相続空き家の特例 [一問一答] 【第24回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑥ (売買契約金額以外の別名目で金銭の授受が行われている場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、母親が相続開始の日まで単独で居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地(以下「A家屋等」という)を、昨年5月にその相続により取得し、その家屋の耐震リフォームを行い、相続後は空き家の状態のままで、同年9月にA家屋等を1億300万円で売却しました。 なお、Xは、売買金額9,800万円、移転協力金300万円、引越代金200万円として売却代金を受領しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A その譲渡した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価たる金額が1億円を超えていることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 この譲渡の対価の額とは、例えば譲渡協力金、移転料等のような名義のいかんを問わず、その実質において、その譲渡した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価たる金額をいうとされています(措通35-19(譲渡の対価の額))。 したがって、本事例の場合、移転協力金も引越代金も実質的に被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価たる金額であることから、その実質において1億円を超えているため、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 なお、譲渡の対価の額が1億円を超えるところ、同特例の適用を受けるために1億円以下の架空の契約書を作成するなど真実の取引を仮装した場合には、重加算税(通則法68)の対象となります。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第10問:2017年12月改訂】 「住民票の住所と実際の住所が異なる場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは7年前に、G市にある中古住宅Bを購入し、それ以来Bに住んでいましたが、今回このBを売却して、H市の新居Cへ転居しました。 Xは、Bを購入する3年ほど前から同じG市の借家Aで生活をしており、7年前に同市内のBに転居したのですが、住民票を異動せずにそのままにしておいたので、今回のCへの転居にあたっては、従前の借家A時代の住民票上の住所から直接C(H市)への転居という形をとりました。 このため、譲渡契約締結日の前日における住民票に記載されていた住所と売却した居住用家屋の住所と異なります。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 「3,000万円特別控除(措法35)」は、居住用財産を譲渡した日の属する年分の確定申告書の「特例適用条文」欄に「措法35条」と記載するとともに、次に掲げる書類の添付がある場合に限って適用される(措法35⑪、措規18の2)。 「マイナンバー制度(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号)」が導入されたことにより、平成27年度税制改正において、確定申告書に住民票の写し等を添付することとされていた一定の特例について納税者の利便性向上を図るため、確定申告を行う者が住宅等を居住の用に供していることを確認するための住民票の写しの添付は要しないこととされた。 ただし、譲渡契約締結日の前日においてその譲渡をした者の住民票に記載されていた住所とその譲渡資産の所在地が異なる場合その他これに類する場合には、次に掲げる書類を確定申告書に添付する必要がある。 なお、上記の(3)の書類としては、電気・ガス・水道等の公共料金の領収書、年賀状・手紙等の郵便物、日刊新聞・定期購読誌等の領収書、通勤・通学定期や勤務先等への自宅住所届出書類の写しなどが考えらる。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第53回】 「送り状」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は運送業者です。次の文書は貨物の運送に際して作成する文書ですが、印紙税の取扱いはどうなりますか。 1枚目(荷送人用) 2枚目(運送会社控え) 3枚目(荷受人用)《運送品とともに送付》 1枚目(荷送人用)については、当社(運送会社)が荷送人に対して交付する文書で、荷受人、荷送人及び運送保険についての記載があり、運送契約の成立の事実を証明する目的で作成されるものであることから、第1号の4文書(運送に関する契約書)に該当する。 2枚目(運送人控え)については、運送人の事務整理等に使用するための控えであり、課税文書に該当しない。 