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令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】

令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   3 別表添付要件 (1) 一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型) 他の通算法人に試験研究費の額又は調整前法人税額がある場合に、その通算法人が一般試験研究費に係る税額控除の適用を受けるためには、自社のみならず(注1)、これらの他の通算法人の全てについて、その通算事業年度の確定申告書等(注2)に税額控除可能額及び税額控除可能分配額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑨㉑)。 (注1) 自社は、税額控除可能額及び税額控除可能分配額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類以外にも、通常の添付書類(控除の対象となる控除対象試験研究費の額、試験研究費の額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類)の添付も必要になります(措法42の4⑨㉑)。 (注2) ここでいう確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう(措法2②二十八)。 つまり、通算法人の税額控除限度額の計算に用いる試験研究費の額及び調整前法人税額を有する他の通算法人のいずれかが当初申告において別表の添付がない場合には、自己の当初申告において別表の添付があった場合でも、その通算法人で試験研究費の税額控除の適用はできない(通算グループ全体の当初申告要件)。 また、この場合において、控除される金額の計算の基礎となる控除対象試験研究費の額は、その適用対象事業年度の確定申告書等に添付された別表に記載された控除対象試験研究費の額が限度となる(措法42の4⑨)。 (2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) 上記(1)と同様となる(措法42の4⑨㉑。繰越控除制度については、下記(4)を参照)。 (3) 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) 上記(1)と同様となる(措法42の4の2②④、42の4⑨)。 (4) 中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制の繰越控除制度) 他の通算法人に通算繰越控除限度超過帰属額がある場合に、その通算法人が中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除の適用を受けるためには、自社のみならず、これらの他の通算法人の全てについて、それぞれ通算繰越控除限度超過帰属額が生じた事業年度以後の各事業年度の確定申告書(注1)に通算繰越控除限度超過帰属額の明細書(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑩㉒)。 (注1) ここでいう確定申告書とは確定申告書(期限後申告書を含む)をいう(法法2三十一)。 また、繰越控除の適用を受けようとする事業年度(繰越適用対象事業年度)の確定申告書等(注2)に控除の対象となる繰越税額控除限度超過額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)並びに通算繰越控除限度超過額及び通算繰越控除限度超過帰属額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑩㉒)。 (注2) ここでいう確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう(措法2②二十八)。 4 計算例 各通算法人の試験研究費に係る税額控除額の計算例は次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   (続く)
#679(掲載号)
#足立 好幸
2026/07/30
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第101回】「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その2)」~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第101回】 「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その2)」 ~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~   滋賀大学准教授・税理士 金山 知明     5 検討 判示事項のうち、《争点5》に関する部分は、文書送達に関する国内法上の手続規定の解釈として重要性を有すると思われるが、紙幅の都合上本稿では扱わず、ここでは《争点1》から《争点4》の判示に対して、若干の検討を加えた上で、本件から認識し得る徴収共助上の問題点を指摘する。 (1) 訴えの利益 税務執行共助の枠組みのうち、国家間の税務情報交換については、調査対象納税者に対して直接の不利益を及ぼすわけではないため、処分性がないものとして取消訴訟の要件を欠くとする裁判例(※13)がある。 (※13) 東京高裁平成29年10月26日判決(税務訴訟資料第267号-134順号13083)。 しかし、同じ税務執行共助の分野でも、本件のような徴収・保全共助については、共助対象となる市民に対する告知処分や滞納処分が生じることから、明確な処分性を有するといえる。このため本件では処分性の有無自体が争点となることはなかったが、Yは既に保全措置が完了したことをもって、これを争う法律上の利益が消滅したと主張している。 しかし、たとえ保全差押えや取立てが完了していたとしても、仮にそのような行為が共助条約上認められる範囲を超えて行われたと納税者が考える場合には、その行為に対して司法的救済を求め得ることは当然である(※14)。 (※14) ただし、Cの租税ほ脱に係る刑事裁判は韓国ですでに確定していることなどから、訴えの利益を与える実益は少ないとの見解もある(青山慶二「判批」『TKC 税研情報』2024年4月号47頁)。 現に、共助条約21条1項は、共助条約の規定は、共助対象者が自国内で有する権利及び保護に影響を与えない旨規定したうえで、同条2項には、被要請国又は要請国の法令又は行政上の慣行に抵触する措置をとることや、要請国が自国内で全ての手段を尽くしていない場合に共助を行うことなどを、被要請国側は義務づけられないことなど(支援義務の制限)が定められる。 上記21条2項にいう被要請国の支援義務の制限は、規定の文言上は被要請国の当局に支援拒否の権利を与えるものに過ぎないようにもみえる。しかし、OECDによる共助条約21条の注釈では、2項の規定は共助対象となる納税者を保護する目的を有することが明言されている(※15)。 (※15) OECD・前掲(※6)para. 182. また、共助条約23条1項は、条約に基づき被要請国がとった措置についての争訟の手続は、被要請国の関係機関にのみ提起すると定め、OECDの注釈では、少なくとも被要請国における執行措置に対する争訟を、被要請国の司法機関に提起する権利を共助対象者に認める趣旨が説明されている(※16)。 (※16) OECD・前掲(※6)para. 229. さらに、実特法11条1項では、徴収対象者が要請国において納税義務の存否等を争う機会を与えられていない場合、及び共助の実行が日本の利益を害することとなるおそれがある場合などに徴収共助を決定しない旨が定められている。 これは、日本における徴収権限自体が私人の権利に影響を及ぼすものであることから、そのような権限行使は、相互主義のもとで、日本からの共助要請に外国が応じる義務がある限りにおいて国内でも許容されるとの考えに基づくものと説明されている(※17)。 (※17) 大蔵財務協会『平成24年度改正税法のすべて』(2012)513頁。 このように共助対象者の権利保護の観点からは、共助条約21条2項による共助の制限事由や、実特法11条1項の徴収共助拒否事由充足の有無について、共助対象者は訴訟において争うことができると考えるべきであり、本件でXに訴えの利益が残されていることを認めた《争点1》に関する判示は正当であるといえる。 (2) 共助対象租税債権の適格性と存否 まず、《争点2》で検討された要訴追故意事案への該当性については、OECDによる注釈の文言からも、すでに有罪の確定判決を受けた事案につき、要訴追故意事案から除外するという解釈は導くことができない(※18)。したがって、有罪確定後の案件であっても、共助条約28条7項の要訴追故意事案から除外されないという点において判決は妥当であろう。 (※18) OECD・前掲(※6)para. 279. 《争点3》について、地裁が判示するように、外国租税の成立要件は、当該外国における問題であり、他国がその成立の可否に関与することはできないとの前提がある(※19)。たとえば韓国で課された租税が適法なものかどうかを、日本の裁判所が審理することはできないと解される。このことは、共助条約23条2項において明確化されており、国内法である実特法11条13項にも規定されている。 (※19) 金丸和弘・酒井真「国際課税執行上の諸問題―徴収共助と送達共助―」金子宏監修『現代租税法講座第4巻 国際課税』(日本評論社・2017)373頁。 これについて、租税法律主義の観点からは、日本が共助条約に署名する前の時点で、すでに徴収共助の枠組みに内在する問題が指摘されている。