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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例82】「食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理」
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例82】 「食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中国地方において食品等の製造加工等を営む株式会社(資本金9,000万円で3月決算)において経理部長を務めております。 世界経済を混乱に陥れたコロナ禍からようやく抜け出して、今年こそはと意気込んで2025年の年明けを迎えたわが食品業界でしたが、代わりに2022年以来のロシアによるウクライナ侵攻が思いのほか長引いて出口が見えなくなっている上に、アメリカのトランプ大統領が自国中心主義を貫き、高額な関税の賦課による恫喝的な二国間交渉を強引に進めている影響で、円安とインフレが進み、輸入物価の高騰がわが国経済の全般的な体力を日に日に奪っている今日この頃です。 また、最近のわが国の主食であるコメの価格高騰は、わが社における原材料コスト上昇の多くの割合を占めていますが、これははっきり言って、政府や農林水産省の政策の失敗のツケを国民が負わされたとでもいうべき人災であり、非常に腹立たしい思いでいっぱいです。 しかし、いくら自社の経営状況が厳しいと言っても、誰かが助けてくれるわけではなく、当然のことながら自助努力によるしか道は開けないことから、社員一丸になって販路開拓やコスト削減につながるようなあらゆる手段を講じているところです。そのような中、先週から税務署の税務調査を受けているところですが、その際に一点、気になる指摘をされ戸惑っております。 それは、わが社が大量に保有している食品運搬用のコンテナが、果たして減価償却資産に該当するのか、それとも消耗品に該当するのかという点です。わが社としては、コンテナは1個あたりの単価も安いことから消耗品であると主張していますが、税務署の調査官は、わが社におけるコンテナの実際の使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用することから、減価償却資産と解するのが正当であると言って譲りません。税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 企業の有する資産が消耗品等の棚卸資産に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのかについては、一般に、通常1年以内に販売又は消費の対象となり、それが所有者の手元を離れて外部に売却され、又は内部的にそれが原材料や消耗品等として使用されるものといえるのか、それとも、企業の内部にとどまって総体的に繰り返し使用される資産といえるかという点に着目して判別することになるものと考えられます。 本件の場合、食品運搬用のコンテナは、その使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用するものであることから、減価償却資産に該当するものと解するのが妥当と考えられるため、その減価償却費の計上に関しては、損金経理が要件となります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却資産と減価償却の意義 これまで本連載で何度か触れたことではあるが、改めて減価償却資産及び減価償却の意義について確認しておきたい。減価償却資産とは、固定資産のうち、使用又は時間の経過によって価値が減少するものをいう(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)389頁参照。 また、当該資産は、企業において長期間にわたり収益を生み出す源泉であるから、その取得に要した金額である取得価額は、費用収益対応の原則から、取得の年度に一括して費用に計上するのではなく、使用又は時間の経過に応じてそれが減価するのに応じて徐々に費用化すべきこととなる。 そのため、法人税法においては、減価償却資産の償却費の計算と償却方法について、企業会計における減価償却の考え方を基礎としつつ、納税者が選定した償却方法で計算した金額を損金に算入されるべき限度額(償却限度額)とし、実際に減価償却費として損金に算入されるのは、法人が償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額としている(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書390頁参照。 (2) 減価償却と損金経理 上記(1)の通り、法人税法上、減価償却資産の償却費の損金算入をするには、法人が償却費につき損金経理をすることが前提となっている(法法31①)。その理由は一般に以下の通り解されている。 すなわち、法人の行う取引は外部取引と内部取引とに区別することができるところ、内部取引は、法人の中だけで生じ、客観的事実として存するものではないという特徴がある。減価償却は内部取引の1つとされているところ、内部取引は、法人の意思決定があって初めて取引として存在が認められるものであるから、株主総会等の承認を受けた決算(確定した決算)に組み込ませることにより、内部取引の発生すなわち法人の意思決定があったことを客観化するため、損金経理を要件としたものである。 また、減価償却費などの内部取引の費用及び損失の経理については、外部取引に係る実体的な費用及び損失の経理に比べて当該法人の裁量的な判断の余地が大きく、ともすると当該法人の判断が課税の公平を損なう恣意的な利益操作につながりやすく、極端な場合には不正計算に手を貸すような簿外資産の減価償却にも及びかねないため、当該法人の裁量的な判断を損金経理によって統制し(自己拘束的規制)、企業経理の適正化を推進するため、法人が確定した決算において進んで償却費として計上したものについてのみ、償却費の損金算入を認めるべきであるから、損金経理を要件としている。 つまり、償却費として損金経理をするかどうかは、法人の任意であるが、法人がその損金経理をしない限り、償却費を損金算入することができないこととし、例えば、簿外資産については、償却費としての損金経理がないから、法人がその資産を帳簿に計上し償却をしない限り、税務計算では減価償却をすることができないようにしたのである。 このような減価償却に係る損金経理の要件の趣旨を踏まえると、その要件は厳格に解されるべきであり、たとえそれが少額の減価償却資産の取得価額に相当する金額だとしても、損金経理をしなければ、特段の事情がない限り、当該金額につき損金算入をすることはできないと解するのが相当ということになる。 (3) 食品運搬用コンテナの減価償却資産該当性と損金経理要件が争われた事例 それでは本件と同様に、食品運搬用コンテナは減価償却資産なのか棚卸資産(消耗品)なのかについてと、減価償却資産である場合の損金経理要件とが争われた事例(大阪地裁令和5年1月11日判決・税資273号(順号13799)、TAINSコード:Z273-13799))について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 食品等の製造加工等を営む株式会社である原告は、食品運搬用コンテナ等の備品の購入金額を製造消耗品費等として損金に計上するなどして申告していた。 それに対して彦根税務署長は、上記備品が納入された事実がないにもかかわらず、納入されたように仮装した納入伝票に基づいて上記製造消耗品費等が計上されているため、その計上された金額又は同金額から実際に納入された購入金額を差し引いた金額については、法人税に関する損金の額に算入することができず、また、上記の計上された金額については消費税に関する課税仕入れに係る支払対価の額と認めることができないなどとして、令和元年6月26日付けで、各更正処分及び各重加算税賦課決定処分を行った。 ② 事案の争点 本件コンテナ等は、消耗品(棚卸資産)に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのか。また、本件コンテナ等が減価償却資産に該当する場合、法人税法施行令第133条の要件のうち損金経理の要件(「その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたとき」)を満たすとして、同条を適用して、本件コンテナ等の取得価額を、本件コンテナ等を取得した日すなわち事業の用に供した日の属する事業年度の損金の額に算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例で注目されるのは、「1個当たりの単価は500円程度」で「原告において、標準在庫20万枚、年間の平均購入枚数約4万枚とされている」コンテナのような「その単価が比較的安価なもので、原告において大量に購入、保有するものといえるため、単価及び保有量の点においては、消耗品にその実態が類似している面があるといえる」ものが、法人税法上、減価償却資産として取り扱われるという「意外性」である。裁判所がこのように単価の安いコンテナを消耗品ではなく減価償却資産として取り扱う理由は以下のとおりである。 このようなコンテナは、耐用年数省令の分類では、「「種類」が「器具及び備品」で、「構造又は用途」が「6 容器及び金庫」で、「細目」が「ドラムかん、コンテナーその他の容器」のうち「その他のもの」のうち「その他のもの」(「耐用年数」が2年とされているもの)」に該当することとなり、減価償却資産として減価償却することとなるのである。 そうなると、コンテナに係る減価償却費の計上のためには、損金経理が要件となるのであるが、本裁判例の原告においては、実際に納入された本件コンテナ等について、取引先に留保させていた「預け金」の残高で代金を賄っていたのであり、特に経理処理を行っていないことから、損金経理要件を満たしているとはいえないわけである。要するに、「簿外の」減価償却資産については、その償却費を損金に計上することはできないということである。 (4) 本件へのあてはめ 企業の有する資産が消耗品等の棚卸資産に該当するのか、それとも減価償却資産に該当するのかについては、一般に、通常1年以内に販売又は消費の対象となり、それが所有者の手元を離れて外部に売却され、又は内部的にそれが原材料や消耗品等として使用されるものといえるのか、それとも、企業の内部にとどまって総体的に繰り返し使用される資産といえるかという点に着目して判別することになるものと考えられる。 本件の場合、食品運搬用のコンテナは、その使用実態を見てみると、1年を超えて何度も繰り返し使用するものであることから、減価償却資産に該当するものと解するのが妥当であると考えられるため、その減価償却費の計上に関しては、損金経理が要件となる。 (了)
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《税務必敗法》 【第8回】「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」
《税務必敗法》 【第8回】 「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 ×7年7月、X会計事務所はA社との新規契約にあたり、過去5年分の確定申告書や過去に提出した届出書、申請書の提示を求めたが、消費税簡易課税制度選択届出書の提示はなかった。 A社は過去5年間原則課税であったため、担当税理士の甲は「A社は原則課税適用会社である」と思い込み、原則課税を継続した。なお、×6年度の課税売上高は5,000万円以下であった。 予想では、翌×8年度は売上が大きく減少し、消費税も還付となると見込まれたため、×7年度中にその旨をA社に伝えた。×8年度終了後、予想通り消費税は還付となったため還付申告書を所轄税務署に提出した。 すると、提出後、所轄税務署から「A社は消費税簡易課税制度選択届出書が提出されているので簡易課税となる。」という電話があった。 実は、A社は20年前の設立時に消費税簡易課税制度選択届出書を提出しており、当初は簡易課税の適用を受けていたものの、課税売上高が5,000万円を超える年度が続き、長年にわたり原則課税となっていたのだった。 その結果、A社は消費税の還付を受けられず、納付となった。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「契約時に届出書・申請書の確認を行わなかった」である。 新規契約時においては、見込み客が過去に提出した届出書や申請書の確認を行うべきであるが、その確認を怠ると事故につながる可能性もある。 特に消費税に関する届出書提出の有無の確認漏れが最も危険であるが、今回は消費税を含む他の税目等に関する届出書・申請書の確認ミスの想定事例と対策を解説する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 想定されるケース (1) 消費税簡易課税制度選択届出書の提出の有無の確認漏れ 消費税簡易課税制度選択届出書が過去に提出されていたことの確認の失念が想定される。 原則課税の申告が続いていたため原則課税だと思っていたら、過去に消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていたため簡易課税の適用となり、消費税の還付を受けることができなかったという事故は非常に多い。 (2) 青色申告承認申請書提出の確認漏れ 本連載の【第3回】で紹介した事例だが、青色申告承認申請書提出の確認漏れのケースがある。 (3) 棚卸資産の評価方法等の届出書の確認漏れ 棚卸資産、減価償却方法等について、棚卸資産の評価方法等に関する届出書を出している場合に、それを確認しないケースも想定される。これを失念すると、届け出た評価方法等とは異なる評価方法等で税金計算を続けてしまうことになる。 (4) 事前確定届出給与に関する届出書など給与関係書類の確認漏れ 法人の事前確定届出給与に関する届出書や、個人事業者の青色事業専従者給与に関する届出書といった給与関係に関する届出書の提出の有無の確認漏れも想定される。 (5) 申告期限の延長の特例の申請書の確認漏れ 申告期限の延長の特例の申請書の確認が漏れるケースも想定される。例えば、当該申請書が提出されていないにもかかわらず、申告期限を延長していると思い込むケースである。 例えば、現行制度では、消費税の申告期限も延長できるようになったが、法人税の申告期限が延長されていても、消費税の申告期限は延長していないという会社もある。したがって、法人税・消費税両方について当該申請書の確認を行う必要がある(参考:本連載【第1回】「申告書の提出を行っていなかった」)。 3 確認を怠った場合の影響 (1) 損害賠償の可能性 消費税簡易課税制度選択届出書が提出されていることの確認を失念した場合、もし顧問先が消費税の還付を受けられず過大納付となると、損害賠償となる可能性がある。 例えば、事例のように消費税簡易課税制度選択届出書を提出しているものの、基準期間の課税売上高が5,000万円超である期間が続き、原則課税が続いている場合、一見すると原則課税を適用しているように見えてしまう。 しかし、原則課税であれば消費税の還付が生じる課税期間について、その基準期間の課税売上高が5,000万円以下だった場合、その課税期間は簡易課税となるため還付を受けることができなくなってしまう。 新規契約時に消費税簡易課税制度選択届出書が提出されているかどうかを確認しておかないと、このようなリスクがあるので注意が必要である。 (2) 修正申告などの可能性 前記2の(2)~(4)において、確認漏れで誤った処理をしていることに税理士が気付かなかった場合、税務署から指摘される、あるいは税務調査で指摘される可能性がある。その場合、修正申告となる可能性がある。なお、修正申告となると延滞税・延滞金、過少申告加算税なども発生する可能性がある。 ① 青色申告承認申請書が提出されていない場合 この場合、白色申告書で再提出を行うことになる。また、欠損金の繰越控除ができなくなるなどの影響が出る可能性がある(本連載【第3回】「青色申告承認申請書の提出を忘れた」参照)。 ② 棚卸資産の評価方法等の計算方法が異なっていた場合 棚卸資産の評価方法や減価償却方法などが届出の方法と異なっていた場合、所得の金額や法人税等の額が異なってくるため、修正申告の可能性が出てくる。 ③ 届出書を提出していないのに事前確定届出給与等を計上している場合 届出書を提出していないのに事前確定届出給与や専従者給与を計上していた場合、その計上は認められないので修正申告となる可能性がある。 (3) 確定申告書の期限後提出 前記2の(5)のように申告期限の延長の特例の申請書の確認漏れがあると、誤って期限後申告となってしまう可能性がある。期限後申告となると、無申告加算税や不申告加算金などが発生する可能性がある。一定の要件を満たした場合は無申告加算税が課されない場合もあるが注意が必要である。 (4) 契約解除 このような届出書や申請書の提出の有無の確認を怠り、損害賠償や修正申告に至った場合、顧問先から信用を失い、契約解除となる恐れもある。 4 対策 (1) リストを作成し必ずチェックする 新規契約時における法人税・消費税に係る届出書や申請書の確認リストを作成し、すべて提示してもらうことを徹底することが望まれる。 (2) 税務署の閲覧コーナーの利用 顧問先によっては「税務は前任の先生にお任せしていたのでわかりません」と回答され、資料が十分に提示されないことがある。そのような場合は、税務署による申告書等閲覧サービスを利用して、過去に提出した届出書や申請書を閲覧するとよいであろう。 なお、コピーを取ることはできず、写真撮影のみが許可されている。 (3) 過去のメッセージボックスの閲覧 電子で届出書や申請書を提出している場合、過去のメッセージボックスにその履歴が残っている場合があるので、メッセージボックスも閲覧して提出の有無を調べることが望まれる。 (4) 顧問先の回答を鵜呑みにしないこと 「この届出書は過去に提出したことはないですか」と質問すると「多分ないと思います」といった曖昧な回答をされることもある。しかし、このような回答を鵜呑みにせず、必ず自分で確かめる必要がある。 5 おわりに 今回は、新規契約時において届出書や申請書の提出状況を確認する重要性を解説した。特に、消費税簡易課税制度選択届出書の提出の有無を確認しておくことは重要である。 現状では、過去の届出書や申請書を確認するには、前記4で述べたように控えの閲覧や税務署の申告書等閲覧サービスの利用などにとどまるが、将来オンラインで確認できるようになれば事故も減るであろう。 本稿が実務の参考となれば幸いである。 (了)
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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第60回】「米国スピンオフは分割型分割か」
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第60回】 「米国スピンオフは分割型分割か」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 米国法人が行うスピンオフは我が国法人税法に定める分割型分割に該当するとした場合、交付される株式の価額に係る課税関係はどのようになるのでしょうか。 〔A〕 個人株主が証券会社を訴えた裁判では、新株の評価額全部がみなし配当金額となるとすることは法的根拠を欠くという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 スピンオフとは (1) 米国スピンオフの概要 米国における会社分割の手法として多く用いられているスピンオフ(Spin-off)を規律しているのは、米国内国歳入法§368(a)(1)(D)及び同法§355であり、主として、前者が組織再編における会社分割を規定し、後者が税制上の適格要件を規定している。スピンオフは、(a)事業を移転された法人が、事業を移転した法人から完全に引き離されていること(我が国の用語でいえば、分割承継法人が分割法人の子会社として留まっていないこと)、及び(b)分割の対価である株式が持株数に応じて比例的に分配されることを特徴とするものである(※1)。上記の規定に準拠するスピンオフの場合、事業を移転した法人及びその株主双方の課税が繰り延べられる。 (※1) 渡辺徹也『スタンダード法人税法』(2018年、弘文堂)269頁参照。ただし、比例的でない株式の分配の手法(Split-offと呼ばれる)もある。 我が国では、平成29年度税制改正において、日本版スピンオフとして、単独新設分割型分割が導入された。これは、分割法人のその分割前に行う事業を分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割(法法2⑫の11二)をいうとされ、①分割法人の株主の持株数に応じて(比例的分配)分割承継法人の株式のみが交付され(法法2⑫の11本文括弧書き)、②分割前に分割法人が他の者による支配関係がなく(単独要件)、かつ、分割後に分割承継法人と他の者との間に支配関係が見込まれないこと(法令4の3⑨一)その他を税制適格の要件とするものである。この2つの要件は、単独要件を除き、米国スピンオフの特徴と類似するものである。なお、我が国の単独新設分割型分割のその他の税制適格要件には、役員等引継要件(同二)、資産負債引継要件(同三)、従業者引継要件(同四)及び事業継続要件(同五)がある(※2)。 (※2) もっとも、これらその他の税制適格要件は、米国内国歳入法上明示されていないが、同法§355(b)(1)にいう積極的事業活動要件に包含されると解される。 (2) 米国法人のスピンオフにより株式の交付を受けた場合の課税関係 我が国居住者が、我が国証券会社に口座を開設して米国上場会社に投資する場合、当該米国法人がスピンオフにより新設法人の株式を同証券会社を経由してその株主に交付することがあり得る(※3)。かかる株式交付は、所得税法上、配当所得(所法24①及び同法25①)に分類される(※4)ため、「支払の取扱者」(措法9の3の2)たる証券会社が所得税等の源泉徴収義務を負うか否かが問題となる。この場合の源泉徴収の方法については、課税当局から、何らガイダンス等が公表されていないことから、証券会社では、実務上、①新株の価額の全額をみなし配当として源泉徴収を行う、②新株の価額の一部(※5)をみなし配当として源泉徴収を行う、及び③源泉徴収を全く行っていないという3つのパターンによる対応がなされているとのことである(※6)。なお、①及び②の場合、株式交付には源泉徴収のための原資がないため、証券会社は、顧客である株主に源泉所得税等の納付のための預託金を請求するのが一般的である。 (※3) やや古いデータではあるが、S&P Global Market Intelligence Quantamental Researchによれば、1989年から2016年に至るまでの27年間における米国上場会社によるスピンオフの件数は617件に上っている(太田洋「スピンオフ税制の導入と我が国上場会社への影響(上)」商事法務No.2133(2017年5月)63頁)とのことである。これは、単純計算で毎月2件の割合であり、我が国証券会社を経由して米国上場会社に投資している居住者が一定数存在すると仮定すれば、スピンオフにより新設法人の株式の交付を受けた我が国居住者の数も少なくないと思われる。 (※4) 本件と同様の課税関係の例として、本連載【第49回】の「自社株買いの設例」を参照されたい。 (※5) 株式の価額のうち、資本金等の金額に対応する部分以外をみなし配当として税額を算定していると思われる。 (※6) T&Amaster No.1092(2025.9.29)4頁参照。 以下では、米国スピンオフにより新株の交付を受けた場合に、支払の取扱者たる証券会社が源泉徴収すべきみなし配当の金額について争われた裁判例を検討する。 2 裁判例 《東京地裁令和7年7月28日判決(令和6年(行ワ)第21118号)》(※7) (※7) TAINSコード:Z999-5517 (1) 事案の概要 本件は、原告Xが、証券会社である被告Yに外国証券取引口座等を開設して、米国法人AT&Tの株式100株を保有していたところ、AT&Tが会社分割をし、Xに新株を割り当てたことから、Yは、Xに所得税法25条1項2号のいわゆるみなし配当があったものとして、所得税等の源泉徴収等(道府県民税の特別徴収を含む)として、上記口座等から合計1万5,923円を徴収(以下「本件徴収」という)したことに対し、Xが、本件徴収は誤徴収であるとして、本件徴収のためにYに対して行った預託金の返還等を求める事案である(※8)。 (※8) 本件においてYはXに対し、Xの口座に1万6,000円の預託を求め、Xがそのとおり実行している。 