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中国における営業税改革の概要、改革効果の検証及び展望 【第1回】

中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第1回】   有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根   中国における一部の業種に対する営業税を増値税に移行する税制改革(以下「営業税改革」)がスタートして1年間が経過した。 以下、改革の概要と改革効果及びその展望を簡単にまとめることとする。 なお、本稿中の見解は執筆者の個人的見解であり、執筆者の所属する法人の公式見解ではない。 本稿の実際の活用にあたっては、専門家と相談のうえ実行することを強く推奨する。   1 営業税改革のスタートと概要 2011年10月26日付けで、国務院により上海市の交通運輸業及び一部のサービス業等において営業税改革を試験的に開始することを決定した。 この決定を受けて、財政部・国家税務総局より「営業税を増値税へ移行する試験案」(1)及び「上海市における交通運輸業と一部の近代サービス業に対する営業税を増値税へ移行する試験に関する通知」(以下「財税[2011]111号(2)」。)を公布、施行した。 (1) 2011年11月16日財政部・国家税務総局「営業税を増値税へ移行する試験案」(財税[2011]110 号)。 (2) 財税[2011]111号には「交通運輸業と一部の近代サービス業の営業税を増値税へ移行する試験実施弁法」などの3つの付則が含まれている。 これにより、2012年1月1日以降、上海市の該当業種では営業税が廃止され増値税に統一され、売上増値税から仕入増値税額が控除されることになった。 概要は以下の通りである。 (1) 適用対象 ① 上海市にある役務提供者 上海市にある課税役務を提供する企業又は個人(以下「役務提供者」)が適用対象となる。 上海市にある役務提供者とは、機構所在地が上海市にある企業、個人事業者及び上海市に居住する個人を指す。 役務提供者の所在地が上海市に所在すれば、原則、役務受益者の所在地が上海市にあるか否かにかかわらず適用対象となる。上海市の役務提供者が上海市以外で役務を提供した場合には、その提供地で営業税を納付し、上海で増値税納付時に控除する。 なお、役務提供者が上海市以外の企業で、上海市の企業又は個人に対して役務を提供した場合には、当該役務提供者は、これまで通り営業税を納付する。 ② 国外にある役務提供者 国外にある企業と個人(非居住者)が上海市にある企業又は個人に対して課税役務を提供する場合も、適用対象となる。 (2) 対象となる業種、税率及び計算 対象業種及び適用税率は下記の通りであるが、詳細は「課税サービス範囲注釈」を参照。 (3) 気体、液体、固体物質の運輸役務等を指す。 (4) 設計、商標著作権譲渡、知的財産権、広告役務等 (5) 財務、税務、資産評価、法律、不動産土地評価等の鑑定認証役務等 (6) 財務、税務、法律、内部管理、業務運営、工程管理等の情報及びアドバイス等の業務活動等 (7) 2011年12月29日財政部、国家税務総局「課税サービスに増値税のゼロ税率及び免税政策を適用することに関する通知」(以下「財税「2011」131号」)によりゼロ税率の適用対象が明らかになった。   上記の業種及び税率を基に、以下の通り税額計算を行う。 増値税額=売上税額*1-仕入税額*2 *1:売上税額=売上額×適用税率    売上額(税込の場合)=税込売上額÷(1+適用税率) *2:仕入税額:物品の購入又は加工、修理補修、組立労務サービス受領時に支払い又は負担した増値税額   非居住者の外国企業と個人が中国に営業機構を有していない場合、その代理人又は役務受益者が税額を源泉徴収して納付することになる。 源泉徴収義務者が下記計算式に基づき、納税額を源泉徴収する。   2 営業税改革の背景と目的 今回の営業税改革の主な目的は、現行の間接税制における二重課税問題の解決及び構造的な減税措置を通じて、サービス業をはじめとする第三次産業の税負担を軽減する。また、分業発展を促進し、産業構造の調整を成し遂げ、雇用の創出にも寄与することである。 中国の増値税は1994年に導入されたが、経済状況・税収、徴収管理などの制約を受け、物の販売、加工・修理役務の提供及び輸入(全取引の60%相当)については課税対象とされたが、他の役務提供、無形資産の譲渡及び不動産の譲渡は対象外とされ、営業税の課税対象(全取引の40%相当)とされている。 増値税の一般納税者は売上税額から仕入税額を控除することができる。 これに対して、営業税は、原則として営業額全額に対して課税され、増値税のような仕入税額控除の仕組みはない。 この両税が並存していることにより、二重課税等の問題が生じることになる。 営業税の適用対象となると、対象業種(サービス業)の分業化が進むほど控除の仕組みがないため、価格に含まれる税コストが重なり、税負担が重くなることにより分業を阻害している。 また、増値税の納税者にとっては役務を仕入れるときに負担した営業税がコストとなり、営業税の納税者にとっては仕入れた物品を役務提供に用いる場合は、仕入れた物品に係る仕入税額を控除できないので、増値税を負担することになる。これにより、業種間の分業・提携が阻害されている。 営業税改革が全国で実施された場合、税収額が年間で1,000 億元(1元が12.5円に相当する)以上減少すると試算されているが、サービス業の税負担減、第三次産業分業発展の促進、産業構造の調整などを考え、政府は営業税改革による経済全般の発展にプラス(8)の働きをもたらすことから、営業税改革の実施を踏みきった。 (8) 国家税務総局では2009年をベースに試算すると営業税改革を実施する場合、GDPは0.5%増をもたらし、第三次産業及び生産性サービス業の付加価値はそれぞれ0.3%、0.2%増、また、社会投資が0.2%増、輸出が0.7%増、就業が70万人増をもたらすことができるという。   (了)

#No. 7(掲載号)
#鄭 林根
2013/02/21

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】「繰越欠損金の使用制限と控除期間の延長」

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】 「繰越欠損金の使用制限と 控除期間の延長」   アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩   〈欠損金の繰越控除の改正の概要〉 欠損金の繰越控除制度は、法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合、その欠損金額に相当する金額を、各事業年度の所得の金額を限度として損金の額に算入する制度である。 平成23年12月改正により、繰越欠損金制度の改正が行われた。その内容は大きく2つになる。 1つは、中小法人等以外の法人について、欠損金の控除限度額は、その事業年度の所得の金額の80%相当額になる点。 もう1つは、繰越欠損金(青色欠損金、災害損失金及び連結欠損金)の繰越期間が7年から9年に延長された点である。 この改正は平成24年4月1日以後開始の事業年度から適用され、間もなく決算を迎える3月決算法人においては、最初の適用事業年度となる。 改正内容についてのポイントをまとめると、次のようになる。 《欠損金の繰越控除のイメージ図》   ― 記 入 例 ― ※法人税申告書 別表七(一)より抜粋 (了)

