「消費税の取扱事項」に関する 法人間契約の注意点と対応策 【第1回】 「税率変更に伴う保守サービス等契約書作成・修正に関する留意点」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 保守サービスなど継続的役務の提供契約については、「その仕事の目的物の引渡しが一括して行われるものであること」との要件を満たさないため、工事等の請負契約に基づく課税資産の譲渡に関する経過措置の適用はない(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律附則5③、消費税法施行令の一部を改正する政令(平成25年3月13日公布・政令第56号)附則4⑤)。 したがって、保守サービスなど継続的役務の提供契約に係る消費税率については、役務提供の完了時を基準に判断することとなり、契約期間が施行日である平成26年4月1日を超える場合には、保守サービス料全額について8%の消費税率が適用されることとなる。 もっとも、契約締結時において契約期間分の保守サービス料を一括受領した場合であっても、法人税の処理上、保守サービス料を月数按分し、その事業年度において経過した期間分の保守サービス料を収益計上する場合には、消費税における課税資産の譲渡等の時期についても、月数按分の上、その課税期間において経過した期間分の保守サービス料を課税売上として認識することとなる。 その結果、保守サービス料を一括受領する場合であっても、月数按分処理を前提に、契約締結時から平成26年3月31日までの期間に相当する保守サービス料については5%、平成26年4月1日以降の期間に相当する保守サービス料については8%の消費税率をそれぞれ適用した対価を受領することは可能である。 この場合、契約締結時においては、未だ8%の消費税率が適用されていないため、以下のように、差額3%相当額については、施行日以降に、別途、支払うこととされることが多いようである。 他方で、契約締結時において、以下のように、差額3%相当額を一括にて受領することも可能である。 また、保守サービス契約書において、自動更新条項が存在する場合には、例えば以下の条項とすることが考えられる。 以上は、施行日までに新たに保守サービス契約など継続的役務の提供契約を締結する場合を前提とするものであるが、すでにこのような継続的役務の提供契約が締結されている場合において、別途、施行日以降の差額3%相当額を請求する場合はどうであろうか。 その場合の通知は、例えば、以下のようなものとなる。 いったん、契約当事者間においてフィックスされた対価についても、強行法規等に反しない限り、契約当事者が任意に合意さえすれば、変更することは可能である。 その場合、以下のような合意書にて修正合意することが考えられる。 ※クリックすると別ページでPDFファイルが開きます もっとも、このような合意締結を拒否することも独占禁止法上の優越的地位の濫用行為(対価の一方的設定や値引き(独占禁止法②9五ハ))に該当しない限り、何ら法的に問題となることはない(公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法,独占禁止法及び下請法上の考え方」第1部第2の2(1)ア参照)。 また、保守サービス契約締結時(平成25年10月1日以降)において、顧客(法人事業者)が消費税率引上げ分を上乗せした対価とすることを拒否(買いたたき)していた等の事情が存在しない限り、すでに適法に合意済みの対価を維持すること、すなわちこのような合意締結を拒否しても、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法第3条1号前段(減額禁止規定)に違反するものではない。 (了)
会社を成長させる「会計力」 【第5回】 「企業に宿る会計力」 島崎 憲明 《コックピット計器盤のように》 企業が会計力を高めるには、会計業務を担当する人に限らず、企業のビジネスパーソンが会計のリテラシーを身につけることが必要である。 「英語力」と「会計力」は、ビジネスパーソンが標準装備すべき「力」である。 ビジネスの現場や経営幹部に求められる会計力は、会計データなどの経営数値を読み解き、課題を発見し、それを解決する力である。財務諸表作成のプロセスや会計基準の高度な知識が必要なのではなく、データを使いこなす力が求められる。 15年ほど前になるが、私が経理担当役員に就任した時に手にした稲盛和夫氏の『実学―経営と会計』の中に、次のような記述がある。 私はこの本を読んだ2年後に情報システム担当役員として情報システム構築の責任者になるが、新たに構築したシステム群の中で、経営情報をマネジメントに提供するシステムをGMCと名付けた。 “グローバル・マネジメント・コックピット”のアブリビエーションである。 関係担当者とネーミングについて検討した結果、GMCが最もふさわしいとなった。 これには、役員や部長がコックピットの計器のように、経営情報を活用して経営判断してほしいという思いが込められている。 