〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第4回】 (最終回) 「適格請求書等保存方式の下での税額計算」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 適格請求書等保存方式における売上税額については、原則として、課税期間中の課税資産の譲渡等の税込金額の合計額に110分の100(軽減税率の対象となる場合は108分の100)を掛けて計算した課税標準額に7.8%(軽減税率の対象となる場合は6.24%)を掛けて算出する(総額割戻し方式)。 また、これ以外の方法として、交付した適格請求書及び適格簡易請求書の写し(電磁的記録により提供したものも含む)を保存している場合に、そこに記載された税率ごとの消費税額等の合計額に100分の78を乗じて計算した金額とすることもできる(適格請求書等積上げ方式)。 ただし、適格簡易請求書の記載事項は、「適用税率又は税率ごとに区分した消費税額等」であるため、「適用税率」のみを記載して交付する場合、税率ごとの消費税額等の記載がないため、積上げ計算を行うことはできないこととなる。 なお、売上税額の計算は、取引先ごとに割戻し計算と積上げ計算を分けて適用するなど、併用することも認められるが、併用した場合であっても売上税額の計算につき積上げ計算(適格請求書等積上げ方式)を適用した場合に該当するため、仕入税額の計算方法に割戻し計算(下記②(ロ)参照)を適用することはできない。 適格請求書等保存方式における仕入税額の計算方法は、以下のとおりである。 (イ) 積上げ計算(原則) 原則として、交付された適格請求書などの請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額に100分の78を掛けて算出する(請求書等積上げ計算)。 また、これ以外の方法として、課税仕入れの都度(注)、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数を切捨て又は四捨五入する)を仮払消費税額等などとし、帳簿に記載(計上)している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められる(帳簿積上げ計算)。 なお、仕入税額の計算に当たり、請求書等積上げ計算と帳簿積上げ計算を併用することも認められるが、これらの方法と割戻し計算(下記(ロ)参照)を併用することは認められない。 (注) 例えば、課税仕入れに係る適格請求書の交付を受けた際に、当該適格請求書を単位として帳簿に仮払消費税額等として計上している場合のほか、課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税仕入れにつきまとめて交付を受けた適格請求書を単位として帳簿に仮払消費税額等として計上している場合が含まれる。 (ロ) 割戻し計算(特例) 課税期間中の課税仕入れに係る支払対価の額を税率ごとに合計した金額に110分の7.8(軽減税率の対象となる部分については108分の6.24)を掛けて算出することができる。 ただし、仕入税額を割戻し計算することができるのは、売上税額を割戻し計算する場合に限る。 【参考】 売上税額と仕入税額の計算方法 適格請求書又は適格簡易請求書に記載された消費税額等を基礎として、仕入税額を積み上げて計算する場合には、次の区分に応じた金額を基として仕入税額を計算することとなる。 (連載了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q38】 「発行会社による自己株式(非上場株式)取得の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 自己株式の取得に係る税務上の取扱い 株主たる個人がその有する非上場株式を他者に譲渡する場合、当該譲渡に伴う損益は一般に「一般株式等に係る譲渡所得等」として区分され課税されます。しかしながら、譲渡の相手先が株式の発行会社である場合、税務上、自己株式の取得として取り扱われ、一定の事由(※1)に該当する場合を除き、譲渡損益のうち一部がみなし配当、一部が一般株式等に係る譲渡所得等として取り扱われます。 (※1) 一定の事由に該当する場合、みなし配当とされる部分はなく、損益の全額が株式等に係る譲渡所得等として取り扱われます。「一定の事由」には、例えば以下が含まれます。 ① 金融商品取引市場による購入 ② 店頭売買登録銘柄の店頭売買による購入 ③ 金融商品取引業者が株式の売買の媒介、取次又は代理をする場合 ④ 事業の全部の譲受け ⑤ 合併又は分割若しくは現物出資による被合併法人又は分割法人若しくは現物出資法人からの移転(適格と非適格) ⑥ 合併に反対する当該合併に係る被合併法人の株主等の買取請求に基づく買取り ⑦ 単元未満株式の買取りの請求又は端株の買取請求による買取り ⑧ 全部取得条項付き種類株式の取得にあたっての端数株式の買取り 2 みなし配当の計算 自己株式の取得により株主が交付を受ける金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額のうち、発行法人の当該譲渡直前の対応資本金等の額を超える部分の金額はみなし配当とされます。 すなわち、みなし配当の金額は、簡易な式にすると以下のようになります(発行法人が1種類の株式のみを発行している場合)。 (※3) 当該直前の資本金等の金額が0以下である場合には、0とする。 