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《速報解説》 各府省庁からの令和3年度税制改正要望、ひと月遅れで出揃う~期限切れ迎える特例措置の延長要望が中心に~

《速報解説》 各府省庁からの令和3年度税制改正要望、ひと月遅れで出揃う ~期限切れ迎える特例措置の延長要望が中心に~   Profession Journal編集部   このほど例年よりひと月遅れて、令和3年度税制改正に向けた各府省庁からの要望事項が取りまとめられた。 新型コロナウイルスに係る税制上の緊急的措置としては既に4月の新型コロナ税特法で概ね手当てされたところであり、今般の要望事項では、景気の冷え込みにつながらないよう期限切れを迎える各特例措置の延長を要望するものが中心を占めている。 その中で経済産業省は、コロナ禍を契機とした大胆なビジネスモデルの変革(事業再構成・再編等)に取り組もうとする企業を後押しする税制措置を要望しているが、「①コロナ禍による厳しい経営状況からのV字回復の実現と、②事業転換を進めるデジタル関連投資の促進に関する税制措置(例えば投資に対する特別償却・税額控除や、繰越欠損金の控除上限の引上げなど)等を講じる」との記載にとどまり、具体的な改正内容(制度設計)は見えない。また、中小企業に向けては経営資源集約化等(統合・事業再構築等)に係る税制措置の創設が要望されているが、こちらについても具体的な内容は不明。これらについてはどの程度の税負担軽減につながるのか、今後の動向に注視する必要があろう。 また経産省は昨年要望したものの見送りとなった、自社株式を対価としたM&Aの円滑化(株式譲渡益・譲渡所得への課税の繰延措置)として、来年3月に施行見込みの令和元年改正会社法で創設される株式交付制度を見据え、現行の事前認定を前提とした時限措置ではなく、事前認定不要の恒久措置化を要望している。また総額型の控除率上乗せ措置の適用期限を迎える研究開発税制(及び中小企業技術基盤強化税制)については、上乗せ措置の延長や控除上限の引上げの他、クラウドサービスや製品開発のために用いられるツール等自社利用ソフトウェアに係る試験研究費について、発生時損金処理と研究開発税制の税額控除対象試験研究費への算入などを盛り込んでいる。 次に来年3月で期限切れとなるため延長要望がなされている企業税制の措置として、中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得金額について19%→15%)、各設備投資減税のうち、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、地域未来投資促進税制はそれぞれ2年延長、中小企業防災・減災投資促進税制、賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け)、所得拡大促進税制(中小企業向け)は2年延長に加え要件の一部見直しが要望されている。 また農林水産省・厚生労働省からの共同要望ではあるが、新型コロナウイルス感染症の影響により特に飲食業の客数・売上の減少が深刻な状況となっていることから、飲食業界全体の回復を図るため、交際費課税の特例措置のうち飲食費(社内接待費を除く)の50%を損金算入できる特例措置について、新型コロナの感染予防対策を講じた上で提供された飲食費(社内接待費を除く)については損金算入できる割合を時限的に拡充するよう要望されている。 車体課税については国土交通省・経済産業省より、コロナ禍による自動車産業の低迷を踏まえ自動車取得時のユーザー負担軽減を図る観点から、①エコカー減税(自動車重量税)の延長・見直し、②環境性能割の臨時的軽減等を含めた取得時の負担軽減に加え、将来のモビリティー社会像を見据えた「自動車関係諸税のあり方について、税制の簡素化等の視点も踏まえた検討」を行うとしている。 国土交通省からは他に、土地に係る固定資産税の負担調整措置等の3年延長と経済状況に応じた所要の措置、土地等に係る流通税の特例措置(課税標準・税率の特例)の延長(登録免許税・不動産取得税)や、時流を踏まえた措置として「シェアサイクルの導入促進に係る特例措置の創設(固定資産税)」や「災害ハザードエリアからの移転促進のための特例措置の創設(登録免許税・不動産取得税)」などが要望されている。なお、具体的内容は不明だが、新型コロナウイルス感染症により甚大な影響を受けた交通運輸・観光業界に対する、税制支援措置を活用した資金繰り対策に資する所要の措置が盛り込まれており、対象や支援内容によるが注目しておきたい。 相続税・贈与税の関係では来年3月末が適用期限となる「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の延長」が文部科学省・金融庁から、「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の拡充及び延長」が内閣府・金融庁からそれぞれ要望されているが、令和2年度の与党大綱では「次の適用期限の到来時に、その適用実態も検証した上で、両措置の必要性について改めて見直しを行う」こととされており、一定以上の所得のある世帯に適用が偏っている実態が見られた場合は、廃止も含めた検討が行われる可能性も捨てきれない。 厚生労働省からは、令和3年末までの時限措置であるセルフメディケーション税制について、5年間の延長に加え税制対象医薬品の範囲拡大や手続の簡素化が、また産後ケア事業に要する費用に係る税制措置として、母子保健法第17条の2に定める産後ケア事業について消費税非課税の対象とする要望がなされている。また、子育てと仕事の両立を支援するためのベビーシッター等の子育て支援に係る費用についての税制上の措置が内閣府と共同要望されている。これらの要望が、誕生したばかりの新政権が目指す少子化対策の方針とどのように関わってくるか、今後の動きに注目したい。 (了)