3枚目(荷受人用)については、運送品とともに送付されるものであり、運送状に該当し、課税文書には該当しない。 [検討1] 1枚目(荷送人用)が課税文書に該当するかどうかの考え方 上記のことから、運送の引受けの証として作成されるものなのか、単なる荷物の受領なのかについては、文書全体を検討したところで判断しなければならない。 [検討2] 2枚目(運送人控え)及び3枚目(荷受人用)についての考え方 3枚複写の送り状の2枚目(運送人用控え)については、運送人の控え又は事務整理に使用するものと認められるため、課税文書には該当しない。 また、荷物とともに荷受人に送付される3枚目(荷受人用)については運送状に該当し、課税文書には該当しない。 ▷まとめ 法別表第一第1号の「定義」欄に、運送に関する契約書は、乗車券、乗船券、航空券又は運送状を含まないとされている。したがって、事例の送り状については、第1号の4文書に該当しないのではないかと考えるかもしれないが、送り状等の名称であっても、運送業者が署名し、荷受人に交付するものは、運送引受けの証として交付するものであり、第1号の4文書として課税文書に該当する。 実務において、顧客から荷物の発送等を受ける場合に作成する書式は、作成者によって様々である。後日、不納付の指摘を受けないためにも、作成時に書式を税務署に持参し、判断を受けることが得策である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第31回】 「大島訴訟/サラリーマン税金訴訟」 ~最判昭和60年3月27日(民集39巻2号247頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第65回】 藤倉化成株式会社 「特別調査委員会調査報告書(平成29年11月10日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【藤倉化成株式会社の概要】 藤倉化成株式会社(以下「藤倉化成」と略称する)は、昭和13(1938)年設立、塗料、樹脂材料等の製造・販売を主要事業とする。売上高62,780百万円、経常利益3,348百万円、従業員数1,245名(数字はいずれも2017年3月期)。本店所在地は東京都板橋区。東京証券取引所1部上場。 架空取引が発覚した藤倉化成の連結子会社である藤光樹脂株式会社(以下「藤光樹脂」と略称する)は、昭和39(1964)年設立。1973年9月、藤倉化成が筆頭株主となった。合成樹脂原料・加工品の販売を主たる事業とする。売上高23,049百万円(2016年3月期)。従業員49名。資本金4,000万円のうち、藤倉化成の出資比率は51%で、他に創業者で代表取締役会長の小川正雄氏が30.5%の株式を有している。本社所在地は東京都中央区。代表取締役社長の山増裕志氏は藤倉化成の出身であり、また、特別調査委員会委員長の下田善三氏が監査役を務めている。 【藤光樹脂株式会社とATT株式会社の架空取引に関する調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 6月22日、ATT株式会社(以下「ATT」と略称する)社長柴野恒雄氏から、ATTとの取引が循環取引であった旨告白する文書がメールで届いたことが、翌23日に、藤光樹脂から藤倉化成に伝達され、架空取引で多額の被害が発生した蓋然性が強いことから、藤倉化成は社内に特別調査委員会を設置し、調査を開始した。 藤光樹脂とATTとの取引関係は2008年に始まり、2009年3月には関係強化のため藤光樹脂がATTに対して1,500万円を出資することとなり、現時点での出資比率は15%である。2011年頃、取引はいったん消滅し、藤光樹脂はATTに対する出資金の減損処理を行う。取引が再開したのは2013年で、「ATTからフィルムを仕入れ、Y社・Z社に販売する取引」で、「2016年11月ころまで継続し、取引自体は順調に決済された」ということである。 その後、2016年12月になって、ATT柴野社長から、次のような取引を持ちかけられる。 こうした取引の総額がどの程度の規模であったのかは、報告書では触れられていない。一方、調査報告書作成時点における藤光樹脂の損害額は約4億3,000万円に達した。 2 資金循環取引の概要 ATTとの取引について、概要をまとめると以下の図のようになる。なお、後述するが、KISCO株式会社(以下、「KISCO」と略称する)特別調査委員会報告書では、ATTは「A社」として記述され、また、商流もこれとは異なる形で説明がされている。 (※) 東京商工リサーチの記事を参考に筆者作成 3 架空取引であることを見抜けなかった原因 上記のような典型的な架空循環取引に藤光樹脂経営陣が気づかなかったことについて、特別調査委員会は、以下の不備を指摘している。 株主権の不行使については、ATTは一度も株主総会の招集通知を藤光樹脂に送付していないし、計算書類等も提供していないにもかかわらず、藤光樹脂からは改善の要望をした形跡がないということである。 また、藤光樹脂が置かれていた状況として、2017年3月期には、前期まであった大型商談が大幅縮小又は終了し、売上の大幅な減少が想定されており、2016年4月から「新たな取引の拡大が至上命題」となっていたことが説明されており、こうした事情も、「疑問点を抱かず、慎重なる調査を怠ることにつながっていた」と指摘している。 