3 譲渡損益の計算 自己株式の取得により交付を受ける金額(譲渡対価)のうち、みなし配当とされる金額以外は、株主たる個人において株式の譲渡に係る譲渡収入として取り扱われます。 すなわち、株式等に係る譲渡所得等として取り扱われる金額は以下の通り計算されます。 4 みなし配当及び譲渡損益の課税関係 ① みなし配当 みなし配当については配当所得として取り扱われ、発行法人により20.42%(所得税及び復興特別所得税)の税率にて源泉徴収がなされます。 個人株主は、受け取った配当について、原則として配当所得として申告を行う必要があります。配当所得は他の所得と合算され総合課税の対象となります。配当について申告を行う場合は、配当控除の適用があります。 ただし、みなし配当の金額が10万円以下である場合(少額配当)は、所得税については申告をせず、源泉税のみで課税関係を完結することができます(住民税については総合課税)。 上場株式等の配当と異なり、申告分離課税の適用はなく、また、金額にかかわらず申告不要とすることはできません。 ② 譲渡損益 非上場株式等の売却による売却益は、「一般株式等の譲渡に係る事業所得、雑所得、譲渡所得」として区分され、申告分離課税が適用されます(原則として確定申告が必要となります)。税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 非上場株式等の売却による売却損は、他の非上場株式等(非上場の株式、私募の投資信託や一般公社債)の売却から生じた売却益と損益通算することができます。しかしながら、上場株式等の売却益や、配当所得(上場・非上場)との損益通算を行うことはできません。また、譲渡損の繰越しもできません。 5 本件へのあてはめ 本件の場合、発行会社に相対で譲渡したということですので、1に記載の「一定の事由」に該当しない限り、譲渡から生じた利益はみなし配当(配当所得)と譲渡損益(一般株式等に係る譲渡所得等)に分類されます。 自己株式の取得の場合、発行法人の税務上の資本金等の金額によっては、(プラスの)みなし配当、マイナスの譲渡損益(譲渡損失)が発生することがあり得ます。その場合、本件は非上場株式ということですので、みなし配当(配当所得)と譲渡損失(一般株式等に係る譲渡損失)を損益通算することはできません。したがって、実額の利益より大きいみなし配当に対し課税が生じる可能性があります(下記【事例】参照)。 【事例】 〈前提〉 ・A株式の取得価額:100 ・A株式の自己株式の譲渡対価:200 ・A発行法人の譲渡直前の資本金等の額:80 〈計算例〉 ・みなし配当・・・200-80=120 ・株式の譲渡所得等・・・200-120-100=△20 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第54回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (4) のれん 平成18年度税制改正により、非適格合併等における受入処理が明確化された。具体的には、以下のものが規定されている。 これらの基本的な考え方は、「企業結合に関する会計基準」に規定されているパーチェス法における以下の考え方に類似している。 これらに対応し、佐藤信祐『組織再編におけるのれんの税務』(中央経済社、平成20年)において、資産調整勘定、負債調整勘定の解説を行った。当時は、企業結合に関する会計基準が導入されたばかりの頃であるため、実務上も混乱が見受けられたが、現在では、国税庁からの公式見解が公表されたこともあり、解釈が明確化されたと思われる。 資産調整勘定、負債調整勘定の条文は精緻に作られていることから、解釈上の相違があるものは少ないため、本稿では、条文からは断言できないものの、組織再編税制の実務家の中で暗黙知として共有されている解釈についてのみ解説を行う。 ① 賞与引当金 前掲の拙著59-62頁では、非適格組織再編成により賞与引当金を引き継いだ場合において、当該賞与引当金の金額が資産の取得価額の20%を超える場合には、短期重要負債調整勘定として認識すべきこととした。 しかし、その後、国税庁から質疑応答事例「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」が公表され、短期重要債務見込額が「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」とされているのに対し、賞与は販売費及び一般管理費に属する「費用」であり「損失」には当たらないことから、賞与引当金の額は、「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」に該当しないことを理由として、短期重要負債調整勘定に該当しないことが明らかにされた。 そのため、現行法上は、賞与引当金に相当する金額は、差額負債調整勘定として処理することになる。 このように、短期重要負債調整勘定を認識すべきかどうかの判定では、「損失」に該当するのか、「費用」に該当するのかという点が重要になる。 ② 早期退職慰労金 前掲の拙著24頁では、 と解説した。 賞与引当金と異なり、割増退職金の支払いは、販売費及び一般管理費に属する「費用」ではなく、特別損失に属する「損失」であることから、上記質疑応答事例が公表された後であっても、「短期重要負債調整勘定」として処理することはできると考えられる。 ③ 役員退職慰労金 前掲の拙著25頁では、役員退職慰労引当金は、「退職給付に係る会計基準」で対象にされていないことから、退職給与負債調整勘定として認識することができないものとした。