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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第90回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第90回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   31 暗号資産と税務調査②:ブロックチェーン分析 (1) ブロックチェーン分析とは何か ア ブロックチェーン分析とは 暗号資産の匿名性と分散性に起因する税務執行上の問題に対処するために力を発揮する調査手法としてブロックチェーン分析がある。 税務当局にとっては、申告漏れや無申告取引の把握、国外流出資産の追跡などに活用しうる重要な手法となる。 ブロックチェーン上のトランザクションを分析することで、エンティティ間のパターン、関係性、活動を一定の蓋然性をもって把握することが可能となる点が注目される。 エンティティについて、実務上は、単一のアドレスではなく、次に示すような、アドレスの使用パターンに基づくヒューリスティック(経験則)による分析に基づいて認識される複数アドレスの集合体として把握されることが多い。 ブロックチェーン分析によって、次のようなプロセスで身元特定につながる場合がある。 上記2の「同一主体によって管理されている」との判断は、ブロックチェーン分析単体で完結するものではない。 実務上は、取引所側のKYC(顧客確認)情報、IPアドレス、ログイン履歴、登録出金先アドレス情報、入出金履歴等といったオフチェーン情報との照合を通じて総合的に評価されるのが通常である。 イ パブリックブロックチェーンの「公開性」と「仮名性」 ブロックチェーン、とりわけ誰でも許可を得ることなく自由に参加できるパブリックブロックチェーンに記録された暗号資産のトランザクションは、公開されているため、ノードを運用するか、ブロックチェーンエクスプローラー等を通じて、誰でも確認できる。 例えば、BitcoinやEthereumのような代表的なパブリックブロックチェーンでは、特定のアドレスに紐づく送受信履歴や現在残高(未使用トランザクション出力の合計額又はアカウント残高)は、ブロックチェーンエクスプローラーを通じて誰でも閲覧可能である。 このようなブロックチェーンはネットワーク全体の合意形成(コンセンサス)によって維持されている。この合意形成が機能している限りにおいては、改ざんが極めて困難な形でトランザクション履歴が保存されているという特徴がある。 ウォレットアドレスがわかれば、そのアドレスに関連づけられた暗号資産のトランザクションや残高を把握することができるが、そこから直ちに「同一主体によって管理されているCEX口座や他のウォレット」を把握できるわけではなく、ブロックチェーン分析やオフチェーン情報との照合を経て、関連性が評価されることになる。 注意すべきことに、暗号資産は匿名性が高いと誤解されがちであるが、実際にはブロックチェーンは“匿名”取引ではなく、アドレスに紐づく“仮名”取引のようなものである。すなわち、アドレス自体には氏名等の個人情報は含まれないが、ひとたび現実世界の身元情報と結びつけば、トランザクション履歴を横断的に追跡し、分析することが可能となる(本連載第79回・第80回参照)。 このように、ブロックチェーン分析は、暗号資産の追跡可能性・透明性に加えて、仮名性を前提とする調査手法である。 もちろん、ブロックチェーンには個人を特定する情報は記録されていない。 この点はしばしば「だから追跡は困難である」と理解される。しかし、実務上問題となるのは「ブロックチェーン単体で完結する情報」ではなく、「ブロックチェーン外部の情報と組み合わせた場合の特定可能性」である。   (了)
#664(掲載号)
#泉 絢也
2026/04/09
New 会計 監査 税務・会計 解説 解説一覧 財務諸表監査

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第184回】Abalance株式会社「第三者委員会調査結果報告書(2025年12月17日付)」「検証委員会検証報告書(2026年2月20付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第184回】 Abalance株式会社 「第三者委員会調査結果報告書(2025年12月17日付)」 「検証委員会検証報告書(2026年2月20日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【Abalance株式会社第三者委員会による調査の概要】   【Abalance株式会社検証委員会による検証の概要】   【Abalance株式会社の概要】 Abalance株式会社(以下も、報告書上の表記と同じく「Abalance」と略称する)は、「株式会社リアルコミュニケーションズ」として、2000年4月に設立。ホールディングスであるAbalance傘下の事業会社として、グリーンエネルギー事業、太陽光パネル事業及びその他の事業を営む連結子会社を国内外に47社有している。 売上高72,417百万円、経常利益3,737百万円、資本金2,521百万円、従業員数1,713人(いずれも2025年3月期連結実績。なお、2025年3月期は決算期変更に伴い6ヶ月決算となっている)。代表取締役会長兼CEOの龍潤生氏が個人で発行済株式の24.43%を所有する筆頭株主である。本店所在地は東京都品川区。東京証券取引所スタンダード市場に上場。 会計監査人は、2025年3月期から有限責任中部総合監査法人、2024年6月期まではアスカ監査法人(異動日は2024年9月26日)。 【事案の経緯】 2024年1月22日 有償支給取引に関して売上と利益が計上されていたことが判明したことを受けて、監査等委員会が調査を開始 2024年2月13日 2024年6月期第2四半期決算発表の延期及び四半期報告書の提出期限の延長の検討に関するお知らせ 2024年3月14日 過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信の訂正に関するお知らせ 2024年3月26日 調査報告書の受領に関するお知らせ 2025年8月12日 「第三者委員会設置に関するお知らせ」 2025年12月17日 第三者委員会の調査結果報告書公表に関するお知らせ 2025年12月25日 第三者委員会の調査結果報告書に対する検証委員会設置に関するお知らせ 2026年2月20日 検証委員会の調査報告書受領に関するお知らせ 2026年3月2日 検証委員会による「取締役等の責任及び新経営体制の在り方に対する提言」の公表に関するお知らせ     【第三者委員会による調査結果報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 Abalanceは、2024年3月13日付の監査等委員会による調査報告書(監査等委員会報告書)に基づき、同月14日に有価証券報告書等の訂正報告書の提出をしているが、この訂正等の原因となった不適切な会計処理を行った経緯・理由等についてさらに疑義が生じたことから、改めて調査・検証をするため、2025年8月12日、取締役会において、利害関係を有しない外部専門家のみを委員とする第三者委員会の設置を決議したうえで、9月2日、第三者委員会の委員を選定した。   2 第三者委員会による調査結果の概要 第三者委員会が調査の対象として取引、契約及び会計処理等は次のとおりである。 本稿では、後述する検証委員会による検証報告書との対立が際立っていることから、連結子会社であるWWB株式会社(以下「WWB」と略称する)で行われ、監査等委員会による調査の対象であった「有償支給取引の会計処理」に焦点を当てて、第三者委員会の評価を見ておきたい。 (1) 有償支給取引に係る会計処理 第三者委員会は、まず、「有償支給取引」を次のように定義した。 そのうえで、第三者委員会は、調査の結果、WWBの経理業務は、経営コストの合理化のためにAbalanceの経理部が担当していたところ、Abalanceでは 2022年6月期から収益認識に関する会計基準を適用しているが、それ以前から有価証券報告書記載の連結財務諸表においては有償支給取引を売上計上しないルールとなっており、WWBが実行した有償支給取引に係る売上・利益計上に対し、連結財務諸表作成過程で適正な連結修正仕訳を計上し、連結上の売上・利益計上を取り消していたことを指摘し、収益認識基準の適用如何にかかわらず有償支給時において収益認識すべきでない、つまり売上や利益を計上すべきでないと判断されていたとして、妥当な処理であると評価している。 