〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第3回】 「DPC/PDPSとは何か?」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 連載第2回では外来診療を取り上げたが、第3回では、診療収益の7割を支える入院の診療報酬で注目されるDPC/PDPSについて解説する。 1 DPC/PDPSとは DPC(Diagnosis Procedure Combination)は、多様な患者を臨床的な視点から分類したものであり、D(Diagnosis)は傷病名などの診断名を意味しており、P(Procedure)は手術・処置等の診療行為であり、その組み合わせ(Combination)により構成されている。 つまり、どのような病名の患者に対して、どのような診療行為を行ったかを組み合わせたものである。 このDPCは急性期入院医療の包括払いに用いられていることから、DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination Per Diem Payment System)と呼ばれているが、同質的な患者をグルーピングしているため、診療ベンチマークにも積極的に活用されており、医療の質や効率性の比較を一定程度行うことが可能となる(図表1)。 図表1 診断群分類の仕組み このDPC/PDPSは、急性期入院医療における診療報酬の評価として、2003年(平成15年)に導入され、当初は特定機能病院等82施設のみが対象とされたが、現在は1,500を超える病院が当該制度での診療報酬の支払いを受けている。 なお、DPCは大規模病院だけに適用されていると思われがちである。 確かに、2006年度DPC対象病院までは大規模病院が中心だったが、今日では中小規模の病院も多数参加している。 図表2に示すように、全体でみると200床未満の病院が3割を占めている。 図表2 DPC対象病院の病床数の現状 出所:厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会第222回をもとに作成 2 入院診療単価に占めるDPC包括部分の割合 DPCは急性期入院医療の包括評価に用いられているが、急性期病院の入院収入のすべてが包括払いというわけではない。図表3に示すように、この包括評価の範囲には、いわゆるホスピタルフィー的要素といわれる、入院基本料、検査、画像診断、投薬、注射、1,000点未満の処置料等が含まれている。 それに対して、いわゆるドクターフィー的な要素として、手術料、麻酔料、放射線療法、カテーテル検査、1,000点以上の処置料等があり、これらは出来高評価になっている。 一般的には入院診療単価が高い病院ほど包括収入の割合が低く、出来高収入の割合が高い傾向がある。 図表3 3 在院日数の短縮が入院診療単価向上の鍵 包括評価の範囲については、診断群分類ごとの1日当たり点数によって決定されている。原則的な包括評価の方法では、入院日数に応じて3段階に設定されている。 上記図表3に示すように、入院期間Ⅰは入院日数の25パーセンタイル値であり、ここまでは全国のDPC対象病院の平均点数に15%が加算され、高い入院診療単価が期待できる。また25パーセンタイル値から平均在院日数までの入院期間Ⅱは、平均在院日数まで入院した場合の1日当たり点数の平均点が1日当たり平均点を段階を設けずに設定した場合と等しくなるように設定されている。 つまり、図表3のAとBの面積が等しくなるように、入院期間Ⅱの点数は決定されていることになる。 さらに入院期間Ⅱを超えると15%の減算が行われ、平均在院日数から標準偏差の2倍を超える入院期間Ⅲを超える期間には出来高算定が行われる仕組みになっている。在院日数を短縮することが高い入院診療単価につながるので、DPC/PDPSの環境下ではクリニカル・パス等を活用しながら、在院日数を短縮する病院の取組みが評価される。 (了)
事例で学ぶ内部統制 【第13回】 「運用評価でエラーが発生した場合の 再評価時の対応」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、PLCの運用評価をめぐる3つ目のテーマとして、運用評価でエラーが発生した場合に、各企業が再評価でどう対応しているのか、その工夫の実例を取り上げる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、1回目の運用評価でエラーが発生した場合、再運用評価を行うまでの待機日数、再運用評価で抽出するサンプル件数、エラーの重要性に対応した再運用評価のあり方について意見交換を行った。 各社の創意工夫を見てみよう。 再運用評価を行うまでの待機日数の事例 議論に入る前に、用語の意義を確認しておきたい。 実施基準では、内部統制の不備又は内部統制の開示すべき重要な不備という用語が登場し、“エラー”という用語は使われていない。 実務では、音感に強い否定的な響きを持つ不備という言葉を避けて、エラーという用語が人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)している。 本稿でも、実務の慣例に従い、不備をエラーと呼ぶこととするが、その意味するところは不備と同じである。 では、1回目の運用評価でエラーが発生した場合、エラーの原因を分析して改善し、改めて再運用評価を行うまでにどれくらいの日数を空けているのだろうか。 これが、再運用評価を行うまでの待機日数の問題である。 意見交換をしてみると、参加企業の対応は、大きく3つに分かれた。 いずれも内部統制の年間スケジュール、運用評価のサンプルの対象期間、サンプル件数という他のテーマにおける対応と密接に関連していた。 総括を先取りすれば、待機日数の設定の方法が企業間で大きく異なっている。 その差は内部統制のモニタリングの根幹である運用評価のスケジュール、ひいては内部統制監査の業務負荷に影響を与える要因になる。 そこで、複数の参加企業が、「他社事例を参考に待機日数を監査法人と協議したい」と、待機日数の問題を内部統制の制度運用に関する協議の俎上に載せる考えを示した。 