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2025年11月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.646を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第54回】「定年延長と退職所得課税」-10年退職金事件・最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁の今日的意義と「雇用継続税制」-
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第54回】 「定年延長と退職所得課税」 -10年退職金事件・最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁の今日的意義と「雇用継続税制」- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 近時、退職所得課税の見直しが盛んに議論されるようになってきた。政府税制調査会では比較的早くから退職所得課税について「支給形態の多様化」、「雇用の流動化」、「課税の中立性」を主たる課題として検討がされてきたところである(油井雅志「退職金制度等における課税上の諸問題について―定年延長等における打切支給の取扱いを中心に―」税務大学校論叢110号(2023年)79頁、125頁以下参照。税制調査会「我が国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」(令和5年6月)96頁も参照)。今回の原稿執筆中にも、「退職金課税の改正見送り」という見出しで「政府・与党は退職金課税の改正を2026年度は実施しない方針だ。政府で本格的な議論に上がって以降、見送りは3年連続となる。」旨が報じられた(日本経済新聞2025年11月15日朝刊5面)。 そのような議論状況の下、「近年における少子・高齢化の進展や公的年金等の支給開始年齢の段階的な引上げ等に伴い、高齢者雇用に関する就業機会の確保が求められることになり、企業において定年延長等の雇用制度の変更による労働環境の整備がなされている」(油井・前掲論文140頁)昨今、「定年延長等に伴い、退職手当を定年延長前の旧定年で支給する、いわゆる打切支給の退職金が支給されるケースも増えていると想定される」(同100-101頁)ところ、今回は、かつていわゆる短期定年制の下での打切支給退職金の退職所得該当性が争われた10年退職金事件に関する最判昭和58年12月6日訟月30巻6号1065頁(以下「本判決」という)の判断内容を検討し、その今日的意義に関連して若干の立法論的提言を述べることにする。 Ⅱ 退職所得課税の一般法理 1 退職所得の3要件 本判決は、まず、その約3か月前に示された5年退職金事件・最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁(以下「別件最判」という)を参照してこれと文言・表現上もほぼ同じ判示をもって退職所得課税の趣旨並びに退職所得の意義及び要件に関する一般法理を明らかにした。この一般法理に関する別件最判の判示は次のとおりである(下線【A】【B】【C】【D】筆者)。 別件最判については、「退職所得の意義と範囲を正面から問題とした最初の最高裁判所の判決であり、その意味で今後判例として重要な位置を占めてゆくことになると思われる」(金子宏「判批」判例評論313号(判例時報1139号)17頁、18頁。筆者の評価も同じであるが、これについては拙稿「判批」別冊ジュリスト120号(租税判例百選〔第3版〕・1992年)58頁、59頁参照)と評されている。 別件最判は「退職所得に対する優遇課税についての立法趣旨」(前記判示下線部【B】。同【A】参照)に照らして「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」(所税30条1項)という定めを解釈し3つの要件(同【C】の(1)(2)(3))を定立した。ここで問題となるのは、その定めや要件(1)にいう「退職」を私法からの借用概念と解すべきか又は税法上の固有概念と解すべきかである(「これらの性質を有する給与」についてもこれが「退職により一時に受ける給与と同じ性質を有する給与」(金子・前掲「判批」20頁)を意味することから、同じ議論が成り立つ)。この問題について、前者と解する見解(退職=借用概念説)は、筆者の知る限り、その理解を少なくとも文字どおり説くものとしては見当たらないが、後者と解する見解(退職=固有概念説)にも、次の2でみるように大別して2とおりの見解があるように思われる。 2 固有概念としての「退職」 退職=固有概念説には、1つには、本判決について「判旨は、『本件金員の支給を受けた従業員は、一たん退職したうえ再雇用されるものではなく、従前の雇用契約がそのまま継続しているとみるべきである』と判示し、このことをもって結論を導く一つのファクターとしているように見える。」(金子・前掲「判批」19頁)と述べた上で、次のとおり述べる見解がある(同19-20頁。下線筆者)。 この見解は、退職=借用概念説によると、給与所得と退職所得とが労務の対価として同じ性質をもつ所得であることから、退職所得に対する優遇課税が給与所得から退職所得への所得種類の転換による一種の租税回避(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【248】参照)の明白かつ容易な誘因となることを考慮するものであり、優遇課税を定める規定の解釈に当たってその立法趣旨の探究上留意すべき観点を示すものとして説得力をもつと考えられる。別件最判に関する調査官解説が「退職」について、「退職(雇傭契約の終了)の実質」(新村正人「判解」最判解民事篇(昭和58年度)356頁、364頁)及び「再雇傭(新たな雇傭契約の締結)の実質」(同365頁)で構成される「実質」を伴う退職を問題にするのも、そのような観点を考慮したものと解される。 ただ、上記の調査官解説が退職について問題にする「実質」は、退職の法的実質を重視するもの(法的実質主義)であり退職の経済的実質までをも問題にするもの(経済的実質主義)ではないと考えられる(法的実質主義と経済的実質主義については前掲拙著【57】参照)。というのも、調査官解説は、借地権利金「経済的実質」事件・最判昭和45年10月23日民集24巻11号1617頁(第10回、第51回)を「所得分類の問題に関して経済的実質の同一性に着目して税法の類推解釈を示していることに先例性を有している」(山田二郎「所得税法における所得の分類」民商法雑誌78巻4号(1978年)297頁、304頁)とみて下記のとおり説く見解(同307頁。下線筆者)について、「右の見解は、本件事実関係において定年制の定めは全く存しないにもかかわらず、これがあるかのようにとらえている点で問題がある。」(新村・前掲「判解」371頁。下線筆者)として、「本判決はこれを採用しなかった。」(同370頁)と述べているからである。 この見解(山田説)は、退職ないし退職金の経済的実質を重視するものであり、退職=固有概念説に属するものといえようが、前記の調査官解説や前記の見解(金子説)のように退職の法的実質を重視するものとは区別すべきであろう。 このようにみてくると、退職=固有概念説に属すると考えられる上記の2とおりの見解の当否を考えるに当たっては、前記の調査官解説が説くように、企業における「定年制の定め」の有無及び内容が重要な意味をもつように思われる。そこで、別件最判の事案とは異なり、「勤続満10年定年制」が会社の就業規則・退職金規程で定められていた事案に関する本判決の判断を次のⅢで検討することにしよう。 Ⅲ 退職の「実質」を伴う定年制と退職所得課税 本判決は、退職所得課税の一般法理に関する前記の判示に続けて、これを本件についてみて、「勤続満10年定年制」について次のとおり判示した(下線筆者)。 