その後に公表された「退職給付に関する会計基準」3項でも、「取締役、会計参与、監査役及び執行役(以下合わせて「役員」という。)の退職慰労金については、本会計基準の適用範囲には含めない」と規定されていることから、現行法上も、同様に解するべきであると考えられる。 これに対し、賞与引当金と同様に、役員退職慰労引当金の額が資産の取得価額の20%を超える場合には、短期重要負債調整勘定として処理すべきなのかが問題となる。この点については、役員退職慰労引当金繰入額は、販売費及び一般管理費として計上されることが多いのに対し、引当金を計上していないときには、特別損失として計上されることが多いことから、「費用」なのか、「損失」なのかが不明確であるように思えるからである。 この点については、一般的に「費用」とは「収益」に貢献するものであり、「損失」とは「収益」に貢献しないものと整理することができるのに対し、役員退職慰労金の支払いは、過去の収益に対する貢献に対して支払われるものであり、引当金を計上していない場合に特別損失として計上されたことを理由として、費用としての性格が否定されるものではないと考えられる。 そう考えると、役員退職慰労金を短期重要負債調整勘定として処理することは適切ではなく、差額負債調整勘定として処理すべきであると考えられる。 ④ 資産調整勘定及び負債調整勘定を認識することができない会社分割 会社分割を行った場合には、(ⅰ)分割事業が分割承継法人に移転しており、かつ(ⅱ)当該事業に係る主要な資産又は負債の概ね全部が分割承継法人に移転をする場合に、資産調整勘定及び負債調整勘定を認識することができる。 実務上、上記(ⅱ)に該当しない場合にどのように取り扱うべきかが問題となるが、『平成18年度版改正税法のすべて』367頁では、 と解説されていた。 そのほか、前掲の拙著135頁では、 と解説した。現行法上も、同様に解するべきであると考えられる。 * * * 次回では、債務超過会社の組織再編成について解説を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第40回】 「虚偽の遺産分割協議の無効確認判決の確定を 後発的理由とする更正の請求事件」 ~最判平成15年4月25日(集民209号689頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第1回】 「企業結合会計の全体像」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 企業の組織再編として、合併、株式交換・株式移転、会社分割、事業譲渡・譲受などが行われている。 これらの組織再編については、次の会計基準等が設定されており、組織再編の方法にあわせて会計処理及び開示(表示・注記)を行うことになる。 本シリ-ズでは、企業結合(適宜、事業分離等を含めて解説する)の会計処理及び開示(表示・注記)に関する基本的な考え方について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業結合 1 基本的な考え方 「企業結合」とは、ある企業又はある企業を構成する事業と他の企業又は他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合されることである(企業結合会計基準5項)。 この定義から分かるように、企業結合会計基準は、経済的に独立した企業同士の取引に限定することなく、法的に独立した企業同士の取引を対象としているため、企業集団内における合併、吸収分割、現物出資等の取引(共通支配下の取引)が含まれることとなる(企業結合会計基準118項)。 企業集団内における組織再編のうち企業結合に該当しない取引、例えば、株式移転による持株会社の設立や新設分割による子会社の設立については、共通支配下の取引に係る会計処理に準じて処理することとなる(企業結合会計基準118項)。 企業結合会計基準等では、組織再編の形式が異なっていても、組織再編後の経済的実態が同じであれば、連結財務諸表上(合併の場合には個別財務諸表上)も同じ結果が得られるように会計処理を定めている(結合分離適用指針200項など)。 2 企業結合の分類と会計処理 企業結合の分類と会計処理を示すと、おおむね次のようになる。 「事業」とは、企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源をいう(企業結合会計基準6項、事業分離等会計基準3項)。 3 共通支配下の取引と非支配株主との取引 「共通支配下の取引等」とは、「共通支配下の取引」と「非支配株主との取引」をあわせた呼称である(企業結合会計基準40項)。 次のように整理される。 Ⅲ 事業分離等 「事業分離」とは、ある企業を構成する事業を他の企業(新設される企業を含む)に移転することをいう(事業分離等会計基準4項)。 事業分離等会計基準では次の事項などについて規定している(事業分離等会計基準1項、4~7項、10項、32項)。 Ⅳ 連結会計基準との関係 連結会計基準では、次のように規定し、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準との関係を示している(連結会計基準19項、60項、注解15、74項)。