租税争訟レポート【第16回】 弁護士の必要経費(上告受理申立て不受理決定) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 弁護士を開業している納税者(相手方、控訴人、第一審原告)の所得税並びに消費税及び地方消費税の確定申告について、仙台中税務署長は、納税者が仙台弁護士会会長及び日弁連副会長としての職務に関係して支出した費用(主に会務の前後に行われた懇親会、慰労会等の支出)は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできず、また、消費税法における課税仕入にも該当しないとして、所得税及び消費税等の更正処分を行った。 納税者は、異議申立及び不服審査を経て、東京地裁に提訴。第一審では、国(処分行政庁)の主張をほぼ全面的に支持して、納税者が敗訴したが、控訴審では、納税者側の訴えを認容する判決を下した。 具体的には、弁護士が弁護士会等の役員等としての活動に要した費用であっても、弁護士会等の役員等の業務の遂行上必要な支出であったということができるのであれば、その弁護士の事業所得の一般対応の必要経費に該当するとし、個別の支出内容を検討したうえで、懇親会等の費用は特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事であり、費用の額も過大であるとはいえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったとして、必要経費算入を認めたものである。 控訴審判決を受けて、国は、上告受理申立てを行い、平成24年12月21日、上告受理申立て理由書を最高裁判所に提出するが、最高裁判所第2小法廷は、平成26年1月17日、これを受理しないと決定し、控訴審判決が確定したものである。 本稿は、控訴審判決に対する国側の上告受理申立て理由を検討することにより、事業所得における必要経費について、論考を進めることを目的とする。 【争点】 原判決は、第1審が、「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要であること」とした部分をことごとく「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」と書き改めたうえで、国側の主張を、「事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず、「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではない」として退けている。 これに対し、上告受理申立て理由書は、原判決における所得税法第37条の法令解釈の誤りを指摘している。 【上告受理申立て理由書の概要】 申立人である国が提出した上告受理申立て理由の骨子を要約する(下線は筆者による)。 【最高裁判所による不受理決定】 上記の申立て理由について、最高裁第2小法廷が下した判断は、民事訴訟法第318条(上告受理の申立て)第1項の規定により受理すべきものとは認められないとして、不受理決定を出した。 同条により受理することができる事件とは「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」であることから、控訴審の判決は、最高裁の判例とは反しないものであり、かつ、法令の解釈にも誤りはないことを認めたものである。 【今後の実務に与える影響】 本決定により、控訴審判決が確定し、同判決が事実上の判例として、士業における必要経費のあり方を判断するため根拠となると思料する。 本連載の【第1回】でも述べたように、必要経費について「事業と直接関係する」ことを繰り返し申立人側は求めているが、控訴審判決でも引用されているとおり、サラリーマン税金訴訟として知られている大島訴訟の控訴審判決(大阪高裁昭和54年11月7日)では、必要経費を、「事業を営むため、すなわち収入を終局の目的として直接あるいは間接に支出を余儀なくされたもの」と判示しており、「業務と直接関係」することは要求していない。 控訴審判決は、この点を明確にしたうえで、必要経費該当性について、「社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であった」かどうかを判断基準とし、慰労会会費、役員への立候補費用などを必要経費に該当すると判断する一方、過大な負担をした場合や2次会費用、不可欠とまではいえない費用については個別に否認しており、本決定により、あらためてその妥当性が担保されたといえるのではないだろうか。 課税庁は、上告受理申立て理由書で自らが認めているように、本決定は、「本件の個別事案にとどまらず、弁護士会はもとより、医師会、司法書士会、弁理士会等の他の士業会の会務活動に付随する支出に係る課税実務全般にも多大の影響を与える」ことを十分に理解し、ちょうど確定申告時期でもあることから、早急に個別通達を発遣するなどして、課税実務の適正化に努めるべきであろう。 (了)
