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《税理士のための》登記情報分析術 【第23回】「住所等変更登記の申請義務化と検索用情報の届出(スマート変更登記)」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第23回】 「住所等変更登記の申請義務化と 検索用情報の届出(スマート変更登記)」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   令和8年4月1日より、不動産の所有者に対して、住所・氏名(以下、住所等)の変更登記の申請が義務化される。住所等の変更日から2年以内に変更登記を申請しなければ、5万円以下の過料が科せられる可能性がある。 所有者不明不動産の問題に対応するための改正であるが、所有者の義務負担を軽減するための方策も同時に整備されるなど、登記制度における大きな変更であるといえる。 そこで今回は、施行まで1年を切った新制度と、新制度に関連し、来週月曜日から手続きが開始されるスマート変更登記について取り上げる。   1 申請義務化の背景と内容 (1) 所有者不明不動産の問題 住所等変更登記の申請が義務化される背景には、所有者不明不動産の問題がある。高齢化社会による死亡者数の増加や都市への人口集中などにより、登記情報から所有者やその所在地が正確に把握できない不動産が増加しており、管理が行き届かず、社会に悪影響を与えている。 このような問題へ対応するため法改正が行われ、令和6年4月1日からは相続登記の申請が義務化されている。相続登記の申請義務化により、多くの相続登記が迅速に申請され、所有者情報の更新が促進されることが期待されている。 加えて令和8年4月1日からスタートするのが、住所等の変更登記の申請義務化である。 管理不全の不動産がある場合に、第三者が所有者に対して是正を促すには、登記された所有者の住所等の情報が手がかりとなるが、これらの情報が更新されていないと、所有者に連絡することができない。 そこで所有者の住所等に変更があった場合に、所有者に対し住所等変更登記の申請を義務付け、情報の更新を促すのである。 (2) 住所等変更登記の申請義務化の内容 住所等変更登記の申請義務化では、不動産の所有者は、住所・氏名の変更日から2年以内に、変更登記をすることが必要になる。 冒頭に述べた通り、新制度は令和8年4月1日より開始(施行)されるが、施行日である令和8年4月1日よりも前に行われた住所等の変更についても登記申請が義務付けられており、令和10年3月31日までに変更登記の申請を行う必要がある点には注意が必要である。 なお、正当な理由がないのに住所等変更登記の義務を怠ったときは、5万円以下の過料が科せられる可能性がある。ただし、義務に違反をしたら直ちに過料が科せされるというわけではない。義務に違反している所有者を登記官が把握したときは、住所等変更登記の申請を行うよう催告がなされることになっており、催告に応じて住所等変更登記を申請した場合には、登記官は裁判所に対して過料通知を行わない。   2 職権による登記と検索用情報の申出 住所等変更登記の申請義務の軽減措置として、登記官が職権により住所等変更登記の申請を行う制度(スマート変更登記)が導入される。 スマート変更登記とは、登記官が定期的に住基ネットへ照会し、不動産の所有者に住所等の変更が行われていることを確認した場合には、不動産の所有者に郵送やメール等により意思確認を行ったうえで、登記官が職権により住所等の変更登記を行うものである。 この制度に対応するために、来週、令和7年4月21日(月)からは、所有権の保存・移転等の登記の申請の際に、登記官が住基ネットに照会する際に使用する、所有者の「検索用情報」を登記申請書に記載して申出を行うことが必要となった。 なお、「検索用情報」とは以下の情報とされている。 令和7年4月21日時点で既に所有権の登記名義人である者については、検索用情報の申出を単独で行うことができる。 なお、海外居住者については登記官において住所等の変更の事実が確認できないため、職権による変更登記の対象ではない。また法人については、令和6年4月1日から「会社法人等番号」が所有者についての登記事項とされており、会社法人等番号が登記されている場合は、登記官が職権で住所等の変更登記を行うことになる。 令和6年4月1日よりも前に所有権を取得している法人については、会社法人等番号の申出を単独で行うことで、職権での住所等の変更登記を行ってもらうことができる。 (了)
#615(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/04/17
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第64回】「建物の減価要因から見た新耐震基準」~建築基準法・耐震改修促進法に定める耐震診断~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第64回】 「建物の減価要因から見た新耐震基準」 ~建築基準法・耐震改修促進法に定める耐震診断~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 建築後、一定年数が経過している建物の場合、耐震性の点から留意すべき事項があります。 それは、耐震性に劣る建物は、性能不足等の機能的な面から、建物価格の減価要因として捉えられるからです。 そこで今回は、「建築基準法」及び「建築物の耐震改修の促進に関する法律」において課せられている制限について解説し、耐震診断の意義について検討します。   2 「建築基準法」における制限 (1) 耐震基準とは 耐震基準とは、一定の強度の地震が発生した場合でも、倒壊又は損壊しない住宅が建築されるよう、建築基準法が定めている基準のことを指します。 (2) 新耐震基準とは いわゆる「新耐震基準」とは、昭和56年(1981年)に改正された建築基準法(施行令)の構造基準のことを指します。そして、昭和56年6月1日以降に建築確認を受けた建築物には、すべて新耐震基準が適用されています。 これを裏返して言えば、昭和56年5月31日以前の建築物に適用されている基準は旧耐震基準であり、耐震性において「新耐震基準よりも劣る」ということになります。 