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第9回】 「固定資産の分析(その2)」 -有形固定資産②- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ ▷中小企業の保有する有形固定資産 ◆平成28年における主要業種別有形固定資産の水準(単位:億円) ※画像をクリックすると拡大して表示されます。 (*)印の項目は土地の帳簿価額を除いて計算している。 (出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査(平成28年確報)」(調査対象母集団全1,485,107社)から筆者作成) 日本の中小企業が貸借対照表に計上している有形固定資産の金額規模は上表のとおりであり、1社当たりの帳簿価額は91.6百万円で総資産全体の1/3ほどを占めている。減価償却の進行割合は17.8%、売上高に対する減価償却費の割合は2.3%であり、減価償却費の帳簿価額に対する割合は14.5%となっている(上表では簡便的に土地を除く期末帳簿価額と減価償却費の割合を比較している)。 当然のことながら、貸借対照表上の有形固定資産の水準は業種によって異なり、いわゆる「箱物」事業である宿泊/飲食業や不動産・物品賃貸業では総資産の半分以上を占める一方、償却累計率は耐用年数の長い建物躯体等の比重が高いと思われることから8~9%程度と他業態よりも低くなっている。同様に情報通信業の償却進行率が他業種と比較して低くなっているが、これは設備の頻繁な更新投資を行っているためと思われる。 M&Aに際して有形固定資産に関して実施すべき調査のポイントは前回述べたとおりであるが、今回は固定資産の評価に関連するその他のトピックスをいくつか紹介しよう。 ▷M&Aに際して不動産鑑定を行わない場合の評価方法 買収対象となる事業用不動産の評価額については、通常の場合、不動産鑑定士による不動産鑑定を行うことが一般的である。しかしながら、事業用不動産であっても重要性の低いもの、例えば償却が完了している倉庫建物や、地方営業所の土地建物などは、不動産鑑定の費用対効果の観点から、簡略な評価で済ませるケースも多い。 さらに、M&Aでも救済型の事業再生における資金支援のためのデューデリジェンスにおいて、買い手である救済側が被救済企業への出資ではなく、新規設備投資等に必要な資金融資を行うような場合、被救済側企業の保有する不動産の正確な時価の把握までは必要とならない場合もあり、そうした場合には全ての事業用不動産について、財務デューデリジェンスの範疇で簡易な評価を行う場合がある。 こうした場合によく用いられる評価方法として、以下の「公的価格」を用いた簡便的な評価方法が挙げられる。 ▷M&Aに際して筆者らが経験した評価事例 【実務事例9-1】 船舶の評価が必要となる海運会社のM&Aが近年増えているが、「バラ積み船」等の商業船舶については、建造年や建造国、船舶のタイプやサイズ等に応じた中古船の売買市場が確立されており、当該マーケットにおける売買事例に基づく評価も相応の合理性が認められるものであろう。 話は変わって、筆者らは以前、観光用の高速フェリーを運航する会社の調査に携わったことがある。この会社が保有していたフェリーは世界に数隻しかない類い稀な超高速船であって、売買事例などは全く見当たらず、適正償却後簿価を基準として評価することとなった。 【実務事例9-2】 製造業を営む会社でよく見受けられるものに「工場財団抵当」がある。財団抵当権の目録が手書きの相当古いものであることが多く、筆者らが遭遇したケースでも、設備の入れ替えやライン移設に伴う設備移動等が頻繁に起こっていたにも関わらず、目録の更新が一切行われていなかったケースがあった。 目録に記載されている設備の消息を丹念に調べた上で、既に廃棄され存在しない設備のみならず、別の建屋に移設されている設備に関する抵当権の取扱い等に関して、当事者の協議に必要な情報を収集した。 ▷金融機関における担保評価額 経営不振の状態にある対象会社に対する事業再生目的での救済型M&Aを行うような場合、買収対象となる不動産に対しては、ほとんどの場合、金融機関が先順位での抵当権を付しているケースが大半であろう。 こうした場合の留意点として、例えばM&Aによる買収条件として提示される不動産評価額が、取引金融機関による担保評価額に満たない場合、救済型であっても、M&Aそのものが成立しないことも起こり得る。担保評価額未満での担保処分は、金融機関としては当該企業が破産した場合等の清算配当を下回る水準での処分を意味するため、通常の場合、容認し難いためである。 通常は、M&Aによる事業継続前提の不動産評価額は、清算前提の早期処分価値を上回ると考えられる上、金融機関による担保評価に際しては保守的な「掛け目」が乗じられていることが多く、買収側による担保不動産の評価額が金融機関による担保評価額を下回るようなケースはあまり生じないものと思われるが、救済型M&A実行時の評価と金融機関による担保評価とは、評価時点も評価目的も全く異なるものであることから、実際にはこのようなケースは往々にして起こり得る。 救済型M&Aに際しては、こうした点にも十分な注意が必要であり、法務デューデリジェンスチームとの連携した調査も重要となろう。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第76回】 五洋インテックス株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成30年5月7日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者調査委員会の概要】 【五洋インテックス株式会社の概要】 五洋インテックス株式会社(以下「五洋インテックス」と略称する)は、昭和54(1979)年3月設立。