《速報解説》 監査基準委員会報告書800「特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査」等の確定について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年4月4日付(常務理事会の承認は3月19日)で、日本公認会計士協会は次のものを、新たに公表した。 これは、平成26年2月18日付けで企業会計審議会から公表された「監査基準の改訂に関する意見書」に対応するものである。 これらについては公開草案が公表されていたものであり、今回、確定することとなる。 これらに関連して、品質管理基準委員会報告書第1号「監査事務所における品質管理」、監査基準委員会報告書(序)「監査基準委員会報告書の体系及び用語」、監査基準委員会報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」など多くのものが改正されている。 また、改正に関して「公開草案に対するコメントの概要及び対応について」が公表されているので、参考にしていただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「一般目的の財務報告の枠組み」及び「特別目的の財務報告の枠組み」と「適正表示の枠組み」及び「準拠性の枠組み」 1 適用される財務報告の枠組み 平成26年2月18日付で公表された「監査基準の改訂に関する意見書」では、従来の適正性に関する意見の表明の形式に加えて、準拠性に関する意見の表明の形式を監査基準に導入している。 改訂された監査基準では、一般目的の財務諸表と特別目的の財務諸表とのそれぞれについて適正性に関する意見の表明と準拠性に関する意見の表明とがあり得る。 監基研Q&Aの「Q2 適用される財務報告の枠組み」では、財務報告の枠組みは次の2つの視点から分類されると述べられている。 財務報告の枠組みが上記のそれぞれの視点においていずれに分類されるかは、監査契約の新規の締結又は更新や監査報告に影響するため重要となる。 一般目的の財務報告の枠組み及び特別目的の財務報告の枠組みは、いずれも、適正表示の枠組みであることもあれば、準拠性の枠組みであることもある(監基研Q&AのQ7)。 監基研Q&AのQ7では、Q4及びQ6に対する回答に記載したそれぞれの分類の性質から、以下の傾向が生じると述べられている。 監基研Q&AのQ7において、次の図が示されている。 2 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例 監基研Q&Aの「Q5 特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例」は、特別目的の財務報告の枠組みの具体的な例として、次のものを挙げている。 監査基準委員会報告書800の付録には、以下の特別目的の財務報告の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査報告書の文例が示されている。 特別目的の財務報告の枠組みを理解するうえで参考になるものと考えられる。 Ⅲ 公開草案からの主な変更点 (了)
《速報解説》 協会公表物デュー・プロセスについて 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年4月8日付で、日本公認会計士協会 協会公表物デュー・プロセス検討プロジェクトチームは、「協会公表物デュー・プロセス検討プロジェクトチーム報告-協会公表物のデュー・プロセス透明化に向けた施策について-」を公表した。 日本公認会計士協会が果たすべき役割の拡大、公表物の利用者が会員のみならず広く一般社会へと拡がり、また、その影響もますます大きなものになってきているなどの社会情勢を踏まえ、デュー・プロセスの透明化について検討を行ってきたものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な提言の内容 1 コメント対応について 早急に対処すべき課題として「公開草案に対して寄せられたコメントへの対応」(以下「コメント対応」という)の方法について、提言として取りまとめられている。 公開草案に対して寄せられたコメントへの対応としては、すでに次のものが公表されている。 2 その他 上記のコメント対応のほか、当面実施が可能でかつ委員会の実務指針等の検討内容の透明化に効果的と考える施策として、次のものの実施が提言されている。 (了)