その上で、本判決は、本件勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金に対する退職所得課税について、次のとおり、退職・再雇用の「実質」(前記調査官解説参照)をうかがわせるような「特別の事情」が存することを必要とする旨を判示した(下線筆者)。 もっとも、本判決には、本件勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金の「経済的実質」に着目しこれに対する退職所得課税を認める横井大三裁判官の反対意見があったが、本判決は、結論として、原判決を審理不尽の違法により破棄し、上記の「特段の事情」等について更に審理を尽くさせるために本件を原審に差し戻した。差戻控訴審・大阪高判昭和59年5月31日判タ534号115頁は本件について次のとおり判示して上記の「特段の事情」を認めなかった。 以上のように、本判決及びその後の差戻控訴審判決は、退職の「実質」に関する「特段の事情」を厳格かつ限定的に解し認定しようとする態度を示したものと解されるが、その態度は妥当である。退職の「実質」すなわち前記の調査官解説の言葉を借りると「退職(雇傭契約の終了)の実質」及び「再雇傭(新たな雇傭契約の締結)の実質」を厳格かつ限定的に捉えることは、一般に法的実質と経済的実質との区別が困難であり微妙な判断を要することからすると、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能の観点からみて妥当である。しかも本件とは異なり「租税回避の目的」が認められる場合の「特段の事情」の認定については特に慎重な態度が必要であると考えるところである(第15回、第16回、第24回、第25回等のほか、前掲拙著【73】以下参照)。 退職所得課税に関する所得税法30条1項の解釈適用について、同様の考え方及び態度は課税実務も採るものであると考えられる。所得税基本通達30-2は次のとおり定めている。 この通達規定について別件最判に関する調査官解説は次のとおり述べている(新村・前掲「判解」369頁。傍点原文・下線筆者。なお、上記通達規定の(5)については同370頁(注3)参照)。 この解説によれば、前記通達規定の(4)及び(5)の場合も「勤務関係の実態において、一たん退職し再雇傭されたとみるべき実質がある場合」に当たり、したがって、そこでいう「定年」は、退職の「実質」(法的実質)を伴う定年制によるものであるということになろう。 Ⅳ おわりに 今回は、勤続満10年定年制に基づく打切支給退職金の退職所得該当性について本判決の判断内容を検討し、本判決はその判断に当たって退職の「実質」を法的実質として厳格かつ限定的に捉える態度を示した妥当な判決であるとの理解を示した上で、同様の考え方及び態度は所得税基本通達30-2にも認められる旨を述べた。 そうすると、本判決の今日的意義は、この通達規定とりわけ(4)及び(5)の場合に見出すことができるように思われる。このことは、近時盛んに議論されてきた退職所得課税の見直しにおいても重要な意味をもつと考えるところである。 これまでは退職所得課税の見直しに当たってその優遇課税の弊害を中心に議論され、その議論は二分の一控除(所税30条2項)の制限又は排除という形で、平成24年度税制改正では特定役員退職手当等(同条5項)について、令和3年度税制改正では短期退職手当等(同条4項)について具体化された。 ただ、前記Ⅰで述べたような近年におけるわが国の雇用・労働環境の変化・整備の状況に鑑みると、企業・官公署等における定年延長に対応した退職所得課税の見直しも検討すべき時期に来ているように思われる。その見直しの一方途として、所得税基本通達30-2(4)及び(5)の定めを法令化し、定年延長に伴う打切支給退職金に対する退職所得課税について予測可能性及び法的安定性を確保し高めるべきであろう。更にいえば、それを手がかりに、雇用の継続を税制面から支援する「雇用継続税制」ともいうべき税制の整備を図ることも検討に値するように思われる。 (了)
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〈令和7年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第4回】「通勤手当の非課税限度額の引上げ」~令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用~
〈令和7年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第4回】 (追補) 「通勤手当の非課税限度額の引上げ」 ~令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当に適用~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和7年11月19日に所得税法施行令の一部を改正する政令が公布され、自動車等の交通用具を使用している給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額が引き上げられた(所令20の2二)。本改正は、令和7年11月20日に施行され、令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当について適用される(令和7年改正令附則)。 改正前の非課税限度額を適用して源泉徴収が行われている役員及び従業員について、改正後の非課税限度額を適用することにより過納となる税額が生じる場合には、令和7年分の年末調整において精算することになる。 【1】 改正の概要 自動車や自転車等の交通用具を使用している人に支給する通勤手当の1か月当たりの非課税限度額(改正前及び改正後)は、次のとおりである(所令20の2二)。 なお、交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当(1か月当たりの限度額15万円)等、上記以外の通勤手当の非課税限度額に改正はない(所令20の2一、三、四)。 【2】 改正後の非課税限度額が適用される通勤手当の範囲 改正後の非課税限度額は、「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」に適用される(令和7年改正令附則2)。この「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」とは、次に該当するものをいう。 反対に、次に該当する通勤手当には、改正後の非課税限度額は適用されない。 改正後の非課税限度額の適用の有無について、具体例を示す。 【3】 令和7年分の年末調整における対応 令和7年11月19日までに支払われた通勤手当について、遡って源泉徴収税額の再計算を行う必要はない。年末調整の際に過納となる税額をまとめて精算する。 改正後の非課税限度額を適用することにより過納となる税額が生じている役員や従業員については、以下の手続により年末調整で精算を行う。 なお、令和7年の中途で退職した人、死亡退職した人、非居住者となった人等、既に年末調整をしている人について、改正前の非課税限度額を超えた通勤手当を支払っていた場合には、改正後の非課税限度額により年末調整の再計算を行うことになる。 【4】 源泉徴収票の記入金額 令和7年分の源泉徴収票の「支払金額」欄には、改正により新たに非課税となった通勤手当の額を除いた金額を記入する。 年の中途で年末調整をした人に対し年末調整の再計算をした場合には、既に交付した源泉徴収票の「支払金額」欄の金額を訂正し、「摘要」欄に「再交付」と表示したものを再度交付する。