旧商号は五洋産業株式会社(平成5年4月変更)。室内装飾品(主たる商品はカーテン)の販売を主たる事業とする。連結売上高1,748百万円、連結経常損失213百万円、従業員数64名(数字は、いずれも2018年3月期)。本店所在地は愛知県小牧市。JASDAQ上場。 【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 五洋インテックスは、「外部通報」により、過年度におけるタブレット端末の販売、太陽光パネルなどの販売及びその他の新規事業に関する取引に関して、会計処理の妥当性について懸念がある旨の指摘を受け、本件各取引に係る会計処理の内容と同会計処理に関する事実等の究明を開始するとともに、平成30年3月27日、外部の専門家により構成される第三者委員会を設置した。 「外部通報」について、2018年3月27日付の「第三者委員会設置に関するお知らせ」では、「外部からの指摘により」と表記されており、少し表現が異なっている。また、調査報告書には、「外部通報」についての詳細は記述されていない。 2 不適切な売上処理の概要 五洋インテックスが不適切な会計処理として調査の俎上に載せたのは、次の7つの形態の取引であった。 それぞれの取引に係る売上高と仕入高は以下のとおりである。 (1) 太陽光パネル販売関連の取引(単位:円) (2) エステ商材等の仕入・販売にかかる取引(単位:円) (3) リフォーム関係の取引(単位:円) (4) 焼肉店内装工事及び店内什器・家具の仕入・販売にかかる取引(単位:円) (5) 家電の仕入・販売にかかる取引(単位:円) (6) タブレット端末の仕入・販売にかかる取引(単位:円) 第三者委員会は、上記取引(1)から(5)までは、いずれも五洋インテックスが主体的な立場での取引とは言えず、スルー取引として売上高・売上原価の全額を計上するのではなく、その差額を雑収入として営業外収益に振り替えるのが妥当であるとの見解を示した。 また、(6)のタブレット端末の販売取引については、五洋インテックスは、仕入代金をN社に支払ったのみで、販売代金の回収ができていないことから、N社代表取締役を詐欺罪で刑事告訴しており、すべてが架空であったと判断している。 (7)のソフトウェア開発については、開発委託先Q社からソフトウェアの引渡しを受け、検収を行ったものの、五洋インテックスが企図していた通販、ネット販売については、システムが稼働したにもかかわらず、顧客からのオーダーがまったくなかったため、備忘価額を残して減損処理をした会計処理を妥当なものとして認めた。 3 各取引の特性 第三者委員会は、五洋インテックスが行った新規事業に係る取引について、営業活動と社内管理業務という2つの切り口から、その特性を分析している。第三者委員会が、本件各取引をスルー取引であると判断した根拠が述べられているため、報告書から引用したい。 4 発生原因 第三者委員会が発生原因として挙げた項目は次のとおりである。 権限分離体制と人員不足について、第三者委員会は、五洋インテックスでは「経理・財務の責任者である管理部長に、新規事業部(環境事業部)の事業部長を兼任させた」ことから、「営業、経理、財務に関する権限が1名(引用者注:小林光博取締役。以下「小林取締役」と略称する)に集中し、取引開始から資金決済、会計処理にいたるまでの取引が単独で行われる状況となっていた」ことを問題視するとともに、新規事業について、「組織的な営業体制・管理体制」が不十分であったことを挙げている。 5 再発防止策 第三者委員会からの提言を受けて、6月20日、五洋インテックスが公表した再発防止策は、次のとおりである。 権限分離体制については、平成30年6月28日開催予定の定時株主総会において、管理部管掌に新たに常勤取締役を選任することとしており、また、経理体制の強化として、経理財務の実務責任者の採用を行うとともに、公認会計士を顧問とすることが挙げられている。 【調査報告書の特徴】 訂正前の有価証券報告書によれば、平成27年3月期から平成29年3月期まで3期連続で経常損失と、業績が低迷傾向にあった五洋インテックスが、新規事業として参入した太陽光パネル販売やタブレット端末販売は、第三者委員会の調査によって、スルー取引または架空取引であるとの結論が出された。その結果、五洋インテックスは新規事業から全面撤退、本業であるカーテン事業に専念することを決定する。 1 ヒアリング対象者である「丁氏」について ヒアリング対象者である「丁氏」については、その役職等として「A社代表取締役・B社代表取締役」との記載があり(報告書p.5)、また、太陽光パネルの仕入販売業務を足掛かりとして環境事業の拡大を企図して、五洋インテックスが、丁氏との協力関係をより強固にすべく取締役就任を依頼し、平成27年6月26日、取締役に就任したとの記述があることから(報告書p.7)、社外取締役である名井博明氏(以下「名井取締役」と略称する)のことではないかと考えられる。 五洋インテックスは、上述のとおり、第7回目の太陽光パネル販売取引において、E社に仕入代金2,160万円(消費税額等込)を支払ったものの、販売先であるD社からの入金がなく、結果的に支払った金額を更生債権等に振り替えて全額の貸倒引当金を設定している。 