徴収共助の場面において、日本の裁判所が外国法によりなされた課税処分の成否を審理することができないとすれば、外国において正当な法規定により課税されたか否かが不明確であっても、被要請国としての日本は徴収共助に応じるべきこととなるからである(※20)。 (※20) 石黒一憲「国際倒産と組成―国際的な税の徴収共助制度との関係において―」ジュリスト981号(1991)81頁は、条約に基づく徴収共助において、私人を国家の恣意的課税から守るための租税法律主義がどこまで譲歩を強いられるべきかにつき、十分な検討がなされていないと説く。 この指摘は正当であると思われるが、国家間で租税実体法が異なる状況下で、相手国の国内法により課された租税を、相手国に代わって徴収するという共助条約の目的上、根本的には解消することはできない問題であろう。ただ、被要請国には、共助条約21条2項eに基づき、一般的に認められている課税の原則等に反すると認める租税の徴収共助を拒む権限が与えられており、これにより最小限の対処はなされているともいえる。 また、納税者は通常、外国の租税成立につき自国の裁判所で争うことができないとしても、課税を受けた当事者であれば、少なくとも課税をした国の裁判所でその成否を争う権利を与えられているはずである。実特法においても、徴収共助の対象とするための条件として、納税者がその課税の当事国において争う機会を与えられていることを必要とする(11条1項)。 課税処分の実体的適法性については、その実体法を有する当事国で審理を行うことが自然であり、本件においても日本の裁判所においてCの韓国における納税義務の成否を争うことができないと判示されたことに無理はない。ただし、本件における保全共助の対象者は、韓国で課税処分を受けた主たる納税義務者Cではなく、その韓国法における第二次納税義務者Xである、という事実を考慮すれば追加的な検討が必要である。この観点から、第二次納税義務と徴収・保全共助との関係に関し、次節において若干の考察を試みる。 ところで、本件では《争点3》に関連して保全措置が決定された時点で、有罪とされたほ脱に係る韓国の租税をCがすでに納付していた旨、Xは主張している。仮にこれが事実であれば、訴追の原因となったほ脱租税は保全措置決定の時点で存在しておらず、共助対象とすることができないという解釈の方が妥当であると考えられる。 この点につき地裁は《争点4》に関する判示において、当局の追加的な情報交換義務を否定し、また高裁はCが滞納租税を納付済みか否かは要訴追故意事案該当性の判断に影響しないと述べる。現行の共助条約上、たしかに共助要請に係る事実関係に疑義がある場合の当局間の明確な情報交換規定は存在せず、被要請国である日本側から情報要請をしなければならなかったという解釈は導かれない(※21)。 (※21) 高浜智輝「税務行政執行共助条約における徴収及び保全共助について」税大ジャーナル(2025.1)23頁。 ただし、本来、要請国において滞納租税が消滅しているか否かは共助要請の上で極めて重要な情報であるため、少なくとも要請国である韓国は、Cからの納付状況についての情報を提供すべきであり、日本当局においても、仮に保全要請を受けた時点で共助対象租税債権の存否につき疑義がある場合は、それを要請国に照会すべきであるといえるだろう。 (3) 第二次納税義務と徴収・保全共助 日本法において、第二次納税義務には、「附従性」と「補充性」が認められるとされる(※22)。すなわち、主たる課税処分が無効となる場合や、本来の納税義務者が滞納税額を納付した場合には、これに伴って第二次納税義務も消滅し、主たる納税義務者から徴収できないと見込まれる金額を限度に第二次納税義務が認められる。これは適法な課税処分により生じた滞納税額を本来の納税義務者から徴収できない場合の代替的な納税義務という性質から当然のことといえる。このとき、主たる課税処分が日本国内で行われたものであれば、その滞納や納付の状況は容易に確認できるため、第二次納税義務の存否は常に明確であり、附従性と補充性は確保されると考えられる。 (※22) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021)169-170頁。 しかし、国家間の徴収共助の分野において、本件のように主たる課税処分を行った国と、第二次納税義務者の居住国(又は財産の所在国)が異なる場合、主たる課税処分による租税債権の回収状況を確認できないままに、第二次納税義務者に係る徴収共助要請受諾と滞納処分がなされる可能性がある。また、この場合の第二次納税義務自体が、外国法により指定されるものだとすれば、日本法による規律が及ばないため、第二次納税義務者は不安定な立場におかれる結果となる。 現に、第二次納税義務者に対する徴収手続規定は実特法11条4項による国税徴収法の準用範囲に含まれないため、本件のように他国における第二次納税義務に基づき徴収や保全共助の要請を受ける場合、第二次納税義務者側は我が国の国税徴収法の規定を根拠にして争うことができない(※23)。 (※23) 赤松・前掲(※1)65頁は、納税者保護の観点からの手続規定として、第二次納税義務者に対する徴収手続規定に準じた規定を実特法11条に係る施行令として定める必要性を指摘している。 また、日本法(国税徴収法)における第二次納税義務者は、主たる納税義務者に対する課税処分の無効を理由として、我が国において納税告知処分の無効をも裁判上主張することができるし(※24)、主たる課税処分そのものの取消しを求めて、直接抗告訴訟で争うことも可能とされる(※25)。これに対して、外国からの要請に基づく徴収・保全共助の対象とされる外国法の第二次納税義務者には国内においてはその権利が与えられない。 (※24) 金子・前掲(※22)171頁。ただし、第二次納税義務者はその納税告知処分の取消しを求める訴訟においては、主たる課税処分の適法性を争うことはできないとの最高裁判決(最判昭和50年8月27日民集29巻7号1226頁)がある。 (※25) 広島高判昭和48年10月15日民集29巻7号1242頁及び大阪高判平成元年2月22日税務訴訟資料169号333頁。なお、上記大阪高判においては、主たる課税処分が行われた時を不服申立期限の起算日とするが、最判平成18年1月19日民集60巻1号65頁は、主たる納税義務者との一体性が低い国税徴収法39条所定の第二次納税義務者につき、その権利救済の観点から、第二次納税義務者への納税告知時を不服申立期間の起算点と判断している。 本件についていえば、まずXは共助条約上も、実特法上も、Cに対する課税処分の成否につき、日本の裁判所で争う権利を与えられない。もっとも、理論上Xは韓国の裁判所でその違法性を問うことは可能かもしれない。しかし、課税処分を受けた本人Cとは別の、第二次納税義務者にすぎないXが、韓国の裁判所においてCへの課税が違法であるとして訴訟を起こすことには障壁があるだろうし、韓国法がそれを許すかどうかという問題もある。 また本件では、韓国における滞納税額を主たる納税義務者が納付しているのであれば、第二次納税義務の附従性により、第二次納税義務者の納税義務も消滅し、それ以後の滞納処分等は不可となるはずである。本来、要請国側で主たる課税処分を受けた納税義務者から滞納税額の納付があった場合などは、共助条約18条2項(※26)により、要請国は被要請国にその情報を速やかに提供すべきであるが、本件ではそれが行われていないようである。 (※26) 共助条約18条2項では、要請国は支援の要請に関連する新たな情報を知るに至ったときは直ちに当該情報を被要請国に提供することとされている。 このような場合において、要請国における滞納税額の徴収状況につき、被要請国が積極的に情報提供を求める義務は、共助条約には明確に定められていない。これは条約規定上の問題点であり、第二次納税義務者を対象とした徴収共助のケースでは特に重要な論点である。本件はこのように、本来の納税義務者以外の者が徴収・保全共助対象となる場合の共助条約上の問題を顕在化させるものであったといえる。 (了)
#679(掲載号)
#金山 知明
2026/07/30
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第189回】バリュークリエーション株式会社「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年5月7日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第189回】 バリュークリエーション株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年5月7日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【バリュークリエーション株式会社特別調査委員会による調査の概要】   【バリュークリエーション株式会社の概要】 バリュークリエーション株式会社(以下、「バリュークリエーション」と略称する)は、2008年4月設立。マーケティングDX事業、不動産DX事業を主たる事業とする。 売上高3,127百万円、経常損失△74百万円、当期純損失△260百万円、資本金52百万円、従業員数66人。代表取締役社長の新谷晃人氏及びその資産管理会社である合同会社ひまわりが発行済み株式の61.48%を所有している(いずれも2026年2月期有価証券報告書による)。 本店所在地は東京都渋谷区。2023年11月、東京証券取引所グロース市場上場。主幹事証券会社はSBI証券。会計監査人は、2022年2月期からESネクスト有限責任監査法人。   【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 バリュークリエーションは、2018年以降、KDDI株式会社(以下「KDDI」という)の子会社であるジー・プラン株式会社(以下「ジー・プラン」という)との間で、ジー・プランを上流広告代理店とし、下流の広告代理店(広告出稿等は行わず、更に下流の広告掲載を行う法人や個人アフィリエイターに広告出稿等を依頼する広告代理店)又は掲載代理店(広告の掲載等を担う広告代理店)との仲介取引を行っていた(以下、「本件ジー・プラン取引」と、本件ジー・プラン取引のうち、バリュークリエーションが行った仲介取引を「本件取引」と総称する)。