2018年9月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.284を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.68- 「出始めた『富裕税』の議論」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 ポピュリズムの蔓延する欧州で、富裕税の議論が出始めている。格差是正や財源不足のおり、政治的には飛びつきやすいテーマである。 富裕税の課税ベースは、個人(あるいは法人)の純資産、つまり総資産から負債を差し引いたもので、経常的資産税、あるいはネット・ウエルス・タックスと呼ばれる税だ。法人が課税される場合もある。 欧州では90年代頃まで、ドイツやフランス、スウェーデンなど多くの国で富裕税が導入されていた。しかし、資本移動の自由化が進み、富裕税逃れの資本逃避が続いたことから、ドイツでは1997年に、スウェーデンでは2007年に廃止された。フランスでは未だ存続しているものの、マクロン大統領は、富裕連帯税の大幅な縮小を行った。 その一方、注目される動きが出ている。スペインは08年に廃止された富裕税を、主として財源対策の観点から、2011年に復活させた。大義は財政収入の確保だが、大金持ちへの増税なら政治的にも反対が少ないという事情もあり、2,000億円程度の税収増となっている。この復活は暫定的なものといわれているが、資産税に新たな意義を見出す再評価のきっかけになるという見方もある。 * * * 富裕税に関する議論の高まりの背景には、ピケティ氏の『21世紀の資本』が世界的なベストセラーとなり、その中で、世界的な累進資本税(capital tax)が提言されたことにある。 具体的には、「100万ユーロを超える金融資産、不動産の合計(時価評価)から負債を差引いた『純価値』を課税ベースとし、1%、2%というような累進税率」が提言されている。累進税の根拠として、不公平を是正するというだけでなく、資産の規模に応じて収益率も変わる(規模が大きいほど収益率も大きくなる)ことを挙げている。 またその前提として、タックスヘイブンを含んだ資産情報の透明性の確保が必要と述べているが、リーマンショック以降、OECDを中心に情報交換は加速しており、わが国も含めた自動的な情報交換が始まっている。IT技術の発達が所得・資産の把握を効率的・効果的にしているのである。 このような動きを踏まえて、欧州のシンクタンクから「European Wealth Tax」が提言されている。内容は、純資産が100万ユーロを超える者には1%、500万ユーロを超える者には1.5%の税率をEU全体で課すというもので、GDPの1.5%、1,562億ユーロ(約16兆円)の税収が得られるという。影響を受けるのは全家計の4.8%である。資産がEU域外に逃げないような情報交換ネットワークの導入がセットとして提言されている。 ポピュリズムの蔓延が、このような動きを後押しする可能性がある。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第1回】 「大法人の電子申告義務化の全体像」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 2004年2月に名古屋国税局管内でスタートし、同年6月に全国拡大した「国税電子申告・納税システム(e‐Taxシステム)」も、今年(2018年)で15年目に突入しました。 しかしながら、直近(2016年度)の法人税の電子申告利用率を見てみると、全法人ベースでは79.3%の利用率であるのに対して、国税局調査部所管の大企業(原則、資本金1億円以上の法人)に限っては未だ56.9%の利用率にとどまっています。 書面による申告の場合、せっかく企業が作成した申告等データがそのまま電子的に提出されないということになり、所轄税務署では職員による再データ化(申告書等の読取・入力作業等)が必要となるため、双方にとって非効率です。 したがって、企業がICT(情報通信技術)を活用して作成・管理しているデータをそのまま円滑に提出できる環境を整備し、電子署名の簡便化やe‐Taxシステムの機能改善等その他の納税者利便性も向上させつつ、法人税等の電子申告利用率100%を実現するために、平成30年度税制改正において「電子情報処理組織による申告の特例」が創設されました。 これにより、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子情報処理組織(「電子申告」)で提出しなければならないこととされ、これを「電子申告の義務化」と呼んでいます。 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は、以下のとおりとなります。 