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これからの国際税務 【第9回】「税の透明性プロジェクトと金融口座情報の自動的交換」

これからの国際税務 【第9回】 「税の透明性プロジェクトと金融口座情報の自動的交換」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 国際的課税逃れ対策は 多国籍企業向けBEPSプロジェクトにとどまらない 本年7月にブエノスアイレスで開催されたG20財務大臣等会合共同声明では、税源浸食・利益移転(BEPS)プロジェクトの勧告内容の実施と並んで、「2018年中に税に関する金融口座情報の自動的情報交換」を予定通り実行すべきと勧告した。 非居住者に係る金融口座情報(氏名・住所、納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等)は、「共通報告基準(CRS)」と呼ばれるフォーマットに従い、本年末までに多くのタックスヘイブンを含む102の国・地域によって、相互に居住地国当局に対し第1回目の交換が実施されることが合意されていたが、その実現に向けた政治の強いコミットメントが公表されたのである。 本件データの年1回の定期的情報交換は、パナマ文書やパラダイス文書の開示を契機として海外の金融機関を利用した国際的な脱税・租税回避と戦っている課税当局にとっては、非居住者の海外活動や資産保有を明らかにするための新たな情報源となり、牽制効果も期待されている。 なお、G20では、この自動的情報交換を中心とした税の透明性に向けた各国の取組ぶりにつき参加国間でピアレビューを行い、その結果非協力な国・地域と特定された場合は、その名を公表するとともに防御的措置と呼ばれる対抗策を行うと警告している。 以下では、本件国際協調の内容と我が国における取組状況を解説する。   2 金融口座に関する税の情報交換 本件プロジェクトを実行するのは、OECD加盟国に非加盟国を含めた153ヶ国・地域が参加する「税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム」であり、米国が国内法(外国口座税務コンプライアンス法)の下で開始した米国市民の外国金融口座情報入手制度を手本として、OECDの起草の下で情報交換のマルチ合意にまで高められたものである。 日本の金融機関は非居住者の口座情報を、外国の金融機関は日本の居住者の口座情報を、それぞれ自国の税務当局に提供し、それを受領した当局間では、租税条約に基づく情報交換の仕組みにより電子データを交換する。なお、受け皿となる租税条約は、従来はもっぱら二国間条約であったが、2011年からはG20により署名勧告が行われた「税務行政執行共助条約」という多国間条約への参加国の拡大により、交換可能国数が飛躍的に拡大している(我が国にとっては、二国間条約を根拠とするもの81ヶ国・地域、多国間条約を根拠とするもの45ヶ国・地域)。 ところで、上記制度の運用に際しては、租税回避目的で報告対象要件への該当性を人為的に外す取極め等が活用される懸念もぬぐいされない。この対応策もOECDで議論され、2018年3月にOECDの「共通報告基準回避取極め等の強制的開示規則」モデルが公表された。 これは、「非居住者の金融口座情報」という報告対象となる要件への該当性を、人為的な取決めによって回避する試みに対抗するものであり、国内実体法における一般的否認規定(GAAR)の、情報交換手続法に関するバージョンともいえるものである。具体的には、共通報告基準を回避する取極めとオフショアの仕組み(適用要件該当をすり抜ける取極め又は資産や所得の受益者を隠匿する取極め)であり、プロモーターや仲介業者(補充的に納税者自身も)にスキームの開示義務を課すべきとしている。   3 我が国における実施状況と納税者の備え 我が国は、条約で約束した金融口座情報交換を担保するための国内法改正を平成27年度改正で行い、国内に所在する金融機関から非居住者が保有する口座の情報について報告を受ける制度を導入した(租税条約実施特例法10条の5、以下「実特法」と呼ぶ)。 報告義務を課せられる金融機関は、銀行等の預金機関、証券会社等の保管機関、投資信託等の投資事業体、生保・損保等の特定保険会社とされている。報告金融機関により報告対象となる口座等はそれぞれ異なるが、報告対象者(租税条約の適用がある自動的情報交換の相手国の居住者)が直接保有する口座のみならず、自ら支配する受動的非金融機関事業体を通じて間接保有する金融口座も対象とされている。 報告金融機関は、まず口座保有者の居住地国を特定して、報告すべき口座を選別しなければならない。これらは共通報告基準に定められた手続に従うことが予定されている(実特法10条の5第2項)が、基本的な判断資料は、報告対象となる「特定取引」を行う者が報告金融機関の長に新規取引開始の際提出すべきとされる情報等(氏名・名称、住所、居住地国、外国の納税者番号等)である。 ただし、新規の口座開設か既存口座の取引か、更には金額の多寡によって、以下の通り居住地特定手続きが区分されている。 (注) 財務省ウェブサイト掲載「平成27年度税制改正の解説」P.627より抜粋 なお、届出書の提出義務及び報告事項の提供義務違反に対しては、罰則が規定されている(実特法13条1項)。 なお、これからの執行本格化にあたって懸念されるのは、名宛人でなく受益者に着目した情報交換という情報の真実性の維持をどのように担保するのかという課題であると思われる(実特法10条の5第1項では特定取引を行う者については事業体の場合「実質所得者」ベースでの居住認定が必要としている)。この点では、マネーロンダリング対応での経験も生かした各国の取組みが今後参照されるとも思われるので、口座保有者及び報告金融機関においても、十分慎重な対応が求められることとなろう。 実特法に基づく金融口座情報報告制度は、平成29年1月から施行され第1回目の税務署長への報告は、平成30年4月30日までに前年の非居住者情報分につき終了し、現在はOECDが開発した共通送受信システム(暗号化や電子証明書による認証などセキュリティ対策を装備)を利用して当該非居住者の居住情報に加え口座残高、利子・配当等の年間受取総額等が、すでに送受信が可能な状態にあると思われる。 (了)