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例152(所得税)】 「買手が耐震工事をしなかったため「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用が受けられなくなってしまった事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例152(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(空き家に係る3,000万円の特別控除)(措法35③④⑥⑦) 「空き家に係る3,000万円の特別控除」とは、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に、相続により被相続人の居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人が、その取得をした被相続人の居住用家屋及びその敷地等を譲渡した場合、居住用財産を譲渡したとみなして3,000万円の特別控除の適用を受けることができるものである。 この特別控除は、相続により被相続人の居住用家屋とその敷地の両方を取得し、相続があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限り適用があり、譲渡価額が1億円を超える場合には適用できない。 なお、居住用家屋とともにその敷地等を譲渡する場合には、居住用家屋が一定の耐震基準を満たすものでなければならないが、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後の譲渡については、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除去の工事を行った場合には、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となる。 ◆特例の対象となる被相続人居住用家屋 次の①及び②又は①及び③に該当することが要件になる。 (了)
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国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正-防衛特別法人税等の企業への影響- 【第10回】
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第10回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 37 通算法人に係る取扱い 防衛特別法人税における通算法人の取扱いについては、法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定のほかに、防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定がある。 法人税において規定されている通算法人の取扱いに対応する規定には、①通算子法人の課税事業年度、②仮決算をした場合の法人税の中間申告書の提出、③災害等による中間申告書・確定申告書の提出期限の延長、④清算中の内国法人の確定申告、⑤電子情報処理組織による申告の特例、⑥通算法人の連帯納付責任、⑦青色申告の取消し、⑧通算税効果額の取扱い、⑨電子情報処理組織による申請等、がある。 防衛特別法人税の計算についてのみ設けられた通算法人の取扱いの規定には、⑩基礎控除額の計算と、⑪通算法人に係る外国税額控除額の計算がある。本号では、⑤から⑪について解説する。 ⑤ 電子情報処理組織による申告の特例 法人税及び地方法人税において、特定法人(注)である内国法人は、申告書及び添付書類の電子申告が義務付けられている(法法75の4、地法19の3)が、防衛特別法人税の申告書についても同様とされる(防衛財確法27)。 (注) 事業年度開始の時における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人、通算法人、保険業法に規定する相互会社、投資法人、特定目的会社 ⑥ 通算法人の連帯納付責任 通算法人は、その通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人のその通算完全支配関係がある期間内に納税義務が成立した防衛特別法人税について、連帯納付責任を有する(防衛財確法41①一)。 ⑦ 青色申告の取消し 内国法人が一定の事実により青色申告の取消しの処分を受けた場合には、当該事実があった事業年度まで遡って青色申告が取り消される(法法127①)。 ただし、通算法人が青色申告の取消しの処分を受けた場合には、当該通算法人に係る通算制度の承認は、その通知を受けた日から、その効力を失い(法法64の10⑤)、青色申告の取消しの処分を受けた日の前日(当該前日が通算親法人の事業年度終了の日である場合には、処分の通知を受けた日)の属する事業年度以後、その効力を失う(法法127③)。 通算法人であった内国法人について、青色申告の取消事由に該当する事業年度が失効事業年度(注)前の事業年度である場合には、失効事業年度以後、効力を失う(法法127④)。 (注) 通算承認の効力を失った日の前日(当該前日が通算親法人の事業年度終了の日である場合には、その効力を失った日)の属する事業年度 すなわち、通算法人に係る青色申告の取消しは、当該事実があった事業年度まで遡及適用されないこととされている。法人税の青色申告が取り消された場合には、防衛特別法人税についても同様の扱いとされている(防衛財確法36②、③、④)。 ⑧ 通算税効果額の取扱い 法人税に定める通算税効果額(注)の益金不算入及び損金不算入の規定(法法26④、38③)は、防衛特別法人税についても防衛特別法人税通算税効果額の益金不算入及び損金不算入とされ(防衛財確法43)、防衛特別法人税通算税効果額を支払った額は利益積立金額を減算する(法令9一カ、防衛特法令19)。 (注) 損益通算又は欠損金の通算の規定その他通算法人のみに適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として通算法人と他の通算法人との間で授受される金額 ⑨ 電子情報処理組織による申請等 通算親法人が法人税及び地方法人税に係る申請等で、他の通算法人がその申請等を電子情報処理組織(e-Tax)を使用する方法により行ったものとみなされる場合(国税関係法令に係る情報通信技術を活用した行政の推進等に関する省令第5条(電子情報処理組織による申請等)第7項)については、防衛特別法人税に係る申請等にも適用される(防衛特法令8)。 ⑩ 基礎控除額の計算 各課税事業年度の防衛特別法人税の課税標準の計算における基礎控除額は、年500万円とされているが、通算法人(その事業年度がその通算法人に係る通算親法人の事業年度終了の日に終了するものに限る)の基礎控除額は、以下の算式のように、年500万円を各通算法人の基準法人税額の比で配分した金額として計算される(防衛財確法13③二)。 なお、通算親法人の課税事業年度の中途で離脱した通算子法人の離脱日の前日に終了する課税事業年度については、通算法人以外の法人の課税事業年度として計算する。 基準法人税額のうちに留保金課税による留保税額がある場合、課税標準法人税額の計算における基準法人税加算額から控除する基礎控除残額は、通算法人については基礎控除額の計算と同様に、各通算法人の基準法人税加算額の比で配分した金額として計算される(防衛財確法13④二)。 なお、通算親法人の課税事業年度の中途で離脱した通算子法人の離脱日の前日に終了する課税事業年度については、通算法人以外の法人の課税事業年度として計算する。 通算法人の法人税における遮断措置と同様に、基準法人税額、加算前基準法人税額、又は基準法人税加算額の計算に誤りがあった場合においても、課税標準法人税額を計算する場合における各通算法人に配分される基礎控除額及び基礎控除残額は、一定の場合を除き、当初申告書に記載された金額とされる(防衛財確法13⑤)。 ⑪ 通算法人に係る外国税額控除額の計算 内国法人の防衛特別法人税に係る外国税額控除限度額は、以下の算式により計算される(防衛特法令3①)。 通算法人の防衛特別法人税に係る外国税額控除限度額は、通算法人の防衛特別法人税の額の合計額のうち、その通算法人の国外所得金額に対応するものとして計算される(防衛財確法16④)。計算の仕組みは、法人税及び地方法人税の控除限度額計算と同様である(防衛特法令3④)。 各通算法人の過去の課税事業年度における、当初の外国税額控除額の誤りが発覚した場合には、法人税及び地方法人税の調整方法と同様の措置が規定されている。 (続く)