しかし、2022年6月期及び2023年6月期においては、このような修正仕訳が計上されず、連結財務諸表上も有償支給取引による高額な利益がそのまま取り込まれており、第三者委員会は、この問題の本質は、連結修正仕訳の有無だけではなく、WWB 単体決算における有償支給取引の会計処理自体が不適切な点にもあったと指摘している。 (2) 第三者委員会による評価 第三者委員会は、WWBにおいて有償支給取引について売上を計上した会計処理について、誤謬ではなく不正会計(粉飾)であると結論づけている。 その理由として、第三者委員会は、有償支給取引各案件については、WWB等の経営陣から不適切な会計処理を行うよう直接的な指示があったことを示す客観的な証拠までは認められないとしながらも、Abalance経理部のみならずWWB営業部門は、各案件における取引が有償支給取引に該当し、連結ベースでは売上として認識できないことを十分に理解していたうえ、連結ベースで売上が誤って計上されないよう、他の案件と区別して分別して管理すべきであることについても、認識が共有されていたにもかかわらず、不適切な会計処理が継続されたという実態があることを指摘して、これらの会計処理は、単なる誤謬ではなく、認識可能であった不適切性を看過した結果として行われた意図的な虚偽の表示、すなわち不正な会計処理(粉飾)であると評価している。 (3) 監査等委員会調査報告書の評価 監査等委員会報告書では、有価証券報告書の訂正の対象となった不適切な記載は「意図的な不正(粉飾)によるものではなく誤謬」に起因するとされており、Abalanceは、2024年3月14日、監査等委員会報告書の内容に沿って、誤謬であったとの適時開示を行うとともに過年度の有価証券報告書等の訂正を公表している。 第三者委員会は、調査結果に基づいて、監査等委員会による調査期間中に、経営陣が監査等委員会の委員も巻き込む形で、第三者委員会や特別調査委員会の設置を何としても回避しようとしていた事実を指摘したうえで、監査等委員会報告書が「誤謬」と判断した理由については、不正会計(粉飾)であることを否定するには不十分であり、総合的にみて「誤謬」と結論づける根拠として採用することは困難であると結論づけた。   【検証委員会による検証報告書の概要】 1 検証委員会設置の経緯 Abalanceは、2025年12月17日付の第三者委員会による調査結果報告書(第三者委員会報告書)の提出を受けて、第三者委員会による再発防止策の提言に沿って再発防止策を策定、実行することとしたところ、第三者委員会報告書の個別の案件を含め、詳細に検証を進めたうえで適切な再発防止策を講じる必要性を認識したことから、経営の再構築及びステークホルダーの皆様からの信頼を取り戻すために必要な施策として、2025年12月25日、検証委員会の設置を決議し、2026年1月8日、検証委員会の委員3名を選定するとともに、検証を実施することとした。 検証委員会設置の必要性について、検証報告書では、第三者委員会報告書は、関係者が一部匿名化(記号化)されており、記号化された者が誰であるかを把握する必要があったこと、また、第三者委員会報告書記載の事実認定及び会計に関する見解について、根拠が示されていないものが多かったことを理由として挙げている。 検証委員会は、検証のために、第三者委員会に対して、第三者委員会報告書完成稿(実名版)及び第三者委員会報告書記載の事実認定及び会計に関する見解についての根拠資料の提供を求めたものの、第三者委員会委員長である本澤順子弁護士から、以下の理由により協力を拒絶されている。 検証委員会は、第三者委員会委員長本澤順子弁護士の挙げた理由について、反論したうえで疑義を述べているが、結果として、第三者委員会報告書の関係者の一部については不明のまま本検証を行うとともに、事実認定及び見解の根拠が不明なものについては、独自の調査に基づき、第三者委員会の認定の当否を検討することとなった。   2 検証委員会による検証結果の概要 検証報告書では、「総論」として、「第三者委員会報告書としての特殊性」と「不正の認定の根拠に関する問題点」を論じたうえで、「有償支給取引」に関する評価を行っている。 (1) 第三者委員会報告書としての特殊性 検証委員会は、Abalance第三者委員会による報告書が、通常の第三者委員会による報告書とは大きく異なっているとして次の3点を挙げている。 (2) 不正の認定の根拠に関する問題点 検証委員会は、第三者委員会報告書が、財務諸表の虚偽記載に関する「不正」(粉飾)の判断は、「故意」に限られず、通常の管理担当者であれば容易に識別し得たにもかかわらずこれを見逃したような「重過失」がある場合も、広義の「不正」に該当し得ることが会計上の慣行であるとして、監査等委員会報告書などの認定を否定し、会計処理を「不正」と認定している点につき、「不正の定義」及び「会計上の慣行」について検証を行っている。 その結論として、検証委員会は、不正の定義については、監査基準などの基準や公刊物において「意図的」であることを要素としていることは明らかであり、「重過失」の場合を「不正」と同視する見解は一切確認できないこと、また、上場企業の不祥事に関する報告書についても、会計上、重過失があるからといって「不正」と評価している報告書は皆無であったことを理由として、「通常の管理担当者であれば容易に識別し得たにもかかわらずこれを見逃したような「重過失」がある場合も、広義の「不正」に該当し得ることが会計上の慣行である」との第三者委報告書の見解は誤りであると判断した。 (3) 有償支給取引 検証委員会は、次いで、過年度決算訂正に至った有償支給取引の会計処理の問題について、Abalance経営陣、経理部門、事業主体であるWWB側の対応にどのような問題があったのかについて、独自にヒアリング等の調査を行い、その結果に基づき、これらの点についての第三者委報告書における記述を検証している。 検証委員会は、結論として、Abalance経理担当者としては、無難に会計処理を行って決算業務を完了させることで精いっぱいであって、適切な会計処理を行うという意識を持つ余裕すらなく、経理部門の体制が極めて脆弱であったことも、有償支給取引について不適切な会計処理が生じた大きな要因だったといえるという判断を示した。   【原因分析と再発防止策】 第三者委員会報告書、検証報告書ともに、不適切な会計処理について原因分析(問題点の指摘)と再発防止策(問題点の改善)について、調査結果に基づいて述べているので、比較検討するために、併記してその概要を見ておきたい。   1 原因分析(第三者委員会調査報告書123頁以下) 第三者委員会は、「はじめに」として、Abalanceグループにおいて様々な事案が生じたことにつき共通する原因としては、経営陣においてコンプライアンスが軽視され、内部統制が機能していなかったことが挙げられ、その主たる原因としては、グループの実質的なトップである龍潤生代表取締役会長兼CEO(第三者委員会報告書上の表記は「A氏」。以下、「龍会長」と略称する)のガバナンスへの理解の不十分さ、その他の経営陣におけるコンプライアンス意識の鈍磨、コンプライアンスを軽んじる企業風土にあると考えられるとして、次のように分類している。 第三者委員会は、龍会長について、「ガバナンスへの理解の不十分さ」に加えて、「証券市場ないし投資家等のステークホルダーの軽視」を挙げ、不適切な会計処理は、単に個別の会計処理や会社法上の手続に起因する問題ではなく、経営トップである龍会長の姿勢による証券市場ないし投資家等のステークホルダーの軽視の姿勢にも起因した問題に加えて、ガバナンス体制の脆弱性、内部通報や問題提起が機能しない組織風土といった、より構造的・本質的な問題も存在するものと評価できることから、これらの構造的要因を解消しなければ、類似の不適切行為が再び発生する可能性は排除できず、上場企業として持続的な信頼を確保することは困難であるという厳しい評価を述べている。   2 再発防止策の提言(第三者委員会調査報告書130頁以下) 第三者委員会は、「はじめに」として、Abalanceについて、コンプライアンスの重要性を見つめ、企業風土を回復、上場会社としてのガバナンス体制を適切に構築していくことが早急に求められると同時に、組織のトップがガバナンスを謳っていながら依然として改善していない現実を直視すると、抜本的な刷新が肝要・急務と言えると述べて、つぎのような再発防止策の提言を行っている。 