小林取締役は売買代金の回収について、販売先であるD社ではなく、名井取締役と交渉をして、名井取締役は「太陽光発電所の取引によって対象会社(引用者注:五洋インテックス)が得た利益分を対象会社との協業事業で回収出来れば支払う」と回答した(報告書p.13)というのだが、第三者委員会はこの説明に納得しているのだろうか。 また、本件に関する会計処理の修正については、以下の記述がある(報告書p.18)。 すなわち、第1回から第6回の取引で得た利益は、第7回の買掛金決済名目の支払いで、丁氏(名井取締役)側に大部分を返還したということのようであるが、第三者委員会は、名井取締役に対する利益供与や利益相反の問題にはまったく触れていない。差額を雑収入として認識すればいいという会計処理の問題ではない気がするのだが、いかがなものであろうか。 2 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令の勧告 6月29日、五洋インテックスは、「証券取引等監視委員会による課徴金納付命令の勧告について」というリリースで、証券取引等監視委員会が、金融商品取引法に基づき600万円の課徴金納付命令勧告を発出したことを公表した。 証券取引等監視委員会のリリースによれば、五洋インテックスは、「太陽光発電事業に係る商材及びタブレット端末の架空取引により売上を過大に計上した」ことにより、東海財務局長に対し、金融商品取引法第172条の4第1項に規定する「重要な事項につき虚偽の記載がある」有価証券報告書を提出したことが、法律違反に当たるとしている。 3 東京証券取引所による「公表措置」の実施及び「改善報告書」の提出請求 次いで7月24日、五洋インテックスは、「東京証券取引所による『公表措置』の実施及び『改善報告書』の提出請求について」というリリースを公表した。 東京証券取引所のリリースによれば、その理由は、次のとおりである。 4 小林取締役の辞任 同じ7月24日には、定時株主総会後の職務分掌の変更により、「子会社管理室長」の任にあった小林取締役は、7月31日付で、「過年度決算訂正の事態と影響を厳粛に受け止め、退任する」という理由により、退任することが公表された。 第三者委員会調査報告書では、取締役の責任についての言及はまったくなく、五洋インテックスは、責任の明確化について、「本件の責任は全役員が負うことといたします」としたうえで、「役員全員が、報酬の20%を3か月分について、それぞれ自主返納する」ことを、再発防止策とともに公表していたため、いささか唐突の感を否めない。 環境事業の拡大を企図して、五洋インテックスの取締役に就任した名井取締役は、同社が新規事業から事実上撤退したにもかかわらず、そのまま取締役に留まっていることとは対照的である。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第6回】 「委託先から個人情報が漏えいした場合」 弁護士 影島 広泰 -Question- 封筒の宛先ラベルの印刷を委託した外部業者が情報を流出させた場合、自社(委託元)は責任を問われるでしょうか。また、会社として何をすべきでしょうか。 -Answer- ①委託先の安全管理措置を確認し、②委託契約を締結し、③委託先での取扱状況を把握していなかった場合、委託元が監督義務違反を問われることになります。また、本人への連絡や個人情報保護委員会への報告等は、委託元が行うのが原則です。 個人情報保護法では、個人データの取扱いを「委託」することは「第三者提供」には該当せず、本人の同意は不要であるとされている(個人情報保護法23条5項1号)。 ただし、委託先から個人データが漏えい等しないように、委託先に対する「必要かつ適切な監督」をしなければならないとされている(同法22条)。 例えば、今回のケースのように、封筒の宛名ラベルを印刷することを外部業者に「委託」する場合には、本人の同意は不要であるが、その外部業者から情報漏えい等しないように「監督」しなければならないということである。 では、ここでいう「必要かつ適切な監督」とは何か。これを定めているのは、個人情報保護委員会の通則ガイドラインである。 通則ガイドラインでは、以下の3つの義務が定められており、委託元はこれを果たす必要がある。 ◆通則ガイドラインが定める委託先に対する監督義務の内容 上記を踏まえ、委託元がどのような対応をすべきか確認していこう。 ① 適切な委託先の選定 まず、誰にでも個人データを預けてよいわけではなく、適切な委託先を選定する必要がある。 具体的には、委託元には【第1回】~【第5回】までに述べた安全管理措置が義務付けられているが、この委託元に求められている安全管理措置と同等の措置を委託先が果たしていることを確認しなければならない。 では、どのような方法で委託先の安全管理措置を確認すればよいであろうか。 委託先の監督は、個人データが漏えい等した場合に本人が被る不利益を考慮した上で、個人データの取扱いに係るリスクに応じて果たせばよいとされている。 したがって、採るべき確認の方法はリスクによりケースバイケースであるが、例えば顧客1万人の個人データの取扱いを委託するような高リスクのケースでは、ガイドラインが列挙する安全管理措置をチェックリスト式にまとめて委託先候補に記入させるような厳密な方法で確認することが適切であろう。 これに対し、従業員50人分の個人データを税理士の先生に預けるようなケースでは、口頭による確認等で問題ないケースがほとんどであろう。 ② 委託契約の締結 個人データの取扱いに関する安全管理措置を盛り込んだ委託契約を締結する必要がある。 ③ 委託先における取扱状況の把握 委託先に個人データを預けたらそのまま放置しておいてよいわけではない。