#No. 388(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/10/05

《速報解説》 国税庁、本日10/1より「年末調整控除申告書作成ソフトウェア」の提供を開始

《速報解説》 国税庁、本日10/1より「年末調整控除申告書作成ソフトウェア」の提供を開始   Profession Journal編集部   国税庁はかねてより告知していた通り、年末調整手続の電子化を促進するためのソフトウェア(年末調整控除申告書作成ソフトウェア(以下「年調ソフト」))の提供を本日10月1日より開始した。 下記の国税庁ホームページではWindows版及びMac版のダウンロードができる。 保険料控除申告書などの提出にあたって添附が必要な生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、昨年までは各保険会社等から送付されたハガキ等を勤務先へ提出していたが、令和2年分の年末調整からは、これら証明書等を電子データで入手し、勤務先へ提供できるようになる。 本日提供が開始された年調ソフトによって、従業員が証明書等の電子データを取り込み控除額が自動計算された保険料控除申告書等をデータで作成することができ、作成された保険料控除申告書等は勤務先へデータで提供され、勤務先では提供されたデータを基に年税額を自動計算し、提供されたデータを保管するという流れになる。 年調ソフトは上記国税庁ホームページからのPC版だけでなく、スマートフォン版(Android版及びiOS版)があり、Android版はGoogle Play、iOS版はAppStoreからそれぞれダウンロード可能としている。 国税庁は今回の電子化により勤務先(控除証明書等のチェックが不要など)・従業員(控除額等の記入・手計算が不要など)双方にメリットがあるとしているが、留意すべき点もある。 まず既報のとおり、従業員から年末調整申告書を電子データで提供を受けるためには、勤務先は事前に所轄税務署長へ「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要がある。 また、従業員側も年調ソフトのインストールを行う必要があるほか、証明書等の電子データは、各保険会社等のマイページや、マイナポータル連携(※)を通じて入手する必要がある。さらにマイナポータルの利用にあたっては、マイナンバーカード、同カードの情報を読み取るためのICカードリーダライタ又はマイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン、加入している生命保険の証券番号を用紙した上、初めてマイナポータルを利用する場合には利用者登録等の設定を要する。 (※) マイナポータル連携を通じた証明書等の電子データ入手にあたり国税庁は「マイナポータル連携可能な控除証明書等発行主体一覧」を公表している。 なお、地方公共団体情報システム機構が運営する公的個人認証サービスポータルサイトでは、「マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン」として「マイナンバーカードに対応したNFCスマートフォン一覧」が公表されており、多くの機種が対象となっているが、スマートフォンをICカードリーダライタとして利用する場合は、パソコンとスマートフォンともに、利用者クライアントソフトをインストールする必要があるとしている。 このように電子化にあたっては様々な準備が必要となるが、例年各国税局が実施している年末調整の説明会が、本年は新型コロナウイルスの影響で開催中止となる中、国税庁は「年末調整がよくわかるページ」を開設、動画の配信に向けた準備や年調ソフトヘルプデスクを開設するなどの周知を図っている。 (了)

#No. 388(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/10/01

プロフェッションジャーナル No.388が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年10月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.388を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/10/01

monthly TAX views -No.93-「期限迫る消費税の表示問題を考える」

monthly TAX views -No.93- 「期限迫る消費税の表示問題を考える」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   先日筆者のところへ、スーパーマーケット業界の関係者が訪ねてきて、来年(2021年)3月末で期限が切れる消費税の総額表示義務の特例について、できれば延長してほしいという話をされた。 そもそも消費税の表示については、消費者がレジで請求されるまで支払額の分からない税抜き価格表示ではなく、税額も入った総額を表示するように平成15年度税制改正で義務付けされた。 しかし、消費税率が5%から8%、さらには10%へ引き上げられる際に、事業者が値札の張り替え作業を行う事務負担増への配慮や、消費税の円滑な転嫁を確保することを理由に、転嫁対策特別措置法で特例が設けられた。 特例の内容は「税込み価格であると誤認されないための措置を講じている場合には、税込み価格を表示する必要はない」というもので、この特例の期限が来年3月末で切れるのである。 *  *  * 消費者庁が本年8月に行った調査によると、店頭価格の表示方法は約7割が総額表示となっており、消費者の97%は総額表示を望んでいるという。 では、なぜ冒頭のような税抜き表示を希望する意見が出るのであろうか。 彼は2つの理由を挙げた。 1つは、「自分たちはデフレの世の中で、価格を上げないように一生懸命努力しているが、消費税率の引上げによって価格が上がり、その努力が台無しになる。税抜きの価格を表示することで、一生懸命、価格据え置きの努力をしていることを消費者に見せたい」という理由である。 これに対し筆者は、消費者は「自分が最終的にいくら支払うか」という点(総額)に最大の興味があり、あまり説得力のある話ではない、と思った。 *  *  * 彼が2番目に挙げた理由は、「消費者に消費税分を確実に転嫁したい。レジで加算すれば確実に転嫁できる」というものであった。これは特措法の趣旨でもある。 これに対して商売の素人の筆者は、次のように答えた。彼が納得したかどうかは定かではないが。 自由経済の下では、価格は需要と供給によって決定されるものであり、決してコストによって決まるわけではない。銀座に一杯1,000円のコーヒー店があるのは、「銀座は地価等のコストが高い」からではなく、「銀座では一杯1,000円でもコーヒーを飲む人がいるから」である。そしてその場合の価格は、消費税込みの総額だ。 アルバイトの人件費や為替レート・国際市況の変化で原材料の価格は日々変化するが、小売り店はその都度値段を変えるわけではない。消費税率の引上げもコストの変化で、「個々の品目ごとに消費増税分を一律に」引き上げなければならない、と考えることには無理があるのではないか。 商売に重要なのは、お店のマージンを最大化することで、そのためには売れ筋のものは(需要が強いので)価格(消費税込みの価格)を高めに、そうでないものは低めにして、全体でどのような価格設定が、一番利益が多くなるかを考えるべきではないか。 *  *  * 消費税率の引上げをチャンスと捉え、競争相手から顧客を奪うような価格設定する事業者があってもおかしくない(おそらくすでに存在している)。 こう書いたところで、10月1日から酒税が引き上げられる第3のビールについて、イオンはPB(プライベートブランド)の価格を据え置くというニュースを目にした。消費者の支持を集めるためというが、店側のマージンを極大化するためである。 同じサービス内容でも、時間帯によって価格を変えるダイナミック・プライシングも普及するなど、そもそも価格とは何か、その定義が難しくなっている中で、消費税にばかり目を向けるのではなく、視野を広く持つ必要がある。 (了)