提出前に確認したい 「国外財産調書制度」のポイントQ&A 【第5回】 「調書の記載漏れ・不提出・偽記載等による影響」 公認会計士・税理士 前原 啓二 Q 国外財産調書の記載の有無、不提出・偽記載等による影響を教えてください。 A (1) 過少申告加算税の軽減と加重 国外財産調書に納税者本人の国外財産を網羅的により正確に報告させる誘因となるよう、国外財産に関する所得等の申告漏れが発覚した場合に、所定の過少申告加算税又は無申告加算税の軽減(優遇措置)と加重(加罰措置)を行うこととなった。 この所定の過少申告加算税又は無申告加算税の軽減(優遇措置)と加重(加罰措置)を要約すると、次のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 過少申告加算税又は無申告加算税の特例(軽減(優遇措置)と加重(加罰措置))は、平成26年1月1日以後に提出すべき国外財産調書に記載する国外財産に係る所得税又は国外財産に対する相続税について適用される(平24改正法附則60)。 (2) 国外財産調書の不提出・偽記載等に対する罰則 国外財産調書の不提出、偽記載等に対しては、次のような罰則が規定されている。 (3) 国外財産調書の提出に関する調査に係る質問調査権 国税庁、国税局又は税務署の職員は、国外財産調書の提出に関する調査について、必要があるときは、国外財産調書を提出する義務のあるものに質問し、その者の国外財産に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件の提示若しくは提出を求めることができる(調書法7②)。また、提出された物件を留め置くことができる(調書法7③)。 この質問調査権は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならないと明記されている(調書法7⑤)。 国税庁、国税局又は税務署の職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者(調書法9三)や、国税庁、国税局又は税務署の職員からの物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件を提示し、若しくは提出した者(調書法9四)に対しては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金の規定が設けられた。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第17問】 「転勤のため家屋を娘夫婦に貸した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q 会社員Xは、5年前、転勤により大阪市内にある居住用家屋を離れ、妻と共に東京都内に移り、借家住まいをしています。 転勤は2~3年ということだったので、大阪に戻った後は再びその家屋に居住するつもりで、それまでの間は結婚したばかりの娘夫婦(生計は別)に無償で居住させていました。 ところが、会社の都合等により、大阪には戻れないこととなったので、本年4月、娘夫婦を立ち退かせた上、大阪の家屋を売却しました。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることはできない。 〈解説〉 Xは、大阪の家屋を、措法35①で規定されている法定期限内(その居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで)に譲渡していない。 また、娘夫婦はXと生計を別にしており、Xの扶養親族ではないことから、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)にも該当せず、「特例」の適用を受けることはできないこととなる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【28】 〔第5章〕法令用語 (その14) 税理士 長島 弘 10 期限や期日を示す表現 (① 「以前」と「前」、「以後」と「後」) 【前回参照】 ② 「期限」「期日」「期間」 「期日」というのは、ある法律効果の発生又は消滅が、一定の日にかかっている場合に使われることばであるのに対し、「期限」というのは、ある法律の効力の発生がいつからか、またその効力がいつまでもつのかというように、法律効果の発生又は消滅を一定の日時の到来にかからせる場合に使われる。 このように期限には、効力発生の「始期」の場合と「終期」の場合とがある。 また、期限には、法令で確定的にその日時が定められているものと、一定の該当事由をもって効力が発生する場合のように確定的には定められていないものがある(前者を「確定期限」といい、後者を「不確定期限」という)。 「期間」は、一定の時点から他の時点までの時間の長さをいう。期限との相違点は、期間には始期と終期のどちらもあるのに対し、期限についてはそのいずれしかないという点である。 では次に、この期間の計算についての税法上の決まりを見てみよう。 ③ 期間計算に関する国税通則法の定めと民法 税法においては、国税通則法第10条第1項及び第2項に「期間計算及び期限の特例」として、以下のように定められている。 もっともこの国税通則法の規定内容は、税法独自のものではない。 民法の第1編総則第6章には、以下のように規定されている。 民法第139条の規定は、即時を起算点とし時・分・秒の終了を満了点とする「自然的計算方法」を定めたものであるが、国税通則法第10条第1項は「日、月又は年をもって定める期間の計算は、次に定めるところによる。」