ただし、バリュークリエーションとして、本件ジー・プラン取引に関与した上流、下流の取引先を全て把握している訳ではなく、また、実在する取引であるという前提ではなかった。 ところが、KDDIによる2026年1月14日及び同年2月6日付けの適時開示や記者会見等においてジー・プランの広告代理事業における不適切な架空取引の疑いが判明したことが公表され、また、同年2月18日にオンラインメディア配信された配信記事において、ジー・プランの広告代理事業において架空取引が行われ、その取引にバリュークリエーションも関与していることが掲載されたことにより、本件取引の実在性について疑義が生じた。 バリュークリエーションは、2026年2月17日、本件疑義における会計処理に関する事実関係の調査、業績への影響の把握及び原因の究明が必要であると判断し、中立・公正かつ独立した調査を行うため、当社と利害関係を有しない外部専門家によって構成される特別調査委員会を設置し、調査を実施することとした。 2 特別調査委員会による調査結果の概要――取引の実在性について 特別調査委員会は、調査報告書の冒頭で、KDDIが設置した特別調査委員会との情報共有や共同ヒアリングを行ったことを明示しており、関与者の表記についても統一しているので、確認しておきたい。どちらの調査報告書でもジー・プラン社員で本件取引を主導した者は「a氏」と、バリュークリエーション社員で本件取引を担当していた者は「i氏」と表記されている。 特別調査委員会は、調査の結果、本件取引の実在性について、可能な限り調査を尽くしたものの、本件取引全体として、取引の実在性を確信するには至らなかったと判断している。 バリュークリエーションにとって、下流取引先が、A社、C社及びG社の取引については、実在しない架空循環取引であることは確信する。外部取引照会に対する回答内容、デジタル・フォレンジック調査の結果及びa氏ヒアリングの内容を総合すると、これらの取引は架空循環取引の一環として行われたものであることは明白である。ただし、G社は当委員会に対して本件取引に含まれる取引の成果物としてプラットフォーム管理画面のキャプチャを提出しており、実在性がある取引も含まれている可能性があるが、実体ある取引と実体の無い取引であるかの明確な区別をするには至らなかった。 次に、本件取引のうち、当社と、A社、C社及びG社以外の下流取引先との取引について、a氏は、当該取引はいずれも実在する取引である旨供述するが、当社の照会に対して回答しない取引先もあること、回答した下流取引先が提出した証憑(管理画面のキャプチャ等)も、事後的な作成が可能である資料であり、本件取引について取引が実在すると確信に至るには足りない。また、T社紹介手数料取引も、本件取引と同様に取引の実体のない架空循環取引であると判断する。 3 特別調査委員会による調査結果の概要――バリュークリエーションの対応 (1) 上場準備等における本件取引に対する指摘事項 バリュークリエーションは、上場準備の取組みを行う上で、売上利益の大きな部分を占める本件取引は注視され、主幹事証券会社(SBI証券)からは、主に、当社の売上利益に対する本件取引の依存度や当該取引に対する取組み方針について事業等のリスクとして開示すること、債権回収リスクに対する手当及び下流取引先が出稿する広告の適法性に対する手当てを行うことを指導された。 これに対し、バリュークリエーションは、以下の(2)から(5)に掲げる対応を行った。 (2) 債権回収リスクを抑えるための覚書の締結 バリュークリエーションは、新規上場申請のための有価証券報告書において、「特定の取引先への依存についてのリスク」として、ジー・プランが売上高の10.6%、売上総利益の33.8%を占めること、売上債権全体に占める割合が大きく、資金繰りに影響を及ぼす可能性があることを開示し、本件取引が事業等のリスクであることを示し、2024年2月期及び2025年2月期の有価証券報告書においても同様の開示を行っている。 また、バリュークリエーションは、債権回収リスクの手当てとして、ジー・プランとの間で、入金が滞った場合には役務提供を中止する旨の覚書を締結し、本件取引の主要な外注先であるC社との間で、ジー・プランからの入金の範囲で外注先に対する金銭債務を負担する旨の覚書を締結し、その旨を適時開示している。 (3) LPの適法性チェック バリュークリエーションは、下流取引先が出稿するLP(注)の適法性のチェックのため、抜き打ちのサンプルチェックを実施することとし、その旨を証券会社に説明していたが、実際には、チェック対象のLPの選出をジー・プランのa氏に依頼し、抜き打ちのサンプルチェックとはいえないものであった。 その後、取引管理の観点から、四半期ごとに、a氏から送付される取引明細に添付されたLPURLのサンプルチェックが実施されるようになったが、あくまでLPの適法性のチェックの観点から行われるものであり、広告主や広告出稿の実体の有無の調査という視点はなかった。 (注) LPとは、ランディングページ(Landing Page)のことで、サイトの訪問者が初めに着地するページのことを言い、リンクやWeb広告、検索エンジンなどから流入してきたユーザーが最初に閲覧するWebページ全般を意味する。 (4) 監査役監査及び内部監査 バリュークリエーションの監査役会は、2024年1月15日に開催した監査役会において、主幹事証券会社及び東京証券取引所から、ジー・プランへの依存度の高さをリスクとして指摘されたことにより、ジー・プランとの取引に係るリスク管理体制をヒアリングすると共に、必要があれば監査役監査の対象として今後モニタリングしていくことが望ましいと協議していた。また、2025年3月17日に開催した監査役会においても、ジー・プラン社との取引はリスクが高いことから、監査役会としてこれにフォーカスしておくことが重要であると判断していた。 一方、内部監査室は、内部監査計画を立案の上、監査役会の承認を得ており、その際にはジー・プランとの取引は規模が大きいため注視するよう指示されており、契約書や請求書等の証憑類をチェックしていたほか、入金遅延がないことの確認をするなどしていた。 しかしながら、監査役会監査及び内部監査による監査は、いずれも、本件取引の適切性確保や回収リスクに対する対応を主眼とするものであり、a氏が行った種々の工作によって隠蔽された架空循環取引を見破るには至らなかった。 (5) 監査法人による監査対応 バリュークリエーションの会計監査人であるESネクスト有限責任監査法人は、売上利益において大きな割合を占める本件取引を注視しており、バリュークリエーションを経由して、C社に対して成果物の開示を求めたものの、a氏は「各代理店の取引先はノウハウに属する部分であり、上流代理店より上、又は下流代理店より下は確認しないのが業界の慣行である」と述べて当社の確認を阻止したこともあり、結果として、本件取引の成果物を確認することができなかった。 (6) 小括 特別調査委員会は、バリュークリエーションは、上場準備の段階から、外部から本件取引に関するリスクの指摘を受け、適切性を維持するための取組みを行っていたものの、本件取引の最大の問題点を発見するには至らなかったと結論づけている。 4 発生原因の分析(調査報告書39頁以下) 特別調査委員会は、発生原因の分析として、次の4項目を挙げている。 特別調査委員会は、「取引の実在性」について、架空循環取引が長期間・大規模に継続した原因は、内外において複数かつ多層に亘って存在し、バリュークリエーションのみに帰責されるべきものではないが、視点をバリュークリエーションに絞って検証した場合、最大の原因は、仲介取引として関与した本件取引において、取引の実在性を独立して検証する手段を実質的に有していなかった点にあると一つの結論を述べる。 そのうえで、特別調査委員会は、取引の実在性を確認する方法として、下流取引先が管理するプラットフォームの広告管理画面へのアクセス、掲載LPの実際の稼働確認、配信ログの閲覧といった手段が考えられるが、広告代理業界においては、下流取引先の成果管理画面はその取引先固有のノウハウそのものであり、上流代理店に対してもこれを開示しないことが実務上の慣行の一つであるとされているとして、a氏による、バリュークリエーションの会計監査人に対する対応(上記3(5))に見られるように、こうした説明が実際に社内外に受け入れられてしまう程度には、当該慣行が共有された認識として存在していたことが窺われると評価し、「取引の実在性確認の困難性」を説明している。 5 再発防止策の提言(調査報告書41頁以下) 特別調査委員会は、架空循環取引という本件疑義に関する視点からすれば、専ら問題となるのは仲介取引であり、仲介取引においては取引の実在性の確認が原理的に困難となることを考慮すれば、再発防止策の中核をなすべき原則は、「成果物の開示を受けることができない下流取引先との仲介取引は行わない」ということであり、仲介取引を行う場合においても、取引の異常を早期に発見し対処するための多層的なチェック構造を形成することが必要であると強調したうえで、次の3項目を提言している。 後述するように、上記の3項目については、バリュークリエーションが公表した再発防止策に全面的に採択されているところである。   【調査報告書の特徴】 同一の会計不正事件で複数の上場会社が調査報告書を公表するのは、2019年に発覚したネットワンシステムズによる架空循環取引事件以来であろう。ネットワンシステムズ社事件が、関係各社による和解という形で終結したのは、2025年5月19日のことであり、会計不正の発覚から5年の歳月が事実解明と訴訟に費やされた。 報道では、KDDIの松田浩路代表取締役社長は、2026年6月17日の定時株主総会において、子会社による大規模な架空取引問題を巡り、一部の取引先広告会社に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたことが報じられており、329億円という巨額の外部流出資金の回収に向けて、責任追及を行っていく方針のようである。バリュークリエーションが損害賠償請求の対象となっているのかどうかは、本稿執筆中に確認がとれていない。 1 過年度有価証券報告書の修正 バリュークリエーションが、2026年5月29日に提出した過年度有価証券報告書の訂正報告書をもとに、売上高、経常利益及び当期純利益の訂正内容を一覧表にまとめておきたい。 2 バリュークリエーションによる再発防止策 バリュークリエーションは、2026年6月17日、「再発防止策に関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会による原因分析と提言を踏まえた再発防止策を公表した。 その概要は次のとおりである(一部、文言を省略し、文末表現を改めている)。 3 東京証券取引所による公表措置 2026年6月26日、東京証券取引所は、バリュークリエーションに対して、「開示された情報の内容に虚偽があり、上場規則に違反した旨の公表が必要と認められるため(有価証券上場規程第508条第1項第1号)」として、公表措置を行った。 その「理由の詳細」は次のとおりである。 (了)
