《速報解説》 企業会計基準委員会「税制改正への対応について」 -平成26年度地方税制改正に伴う税効果会計の取扱い- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 平成26年度税制改正 平成26年3月31日の官報(特別号外第6号)において、「地方税法等の一部を改正する法律」(法律第4号)及び「所得税法等の一部を改正する法律」(法律第10号)などが公布されている。 上記に伴い、平成26年3月31日付で、企業会計基準委員会は、「第284回企業会計基準委員会議事概要(平成26年度税制改正に伴う会計処理の周知を含む)」をホームページに掲載している。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 税制改正に伴う税効果会計 企業会計基準委員会は、前述の議事概要において、「税制改正への対応について」と題して、平成26年度地方税制改正に伴う税効果会計について、周知を図るために、議事に残すこととしたと述べている。 以下において、議事概要に添付されているPDFに従って、その概要を述べることとする。 1 法定実効税率の算出式 地方税制の改正により「地方法人税」が創設された。 これに伴い、平成26年10月1日以後開始する事業年度から適用される法定実効税率の算出式は、以下のとおりとなる。 今回の地方税制改正においては、住民税率(標準税率及び制限税率)の引下げ幅と創設される地方法人税率が一致しているため、上記の算出式に基づいても、算出される法定実効税率には原則として影響がないと考えられると述べられている。 2 地方法人税法及び地方税法等の一部を改正する法律の公布日と各地方自治体の改正条例の公布日の属する事業年度が異なる場合 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号)は、税効果会計で適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率によるものとしている。 (1) 論点 地方法人税法及び地方税法等の一部を改正する法律(以下「地方税法等改正法」という)は平成26年3月31日に公布されたが、各地方自治体の改正条例が平成26年3月末まで公布されない場合、平成26年3月末決算において、平成26年10月1日以後開始する事業年度以降に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算にあたり、法定実効税率の算出上、住民税及び事業税について改正前、改正後いずれの税率を使用するかが論点となる。 (2) 結論 今回の地方税制の改正は、地域間の税源の偏在性を是正することを趣旨とするものであり、地方税と国税を合わせた税負担は変わらないことから、原則として法定実効税率に変更はないこととされる。 このため、地方自治体の改正条例が平成26年3月末までに公布されない場合でも、平成26年10月1日以後開始される事業年度以降に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の金額の計算に適用する法定実効税率は以下のとおりとなると考えられる。 なお、法定実効税率には、平成26年3月31日に廃止することが公布された復興特別法人税の影響を反映する。 3 連結納税制度を適用した場合における税効果会計 連結納税制度を適用している場合、地方法人税の課税標準である基準法人税額は、連結事業年度の連結所得の金額から計算した法人税の額を基準とすることとされているため、地方法人税に係る繰延税金資産の回収可能性の判断は法人税と同様に、連結納税主体を一体として判断することになると述べられている。 連結納税会社ごとに回収可能性の判断を行う住民税に係る繰延税金資産と異なり、地方法人税に係る繰延税金資産は法人税と同様に連結所得に基づいて回収可能性を判断することになるため、今回の地方税制の改正は、平成26年10月1日以後開始される事業年度以降に回収すると見込まれる繰延税金資産の金額に影響を与える場合がある。 企業会計基準委員会では、「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」(実務対応報告第5号)及び「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」(実務対応報告第7号)について、地方法人税法及び地方税法等改正法の施行日(平成26年10月1日)までに、平成26年10月1日以後開始する事業年度に係る地方法人税の繰延税金資産の回収可能性の判断について、法人税と同様の具体的手順を記載することなどについて、改正の検討を行う予定であると述べている。 (了)
