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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第192回】株式会社アドバンスクリエイト「第三者委員会調査報告書(2026年7月31日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第192回】 株式会社アドバンスクリエイト 「第三者委員会調査報告書(2026年7月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社アドバンスクリエイト第三者委員会による調査の概要】 【株式会社アドバンスクリエイトの概要】 株式会社アドバンスクリエイト(以下、「アドバンスクリエイト」と略称する)は、1995年10月設立。ダイレクトマーケティング手法による保険通販事業を推進して、2002年4月には、大阪証券取引所ナスダック・ジャパン市場に株式を上場。保険代理店事業を主たる事業とし、子会社2社を有している。 売上高6,608百万円、経常損失△924百万円、資本金100百万円。従業員数229人。大株主として、ライフネット生命保険株式会社が発行済株式の29.07%を、SBIホールディングス株式会社が28.71%をそれぞれ有している。なお、創業者であり代表取締役社長の濱田佳治氏(以下、「濱田氏」という)とその資産管理会社である有限会社濱田佳治ホールディングスは、2024年9月期の有価証券報告書では、26.14%を所有していたが、2025年9月期では8.6%まで所有割合を減らしている。また、アドバンスクリエイトは、2023年9月期から3期連続して経常損失を計上しており、2023年9月期及び2024年9月期はいずれも債務超過の状態にあった。(訂正前の2025年9月期有価証券報告書による)。本店所在地は大阪市中央区。東京証券取引所プライム市場、福岡証券取引所及び札幌証券取引所に上場。 会計監査人は、2024年9月期決算(2025年3月4日開催の株主総会継続会終了)までは桜橋監査法人、その後、あおい監査法人。 アドバンスクリエイト子会社は、広告代理店事業を行う株式会社保険市場(以下、「保険市場」と略称する)及び米国ハワイ州で再保険事業を行うAdvance Create Reinsurance Incorporatedの2社である。 【第三者委員会による調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 アドバンスクリエイトは、保険代理店事業における代理店手数料の売上について、将来支払われる代理店手数料の割引現在価値を算出(以下「PV計算」という)し、これを保険契約成立時に認識、計上する方法により売上を計上していたところ、PV売上について過大に計上している疑い(以下「PV問題」という)が指摘されたため、「株式会社アドバンスクリエイトPV売上に関する調査委員会」を設置し、2024年10月7日付け調査報告書及び2025年1月10日付の調査報告書を受領した。 その後、アドバンスクリエイトは、PV問題に関して外部機関からの指摘を受け、これを端緒として、アドバンスクリエイト及び広告代理店事業を行う子会社の保険市場における過年度の一部の広告取引、ソフトウェアの資産計上等において、不適切な会計処理が行われていた疑義が判明した(以下「本事象」という)。 アドバンスクリエイトは、本事象の事実関係の解明を図るために、独立性及び専門性を有する第三者による調査が必要であると判断し、2026年5月8日、取締役会決議をもって、第三者委員会を設置した。 2 第三者委員会による調査結果――売上前倒計上 第三者委員会は、調査の結果、メディア事業等においては、遅くとも2018年12月から2025年9月までの間、合計約7,508百万円分、広告掲載期間又は広告運用期間にわたり履行義務が充足されるのに先立って売上計上(以下「売上前倒計上」という)をしていた事象が判明したとしている。そのうえで、メディア事業等の担当部門である保険市場広告事業部において、取引先との契約締結を含む営業活動の責任者というべき立場にあり、保険市場代表取締役の橋本孔治氏(2023年9月辞任。以下、「橋本氏」という)、同じく保険市場代表取締役の田坂貴典氏(以下、「田坂氏」という)は、売上前倒計上が不適切な会計処理であることを認識しながら、売上前倒計上を実行及び継続するため、証憑の準備、取引先との交渉又は経理部門責任者や監査法人とのやり取り等を行っていたと認定している。 アドバンスクリエイトの会計監査人であった桜橋監査法人は、売上の期間帰属について疑問を呈し、監査結果の講評の場において、是正に向けた指摘を繰り返し行ってきたが、保険市場の営業担当者は、取引先の保険会社に桜橋監査法人からの問合せに対して虚偽の回答をするよう依頼していたり、広告掲載期間を偽造した提案書を提出したりして、売上前倒計上が発覚することを回避しており、第三者委員会は、桜橋監査法人において、メディア事業等における売上前倒計上の疑義を看破できなかったことは無理からぬことといえ、メディア事業等における売上前倒計上等の認識を持ちながら黙認していたような状況は認められないと評価している。 こうした調査結果の総括として、第三者委員会は、橋本氏が、営業活動の責任者として、収益目標を達成し、四半期ごとの決算数値を良くするため、不適切な会計処理と認識しながら、売上前倒計上を継続しており、田坂氏が、同様の認識を持ちつつ、売上前倒計上を継続し、さらに、アドバンスクリエイトにおいて保険市場を管掌している専務取締役の櫛引健氏(以下、「櫛引氏」という)とも連携し、桜橋監査法人による売上前倒計上の発覚を免れるための各種画策を講じていた状況に鑑みれば、一連の売上前倒計上は、財務諸表の意図的な虚偽の表示である不正会計であったと評価するのが相当であるとまとめている。 3 第三者委員会による調査結果――P社取引 次に、第三者委員会は、アドバンスクリエイト及び保険市場がP社との間で行った取引については、その取引名目や契約形式の如何にかかわらず、全体としてアドバンスクリエイト及び保険市場とP社との間の緊密な情報共有に基づく精緻な残高管理の下に実施された「借金」とその「返済」を繰り返す不正なスキーム(以下「P社取引スキーム」という。)において一連のものとして行われていたと認められるという調査結果を報告している。 まず、アドバンスクリエイト及び保険市場における「借金」として、第三者委員会は、「反対給付型」として、保険市場が、P社に対して、広告枠を販売し、その販売対価相当額を一括して売上計上するに当たって、アドバンスクリエイトがP社に対して広告運用委託取引において販売対価相当額以上の利益を供与するという反対給付を合意することによって、計上すべきでない売上を当四半期又は当期に計上するものと定義し、その総額は489百万円であった。一方、アドバンスクリエイトは、「反対給付型」取引で発生した「借金」の「返済」として、P社に対して、広告運用委託費、クリエイティブ費用、その他調整などの名目で、501百万円を支払っている。 さらに、「費用繰延型」として、アドバンスクリエイトが、P社に対して、支払うべき広告運用委託費について、「値引き」に伴ってその支払の猶予を受けることにより、発生した費用を翌期以降に繰り延べるものと定義した。 その上で、第三者委員会は、クリエイティブ費用として支払った70百万円について、アドバンスクリエイトは、ソフトウェアを取得したものとして資産計上しているが、実際に納品を受けたものは画像データ等にすぎなかったとしている。 P社取引スキームについて、第三者委員会は、営業活動の責任者として収益目標を達成する責任を負っていた橋本氏とP社担当者との合意により構築され、橋本氏及び田坂氏により、四半期ごとの決算数値を良くする目的のもと、不適切な会計処理であることを認識しながら、広告枠販売取引や広告運用委託費繰延べが行われ続けていたものであり、P社への「借金」を「返済」しつつ、桜橋監査法人から会計処理に対する疑義を持たれないようにするため、各種の偽装工作を行い、資産計上や費用の繰延べにより正しい費用計上を回避していたものであると認定した。そのうえで、これら一連の行為を全体としてみれば、P社取引スキームに基づき行われた広告枠販売取引、資産計上及び費用繰延べは、いずれも財務諸表の意図的な虚偽の表示である不正会計であったと評価するのが相当であると、調査結果をまとめている。 4 原因分析(調査報告書175頁以下) 第三者委員会による原因分析について、まず、項目を見ておきたい。 原因分析のなかで、第三者委員会は、アドバンスクリエイトグループでは、創業者で筆頭株主であった濱田氏への「忖度と畏縮の心理」が広く浸透してしまっており、異論を述べる者がいない同質化した組織になっていたことで、濱田氏の経験知に基づく「あるべき数値」の達成が最優先される環境が形成されていた結果、上場維持や資金繰りを優先して不正を組織的に実行する土壌、言い換えれば財務諸表の虚偽表示を生じさせる結果となる行為を意図的に実行することを厭わない、あるいは積極的に実行する土壌が出来上がっていたと総論を述べている。 さらに、第三者委員会は、経営トップである濱田氏が強い人事権を握っていたことにより、アドバンスクリエイトグループ役職員には、期待に沿えない数値を報告することで評価が下がることや、叱責を受けることへの恐怖がその背景として存在していたと指摘している。本来であれば、こうした経営トップからの業績プレッシャーを背景とした不正に対する効果的な仕組みであるはずの社外役員は情報の共有が不足しており、たとえば、桜橋監査法人からの講評時に多数回にわたりメディア事業等の収益一括計上に関する問題点が指摘されていたが、常勤監査役からこの指摘が監査役会に報告された形跡はなく、取締役会においても、月次の業績報告がされており、四半期末月の急激な売上の伸びについては問題視されていたが、桜橋監査法人からの指摘が社外役員を含む取締役会構成員に対して共有されていなかったことから、これを踏まえた議論が十分になされることもなかったため、結果として、社外役員による経営執行に対する監視が十分にされていなかったとし、社外役員が全く機能していなかったわけではなく、むしろ、社外役員がリスク兆候を認識するために必要な情報が十分に共有されていなかったことが問題であったとみるべきであると評価している。 また、第三者委員会は、「監査法人による外部モニタリング機能の限界」として、保険市場役員らによる種々の偽装工作を挙げ、偽装工作により、桜橋監査法人が、メディア事業等における売上計上と広告掲載等の時期との関係性やP社との広告枠販売取引の実態を正確に把握することができず、アドバンスクリエイトが行った会計処理の適否について十分な検証が行われず、一連の取引に係る会計処理につき、不適切な会計処理の疑義として十分に問題視されることのないまま長期間が経過してしまったと考えられると見解を示している。 