ちなみに、旧耐震基準では中規模の地震を想定し、震度5強の地震が発生した場合でも倒壊しないことを目標としているのに対し、新耐震基準では大規模の地震を想定し、震度6から震度7の地震が発生した場合でも倒壊しないことを目標としている点で、大きな相違があります。   3 「建築物の耐震改修の促進に関する法律」における制限 (1) この法律の目的 「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(以下「耐震改修促進法」という)の目的は、不特定かつ多数の者が利用する大規模な建築物等につき大規模な地震が発生した場合、その利用を確保することが公益上必要な建築物等の所有者は、耐震診断を行い、その結果を一定の期限までに、所管行政庁に報告しなければならないとしているところにあります(耐震改修促進法第7条)。 すなわち、現在施行されている建築基準法の耐震基準に適合しない建築物を対象として耐震診断及び耐震改修の努力義務を課し、建築物の地震に対する安全性の向上を一層促進しようとしているところが特徴であるといえます。 (2) 特徴的な制度 この法律では、耐震改修に関し、次の2つの認定制度を設けています。 また、都道府県及び市町村における耐震改修促進計画の策定について定め、当該計画への記載事項についても規定を設けていますが(耐震改修促進法第5条、第6条)、これを例示すれば以下のとおりです。 (ア) 病院、官公署その他大規模な地震が発生した場合にその利用を確保することが公益上必要な建築物 これに該当し、政令で定める一定の建築物で、かつ、既存耐震不適格建築物にも該当する場合、都道府県は、耐震診断を行わせ耐震改修の促進を図ることが必要と認めるときは、都道府県耐震改修促進計画に次の事項を記載することができます。 なお、上記の「既存耐震不適格建築物」とは、建築基準法第3条第2項の適用を受ける建築物(既存不適格建築物)であり、現行の耐震関係規定に適合しない建築物を指します(ただし、地震に対する安全性が明らかでないものとして政令で定める建築物に限られます(耐震改修促進法第5条第3項第1号))。 (イ) 建築物が地震によって倒壊した場合、その敷地に接する道路の通行の妨げを防止することが必要なとき 既存耐震不適格建築物が地震によって倒壊した場合、都道府県はその敷地に接する道路の通行を妨げ、市町村の区域を超える相当多数の者の円滑な避難を困難とすることを防止するため、当該建築物について耐震診断を行わせ、耐震改修の促進を図ることが必要と認めるときは、都道府県耐震改修計画に一定の事項(詳細は割愛させていただきます)を記載することができます。 (3) 建築物の所有者が講ずべき措置 次のいずれかに該当する建築物の所有者は、耐震診断を行い、その結果を一定期限までに、所管行政庁に報告しなければならないとされています(耐震改修促進法第7条)。 そして、所管行政庁は、上記①②③による報告を受けたときは、当該報告の内容を公表しなければならないことも併せて規定されています(耐震改修促進法第9条)。 (4) 耐震改修計画の認定を受けた建築物に対する容積率及び建蔽率の緩和 耐震改修計画が認定された場合、認定を受けた建築物については、容積率及び建蔽率の特例措置が設けられています(耐震改修促進法第17条第3項第5号・第6号)。   4 まとめ 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」(国土交通省)では、 と規定しています(Ⅱ.2(1) ②)。 このように、耐震性の程度が建物の評価額に少なからぬ影響を及ぼすことから、不動産鑑定士としては本稿に述べた事項を念頭に置きつつ、評価に携わっています。 (了)
#615(掲載号)
#黒沢 泰
2025/04/17
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第22回】「厚生年金保険料の事業主負担分が支えるもの」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第22回】 「厚生年金保険料の事業主負担分が支えるもの」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇ねんきん定期便に事業主負担額を明記 今年の4月より、ねんきん定期便には事業主が負担した保険料が明記されることになりました。SNSなどで「年金給付額を多く見せようとするためにわざわざ事業主負担分を記載していないのだ」という批判を受けての対応のようです。 会社員は毎月給与から厚生年金保険料が天引きされます。この料率は、平成29年9月に最後の引上げが終了して以降、18.3%に固定されています。会社員の社会保険料は労使折半ですから、実際は会社員自身が9.15%を負担し、事業主が9.15%を負担します。 この料率は報酬に対して掛けられるため、賃上げや昇級などで報酬が上がると、毎月負担する保険料の金額も上がります。ただし、月の報酬は4月から6月までの3ヶ月間の手当などを含む総額を平均し、さらに定められた金額の幅に従って32等級に分けられるので、原則年間を通して一定です。 月の平均報酬が93,000円未満は1等級に該当し、標準報酬月額は88,000円となり、その9.15%である8,052円が会社員本人が負担する厚生年金保険料、そして同額の8,052円が事業主が負担する厚生年金保険料です。 32等級は、月の平均報酬が635,000円以上で標準報酬月額は650,000円として計算されます。したがって、月の平均報酬が80万円であったとしても等級は32等級なので、負担する厚生年金保険料は65万円の9.15%、すなわち59,475円となります。この額は、実際の平均報酬80万円の7.43%となります。 賞与は、支給された賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた額を標準賞与額とし、そこに保険料率を掛けます。ただし、標準賞与額には1ヶ月あたり150万円という上限が定められています。 では、将来受け取る老齢厚生年金の額は、どのように計算されるのでしょうか。   〇将来の年金受給額の計算方法 将来の年金額は、以下の計算式で求められます。 平成15年3月以前の厚生年金加入期間については、平均標準報酬月額に1000分の7.125を掛けて計算します。また、平成15年4月以降の厚生年金加入期間については、平均標準報酬額に1000分の5.481を掛けて計算します。 平成15年3月までは、賞与は将来の年金額に算入されませんでした。