【パターン1】 コントロールの発生頻度毎に待機日数を決めるアプローチ 参加企業Aは、「エラーとなったコントロールが、改善され有効に運用されていると結論づけるため、コントロールの発生頻度毎に改善日後のコントロール運用期間を確保している。これが、議論になっている待機日数になる。待機日数の数え方は、コントロールの改善完了日から再運用評価の対象となる最初のサンプルが発生する最も古い日までの日数を数えている」(商社)と、その待機日数を次のようにまとめた。 参加企業Bも、「A社さんと同じように、コントロールの発生頻度毎に、改善後に一定の待機日数を確保しているが、個別の待機日数は違っている。最初の運用評価で月次や四半期次のコントロールに求められるサンプル件数が他社さんよりも多く、それぞれ3件と2件なので、エラーが発生した場合の待機日数も長くなってしまう。なお、待機日数の数え方はA社さんと同じで、起算日は改善完了日にしている」(運輸)と、次のような待機日数を確保していた。 参加企業が設定した個々の待機日数は一様でないが、いずれも1回目の運用評価で抽出するサンプル件数やサンプルの対象期間との整合性を図っていた。 【パターン2】 年間スケジュールを運用評価と再運用評価に分けるアプローチ コントロールの発生頻度毎に待機日数を決めるのではなく、内部統制の運用評価の年間スケジュールにおいて、期初から起算した一定期間を1回目の運用評価期間として運用評価を行い、エラーが発生した場合は、1回目の運用評価期間の半分以上を目安に再運用評価期間を設定するアプローチである。 この類型においても、多種多様な形態が報告された。例えば、3月決算を前提に報告された事例は次のとおりである。 参加企業Cは、「内部統制の年間スケジュールにおいて、4月から9月までを1回目の運用評価期間として運用評価し、エラーが発生した場合に、10月から12月までを再運用評価期間としている。10月以降で必要なサンプル件数がそろえば、随時再運用評価を始める」(航空会社)と話した。 参加企業Dは、「C社さんと同じく、年間スケジュールを大きく2つに分けて対応しているが、待機日数は意識している。4月から9月までを1回目の運用評価期間として運用評価し、エラーが発生した場合に、原則として3ヶ月間の待機日数を確保し、その運用実績に基づき、1月から3月までを再運用評価期間としている」(部品メーカー)と話した。 【パターン3】 待機日数を定めないアプローチ 参加企業Eは、「待機日数についてマニュアルで定めていない。再運用評価が可能なサンプル件数がそろう時点で適宜再運用評価を開始し、年度末までに完了している。これまでの実績では、だいたい68日間だった。」(建設会社)と、待機日数に無頓着であった。 再運用評価で抽出するサンプル件数の事例 次に、各社は再運用評価で抽出するサンプル件数をどのように設定しているのかを議論した。 この議論の要点は、最初の運用評価と同じ件数か否かという点に絞られ、その対応は2つに分かれた。 【同じサンプル件数を抽出するアプローチ】 再運用評価で1回目の運用評価と同じサンプル数を抽出する方法である。 前出の参加企業Cは、「日次コントロールの1回目の運用評価で25件であれば、再運用評価でも改めて25件抽出している」と話した。 【異なるサンプル件数を抽出するアプローチ】 再運用評価で1回目の運用評価よりも多い又は少ないサンプル数を抽出する方法である。 複数の参加企業が、「一会計期間で200件以上日常反復継続的に発生するコントロールでエラーが出た場合、再運用評価では25件でなく改めて40件抽出している」と、サンプル件数を増やしていた。 参加企業Fは、「日次コントロールの再運用評価では、25件でなく15件に限定して抽出しているが、皆さんの話を聞いておかしいと感じたので、監査法人に確認する」(小売)と、議論を契機にサンプル件数の見直しを検討し始めた。 エラーの重要性に対応した再運用評価のあり方 待機日数やサンプル件数の他に、各社はどのような工夫をしているのだろうか。 筆者が、「1回目の運用評価で発生したエラー件数に応じて再運用評価のやり方を変えているか」と質問したところ、いずれの参加企業も、エラー件数に応じてやり方を変えることはないとの意見で一致した。 参加企業Gは、「エラーの件数よりも、エラーの内容に応じてコントロールオーナーに対して要請する是正措置を変えている。軽微なエラーと判断する場合は、待機期間後に再運用評価を行うが、重要なエラーと判断する場合は、リスクコントロールの再構築を要請して、整備状況の有効性を確認してから、改めて運用評価を行っている」(情報通信)と話した。 では、そのエラーが軽微なのか重要なのかを判断する基準とは、何であろうか。 次回は、エラーの重要性を掘り下げながら、開示すべき重要な不備の判断をめぐる実務の実態を紹介する。 (了)
《講師からのコメント》 シンガポールで事業をする上では、シンガポールの会計、税務、法務の知識が必須です。 3月22日(金)に行われるセミナーでは、シンガポールの会社法、税法そして会計の基本について解説します。 シンガポールに事業拠点をお持ちの方、シンガポールへの進出を検討している方、又はそういったクライアントをお持ちの士業の皆様のご参加をお待ちしております。 【セミナー開催記念】 シンガポールへの進出形態と 法人設立手続の概要 Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子 1 はじめに ここ数年、日本企業の海外進出が加速しており、ASEANの中心であるシンガポールに統括会社や子会社を設置する日系企業が増加している。その理由は、税金の安さ、外資規制が少ないこと及び政治が安定していることが挙げられる。 本稿では、シンガポール進出時の事業形態について解説する。 2 シンガポールの概要 マレー半島の南端に位置するシンガポール共和国は、1965年にマレーシアから独立して建国された。かつては自由貿易港として栄え、現在は、東南アジア経済のハブとして金融、貿易等を中心に栄えている。 シンガポールの玄関であるチャンギ国際空港の発着件数は世界有数の多さであり、ASEAN諸国へのアクセスは非常に便利である。隣国マレーシアやインドネシアへは日帰り出張が可能である。 (出所:外務省HP) 人口518万人が東京23区と同じくらいの広さの国土に住み、名目GDPは259,824百万米ドル(2011年)とマーケット規模は小さいが、外国企業を積極的に受け入れることで高成長を続け、1人当たりのGDPは日本を超えている。 