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学会(学術団体)の税務Q&A 【第23回】「学会が賃上げ促進税制を適用する際の留意点」
学会(学術団体)の税務Q&A 【第23回】 「学会が賃上げ促進税制を適用する際の留意点」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 賃上げ促進税制 賃上げ促進税制においては、前事業年度と当事業年度の給与等支給額と比較して、増加割合及び増加額を計算する必要がある。給与等支給額は、損金の額に算入される給与等支給額で計算するため(措法42の12の5)、収益事業課税の学会においては、「収益事業に区分経理される給与等支給額」に基づいて賃上げ促進税制の計算を行うことになる。 2 給与等支給額の区分経理 収益事業の課税所得を計算するにあたっては、収益事業と非収益事業に共通する費用を合理的な基準により区分経理する必要がある。合理的な基準の例として、法人税基本通達では、従業員の従事割合や収入金額の比等が挙げられており(法基通15-2-5(2))、実務上は、これらの基準により按分計算している例が多いと思われる。 3 実務上の留意点 給与等支給額を収益事業と非収益事業に区分経理するにあたって、前事業年度と当事業年度の按分比率が変動してしまうと、給与等支給額全体は増加しているにも関わらず収益事業に区分される給与等支給額が減少するケースや、給与等支給額全体は減少しているにも関わらず、収益事業に区分される給与等支給額が増加するようなケースが生じる可能性がある。 〈給与等支給額全体が増加しているにも関わらず、収益事業の給与等支給額が減少するケース〉 〈給与等支給額全体が減少しているにも関わらず、収益事業の給与等支給額が増加するケース〉 このように収益事業と非収益事業の按分比率が前事業年度と当事業年度で変動してしまうと、賃上げ促進税制を正しく計算するのが難しくなってしまう。そのため、賃上げ促進税制を計算するにあたっては、前事業年度と当事業年度の給与等支給額の按分比率を固定化しておくことが望ましいと考える。 (了)
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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第54回】「水道光熱費の使用料金が極めて少なく、かつ、居住目的が特例の適用を受けるためと答述したことから、居住用財産に該当せず、特別控除の適用は認められないとされた事例」
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第54回】 「水道光熱費の使用料金が極めて少なく、かつ、居住目的が特例の適用を受けるためと答述したことから、居住用財産に該当せず、特別控除の適用は認められないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例 居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例は、居住の用に供している家屋の譲渡もしくはその家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合、又は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡した場合の特例である(措置法35①)。 譲渡所得の金額から3,000万円を限度として控除でき、短期譲渡所得であったとしても、条件を満たす場合は適用でき、他の居住用財産の特例の多くは国内の不動産に限られるが、この特例については特に制限は設けられていない。 他方、譲渡先の制限、他の措置法との重複適用の制限、譲渡年の前年、前々年に特別控除の適用等を受けていないこと等の制限もある。 この制度の適用において重要な要件の1つは、「居住の用に供している家屋」とは何かである。これは、「譲渡者が短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうものと解される。そして、譲渡資産がこれに該当するか否かについては、その者の日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋の入居目的、その家屋の構造及び設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断する」(令和4年4月5日広島国税不服審判所)とされている。 つまり、住民票に記載された住所で形式的に判断するのではなく、生活の実態が備わっているかによって、最終的には判断することになる。今回、生活の実態が備わっているかについて争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 納税者が譲渡した家屋及びその敷地に係る譲渡所得について居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を適用して所得税等の確定申告をしたところ、その家屋を生活の本拠とした事実が認められないから特例を適用できないとして、課税庁が更正処分等を行った。この処分に不服な納税者が審査請求を行ったのが本事案である。 ▷争点 争点は2つあったが、本稿では、本件家屋が特例の適用される納税者の居住用財産に当たるか否かに絞って検討する。 ▷家屋の経緯 本件家屋(以下「家屋1」)は、納税者の母から相続により取得したものである。相続した当時、納税者の姉が居住していたが、姉の死亡後、家屋1は空き家になったとされる。 平成8年10月15日に家屋1から約5m離れた場所に家屋(以下「家屋2」)を新築した。 平成28年4月21日に家屋1及びその敷地の売買契約を締結、同年6月28日に、実測に基づいて売買代金を減額する契約を締結し、同年7月13日に引き渡した。 平成28年分の所得税等の申告において、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を適用して申告したが、令和3年3月19日付で、特例の適用は認められないとして更正処分等を行ったところ、不服な納税者が審査請求した。 ▷なぜ、納税者はこの家屋が居住用家屋であると主張したか 納税者は、以下の理由から家屋1は居住用家屋であると主張した。 家屋1には、5つの和室があり、電気、水道を使うことができ、台所、風呂、トイレ等の生活に必要な設備が設置されていた。 納税者は、平成26年5月7日から平成27年2月19日までの期間、家屋1の所在地を住民票上の住所とし、実際に、家屋1で就寝し、家屋1の設備を利用することによって生活をしていた。 納税者は、家屋1から約5m離れた場所に家屋2を所有しているが、家屋2をほとんど利用しておらず、専ら家屋1で生活していたから、生活の拠点は家屋1である。 なお、納税者は、家屋1への入居目的が特例の適用を受け、申告に係る税金を安くするためと答述した。 ▷なぜ、課税庁はこの家屋は居住用家屋に該当しないと主張したか 家屋1のガスは、平成20年10月4日に閉栓され、水道の使用量についても平成24年1月から平成27年4月9日に閉栓されるまで、0立方メートルないし6立方メートルであった。電気の使用量の平均値は、約14.3kwhであるところ、これは、総務省統計局が公表している全国の単身世帯の1か月あたりの電気代の約7%である。 