5 再発防止策の提言(調査報告書190頁以下) 第三者委員会による再発防止策の提言についても、まず、項目を見ておきたい。 第三者委員会が、冒頭に挙げた「再発防止策の基本方針」について、引用する。 第三者委員会は、具体的な再発防止策の最初に、「創業者の影響力遮断及び院政防止」を置き、不適切処理の根本原因に鑑み、純粋にこれと同様の事象の発生を防止するという観点のみから最も有効な再発防止策を挙げるのであれば、濱田氏が代表取締役、社長、会長、執行役その他の業務執行ポストから退任し、業務執行、人事、会計判断、監査対応、重要取引の承認から切り離されることであると述べている。その一方で、濱田氏が経営や執行から外れることは、アドバンスクリエイトグループの良さ、継続する事業体としてのグループの存立基盤をも失わせてしまう可能性も否定し得ないというべきであり、このような観点からは事業上のリスクを伴う策ともいえるとも評しており、濱田氏を経営や執行から切り離すことが容易でないこともまた、認めている。そのうえで第三者委員会は、濱田氏が現在の地位を維持されることとなったとしても、不適切処理の発生原因として認められた過度な影響力の行使を防止するような制度的対応を実施することが必要であるという点を指摘するとともに、仮に濱田氏が現在の地位の全部又は一部から退任した場合であっても、院政を敷くような状況を生じさせることのないようにしなければならないと提言している。より具体的には、社外役員による実効的なガバナンスの構築を図るため、取締役会決議により各役職員の職務範囲、報酬、情報アクセス手段、社内会議への出席可否等の権限に関してより明確化あるいは強化を行い、社外役員がその状況を定期的に確認することができる体制を整備することを求めている。 また、第三者委員会は、「改革担当取締役及び再発防止モニタリング委員会の設置」として、独立性及び改革実行力を有する改革担当取締役を設置し、再発防止策の実行責任者として位置付けること、社外取締役並びに外部の弁護士、公認会計士及び不正調査専門家等から構成される再発防止モニタリング委員会を設置し、少なくとも1年から2年間程度は、再発防止策の実施状況を四半期ごとに確認するといった施策を挙げている。 さらに、第三者委員会は、「三線防衛・監査体制の再構築」の項目では、まずは第一線、第二線及び第三線のそれぞれの役割を明確化すること、そして、監査法人とのコミュニケーションの充実化を図り、適正な監査・指摘を受けるに足りる情報を適示に、且つ正確な内容をもって共有することを前提に、監査法人、監査役等及び第三線である内部監査部門による三様監査会議を定例化し、重要会計論点、不正リスク、監査法人からの指摘事項、未解決事項、経営者関与取引、内部通報情報を定期的に共有する制度を整備すべきであると提言を行っている。 【調査報告書の特徴】 アドバンスクリエイトの有価証券報告書によれば、特別損失に計上された「特別調査費用」は、2024年9月期が27,965千円、2025年9月期は35,344千円となっている。一方、本稿でとりあげた第三者委員会による調査及び過年度決算の訂正等に要する費用は、2026年8月14日現在で約524百万円が見込まれている。 第三者委員会による調査報告書は総数206頁に及ぶ大部であり、偽造された書類の画像が数多く掲載され、また、アドバンスクリエイトが業務で使用していたチャットの文章も原文のまま引用されている。創業以来、社長の地位にあり、大株主、かつ、会社を上場させた経営トップの意向に、周りが過剰に忖度して、会計不正に手を染めてしまった会社は枚挙に暇がないのだが、課徴金納付命令を受けたり、上場廃止になってしまったりした他の上場会社の事例を参考にして自らを省みるという姿勢は、残念ながら、本件で見られなかった。 1 2024年に設置した「PV売上に関する調査委員会」による調査結果の概要 上記「第三者委員会設置の経緯」で言及したとおり、アドバンスクリエイトは、保険代理店事業における代理店手数料の売上の計上に関する調査委員会を設置し、調査報告書を受領しその概要版を公表しているので、その調査結果の概要を見ておきたい。 (1) 2024年10月7日付調査報告書(概要版)による調査結果 調査委員会は、調査結果のまとめとして、次のように評価している。 (2) 2025年1月10日付追加調査報告書(概要版)による調査結果 調査結果を踏まえて、アドバンスクリエイトにおいて、総支払回数を修正したPV計算を進めていく中で、前回問題とは別に、PV計算業務を担当する従業員(PV計算担当者)が手数料計算システムにおける様々な理由によるエラーの解消のための対応の1つとして、手数料計算システムから出力されたエクセルファイルを直接修正していたところ、修正の結果として算出されたPV売上額と実際の入金額に相違があり、その相違理由が不明なものが多いということが判明した。そこで、アドバンスクリエイトは、調査委員会に追加の調査を依頼した。 調査委員会は、追加調査の結果、L字型の手数料体系(初年度の手数料率が、次年度以降の手数料率よりも高くなるタイプ)であるにもかかわらず、初年度手数料の金額を均等に計上するという修正や、実際に入金された手数料の倍額を将来10年分計上するという修正が行われていたことが判明したものの、PV計算担当者がこのような修正を行った目的自体は、PV売上推定額と算出額の差異を埋めるというものであり、PV計算担当者において実態のない売上を計上する意図まではなかったと考えられるという判断を示したものの、個別の保険契約における将来手数料の算出について、こうした修正による合理的な根拠のない不適切な計上が行われていたと認定している。 2 第三者委員会による調査報告書の結果を受けたアドバンスクリエイトの取締役会の構成 アドバンスクリエイトの役員一覧について、2025年9月期有価証券報告書と現在のサイトで公表されているデータをまとめておきたい。後述する「再発防止策」とともに公表された「関係者の処分」により、本件への関与が認められた取締役が2026年8月13日付けで辞任したことに伴い、現在、6人の取締役のうち5人が社外取締役であり、業務執行に当たる取締役は、代表取締役である濱田氏のみとなっている。なお、社外監査役の三田与志雄氏は、「株式会社アドバンスクリエイトPV売上に関する調査委員会」における調査委員も務めている。 第三者委員会が提言した再発防止策のうち、「社外取締役を中心とする取締役会への転換」は進んでいると言えるが、「創業者の影響力遮断及び院政防止」については疑問が残るところである。 現在、アドバンスクリエイトが公表している役員の状況 役職名 氏名 社外取締役・社外監査役 代表取締役社長 濱田佳治 取締役 桜井洋二 社外取締役(損害保険会社出身) 取締役 島津朝子 社外取締役(米国弁護士) 取締役 小坂田成宏 社外取締役(弁護士) 取締役 篠原秀典 社外取締役(生命保険会社出身) 取締役 成川 淳 社外取締役(ライフネット生命社員) 常勤監査役 朝田宏幸 監査役 三田与志雄 社外監査役(公認会計士・税理士) 監査役 谷貝 淳 社外監査役(損害保険会社出身) 監査役 福田泰明 社外監査役(公認会計士・税理士) 2025年12月18日定時株主総会終了後の役員の状況 役職名 氏名 代表取締役社長 濱田佳治 取締役 村上浩一 取締役 田坂貴典 取締役 桜井洋二 取締役 島津朝子 取締役 小坂田成宏 取締役 篠原秀典 取締役 成川 淳 常勤監査役 朝田宏幸 監査役 三田与志雄 監査役 谷貝 淳 監査役 福田泰明 2025年12月17日現在の役員の状況 役職名 氏名 代表取締役社長 濱田佳治 専務取締役 櫛引 健 取締役常務執行役員 鳥居俊文 取締役 桜井洋二 取締役 櫻井祐記 取締役 島津朝子 取締役 小坂田成宏 常勤監査役 谷口信之 監査役 秋吉 茂 監査役 畠山 隆 監査役 三田与志雄 3 東京証券取引所による改善報告書及び上場契約違約金の徴求 2025年5月23日、東京証券取引所は、アドバンスクリエイトに対して、「改善報告書及び上場契約違約金の徴求」を公表して、6月20日までに改善報告書を提出すること及び上場契約違約金3,360万円を徴求することを公表した。 同リリースにおける「理由の詳細」は次のとおりである。 なお、これは、あくまで保険代理店手数料売上による過年度有価証券報告書等の修正に係る措置であり、本稿でとりあげた広告代理店事業における会計不正に係るものではない。 4 アドバンスクリエイトによる再発防止策 2026年8月13日、アドバンスクリエイトは、「再発防止策(骨子)の策定に関するお知らせ」をリリースして、本件の経緯、再発防止策(骨子)及び関係者の処分を公表した。 アドバンスクリエイトによる再発防止策(骨子)について、まず、再発防止策策定に係る基本方針は次のとおりである。 次いで、再発防止策(骨子)の項目は次のとおりである。 再発防止策にケチをつけるわけではないが、管理部門管掌取締役とは誰を指すのか明示されておらず、上記の「役員の状況」を見る限り、現在のアドバンスクリエイトには、濱田氏から、経理財務、人事、コンプライアンス等の管理部門における決裁権限の移譲を受けるはずの管理部門を管掌する取締役、つまり、再発防止策の責任者である改革担当取締役としての管理部門管掌取締役は存在しない。管理部門管掌取締役を外部から招聘するにせよ、社内管理部門から登用するにせよ、株主総会決議が必要にもかかわらず、その選任手続きについて、再発防止策に言及がない点は、気になるところである。 リリースの最後には、「関係者の処分について」では、本件への関与が認められた現・旧取締役のうち、現取締役である者については、取締役を2026年8月13日付けで辞任したこと、旧取締役のうち、顧問契約に基づき顧問業務を委嘱している者についても顧問契約を同日付けで解約したこと、さらに、今回の事態を厳粛に受け止め、再発防止策の一環として、関係者に対する処分について引き続き厳正に対応することが説明されている。 (了)
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《税理士のための》登記情報分析術 【第40回】「買戻し特約について」