しかし、その後は算入されるようになったので、平均標準報酬額は、標準報酬月額と標準賞与額の総額を、対象とする加入期間で割ったものとなります。 では一例として、平成15年4月以降の入社の方を考えてみましょう。現時点で勤続20年、この間の平均標準報酬額は40万円と仮定します。平成29年までは厚生年金保険料率は上昇し続けていたので、実際はそこまで高くはありませんが、この20年間で負担した保険料は「40万円×9.15%×20年×12ヶ月=8,784,000円」となります。 そして、この20年間の加入で約束された将来の老齢厚生年金の額は、「40万円×5.481/1000×20年×12ヶ月≒530,000円」となります(実際は物価や賃金の変動に合わせて「再評価率」を乗じるので、さらに複雑な計算になりますが、今回は割愛します)。 仮に年金加入期間が20年、会社員として厚生年金保険料を負担したその金額の一部が国民年金保険料として支払われているとすれば、この間で将来約束される老齢基礎年金は(令和7年度老齢基礎年金満額831,696円×20年/40年=)415,848円です。 つまり、会社員本人が20年間で負担した約880万円の保険料によって得られる年金額(老齢厚生年金+老齢基礎年金)は、年間約95万円ということです。言い換えると、65歳から年金を受給すると、払込保険料分を回収するまでに9.3年かかるということです。日本人の平均寿命は、男性が81.09年、女性が87.14年ですから、75歳で元を取り、その後の年金は利息部分と考えることができるかもしれません。   〇事業主負担分が支えるもの 事業主が負担した金額が具体的にどのように使われているのかという情報まで手に入れることはできませんが、ここまでの説明を踏まえて、以下の2つの目的のための財源であると考えると、分かりやすいのではないでしょうか。 1つ目が、長寿の方の年金給付です。先ほどの例であれば、会社員本人が負担した保険料が回収できるのは75歳でした。65歳から年金を受け取ると約10年で元が取れるという見方もできますが、一方では10年で会社員本人が払った分の「貯金」が底をつくという意味にもなります。 平均寿命は男性が81.09年、女性が87.14年と言っても、それ以上長生きする方も多くいらっしゃるでしょう。すると個人の「保険料という貯金」は枯渇しますから、どこからか財源を補充しなければなりません。それが、事業主が負担した保険料の分と考えることもできるのではないでしょうか(他にも、遺族年金や障害年金の給付に伴う財源も必要です)。 もう1つは、基礎年金部分の負担金です。会社員の年金は2階建て、国民年金(基礎年金)と厚生年金に加入しています。したがって、毎月天引きされている厚生年金保険料は、一部基礎年金の分として国民年金に拠出されています。 令和7年度の国民年金保険料は月17,510円です。つまり、会社員と事業主が負担する18.3%の保険料率で負担する厚生年金保険料のうち、17,510円は国民年金に拠出されるということです。 すると、不思議なことに気づきます。前段にお伝えした厚生年金の標準報酬月額の1等級は88,000円で、本人が負担する保険料は8,052円でした。事業主分も合わせて16,104円ですから、これでは国民年金に拠出する保険料として、1ヶ月あたり1,406円不足します。 それでも厚生年金加入者の負担する保険料は8,052円で済み、かつ、将来受け取れる年金は国民年金と厚生年金の2階建てになるのです。この差額は、事業主負担分から捻出されていると考えるべきでしょう。 また、厚生年金保険料からは第3号被保険者の国民年金保険料も支払われています。扶養の配偶者がいる人でも、実際報酬に対して1人分の保険料しか支払っていないので、被扶養者の国民年金に該当する部分は、事業主負担分からと考えるのが自然といえます。 SNSなどでは、年金に関する批判が多くあるということは承知していますが、「事業主も年金制度を支えるために相当大きな金額を負担している」という認識を深めていただく機会を作られるのも、大切ではないでしょうか。 (了)
#615(掲載号)
#山中 伸枝
2025/04/17
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#Profession Journal 編集部
2025/04/17
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《速報解説》 改正法人税法施行規則等が公布され、R7改正等に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに~防衛特別法人税及びイノベーションボックス税制に係る申告書様式も新設~

《速報解説》 改正法人税法施行規則等が公布され、 R7改正等に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに ~防衛特別法人税及びイノベーションボックス税制に係る申告書様式も新設~   Profession Journal編集部   令和7年度税制改正等に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則(財務省令第43号)が4月14日付官報号外第84号で公布された。改正後の様式は原則、令和7年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則1)。 また、官報同号では防衛特別法人税に関する省令等の一部を改正する省令(財務省令第46号)も公布されており、防衛特別法人税に係る申告書様式が新たに明らかとなっている。 その他、地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 以下、主な既存様式の改正事項及び新設された様式について紹介する。 まず、令和7年度改正では中小法人等の軽減税率の特例の見直しが行われており、適用期限を2年延長(令和9年3月31日まで)したうえで、①所得10億円超の中小法人等については17%の税率を適用すること及び②グループ通算制度の適用を受けている法人を軽減税率の特例の対象法人から除くこととされた(措法42の3の2①)。 上記①の見直しを受け、改正法人税法施行規則では、別表1の表中「(26)の15%又は19%相当額」を「(26)の15%、17%又は19%相当額」に改めている。 