2011年の貿易額を見ると、輸出総額が409,246百万米ドルであり、GDPの約1.6倍、輸入総額が365,450百万米ドルで貿易依存度が323.44%と、香港に次いで世界2位となっており、シンガポールの経済は海外依存度の高さが特徴的である。 国土が狭く、天然資源も乏しいシンガポールは、外国企業を積極的に受け入れることで高成長を維持している。外国企業に対する参入障壁はほとんどなく、投資に関連した利益、配当、利子等及び資本の国外送金に制限はない。 外国企業を誘致するために、企業優遇税制と補助金制度の多様な投資優遇制度を設けている。 投資優遇制度には、以下のようなものがある。 認可条件を満たし、監督官庁の承認を得た場合には、その対象となる所得について一定期間の免税又は軽減税率が適用される。 これらの投資優遇制度は、適用の条件が明示されているものが多いが、監督官庁との交渉により柔軟に対応されることもある。事前に自社の事業計画を監督官庁に充分に説明して、より有利な優遇措置が適用されるように交渉を進めることが望ましい。 3 シンガポールへの進出形態 外国企業がシンガポールへ進出する形態としては、①駐在員事務所、②支店、③現地法人の3つが挙げられる。 以下、それぞれの特徴について紹介する。 (1) 駐在員事務所(Representative Office) 駐在員事務所は、外国企業がシンガポールに進出する際の最初の企業形態として位置づけられている。 駐在員事務所を管轄するのは公的機関であるInternational Enterprise Singapore(IE Singapore)である(ただし、銀行、保険、旅行、不動産業を除く)。駐在員事務所を設置するときは、IE Singaporeに設置の申請を行い、認可を得る。 駐在員事務所は法人格が認められておらず、その活動は販売促進、連絡業務及び情報収集等のみに制限されている。輸出入等の営業取引は禁止されており、請求書、領収書の発行及びL/C(信用状)の開設等はできない。 駐在員事務所の認可は1年とされており、その後は認可の更新を申請することができる。 ただし、更新は設立日より最長3年とされ、その後は支店又は法人の設立が求められる。 駐在員事務所は法人格が認められておらず営利活動を行うことができないので、(法人)所得税の納税義務はない。 (2) 支店及び現地法人 シンガポールで事業を行うには、会社法の規定に基づき支店又は現地法人を設立するのが一般的である。 現地法人を設立する場合は、通常、株式有限責任会社(Company Limited by Shares)を設立する。 株式有限責任会社には、非公開会社(Private Company)、免除非公開会社(Exempt Private Company)、公開会社(Public Company)の3種類がある。 それぞれの概要は以下のとおりである。 (3) 支店と現地法人の違い 支店を設置した場合、法人格は本社の法人格のみ認められるが、支店そのものに法人格が認められていない。シンガポール内の支店に生じた法的権利義務は本店の権利義務と認定される。したがって、法律的義務、税務的義務等について本社は支店の責任を負うことになる。現地法人は法人格を認められており、親会社に法的責任は及ばない。 日本の税制は全世界所得課税であるため、外国支店の税務上の損益は、本店の損益に含められ合算課税される。シンガポールの事業が赤字であるときは支店を設立し損失を本店と合算課税し、シンガポールの事業に利益が見込めるようになったら現地法人を設立した方が節税につながることがある。 租税条約は、その締結国の居住法人にのみ適用されることとなっている。現地法人はシンガポールと他国との租税条約の恩恵を受けることができるが、支店は租税条約による軽減税率などの規定の適用を受けることができない。 以上、権利義務の帰属や税務メリットを考慮し、支店と現地法人の使い分けが必要である。 4 設立手続 (1) 駐在員事務所(Representative Office) 外国法人が駐在員事務所を設置するためには、以下の要件を満たす必要がある。 駐在員事務所の設置の申請は、シンガポール国際企業庁( IE Singapore )が管轄している。IE Singaporeのウェブサイト上で申請手続を行う。 (2) 支店 支店を設立する際は、事業を開始する前に会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority; ACRA)に登記をしなければならない。支店を設立する前に、シンガポールで行う事業活動が支店の形態で行うことができるのか、会社として活動した方が良いのかを判断する。 また事業の性質によっては、監督官庁の営業許可が必要である。営業許可が取得できることを事前に確認した後に、ACRAのウェブサイト上で支店設立の手続を実施する。 (3) 現地法人 現地法人を設立する際は、ACRAに登記をしなければならない。シンガポールで行う事業活動が支店の形態で行うことができるのか、会社として活動した方が良いのかを判断する。 また事業の性質によっては、監督官庁の営業許可が必要である。営業許可が取得できることを事前に確認した後に、ACRAのウェブサイト上で支店又は現地法人の設立の手続を実施する。 ※画像をクリックすると拡大します。 5 おわりに ASEAN諸国は、生産人口の割合が高く、人件費の安さや中間所得層が増加傾向にあることから、製造業はその製造拠点として、サービス業は次のマーケットとして注目している。 シンガポールは他のASEAN諸国に比べると人件費、賃料等が高いというデメリットもあるが、ASEANの中心に位置し、魅力的な税制、整備されたビジネスインフラ等の事業を行うには最も利便性の高い国である。 よって、日系企業を含めた外国企業のシンガポール進出というトレンドは今後も継続すると推測する。 (了)