《税理士のための》 登記情報分析術 【第40回】 「買戻し特約について」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 顧問先の資産承継を検討するなかで様々な登記記録を目にすることがあると思われるが、知っておきたい登記の一つとして「買戻し特約」の登記がある。買戻し特約の登記については、注意をしておかないと思わぬ不利益を顧客が被る可能性もあるため税理士として知っておきたいポイントを解説する。 1 「買戻し特約」とは 「買戻し特約」とは不動産売買において、売主が、買主が支払った代金又は別途合意した金額と契約の費用を買主に返還することにより、売買契約の解除を認める特約である。 買戻し特約は、主に住宅供給公社等が行う開発事業において不動産を売却する際に、転売などの目的外利用を防止する趣旨で設定されることが多い。そのほか、売主が買主から売買代金として融資を受けて、担保物件として不動産を売渡し、売買代金が返済できたら不動産を取り戻すという担保的な利用もされることがあるとされているが、一般的ではないと思われる。 買戻し特約は、売買契約と同時に設定し、登記をすることで第三者に対抗できる(民法579条、581条)。 【買戻し特約の登記記録】 2 買戻し特約の注意点 買戻し特約の期間は10年を超えることができないとされており、買戻し特約の期間は登記事項であるとされている(民法580条、不動産登記法96条)。 税理士が顧客の不動産について親族間売買等のプランニングを立てる場合に、対象となる不動産に買戻し特約が付されていた場合は、注意が必要となる。買戻し特約の有効期間内に、親族間売買等による所有権移転登記を行っても、買戻権者(売主)が買戻権を行使すると、親族等は所有権を失ってしまうことになるからである。特に住宅供給公社等が行う開発事業によって分譲された不動産の場合、親族間売買等を行うこと自体が目的外利用として買戻し権を行使される可能性がある。 3 買戻し特約の抹消 買戻し特約の登記がされた不動産について売買等を行うためには、買戻し特約の登記を抹消してから行う必要がある。 買戻し特約の登記の抹消は、現在の所有者が登記権利者、買戻権者(売主)が登記義務者となって行うことが原則であるが、令和5年4月1日からは不動産登記法が改正され、売買契約の日から10年が経過していれば、登記権利者が単独申請で抹消することができるようになった(不動産登記法69条の2)。これは買戻し特約の登記が買戻し期間を経過しても、抹消されずに長年放置されることが多いところ、買戻権者の所在不明や解散などの事情があっても、円滑に登記手続が進められるようにするためである。 買戻し特約の登記は実務でもよく見かけるものであり、税理士としても知っておくとよいだろう。 (了)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第81回】「誤解を生じやすい温泉地の評価」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第81回】 「誤解を生じやすい温泉地の評価」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、不動産鑑定評価基準(以下、「基準」と呼ぶ場合はこれを指します)には何らの規定がない「場所的利益」の算定について取り上げました。不動産鑑定士が鑑定評価の依頼を受ける案件のなかには、このように基準に格別の規定がないものも少なからず存在します。 今回取り上げる温泉地の評価も同様に基準に規定がなく、特に「温泉権」ということばが登場する場面では留意しなければならない事項があります。それは、「温泉権」と呼ぶ場合、それが2つの意味合いをもって使用されており、これを十分理解しておかなければ誤解を生じかねないからです。 2 温泉とは 温泉法第2条第1項では、「温泉とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するもの」と定義しています。 また、別表(省略)では、「温度」とは摂氏25度以上、「物質」とは溶存物質(ガス性のものを除く)が1,000ミリグラムという基準のほか、イオン等の物質ごとに基準が定められ、そのうちの一つでも満たす場合は温泉法上の温泉と認められています。 ただし、温泉法そのものは公法(行政法規)の一つであり、私法(財産権としての温泉権)という観点から温泉について規定した独自の法律は存在しません。 また、不動産登記事務取扱手続準則第68条では、「鉱泉地」とは、鉱泉(温泉を含みます)の湧出口及びその維持に必要な土地をいうとしていますが、ここにいう「鉱泉」も温泉法における温泉と同じ意味に解されています。しかし、「温泉権」と呼ぶ場合、以下に述べるとおり、その意味するところは必ずしも統一されていないのが実情です。 3 温泉権の意味~2つの捉え方 温泉権ということばは、物権的な意味と債権的な意味の2つの概念で使用されており、その概念は統一されていないのが実情です。 すなわち、温泉権と呼ぶ場合、物権的な意味合いを有する権利(=温泉を汲み上げる権利(湯口権))と債権的な意味合いを有する権利(=源泉から温泉を引き込む権利(引湯権))の双方を含んでおり、その受け止め方により評価方法や経済価値は著しく異なってくるからです。 ただし、実際には、後掲のとおり、昨今では温泉の新規掘削(注1)はきわめて少なく、また、温泉地においてもホテルや企業の保養所等が自己で源泉を所有しているケースも少ないと思われます。 (注1) 温泉を掘削する際には、温泉法第3条に基づき、都道府県知事の許可が必要となります。 そのため、不動産鑑定士が温泉地の鑑定評価を実施する場合は、一部の例外(注2)を除き、温泉使用権(上記に掲げた「源泉から温泉を引き込む権利(引湯権)」の付いた土地という評価条件の基にこれを評価しているケースがほとんどであるといえます。 (注2) 例えば、歴史の古い温泉で、慣習法上の物権的性格を有する温泉権が湧出地の所有権とは別に、独立して成立している場合がこれに該当します。 4 物権的な意味での温泉権 温泉権ということばが物権的な意味で使用される場合、次のアからウまでの権利を含んでいます(注3)。 (注3) 「臨時増刊 不動産鑑定」住宅新報社、1981年12月、57頁。 5 債権的な意味での温泉権 これに対し、温泉権ということばが債権的な意味で使用される場合は、温泉の給湯を受ける権利そのものが対象であり、一般に「引湯権」、「温泉使用権」あるいは「分湯権」などと呼ばれています。 なお、湯口権と引湯権は呼称が類似していますが、それぞれの意味するところは本質的に異なっています。すなわち、湯口権という場合は温泉を汲み上げる権利を指すのに対して、引湯権という場合は汲み上げられた温泉を引き込む権利を指しているからです。 また、引湯権を有する人からお湯を分けてもらう権利が分湯権です。 温泉地にある別荘や温泉権付のマンションにはこのような形態をとるものも多くあります。ただし、温泉にかかる権利は一様でなく、複雑な権利関係がからむケースもあるようですので、不動産鑑定士としては温泉の供給に関する個々の契約内容を十分に確認するよう努めています。 6 温泉地が実際の評価対象となるケースと評価の考え方 以上が物権的な意味での温泉権と債権的な意味での温泉権の相違ですが、昨今、温泉の新規掘削は極めて少ないことから、実際に鑑定評価の対象となるケースとしては、上記3で述べたとおり温泉使用権(引湯権又は分湯権)の付いた土地がほとんどであると思われます(例えば、地元の温泉供給会社等の所有する源泉から給湯を受けている土地とか、その土地からさらに分湯を受けている土地など)。 その際、給湯を受ける会社から温泉供給会社に対し、給付開始一時金(権利金)として〇,〇〇〇,〇〇〇円、使用料として月額〇〇,〇〇〇円を支払う旨の契約形態が一般的となっています。 また、その際の評価の拠り所となる考え方は以下のとおりです。 7 おわりに しばしば耳にする「温泉権」とは湯口権(温泉を汲み上げる権利)の意味で捉えられがちですが、鑑定評価の対象となるケースとしては、温泉使用権(引湯権又は分湯権)の付いた土地として一体で捉える場合がほとんどです。また、温泉使用権は土地に付着した権利として、土地の所有権とともに移転するのが通常です。 しかし、温泉権そのものが他の権利とは異なる特殊な形態をなすものであり、その取扱いには地域的な事情も反映されてくることから、本文でも述べたとおり、個々の取扱いに関しては契約内容を十分に確認した上で判断することが必要とされています。 【参考裁判例】 温泉権について取り扱った最近の裁判例として、東京高裁令和元年10月30日判決があります(「金融・商事判例」1587号、2020年3月15日号、22頁)。 当該判決では、本件の2つの温泉が存在する地域において、温泉に関する権利を土地所有権とは別の独立した権利として認める慣習法があることを認めるに足りる証拠はないとして、温泉権の存在自体を否定しています。判決文自体、相当の分量にわたりますが、紙数の関係で裁判所の考え方のポイントのみ掲げれば以下のとおりです。 これに対し、仙台高裁昭和63年4月25日判決(判例時報1285号、59頁)では、温泉権が一般に慣習に基づく物権と認められる(=源泉権が地盤たる土地所有権と離れた別個の権利と解される)場合があると考えられているとしつつも、次の指摘を行っている点に留意が必要です。 (了)
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2026年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応 【後編】
PwC Japan有限責任監査法人 マネージャー 公認会計士 信田 裕介 本稿の概要 本稿は、【前編】で整理したコーポレートガバナンス・コード2026年改訂版(※1)(以下「CGコード2026」という。)を踏まえ、コンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲の変化が開示実務に与える影響を整理したうえで、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)に寄せられたパブリック・コメントの「意見に対する考え方」を手がかりに、企業実務上の対応の視点を論じるものである。 (※1) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」(2026年7月21日) なお、本稿では、改訂の趣旨等を示した金融庁・東証「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2026年7月21日)を「趣旨紙」という。また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 * * * 1 コーポレート・ガバナンスに関する報告書で開示すべき原則の見直し 【前編】で述べたコード構造の再編は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」という。)で具体的な開示が求められる原則の範囲にも及んでいる。従前補充原則に置かれていた開示すべき原則は、中核部分が原則へ格上げ・再配置される一方、法令等と重複するもの等は廃止された。コーポレートガバナンス・コード2021年版(※2)(以下「CGコード2021」という。)において「特定の事項を開示すべき」とされていた原則が、CGコード2026でどのように取り扱われたかを整理すると、〈図表1〉および〈図表2〉のとおりである。 (※2) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」(2021年6月11日) 〈図表1〉開示すべき原則の新旧対応 CGコード2026の 開示すべき原則 開示事項の概要 CGコード2021の 開示すべき原則 原則1-1 ● 株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針 原則5-1 原則1-4 ● 政策保有に関する方針 ● 保有の適否に関する検証内容 ● 具体的な議決権行使基準 原則1-4 原則2-2 ● 多様性の確保についての考え方 ● 多様性の確保の自主的かつ測定可能な目標 ● 多様性の確保の状況 ● 人材育成方針、社内環境整備方針、その状況 補充原則2-4① 原則2-4 ● 企業年金の運営を支える人事面や運営面における取組み 原則2-6 原則3-1 ● 経営理念、経営計画等 ● コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針 ● 経営陣等の報酬決定方針と手続 ● 経営陣の選解任と取締役等の候補者 原則3-1 原則4-3 ● 関連当事者間の取引における適正な手続・その枠組み 原則1-7 原則4-7 プライム向け ● 委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等 補充原則4-10① プライム向け 原則4-13 ● 取締役の有するスキル等の組み合わせ 補充原則4-11① ● 取締役会の実効性評価の概要 補充原則4-11③ 原則4-15 ● 個々の取締役・監査役に適合した研鑽の方針 補充原則4-14② (出所) 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2025年7月版)」、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」、「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」、「「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリックコメントの結果について」より筆者作成 〈図表2〉CGコード2026で廃止された開示すべき原則 CGコード2021の開示すべき原則で廃止された原則 開示事項の概要 廃止理由、 CGコード2026に引き継がれている考え方 補充原則3-1③ ● サステナビリティについての取組み等 ✓ 有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 ✓ 原則4-5及びその解釈指針にて統合・整理されている。 補充原則4-1① ● 経営陣に対する委任の範囲の決定、概要の開示 ✓ 実務上理解が進み、ある程度浸透したと考えられるため。 ✓ 基本原則4 解釈指針において、「取締役会の在り方について不断に検討を行うべきである」ことが示されており、これには取締役会の経営陣に対する委任の範囲も含まれると考えられる。 原則4-9 ● 独立社外取締役の独立性判断基準 ✓ 有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 ✓ 原則4-11解釈指針において独立性判断基準を策定すべき旨が示されている。 補充原則4-11② ● 取締役・監査役の兼任状況 ✓ 重要な兼任・兼職について、事業報告・株主総会参考書類・有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 (※) 「廃止」は、CG報告書における開示すべき原則としての位置づけが解消されたことを意味し、本改訂により開示事項から外れたことをもって、当該事項の重要性、その趣旨・考え方がCGコード2026から失われたことを意味するものではない。 (出所) 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2025年7月版)」、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」、「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」、「「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリックコメントの結果について」より筆者作成 このように、CG報告書において具体的な開示が求められる原則は、CGコード2021の14個からCGコード2026では9個へと見直された。この減少は、次の2つの要因による。第一に、法令等との重複を理由に4個が廃止された(〈図表2〉)。第二に、CGコード2021の補充原則4-11①(スキル・マトリックス等)と補充原則4-11③(実効性評価の結果概要)が、CGコード2026では原則4-13に一本化された。これらを除いた残りの開示すべき原則は、原則への格上げ・再配置により維持されている(〈図表1〉)。以上の結果、開示を求める原則は、CGコード2026において9個となった。 なお、開示を求める原則が姿を消したことは、実務対応が直ちに不要になったと解することは適切ではないと考えられる。CGコード2026の本文(第12項)では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ「解釈指針」へ移管された記載やコードから削除された記載について、改訂後にその重要性が失われたと考えることは適切ではない、と明記されている。実際、今回の見直しは「コード内の他の箇所又は法令等との重複がある箇所等」を対象としたものであり、開示を求める原則としては整理された事項も、その趣旨・考え方はコードの他の箇所に引き継がれている。 2 パブリック・コメントの「意見に対する考え方」を実務にどう活かすか パブリック・コメントの「意見に対する考え方」は、東証が各原則・解釈指針をどのように解釈しているかを示すものであり、実務対応を検討するうえで有用な手がかりとなる。主な論点について示された考え方は次のとおりである。 (※3) 経営資源の配分に関する取締役会の議論・運用の実務については、経済産業省「「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」及び「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」」(2025年4月30日公表)も参考になる。同ガイダンスは、事業ポートフォリオの組替えや成長投資といった「攻めの経営」に向けた取締役会の取組みの前提となる考え方・進め方・検討ポイント・企業事例を整理している。 (※4) 知的財産等の無形資産への投資に関しては、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局)が2026年8月3日に公表した「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」も参考になる。同ガイダンスは、知財・無形資産の創出・取得・強化・保護・収益化への戦略的な取組みの進め方や、投資家への説明の在り方について、実務上の課題への対応の方向性を具体的な事例に基づき整理したものである。 (※5) 取締役会の機能強化に向けた実務の取組みについては、金融庁が2026年7月21日に公表した「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」も参考になる。同事例集は、取締役会の在るべき姿・経営陣との役割分担、CEOサクセッション、社外取締役の活用、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の組織・体制・役割、取締役会の実効性評価といったテーマごとに、上場企業へのインタビューに基づく取組み事例を整理したものである。 (※6) 有価証券報告書の総会前開示に関する実務上の論点(議決権行使に係る基準日の変更、会社法の事業報告等との一体開示等)や、定時株主総会の2週間以上前に有価証券報告書の提出を予定している上場会社一覧、総会前開示に係る好事例等については、金融庁「有価証券報告書の定時株主総会前の開示について」を参照。同ページには、株主総会前に有価証券報告書を提出する場合の留意点や、総会前開示の状況、相談窓口の案内等も掲載されている。 これらの回答に共通するのは、コードが特定の数値や形式を一律に強制するものではなく、各社が自らの状況に照らして必要性・合理性を判断し、その考え方を丁寧に説明することを求めている、という姿勢である。 3 企業実務における対応の視点 以上を踏まえ、実務上、留意が考えられる点を整理する。 第一に、開示すべき原則の見直しにとどまらず、「解釈指針」に移管され、又は削除された事項についても、実質面では引き続き重要であるとの前提に立ち、これまでの開示・取組みを安易に後退させないという視点が挙げられる。とりわけ、これらの事項(例えばサステナビリティに関する取組みや独立社外取締役の独立性判断基準の運用)は、その趣旨・考え方が他の原則に引き継がれ、又は法令や他の開示枠組みの中で引き続き求められる点に留意を要する。 第二に、コンプライ・オア・エクスプレインのいずれを選択する場合であっても、ひな型的な表現による表層的な説明に終始せず、具体的な取組みの内容とその合理的理由を示す「丁寧な説明」が重要と考えられる。 第三に、CG報告書の更新実務への備えである。上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、CGコード2026に関する事項を記載したCG報告書を提出する必要がある。もっとも、それまでの定時更新は改訂前のコードに沿った更新でも差し支えないとされているため、上場会社は、いつの時点で改訂対応の更新を行うかを主体的に判断することが考えられる。その際、CG報告書の開示すべき原則とされていたものが、番号や構成の変更に伴い更新作業の過程で意図せず欠落してしまうことのないよう留意が必要である。具体的には、〈図表1〉の新旧対応を踏まえた記載箇所の棚卸しに加え、〈図表2〉のとおり開示すべき原則から除外された事項について、その廃止理由(他の開示書類との重複、他の原則・解釈指針への統合等)を踏まえたうえで、既存の開示内容を新様式のどこに引き継ぐかを、あらかじめ確認しておくことが望ましい。 今回のスリム化は、上場会社がガバナンスの「実質」に向き合い、その考え方を丁寧に説明することに注力できるようにすることを意図したものであり、求められる説明の質はむしろ従来以上に問われることになる。残された移行期間は、CG報告書の記載更新にとどまらず、自社の実態に即してガバナンスの在り方を見つめ直す好機である。上場会社各社には、自らの状況に応じて在るべき姿を不断に検証していくことが求められている。 (了)
