《速報解説》 個別通達の改正により 「接待飲食費に係る控除対象外消費税」は50%損金算入を明確化 ~接待飲食費に関するFAQも該当問答を追加~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成26年度税制改正により「接待飲食費の50%損金算入」が導入されたことに対応し、「交際費等に係る控除対象外消費税」に関して、「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正が行われた。 また、これに応じて国税庁は「接待飲食費に関するFAQ」の中に、「接待飲食費に係る控除対象外消費税の取扱い」というQ&Aを追加して公表した。 以下では、その内容について解説する。 なお、交際費課税に係る平成26年度税制改正については、下記の拙稿をご覧いただきたい。 1 控除対象外消費税とは 消費税の納税額は通常、課税売上に係る消費税額から課税仕入等に係る消費税額を控除した金額となる。したがって、税抜経理を採用している場合、正確には多少のズレは生じるが、期末の消費税の仕訳のイメージは次のとおりである。 しかし、次の場合には課税仕入等に係る消費税額の全額を控除することはできず、そのうち課税売上に対応する部分だけを控除できる。 したがってこの場合には、仕入税額控除ができない消費税額(控除対象外消費税)が生じることになる。 この控除対象外消費税は、原則として全額がその事業年度の損金に算入されるので、この場合の期末の消費税の仕訳のイメージは次のとおりである。 2 交際費等に係る控除対象外消費税 上記のとおり控除対象外消費税は、原則として全額がその事業年度の損金に算入される。 しかし、「交際費等に係る控除対象外消費税」は、税務上の交際費等として扱うこととされている。 したがって、中小法人の特例「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能な法人を除き、原則として損金には算入されないことになる。 例えば、次のような場合である。 【前提条件】 ※簡便化のため、一括比例配分方式を選択しているものとする。 交際費等に係る消費税額800,000円のうち、課税売上に対応する600,000円(消費税額800,000円×課税売上割合75%)は、仕入税額控除が可能である。しかし、課税売上に対応しない残りの200,000円は仕入税額控除ができず、控除対象外消費税に該当する。 ここで、交際費等に係る控除対象外消費税200,000円は税務上の交際費等に含めることとされているので、この法人における交際費等の合計額は10,200,000円となる。 この結果、損金不算入額は10,200,000円となり、控除対象外消費税200,000円だけ損金不算入額が増加したことになる。 また、仮に「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能であれば、損金不算入額は2,200,000円(10,200,000円-8,000,000円)となるが、この場合も控除対象外消費税200,000円だけ損金不算入額が増加する。 3 接待飲食費に係る控除対象外消費税 交際費等に係る控除対象外消費税の取扱いの概要は上記のとおりであるが、平成26年度税制改正により「接待飲食費の50%損金算入」が導入されたことから、「接待飲食費に係る控除対象外消費税」の取扱いはどうなるのかが問題となる。 つまり、次のいずれの取扱いとなるのか、ということである。 この点、冒頭で紹介した「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正及び国税庁の「接待飲食費に関するFAQ」の追加公表により、上記②の取扱いとなることが明らかにされた。 例えば、次のような場合である。 【前提条件①】 ※簡便化のため、一括比例配分方式を選択しているものとする。 【前提条件②】 【前提条件①】は上記と同様であるため解説は省略するが、交際費等に係る控除対象外消費税は200,000円、交際費等の合計額は10,200,000円となる。 また、接待飲食費に係る消費税額のうち、控除対象外消費税は120,000円(480,000円×(100%-課税売上割合75%))である。この120,000円は接待飲食費として取り扱うので、接待飲食費の合計額6,120,000円(接待飲食費6,000,000円+控除対象外消費税120,000円)の50%、すなわち3,060,000円は損金に算入されることになる。 この結果、交際費等の損金不算入額は7,140,000円(交際費等10,200,000円-接待飲食費の50% 3,060,000円)となる。 仮に「年間800万円まで全額損金算入」が適用可能な中小法人であれば、このケースでは損金不算入額は2,200,000円(交際費等10,200,000円-8,000,000円)となるため、「接待飲食費の50%損金算入」より「年間800万円まで全額損金算入」を選択した方が有利である。 したがって、結果的には接待飲食費に係る控除対象外消費税の50%が損金算入可能でも、それによるメリットは生じない。 ただし、接待飲食費と接待飲食費に係る控除対象外消費税の合計額が1,600万円を超える場合には、中小法人においても「接待飲食費の50%損金算入」を選択した方が有利となる。 