#679(掲載号)
#米澤 勝
2026/07/30
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期中会計基準を学ぶ 【第2回】「期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日など」

期中会計基準を学ぶ 【第2回】 「期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日など」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日などについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準4項)。 用語 定義 期中会計期間 1連結会計年度又は1事業年度(以下「年度」という)より短い期間に区分した期間をいう。 中間会計期間 年度が6か月を超える場合に、当該年度が開始した日以後6か月の期間をいう。 期中財務諸表 期中連結財務諸表及び期中個別財務諸表をいう。   Ⅲ 期中連結財務諸表の範囲 期中会計基準は、期中連結財務諸表の範囲を次のものとしている(期中会計基準5項)。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準6項に規定されており、期中連結財務諸表を開示する場合には、期中個別財務諸表の開示は要しないとされている。   Ⅳ 期中財務諸表等の開示対象期間 期中会計基準が対象とする財務諸表の開示対象期間は次のとおりである(期中会計基準7項)。   Ⅴ 期中連結財務諸表を作成する場合の取扱い 1 期中連結決算日 期中連結財務諸表を作成するにあたり、子会社の期中会計期間の末日が期中連結決算日と異なる場合には、子会社は、期中連結決算日に期中会計基準に準ずる合理的な手続により、期中決算を行わなければならない(期中会計基準19項)。 子会社の期中会計期間の末日と期中連結決算日との差異が3か月を超えない場合には、子会社の期中決算を基礎として、期中連結決算を行うことができる。ただし、この場合には、決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うことになる(期中会計基準19項)。 2 みなし売却日等 期中連結財務諸表を作成するにあたり、支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の期中会計期間の末日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの期中会計期間の末日等に支配獲得、株式取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができる(期中会計基準20項)。 この期中会計期間の末日等には、期首、期中会計期間の末日又はその他の適切に決算が行われた日が含まれる(期中会計基準20項)。 期中会計基準は、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)を統合する形で開発されており、企業会計基準第33号の開発に際しての公開草案に寄せられたコメントでは、四半期会計基準における四半期決算日を本会計基準においてその他の適切に決算が行われた日と変更したことが従来の実務からの変更を意図したものかどうかを明確にすべきとの意見があったとのことである(期中会計基準BC33項で記載されている企業会計基準第33号の結論の背景であるBC18項)。 企業会計基準第33号のBC18項では、当該用語の変更は、四半期会計基準において認められていた四半期決算日を引き続きみなし取得日として適用可能とすることを意図したものであり、従来の四半期の実務を見直すことを意図したものではないとし、その他の適切に決算が行われたとは、子会社において本会計基準に準じた決算が行われたことを想定していると記載されている。 企業会計基準公開草案第83号「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等に対するコメントとして、「みなし取得日等の定めにおける「その他の適切に決算が行われた日」の取扱いを明らかにすべきである」の論点の項目において、例えば、月次決算を含むことなどを意図しているならばその点を明確にするなど、その意図を明確化する必要があると考えられるとのコメントが寄せられた(コメントNo.33)。 当該コメントに対して次の対応が記載されている。 (了)
#679(掲載号)
#阿部 光成
2026/07/30
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〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第18回】「派遣先の休業・中途解約の場合の労働問題」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第18回】 「派遣先の休業・中途解約の場合の労働問題」 〈人材派遣業・人材紹介業〔Q1〕〉   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 石居 茜   〈人材派遣業・人材紹介業の特徴と特有の労務問題〉 人材派遣業や人材紹介業では、自社のプロパー従業員を雇用しているため、解雇やパワハラといった一般企業と同様の労働問題が発生します。しかし、それに加えて、それぞれのビジネスモデルに起因する業界特有の労務問題が存在します。 【人材派遣業の特徴と特有の労務問題】 派遣元と派遣先の二重構造:雇用主(派遣元)と実際の業務の指揮命令を行う者(派遣先)が異なるため、労働基準法などの関連法令における責任が派遣元と派遣先で分担されるという大きな特徴があります。 中途解約や休業時の対応義務:派遣先の都合で労働者派遣契約が中途解約されたり休業となったりした場合でも、派遣元と派遣労働者との雇用契約は期間満了まで継続します。そのため、派遣元には休業手当の支払いや新たな就業機会の確保などの義務が生じます。 多様な課題への対応:有期雇用・無期雇用の選択、派遣労働者の雇止め、法改正に伴う同一労働同一賃金への対応など、検討すべき人事労務の課題が多岐にわたります。 紛争時の影響拡大リスク:トラブルが労働局への申告や外部労働組合との団体交渉などに発展した場合、取引先である派遣先をも巻き込んだ大きな紛争に発展するリスクを孕んでいます。 【人材紹介業の特徴と特有の労務問題】 職業安定法や厚労省指針の厳格な遵守:法令により、求人情報などの的確な表示が義務付けられているほか、求人・求職者情報を正確かつ最新の内容に保つことが厳しく求められます。 紹介手数料をめぐるトラブル:紹介した人材が早期に自己都合退職した際の「紹介手数料の返還約定」の解釈をめぐる紛争や、手数料の未払いトラブルが実務上多く見られます。 不適切な転職勧奨の禁止:「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供し、転職を勧奨することは、厚労省の指針によって禁止されています。 【まとめ】 両業界ともに、関連法令や指針への違反は行政指導や企業名の公表、事案によっては罰則といったペナルティに繋がるリスクがあります。そのため、トラブルが顕在化する前の平時から、労働者派遣契約書や人材紹介契約書、求人サイトの規約といった各種文書を適法に整備しておく「予防法務」の視点が非常に重要となります。   【Q】 当社は登録型の人材派遣事業を行っています。この度、取引先である派遣先企業から、業績悪化を理由に労働者派遣契約を期間途中で中途解約されてしまいました(または休業を余儀なくされました)。 当該派遣先に派遣されていた労働者に対し、当社は残りの派遣期間満了までの賃金を支払わなければならないのでしょうか。また、すぐに次の派遣先が見つからない場合、派遣先がなくなったことを理由として、派遣労働者との雇用契約を期間途中で解約(解雇)することはできるのでしょうか。 【A】 労働者派遣契約が期間途中で解除されたり休業となったりした場合でも、派遣労働者と貴社(派遣元)との雇用契約は直ちに終了するわけではなく、期間満了まで継続しています。したがって、貴社は原則として賃金を支払う義務があります。 新たな派遣先が見つからず、やむを得ず派遣労働者を休業させる場合は、労基法に基づき、休業期間中について平均賃金の6割以上を休業手当として支払う必要があります。 また、派遣先がないことを理由に、期間途中で雇用契約を解約(解雇)することは、労契法上の「やむを得ない事由」が認められない限り無効となります。実務上、この要件は厳格に判断されるため、まずは新たな就業機会の確保など、解雇回避の努力を尽くすことが求められます。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 労働者派遣契約の中途解約と雇用契約への影響 登録型の派遣においては、労働者の雇用期間は労働者派遣契約の派遣期間と同じに設定されていることが多い。