また、同じく令和7年度改正で見直しが行われた中小企業経営強化税制については、新たに対象設備に「建物」が追加されたことに伴い(措法42の12の4①)、関係様式である別表6(23)において、「〔12欄〕同上のうち建物及びその付属設備に係る額」及び「〔13欄〕(11)のうち建物及びその付属設備以外の資産に係る額」が追加等されている。 〈別表6(23) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 その他、別表16(4)の表中において、任意適用が始まった「新リース会計基準」に関する令和7年度改正への対応(記載の追加等)が図られている。 また、令和6年度改正で創設され、令和7年4月1日より適用開始されているイノベーションボックス税制(特許権等の譲渡等による所得の課税の特例)に係る関係様式として「別表10(5) 特許権等の譲渡等による所得の特別控除に関する明細書」を含む4つの様式が新たに設けられている。 〈別表10(5) 特許権等の譲渡等による所得の特別控除に関する明細書〉 なお、冒頭で述べたとおり、防衛特別法人税に関する省令等の一部を改正する省令も官報同号にて公布されており、令和7年度改正で創設された防衛特別法人税に係る申告書様式として「別表1 各課税事業年度の防衛特別法人税に係る申告書」を含む7つの様式が新設されている。 〈別表1 各課税事業年度の防衛特別法人税に係る申告書〉 防衛特別法人税は令和8年4月1日以後開始する事業年度から適用されるため、本省令の施行も同じく令和8年4月1日とされており(改正防衛省令附則1)、適用開始までまだ期間があることから、今後の情報には留意されたい。 (了)
#Profession Journal 編集部
2025/04/15
お知らせ 消費税・地方消費税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税庁、令和7年度改正に伴う改正消費税基本通達等を公表~リファンド方式への移行に向け取扱いの見直し等行う~

《速報解説》 国税庁、令和7年度改正に伴う改正消費税基本通達等を公表 ~リファンド方式への移行に向け取扱いの見直し等行う~   税理士 石川 幸恵   外国人旅行者向け免税制度のリファンド方式への見直しについては、令和6年度の税制改正にて既に示されており、令和7年度税制改正で具体的な内容が盛り込まれた。 これに伴い、4月1日に国税庁より「消費税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。また、同日「輸出物品販売場制度のリファンド方式への見直し」に関する特設ページが新設された。同ページ掲載のQ&Aは制度理解の助けとなるため、参考とされたい。 以下、リファンド方式に至った背景である免税店における不正や免税店経営者からの声等を踏まえて、改正された通達のうち主なものを概説する。   1 クルーズ船の乗客等に関する確認要件の統一(8-1-1) 従来、クルーズ船の乗客等については、旅券ではなく船舶観光上陸許可書によって確認することとされていた(※)。しかし、許可書の様式が統一されておらず、免税手続に時間を要するため、旅券での手続きとしてほしいとの要望を受けて、8-1-1で上陸許可書等に加えて旅券の提示が必要であることが示された。 (※) 観光庁ホームページ「消費税免税制度 よくある質問」 購入記録情報の作成に必要な許可書番号も旅券番号に統一される。   2 高額商品を特定するための情報(8-1-5) 高級時計等のすり替え防止のため、税抜100万円以上の免税品については、商品を特定するための情報を国税庁に提供することとされた(Q&A問13)。8-1-5では特定するための情報の具体例(免税対象物品の具体的な名称、ブランド名、型番号、シリアル番号等)が示されている。   3 別送に関する取扱いの廃止 現行の輸出物品販売場制度において、税関での持出しが確認できず、消費税を賦課決定した者の半数以上が免税品を郵便局等から別送したと抗弁している状況であることを踏まえ、免税品の別送は令和7年3月31日をもって廃止された(改正前の8-1-5の2から8-1-4への一部改正)。 免税店から直接海外に配送する場合は、消費税法第8条の免税店制度ではなく第7条の輸出免税制度の規定により免税の適用を受けることとなる(7-2-23(2))。   4 一般型免税店・委託型免税店の区分を撤廃(8-1-11) 一般型免税店と委託型免税店の区分が撤廃され、一般型免税店に統一された。通達も所定の改正が行われたが、承認免税手続事業者が委託型免税店との代理契約により行っていた免税販売手続に関する取扱いについては、統一後の一般型免税店でも引き継がれる。   5 輸出物品販売場の許可等の取消しについて(8-2-5、8-2-6、8-2-7、8-2-8) 税務署長が、輸出物品販売場、承認免税手続事業者、承認送受信事業者、臨時販売場を設置しようとする事業者の許可等を取り消すことができる場合として「免税購入対象者の確認を相当程度十分に行っておらず、その状況が継続している場合」と明示している。免税制度の適正な運用のために、免税購入対象者の確認を十分に行うことを強く求めているものと考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#石川 幸恵
2025/04/11
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.614が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年4月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.614を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2025/04/10