経営情報をコックピット計器盤の数値のようにタイムリーに提供するシステムの構築にチャレンジした時であった。 《会計情報を活用できるビジネスパーソンの育成》 営業の現場では、どのような会計情報を活用して日々の判断を行っているのであろうか。 営業活動、すなわち、商品売買、資産購入、債権回収、債務支払い、経費支払い、投資などの取引一つ一つが、“簿記のルール”に基づいて記録される。 取引の「数値化」、「見える化」である。 ただし、管理する組織の規模が10人、50人、100人と大きくなるに伴い、フェイス・トゥ・フェイスの報告による把握に限界が出てくる。 このため、会計記録などの数値情報の活用が不可欠である。 記録された会計数値はリアルタイム、日時、週次、月次、四半期、年次というサイクルで様々に加工され、報告される。これらの中で、財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)は報告資料の総括表のようなものであり、対象となる組織の状況を全体的に捉えるには適しているが、個別の問題把握と管理のためには、例えば、次のような補助的資料が必要となる(一例である)。 「組織としての会計力」は、財務諸表や補助的な会計情報から問題を発見し、適切な処置を施すことができるビジネスパーソンがどれだけ育っているかが決め手になる。 つまり営業現場においても、会計データをきっちりと読みこなすことができるレベルの会計力が必要なのである。 最近の総合商社の社内研修では、入社5年目位までの若手に対し、かなりの時間を割いて会計関係の研修を行っている。 ビジネスや経営の判断に必要な数値情報がタイムリーに提供する仕組みが構築され、それらを使いこなす人材が育っていることが、組織の会計力強化に繋がるのである。 《仕組み作りと実行も“企業に宿る会計力”》 「組織としての会計力」における重要な要素は、以下の2点である。 【第一の要素】については上記で説明したとおりである。 【第二の要素】について説明する前に、「企業は何を目指して事業活動を行っているのか」という点について考えてみたい。 各社の経営理念や企業の活動基準などを見ると、表現の違いはあるものの「新たな価値創造」ということに共通点がみられる。 参考までに、コマツ、三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、住友商事のホームページなどから抜粋してみた。 企業は「資金調達」「事業活動」「資金の再投資・還元」という活動を通して企業価値の向上を目指す。そのために必要なことは、経営戦略・経営計画の立案と実行である。 つまり企業が持つ経営資源(ヒト、モノ、カネ)を最適配分して利益の最大化を図る仕組み作りが必要なのである。 具体的には、経営理念を踏まえた経営戦略(定性目標・定量目標)を立て、目標達成のための経営資源の配分についての枠組みを決め、それらを具体的な事業計画に落とし込んでいく仕組みである。 単年度計画や中期経営計画の着実な実行により、経営戦略(=経営目標)を実現するためには、「全社」⇔「部門」⇔「本部」⇔「部」⇔「チーム」⇔「個々人」のそれぞれのレベルにおいて、PDCAサイクルを回す経営管理システムが構築されていなければならない。 これらの仕組み作りと実行も、広い意味での“企業に宿る会計力”なのである。 * * * 次回は経営情報システムの構築について説明したい。 (了)
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第24回】 (最終回) 「病院経営者の役割」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 経営者と管理者は異なる 医療機関の経営者には、目の前の業務に視界のすべてを奪われ、視野狭窄に陥っているタイプもいる。もちろん現場が大切であり原点であるが、日常業務を円滑に進めるのは経営者ではなく、管理者としての役割を果たしているに過ぎない。 経営者と管理者は、似て非なるものである。 管理者には業務プロセスを見渡し、正しさを追求するための仕組みを構築することが求められている。医療安全への対応などはその典型例であり、適切な医療提供が行われるための仕組みづくりなどが管理の本質である。 しかし、経営とは、複数ある正解の中からの選択を意味する。経営者はいくつかある正しい答えからどれか1つを選ばなければいけない。経営事象にはたくさんの正解が存在する。 例えば、「CTを購入する」ことと「院内保育施設をつくる」という2つの選択肢があったとする。どちらも必要であり、どちらを選んでも間違いではないのであろうが、予算は限られている。その時にどちらを選択するか、それは経営者にしかできない仕事なのである。 経営者は苦渋の選択を迫られる。ただ、独断で決めただけでは真の経営者ではない。その意思決定の適切さを周囲にきちんと説明し、納得させなければいけない。 そのためには、意思決定を客観的なデータに基づき行う必要がある。しかし、客観的なデータをそろえても、どの選択肢を選ぶかという段階では、困難を伴うことも少なくない。 