しかし、派遣元と派遣先の間の労働者派遣契約と、派遣元と派遣労働者の間の雇用契約は別個独立の契約である。 そのため、派遣先が業績悪化などの都合により、一方的に労働者派遣契約を中途解約したり、休業したりしたとしても、派遣元と派遣労働者の雇用契約が当然に終了するわけではない。派遣労働者から見れば、残余の雇用期間があるにもかかわらず、突然派遣先での就業ができなくなる事態が生じることとなる。   2 派遣労働者の雇用安定を図るための措置(派遣元指針・派遣先指針) 派遣先による一方的な中途解約に伴う派遣労働者の雇用不安を防ぐため、派遣元指針および派遣先指針において、当事者が講ずべき措置が定められている。 派遣先指針では、派遣先は専ら派遣先に起因する事由で期間満了前に解除を行おうとする場合、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元に申入れを行うことや、関連会社での就業あっせん等により新たな就業機会の確保を図ることが求められている。それができない場合には、派遣元に生じる損害(休業手当や解雇予告手当に相当する額以上の額)について賠償を行わなければならないとされている。 一方、派遣元指針では、派遣元は派遣先と連携して新たな就業機会の確保を図ること、それができない場合はまず休業等を行い雇用の維持を図り、休業手当の支払等の労基法等に基づく責任を果たすことが求められている。   3 賃金および休業手当の支払い義務 派遣先が休業や中途解約をした場合、派遣元は期間満了まで他の派遣先に派遣する努力を行う必要がある。 それができず派遣労働者を休業させる場合は、派遣元の「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当するため、労基法第26条に基づき、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務が生じる。 また、判例によれば、派遣先でのトラブル等を理由に派遣元が十分な調査を行わずに就労停止を告知し、かつ同水準の派遣先を提供できなかった事案において、民法第536条第2項により、派遣労働者は雇用契約終了までの賃金全額の請求権を失わないとされた例もある(浜野マネキン紹介所事件・平20.9.9東京地判)。休業手当の支給にとどまらず、賃金全額の支払いが命じられるリスクがあることにも留意すべきである。   4 派遣労働契約の中途解約(解雇)の有効性 派遣先がなくなったことを理由に、期間の定めのある派遣労働契約を途中で解約(解雇)することのハードルは極めて高い。 労契法第17条第1項および民法第628条によれば、有期労働契約は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、期間途中で解雇することはできない。 裁判例においても、登録型派遣における労働者派遣契約の解消は、派遣労働契約の当然終了事由にはならないと判断されている(社団法人キャリアセンター中国事件・平21.11.20広島地判)。 さらに、期間途中の解雇の有効性は、期間の定めのない労働契約における整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③被解雇者選択の合理性、④解雇手続の相当性)に照らして総合的に判断され、通常の解雇権濫用法理よりも厳格に判断される傾向がある。 例えば、派遣先の労働者派遣契約の解除を受けて派遣元が解雇を行った事案において、派遣元自身が健全な財務状況にあり、他の派遣先のあっせん等の努力を全くしていなかったことから、「やむを得ない事由」があるとはいえず、解雇は無効と判断された事例がある(プレミアライン事件・平21.4.28宇都宮地裁栃木支部決定)。 労働契約の期間内においては、派遣元は他の派遣先を確保することが務めであり、新たな派遣先が見出せず就業機会を提供できなかったことについて派遣元に帰責性が認められ、期間満了までの賃金全額の仮払いを命じられた例もある(ワークプライズ事件・平21.7.23福井地決)。   5 実務的な会社対応 以上の法的枠組みや判例を踏まえ、派遣先から中途解約や休業を申し渡された場合、派遣元は以下の実務対応を行うべきである。 第一に、労働者派遣契約締結の段階から、中途解約時の損害賠償に関する規定をしっかりと盛り込んでおくことが予防策として重要である。紛争発生時には、派遣先に対し、派遣先指針に基づく新たな就業機会の確保を求め、不可能な場合は休業手当や解雇予告手当に相当する損害賠償を請求する。 第二に、派遣労働者に対しては安易に解雇や雇止めを行うのではなく、自社での他の派遣先の開拓や紹介等、就業機会の確保に向けた最大限の努力(解雇回避努力)を尽くすことである。 第三に、やむを得ず休業とする場合には、休業手当を適正に支払い、雇用の維持を図らなければならない。 万が一、解雇せざるを得ない極めて例外的な状況であっても、少なくとも30日前の予告または解雇予告手当の支払いといった労基法上の手続きを厳守する必要がある。 派遣元としては、労働者派遣契約と雇用契約が別であることを深く認識し、派遣先との紛争と派遣労働者との労働問題を明確に切り分け、各法令・指針に則った適切な善後策を講じることが求められる。   (了)
#679(掲載号)
#石居 茜
2026/07/30
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〈具体事例から見る〉取適法施行に伴う企業対応Q&A【第3回】「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」

▼ ▼ ▼ 解説 ▼ ▼ ▼   1 協議を適切に行わない一方的な代金額の決定の禁止(禁止行為の拡充) 自由経済主義の下においては、取引価格は、基本的には取引当事者間の自律的な交渉により決定されるべきものである。そのため、コスト上昇局面において当該上昇分が上乗せされることなく、価格が据え置かれたり、コスト増に見合う価格の引上げが行われなかったりしたとしても、そのこと自体が直ちに違法となるわけではない。しかしながら、中小受託事業者が価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格交渉の協議すら行われなかったり、内実の伴わない形式的な協議が行われるにすぎなかったりするような場合には、取引条件を自律的な交渉によって決定することが前提となる市場メカニズムが有効に機能しなくなっている可能性がある。 そこで、取適法は、「協議」というプロセスに着目した新たな規制として、「協議を行わない一方的な代金額の決定の禁止」を追加し、委託事業者が遵守すべき禁止行為の範囲を拡充した。 具体的には、①中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、②中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、③当該協議に応じず、または、当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、④一方的に製造委託等代金の額を決定することによって、⑤中小受託事業者の利益を不当に害したときは、取適法違反に該当することとなる(取適法第5条第2項第4号)。   2 給付に関する費用の変動その他の事情(①) 適切な価格転嫁の円滑化という取適法の目的に照らし、上記①の「給付に関する費用の変動その他の事情」としては、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の増加を想起しやすいが、これに加えて、「従来の納期の短縮、納入頻度の増加や発注数量の減少等による取引条件の変更、需給状況の変化、委託事業者から従前の代金の引下げを求められた場合」など、コスト上昇以外の要因も広く含まれる(運用基準「第4、9、(2)」)。 そのため、例えば、需要の減少に伴う発注数量の減少や需要の急増に伴う納入頻度の増加など、中小受託事業者の費用の増減に影響を与える事情が生じた場合にも、上記①の要件を満たすこととなる。 他方で、例えば、中小受託事業者の過失による生産設備の一部滅失に伴う生産コストの増加など、中小受託事業者の責めに帰すべき事由によるコストの増加は、上記の取適法の目的に照らし、①の事情には該当しないものと考えられる。   3 中小受託事業者による協議の求め(②) 上記②の「協議を求めた」にあたる場合とは、書面か口頭かを問わず、明示的に協議を求める場合のほか、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含む(運用基準「第4、9、(3)」)。 したがって、中小受託事業者が明示的に協議を申し入れた場合に限らず、例えば、中小受託事業者が従来の単価を引き上げて計算した見積書を提示した場合なども、上記②の「協議を求めた」に該当する(テキスト112頁)。   4 委託事業者の協議交渉義務(③) 上記③の「当該協議に応じず」とは、協議の求めを明示的に拒む場合のほか、協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合をいい、「当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず」とは、中小受託事業者が求めた特定の事項について、その自由な意思により代金の額を決定するために必要な説明または根拠となる情報の提供をしないことをいう(運用基準「第4、9、(3)」、同「(4)」)。 委託事業者は、かかる協議交渉義務を負うこととなるため、中小受託事業者から求められた価格の引上げの全部または一部を拒む場合には、コストの上昇に見合った価格転嫁を受け入れられない理由や情報、例えば、入札や相見積りによって当該中小受託事業者の他により低額で供給する受注者が存在することや、中小受託事業者から求められた転嫁分を委託事業者の顧客に転嫁することが困難である、あるいは自社の内部で吸収することが困難である事情などを、合理的な根拠とともに説明することが必要となる。 