#No. 388(掲載号)
#森信 茂樹
2020/10/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例22】「役員給与における「不相当に高額な部分」の意義と租税法律主義」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例22】 「役員給与における「不相当に高額な部分」の意義と租税法律主義」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、北陸地方において日本酒の醸造を行っている酒造メーカーである株式会社Aにおいて、ここ10年あまり経理部長を務めております。近年、健康志向の高まりによる「低アルコール」飲料へのシフトや食事の洋風化、容器の「飲みきりサイズ」への少量化といった要因により、日本酒の国内出荷量は低迷しております。また、今年に入ってからのコロナ禍により、外食需要の縮小も大きな懸念材料といえます。そのような業界を取り巻く厳しい経済状況の中、わが社は比較的高価格帯の「特定名称酒」に力を入れており、お陰様で根強い支持をいただいているところです。また、海外での和食ブームに乗り、北米や東南アジア向けの輸出も現在伸びております。 わが社のこのような経営基盤を築いた功労者は、間違いなく先代の会長と、その奥様である元取締役であるといえます。そこで、一昨年、お二方がわが社の経営の一線を完全に退くにあたり、その長年の貢献と労苦に報いるため、退職慰労金を支払っております。その金額は、顧問税理士はもとより、地元の金融機関とも相談し妥当といえるものであると考えておりました。ところが、最近受けた税務調査で、調査官から「先代の会長とその配偶者である元取締役に対して支払った役員退職慰労金は、同業他社の事例と比較してかなり高い」ことから、法人税法第34条第2項にいう「不相当に高額な部分の金額」があるため、その金額については損金の額に算入されないと言われました。 最近出た裁判例で、酒造メーカーの役員給与について争われた事案があり、それでは創業者に対して支払われた役員退職金がわが社のケースよりも高いにもかかわらず認容されたと聞きます。調査官にもその旨を反論しましたが、「あちらとは事情が異なる」として取り合ってもらえません。今後どのように対応したらよいのでしょうか、教えてください。 【A】 先代の会長とその配偶者である元取締役に対して支払った役員退職慰労金が損金算入されるかどうかは、法人税法第34条第2項にいう「不相当に高額な部分の金額」があるかどうかにかかってきますが、「創業者の功績」というある種の無形資産をどの程度合理的かつ多く見積もることができるのかがカギとなるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の役員退職慰労金の取扱い 平成18年度の税制改正以降、法人税法上、退職した役員に支給される退職給与(役員退職慰労金)は「役員給与」という概念の中に包含されることとなった。当該役員退職慰労金の法人税法上の取扱いは、その支給額のうち「不相当に高額な部分の金額」として政令に定める金額がある場合、その金額については損金に算入されないというものである(法法34②)。 ここでいう「不相当に高額な部分の金額」として政令に定める金額とは、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合、その超える部分の金額をいう(法令70二)。   (2) 功績倍率法と1年当たり平均額法 「不相当に高額な部分の金額」として政令に定める金額を算定する際に参照される、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況は、裁判実務上、以下の2つの方法が使用される。 ① 功績倍率法 役員に対する退職給与が支給されている他の法人で、当該法人と同種の事業を営み、かつ事業規模及び退職した役員の地位等が類似するものを選び出し、その功績倍率に当該役員の最終月額報酬及び在任(勤続)年数を乗じて適正額を算出する方法である(※1)。これは、通常、以下の算式により計算される。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)401頁。 〇 功績倍率法の算式 上記算式で重要な指標は、「功績倍率」である。功績倍率とは、退職給与が役員の最終月額報酬に在任(勤続)年数を乗じた金額の何倍にあたるかというときの、その倍率を指す。功績倍率は、同種事業で事業規模及び退職した役員の地位等が類似するものを基準に算定されることとなる。 功績倍率には更に以下の2種類がある。 (ア) 平均功績倍率 類似法人の功績倍率の平均値をいう。当該倍率を用いた功績倍率法によることが合理的とされた裁判例として、東京高裁昭和49年1月31日判決・行裁例集25巻1=2号66頁、最高裁昭和60年9月17日判決・税資146号603頁、札幌地裁平成11年12月10日判決・訟月47巻5号1226頁等がある。 (イ) 最高功績倍率 類似法人の功績倍率の最高値をいう。当該倍率を用いた功績倍率法によることが合理的とされた裁判例として、東京高裁昭和56年11月18日判決・行裁例集32巻11号1998頁等がある。 ② 1年当たり平均額法 功績倍率方式に代わる算式としては、「1年当たり平均額法」というものがある。これは、以下の算式で示されるとおり、類似法人の役員に係る退職給与の平均額(1年当たり)に、対象となる役員の在任年数を乗じて求めるという方法である。功績倍率方式よりも1年当たり平均額法の方が役員退職給与の算定方式として合理的であるとした裁判例として、札幌地裁昭和58年5月27日判決・行裁例集34巻5号930頁等が挙げられる。 〇 1年当たり平均額法の算式 ③ 両者の適用順位 功績倍率法と1年当たり平均額法の2つの方法の適用に関する優先順位であるが、これは納税者に有利な方法を優先して適用すべきであると解されている(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書401頁。   (3) 泡盛酒造会社事件 最近マスコミをにぎわした役員給与に関する裁判例として、沖縄の泡盛酒造会社事件(一審東京地裁平成28年4月22日判決・税資266号-71(順号12849)、TAINSコード:Z266-12849、控訴審東京高裁平成29年2月23日判決・税資267号-32(順号12981)、TAINSコード:Z267-12981)があるので、以下でその内容を確認しておきたい。 ① 事件の概要 本件は、泡盛「残波」で著名な酒造会社である原告(比嘉酒造)が、処分行政庁である沖縄税務署長から、平成19年2月期から平成22年2月期までの各事業年度において、役員4名に支給した役員報酬ないし役員給与及び代表取締役を退任した者に対して支給した退職給与について、いずれも「不相当に高額な部分」があり、当該金額は、損金の額に算入されないとして法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことについて、上記役員報酬ないし役員給与及び退職給与の支給額はいずれも適正であるとして、本件各更正処分の一部及び各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 各役員への実際の支給額は判例データベース等では開示されていないが、報道によれば(※3)、代表取締役を退任した創業者(下記判決文中の「乙」)への役員退職金の支給額は約6億7,000万円だったという。 (※3) 2016年4月23日付沖縄タイムス。 ② 事案の争点 代表取締役を退任した者に対して支給した退職給与のうち、不相当に高額であるとして損金の額に算入されない部分の金額の有無及びその額。 なお、取締役4名に関する役員報酬に係る「不相当に高額な部分」については、本稿では扱わない。 ③ 裁判所の判断 (ア) 東京地裁の判断 一審の東京地裁平成28年4月22日判決・税資266号-71(順号12849)は以下のとおり判示し、課税庁の主張を認めなかった。 (イ) 東京高裁の判断 控訴審の東京高裁平成29年2月23日判決・税資267号-32(順号12981)では、役員退職給与部分は争われず、原審で認められなかった役員給与の損金算入につき、納税者側が認めるよう主張したが、斥けられた。 なお、納税者側は上告したが不受理で(最高裁平成30年1月25日決定・税資268号-13(順号13118))、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件は役員退職給与が不相当に高額であるかどうかが争われた事案であるが、その判断基準として、功績倍率法が採用されている。また、功績倍率法の各要素について、在任年数に争いはなく、一般に2~3の間に収まる「功績倍率」については3.0としている。被告・課税庁はこれを否定することは困難であるためか、原告の主張する3.0はすんなり認められている。 最後の要素である「退職時の報酬月額(最終月額給与)」であるが、その適正額について争いがあった。被告・課税庁は、同種事業・類似規模の法人の選定に際し、売上高が当該法人の半分から2倍の範囲内の同業者を選定し、その平均値・・・をもって相当の額の給与とみなす行政実務である、いわゆる「倍半基準(※4)」によりそれを算定することを主張したが、裁判所は「各比較法人のうち代表取締役に対する給与額の最高額の高い上位2法人」の水準を超えない限りは「不相当に高額な部分の金額があるとはいえない」として、課税庁の主張を斥けている。裁判所がこのように平均値ではなく最高値を採用すべきと判断した根拠としては、退職した代表取締役の会社に対する貢献度を十分評価してのものであると解されるところである。 (※4) 金子前掲(※1)書400頁。 「不相当に高額な部分の金額」の有無の判断に関しては、法令解釈上、同種事業・類似規模の法人の退職金の水準が判断基準となるのは当然であるが、それのみをもって「倍半基準」を機械的に当てはめるのは妥当ではなく、特に本件のように会社への貢献度が絶大な創業者・長らく代表取締役を務めた者については、その役員の法人に対する貢献度その他特殊事情を考慮すべきということになる(※5)。 (※5) 金子前掲(※1)書400-401頁。 最後に、やや蛇足となるが、本件の理解を深めるに資する背景説明として、沖縄経済の特殊性に関し若干触れておきたい。沖縄においては、復帰から2014年までの42年間で、泡盛業界に対し総額約400億円もの酒税が免除されてきた、とされている(※6)。創業者のビジネスに係る創意工夫は当然評価されてしかるべきであるが、それだけでなく、酒税優遇のメリットが上位蔵元である比嘉酒造(といっても年商20億円程度であるが)に集中してきた結果として、本件のような巨額の役員退職給与の支給につながったという点は否めないであろう。 (※6) 前泊博盛「沖縄における泡盛産業と地域振興」札幌大学総合研究6(2015)64頁。 ⑤ 不相当に高額な部分の金額と課税要件明確主義 法律又はその委任のもとに政省令において課税要件及び租税の賦課・徴収の手続きに関する定めを行う場合に、その定めは可能な限り一義的で明確でなければならないとする原則を、一般に課税要件明確主義というが(※7)、本件で問題となった「不相当に高額な部分の金額」のようないわゆる「不確定概念」を解釈上どのように明確化するのか、という点が問題となる。 (※7) 金子前掲(※1)書84-87頁。 この点に関し、本件で裁判所は、役員報酬に関する別の争点に対する判示として、 としている。 不相当に高額な部分の金額の有無を一義的に算定するには、功績倍率法の場合、「功績倍率」及び「退職時の報酬月額(最終月額給与)」が特に必要な情報となるが、本件のように、「退職時の報酬月額(最終月額給与)」が同種・同規模企業と比較して妥当かの判断が求められる場合、一般納税者がそのような情報を入手することは容易ではなく、裁判所の「一般に公表された統計等により、法人の規模や業務に応じた役員報酬ないし役員給与の傾向ないし概要を把握することは可能である」という認識は、憲法違反との断定を躊躇してのものとはいえ、現実から乖離していると言わざるを得ない。一方で、納税者の申告情報を一元的に管理している課税庁がこのような情報を入手することは容易であり、このようなギャップは一般に「シークレット・コンパラブル」の問題とされている(※8)。 (※8) 木山泰嗣『入門課税要件論』(中央経済社・2020年)47頁参照。 筆者はかねてから、このような納税者と課税庁との「情報の非対称性」を克服するため、法人の申告方法のデータベース化を主張しているところであるが(※9)、本件でこの部分の議論が深まらなかったことは非常に残念である。「不相当に高額な部分の金額」とはどの程度であるのか、「相応の予測」程度ではなく、その金額を納税者が申告時点において算定できないのであれば、憲法84条から導き出される課税要件明確主義の要請を満たしているとは言えないであろう。 (※9) 拙稿「法人の申告情報開示の意義」『租税訴訟』12号53-54頁参照。   (4) 本件への当てはめ 先代の会長とその配偶者である元取締役に対して支払った役員退職慰労金が損金算入されるかどうかは、法人税法第34条第2項にいう「不相当に高額な部分の金額」があるかどうかにかかってくる。当該「不相当に高額な部分の金額」の算定は、一般に功績倍率法を使用することになるが、そこで使用される各要素のうち、「功績倍率」及び「退職時の報酬月額(最終月額給与)」は、同種・同規模企業と比較しての妥当性が問われることとなる。その金額をなるべく多額に(納税者有利に)算定するには、「創業者の功績」というある種の無形資産をどの程度合理的かつ多く見積もることができるのかがカギとなるものと考えられる。 (了)