1 対象税目 上記(1)のとおり、電子申告の義務化は地方税も対象となりますので、事業所が多く申告書の提出先が多い企業は、国税庁が提供している「e‐Taxソフト」や(社)地方税電子化協議会が提供している「PCdesk」といった無償のソフトよりも、より効率的な入力が可能で、操作性・機能性が高い「市販ソフト」の導入が欠かせないと思います。 したがって、電子申告が義務化される前に、時間的余裕をもって自社に合った電子申告対応ソフトを選定する必要があるでしょう。 2 対象法人の範囲 義務化対象法人には、人格のない社団等及び外国法人は含まれません。 3 対象手続 確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が対象手続となります。 4 対象書類 申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全てが対象書類となります。 対象書類は申告書だけではなく、法人税法等において申告書に添付すべきこととされている書類(財務諸表、勘定科目内訳明細書又は租税特別措置の適用に必要な書類や消費税の申告書付表などのいわゆる「添付書類」)も含まれ、申告書と併せてe‐Taxにより提出する必要があります。 ただ、データ容量が電子申告で送信可能な容量を超えるほどの大容量の場合などは、例外的に、添付書類データを光ディスク等に保存して提出することも可能となる予定です。 5 適用開始届出 電子申告の義務化対象法人は、納税地の所轄税務署長に対し、適用開始事業年度等を記載した届出書(「 e‐Taxによる申告の特例に係る届出書」)を提出することが必要です。 なお、当該届出書は、2020年4月1日以後使用可能となります。 6 適用日 2020年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から適用が開始します。 7 例外的書面申告 電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe‐Taxを使用することが困難であると認められる場合において、書面により申告書を提出することができると認められるときは、納税地の所轄税務署長の事前の承認を要件として、法人税等の申告書及び添付書類を書面によって提出することができます。 * * * 以上をまとめると、下表のとおりとなります。 【電子申告の義務化の概要】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 1 地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化されます。 2 義務化対象法人には、人格のない社団等及び外国法人は含まれません。 (了)
〔平成30年度税制改正で創設された〕 コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)のポイント 【第2回】 「生産性向上特別措置法に係る諸手続」 税理士・公認会計士 新名 貴則 平成30年度税制改正において、「革新的情報産業活用設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除制度」(いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」)が創設された。本連載では、当該税制の概要や手続等について解説する。 当該税制を適用するためには、生産性向上特別措置法に係る手続を経た上で設備投資を行う必要がある。そこで【第2回】では、生産性向上特別措置法に係る諸手続について解説する。 1 生産性向上特別措置法に係る手続の概要 IoT税制の適用を受けるためには、まずは事業者が「生産性向上特別措置法」における「革新的データ産業活用計画」を主務大臣に提出し、その認定を受ける必要がある。そして認定を受けた事業者(「認定革新的データ産業活用事業者」)が、認定を受けた計画(「認定革新的データ産業活用計画」)に基づいて一定の設備投資を行った場合に、当該税制の適用を受けることができる。 対象となる事業者や対象資産、適用期間などの税制適用の具体的な要件については、【第1回】を参照されたい。 2 具体的な手続 ① 革新的データ産業活用計画の策定 事業者は革新的データ産業活用計画を策定し、その認定申請書を作成する必要がある。認定申請書には、主に次のような事項を記載する必要がある。 ② 計画のセキュリティの確認 革新的データ産業活用計画の申請に当たっては、これに先立ってセキュリティの要件を満たしていることついて、情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の確認を受ける必要がある。中小企業等においては、ITコーディネータによる確認も可能となっている。 登録セキスぺ等による確認は、主に次のような内容について行われる。 ③ 計画の認定申請 登録セキスぺ等によるセキュリティ確認の後、計画の認定申請書を提出することになる。このとき、記載の不備等を確認するために、本社所在地を管轄する総合通信局又は経済産業局に、事前相談を行う必要がある。 