第三者委員会は、龍会長が、グループの実質的な経営のトップかつ大株主であることを踏まえれば、その影響力を抜本的に除去しない限り、企業風土(龍会長の意向を忖度し牽制意見が機能しない)の健全化は見込めないとしたうえで、龍会長がグループの経営から速やかに退任することが、企業風土の再構築と牽制機能の回復に向けた第一歩と考えざるを得ないと述べている。 そのうえで、第三者委員会は、大株主である龍会長による実質的な支配力を排除しなければ、根本的かつ持続的なコンプライアンス体制の構築や、投資家をはじめとする利害関係者からの信頼回復は困難であるとして、龍会長の影響力を除去するためには、第三者による龍会長所有株式の買い取りや増資等によって株主としての影響力を低減・排除するための方策を検討する必要があるとしている。   3 コンプライアンス・ガバナンス上の問題点(検証報告書52頁以下) 検証委員会が指摘したコンプライアンス・ガバナンス上の問題点は次のとおりである。 監査等委員会が調査の結果、不適切な会計処理を「誤謬」と評価したことを否定した第三者委員会報告書に対して異議を表明した検証委員会ではあるが、監査等委員会自体の牽制機能は欠如していたと評価している。その理由として、検証委員会は、監査等委員会報告書で、経理部門の体制不備の問題は指摘されているが、その後、この問題をどのように解決し、管理部門全体の改善を果たしていくかは重大な課題であったにもかかわらず、監査等委員会としては管理部門の機能改善を厳しく監視監督し、改善が進んでいないのであれば、厳しく指摘するといった職務を果たしている様子はうかがわれないと述べている。   4 コンプライアンス・ガバナンス改善のための方策(検証報告書56頁以下) 検証委員会は、上記の問題点を改善するための方策として、次のように提言している。 検証委員会は、方策の第1に、「経営陣及び監査等委員会の刷新」を挙げて、龍会長(2025年12月26日、2026年3月6日付での辞任を公表)を始めとする現経営陣のコンプライアンス・ガバナンスに対する意識及び役職員の龍会長への忖度と委縮の心理が広く浸透している状況では、適切な会計処理や適時開示を行うための体制を構築することは不可能である。また、監査等委員会による牽制機能もおよそ果たされてないとしたうえで、Abalanceにおいては、経営陣及び監査等委員会を刷新し、早急に経営体制の見直しを図ることが必要であると提言している。 そのうえで、第三者委員会が龍会長(A氏)所有の株式の第三者による株式買い取りや、増資等、株主としての影響力を低減・排除するための方策を検討する必要があるとしている点について、検証委員会としては、龍会長の影響力除去のための施策として、株主構成については検討されるべきものと考えるが、龍会長の資産である保有株式について意見する立場にないものと思料すると提言するに留めている。 また、検証委員会は、「監査等委員会の監督機能の強化」として、会社に常駐し、リアルタイムで監視監督機能を果たすことができる常勤の監査等委員の選任は必須であると同時に、業務執行取締役との関係がなく、不適切な業務執行に対して強い態度で牽制することができる経験豊かな社外役員、特に会計基準や不正事例などに精通する公認会計士や弁護士などの財務会計法務の専門家を登用するなど、取締役会構成の見直しを積極的に行うべきであると提言している。   【検証委員会による取締役等の責任及び新経営体制の在り方に対する提言】 検証委員会は検証報告書のなかで、検証委員会の設置の目的には、取締役等各人の責任調査の実施、新経営陣の陣容、組織の在り方に対する提言も含まれており、検証委員会の検証結果を受けての Abalance及び関係者の対応を見極めた上でなければ、適切な判断を行うことは困難であるため、検証委員会は、報告書公表後のAbalanceの状況を踏まえて、別途検討結果を報告書として取りまとめる予定であると明記している。 そして、Abalanceが改善計画の策定方針を公表した後、3月6日、検証委員会による「取締役等の責任及び新経営体制の在り方に対する提言(2026年3月2日)」が公表されたので、概説したい。   1 検証委員会が対象とした取締役等とその法的責任 検証委員会が「取締役等の法的責任」について評価を行った者の氏名・役職とその結論は次のとおりである。 龍 潤生 代表取締役会長兼CEO 取締役からの退任は不可避である 任務懈怠責任は明らかである 光行康明 元代表取締役 2024年9月26日付で退任し、相談役に就任 契約関係の解消などの対応が必要となる 藤澤元晴 取締役副会長 2025年12月30日付で退任 上場企業であるAbalanceグループの取締役としての適格性には疑問があり、退任は不可避である 国本亮一 代表取締役社長兼COO 経理に精通し適正な会計処理に一定の役割を果たしてきたことから、その処遇は慎重に検討すべきである 日下部笑美子 社外取締役監査等委員 六川浩明 社外取締役監査等委員 本間勝 社外取締役監査等委員 日下部氏及び六川氏は2024年9月26日付で退任 監査等委員会調査の主体であったが、不適切会計について社外役員による中立的・客観的立場からの事実解明、再発防止を目的とする調査として不十分であり、Abalanceの混乱の要因になったと言わざるを得ない 本間氏については、監査等委員会委員長として、会計処理の適切性の確保のための体制構築や、不適切会計の事実解明に向けての職責を十分に果たしたとは言い難く、その責任は大きいと言わざるを得ない   2 新経営陣の陣容、組織の在り方に対する提言 検証委員会は、はじめに、ガバナンス、コンプライアンスの問題の根本的な要因となった大株主で代表取締役会長の龍会長が取締役から退任することが不可避としているが、海外子会社の経営に関する事項については、龍会長以外に知り得ない状況であることから、その改善方法として、会社分割等により海外子会社等の海外部門をAbalanceから切り離して独立させ、龍会長は海外部門の経営に専念することとし、国内部門に特化したAbalanceの経営からは完全に離脱することを提言している。 さらに、検証委員会は、新経営陣の陣容としては、新たなAbalanceグループの顔として、社内外から尊敬され、再建を託すに足る代表取締役及びこれを補佐するとともに代表取締役に意見具申することを怖れない事業面・管理面を統括する業務執行取締役、これらの業務執行取締役を厳しく監視監督するともに、事業面・管理面について適切な助言を行うことができる知見・経験に富んだ社外取締役が必要であると提言を続けている。 また、検証委員会は、監査等委員会の監督機能の強化は必須であり、会社に常駐し、リアルタイムで監視監督機能を果たすことができる常勤の監査等委員、会社や業務執行取締役との利害関係がなく不適切な業務執行に対して強い態度で牽制することができる経験豊かな社外役員、特に会計基準や不正事例などに精通する公認会計士や弁護士などの財務会計法務の専門家を登用する必要がある。   3 まとめ 検証委員会は、第三者委員会報告書について、「全体として多くの前提となる一般論の誤り、事実誤認、不適切な記述があり、龍会長と監査等委員会報告書等に対する感情的ともいえる批判に終始しており、日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠した客観的・中立的な調査報告書とは言い難い」と批判したうえで、Abalanceの不適切会計処理を不正・粉飾と断定した形で公表されたことによって、上場企業である同社に致命的ともいえる打撃を与えただけでなく、第三者委員会報告書を受けた日本取引所による特別注意銘柄指定等により、上場企業として重大な危機に瀕していると現状を分析している。   【調査報告書の特徴】 第三者委員会報告書を受領したAbalanceが、検証委員会を設置するというリリースを目にした時、「報告書の認定を気に入らない経営陣が自分たちの責任を回避するためのオピニオンを手に入れるため」に別の委員会を立ち上げるのかと勘ぐっていたところ、検証委員会の委員長が郷原信郎弁護士であることが公表され、筆者の邪推は覆されたわけだが、いっぽう、第三者委員会と検証委員会とで、事実認定やその評価について見解が分かれてしまうのではないかという懸念を持っていた。 筆者の頭をよぎったのは、弁護士職務基本規程である。 