AT&Tは令和4年4月頃、その事業の一部を切り離す会社分割(以下「本件会社分割」という)を行い、これに伴い、その株主に対し、AT&Tの株式1株当たり、新設会社であるWORNER BROS. DISCOVERY INC.(以下「WED」という)の株式0.241917株を割り当てた。その結果、Xは、WBD株式24.1917株(以下「本件株式」という)につき、Yを介して本件株式の交付(以下「本件株式交付」という)を受けた。 Yは、令和4年5月31日、本件株式交付に係る源泉徴収等として、本件株式の評価金額7万8,383円の全額が課税対象となることを前提に税額を算出し、翌月10日に納付した。 (2) 争点とYの主張 本件の争点は、本件徴収の適法性(他の争点は略)であるが、Yは以下のように主張した。 (3) 裁判所の判断 東京地裁は、本件会社分割が所得税法25条1項2号にいう分割型分割に当たり、本件株式交付が同項柱書所定の範囲で同法24条1項にいう配当とみなされ、課税対象となり、その場合、Yが、本件株式交付に際し、支払の取扱者(措法9の3の2)として、その源泉徴収を行うこととなると認定した上で、以下のように判示し、本件株式の評価額全部がみなし配当額とする法的根拠を欠き、これを前提として行われた本件徴収は、Xの自認する565円を除き、適法であるとは認められないと結論付けた。 (4) 検討 ① 米国スピンオフは分割型分割か 本判決で東京地裁は、当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる前提事実として、「本件会社分割は、所得税法25条1項2号にいう分割型分割(いわゆる非適格分割)に当たる。」と認定している(※9)。しかし、本件は処分庁を訴訟の相手方とする行政訴訟ではない点、及び上記解釈は、国税庁の公式見解や他の裁判例と異なる点に注意する必要がある。 (※9) 渡辺徹也『企業組織再編成と課税』(弘文堂、2006年)192頁は、「これら(筆者注:米国のSpin-off、Split-off、及びSplit-upの3つを指す。)は、いずれも親会社が(既存または新設の)子会社株式を親会社に分配する(distribute)取引である。したがって、アメリカ法における法人分割は、我が国でいう『分割型』分割である。」と述べている。 (i) 国税不服審判所の裁決 本件同様米国法人のスピンオフにより交付された株式に係る所得区分について争われた国税不服審判所令和元年8月1日裁決(※10)(以下「令和元年裁決」という)では、 と説示し、スピンオフにより取得した株式の所得区分については、所得税法25条1項のみなし配当ではなく、同法24条1項に規定する剰余金の配当(※12)であると結論付けている。 (※10) 裁決事例集116集23頁、TAINSコード:J116-2-02 (※11) 前記1の(1)のとおり、平成29年度税制改正において導入された単独新設分割型分割は、米国スピンオフに極めて類似した制度であり、「一般承継」という観点からも、両者には実質的な差異はないと思われる。なお、令和元年裁決についての評釈として、柴由花「外国法人のスピンオフにより取得した株式が所得税法24条1項の配当所得にあたるとされた事例」(ジュリストNo.1550(2020年12月))11頁は、「外国の法令に準拠して行われる法律行為について単純に承継に係る法的効果のみを比較するだけでは不十分ともいえよう。」と述べ、分割会社は分割後も存続するので包括承継という概念を使うのは必ずしも適切でないとする見解(神田秀樹『会社法〔第22版〕』(弘文堂、2020)396頁)を紹介している。 (※12) 所得税法24条1項本文括弧書きは、剰余金の配当から、資本剰余金の減少に伴うもの並びに分割型分割によるものを除くと規定しており、令和元年裁決は、このいずれにも該当しないものとして、同項所定の配当等に該当すると結論付けた。 米国法人のスピンオフにより交付を受けた株式が剰余金の配当であると解する限り、当該株式の価額全額が配当所得となる。そうすると、本件株式の価額の全額が課税対象となるとしたYの判断は適切で、「顧客にとっては、いつの時点で納付するかは異なるものの、最終的に納付する税額は一緒である」というYの主張は正しいことになる。仮にXが令和元年裁決に準拠して源泉徴収を行っていたとしたら、本判決の結果はXにとって酷なものとなろう。 (ii) タイコ・インターナショナル事件 タイコ・インターナショナル事件判決(※13)は、本件と同様に、米国法人であるタイコ・インターナショナルLTD(以下「タイコ」という)が行ったスピンオフにより交付を受けた株式に係る源泉徴収の是非が争われたものであるが、源泉徴収税額を立替払いした証券会社が原告で、所得税等を支払うべき理由はないと主張した株主を被告とした点が本件の逆となっている。 (※13) 東京地裁平成21年11月12日判決(平成21年(ワ)第4746号)、TAINSコード:Z999-5192) 東京地裁は、スピンオフの形式で分社化した株式をタイコの株主に割り当てるに当たり、その原資にタイコの資本剰余金が充てられていることが認められる(※14)ことから、タイコによる株式割り当ては、所得税法25条1項3号(現行4号)にいう、「資本の払戻し」に該当すると結論付けた。タイコ事件では、本件と異なり、原告が、株式割り当ては分割型分割に該当するという主張を行っていなかったため、裁判所は、原告の主張に沿って、「資本の払戻し」に該当すると判示したものと解される。 (※14) タイコの公表連結株主資本変動計算書(2007年9月28日付FORM10-K-我が国の有価証券報告書に該当)において、会社分割(スピンオフ)により、その他資本剰余金(Contributed Surplus, Net)及び利益剰余金(Accumulated Earnings)双方がそれぞれ減少していることからそのように認定したものと思われる。 確かに、弁論主義に立つ民事訴訟では、当事者の主張にない事柄、すなわちタイコ事件では分割型分割該当性について論じることはないことは理解できる。しかし、実際には、新たな法人が組成され、組織再編が行われていることは明らかであるばかりか、そもそも、所得税法25条1項3号の「資本の払戻し」が、資本剰余金の減少を伴う剰余金の配当から分割型分割を除外するという条文構造となっていることからも、文理解釈として分割型分割に触れないのは片手落ちであろう。もっとも、「資本の払戻し」に該当しようが、「分割型分割」に該当しようが、みなし配当の金額の算定結果に変わりはないのは確かである。 ② 残された課題-外国法人の資本金等の額は算定可能か? 本件判決文によれば、東京地裁は、訴外A証券会社が契約する情報ベンダーによるWED1株当たりのみなし配当額0.9263127ドルを是とし、Xが自認する565円(※15)が適法な源泉徴収額等であったと認定している。そうすると、上記情報ベンダーは、法人税法施行令8条に規定する「資本金等の額」を25.0736873ドルと算定したと推測される。しかし、AT&Tの資本金等の額を算定することは同社が外国法人である以上、不可能である(※16)。そうすると、上記情報ベンダーは、AT&Tの公表財務諸表の貸借対照表から関連する金額を抽出した可能性がある。 (※15) 本件株式評価額7万8,383円 ×(0.9263127/26.00)× 20.315% = 567円 ≒ 565円 (※16) 資本金等の額とは、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいい(法法2十六)、その額が増減する事由について政令で細かく規定されており(法令8①)、法人の外部者が容易に知り得ることは通常ない。そこで、みなし配当の支払者には、1株当たりのみなし配当の金額や株式の譲渡損益の計算基礎となる割合などを株主に通知する義務が課されている(所法225②二、所規92①)。外国法人は当該規制の対象外であることはいうまでもない。 上記タイコ事件では、同社の公表連結貸借対照表中「株主資本(Common Shares)」、「株式払込剰余金(Share Premiums)」及び「その他の資本剰余金(Contributed Surplus)の金額の三者合計を「資本金等の額」とみなして、みなし配当の額を算出している。しかしながらこの三者の合計額は米国会計基準に準拠したものであり、我が国法人税法に準拠した「資本金等の額」とは似て非なるものである(※17)。 (※17) 日本公認会計士協会租税調査会研究報告第17号『国外における組織再編等に係る国内税法に適用関係について(中間報告)』(平成21年2月17日)12頁は、「資本剰余金を原資とする分配が行われたと判断されると、その外国子会社について本邦税法に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の計算が必須となる。この際に、外国の制度に基づく当該分配の会計上・税務上のカテゴリー分類や金額計算方法を考慮することなく、我が国独自の制度に基づく資本金等の額及び簿価純資産価額の再計算を行う必要がある。(中略)このような問題に直面した企業は、現地会社法上(会計上)の資本金プラス資本剰余金及び利益剰余金の金額を、本邦の税務上の資本金等の額及び利益積立金の金額とみなして計算をしているケースが多いのではないかと思われる。実際、現実的にはこの方法しか採り得ない。しかし、これはあくまでも簡便計算であって、法人税法上は原則的には許容されないものである。(下線筆者)」と述べている。 また、タイコ事件における三者合計は、スピンオフが行われた基準日(2007年6月18日)のものではなく、タイコの同年9月28日を決算日とする事業年度の第2四半期末である同年3月30日の連結貸借対照表の金額である(※18)。おそらく、株式割当ての実行日(2007年6月29日)では、直近の財務諸表が公表されておらず、次善の策として、約3ヶ月前の四半期連結貸借対照表の金額を借用せざるを得なかったのではないかと思われる。 (※18) タイコ社の2007年3月30日付けFORM 10-Q(我が国の四半期報告書に該当する)において確認できる。 このように見てくると、Xの「外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収については、必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難である(下線筆者)」という主張は極めて正当で、証券会社にとって極めて切実な事情であったということができる。 繰り返しになるが、課税当局からの明確なガイダンスがない中で、本判決の結論は、Xにとって酷であり、受け入れ難いものではないだろうか。 (了)
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連結会計を学ぶ(改) 【第12回】「債権と債務の相殺消去」
連結会計を学ぶ(改) 【第12回】 「債権と債務の相殺消去」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結貸借対照表の作成に際しては、連結会社相互間の債権と債務の相殺消去が行われる(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)18項)。 今回は、債権と債務の相殺消去について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 債権と債務の相殺消去 親会社と子会社で取引が行われ、期末において、債権と債務が存在する場合には、連結貸借対照表の作成に際して、それらは相殺消去する必要がある(連結会計基準31項)。 次のことに注意する(連結会計基準(注10))。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】 Ⅲ 連結精算表の作成 (了)
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空き家をめぐる法律問題 【事例73】「マンションの専有部分の管理が不適切な場合の対応方法」
空き家をめぐる法律問題 【事例73】 「マンションの専有部分の管理が不適切な場合の対応方法」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私が区分所有するマンションの一室は、専有部分にゴミが溢れており、悪臭を発生させています。登記簿上、区分所有者は判明していますが、実際にその部屋で生活しているのかどうかも分かりません。この状況は管理組合でも問題となっていますが、令和8年4月1日施行の区分所有法に基づいて活用できる方法はありますか。 1 検討の視点 区分所有者が判明している場合でも、その専有部分の管理が適切に行われていないことがある。区分所有建物は、建物全体が物理的に一体となっているため、マンションの一室にゴミが堆積し悪臭が生じると、他の専有部分や共用部分にも悪影響を及ぼすこともある。 このような問題に対処するため、令和8年4月1日施行の改正「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という)では、区分所有者による管理が不適当な専有部分に関する管理制度として、管理不全専有部分管理制度が創設された。本事例では、改正前後の対応策を整理した上で、この制度を活用した解決策等を検討する。 なお、以下、改正前の区分所有法を「改正前」、改正法施行後の区分所有法を「改正後」と表記する。 2 改正前の対応方法 改正前は、専有部分の管理不全により被害を受けている、あるいはそのおそれがある他の区分所有者や近隣住民等は、当該専有部分の区分所有者に対し、個別に法的措置を講じる必要があった。 たとえば、所有権に基づく物権的請求権として妨害排除請求や予防請求を行う方法や、不法行為に基づく損害賠償請求を行う方法である。しかし、妨害排除、差止め、損害賠償によって一時的に問題が解決しても、その後も継続して適切な管理が行われる保証はない。従来の方法にはこのような限界があったため、管理不全の専有部分を継続的かつ柔軟に管理できる制度が必要とされた。 そこで、令和3年の民法改正で導入された管理不全土地・建物管理制度(民法第264条の2等)をモデルにして、区分所有建物の専有部分に特化した管理不全専有部分管理制度が創設されることになった。 3 管理不全専有部分管理制度について (1) 制度の概要 改正後は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であるために、他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、利害関係人が地方裁判所に対して管理不全専有部分管理命令の申立てをすることができる(改正後第46条の8第1項)。ここにいう「利害関係人」には、他の区分所有者、近隣住民、管理者、管理組合法人など、その専有部分の管理不全によって影響を受ける者が含まれる。 管理不全専有部分管理命令が発令されると、裁判所が選任した管理不全専有部分管理人が当該専有部分の管理を行うことになる。管理の対象は、①当該専有部分だけでなく、②専有部分、共用部分、附属施設、建物の敷地にある当該区分所有者が所有する動産、③共用部分に関する権利、④附属施設に関する権利、⑤敷地利用権、⑥売却等によって生じた財産にまで及ぶ(改正後第46条の8第2項、第46条の9第1項)。 もっとも、管理不全専有部分管理人の権限は、所有者不明専有部分管理人と異なり、当該区分所有者の権限と併存することになる。そのため、当該区分所有者が管理改善に協力的ではない事案では、管理不全専有部分管理人が選任されたとしても、実効的な管理を実現できない可能性もある。 たとえば、管理不全専有部分管理人が室内の動産類を無価値物として処分しようとしても、当該区分所有者がその有価性を主張して争ってくるような場合である。このような事案では、たとえ申立てをしても、裁判所による当該区分所有者からの事情聴取(改正後第88条第3項第1号)の結果、申立てが却下される可能性もあるため、上記2のような従来の法的措置等も検討しておく必要もある。 管理不全専有部分管理人には、当該専有部分等について保存行為や利用・改良行為を行う権限が認められている。これを超える行為(例えば財産の処分等)を行うには裁判所の許可が必要となり、特に専有部分そのものを売却する等の処分行為については区分所有者本人の同意を得る必要がある(改正後第46条の9第3項・第4項)。このように、管理不全専有部分管理制度は、区分所有者の権利に配慮しつつ、必要最小限の管理介入を可能にする仕組みといえる。 (2) 他の制度との権限の関係 今般の改正では、管理不全な状況に対処するための関連制度が整備されており、区分所有者が自己の専有部分や共用部分の保存・改良に必要な範囲で、他の区分所有者の専有部分や自己が所有していない共用部分の保存行為を請求できることが明示された(改正後第6条第2項)。 