と規定しているのであるから、税法においても「日、月又は年をもって定める期間の計算」でない場合には、理論的には、この自然的計算方法による場合もあり得る。 また、民法等による効力の発生により税法が適用される場合には、この「自然的計算方法」による法解釈が必要な場合もあるので、理解しておく必要がある。 国税通則法第10条第1項は「日、月又は年をもって定める期間の計算」を原則とするが、これは民法第140条に定める「暦法的計算法」であり(ただし民法の規定には「週」による定めが含まれている)、国税通則法第10条第1項第1号の初日不算入の原則及び期間が零時より始まる場合の初日算入の例外規定も、この民法140条に規定されている通りであり、同項第2号の「暦に従う」旨の規定は、この「暦法的計算法」をとることを明示したものである。 また、同項第3号柱書の、月又は年の始めから期間を起算しないときは応当日の前日に満了する旨の規定もまた、民法143条柱書にある通りである。そして同号但書の、最後の月にその応当日がないときはその月の末日に満了する旨の規定もまた、民法143条但書の通りである。 このように、税法における期間計算方法は、原則、民法と同じ計算方法によっている。 ④ 「・・・から・・・まで」 「AからBまで」は、起点Aと終点Bを指す法令用語で、起点も終点もともに、その基準時点を含む。もっとも「・・・から」とあっても「・・・から・・・まで」と対になっていない場合、例えば単に「・・・から1月後」などと規定されている場合における期間の計算は期間が午前零時から始まる場合を除き、上記初日不算入の原則により、初日は不算入とされる。ただし「Aから起算して」と規定されている場合は、Aが起算日となるのであるが、Aは初日算入となる。 なお、同じような意味で税法では、課税期間を明示するに当たり、「・・・自(より)・・・至(いたる)」を用いる例がある。法人税や消費税の確定申告書等では、この「自」「至」で課税期間の始点と終点を示している。 (了)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第1回】 「正当な理由による会計方針の変更」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 日本公認会計士協会は「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号)を公表し、当該実務指針を過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針の取扱いを前提とした監査人の判断の指針と位置付けている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 正当な理由を判断する際のポイント 会計方針に関しては、経営者による会計方針の選択及び適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうかが重要である(実務指針第78号8項、「監査基準の改訂に関する意見書」(平成14年1月25日、企業会計審議会)三9(1)②)。 実務指針第78号は、会計方針の変更に関する正当な理由の有無については、次の事項を総合的に勘案して判断する必要があると述べている(実務指針第78号8項)。 2 文書化について 監査人は、会社が会計方針の変更を行おうとするときには、上記の①から⑤について、会社の置かれた状況を踏まえて慎重に検討し、総合的に判断することになる。 会社としても、行おうとする会計方針の変更の正当性を主張するには、上記の①から⑤までの事項について、実際に会社が置かれている状況を踏まえて検討し、正当な理由の存在について文書化しておく必要があると考えられる。 このとき、重要なことは事実の把握であると考えられる。 会社の置かれている状況が変化しているという事実がある場合、従来採用していた会計方針では会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に示さないこととなる可能性が高いので、会計方針の変更を行わなければならないことが考えられるためである。 3 会計方針の変更の注記 正当な理由による会計方針の変更を行う場合、「会計方針の変更に関する注記」が記載される(財規8条の3、8条の3の2等)。 会社の置かれている状況が変化しているという事実を踏まえ、さらに前述の①から⑤について適切な理由がある場合には、会計方針の変更に関する注記を行う際に、非常に読みやすい文章が作成されることが多いと考えられる。 実務上、会計方針の変更に関する注記が適切に記載できるかどうかについても、正当な理由の存在に関するポイントの1つになるのではないかと考えられる。 4 会計方針変更のタイミング(変更の適時性) 実務指針78号9項では、会計方針は、原則として、事業年度を通じて首尾一貫していなければならないと規定している。このため、会計方針の変更を行う場合には、原則として、四半期決算を行う企業の第1四半期から行うことになると考えられる。 実務指針78号8項(5)では、会計方針の変更に際しての検討ポイントとして、会計方針を当該事業年度に変更することが妥当であること(変更の適時性)を規定している(上記⑤)。 