条項には、「信義に反して」「不当に」という文言が明記されていることから、他の弁護士が作成した調査報告書を検証することが直ちに規程に違反することにはならないものと思料するが、結果的に、検証報告書は、第三者委員会報告書の認定を批判し、一部を否定する内容となっているのはこれまで説明してきたとおりである。 言葉を変えれば、第三者委員会は「不正会計(粉飾)」という結論を導くために、監査等委員会報告書を批判する構造を採っていたのに対し、検証委員会はその前提となる事実認定・会計慣行・調査手法そのものに疑義を呈し、第三者委員会の結論の妥当性を根本から問い直す形となっている。 監査等委員会による報告書も含めて、3通の報告書を作成することになったAbalanceの会計処理による影響を確認しておきたい。   1 公認会計士等の異動 Abalanceは、2024年7月29日、「公認会計士等の異動に関するお知らせ」をリリースして、それまで6年間継続して会計監査を担当してきたアスカ監査法人から、「翌期の監査品質を維持するための体制を組むことが困難である」ことを理由として、2024年9月26日に開催予定の第25回定時株主総会の終結の時をもって任期満了により会計監査人を退任するという通知を受領したことから、新たな会計監査人として、有限責任中部総合監査法人が就任することを公表した。 同リリースでは、過年度の有価証券報告書等の訂正については触れられていない一方で、監査法人の選任理由として、「会計監査人の交代により、新たな視点での監査が期待できることに加え、本監査法人の専門性、独立性、品質管理体制及び規模等を総合的に勘案した結果、当社の会計監査人として適任であると判断した」と説明されている。   2 半期報告書における会計監査人による「結論不表明」のレビュー報告書の提出 2026年1月13日、Abalanceが提出した半期報告書には、会計監査人である有限責任中部総合監査法人による、「結論を表明しない」ことを明記した期中レビュー報告書が添附されている。「結論不表明の根拠」は次のとおりである(一部文言を省略している)。   3 東京証券取引所による特別注意銘柄指定 東京証券取引所は、2026年1月30日、「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求について」をリリースして、Abalance株式を特別注意銘柄に指定するとともに、上場契約違約金4,320万円の徴求を行うことを公表した。 リリースでは、特別注意銘柄指定の理由として、「上場会社の中間連結財務諸表に添付される期中レビュー報告書において結論不表明が記載され、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため」及び「企業行動規範の遵守すべき事項(業務の適正を確保するために必要な体制整備)の規定に違反し、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため」としており、いっぽう、上場契約違約金の徴求理由としては、「企業行動規範の遵守すべき事項(業務の適正を確保するために必要な体制整備)の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと認められるため」としている。 (了)
#664(掲載号)
#米澤 勝
2026/04/09
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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2026年3月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年3月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年3月1日から3月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。   Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ① 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)について (内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載) ② 「記述情報の開示の好事例集2025」の最終版 (内容:「MD&A、事業等のリスク」の開示例、「重要な契約等、コーポレート・ガバナンスの状況等」の開示例を追加) ③ 「人的資本可視化指針(改訂版)」等 (内容:企業が経営戦略と連動した人材戦略を策定し、企業価値向上につながる質の高い人的資本投資を実践・開示するために、人的資本投資・人材戦略を検討する際のフロー、どのような人的資本開示が企業と投資家の建設的な対話に有用であると考えられるか等について整理したもの)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」 (内容:サステナビリティ情報の保証業務に関する新たな実務指針) ② 品質管理基準報告書第1号「監査事務所における品質管理」及び品質管理基準報告書第2号「監査業務に係る審査」の改正 (内容:サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」等に伴うもの) ③ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正について (内容:主に、AI条項の追加、東証ヒアリング等への対応について改正するもの) ④ 期中レビュー基準報告書第1号「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」、期中レビュー基準報告書第2号「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」及び期中レビュー基準報告書第2号実務ガイダンス第1号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める四半期財務諸表等に対する期中レビューに関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正 (内容:「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)等の公表を受けたもの) (了)
#664(掲載号)
#阿部 光成
2026/04/09
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従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第20回】「交通費不正受給を理由とする解雇の有効性」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第20回】 「交通費不正受給を理由とする解雇の有効性」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社は、通勤手当や業務にかかる交通費などを従業員に対して支給していますが、支給にかかる手続が必ずしも十分に整備されておらず、その結果として、従業員による不正受給の事例が散見されます。 そこで、不正受給が認められるケースについては厳正に対処し、場合によっては解雇の対象とすることも検討していますが、その際に注意すべき点について教えてください。 【Answer】 まず、交通費申請に関する手続を整備し、領収書等の裏付け資料の提出がない限り支給を行わないといった仕組みを構築し、これを適切に運用することが重要です。 また、解雇の対象を詐欺的な不正受給に限定すること、懲戒解雇に限らず普通解雇も併せて検討すること、不正受給を行った従業員について勤務成績や勤務態度等の問題が認められる場合には、これらの事情も含めて解雇の根拠とすることなどが、実務上のポイントとなります。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 交通費等の業務遂行に必要な費用について、使用者がこれを負担しなければならないとする一般的な法令上の義務は存在しないため、これらの費用を会社が負担するか、あるいは労働者に負担させるかは、労働契約や就業規則等により定めることが可能である。 もっとも、多くの会社においては、従業員に対して業務遂行に必要な交通費(通勤手当等)を支給しており、その運用の中で、交通費の不正受給が行われるケースも相当数存在している。 