《速報解説》 退職給付に関する会計基準適用に伴う 「税効果会計に関するQ&A」の改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年2月7日、日本公認会計士協会は、「『税効果会計に関するQ&A』の改正について」を公表し、同Q&AにQ15を追加する改正を行っている。 これは、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に対応するものであり、平成24年12月10日から平成25年1月9日までの間、公開草案として意見募集がなされていた。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりであり、公開草案から大きく変わるものではない。 Ⅲ 公開草案からの主な改正点 公開草案から一部修正が行われている。 これは、公開草案に寄せられた意見を反映したものと思われる。 「(3) 回収可能性の見直し時の会計処理」において、公開草案では繰延税金資産を計上したり、取り崩したりする場合の相手勘定について特段の記載が行われていなかった。 確定したQ&Aでは、「(略)まず、個別財務諸表における退職給付引当金について法人税等調整額を相手勘定として繰延税金資産を計上します。これに加え、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異について回収可能性があると判断される場合には、当該一時差異についても一部又は全額の繰延税金資産を退職給付に係る調整額を相手勘定として計上することになるものと考えられます。」との記載が行われている。 これにより、会計処理がより明瞭にされたものと思われる。 また、過年度において回収可能性があると判断されていた繰延税金資産について、回収可能性がないと判断された場合の会計処理方法については、「個別財務諸表における退職給付引当金に係る将来減算一時差異が優先して解消するものとして繰延税金資産の額を算定することになります。」として、個別財務諸表上の取扱いが優先することについて述べられている。 (了)
《速報解説》 「『監査人の交代』の改正」 (公開草案)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年1月29日付けで、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書900『監査人の交代』の改正について」(公開草案。以下「公開草案」という)を公表し、意見募集を行っている。原文は日本公認会計士協会のホームページから入手することができる。 意見募集期間は平成25年2月28日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な改正点 公開草案は、主に次の事項を改正している。 Ⅲ 実務上のポイント 現行の16項では、前任監査人は、監査人予定者及び監査人からの監査調書の閲覧請求に対しては、誠実に対応しなければならないとされている。 公開草案の15項では、前任監査人は、監査人予定者及び監査人に対して以下の監査調書の閲覧の求めに応じなければならないとされている。 公開草案14項に規定している項目に関連する監査調書 期首残高に関連する監査調書 前任監査人が監査人予定者又は監査人に伝達する事項には、監査の過程で前任監査人が識別した以下の重要な事項が含まれる(公開草案A7,新設)。 現行のA7項では、閲覧に供する監査調書には、例えば、リスク評価手続及びリスク対応手続の実施結果(最終的な意見形成の判断過程を除く)、その他会計や監査に関する重要な事項に関する監査調書が含まれるとの記載がある。 公開草案のA9では、閲覧に供する監査調書の範囲には、リスク評価手続及びリスク対応手続の実施結果、公開草案15項の重要な事項に関する監査調書が含まれ、例えば、識別したリスクの内容、実施した個々のリスク対応手続の結果とその結果の評価から導かれた結論を記載した監査調書、監査結果の取りまとめの監査調書(例えば、監査で識別した未修正の虚偽表示の一覧や内部統制の不備の一覧等)が閲覧の対象となるとしている。 このように、公開草案では監査人の交代時における詳細な規定が設けられており、監査業務の引継ぎに際しては、実施漏れのないように注意が必要と思われる。 Ⅳ 適用時期等 平成25年10月1日以後に行われる監査人の交代から適用することを予定している。 公開草案は、監査における不正リスク対応基準(仮称)の適用対象となる監査だけではなく、監査基準委員会報告書が適用されるすべての監査業務における監査人の交代に適用することを想定している。 (了)