#No. 7(掲載号)
#藤田 益浩
2013/02/21

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第2回】「手続フローとメリット・デメリット」

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第2回】 「手続フローとメリット・デメリット」   (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人   ■3 【e-Tax(イータックス)の手続フロー】   ■4 【e-Taxのメリット・デメリット】 (1) メリット (2) デメリット (了)

#No. 7(掲載号)
#石渡 晃子、青木 岳人
2013/02/21

組織再編税制における不確定概念 【第2回】「支配関係継続要件等における 『見込まれていること』とは」

組織再編税制における不確定概念 【第2回】 「支配関係継続要件等における 『見込まれていること』とは」   公認会計士 佐藤 信祐   組織再編税制における税制適格要件の判定においては、「見込まれている」という文言が散見され、支配関係継続要件、従業者引継要件、事業継続要件、主要資産等引継要件、株式継続保有要件、完全親子関係継続要件においてそれぞれ規定されている。 実務上、「見込まれている」という文言については、組織再編成時の見込みで判定することとされているが、どのようなケースについて、「見込まれている」と判断するのかという点について不確定概念が存在するため、本稿においては、「支配関係継続要件」を例に挙げて、その具体的な内容についての解説を行う。   1 支配関係継続要件の内容 組織再編税制における適格組織再編成は、適格現物分配を除き、 ① グループ内の適格組織再編成 ② 共同事業を営むための適格組織再編成 の2つに大別される。 また、①グループ内の適格組織再編成は、 (ⅰ) 100%グループ内の適格組織再編 (ⅱ) 50%超100%未満グループ内 の適格組織再編成に分けられる。 この場合における100%グループ(完全支配関係)、50%超100%未満グループ(支配関係)の判定であるが、組織再編成の直前における完全支配関係又は支配関係と、組織再編成後の完全支配関係又は支配関係の継続見込みで判定するという点に特徴がある。 しかしながら、親会社が子会社を吸収合併する場合のように、物理的に組織再編成後に発行済株式を保有する関係が継続することを要求することができない場合については、その関係が要求できる組織再編成の直前の完全支配関係又は支配関係のみを要求するという整理になる。 また、単独新設分割のように、物理的に組織再編成の直前における発行済株式を保有する関係を要求することができない場合については、その関係が要求できる組織再編成後の完全支配関係又は支配関係の継続見込みのみを要求するという整理になる。 このように、組織再編成後において、「継続することが見込まれている」ことが必要になるが、どのような場合に「見込まれている」と判断することができるのかという点が不確定概念となっている。 この点につき、「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」(日本租税研究協会)84頁において、平成12年10月11日開催分の質疑応答として、「後発事由によって企業グループ外となったときに、組織再編成時に遡って特例の適用を否認する仕組みにすることは、基本的には考えていません。但し、一定の場合には株式の継続保有期間を設けることとした方が良いとの意見もありますので、検討中です。」と記載されている。 組織再編税制は平成13年度税制改正により導入されたものであり、上記の質疑応答は組織再編税制を検討している段階のものである。すなわち、実際には、但書きにあるような株式の継続保有期間は設けられていない。 このように、完全支配関係又は支配関係の継続期間ではなく、組織再編成時の見込みで判断するという不確定概念を用いた理由としては、完全支配関係又は支配関係の継続期間で税制適格要件の判定を行ってしまうとそれを逆手に取った租税回避行為が行われるという点と、後発事象による完全支配関係又は支配関係の消滅を税制適格要件に影響させてしまうと組織再編成時の実態と異なる課税関係が構築されてしまうことを避ける点にあったと言われている。   2 実務上の留意点 それでは実際の運用はどのように行われているのかというと、東京国税局調査第一部特官付主査であった五枚橋實氏は、「租税研究2004年8月号」(日本租税研究協会)61頁において、「100%保有関係が継続するかどうかは合併等のときに判断することになり、後発事由で決まったことについては当然ですが、その合併時だとか、或いは会社分割時にはわからないことでございますので、その後発事由に係るものは、基本的に適格か非適格かには関係がないことお答えしました。」と解説されており、組織再編成時における見込みで判定することが明らかにされている。 すなわち、組織再編成の検討段階や合併契約書等の作成段階で判断するのではなく、組織再編成の日で判断するということになるため、検討段階では完全支配関係又は支配関係が継続する見込みであったけれども、組織再編成の日においては完全支配関係又は支配関係が継続することが見込まれていなかった場合には、非適格組織再編成として取り扱われることになる。 さらに、同頁において、「ここで注意していただきたいのですけれども、大きな会社になればなるほど、合併などの組織再編成というものは、株価にも影響しますし、その決定はトップが秘密交渉で決められることがあるようです。そうしますと、経理担当者としては、「そんなことは全然考えてなかったのだけど」という話があって、一夜明けたら、合併することになると、先ほど言った継続保有要件を満たさなくなってしまう場合があります。」と解説されている。 このように、会社の判断として組織再編成の日に見込まれていたかどうかという点が問題になることが明らかにされているが、実務においては、どの段階までになれば会社の判断と言えるのかという点が問題になりやすい。 すなわち、条文の解釈としては、組織再編成の日における見込みで判断するということはそれほど解釈が分かれるところではないと考えられるが、例えば、後発事象により売却が行われるような場合には、①どのレベルまでであれば「継続することが見込まれている」と言えるのか、②社内における機関決定としてどのレベルまで行われていれば「継続することが見込まれていない」と判断することになるのかが、実務においても見解が分かれるところである。 この点において、拙著『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(稲見誠一、佐藤信祐共著、中央経済社)88頁において、「しかしながら、前述のように、譲受人が特定されていないような場合において、P社によるA社に対する完全支配関係が継続する蓋然性が高いときは、「譲渡する見込みがない」ということで差し支えないと考えられるため、①事業計画または財務戦略が、A社株式を譲渡しないという前提で立てられており、かつ、②A社株式の譲渡に係る交渉が合併後に始まったという社内文書が作成されており、これらの証拠書類が真実に基づいて作成されているのであれば、実務上、「A社株式を譲渡する見込みがあった」ものとして否認すべきではないと考えられます。」と解説した。 具体的には、組織再編成の日における確定的な事項のみで判断し、値段次第では売りたいと思っているとか、譲受人を探しているというレベルであれば、結果として、完全支配関係又は支配関係が継続しなくなったとしても、後発事象として取り扱われることになる。もちろん、譲渡ができなければ清算をするという意思があるのであれば、いずれにしても、完全支配関係又は支配関係が継続しなくなるため、非適格組織再編成として取り扱われることになろう。 このように、実務上、後発事象なのか否かについては、意思決定機関の状況、相手との交渉経緯その他の状況を総合的に勘案しておく必要があるため、何月何日にどのような社内手続、社外との交渉が行われたかどうかというのは記録に残しておく必要があるし、E-mailの受信内容、送信内容についても税務調査においては有効な証拠資料となり得る。 いずれにしても、実務上は、かなりの不確定概念の要素が含まれる内容であるという点に留意が必要になる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/02/21