《速報解説》 税理士法改正に伴う「税理士法基本通達」の一部改正について 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成26年度税制改正に伴う通達改正の一環として、平成26年3月31日付けで、税理士法基本通達の一部改正がなされた。 税理士法については、平成26年度税制改正で大幅な改正がなされているが、今回の通達改正は、改正項目のうち、「登録拒否事由」(税理士法24条)に関するものが中心となっている。 なお、平成26年度税制改正については、平成26年3月31日に所得税法等の一部を改正する法律(平成26年法律第10号)が公布されており、それと同日で、関係する政省令の改正についても公布がなされている。 特に税理士法の改正については、一部の重要な内容が省令に委任されていることから、改正全体を正確に把握するためには、法律改正のみならず、省令改正の内容も確認する必要があるので、留意されたい。 2 登録拒否事由に関する税理士法の改正 税理士登録の申請がなされた際に、登録を受けることができないとされる登録拒否事由として、欠格条項(税理士法4条)に該当していた者(税理士となる資格を喪失していた者)が一定の年数経過によって欠格条項に該当しなくなった(税理士となる資格が復活した)場合に、なお税理士業務を行わせることがその適正を欠くおそれがあるとき、というものが追加された。 従前は、いったん欠格条項に該当したとしても、一定の年数を経過することで特に要件なくして登録が認められるものとされていた。 ところが、今回の改正では、適正を欠くおそれがないという要件が加重され、一定の場合に登録拒否が認められることとなった。 なお、今回の改正では、欠格条項に該当する者として、懲戒免職の処分を受けた公務員のほか、懲戒免職相当で退職手当等の支給を制限する処分を受けた公務員が追加されており、これらの場合は、処分から3年を経過するまで、税理士となる資格を喪失するものとされている。 3 通達改正のポイント 今回の税理士法の改正で追加された登録拒否の要件は、「おそれがある」という不確定概念であり、処分をする側に一定の裁量が認められる余地がある。 そこで、その裁量が適正に行使されるようにするために、税理士法基本通達の一部改正として、「おそれがある」と認められるための一定の基準が定められた。 具体的には、非行の性質や内容、経過期間、本人の反省や謹慎などの具体的状況等を総合的に勘案して判定するものとされており(新税基通24-7)、その基準自体は適切なものといえる。 ここでのポイントは、なお書きとして、懲戒免職された税務職員などを念頭において、期間の経過というごく形式的な基準のみによって安易に登録を認めることのないようにすべきとされていることに意義があるといえよう。 なお、これと平仄を合わせて、税理士の信用又は品位を害する「おそれがある」(税理士法24条7号前段)との要件に該当するための基準も新たに定められている(新税基通24-8)。 (了)
《速報解説》 「監査及び四半期レビュー契約書の作成例」等の改正について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年4月9日付(常務理事会の承認は3月19日)で、日本公認会計士協会は次のものを改正し、公表した。 新たに「監査及び四半期レビュー契約書」を締結する際に、実務の参考になるものと考えられる。 研究報告14号は、監査及び四半期レビュー契約書を対象としており、それに限定されない契約書作成のための概括的な内容、例えば、契約書作成の目的、押印、本文の訂正方法等は、上記①の法規委員会研究報告第10号に記載されている。 研究報告第10号の改正については、字句修正のほか、印紙に関する記載が従来よりも詳細になっている(研究報告第10号、Ⅱ3(6))。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告14号の主な改正事項 1 国際会計基準(IFRS)任意適用会社 「国際会計基準(IFRS)任意適用会社の監査及び四半期レビュー契約書」の作成例が新設されている。 あわせて、「様式4:監査法人用(会社法監査・金融商品取引法監査、指定社員制度利用)」が新設されている。 2 任意監査の定義 任意監査について、公認会計士法2条1項業務のうち、法令で求められている業務を除く監査(品質管理基準委員会報告書第1号34-2項)をいうとされている(研究報告第14号、Ⅲ1(3))。 3 グループ監査 「構成単位の監査人の側の監査契約書」において、詳細な事項が述べられており、監査契約書において、「親会社の監査人との間のコミュニケーション」に関する例示が示されている(研究報告第14号、Ⅲ2(10)②)。 ただし、これは一例であり、業務ごとに、その必要性や実情に応じた契約書の形式や文言を用いることが望まれると述べられている。 (了)
2014年4月10日(木)AM10:30、Profession Journal No.64 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第16回】 「建替え建築は『新築』か『改築』か?(その1)」 ~住宅借入金等特別控除と借用概念~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに これまでこの連載でも取り上げてきた借用概念の解釈を巡っては、多くの訴訟が提起されている(本連載第7回~9回で取り上げた「住所」の概念、第10~12回で取り上げた「配偶者控除にいう『配偶者』」の概念なども参照)。 例えば、居住者が、現在の居住用建物を取り壊して、新たにその基礎(土台)に新しい家を建てた場合に、かかる家は「改築」された家というのであろうか。