もっとも、保存請求はあくまで保存行為の要求を請求するものであるため、当該区分所有者が応じなければ訴訟提起や民事保全申立てをする必要がある。そのため、当該区分所有者の任意の協力が見込めないような場合には、裁判所が関与する管理不全専有部分管理制度を利用した方が適切な場合もあるように思われる(それでも当該区分所有者が非協力的なため、申立てが却下される可能性はある)。 また、改正法では「管理不全共用部分管理制度」も導入されている。これは管理組合自体が機能不全に陥って建物全体の共用部分の維持管理ができていないような場合に、地方裁判所が管理人を選任して共用部分を管理させる制度である。管理不全共用部分管理命令の対象には共用部分の動産も含まれるため、管理不全専有部分管理人の権限と競合することもありうる。 そのため、区分所有建物の問題が専有部分に留まらず共用部分にまで及んでいるような事案では、申立てにあたって、管理の目的や対象は何か、管理費用の負担者は誰か、誰が申し立てるのかといった点も踏まえて利用する制度を検討することになると思われる。 4 本件において 本件のように特定の専有部分にゴミが堆積し悪臭を放っている場合、まずは任意の話合いや改正後第6条第2項に基づいて、当該区分所有者に対して必要な保存行為(清掃や消毒等)を求める措置を講じることが考えられる。 それでも改善されない場合には、次善策として管理不全専有部分管理命令の申立てを検討することになる。申立てにあたっては、上記3のような事情も踏まえ、誰が申し立て人となるか(個別の区分所有者か、管理組合名義か等)等を実務上の事情に配慮して判断することになる。管理不全専有部分管理命令が発令され、管理人が選任されれば、当該部屋の清掃や不要物の処分等の継続的な管理が期待できる。 一方で、当該区分所有者が管理改善に強く抵抗することも予想される。その場合に管理人を選任しても実効的な管理が困難となる可能性がある。そのような事案では、物権的請求権に基づく差止めや不法行為に基づく損害賠償請求といった他の法的手段を講じることも視野に入れることになると考えられる。これらの手段を組み合わせながら、最終的にマンション全体の良好な管理環境の回復を図ることになる。 (了)
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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第100話】「中尾統括官、高校教師になる」
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第100話】 (最終話) 「中尾統括官、高校教師になる」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 中尾統括官は、ロッカーや机の引き出しを整理しながら浅田調査官と話をしている。 一週間後に、中尾統括官は退官する。 書類の詰まった段ダール箱が中尾統括官の傍らに置かれている。 「引き出しを整理していると、いろいろなものが出てくる・・・」 中尾統括官は、苦笑しながら、古い書類を一つ一つ確認する。 「これなんか、税務調査の時に調べた資料なのだが・・・」 そう言いながら、中尾統括官は分厚いファイルを広げる。 ファイルには、判例のコピーや手書きの罫紙などが綴られている。 「なかなか貴重な資料ですね・・・中尾統括官の思い出のファイルじゃないですか・・・」 浅田調査官は、ファイルを捲りながら、熱心に読んでいる。 「いや、もう税務署も卒業するのだから、こんな資料は必要なくなる・・・」 中尾統括官は、引き出しの奥を整理しながら答える。 「でも、税理士になってから役に立つのでは・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「・・・僕は・・・税理士はやらない・・・」 中尾統括官はポツリという。 「えっ、そうなんですか・・・僕なんか、中尾統括官は退職後、てっきり税理士になると思っていたのですが・・・」 浅田調査官は、驚きの声を発する。 「僕はねえ・・・この年になって新たに税理士業を始めようとは思わない・・・40年近く、ほとんど所得税の仕事ばかりで、他の税目はほとんど知らないからね・・・」 中尾統括官の声は弱々しい。 「そんなことはないですよ・・・中尾統括官のような博学の知識を持っている税理士はどこにもいませんよ・・・」 浅田調査官は力を込めて言う。 「ありがとう・・・君だけだよ、そんなことを言ってくれるのは・・・」 中尾統括官は、苦笑いをしながら頭を下げる。 「・・・ところで、中尾統括官が税理士をしないということになれば・・・退職後は何をするのですか?」 浅田調査官がふとした疑問を口にする。 中尾統括官は頬を緩める。 「・・・故郷の富山に帰って、高校の教師をする予定だ・・・」 「えっ、高校の先生ですか・・・」 浅田調査官は、驚いたように中尾統括官を見る。 「僕は・・・高校教員免許(一種)を持っている。大学の時に、教師の免許を取るために大学の教職課程で必要な単位を修得し、教育実習も修了している・・・この資格が、税務署の定年後に役に立つとは・・・」 中尾統括官は、少し照れた表情をする。 「そうすると、中尾統括官も『先生』になるのですね」 浅田調査官は、笑いながら言う。 「・・・もっとも、高校教師は非常勤だが・・・教える授業のコマ数は多い。それに・・・この歳で若い高校生を教えられることは感謝しなければ・・・」 「・・・中尾統括官だったら、高校生に税金の重要性を、課税実務を交えて授業でお話しされたら良いと思うのですが・・・」 浅田調査官は教壇に立つ中尾統括官を想像しながら提案する。 「うん、そうだな・・・高校生に身近な税金のことを教えるのも面白いね・・・」 中尾統括官は、すでに高校教師の顔になっている。 「・・・現在の高校の社会科は、中学までの『社会』から『地歴(地理総合・地理探究、歴史総合・日本史探究・世界史探究)』と『公民(公共・倫理・政治・経済)』に分かれ、必修科目『地理総合』『歴史総合』『公共』を中心に、現代社会の課題解決と主体的な思考力を育む内容で、情報(AI、環境)や多角的な視点が重視されている・・・」 中尾統括官は、すらすらと高校の社会の内容について述べる。 「・・・もうすっかり・・・高校の先生ですね」 浅田調査官は、羨ましそうに見る。 中尾統括官は、引き出しから「租税教育の事例集(高等学校版)~租税教育の充実に向けて~」(平成27年4月発行・令和5年6月一部改正)を取り出す。 租税教育推進関係省庁等協議会が発出したパンプレットである。その「はじめに」に、「租税教育は、なぜ重要なのでしょうか」として、次のように書かれている。 「・・・若い高校生に、税の役割や申告納税制度などを理解して貰うことは、日本の将来にとって、極めて必要なことで、その意味では、中尾統括官の租税教育も将来の日本にとって重要な役割を果たすことになると思うのです・・・」 浅田調査官は、笑みを浮かべながら言う。 「・・・そうだなあ・・・」 中尾統括官は、腕を組みながら考える。その後、ペンを執って図を描く。 「・・・僕は、税金は公共サービスを受ける『財源』である以上、公共サービスを多く受けたいと思うなら、税金は負担しなければならないという意識を持たなければならない・・・問題は、公平な税の負担をどのように分かち合うかということなのだが・・・」 すっかり高校教師の顔になった中尾統括官は、思案顔になる。 (連載了)
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《速報解説》 基礎控除及び給与所得控除の引上げ~令和8年度税制改正大綱~