交通費の不正受給は、業務遂行に必要な費用であるかのように装って会社を欺き、会社から金銭の支払いを受ける行為であるから、詐欺罪(刑法246条)に該当し得る行為である。また、金銭の詐取は、直接的に会社に損害を与える行為でもある。 このような性質から、従業員による不正受給事案については、解雇処分をもって対応したいと考える会社も少なくないであろう。 しかしながら、交通費の不正受給が詐欺罪に該当し得る行為であるとしても、常に解雇が有効とされるわけではない。 以下では、交通費の不正受給を解雇の対象とするためのポイントについて説明する。   2 交通費の不正受給を解雇の対象とするためのポイント (1) 交通費支給に関するルールを明確に定めておくこと 例えば、東京地判平成26年2月5日は、多数回にわたり虚偽内容の交通費申請を行った従業員に対する懲戒解雇の有効性が争われた事案であるが、裁判所は、「直属の上司の決裁を得れば領収証を添付しなくても交通費の精算を受けることができるという交通費精算の仕組みを被告が採用していたことが、巧妙な手口とは言い難い本件行為が長期間にわたり反復継続されることとなった一因であることは否定できないこと」と述べ、これを理由の一つとして、懲戒解雇を無効と判断している。 不正を行いやすい環境が存在すれば、真面目で誠実な従業員であっても、不正に手を染めてしまう可能性は高まる。 交通費支給にかかる申請手続を整備し、領収書等の裏づけ資料の提出を義務付けるなど、厳格なルールを策定し、従業員が不正を行いにくい環境を整えることは、不正行為の抑止につながるだけでなく、懲戒処分の有効性を高めるという観点からも重要である。 (2) 詐欺的な不正受給を対象とすること 東京地判平成18年2月7日(光輪モータース事件)は、従業員が通勤経路を変更して交通費を節約していたにもかかわらず、会社に届け出ることなく、従前の通勤手当を受給していた事案について、懲戒解雇の有効性が争われたものである。 同判決は、当該行為について、当初から不正に通勤手当を過大請求する目的で不合理な通勤経路を申告したような、いわば詐欺的な場合と比較すると、その悪質性は高いとはいえないとして、懲戒解雇を無効と判断している。 詐欺的な不正受給とは、上記裁判例のような場合のほか、例えば、住居を移転したにもかかわらずこれを会社に届け出ず、従前の住所を前提とする通勤手当を受給した場合や、虚偽内容の交通費精算申請を行った場合などが該当するであろう。 (3) 懲戒解雇及び普通解雇の双方を検討すること 懲戒解雇は制裁罰としての性質を有するため、解雇権濫用法理の適用においては、普通解雇よりも厳格な審査がなされる。その結果、懲戒解雇は無効とされる一方で、普通解雇は有効と判断される場合があり得ること、また、懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が当然に含まれるとする主張が認められないことは、拙稿【第3回】において述べたとおりである。 また、企業秩序違反を対象とする懲戒解雇とは異なり、普通解雇においては、当該従業員の勤務成績や勤務態度の不良といった事情も、解雇を裏付ける事実として主張できるという利点がある。 実際、東京地判平成2年7月27日(三菱重工業(相模原製作所)事件)では、懲戒解雇は無効とされたものの、勤怠等の事情を考慮した結果、普通解雇については有効と判断されている。 交通費の不正受給を行う従業員については、勤務成績や勤務態度等にも問題が見られることが少なくない。 そのため、不正受給を理由として解雇を検討する際には、他にも問題行為が存在しないかを当該従業員の上司等に確認することが有益である。 もっとも、仮に他の問題行為が確認されたとしても、それを裏付ける資料がなければ、訴訟等に発展した場合に、会社側の主張が認められにくくなるおそれがある。 従業員に対して解雇を含む不利益処分を適切に行うためには、問題行為や改善指導の経緯について日頃から記録を残しておくことが重要であり、交通費不正受給事案においても、この点が大きな意味を持つことになる。 (了)
#664(掲載号)
#柳田 忍
2026/04/09
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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第29回】「遺産分割協議に参加する場合の注意点」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第29回】 「遺産分割協議に参加する場合の注意点」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 後見人を務めていますが、本人の親が先日死去したため、成年後見人として遺産分割協議に参加することになりました。どのような注意点があるでしょうか。 【A】 成年後見人としては本人の法定相続分は最低限確保するように遺産分割協議に参加をする必要があります。また遺産分割協議に臨む前提として法定相続人の把握や財産の調査と評価が正しくできているかについても注意を払う必要があります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 法定相続分の確保が前提 成年後見人は本人の権利を保護することが仕事ですから、本人の法定相続分は遺産分割協議において確保できるようにする必要があります。事業を経営している家庭のように特定の相続人に資産を承継する必要があるケースもありますが、そのような場合でも代わりに現金や預金などの相続が受けられるように主張をする必要があります。もし、本人の家族と連携が取れているようであれば、相続の発生前からこのあたりの事情を説明して対策を考えておいてもらうとよいかもしれません。 【法定相続分】   2 家庭裁判所の許可は不要 疑問を持ちやすいことではあると思いますが、遺産分割協議に参加すること自体に家庭裁判所の許可などは不要です。ただし、遺産分割協議の内容については定期報告などのタイミングで報告を行う必要があり、家庭裁判所への情報共有を行うことになります。実務的には遺産分割協議書の案が完成したら家庭裁判所に確認をしてもらい、問題が無いことを確認してもらってから遺産分割協議書に押印を行うことが多いように思われます。 なお、もし本人と成年後見人がともに相続人である場合には、遺産分割協議のために特別代理人の選任が必要になります。子が親の成年後見人になっているケースが典型ですが、認識をしておく必要があります。   3 遺産分割協議に臨むにあたっての注意点 成年後見人として遺産分割協議に臨む以上、遺産分割協議の注意点を押さえておく必要があります。 (1) 法定相続人の確認 遺産分割協議は法定相続人全員で行う必要があり、一人でも欠いて遺産分割協議が行われると無効となります。遺産分割協議は特定の相続人が主導をして準備をすることも多いですが、専門家が関与していない場合は法定相続人の確認をしっかりと行っていないケースもあります。成年後見人としては、法定相続人を確認するために戸籍の提示を求めるなどの対応が必要になります。 (2) 遺産の調査と評価 遺産分割協議を行うために、まず遺産の調査を行い、その内容と評価額などを記載した財産目録を作成して、分割の内容を相続人で検討していくことになります。財産目録に記載された遺産の内容や評価額が正確でなければ円滑に遺産分割協議を進めることができないため重要な工程になりますが、専門家が関与せずに対応をした場合、遺産の一部が漏れていたり評価額の根拠資料が不明確であるなどの事象が起きがちです。成年後見人としては、どのように調査をしたのか、評価額の根拠資料はあるのかなどをしっかりと確認をする必要があります。 不動産のように固定資産評価額などの公的な評価額と実勢価格が大きく異なる遺産や、骨董品のように評価が難しい遺産もありますが、このあたりは税理士としての経験が活きるといえるかもしれません。 (3) 専門家に相談することもできる 成年後見人であっても遺産分割協議の内容が複雑で対応が難しい場合には、弁護士等に遺産分割協議について相談することもできます。筆者の経験でも司法書士や弁護士以外の専門職が成年後見人となっていた場合に、弁護士等に相談のうえで対応されていた事例があります。遺産分割協議は寄与分や特別受益についてなど難しい判断が必要になるケースもありますから、弁護士等への相談も選択肢として持っておくとよいでしょう。 (了)