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〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉『ここがヘンだよ日本の税制』【第7回】「JIIMA認証、ホントに必須? 税理士たちを勘違いさせる国税庁のプレゼンを斬ってみた」
〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉 ここがヘンだよ日本の税制 第7回 JIIMA認証、ホントに必須? 税理士たちを勘違いさせる国税庁のプレゼンを斬ってみた 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 前回に引き続き今回も青色申告特別控除75万円がテーマです。今回は「JIIMA認証」を斬ります。青色申告特別控除75万円でも電子帳簿保存法でも、多くの解説は「JIIMA認証のあるソフトを使ってね」と言います。 しかし本当にJIIMA認証は必須でしょうか・・・? 今回はJIIMA認証は本当に必須なのか、そしてもし必須とした場合の問題点について解明していきます。 なぜ「電帳法要件を満たすならJIIMA認証必須」と言われるのか 最初に国税庁がWEB上で公表している案内を確認します。 ●国税庁のパンフレットはどう書いているか 解説に入る前に、青色申告特別控除75万円やデジタルシームレス保存についてのパンフレットを見てみましょう。 引用元:75 万円の青色申告特別控除|国税庁 ※赤枠・赤線・赤い矢印等の加工は筆者によるもの 引用元:電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?|国税庁 ※赤枠・赤線・赤い矢印等の加工は筆者によるもの 前者は青色申告特別控除75万円についてのパンフレット、後者は青色申告特別控除75万円の一要件であるデジタルシームレス保存についてのパンフレットです。いずれも「要件を満たしたソフトを買うならJIIMA認証のあるソフト」がさりげなく(?)紹介されています。特にデジタルシームレス保存については、「参考にしてくださいね!」「是非ご活用ください」とまで書いています。 斜にかまえた言い方をするなら「国税庁パンフレットがJIIMA認証ソフトの広告宣伝」になっているかのようです。 ●「電子帳簿保存法一問一答」にもJIIMA認証の記載あり JIIMA認証について書かれているのは、パンフレットだけではありません。税務業界が電帳法対応で参照することの多い「電子帳簿保存法一問一答」にも書かれています。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)|国税庁 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁 なお、JIIMA認証の話が登場するのは、優良な電子帳簿保存要件やデジタルシームレス保存要件のテーマだけではありません。「JIIMA認証とは何か」について解説をしているQ&Aもあります。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁 ※「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)|国税庁」にも同様のQ&A(問56)あり 問いの立て方と答え方と文字数の使い方が「JIIMA認証のあるものを使いなよ」と言わんばかりの様子です。「Q&A形式をとったJIIMA認証ソフトの宣伝か。マーケティング、上手だな」と思われてもおかしくありません。 何より「JIIMA認証が『電子帳簿保存法一問一答』にそれなりの文字数を使って書かれている」という事実が重要です。「電子帳簿保存法一問一答」といえば、消費税の「インボイスQ&A」のような存在。「国税庁のQ&Aは法令や通達よりも偉い」と冗談半分本気半分で言う税理士もいます(そんなはずは絶対にないのですが)。 そんなQ&Aに、ここまでJIIMA認証について文字数を使って書かれていたら読み手はどう感じるでしょうか。 ・・・と、認識するはずです。 しかし実際には、優良な電子帳簿保存要件もデジタルシームレス保存要件も、JIIMA認証は必須とされていないのです。 「JIIMA認証必須」ではないと言える理由 青色申告特別控除75万円や電子帳簿保存法の解説で「JIIMA認証のあるソフトを選びなさい」と言われる中、なぜ筆者が「必須ではない」と言い切るのか。理由は3つあります。 ●理由1:法令に「JIIMA認証必須」と書かれていない 「Q&Aは法令・通達よりも偉い」と言いますが、日本は租税法律主義です(通達については正論を取るか実務を取るかで意見が分かれるので割愛)。そのため、要件を満たすソフトについては必ず法令のどこかに記載があります。 実際、優良な電子帳簿保存とデジタルシームレス保存それぞれの要件は電子帳簿保存法施行規則に定められています。 【優良な電子帳簿保存】 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第二条第2項|e-gov ※上記規定は電子帳簿全体の基本要件。なお、優良な電子帳簿保存の場合、上記のうち第三号は不要 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第五条第4項|e-gov ※上記規定は優良な電子帳簿保存特有の要件 【デジタルシームレス保存】 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第五条第5項|e-gov この条文のどこにも「公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)により認証されたソフトウェアであること」などとは書かれていません。 ●理由2:届出書の用紙はJIIMA認証以外の記載欄がある 優良な電子帳簿保存もデジタルシームレス保存も、届出書の提出が必要です。提出がなければ青色申告特別控除75万円はもちろん、電帳法ベースの優良な電子帳簿保存の過少申告加算税5%軽減もデジタルシームレス保存の重加算税の10%加重ナシというメリットを享受できません。 届出書には、使用ソフトについて記載する欄があります。それぞれ次のようになっています。 【優良な電子帳簿保存】 引用元:国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書|国税庁 引用元:国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書|国税庁 【デジタルシームレス保存】 引用元:電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の不適用の特例及び75万円の青色申告特別控除(個人事業者)の適用を受ける旨の届出書|国税庁 いずれもJIIMA認証以外のソフトの記載欄があります。もしJIIMA認証以外が認められないなら「JIIMA認証の有無」などという選択項目は設けず「JIIMA認証を受けたのはいつか」「当該ソフトを事業用として使用し始めたのはいつか」など、JIIMA認証が前提の記載欄となるはずです。しかし現実の届出書はそうなっていません。 ●理由3:特定の税務・会計ベンダーに国が利益供与するのは許されない JIIMA認証を受けている税務・会計ソフトは、実際はごく一部です。特にデジタルシームレス保存については、令和7年度税制改正で創設されたばかりだからなのか、税務業界で著名なベンダーの独壇場となっています(令和8年9月11日現在)。 【参考】 もし「JIIMA認証ソフトを使わなければ優良な電子帳簿保存やデジタルシームレス保存を認めない」ということになれば、次のような事態を生じることになります。 特に2は由々しき問題となります。憲法14条「法の下の平等」に反するからです。 以上の理由から「JIIMA認証は電子帳簿保存法の要件を満たすための絶対的要件ではない」と言えます。JIIMA認証は、課税庁が「このソフトは法令の規定に合致しているか」の判断を省略するためのショートカットでしかないのです。 余談ですが「JIIMA認証があるから絶対大丈夫」とも言えません。電子帳簿保存法一問一答には、次のような記載があります。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)問86|国税庁 ※引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)問55|国税庁にも同様の記載あり 国税庁はパンフレットや一問一答でこれだけJIIMA認証を強調している一方、「最後は自分の目と手で確認してね」と言っているわけです。 おわりに:「法の下の平等」の意味を考えよう 先ほど「法の下の平等」について触れたので、最後にこの意味を考えてみましょう。 税務の世界では、ときどき「法の下の平等」が問われる場面があります。憲法では次のように書かれています。 引用元:日本国憲法第14条第1項|e-gov ●「法の下の平等」は2つある 課税の世界で「法の下の平等」が日常的に問われるのは「実質的平等」です。具体的には所得税における所得の10種類の区分、所得控除や基礎控除の逓減、所得税の免税・簡易課税の要件などです。それぞれのおかれた状況や担税力に着目し、要件を設けて公平になるようなしくみが設けられています。 一方、電子帳簿保存法の要件は「形式的平等」です。全国民に対し、同じ条件を与え「この条件を満たしたら優遇しますよ」というものとなっています。このほか、措置法の賃上げ促進税制や住宅借入金等特別控除などの政策的な措置もこの形式的平等に当たります。 この場合「特定の誰か」を法令の要件に定め、その人だけに利益供与することは許されません。不平等になるからです。ただ、細かい要件を定めて実質的に特定の人だけが法の対象になることは許されるものと解されます。 ●「特定の誰か、に結果的に該当する」のは許される 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」というのがあります。これは日本の半導体の国内生産基盤を強化するために作り替えられた法律です。 法改正当時は台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)を誘致し補助金を支給することが目的でしたし、実際、要件に事実上当てはまるのはTSMCしか存在しませんでした。しかし現在は、ウエスタンデジタルやマイクロンなども同法を活用し、支援を受けながら事業活動を行っています。 いずれにせよ、今の日本の憲法で「法の下の平等」が強く謳われている以上、特定の自然人や民間団体が法令に明確に要件として規定されることは、あってはならないことです。こう考えると「JIIMA認証を受けたソフトでなければ、優良な電子帳簿保存やデジタルシームレス保存は認められないし、青色申告特別控除75万円なんて受けられない」という認識は、正しくないと言えます。国税庁は納税者に誤認させないような表現を工夫すべきなのです。 (了)