#No. 388(掲載号)
#安部 和彦
2020/10/01

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第5回】「株式移転」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第5回】 「株式移転」   公認会計士 佐藤 信祐 9 株式移転 (1) 基本的な取扱い 単独株式移転を行った場合において、グループ内の適格株式移転に該当するためには、株式移転後に株式移転完全親法人と株式移転完全子法人との間に当該株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれている必要がある(法令4の3㉒)。すなわち、単独株式移転を行った後に、株式移転完全親法人が株式移転完全子法人株式を譲渡することが見込まれている場合には、非適格株式移転として取り扱われる。 【単独株式移転後の株式譲渡】 〈ステップ1:株式移転〉 〈ステップ2:株式譲渡〉 さらに、非適格株式交換・移転に該当する場合であっても、法人税法62条の9第1項では、時価評価課税の対象から「株式交換又は株式移転の直前に当該内国法人と当該株式交換に係る株式交換完全親法人又は当該株式移転に係る他の株式移転完全子法人との間に完全支配関係があった場合における当該株式交換及び株式移転を除く」こととしているが、単独株式移転の場合には、「他の株式移転完全子法人」が存在しないことから、時価評価課税の対象から除外することはできない。 この場合における株式移転完全子法人の株主の処理であるが、株式移転完全親法人株式以外の資産が交付されない場合には、株式譲渡損益の対象から除外されている(法法61の2⑪)。そして、株式移転完全親法人では、株式移転により株式移転完全子法人株式を取得することから、以下の仕訳を行うことになる。 【株式移転時の株式移転完全親法人の仕訳】 この場合の株式移転完全子法人株式の受入価額は、「その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額」であると規定されている(法令119①二十七)。なお、非適格株式移転に該当する場合であっても、株式移転の直前に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人との間に完全支配関係があるときは、適格株式移転と同様の処理を行うが、非適格株式移転に該当する単独株式移転を行った場合には、そのような規定が存在しない。そのため、株式移転完全子法人株式の譲渡を行った場合には、株式移転から株式譲渡までの間に時価が変動しない限り譲渡価額と帳簿価額が一致し、株式譲渡損益が生じない。 これに対し、株式移転完全子法人の保有する資産に含み損益がなく、含み益の原因がのれん(営業権)のみであったとすれば、帳簿価額が10百万円未満であることから(法令123の11①四)、非適格株式移転に該当したとしても、結果的に時価評価の対象になる資産は存在しない。このような場合であっても、株式移転完全子法人株式の受入価額が「その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額」となるため、株式移転完全子法人の株主、株式移転完全親法人において課税は生じないことから、何ら課税を受けることなく、被買収会社株式を譲渡することができるという問題がある。 このような問題が生じるのは、単独株式移転がグループ法人税制の対象外とされているからである。もし、グループ法人税制の対象にすることができれば、適格株式移転と同様の取扱いとなるため、このようなスキームを利用することができない。単独株式移転はグループ外の法人と行う組織再編成ではないことから、単独株式移転をグループ法人税制の対象に含めることにより、立法的な解決が図られるべきであると考えられる。 (2) 株式譲渡損の創出 実務上、非適格株式移転を行った後に、株式移転完全子法人から株式移転完全親法人に対して適格現物分配、剰余金の配当又は適格分割型分割を行うことが考えられる。例えば、株式移転完全子法人株式の時価が3,000百万円であり、適格現物分配により移転する資産の帳簿価額が1百万円である場合には、以下の仕訳が行われる。 【株式移転完全親法人の仕訳】(単位:百万円) (ⅰ) 非適格株式移転 (ⅱ) 適格現物分配 上記の事案において、適格現物分配の対象となった資産の時価が300百万円であると仮定すると、株式移転完全子法人株式の時価が2,700百万円まで減額されるため、株式移転完全子法人株式を2,700百万円で譲渡することにより、株式移転完全親法人において300百万円の譲渡損が生じることになる。 このような効果は、剰余金の配当及び分割型分割においても期待することができる。もちろん、剰余金の配当については、(イ)株式移転前に株式移転完全子法人とその株主との間に当該株主による完全支配関係がある場合を除き、完全子法人株式等に該当せず(法令22の2①括弧書参照)、(ロ)特定関係子法人(株式移転完全子法人)の設立の日から特定支配関係発生日までの期間を通じて、その発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに占める内国普通法人若しくは協同組合等又は居住者が有している株式又は出資の数又は金額の割合が100分の90以上である場合を除き、受取配当等の益金不算入が適用された金額につき、株式の帳簿価額から引き下げる必要があるという問題がある。 さらに、分割型分割を行った場合には、適格現物分配及び剰余金の配当と異なり、分割承継法人が保有する分割法人株式の帳簿価額が減額することがあるため(法令119の3⑪、119の4①)、適格現物分配又は剰余金の配当を行った場合に比べ、株式譲渡損失が小さくなる可能性がある。 そうは言っても、非適格株式移転と適格現物分配、剰余金の配当又は適格分割型分割を組み合わせることで、株式移転完全親法人において株式譲渡損失を創出することができる。単独株式移転に対してグループ法人税制を適用することができれば、このような問題は生じることはない。 (3) 事業承継案件における利用 このような手法は、M&A案件ではなく、事業承継案件においても利用することができる。なぜなら、単独株式移転を行った場合において、グループ内の適格株式移転に該当するためには、株式移転後に株式移転完全親法人と株式移転完全子法人との間に当該株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれている必要があり(法令4の3㉒)、同一の者による完全支配関係は認められていないからである。すなわち、単独株式移転を行った後に、株式移転完全親法人が株式移転完全子法人株式をオーナーの息子に譲渡する場合には、非適格株式移転として取り扱われる。 実務上、このような手法は、生前に後継者に事業を譲渡するものの、一部の資産については譲渡の対象から除外する場合に検討されることがある。すなわち、適格現物分配、剰余金の配当又は分割型分割により、後継者に譲渡をしない資産を株式移転完全親法人に移転させた後に、後継者に株式交換完全子法人を譲渡することにより、株式移転完全子法人にある資産のうち、後継者に譲渡するものと、譲渡しないものを分けることができる。 このように、結果的に株式譲渡損が創出されてしまうが、円滑な遺産分割を行う必要があったり、一部の事業のみを早めに譲渡しておく必要があったりすることがあるため、事業目的が十分に認められるような事案も想定される。さらに言えば、株式移転完全子法人に許認可、免許がある場合、取引先、仕入先の関係上、株式移転完全子法人にある事業を別の法人に移転させることができない場合には、株式移転完全子法人株式を後継者に譲渡する必要があることから、他の代替的な手法に比べて有利性が高い場合があることも否めない。 このように、単独株式移転をグループ法人税制の対象から除外していることにより、意図せずに多額の節税ができてしまうことからも、単独株式移転をグループ法人税制の対象に含めるべきであると考えられる。 *   *   * 第4回において、グループ通算制度の加入に伴う時価評価課税をグループ法人税制に取り込むべきかどうかについて解説を行った。次回では、グループ通算制度における帳簿価額修正の制度をグループ法人税制に取り込むべきかどうかについて解説を行うこととする。 (了)