#664(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/04/09
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧

《速報解説》 会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しの中間試案が公表される~株式の無償交付の対象範囲やバーチャルオンリー株主総会の実施要件等を見直し~

《速報解説》 会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しの中間試案が公表される ~株式の無償交付の対象範囲やバーチャルオンリー株主総会の実施要件等を見直し~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年4月2日、法務省は、「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」(令和8年3月18日、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会)を公表し、意見募集を行っている。 これは、会社法制(株式・株主総会等関係)に関する審議結果を取りまとめたものである。ただし、確定的な案を示すものではなく、今後の審議において、さらに検討を深めて成案を得ていくことが予定されているとのことである。 意見募集期間は2026年5月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」も公表されているので、詳細な説明は当該文書をお読みいただきたい。 (了)
#阿部 光成
2026/04/03
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プロフェッションジャーナル No.663が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年4月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.663を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/04/02
税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.158-「「埋蔵金」論争と責任ある積極財政」

monthly TAX views -No.158- 「「埋蔵金」論争と責任ある積極財政」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   高市総理の下で2年限定の消費税食料品ゼロ(以下消費税減税)の検討が始まる。最大の問題は、年間5兆円と言われる財源探しだ。特定公債は出さないということで、租税特別措置や補助金、さらには税外収入の見直しが候補に挙げられ、日本版DOGE(正式名称:租税特別措置・補助金見直し担当室)と称される担当室が設置されている。 租税特別措置や補助金の見直しは歳出・歳入改革として平時からしっかり行う必要があるものだが、それだけでは5兆円の財源には届かない。ちなみに日本版DOGEの一年目の補助金見直しによりねん出される財源は1,000億円にも満たなかった。 そこで税外収入による財源探し(いわゆる「埋蔵金」探し)が最有力候補となる。すでに日銀保有ETF (上場投資信託)の活用や外為特会(外国為替特別会計)が候補にあがり様々な案が検討されているという報道も出ており、この2つについて考えてみたい。 *  *  * まずは日銀保有ETFだ。日銀の保有するETFは年間で1兆円を超える分配金(配当など)を生み出し、すでに日銀納付金として国庫に計上されている。焦点になっているのは含み益で、2025年3月末時点で約33兆円~46兆円規模といわれている。 これを財源にするには一市場で売却する必要があるが、これには様々な問題点が指摘されている。すでに日銀は2026年初めごろから、金融緩和の正常化の「出口戦略」の一環として年間約3,300億円(簿価ベース)のペースでETFを売却し始めている。 それに加えての売却ということになると、需給の悪化を通じた株式市場への悪影響が懸念される。今後更なる利上げに伴う当座預金の利払い費の増加や、金利上昇に伴う保有国債の含み損の拡大が予想され、ETFの収益はその財源となることを考えておく必要がある。 より大きな問題は、日銀が保有する資産について政府が干渉することは、中央銀行の独立性に大きな影響を及ぼし、金融政策の信頼性の問題を引き起こす「財政による金融従属(Fiscal Dominance)」を生じさせることだ。市場から実質的な財政ファイナンスと見られれば 通貨価値の下落・インフレに発展するリスクが生じかねない。 *  *  * 次に外為特会だが、財源ねん出という場合、フローとしての運用益とストックとしての剰余金(内部留保)の活用の2つが考えられる。 運用益は、外貨資産(主として米国債)から得た利子収入だが、すでにその7割が一般会計に繰り入れられている。24年度は5兆3,603億円の剰余金のうち25年度予算の一般会計に3兆2,007億円を繰り入れ、このうち約1兆円は防衛力強化の財源となっている。残りの3割は活用可能だが、円高のバッファーとして積み立てておく必要もある。 次はストックについてである。2024年度末時点で、資産(主として米国債)191兆円に対し負債(主として短期国債)約111兆円となっており、差額は(純資産)は約80兆円といわれている。このうち50兆円程度が円安によって膨らんだ為替差益だ。 これを現金化するには、米国債を売却する必要があるが、それは為替介入と同じ効果が生じるうえ、米国に金利高をもたらすなど大きな影響を及ぼしかねないのでトランプ大統領が容認するとは思えない。 そこでこの評価益を、評価替えを行ったうえで一般会計に移し替えることや積立金の取り崩しなどが検討されているようだ。 *  *  * 強い総理指示を受けて財務省がトリッキーな「埋蔵金」を見つけてくる可能性は十分考えられる。しかしそれが本当に財源と呼ばれるものなのか、食料品消費税ゼロという政策の妥当性も含めて市場や国民の評価にさらされることになる。 かつて民主党時代に埋蔵金探しが行われたが、財源はほとんど見つからず、マニフェストに掲げた子ども手当が半分になり、それがきっかけで民主党の政権担当能力が問われ再び政権交代につながった。埋蔵金さがしによる小手先のやりくりは、本質的な痛みを伴う改革、つまり歳出削減や税負担増から逃げることにつながり、国民の政治への信頼を失うことにつながりかねない。責任ある積極財政の本質が問われている。 (了)
#663(掲載号)
#森信 茂樹
2026/04/02
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例85】「不相当に高額な役員給与該当性に係る主たる事業の判断基準」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例85】 「不相当に高額な役員給与該当性に係る主たる事業の判断基準」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、近畿地方のとある県庁所在地に本社がある食品加工業を営む株式会社X(資本金9,000万円で3月決算)において、海外事業部長を務めております。わが国の食品加工業を取り巻く経済環境は近年非常に厳しく、数年前まではコロナ禍の直撃を受け多くの同業者が倒産の危機に見舞われましたが、そのような災難をどうにか乗り越えたのも束の間、今度は円安による輸入物価の高騰とインフレ、更にはトランプ関税と、泣きっ面に蜂の状況です。それでもわが社は生き残りを図るべく海外進出に活路を求め、最近どうにか芽が出始めているところです。 すなわち、海外における比較的富裕層の間での健康志向から日本食がブームになっているという波に乗り、味噌や醤油のような発酵食品について製品開発を行い、徐々に販路を拡大しているというものです。特に東南アジアでは日本の発酵食品が広く受け入れられ、現地の工場を立ち上げて本格的に販売を拡大しており、近い将来には海外での売上げがわが国での売上げを上回るのではとの予想も、十分実現しそうな状況です。 さて、そのようなわが社の意気込みに水を差すような出来事が、つい最近ありました。それは、10年ぶりに受けることとなった税務調査でした。