《速報解説》 「所得税法等の一部を改正する法律」(法律第10号)等の 公布(平成26年3月31日)について Profession Journal編集部 国会での審議が3/20のスピード可決となった平成26年度税制改正法である「所得税法等の一部を改正する法律」(法律第10号)及び関連する政省令等が、平成26年3月31日付けの「官報(特別号外第6号)」において公布された(特別号外第6号は当日遅れての公表となった)。 今回の税制改正では、設備投資への減税措置である「生産性向上設備投資促進税制」や交際費課税制度の見直し等、景気刺激策が織り込まれている一方で、給与所得控除の上限引下げや簡易課税制度のみなし仕入率の見直し等、企業実務に影響を及ぼす改正事項も含まれており、施行期日についてしっかり確認しておきたい。 また、地方法人課税の偏在是正を目的とした「地方法人税」(国税)の創設に伴い、関連する法令(地方法人税法、地方法人税法施行令、地方法人税法施行規則)が新たに公布された点にも留意したい。 なお、今回公布された法令等のうち主要なものを抜粋・再構成すると下記のとおりであり、今回の改正事項に含まれている税理士法の改正についても、政省令がそれぞれ公布されている。 (了)
《速報解説》 経団連モデルの改正(償却累計率の削除)について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 経団連モデルの改正 平成26年3月26日、金融庁は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等を公表しており、いわゆる単体開示の簡素化に関する財務諸表等規則の改正が確定している(詳しくはこちらの拙稿参照)。 これにより、特例財務諸表提出会社(改正後財務諸表等規則1条の2)の個別財務諸表の開示については、いわゆる経団連モデル(「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」)と同様の開示とすることが可能となった。 この際、「有形固定資産等明細表(様式第11号の2)」については、経団連モデルの「有形固定資産及び無形固定資産の明細」の記載例との間で、償却累計率の取扱いについて差異があった。 今回の経団連モデルの改正は、上記記載例について償却累計率の欄を削除するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 償却累計率の欄の削除 経団連モデルについては、「退職給付に関する会計基準」の公表等を踏まえ、平成25年12月27日に改訂されている。 前述のように、今回の経団連モデルの改正は、「有形固定資産及び無形固定資産の明細」の記載例の償却累計率の欄を削除するものである。 この改正により経団連モデルとの差異がなくなり、特例財務諸表提出会社の「有形固定資産等明細表(様式第11号の2)」と同様の取扱いになるものと考えられる。 経団連のホームページでは特段のアナウンスはなされていないが、平成25年12月27日付で改正された「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」では、すでに償却累計率の欄が削除されているので、取扱いに注意が必要である。 改正後の経団連モデルの「有形固定資産及び無形固定資産の明細」の記載例は次のとおりである(記載上の注意は省略した)。 (了)
《速報解説》 企業結合関係に関する連結財務諸表規則等の改正(確定)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年3月28日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等を公表した。 平成25年9月13日に改正された「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)等を踏まえたものである。 これにより、平成25年11月18日の公開草案が確定することになる。 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令、関連するガイドラインなど広範囲な改正が行われている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 連結財務諸表規則関係 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則について、主に次の事項の改正が行われている。 連結株主資本等変動計算書の「記載上の注意」において、次の規定が設けられている。 今回の改正に際して、金融庁は「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」を公表している。 上記の改正について、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(平成24年改正)の適用初年度の期首の取扱いとの関係についてコメントが寄せられており、次のように述べられている。 ※EDINETよくある質問《6のQ9》参照。 2 適用時期等 基本的に、平成27年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表などについて適用されるが、適用関係が複雑になっているので、実際の適用に際しては経過措置を確認していただきたい。 (了)