4 原因分析と改善策 調査委員会による原因分析と改善策の提言は、藤倉化成に対するものと藤光樹脂に対するものに大別され、それぞれ、以下のとおりである。 (1) 藤倉化成 調査委員会は、藤倉化成において、藤光樹脂による貸倒損失の発生という事態を防止できなかった原因として、取締役会開催が年4回と少ないうえ、開催が形式的で、情報共有や内部統制が十分に機能していなかったことを挙げ、以下のように改善策を提言している。 (2) 藤光樹脂 一方、調査委員会は、藤光樹脂について、原因分析として、「体質的に、全体構造を慎重に検討する姿勢が欠けている」「一度取引を開始すると問題が表面化するまで、疑問な事情が全社的に情報共有されず、管理部門など他部門も含めた検討が十分に行われる体勢となっていない」と批判したうえで、以下のように改善策を提言している。 【調査報告書の特徴】 一部情報誌で、2016年4月頃に報じられたスマートフォン用フィルムの循環取引疑惑であったが、資金繰りに窮したATT柴野社長による自白メールがきっかけとなって発覚することとなった。真っ先に被害の発生と調査委員会の設置を公表したのは、素材商社大手のKISCOであり、6月29日のことであった(ただし、ATTという社名は使われていない)。その後、8月に入り、ATTは東京地方裁判所に対し自己破産の申立てを行うこととなる。 今回取り上げた藤倉化成による調査報告書は、ATTとの取引を実名で公表している点で、先行して公表されたKISCO株式会社の調査報告書とは大きく異なっており、また、両報告書を比較すると、取引関係の記述に相違があることがわかる。 1 ATTとの取引により損失を被ったとみられるKISCO株式会社の報告書 藤倉化成による調査報告書に先行して、8月14日には、KISCO特別調査委員会による報告書が公表されている 。ただし、同報告書では、ATT株式会社と思われる取引先名称が「A社」となっており、必ずしも、ATT株式会社と特定しているわけではない。また、同報告書で「B社」とされている会社は、ATTに対する出資関係にあるという記述などから藤光樹脂であることが推察できるが、こちらも、必ずしも特定されているわけではない。 仮に「B社」が藤光樹脂であったとすると、「B社」はKISCOの仕入先となってKISCOから代金を受け取っていることになるため、今後、架空取引で損失を被ったKISCOから仕入代金の返還を求められる可能性が高いはずなのだが、藤倉化成による調査報告書にはKISCOと見られる相手先との取引が記述されておらず、疑問は解消されない。 なお、KISCO報告書によれば、ATTをめぐる架空売上計上額は累計で650億円に達し、そのうち未回収の売掛金(被害金額)は約70億円、また、平成29年3月期におけるKISCOの全売上高に占める割合は39%を超えていたことがわかっている。 2 監査役である親会社常務取締役が特別調査委員会委員長を務めることの違和感 特別調査委員会は、委員長に藤倉化成常務取締役管理本部長が就任し、委員には弁護士である社外取締役も加わっているものの、藤倉化成の幹部社員で構成されている。報告書は全13ページという簡潔なもので、委員会の人選については全く触れられていない。 委員長の下田常務取締役は、藤光樹脂の監査役を兼務しており、藤光樹脂が巻き込まれたような不自然な取引については詳細を調査・報告させ、場合によっては、取引を中止させるべき立場にあったと言えよう。ところが、調査報告書では、架空取引に関与した藤光樹脂関係者はいないと結論づけているが、藤光樹脂の取締役会がどのように運営されていたのか、下田氏が藤光樹脂監査役として本件取引についてどのような報告を受けていたのか、などの記述は見当たらない。 もちろん、関係者の責任追及が調査の目的ではないことから、藤光樹脂経営者の責任について言及がないことをもって調査報告内容が不十分であると決めつけることはできないが、身内による調査という印象は否めない。 3 取引信用保険 調査報告書11ページには、藤光樹脂が本件取引の相手先とされていたX社の売掛金について、4億円を限度とする取引信用保険をかけていたものの、X社への売上が架空のものであることから、保険会社から、保険金の支払いを拒否されているとの記述がある。 相手の与信に不透明なところがあり、リスクヘッジのために取引信用保険を付保するというのは、藤光樹脂のような商社では広く行われているところであろうが、架空売上の計上に伴う売掛金未回収には保険は適用できないという極めて当然の事実は、「多少のリスクは保険が適用されるから大丈夫」という甘い与信判断は許されないということである。 4 中国を舞台にした資金循環取引 本連載でも取り上げた昭光通商株式会社の連結子会社による事件 、KDDI株式会社香港現地法人による事件 、2015年4月における江守グループホールディングス株式会社の突然の破綻など、中国企業を相手とする商談で架空循環取引が判明する事件が後を絶たない。 KISCO調査報告書では、ATTが守秘義務条項を盾に取引先(最終消費者)の開示に応じなかったこと、取引の相手とされた中国企業各社が国営企業であるため貸し倒れリスクが低いと説明されていたことなどが明らかになっている。しかし、日本企業と違って、こうした情報の裏付けをとろうにも、なかなか上手くいかないのが中国企業であり、売上拡大を狙うあまり、確認が少しでも疎かになってしまうと、架空循環取引に巻き込まれかねないリスクがあるということを、あらためて認識しておきたい。 * * * なお、上述したとおりATTをめぐる本件の全容を把握するには、本稿でもたびたび言及したKISCO調査報告書の検証を行う必要があると思われるため、次週(2017/12/21)の本誌上において解説を行う予定である。 (了)