また、家屋2には、納税者の妻が居住していること、家屋2に係る平成24年から平成27年までの電気及びガスの1ヶ月あたりの使用料金は、総務省統計局が公表している2人以上の世帯の標準的な金額を超えていた。 納税者は、家屋2で入浴、洗濯及び食事をしていた旨申述していたことからすれば、納税者の生活の拠点は家屋1でなく、家屋2である。 ▷裁決 裁決では、納税者の請求を棄却した。 特例の適用対象となる家屋は、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいい、特例の適用を受けるための目的で入居したと認められる家屋は、これに当たらない。 納税者は、家屋1への入居の目的が特例の適用を受けることにあった旨申述する。さらに、家屋1の電気の平均使用料金は、全国の単身世帯の1ヶ月あたりの電気の使用料金に比べ、極めて少ないことからすれば、納税者の家屋1への入居目的は、特例の適用を受けるためであったと認められ、居住の意思を持っていなかったことは明らかである。 したがって、家屋1は、納税者が真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたとは認められないから、特例の適用される居住用財産に該当しない。納税者の主張は、客観的事実と整合しないから理由がない。 このように納税者の請求は棄却された。この裁決は、2つのポイントがある。 1つは、居住用財産は、通常は、住民票に記載された住所と考えられるが、居住性に疑義が生じた場合は、居住していたならば確実に使用される水道光熱費の利用状況が居住性の有無の重要な要素となること。 もう1つは、何のために居住したかと質問された時に「特例の適用を受けるため」と答えたこと。節税以外の合理的な理由がない場合まで優遇税制の適用を受けることはできない。 居住用財産の優遇税制全体に通ずることでもあるので、注意したい。 (了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第81回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第81回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 エ 匿名性がもたらす税務執行上の問題 これまで論じてきたような暗号資産の匿名性がもたらす税務執行上の問題として、次の点が注目される。 上記のとおり、ブロックチェーン上のトランザクションに係る当事者を特定し、接触することができなかったり、特定の納税者が取引をしている暗号資産を把握できないとすれば、次のような問題が起こる。 このように、匿名性は単なる納税者特定の障害にとどまらず、国際的な情報共有やクロスボーダー課税の制度基盤を不安定化させるリスクも孕む。その影響は、個別的な課税漏れにとどまらず、税制への信頼や納税モラルにまで波及する可能性がある。 ただし、個人を特定するまでに至るかという問題はあるものの、少なくともビットコインについては、利用者のIPアドレスを特定し、地理的な場所にリンクさせることはできるようである(See Andreas Thiemann, Cryptocurrencies: An Empirical View from a Tax Perspective, 9 J. TAX ADMIN. 88, 91, 93-94(2024))。 一方で、税務当局にとって朗報であるのは、暗号資産の取引では、政府や第三者情報を提供する立場にある中央集権的機関(例:暗号資産交換業者、いわゆるCEX)が中核的な存在となったことである。 これは、当初の構想(中央を介さずに金融取引を行う)とは相反するものでありながら、税務当局にとっては情報収集の要となりうるものである(See Katherine Baer et al., Taxing Cryptocurrencies, 39 OXFORD REV. ECON. POL’ Y 478, 491(2023))。 暗号資産の仕組み自体は匿名性を提供するものであるが、多くの利用者は、顧客に身分証を提出させて氏名や住所等を確認する本人確認手続(KYC:Know Your Customer)を実施しているCEXを通じて暗号資産を取引又は保有しており、暗号資産の匿名性を享受していない。 CEXでは、運転免許証やパスポートの提出が求められ、氏名・住所・生年月日などが記録されている。 利用者がこのようなCEXを通じて取引等を行うのは、ユーザーインターフェースがよい、法定通貨と交換したい(DEXでは直接法定通貨に交換できないため)などの理由によるものと推察される。 言い換えれば、多くの利用者は、匿名性よりも利便性や信頼性を優先しており、暗号資産が技術的に提供しうる匿名性を最大限に活用しているわけではない。この点は、税務当局が情報収集や調査を行う上での足掛かりとなる。 もっとも、これによって匿名性の問題が完全に解消されるわけではない。 一部の海外CEX、DEX、プライベートウォレットなど、利用者が本人確認を求められることなく暗号資産を取引できる場所やツールがあり、これらが依然として暗号資産の匿名性を支えているからである。 とりわけ、DEXでは、アカウント登録が不要で、ウォレットを接続するだけで取引が実行可能となっており、利用者が匿名性を保持したまま、国境を越えた暗号資産の交換・貸借といった運用を行っている現状がある。 2023年の暗号資産市場の調査によると、取引量の約90%が上位10の取引所によって占められていた。その中でDEXは著名なUniswapの1つだけであり、その市場シェアはわずか3%にとどまった(European Securities and Markets Authority, Crypto Assets: Market Structures And Eu Relevance, ESMA50-524821-3153(Apr. 10, 2024))。 他方、DEXとCEXの取引高比率が過去最高の20%に達したというデータがあり、このことはユーザーがDEXの透明性、セキュリティ及び強化された資産管理に魅力を感じていることを反映したものであって、CEXに対する規制当局の監視が厳しくなる中、規制の厳しい地域のトレーダーがDEXの提供する自由なアクセスを求める傾向が強まっているという見解も示されている(Bitcoinworld, DEX-to-CEX Volume Ratio Reaches Record 20%, Reflecting Growing Decentralized Adoption, BINANCE SQUARE (Jan. 8, 2024))。 さらに、必ずしも脱税が動機でないにせよ、例えば、次のような暗号資産の匿名性を高めるツール等を意図的に利用している者もいる。 (※) ミキサーを利用して、ICOに関する収益を隠匿した脱税事件として、United States v. Elmaani, No. 20 Cr. 661 (CM), 2023 U.S. Dist. LEXIS 59357(S.D.N.Y. Apr. 4, 2023)がある。 もっとも、技術的には匿名性が確保されているように見えても、制度的・実務的には限定的にすぎないケースも少なくない。 上記のプライバシーコインについては、多くのCEXが規制当局の指導に従ってその取扱いを廃止している(EUROPOL, CRYPTOCURRENCIES: TRACING THE EVOLUTION OF CRIMINAL FINANCES 7(2023))。 このことに加えて、次の点を考慮すると、税務執行上の重大な問題を引き起こす可能性は高くないとの見解がある(Omri Y. Marian, Are Cryptocurrencies ‘Super’ Tax Havens?, 112 MICH. L. REV. FIRST IMPRESSIONS 22-23(2013))。 プライバシーコインについては、匿名性が高められているとはいえ、誰もがその機能を必要とし、使いこなしているわけではない、ということである。 なお、暗号資産の世界では、かつてはビットコインを用いた取引であれば匿名性が確保されるという誤解が蔓延していたが、ブロックチェーン分析による捜査手法が確立されたことで、そうした幻想は崩れた。 この点について、当初、犯罪者は、違法取引に関するやりとりをビットコインで行うだけで安心感を得ていたが、その後、いくつかの法執行機関がブロックチェーン分析を利用することで犯罪捜査に成功した事例を示してきたことで、ビットコインの透明性と追跡可能性が広く認識されるようになった。 そこで、暗号資産は、匿名性を高めるサービスと併用されて、犯罪に利用されるようになったといわれる(EUROPOL, CRYPTOCURRENCIES:TRACING THE EVOLUTION OF CRIMINAL FINANCES, at 19)。 このような現状を踏まえれば、匿名性を高めるサービスの存在に注意を払いつつも、暗号資産は単なる匿名取引手段ではなく、むしろ条件付きで可視化可能な仮名性資産であるという実態を、税務執行戦略においても前提とすべきであろう。 (了)