あるいは、「新築」された家というのであろうか。 このような話が単なるネーミングの問題であればそれほど深刻なことにはならないが、例えば、建築工事費用のための借入金について、その建築が「改築」に該当すれば、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の適用対象になり、「新築」に該当すれば、同控除の適用対象にならないという場合には、租税負担に大きな違いが生じるので、その違いを軽視することはできないであろう。 向こう10年以上にわたって、控除を受け続けることができるかどうかは、当初の要件次第であるから、ここで「改築」と解釈されないと納税者にとっては、タックスメリットが完全に否定されてしまうことになるのである。 租税法律主義の下、このことの解決は当然に法律に求めるほかない。しかしながら、住宅借入金等特別控除を規定する租税特別措置法には、「改築」の定義も、「新築」の定義もされていない。では、どのようにして、この問題を解決することができるであろうか。 この問題を解く鍵は、借用概念をどのように理解するか、という点にありそうだ。 ここでは、上記のように、建替えが「改築」に当たるか否かが争点とされた事例である東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)を素材として、借用概念についてのより深い理解を得ることとしよう。 Ⅰ 事案の概要 本件は、所有地上の建物を取り壊して新たに建物を建築したX(原告・控訴人)が、平成9年分の所得税について、その建築が租税特別措置法(以下「措置法」という)41条にいう「改築」に該当し、住宅借入金等特別控除(以下「本件特別控除」という)の適用があると考え確定申告したところ、税務署長Y(被告・被控訴人)から、同年分の所得税についての更正処分(以下「本件更正処分」という)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。また両者併せて、以下「本件各処分」という)を受けたため、その取消しを求めた事案である。 Xは、S市に宅地及び同地上に鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建店舗兼居宅を所有し、居住していたが、道路拡張のため、上記土地のうち一部が買収され、旧建物をそのまま使用できなくなった。そこで、Xは、旧建物を取り壊し、その残地に鉄骨造アルミニウム板葺3階建店舗兼居宅(以下「本件建物」という)を建築し(この旧建物の取壊しと本件建物の建築を併せて、以下「本件建築」という)、居住の用に供することとした。 Xは、平成10年3月13日、本件建築は「改築」に該当するので、本件特別控除の適用があるものとして納付すべき税額を計算して、Yに対し平成9年分の所得税について確定申告をしたところ、Yは上記控除の適用はないものと判断して、同年5月13日付でXに対し本件各処分をした。 Ⅱ 争点 この事案の争点を整理しよう。 本件特別控除の適用の有無は、措置法41条に規定している要件に従うことになる。ここでは、同条の要件をひとつひとつ抽出して、その適用の有無について検討をすることをしないが、争点となったのは、建替え建築たる本件建築が同法にいう「改築」に該当するか否かである。すなわち、いかに本件建築が他の措置法41条の要件を充足していたとしても、「改築」に該当しない限り本件特別控除の適用はないわけである。 そこで、本件特別控除の適用があるべきだと考えるXとしては、当然に、「本件建築」が措置法41条にいう「改築」に該当すると主張しなければならない。他方、本件特別控除の適用はないと本件各処分をしたYは、Xの主張とは逆に、「本件建築」が措置法41条にいう「新築」に該当すると主張することになるのであろうか。 答えは、NOである。Yは、措置法41条に規定する本件特別控除の適用を認めない立場であるから、同控除の適用要件である「改築」に該当しないと主張をし、その立証に成功すればよいのである。 なお、仮に、措置法41条にいう「新築」に該当するとしても、次に、その「新築」が同条にいう「改築」に該当しないことを主張しなければならなくなるのであるから、結果的には、「改築」該当性の問題に帰着することになろう。 したがって、訴訟上の争点は、本件記事の標題とは若干異なり、「本件建築」が「措置法41条にいう『改築』に該当するか否か」である。 Ⅲ 当事者の主張 1 Yの主張 Yは、次のように、租税法が条文の中で用いる概念(用語)につき、他の法分野で用いられている概念であれば、他の法分野におけると同様の意味で理解すべきとの主張を展開した。 その上で、措置法は税額控除を認める例外規定であり、租税負担公平の原則から不公平の拡大を防止するため、解釈の狭義性・厳格性が要請されると解すべきであり、本件においても厳格な解釈運用が求められると論じている。 また、 に照らして、「措置法41条1項、3項に規定する『改築』とは建築基準法上のそれと同一に解するのが相当である。」と主張した。 さらに、 と主張した。 2 Xの主張 Yが措置法41条にいう『改築』が建築基準法からの借用概念であり、同法と同様に解釈すべきであると主張したのに対して、Xは、真っ向から対立した。 