実務上、例えば、上記①から④までについては適切な理由が存在するとしても、⑤の変更の適時性の存在に適切な理由がないことも考えられるので、正当な理由による会計方針の変更を行う際には、特に、変更の適時性に関して慎重に判断する必要があると考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第32回】 税効果会計① 「税効果会計の目的」 ─企業会計と税務の相違について 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ○X1年3月31日(決算日) (*1) 棚卸資産評価損30×40%=12 ○X2年3月31日(決算日) (*2) 前期計上繰延税金資産12-当期計上繰延税金資産0=12 〈会計処理の解説〉 税効果会計とは、企業会計上の利益と税務上の課税所得に相違がある場合に、この相違に係る税金費用を企業会計上で調整することで、企業会計上の利益に見合う税金費用を計上する会計処理のことをいいます。 ご質問の場合、企業会計上は費用となるが税務上は損金とはならない棚卸資産評価損が30あり、課税所得は企業会計上の税引前利益より30多くなります(図1)。 〈図1〉 ※図中の「%」は、税引前利益又は課税所得に対する法人税等及び税引後利益の割合を示しています。 法人税等は、課税所得80に対して税率である40%を乗じて32と計算されます。 企業会計上の法人税等として計上される金額は、税務上計算された法人税等32であるため、税引前利益50(100%)に対して法人税等が32(64%)計上されます。 企業会計上の税引前利益に対する法人税等の割合が64%と高い比率になり、実際の税率である40%と乖離する結果となります。 そこで、企業会計と税務の相違である棚卸資産評価損30に対して、企業会計において法定実効税率40%を乗じて算出された繰延税金資産及び法人税等調整額12を計上することで、企業会計上の税引前利益と税金費用(=法人税等+法人税等調整額)を対応させることができます(図2)。 この手続が税効果会計です。 〈図2〉 翌期X2年3月期の税効果会計適用前のP/Lは、以下のとおりです(図3)。 〈図3〉 これに税効果会計を適用すると、P/Lは以下のようになります(図4)。 〈図4〉 X1年3月期とX2年3月期の企業会計上の税金費用と税務上の法人税等をまとめると、以下のとおりです。 2事業年度を通じた合計は52と、企業会計と税務で同額が計上されていることがわかります。 このように企業会計上の費用と税務上の損金の計上時期が異なる場合、税効果会計を適用することにより税金費用を適切に期間配分することができるのです。 今回の解説では、企業会計と税務の相違は会計上の収益又は費用と税務上の益金又は損金の期間帰属の相違に基づく差異として捉えました。 しかし、税効果会計の企業会計と税務の相違の捉え方は資産負債法を前提としています。 次回は「「税効果会計の方法」―資産負債法と繰延法」について解説します。 (了)
設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる ~設備投資における管理会計のポイント~ 【第3回】 「設備投資における実務上の問題点」 ―意思決定~回収― 公認会計士・税理士 若松 弘之 今回はまず企業の成長にとっての設備投資の重要性を再度確認してみよう。 〈設備投資の重要性〉 企業は、事業の持続的成長を通じて収益や利益を生み出していくが、そのためには絶え間ない設備投資が必須となる。設備投資は大きくは、 ① 現業維持のための設備投資 と ② 新規成長分野のための設備投資 に分けられる。 ①についてはある程度、計画的かつ規則的に行われるため、設備投資の要否や金額の妥当性について判断しやすい部分があると思われる。ただし、現時点で収益や利益を稼いでいる事業についても、未来永劫そうである保証はなく、次第に衰退していくことも多い。したがって、企業は将来の屋台骨を支える新規成長分野を育てることが必須であり、これがうまくいかない場合、「事業の消滅」が「企業そのものの消滅」につながってしまう。 これを避けるため、②の「新規成長分野のための設備投資」を実行することになる。ただし、設備投資が当初見込んだ成果を上げられなかったとしても、ひとたび投下された多額の設備投資資金は容易に資金化できるものではない。したがって仮に、設備投資資金が借入調達されていた場合においては、返済のみが先行することもあり、資金繰りが急速に悪化する要因になり得るのである。したがって、この設備投資判断には大きなリスクが伴い、時にこの判断ミスが企業の破綻につながることも少なくない。 では、設備投資に関して、実務的にはどのような問題が見られるのであろうか。 〈設備投資に関して実務で見られる問題点〉 実務でみられる問題や留意点は、次の3つの過程に分けて考えると理解しやすい。 ① 設備投資の意思決定段階(投資実行前) この段階で多く見られる問題点は、そもそも投資回収額の採算性や回収可能期間の見積り・予測が適切に行われていないことに尽きる。 例えば、顧客から新規受注を獲得するために、試作品を製造する必要があり、そのためには「新たな設備が必要」との稟議が、製造現場や技術開発部門から起案されたとしよう。または、新製品ではないものの、顧客からの受注量の増大や品質維持のため、どうしても設備投資が必要との稟議が起案されたという場面もあろう。 