連結会計を学ぶ 【第8回】 「みなし取得日」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 連結財務諸表の作成は支配獲得日から行うことになるが、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)では、支配獲得日等に関して、みなし取得日の規定を設けている(連結会計基準注解5)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ みなし取得日に関する規定 1 基本的な考え方 連結貸借対照表の作成にあたっては、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)により評価し、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は、相殺消去すると規定されている(連結会計基準20項、23項。投資と資本の相殺消去)。 株式の取得日(支配獲得日)が子会社となる会社の決算日と同一であれば、株式の取得日(支配獲得日)の当該子会社の財務諸表を利用して、連結財務諸表を作成すればよい。 しかしながら、実際には、子会社となる会社の決算日ではなく、当該会社の事業年度の途中で、株式を取得することがある。 このような場合に、当該会社の事業年度の途中で、財務諸表を作成することとすると、大変な事務負担を要することから、連結会計基準は、次のようにみなし取得日を規定している(連結会計基準注解5)。 みなし取得日については、かつて、「連結財務諸表原則」の注解9において、次のように規定されていた(下線筆者)。 当該規定は、平成20年12月26日の連結会計基準の設定に際して、「いずれか近い決算日」から「いずれかの決算日」に改正されている。 この趣旨は、平成20年6月30日に意見募集された公開草案に対するコメントへの対応において、「前後いずれか近い決算日」とすると、四半期決算では、みなし取得日が実際の支配獲得日等よりも後ろの決算日になることがあり、在外子会社の決算書の入手が間に合わないなどの実務上の問題があることに対応したものであると述べられている(「主なコメントの概要とそれらに対する対応」の「36)連結会計基準案のみなし取得日」)。 2 資本連結手続に関する実務指針 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)では、連結会計基準を受けて、次のように、より詳細に規定している(資本連結実務指針7項)。 3 連結対象となる子会社の財務諸表の範囲 みなし取得日は、連結対象となる子会社の財務諸表の範囲と密接に関連している。 資本連結実務指針は、連結対象となる子会社の財務諸表の範囲について、いずれの時点において支配の獲得又は喪失が生じたとみなすかにより異なるとし、次のように規定している(資本連結実務指針7項)。 4 のれんの償却開始時期 一般に、ある会社の株式を取得(支配の獲得)して子会社とする場合、のれんが認識されることとなる。 連結会計基準では、のれんを償却することとしているので(連結会計基準24項、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)32項)、連結財務諸表に取り込まれる子会社の損益計算書との対応が論点になる。 これについて、資本連結実務指針は、のれんの償却開始時期は、原則として、支配獲得日からであり、通常、それは子会社の損益計算書が連結される期間と一致すると規定している(資本連結実務指針31-2項、62-2項)。 みなし取得日との関連については、みなし取得日(資本連結実務指針7項)の適用により、のれんが期首に発生したとみなされる場合には、償却開始日は当期首であり、それが期末に発生したとみなされる場合には、翌期首となると規定している(資本連結実務指針31-2項)。 5 みなし取得日と決算日の3ヶ月のずれ 連結会計基準及び資本連結実務指針では、子会社の決算日と連結決算日とが異なり、その差異が3ヶ月を超えない場合には、子会社の決算日現在の財務諸表に基づき連結決算を行うことができるとされており(資本連結実務指針6項)、また、前述のように、みなし取得日(資本連結実務指針7項)についても認められている。 このため、両方の規定を適用した場合、支配獲得日を開始日とする期間が、子会社の損益計算書が連結される期間とならない場合がある。この場合には、のれんの償却開始時期は、子会社の損益計算書が連結される期間に合わせて決定することになるものと考えられている(資本連結実務指針62-2項)。 例えば、12月決算の子会社を5月末に取得し、6月末をみなし取得日としたときは、3月決算の親会社の第1四半期末の連結上、子会社の6月末の貸借対照表のみを連結し、第2四半期末の連結上も、子会社の6月末の貸借対照表のみを連結し、第3四半期の連結から、子会社の7月から9月の損益計算書を連結することになる。この場合、第3四半期の連結からのれんの償却を行うことになる(資本連結実務指針62-2項)。 (了)