《速報解説》 単体開示の簡素化に関する 財務諸表等規則等の改正(確定)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年3月26日、金融庁は「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等を公表した。 今回の改正は、企業会計審議会の「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(平成25年6月20日掲載)を踏まえ、単体開示の簡素化を図るためのものである。 改正の趣旨については、「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(以下「コメント対応」という)が公表されている。 本稿では、主として、財務諸表等規則の改正及び企業内容等の開示に関する内閣府令の改正について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 財務諸表等規則に関する主な改正事項 財務諸表等規則等の改正確定版では、公開草案から修正されている部分があるので、コメント対応とともにお読みいただきたい。 1 特例財務諸表提出会社の新設 (1) 財務諸表等規則の規定 「特例財務諸表提出会社」として、次の規定が新設されている。 これにより、特例財務諸表提出会社の個別財務諸表の開示については、いわゆる経団連モデル(「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」)と同様の開示とすることが可能となり、貸借対照表や損益計算書の様式、重要な会計方針の注記、関係会社に対する資産の注記及び関係会社に対する負債の注記などについて、会社計算規則と同様の注記とすることが可能となる。 (2) 関連するコメント対応 コメント対応では、次のことが述べられている。 2 連結財務諸表を作成している会社の個別財務諸表の開示の簡素化 従来から、連結財務諸表を作成している会社については、個別財務諸表における記載を要しない規定があった。 確定版では、リース取引に関する注記、資産除去債務に関する注記、研究開発費の注記、減損損失の注記など多くの項目について、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとの規定が設けられている。 コメント対応では、1株当たり情報については、連結財務諸表を作成している場合には注記を要しないが(財規68条の4、95条の5の2)、主要な経営指標等の推移への記載は引き続き必要となると述べられている(コメント対応No.15)。 3 規定の削除等 製造原価明細書の添付について、上記③のように改正した趣旨について、多角的に事業展開する会社が多くなってきている現在、複数の事業に関する原価の発生を合算して1つの明細書で開示しても、投資情報としての有用性は低いと考えられることが述べられている(コメント対応No.16)。 そして、例えば、単一事業の場合には、投資情報として製造原価明細書の有用性は低下していないと考えられることから、セグメント情報を開示していない会社については、引き続き製造原価明細書の添付を求めることとしていると述べられている(コメント対応No.16)。 また、売上原価明細書については、製造原価明細書と異なり、「投資情報としての有用性が低下している」等の特段の指摘があるわけではないとのことから、「当面の方針」に示された考え方に則り、改正を行っていない(コメント対応No.21)。 4 重要性基準の緩和 ③の改正は公開草案ではなかったが、コメントを受けて、確定版において改正したものである(コメント対応No.12)。 5 様式関係 前述のとおり、財務諸表等規則127条では、特例財務諸表提出会社が作成する財務諸表の様式を規定している。 確定版では、財務諸表等規則127条1項1号から第3号までの様式における記載上の注意において、次の規定が設けられている(下記は「貸借対照表:様式第5号の2」)。 これは次のコメントに対応する改正である(コメント対応No.23)。 6 別記事業 コメント対応No.28では、別記事業について、次のように述べられている。 Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の主な改正事項 1 配当政策 「配当政策」において、会社法以外の法律の規定又は契約により、剰余金の配当について制限を受けている場合には、その旨及びその内容を注記するとの規定を設けている(第二号様式 記載上の注意(54)d、第三号様式 記載上の注意(34)c)。 2 特例財務諸表提出会社の記載 財務諸表等規則1条の2に規定する特例財務諸表提出会社が、財務諸表等規則127条の規定により財務諸表を作成している場合には、その旨を記載する(第二号様式 記載上の注意(59)i)。 3 合併により消滅した会社の財務諸表 従来、合併により消滅した会社の財務諸表の記載が求められていたが、当該規定を削除している(第二号様式 記載上の注意(67)e、第三号様式 記載上の注意(47)e、第三号の二様式 記載上の注意(27)d)。 