委託先で個人データがどのように取り扱われているかを把握しておく必要がある。 これもリスクに応じて手段を講じることになるが、厳しく監督するのであれば定期的に監査を行うのがベストである。そこまで厳しくする必要がないケースでは、委託先から報告を受ける条項を契約に盛り込み、取扱状況を定期的に報告させる方法が考えられる。 最低限の対応としては、漏えい等が発生した場合には速やかに報告するという条項を設けておくという方法も考えられる。 なお、2014年に発覚した大手通信教育事業者からの情報漏えい事件を踏まえ、再委託については、事前報告を受けるか承認する条項を盛り込むことが望ましいとされているので注意が必要である。 ➤今後の裁判の動向 現在、上記の大手通信教育事業者からの情報漏えい事件についての各種の裁判が進行中である。 その1つである損害賠償請求事件において、東京地判平成30年6月20日は、委託先においてUSBポートの制御等を行うセキュリティ対策ソフトについてアップデートをしていなかったことについて、委託先に対する監督義務違反であるとして、委託元の責任を認めている。 この事件は、すでに控訴されていることから、今後の東京高等裁判所(及びその後の最高裁判所)の判断が注目されるところであるが、仮に東京地裁の判断が維持されることになると、委託先に対する監督義務は非常に高度なものが求められることになるから、今後の動向に注意が必要である。 ➤委託先で情報漏えいが発生した場合の対応 委託においては、個人データの取扱いの主体はあくまでも委託元であるから、委託先で情報漏えい等が発生した場合には委託元が対応する必要がある。本人への連絡やウェブサイトでの公表、個人情報保護委員会等への報告などは、全て委託元が行わなければならない。 ただし、実務的には、委託先に報告文書等を作らせ、それを添付する形で公表・報告等することは差し支えないし、連名での対応もしばしば見られるところである。 (了)
《編集部レポート》 日税連主催の「報道関係者との懇談会」が開催される ~事業承継のマッチングサイト「担い手探しナビ」・ 「平成31年度税制改正建議書」等について紹介~ Profession Journal 編集部 日本税理士会連合会は2018年9月6日(木)、日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会」を開催、中小企業の事業承継問題への対応及び平成31年度税制改正に関する建議書についての説明が行われた。 会の冒頭では神津信一日本税理士会連合会会長より、当日発生した平成30年北海道胆振東部地震で被害を受けられた方々へのお見舞いの言葉があり、次に、本日の主題の1つである中小企業の事業承継をめぐる問題について、本年度改正で創設された事業承継税制の特例措置が経営者に対し十分に周知されていない現状と、日税連が全国展開するマッチングサイト「担い手探しナビ」立ち上げの経緯などについて説明があった。 (神津信一日本税理士会連合会会長) 続いて、近藤雅人広報部部長を司会としてスタートした懇談会ではまず、「中小企業存続への対応-事業承継税制とマッチングサイト-」と題し、服部達哉広報部副部長を進行に瀬戸順一中小企業対策部長から中小企業と寄り添う立場である税理士がその事業承継問題において果たすべき役割、そして日税連が10月からスタートさせる予定の事業承継マッチングサイト「担い手探しナビ」に関する説明が行われた。なおこのマッチングサイトについては、すでに北陸税理士会において試験的に導入済みであり、実績(成約)も上がっているとのこと。 また平井貴昭調査研究部部長からは、平成30年度税制改正で創設された事業承継税制の特例措置について、これまでの事業承継税制から要件が緩和された点や、適用を受けるには「特例承継計画」を平成35年3月31日までに提出しなければならない点など新制度のポイントについて説明があった。 説明後は参加者から「担い手探しナビ」に関して、顧問税理士へ求められる対応などの質問が相次ぎ、 報道関係者からの注目の高さが伺えた。 次に本年6月に決定され先月関係省庁へ提出された「平成31年度税制改正に関する建議書」のうち重要建議項目について、柳町和巳広報部副部長を進行に平井調査研究部長による説明が行われた。 特に消費税の軽減税率制度については、その性質により低所得者対策として非効率である点が数値を用いて紹介され、単一税率を維持した上で簡素な給付措置等による負担軽減策とすべきであるとした。また今後の税制改正については、民法(相続)改正に伴う税制のあり方として配偶者居住権や特別寄与料の評価・算定に関する問題について説明が行われた。 (了)
《速報解説》 中小企業向け設備投資減税・教育資金等贈与税非課税特例など 期限切れ措置の延長・拡充要望、 個人事業者向け事業承継税制は実現するか ~各府省庁からの平成31年度税制改正要望~ Profession Journal編集部 8月末日で締め切られた各府省庁からの平成31年度税制改正要望については、年末に取りまとめられる税制改正大綱に向け議論が開始されることになる。 以下、ポイントとなる要望事項を確認しておきたい。 〇中小企業の設備投資減税策は来年3月末で軒並み期限切れに 中小企業の設備投資に対する特例措置(特別償却・税額控除)については昨年度創設の「中小企業経営強化税制」に加え、「中小企業投資促進税制」、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」がそれぞれ平成31年(2019年)3月31日に適用期限を迎えることから、経済産業省等から2年間(平成33年(2021年)3月31日まで)の延長及び一部拡充が要望されている。