《速報解説》 「年金資産に対する監査手続に関する 研究報告」(公開草案)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年2月1日付けで、日本公認会計士協会は「年金資産に対する監査手続に関する研究報告」(監査・保証実務委員会研究報告 公開草案。以下「研究報告案」という)を公表し、意見募集を行っている。原文は日本公認会計士協会のホームページから入手することができる。 意見募集期間は平成25年2月21日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告案の目的 研究報告案は、以下の論点を扱っている。 Ⅲ 実務上のポイント 「Ⅲ 企業年金の運営形態と運用の仕組みの理解」において、次のものが記載されている。 企業年金の仕組みを理解するうえで、実務上、有益と思われるので、ぜひ、公開草案本文をお読みいただきたい。 「Ⅳ 本研究報告の対象範囲」では、国内外の上場株式や債券など、市場が存在し流動性が高く、評価も容易に可能な資産への投資に対し、いわゆるオルタナティブ投資(代替投資)と呼ばれる資産運用においては、ハイリターンの可能性はあるものの、運用リスクが高く、運用される資産の流動性が低く、客観的な時価による評価が容易でない場合があると述べられている。 ヘッジ・ファンド、非上場株式やそのファンドなど(これらのシングルファンドのみならず、ファンド・オブ・ファンズの場合もある)を投資対象とし各種デリバティブを活用する等によりリターンの向上が期待できる一方で、投資スキームが複層的になる等複雑で流動性や換金性に乏しく、客観的な時価による評価が容易でなくなり、一般に運用リスクは高くなる等の傾向がある。また、私募投資信託の仕組みを利用するなど、運用対象に係る情報入手が困難な場合も考えられる。 そして、このような実在性及び評価の妥当性の観点から監査リスクが高いと思われる運用対象は、年金資産受託機関が運用・資産管理を直接行っている一般勘定や合同運用口よりも、年金基金等の個別のニーズに応じて運用方針や組入銘柄等を決定することができる特別勘定第二特約や直接運用、年金特定信託契約などによる運用において見られると述べられている。 このため、企業年金の仕組みを理解するとともに、リスクの高いと思われる運用対象について、「Ⅳ 本研究報告の対象範囲」をお読みいただき、会社自身も十分に理解する必要があると思われる。 Ⅳ 適用時期等 研究報告であるので、特段の適用時期については規定されていない。 ただし、「退職給付に関する会計基準」の適用時期との関係があり、「留意事項:本研究報告における監査手続等の利用に当たって」において次のように述べられている。 (了)
《速報解説》 平成25年税制改正大綱における 「金融・証券税制」改正のあらまし③ ―割引債の課税方式― 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 平成25年度税制改正大綱において、金融所得課税の一体化の拡充の一環として、割引債の課税方式についても根本的な改正が行われることになった。 2 現行制度 特定の割引債の償還差益については、割引債を発行するときに原則として18%の税率による源泉分離課税が適用され、源泉徴収だけで課税関係が終了する。中途売却時の譲渡益は非課税とされる。 対象になる割引債とは、割引の方法により発行される公社債で、次の①~③に該当するものである。 金融商品の税率は20%とするものが多いが、割引債については発行時課税ということで、早いタイミングで課税することから、20%より若干低めの18%とされている。 3 改正の内容 (1) 割引債の課税方式等 平成25年税制改正大綱に盛り込まれた金融所得課税一元化において、公社債の譲渡所得等を課税対象とすることにあわせて、割引債についても平成28 年1月1日以後に行う償還及び譲渡による所得については、譲渡所得等として20%(所得税15%、住民税5%)申告分離により課税することとなった。 それに伴い、発行時の18%源泉徴収を適用せず、償還時に源泉徴収(特別徴収)をすることとされた。 所得税には復興特別所得税が上乗せされるため、15.315%となり、住民税とあわせると20.315%となる。 ただし、平成27 年12 月31 日以前に発行された割引債でその償還差益が発行時に源泉徴収の対象とされたものについては、償還差益に係る18%(復興特別税とあわせて18.378%)源泉分離課税を維持し、譲渡による所得は非課税とする。 (2) 割引債の範囲 償還金が源泉徴収の対象となる割引債は、次のものとする。 (3) 源泉徴収等 平成28 年1月1日以後に発行される割引債については、発行時の18.378%源泉徴収を適用しないこととし、これに代わり、個人、普通法人等以外の内国法人、及び外国法人に対して支払う割引債の償還金については、次のとおり所得税の源泉徴収及び住民税については特別徴収を行う。 その割引債の償還の際、償還金額(支払金額)にみなし割引率を乗じて計算した金額に対して、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)又は15%(外国法人の場合)の税率による源泉徴収(特別徴収)をする。みなし割引率は、次のとおりとする。 〈(国内)一般の割引債の課税方式等の改正〉 ※画像をクリックすると拡大します。 (注1) 平成25年1月1日から復興特別所得税2.1%が基準所得税に課されるため、所得税15%、住民税5%の場合、源泉徴収及び特別徴収分を合わせて20.315%となる。 (注2) 償還金が源泉徴収の対象となる割引債は、割引の方法により発行された公社債(いわゆる金融債のうち預金保険の対象となっているものを除く)、ストリップス債、及びディスカウント債とする。 (注3) みなし割引率は、発行から償還日までの期間が1年以内のものは0.2%、1年超のものは25% (了)
《速報解説》 平成25年税制改正大綱における 「金融・証券税制」改正のあらまし② ―金融所得課税の一元化― 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 平成25年度税制改正大綱における金融・証券税制に係る改正の目玉は「日本版ISA」と「金融所得課税の一体化」である。 前者は少額投資に対する非課税措置ということで減税となる改正であるが、後者は現行非課税である公社債の譲渡益に対して20%の申告分離課税を行うという増税措置を含むものであること等から、1,700億円の増税となることが見込まれている。 2 金融所得課税一元化が必要とされる理由 現在の制度では、上場株式等、公社債等、預金、デリバティブ等の異なる金融商品間の損益通算の範囲が制限されていることや、公社債等と上場株式等の課税方式に差があることで、投資家が多様な金融商品に投資しにくい状況にある。 たとえば、公社債の譲渡益は経過利子の反映であるとの考え方に基づき現在は非課税とされているが、その反面、譲渡損失はないものとみなされている。 しかし、実際には公社債も、市場価格の変動により譲渡損益が発生する。 また、社債等がデフォルトして無価値化してしまった場合の損失は、税務上考慮されていないといった問題がある。 以上のような問題意識から、金融商品課税の一元化の必要性が議論されているところである。 3 改正の内容 今回の大綱においては、以下の改正を行うとしている。 ① 公社債を特定公社債(注)と一般公社債に区分し、 ・特定公社債の利子所得については、現行の20%源泉分離を廃止し、20%申告分離課税と、源泉徴収で課税関係終了の選択を可能とする。 ・特定公社債の譲渡所得については、現行の非課税対象から除外し、20%の申告分離課税の対象とする。 ・一般公社債は、利子は20%源泉分離課税維持、譲渡所得は20%申告分離課税の対象とする。 (注) 特定公社債とは、国債、地方債、外国国債、外国地方債、公募公社債、上場公社債、平成27年12月31日以前に発行された公社債(発行時に源泉徴収された割引債を除く)などをいう。 ② 特定公社債の利子・譲渡損益(デフォルト損失を含む)と上場株式等の配当・譲渡損益との損益通算を可能とする。翌年以降3年間の繰越控除を可能とする。なお、特定公社債の利子・譲渡所得についても、特定口座で取り扱えるようにする。 〈公社債・株式に関する所得課税の概要〉 ※画像をクリックすると拡大します。 (注) 復興特別所得税の加算:平成25年から平成49年までは基準所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課される。国税と住民税合わせて10%の税率である場合、国税分が7%であるため、国税と住民税を合わせた税率は10.147%となる。同じく20%である場合、上場株式については国税分が15%であるため20.315%となるが、非上場株式の配当は国税20%であるため、20.42%となる。 (了)