その中で税務署の調査官が、東南アジアの子会社に派遣された役員の給与が「不相当に高額」であるとして、その大半が損金に算入されないと宣告してきました。当該役員はわが社が社運をかけて乗り出した海外事業の責任者であり、彼なくしては海外事業が成り立たないのであって、余人をもって代えがたい存在であるため、通常の海外子会社の役員報酬と比較するのはナンセンスであると考えますが、税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 役員に対する給与が「不相当に高額」といえるかどうかは、その支給額のうち、法人税法施行令に定める実質基準による金額又は形式基準による金額のいずれか多い金額を超える部分の金額の有無にかかっていますが、この場合の「実質基準」の適用に当たっては、支給対象役員のその法人に対する貢献度等も勘案すべきとなります。この「貢献度等」については、対象役員による法人の収益性向上への寄与につき、客観的なデータ等によりいかに立証できるかに依拠するものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 不相当に高額な役員給与の判断基準 法人税法上、役員に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金の額に算入されないこととされている(法法34②)。当該規定については、平成18年度の役員給与の規定の全面的な改正の前から、実質的に同じ趣旨の規定が存在していたところである。なお、給与に関し「不相当に高額な部分の金額」が損金に算入されないのは、役員のみならず、役員の親族等に当たる「特殊関係使用人」に対するものであっても同様である。 ここでいう「不相当に高額な部分の金額」とは、支給した給与の額のうち、 のいずれか多い金額のことをいう(法令70①)。   (2) 不相当に高額な役員給与に係る実質基準 法人税法施行令で示された「不相当に高額な」役員給与に係る実質基準の適用に当たっては、同種事業・類似規模の法人における報酬の支給状況を参照することはもちろん必要であり、一応合理的であると考えられるが、それだけにとどまらず、当該役員のその法人に対する貢献度等も合わせて勘案しなければならないと解されている。 この点について、例えば、東京地裁昭和46年6月29日判決・行裁例集22巻6号885頁(TAINSコード:Z062-2753)において裁判所は、「法人税法および同法施行令が役員退職給与について特に前記(筆者注:実質基準)のごとき規定を設けたのは、役員退職給与の損金性を決定する尺度たる当該役員の会社に対する貢献度が・・・」と判示している。   (3) 不相当に高額な役員給与該当性に係る主たる事業の判断基準が争われた事例 それでは本件と同様に、不相当に高額な役員給与該当性に係る主たる事業の判断基準が争われた事例(東京地裁令和5年3月23日判決・判タ1527号139頁、TAINSコード:Z273-13836、「京醍醐味噌事件」)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、味噌等の製造、卸、販売等を目的とする内国法人である原告が、1)平成24年10月1日から平成25年9月30日までの事業年度(平成25年9月期)、平成26年9月期、平成27年9月期、平成28年9月期及び平成28年12月期の法人税、2)平成24年10月1日から平成25年9月30日までの課税事業年度(平成25年9月課税事業年度)及び平成26年9月課税事業年度の復興特別法人税並びに、3)平成26年10月1日から平成27年9月30日までの課税事業年度(平成27年9月課税事業年度)及び平成28年9月課税事業年度の地方法人税について、原告の役員に支給した当該年度に係る給与の全額を損金の額に算入して確定申告をしたところ、東山税務署長が、上記役員給与の額には法人税法第34条第2項に規定する不相当に高額な部分があり、同給与の額全額を損金に算入することはできないなどとして、ア.本件各事業年度に係る法人税の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分、イ.上記復興特別法人税各課税事業年度に係る復興特別法人税の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分並びに、ウ.上記地方法人税各課税事業年度に係る地方法人税の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をしたことから、原告が、上記役員給与の額に不相当に高額な部分はないなどと主張して、上記各更正処分の一部取消し及び上記各賦課決定処分の全部取消しを求める事案である。 なお、本件で「不相当に高額な役員給与」が問題となった役員のうち、乙に関しては、ベトナムに赴任し新規事業を担当する予定であったが、平成27年11月、ベトナムにおいては全世界所得が課税対象となり、ベトナムで徴収された税金は他の国で控除ができないという情報を入手したため、日本本社がベトナム新規事業の実施を留保することとなり、結果としてベトナムに赴任することはなかった、という経緯がある。 ② 事案の争点 本件各役員給与における不相当に高額な部分の金額の有無及びその額である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁令和6年1月18日判決・TAINSコード:Z888-2555)、上告されたが不受理で確定している(最高裁令和6年12月12日決定・TAINSコード:Z888-2704)。 ④ 本裁判例から学ぶこと 「不相当に高額」というべき役員給与の水準とはどの程度なのかについては、客観的・明確な基準があるとは言い難く、また、これまでの裁判実務で示されてきた基準は、必ずしも当事者の実感に即したものでもなかったようである。そのため、過去から現在に至るまでこの点に関する課税庁と納税者との争いは尽きないのであるが、課税の公平性を重視すれば、同業他社の役員給与の水準を基準とする画一的な方法によることは避けられないものと考えられる。そのような画一的な手法が仮に「不合理」であると言えるケースがあるとすれば、それは対象となる役員に類稀な特殊な才能等があり、それにより支給する企業に莫大な利益をもたらしてきた真の起業家のケースであり、それが確実に、、、言えそうなのは、それこそイーロンマスクレベルの人物か、わが国で言えば孫正義氏や柳井正氏等の傑出した人物に限定されるのではないかと考えられる。 本件についていえば、ベトナム事業を立ち上げるために有能な役員を派遣したため、その報酬が多少高くても問題ないというのが会社の主張なのであろうが、月額2億5,000万円という破格の給与を得た者が、ベトナムの課税制度が日本企業にとって必ずしも有利ではないという、事前に調査すれば容易にわかることを碌に調べずにわずか数ヶ月で撤退を余儀なくされるという有様では、その者に支払われた給与は正に「不相当に高額」としか言いようがないのではないだろうか。 また、原告(納税者側)は、役員給与の水準の妥当性については「中長期的な業績を考慮するべきである旨」主張したが、裁判所は、「その範囲の選択の恣意性を排除することはできないから、明確性、公平性が要求される租税法規の解釈として相当ではなく、採用することはできない。また、原告は、食品製造は10年単位で収益を評価する必要があるとも主張するが、原告の事業は(筆者注:卸売業であり)製造業ではないことから、その前提を異にするものであり、同主張を採用することはできない」として、原告の主張を斥けている。ここで重要なのは、「法人税法における所得計算は、事業年度ごとに行うことが法定されている」ことから、「不相当に高額な部分の金額」の算定も、事業年度ごとに行う必要があるという点である。   (4) 本件へのあてはめ 役員に対する給与が「不相当に高額」といえるかどうかは、その支給額のうち、法人税法施行令に定める実質基準による金額又は形式基準による金額のいずれか多い金額を超える部分の金額の有無にかかっているが、この場合の「実質基準」の適用に当たっては、支給対象役員のその法人に対する貢献度等も勘案すべきとなる。この「貢献度等」については、対象役員による法人の収益性向上への寄与につき、客観的なデータ等によりいかに立証できるかに依拠するものと考えられる。   (了)
#663(掲載号)
#安部 和彦
2026/04/02
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《税務必敗法》 【第11回】「3割特例の適用可否の判断を誤った」