なお、前述したとおり、取適法におけるこの新規制は、従来の不当減額規制や買いたたき規制など「代金額」という結果に着目した規制ではなく、「協議」というプロセスに着目した規制であるため、取引当事者間において適切な協議が行われた結果として、従前の価格が据え置かれたり、中小受託事業者が求めた金額の一部しか価格の引上げが行われなかったり、合意に至らず委託先を変更したりしたとしても、そのこと自体が直ちに違法となるわけではない(パブコメ210)。 もっとも、例えば、委託事業者が中小受託事業者に対し、自ら提示する価格での受注を見送る場合には取引を減らしたり、打ち切ったりすることを示唆した上で協議を行った場合など、委託先の自由な意思に基づく判断が阻害されるような事情が認められるときは、適切な「協議」というプロセスを経たと評価することはできず、取適法違反となる可能性がある(テキスト115頁)。   5 中小受託事業者の利益の不当な侵害(⑤) 例えば、中小受託事業者側において容易に採り得るコスト低減策を講ずれば、コストの増額幅を低減し得るにもかかわらず、中小受託事業者がこれをしないような場合には、上記⑤の「中小受託事業者の利益を不当に害したとき」には該当しないと解する余地もあるように思われる。ただし、この場合であっても、容易に採り得るコスト低減策の内容について、委託事業者が中小受託事業者との間で十分な説明や協議を行わず、一方的にコスト低減策を講じた場合のコストの増額幅に限定した値上げにしか応じないような場合には、取適法上問題となる可能性がある。   (了)
#679(掲載号)
#木下 雅之
2026/07/30
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《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表~会計不正の業種別公表件数は、情報・通信業が卸売業を抜いて2番目に~

《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表 ~会計不正の業種別公表件数は、情報・通信業が卸売業を抜いて2番目に~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2026年7月15日付けで経営研究調査会研究資料第13号「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。ただし、2026年版においては、「会計不正の動向」9項目のうち、4項目目に当たる「会計不正の上場市場別の内訳」が、「会計不正の上場市場別・上場年数別・売上規模別・従業員規模別の内訳」と改められ、より詳細な分析結果が追加される形となっている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている。上述のとおり、2026年版では(4)につき拡充が行われている。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2022年3月期から2026年3月期までの5年間で205社となっている。当該5年間では、2025年3月期の56社が最大であり、2020年3月期及び2024年3月期の46社を上回って、研究資料が公表されている2018年3月期以降で、最多となっている。なお、2026年3月期は40社である。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2026年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が76.8%となっている。2026年3月期においては、件数ベースでは74.1%が「粉飾決算」で、調査対象の5年間で最も少なかった2024年3月期の75.3%に次いで少ない割合となっている。 粉飾決算の公表が80%程度で推移していることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に準拠して公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合については5年間平均で36.5%となっている。2026年版の特徴としては、「収益関連の会計不正」の占める割合が25.6%と過去5年間で最も少なくなっている一方で、「売上の過大計上」と「費用の繰延べ」が同じ件数で、割合としては20.9%となっている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2026年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が49社でトップ、次いで情報・通信業が25社、卸売業が23社となって、情報・通信業が卸売業を抜いて第2位となった。以下、建設業が20社、小売業が15社と続いている。 (4) 会計不正の上場市場別・上場年数別・売上規模別・従業員規模別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2026年3月期においては、東証プライム市場16社(前年同期24社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証スタンダード市場14社(20社)、東証グロース市場9社(5社)、その他1社(1社)となっている。 また、2026年3月31日現在の市場別上場会社数と、東証において市場区分の見直しが行われた後4年間の市場別の会計不正の件数の割合を比較した表は、次のとおりである。 市場区分 上場会社数の割合 会計不正発覚割合 差異 プライム 42.0% 42.8% 0.8% スタンダード 42.0% 40.4% △1.6% グロース 16.1% 16.9% 0.8% 研究資料では、各市場の上場数と不正の発生会社数とはおおむね比例関係にあると言えると分析している。 2026年版から追加された各市場の上場年数別、売上高別、従業員数別に会計不正の発覚事案を公表した会社等の4年間累計の内訳を見ると、上場年数別では、プライム市場とスタンダード市場では「30年以上」が最も多くなっており、「5年以上10年未満」のカテゴリーで最多となっているグロース市場との差異が際立っている。 一方、売上高別では500億円未満が56%と過半を占め、従業員数では1,000人未満で50%となり、100人以上1,000人未満が37%で最多であった。 (5) 会計不正の発覚経路 2026年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、当局の調査等が49社(前年同期は47社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、内部統制等が34社(31社)、内部通報が27社(28社)、取引先からの照会等が26社(26社)、公認会計士監査が19社(16社)となっていて、前回同期との比較では、当局の調査等が3年連続して1位であり、それ以下の発覚経路についても、前年同期と大きな変化はない。一方、調査報告書に発覚経路が公表されていないケースは27件(構成比14.1%)を占めている。 (6) 会計不正の関与者 2026年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が100社、単独が45社)、非管理職については、単独35社、共謀12社と、単独での会計不正が共謀を上回っている傾向が、2026年3月期も継続していることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2026年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社(本社)、国内子会社及び海外子会社の別に分類して集計した結果、上場会社本体が87社、国内子会社が87社、海外子会社が21社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2025年3月期及び2026年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数(19社及び12社)を国内子会社(22社及び15社)が上回る傾向が続いている。一方、海外子会社における会計不正の件数は、2025年3月期には10社となり増加が顕著であったものの、2026年3月期は1社に減少している。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が42%、北米・南米が29%、中国を除くアジアが21%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2026年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、23社、61社、104社となった。「外部専門家のみ」の調査委員会設置数については、2025年3月期及び2026年3月期は過半数を超えている(それぞれ、62%及び59%)。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(59.1%)、「資産の流用」では「社内のみ」または「社内+外部専門家」で調査に当たる会社が多くなっている(「社内のみ」が35.7%、「社内+外部専門家」が39.3%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2026年3月期までの5年間において、会計不正の発覚が公表された205社のうち、その後に内部統制報告書を訂正した上場会社は92社であり、その割合は44.8%であった。また。訂正を行った会社のうち82社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#米澤 勝
2026/07/23
