期限の延長 法人税では、通算法人の災害等による中間申告書・確定申告書の提出期限の延長を認めている(法法72の2、75の3)。通算法人の防衛特別法人税中間申告書又は確定申告書の提出期限が指定された期日まで延長された場合には、他の通算法人についても、提出期限が延長されたものとみなされる(防衛財確法23、26、防衛特法令6、8)。 ただし、その指定された期日が他の通算法人の防衛特別法人税中間申告書又は確定申告書の提出期限前の日である場合は除かれており(防衛特法令6、8)、通算グループの各通算法人の防衛特別法人税中間申告書又は確定申告書の提出期限は、各通算法人が申告期限として指定された日のうち最も遅い日まで一律に延長されることとなる。 ④ 清算中の内国法人の確定申告 清算中の内国法人につきその残余財産が確定した場合には、当該内国法人の当該残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内(当該翌日から1月以内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に法人税の申告書を提出する義務がある(法法74②)。 ただし、当該内国法人が通算法人である場合には、その通算子法人の残余財産の確定の日の属する事業年度の法人税の確定申告書の提出期限(2月(ないしは延長月数を加えた月数)以内)、とされている。 防衛特別法人税についても、清算中の内国法人の確定申告期限は同様であり(防衛財確法25②)、通算子法人の残余財産の確定の日の属する事業年度の防衛特別法人税の確定申告書の提出期限とされている。 (続く)
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相続税・贈与税
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相続税の実務問答 【第113回】「人身傷害保険金に対する相続税課税」
相続税の実務問答 【第113回】 「人身傷害保険金に対する相続税課税」 税理士 梶野 研二 [答] 相続人であるあなたが支払いを受けた人身傷害保険金2,000万円は相続税法の規定により相続により取得したものとみなされ、非課税金額500万円を控除した残額(1,500万円)が相続税の課税対象となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 みなし相続の規定 被相続人の死亡により、相続人等が取得する保険金については、一般的、、、に、被相続人の遺産には含まれず(注)、したがって、保険金の支払いを受ける相続人等が相続又は遺贈により取得するのではなく、相続人等が固有の権利として取得するものと解されています。 (注) 保険契約の受取人が「相続人」となっているとき、あるいは「被相続人」自身が保険金受取人となっているときには被相続人の遺産に含まれるとの見解もあることから、「一般的に」としました。 相続税は相続又は遺贈により取得した財産に対して課税されますので、被相続人の相続開始を契機として取得した財産であっても、それが相続又は遺贈により取得したものでなければ相続税の課税対象とはならないはずです。 しかしながら、相続又は遺贈により取得した財産のみを相続税の課税対象とすると、相続人等が被相続人の死亡により取得する死亡保険金などの財産であって、実質的には相続により取得するのと同様の結果となるにもかかわらず、これらの財産には相続税が課されないこととなり、課税上の不公平が生じることとなります。そのため、相続税法では、相続又は遺贈により取得した財産以外の財産であっても一定の財産については相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税の課税対象としています。 例えば、相続税法は、被相続人の死亡により相続人等が、損害保険契約(保険業法第2条第4項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める一定の契約をいいます)の保険金で、偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものを取得した場合において、その保険料を被相続人が負担していたときには、その保険金は、その保険金の受取人が相続(その者が相続人である場合)又は遺贈(その者が相続人ではない場合)により取得したものとみなして、相続税の課税対象としています (相法3①一)。 2 人身傷害保険 ところで、多くの自動車保険では、契約の特約条項として人身傷害保険がセットされています。人身傷害保険が付保されている自動車保険契約では、その保険に加入している本人、その家族又は同乗者(これらの者を「被保険者」といいます)が自動車事故により①傷害を受けた場合、②後遺症が残った場合又は③死亡した場合には保険金が支払われます。保険金額は、葬儀費用、精神的損害及び逸失利益などを基に、契約に定められた限度額の範囲内で算定されます。これらのうち、③の被保険者の死亡による保険金の支払いを受けた場合(保険料の負担者が被相続人であるときに限ります)には、この保険金は、原則として、相続税法第3条第1項第1号の規定に基づき、保険金の支払いを受けた者が相続又は遺贈により取得したものとみなされて、相続税の課税財産に含まれることとなります(注)。 (注) ただし、保険金額のうち損害賠償金の性格を有する金額がある場合には、当該金額を除いた金額が、相続税の課税対象となります(平成11年10月18日課審5-1ほか「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について(平成11年10月4日付照会に対する回答)」(以下、国税庁回答)といいます)参照)。 3 令和7年10月30日最高裁第一小法廷判決 被相続人甲が車両を運転中に自損事故を起こして死亡し、人身傷害保険金が支払われることとなった場合において、甲の子である乙(相続を放棄しています)が、当該車両に係る自動車保険契約の保険者である上告人(保険会社)に対し、当該保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項(以下「本件人身傷害条項」という)に基づく甲の人身傷害保険金の請求権を自らが取得したと主張し、人身傷害保険金の支払を求めて提起した訴訟において、令和7年10月30日に、最高裁判所第一小法廷は、次のように述べ、この人身傷害保険金の請求権は、被保険者の相続財産に属するものと解することが相当であるとの判断を示しました(以下、この判決を「最高裁判決」といいます)。 本件人身傷害条項によれば、人身傷害保険金は人身傷害事故により生ずる損害に対して支払われるものとされ、本件人身傷害条項の柱書きは、保険金請求権者を「人身傷害事故により損害を被った」者とする旨を定めている。また、本件人身傷害条項では、人身傷害保険金を支払うべき損害の額について、損害項目に応じて、これを実費、あるいは、損害の程度等を踏まえた特定の方法により算定される額としており、人身傷害保険金の額は、人身傷害事故により生ずる具体的な損害額に即して定まるものとされている。そして、損害を填補する性質の金員の支払等がされた場合は、当該金員の額を控除するなどして人身傷害保険金を支払うものとされている。これらの点からすれば、本件人身傷害条項において、人身傷害保険金は、人身傷害事故により損害を被った者に対し、その損害を填補することを目的として支払われるものとされているとみることができる。 そして、本件人身傷害条項では、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合においても、精神的損害につき被保険者「本人」等が受けた精神的苦痛による損害とする旨の文言があり、逸失利益につき被保険者自身に生ずるものであることを前提とした算定方法が定められていることからすれば、死亡保険金により填補されるべき損害が、被保険者自身に生ずるものであることが前提にされているといえる。 以上のような本件人身傷害条項の文言、本件人身傷害条項の他の条項の文言や構造等に加え、保険契約者の通常の理解を踏まえると、本件人身傷害条項は、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合を含め、被保険者に生じた損害を填補するための人身傷害保険金の請求権が、被保険者自身に発生する旨を定めているものと解すべきである。本件人身傷害条項中のただし書は、死亡保険金の請求権について、被保険者の相続財産に属することを前提として、通常は法定相続人が相続によりこれを取得することになる旨を注意的に規定したものにすぎないというべきである。 4 最高裁判決の判示から生ずる相続税における問題点 人身傷害補償保険に係る保険金に対する課税関係については、上記2の(注)の国税庁回答により、国税当局の見解が示されているところですが、最高裁判決の判示内容からは、次のような相続税等の課税上の疑問点を指摘することができます。これらの点について、今後、どのように考え方の整理されるのかが注目されます。 5 ご質問の場合 最高裁判決を踏まえれば、ご質問の人身傷害保険金2,000万円の請求権は、相続税法第3条第1項第1号に規定されるみなし相続財産ではなく、亡くなられたお父様の本来の相続財産として相続税が課税されることとなるのではないかとの疑問が生じます。 しかしながら、同様の保険金請求権が、相続財産なのか、あるいは相続人等が原始的に取得する相続人等の固有の財産なのかという点に関しては、従前より両方の学説があるところです(上記1の(注))。その点をも踏まえたうえで、課税上の疑義の生じることのないよう、相続税法は、被相続人の死亡に伴い相続人等が支払いを受ける保険金については、保険契約に基づいて保険金受取人である相続人等が原始取得したものであると整理し、みなし相続財産として課税する旨を定めたものと考えられます。 そうしますと、最高裁判決を契機に、今後、新たな規定又は取扱いが示されれば格別、現時点では、これまでどおりみなし相続財産として取り扱うことが相当であると考えられます。 したがって、あなたが支払いを受けた2,000万円の人身傷害保険金は、相続人であるあなたが相続により取得したものとみなして、非課税金額500万円を控除した残額(1,500万円)を相続税の課税対象とすればよいと考えます。 (了)