「無期転換ルール」の 確認とその対応 【第2回】 「企業が必ず行うべき事項」 特定社会保険労務士 TOMAコンサルタンツグループ(株) 取締役副理事長 TOMA社会保険労務士法人 代表社員 麻生 武信 1 自社の実態を確認する 企業が「無期転換ルール」に対応する上で、初めにすべきことは、自社における有期契約労働者の雇用実態を把握することです。 現在、有期契約労働者は何人いるのか、更新基準、更新回数はどのようになっているのか、社内規定をはじめとする労働条件、運用状況はどのようにされているのかなどを確認します。 2 企業の方針を明確にする 次に企業の対応方針を決めるわけですが、今後の業況や事業方針、人員計画、現在の人手不足の状況や採用の状況などを勘案しながら、以下の3つの選択肢を検討する必要があります。 無期転換問題をめぐる企業の対応の動向としては、東京都産業労働局の公表している「中小企業労働条件等実態調査(平成27年度 契約社員に関する実態調査)」によれば、5年を超える前に、全員を雇い止めすることを検討している企業は1割に満たず、過半数の企業が、何らかの形で無期転換をすることを想定していることがわかります。 (※) 東京都産業労働局ホームページ「中小企業労働条件等実態調査(平成27年度 契約社員に関する実態調査)」 有期労働契約社員を、5年経過する前に契約を終了する②③のケースでは、「雇止め」が合法的に行えるかについて、十分注意することが必要です。 「有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合」や、「労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて、合理的な理由が認められる場合」については、雇止めが認められず、従前の有期労働契約と同一の労働条件で更新(締結)される場合がありますので、社会保険労務士などの専門家と十分対応を検討する必要があります。 3 無期転換後の雇用形態を決める 次に、無期転換後、どのような社員として位置づけるかを検討することが必要です。 有期労働契約社員が無期転換した場合、「正社員」との異同を明確にしておかないと、トラブルが発生するおそれがありますので、あらかじめ労使の間で、担当する業務や処遇などの労働条件を十分に確認することが重要になります。 無期転換後の処遇については、次の3つのパターンが考えられます。 先の「中小企業労働条件等実態調査」によれば、過半数以上が①の方向で検討していることがわかります。 (※) 東京都産業労働局ホームページ「中小企業労働条件等実態調査(平成27年度 契約社員に関する実態調査)」 4 「無期転換ルール」を整備する 最後に、企業の対応方針にあわせて、就業規則、雇用契約書等において「無期転換ルール」を整備することが必要です。 ① 有期労働契約が5年経過した社員全員を無期転換していく場合 無期転換後の労働条件として、「有期労働契約と同一労働条件とする」、「職種や勤務地を限定するなど新たな無期労働契約区分とする」、「既存の正社員とする」ケースがありますが、それぞれについて、就業規則を整備することが必要です。 特に、定年に関する規定は重要で、無期転換社員の中には、無期転換された時点で、60歳の定年をすでに超えているというケースも考えられますので、このようなケースも想定して、「60歳を超えて無期転換した無期転換社員については、65歳を定年とする」などというように、無期転換社員の定年を、無期転換社員に適用される就業規則に明記しておく必要があります。 ② 有期労働契約が5年を超える前に全員雇い止めをしていく場合 この場合、「雇用契約書の整備」がポイントとなります。有期労働契約社員との雇用契約書を締結する際に、「通算で5年を超えて雇用契約を更新しないこと」を明記することが必要です。ただし、すでに現契約において、次回、平成30年4月からの契約更新の可能性があることが明記されていて、まさに5年間が経過する社員がいる場合は注意が必要となります。 ③ 一定の基準を設け企業が社員ごとに①又は②を選択する場合 上記①②の対応に加えて、無期転換するかしないかを判断する基準を整備することが必要です。一般的には、有期労働契約者に対する評価制度を導入し、「勤務態度」、「勤務成績」、「勤怠」など合理的な基準を設けて、労働者に事前に示しておくことが重要です。 5 おわりに 「無期転換ルール」を定めた改正労働契約法が施行されて5年間が経過していますが、未だかなり多くの企業が、具体的な対応ができていないのが実態です。平成30年4月に近づくにつれて、労使トラブルに発展するケースも増えてくることが予想されます。 あまり時間がない中ですが、有期労働契約社員のいる企業は、本稿をきっかけに、必ず対応を検討していただきたいと思います。 (連載了)