この場合、経営マネジメント側では、「設備投資によって受注が増え、売上につながるのであれば、投資すべきだ」という判断や、「設備投資をしなければ今後の受注や品質維持に支障をきたす以上、投資はやむなし」という判断をくだすことも多いのではないだろうか。 ここでの落とし穴は、「受注が維持できたり、新規売上が計上されることはとても大事なことだが、設備投資によって正味の現金獲得(キャッシュ・インフロー)が実現できるのか」という点が検証されていないことである。 設備投資によるキャッシュ・アウトフローが受注維持や売上増加によるキャッシュ・インフローを上回るのであれば、結果的に資金繰りを悪化させるにすぎない。もちろん、受注維持や新規分野への参入が、金銭価値で測れない価値や他の事業への相乗効果を生んでいることが明らかであれば、その影響も踏まえて、総合的に投資可否を判断することになる。 筆者の経験上、営業部門や製造部門の立場では、売上維持・拡大や品質水準の維持が最優先され、例えば、取締役会や稟議書などで、「新規受注」「受注維持」「品質管理(維持)」が、経営者やマネジメントの耳に心地よく響く、いわば“殺し文句”となっている場合が多いと感じている。しかしながら、財務や経理部門の立場からは、その設備導入効果がトータルとして、企業の正味キャッシュを増やす効果があるか否かを様々な角度から慎重かつ客観的に検証すべきである。 次に多い問題としては、稟議書や取締役会の議案には、設備投資の必要性や技術的背景などの「定性的(文章等による)効果」は詳細に記載されているものの、「定量的(金額・数値等による)効果」はあまり記載されていないことである。 もちろん、最低限の情報として、購入金額、支払方法(自己調達かリースか、支払期間など)、法定耐用年数、処分価値などは記載されていると思うが、本来、設備投資判断に際しては、以下の点もきちんと検証されていなければならないと考えられるため、ぜひ一度チェックをしてもらいたい。 上記はあくまで一例であるため、各企業の状況によっては、これら以外にも様々なチェック項目はあるだろう。ここで重要なことは、これらのチェックリストを用いるなどして、設備投資案の検討手続を所定の仕組みとして標準化して運用することである。 なお、設備投資の意思決定のレベルアップには「設備投資の経済性計算」の理解が必要となるが、これについては第5回で解説する。 ② 設備投資の回収段階(投資後~稼働中) 筆者の経験上、企業実務における設備投資の問題の大半は、この段階にあるといっても過言ではない。設備投資の意思決定段階では慎重に議論したにもかかわらず、ひとたび設備投資が実行されて稼働中になってしまうと、「当初想定した効果が出ているのだろうか」という観点で批判的にモニタリングされることは案外少ないのである。 通常、設備投資時には「最新鋭のマシン導入により、飛躍的に生産性が・・・」という形で華やかな場面を経験するが、数年後その効果が本当に発揮されているか、多額の投資額に見合うものであったかを検証することは、人間の心理としてなかなか勇気がいることである。余談であるが、これは企業の海外進出やM&A等の場合も同じであり、進出時やM&A実行時は華やかな雰囲気に多くの関係者が将来のバラ色を夢見るのであるが、ひとたび風向きが変わると多くの者が「この意思決定の当事者ではない」として実態から目を背けるのである。実務で非常に大変なのは、海外からの事業撤退であったり、M&A後、遅々として進まない統合作業であったりするのである。 話を戻すと、日常的に設備に接している者であればあるほど、設備投資効果に対して、うすうす疑問を抱くことも多い。ところが、「当初想定した程の投資効果が出ていない」ことを明らかにした途端、自らの責任を追及されることも多く、それをおそれるあまり、実態に目をつぶることも多いと思われる。その結果、会社や工場の片隅には、導入時は最新鋭であった高価な機械が、普段あまり稼働することもなく、耐用年数満了をじっと待っているという姿も散見される。 しかしながら、この状態を放置しておくことは、水面下で企業の収益性を蝕むことにつながり、これらのケースが重なると、固定資産の減損損失を計上する段階でようやく負の遺産の全容が解ることになり、最悪の場合、「時すでに遅し」という形で企業の破綻につながる場合もある。 よって、この段階で企業が行うべきことは、次の3点である。 なお、設備投資失敗の責任は起案部門だけにあるのではなく、それを討議し意思決定したマネジメントにこそあることを受け止め、戦犯探しと責任追及に終始しないことが大事である。筆者の経験上、責任追及のみに焦点があたると、現場は実態を包み隠す方向に走り、その後の経営管理に重大なマイナス効果を及ぼすことになると感じている。 * * * 次回は引き続き、設備投資の終了・撤退局面における実務上の問題と設備投資実務を通してのチェックポイントなどを解説していく。 (了)