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第139回】「消費税法における「課税仕入れの日」(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第139回】 「消費税法における「課税仕入れの日」(その3)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   6 検討(承前) (4) 所得課税法と消費税法の径庭 所得課税法においては、収入や収益の計上のタイミングについて権利確定主義を採用しているが、そこでは、原価や費用の計上のタイミングとの関わりは費用収益対応の原則を一応の基準としているだけであって、実際問題としては切断されているといっても過言ではないことを想起すべきである。 所得税法37条《必要経費》 法人税法22条3項 これらの規定から明らかなとおり、所得税法37条においては、①「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額」と②「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」が必要経費に算入されるべき金額として規定されているが、ここでは、②の費用について債務確定基準が適用される。 また、法人税法22条3項においては、❶「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額」、❷「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」及び❸「当該事業年度の損失の額」が損金に算入されるべき金額として規定されているが、❷の費用について債務確定基準が適用される。 かように、所得税法や法人税法においては、費用の一部について債務確定基準の適用が予定されているなどして、費用収益対応の原則は債務確定基準によって制約を受ける形となっているのである。 これに対して、消費税法は前述したとおり、「課税仕入れを行った日」は、資産の譲渡等の時期に依存する構成となっているのである。 このことは、消費税法が仕入れのタイミングを資産の譲渡等のタイミングに合わせているのに対して、所得課税法においては、仕入れや経費計上のタイミングと収入や収益の計上のタイミングを合致させることを念頭には置いていないことを意味するのである。 このように、所得課税法では仕入れや経費計上のタイミングとは無関係に収入や収益の計上のタイミングを考えることとされているのに対して、消費税法上の課税仕入れのタイミングが資産の譲渡等のタイミングとの関わりを強く意識しなければならないこととを比べると基本的な違いがそこには所在するのである。そのように考えると、所得課税法が採用する権利確定主義なかんずく無条件請求権説を消費税法が採用しなければならないいわれはないようにも思われるのである。 そもそも、所得課税法では、「所得」が担税力の指標とされると説明されるが(金子宏『租税法〔第24版〕』14頁(弘文堂2021))、「担税力」というからには、その把握に当たっては、租税債権の源泉に相応しい何らかの経済力が把握されていることが要件とされるべきであろう。この租税債権の源泉に相応しい何らかの経済力という捉え方は、これまでも担税力を「購買力」として考える見解として紹介されてきたところである。 例えば、租税法上の所得というためには、単に経済上の所得というだけでは足りず、さらに、その利得が消費及び測定可能なもので、結局において新たな「購買力」を組成するに足る程度のものでなければならず、そのような状態にある利得であってこそ、租税債権の源泉として相応なものと認められるとの見解がある(渡辺伸平「税法上の所得をめぐる諸問題」司法研究報告書19輯1号91頁以下(1967))。 更に具体的にいえば、現金換価価値といったもので担税力を評価するという立場が、担税力を購買力として測定する考えに合致する。植松守雄氏は、この点について、「権利確定主義における『確定』概念とは、財産価値の変動がそのような状態にあることを判断するための内容をもつものと考えるべきで、その具体的な内容としては、『市場価値による測定可能性』や『現実性』ということが挙げられ、経済取引における諸要素がこれらの観点から評価されなければならない。」というのである(植松「収入金額(収益)の計上時期に関する問題-『権利確定主義をめぐって』-」租税法研究8号30頁以下(1980))。権利確定主義を「市場価値による測定可能性」や「現実性」で捉える見解は、現状に合致した現実的な考え方であり、妥当である。 所得課税法が、権利確定主義に従って、権利の「発生」ではなく、権利の「確定」のタイミングまで課税を行わないこととしているのは、かような現実性を前提とした収入や収益の実現を念頭に置いているからである。 他方、消費税法の場合は、どのように解するべきであろうか。 所得課税法のように「所得」を担税力の基礎に置いた議論は消費税法には妥当しないようにも思われる。そのように考えると、必ずしも、権利確定主義なかんずく無条件請求権説が消費税法においても妥当するというわけではないのではなかろうか。 一般的な私法上の権利義務関係は、基本的には権利の発生のタイミングを前提に規律されている。例えば、商品販売を例にとれば、民法555条《売買》は次のように規定している。 民法555条《売買》 ここでは、①財産権を相手方に移転することを約することと、②相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することという2つの要件事実が充足されれば、商品の売主は売買代金請求権を得、商品引渡義務を負うこととなり、買主は商品引渡請求権を得、売買代金支払義務を負うことになる。 かように、2つの約束(①②)が交わされるだけで売買代金を請求する権利が発生するのである(もちろん、同時履行の抗弁権(民533)などの権利阻止規定の適用はあり得るが、そのことは権利(売買代金請求権)の発生には消長を来さないのである)。 所得課税法が現実的な担税力を前提として権利確定主義を採用しているのとは異なり、消費税法には所得課税法のような制約なり縛りを受ける必然性はないことに鑑みれば、上記のような私法上の一般的な権利義務関係の発生のタイミングをもって、消費税法上の資産の譲渡等の日を考えることもできなくはない。すなわち、消費税法上の資産の譲渡等の日を考えるに当たっては、明確に課税のタイミングを画する基準として権利の発生を基礎とする権利発生主義でもよいように思われるのである。 しかしながら、このような整理については、次のいくつかの観点で不安が惹起される。 まず第一に、権利の発生が観念できるというだけで、果たして、消費税分を価格に転嫁させた代金を事実上、請求することができるであろうかという不安が浮上する。権利の発生だけで価格転嫁を可能と考えると、民法上の売買代金請求権の発生ではやや実現性において深慮に欠けているようにも思われる。そうであるとすると、所得課税法のように課税のタイミングを前提とした保守的な処理を行うことには、一応の合理性があるかもしれないという点である。 第二に、法人税や所得税と同じような処理を行うこととする方が、事業者にとっては都合がいいかもしれないという点である。 第三に、そもそも、消費税法が「資産の譲渡等」という表現を採用していることを軽視してよいのかという点である。 第四に、消費税法の性質が付加価値税的な性質を有しているか否かという論点も忘れてはならない重要な点である。 これらの点について、検討を加えることとしよう。 (続く)