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《速報解説》 公認会計士・監査審査会が「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表~「完了した監査業務に対する定期的な検証」等を新たに掲載~

《速報解説》 公認会計士・監査審査会が 「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表 ~「完了した監査業務に対する定期的な検証」等を新たに掲載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年7月17日、公認会計士・監査審査会は、「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表した。 また、同日に公表された「令和8事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」では、「一般社団法人監査支援機構」の設立に言及するなど監査品質の向上に関する監査業界の動向が記載されている。 今回の事例集の改訂のポイントは次のとおりである。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 取締役、監査役等、投資者等による活用を期待 事例集では、上場会社等の取締役・監査役等や投資者等に対する監査に関する参考情報の提示という観点から、審査会検査で確認された幅広い指摘事例をできるだけ分かりやすく記載している。 そのほか、監査事務所の改善取組などにおいて評価できる取組例も取り入れているので、会計監査人の適切な評価のために、是非参考にしていただきたいとのことである。   Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 (了)
#阿部 光成
2026/07/23
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プロフェッションジャーナル No.678が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年7月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.678を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/07/23
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国際課税レポート 【第26回】「トランプ関税劇場の第3幕」~最高裁判決後に浮上した301条・強制労働リスク~

国際課税レポート 【第26回】 「トランプ関税劇場の第3幕」 ~最高裁判決後に浮上した301条・強制労働リスク~   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団名誉フェロー   7月24日、10%の122条関税が終了する。この関税は、2026年2月20日、米連邦最高裁が、国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断したことを受け、急遽導入されていたものだ。判決により、第二次トランプ政権の看板政策「トランプ関税」のうち、2025年の「相互関税」などIEEPAに基づく措置は法的根拠を失った。122条関税の延長には議会による立法が必要だが、本稿執筆時点で、延長に向けた具体的な動きはみられない。 2月の最高裁判決後、米税関・国境警備局(CBP)は2026年4月20日に還付手続きを開始し、5月にはIEEPA関税の還付金の支払いが始まった(JETROビジネス短信2026年5月28日)。赤澤亮正経済再生担当相が2025年4月から7月にかけて8回訪米し、関税引下げ交渉の対象として知られた「相互関税」の終了は、日本企業にとっては吉報、トランプ政権にとっては打撃となっていた。 もっとも、これで自らを“タリフマン”と呼ぶ「トランプ関税劇場」の幕が下りるわけではない。 緊急事態を理由に広範な関税を一挙に課す手法は行き詰まったが、政権は既存の通商法に基づく複数の制度へと関税政策を組み替えつつある。しかも、その過程で、これまで関税問題の陰に隠れていた強制労働などが新たな争点として浮上した。嵐が去るどころか、暴風域が広がったともいえる。 以下では、第一次トランプ政権の対中関税、第二次トランプ政権のIEEPA関税に続く“トランプ関税第3幕”についての現状と展望を紹介する。 (注) IEEPAに基づくトランプ関税導入と裁判の経緯について詳しくは、本連載【第20回】「「トランプ関税」と「ピラー2」~米・欧2つの最高裁審査~」参照   米最高裁がIEEPA関税(相互関税)を否定 トランプ大統領は2025年、米国の恒常的な貿易赤字や、合成麻薬・不法移民の流入を「国家緊急事態」と位置付け、IEEPAを根拠に広範な追加関税を導入した。IEEPAは、国家緊急事態に際して外国との経済取引を規制する法律であるが、歴代大統領が同法を根拠に関税を課した例はなかった。 最高裁は2026年2月20日のLearning Resources v. Trump判決で、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。これにより、相互関税や麻薬対策関税などIEEPAに基づく措置は法的根拠を失い、同日、ホワイトハウスもIEEPAに基づく関税措置を終了させている(JETROビジネス短信2026年2月24日)。   IEEPA関税の還付 判決後は、すでに徴収された関税をどう還付するかが大きな実務問題となった。米税関・国境警備局(CBP)は4月20日、オンラインシステム「CAPE」を稼働させ、還付のための行政手続きを開始した。 米国の関税は、輸入時に見積関税額を申告・納付し、その後のliquidation(税額確定手続)で最終税額が確定する。当初の対象は、税額確定前の輸入申告及び税額確定後80日以内の輸入申告が中心だった。 さらに6月29日からは、輸入時には暫定価格で申告し、後日、移転価格などを反映して関税評価額を精算する「reconciliation」の対象申告にも、還付手続きが広がった。企業グループ内取引では、輸入後に取引価格を調整するケースが少なくない。このため、米国へ輸出する多国籍企業にとっても、IEEPA関税の還付を受けられる可能性が広がった。 ただし、すべての申告をCBPが行政手続きだけで還付できるかは、なお決着していない。不服申立て期間が過ぎ、法的に最終確定した申告までCBPが一律に行政手続きで処理できるのか、それとも輸入者が裁判を起こして個別の命令を得る必要があるのかについては、政府と裁判所の見解が対立している。政府は、訴訟を起こしていない輸入者の最終確定済み申告まで裁判所が行政手続きによる還付を命じることに異議を唱え、控訴している。したがって、対象企業には、行政還付の進展を待つだけでなく、申告の確定時期や不服申立て期限を確認し、必要に応じて権利保全のための司法手続きも検討することが必要になっている。 還付金は原則として米国の輸入者に支払われる。このため、日本の輸出者にとっても、誰が実質的に関税を負担していたのか、還付金を米国子会社に残すのか、仕切価格の調整によって日本親会社に戻すのか、在庫原価の調整や、移転価格税制上どのように処理するのかという問題が生じる。   時間稼ぎの122条、長期化を狙う301条 最高裁判決の直後、トランプ政権は1974年通商法122条に切り替え、2月24日から原則10%の一時的な輸入課徴金を導入した。122条は、深刻な国際収支上の問題に対処するため、最大15%の追加関税や輸入数量制限を認める制度である。ただし、議会が延長しない限り150日で失効する。現行措置も7月24日までの時限措置であり、トランプ大統領が求める恒久的な関税ではない。 122条にも訴訟が提起され、米国際貿易裁判所は5月、国際収支上の発動要件を満たさないとして、措置を違法と判断した。ただし、救済は訴訟の原告に限定された。さらに連邦巡回控訴裁判所が6月11日に判決の効力を停止したため、関税徴収は現在も続いている。122条は、最高裁判決後の空白を埋める「つなぎ」としては機能するが、恒久的な制度という観点からは不安定である。 そこで後継候補として重要なのが301条である。301条は、外国政府の措置・政策・慣行が「不合理又は差別的」で米国通商を負担・制限すると米国通商代表部(USTR)が認定した場合に、追加関税その他の対抗措置を認める(※)。IEEPAと異なり、調査、相手国との協議、事実認定、意見募集といった手続を予定しており、122条のような150日の自動失効もない。政権にとっては導入まで時間がかかる一方、発動後は長期化させやすい。実務的には、122条で時間を稼ぎ、その間に301条調査を仕上げる構図とみることができる(United States Trade Representative)。 (※) 本稿の「301条」は通常の通商法301条であり、1988年に導入された「スーパー301条」の手続きとは異なる。日本は1989年、スーパーコンピューター等をめぐる貿易慣行について優先対象に指定され、関税引上げなど米国による対抗措置の発動を避けて通商摩擦を解決するため、翌1990年、各分野の市場開放措置に合意した。 もう一つの候補が、一般に「201条セーフガード」と呼ばれる制度である。これは、不公正貿易の認定を要しない代わりに、特定品目の輸入急増が米国内産業に重大な損害を与えている、又はそのおそれがあると認定された場合に、関税引上げや輸入制限を行う制度である。太陽光製品など個別産業の保護には使えるが、全輸入品に一律関税を課すための制度ではない。 IEEPA関税による徴収額は1,600億ドル(約26兆円)を超えるとされる(米上院中小企業・企業家委員会)。これほど巨額の関税収入を一挙に失うことは政権にとって受け入れ難く、代替となる法的根拠を確保する強い動機がある。 米国の追加関税制度の一覧を「表」に示す。 