4 帳簿書類への必要事項の記載 接待飲食費の50%を損金算入するには、領収書等の帳簿書類に下記の事項を記載して保存することが要件となっている。 合理的な方法により接待飲食費に係る控除対象外消費税を算定した計算資料は、上記の「その他飲食費であることを明らかにするための必要事項」を記載した書類に該当するとされた。したがって、この計算資料を保存することで要件が満たされる。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第22回】 「判例分析⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 第21回目においては、大阪地裁昭和33年7月31日判決(行集9巻7号1403頁、税資26号773頁)を紹介し、債権放棄の対象となる債権については、回収不能なものである必要があるという点について解説を行った。 第22回目にあたる本稿においては、回収不能部分についてのみ債権放棄を行った場合についての検討を行う。 (ⅱ) 回収不能部分についてのみの債権放棄 前回、解説したように、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすためには、債権放棄の対象となった債権の全額が回収不能であることが必要となるが、実務上は、同一債務者に対する担保付債権と無担保債権の両方を有する場合というのも存在する。 このような場合において、担保付債権の一部について回収をすることができず、かつ、無担保債権の全額について回収することができないことが明らかであれば、無担保債権についてのみ債権放棄を行うということも考えられるが、このような債権放棄について、法人税基本通達9-6-1(4)の適用を認める余地が存在するか否かという点が問題となってくる。 この点につき、森文人氏は、 としており、部分的な債権放棄について、貸倒損失の計上があり得ることを示唆している。 これに対し、大阪高裁平成17年2月18日判決(税資255号順号9936号)においては、納税者が敗訴した事案であるとはいえ、 と判示しているため、例えば、無担保債権や劣後債権のみを抜き出して、その全額が回収不能であるということであれば、その部分についてのみ債権放棄を行うことにより、貸倒損失を計上するということは、十分に認められる余地があると考えられる。 そして、日本興業銀行事件における控訴審判決においても、納税者側の主張を退けたとはいえ、 としており、「債権の回収不能部分が特定されて当該部分の債権が放棄された場合」について、法人税基本通達9-6-1(4)の適用が認められる余地があることを示唆している。 さらに、所得税法の事案であるが、広島高裁昭和57年2月24日判決においては、担保付債権と無担保債権の両方を保有している場合において、担保付債権については一部回収可能であるものの、無担保債権の全額が回収不能であると認められる場合において、無担保債権に対して貸倒れとして必要経費に算入した事案が存在し、日本興業銀行事件においける上告申立て理由においても触れられている内容である。この内容は法人税基本通達9-6-2の判断において重要な内容であり、また、この内容について解説した論文も多いことから、いずれ本連載においても紹介したいと考えている。いずれにしても、法人税基本通達9-6-2において回収不能であると認められる無担保債権を債権放棄したからといって、寄附金として認定されるべき理由は存在せず、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができると考えられる。 これに対し、無担保債権のうち、例えば、30%部分が回収不能であり、70%部分が回収可能であった場合はどのように考えればよいであろうか。大渕博義教授によると、 とされている。 しかしながら、例えば、1億円の無担保債権のうち、30%部分に相当する3,000万円だけ債権放棄をするとした場合において、他の無担保債権者(4億円)が債権放棄をしないのであれば、債権放棄後の無担保債権の総額は4億7,000万円となり、そのうち、1億5,000万円(=5億円×30%)が回収不能というわけだから、債権者間の合意がないかぎり、単純に債権者平等の原則に従えば、残りの70%部分に相当する7,000万円の全額について回収可能であるということにはならず、債権放棄を行った3,000万円についても、その一部は回収可能な債権であったということも考えられる。そうなれば、日本興業銀行事件のように、母体行責任や親会社責任が問われる場合を除き、他の債権者においても債権放棄をしてもらう必要が出てくると考えられる。すなわち、法人税基本通達9-6-1(3)の範疇であり、法人税基本通達9-6-1(4)の範疇ではなくなってくるということになる。 また、担保付債権については、どれだけの回収が行われるか分からないことから、実際には、担保価値については日々変動するため、回収することができないことが明らかな部分だけを抜き出して債権放棄をするというのは難しいことが多いと考えられる。 結局のところ、回収不能部分を明らかにしたうえで、当該回収不能部分についてのみ債権放棄をするというのは、無担保債権や劣後債権のみを抜き出して、その全額が回収不能である場合に限定されてしまうというのが実態であると考えられる。 次回においては、日本興業銀行事件において、法人税基本通達9-6-1(4)の適用をどのように考えるべきかについて解説を行う予定である。 (了)