Xは、まず、措置法41条の「改築」概念につき、建築基準法のそれと同義に理解すべきではないという。 そして、Yが建築基準法に従って導出した「改築」であるかどうかは、「著しく異ならない」という要件の充足が必要であるとしている点について、次のように反論している。 このようにして、「措置法41条1項、3項に規定する『改築』については建築基準法のそれと同一に解するのは相当ではない。」と論じるのである。 これらの主張の上で、Xは、 として、 というのである。 このように、当事者は、措置法41条にいう「改築」について、建築基準法上の「改築」と同義に理解すべきかどうかという点で見解が対立しているのをお分かりいただけたであろうか。 さて、どちらの主張が妥当であろうか。 (続く)
区分所有登記要件をめぐる 小規模宅地評価減特例 【第1回】 「平成25年度の改正事項と論点の確認」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 1 はじめに 平成25年度税制改正において、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(租税特別措置法第69条の4)(以下、小規模宅地評価減特例)に関する改正が行われたが、その改正点の一つとして、特定居住用宅地等(※1)の同居要件がある(措法69の4③二)。 2 平成25年度税制改正前の取扱い(*2) 二世帯住宅について、建物の構造上、内部で行き来ができるか否かにより、同居か否かが判定され、結果、小規模宅地評価減特例の適用が判断されていた(*3)。 つまり、建物の構造上、内部で行き来ができる場合には、被相続人と相続人とは同居していると判定され、他の要件を満たしていることを前提にすれば、特定居住用宅地等として、小規模宅地評価減特例が適用されていた。 3 平成25年度税制改正後の取扱い(*2) 二世帯住宅について、被相続人と相続人とが同一の建物に居住していれば(建物の構造上、内部で行き来ができるか否かには関係なく)、同居として取り扱われ、特定居住用宅地等として、小規模宅地評価減特例が適用される。 ただし、当該二世帯住宅が区分所有(*4)されている場合には、被相続人が居住していた専有部分(区分所有の対象となっている単位)において、相続人が居住(同居)しているか否かで、同居要件を判定する(*5)。 4 適用判定のまとめ 上記で説明したとおり、平成25年度税制改正により、平成26年1月1日以降に他界した被相続人に関する相続税申告については、小規模宅地評価減特例(特定居住用宅地等)の同居要件については、以下のように判定が行われる(措法69の4③二、措令40の2⑩)。 次回(4/17公開)は、上記で整理した論点をもとに、建物の所有権者、相続の発生時期から6パターンの事例を紹介し、小規模宅地評価減特例の適用を検討したい。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第15回】 「判例分析①」 公認会計士 佐藤 信祐 第15回目以降は、貸倒損失についての判例のうち重要なものについてそれぞれ紹介する予定である。まず、最初に紹介するのは、日本興業銀行が住宅金融専門会社である日本ハウジングローン株式会社(以下、「JHL社」という)に対する3,760億5,500万円の貸出債権を解除条件付の債権放棄を行ったことにつき、貸倒損失として損金の額に算入することができるか否かが争われた事件である。 本事件は、最終的には納税者の勝訴となったため、国税庁のHPにおいて、「平成16年12月24日最高裁判決を踏まえた金銭債権の貸倒損失の損金算入に係る事前照会について」と掲載されるようになったという意味で、極めて重要な判決である。 1 日本興業銀行事件 (1) 第1審・東京地裁平成13年3月2日判決(民集58巻9号2666頁、訟月48巻3号757頁、判時1742号25頁、税資250号順号8851) ① 判決の概要 本事件における主要な争点は の2点であり、裁判所の判断としては、争点の1つ目については、 としたうえで、原告の主張を認めた。また、争点2つ目については、債権放棄の有無にかかわらず、その全額を損金算入することができるため、もはや判断をする必要がないとしながらも、念のために検討をした結果、納税者の主張を全面的に認めた。 本事件については、債権の全額が回収不能か否かを判断する場合において、債務者側の事情だけでなく、債権者側の事情も考慮すべきであるという点を明らかにした判決として意義のある判決であると言われている。 ② 当事者の主張 本事件についてのそれぞれの主張はかなり長文にわたるため、下記のようにその概要をまとめた。なお、厳密には、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があったか否かという点についても争われているが、ここではその内容を省略している。 本事件においては、双方から上記のような主張がなされている。