人的側面から見た「事業承継」のポイント 【第1回】 「経営への“想い”を円滑に承継する」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 1 はじめに 昨年からにわかに話題となってきた「事業承継」。 単に後継者問題というものではなく「いつ」「誰に」「どのような形で」事業を承継していくべきなのかを考えなければならない。 特に中小企業で事業承継対策を考える場合、「経営そのものの承継」と、「自社株式・事業用資産の承継」の両面の配慮が必要になる。 資産の承継については他の専門家に委ねるとして、ここでは事業活動の根本である、経営そのものの承継についてお伝えしたい。 2 事業承継の方法 事業承継を行う場合、次の方法がある。 3 経営ノウハウの円滑な承継を いずれかの方法により事業承継を行うとなった場合においても、次世代の経営者となる後継者には、以下のように現経営者が有する経営ノウハウ等を円滑に承継させることが必要になる。 ◆ ◆ ◆ 次回は、事業承継の問題点についてお伝えしたい。 (了)
会社を成長させる「会計力」 【第6回】 「経営情報システムの構築(SIGMA21プロジェクト)は どうやって成功をつかんだか(前編)」 島崎 憲明 企業に宿る会計力の一つが、高度な経営情報システムの整備とその積極的な活用にあることは前回述べたとおりである。 そこで、今回から2回にわたり、取締役就任後の2年目から8年間情報システム部隊のヘッドを勤め、そこで新経営情報システムの構築に携わった経験から、その成功要因について検証してみたい。 《新しい経営情報システムの構築が必要となった背景》 “情報システム部隊のヘッド”というと、今で言うCIOの役割だが、同時に経理部隊のトップも兼ねていた。その後、財務、リスクマネジメント、人事、経営計画策定など担当業務は広がっていったが、情報システムの担当も引き続き兼任していた。 情報システム担当役員としての8年間のうち、前半の約4年間は、既存のレガシーシステムの保守・運用業務と並行して新しいシステムの開発を進めた。 これは、私が担当役員になったから新システムの開発を手掛けたのではなく、経営情報システムを一から再構築するために担当役員に任命されたからである。 当時のシステムは100%手造りで、次のような問題を抱えていた。 これらの問題を解決するために、当時の連結純利益に相当する300億円の予算でスタートしたのがこの新しいシステムの開発プロジェクトであり、当時の社長の大英断がなければ実現は難しかったであろう。 これに先立つ10年前に構築したレガシーシステムは、コストオーバーラン、計画の遅延、ユーザーの使い勝手などに問題があった。 これらの問題に適切な対応をし、同じ轍を踏まないようにということで、最大ユーザーのトップで、全社の予算管理責任者である私にプロジェクトリーダーを務めるよう指示があったのである。 なお、このプロジェクトがスタートする1年前、私は経理業務のコスト20%削減を実現するための方策を検討していたが、営業および経理業務基幹システムの抜本的な作り変えと、経理業務の別会社化による業務プロセスの見直しにより、20%の削減は可能との感触を得ていた。 当時、社内ではコスト競争力不足をいかに改善すべきかが議論されており、「経理部門に止まらず全社的な問題としてシステムの抜本的見直しに取り組むべきである」との提言書をまとめたが、今思えば、これが担当任命へつながることとなったのだろう。 《プロジェクトの成功要因は何か》 プロジェクトは四苦八苦しながらも、最終的には当初立てた投資予算内で、予定した期限までに稼働させることができた。 この成功要因としては、次の点が挙げられる。 これらの要因について、以下で順に説明する。 《新しい部の立ち上げと部内融和》 垂直立ち上げした新しい部は、プロジェクトのピーク時には45人程度の体制となった。 構成は、20名が従来の情報システム部隊から、残り25人がユーザーである営業、経理、財務、リスクマネジメント、人事、物流部隊から集まった混成部隊であり、これに、システム開発会社等からの派遣で300名が加わった。 これにより体制としては「全社を挙げて」という形になったが、さらにこの組織に魂を入れるため、次の2つを実施した。 1つ目は、このプロジェクトの「愛称」を全社公募により決めたことである。 「SIGMA21プロジェクト」(Sumitomo Corporation Information & Global Management Systems Architecture for the 21st Century)との命名には、我々の意気込みと思いが詰まっている。 「SIGMA21」という短いプロジェクト名を社内公募により決めたことから、プロジェクトの目的が全社的に周知されることにもなった。 * * * 2つ目は、レガシーシステムの保守・運用を担う者と合わせると70名を超える部隊をどのように融和させ、総合力を発揮させるかに尽力したことである。 これには、私の同期入社2人が部長として支えてくれたのは心強かった。 部員からは当時流行った歌から、「団子3兄弟」と言われたが、新しい部がスタートした日に部員全員を集めて、「団子3兄弟」幹部からそれぞれメッセージを伝えた。 プロジェクトの目的と方針の明確な伝達である。 その翌日から、部長から事務職までの全員について面接を行った。 1人1時間としても、70時間を超える時間を面接に費やした。 一対一だから、仕事のことに限らずプライベートな話にまで及んだ人もいたが、主旨は、このプロジェクト推進についての意見交換であった。 この面接を通して、メンバー1人1人の経験や能力、希望などを知ることができたが、何にもまして、じっくりと話をしたことにより相互の理解が深まったことが最大の収穫であった。 