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所得税
税務
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給与計算の質問箱 【第71回】「令和8年分源泉徴収税額表の変更点」
給与計算の質問箱 【第71回】 「令和8年分源泉徴収税額表の変更点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和8年分源泉徴収税額表は、令和7年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 給与と賞与の源泉徴収税額表が変更になった。退職所得の源泉徴収税額表は変更がなかった。具体的には、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 令和7年度税制改正において、所得税の基礎控除の見直し等が行われたことに伴い、税額や扶養親族等の数の算定方法が変更となっている。 1 「税額表の使い方」の変更点〈19~20頁〉 令和7年では「控除対象扶養親族」であったが、令和8年では「源泉控除対象親族」に変更となった。以下、赤枠が変更点である。 《令和7年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成 2 「扶養親族等の数の算定方法」の変更点〈20~21頁〉 《令和7年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和7年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 (了)
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国際課税
税務
税務・会計
解説
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第83回】「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その1)」~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第83回】 「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その1)」 ~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、 租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~ 税理士 中野 亘 1 はじめに 海外子会社への貸付利率をいくらに設定すべきか。 グループ内取引で最も日常的かつ誤りやすい論点である。金銭貸借取引は、単価や数量といったモノの価格ではなく、「利率」という抽象的指標で判断されるため、算定過程の合理性を欠くとたちまち課税調整の対象になる。 平成29年9月26日の国税不服審判所の裁決は、こうした金銭貸借取引の実態を掘り下げ、独立企業原則の運用を実務的に整理した事例である。特筆すべきは、表面上の金利水準ではなく、算定プロセスの妥当性を中心に検証している点である。 本稿では、本件の事案の概要、課税庁と請求人双方の主張、そして審判所の判断を詳細にたどり、実務上の留意点を抽出する。 2 事案の概要 請求人は、国内で製造販売業を営む法人であり、平成25年にK国へ100%出資の子会社(以下「K社」)を設立した。K社は現地で販売拠点を担う子会社であったが、設立当初は売上規模が小さく、自己資本も脆弱であったため、設備資金及び運転資金を親会社である請求人が支援する形で貸付を行った。 貸付は2件。いずれも米ドル建てで、期間は5年、利率2.00%。貸付資金は請求人の手元資金(内部留保)を充当し、外部借入によるものではなかった。貸付契約書は作成され、利払条件や返済期日は定められていたが、利率の根拠を示す資料は添付されていなかった。 K社は設立後2年間、営業赤字を計上し、資金繰りが厳しかったが、同期間中に第三者金融機関からの借入実績はなかった。請求人はこの状況を踏まえ、「通常の商業金利では負担が大きすぎる」として、2.00%の支援的利率を設定したと説明していた。 一方、課税庁は、移転価格税制上の「独立企業間価格」に基づき、より高い利率を採用すべきと判断し、請求人に対し、益金不算入となっていた利息部分を追加課税した。 〈事案の概要図〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 3 課税庁及び請求人の主張 (1) 課税庁の見解 課税庁は、租税特別措置法66条の4(※1)に基づく国外関連取引のうち、金銭貸借取引に該当するものであり、独立企業間価格での算定が必要であるとした。 (※1) 租税特別措置法第66条の4(国外関連者との取引に係る課税)〔平成26年改正前〕 「内国法人が国外関連者と行う取引について、当該取引に係る対価が独立企業間価格に満たない場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとみなす。」 ⇒ 国外関連者との取引価格を独立企業原則に沿って修正する根拠条文。 (現行法補足:令和元年改正により11項以下で文書化義務を明文化し、マスターファイル・ローカルファイルの提出義務を追加) ただし、独立価格比準法や再販売価格基準法などの基本三法では直接比較できる取引が存在しないため、「同等の方法」(移転価格事務運営指針2-7(※2))による算定が最も合理的であるとした。 (※2) 移転価格事務運営指針2-7(三段階利率法)〔平成28年版〕 「借手の銀行調達利率 → 貸手の銀行調達利率 → 国債等の運用利率の順に検討する。」 ⇒ 本件審判で採用された算定手法の根拠。 (現行法補足:令和3年改訂で通貨別市場金利参照順位を明文化。為替スワップコスト考慮を推奨項目として追加) また、課税庁は、移転価格事務運営指針2-6(※3)(金銭貸借取引の独立企業間価格算定)に照らしても、本件のようなグループ内貸付であっても実態に応じた市場利率を採用すべきだと主張した。すなわち、金銭貸借取引の利率は、独立企業間で設定されると認められる利率を基礎として決定されなければならず、支援目的や資金余力を理由に低利とすることは許されないと主張した。 (※3) 移転価格事務運営指針2-6(金銭貸借取引の独立企業間価格算定)〔平成28年版〕 「金銭貸借取引については、取引の実態に応じ、独立企業間で設定されると認められる利率を基礎として算定する。」 ⇒ 形式ではなく実態(貸借期間・信用度)に即した算定を求める。 (現行法補足:令和3年6月改訂により『担保・保証付取引の調整方法』を追記し、より精緻化された) 具体的には、貸手の銀行調達利率方式を採用し、当時の日本の5年物スワップレート1.1%に、中小企業向け貸出金利のスプレッド1.5%を加算。これにより独立企業間利率を2.6%前後と算出した。 課税庁は、請求人の設定した2.00%は市場実勢を下回るとして、「独立企業間価格との差額を益金算入すべき」と主張した。 また、課税庁は「内部留保を原資にしている点は利率設定の根拠にはならない」と指摘。独立企業原則はあくまで“取引単位の市場合理性”で評価されるべきであり、親会社の資金余力や子会社の経営支援目的は利率設定の妥当性を担保しないとした。 (2) 請求人の主張 請求人は、まず本件貸付が「経営支援目的」である点を強調し、「K社は設立直後の赤字企業であり、通常の借入金利を適用すれば返済不能となる。したがって、独立企業原則の適用においても、合理的経済人であれば同様に低利融資を行う」と主張した。 また、法人税基本通達9-4-2(※4)を引用し、「倒産防止等のためやむを得ず行う無利息貸付は寄附金課税の対象外」と規定されている点から、本件もそれに準じて扱うべきだとした。 (※4) 法人税基本通達9-4-2(無利息貸付け等)〔平成26年改正版〕 「倒産防止のためにやむを得ず行う無利息貸付けで、合理的再建計画に基づくものは、寄附金課税の対象としない。」 ⇒ 再建計画の存在が要件。単なる支援貸付には適用されない。 (現行法補足:令和2年改訂により『資金繰計画・経営改善計画を伴う場合』が要件として明文化。実証資料がなければ寄附金認定リスクが高い) さらに、請求人は、「仮に利率を上げた場合、子会社の財務が悪化し最終的にグループ全体の損益を損なう」と説明し、経済合理性の観点からも支援的利率が妥当であると述べた。 加えて、請求人は課税庁の算定した2.6%という利率が「机上の数値」であり、実際のK国金融市場や為替リスクを十分考慮していないと指摘。現地通貨ベースの金利構造や為替ヘッジコストを加味すれば、2.00%前後がむしろ合理的であると反論した。 なお、請求人は移転価格事務運営指針2-6を明示的に引用してはいないものの、「金銭貸借取引の実態に応じた利率設定が独立企業原則に適う」との立場をとっており、その主張内容は同指針の趣旨と整合していた。 4 審判所の判断 審判所はまず、租税特別措置法第66条の4第2項(※5)に基づき、国外関連取引の独立企業間価格は「当該取引の内容に応じ、最も適切な方法で算定した金額」と定義されると確認。 (※5) 租税特別措置法66条の4第2項(独立企業間価格の定義)〔平成26年改正前〕 「独立企業間価格は、当該国外関連取引の内容に応じ、最も適切な方法により算定した金額とする。」 ⇒ 各取引の性質に応じて柔軟な方法選定を認める規定。 (現行法補足:令和元年改正後も文言変更なし。ただし第11項以降との体系整理により、“最も適切な方法”の選定根拠が文書化義務の対象範囲に統合) また、移転価格事務運営指針2-6における「金銭貸借取引に係る実態に即した算定原則」を前提とし、本件取引の実質を分析した。すなわち、貸手・借手の双方における調達・運用環境を把握したうえで、実際に独立企業間で成立しうる利率範囲を導出することが求められるとした。 この「最も適切な方法」を判断するにあたり、移転価格事務運営指針2-7の三段階利率法を採用し、順に検証を進めた。 審判所も、移転価格事務運営指針2-6の「実態に応じた独立企業間価格の算定原則」を踏まえ、貸手・借手双方の資金状況と取引実態を総合的に検討した。すなわち、単に市場金利を参照するのではなく、当該取引が独立企業間で成立しうる合理的利率の範囲にあるかどうかを重視した。 (1) 借手側の検討 K社の現地金融機関における借入実績を調査したが、設立後2年間は赤字が続き、融資残高ゼロ。したがって市場調達金利を推定する資料が存在しなかった。 また、現地通貨建ての金利情報はあったものの、本件は米ドル建てであり、為替スワップのコストを反映しなければ比較にならないと判断された。 (2) 貸手側の検討 請求人については、無借金経営であり、銀行からの借入実績がないことが確認された。 審判所は「内部留保による資金余力は、資金調達コストゼロを意味するものではない」とし、企業が仮に他に運用した場合の機会利得を考慮すべきと指摘した。 ただし、具体的な代替運用利率を示すデータがなかったため、実証的比較が困難であると結論づけた。 (3) 第三段階の適用(国債等の運用利率法) 上記を踏まえ、審判所は「国債等の運用利率」を基礎とする方法が最も合理的と判断。 米国5年国債利回り(1.4%)に、信用リスクプレミアム(0.6%)を加算し、2.0%を独立企業間価格と認定した。この計算に際し、審判所はK社の信用リスクを「無担保・保証なし・グループ内保証なし」と位置づけ、BBB格相当のリスクプレミアムを採用。 結果として、請求人が設定した2.00%は、統計的レンジの中間値にほぼ一致すると認定した。 (4) 法人税基本通達9-4-2の適用可否 請求人が主張した法人税基本通達9-4-2の「無利息貸付け等に相当な理由がある場合」について、審判所はその趣旨が「倒産防止を目的とし、合理的再建計画に基づく貸付」に限定されると明示。 本件は、設立支援・資金繰り補助の域を出ず、再建計画やモニタリング体制が存在しないため、通達の適用対象外と判断した。 (5) 判断の総括 最終的に審判所は、「請求人の利率設定は結果的に独立企業間価格の範囲内にある」として、更正処分の一部を取り消した。 ただし、「利率設定の根拠資料や算定手順の文書化が不十分であった」として、形式的合理性の欠如を指摘。「結果的に一致しても、合理的算定過程が欠ければ独立企業原則の遵守とは言えない」と明確に述べた。 また、審判所は「独立企業間価格は単一値ではなく合理的レンジとして捉えるべき」と補足し、OECDガイドラインの考え方と整合させた。 この判断は、令和以降の三段階利率法運用にも影響を与えたと評価されている。 ((その2)へ続く)
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〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第14回】「サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツ ~全体像を描く4つの柱」
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第14回】 「サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツ ~全体像を描く4つの柱」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * IFRS S1及びS2や、それと整合する我が国のSSBJ基準では、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を行うにあたり、次の4要素を開示することが求められています。 * * * * * * なお、我が国の有価証券報告書の「第2 事業の状況」にはすでに「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が設けられています(※1)。ここでも、4要素に基づく開示が求められています。 (※1) 2023年1月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等改正により、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が新設され、2023年3月期決算から適用されている。 * * * (※2) ただし、人的資本に関する「戦略」と「指標及び目標」に関しては、人材育成方針や社内環境整備方針、それらの方針に関する指標の内容、その指標を用いた目標・実績の開示が必須とされる。 * * * SSBJ基準は次のように構成されます。 「適用基準」はコア・コンテンツ以外の基本事項を定めており、「一般基準」と「気候基準」はどちらも4つのコア・コンテンツを定めるものです。 【SSBJ基準の構成】 (※) 適用基準と一般基準を合わせたものがIFRS S1に相当し、気候基準はIFRS S2に相当する。 * * * * * * これに対し、「一般基準」は、コア・コンテンツに関して一般的・汎用的な内容を定めるものです。「一般基準」以外のSSBJ基準で、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示について具体的に定められている場合には、その定めに従うものとされています。 * * * * * * ①の「ガバナンス」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して、企業のガバナンス機関や経営陣がどのように監督や役割を果たしているかを開示するものです。 * * * * * * ②の「戦略」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を開示するものです。企業がどのようなサステナビリティ関連のリスク及び機会に直面し、それが企業のビジネス・モデルや財務面などにどのような影響を及ぼすのか、戦略や意思決定にどのように組み込まれているのかを、具体的に説明します。 * * * * * * ③の「リスク管理」は、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、優先順位付けし、モニタリングするプロセスを開示するものです。また、そうしたプロセスが全社的なリスク・マネジメントにどのように統合されているかも示すことが求められます。 * * * * * * ④の「指標及び目標」は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に対する企業の取り組みについて、その進捗や成果を測定するための指標や設定した目標を開示するものです。 * * * * * * これら4要素が開示されることで、利用者はサステナビリティ関連のリスク及び機会、そしてそれが企業の財務や企業価値に及ぼす影響を含めた全体像を把握できると言えます。 * * * * * * * * * * * * Q サステナビリティ関連財務開示のコア・コンテンツとは? A サステナビリティ関連財務開示では、①ガバナンス・②戦略・③リスク管理・④指標及び目標という4つのコア・コンテンツを開示することが求められます。4つの要素が開示されることで、利用者は、企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する全体像を理解できます。 (了)
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連結会計を学ぶ(改) 【第9回】「親会社及び子会社の会計方針の統一」
連結会計を学ぶ(改) 【第9回】 「親会社及び子会社の会計方針の統一」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 親会社及び子会社の会計方針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、原則として統一することとされている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)17項)。 当該取扱いに関連して次のものが公表されているので、実務の適用に際しては、これらの規定をよく理解する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 親子会社間の会計処理の統一 1 基本的な考え方 親子会社間の会計処理の統一は、平成9年6月6日に改訂された「連結財務諸表原則」において規定されたものであり、同一の環境下にあるにもかかわらず、同一の性質の取引等について連結会社間で会計処理が異なっている場合には、その個別財務諸表を基礎とした連結財務諸表が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の適切な表示を損なうことは否定できないと考えられたことによる(連結会計基準57項)。 「原則として統一する」とは、①統一しないことに合理的な理由がある場合又は②重要性がない場合を除いて、統一しなければならないことを意味する(会計処理統一実務指針3項)。 会計処理統一Q&Aでは、次のように述べている(会計処理統一Q&AのQ2)。 持分法の適用対象となる非連結子会社についても、連結子会社と同様に、原則として統一する(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号)9項、21項、会計処理統一実務指針3項)。 2 基準性の原則 「連結財務諸表は、企業集団に属する親会社及び子会社が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成した個別財務諸表を基礎として作成しなければならない。」として、いわゆる「基準性の原則」を定めている。 「基準性の原則」の下では、親子会社間の会計処理の統一は、各個別財務諸表の作成段階で行うことが原則となる(会計処理統一Q&AのQ1)。 各連結会社の個別財務諸表の作成段階においては、適用されていない特定の会計方針を、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をより適正に表示するという観点から、連結決算手続上、個別財務諸表の処理を修正して適用する場合もある(会計処理統一Q&AのQ1)。 3 親子会社間の会計処理の統一に関する監査上の取扱い 会計処理統一実務指針は、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親子会社間の会計処理を統一する手順を次のように規定している(会計処理統一実務指針4項、会計処理統一Q&AのQ3)。 