平成24年分の確定申告の終了時期が近づいてまいりました(所得税・贈与税の申告・納税は、3/15(金)まで)。 Profession Journal では確定申告に関する記事を掲載していますので、ぜひご覧ください。 「平成24年分 確定申告実務の留意点」【全5回】 (篠藤敦子) 【第1回】 確定申告の種類と給与所得者の申告 【第2回】 平成24年分の申告から適用される改正事項① 【第3回】 平成24年分の申告から適用される改正事項② 【第4回】 各所得計算における留意点 【第5回】 各所得控除における留意点 「平成24年分 贈与税申告書の記載と改正のポイント ~直系尊属から住宅取得等資金を受けた場合の贈与税の非課税措置について~」(甲田義典) 「税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識」(石渡晃子・青木岳人) 【第1回】 利用状況と概要 【第2回】 手続フローとメリット・デメリット 【第3回】 実務上の失敗談とQ&A
適格株式移転があった場合の 完全親法人に係る少数株主の評価額 税理士 新沼 潮 Question 一般的に、少数株主である個人が自らの親族に株式を贈与する際の評価額は、配当還元方式でよいと理解しています。 当社は組織再編成の一環のため、適格株式移転により完全親法人を新設する予定です。 適格株式移転の前後で配当還元方式による評価を行う場合に、何か注意すべき点がありますか。 Answer 現行の財産評価基本通達に従えば、適格株式移転の前後において、配当還元方式による評価額は、御社の株主数が50人未満の場合と、50人以上の場合とで、大きく異なる可能性がある。 1 財産評価基本通達における配当還元方式に係る評価額 財産評価基本通達における配当還元方式による評価をする場合、次の算式によることとされている(財基通188-2)。 ※年配当金額が2円50銭未満となる場合、又は無配の場合には2.5円とする。 適格株式移転があった場合に、下記2のように完全子法人の株主数によって、完全親法人の資本金等の額が異なることがある。 この配当還元方式による評価は、1株当たりの「資本金等の額」を用いて計算するため、その評価方式を選択できる少数株主の株式の評価額が、適格株式移転の前後で大きく異なる場合がある。 2 完全親法人の資本金等の額の計算方法等 (1) 適格株式移転での完全親法人における資本金等の額 適格株式移転により移転を受けた完全親法人における資本金等の額は、その適格株式移転に係る完全子法人株式の取得価額から、増加資本金額等(その適格株式移転により消滅した完全子法人の新株予約権に代えて完全親法人の新株予約権を交付した場合の、その消滅直前の完全子法人の新株予約権の帳簿価額相当額)を減算した金額となる(法令8①十一イ)。 (2) (1)の前提となる完全子法人株式の取得価額 適格株式移転により完全親法人が取得をした完全子法人株式の取得価額は、その適格株式移転直前におけるその完全子法人の株主の数により異なる。 その株主の数が50人未満である場合には、その株主が有していた完全子法人株式の直前の帳簿価額相当額となり、50人以上である場合には、完全子法人の簿価純資産価額相当額となる(法令119①十一イロ)。 (3) 完全子法人の株主に係る完全親法人株式の取得価額 適格株式移転に係る完全子法人の株主であったものが、その適格株式移転により取得した完全親法人株式の取得価額は、その適格株式移転直前の完全子法人株式の帳簿価額相当額となる(法令119①十)。 株主数が50人未満であるか、50人以上であるかは、ここには影響しない。 なお、個人株主においても同様で、完全子法人株式の取得価額を完全親法人株式の取得価額として付け替えることになる(所法57の4②、所令167の7⑤)。 3 事例 上記1及び2を踏まえて、次の簡単な事例を想定する。 A社の株主が適格株式移転によりB社の株主になるが、株式移転前のA社株主の配当還元方式によるA社株式の評価額は、次の通りである。 ① A社の株主が50人未満だった場合 完全親法人B社がその移転により取得をしたA社株式の取得価額は、A社の株主数が50人未満であるため、その株主が有していたA社の直前の帳簿価額相当額となる。 よって、B社において次の処理がなされる。 (A社株式) 1億円 /(資本金等) 1億円 そして、配当還元方式を選択できる株主のB社株式の評価額は、財産評価基本通達188-2によると、次の通りとなる。 ② A社の株主が50人以上だった場合 完全親法人B社がその移転により取得をしたA社株式の取得価額は、A社の株主数が50人以上であるため、A社の簿価純資産価額相当額となる。 よって、B社において次の処理がなされる。 (A社株式) 100億円 /(資本金等) 100億円 そして、配当還元方式を選択できる株主のB社株式の評価額は、財産評価基本通達188-2によると、次の通りとなる。 ③ 比較 上記①と②を比較すると、配当還元方式を選択できる少数株主について、適格株式移転が行われたことにより、その評価額が大きく異なるということになっている。 現通達に従えば、②のように純資産価額が全額資本金等の額に反映されているような場合においても、資本金等の額を50円で割り戻し、2.5円規制(額面が50円であった時代の額面金額の1/2を特例評価の下限とするための措置)がその評価に用いられることとなるため、配当還元方式による評価が純資産価額の半分になるという結果となり、非常にバランスを欠いていると思われる。 なお、株主のB社株式の1株当たりの取得価額は、①及び②のいずれの場合も、旧株簿価の100円のままである。 4 まとめ この配当還元方式における算式中の「資本金等の額」については、平成18年改正前に「資本金の額」とされていたものの、平成18年度の会社法制定及び法人税改正により、財産評価基本通達188-2の改正が行われたものである。 資本金等の額の整理について、『改正税法のすべて(平成18年版)』(240頁、大蔵財務協会)では「法人税法上の払込資本は法人の資本の金額又は出資金額と資本積立金額の合計額とされ、また、この資本積立金額はその増減によって規定されていましたが、会社法の制定を機に、「法人が株主等から出資を受けた金額」としてその概念の明確化が図られました(法2十六)。」と説明されている。 「概念の明確化」が図られたのみであれば、実質は変わっていないはずであるが、同通達の計算式が、何の説明もなく、資本金の額から資本金等の額に変更されたため、配当還元方式を用いた場合の評価額が著しく高くなる場合というのも起こってしまっていると思われる。 (了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第12回】 税率変更の問題点(11) 「経過措置に関する注意点(その2)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 3 工事の請負等に関する経過措置について (1) 経過措置の対象となる請負契約等の意義 第9回でも述べたように、平成26年4月1日の施行日以後に目的物の引渡しがなされる請負工事等については、原則として新税率が適用されることとなるが、指定日(5%適用の場合は平成25年10月1日、8%適用の場合は平成27年4月1日)の前日までに契約を締結した場合など一定の要件を満たしたときには、施行日後の引渡しであっても旧税率を適用することが、以下の経過措置の規定により認められている。 なお、事業者(工事等の請負業者)がこの経過措置の規定の適用を受ける場合には、その相手方に対し、当該規定の適用を受けることにつき書面で通知しなければならない(同附則5条8項)。 また、上記規定における施行令で定める請負等の契約の範囲について、平成9年の税率改正当時の施行令や改正通達では、以下の要件のいずれも満たすものであることとしていた。 上記①における契約において、その請負工事等に係る契約書がない場合には、その工事の着工が指定日前に行われていたとしても経過措置の対象とならないことに注意しなければならない。 これは、上記②の要件である指定日の前日までに締結した契約かどうかについて、その請負に係る契約書その他の書類により判断することとなるため、経過措置の適用を受けるには契約書等が必要となる。 上記②の指定日の前日までに契約を締結する場合において、その指定日の前日までにその締結した契約を変更した場合であっても経過措置の対象となるが、その指定日の前日までに締結した契約書等において、その対価の額を定めていないときには、要件を満たしたことにはならず、経過措置の対象とはならないので注意が必要である。 上記③の仕事の期間については、経過措置の対象となる契約のうち、測量・地質調査に係る契約、工事の施工に関する調査・企画・立案・設計に係る契約、ソフトウエアの開発に係る契約などその仕事の性質上その仕事が完成するまでに長期間を要するのが通例であることから定めたものであり、実際に長期間を要するかどうかは問わないこととしている。 上記④の「注文」の内容について、具体的には以下のような契約をいい、その注文の複雑さの程度及びその注文に係る対価の額の多寡は問わないこととしている。 上記内容から、名入れのアルバム、タオル、トロフィーなどの製作、絵画等の修復、肖像画の製作、パック旅行の引受け、インテリアなどの製作、宝飾品等の加工なども該当することとなる。 上記⑤における「目的物の引渡しが一括して行われるもの」について、運送、設計、測量等の目的物の引渡しを要しない請負契約でその役務の全部の完了が一括して行われる場合には経過措置の対象となるが、目的物の引渡しを要しない役務の提供で、契約期間の定めがある月極めの警備保障、ビル等の清掃・メンテナンス業務、機械・器具等の資産の保守・管理業務など契約期間中に継続して役務の提供を行うもので、目的物の引渡しが一括して行われない場合には、経過措置の対象とならないので注意しなければならない。 また、機械設備等の販売に伴ってその据付工事を行う場合において、設備等の販売自体は資産の譲渡となり経過措置の対象とならないが、その据付工事は、工事の請負に該当することとなるため、その機械設備等の販売に係る契約において、その設備等の対価の額と据付工事の対価の額を合理的に区分しているときは、その据付工事に係る部分は経過措置の対象となる。 (2) 建売住宅又は分譲マンションなどの建物等の譲渡契約 建売住宅又は分譲マンションなどの建物等の譲渡契約において、当該建物の内装若しくは外装又は設備の設置若しくは構造につき譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物に係るものであれば、上記(1)④の要件である「相手方の注文」を付した契約となり、経過措置の対象とすることを認めている。 この場合における「注文」とは、平成9年の税率改正当時において、以下の区分に応じ、それぞれに掲げるものを注文できることをいい、その注文の複雑さの程度及びその注文に係る対価の額の多寡は問わないこととしている。 なお、上記内容については、すべてを注文で行う必要はなく、いずれか1つでも注文が付されている契約であれば経過措置の対象となる。 例えば、壁の色を選択することができる完成前のマンションの譲渡契約の場合において、その契約書等に内装等について購入者が注文をつける旨を明示していれば、注文を付して建築されるものに該当することとなり、指定日の前日までに契約した上で、施行日以後に引渡しを受けたときは、経過措置の対象となる。 また、完成前のマンションの譲渡契約で厨房設備を標準仕様か特別仕様かを選択できる場合において、標準仕様を選択したときにも経過措置の対象となるが、指定日の前日までに標準仕様で契約を締結し、指定日以後に特別仕様に変更した場合には、その特別仕様にすることで対価の額が増加したときのその増加部分については、経過措置の対象とならず、新税率が適用されることとなるので注意しなければならない。 この取扱いは、あくまで建物や建物附属設備に該当するものについて「注文」を付した場合に適用できることとなっており、建物の譲渡契約において希望者に浄水器を取り付けることができる旨の契約の場合には、浄水器自体が商品の販売となるものであり、この浄水器の取付けというだけでは経過措置の対象とならない。ただし、その浄水器を取り付けることでその流し台も変更するような場合には、建物附属設備の注文を付すこととなり経過措置の対象となる。 (3) 経過措置の適用を受ける工事等に係る課税仕入れ 工事の請負を行う事業者が、経過措置の対象となる工事につき施行日以後にその目的物の引渡しを行った場合において、旧税率を適用することとなるのは、あくまで売上げに関する規定であり、経過措置の適用を受ける工事等に要する課税仕入れにつき施行日前に行った課税仕入れについては、旧税率を適用して仕入税額控除を計算することとなり、施行日以後に行った課税仕入れについては、新税率を適用して仕入税額控除を計算することとなるので注意が必要である。 (4) 経過措置の適用を受けたものであることの通知書 工事の請負等について経過措置の適用を受ける場合には、その請負工事を行う事業者がその旨を書面にて相手方に対し通知することとなっているが、その通知書の記載内容について、今回の改正では未だ具体的な内容は発表されていないが、平成9年の税率改正当時、以下のような事項を記載することとしていた。 なお、この通知については、請求書等に上記内容を明記しても差し支えないこととしている。 また、この通知書を相手方に対し発行しなかったことで経過措置の対象外となることはなく、上記(1)の要件を満たしていれば経過措置の適用を受けることとなる。 (5) 経過措置の具体例 上記規定に基づき契約の締結をした日及び引渡日が次のそれぞれのケースの場合における適用税率については、以下のようになる。 〈経過措置の適用例〉 この工事の請負に係る経過措置については、その対象となる契約かどうか、契約書の内容、契約書の締結日など注意すべき点が多い。 また、建物等の請負工事などのように、その対価の額が多額となることで税率の違いによる影響が大きいことから、慎重に対応しなければならない。 (了)
平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第4回】 「減価償却における定率法の改正」 アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩 〈定率法の償却率の改正〉 平成23年12月の税制改正で、法人税率引下げに対する課税ベース拡大措置のひとつとして「定率法の償却率引下げ」とそれに伴う整備が行われた。 具体的には、平成24年4月1日以後に取得される減価償却資産に適用する定率法の償却率が定額法の償却率を2倍した償却率(以下「200%定率法」という)に変更された。 これにより、平成19年度税制改正で導入された250%定率法の償却率から、200%定率法へ引き下がることになる。 間もなく決算を迎える3月決算法人においては、200%定率法が適用される最初の事業年度となる。 なお、この改正においては、250%定率法から200%定率法への移行にあたっての経過措置が設けられている。 経過措置の内容をまとめると、大きく次の2点となる。 〈資本的支出について〉 平成24年4月1日以後に支出する資本的支出については、その本体資産が250%定率法適用資産であっても、200%定率法により償却限度額を計算する。 また、250%定率法適用資産と200%定率法適用資産では異なる償却率であるため、資本的支出の取得価額の特例(翌期首からの合算償却)は適用できない。 ※画像をクリックすると拡大します。 (了)
税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第3回】 「実務上の失敗談とQ&A」 (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人 ■5 【ありがちな失敗談】 初めてのe‐Taxというのは、とかく緊張するものである。 パソコン操作に自信がない場合はなおさらである。 筆者自身も初めてe‐Taxによる申告及び納税を行った時は、心拍数が上がり、手に汗を握りマウスをクリックしたものである。 また、クリック一つで申告及び納税が完了するというあまりの簡単さに、逆に不安を抱き、税務署及び地方公共団体に完了の問合せをしたほどである。 税務署もe‐Taxを強く推奨しているせいもあってか、こういった問合せにも即座に丁寧に対応していただき、心強い限りである。 筆者自身の体験談はさておき、今回はありがちな失敗談や注意すべき点を挙げる。 (1) パスワードを忘れた! まずは、オンライン手続であるが故にありがちな失敗が、各種パスワードの紛失である。 e‐Taxの場合、利用開始時に提出する「電子申告・納税等開始(変更等)届出書」の作成時に各種パスワードも設定するのだが、パスワードには“暗証番号”と“納税用確認番号”の2種類がある。 “納税用確認番号”については、忘れてしまった場合でも再設定可能なため、紛失によるリスクはない。しかし、“暗証番号”はメッセージボックスの確認時、申告書への税理士電子署名及び送信時、前述の“納税用確認番号”の再設定時等に不可欠であり、これを忘れてしまうと何もできなくなる。 利用開始時に“秘密の質問”とその答えを設定することで、万が一の場合にもオンラインにて“暗証番号”を再設定することができるため、ある程度リスク回避できるが、パスワード管理には細心の注意が必要だ。 利用者番号通知画面にて“暗証番号”も表示されているため、書面及びPDF等データにて保管しておくと良い。 それでも万が一暗証番号が分からない場合は、書面又はオンラインにて「電子申告・納税等開始(変更等)届出書」を提出し、暗証番号(仮)を再発行してもらうこととなる。 いずれの提出方法の場合も、暗証番号(仮)が記載された通知書は書面にて郵送されるため、最短でも1週間程度日数が必要となる。 また、発行される番号は仮暗証番号のため、変更が必要だ。 (2) 暗証番号を間違えてログインできなくなった! これも暗証番号についてだが、複数回間違えた場合、その日はログインすることができなくなり、翌日にならないとログインできなくなる。 仮に、申告期限日にこの失敗をした場合のリスクは、言うまでもないであろう。 (3) PINコードの入力ミスで証明書が失効! また、税理士用ICカードにて電子署名をする際に“PINコード”の入力が必要となるが、これは15回連続して間違えると証明書失効となるため、注意が必要である。 (4) 書類の提出モレがあった! e‐TaxやeLTAXに電子送信できなかった書類については、別途税務署等窓口へ提出又は郵送にて提出する必要があるが、書類の提出モレには細心の注意を払う必要がある。 特に、複数企業の申告が重なっている場合や提出すべき地方公共団体が多数ある場合などは、提出モレが発生する危険性は高い。 それを防ぐためにも、必要手続を一覧化し、事務所単位での確認が必要である。 (5) クライアントとの連携ミス 税理士が電子申告又は納付情報データ送信を行い、その通知によってクライアント側が納税操作をする場合、税理士が納税の完了まで配慮しないと納付忘れをする可能性がある。 