《速報解説》 平成25年税制改正大綱における 「金融・証券税制」改正のあらまし① ―日本版ISAの創設― 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 平成25年度税制改正大綱における金融・証券税制に係る改正の目玉は「日本版ISA」及び「金融所得課税の一体化」である。 その目的について、大綱(与党大綱)では以下のように述べている。 本稿では、その日本版ISAについて解説する。 ISAという呼称は、英国のISAs(Individual Savings Accounts)を参考にしたことによる。 正式には、「少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」という。ISA専用の個人口座の中で保有する上場株式や投信信託の配当・譲渡益を非課税とするもので、「証券マル優」とも呼ばれる。 制度自体は麻生内閣の時にすでに法制化され、平成26年1月から施行されることとなっていたものである。しかし、金融庁から、使いにくい点があるとして内容の改正要望が出ていた。 今回の改正では、内容を変更したうえで、予定どおり平成26年1月1日から施行されることになる。 2 改正の内容 改正前は、平成26年から毎年100万円まで3年間に行われる上限300万円までの投資について、10年間は非課税運用ができるが、10年経過後は課税となるという時限措置となっていた。 それが改正後は、毎年100万円まで5年間に行われる上限500万円までの非課税投資について、5年経過した各年分の非課税投資枠は6年目の非課税枠として使えることとなった。 たとえば、2014年に100万円の非課税投資を行った場合、5年経過後の2019年には2014年分の非課税枠は消えるが、100万円の投資資産は、新たに生じた2019年分の100万円の非課税枠に移すことにより、制度終了が予定される平成35年末まで、非課税投資を続けることができる。 手続面でも改善がなされた。 改正前は毎年新たなISA口座を作る必要があったが、改正により、同じ口座であれば引き続き使えることとなり、投資家にとって使いやすいものになる。 対象商品の範囲についても、改正前は株式関連商品だけであったが、債券や公社債も対象となっている。 株式投資はリスクが大きく、老後のための生活資金を預けるのは怖いと考える向きは多いであろうが、債券・公社債のような比較的価格変動リスクが小さい金融商品が対象になったことで、ISAに魅力を感じる層の裾野が大きく広がったといえるだろう。 現行の少額貯蓄に対する非課税優遇制度には、障害者向けにはマル優・特別マル優があり、勤労者で勤務している会社が加入していれば財形住宅・年金貯蓄制度が使える。 しかし、加入資格者は限られている。 ISAにはそうした加入者の資格制限がなく、国民の約8割が潜在的な対象者となるといわれている。 日本ではリーマンショック以来の株価の値下がりで痛い目に遭った記憶を引きずっているため投資に対するアレルギーがあるのか、制度に対する関心が低いように思われるが、英国では国民の5割が加入している非常にポピュラーな制度である。 口座開設は今年(平成25年)の10月からであるが、それに向けて、すでに金融機関による新規顧客開拓のための活動が始まっているようである。 ISA口座を利用する側としては、制度の内容をよく理解したうえで、個々の許容できるリスクの度合いをしっかり検討したうえで、顧客のために最適な投資ポートフォリオを構築することが必要であろう。 フィナンシャルアドバイザーや税理士など、親身になって相談にのってくれる中立の専門家のアドバイスを求めることも検討に値するだろう。 〈日本版ISA制度の拡充〉 (注) 例えば、2014年に100万円投資すると、5年経過後は100万円を上限に2019年の非課税投資枠に移すことができる。 (了)
《速報解説》 「合理的な再生計画」に基づく 経営者の私財提供に係る 譲渡所得の非課税 ─平成25年度税制改正大綱─ OAG税理士法人 税理士 奈良 雅一 1月29日に閣議決定された平成25年度税制改正大綱では、「「合理的な再生計画」に基づく経営者の私財提供に係る譲渡所得の非課税措置」について明記されている。 これは、中小企業者に該当する内国法人の取締役等である個人で、その内国法人の保証人であるものが、その個人が所有しているものを、その内国法人に係る合理的な再生計画(※)に基づき、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間にその内国法人に贈与した場合には、次の要件を満たしているときに限り、みなし譲渡益課税を適用しないこととする措置である。 これまでの措置では、経営者が保証債務の履行として金融機関に対して直接行う私財提供については譲渡益が非課税であったが、経営者が金融機関だけでなく、再生企業である内国法人に対して私財を提供した場合にも範囲が拡大されるものである。 