平成26年1月から施行される「国外財産調書制度」の実務と留意点【第3回】

平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第3回】   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (第1章 制度の概要・1-3 制度創設の背景) (3) 国外財産報告制度の実効性の裏付けとなる他制度の整備 これまで述べてきたように、国税当局にとって居住者が保有する国外財産を把握することについては、質問検査権の及ぶのが日本の領土内に限られるという制約があり、租税条約による情報交換にも限界があるという問題があった。 このままでは、居住者に国外財産報告義務を課しても、正確性をチェックする手段がないのでは実効性がなく、“画に描いた餅”にならざるを得ない。 ところが、最近のタックス・ヘイブン諸国との情報交換協定の締結の進展や、租税条約の情報交換規定の見直しによる実効性の確保の動きが目覚ましく進展したことなどにより、脱税の防止に対する国際間の協力体制が急速に整備されてきたことで、状況が変化しつつある(詳細は下記イで述べる)。 また、国外送金調書制度により、国税当局は、一般の金融機関を使って海外送金した場合には、1回の送金で100万円以上のものについては、金融機関から自動的に情報を入手できる仕組みができている。 外国に資金が出て行った後に、それがどのように使われたかは国税当局には分からないが、海外送金された事実がつかめていれば、あとは税務調査によって追跡する余地は残されており、実際に国外送金調書は国外財産に係る申告漏れを把握する端緒として顕著な活用効果を示しているようである。 また、仮に国内における調査では外国での使途が追跡しきれなくても、その仕向先の銀行口座の所在地国政府と日本政府の間で租税条約又は租税情報交換協定が締結されていれば、当該外国政府の税務当局に対して、流出した資金のその後の足取りを調査してもらうことも可能となる。 相手先を特定しない情報交換要請はできないこととされており、仕向先の銀行名しか分からない場合は情報提供要請はできないが、国外送金調書は相手先の口座名義人の名前が書いてあるので、口座の動きに関する情報提供要請をすることができる。 こうした国外送金調書の制度により、資金のフローの情報が得られるという保障があるからこそ、国外財産調書によるストックの報告制度が有効な情報となり、納税者の自主的コンプライアンスが期待できるようになったと言えるであろう。 国外送金調書の詳細については、下記のロ(次回)で述べる。 イ 政府間の情報交換制度の発展 租税条約の正式名称が「二重課税の回避と脱税を防止するためのA国とB国の間の条約」となっていることにみられるように、租税条約は脱税を防止することを1つの目的としており、そのために情報交換に関する規定を盛り込んでいる。 我が国の租税条約も、すべての条約で情報交換規定がある。 情報交換規定が実効性あるものであるためには、相手国から情報提供要請があった際に、我が国の税務当局が我が国の国民に対して質問検査権を行使し、情報を収集できることが法的に可能でなければならない。 任意ベースの情報収集しかできないのでは、相手が協力的でない場合には情報を入手することはできないため、実効性を確保できない。 しかし、実際には、自国にとって情報交換に応ずることによる明確な利益がない場合には、我が国のリソースを使って、我が国の国民に対して公権力を行使して情報提供を半ば強制することは問題があるのではないかとの意見があった。 このため、外国からの情報交換要請に応えるために、質問検査権を行使することができなかった。 また、我が国をはじめ先進諸国はタックス・ヘイブン諸国とは租税条約を結ばない方針を基本的に採用していたため、先進国の資金がタックス・ヘイブンに流出していることに対する問題意識はあったものの、そうした諸国に情報提供を積極的に求めるという動きはなかった。多くの関係者は、はじめから諦めていたと言ってもよいかもしれない。 こうした状況が変化したのは、2008年に発覚した2つの国際的な脱税事件である※1。 ※1 米国上院スタッフレポート「Tax haven banks and U.S. tax compliance」(2008年7月17日)   1つは2008年2月にリヒテンシュタインの王室が所有するLGT(リヒテンシュタイン・グローバル・トラスト)銀行の元従業員が、1,400名の顧客情報を外国情報機関に売り渡した事件である。 ドイツ税務当局は、このうち600件から700件の自国納税者関連の口座情報を500万ユーロで購入した。そして、税務調査を行った結果、その中の1つが、ドイツの有名企業のトップが複数の口座を用いて100万ユーロの脱税を行っていたとして逮捕される事件に発展した。 我が国でもドイツ当局から提供された情報により、某私立大学の元総長の相続に関係して15億円の相続財産の申告漏れの指摘につながっている※2。米国IRS、イタリア、フランス、スペイン、豪州当局も、同様に口座情報に基づく調査を行ったようである。 ※2 日本経済新聞2010年11月4日   もう1つは、UBS AG事件である。2007年までUBS銀行の行員であったBradley Birkenfeldが、上院調査局の職員に対して、UBSの行員であったときに米国市民である顧客との取引に関係した広範囲に及ぶ問題について情報を宣誓供述したという事件である。 その後Birkenfeldは2008年に、顧客であった米国市民Igor Olenicoffと共謀して2億ドルの資産をオフショア口座に隠し、7.2百万ドルの税を免れたとの容疑で米国に逮捕さた。 議会の調査に対してUBSは約20,000件、金額にして179億ドルの米国市民である顧客の口座を管理しており、そのうち約19,000件がQI(適格仲介)制度による報告をしていないUndeclared accountであると認めた。 その後、米国課税当局がUBS銀行に対してすべての米国人顧客の情報開示を求めるJohn Doeサモンズ(名宛人氏名を特定しない召喚状)の発行をフロリダ州の地方裁判所に訴えて認められた。召喚状は発行されたが、UBSは顧客情報を開示することはスイスの法律で禁止されているとして拒否したため、その執行をめぐって米国政府とスイス政府の間の外交交渉が行われた。 最終的には2010年に米国とスイスとの間の租税条約を改正し、スイスが米国に米国人顧客の情報を提供する形で決着した。 UBSは2009年に刑事訴追を免れる見返りとして、4,000人分以上の口座名義者情報をIRSに提供し、和解金として7憶8,000万ドルを支払った※3。 ※3  New York Times, 2012年9月11日‘Whistle-Blower Awarded $104 Million by I.R.S.’   Birkenfeldは40ヶ月の禁固刑に処せられたが、IRSは内国歳入法7623条に基づいて、情報提供者に対する報奨金として、Birkenfeldに1憶400万ドルを支払うことを決定している。 UBSから口座情報の提供を受けた後、IRSは調査を開始する前に、米国市民が国外財産の開示漏れがあることを認めた場合にはペナルティを軽減するとのタックス・アムネスティ・プログラムを発表した。IRSの発表によれば、この結果33,000人以上が未報告の国外財産を保有していることを認め、修正申告とペナルティにより50億ドル以上の税収が上がった※4。 ※4 Wall Street Journal, 2012年9月11日 ‘Whistleblower Gets $104 Million’   こうした動きと並行して、OECDの租税委員会において、情報交換に関する「国際的に合意された租税基準」と呼ばれる新しい情報交換の基準が形成された。 その特徴は、 である。 このような新基準が国際社会に受容された背景には、さらに2008年秋以降、リーマンショックに端を発した世界的な金融危機が発生し、金融システムの安定化などの観点からも、不透明な資金の流れが国際社会の中で問題視されるようになったことがあった。 2009年4月に開催されたG20サミットにおいて「銀行機密の時代は終わった」との宣言が発せられ、その後、OECD新基準による情報交換規定の見直しや、タックス・ヘイブン国との間の多数の情報交換協定が締結されるに至っている。 我が国も、主として2005年以降の租税条約の新規の締結・既存条約の改正において、情報交換に際しての、自国の課税利益による制限の撤廃及び金融機関保有情報へのアクセス、という点を明記するようになっている。また、バミューダ、バハマ、ケイマン諸島、マン島、ジャージー、ガーンジー、リヒテンシュタイン※5といったタックス・ヘイブン国との間で、情報交換協定を締結している。 ※5 サモア独立国との情報交換協定は2012年9月4日に基本合意に達している。   したがって、我が国において調査を行った結果、これらの国に所在する金融機関や会社との間での送金や取引の内容について不審な点があれば、相手国の税務当局に対して、疑問点の解明するための情報収集を要請することができるようになっている。 スイスも以前は銀行秘密を盾に銀行口座情報は提供しなかったが、以上に述べたような国際的な動きの中で方針転換を余儀なくされ、租税条約改正に応じるようになった。 その結果、日本との条約も改正され、日本の課税当局がスイス税務当局に対して、日本の納税者のスイスにある銀行口座の情報を要請することも可能となっている。日本・スイス間の租税条約を改正する議定書は2011年12月1日に発効しており※6、改正後の規定による情報の交換は、2012年1月1日以後に開始する各課税年度について認められることとなっている。 ※6 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/sy231201sw_1.htm   (了)