そこでは、ビジョンが拠り所になる。 ここが正しさを追求する管理とは異なるところである。 2 経営には階層性がある 図表1に示すように、経営には階層性がある。 図表1 経営の階層性 最下層には医療機関の多くの職員が関係している「業務」があるが、これは経営者が現場を軽んじてよいという意味ではない。医療を提供するために現場は必須であり、様々な経営上の課題解決の鍵は、現場にあることも少なくない。 しかし、経営者は現場だけを見ているのでは不十分である。現場親分型のトップマネジメントは時として魅力的であり説得力に溢れることも多いが、目先ばかりを見つめ、将来志向でないことが多い。 将来を見据えた展開をしなければ、医療機関の経営はどこかで行き詰まる。 次に「管理(マネジメント)」がくる。 マネジメントこそが経営だと信じているトップも多い。 マネジメントには、人事、購買、財務、安全管理など多様なものがあり、マネジメントは院内の各機能と密接に結び付くものである。これは、主にミドルマネジメントを中心とした取組みを行うものである。 トップマネジメントが過度にマネジメントに傾注することは、管理志向を強め、硬直的で柔軟性が失われた組織になってしまう危険性がある。 その上に「ビジョンと戦略」がくる。 ビジョンを提示し、そのビジョンを実現するための道のりである戦略を構築することは、経営者の役割である。 戦略的な経営には痛みを伴うことも少なくない。流されるだけで、あれもこれも総花的に行うことが戦略ではない。限られた資源を有効に配分する意思決定を行い、ゴールにたどり着くための道のりを力強く語らなければならない。 最上位には「政策」があり、言うまでもなく、これも経営を左右する重要な要素になる。 「新しい自分だけにしか手に入らない有益な情報」、すなわちインサイダー情報を追い求める政策優先型のトップマネジメントに時々お目にかかる。 「有利な情報をいち早く入手したい」という気持ちは当然であり、かつて情報がオープンではなかった時代には、これこそが鍵になることが少なくなかったかもしれない。 しかし、今日はインターネットも発達し、中医協等の審議会で繰り広げられる様々な情報もほぼリアルタイムに入手することができる。政策の方向性を着実にモニタリングしていればインサイダー情報に頼る必要はない。 つまり、経営者は政策動向に過敏に反応するのではなく、自らの姿勢を貫くべきである。 3 どのタイプの経営者を目指すべきか トップマネジメントには図表2に示すように、 の4タイプがあり、それぞれの要素に目を配ることが経営者として必要である。 図表2 トップマネジメントの類型 しかし、トップマネジメントにも時間や能力の制約があり、すべてを一人で成し遂げることなどできない。 そのような前提からすると、どこかに焦点を絞る必要がある。 演繹的であることは論理的で多くの関係者の納得感を醸成できる。また、硬直的でなく柔軟であれば状況の変化に機敏に対応することができる。 その意味で、経営者は、究極的には「戦略思考型」であることが求められる。 ビジョンを提示し、戦略を策定することこそが経営者の役割なのである。 しかし、適切なビジョンと戦略は、「現場」の状況を的確に把握していればこそ打ち立てられるものであり、また適切な「管理」がなければ現場は崩壊してしまう危険性もあり、戦略どころの騒ぎではなくなってしまう。さらに、「政策」動向を見据えなければ将来の方向性を決めることはできない。 そうは言っても、すべてを経営者自らが手がける必要は必ずしもない。 信頼できるブレーンを院内に育てればよいのである。 そのためには、人材育成のための投資と権限移譲を図る必要がある。 4 業務効率の向上では「持続的な成長」はできない 医療機関のトップマネジメントは、業務効率の向上を図り、改善に注力することこそが経営であると捉えていることが多い。もちろん無駄は避けるべきであるし、管理的な視点から業務プロセスに介入することが必要な場面も多い。 しかし、改善の延長線上に成長があるわけではない。改善に励むことは時として現場の疲弊を招き、将来の成長軌道から外れてしまうことも少なくない。 持続的な成長のためには、「何をしないか」を決めることが必要である。 その際には自院の状況を客観的に把握して、他院との差別化を意識しなければならない。 この差別化こそが、持続的な成長のエンジンとなる。 しかし、差別化のための意思決定には複数の選択肢がある。代替案に優劣を付けようとしても、それも正しいもので甲乙付けがたいものに違いない。 不確実な未来を見据え、真っ暗闇に光を照らし、皆を導くビジョンと戦略を提示すること、それこそが真の経営者の役割である。 経営は客観的なデータ分析に基づく、究極の主観的産物といえる。 (連載了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第30回】 「経費管理のKPI (その④ 仮払処理)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、経費管理を構成する複数のKPIから、「仮払処理」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 現金や小切手等の金銭の支出をしたが、具体的な取引に対応する相手勘定科目や金額が確定できない場合、仮払金として処理するが、このような仮払処理は、精算されるまで勘定科目が定まらない状態が続くため、適正に管理をしなければ、財務諸表の信頼性を損なうだけでなく、使途不明金が放置されることになり不正の温床になりかねない。 そこで、今回は、経理財務部門がそのような仮払金を処理する業務プロセスのサービスレベルを評価するKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、経費管理において、会社が担う一般的な機能を、「年度予算管理」と「日常管理」に分けている。 このうち、「日常管理」を構成する機能は、「通常経費処理」、「仮払決済」、「差額決済」である。 今回解説するKPIは、「日常管理」における「仮払決済」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:経費管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「仮払決済」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:7.4.1使用内容精査〉 〈経済産業省スタンダード:7.4.2振替計上〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) まず、主管部門が必要とする仮払金額とその使途を明記した申請を行い、承認を経て、現金や小切手等の金銭の支出をする。この金銭の支出後、いったん相手勘定科目を仮払金勘定で起票する。主管部門が取引先から領収証等の証憑を受領した後、勘定科目、取引日、取引金額、取引先等を明記した振替伝票を作成する。振替伝票の内容が承認されれば、適正な勘定科目の経費として計上される。 今回のKPIは、このような仮払処理に関連する業務プロセスを前提に、仮払状態が継続している間に潜在する諸問題に着目し、仮払勘定発生日から仮払精算完了日までの平均日数を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「仮払勘定発生日」とは、相手勘定科目や金額が未確定のまま概算で金銭の支出が発生した日をさし、仮払勘定の増加取引を記帳した日ではない。 「仮払精算完了日」とは、金銭の回収又は相手勘定科目と金額の確定に基づき仮払勘定の減少取引を記帳した日をさす。 「平均」とは、承認対象となる仮払申請の仮払勘定発生日から仮払精算完了日までの日数を合算して、それを承認対象となる仮払精算件数で割った平均値をさす。データを取る場合、前月1ヶ月のデータに基づいて記入すればよい。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、経費の勘定科目と金額を適正に表示するため、仮払勘定の精算を早期に完了することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 仮払勘定の迅速な精算の重要性を理解するには、仮払勘定がどのような態様で発生し、それぞれに対する適切な対応を整理することが有用である。 次のように、仮払勘定の発生態様は多岐にわたる。 内部統制の視点では、内部統制が機能することが期待できる類型(①、②)と内部統制が破られることを織り込むべき類型(③、④)に分けられ、ふさわしい対応が異なる。 前者は、あらかじめ整備した仮払管理規程に従い、発生時点で、取引の発生日、金額、利用者氏名を仮払管理台帳に記録し、精算時点で、証憑による使途の確認、勘定科目と金額の確定に基づく記帳等の予防的管理で対応する。 後者は、規程が想定する射程外で発生する可能性が高いため、定期的な現預金照合や仮払勘定残高の確認等の発見的管理の要請が強い。逆に、だからこそ、仮払金を発見した場合には、早期の精算が重要となってくる。 いずれにしても、これらの態様で発生する仮払勘定の早期精算の重要性は変わらない。 このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、仮払勘定の精算までの日数が長い会社では、次のような問題が惹起するだろう。 まず、資産性が疑わしい仮払勘定の残高が表示され、経費の期間配分が歪み、財務諸表の信頼性が低下する。 さらに、不良資産の隠蔽や利益の嵩上げを意図した粉飾、現預金の着服が隠されている可能性が高まる。 また、税務調査で役員に対する仮払金について、役員貸付金として認定されればその利息計上が問題となり、役員賞与として認定されればそれにかかる源泉所得税の問題等、税務リスクが高まる。