#No. 388(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/10/01

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第15回】「〔第2表〕新型コロナウイルスの影響により休業している場合の評価」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第15回】 「〔第2表〕新型コロナウイルスの影響により休業している場合の評価」   税理士 柴田 健次   Q A社(3月決算で小会社に該当します)は飲食店を経営しており、新型コロナウイルスの影響により令和2年4月から6月まで休業していましたが、6月に株式の贈与を行っています。この場合には、休業中の会社として純資産価額のみで評価を行い、類似業種比準価額は使用できないことになりますでしょうか。 なお、令和2年7月から営業を再開しましたが、売上が激減しています。その場合には、評価上、何らかの減額の斟酌はされることになるのでしょうか。 A 休業中の会社は、配当金額、利益金額を基に計算することが不合理であるため、類似業種比準価額は使用できず、純資産価額で評価します。直前期の利益金額や配当金額が存在し、課税時期においてたまたま一時的に休業しており、課税時期後に事業を再開している場合には、類似業種比準価額を使用することに問題はありませんので、本問の場合には、休業中の会社には該当しないものとして、類似業種比準価額を使用して計算を行います。 また、A社は、小会社に該当しますので、原則的評価方式が適用される株主に該当する場合には、他の特定の評価会社に該当していなければ、類似業種比準価額と純資産価額を折衷して評価することになりますが、現行の法律(本稿執筆時点)において、新型コロナウイルスが特定非常災害には該当しないものとされていますので、原則として特別な減額の斟酌はないものとされています。  ◆  ◆  ◆ ① 特定非常災害 「特定非常災害」とは、著しく異常かつ激甚な非常災害として政令で指定されたものをいいます(特定非常災害特別措置法2①)。例えば、令和2年7月豪雨による災害、令和元年台風第19号による災害、平成30年7月豪雨による災害、平成28年熊本地震、平成23年東日本大震災などが該当します。 特定非常災害に該当した場合には、一定の要件の下に、課税時期の価額ではなく、特定非常災害発生直後の価額を基に計算できることとされています。類似業種比準価額の計算においては、災害発生日の属する事業年度の見積利益金額等を使用して計算することができます。また、純資産価額の計算においても、特定非常災害発生直後の価額に基づき不動産等を評価することができます(措法69の6、69の7、措令40の2の3、措通69の6・69-7供-3、69の6・69の7供-4)。 新型コロナウイルスについては、本稿執筆時点においては、政令での指定がありませんので、新たな指定がない限りは、災害後の利益金額の減少や不動産等の減額については考慮することができないことになります。   ② 類似業種比準価額の計算 類似業種比準価額の計算の基礎となる業種目株価は、贈与月以前3ヶ月間の各月の株価、前年平均株価及び課税時期の属する月以前2年間の平均株価のうち最も低い株価を使用することになりますので、新型コロナウイルスの影響は反映されていることになります。 しかし、評価会社であるA社については、利益金額については、直前事業年度、直前々事業年度の2期を基に計算がなされますので、新型コロナウイルスの影響は反映されていないことになります。類似業種比準価額については、①の特定非常災害があった場合で一定の株式等に該当する場合を除き、必ず直前事業年度以前の利益金額、配当金額、純資産価額を基に計算がなされます。   ③ 純資産価額の計算 純資産価額の計算時点については、原則的には課税時期(贈与日又は相続開始日)の資産及び負債を基に計算(仮決算方式)することになりますが、簡便的に直前期末時点の資産及び負債に基づき計算(直前期末方式)することも認められています。 本問の場合においては、6月贈与時点又は3月末時点の資産及び負債を基に評価することになりますが、新型コロナウイルスの影響により6月贈与時点で評価することにより純資産価額が下がる可能性があるため、4月から6月贈与日時点までの決算を確定し、どちらの決算を採用するか検討することになります。 なお、直前期末から課税時期までの間に著しく資産及び負債の増減がある場合には、直前期末方式で計算することはできませんので、仮決算方式で計算することになります。   ☆実務上のポイント☆ 非上場株式の評価については、現行の法律では、新型コロナウイルスによる特別な減免措置は想定されてはいないものの、類似業種の業種目株価は、その影響が反映されており、第5表における純資産価額の計算においても課税時期時点の資産及び負債を基に評価することができるため、実務的には、贈与月の検討及び純資産価額の計算においては、仮決算方式の検討を行う必要があります。   (了)