例えば、経営者個人が所有している土地建物を、その個人が経営する内国法人が事務所・事業所等として賃借している場合において、これまでは保証債務の履行として、その土地建物を金融機関に提供した結果、その後競売等により処分され、当該土地建物を取得した第三者に対する賃借料の支払いが発生したり、使用収益するために内国法人自身が購入しなければならないケースも想定された。 しかし今後は当該措置を活用して内国法人に贈与を行えば、経営者個人にみなし譲渡益課税が行われることなくその内国法人に所有権が移転することができるため、その内国法人自身が当該土地建物を事務所・事業所等として引き続き使用収益することが可能となり、自主的な再生に資すると考えられる。 なお、当該措置の対象となる私財は現にその内国法人の事業の用に供されている資産に限られ、有価証券は除かれることとなるため、注意が必要である。 (※) 「合理的な再生計画」とは、「一般に公表された債務処理を行うための手続きについての準則に則り作成された計画」をいい、私的整理に関するガイドライン、RCCが定める準則、中小企業再生支援協議会が定める準則等が想定されている。 (了)
《速報解説》 事業承継税制(非上場株式等の納税猶予)の 改正について ─平成25年度税制改正大綱─ OAG税理士法人 資産税部 部長 税理士 奥田 周年 後継者が相続(遺贈含む)や贈与で非上場株式等を取得した場合は、その後継者の納付すべき相続税や贈与税の納税について、一定額(注)が猶予される(措法70の7、70の7の2)。 (注) 原則として、相続の場合は発行株式総数の3分の2に対応する相続税の80%、贈与の場合は発行株式総数の3分の2に対応する贈与税の全額が限度となる。 ただし、この制度を適用するための要件が厳しく、利用者数も少ないことから、以前より改正要望があったところ、平成25年度税制改正大綱において、要件の見直し等が明記されたことから、より使いやすい税制になることが期待されている。 なお、この改正の適用時期は、平成27年1月1日以後の相続及び贈与からとなる。 主な改正ポイントを現行制度と比較すると、下記のとおりである。 (了)
《速報解説》 住宅税制(住宅ローン控除等)の 拡充・延長について ─平成25年度税制改正大綱─ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成25年度税制改正大綱には、住宅に係る各種の所得税額の特別控除について、適用期限の延長が示されている。 また、消費税等の税率改定に伴う住宅取得コストや工事費用の負担増への対応、特例の適用要件の合理化を目的とした新たな措置が講じられている。 その概要は次の通りである。 【1】 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除) 適用期間を4年延長した上、平成26年4月1日から平成29年12月31日までの期間については、消費税等の税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、対象となる借入限度額が拡充されている。 また、中古住宅の取得を対象とする特例について、その適用対象に既存住宅売買瑕疵保険に加入している一定の中古住宅が追加されている。 (1) 住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) ① 一般の住宅 ② 認定住宅*の場合 *認定住宅とは、認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。 (2) 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合(控除期間5年) *特定の増改築等をした家屋を平成26年4月1日以後に居住の用に供する場合には、特定の増改築等に係る費用の額(交付された補助金等の額控除後)が50万円(現行30万円)を超えることが要件となる。 (3) 東日本大震災の被災者等が再建住宅借入金等を有する場合(控除期間10年) *再建住宅を居住の用に供した日に基づいて適用する。 【2】 特別税額控除(借入金がない場合も適用あり) 適用期間を平成29年12月31日まで延長した上、そのうち平成26年4月1日から平成29年12月31日までの期間については、消費税等の税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、対象となる限度額が拡充されている。 