なお、これら3制度は対象設備の種類や設備投資による効果(生産性・収益力)に係る認定有無などによって住み分けが行われている。 また、こちらも昨年度創設で、地域経済牽引事業に対象を限定した「地域未来投資促進税制」も来年3月31日が適用期限のため、2年延長及び賃上げ等による上乗せ措置が要望された。 さらに中小企業に向けた特例措置としては最も影響の大きい法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に対し15%(本則19%))も来年3月末で期限を迎えるため、中小企業の経営基盤を支えるためには重要として2年延長が要望されている。 ただし、平成31年4月1日以後開始事業年度からは、課税所得の3年平均が15億円を超える中小企業者(適用除外事業者)は租税特別措置法上の特別措置の一部の適用が停止されることとなる点には留意しておきたい。 他に法人税の関係では、29年度改正で増加型の廃止(総額型への改組)や研究費の増加割合に伴う上乗せ措置等の制度見直しが行われた研究開発税制(及び中小企業技術基盤強化税制)は現行制度が平成31年3月31日で適用期限を迎えるが、新たな上乗せ措置や控除率の引上げを含む延長・拡充要望が出されており(経済産業省他)、特に研究開発型ベンチャー企業の成長促進を意識した内容となっている。 さらに経済産業省からは、ストック・オプション税制の拡充(適用対象者の拡大・権利行使期間の緩和・行使限度額(年間1,200万円)の引上げ)や、新設法人への繰越欠損金額制度の拡充(資本金1億円を超えても100%繰越控除できる期間を設立10年目(現行7年目)まで延長)などが要望されている。 〇世代間の資産移転を目的とした贈与税の非課税特例2制度は効果ありとして恒久化を要望 将来世代への資産移転を目的として、平成25年に創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」及び平成27年創設の「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、ともに平成31年3月31日に適用期限を迎える。両制度は順調に信託契約及び受託金額を伸ばしており効果が見込まれるとして、金融庁、文部科学省などから制度の恒久化が要望された。 さらに教育資金の特例では受贈者の年齢上限(現行30歳未満)の引上げや払い出し手続の簡素化、結婚・子育て資金の特例においては贈与者としておじ・おばを、受贈者として甥・姪を対象として加えるよう制度の拡充が求められている。 仮にこれら制度の恒久化が実現した場合は、将来的な相続対策としても組み込みやすくなることから、影響は大きいといえよう。 なお、子育て支援策の1つとして、厚生労働省からは寡婦(寡夫)控除の対象に未婚のひとり親を加える要望がなされている(現行では配偶者と死別・離別した者が対象)。 〇個人事業者の事業承継時の税負担を軽減する措置の創設 中小企業の事業承継をめぐっては、事業承継税制の特例措置の創設等、特に本年からはその動きを強く後押しする支援措置が手当てされているが、小規模企業の約6割を占める個人事業者の場合は一般的に資金力が低く、事業承継時の税負担のために事業の継続に必要不可欠な事業用資産を売却しなければならないケースもあるという。 個人事業者に対する税制上の措置としては、小規模宅地等の特例における特定事業用宅地の適用もありすでに大幅な税負担軽減がなされているともいえるが、土地以外の事業用資産を含めた円滑な承継を行うための措置が必要として経済産業省がその負担軽減措置の創設を要望した。 この施策自体は昨年以前から要望されていたものであり今回の要望でも具体的内容までは踏み込んでいないが、中小企業と同様に、高齢化する個人事業者の事業承継もまったなしの状況であり、さらに個人事業の場合、法人に比べて比較的廃業の判断を行いやすいのも確か。制度設計を含めた今後の状況を注視したい。 なお、事業承継税制及び小規模宅地等特例に関しては、昨年11月に会計検査院から適用会社の実態において問題点が指摘されており、今年度改正での手当ては行われていないことから、“宿題”として残されている点も意識しておきたい。 〇消費税率引上げに係る景気対策は今後の議論に注視 以上のように要望事項全体として抜本的な改正事項は少ない印象だが、来年(2019年)10月の消費税率の10%引上げに対する景気変動(増税前の駆け込み需要及び増税後の反動減)を抑えるため、国土交通省・経済産業省を中心に住宅ローン減税の拡充、車体課税の見直しが要望されており、さらにこちらも10%引上げ時期の延期により議論が先送りされていた「医療に係る消費税問題の抜本的な解決策」(厚生労働省要望事項)も何らかの結論が示されることになろう。 住宅税制及び車体課税についてはすでに10%の引上げ前後における特例措置が存在しており(税率引上げの延期により施行時期も延期されている)、さらなる見直しを行うものになるのかという点もポイントになるだろう。 なお、土地関係では他に、土地の所有権移転登記(及び信託登記)に係る軽減税率の2年延長、相続空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の4年延長(現行では平成31年12月31日までの譲渡が対象)も要望されている。 * * * その他、平成31年度税制改正要望に関する情報は、「平成31年度税制改正に関する《資料リンク集》」を参照されたい。 (了)