税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第4回】 「顧問料値上げを円滑に行うための顧問契約条項案」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹 Q この度、新規顧客と顧問契約を締結する運びとなったが、決算報酬、税務調査立会等以外の通常の顧問料に関し、当方の業務量に応じた合理的な定めにしてほしいとの要望がなされている。 このような場合、どのような条項が考えられるか。 また、既存の顧客との間で比較的低額での顧問料を設定している場合、顧問料の値上げを行うための何か良い方法はないか。 A 〇最初の顧問契約の重要性 最初に顧問契約を締結してしまうと、その後、顧問料の値上げを要求することはなかなか勇気のいることであり、最終的には値上げ交渉もできないまま、業務量にペイしない料金で頻繁に税務上の相談等を追加料金なしで請けざるを得ない状況に陥ることになる。 そのため、税理士にとって、提供したサービスに応じた顧問料を確保するため、顧客にとっても費用に見合ったサービスを受けているという納得感を得てもらうため、そして、そもそも値上げ交渉等をしないで済むような契約体系を盛り込めることができる最大の機会として、最初に締結する顧問契約の条項内容が非常に重みを持ったものとなる。 そこで以下、双方にとって納得のいくような、税理士の業務量に応じた条項案サンプルをいくつか紹介する。 〇一定期間内での総業務時間に応じて自動的に顧問料が増額される規定 まずは、一定期間内での総業務時間に応じて自動的に顧問料が増額される規定を当初から盛り込んでおくことが考えられる。 例えば、以下のような条項である。 上記条項は、顧問業務1時間当たりのタイムチャージが1万円、1ヶ月当たりの顧問業務見込み時間が5時間であることを想定して、月額5万円の顧問料を設定している。 そこで、6ヶ月間における1ヶ月当たりの平均顧問業務時間を算出し、それが5時間を超えている場合には、その超えた1時間当たりのタイムチャージを1万円(端数が出れば千円単位)として基本料金となる5万円に加算し、続く次期6ヶ月間における1ヶ月当たりの顧問料金としている。 以上はあくまでも例示であるため、例えば1時間当たりのタイムチャージや、1ヶ月当たりの顧問業務見込み時間については、顧問業務の内容・範囲・難易度、顧客の特性等に鑑みてケースバイケースにて決めていくことになろう。また、対象期間を6ヶ月ではなく1年程度とすることも考えられる。 ただし、顧問契約締結に当たり、顧客サービスとして1時間当たりのタイムチャージ金額を低めに設定したり、1ヶ月当たりの顧問業務見込み時間を多めに設定してしまうことで、結局、増額条項が適用されず、ペイできない状態が継続してしまうため、サービス価値に見合ったタイムチャージ金額を毅然と提案し、顧問業務見込み時間についても的確に見積もることが重要となる。 〇一定の基準時間を超えた分を増額分として基準顧問料とともに請求する規定 次に考えられるのは、毎月の顧問業務時間に応じて、一定の基準時間を超えた分につき、別途、毎月、増額分を基準顧問料とともに請求する規定である。 例えば、以下のような条項である。 上記条項では、超過時間にタイムチャージを乗じて算出された金額に対し、さらに0.8を乗じているが、これは顧問契約を締結していることによる特典としての意味を有する。そのため、場合によっては、同係数を変えることも、またはこのような係数を設けない規定とすることもできる。 問題となるのは、末尾での「なお、1ヶ月当たりの総業務時間が5時間未満であった場合には翌月に残時間を繰り越すものとし、以後、同様とする。」との文言である。 この文言は、顧客にとっては費用に見合ったサービスを受けることができるというメリットを有するが、当初、見込んでいた1ヶ月当たりの顧問業務時間を多めに設定していたような場合には、繰り越しタイムが延々と累積することとなる。その結果、ペイできない状態が続くばかりか、契約更新時等において「こんなに繰り越しタイムが残っているのだから、基準顧問料の金額を下げてほしい」などと顧客から言われてしまいかねない。 そのため、仮に、このような繰り越し文言を規定する場合には、当初の1ヶ月当たりの基準時間(上記では5時間)はあくまでも契約締結前での予測に過ぎず、サービスにて見込みよりも若干多めに設定していること等を十分に説明した上で、半年又は1年間等、一定期間が経過した際には、たとえ繰り越しタイムが残っていたとしてもすべてリセットされ、基準時間については、協議の上、変更することができるとの規定も併せて盛り込んでおくことが望ましい。 〇既存の顧客との間で顧問料の値上げを行うための方法 最後に、既存の顧客との間で比較的低額での顧問料を設定している場合、顧問料の値上げを行うための方法についてであるが、過去、一定期間の当該顧客との顧問業務に要したタイムを集計しておき、その業務量が比較的多い場合や、時期によってばらつきがあるような場合には、顧問契約更新時において、上記各条項案の追記等を提案し、新しい料金体系にて契約更新することは、これまで提供してきた業務内容に一定の満足度を有している顧客にとっては、ある程度、納得感があるものとして受け入れられるのではないかと考える。 (了)