〈表:米国の追加関税についての制度一覧〉 制度 (導入年・大統領) 対象となる問題・発動要件 主体・手続 可能な措置 主な制約・特徴 適用事例 IEEPA(国際緊急経済権限法) 1977年/カーター(民) 全部又は相当部分が米国外に源を有する「異常かつ重大な脅威」が、米国の安全保障・外交・経済に及ぶ場合。 大統領が国家緊急事態を宣言し、規則・命令・許可等により権限を行使。 外国為替、信用移転・支払、外国又はその国民が利害を有する財産取引・輸出入等の調査・規制・禁止。 最高裁は2026年2月20日、IEEPAは関税を授権しないと判示。資産凍結等の権限は残る。 1979年のイラン政府資産凍結。2025年の「相互関税」等は、2026年最高裁判決でIEEPAによる関税権限を否定。 通商法 122 条 1975年/フォード(共) ①巨額で深刻な国際収支赤字、②ドルの差し迫った大幅下落、③国際収支不均衡の国際協調是正が必要な場合。 大統領が発動。不公正行為の調査・認定は不要。 最大 15%の一時輸入追加関税、数量制限又は両者の併用(数量制限は、国際協定上許容され、追加関税だけでは有効に対処できない場合)。 原則 150 日以内(延長は法律が必要)。原則無差別で、対象は可能な限り広範・均一。個別産業保護を目的とする制度ではない。 大統領布告 11012 号:2026年2月24日から150日間、原則 10%(品目・協定上の除外あり)。 通商法 201 条 (セーフガード) 1975年/フォード(共) 特定品目の輸入増加が、同種又は直接競合する製品を生産する米国国内産業の重大な損害又はそのおそれの実質的原因となっている場合。 米国国際貿易委員会(USITC)が調査・認定し、救済措置を勧告。大統領が措置の有無・内容を最終決定。 追加関税、数量制限、関税割当て等。 不公正貿易の認定は不要。品目別の一時的措置で、当初最長4年、延長を含め最長8年。全輸入品への一律関税には不向き。 2018年(トランプ1次)、太陽光製品及び大型家庭用洗濯機。 通商法 301 条 1975年/フォード(共) 通商協定上の権利侵害、又は不当・不合理・差別的な外国措置が米国通商を負担・制限する場合。 米国通商代表(USTR)が申立て又は職権で調査し、対象国との協議、意見募集・公聴会等を経て決定。 通商譲許の停止、追加関税・輸入制限、外国サービスへの料金・制限、拘束的合意等。 原則、調査・協議・意見募集等の法定手続が必要。 2018年(トランプ1次)、中国の技術移転・知的財産慣行を調査し追加関税(第1弾は7月6日)。 通商法 232 条 1962年/ケネディ(民) 特定品目の輸入が、数量又は状況により国家安全保障を害するおそれがある場合。 商務長官が申請・他省庁の要請・職権で調査し、原則 270 日以内に報告。大統領は 90 日以内に判断し、措置は原則 15 日以内に実施。 輸入の「調整」。追加関税、数量制限、関税割当て、国別合意等。 15%上限・150日期限はない。商務省調査と国家安全保障上の認定が必要。措置は限定列挙されない。 2018年(トランプ1次)、鉄鋼 25%・アルミニウム 10%の追加関税(布告 9705 号・9704 号)。 UFLPA(ウイグル強制労働防止法) 2021年/バイデン(民) 新疆(ウイグル)で全部又は一部を生産した物品、又は対象リスト企業の製品は、強制労働によるものと推定。新疆由来の原材料・部品を含む第三国製製品も対象。 強制労働執行タスクフォース(FLETF・米国国土安全保障長官が議長)が戦略・対象リストを策定し、米国税関・国境警備局(CBP)が輸入時に審査。 留置、排除(輸入拒否)、押収等。 対象外ならサプライチェーン資料を提出。例外は、ガイダンス遵守・CBP照会への完全回答に加え、強制労働不使用を「明白かつ説得的な証拠」で立証。原材料までの追跡が事実上必要。 優先分野は綿、トマト、ポリシリコン等。2025年に銅、リチウム、鉄鋼等を追加。 (出所) 2026年7月3日現在の情報により筆者作成   強制労働301条調査――日本は12.5%案の対象? 現在、最も注目されるのが、強制労働を理由とする301条調査である。USTRは2026年3月、米国輸入の99%超を占める60の国・地域を対象に調査を開始し、6月2日、対象国について、強制労働産品の輸入を十分に規制していないため、米国企業が低コストの強制労働産品との不公正な競争にさらされていると認定した(USTR 2026年6月2日「USTR報告書」)。 提案されている措置は広い。強制労働産品の輸入禁止制度を有する国、又はその導入を米国に約束している国等には原則10%、それ以外には12.5%の追加関税を、Annex Aの除外品目を除く全産品に課すというものである。 日本は、報告書において国内で強制労働が行われていると認定されたのではないが、米国の1930年関税法307条に相当する「強制労働産品そのものの輸入禁止制度を持たない国」と評価され、問題がありうる54の国・地域の一つに分類された。この分類を現在の関税案に当てはめれば、日本は12.5%側に入ると考えられる。日本への批判の対象は、日本企業の個別製品ではなく、日本の輸入規制制度である(USTR報告書68頁)。 7月7日から9日まで公聴会が開かれた。議事録によると、日本を中国と同じ関税率の区分に置くことについて、両国の強制労働リスクや労働法の執行状況には差があり、一律に扱うのは妥当でないとの指摘があった(議事録2日目89頁)。一方、日本を含む40超の国・地域に派遣されたベトナム人労働者の多くが、債務拘束・強制労働の状態にあるとの指摘もなされている(92頁)。7月11日時点でUSTRが公表しているのは提案段階の措置であり、税率、除外品目、既存の232条・301条関税等との重複関係を含め、今後の最終決定を待つ必要がある。 今回の301条案は、強制労働対策を名目として、IEEPA関税や122条関税に代わる広範な関税を導入するものに見える。日本を含む多くの国も、国内法上、強制労働自体を禁止している。それにもかかわらず、米国と同様の輸入禁止制度を備えていないという制度上の形式的な差異を理由に、強制労働と無関係な物品を含む広範な輸入品に関税を課すことは、日本からみれば納得感に乏しい。しかも、通商法第301条は関税措置を明示的に予定しており、IEEPA関税よりも司法審査で覆されにくく、恒久化しかねないだけに、なおさらである。   301条とUFLPA(ウイグル強制労働防止法)――国別関税と個別貨物規制 米国の輸入規制として、強制労働を扱う制度としては、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)があるが、今回の301条を巡る動きと比べた場合、両者の役割や効果は異なる。UFLPAは、中国の新疆ウイグル自治区で全部又は一部が生産された物品や、指定事業者が関与した物品について、強制労働によるものと推定し、個々の貨物の輸入を止める制度である(JETRO「UFLPA戦略概要」)。超党派の圧倒的な支持(上院は全会一致)を得て議会を通過し、2021年12月に成立している。 輸入者は、原材料、生産者、加工工程、輸送・支払記録などを結び付け、対象地域・事業者が供給網に含まれないことを示さなければならない。対象地域等との関係がある貨物について例外を求める場合には、「明白かつ説得力のある証拠」により、強制労働が用いられていないことを示す必要がある。最終製品がベトナム、日本その他の第三国で製造されていても、上流の原材料や部品に新疆等との関係があれば対象となり得る。 これに対し、今回の301条案は、個別貨物の強制労働関与ではなく、相手国の法制度が不十分であることを理由に、国単位で追加関税を課す。したがって、日本企業の製品は、供給網に新疆等との関係があればUFLPAによる留置・輸入拒否の対象となり得る一方、関係がなくても、日本原産品であることを理由に301条関税を負担させられる可能性がある。   事例が示す供給網証拠の重要性 米国市場への輸出を避けて通ることのできない日本多国籍企業にとって、追加関税の問題はもちろん重要だが、ウイグル強制労働防止法は米国への輸入そのものが制限される点でより深刻と言える。 Abalance社(太陽光パネルの製造・販売や太陽光発電所の開発・運営を手がける東証上場の再生可能エネルギー企業)の事例は象徴的だ。2026年4月の同社開示によれば、ベトナム子会社VSUNが製造した太陽光パネルがUFLPA審査の対象となり、同社はウイグル地域産原材料を使用していないと説明したが、当初輸入が認められなかった。その後6月26日の開示によれば、一部貨物について米国への輸入・販売が進んでいる。 関税率の上昇は、価格転嫁や利益率の問題として計算できる。しかし、UFLPAで貨物が止まれば、販売計画が狂うほか、追加コストが同時に生じる。しかも、問題となるのは「強制労働への関与やそのことについての認定」の回避ではなく、原材料の採掘・栽培段階から製造、輸送、決済までをつなぐサプライチェーンに問題がないことについての、検証可能な記録である。   トランプ関税劇場第3幕で注意すべきこと トランプ関税劇場の展開を振り返ると、IEEPA(最高裁判所による否定)⇒ 122条(150日間の時間稼ぎ)⇒ 強制労働を理由とする301条案(広範な追加関税)と言った流れを見て取ることができる。 IEEPA判決で変わったのは、関税政策の方向ではなく、関税を課すための法的な器である。短期は122条、より長期には「強制労働」に名を借りた301条、個別産業には201条セーフガードが使われる。 そうであれば、これからの日本多国籍企業にとって重要なのは、関税率を予測するだけでなく、輸入者との間で関税の負担関係(還付がある場合も含む)を明確にし、サプライチェーン情報を米国における通関証拠として保存できる体制を整えることが必要になる可能性がある。 次の節目は7月24日となる。10%の122条関税は、議会による延長がなければ同日で終了するため、それまでに強制労働301条案の最終決定又は別の代替措置が示されるかが焦点となる。 事業展開にあたっては、こうした点を見落とさないようにしておく必要があるだろう。 (了)
#678(掲載号)
#岡 直樹
2026/07/23
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