#No. 287(掲載号)
#青山 慶二
2018/09/27

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第56回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第56回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) 5 税務専門家の見解 (1) 欠損等法人における「事業」の定義 ① 長谷川芳孝氏の見解 長谷川芳孝『三角合併解禁後のM&Aの税務』(中央経済社、平成19年)248-250頁では、LBOによる企業買収に先立ってSPC(買収目的会社)を外から購入した場合において、当該SPCが繰越欠損金を保有していたときに、当該SPCに対して適用される欠損等法人の規制についての検討がなされている。 すなわち、SPCを購入した時点では、SPCはペーパー会社であることから、事業を開始した時点で、それよりも前の事業年度の繰越欠損金が利用できなくなる。その事業が開始された時点として、(ⅰ)買収資金借入れを行った時、(ⅱ)SPCが被買収会社の株式を取得した時、(ⅲ)SPCと被買収会社が合併した時がそれぞれ挙げられる。 長谷川氏は、(イ)連結納税に関する欠損金利用制限の規定において、株式保有が原則として事業に該当するととれる文言があること(法令155の21の2⑤一括弧書(現行法令155の22⑤一括弧書)の反対解釈)、(ロ)欠損等法人を連結親法人とする連結納税を開始するケースなどについて株式保有が事業に該当しないと解釈すると不合理な結論となることがあり得ること(法法81の9の2③(現行法法81の10④))を理由として、上記(ⅱ)SPCが被買収会社の株式を取得した時(又はその着手としての資金借入時)に事業が開始されたと考えるべきであると主張されている。 この場合には、それ以降に発生した繰越欠損金に対しては、欠損等法人の規制は課されないため、主に借入金利子の損金算入を容認するために主張された見解であると思われる。 しかしながら、このような見解には同意できない。そもそも欠損等連結法人の規制は、欠損等連結法人との間に連結完全支配関係がある法人を含めたうえで、事業を行っていないかどうかが判定される。これに対し、子会社株式を保有していることが事業であると主張されると、連結納税を導入している企業はすべからく欠損等法人の規制を適用することができなくなってしまうため、事業の範囲から「連結親法人が当該連結親法人との間に連結完全支配関係がある連結子法人の発行済株式又は出資の全部又は一部を有することを除く」ことを確認的に規定したものであると考えられる。 そのように考えると、事業の定義とは、組織再編税制における事業関連性要件の判定のために、確認的に規定された法人税法施行規則3条1項1号の規定を参考とすべきであると考えられる。確認規定であることから、本規定がなかったとしても、同様に解すべきだからである。 さらに、平成19年4月に公表された国税庁の「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」では、法人税法施行規則で定めた事業性の明確化は、「納税者の予見可能性を高める観点から、従来の運用の実態を踏まえて規定することとされた」としたうえで、「従来から認められていないもの、例えば事業を行っていないペーパーカンパニーを買収のための合併法人とするような場合には、事業関連性要件を満たさず、課税の繰延べは行われないこととなります。」としている。 さらに、平成17年改正前商法時代の実務として、会社分割を行うためには事業単位の移転であることが必要であったのに対し、単なる資産の保有については、商法上、事業とは認められないという解釈が中心的であったことから、株式保有業を事業であると考えることはできない。 そのため、SPCと被買収会社が合併した時点で事業が開始されたと考えるべきである。 なお、このような議論がありながらも、現行法上ではほとんど問題にはなっていない。平成18年から施行された会社法では、事後設立を行った場合における検査役調査の規制が廃止されたため、長谷川氏が示したようなSPCを外部から買収してくる事案はかなり少なくなったからであると思われる。 