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、仮払勘定が発生してからその精算までの業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 それを前提に、例えば、一定期間の出納帳、仮払管理台帳、精算伝票を試査により閲覧し、仮払金支払日から振替記帳日までの平均日数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、仮払勘定発生日から仮払精算完了日までの平均日数は何日になっただろうか。 * * * 次回も、引き続き「経費管理」を構成する複数のKPIから、「概算計上」を行う会社の経費計上の正確性を評価するKPIを取り上げる。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第1回】 「これから相続案件に携わる税理士の皆さまへ」 ~相続実務に関するクライアントへの対応と心がまえ~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔皆さまへのごあいさつ〕 税理士の皆さま、こんにちは。財務コンサルタントの木山順三です。 私は長年信託銀行マンとして、若い時代は銀行の営業、中堅になり銀行の店部経営、そして50歳から現在に至るまで、コンサルタント業に携わっています。 その間、税理士、弁護士、司法書士、公証人、家庭裁判所調査官、国税調査官、マスコミ・出版関係者等々、さまざまな方との出会いがありました。 私は税理士ではありません。 したがって、これから述べさせていただく税理士の皆さまへのアドバイスは大変僭越であり、ましてや既に多くの経験をされておられる先生方にとっては失礼極まりないものと十分理解しております。 しかしながら、あえて申させていただくならば、業界内部でなく外部から見た客観的な見方も、“岡目八目”というように意外と本質をついている面もあると思います。 年齢だけはたいていの税理士の皆さまよりも勝っている私に免じて、これからの1年間、どうぞお付き合いください。 〔相続に携わる心がまえ〕 さて、皆さまは既に独立されておられたり、特定の税理士事務所で業務をなさっておられることと存じますが、この連載のはじめとして、今回は、これから相続の案件に携わろうとされておられる税理士の皆さまに、ぜひとも心がけていただきたいことについてお話したいと思います。 まずはそれらの事項を、思いつくままに述べてみましょう。 以上、アットランダムに述べてみました。 既に皆さまにおかれては十分に心得ておられることと思いますが、上記項目の中でも特に次の三項目については、老婆心ながら注力願いたいと思います。 まずは、①の「顧客指向を忘れずに」です。 ただしこれは、必ずしもクライアントの言うことを何でも「ハイ、ハイ」と聞くことではありません。 3年ほど前の日経新聞朝刊に、米銀行投資家のケン・モリス氏が言った「NOといえるバンカー」という記事が載っていました。 このことは、常に収益目標にさらされている銀行員への格言だけではないと思います。 すべての業界、なかでも信用を構築し長いお付き合いをする税理士業にも通ずるものと思われます。 〔信頼される人脈づくり〕 次に注意していただきたいのが、③の「(税理士)業界以外の人との連携と人脈づくり」です。 この項目は、私自身がコンサル業に携わってから、まさに骨身にしみて実感している事柄です。 おそらく、これから相続案件を手がけようとされる税理士の先生方は、どうすれば相続事案の情報が獲得できるかと日夜頭を悩ましておられることでしょう。 でも、世の中そんなに甘くありません。 どんな人かわからない人に、あなたは相談に行かれますか? やはり信用のおける事務所、信頼のできる方からの紹介、先輩・後輩等の情報等々、何らかの「人と人とのつながり」から生ずるものなのです。 その意味で、人を好きになりましょう! 現に私は、銀行の現役時代に国税局の査察を受け、その結果その査察官と親しくなり、彼が税理士として独立した後も現在まで交流が続いています。 〔一線を越えやすい税理士業〕 さらに、⑦の「顧客との関係は節度を保つこと」も大切です。 ある相続事案の遺言書に関するもので、私が直接関わった案件ではありませんが、知り合いの弁護士から聞いた話です。 それは、クライアントの自筆証書遺言の中に、顧問税理士への多額の遺贈文言があったというものでした。 当然のことながら、相続人からその作成に至る経緯が問われ、顧問税理士の作為により作成されたものとして自筆証書遺言の無効を主張されたようです。 最終結論まで伺ったわけではありませんので、その結果については不明ですが、税理士業とは、親しくなればなるほど一線を越えやすく、いくら魅力的な誘いをかけられても自分を律しなければならない職業なのです。 それだけに誇り高き職業なのだということを、常に自覚していてください。 〔これからのお話の前に〕 以上、紙面の関係で大雑把な感想を述べさせていただきましたが、税理士の皆さまがクライアントから心から信頼を受け、末永く本業務を続けられ、かつ、発展させられることを願っております。 次回からは、具体的な事案について述べてみたいと思います。 ただし、前もってお断りしておきますが、これからご紹介する事例は、あくまで筆者自身が経験し対応したり聞いたりしたうえで、解決(成功)または未解決(失敗)となった問題であります。 したがって、税理士の皆さまが同じ対応で、同じ結果が出るものではありません。 相続事案というものは、このようにその折の背景、相続人各自の感情、対応のタイミング等により大いに変化するものであることを申し上げておきます。 それだけに、より多くの事案を経験されることが、的確な判断力を醸成することにつながるものと考えています。 (了)