4 製造原価明細書の記載 最近2事業年度の製造原価又は売上原価について、製造原価明細書又は売上原価明細書を掲げて比較し、原価の構成比を示し、かつ、会社の採用している原価計算の方法を説明するとの規定は従来と同様である。 ただし、連結財務諸表において、連結財務諸表規則15条の2第1項に規定するセグメント情報を注記している場合にあっては、製造原価明細書を掲げることを要しないとの規定が設けられている(第二号様式 記載上の注意(69)b)。 5 主な資産及び負債の内容 貸借対照表のうち最近事業年度のものについて、科目の内容又は内訳をおおむねそれぞれに掲げるところに従い記載するとの規定は従来と同様である。 ただし、連結財務諸表を作成している場合又は附属明細表に掲げた科目については、記載を省略することができると改正されている(第二号様式 記載上の注意(73))。 Ⅳ 適用時期等 平成26年3月31日以後に終了する事業年度等に関する財務諸表等について適用する。 (了)
2014年3月27日(木)AM10:30、Profession Journal No.62 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
弁護士の必要経費訴訟からみた 「個人事業者における必要経費」の判定をめぐる考察 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【現行規定の確認】 はじめに、必要経費に関連する所得税法の規定を確認しておきたい。 これをまとめると、必要経費となるのは、 であり、②の「その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって、これまでも多くの訴訟が提起されてきた。 過去の判決では、本件第1審判決同様、「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として、法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に、必要経費であるとの納税者の主張を否定してきた。 学説としても、金子宏名誉教授が論じられた、「ある支出が必要経費として控除されうるためには、それが事業所得と直接の関連をもち、事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第18版)』264ページ)というのが一般的な理解であった。 しかし、引用した所得税法からもわかるように、業務との「直接」関連性については、法律上の明文規定はなく、そこを明らかにしたのが本件控訴審判決であった。 必要経費から除外される支出として、個人課税に特有の費用がもうひとつある。 家事費及び家事関連費である。 こちらも所得税法の規定を確認しておきたい。 「家事費とは何か」という規定はないが、一般的には、個人の営む事業とは関連性のない、生活するために必要な支出を意味して使われており、これは必要経費には算入されない。 一方の家事関連費は、家事費と必要経費の双方の性質を持っている支出であり、以下の場合には、業務遂行上必要である部分は、必要経費に算入される。 士業をはじめ、個人事業者が支出した飲食を伴う費用については、「① 必要経費の該当性」、「② 家事費又は家事関連費の該当性」という2つの側面が、課税実務上問題とされてきた、というのが本稿における論考の前提である。 本件では、弁護士である納税者が、弁護士会の役員として行う会務活動に伴う支出が、事業所得の計算上必要経費になるかどうかが争われた。 第1審の東京地裁判決は、国(処分行政庁)の主張を全面的に認めたのに対し、控訴審である東京高等裁判所は第1審判決を覆して、納税者の主張を大幅に認めた判決を出し、国は最高裁判所に対して上告受理を申立て、最終的には、最高裁がこれを棄却するという形で決着を見たものである。 あらためて、本件の争点及び国側の上告申立て理由を確認する。 【本件の争点】 東京高裁判決は、第1審(東京地裁判決)が、 「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要であること」 とした部分をことごとく 「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」 と書き改めたうえで、国側の主張を、 として退けている。 これに対して、国(課税庁)は、上告受理申立て理由書で反論を試みたが、最高裁によって不受理決定がされ、高裁判決が確定した。その詳細は、拙稿「租税争訟レポート【第1回】(高裁判決)」及び「同【第16回】(上告受理申立事件不受理決定)」を参照されたい。 【高裁判決に見る必要経費該当性の個別検証】 以下では、控訴審判決の事実認定に基づき、必要経費算入が認められた支出の内容を個別に検証したい。 必要経費となるかどうかが争われた支出は全部で68件、金額は2,509,434円であった。 1 必要経費算入を認めた懇親会等の参加費用 判決は、まず、弁護士会の活動について、 と認定した。 