#No. 388(掲載号)
#柴田 健次
2020/10/01

租税争訟レポート 【第51回】「経理担当者による横領と重加算税(国税不服審判所2018(平成30)年4月16日裁決)」

租税争訟レポート 【第51回】 「経理担当者による横領と重加算税 (国税不服審判所2018(平成30)年4月16日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【裁決の概要】   【事案の概要】 本件は、パチンコ及びスロット店を経営する法人である審査請求人(以下「請求人」という)が、原処分庁から架空仕入れの計上を指摘されて、法人税、復興特別法人税、地方法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という)の各確定申告に係る修正申告をしたところ、原処分庁が、当該架空仕入れの計上について、請求人による隠蔽又は仮装に該当するとして、上記各税に係る重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該架空仕入れの計上について、従業員による行為であり、請求人による隠蔽又は仮装ではないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。   【経理担当者による修正仕訳の入力と資金の横領】 国税不服審判所の事実認定によれば、請求人の本部に所属する従業員は、営業部長(部長)、経理総務部次長(次長)、経理担当者とパート社員の合わせて4人であった。 請求人の2つの店舗で作成された営業日報をもとに、次長、経理担当者及びパート社員が請求人の会計システムに入力し、部長が営業日報と売上高から仕入代金を控除した差額の現金とを突合したうえで、銀行に入金することとなっていたが、厳密に運用されていたわけではなかった。 経理担当者は、会計システムに修正仕訳を入力することによって、請求人が運営する2つの店舗のうち、いずれかの店舗の売上高から仕入代金を控除した差額と一致する金額の架空仕入を計上することにより、その差額を着服していたものである。 経理担当者の入社から、不正発覚後の退社までを時系列でまとめておく。   【裁決の概要】 1 争点 本件の争点は、「請求人は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したか」である。 2 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人は、以下の事実から、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したものであると主張した。 3 審査請求人の主張 請求人は、隠蔽仮装行為とされる修正仕訳の入力を行ったのは、経理担当者であり、調査担当職員から指摘を受けるまで修正仕訳の入力を認識すらしていなかったものであるから、以下のとおり、請求人は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装していないと主張した。 4 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、国税通則法第68条に規定する重加算税について、次のように法令解釈を行った(下線は筆者による)。 (1) 国税不服審判所による検討 審判所は、冒頭の判示に従って、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かについて、①修正仕訳入力の態様、②経理担当者の地位・権限及び経理担当者に対する管理・監督の程度について、それぞれ検討を加えた。 以上の検討の結果、国税不服審判所は、経理担当者が、請求人の知らない間に修正仕訳の入力をしていたとしても、経理担当者は、請求人による管理・監督が不十分で、事実上、会計データの変更や営業店舗から引き継がれた現金の処分が自由にできる地位にあったことを奇貨として、請求人にもその存在及び架空仕入れに係るものであることが容易に判明する態様の修正仕訳の入力を行ったということができるとして、修正仕訳の入力は、請求人の行為と同視できるというべきであるから、納税者である請求人がした事実の隠蔽又は仮装であると認められると判断した。 (2) 請求人の主張について 国税不服審判所は、本件は、経理担当者が、横領の発覚を防ぐという私的な目的のために、巧妙に会計データを改ざんする修正仕訳を行っていたことから、修正仕訳の入力を請求人の行為と同視することができないという請求人の主張について、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かについては、上記(1)のとおり、その従業員等の行為態様のほか、その従業員等の地位・権限、その従業員等に対する管理・監督の程度等を総合考慮して判断するものであり、その判断は、その従業員等が私的な目的で当該行為を行ったか否かによって直ちに左右されるものではないとしたうえで、本件の経理担当者による修正仕訳の入力は、その存在及び架空仕入れに係るものであることが請求人にも容易に判明する態様のものであり、巧妙ではないとして、その主張を斥けた。 (3) 結論 結論として、国税不服審判所は、経理担当者による修正仕訳の入力は、納税者である請求人がした事実の隠蔽又は仮装であると認められるから、請求人は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したと認められると述べたうえで、原処分はいずれも適法であるとし、審査請求は理由がないので、いずれも棄却するという裁決を行った。   【解説】 長年、教師の職にあったことから、信用できると思って雇用した経理担当者が、約5年の間に、1億円を超える資金を横領していたことが、税務調査で判明するというのは、請求人には寝耳に水の話であったことが予想できるが、裁決文を読む限り、請求人には、不正を防止する仕組み(内部統制システム)はまったく存在せず、国税不服審判所も、不正の手口について、「本件修正仕訳の入力は、その存在及び架空仕入れに係るものであることが請求人にも容易に判明する態様のものであり、巧妙ではない」と断じる程度のものであった。 調査開始後すぐに退職した経理担当者に対して、請求人が、横領した金員の返還を求めたり、刑事告訴をしたといった情報は、裁決書からは読み取れないが、2店舗しか経営していない会社の代表者が、5年間で1億円の現金がなくなっていることに気づかないほど、パチンコ及びスロット店の経営は利益が出るということなのだろうかと考えさせられた裁決である(請求人の課税所得などは例によって黒塗りとなっているため、業績については不明である)。 1 経理担当者の権限 国税不服審判所は、従業員等の行為が納税者の行為と同視できるか否かの判断にあたっては、従業員等が私的な目的で当該行為を行ったか否かによって直ちに左右されるものではないとして、請求人の主張を斥けているが、その論拠となっているのが、修正仕訳の入力は、その存在及び架空仕入れに係るものであることが請求人にも容易に判明する態様のものであり、巧妙ではないからという点であるが、ここには論理の飛躍があるように思料する。 すなわち、従業員等による事実の隠蔽又は仮装行為が、私利私欲のためであるか否かを問わず、納税者の行為と同視できるかどうかを検討して判断すべきものであることについて異論はないし、従業員に大きな権限を与えていたのであれば、納税者の行為と同視できると判断されても仕方あるまい。 しかし、請求人による管理・監督が不十分で、事実上、会計データの変更や現金の処分が自由にできる地位にあった経理担当者が行った修正仕訳の入力という隠蔽又は仮装行為が、巧妙ではなかったことをもって、修正仕訳の入力は納税者の行為と同視できるという結論を導くのであれば、巧妙な手口による従業員の横領事件であれば、納税者に重加算税は課さないが、手口が巧妙でなければ、不正を発見できなかった納税者の責めに帰すべきであるとして、重加算税の賦課決定は容認できるという論理になろうかと思われるが、果たしてそれでいいのだろうか。 請求人の経営する法人に内部統制システムのような牽制機能がなかったのは事実であり、それが経理担当者の不正を容易にしたことは間違いないが、経営者による、従業員の不正を発見する能力の有無又は高低で、重加算税の賦課決定の可否が判断されるという結論には首肯できない部分がある。 2 顧問税理士は何を見ていたのか 請求人は、前述の主張の中で、「セカンドオピニオンを求めるために顧問税理士以外の税理士に委任した」「不正防止等のために中小企業診断士に委任した」と不正対策を行ったことを主張しているが、本件では、そもそも、顧問税理士が、各店舗の営業日報に記載された売上高の金額と普通預金口座への入金額を確認していれば、すぐに経理担当者の不正行為は発覚していたと思われる。 あるいは、不正な修正仕訳の入力は、結果として、本来1日に1仕訳だけが記帳されるはずの各店舗の仕入勘定について、同日に複数の仕入が計上されることになっているから、複数の仕入が計上されている日の請求書などを確認するだけでも、不正な修正仕訳の存在に気づいたはずである。 顧問税理士による決算への関与がどの程度のものであったかは、裁決書の内容からは判断できないが、国税不服審判所から、「容易に判明する態様のものであり、巧妙ではない」と評された本件修正仕訳の入力と現金の横領行為を発見できなかった顧問税理士は、果たすべき職責を十分に果たしたとは言えないのではないだろうか。   (了)