#614(掲載号)
#酒井 克彦
2025/04/10
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第36回】「国税通則法99条(98条、101条~103条)」-国税不服審判所の独立性と法令解釈権-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第36回】 「国税通則法99条(98条、101条~103条)」 -国税不服審判所の独立性と法令解釈権-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法99条(国税庁長官の法令の解釈と異なる解釈等による裁決)   1 はじめに 第32回に続き前回も国税不服審判所制度について検討し、特に前回は国税不服審判所の調査審理手続に関して争点主義的運営の要請を検討した。その中で、行政不服審査法の平成26年6月改正(平成26年法律第68号)に伴う国税通則法の平成26年6月改正(平成26年法律第69号)によって、国税不服審判所の調査審理手続が当事者主義の観点から見直され、国税不服審判所の準司法機関性が強められたことを明らかにした(前回3参照)。 国税通則法のこの改正は、これに先立つ平成26年度税制改正(平成26年法律第10号)による国税不服審判所の独立性の強化を踏まえたものである(宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂・2015年)205-206頁参照)。ここでいう「国税不服審判所の独立性」は、国税通則法99条1項の規定が「国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈と異なる解釈」(以下「通達解釈と異なる解釈」という。この略称については、志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)1243頁参照)により裁決すること等を国税不服審判所に認めていることを意味するものと解されるが、その「独立性」の程度ないし限界は、同項に規定する「解釈」という文言をどのように解釈するかによって、異なるように思われる。 この「解釈」の解釈問題は、国税不服審判所の法令解釈権に関わる問題であるが、従来ほとんど検討されてこなかったように思われる。そこで、今回は、この問題を中心に国税不服審判所の独立性について検討することにする。ただ、その検討に入る前に、まず、国税通則法99条についてその沿革及び趣旨等をみておくことにしよう。   2 国税通則法99条の沿革及び趣旨等 国税通則法99条は、国税不服審判所の設立に当たり、同法の改正(昭和45年法律第8号)によって次のとおり規定された。 この規定の新設について、次の解説(武田昌輔編『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)4751頁。下線筆者。志場ほか共編・前掲書1241頁も同旨)がされている。 そして、この規定の趣旨等について、次のとおり概説されていた(南博方編『注釈国税不服審査・訴訟法』(第一法規出版・1982年)149頁[堺澤良執筆]。下線筆者)。 平成26年度税制改正では、行政不服審査法の見直しの一環として、通達解釈と異なる解釈等による裁決に係る手続が見直された(「平成26年度税制改正の大綱」(平成25年12月24日閣議決定)106頁参照)。具体的には、国税不服審判所長による国税庁長官への意見の申出が意見の通知に改められ、国税庁長官による国税不服審判所長に対する指示制度が廃止され、これに代えて、当該意見に係る国税庁長官と国税不服審判所長との共同諮問を受けた国税審議会の議決に基づく裁決制度が導入された。これによって「国税不服審判所の独立性が一層強化された」(宇賀・前掲書206頁)とはいえ、「解釈」の解釈問題については特段の検討は加えられなかった。 なお、国税通則法99条の適用が問題になった審査請求事件について次のとおり述べられている(伊藤繁「国税不服審判所及び審査請求の現在の状況について―国税不服審判所創設後半世紀が経過して」TKC2023-1(TKCタックスフォーラム2022)28頁、32頁。なお、文中の「9件」の事件内容及び裁決年月日については、国税不服審判所「国税不服審判所の50年」(令和2年5月)53頁参照)。   3 「解釈」の解釈問題と法令解釈権 さて、「解釈」の解釈問題について検討することにしよう。その際拠り所とするのが、「解釈基準と解釈の区別」を前提にして次のように説かれる芝池義一教授の見解(同「行政裁量の基礎概念」関西大学法学論集74巻2号(2024号)149頁、217頁。下線筆者)である。 芝池教授は、「解釈」を「規範を一般論の次元で具体化する作業」(同・前掲論文200頁)ないし「多義的規定を一般的な形で具体化する作業」(同頁)と定義し、これに対して、「解釈基準」を「個別事件において行われる解釈のための基準」(同・前掲論文212頁)と定義して、両者を区別しておられる。ここで注意しておくべきこととして、「解釈」及び「解釈基準」に関する芝池教授の上記定義は「裁量」及び「裁量基準」との関係で示されたものであるが、芝池教授は「裁量」について、パチンコ球遊器事件(最判昭和33年3月28日民集12巻4号624頁)の例に即して「具体的な課税の段階で、その納税者による利用方法などの個々の事情をも考慮に入れつつ判断するのが、裁量判断である」(同・前掲論文200頁)と述べ、また、「裁量基準」を「個別事件において行われる行政の裁量行使のための一般的な基準」(同212頁)と定義しておられることからすると、「解釈」と「裁量」の関係は、法令の「解釈」と「適用」の関係に対応するものと理解してよいであろう。 要するに、「解釈」に関する芝池教授の前記定義は、「実定法規範の意味内容を一定の問題事例と相関的に解明し特定化する作業」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)463頁)というような(「裁量」との関係に関してだけでなく)一般的に示された定義と同じく、「法の解釈は法の内容を発見するという認識というよりも、法適用という実践の予備作業である。」