そして、弁護士である個人と弁護士会の役員は別人格であることから、個人の必要経費とは認めなかった役員として支出する費用について、これまでの課税実務を否定し、 として、具体的には、次に掲げる懇親会等の参加費用を必要経費として認めた。 判決は、弁護士会等の役員等が、これらのいわば公式行事の開催に関連して行われる懇親会等に出席する場合であれば、「その費用の額が過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である」とした。 判決により必要経費として認められた懇親会費は、5,000円から24,000円の範囲内であった(二次会費用と合算で計上されているものを除く。以下同じ)。 判決は、弁護士会等の役員等が、これらの懇親会等に出席することは、「会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものである」と認め、「特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するもの」であると同時に、「その費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解するのが相当である」とした。 判決により必要経費として認められた懇親会費は、5,000円から34,100円の範囲内であった。 2 必要経費算入を認めなかった懇親会等の参加費用 具体的には、新年会、忘年会、執行部会後の懇親会、執行部の打ち上げ等に要した費用がこれに該当する。金額としては5,000円から230,000円を超えるものも含まれていた。 これらの各支出について、判決は、 として、必要経費に該当する要件を満たしていないとした。 懇親会等後に開催された二次会に出席した費用について、判決は、 ことから、二次会費用に相当する部分の金額については、すべて、必要経費とは認めなかった。 3 仙台弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用 判決は、「いずれかの弁護士が弁護士会等の役員に選任されない限り、弁護士会等が機能しないことは明らかである」ことから、「弁護士が弁護士会等の役員に立候補した際の活動に要した費用のうち、立候補するために不可欠な費用であれば、その弁護士の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当する」こととして、必要経費算入を認め、これに該当しない費用とを、以下のように峻別した 日弁連副会長候補者選挙規程第10条第1項に基づく納付金100,000円については、日弁連副会長に立候補するために、日弁連副会長候補者選挙規定に基づく費用を支出したというものであり、立候補するために不可欠な費用であると認めることができるので、控訴人の事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な支出に該当する。 上記(1)以外の「同期新年会18,150円」、「日弁連副会長選挙対策費用769,385円」及び「日弁連副会長立候補写真撮影料55,965円」の支出については、 と判断した。 4 その他の支出 判決は、以下の支出については、「弁護士会等の役員等として支出したものではない」こと及び「個人的な知己との交際や旧交を温めるといった側面を含む」ことから、「仮に弁護士としての業務の遂行上必要な部分が含まれていたとしても、その部分を明らかに区分することができると認めるに足りる証拠はない」として、必要経費に該当するとは認めなかった。 5 判決に対する考察 判決は、弁護士会の公式行事に伴う懇親会、会議体に出席した後の懇親会を必要経費の対象とする一方、忘年会・新年会等の参加費用を必要経費と認めなかった理由として、「公式行事、社会一般でも行われている行事に相当するもの」ではなく、かつ、「その費用の額も過大である」としている。 個別の支出内容・態様について検証する姿勢には賛成するし、参加者全員の飲食費用を支出するなど、必要経費として相応しくない過大な支出を否認したことは当然かとも考えるが、公式行事でないという理由だけで、会費が過大でない懇親会参加費用や新年会費、忘年会費までも含めて否認することには、反論の余地があるかもしれない。 二次会費用について、判決は、 「懇親会等に出席すれば、社会通念上、弁護士会等の役員等の業務遂行上の必要性は満たしたもの」であり、「個人的な知己との交際や旧交を温める」ための支出であり、「仮に業務の遂行上必要な部分が含まれていたとしても、その部分を明らかに区分することが」できないとして、一律、必要経費に算入できない旨を説明している。 つまり、所得税法37条1項の要件を満たしていないとしたうえで、さらに施行令96条に規定する家事関連費であるとしても、業務上の費用と家事費を区分することはできないことに言及し、これを必要経費としては認めなかった。 しかし、二次会参加費用を一律に必要経費として認めなかったことは、一次会に参加する費用について、それぞれの支出を個別に検討して必要経費算入の是非を判断したこととの比較において、いささか荒っぽい判断ではないだろうか。