#No. 7(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/21

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第7回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第7回】   弁護士 木村 浩之   6 認定賞与 (1) 認定賞与の意義 認定賞与は、税法上の用語ではなく、実務上の用語であるが、役員に対して供与されたとみられる金銭又は経済的利益について、役員給与として処理がなされていない場合に、課税当局がその経済的利益の供与等を実質的に役員に対する賞与と認定する場合を「認定賞与」と呼んでいる。 具体的には、本来役員個人が負担すべきものを法人が負担している場合、法人と役員との間で無償又は役員に有利な対価で取引がなされた場合、売上除外金や使途不明金などが役員個人に帰属する場合などで、役員がその役員たる地位に基づいて実質的な利益を享受したとみられるときに、賞与と認定されることになる。 なお、利益の享受が役員としての地位に基づくものではない場合(例えば、株主としての地位に基づく場合)は、賞与(給与所得)ではなく、その実質に応じて、配当所得などと認定されることになる。 税務調査等において役員賞与の認定がなされた場合には、法人税の損金算入が認められないのみならず、給与所得の源泉徴収が必要となることから、法人にとって相当の負担になることが多く、実務上、問題となりやすいといえる。 以下では、認定賞与が問題となる典型的な場合を取り上げ、関連する論点について整理することとしたい。 (2) 役員の親族等に対する利益の供与 同族会社などにおいては、役員たる経営者が自己の親族等に経済的な便宜を図るために、法人を通じて、贈与などの無償行為により、経済的利益を享受させる場合がある。 その場合、形式的には、法人から直接その親族等に利益供与がなされることになるが、実質的には、その役員が法人を通じて利益供与をしたともみられるため、その経済的利益が誰に帰属するかが問題となる。 考え方としては、まず、法人から経済的な利益を受ける者自身に法人との間で雇用関係がある場合があり、その場合は、一般に、その者自身が使用人としての地位に基づいて利益を享受したとみられることが多いといえる。したがって、その場合は、役員ではなく、正にその者自身に対する給与と認定されることになる。 これに対して、法人から経済的な利益を受ける者自身には法人との間で特段の関係がない場合があり、その場合は、その者が法人から利益供与を受ける実質的な理由は何もないのであり、法人を通じて利益供与をした役員がその経営者たる地位に基づいて実質的な利益を享受したとみられることから、その役員に対する賞与と認定され得ることになる。 この場合、最終的に利益を受ける者については、その役員から贈与を受けたものとみなされることになる。 (3) 法人役員間の取引 法人が役員との間で無償又は役員に有利な対価で取引をした場合、本来受けるべき対価(時価)との差額に相当する部分が、その役員に対する賞与と認定され得ることになる。 もっとも、無利息又は低利息での貸付けや無償又は低廉な賃料による賃貸借の場合など、定期的に役員に対して供与される経済的利益がおおむね同額とみられるものについては、賞与ではなく、定期同額給与として損金算入が認められることになる(3(6)ウ(【第4回】)参照)。したがって、この場合は、法人税の計算には特段の影響はなく、給与所得の源泉徴収のみが問題とされることになる。 (4) 使途不明金 法人が支出した金銭について、それが法人の必要経費として費消されたものか、あるいは、個人的に費消されたものか不明な場合がある。 その場合、役員が個人的に費消したものと認められない限りは、その役員に対する認定賞与とはならないのが原則である。 もっとも、役員の場合は、会社に対する善管注意義務を負っており、会社資金を適切に管理運営する責任があることから、使途不明金については、役員の会社に対する損害賠償責任を生じさせる場合もあり得ると解される。 そこで、役員の支配下にあったとみられる金銭につき、それが会社の必要経費であるとの合理的な説明ができないものについては、その役員が会社に返還を約束するものでない限り、賞与と認定される可能性が高いといえる。 なお、ここでいう会社に返還を約束するものであるかどうかというのは、事実認定の問題であるが、実務上は、借用書(金銭消費貸借契約書)などの書面を作成することにより、役員に対する貸付金として処理することが多いといえる。 その場合の利息については、第三者間取引における適正な利率を設定する必要があり、一般には、市中金利等と比較し、役員個人の返済能力等も加味した上で、合理的な利率を認定することになるが、実務上は、法人から役員個人の貸付けについては、通達基準(所基通36-49)や民法所定の法定利率(民法404条)に準じて、年4%~5%程度とされることが多いといえる。 (5) 債権放棄(債務免除) 法人が債権放棄(債務免除)をする場合には、そのことによる経済的利益の供与が問題となる。役員に対する債権を放棄した場合は、通常、賞与と認定されることが多いと解される。 これに対して、第三者に対する債権を放棄した場合は、通常は、役員に対する賞与と認定されることはない。もっとも、その第三者が役員の親族等である場合には、前記(2)でみたとおり、その役員に対する賞与と認定される場合があり得る。 第三者の支払能力の問題から、やむを得ず債権放棄に至った場合には、貸倒損失として損金算入が認められる余地があると解されるが、問題となるのは、当初からその第三者の支払能力に問題があった場合である。 そのような場合、第三者に対する貸付けそのものが役員の善管注意義務違反であり、貸倒損失に相当する損害を補てんする責任を負うことにもなり得る。 したがって、この場合は、前記(4)と同様の考え方により、法人として役員に対して損害の補てんを求めないのであれば、貸倒損失に相当する金額については、役員に対する賞与と認定され得るものと解される。 なお、ここでも、役員に対する貸付処理は認められる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#木村 浩之