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第6版〕』(有斐閣・2025年)1261頁)あるいは「法解釈は法適用という実践活動の前提として行われるので、法解釈もまた実践的性格を帯びざるを得ない。」(竹内昭夫ほか編集代表『新法律学辞典〔第3版〕』(有斐閣・1989年)1300頁)といわれるように、法令の「適用」を視野に入れつつも、これと区別して示されたものといえよう。 既に2でみたように、国税通則法99条の沿革及び趣旨等の解説において、同条に規定する「解釈」に関して「通達と異なつた法令の解釈適用による裁決」あるいは「個別事件の内容に即応した具体的妥当性のある判断を可能とするもの」への言及がみられたが、「解釈」を前記の定義に従って解釈するならば、その言及の意味するところを的確に理解することができるように思われる。 これに対して、「解釈基準」について、芝池教授の定義は前記のとおりであるが、塩野宏教授も、「解釈基準とは、ある処分をする場合に取扱いが区々になることを防ぎ、行政の統一性を確保するために、上級行政機関が下級行政機関に対して発するところの、法令解釈の基準であって、通達という形式が用いられる」(同『行政法Ⅰ〔第6版〕』(有斐閣・2015年)114頁。下線筆者。同書の第6版補訂版(2024年)でも同頁)と述べておられる(芝池・前掲論文212頁も参照)。 同様のことは、国税通則法99条が定める「通達解釈と異なる解釈」に関する次の解説(志場ほか共編・前掲書1243頁。下線筆者。以下「解説A」という)においても、述べられている。 ただ、この解説は、これに続けて次のとおり述べている(志場ほか共編・前掲書1243頁。以下「解説B」という)。 このように以上の一連の解説を解説Aと解説Bに分けてみると、両者の関係は、一見すると、必ずしも明らかでないように思われるかもしれない。しかし、解説Aの中の下線部を、①「法令解釈の統一的な基準」と②「法令適用の統一的な基準となる解釈」というように分節し部分的に組み替え補足すると、解説Aは①と②を包括する解説であり、解説Bは②に関する解説であるというような理解・整理が成り立つように思われる。この理解・整理を芝池教授による「解釈基準と解釈の区別」に照らして言い換えると、①は「解釈基準」に関する解説、②は「解釈」に関する解説ということができよう。 また、解説Aと解説Bの関係は、上記の理解・整理を前提にして、通達の内容の観点からも理解し整理することができるように思われる。すなわち、解説Aは、①を内容とする通達と②を内容とする通達を包括する解説であり、解説Bは②を内容とする通達に関する解説であると理解し整理することができるように思われるのである。 ここで、①解釈基準を内容とする通達は、例えば所得税基本通達2-1(住所の意義。下掲)がこれに該当すると解される。 この通達は、判例が「住所」の解釈によって定立した規範(東京高判平成20年2月28日判タ1278号163頁等のほか最判平成23年2月18日訟月59巻3号864頁も参照)と基本的に同じ内容の「解釈基準」を示すものであることから、「解釈基準」の提示も、法的三段論法の見地からすれば、広い意味では「解釈」に属する作業とみることができよう。以下では、「解釈基準」の提示を「広義の解釈」といい、芝池教授が「解釈基準」と区別される「解釈」を「狭義の解釈」ということにする。 通達については内容の観点から、「租税法令の規定の解釈を示す解釈通達、租税法令の規定を適用する際の取扱の基準を示す取扱通達など」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)21頁)の区別がされてきたが、解釈通達は広義の解釈を示す通達であり、取扱通達は狭義の解釈を示す通達であるというような理解・整理が「一応は」成り立つように思われる(勿論、両者の区別は相対的なものであるが)。また、「・・・・・・に留意する。」、「・・・・・・であるから留意する。」等と定めるいわゆる留意通達は、「租税法の規定からみて当然にそのように解釈できるものを解釈の統一(課税の公平)を図るために、確認的に当該解釈を示すもの」(品川芳宣『租税法律主義と税務通達-税務通達をめぐるトラブルの実践的解決への示唆』(ぎょうせい・2003年)39頁)であるが、これも狭義の解釈を示す通達といってよかろう。 以上のように検討してくると、解説Aにいう「法令解釈に関する長官通達」は、国税庁長官が法令解釈権に基づき法令に関する広義の解釈及び狭義の解釈を示すために発遣する通達一般を指すのに対して、解説Bにいう「長官通達」は、国税庁長官が法令解釈権に基づき法令に関する狭義の解釈を示すために発遣する通達すなわち取扱通達、留意通達等を指すものと理解される。 解説Bでは「国税不服審判所長が長官通達に示されている法令の解釈と異なる解釈をしようとするときは、主としてこのような場合であろう。」と述べられているが、そこでいう「長官通達」に関する上記の理解によれば、そこでいう「解釈」は狭義の解釈を意味することになろう。これが、「解釈」の解釈問題に対する検討の結果である。 この検討結果から、次のような考え方、すなわち、国税不服審判所長は法令に関する狭義の解釈については法令解釈権を有するが、国税不服審判所長の法令解釈権の行使と国税庁長官の法令解釈権の行使とが異なる狭義の解釈に帰結する場合について、両者の法令解釈権行使を調整する規定として国税通則法99条が定められているという考え方を導き出すことができるように思われる。この考え方によれば、国税通則法99条は、狭義の解釈に関しては、国税庁長官と国税不服審判所長とを、上級機関と下級機関との関係(芝池・前掲論文217頁からの前掲囲み内引用部分を参照せよ)ではなく、執行機関と裁決機関として対等の関係に位置づけていると解することができるように思われる。 これに対して、法令に関する広義の解釈(「解釈基準」の提示)については、国税不服審判所長は法令解釈権を有さず、国税庁長官のみが法令解釈権を有するが、ただ、国税庁長官が通達(解釈通達)において提示した「解釈基準」の枠内で、国税不服審判所長は法令解釈権を行使し当該法令の規定の「解釈」(狭義の解釈)を示すことができると考えられる。 