事前相談の後、本社所在地を管轄する総合通信局及び経済産業局の両局宛に、認定申請書を提出する。また、事前相談の際に必要と判断された場合は、事業所管省庁宛にも提出する必要がある。 なお、認定申請書等の記入方法については、経済産業省ホームページ「コネクテッド・インダストリーズ税制について」で公表されているので参考にされたい。 ④ 計画の認定 申請書が計画として適切と認められると、申請を行った総合通信局、経済産業局及び事業所管省庁(申請した場合)のそれぞれから、認定書が交付される。申請から認定までは、通常30日程度となっている。 計画が認定されるためには、次の要件を満たしている必要がある。 (※1) 次のいずれかの類型に該当するものは対象になりえる。 (※2) 労働生産性の算定式は次の通り。 (※3) 投資利益率の算定式は次の通り。 手続の流れをまとめると、下図のようになる。 なお、経済産業省ホームページでは以下のように、制度の利用に当たっての手引やQ&A、すでに認定を受けた企業及び計画の概要を公表しているので、参考にされたい。 (連載了)
特別事業再編(自社株対価M&A)に係る 課税繰延措置等特例制度の解説 【第2回】 「特別事業再編計画の認定要件」 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 特別事業再編計画の認定を受けたものが支援制度の対象となり、認定を受けた事業者による自社株式を対価とした株式取得に応じた株主について、株式の譲渡損益への課税繰延措置が適用されることとなる。 改正産業競争力強化法に定められた「特別事業再編計画の認定要件」は次のとおり。 計画期間 3年以内(大規模な設備投資を行うものに限り5年) 生産性の向上(事業部門単位) 計画の終了年度において、次のいずれかの指標の達成が見込まれること ① 修正ROA:3%ポイント向上 ② 有形固定資産回転率:10%向上 ③ 従業員1人当たり付加価値額:12%向上 (※1) 修正ROA=(営業利益+減価償却費+研究開発費)/総資産の帳簿価額×100 (※2) 有形固定資産回転率=売上高/有形固定資産の帳簿価額 (※3) 従業員1人当たり付加価値額=(営業利益+人件費+減価償却費)/従業員数 財務の健全性(企業単位) 計画の終了年度において、次の両方の達成が見込まれること ① 有利子負債/キャッシュフロー ≦ 10倍 ② 経常収入 > 経常支出 雇用への配慮 計画に係る事業所における労働組合等と協議により、十分な話し合いを行うこと、かつ実施に際して雇用の安定等に十分な配慮を行うこと 事業構造の変更 他の会社の株式・持分の取得を行うこと(以下の①~③すべてを満たすことが必要) ① 他の会社を関係事業者とすること ② 対価として自社の株式のみを交付すること ③ 対価として交付する株式の価額(対価の額)が余剰資金の額を上回ること (※4) 関係事業者とは、産業競争力強化法2条8項、同施行規則3条の関係を有する事業者をいう。 (※5) 余剰資金の額=現預金-運転資金-上記以外の買収に要する資金の額 前向きな取組 計画の終了年度において、次のいずれかの達成が見込まれること ① 新商品、新サービスの開発・生産・提供 ⇒ 新商品等の売上高比率を全社売上高の1%以上 ② 商品の新生産方式の導入、設備の能率の向上 ⇒ 商品等1単位当たりの製造原価を5%以上削減 ③ 商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入 ⇒ 商品等1単位当たりの販売費を5%以上削減 ④ 新原材料・部品・半製品の使用、原材料・部品・半製品の新購入方式の導入 ⇒ 商品1単位当たりの製造原価を5%以上削減 新事業活動 次のいずれかにあたる新事業活動を行うこと(後述) ① 著しい成長発展が見込まれる事業分野における事業活動 ② プラットフォームを提供する事業活動 ③ 中核的事業へ経営資源を集中する事業活動 新需要の開拓 計画の終了年度において、新たな需要を相当程度開拓することが見込まれること ⇒ 売上高伸び率 ≧ 過去3事業年度の業種売上高伸び率+5%ポイント等 経営資源の一体的活用 申請事業者と関係事業者となる他の会社がそれぞれの有する知識、技術、技能等を活用することにより、商品又は役務の開発、資材調達、生産、販売、提供等において協力すること 上表のうち「新事業活動」とは、以下の①から③のいずれかにより、新需要を相当程度開拓するとともに、著しい生産性向上を達成する取組みとされている。 ① 著しい成長発展が見込まれる事業分野における事業活動 ② プラットフォームを提供する事業活動 ③ 中核的事業へ経営資源を集中する事業活動 * * * 次回は本特例制度における課税関係について解説する。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q9】 「組織再編が行われた場合の取扱い(総論)」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q9] 平成30年度の税制改正によって所得拡大促進税制が抜本的に改正されていますが、組織再編を行った場合の取扱いについてはどのように変更されたのでしょうか。 [A9] ◆改正前の制度では「基準雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」について、組織再編が行われた場合の調整計算の定めがありましたが、改正後の制度では「比較雇用者給与等支給額」に係る調整計算のみが定められています。 ◆平成30年度の税制改正で新たに定められた比較教育訓練費の額及び中小企業比較教育訓練費の額について、組織再編が行われた場合の調整計算の定めが追加されました。 【解説】 (1) 組織再編が行われた場合の取扱いに関する基本的な考え方 本税制を適用しようとする法人において合併、分割等(分割、現物出資、現物分配)が行われた場合には、企業規模が著しく変動することとなるため、適用要件のうち前事業年度等の給与等支給額や教育訓練費との比較を行う局面で組織再編前の金額をそのまま用いると適切な結論に至らないおそれがあることから、比較すべき金額については組織再編による影響を加味して調整することとしている。 (2) 平成30年度の税制改正による変更点 平成30年度の税制改正によって基準事業年度の概念が廃止されたことに伴い、改正前の「基準雇用者給与等支給額」に係る調整計算が削除され、「比較雇用者給与等支給額」に係る調整計算についても規定の見直しが行われている(措令27の12の5⑦~⑫)。 あわせて、新たに導入された「比較教育訓練費」及び「中小企業比較教育訓練費」についても、調整計算の規定が新設された(同⑳㉑)。 (3) 全体像 比較雇用者給与等支給額について組織再編が行われた場合の調整計算は、その組織再編がいつ行われたかにより、①適用年度中に組織再編が行われた場合の調整計算と、②「基準日」(後述)から適用年度開始日の前日までに組織再編が行われた場合の調整計算の2つに分けて規定されている。 比較教育訓練費及び中小企業比較教育訓練費に係る調整計算についても、組織再編手法ごとに若干の対象期間の区切り方や用語の違いはあるものの、それらの用語については比較雇用者給与等支給額に関する規定を読み替えて適用することとされており、具体的な調整計算の方法自体は同じであるといえる。 調整計算の対象となる組織再編は合併、分割等(分割、現物出資、現物分配)であり、分割等については分割法人等と分割承継法人等のそれぞれについて規定されている。 なお、改正前の制度で規定されていた新設合併、新設分割及び現物出資設立に係る調整計算の規定は削除されている。改正後の制度は設立事業年度に適用されないためである。 以上を踏まえ、調整計算に関する条文をマッピングすると下表のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第53回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ④ 時価が帳簿価額以上である資産と特定資産譲渡等損失相当額の計算 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著『組織再編における繰越欠損金の税務詳解(第2版)』(中央経済社)213-214頁では、以下のように解説していた。すなわち、繰越欠損金の引継制限、使用制限の特定資産譲渡等損失相当額の計算における特定引継資産の意義は、 を と読み替えることされていた。 そして、「政令で定めるもの」とは、棚卸資産、短期売買商品、売買目的有価証券、帳簿価額又は取得価額が1,000万円に満たない資産、時価が税務上の帳簿価額以上の資産をいうのに対し、上記の条文構成では、その部分も含めて「被合併法人が特定資本関係が生じた日において有する資産」と読み替えられていることになる。 その結果、特定資本関係発生日における時価が税務上の帳簿価額以上である資産であっても、特定資産譲渡等損失相当額の計算上、特定資産から除外できないということになる。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』534-535頁(中央経済社、平成24年)では、 と規定されていることを理由として、棚卸資産などの除外規定を含めたうえで、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の規定を適用したと仮定して、特定資産譲渡等損失相当額の計算を行うべきであるとした。特定資産譲渡等損失額についての実務上の解釈が定着したことに伴う修正である。 さらに、法人税確定申告書別表7付表(1)の記載要領でも、「特定引継資産又は特定保有資産の譲渡等特定事由による損失の額の合計額」及び「特定引継資産又は特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額」の各欄に記載した金額の計算に関する明細を別紙に記載して添付することが記載されている。