e‐Taxによる代理送信は、ともすればクライアント側に自分たちは何も行う必要がないと誤解されがちである。申告及び納税手続について、旧来の方法との違いをしっかりと説明し、互いの役割分担を確認しあう必要があるだろう。 また、【第1回】■2の3にて述べたとおり、ダイレクト納付の場合は税理士が納税まで代理することが可能であるが、旧来は申告までの責任を負っていたところに、さらに、納税の責任まで負うかたちとなる。 クライアントごとに電子申告の適用有無や電子納税の適用有無は異なることが予想されるため、旧来のように手続の統一化が図れないなかで、利便性と責任リスク増加のジレンマをどう解消していくかを検討しておくことも大切である。 (6) 電子証明書の期限切れ? これは個人の電子証明書に関する失敗ではあるが、いざ送信時になってはじめて電子証明書の期限切れに気付く場合がある。 電子証明書情報が格納されている住民基本台帳カードの有効期限は10年であるが、電子証明書の有効期限は3年であるためである。 税理士にとって一番回避したい失敗は、クライアント側から事後否認を受けることであろう。電子申告及び電子納税は、クライアントの押印等を必ずしも必要としないため、「知らないうちに勝手に申告書を提出された」とか「説明を受けたものとは違う申告書を提出された」といったトラブルが発生する恐れがある。 さらに納税まで代理している場合は、「勝手に預金口座から引き落としされた」といったトラブルが発生する恐れもある。 こういった無用のトラブルを回避するためには、 ① 電子申告等を導入するにあたりクライアントと利用同意書を取り交わす ② 申告書(控)にクライアント側の押印をしてもらうなり、メール等にて意思疎通を交わしたデータを保存するなり、その申告に関して承諾を受けているというエビデンスを取っておく といった対応が必要である。 また、単なる押印のための打合せをなくすことや書面ベースでの納付書発行をなくすことは、クライアントとの接触回数を減らすこととなり、「サービスが低下した」と受け取られる可能性もある。 アナログからデジタルへの移行にあたっては、さらなる信頼関係の構築と事前の説明を心がけたいものである。 ■6 【導入及び利用に伴うQ&A】 1 申告及び納税に関するQ&A 2 税理士用ICカードに関するQ&A 3 その他のQ&A 終わりに サービス発足から今年で10年目を迎えようとするe‐Taxであるが、その整備は着々と進められ、現在も税理士等の意見を取り入れつつシステム構築進行中である。 旧来の申告及び納税方法とはだいぶ勝手が変わるため、利用者側の業務体制や管理体制の再構築が必要となり、労力を必要とするのもまた事実である。 また税理士にとっては、責任が重くなるという危険性をはらんだシステムであるかもしれない。さらに、真のメリットは税務署側にしかないのではないか、という批判もあろう。 しかし、ここまで述べてきた通り、税理士にとってメリットがあるシステムであることは明白である。また、顧客にとってもメリットがあることは間違いない。 e‐Taxを含む「国税業務関係の業務・システムの最適計画」(平成18年3月策定・平成24年2月改定)が完了すると、試算ベースではあるが、なんと年間約173億円の経費削減効果があるとのことだ。実績値では平成22年度で64億円の経費削減効果を生んでいる(「国税庁レポート2012」より)。 ランニングコストを超える域にはまだ達していないようだが、ぜひともその経費削減効果は、国民に還元されたいものである。 国を挙げた一大事業であるe‐Tax、この普及に協力するのもまた税理士の職務の一つではなかろうか。 本稿がe‐Tax導入の検討材料となることを願いたい。 (連載了)
法人の破産をめぐる税務 【その4】 ―破産会社の役員及び株主の税務― ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 はじめに 前回は、破産した会社(以下「破産会社」という)を取り巻く利害関係者(破産会社の債権者、役員、株主)の破産特有の税務処理のうち、破産会社の債権者に焦点をあてて解説した。 本稿では、破産会社の役員及び株主の以下の項目に係る税務処理について解説する。 1 破産会社の役員の税務 (1) 資産の譲渡代金が回収不能となった場合の譲渡所得の計算の特例 オーナー企業が金融機関から融資を受ける場合、融資の条件として役員が連帯保証人になるケースが多い。 オーナー企業が破産した場合、通常役員はその保証債務を履行するために保有する資産があればそれを処分して、破産会社に代わって債務を弁済することになる。 税務上は、個人が債務保証を履行するために資産を譲渡して譲渡益が発生した場合には、譲渡所得に対して課税される(所法33①)。 しかし、役員が債務を肩代わった結果生じた破産会社に対する求償権(他人の債務を弁済した者が、その他人に対して返還の請求をする権利。つまり連帯保証人が債務者に対して有する返還請求権)が行使できないこととなった場合には、その行使できないこととなった金額を資産の譲渡代金の回収不能額とみなして、譲渡所得の金額の計算上譲渡がなかったものとされている(所法64②)。 つまり、連帯保証人である役員が資産の譲渡代金で破産会社に代わって債務を弁済した後、その肩代わった債務について破産会社から回収できなかった場合には、その回収不能額について所得税を課税しないというものである。 なお、求償権が行使できなくなった場合でも、債務を保証する時に既に債務者であるオーナー企業が債務を返済する能力がない場合には、役員は形式的に債務を保証しているにすぎず、実質的には肩代わった債務について、役員からの贈与があったと考えられるため、この特例を適用することはできない。 また、この特例は、譲渡所得の金額の計算上の特例であるため、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得には適用できない点に留意が必要である(所法64②カッコ書)。 (2) 非課税とされる資力喪失による譲渡所得 役員が破産会社の債務保証を履行できなかった場合には、通常、自己破産や差押えなどにより役員保有の資産は法的手続の中で強制的に処分されることになる。 税務上は、以下①②により法的手続の中で強制的に処分された結果生じた資産の譲渡による所得は非課税となる(所法9①十、所令26)。 