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第84回】「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その2)」~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第84回】 「海外子会社への貸付利子と移転価格税制-平成29年9月26日裁決の検討-(審裁平29.9.26)(その2)」 ~租税特別措置法〔平成26年法律第10号改正前〕66条の4、 租税特別措置法関係通達66の4(7)-1・66の4(7)-4等~ 税理士 中野 亘 5 移転価格税制の基本構造と制度趣旨 租税特別措置法66条の4は、国外関連者との取引価格を独立企業原則(Arm’s Length Principle)に従って修正する制度として、平成2年に導入された。 当初はOECDモデル条約9条に基づく「恒久的施設回避の抑制」が主目的だったが、グローバル企業の利益移転行動が複雑化するにつれ、制度の実務的射程は大きく拡張していった。 本条の意義は、法人税法22条に定める「各事業年度所得の金額の計算原則」を国外関連取引にも拡張し、 “見かけの価格ではなく実質的価格を課税基準とする” 点にある。 つまり、グループ内での貸付・役務提供・無形資産譲渡などにおいても、独立企業が市場条件で行う場合の対価水準を基準としなければならない。 (1) 法体系上の位置づけ 移転価格税制は、法人税法の原則を補完する「修正規定」として措置法に位置づけられている。 本来、法人税法22条2項によって益金・損金の範囲が定義されているが、国外関連取引では独立企業間の価格形成が困難であるため、措置法が特例的に算定ルールを与えている。 このため、同条は課税庁に一定の裁量を与えつつも、OECDガイドラインとの整合を常に求められてきた。平成28年改正以降は文書化制度が整備され、事前確認(APA)制度や相互協議手続との接続性も強化されている。 (2) 通達による技術的補完 租税特別措置法関係通達66の4(7)-1(※6)は、棚卸資産以外の取引にも「同等の方法」を適用できると定義し、金銭貸借・役務提供・無形資産取引を対象に含めている。 (※6) 租税特別措置法関係通達66の4(7)-1(棚卸資産以外の国外関連取引)〔平成28年7月1日改正版〕 「棚卸資産以外の国外関連取引については、基本三法に準ずる方法(同等の方法)により独立企業間価格を算定する。」 ⇒ 金銭貸借や無形資産取引への基本法準用を定める。 (現行法補足:令和3年改正で文言修正なし。実務ではOECDガイドライン第10章(金融取引章)との整合が求められる) 同(7)-4では、「比較可能性分析」に関する指針を細かく示し、通貨・貸借期間・金利設定方式・信用条件・担保有無などを整合させることを求めている。 これらの通達は単なる行政指針ではなく、合理的説明責任の根拠として実務上の効力を持つ。特に金融取引の場合、比較対象の乏しさから“算定過程の透明性”こそが調査対応の決め手になる。 (3) OECDガイドラインとの整合 平成29年当時も、OECD移転価格ガイドライン2017年版において、金融取引に関する章(第Ⅹ章)が追加される前夜だった。 わが国はその後2020年の改訂に合わせ、指針2-7を整備し、「三段階利率法(借手→貸手→国債)」を正式に明文化している。 この構造は、本件審判の判断ロジックと整合しており、国内法が国際基準に追随する過程を裏づけている。 したがって、平成29年当時の判断を理解することは、現行制度の成立過程をたどる意味でも重要である。 6 実務的示唆と調査現場への考察 (1) 利率算定の三段階適用とデータ根拠 現行の移転価格事務運営指針2-7は、金銭貸借取引の利率算定を次の順で検討することを定めている。 借手・貸手のいずれにも外部借入がない場合は③を基礎とし、そこに信用リスクプレミアムを上乗せする。 実務上は、金利スワップレートやBloombergの企業格付データを併用し、比較可能性を確保することが求められる(例:米ドル建て5年満期の貸付では、「米国5年国債利回り+同格付企業の平均スプレッド」を用いるのが標準的手法)。 この際、通貨・利払い方式・担保条件を一致させることが前提となる(租税特別措置法関係通達66の4(7)-4(※7))。 (※7) 租税特別措置法関係通達66の4(7)-4(比較可能性分析の要件)〔平成28年7月1日改正版〕 「比較対象取引に係る通貨、貸借期間、金利設定方式、利払方法、信用条件、担保の有無その他の条件は、国外関連取引のそれと同様であることを要する。」 ⇒ 比較可能性の厳格な一致を要求する通達。 (現行法補足:令和3年改正で『信用格付差異の補正』『通貨スワップコストの考慮』を追加し、より金融取引特化の比較基準を導入) (2) 赤字子会社・再建貸付の扱い 法人税基本通達9-4-2は現在も「倒産防止のためにやむを得ず行う無利息貸付で、合理的再建計画に基づく場合」に限り寄附金課税を否定する。再建計画や資金繰り表が存在しない“支援的貸付”は、原則として移転価格税制の対象外とはならない。 実務では、子会社設立期や再建期において無利息又は低利貸付を行う場合、 ことが望ましく、このような内部ポリシーの明文化は、税務調査時の説明責任を支える。 (3) 文書化義務とリスク管理 租税特別措置法66条の4第11項以下に基づき、移転価格文書化義務が制度化された。大企業はマスターファイル・ローカルファイルの作成が義務だが、金融取引も調査対象として重点確認される。 貸付契約書に加え、以下の書類整備が推奨される。 書類の整備状況は調査官が最初に確認する項目であり、説明不能=否認リスクと直結する。 (4) 国税調査の焦点 令和期の調査現場では、「利率水準」よりも「算定過程の合理性」に重点が置かれている。 調査官の典型的な確認フローは以下の通り。 つまり「いくらで貸したか」よりも、「どういうプロセスで決めたか」が問われる。 形式的でも根拠資料を残していれば、結果としての金利水準が若干ズレていても是認されるケースが多い。逆に、資料がなく“担当者の記憶”だけに依存する場合は、推計課税を受けるリスクが高い。 (5) 中小企業への適用と対応方針 移転価格税制は規模を問わず適用され、関連会社が1社でも海外にあれば対象となる。中小企業の場合、貸付・立替・預託金といった内部資金移動も国外関連取引に含まれる。 実務対応として、 する運用が有効である。 このような“定期メンテナンス方式”は、税務調査時に「継続的一貫性」を示す証拠となる。 (6) 制度の射程と今後の展望 本件審判が示した最大のメッセージは、「独立企業間価格とは結果の数値ではなく、その導出過程の合理性である」という点にある。 令和の実務では、OECDガイドライン第Ⅹ章に基づく“リスク分担”や“ファイナンシング機能の所在”が重視されており、単なる金利比較から、企業グループ全体の資金政策評価へと進化している。 