二次会が行われた場所、参加したメンバー、支出された金員などを個別に斟酌して、必要経費算入の是非を判断すべきであったと考える。 弁護士会等の役員へ立候補するための支出に関しては、選挙規程に基づく納付金だけを必要経費として認め、選挙対策費用、選挙のための写真撮影費用は必要経費とは認めなかった。撮影された写真を選挙活動以外にも使用したとすれば(例えば事務所のホームページに掲載するなど)、業務との関連性を主張できた可能性もあるが、概ね妥当な判断であろう。 日弁連事務次長の父親逝去に伴う香典を否認しているが、確かに業務との関連性のみを追求すれば、こうした判断に帰結するかもしれないが、「特定の集団の円滑な運営に資する」とか「社会一般に行われている」といった面を考えれば、社会通念上、弁護士業務にまったく関連しないとはいえないのではないか。 一方、二次会へのカンパや事務員会への寄附金については、事業との関連性が乏しく、また家事関連費との区分が不可能であるとする高裁判決を支持したい。 【本件判決の影響】 本件判決を受けて、筆者は、国税庁は士業の必要経費に関するこれまでの課税実務を変更する必要性から、個別通達を発遣すべきであると考えていたが、国税庁は、本件判決はあくまで事例判断であり、「事業所得の金額の計算上必要経費に算入される支出の取扱いが変更されるものではない 」という見解(※)を出している。 (※) 「週刊税務通信」(No.3297(平成26年2月3日)5ページ) そこで、本件判決が、他の士業団体の役員、強制加入が条件となっていない同業者団体の役員などの必要経費の判断にどのような影響を与えるのかを考察して、本稿のまとめとしたい。 1 他の士業団体役員への適用 本件判決は、強制加入を条件づけられている弁護士会等の活動が、弁護士の業務に密接に関係していることを認めたものであることから、他の士業団体の役員が会務に伴って支出する費用についても、本件判決同様、個別の支出内容、懇親会の態様、支出された金額の多寡などに従って、必要経費算入の可否が判断されることになろう。 具体的な判断については、本件高裁の判示が大いに参考となるところだが、従来の課税実務であった「士業団体役員と個人は別人格であるから、士業団体役員として支出した費用はその個人の必要経費とは認めない」といった一律の取扱いは改められ、個別に判断されることになることは間違いない。 2 同業者団体役員への適用 士業団体ではない、一般の同業者団体の役員がその会務に付随して発生する支出については、本件判決の枠組である「会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことで成り立っている」といった個別的事情が認められるかどうかは、同業者団体の運営方法などによって判断されることになるだろうが、こうした組織の活動が、個人の事業所得を生ずべき業務と関係がないとは言えない以上、必要経費かどうかの判断は、業務との関係性を軸に判断されることになるのは間違いないところである。 3 更正の請求の可否について 筆者の実感からすると、本件判決は、士業団体の役員自身が、会務に関連して支出する費用を必要経費に算入するかどうかの判断基準とさほど乖離はないものと思われる。これまでも、会務後の懇親会等の参加費用については、役員としての業務遂行上必要な支出であれば、必要経費に該当すると判断して申告が行われてきたのではないかと考える。 一方、自身が必要経費にすることが妥当であると判断していた範囲が、本件判決によって拡大したと判断するのであれば、今後の事業所得を計算するうえで、本件判決は大いに参考となるであろう。 ただし、本件判決を自身の申告における必要経費と比べた結果、必要経費の計上に洩れがあったことを理由に更正の請求を行った場合に、更正の請求が認められる余地は少ないのではないかと思料する。 本件判決でも、課税庁は一貫して「事業との直接関係性」と「事業遂行上の必要性」を必要経費の条件としており、弁護士会の役員として支出した費用は、これらの要件を満たさないから、必要経費には当たらないという主張にはまったく変化がない。 である以上、本件判決と同様の効果を得るためには、異議申立て、審査請求を経て、税務訴訟によることが求められよう。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例12(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 税理士は、相続税対策のため、依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案した。その際、みなし配当所得の計算の基礎となる「資本金等の額」の解釈を誤り、利益剰余金をも含めたところの「株主資本」の金額に基づいて1株当たりの資本金等の額を過大に計算してしまった。 そのため、配当所得が過少で、譲渡所得が過大なシミュレーションで説明を行ってしまった。 この誤ったシミュレーションにより、依頼者は同族法人への株式売却を決断し実行した。しかし、税務調査により、上記誤りを指摘され、結果として源泉所得税の追加納付を余儀なくされ、トータルでの税負担が当初のシミュレーションの金額より過大となってしまった。 