上記の国税通則法2条1項10号に規定する強制換価手続とは、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。 なお、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得については非課税の対象から除かれている点に留意が必要である(所法9①十カッコ書)。 (3) 役員の破産会社に対する貸付金がある場合 オーナー企業では、役員が会社の経費を立て替えたり、会社のキャッシュポジションが悪化して運転資金の目的で貸し付けるなどにより、役員の会社に対する貸付金が発生していることが多い。 税務上、役員の破産会社に対する貸付金の回収不能による損失は、役員個人の事業又は業務に係るものでないことが通常であるため、役員の税金計算上なんら控除されないと考えられる。 なお、貸付金に係る未収利息について回収不能となった場合には、雑所得として収入金額を計上した年に遡り、その収入がなかったものとみなされ、更正の請求をすることにより過大納付の税金を取り戻すことが可能と考えられる(所法64①、152)。しかし、通常は、役員からの貸付金は無利息で行われることが多いため、あまりないケースと思われる。 2 破産会社の株主の税務 (1) 法人株主の株式消却損の取扱い 株式の発行会社の破産により法人が所有する株式の価値が失われた場合には、税務上その損失は原則として、譲渡損(消却損)として扱われことになる(法法61の2①)。 しかし、法人株主と破産会社が完全支配関係にある場合(通常は、100%子会社である場合)には、平成22年税制改正に伴うグループ法人税制が適用され、この譲渡損(消却損)は計上されず(法法61の2①、⑯)、一方で、破産会社の残余財産が確定した場合には、残余財産の確定の日の翌日前9年以内に開始した各事業年度において生じた一定の青色欠損金は、法人株主へ引き継がれることになると考えられる(法法57②③)。 したがって、リストラクチャリングの一環で100%子会社を法的整理する際のタックスプランニングには十分留意が必要である。 (2) 個人株主の株主消却損の取扱い 株式の発行会社の破産により個人が所有する株式の価値が失われた場合には、税務上その損失は、原則として他の株式等の譲渡益や他の所得の金額から控除することは認められていない。 しかし、特例として特定口座に保管されていた内国法人の上場株式が、上場廃止となった日以後に特定管理株式又は特定保有株式に該当していた場合で、その株式を発行した株式会社に清算結了等の一定の事実が生じた時は、その株式の譲渡があったものとして、その株式の取得価額を譲渡損失の金額とみなすこととしている(措法37の10の2)。 なお、この特例により譲渡損失とみなされた金額は、その年の他の株式の譲渡益から控除可能となるが、その譲渡益から控除しきれなかった場合には、その部分は翌年以降に繰り越すことはできず切り捨てられることになるため留意が必要である。 (連載了)
中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第2回】 有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根 3 上海市の改革効果の検証 上海市を最初の試験地域として選んだのは、上海市が中国経済の最も発展している地域である、また第三次産業の発展も全国でリードし、更にサービスの業種も多様化となっているので、改革結果の検証に期待できるためである。 また、上海市が潤沢の財源を持ち、改革による税収減の許容能力が高い。更に、国税局と地方税務局の徴収機関が分離していないため、徴収管理においても実行しやすいという利点がある。 減税効果について、改革実施後、小規模納税者を中心に大半の納税者は、改革前より税負担が軽減されている。 上海市税務当局の統計では、2012年6月末までに上海市の13.9万社の企業が試験範囲に入り、営業税収入(試算)については合計減税額が12.4億元で、減税幅が10.57%となる。そのうち、一般納税者の減税額は6.3億元で、減税幅は6.16%である。一方で、小規模納税者の減税額は6.1億元で、減税幅が40.4%である(1)。 (1) 2012年6月末まで、上海市には13.9万社の企業が試験範囲に入り、納付した増値税額は104.39億元である。そのうち、一般納税者(3割相当)の納付額が95.9億元で、91.4%を占める。小規模納税者(7割弱)の納付額が9.0億元で、8.6%を占める。 なお、対象サービス業の負担減が明らかになり、対象外の製造業も仕入控除の増加(2)により負担減に繋がった。特に、営業税改革により二重課税の問題が解決され、税負担の軽減により一部の企業において、資金圧力が緩和され、業務の細分化及びサービスの輸出にも意欲が現れている。 (2) 2012年1月-6月、上海において、試験対象企業(一般納税者)が試験対象外の納税者に発行した増値税専用領収書に記載した増値税額は95億元で、改革前と比べると、試験対象外の一般納税者には仕入控除額が70.9億元増加した。 ただし、改革により一部の業種で税率の変更に伴い税負担が増加しており、徴収管理に関して未解決問題が残っている。 政府としては、上海改革における諸問題を対応しつつ、第三次産業の発展、産業構造のグレードアップを最優先することで、下記の通り、試験地域の拡大を実施した。 4 試験地域の拡大 2012年7月25 日に、営業税改革の試験地域を上海市に続き北京を含む8省(市)に拡大することが公表され、同年7月31日に、財政部・国家税務総局が共同で財税「2012」71号(3)を公表し、同年8月1日から年末にかけて下記の地域において、順次営業税を増値税に移行した。 (3) 2012年7月31日財政部、国家税務総局「北京など8省市における交通運輸業及び一部の近代サービス業に対する営業税を増値税の徴収に変更する試験通知」(財税「2012」71号)。 上記の追加試験地域における適用業種は上海市と同じ、交通運輸業及び一部の近代サービス業に限る。他にも、適用税率、計算方法なども上海市と同じものである。 今回の試験地域の拡大においては、北京や天津、深センなどの都市部だけでなく広東省などの沿海にある省及び湖北省と安徽省といった内陸部に属す地域も加えられていることに注目したい。 (了)