すなわち、支配関係発生日における時価が税務上の帳簿価額以上である資産についても、別紙で記載することにより特定資産から除外することができることになる。 ⑤ 特定資産を適格分社型分割により移転する場合 前掲の拙著220-223頁では、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用対象になる法人であっても、対象となる特定資産を適格分社型分割により支配関係が生じてから5年を経過している他の法人に移転した場合には、①当該他の法人は特定資産譲渡等損失の損金不算入の対象法人にならないことから、分社型分割により移転した特定資産に対しては、損金不算入の対象にならないこと、②適格分社型分割により取得した株式については、特定資産譲渡等損失の損金不算入の対象となる適格組織再編成を行った後に取得した資産であることから、損金不算入にならないこととした。 その後、平成25年度税制改正により、支配関係発生日後に適格組織再編成により取得した資産に対して、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象とされ、平成29年度税制改正により、支配関係事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までに処分した資産に対して、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象とされたのに対し、上記の取扱いについては何ら改正が行われていない。 そのため、上記の解釈は現行法上も有効であると解される。 ⑥ 貸倒引当金と特定資産譲渡等損失額 (ⅰ) 平成21年当時の見解 前掲の拙著226-228頁では、個別貸倒引当金の戻入益を控除したうえで特定資産譲渡等損失相当額の計算をすることとされていることから、個別貸倒引当金の繰入額は特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象になると解していた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』548-549頁(中央経済社、平成24年)では、個別貸倒引当金の繰入額は、翌事業年度において益金の額に算入され(法法53⑩)、損失の額として確定していないことから、「これらに類する事由による損失」に該当しないと考えられ、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象に含まれないものとした。特定資産譲渡等損失額の損金不算入についての実務上の解釈が定着したことに伴う修正である。 ⑦ 営業権と時価純資産超過額の計算 (ⅰ) 平成21年当時の見解 前掲の拙著237-238頁では、時価純資産超過額の計算が個々の資産及び負債の積上計算により行うように規定されていることから、差額概念としてののれんを時価純資産超過額の計算に織り込むことは馴染まないものとしていた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、西村美智子・中島礼子「欠損金引継制限の特例における時価純資産価額計算にのれん(営業権)は加味できるか?」国税速報6069号37-39頁(平成21年)では、被買収会社側における時価純資産超過額の計算上、買収価額を時価総額とみなすことができるという見解が述べられ、稲見誠一・三富樹子「適格合併における特定資産譲渡等損失の損金算入制限(時価純資産超過額がある場合)」国税速報6075号34-35頁(平成21年)では、買収会社が市場で評価されている株価総額(時価総額)を時価総額とみなすことができるという見解が述べられるようになった。 これに対応し、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』552-555頁(中央経済社、平成24年)でも、これらの論文の見解に従う形で解釈の変更を行っている。 * * * 次回では、のれんの計算についての解説を行う予定である。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第6回】 「金融資産③(移住後に非上場会社である内国法人から配当を受け取る場合)」 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外へ移住することを検討しています。現在、日本の非上場株式の株主となっており、移住後もその内国法人から配当を受け取る可能性があります。 このような場合、移住後は課税関係は変わるのでしょうか。 移住後の課税関係を教えて下さい。 Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が日本の非上場株式を保有しているケースはよくある。非上場株式を保有している方が移住する場合には、まず国外転出時課税制度の検討が必要になる。