《速報解説》 基礎控除及び給与所得控除の引上げ ~令和8年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和8年度税制改正大綱(以下、「大綱」という)では、物価高への対応の観点から、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みの創設が示された。また、所得税の課税最低限を2024年12月11日の自由民主党・公明党・国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえた178万円に先取りして引き上げる方針が示された。 【1】 物価上昇局面における基礎控除等の対応 基礎控除の額が定額であることにより、物価が上昇すると控除の実質的な価値が減少し、結果として税負担が増加するという課題がある。このような状況を踏まえ、大綱では基礎控除等を適時に見直すことが示された。 具体的には、基礎控除の本則部分及び給与所得控除の最低保障額については、見直し前の控除額に、税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗ずることで調整することとされた。なお、源泉徴収義務者等の事務負担に配慮し、見直し後の控除額に端数が生ずる場合には万円単位で調整するとともに、見直し初年は、月次の源泉徴収等では対応せず年末調整からの対応とする。 令和8年分及び令和9年分の基礎控除額と給与所得控除額は、令和5年11月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえ、基礎控除については本則の控除額を58万円から4万円引き上げ62万円とし(【2】(1))、給与所得控除の最低保障額については65万円を69万円に引き上げる(【3】(1))(※)。 (※) 令和10年度税制改正では、令和8年・9年の消費者物価指数(総合)の上昇率を踏まえ、令和10年分と令和11年分の控除額を算出する。 以下、基礎控除と給与所得控除について、大綱で示された具体的な内容を解説する。 【2】 基礎控除の引上げ (1) 本則部分の引上げ(物価上昇対応) 合計所得金額が2,350万円以下である個人の基礎控除額を58万円から4万円引き上げ62万円とする。 なお、控除額の引上げは、令和8年分以後の所得税に適用されるが、給与等及び公的年金等の源泉徴収については、令和9年1月1日以後に支払う給与等及び公的年金等について適用する。 (2) 特例(加算額)の見直し(三党合意を踏まえた更なる対応) 令和7年分以後の所得税では、居住者について基礎控除に一定の金額が加算される特例が設けられている(措法41の16の2➀)。大綱では、この特例について以下の改正案が示された。 大綱に基づき、令和7年分以降の特例(加算額)をまとめると次のとおりとなる。 〈参考〉 大綱で示された内容に基づく基礎控除額(本則+特例)は、次のとおりとなる。 【3】 給与所得控除の引上げ (1) 最低保障額の引上げ(物価上昇対応) 給与所得控除については、最低保障額を65万円から4万円引き上げ69万円とする。 なお、給与所得控除の引上げも、令和8年分以後の所得税(個人住民税は令和9年度分以後)に適用されるが、給与等の源泉徴収については、令和9年1月1日以後に支払う給与等について適用する。 (2) 最低保障額の特例の創設(三党合意を踏まえた更なる対応) 令和8年分及び令和9年分(個人住民税は令和9年度分及び令和10年度分)の給与所得控除の最低保障額を5万円引き上げる特例を創設する。なお、本特例は、年末調整で適用できることとする。 〈参考〉 大綱で示された内容に基づく給与所得控除額(特例含む)は、次のとおりとなる。 【4】 各種所得控除の所得要件の見直し 同一生計配偶者等の所得要件について、次のとおり引き上げることが示された。 (※) 大綱では、ひとり親控除の控除額を令和9年分以後35万円から38万円に引き上げることが示されている。 (了)
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《速報解説》 投資簿価修正制度における離脱法人株式に調整勘定対応金額がある場合の加算措置の計算の見直し~令和8年度税制改正大綱~
《速報解説》 投資簿価修正制度における離脱法人株式に 調整勘定対応金額がある場合の加算措置の計算の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 令和7年12月19日に令和8年度税制改正大綱(自由民主党・日本維新の会)(以下、「大綱」という)が公表され、グループ通算制度については、投資簿価修正制度における離脱法人株式に調整勘定対応金額がある場合の加算措置の計算の見直しが明記された。 1 改正の概要 大綱によると改正内容は次のとおりである。 [投資簿価修正制度における離脱法人株式に調整勘定対応金額がある場合の加算措置の計算の見直し] 2 投資簿価修正制度と加算措置とは 投資簿価修正制度とは、通算子法人が通算グループから離脱する場合、その通算子法人(離脱法人)の株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の離脱直前の簿価純資産価額に相当する金額とする取扱いをいう(法令9六、119の3⑤、119の4①)。 この場合、離脱法人株式の帳簿価額とされるその離脱法人の「簿価純資産価額に相当する金額」については、その離脱法人の離脱直前の簿価純資産価額にその離脱法人株式の取得価額に含まれる取得時のプレミアム相当額(資産調整勘定等対応金額)を加算することができる措置(加算措置)が設けられている(法令119の3⑥⑦)。 3 改正に関係する加算措置の取扱い 今回の改正に関係する加算措置の取扱いは次の2つとなる。 (1) 資産調整勘定対応金額等の減額の取扱い 法人税法施行令第119条の3第6項では、資産調整勘定等対応金額の計算について、次の取扱いが定められている。 (2) 資産調整勘定対応金額等の計算対象となる離脱法人株式(対象株式)の範囲 資産調整勘定対応金額等の計算対象となる離脱法人株式(対象株式)は、時価で取得した株式となる。 具体的には、対象株式とは、法人税法施行令第119条第1項の規定の適用がある同項第1号又は第27号に掲げる有価証券に該当する株式とされている(法令119の3⑦二)。つまり、その購入の代価が取得価額となる購入した有価証券又はその取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額が取得価額となる交換等により取得した有価証券に該当する株式が対象株式に該当する。 4 全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化 全部取得条項付種類株式とは、ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会の決議(取得決議)によってその全部の取得をする旨の定めがある場合の当該種類の株式をいう。 そして、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化とは、例えば、以下の手順により、買収会社が少数株主を排除し、対象法人を完全子法人とする行為をいう。 そして、買収会社がグループ通算制度を適用している場合、例えば、買収会社が通算親法人である場合、対象法人はグループ通算制度に加入することとなる。 あるいは、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化後に、買収会社及び対象法人がグループ通算制度を開始すると、その対象法人は通算子法人に該当することとなる。 5 今回の改正の趣旨・目的 全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化について、現行の法令では以下の取扱いとなる。 このように、現行の法令では、完全子法人化の際の全部取得条項付種類株式の取得決議による対象法人株式の譲渡と取得は、実質的には、全部取得条項付種類株式から普通株式への株式の内容(種類)の変更に過ぎないにもかかわらず、資産調整勘定対応金額等が消滅してしまう(あるいは、新たに発生しない)という問題が生じていることとなる。 そのため、今回の改正で、通算完全支配関係発生日以前に離脱法人株式の譲渡をした場合の資産調整勘定対応金額等の減額調整の対象となる譲渡から、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化の際の離脱法人株式の譲渡を除外する取扱いに見直すことになったと考えられる。 この点、今回の改正の趣旨・目的は、最終的には財務省の解説で明らかにされるだろう。 なお、「(注)上記の取得決議により交付を受けた上記の離脱法人の株式の価額がその譲渡をした株式の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く。」と明記されている。