2013/02/21

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第11回】税率変更の問題点(10) 「経過措置に関する注意点(その1)」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第11回】 税率変更の問題点(10) 「経過措置に関する注意点(その1)」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   今回の税率改正は、平成26年4月1日から8%、平成27年10月1日から10%に引き上げられることとなるが、施行日をまたいで継続して行っている役務提供で、その対価の額を区分することが困難な場合、指定日(8%の場合は平成25年10月1日、10%の場合は平成26年4月1日)の前日までに締結した一定の課税資産の譲渡等の場合には、施行日後に行う課税資産の譲渡等であっても旧税率を適用する経過措置の規定が、改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)の附則において定められている。 この税率変更に伴う経過措置には、具体的に以下のようなものがある。 経過措置については、平成9年の税率改正時にも上記と同様の経過措置が設けられており、内容的には、今回の経過措置も同様の取扱いになるものと考えられるが、今回の経過措置については、改正消費税法の施行令が本稿執筆時点(2013年2月18日)において発表されていないことから、平成9年改正時の内容を踏まえて確認していくこととする。   1 旅客運賃等に関する経過措置について 事業者が、旅客運賃、映画又は演劇等の入場料金等の対価の額につき前売り券として施行日前に領収した場合において、施行日後にその前売り券等に係る課税資産の譲渡等を行うときに適用する税率は、旧税率とする経過措置が以下のように設けられている。 上記規定における政令で定める経過措置の対象となるものの範囲については、平成9年の税率改正時における施行令によると、以下のようなものが該当する。 また、上記の具体的な内容としては、その平成9年の税率改正に伴う当時の改正法通達において、次のような場合が該当するとしている。 上記より、乗車券等の対価の額につき5%が適用されるのは、以下のような場合となる。 〔経過措置の適用例〕 なお、上記の経過措置は、あくまで税率に関するものであり、資産の譲渡等の時期については、原則として役務提供の完了した日となるので注意しなければならない。 したがって、資産の譲渡等の時期については、旅客については乗車等をした日となり、映画・演劇等については入場した日が売上の計上日となる。 例えば、3月決算法人で3月中に領収した乗車券等を前受金等で会計処理をした場合、翌事業年度にその前受金等を売上計上する際には、旧税率で処理することとなる。 ただし、事業者が運送収入に係る乗車券、乗船券、搭乗券等を発売した日(自動販売機によるものについては、その集金をした時)において、その発売に係る運送収入を対価とする資産の譲渡等を行ったものとすることも認められている(消費税法基本通達9-1-12参照)。 また、この経過措置の適用を受けた場合の仕入税額控除の対象となる日は、上記と同様に「役務の提供が完了した日」となることから、3月決算法人で前払処理したもののうち、この経過措置の取扱いに該当する場合には旧税率を適用することとなることから、翌事業年度の会計処理については注意が必要である。   2 電気・ガス・水道料金等に関する経過措置 電気・ガス・水道などの継続的に供給又は提供されるもので、一定期間の検針等によりその使用量を把握し、それに基づいて対価の額が確定するような場合において、その供給又は提供をした時期が施行日をまたぐ期間のときは、税率の区分をすることが実務的に難しいことから、施行日から4月30日までの間に対価の額が確定するものについては、以下の経過措置により旧税率を適用することとしている。 上記規定における「政令で定める課税資産の譲渡等」の範囲については、平成9年の税率改正時における施行令によると、以下のようなものが該当する。 また、上記規定の「特定継続供給等に係る課税資産の譲渡等」とは、施行日以後初めて料金の支払いを受ける権利が確定する日が4月30日の翌日以後となる課税資産の譲渡等のことをいうのであるが、この場合における旧税率が適用される対価の額については、以下の算式により計算した金額となる。 この取扱いは、検針等の期間が2月毎で計算される場合の水道料金などが該当する。   ※月数は暦に従って計算し、1月未満は1月とする。 この電気料金等に係る経過措置について、具体的な取扱いは以下のようになる。 なお、この経過措置についても、あくまで税率に関するものであり、資産の譲渡等の時期については、原則として役務提供の完了した日となる。 この経過措置により、平成26年4月分や5月分の公共料金等については、旧税率と新税率が混在する可能性があることから、その明細書等を確認した上で会計処理をしなければならず、注意が必要である。 (了)