依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した所得税及び住民税相当額7,000万円につき賠償を求めてきた。 《賠償請求の経緯》 税理士は発行法人の顧問税理士であった。 税理士が相続税対策のため依頼者の所有する同族法人株式を発行法人に売却することを提案。 みなし配当の計算を誤り、株式の譲渡所得を分離課税で過大に申告。 税務調査による指摘により、発行法人への株式売却に係る所得税について、分離課税で申告した株式の譲渡所得が総合課税のみなし配当所得に是正されたため、所得税及び住民税の合計で7,000万円が追徴課税された。 《基礎知識》 ◆みなし配当(法法24①、法令23①四) 同族法人の株主がその法人の自己株式の取得により金銭の交付を受けた場合において、その金銭の額が資本金等の額を超えるときは、その超える部分の金額は、剰余金の配当とみなされ、みなし配当として課税される。 ◆譲渡損益(法法61の2①) 交付金銭の額からみなし配当を控除した残額が譲渡原価より大きい場合には、譲渡所得として課税される。 〈自己株式買取り時の課税関係〉 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者は正しい税額の説明を受けていれば売却は行わなかったとして、更正処分により増加した税額につき賠償を求めてきた。しかし、相続税対策の観点から考えれば、当初の目的は達成している。 したがって、税理士に責任はあるが、税賠保険の観点からは、更正処分による増加税額は「本来納付すべき本税」であり、損害額とはいえないため、対象にはならない。 《予防策》 [ポイント①] シミュレーションは慎重に 当初のシミュレーションが依頼者の意思決定につながるような場合には、シミュレーションの数字が判断のポイントとなるため、慎重に作成する必要がある。 特に、本事例のように税理士サイドから提案するような場合には、単独では行わず、複数人でチームを組んで対応するのが望ましい。 [ポイント②] 契約書を作成する 相続対策の場合、長年にわたって行われることが多い。このような場合には関与時点で契約書を交わして、受任業務の内容、具体的な成果物、それに対する報酬、責任の範囲などを明確化しておくべきである。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第18回】 「被相続人の各種債務に関する取扱いと留意点」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 前回までは相続財産について見てきたが、今回は相続の対象となる「債務」について検討を行う。 なお、法律的には葬式費用は相続の対象となる債務ではないが、相続税の計算上、相続財産から控除できる対象であり(相続税法13条)、まとめて説明することとする。 〔被相続人の債務の取扱い〕 被相続人の債務は、原則として相続の対象となる。 相続税の課税価格の計算上、債務控除としてマイナスするものは、被相続人の債務で相続開始の際に現に存するもの(公租公課を含む)、被相続人に係る葬式費用、とされている(相続税法13条)。 〔債務控除の対象となる債務〕 債務控除の対象となる債務としては、未払所得税・住民税、未払固定資産税・都市計画税、未払医療費、住宅ローン等借入金、預かり敷金(賃貸不動産を所有している場合)などがある。 以下、個別に解説する。 〔未払所得税・住民税〕 被相続人の所得税について申告が必要な場合、他界後4ヶ月以内に準確定申告を行う必要がある(所得税法125条)(*1)。 この結果、所得税の納税が発生するときは、その未払所得税は、相続税の計算上、債務控除の対象となる(所得税が還付となる場合は、未収金として相続財産に含まれることとなる)。また、他界した年の住民税に関して未払いがあれば、債務控除の対象となる。 〔未払固定資産税・都市計画税〕 被相続人の所有していた不動産につき、固定資産税・都市計画税が未払いとなっている場合には、それらは債務控除の対象となる。 固定資産税・都市計画税は1月1日現在における所有者に対して課税されるが、固定資産税・都市計画税の納税通知書が送付されてくるのは、5月から6月となる。1月1日から納税通知書が送付されてくる前までは、全額が未払いとなっているため、それらは未払固定資産税・都市計画税として債務控除となる(*2)。納税通知書が送付された後に他界している場合、未納となっている固定資産税・都市計画税が、債務控除の対象となる。 また、自動車税(4月1日現在の所有者に対して5月末までに納付)、償却資産税(1月1日の所有者に対して、5~6月に納税通知書が送付される。通常、納期は4回(4期分は翌年2月))についても、同様である。 〔未払医療費〕 被相続人が他界する前に入院していた場合、他界日において医療費が未払いとなっていることが多い(*3)。 この場合には、他界日の翌日以後に支払ったものについて、未払医療費として債務控除の対象となる。 〔住宅ローン等借入金〕 被相続人の住宅ローン等借入金については、他界日現在における債務の金額が債務控除の対象となる。 