国外転出時課税制度の検討については、前回の【第5回】をご参照いただきたい。 今回は移住後にその非上場会社である内国法人から配当を受け取った場合の課税関係についてご紹介したい。 2 非居住者が内国法人から配当を受け取った場合の課税関係 非居住者が内国法人から配当を受け取った場合の課税関係については、①まずは日本の所得税法(国内法)を確認し、②さらに居住地国の所得税法を確認、③最後に日本と居住地国との間の租税条約を確認して、各国での課税関係の結論を導き出す流れになる。 以下では移住先として、筆者が携わることの多いシンガポールを例にとって説明したい。 なお、日本の所得税法の取扱いはどの国に移住したとしても当然同じである。したがって、居住地国がシンガポール以外の国である場合には、その国の所得税法及び、日本とその国との租税条約を確認すればよいため、応用していただきたい。 (1) 日本の所得税法 ① 非居住者の課税所得の範囲 日本の所得税法上、居住者は原則として、日本国内だけでなく国外も含めた全世界所得が課税対象とされるが、非居住者は日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされる(所法161)。 ② 国内源泉所得の範囲 上記①のとおり、非居住者は「国内源泉所得」のみが課税対象になるが、平成29年分以降の「国内源泉所得」の範囲は下記のとおりである(所法161①~⑰)。 配当はこのうち、⑨の内国法人から受ける剰余金の配当に該当するため、「国内源泉所得」に該当する。つまり、日本の所得税法上、非居住者も内国法人から受領する配当は日本で課税対象になる。 ③ 課税方法と税率 国内に恒久的施設を有しないことを前提とすると、非居住者(個人)が非上場会社である内国法人から配当を受領した場合、20.42%の源泉徴収のみで課税関係が完結する「源泉分離課税」の適用を受けることになる。なお、私募公社債等運用投資信託等の収益の分配の場合は、例外的に15.315%の源泉分離課税となる(措法8の2③)。 (※) 今回の設例は非居住者(個人)が非上場会社である内国法人から配当を受領するケースであり、基本的にその個人は国内に恒久的施設を有しないことが想定される。したがって、国内に恒久的施設を有しないことを前提としているが、国内に恒久的施設を有するかどうかで日本国内での課税方法は異なってくるため、その点は注意が必要である。 (2) 居住地国(シンガポール)の所得税法 次に、居住地であるシンガポールの所得税法を確認する。シンガポールの居住者が日本の非上場会社である内国法人から受領する配当について、シンガポールでは課税対象には含まれていない。つまり、シンガポール側では受領した配当について課税は生じないこととなる。 (3) 日本・シンガポール租税条約 ① 租税条約による減免 最後に、日本・シンガポール租税条約の規定を確認する。配当については下記のとおり規定されている。 上記のとおり、日本・シンガポール租税条約により、5%又は15%に課税が減免されている。例えば、過去から長期的に25%以上を保有している非上場株式からの配当であれば、日本・シンガポール租税条約により5%を超えて課税することはできないとしている。 ② 租税条約に関する届出 租税条約の規定に基づき源泉徴収税額の減免を受ける場合には「租税条約に関する届出」を配当の支払者を通して、支払者の所轄税務署長に提出することとされている。なお、この届出の提出期限は最初に配当の支払いを受ける日の前日である。 (4) 結論 ① 日本側の課税関係 非居住者である個人(日本国内に恒久的施設を有しない)が非上場会社である内国法人から配当を受領した場合、日本の所得税法上は20.42%の源泉分離課税が必要とされている。しかし、日本・シンガポール租税条約の規定により、5%又は15%に課税が減免されており、日本側では5%又は15%を超えて課税できないこととされている。 したがって、配当を支払う際の源泉徴収税率は日本・シンガポール租税条約の適用を受けることにより、5%又は15%の源泉徴収のみで課税が完結することになる。 ② シンガポール側の課税関係 シンガポールの居住者が日本の非上場会社である内国法人から受領する配当について、シンガポールの所得税法ではそもそも課税されないことになっている。したがって、特にシンガポール側で課税が生じることはない。 なお、仮に、移住先の居住地国の所得税法で配当について課税されることになっている場合、租税条約の規定では通常居住地国でも課税できることとされている。したがって、居住地国の所得税法に基づいて居住地国でも課税できる。 日本でも源泉徴収され、居住地国でも課税されるため、二重課税となってしまう可能性があるが、その場合は居住地国側で外国税額控除の適用を受けられるか検討する流れとなる。 