したがって、税務対応の要諦は次の3点に整理できる。 これらを実践することで、調査局・審判所・納税者の三者間で共通の理解基盤を形成できる。 7 おわりに 平成29年当時の審判例が後年の制度改正にまで影響を及ぼしたのは、単に利率水準の妥当性を示したためではなく、独立企業原則の解釈枠組みを「数値の整合」から「思考の整合」へと転換した点にある。すなわち、価格の結果よりも算定過程の合理性を重視する姿勢を制度論として定着させたことが、本件の本質といえる。 なお、本件審判の判断枠組みは、その後の制度改正にも直接的な影響を与えた。令和元年改正では、租税特別措置法66条の4第11項以下に文書化義務が新設され、マスターファイル・ローカルファイルの作成及び保存義務が明文化された。これにより、従来は「算定過程の合理性」として実務上求められていた文書整備が、法的義務として制度的に担保されるに至った。 さらに、令和3年の移転価格事務運営指針改訂では、金融取引に関する取扱いが体系的に整理され、2-6及び2-7において三段階利率法の適用順位、通貨スワップコストの考慮、及び信用格付補正の取扱いが明確化された。これらの改正は、いずれも本件審判が示した「形式ではなく算定プロセスを重視する」という考え方を制度的に追認したものと位置づけられる。 したがって、本件は一事例にとどまらず、後年の制度設計に理論的基盤を与えたものとして評価できる。 この判断構造は、理論と実務の接点を再定義するものであり、移転価格税制の運用実務においても、今日なお有効な準拠枠として機能していると評価できる。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第177回】いわき信用組合「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第177回】 いわき信用組合 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年10月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【いわき信用組合特別調査委員会の概要】 【いわき信用組合の概要】 いわき信用組合は、1948(昭和23)年7月31日設立。設立時の名称は江名町信用組合。 1966(昭和41)年9月、いわき信用組合に名称変更。自己資本22,976百万円、預金残高204,164百万円、貸出残高121,586百万円。組合員数は41,810名で、その出資金は15,864万円である。経常収益は3,495百万円、経常利益は230百万円。 福島県いわき市内に14店舗、福島県双葉郡双葉町に1店舗を有している。常勤役職員数は185名。本店所在地は福島県いわき市(令和6年3月31日現在)。 会計監査人は、2019年6月まではEY新日本有限責任監査法人、同年7月以降は鈴木和郎公認会計士事務所及び公認会計士鈴木一徳会計事務所。 いわき信用組合が2024(令和6)年11月15日に設置した第三者委員会(以下、単に「第三者委員会」と略称する)は、調査報告書において、いわき信用組合で発覚した不祥事について、次のように事実認定を行った。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 いわき信用組合は、2024年(令和6年)9月に投稿された「元信用組合職員」を名乗る者によるSNSへの書込みを契機とする内部調査により、いわき信用組合において、長年にわたって組織的に無断借名融資が繰り返されるなどしていたことが判明したことから、同年11月15日、一連の不祥事件(無断借名融資等の不正融資の継続及びその組織的隠蔽並びに当組合元職員2名による着服横領及びその組織的隠蔽)の事実関係の調査、原因分析、再発防止策の提言等を目的とする第三者委員会を設置し、2025年(令和7年)5月30日、第三者委員会から調査報告書の提出を受け、同日、その公表版を公表した。 しかし、いわき信用組合は、第三者委員会報告書において、第三者委員会による調査に対するいわき信用組合の協力姿勢に強い疑義を示された上、一連の不祥事件の実態解明に向けて、更なる調査を行う必要がある旨指摘されたことから、上記調査に対する誠実な対応を欠いたことを猛省するとともに、可能な限りの実態解明を図るべく、同年6月13日付け総代会において選任された役員による新たな経営体制の下で第三者委員会報告書における指摘を踏まえた徹底調査を実施することとして、同月30日、いわき信用組合と利害関係のない外部専門家から構成される特別調査委員会を組成し、調査を委嘱した。 特別調査委員会は、調査に当たり、独立性を確保し、実効的な調査を実現するため、以下の事項をいわき信用組合と合意した。 2 特別調査委員会が認定した不正融資の概要 特別調査委員会は、いわき信用組合元役員らによって繰り返されていた不正融資について、迂回融資、無断借名融資及び水増し融資の3類型に分類して、その内容を次のように説明している。 (1) 迂回融資 いわき信用組合においては、融資限度額との関係等で当組合から特定の個人・法人(実質的な融資先)に対する融資を実行することが困難である場合に、別の個人・法人(名目上の融資先)を経由(迂回)して実質的な融資先に資金提供することを目的として、名目上の融資先を債務者として実行する不正な融資(迂回融資)が行われていた。 迂回融資は、名目上の融資先に対する融資実行につき、融資先の承諾を得て実行されるものであるから、いわき信用組合と名目上の融資先の間に債権債務を発生させるものであり、会計上も、名目上の融資先を債務者とすることを前提として貸倒引当金の計上を検討する必要がある。 なお、特別調査委員会の調査の結果、迂回融資実行金額は2,213百万円であった。 (2) 無断借名融資 いわき信用組合においては、江尻次郎氏(元会長。以下「江尻氏」という)をはじめとする一部の元役員らによって、特定の個人の承諾を得ないまま、当該個人を債務者名義とする融資(手形貸付又は証書貸付)の名目で当組合の資金を不正に支出すること(無断借名融資)が繰り返されていた。 無断借名融資は、名義を無断借用された個人が関与することなく実行されるものであるから、当該個人と組合の間に金銭消費貸借契約に基づく債権債務を発生させるものではなく、いわき信用組合は、債務者名義の個人から、無断借名融資実行によって不正に支出された資金を回収することはできない。 無断借名融資によって不正に支出された組合の資金は、江尻氏の意向を踏まえながら、一部の元役員の判断に基づき、反社に対する提供資金、融資限度額を超えている大口融資先に対する提供資金、別の無断借名融資の利払いや返済のための資金等に当てられていた。 したがって、組合への返済義務(無断借名融資の実行による組合の損害を賠償する義務)は、江尻氏をはじめとする元役員が負うべきものであるから、会計上、無断借名融資による不正支出については「役員貸付」として計上するのが相当である。 なお、特別調査委員会の調査の結果、無断借名融資実行金額は25,260百万円であった。 (3) 水増し融資 いわき信用組合においては、元役員の交友者の関係会社等に対する融資の実行に際し、融資金額を水増しして融資を実行した上(水増し融資)、元役員が、債務者から、水増し分の全部又は一部を現金で受け取ることがあり、元役員に交付された水増し分の現金は、反社への提供資金、無断借名融資の利払いや返済のための資金等として費消されていた。 水増し融資は、水増し分も含めて債務者の承諾を得て実行されるものであるから、債務者は、いわき信用組合に対し、水増し分を含む融資実行金額の全額についての返済義務を負うが、会計上は、融資実行金額の一部が、組合役員への交付(組合役員への環流)を前提とする水増しであったことを考慮しながら、貸倒引当金を計上する必要がある。 なお、特別調査委員会の調査の結果、水増し融資からの還流金額は151百万円であった。 3 特別調査委員会の調査による新たに判明した事実―反社会的勢力に対する利益供与 (1) 反社からの不当要求に対する支払開始の経緯 特別調査委員会は関係者へのヒアリングを次のようにまとめている。 