#No. 7(掲載号)
#島添 浩
2013/02/21

企業不正と税務調査 【第2回】「不正のトライアングル」―不正発生のメカニズムとは―

企業不正と税務調査 【第2回】 「不正のトライアングル」 ―不正発生のメカニズムとは―   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   Dan Arielyの近著“The (Honest) Truth about Dishonesty”、櫻井祐子訳『ずる』(早川書房)は、不正の発生メカニズムに対する行動経済学の実証実験の結果と知見を集めた興味深い著作だが、その中で、「シンプルな合理的不正モデル」という合理的経済学の考え方を紹介している。 それは、「人は自分の置かれたそれぞれの状況を合理的に分析し、それをもとに不正を行うかどうかを決める」というものであり、この考え方に沿って、社会が不正に対抗する手段がとられていると説明されている。 この考え方が正しいとすれば、不正によって失うものが大きいと判断すれば、人は不正に手を染めることはない。大部分の経営者や経理責任者は、不正の発覚によって失うものの大きさを考えれば、不正を行うことはないはずだ。 しかし、本当に人は、そんなに合理的なのだろうか? アリエリー教授は、そうした疑問を解き明かすべく、大学生を使ったさまざまな実験を行い、前2作同様、人間の行動の不合理さを示す。 私たち、公認不正検査士(Certified Fraud Examinar)にとっても、合理的経済学の考え方よりは、アリエリー教授の説く不合理な人間―誰でもが不正をしてしまうものである―という観点から不正を考える方がなじみやすい。 公認不正検査士協会(ACFE)では、今ではすっかり有名になってしまった感のある、不正のトライアングルという概念を使って、不正の発生メカニズムを説明してきた。   1 不正のトライアングル 私たち職業会計人が業務にあたって常に念頭に置かなければならないのは、 「人は誰でも、ある条件がそろえば不正をする弱い生き物である」 ということである。 この条件が、アメリカの犯罪学者クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」という仮説である(下図参照)。 【不正のトライアングル】   これは、図に表した3つの心理的な要素がそろったときに、「悪いことは承知のうえで」不正行為を行うという考えである。 不正リスク対策を専門とする公認不正検査士にとっては常識となっている考え方であり、企業不正について検討する場合にも必要となる概念である。 1つ目の心理的な要素は「動機」である。 不正実行者が、横領などの犯罪をしてでも、金銭を手に入れなければならないというプレッシャー―表沙汰にできない借金、仕事の失敗、ノルマの未達、家族の病気などの他人に打ち明けられない問題を抱えていること、これが不正の「動機」となる。 2つ目の要素は「機会」である。 不正実行者が、上司や同僚に見つからずに、会社や顧客の金銭を手に入れて、問題を解決できるかどうか、また、実際に不正行為を行える技術があるか。 「不正は本人の問題=動機」だけでは成立せず、社内の不正防止体制の欠陥もまた、不正を引き起こす要素となっている。 最後の要素は「正当化」である。 不正実行者本人が「不正をしても許される」という言い訳を構築すること。会社や上司に対する怨恨は、「悪いのは自分ではなく、会社だ」という正当化につなげるだろうし、「使うのではなく、一時的に借りるだけ」という言い訳は、最初に横領に手を染める際の言い訳として、よく聞かれる台詞である。 不正行為は、これら3つの要素がすべて存在することによって発生するという認識を持ったうえで、業務に当たることが、不正発見への第一歩であることは言うまでもない。   2 不正抑止の決め手は、いかにして「機会」を減らすか とはいえ、不正のトライアングルのうち、従業員個々人の「動機」をすべて把握するのは不可能であろう。 職場に消費者金融から電話がかかってきたり、ふさぎ込みがちだったりといった変化に気づく可能性はあるが、発覚した事例では、「今から思えば」という後付けの感想になってしまいがちである。 また、不正を正当化させないために、従業員の昇給・昇格における公平性を確保する、業界水準より高い報酬を支給するといった方法も考えられるが、それでも、全従業員が不満を抱かないような処遇を行うこともまた不可能であろう。 結局のところ、企業の側としては、不正の「機会」をいかに低減するかという点に不正対策を絞るほかないのである。 例えば、出納業務を特定の従業員に任せきりにしていると、彼又は彼女に「動機」と「正当化」という要素がそろった段階で、不正=現金の横領という行為に及ぶ可能性が一気に高まる。 だがここで、出納業務を他の従業員と分担させたり、あるいは経営者自らが業務の中身を不定期に確認したりといった仕組みを取り入れると、不正リスクは一気に軽減するのである。   3 不正行為を行う人の立場になって考える もう一つ、従業員の不正を発見するうえで大事な視点が、「不正実行者の視点に立って考える」ということである。 これも公認不正検査士の間では常識のように使われる言葉であるが、“Think as a fraudster”(不正実行者の立場になって考える)というものがある。 実際に自分が不正を行うとしたら、どこに隙があるか―権限規定が不明確であったり、職務分離が徹底されていなかったり、一人の人間だけで完結できる業務があるかどうかなどを考え、その脆弱性を埋めるための施策を実現していくことが不正抑止につながるし、そうした業務内容を重点的にチェックすることによって、不正発見の可能性も高まる。   4 それでも不正は起こる 万全の不正対策というものが仮にあったとしても、費用対効果の面から実施は不可能であったり、業務の遂行に大いに支障をきたしたりして、実現可能性はかなり低いものとなるだろう。 不正対策には限界がある。であるとすれば、次に考えなければならないのは、いかに早期に発見するか、不正を発見するための仕組みの構築である。 本稿では、連載第3回となる次回において、税務調査と内部監査、外部監査の手法の相違点についての概要を述べることとし、第4回目以降に予定している「税務調査と企業不正」各論へとつなげていき、不正の早期発見のための施策を検討していきたい。   (了)