また、適用対象となる工事に該当することを証する書面の証明者の範囲に住宅瑕疵担保責任保険法人が追加されている。 (1) 認定長期優良住宅の新築等をした場合 (2) 既存住宅に特定の改修工事をした場合 ① 省エネ改修工事の場合 ② バリアフリー改修工事の場合 *前年以前3年内にバリアフリー改修工事を行い、本制度の適用を受けている場合には再適用できない。 *同一年中に省エネ改修及びバリアフリー改修の両方の工事をして居住の用に供した場合の各税額控除額の合計額に対する限度額(20万円、太陽光発電装置を設置する場合は30万円)は廃止する。 *①②については、共に平成26年4月1日以後、対象となる特定の改修工事に係る工事費要件は、標準的な費用の額が50万円を超える場合となる。 (3) 既存住宅の耐震改修をした場合 【3】 住民税における取扱い 平成26年分以後の所得税において、住宅借入金等特別税額控除の適用がある者(平成26年から平成29年までに入居した者に限る)のうち、当該年分の住宅借入金等特別税額控除額から当該年分の所得税額を控除した残額がある場合については、翌年度分の個人住民税において、当該残額に相当する額を次の範囲内で減額する。 【4】 固定資産税・都市計画税の見直し 耐震改修等を行った住宅に係る固定資産税の減額措置について、次の見直しが示されている。 【5】 改正の効果 平成25年12月31日で期限切れとなる各種の住宅税制について、その適用期限を延長することにより、住宅を取得する者又は一定の工事を行う者の負担の軽減が図られる。 また、住宅の取得や工事に係る費用は一般に高額であることから、消費税等の税率引上げの前後では駆け込み需要とその後の反動が予想される。 そのため、税負担の増加による影響を平準化又は緩和するための措置として、税率が引き上げられた場合には、税額控除額が多くなるように設定されている。 例えば、本体価格3,000万円の住宅(一般の住宅)を3,000万円の借入金で取得した場合、消費税等の税率が5%から8%にアップすると、税負担は150万円→240万円へ90万円増加する。 一方で、住宅借入金等特別控除額は、年20万円→年30万円と1年当たり10万円増えるため、控除期間(最大10年)にわたって税率引上げ分の影響を緩和することができる。 (了)
《速報解説》 所得税の最高税率引上げについて ─平成25年度税制改正大綱─ 税理士 内山 隆一 平成25年1月29日、平成25年度税制改正の大綱が閣議決定された。 「成長と富の創出の好循環」の実現に向け、民間投資の喚起、雇用・所得の拡大、中小企業対策・農林水産業対策等のための税制上の措置を講じ、また、社会保障の安定財源の確保及び財政の健全化を図るため、消費税増税を踏まえた税の一体改革の実現に向け所得税、相続税及び贈与税について必要な措置を講ずることとされている。 個人所得課税においては、現行の税率構造に加えて、平成27年分以後の所得税について新たに課税所得金額が4,000万円を超える部分に45%の税率(現行:1,800万円を超える部分40%)を設けることとされており、これにより約590億円の税収の増加が見込まれる。 〔図表1〕 平成27年以後の税額速算表 〔図表2〕 改正前、改正後税額比較 我が国では、急速な高齢化が進む一方で、少子化が加速し社会保障に係る財源不足の解消をはじめとする財政の健全化が重要な政策課題となっている。 これらの財源を所得税や法人税に求めることになれば、税の公平性を充分に確保できないばかりか、景気の影響に多分に左右されることとなりかねない懸念があることから、比較的景気に左右されない税収基盤を持つことが需要となり、消費税増税に踏み切ることとなったものと考えられる。 消費税増税は、国民全体について広く均等に実施されるものであることから、ある種においては公平であるが、富裕層に比べ低所得者層に重い負担を強いることになるため、一定の富裕層について所得税の増税を行うことにより税負担の公平感を担保する狙いがあったものと思われる。 先進国における所得税及び地方税を合わせた最高税率は、概ね40%から50%に集中しており、今回の改正により、我が国の最高税率が、これまでの50%(所得税40%+住民税10%)から55%(所得税45%+住民税10%)に引き上げられることは、2.1%の復興特別所得税も考慮すると、重税感は否めないところである。 そのため、今回の増税策が国民全体としての消費の低迷、海外への人材流出や海外からの人材確保の障壁となることも少なからず懸念され、今回の増税策が経済活性化の妨げにならないようさらに慎重な議論が必要となると考えられる。 (了)