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《速報解説》 飲食料品に係る消費税率を2年間限定で1%に引き下げる大綱が公表~令和9年4月1日から令和11年3月31日まで、簡易課税・中間申告・総額表示に特例~
《速報解説》 飲食料品に係る消費税率を2年間限定で1%に引き下げる大綱が公表 ~令和9年4月1日から令和11年3月31日まで、簡易課税・中間申告・総額表示に特例~ Profession Journal編集部 9月15日、社会保障国民会議の「中間とりまとめ」(令和8年7月29日・社会保障国民会議)及び「「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針」(令和8年8月5日閣議決定)を踏まえ、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が公表された。 大綱では、今回の措置は令和11年度に本格導入する支援金制度までの「つなぎ」として、令和9年4月から2年間に限り飲食料品に係る消費税率を引き下げ、これと飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲で実施する支援金を組み合わせるものと位置づけている。 必要な法制上の措置は「可及的速やかに」講ずるとされており、関連法案の提出時期は現時点で示されていない。 以下、消費税に関する部分を中心に概要を紹介する。なお制度の実務的な詳細については、近日中に連載を開始する予定である。 1 税率引下げの対象・期間・税率 令和9年4月1日から令和11年3月31日までの間に事業者が国内で行う飲食料品の譲渡及び保税地域から引き取られる飲食料品について、消費税率を0.78%とする特例が創設される(以下「特例税率」という。)。地方消費税と合わせた税率は1%(現行:8%)となる。 対象となる飲食料品の範囲は、現行の軽減税率の適用対象と同一であり、変更はない。ただし、同じく8%の軽減税率が適用されている「週2回以上発行される新聞の定期購読分」は今回の引下げの対象外とされ、8%が維持される。 適格請求書や仕入明細書等の「適用税率」欄には特例税率を、「消費税額等」欄には特例税率に基づく消費税額等をそれぞれ記載する。また、特例期間中の飲食料品の譲渡について、その後に売上げに係る対価の返還等や貸倒れ、仕入れに係る対価の返還等があった場合も、特例税率に基づいて計算することとなる。 2 予約販売・通信販売の経過措置 過去の税率変更時にも設けられた経過措置のうち、飲食料品に適用され得る「定期供給契約による予約販売」と「あらかじめ提示した条件に従って行う通信販売」について、指定日を税率変更の3か月前である令和9年1月1日とする経過措置が設けられる。 具体的には、令和9年1月1日前に締結した定期供給契約(不特定かつ多数の者に定期的に継続して供給する契約)に基づき、同年4月1日前に対価を領収している場合の同日以後の飲食料品の譲渡(領収済みの対価部分に限る)については、特例税率を適用せず8%のままとする。通信販売についても、令和9年1月1日前に販売条件を提示し、同年4月1日前に申込みを受けた商品の同日以後の譲渡は8%となる。いずれも、特例税率を前提とした契約や条件提示であるものは除かれる。 一方、令和11年4月に税率を8%に戻す際には、税率を戻す時期が2年後に到来することはあらかじめ明らかで、税率が戻ることを踏まえた契約が可能であるとして、この種の経過措置は設けないとされている。 3 本則課税への移行に関する届出の特例 現行制度では、免税事業者や簡易課税事業者が本則課税に移行するには、課税事業者選択届出書又は簡易課税制度選択不適用届出書を課税期間の開始前に提出する必要がある。税率引下げにより飲食料品の売上税額が仕入税額を下回り還付申告を行いたい事業者であっても、令和9年4月1日の属する課税期間が既に開始している法人などは、現行制度上は移行ができない。 このため、飲食料品の譲渡を行う事業者が令和9年4月1日の属する課税期間の末日までにこれらの届出書を提出したときは、その課税期間の初日の前日に提出したものとみなす特例が設けられる。あわせて、簡易課税制度を選択した場合の2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)は、令和9年4月1日の属する課税期間から本則課税に移行する場合には適用しない。 4 簡易課税制度の特例 簡易課税制度の適用を受ける事業者については、税率引下げ後も飲食料品の譲渡について一定の納付税額が発生するが、本則課税であれば納付税額が生じない場合が多いと見込まれる。これを踏まえ、簡易課税事業者が特例税率の対象となる飲食料品の譲渡を行った場合、その譲渡に対応する仕入控除税額を、業種区分にかかわらず売上税額と同額とする特例が設けられる。結果として、1%対象の飲食料品の販売に対応する納付税額は生じないこととなる。 特例対象以外の課税資産の譲渡等(例:軽減税率対象外の商品の販売)については、従来どおり現行のみなし仕入率で仕入控除税額を計算する。インボイス制度の経過措置であるいわゆる2割特例・3割特例の適用を受ける場合も同様の措置が講じられる。なお、飲食業のみなし仕入率(60%)については、事務負担等の観点から引下げは行われない。 5 中間申告の特例 前年の納付税額を基礎とする中間申告では、税率引下げ後に中間申告税額が過大となることが見込まれる。このため、令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、直前の課税期間の飲食料品に係る取引に特例税率が適用されていたものとして計算した消費税額に基づく中間申告税額(ない場合は零)を記載できる。この計算では、上記4の簡易課税制度の特例も適用されたものとして算出する。 引下げ終了時も同様に、令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、直前の課税期間の飲食料品に係る取引に特例税率が適用されていなかったものとして計算した税額に基づく中間申告ができる。 これらの特例を適用する場合は、仮決算による中間申告書に、特例により計算した中間申告税額(消費税額及び地方消費税額に区分した金額を含む)を記載して提出する。 6 総額表示義務の特例 税込価格(総額)の表示義務は維持され、税抜価格のみを表示する方法や、税抜価格に続けて「+税」とのみ表示する方法は引き続き認められない。 他方、夜間の値札貼替えに対応できない、カタログや商品パッケージに価格が印字されている等の理由で税率変更時の総額表示が間に合わない場合を想定し、総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情がある場合に限り、次の期間に限って変更前又は変更後の税率に基づく税込価格の表示が認められる。 表示価格が本来表示すべき税込価格であると誤認されないための措置を講じていることが条件となる。 期間 表示できる税込価格 令和9年2月1日~同年3月31日 特例税率(1%)に基づく税込価格 令和9年4月1日~同年5月31日 軽減税率(8%)に基づく税込価格 令和11年2月1日~同年3月31日 軽減税率(8%)に基づく税込価格 令和11年4月1日~同年5月31日 特例税率(1%)に基づく税込価格 7 農林漁業者等への対応 税率引下げの影響を受ける農林漁業者には、利子負担を考慮した資金繰り支援が行われる。本則課税への移行が困難な簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者に対しては、売上げから回収できない仕入税額が大きくなることによる経営継続への影響を踏まえ、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組みが導入される。 食品事業者・外食事業者には資金繰り支援や省力化の支援が行われ、外食事業者についてはテイクアウト等の多角化支援が講じられる。簡易課税事業者・免税事業者が本則課税に移行する際の相談対応や税理士費用等の経費に対する支援も盛り込まれており、支援内容は予算編成過程で具体化するとしている。 8 就業者負担軽減支援金の概要 支援金は、中低所得の現役勤労者を対象に、税・社会保険料の負担を軽減するために毎年度支給する現金給付である。従来の経済対策のような一律の給付ではなく、所得の額に応じて金額が変わる点に特徴があり、大綱ではこれを本格的な「給付付き税額控除」に向けた第一歩と位置づけている。導入は令和9年4月からで、消費税率の引下げと同時に始まる。 対象者は個人単位で判定する。令和9年度及び令和10年度は、次の3つをすべて満たす者が対象となる。 ① 前年の勤労所得が所得下限額を超えること *勤労所得は給与収入に応じて算定した額と事業所得と業務に係る雑所得の合計であり、個人事業者やフリーランスも対象になり得るが、事業所得等は就労とみなせる一定額を超える場合に限って合算する ② 前年の合計所得金額が所得上限額以下であること *所得上限額は扶養児童の有無と数に応じて定める ③ 当該年度の住民税額を基礎として算定した金額と前年分の社会保険料控除額との合計から、前年中の公的年金等の収入額を差し引いた「純負担」が純負担基準額を超えること この要件により、就労していて純負担が現役世代並みである中低所得の高齢者も対象に含まれる。令和11年度からは、これらに加えて配偶者の合計所得金額が配偶者所得上限額以下であることが要件となる。なお、基準日(1月1日)に国内に住所がない者には支給しない。 支援額は勤労所得の水準に応じて次のように変わる。 勤労所得(合計所得金額)の水準 支援額 所得下限額超~逓増開始額以下 定額(定額支援額) 逓増開始額超~逓増終了額まで 一定の割合で逓増 逓増終了額超~逓減開始額まで 定額(支援基本額) 逓減開始額超~所得上限額まで 合計所得金額に応じて一定の割合で逓減し、所得上限額で消失 これに、いわゆる「年収の壁」に直面する者への就業促進特例加算と、扶養児童(19歳未満の居住者である扶養親族。令和9年度・令和10年度は16歳未満)の数に応じた定額のこども加算が上乗せされる。 就業促進特例加算は、勤労所得が被用者保険の短時間労働者の適用ライン(所得32万円、給与収入106万円)から手取りの減少が回復する水準までの間にあり、被用者保険の適用に伴う社会保険料相当額を支払った者を対象とする時限措置である。