#No. 7(掲載号)
#米澤 勝
2013/02/21

税務判例を読むための税法の学び方【4】 〔第2章〕法令の解釈方法(その3)

税務判例を読むための税法の学び方【4】 〔第2章〕法令の解釈方法 (その3)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘   5 論理解釈の種類 この論理解釈の方法としていくつかあるが、大別すると、(A)言葉の範囲内での解釈方法と(B)言葉に含まれない事項についての解釈方法に分けられる。 では、それぞれについて説明していく ① 拡張解釈(拡大解釈) これは条文の文言、用語を普通の意味より拡張して解釈することである。 例えば「車馬通行止め」という立札が木造の橋の脇に立っていた際に、牛がこの橋を渡ってよいであろうか。 橋の崩落を防ぐための通行止めであるなら、この「馬」に牛も含めて解釈することになるであろう。 この、拡張解釈の典型例として知られるものに、いわゆる「電気窃盗」がある。 刑法第235条(窃盗)は「他人の財物を窃取した者は、10年以下の懲役に処する。(当時の原文はカタカナ表記)」と規定している。 この「財物」という概念は通常有体物を指すであろうが、電気窃盗犯に対して大審院は、「電流も可動性と管理可能性を併せもっており、窃盗罪の成立に必要な窃取の要件を満たすことができる。」(明治36年5月21日大審院判決)と判示した。 その後明治40年の改正で同法第245条「この章の罪については、電気は財物とみなす。」が追加されたのであるが、この判決当時は「財物」の概念を解釈で電気にまで及ぼしたのである。 なお刑法においては罪刑法定主義の観点から、類推解釈は禁止されている(詳細は後述)が、拡張解釈は許されるとされている。 というのも、刑法の文言を杓子定規に解釈しなければならないというわけではなく、法の予想しうる限度での当罰性に応じた実質的な解釈を禁じるものではないからである。 もう一つ例を挙げると、刑法第38条第3項に「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」とある。 この場合のこの「法律」とは、国会の議決を経て制定される法律、すなわち、狭義の法律に限定すべきではなく、これを法令全体として解釈すべきであろう。 税法にも同様の規定がある。 国税通則法の第10条第1項には と規定する。 また同条第2項には と規定する。 国税通則法では、租税に関する法を一括して表現するときには、「国税に関する法律」という文言を用いているが、その内容には、「命令」等も含まれる。 この国税通則法第10条で規定する期間計算の方法とか、休日・祝日の翌日を期限とみなすといった規定を、法律に規定されている限り適用され、命令で定められている場合は適用されないとするのは不合理であろう。 もっとも、税法においては、租税法律主義という基本理念があるため、みだりに拡張解釈をしてはならない。課税要件を拡張解釈するようなことは原則許されず、納税者の利益となるような場合に許されると考えるべきである。 ② 縮小解釈(限定解釈) これは条文の文言、用語を普通の意味より狭く解釈することである。 例えば、先の例の「車馬通行止め」という立札が木造の橋の脇に立っていた際に、乳母車はこの橋を渡ってよいであろうか。 また、生まれたばかりの仔馬はどうであろうか。 立札の目的から、乳母車はこの「車」には含めず、また仔馬はこの「馬」には含めないと解釈することになろう。 税法の例としては、例えば、「譲渡担保」の例が挙げられる。 「譲渡担保」とは、債権者が債権担保の目的で所有権をはじめとする財産権を債務者等から法律形式上譲り受け、被担保債権の弁済をもってその法律上の権利を返還するという形式をとる担保方法である。 この譲渡担保において、形式的には資産の譲渡に該当していても、その担保になった資産を債務者が従来どおり使用収益して、債務の利息について支払いをしているような場合に、これを譲渡と考えるべきであろうか。 そして被担保債権の弁済による法律上の権利の返還時に、再譲渡と解するべきであろうか。 これは譲渡所得課税の目的からいって、形式的には資産の譲渡に該当していても、実質的「譲渡」はないと解するのが妥当と考えられるため、譲渡担保は譲渡には含めないという縮小解釈がされるのである。 所得税基本通達33-2においては、この縮小解釈により、下記のように定めている。 (了)

#No. 7(掲載号)
#長島 弘
2013/02/21

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載7〕 株主の立場から理解する抱合株式に係る資本金等の額の計算