この点については、国税通則法99条1項の規定が「他の国税に係る処分を行う際における法令の解釈の重要な先例となると認められる裁決をするとき」(ここでいう「裁決」で示される解釈を以下「重要な先例となる解釈」という。この略称については、志場ほか共編・前掲書1243頁参照)を定めていることが重要な意味をもつと考えられる。この定めについては次の解説(志場ほか共編・前掲書1243頁)がされている。 この解説によれば、重要な先例となる解釈は、「判例、学説又は通達、慣行等が未だ確定していない法令の規定」に関する解釈を意味することになるが、そのような「法令の規定」には、国税庁長官が「解釈基準」を提示しているが「解釈」(狭義の解釈)は示していないものも含まれると解される。 いずれにせよ、国税通則法99条1項は、国税不服審判所長が重要な先例となる解釈による裁決をすることを認めているが、このことは、この規定が国税不服審判所長に法令解釈権に基づき法の継続形成(Rechtsfortbildung)をすることを許容し、かつ、そのための手続を定めていることを意味するものと解される。その意味で、かつ、その限りでは、国税不服審判所長の法令解釈権は裁判所の法令解釈権に準ずる権限であるといってよいであろう。つまり、国税不服審判所には、調査審理手続の観点からだけでなく法令解釈権の観点からも、準司法機関性が認められるといってよいように思われるのである。この点に関して付言すると、国税通則法99条1項のこの側面は、既に1の最後でみた過去の実績において、重要な先例となる解釈による裁決が9件中8件を占めていることに鑑みても、もっと強調・重視されてよいように思われる。   4 まとめ 今回は、国税通則法99条についてその沿革及び趣旨等を概観した後、「解釈」の解釈問題について、芝池義一教授が「解釈基準と解釈の区別」を前提にして説かれる見解を基本的な拠り所としつつ、「解釈基準」の提示を「広義の解釈」、「解釈」すなわち「規範を一般論の次元で具体化する作業」(芝池教授)を「狭義の解釈」と称することとし、それぞれ通達の内容と対応させて、その解釈問題を検討した。その検討に基づき、通達解釈と異なる解釈(税通99条1項前半)についても重要な先例となる解釈(同項後半)についても国税不服審判所長に法令解釈権を一定の手続的制約(同条1項~3項)の下で認める見解を述べた。 筆者のこの見解は、国税庁長官との法令解釈権の配分の観点から、国税不服審判所の独立性の意義を明らかにし、その限界を限定的に解することによって、国税不服審判所の独立性を確固たるものとして一層強化しようとするものである。 (了)
#614(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/04/10
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〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第8回】「外貨建サブスクリプションに関する課税仕入れの取扱い」

〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第8回】 「外貨建サブスクリプションに関する課税仕入れの取扱い」   税理士 石川 幸恵   【Q】 当社では、アメリカの企業が提供する生成AIサービスをサブスクリプション形式で利用し、クレジットカードで支払っています。支払いにあたっては、クレジットカード会社による為替レートで換算された金額が引き落とされます。 令和7年1月から、請求書(ドル建て)の記載が日本のインボイス制度に対応した形式に変更されたようです。この場合の経理処理の注意点を教えてください。 【A】 ドル建て請求書がインボイスとしての記載事項をすべて網羅していれば、この請求書の保存及び帳簿の記載を要件として、仕入税額控除を受けることができます。 請求はドルで記載されていますが、クレジットカード会社より円換算後の金額が引き落とされていることから、外貨建て円払い取引に該当すると考えられます。 法人税基本通達13の2-1-1によれば、外貨建て円払い取引は「外貨建取引」には当たらないとされています。 そのため、取引日のレートによる換算や決済額との差額を為替差損益に計上するということはせず、原則として、クレジットカードの支払明細に記載された円換算額を、課税仕入れに係る支払対価の額とすればよいと考えられます。 仕入税額の計算はドル建て請求書に記載された消費税額に基づく「請求書等積上げ計算」、クレジットカードの決済額に基づいた「帳簿積上げ計算」又は「割戻し計算」により算出できると考えられます。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 1 外貨建ての適格請求書の記載事項 適格請求書発行事業者は、外貨建てによる取引であっても、適格請求書を交付することができる。 ドルなどの外貨建てにより記載された請求書が「日本の消費税法に定めるインボイスとしての記載事項を満たしているか」のチェックポイントは、次のとおりである(インボイスQ&A問54、68)。 (※1) すべて外国語による記載で問題ない。 (※2) 日本の消費税は「JCT」=Japanese Consumption tax等と表記されている。   2 課税仕入れに係る支払対価の額 実務においては、クレジットカードによる外貨建取引について、クレジットカード会社発行の支払明細に記載された円換算額を、そのまま支払対価の額として用いる処理が一般的であろう。これについては外貨建て円払い取引であるので問題ないと考えられる。   3 仕入税額の計算方法 仕入税額の計算方法には、次の3つがある。 クレジットカード会社のレートによる円換算が行われる関係上、適格請求書に記載された円建ての消費税額と、クレジットカード会社の支払明細に記載された金額から割り戻された消費税額は、基本的に一致しない。 この点、外貨建取引においては、適格請求書に記載された消費税額等が、自社で用いる円換算方法と異なる方法で算出された場合であっても問題ないことが、国税庁のインボイスQ&Aにおいて明示されている(問127)。 外貨建て円払い取引であっても請求書等積上げ計算の適用が除外されているわけではないことから、こうした差異が生じた場合であっても、請求書等積上げ計算を用いることに、特段の問題はないと考えられる。 (了)
#614(掲載号)
#石川 幸恵
2025/04/10

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