《速報解説》 「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関する ワーキング・グループ」報告書について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年12月25日、金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」から「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書が公表された。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 報告の概要 ワーキング・グループ報告は、政策面において、アーリーステージの新規・成長企業に対するリスクマネーの供給を促進するための取組みを、これまで以上に幅広く展開していくことが重要であり、また、その際には、新規・成長企業の出口戦略を多様化する等の観点から、新規上場時や上場後の資金調達の制度整備等にも引き続き努めていく必要があるとの問題意識について述べている。 そのうえで、以下の事項について検討している。 上記のほか、近年の金融資本市場の状況を踏まえたその他の制度整備も検討されている。 議論の経過に関しては、10月21日公開の「《速報解説》「新規上場に伴う負担の軽減」に関する議論について」をご覧いただきたい。 Ⅲ 新規上場に伴う負担の軽減 1 新規上場時の負担の軽減 現在、企業が新規上場を行う場合には、当該企業の募集有価証券に係る有価証券届出書を提出した上で、投資者に対して募集行為を行うことが一般的であり、新規上場時に提出する有価証券届出書には、過去5事業年度分の財務諸表の記載が必要とされている。 しかしながら、当該記載については、次の意見を踏まえ、過去2 事業年度分の財務諸表のみの記載とするよう見直すことが適当であると考えられると述べられている。 2 新規上場後の負担の軽減 現在、上場企業は、事業年度ごとに内部統制報告書の提出と当該内部統制報告書に対する公認会計士の監査が義務付けられている。 ワーキング・グループ報告では、新規上場企業であっても、内部統制報告書の提出自体を免除することは適当ではないと述べられている。 一方、内部統制報告書の監査義務については次の意見が述べられている。 そこで、新規上場企業の内部統制報告書の提出義務に係る負担を軽減するため、新規上場後、例えば3年間について、内部統制報告書に係る監査義務を免除することが適当であると考えられると述べられている。 ただし、新規上場企業であっても、その規模等に照らし、市場への影響や社会・経済的影響が大きいと考えられる企業については、内部統制が適切に機能していることを特に厳格にチェックする必要性が高いと考えられることから、こうした企業については、新規上場企業であっても、内部統制報告書に係る監査義務を免除することは適当ではないと考えられている。 (了)
《速報解説》 経団連モデルの改訂について ~会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年12月27日、一般社団法人 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」を公表した。 いわゆる経団連モデルの改訂である。 今回の改訂は、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号)の公表などに伴うものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 (連結)株主資本等変動計算書 8月21日付けで公表された「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」により、有価証券報告書における株主資本等変動計算書等については、純資産の各項目を縦に並べる様式から横に並べる様式に変更されている。 経団連モデルの[記載例]では、株主資本等変動計算書は横に並べる様式で記載されている。 会社法上、株主資本等変動計算書の様式は規定されていないため、従来どおり、縦並び形式で作成することも考えられると述べられている。 2 連結株主資本等変動計算書及び連結貸借対照表 連結貸借対照表において、「退職給付に係る負債」と「退職給付に係る調整累計額」が追加されている。 