ちなみにこのプロジェクトの後、新しい仕事に就いたときには、必ず個人面接を実行している。 今から3年ほど前に公益財団法人財務会計基準機構(含む会計基準委員会)の構造改革を検討した際にも、財団のメンバー40人程と個人面接を行ったことがある。 40人のほとんどが初対面であり、大半が会計専門家で、出向者であるという特異な組織であった。 改革のヒントを得ようとしての面接であったが、面接を通して得た情報や意見は、関係団体の責任者と設置した委員会の場での改革論議に役に立った。 《トップマネジメントのサポートと戦略立案部隊との協働》 このプロジェクト成功の最大の要因の一つが、社長などトップマネジメントの理解を得、戦略立案部署と協働したことにある。 連結純利益に相当するシステム投資は、社長の決断なくしては具体化できなかったであろうが、さらにシステム構築の過程でのトップマネジメントのサポートがなければ種々の課題の克服も難しかったと思われる。 プロジェクトの全社への浸透と理解はスピーディーに進んだが、システム構築が進むにつれ、「総論賛成だが各論反対」というユーザーの声も大きくなるのが常である。 新しいことへのチャレンジは、常に抵抗勢力との戦いでもある。 SAPのパッケージを使ったシステム作りは、全体最適ではあるものの、レガシーシステムの部分最適に慣れたユーザーからは、個別アドオンの要求が強くあった。10年前のレガシーシステム構築は、これで失敗したのだ。 そのため、トップマネジメントからは、パッケージ仕様によるシステム標準化の必要性を説いてもらった。 「アドオンは必要最小限」にし、「ご飯」「味噌汁」「おしんこ」までで十分、「業務に合わせたシステム構築ではなく、システムに業務を合わせる工夫」が必要などという話は、我々の背中を強く押してくれた。 トップマネジメントが月一回の部内連絡会に出席し、メンバーからの意見に耳を傾け、時にはコメントするという機会もプロジェクトメンバーのモチベーションアップに繋がった。 CIOは経営能力とITの専門性を兼ね備え、経営戦略とIT戦略とをブリッジする役割を担う役職であると言われる。 だが、当時私はCIOの立場であったが、IT技能は持ち合わせていなかった。 ただし、私は情報システムの最大のユーザーのトップであり、経営計画立案の責任者でもあったので、システム構築、ユーザー、経営戦略立案の三位一体でプロジェクトを推進することができた。 当時、社内では ことを掲げで様々な経営改革をパッケージで推進中であった。 その中で、中期経営計画とITの活用は、改革の両輪をなすと位置付けられ、経営戦略の一環としてITインフラの整備と情報システムの高度化は不可欠であった。 その整備・構築の目的は、次のように明確化された。 すなわち、 の整備・構築である。 システム構築の過程では幾多の障害に直面するが、その都度、基本方針に立ち戻ることにより、プロジェクト遂行上の軸を崩さない姿勢がプロジェクトリーダーには求められるのである。 * * * 次回も、経営情報システムの構築時の成功要因について、引き続き検証したい。 (了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第34回】 「個別決算業務のKPI (その① 決算準備)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 昨年の初夏の候にこの連載を始めたが、駟の隙を過ぐるが如く年改まり、早余寒の候、残すところ3回となった。そこで、今回から最終回までを、経理財務部門の業務の締めくくりである「個別決算業務」を評価するKPIの解説に当てて、連載の終着を図ることとしよう。 個別決算業務は、連結子会社を保有しない会社の決算報告書を作成する業務である。他のすべての業務の流れの最終地点に位置し、経理財務部門が最も主体性を持って取り組むことが経営者や利害関係者から期待されることを考えれば、個別決算業務は、経理財務部門のサービスレベルを直接的かつ総合的に映し出す業務である。 個別決算業務という呼称の語尾に、「管理」という文字を付けず、ただ「業務」と呼ばれているのは、それが他部門の業務を管理する性質のものではなく、それ自体が経理財務部門の本来業務であると理解されている表れかもしれない。 そこで、個別決算業務の入り口にあたる決算準備段階で経理財務部門が担うべき戦略性を評価するKPIを取り上げる。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードにおいて、スコアリングモデルの個別決算業務に対応する業務を単体決算業務と呼んでいるが、両者の内容は同じである。 この単体決算業務において、会社が担う一般的な機能として、「決算準備」、「決算手続」、「役員報告」、「監査対応」の4個の機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「決算準備」を構成する唯一の機能である「事前準備」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:単体決算業務で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「事前準備」に関連して、決算方針策定という業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:9.1.1決算方針策定〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 決算方針策定は、経理財務部門が、期中の財務数値と決算予測数値の収集、当期から適用される会計制度変更、会計処理が決まっていない新たな会計事象の会計処理の方針の検討を行い、期末処理方針を策定する作業である。