この点につき、このような離脱法人株式の取得は、法人税法施行令第119条第1項第18号に該当するものではなく、同項第27号に掲げる株式の取得に該当する。その結果、普通株式の取得に伴い新たに資産調整勘定対応金額等が生じることから、全部取得条項付種類株式の譲渡については、原則どおり減額措置が適用されるものと考えられる(法令119の3⑦二、119①十八・二十七・法法61の2⑭)。 6 他のスクイーズアウトの手法との比較 今回の改正で、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化について、株式併合による完全子法人化と同様に、完全子法人化前に生じた資産調整勘定対応金額等が消滅しないこととなる。 スクイーズアウトの手法ごとの資産調整勘定対応金額等の取扱いは、次のとおりとなる。 [スクイーズアウトの手法ごとの取扱い] 7 適用時期は大綱には明記されてない 大綱には、適用時期が明記されていないため、改正法令が令和8年4月1日に施行されることを想定していると考えられる。この場合、令和8年4月1日以後に行われる投資簿価修正から見直し後の取扱いが適用されるのか、令和8年4月1日以後に行われる全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化から見直し後の取扱いが適用されるのか、いずれであるのかについて注目する必要がある。 さらに、令和8年4月1日以後に行われる投資簿価修正から見直し後の取扱いが適用される場合、投資簿価修正が行われる日が法令では明記されていないため(財務省の解説では、投資簿価修正は離脱日の前日に行われると解説されている)、その点も問題になると思われる(そのため、通算完全支配関係を有しなくなった日が令和8年4月1日以前の場合は旧法令、令和8年4月1日後の場合は新法令が適用されるという法令の定め方になる可能性もある)。 【図表】全部取得条項付種類株式の取得決議による完全子法人化の際における離脱法人株式の「譲渡」と資産調整勘定対応金額等の減額措置からの適用除外 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 以上が大綱からわかる「投資簿価修正制度における離脱法人株式に調整勘定対応金額がある場合の加算措置の計算の見直し」の改正の内容となる。 この改正については、執筆時点で、大綱以外の情報が公表されていないため、最終的に改正法令が公表された場合、上記と異なる取扱いが生じる可能性もあるため、その点、留意してほしい。 (了)
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《速報解説》 国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し~令和8年度税制改正大綱~
《速報解説》 国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和7年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正大綱」では、課税の公平の観点から「国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し」が盛り込まれた。これは、昨年度の税制改正大綱において検討項目とされていたものである。以下、概説する。 1 背景 1万円以下の商品をインターネット上のショッピングサイトを経由して国外事業者から購入した場合と、国内事業者から購入した場合とで競争上の不均衡が生じている。これは、国外事業者から個人輸入により購入した場合、1万円以下の商品は消費税が免除され(関税定率法14⑱、輸徴法13①)、海外事業者が表示価格を低く設定できるためである。 この免税制度を背景として、少額貨物の輸入許可件数は急増しており、過去5年間で5倍超、4,258億円に達している。 こうした輸入貨物の増大は、不正薬物や知的財産侵害物品の流入を防止するための水際対策を行う税関の業務にも負担になっている。 また、国外事業者が国内のプラットフォーム事業者によるフルフィルメントサービス(国内倉庫での商品保管や配送等を代行する仕組み)を利用して販売を行う形態は、本来、国内取引として課税の対象となるものの、無申告となっているケースも指摘されている。 こうした状況を踏まえ、国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化が図られることとなった。 2 課税の対象の見直し 通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産(一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下であるものに限る)の譲渡を「特定少額資産の譲渡(仮称)」として定義し、この特定少額資産の譲渡については販売者に納税義務を課すこととされた。輸入者については引き続き免税とする。 特定少額資産の譲渡として販売時に課税されたにもかかわらず、為替の影響や混載により課税価格が1万円を超える場合も想定される。この場合、販売時と輸入時の双方で課税される恐れがあることから、国外事業者に対して販売時に課税されたことを証明する仕組みとして、「特定少額資産販売事業者」(仮称)という登録制度を設け、二重課税が生じないような措置が講じられる。 特定少額資産の譲渡を行う事業者の納税義務判定については所定の経過措置を設け、特定少額資産販売事業者については、事業者免税点制度は適用しない。 3 物品販売に係るプラットフォーム課税の導入 一定規模を超えるデジタルプラットフォームを介して行われる下図のような取引で、プラットフォーム事業者が対価を収受するものについては、プラットフォーム事業者が行ったものとみなして、納税義務を販売事業者から転換する。 ここでいう「一定規模を超える」とは、高い税務コンプライアンスや事務処理能力が求められること等を考慮し、(イ)及び(ロ)の取引の合計額(税込み)が50億円を超えるプラットフォーム事業者を対象とする。これらのプラットフォーム事業者については届出義務を課すとともに国税庁長官がそのプラットフォーム事業者を第2種プラットフォーム事業者として指定する。 なお、電気通信利用役務の提供に係る特定プラットフォーム事業者の名称は第1種プラットフォーム事業者とする。 4 適用時期 本改正は令和10年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用される。 また、関税には「課税価格決定の特例」が設けられていた。これは個人使用貨物については関税の課税価格を海外小売価格の0.6とするものである。この特例により、課税貨物の引き取りに係る消費税の課税価格についても引き下げられていた。今回の改正でこの特例も廃止されることとなり、上記の改正と合わせて国内外事業者間の競争の平準化が図られることとなる。 (了)
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《速報解説》 金融庁、金融審議会による「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告を公表~開示規制の緩和・見直し及びセーフハーバー・ルールの創設等を検討~
《速報解説》 金融庁、金融審議会による「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告を公表 ~開示規制の緩和・見直し及びセーフハーバー・ルールの創設等を検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年12月26日、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表した。 これは、スタートアップ等の資金調達ニーズの高まり、非財務情報の開示の拡充等などについて検討したものである。 報告書は、今後、金融審議会総会・金融分科会において報告されるとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 スタートアップ等の資金調達ニーズの高まり、非財務情報の開示の拡充等、情報開示を巡る環境変化を踏まえ、投資判断に資する企業情報の開示のあり方やその実現に向けた環境を整備するため、次のことを行う。 (了)