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載7〕 株主の立場から理解する 抱合株式に係る資本金等の額の計算   税理士 内藤 忠大   合併法人が有する被合併法人の株式のことを抱合株式という。法人税法施行令8条1項5号に合併に関する資本金等の額の計算が規定されているが、適格合併と非適格合併、抱合株式の処理など、すべての合併のパターンがここに規定されているため、非常に読みにくくなっている。 本稿では、難読の原因の一つである抱合株式に焦点を当て、非適格合併における資本金等の額の計算を理解するために必要な事柄を確認する。   (1) 抱合株式がない場合の資本金等の額の計算 資本金等の額の増加額は法人への払込額とするのが基本的な考え方である(法令8①一)。合併も被合併法人から資産・負債の移転による払込みを受けるが、資産や負債以外にいわゆるのれんも移転する。このため、払込額を資産の価額と負債の価額の差額(移転純資産価額)のみで評価することは実態に合わないが、のれんを客観的基準で金銭評価するのには困難を伴う。 そこで、非適格合併の場合は、合併法人株式などの合併対価の額を移転純資産価額(=払込額)とすることにしている。 なお、合併対価に合併法人株式以外の資産がある場合には、その資産の価額相当額は合併法人に出資されたものと扱われないため、増加する資本金等の額の計算上減算する。 抱合株式がない場合の非適格合併により増加する資本金等の額の計算を簡略化すると、次の算式〔図1〕のようになる。 〔図1〕 非適格合併により増加する資本金等の額(抱合株式がない場合)   (2) 合併法人株式等のみなし株式割当等 会社法上、抱合株式には合併法人株式などの合併対価は交付されない(会社法749①三)。しかし、法人税では、抱合株式に対して、他の株主と同じ基準で合併法人株式の割当てその他の合併対価の交付があったものとみなすこと(みなし株式割当等)としている規定が、合併法人の処理として2つある。 一つは、非適格合併の資本金等の額の計算である。 (1)でみたとおり、非適格合併による資本金等の額の計算をするためには、合併対価から移転純資産価額を決定する。現実に移転純資産があるにもかかわらず、合併対価を交付しないからといって、移転純資産価額を0とするわけにはいかない。そこで、一旦株式の割当その他の合併対価の交付をしたものとみなす(注1)のである。 (注1) 被合併法人においては、資産及び負債を時価により譲渡し、その対価として抱合株式についても株式割当等をその時の時価で受けたものとされる(法法62①)。   もう一つが、合併法人に係るみなし配当の計算である。 非適格合併により、被合併法人の純資産額相当額(資本金等の額と利益積立金額)は合併法人の資本金等の額を構成する。このことは被合併法人の利益積立金相当額の資産が被合併法人の株主へ分配され、合併法人に追加投資されたものと理解できるので、被合併法人株主はみなし配当課税される(法法24①一)。 そこで、被合併法人の株主である合併法人においても、他株主との課税の公平を図る見地からみなし配当課税をする必要があるため、交付があったものとみなす(注2)のである。 (注2) 被合併法人は、株式割当等を受けたものとみなされた対価を、直ちに株主に交付したものとみなされる(法法62①)。   (3) 合併法人株式の取得価額(一般株主) 被合併法人の株主が取得した合併法人株式の取得価額は、合併法人株式以外の合併対価の有無によって異なる。合併対価が合併法人株式のみの場合は、被合併法人株式の帳簿価額に合併によるみなし配当額を加算した金額である。合併対価に合併法人株式以外の資産がある場合は、合併法人株式の時価である。 合併法人株式以外の合併対価の有無によって取扱いが異なるのは、株主の投資の継続性が認められるか否かによるものである。 合併対価が合併法人株式のみであれば、株主の投資先が名目的に被合併法人から合併法人へ変わっただけなので投資の継続性が認められる。みなし配当額は、合併法人株式として株主に帰属する被合併法人の利益積立金相当額であるが、これを合併法人への追加出資と考え、合併法人株式の取得価額の計算上、加算する(法令119①五)。 合併法人株式以外の合併対価の交付があれば、被合併法人に対する投資が一度精算され、その後新たに合併法人へ投資したとされる。投資の精算は、みなし配当額以外の合併対価の額を被合併法人株式の譲渡対価とする、株式譲渡損益課税がされることにより行われる(法法61の2①)。そして、新たな投資として、合併法人株式を時価相当額(合併対価の額)で取得したものとして取り扱う(法令119①二十六)。   (4) 合併法人株式の取得価額(合併法人) 抱合株式には合併法人株式は交付されないことは(2)で述べたとおりであるが、もし合併法人株式が交付されたとしたならば取得価額はどのように計算されるのだろうか。合併法人にとって合併法人株式は自己株式であるため法人税法上の有価証券ではないが、有価証券とみなして(3)に準じて計算できる。 つまり、合併対価が合併法人株式のみであれば、被合併法人株式の帳簿価額に合併によるみなし配当額を加算した金額になる。合併対価に合併法人株式以外の資産がある場合は、株式譲渡損益課税がされた上で、合併法人株式の時価が取得価額とされるであろう。しかし、平成22年度改正により株式譲渡損益課税はされなくなり(注3)、合併によるみなし配当課税だけ行われる。 (注3) 平成22年度改正前は、株式の譲渡損益課税のため抱合株式に対するみなし株式割当の規定があった(旧法法61の2③)が、改正後は被合併法人株式の帳簿価額相当額を譲渡収入とすることになり譲渡損益は計上しないこととされた(法法61の2③)。 これは、株主において投資の精算が行われていない状態なので、被合併法人株式の帳簿価額にみなし配当額を加算した金額が取得価額とされるであろう。   (5) 自己株式を取得した場合の資本金等の額と抱合株式の関係 ところで、自己株式を取得すると、譲渡をした旧株主においてみなし配当課税がされる場合(法法24①四)とその取得が一定の取得請求権付株式に係る請求権の行使によるものである場合等(法法61の2⑬一~三)を除き、自己株式の取得対価等を資本金等の額から減算することとされている。 (2)でみたように、合併による資本金等の額の計算上は抱合株式にも合併法人株式を交付したものとみなされるので、これに対応して合併法人は自己株式を取得したものと考えるべきである。この自己株式の取得についてはみなし配当課税はされず(注4)、また、法人税法61条の2第13項1号から3号の取得ではないため、(4)で計算した取得価額相当額が資本金等の額の計算上減額されるはずである。 (注4) (2)の合併法人株式が交付されたとみなされることによるみなし配当は、法人税法24条1項1号であり、4号によるみなし配当課税はされない。 そこで、抱合株式がある場合の非適格合併により増加する資本金等の額の算式〔図2〕をみれば、抱合株式の帳簿価額とみなし配当の額の合計額(自己株式の取得価額相当額)が減額されていることが確認できる。 つまり、抱合株式は、合併による資本金等の額の計算上、自己株式として減額要素となっているのである。 〔図2〕 非適格合併により増加する資本金等の額(抱合株式がある場合)   ※この算式は、〔図1〕に抱合株式対応部分(黄色の部分)が加えられたものである。   (6) 結論 以上見てきたように、資本金等の額の計算では抱合株式の株主(合併法人)への合併対価の交付を前提とした計算構造となっていることがわかった。つまり、法人税法施行令8条1項5号を理解するためには、 が計算に含まれていることを認識する必要がある。 (了)

#No. 7(掲載号)
#内藤 忠大
2013/02/21
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