その成果として、経理財務部門は、経営層に対して、会計処理の方針案と会計事実の認識の方針案、経営目標を達成するため特定の会計事実を意思決定する高度な経営判断を促すための情報、そして利益処分の方針案を盛り込んだ期末処理方針を提示する。 今回のKPIは、戦略的に決算方針策定を進めるために日常的な情報伝達を図ることが期末処理方針の経営層への早期報告につながる関係性に着目し、期末処理方針を作成し、事前に経営層に報告する時点を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「期末処理方針」とは、①重要な会計方針となる会計処理の原則、②年度決算において採用する会計処理の方針、③利益処分の方針、④会計事実の決定方針をさす。 ①重要な会計方針は、いったん採用すればみだりに変更できない。会計上は変更の事実と理由と影響額を開示しなければならないし、税務上は原則として事業年度開始の日の前日までに税務署に申請を提出する必要があるから、期中で変更をする会社は少ないかもしれない。 ②年度決算において採用する会計処理の方針は、例えば、売掛金、受取手形、貸付金等に含まれる不良債権の評価、棚卸資産に含まれる不良在庫の評価、経過・未経過勘定の計上、有価証券の評価、固定資産の減損、償却資産の減価償却における特別償却、増加償却、割増償却、繰延税金資産の回収可能性の判断、返品調整引当金やその他引当金の計上等である。 ③利益処分の方針の説明は不要だろう。 ④さらに、経理財務部門が、会計事実である主管部門の業務に対する経営判断を促すため、経営層に対して重要な情報提供を行い、必要に応じて、その会計事実の決定について提案するような働きかけを行っている会社では、「期末処理方針」に、会計事実の決定方針が含まれるだろう。会計事実の決定方針は、例えば、不良債権の処分、不良在庫の処分、有価証券の処分、固定資産の処分、リースの活用、事業の分離や吸収等の会計事実の決定方針である。 「決算期末日から遡って起算して何日前」であるかについて、年度決算期末日の前日であれば、年度期末日を含めて「2日」と記入し、年度決算期末日の当日であれば、「0日」と記入する。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、経理財務部門が、経営層に対して、経営戦略に整合した期末処理方針を早期に提案することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 決算業務は、会社を取り巻く利害関係者に対する一会計年度の経営成績と決算日における財政状態の報告を担うものであるから、大量かつ高度な判断を伴う複雑な作業を、締め切りが決まった時間的な制約の下で進めなければならない。 ところが、一会計年度に起こったすべての会計事実を、個別の会計基準と継続性の原則に準拠しながら正しく認識し、適正な会計処理の方針を決定するには、主管部門が担う業務の実態を把握することが必要である。 さらに、会計事実の決定の内容が、会社の業績に与える影響が大きい場合には、高度な経営判断が必要となるから、経理財務部門が経営判断を促す十分な情報を経営層に提供するため、主管部門だけでなく、経営層との間でも緊密な情報伝達を図らなければならない。 このような高度な判断を支えるための膨大な情報の伝達には、相応の時間がかかるため、決算作業に入ってから始めるのでは、後のスケジュールが逼迫してしまう。むしろ、経理財務部門が決算準備段階だけでなく、日頃から戦略的な視点を持って、積極的に主管部門や経営層との情報伝達を図ることが望ましい。そうすれば、結果として、期末処理方針を経営層に提示する時点が早くなり、決算準備段階で、十分な時間的余裕を確保することができる。 そこで、スコアリングモデルでは、経理財務部門と主管部門や経営層との戦略的な情報伝達のレベルを比較するため、そこから結果的に影響を受ける個別決算の期末処理方針の経営層への報告日に着目し、直前決算期末日から遡って起算した報告日の日数をKPIとした。この数値が大きい会社が小さい会社よりも相対的に望ましいと考えている。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、個別決算業務において、経理財務部門が経営層に期末処理方針を報告する決算準備プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、決算準備段階で経営層に提出される報告資料を閲覧し、期末処理方針に関連する事項が明記されていることを確認することが考えられる。それを前提に、報告資料の報告日を確認いただきたい。 さて、読者の顧問先において、経理財務部門が経営層に個別決算の期末処理方針を報告した日は、直前決算期末日から遡って起算して何日前になったであろうか。 * * * 次回は、「個別決算業務」を構成する複数のKPIから、決算承認に関連する業務プロセスに着目したKPIを取り上げる。 (了)