逓増開始額は個人住民税所得割が課税される水準(単身者の非課税限度額は所得45万円、給与収入119万円)を踏まえて定めるとされているが、所得下限額、所得上限額、各支援額のいずれも、大綱では設定の考え方が示されるにとどまり、具体的な金額は法律や政令で定める段階で確定するとされている。支援額は1,000円単位(端数切上げ)とされ、令和9年度及び令和10年度の支援金は、全体の費用が飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲に収まるよう定められる。 支給事務は市町村(特別区を含む)が担い、受給資格者の請求に基づき市町村長が認定して、毎年1回、当該年度分を支払う。公金受取口座を登録している者については請求なしで市町村長が職権で認定でき、運用上はこの職権認定を原則とする。支援金には租税その他の公課を課さず、譲渡・担保設定・差押えも禁止される(国税の滞納処分及びその例による差押えを除く)。生活保護制度では収入認定の対象となる。 税務実務との関係では、令和11年度以降の支給に必要な情報(本人が負担した社会保険料控除額、扶養児童の有無と数、基準日に配偶者があり、かつ本人の前年の合計所得金額が配偶者所得上限額を超える場合の当該配偶者の氏名・個人番号等)を市町村が把握できるよう、確定申告書、源泉徴収票、住民税申告書及び給与支払報告書の様式を変更する等の措置を講ずるとされている。様式変更の時期は示されていない。 大綱では、事業者やシステムメーカー等が早期に準備に着手できるよう、関係府省庁が制度の詳細をできる限り早急に公表するとしている。税率引下げまで7か月足らずであり、今後公表される法案や国税庁の周知資料に注視されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
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令和9年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)
令和9年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和9年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
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政府重要資料から今後の法人税改革等を読み解く 【第1回】「「骨太方針2026」から読み解く税制の動向」
政府重要資料から 今後の法人税改革等を読み解く 【第1回】 「「骨太方針2026」から読み解く税制の動向」 公認会計士・税理士 荒井 優美子 -連載開始にあたって- 税制改正は、政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討し、毎年度の税制改正は、春から秋にかけて公表される各省庁や業界団体等の税制改正要望等を与党税制調査会が審議し12月の与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が12月に閣議決定される。「税制改正の大綱」には、改正による税収への影響額試算が明記されており、「税制改正の大綱」と同時期に予算政府案が閣議決定される。税制と予算は密接に関係しているが、毎年の予算は6月から7月に決定される「経済財政運営と改革の基本方針」(経済財政諮問会議)、いわゆる骨太方針により、経済財政運営と改革の方向性が示される。その後、秋に内閣府から「総合経済対策」が公表され、12月には「予算編成の基本方針」が公表される。 このように、税制改正の動向は、骨太方針や総合経済対策、更には各省庁の研究会や審議会での議論を確認することで、より深い理解と予見が可能になるものと考えられる。本連載では、政府重要資料を都度取り上げ、税制の動向への知見を深める機会を提供できればと思っている。 * * * 1 「骨太方針2026」の閣議決定 新聞報道によれば、内閣府が発表した2026年4~6月期国内総生産(GDP)は年換算で過去最高となり、企業の研究開発サービスの輸出がGDPを押し上げたとされている(※1)。 (※1) 2026年8月17日付日本経済新聞「名目GDP687.7兆円で過去最高 4~6月の年換算、研究開発が寄与」 高市政権は2025年11月の経済対策(「「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」以下、「総合経済対策」)において、「強い経済」を実現する総合経済対策の3本の柱(第1の柱:生活の安全保障・物価高への対応、第2の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現、第3の柱:防衛力と外交力の強化)を「強い日本経済実現」に向けた具体的施策として掲げ、第2の柱の危機管理投資と成長投資の税制支援として、令和8年度税制改正により、17の戦略分野を対象とする大胆な投資減税を導入した(【図表1】参照)。 【図表1】 総合経済対策の概要 ※画像をクリックすると別ページに遷移します (出典) 内閣府「「強い経済」を実現する総合経済対策:概要(2025年11月21日)」 2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)は、総合経済対策の第2の柱を経済財政運営の基本方針に据え、令和9年度(2027年度)を「責任ある積極財政元年」として2040年度までの中長期経済財政計画を策定したものと考えられる(【図表2】参照)。 【図表2】 骨太方針2026の概要 ※画像をクリックすると別ページに遷移します (出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:概要(2026年7月21日)」 「責任ある積極財政」という表現は、高市総理が就任後初の所信表明(2025年10月24日)でも使われているが、「成長か財政規律かという二者択一ではなく、その両方を実現するのが『責任』の意味」であり(※2)、具体的な財政運営として、①成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保する、②補正予算を前提とした予算編成と決別し、経済成長による税収増なども勘案しながら、必要な予算は当初予算で措置し、投資のための「新たな予算枠」を設定し、市場の信認を得ながら複数年での機動的な財政出動を可能にする、③経済社会の構造変化を踏まえ、経済構造の転換・好循環の実現と再分配機能の回復を図りつつ、経済成長を阻害しない安定的な税収基盤の構築の観点から、税制の見直しを進める、等を掲げる(※3)。 (※2) 2026年8月28日付読売新聞「高市首相「成長と財政規律の両立目指す」、消費税率「2年後に確実に戻す」」 (※3) 自由民主党「重点政策」 骨太方針2026で示された、責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」は、このような財政運営を2040年頃までの財政・投資計画として描いたものと思われる。2040年を中長期計画の期間とする考えは、高齢者人口ピークと労働力減少が同時に問題となる「2040年問題」への対応を視野に、「経済界における「投資牽引型経済」へのマインドセットの転換の機運醸成等を踏まえ、2040年度に250兆円の国内投資(※4)を実現することを新たな官民目標と位置付け、官民の連携を従前以上に強化し、その実現に取り組んでいく」(骨太方針2026)というものである。 (※4) 国内民間設備投資 2 「強い経済」の実現に向けた戦略的投資・分野横断的な取組と投資牽引型経済の実現 「強い経済」の実現に向けた戦略的投資では、2040年度まで累計で370兆円超の官民投資を想定し、分野横断的な取組では、8つの分野横断的な課題への対応のための目標数値と具体的な施策が示されている(【図表3】参照)。 【図表3】 8つの分野横断的課題へ取組 分野横断的な取組 主な目標(KPI) 主要な施策(一部抜粋) 新技術立国・競争力強化 ・2040年度に、250兆円の国内投資を実現 ・2026-2030年度の合計で、180兆円の官民研究開発投資を実現 ・「危機管理投資」・「成長投資」の推進 「危機管理投資」・「成長投資」の推進に向けて、『「強く豊かな日本」投資枠』を創設。 ・産業競争力強化に貢献する高い研究力を有する中核大学群への支援 ・スタートアップのシーズ段階から出口まで伴走可能なリードインベスターの育成・呼び込み、スタートアップからの調達加速 スタートアップ スタートアップ数 2025年 2.5万社→将来に 10万社 ・「スタートアップ創出パッケージ」の実行 スタートアップを研究開発段階から一貫して支援。 金融を通じた潜在力の解放 2040年度に、250兆円の国内投資を実現 ・「成長投資を促進するための金融戦略」の実行 金融機関の資金供給・成長支援機能の強化(「官民戦略投資連携フォーラム(仮称)」の設置、大口信用供与等規制の特例の明確化等)。 ・成長志向型コーポレートガバナンスへの転換 改訂「コーポレートガバナンス・コード」と「成長投資ガイダンス」の普及。 人材育成 理工農・デジタル・保健系の定員 2024年 35% → 2040年 50% ・基盤的経費と多様な競争的研究費の充実・強化 労働市場改革 5年間で、労働生産性(労働者1人当たり付加価値額)を 15%上昇 ・柔軟で多様な働き方の実現に向けた労働時間法制等の見直し ・リ・スキリング支援の強化 家事等の負担軽減 第一子出産前後の女性の継続就業率 2021年 69.5% → 2030年 80% ・子育てや介護等と仕事の両立支援 家事支援・ベビーシッター等の利用に対する税制措置を含む支援策の検討。 賃上げ環境整備 2029年度までの間で、日本経済全体で、実質賃金で年 1%程度上昇 ・「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」の実行 早期の賃上げを促す補助金の見直し。 積極的に賃上げを行う中小企業を重点支援するため、税制も含めた効果的な措置の検討。 サイバーセキュリティ 2031年度末までに、必要な防護策を実施できている重要インフラ事業者等の割合を 100% ・「サイバーセキュリティ戦略」(2025年 12月)に基づく具体的な取組を実行 (出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:政策ファイル(2026年7月21日)」をもとに筆者作成) 日本経済団体連合会(以下、「経団連」)は、骨太方針2026の公表に先立ち、2026年4月14日に「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~」において、少子高齢化・人口減少、現役世代の社会保険料負担の増大(いわゆる2040年問題)への対応すべき日本の将来像として、「官民連携により成長と分配の好循環を継続させ、分厚い中間層を形成するとともに、財政の健全性を維持する」ことを掲げ、成長と分配の好循環の加速・拡大のカギは「「投資牽引型経済」の実現である」としている(【図表4】参照)。