上記のように、法人税法の条文ではなく、法人税基本通達に沿って主張がなされているという点が本事件の特徴でもあるが、法的に債権放棄が確定しているか否かについての原告の主張、すなわち、法人税基本通達9-6-1(3)(4)、9-4-1についての主張はやや乱暴に思える。 また、被告側(麹町税務署長)の主張としては、解除条件付債権放棄について、寄附金として損金不算入にするのではなく、解除条件の不成就が確定した翌事業年度において損金の額に算入させるというものであったことが分かる。 そのような中では、法人税基本通達9-6-2に該当するか否かという点が主たる争点であり、法的に債権が消滅していたか否かという点については、あまり重要な論点ではないのかもしれない。 次回においては、上記のような主張を踏まえ、裁判所がどのような判断を下したのか、また、それをどのように考えるべきであるのかという点についてそれぞれ解説を行う予定である。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第26問】 「店舗兼住宅等の場合の計算例」 -店舗兼住宅等- 税理士 大久保 昭佳 Q 小売業を営むXは、店舗兼住宅をその敷地と共に譲渡しました。譲渡価額と土地建物の使用状況は次のとおりです。 この場合、「3,000万円特別控除」の特例の適用にあたって、居住用部分に対応する譲渡価額はいくらでしょうか? A 居住用部分に対応する譲渡価額は、22,384,000円となる。 〈解説〉 措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住用部分の判定)の算式に基づき計算すると、次のようになる。 (1) 建物 ① 居住用部分の譲渡価額 イ 面積 ロ 1㎡当たりの譲渡価額 6,000,000円÷150㎡=40,000円 ハ 譲渡価額 40,000円×69㎡=2,760,000円 ② 店舗部分の譲渡価額 6,000,000円-2,760,000円=3,240,000円 (2) 土地 ① 居住用部分の譲渡価額 イ 面積 ロ 1㎡当たりの譲渡価額 44,000,000円÷100㎡=440,000円 ハ 譲渡価額 440,000円×44.6㎡=19,624,000円 ② 店舗部分の譲渡価額 44,000,000円-19,624,000円=24,376,000円 (3) 合計 ① 居住用部分の譲渡価額の総額 2,760,000円+19,624,000円=22,384,000円 ② 店舗部分の譲渡価額の総額 3,240,000円+24,376,000円=27,616,000円 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第19回】 「相続財産の分割協議」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 前回までは、相続人の確定、相続財産の範囲・評価についてみてきたが、ここでこの連載第1回で示した相続税申告業務を行う際の全体の流れを再確認しておくこととする。 前回までで、上記「1 相続人の確定」及び「2 相続財産の範囲・評価の確定」を説明したことになる。 そこで今回からは、上記3の「相続財産の分割協議」について説明を行う。 〔遺産の分割について協議が必要な理由〕 ある個人が他界すると、他界した個人(被相続人)が所有していた財産は、所有者がいない状態となってしまうため、法律上は自動的に一定の個人が相続する(所有権者)ことになる。 「相続する一定の個人」は、被相続人に全く関係のない個人であるのは普通に考えて不自然であるため、法律上、被相続人と一定の関係のある個人(配偶者、子供など)と定められている(これが「相続人」である)。 そこで、被相続人の財産を相続する個人(相続人)が1人である場合にはこれで問題ないが、複数いる場合には、どの相続人がどの財産を取得するかという問題が生じる。 この問題を解決するために、すべての相続人が、どの相続人がどの相続財産を取得するか、話合いを行い、合意を行う必要がある。 この話合いを「遺産分割協議」といい、通常、合意した内容は遺産分割協議書として書面に記載をし、すべての相続人が自署押印(実印)する(*1)。 〔遺言の有無で対応が変わる〕 ただし、被相続人が生前に遺言を作成している場合には、その遺言の内容に従って、相続財産は相続・遺贈されることとなる(*2)(*3)(*4)。 遺言により相続・遺贈が行われる場合には、相続人(被相続人の兄弟姉妹は除く)には「遺留分」という一定の割合までは、相続財産を取得する権利を主張することができる(民法1028条)。 したがって、遺言による相続・遺贈が行われる場合には、遺留分減殺請求(相続人が遺留分の権利を主張すること)が行われる可能性があるため、留意が必要である。 〔相続財産の分割協議のまとめ〕 上記のとおり、相続財産の分割においては、遺言の有無でその対応が異なることとなる。 【遺言がある場合】 遺言に従い、相続財産の取得者が決まる。 【遺言がない場合】 ※遺言に一部の相続財産のみ記載がある場合を含む。 相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの相続財産を取得するか、全員が合意する必要がある。 (了)