《税務必敗法》 【第11回】 「3割特例の適用可否の判断を誤った」   公認会計士・税理士 森 智幸   【事例】 AはWeb制作会社に勤務していたが、令和6年4月に独立し個人事業者として開業した。Aは開業後、X会計事務所と税務顧問契約を締結し、初回面談において「開業後2年間は免税事業者とし、令和8年からインボイス登録を行い課税事業者となる予定である」旨を担当税理士甲に説明し、あわせて簡易課税制度選択届出書を提出した。 【開業後の課税売上高】 ●令和6年分 前職からのWeb制作サービスに関する委託業務に加え、大型のスポット業務があったため、課税売上は1,100万円となった。なお、特定期間の課税売上高及び給与等の支払額はいずれも1,000万円以下であった。 ●令和7年分 大型スポット業務がなく、課税売上は800万円であった。 ●令和8年分 基準期間(令和6年分)の課税売上高が1,000万円超であったことからAは課税事業者となり、予定通りインボイス登録を行ったものの、2割特例の適用は受けることができなかった。なお、特定期間の課税売上高及び給与等の支払額はいずれも1,000万円以下であった。 ●令和9年分 令和9年に入り個人事業者を対象にして3割特例が開始されたが、甲はAに対して次のように説明した。 甲はこの判断に基づき、簡易課税制度を適用して確定申告を行った。なお、みなし仕入率は約50%であった。 ところが、確定申告期限後、Aから「別の税理士に確認したところ、インボイス登録時にすでに課税事業者であっても、令和7年分の課税売上高と令和8年分の特定期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、令和9年分は3割特例の適用は可能との説明を受けた。再確認してほしい。」との申し出があった。 X会計事務所内で調べたところ、Aの主張通り、令和9年分については3割特例の適用が可能であり、納付額が過大であることが判明した。 そこで、所轄税務署に対して更正の請求を行ったが「この場合、更正の請求は認められない」と却下された。 その結果、X会計事務所はAから過大納付相当額について損害賠償請求を受けることになった。   1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「3割特例の適用可否の判断を誤った」である。 令和8年税制改正では、個人事業者についてはいわゆる2割特例の終了後も、令和9年及び令和10年分について「3割特例」が経過措置として適用されることになった。 3割特例の経過措置期間中に想定されるミスとしては、2割特例の時と同様、3割特例の適用が可能であったにもかかわらず、その適用を失念するケースが考えられる。2割特例の時と同様の論点ではあるものの、もう一度確認しておきたいところである。 また、3割特例よりも簡易課税の方が有利になるケースも増える可能性があるので、この点も注意が必要である。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。   2 3割特例の概要 「3割特例」は令和8年税制改正において、インボイス制度導入に係る経過措置として設けられたものである。 令和5年10月に導入されたインボイス制度においては、2割特例が経過措置として設けられた。2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間であり、個人事業者は令和8年分の申告で終了することになる。 しかしながら、令和8年税制改正において、2割特例の終了後も、個人事業者については、これまで2割特例の対象となっている個人事業者も含め、消費税の納税額を売上税額の3割とすることができる措置が2年(令和9年及び令和10年分)に限り設けられることになった。 計算内容は、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額とすることにより、納付税額をその課税標準額に対する消費税額の3割とするというものである(財務省「令和8年度税制改正の大綱」四2(1))。   3 「3割特例」の留意点 (1) 対象者 3割特例の対象となるのは個人事業者のみである。法人は対象とならないので注意が必要である。 (2) 適用期間 適用期間は令和9年及び令和 10 年分の予定である。 (3) 3割特例を適用できる課税期間 2割特例においては、インボイス制度開始日の属する課税期間において課税事業者であったとしても、その後の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の課税期間については、原則として、2割特例の適用を受けることができるとされている。3割特例においても引き続き、この制度が適用される予定である。 したがって、事例のようにインボイス適用時に課税事業者であっても、その後に3割特例を全く適用できないわけではないため、引き続き注意が必要である。 なお、確定申告期限後に気付いたとしても更正の請求ができない点も、引き続き注意されたい。 (例) 課税事業者である個人事業者が令和8年にインボイス登録を受けたケース(基準期間における課税売上高のみを考慮) (国税庁「インボイス制度において事業者が注意すべき事例集」(令和5年10月改訂)の例を参考として筆者作成。) (4) 簡易課税との有利判定 3割特例は、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額とするものなので、控除率は70%である。 一方、簡易課税の場合、例えば小売業のみなし仕入率は80%であるので、業種によっては簡易課税のほうが有利になるケースも想定される。 国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問117-2では、卸売業を題材に「2割特例を適用するよりも簡易課税制度を適用した方が納付税額が少なくなる場合」を説明しているが、3割特例になると、このケースが拡大するので、簡易課税との有利判定も忘れずに行うことが必要である。 なお、簡易課税を選択した場合、2年間は継続適用となるので、翌年以後、顧問先において多額の設備投資等の予定がないかどうかを確かめる点も忘れないようにしていただきたい。   4 適用失念の場合の影響 (1) 損害賠償請求リスク 確定申告期限後に3割特例を適用でき、しかもその方が有利であったことがわかったとしても、更正の請求はできない。この場合、消費税の過大納付となるため、損害賠償請求を受ける可能性がある。 また、簡易課税のほうが有利であったにもかかわらず、3割特例を適用してしまった場合も、損害賠償請求を受ける可能性がある。 (2) 契約解除の可能性 3割特例の適用失念があると、個人事業者からの信頼を失い、顧問契約を解除される可能性がある。   5 対策 (1) 基準期間の課税売上の確認 基準期間の課税売上高は時系列で一覧表にして管理しておくとよいであろう。日税連「税理士の専門家責任を実現する100の提案」では資料集の中に「関与先別 消費税経歴表(東京会、東京地方会、千葉県会)」がある。筆者は、これをさらに加工して基準期間の課税売上高も管理しているので、参考にしていただければ幸いである。 (2) 税抜き・税込みの確認 基準期間において課税事業者であった者の課税売上高は税抜きで判定するが、基準期間において免税事業者であった者の課税売上高は、その売上げには消費税は含まれていないことから、課税売上金額がそのまま基準期間の課税売上高となる点にも注意しておきたいところである。(国税庁・質疑応答事例「基準期間において免税事業者であった者の課税売上高の判定」) (3) 税制改正のキャッチアップ 当然のことながら、毎年の税制改正はキャッチアップすることが必要である。令和9年において「3割特例を知らなかった」となると顧問先から信頼を失う恐れがある。   6 おわりに 今回は、令和9年及び令和10年分に適用される制度であるが、3割特例の適用上の注意点について説明した。2割特例と同様、3割特例を適用できたにもかかわらず適用を失念したという失敗がないよう注意していただきたい。また、簡易課税のほうが有利になるケースが増える可能性もあるので、簡易課税との有利判定も忘れずに行う必要がある。 本稿が実務の参考になれば幸いである。 (了)
#663(掲載号)
#森 智幸
2026/04/02
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