#No. 388(掲載号)
#米澤 勝
2020/10/01

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第83回】「印紙税法第14条《過誤納の確認等》に規定する確認を受けることができるか争われた事例(平成12年1月26日裁決)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第83回】 「印紙税法第14条《過誤納の確認等》に規定する確認を 受けることができるか争われた事例(平成12年1月26日裁決)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   [基礎事実] [文書のイメージ] [事例のポイント] ① 「課税文書」に該当するか [基礎事実]から、この文書に係る契約を成立させることについてはあらかじめ当事者間において、意思表示の合致があり、これを証明する目的でこの文書が作成されたことは明らかである。したがって、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当する。 また、この文書の作成の時は、請求人が文書に署名押印をして、これをE信用金庫に差し入れた平成11年5月6日である。このことから、同日以降に文書に係る契約内容が実行されなかったといって納税義務が左右されることはない。 ② 過誤納の請求範囲の「使用する見込みのなくなった場合」に該当するか 印紙税基本通達第115条の(2)には「印紙をはり付け、税印を押し、又は納付印を押した課税文書の用紙で、損傷、汚染、書損その他の理由により使用する見込みのなくなった場合」に過誤納の確認を請求することができるとされている。 この文書に係る契約を成立させることについては、あらかじめ当事者間に意思の合致があり、請求人はこれを証明する目的でこの文書に署名押印し、E信用金庫に差し入れており、ここでいう「使用する見込みがなくなった場合」には該当しない。 (了)

#No. 388(掲載号)
#山端 美德
2020/10/01

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第38回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第38回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 法人税法22条の2第5項の概要 ア 貸倒れと買戻しの可能性への対応 法人税法22条の2第5項は、第4項の資産の引渡しの時における価額相当額又は提供をした役務につき通常得べき対価の額相当額は、その資産の販売等につき、次の事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とする旨定めている。 収益認識会計基準のステップ3の箇所で見たように、同基準は、契約上の対価の金額をそのまま収益の額(取引価格)とするものではない。収益認識会計基準は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に「企業が権利を得ると見込む対価の額」で描写するように、収益を認識することを基本原則としている。 この原則に従い、契約において、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もることに特徴がある。変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分である。例えば、値引きやリベート、貸倒れの見込みを織り込んで取引価格を算定することになる(本連載第1回参照)。 また、顧客に返品権を付与した場合も上記の見積りの対象となる。 顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識する。返金負債の額は、各決算日に見直す(基準53、指針設例11)。具体的には、企業が権利を得ると見込む対価の額で収益を認識するなどの処理を行う(指針85)。 上記によって見積もられた変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めることになる(基準54)。 法人税法22条の2第5項は、貸倒れや返品の見込みを収益の額に反映させるような収益認識会計基準のステップ3は受け入れ難い面があるという法人税法の立場を表明したものといえよう。 上記❷の買戻しについて、立案担当者は、収益認識会計基準においては、買戻しに関する取扱いとして、(企業に商品等を買い戻す義務や権利がある場合等に関連して)収益を認識するかどうかという観点からの規定も設けられている(指針69~74、104)が、法人税法22条の2第5項は「価額」又は「通常得べき対価の額」の算定上考慮しない事実を定めた規定であることから、返品権付きの販売が該当すると説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁)。 今後、法人税法22条の2第5項2号の買戻しの内包・外延はいかなるものか、同号の対象範囲と収益認識会計基準上の返品権付販売の対象範囲(指針84)が完全に一致するのかという点が問題になる可能性がある。 法人税法22条の2第5項について、将来起こりうる不確実な事実を収益の認識に反映させると、収益の認識が客観性を欠いたものとなるから、この規定が定められた旨の指摘がある(金子宏『租税法〔第23版〕』356頁(弘文堂2019)参照)。会計側からは、客観性を欠いたものではないという反論もあるかもしれないが、元来、法人税法は見積りによる費用ないし損失計上については慎重な姿勢をとる傾向がある。 よって、収益の計上額という場面においても見積り的処理に対して同様に慎重な姿勢をとることや、貸倒れの見込みについて、収益の計上額の場面ではなく、これまでどおり費用又は損失の場面で対応することは首肯できる。 イ 法人税法施行令18条の2第4項と貸借対照表項目のズレ 法人税法22条の2第5項によって、収益認識会計基準を適用した場合の会計処理と法人税法上の処理にズレが生じるが、これは、「売上高」のようにいわば損益計算書項目におけるズレである。会計上、貸倒れ見込みを反映して「売上高」を減額することにより、これに対応する「売掛金」も減額されるのであれば、貸借対照表項目におけるズレも生じる。 このような貸借対照表項目におけるズレについては、次のとおり、法人税法施行令18条の2第4項等で手当てされている。 法人税法22条の2第7項は「前2項に定めるもののほか、資産の販売等に係る収益の額につき修正の経理をした場合の処理その他第1項から第4項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。」と規定している。これを受けて、法人税法施行令18条の2第4項は、次のとおり定めている。 これは、資産の販売等に係る収益の額につき、貸倒れ又は買戻しの可能性があることにより収益認識に関する会計基準に従ってこれらの可能性を考慮して計算した金額を、契約上の対価の額から控除して収益計上した場合が想定されている。控除後の金額を当該契約に係る売掛金等の金銭債権の帳簿価額とした場合にも、法人税法上はこれらの可能性を考慮せずに益金の額を算定するというものである。 よって、その収益の反対勘定である金銭債権の帳簿価額についても、会計との間で不一致が生ずることとなる。そこで、法人税法施行令18条の2第4項は、会計上、収益の額から控除し、金銭債権の帳簿価額を構成しないこととされた金額について、税法上は金銭債権の帳簿価額を構成することを明確にするものである(財務省『平成30年度 税制改正の解説』279頁参照)。 貸倒引当金との関係においても、同様の調整規定が置かれている。資産の販売等を行った場合において、その資産の販売等の対価として受け取ることとなる金額のうち、その資産の販売等の対価の額に係る金銭債権の貸倒れが生ずる可能性があることにより、売掛金その他の金銭債権に係る勘定の金額としていない金額(金銭債権計上差額)があるときは、その貸倒基因金銭債権計上差額相当額は、損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額、あるいは期中個別貸倒引当金勘定又は期中一括貸倒引当金勘定の金額とみなして、貸倒引当金の規定を適用することとされた(法令99)。 なお、平成30年度改正により、収益認識会計基準の導入を契機として、返品調整引当金は廃止されたが、貸倒引当金は存置されている。   (了)

#No. 388(掲載号)
#泉 絢也
2020/10/01
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