今回の設例では、シンガポールではそもそも課税されず二国間での二重課税は生じないため、その検討は不要である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第62回】 「極度貸付契約書の記載金額」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 金融機関から手形貸付の方法により、一定の金額の範囲内で反復し金銭を借用する際に下記の極度貸付借用証書を作成しますが、印紙税の取扱いはどうなりますか。 【事例】 記載金額のない第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当する。 [検討] 極度又は限度貸付契約書の記載金額 限度(極度)貸付契約には、以下の2通りがある。 ▷まとめ 事例の契約については、金銭の消費貸借に関する契約であり、第1号の3文書に該当することについては明らかであるが、貸付けのための限度額又は極度額が印紙税の記載金額に該当するかどうかについては、貸付累計額が一定の金額に達するまで貸し付けるものであれば貸付累計額(最高額)が記載金額となり、一定の金額の範囲内で貸付けを反復して行うことを約する契約である場合には、貸付金額を予約したものではないため、記載金額には当たらない。 したがって、事例第2条に記載されている金額は、貸付限度額を予約したものではないため、記載金額には該当しない。 なお、連帯保証人については、主たる債務の契約書に併記された保証契約のため、第13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当しない。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第21回】 「費用の帰属は法人(司法書士法人)か個人(司法書士)かが争われた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 個人で司法書士業務を営んでいた原告は、平成22年12月末に電車内広告契約に係る費用(本件広告宣伝費)を支払い、平成22年分の所得税の確定申告において、本件広告宣伝費を事業所得の必要経費として所得税の確定申告を行った。 これに対して原処分庁は、本件広告宣伝費は法人成りにより設立された司法書士法人の業務を広告することを内容としている等として、原告の必要経費算入を否認した。 争点は、①本件広告宣伝費を平成22年分の事業所得の計算上必要経費に算入することができるか否か、②本件広告宣伝費に係る消費税額を平成22年課税期間の消費税等の控除対象仕入税額とすることができるか否かである。ここでは、主に①の争点について取り上げる。 (※) 本件広告宣伝費に係る広告契約は、時期の異なる3つのポスターの電車内への掲出が具体的な内容となっているが、詳細は省略する。 〔納税者の主張〕 本件広告宣伝費に係る契約は途中解約できないため、その債務確定時期は、契約成立時である。よって、平成22年分の必要経費である。 本件司法書士法人が司法書士会から法人会員証の交付を受けたのは平成23年1月25日であるから、それまでは原告が個人として司法書士業務を行っていた。 本件各ポスターの宣伝効果について法人に帰属する期間があることは争わないが、そのような場合は、法人個人間で契約の譲渡に関する協議を行い、広告宣伝費の清算を行うことになるのであり、当初、個人としての支出が遡って法人の業務として支出したことにはならない。 〔課税庁の主張〕 本件広告宣伝費は、原告(個人)の業務に係る広告宣伝の対価ではないため、平成22年分の必要経費に算入することはできない。 〔裁判所の判断〕 原告が行政庁に提出した法人設立届出書には、事業年度開始年月日が平成22年12月〇日と記載され、原告の個人事業を同日に休止した旨が記載されていた。また、本件法人は、平成23年1月5日に法人名義で普通預金口座の開設を申し込んだ上、同月7日、裁判外の和解に関する代理業務を行っている。 その他の本件の状況とも合わせ考えると、原告が平成23年1月25日まで個人として司法書士業務を行っていたと認めることはできない。 司法書士法によれば、司法書士法人は、設立の登記をすることにより成立し(司法書士法33)、その成立時に司法書士会の会員となる(同法33)旨等が規定されており、本件法人が法人会員証の交付を受けるまでは、原告が個人として司法書士業務を行っていたと認めることはできない。 本件各ポスターが本件法人の業務に関する広告である以上、本件広告宣伝費は、本件法人の業務について生じた費用であると言わざるを得ないから、原告の必要経費に算入することはできない。 〔判断の分水嶺〕 本件ポスターに係る宣伝効果が生じる期間中における司法書士業務の主体が、原告(個人)であったのか、司法書士法人であったのかが判断の分水嶺である。 裁判所は、上記のとおり、詳細に事実関係を認定して、それが法人であることを認定した。 〔本判決が示唆するもの〕 本件では、ポスターに個人事務所名が記載されている等の状況であっても、その実態(広告効果の帰属)に沿う結論が下されている。同種のケースでは留意したい。 なお、原告は短期前払費用に当たる旨の主張もしていたが、その主張も排斥されている。 (了)