【親子会社間の会計処理を統一する手順】 なお、親子会社間の会計処理の統一を目的として会計方針を変更する場合には、連結財務諸表及び個別財務諸表上、これを「正当な理由」による会計方針の変更として認めるものとされている(会計処理統一実務指針4項(4)、会計処理統一Q&AのQ7~Q9)。 4 個別の会計処理基準等に関する取扱い 会計処理統一実務指針は、(1)原則として統一すべき会計処理と(2)必ずしも統一を必要としない会計処理に分けて規定している。 (1) 原則として統一すべき会計処理 資産の評価基準、同一の種類の繰延資産の処理方法、引当金の計上基準及び営業収益の計上基準については、統一しないことに合理的な理由がある場合又は重要性がない場合を除いて、親子会社間で統一する。 例えば、営業収益の計上基準については、原則として事業セグメント単位等ごとに、企業集団内の親会社又は子会社が採用している計上基準の中で、企業集団の財政状態及び経営成績をより適切に表示すると判断される計上基準に統一する(会計処理統一実務指針5項(1))。 (2) 必ずしも統一を必要としない会計処理 資産の評価方法及び固定資産の減価償却の方法については、本来統一することが望ましいが、事務処理の経済性等を考慮し、必ずしも統一を要しないものとされている(会計処理統一実務指針5項(2))。 5 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合の取扱い 会計処理の統一にあたっては、より合理的な会計方針を選択すべきであり、子会社の会計処理を親会社の会計処理に合わせる場合のほか、親会社の会計処理を子会社の会計処理に合わせる場合も考えられる(連結会計基準58項)。 連結決算手続上、親会社の会計処理を修正した場合で、その影響額が重要なときには、その旨、修正の理由及び当該修正が個別財務諸表において行われたとした場合の影響の内容を連結財務諸表に追加情報として注記しなければならない。この場合の重要性の判断基準については、例えば、財務諸表項目の連単倍率等の算定において極めて重要な影響を及ぼす場合等が考えられている(会計処理統一実務指針6項、会計処理統一Q&AのQ10、Q11)。 (了)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第71回】「底地取引をめぐる新しい動向と鑑定評価」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第71回】 「底地取引をめぐる新しい動向と鑑定評価」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 旧借地法の下で締結された土地の賃貸借契約で長期間にわたり継続しているものについて、地代の利回り(=年額地代÷更地価格×100%)を計算した場合、経済合理性という観点からみて著しく低いものとなっているのが一般的な傾向です。 その理由は、旧借地法による借主保護という観点から、地価が上昇してもこれに見合う十分な地代に改定することが難しいという事情が大きく影響していたことが様々な方面から指摘されています。 そのため、土地の賃借人がいる状態でその土地の所有権(すなわち、底地の所有権)を取得しようと考える人は、一般市場においてはきわめて限られているのが実情です。 しかし、平成4年8月1日から新しい借地借家法が施行され、事業用定期借地権が活用されるに伴い、ここ最近、従来とは異なるスタイルでの底地取引が見受けられるようになってきました。 例えば、J-REITによる事業用不動産の敷地の取得です(ここで取得の対象とされているのは、あくまでも土地の賃借人がいる状態における土地の所有権であり、これがまさに底地に他なりません)。 このような新しい動向は、2025年9月29日付日本経済新聞朝刊にも「『底地ビジネス』10兆円市場」(※1)という大きな見出しで掲載されています。 (※1) この記事では、土地と建物の所有権を分離し、土地のみを取引する「底地ビジネス」が拡大しているとし、それは企業が資産の効率化に向けて土地の売却を進めていることが要因であり、米投資ファンドのKKRやイオンリテールが活用している旨が紹介されています。 そこで、今回はこのような動向を鑑定評価という視点も交えながら分析してみたいと思います。 2 J-REITによる底地取得の状況 J-REITによる投資不動産の用途は、2001年3月に東京証券取引所に上場市場が創設されて以来しばらくの間は、そのほとんどがオフィス、共同住宅、商業施設であったといわれています。しかし、現在では、物流施設、ホテル、ヘルスケア施設、工場だけでなく、底地に至るまで幅広い領域にわたっています。 ちなみに、底地に関しては、J-REITの投資全体に占める割合は少ないものの、以下の〈資料1〉及び〈資料2〉にみられるとおり、(年度により変動があるものの)ここ最近、J-REITが底地を積極的に取得している傾向にあることが読み取れます。 〈資料1〉 J-REITの価額増加分に係る用途別の割合の推移 (注) J-REITの各年における取得価額の合計から売却物件の取得価額の合計を差し引いた価額分の用途別の割合を示したもの。 (出所) 一般財団法人土地総合研究所「土地総研リサーチ・メモ『J-REITにおける不動産投資の動向~2024年の状況』(2025年3月4日)」から抜粋。 〈資料2〉 J-REITの物件数増加分に係る用途別の割合の推移 (注) J-REITの各年における取得物件数の合計から売却物件数の合計を差し引いた物件数の用途別の割合を示したもの。 (出所)上記〈資料1〉と同様。 3 J-REITによる底地取得の動機 それでは、従来のわが国の借地事情に照らし、流動性がきわめて乏しく、投資利回りの著しく低い底地に対し、J-REITが積極的な取得の姿勢を示している動機にはどのようなものがあるのでしょうか。 旧借地法の制約下で、貸主にとって将来返還を受けることがきわめて難しく、しかも地代改定もままならない底地であれば、それが新たな投資対象として着目されることなどないはずです。現在、J-REITが底地取得に関心を示している背景には、従来の底地事情とは全く異なる考え方が存在していると思われます。 その主なものとして、次の点が各方面から指摘されています。 (※2) 併せて、次の指摘も見受けられます。 「敷地のみの保有であれば、建物整備コストがない分初期投資が小さくなり、投融資による新たな資金調達の必要性が相対的に低くなるほか、テナント退去等による賃料減収リスクが低く(実際、底地物件に立地する建物の大部分は商業施設である)、減価償却や維持・修繕がないため建物に比べて管理コストが低く、災害等による資産価値の下落リスクも低い(建物からのテナント退去は相当程度の確度で想定されるが、土地から建物を整備・保有するテナントが退去することは、建物等に係る初期投資や建物撤去費用などを勘案すれば、建物からの退去に比べ、かなり確度が低くなる)。」(一般財団法人土地総合研究所「土地総研リサーチ・メモ『J-REITにみる不動産証券化市場における取引主体の傾向(前編)』」、2022年12月1日) なお、〈資料3〉は、上記のような動機によって底地が生じるイメージを表わしたものです。 〈資料3〉 底地が生ずるイメージ 上記のように、土地建物から敷地のみが分離して売却された場合(結果としてその土地は底地に変化します)、売主はその後、当該土地を借地することにより建物を継続使用することとなります(いわゆる「セール・アンド・リースバック」です)。このような状況を踏まえれば、J-REITの底地取引はファイナンス的色彩が強いという捉え方もできると思われます。 4 J-REITが保有する事業用不動産の底地の利回り水準 J-REITが保有する事業用不動産の底地の利回り水準についての調査資料(ただし、公表されているもの)としては、三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部作成の「不動産マーケットリサーチレポート(VOL.210(2022年6月17日))」があげられます。 これは、J-REITが情報開示している物件運用のデータを基に、同行が事業用不動産の底地の利回りの水準等について分析したものであり、概略は以下のとおりです。ただし、調査時点からやや期間が経過していることもあり、現時点においては利回りの数値自体が変動していることも考えられます。そのため、(これは筆者の見解ですが)ここに掲げた割合は絶対的な尺度というよりも、(後掲する)旧借地法下における底地の利回りとの相対的な比較をする際の物差しという意味で参考にしていただければと思います。 ちなみに、上記レポートによれば、投資家側の視点では、事業用不動産の底地の地代と取引価格の関係は期待する利回りによって決まるが(底地の地代(純収益・NOI(※3))÷利回り=価格)、NOIを(当時の)鑑定評価額で割り戻して求められた利回りの平均は4.4%、中央値は4.3%と報告されています。 (※3) 地代収入-固定資産税・都市計画税-管理費用=純収益(NOI) さらに、ここでは特記すべき事項として次の点が併せて指摘されており、留意が必要と思われます。 (※4) 筆者注。価格が高くなれば利回りが低くなるという逆相関の関係にあるためです。 (※5) 筆者注。このような場合、(※4)に掲げたケースと同じく利回りは低くなる傾向にあります。 5 旧借地法下における土地賃貸借契約の底地の利回り水準 日税不動産鑑定士会(税理士と不動産鑑定士の2つの資格保有者で組織する会)では、継続地代の実態(ただし、東京都23区を中心として)を昭和49年から3年ごとに調査し、その結果を「継続地代の実態調べ」(成果物)として刊行しています。 以下、同会ホームページに掲載された「令和6年版(第18回)『継続地代の実態調べ』をめぐって」のなかから調査結果の一部を参照させていただき、旧借地法下における底地の利回りの水準について振り返ってみます。 6 まとめ 旧借地法の下で締結された土地賃貸借契約に関しては、「底地の利回りは著しく低い」というのが従来からの傾向であり、このことは現在でも変わりはありません。しかし、J-REITが取得し保有している物件に関しては事情が異なることは、今まで述べてきたことから理解できると思います。 不動産鑑定士としても、従来の常識だけに捉われず、新しい知識を吸収するとともに市場の動向を見極めながら鑑定業務に携わる必要があることを痛感させられます。 (了)