《速報解説》 マイナス金利下の割引率の取扱いを定めた実務対応報告第34号の適用時期に関する公開草案が公表 ~金利水準に大きな変化が生じる状況にない間は適用を継続~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年12月7日、企業会計基準委員会は、「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第54号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」で示されていた適用時期(平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで)を改正するためのものである。 意見募集期間は平成30年2月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 実務対応報告第34号3項を次のように改正することを提案している。 《現行規定》 《改正案》 なお、公開草案については、渡部仁委員が反対する意見を述べている。 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、公表日以後適用する。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」を定めた 実務対応報告の公開草案を公表 ~活発な市場の有無による期末の評価方法等について規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年12月6日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第53号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という)が改正され、仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入されたことに対応し、必要最小限の項目について、仮想通貨の会計処理及び開示を規定するものである。 意見募集期間は平成30年2月6日までである。 また、後述するように、国税庁から、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 範囲 公開草案は、資金決済法に規定するすべての仮想通貨を対象としている(公開草案3項)。 資金決済法では、前払式支払手段発行者が発行するいわゆる「プリペイドカード」や、ポイント・サービス(財・サービスの販売金額の一定割合に応じてポイントを発行するサービスや、来場や利用ごとに一定額のポイントを発行するサービス等)における「ポイント」は、資金決済法上の仮想通貨には該当しないとされている。 また、いわゆる仮想通貨が資金決済法上の仮想通貨に該当するか否かは、個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断されると記載されている(公開草案24項)。 2 定義 例えば、次の用語が定義されている(公開草案4項(1)(2)(3))。 3 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、次のように会計処理する(公開草案5項~7項)。 仮想通貨の売却損益の認識時点に関して、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、仮想通貨の売却損益を当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識すると規定されている(公開草案13項)。 4 活発な市場の判断規準 公開草案5項における「活発な市場が存在する場合」とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(公開草案8項)。 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格や、仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱いについても、規定されている(公開草案9項~12項)。 5 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨については、次のように会計処理する(公開草案14項~15項)。 6 開示 表示及び注記について、次のように規定している(公開草案16項~17項)。 Ⅲ 適用時期等 平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、本実務対応報告の公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 Ⅳ 国税庁Q&A 仮想通貨に関する税務上の取扱いについては、国税庁から次のものが公表されている。 上記①では、Q&A形式により、具体的な数値例などを用いて次のことが記載されているので、ぜひ、お読みいただきたい。 (了)