ただし、住宅ローンの場合には、団体信用生命保険に加入しており、住宅ローンの残債が債務免除されることがあるが、この場合には、他界日における住宅ローン残高は債務控除の対象とはならない。また、団体信用生命保険から支払われる死亡保険金の受取人は債権者であるため、その死亡保険金も相続税の対象とならない(国税庁(文書回答事例)「団体信用生命保険に係る課税上の取扱いについて」)(*4)。 高齢の方が他界したケースでは、住宅ローンは完済していることが多いと思われるため、住宅ローン残高があるケースは多くないと考えられるが、住宅ローン残高がある相続税案件の場合には、団体信用生命保険の取扱いについて留意が必要である。 〔預かり敷金〕 被相続人が賃貸不動産を所有していた場合、敷金・保証金を預かっていることが通常であり、この預かり敷金・保証金は法律上、返還義務があるものであるため、債務控除の対象となる。 なお、店舗など非居住用家屋を賃貸している場合、預かり敷金・保証金のうち一部について、時間の経過とともに償却され返還義務がなくなる契約となっているものがあるが、その場合には、他界日において契約上返還義務がある金額が、債務控除の対象となる。 〔墓地・仏具の購入についての未払金〕 なお、他界日において未払いとなっている金額については、基本的には債務控除の対象となるが、墓地・仏具を他界直前に購入し、他界日において未払いとなっている場合には、それらの未払金は債務控除とならないことに留意する必要がある(相続税法13条3項、相続税基本通達13-6)。 これは、墓地・仏具は非課税財産として相続税の対象となっていないため、それに対応する債務も債務控除の対象から除くという趣旨であると考えられる。 〔会社経営者の連帯債務・保証債務〕 また、会社経営者などの場合には、連帯債務、保証債務が問題となる可能性があるため(相続税基本通達14-3)、会社経営者など事業をされていた方の相続税案件の場合には、この点についても特に留意が必要である。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第13回】 「会社設立と税務」 -税務署等への届出書類- 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 税務署への届出書類 設立の登記が完了した後、税務署、市町村役場、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督局、公共職業安定所へ各種書類を提出する必要があります。 (1) 税務署(法人税関係) 法人税法では、一定の帳簿書類を備え付け、日々の取引を正確に記帳し、納税地の所轄税務署長に青色申告の承認申請をして、その承認を受けた場合は、所得計算上一定の特典を受けられる「青色申告制度」を設けています。 (2) 税務署(所得税関係) (3) 税務署(消費税関係) 新規に設立した法人は、設立第1期目及び第2期目について基準期間(当事業年度の前々事業年度)がありませんので、原則として、消費税の免税事業者となります。 ただし、会社設立時の資本金の額が1,000万円以上である新設法人と平成26年4月1日以後に設立される特定新規設立法人(※)は、基準期間のない課税期間(設立第1期目及び第2期目)についても消費税の納税義務の免除規定の適用はありませんので、設立第1期目から課税事業者となります。 また、設立第3期目以降は、基準期間の課税売上高が1,000万円超である場合に課税事業者となります。なお、平成25年1月1日以後に開始する事業年度については、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(法人の場合、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。 免税事業者の場合、顧客等から支払いを受けた消費税(仮受消費税)を納税する義務はありませんが、仕入先等に支払った消費税が仮受消費税を上回る場合には消費税の還付を受けられませんので注意が必要です。 免税事業者となる事業年度において、消費税の還付が予想される場合には、課税事業者を選択する課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、課税事業者となる必要があります。 ただし、いったん課税事業者を選択すると、最低2年間は課税事業者を継続しなければならないので注意が必要です。 2 市町村役場と都道府県税事務所 市町村役場と都道府県税事務所へも、次のような届出をする必要があります。 なお、東京都23区内に法人を設立する場合は、所管の都税事務所へ提出するだけで足り、区役所へ届出する必要はありません。 3 その他の届出 年金事務所へは、健康保険・厚生年金保険新規適用届等の届出等の書類を、労働基準監督局へは、①労働保険の保険関係成立届、②就業規則、③適用事業報告等の書類を、公共職業安定所(ハローワーク)へは、①雇用保険適用事業所設置届、②雇用保険被保険者資格取得届の書類を提出する必要があります。 (了)