また、連結株主資本等変動計算書において、「退職給付に係る調整累計額」が追加されている。 3 退職給付引当金の計上基準(個別の計算書類) 個別の計算書類に関する退職給付引当金の計上基準(個別注記表)において、従来の「均等償却」の用語を「定額法により費用処理」と改正している。 これは「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第25号)の用語を用いたものと考えられる。 4 退職給付に係る負債の計上基準(連結計算書類) 連結計算書類の「その他連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項」(連結注記表)において、「退職給付に係る負債の計上基準」が新設されている。 従来、「引当金の計上基準」において、退職給付引当金の計上基準が記載されていたが、当該記載については削除されている。 また、「記載上の注意」に次の記載があるので、連結計算書類の作成に当たっては注意が必要と考えられる。 Ⅲ 適用時期等 「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に対応する会社計算規則の改正(平成25年5月20日法務省令第16号)については、2013(平成25)年4月1日以後に開始する事業年度に係る計算書類及び連結計算書類について適用される。 なお、「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」の適用は段階的に行われるので、計算書類及び連結計算書類の作成に際しては注意が必要と考えられる。 (了)
《速報解説》 「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する 実務上の取扱い」の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年12月25日、企業会計基準委員会は「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第30号)を公表した。 これは、従業員の福利厚生に資するために、信託を利用して自己株式を取得する取引が行われており、実務上、日本版ESOP(Employee Stock Ownership Plan)などと呼ばれることがある取引を取り扱うものである。これにより、平成25年7月2日の公開草案が確定することになる。 実務対応報告第30号は、公開草案から大きく変更されていないので、以下では、基本的に、公開草案からの変更点について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 範囲 従業員への福利厚生を目的として、①従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引及び②自社の株式を受け取ることができる権利(受給権)を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引を対象としている。 実務対応報告は、公開草案と同様に、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が、法的に有効であることを前提としていると述べている(注1)。 信託を通じて自社の株式を交付する取引には、役員に信託を通じて自社の株式を交付する取引や従業員等に信託を通じて親会社の株式を交付する取引などがあるが、実務対応報告は、公開草案において提案した本実務対応報告の対象範囲を第3項及び第4項の取引以外の取引にまで広げることは行っていない(実務対応報告26項)。 Ⅲ 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引 実務対応報告は、公開草案と同様に、個別財務諸表上、総額法で会計処理することとし、自己株式処分差額の認識時点についても、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識するとしている(実務対応報告5項、7項、8項)。 連結財務諸表上の取扱いも公開草案と同様である(実務対応報告9項、38項)。 公開草案では、自己株式取得に関する付随費用の取扱いを明示していなかったが、実務対応報告は、総額法の適用に際して、企業は信託に残存する自社の株式を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く)により株主資本において自己株式として計上するとし、信託における帳簿価額に含められていた付随費用は信託に関する諸費用に含めると規定している(実務対応報告8項(1)、35項)。 また、企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないと明示されている(実務対応報告8項(5)、37項)。 