「企業は、設備投資、研究開発投資、さらには賃金引上げを含めた人的投資に対し、積極果敢に取り組んでいくことが求められ」、この考えからも、骨太方針2026の戦略的投資・分野横断的な取組は、「投資牽引型経済」と軌を一にするものであるとして、高い評価を与えている。 【図表4】 税・財政・社会保障一体改革の全体像 (出典) 日本経済団体連合会「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~(2026年4月14日)」 3 「責任ある積極財政」と税制措置 骨太方針2026では、戦略的投資等について、令和8年度税制改正による措置に触れているが、ガソリン暫定税率廃止の財源確保に係る令和9年度税制改正以後での対応以外は、特段見当たらない。 一方で、「責任ある積極財政」の下、「予算・税制における各種基準額や閾値について、物価・賃金上昇や経済社会の変化を踏まえ、必要な点検・見直しを進める」とし、「歳出の目安については、一律抑制型の上限としてではなく、予算全般において歳出改革努力を継続する中で、伸ばすべき歳出と見直すべき歳出を峻別する、規律ある資源配分を実現する枠組みとする。このため、租税特別措置や補助金等の点検・見直しを進め、施策の優先順位を洗い直し、大胆に重点化する。危機管理投資・成長投資を強化するとともに、予算編成プロセスにおいて、成長への寄与、民間投資の誘発効果等を精査し、我が国の予算を成長力強化に資するものに変革していく。」との記載から、既存の政策税制についても見直しが行われ、メリハリのある措置の導入が検討されるものと考えられる。 (了)
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社長からの無理難題の断り方・かわし方 【第9回】「日当による過度な節税」
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第9回 日当による過度な節税 〈JUN税会〉 税理士 中尾 隼大 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 所得税法上の取扱い 本稿の根幹となる部分であるため、根拠となる条文や通達を抜粋して記載します。 【所得税法9条1項】 【所得税基本通達9-3】 (2) 法人税法上の取扱い 法人税を計算するための所得計算は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額となります(法法22①)。そして、その損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とするとされています(同条③)。つまり、損金の額に算入することができる支出は、その法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければなりません。裏を返せば、支出した金額のうちその使途の確認ができなかったり、業務との関連性の有無が明らかではなかったりするものについては、損金の額に算入することができません。 また、海外出張を前提としたものではありますが、旅費に関する通達として法人税基本通達9-7-6があります。これは、「当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認める。」とするものです。 (3) 消費税法上の取扱い 事業者が役員や従業員に支給する出張旅費、宿泊費や日当等のうち、その旅行に「通常必要であると認められる部分」については、課税仕入れに該当するものとされます。その上で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなります(消法30⑦、消令49①一二、消規15の4二、消基通11-6―4)。つまり、出張に伴う日当を役員や従業員に支給する場合、その日当に関してはインボイスが不要で仕入税額控除が可能です。 なお、この「通常必要であると認められる部分」は、上記の所得税基本通達9-3に基づいて判断することとなります(国税庁HP 質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」)。 これらの所得税法や消費税法、そして法人税法の規定や通達からは、出張が所得税法9条1項4号の「旅行」に該当し、かつ「通常必要であると認められるもの」といえるのであれば、法人がそれに伴って役員や従業員に支出したものには所得税が課されないばかりか、仕入税額控除が可能となります。そして、法人税における所得計算においても、損金算入が可能です。このような取扱いとなるのは、出張者が、出張しなければ支出せずに済んだ食事代等を支出するわけであり、それに対する手当が日当であるために、実費弁済の性質があるためです。 3 本件事例への当てはめ (1) 日当の妥当性の検討 1回当たり5万円が、所得税が非課税となる「旅行」に対する実費弁済として認められるかどうかを検討する必要があります。仮に実費弁済ではなく実質的な給与であると判断された場合、所得税の非課税及び消費税の仕入税額控除が認められなくなり、さらに法人税法における役員給与の3要件(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当しないとして、損金不算入となる可能性が高いです。 (2) 同県同市内の近場への出張 実務感覚的には、日当が高額なのは、海外出張⇒県外遠方出張⇒近場への出張の順です。本件の前提では、県外に行っても同市内の近場に行っても同額の5万円が支給されるため、この5万円が実費弁済として適切であると主張できるかどうかを検討することとなります。 (3) 役員報酬額の減額 役員報酬を月15万円減額し、その補填として月3回程度の日当支給を予定している点は、日当が実費弁済ではなく役員報酬の代替として機能している疑いを生じさせます。本件においては、日当支給額と役員報酬減額額が概ね一致しているため、役員報酬を日当に振り替えたものと評価される余地があります。 また、同業他社の一般的な日当水準と比較して著しく高額である場合には、その超過部分が実質的な給与と認定される可能性があります。 4 実務上の留意点 (1) 日当節税スキームの課題 上記2の規定等により、役員や従業員へ日当を支給すると、会社にとっては損金算入及び仕入税額控除が可能となり、かつ受け取る側にとっては所得税が非課税となることになります。これは、納税者の立場としては非常に有効な節税方法に見えるでしょう。現に、日当が万能な節税方法であるかのように喧伝するものも見聞きしますが、日当の支給を万能な節税方法だと安易に考えることは危険だといえます。 というのは、実務上において頭を抱える問題として、所得税基本通達9-3における「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」をどのように判断すべきかという点があるからです。この判断について、法令や通達、裁判例等で明らかにされていません。同通達では、(2)において同業類似法人に照らして判断する旨が示されていますが、役員給与の過大性判定(法法34②)と同じく、それを事前に納税者としてリサーチすることは難しい側面があるでしょう。 (2) 納税者として参考にすべき情報 そのため、納税者にとって参考となり得るのは、以下の財務省や民間シンクタンクなどが公表している統計データです。例えば、財務省によって、「旅費等実態調査(民間企業の旅費規程等に関する実態調査)」というデータが公表されています。 これによれば、日当支給の判断自体について、距離や宿泊の有無、所要時間等によって判断しているとする会社が多いことに加え、対象者の役職によって2以上の区分を設けている割合が7割弱あるとされています(14頁)。そして、国内出張で最も高額な日当は、「『5,000~9,999円』15.0%」とされていることから(15頁)、役員を対象とする日当は、この程度の水準であれば是認される可能性が高いと考えます。あまりに突出した金額を日当として設定することが危険だということです。 日当の金額について問題となるというよりも、上記の支給判断データや所得税法9条1項4号が「旅行」と表現していることに鑑みると、本社等の拠点から極めて近いところに出張をした場合にも日当を支給することが問題だといえるでしょう。また、カラ出張が問題であることは明白です。 (3) 実務上の運用 さらに、実際に遠方へ出張に出向く場合でも、この日当の税務的取扱いを念頭において、役員報酬の額を再設定することには賛成できません。換言すれば、日当の支給を受けることを前提に、本来想定する水準よりも低額の役員報酬額を設定し、対象役員の役員報酬額の補填として出張の度に日当を支給することはすべきではありません。 日当は実費弁済の性質があるために所得税が非課税となるのです。つまり、事実上、役員報酬の不足分に対する補填だとみなされた場合は、法人税において定期同額給与等の役員給与としての損金算入が可能かどうかで判断され、所得税において給与課税される可能性もあり得るといえます。 なお、税務調査を実施する側の国税調査官における状況を確認すると、令和7年4月1日、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」が改正され、宿泊手当として見直されました。具体的には、宿泊を伴う出張のみを対象とし、食事に対応する費用のみが支給されることと改められています。これを受けて同時に見直された「国家公務員等の旅費支給規程」14条及び別表第三では、国内の宿泊出張の場合、最大2,400円とする旨が示されています。改正前は日帰り出張の日当も存在していたことからは、上記民間側と国税側において、日当を受け取る当事者としての感覚には乖離があるといえるかもしれません。 このような状況の中で、上記のリスクを回避するためには、日当を支給することにつき、少なくとも「お手盛り」ではないと説明できるように備えることが肝要です。そのためには、職位毎の日当の支給水準について法人内でバランスが取れる形で旅費規程を整え、移動の事実を示す証憑を具備し、こまめな精算を行うことが必要となります。実際に出張していたとしても、出張の事実、支給額及び業務関連性を客観的な資料によって説明できる体制を整えておく必要があります。国税不服審判所平成26年2月21日裁決においても、辞令、旅費精算書、帳簿書類及び関係者の答述等を踏まえ、出張の事実、業務関連性及び支給額が不当に多額でないことが個別に認定されています。そのため、適正な旅費規程を整備するとともに、これに準拠した運用と証拠資料の保存が重要となります。