1992年(平成4年)から2001年(平成13年)までの間、理事長であった鈴木勇夫氏の時代には、金融機関が、総会屋をはじめとする反社との関係を断ち切ることは必ずしも容易ではない状況にあった。そのような時代背景の下、当時の組合の状況を知る江尻次郎氏や鈴木丈夫氏によれば、以下のとおり、遅くとも1990年代には、いわき信用組合においても、反社に該当するというべき者に対する資金提供が断続的に繰り返されていたことがうかがわれる。 鈴木勇夫氏の理事長就任当初から、組合の理事の中には、暴力団関係者との交友関係を有し、融資の実行等に際してその便宜を図る者が存在しており、暴力団関係者との交際を続けるうちに弱みを握られるなどして、金銭の支払を要求される者もいた。 また、1994年(平成6年)頃には、組合本部や鈴木勇夫氏らの自宅周辺等において、全国規模の右翼団体により、勇夫氏をはじめとする当時の当組合幹部の素行や、当組合と暴力団関係者の癒着を激しく糾弾する旨の街宣活動が繰り返されるなどの事態が発生し、当時、組合β支店の大口融資先であったΣ氏が、鈴木勇夫氏らに対し、組合と右翼団体の仲介役を務める旨申し出るとともに、街宣活動を中止させるための解決料の名目で3億円超の現金の支払を要求し、鈴木勇夫氏らは、これに応じて、当組合の資産からΣ氏に3億円超の現金を支払ったとのことである。 (2) 反社会的勢力に支払われた金額の推定 特別調査委員会は、組合の一部の元役員らは、遅くとも1994年(平成6年)頃から、少なくとも2016年(平成28年)頃までの間、Σ氏をはじめとする反社からの脅しに屈して、反社に対する現金の支払等を断続的に繰り返してきたとまとめたうえで、2004年(平成16年)11月に江尻次郎氏が理事長に就任して以降の反社に対する支払金額につき、江尻氏は、「合計10億円前後に上ると思う」と説明していることを挙げたうえで、その説明は不合理なものではなく、不正融資によって捻出された現金のうち10億円前後の現金が反社からの不当要求に対する支払に当てられたと考えられると結論づけている。 4 不正融資によって捻出された資金の使途および流出先 (調査報告書39頁、図表4以下) 特別調査委員会は調査の結果、不正融資実行金額の流れを次の図のように解説。反社会的勢力へ流れた金員については949百万円としている。 なお、特別調査委員会調査報告書では、第三者委員会調査報告書で「X1社グループ」と呼称されていた融資先について、「X2社グループ」と呼称が改められているが、本稿では、第三者委員会調査報告書と同じく「X1社グループ」と表記している。 5 原因分析、再発防止策等 (調査報告書42頁以下) 特別調査委員会は、冒頭、第三者委員会は、一連の不正融資の発生原因につき詳細な検討を行った上、幅広い再発防止策の提言を行っているので、その内容につき全く異存はなく、本報告書において、第三者委員会報告書における指摘事項に重ねて原因分析や再発防止策について詳論することはしないと述べた。 そのうえで、今回の調査によって明らかになった反社会的勢力への利益供与について、いわき信用組合においても、反社会的勢力に対する基本方針が定められ、その方針の下、反社会的勢力対応管理規程、反社会的勢力認定先に対する取引管理内規、反社会的勢力対応マニュアル等の反社排除に向けた規程類は整備されている。 さらに、業務システムには、反社やこれに類する者のデータベースが登録されており、当該データベースを活用することにより、業務システム上で反社情報等との照合を実施し、預金取引や融資取引の実行の可否を判断している。 また、当該データベースは、警察当局から提供される凍結口座情報や全国銀行協会から提供される反社会的勢力者情報のみならず、いわき信用組合の担当部署において把握した反社情報のリストなどから構成されるところ、現在、組合独自リストにおいて、反社又はその疑いがある者、それらの関係者として登録されている者は170先に上る。 このように、いわき信用組合においても、反社排除に向けた規程類や体制は整備されているにもかかわらず、元役員らは、基本方針に反して、反社というべき者からの度重なる不当要求に対し、法的対抗措置を講じることなく、一部の役員の間だけの秘密事項としながら反社に対する支払を繰り返していた。 反社からの不当要求に対する元役員らによる従前の対応は、反社排除に向けてどれだけ立派な規程や体制を整備しようとも、経営陣の意識が低ければ、画餅に帰すことを顕著に示すものといえる。 特別調査委員会は、反社排除や不当要求への断固たる対応を実現する上で何よりも重要なのは、経営陣を中心とした全役職員の意識を高く保つことであり、現役員らにおいては、本件を契機として、反社排除等に向けた強い覚悟をもつことはもとより、速やかに、外部専門家による相談・通報窓口を設置した上、全職員に対し、反社の関連が疑われる取引が漫然と実行・継続されているような事態を認知した場合には、臆することなく、当該窓口に通報することを強く推奨する等して、相互監視の下、全役職員の意識改革を図ることが肝要であると再発防止策をまとめている。 【調査報告書の特徴】 本連載【第170回】で取り上げたいわき信用組合の第三者委員会調査報告書は,調査に半年以上の期間を費やし、213頁に及ぶ大部の調査報告書をまとめながらも、約10億円と推定されている使途不明金については、調査しきれなかった。いわき信用組合は、6月13日に新理事長に就任した金成茂氏の下、6月30日になって、本稿で取り上げた特別調査委員会の設置と、業務改善計画書の提出を公表した。 特別調査委員会調査報告書公表日である10月31日付で、いわき信用組合は、理事長名で「特別調査委員会の調査等により判明した不祥事件について(ご報告とお詫び)」を公表し、その最後に、次のように述べて、旧経営陣ら関係者に対する、刑事責任及び民事責任の追及、損害賠償請求等の必要な措置を進めるなど厳正に対処することを表明している。 1 金融庁による行政処分 金融庁は、10月31日、「いわき信用組合に対する行政処分について」をリリースして、協同組合による金融事業に関する法律第6条第1項において準用する銀行法第26条第1項に基づく命令を発出する行政処分を行ったことを公表した。 命令の内容は次のとおりである。 処分の理由について、金融庁のリリースでは、次のように説明している。 2 金融庁による行政処分に基づく業務改善計画書 いわき信用組合は、6月30日、「業務改善命令に対する業務改善計画書の提出について」をリリースして、5月29日付の業務改善命令に基づく「業務改善計画書」を、東北財務局に提出したことを公表した。 また、上記1に掲げる金融庁による行政処分を受けて、その提出期限である11月14日に、「業務改善計画書」を改定して提出したことを公表した。 11月14日付の業務改善計画書は、6月30日に東北財務局に提出した業務改善計画書に加筆し、または項目を追加したものであるため、本稿では、6月30日付業務改善計画書をベースに、11月14日において追加された項目を朱書きで示しておきたい。 3 反社会的勢力遮断への取り組みプラン いわき信用組合は、業務改善計画書提出と同日、「反社会的勢力遮断への取り組みプラン」をリリースして、いわき信用組合におけるコンプライアンス上の最重要課題と位置づけている反社会的勢力等との取引遮断について、「反社会的勢力との関係を遮断し、不当な要求に毅然として対応する強靭な組織を構築する」ことを目的に、次のようなプランを公表した。 いわき信用組合が、反社会的勢力との遮断を図ることができるかどうかについては、すでに取引のある反社会的勢力(その疑いのある組織や個人を含む)との絶縁をどうするかにかかっていると思われるが、本リリースでは、2025年11月より、反社会的勢力との預金取引をはじめ一切の取引関係の解消を図ること、既存の融資取引に関しては、こちらも2025年11月中に、預金保険機構の特定回収困難債権買取制度を活用して解消を図ることが説明されている。 (了)