Ⅳ 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引 実務対応報告は、公開草案と同様に、個別財務諸表上、総額法で会計処理することとし、自己株式処分差額の認識時点についても、信託からの対価の払込期日に自己株式の処分を認識するとしている(実務対応報告10項、11項、14項)。 連結財務諸表上の取扱いも公開草案と同様である(実務対応報告15項、60項)。 自己株式取得に関する付随費用の取扱い及び企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引に関する相殺消去の取扱いについては、Ⅱと同様である(実務対応報告14項(1)、(2))。 Ⅴ 開示等 公開草案と同様に、取引の概要関係、1株当たり情報関係、株主資本等変動計算書関係の注記が求められている。 これらの注記に関しては、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において注記するものがあるが、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記の内容が同一となる場合には、個別財務諸表の注記は、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができるとの規定が設けられているものがある。 また、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引については、関連当事者取引の対象外であることが示されている(実務対応報告68項、69項)。 Ⅵ 適用時期等 平成 26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用できる。 実務対応報告の適用初年度の期首(実務対応報告公表後最初に終了する四半期会計期間の期首から適用した場合は当該四半期会計期間の期首)より前に締結された信託契約に係る会計処理については、実務対応報告の方法によらず、従来採用していた方法を継続することができる(一定の注記が必要)。 (了)
平素は税務・会計Web情報誌「Profession Journal(プロフェッションジャーナル)」をご愛読いただき、厚くお礼申し上げます。 Profession Journalは毎週木曜日AM10:30に解説記事を公開しておりますが、1月2日号を休刊とさせていただきます。 1月9日(木)より通常の公開となりますので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
《速報解説》 ストックオプション課税の適正化 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士 内山 隆一 平成26年12月12日、自由民主党・公明党による「平成26年度税制改正大綱」が公表され、24日に閣議決定された。 デフレ経済の脱却と経済再生に向け、税制面からも「企業の投資活動の推進」、「課税の適正化」といったところに主眼をおいた措置が講ぜられることとなっており、ストックオプション課税について、次のような課税の適正化措置が織り込まれた。 新株予約権等については、譲渡制限が付されているものも少なくないが、利便性の観点から譲渡制限を付さず、権利者からの請求によって発行法人が公正な価額で買い取る場合もあるようである。 新株予約権等は「株式又は出資」ではないので、発行法人に譲渡してもみなし配当課税(所法25)の対象とならず、株式等に係る譲渡所得等の金額として所得税15%、住民税5%の税率により課税される(措法37の10①、②一)。 一方、新株予約権等の行使による経済的利益については、その付与者と権利者との関係に応じ、原則として事業所得、給与所得、退職所得、一時所得又は雑所得として課税される(所令84、所基通23~35共-6)が、このうち租税特別措置法第29条の2に規定する税制適格要件を充足するものについては、権利行使時における経済的利益を非課税とし、その権利行使によって取得した株式を譲渡した時にその経済的利益を含めた譲渡益に対して所得税15%、住民税5%の税率により課税されることになっている(【例示1】参照)。 【例示1】 下記の条件で株式10,000株を取得し、その後譲渡した場合 《株価》 通常、株式会社の取締役、執行役又は使用人に付与された新株予約権等が前述の税制適格要件を充足しないで行使された場合には、その経済的利益は賞与となり給与所得課税されるため、その者の給与所得の金額が増加し、超過累進税率を大きく引き上げ、その年の税負担が著しく増加する懸念がある。 このような場合に、公正な価額で発行法人に新株予約権等を買い取ってもらえば同様の利益を株式等の譲渡益として得ることができ、所得税15%、住民税5%の負担に抑えることができる(【例示2】参照)。 【例示2】 【例示1】の新株予約権を1株当たり2,500円で発行法人に譲渡した場合 今回の改正は、新株予約権等について「権利行使をした場合」と「発行法人に譲渡した場合」を同様の取扱いとすることにより、課税の適正化を図ろうとするものである。 (了)