これに対し、西村美智子・纐纈明美「欠損金のあるオーナーの資産管理会社を買収し合併した場合の欠損金の制限(欠損等法人)」国税速報6042号26-27頁(平成21年)では、製造業を営むA社を買収するために、A社の100%親会社であるB社の発行済株式のすべてを取得した事案に対し、B社に対して欠損等法人に対する規制が課されるものとしており、結果として、筆者に近い見解を採用されていることが分かる。今後の実務では、西村氏らが書かれた事例の方が多くなってくると思われる。 ② その他の議論 欠損等法人の議論は、上記のほかにも、2号事由(事業を廃止する場合)、5号事由(役員、従業員をリストラする場合)がそれぞれ問題となる。まず、2号事由は「廃止」と規定されていることから、「休止」は該当しないと思われる。ただし、「廃止」してから「再開」する場合には、2号事由に該当させるべきであると考えられる。 次に、5号事由は、「当該欠損等法人が当該特定支配関係を有することとなったことに基因して」と規定されている。そのため、特定支配関係を有することとなった時点では想定されていない後発事象により、役員が退任したり、従業員が退職したりする場合には、5号事由には該当しないと考えられる。 (2) 不動産取得税における従業者引継要件 豊田孝二「会社分割における不動産取得税の非課税要件をめぐる課題」税63巻7号88-95頁(平成20年)では、従業者が分割承継法人に移転せずに、分割承継法人から分割法人に対して、分割事業にかかる業務を委託する事案について、不動産取得税の非課税要件の1つである従業者引継要件を満たす余地があるものとしている。 すなわち、形式的には業務委託となっているものの、実質的には、分割承継法人の業務について分割承継法人の指揮命令のもとで従事していると認められる場合には、従業者引継要件を満たすものと解しても良いのではないかという見解である。 このような見解は、「地方税法の施行に関する取扱いについて」で、従業者の範囲として、分割法人の役員や使用人だけでなく、出向者を含むことを明記しているだけに留まり、法人税基本通達のように詳細に記載されなかったことが原因であると思われる。 法人税基本通達1-4-4(注2)では、「下請先の従業員は、例えば自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しない。」と規定されており、その理由として、「平成14年2月15日付課法2-1「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明について」では、下請先自身の業務に従事しているにすぎないことが挙げられている。 これを本件に当てはめてみると、分割法人が分割承継法人から業務の委託を受けたとしても、分割法人自身の業務に従事しているに過ぎないことから、分割承継法人に移転した分割事業の業務に従事しているとみなすことはできない。すなわち、これらの従業者は分割承継法人に移転していたと考えられないため、従業者引継要件に抵触すると考えられる。 *   *   * 次回以降も、引き続き平成18年から平成21年までの間に公表されている実務家の見解について解説する予定である。 (了)

#No. 287(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/09/27

企業の[電子申告]実務Q&A 【第4回】「義務化の対象法人が提出すべき届出書」-書き方とポイント-

企業の[電子申告]実務Q&A 【第4回】 「義務化の対象法人が提出すべき届出書」 -書き方とポイント-   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● 電子申告義務化の適用日(2020年4月1日)以後、義務化の対象となる法人は、以下の期限までに納税地の所轄税務署長に対し、「e‐Taxによる申告の特例に係る届出書」を提出する必要があります。 上記(1)のように、制度適用当初において電子申告の義務化の対象となる法人については、「e‐Taxによる申告の特例に係る届出書」を2020年4月1日以後最初に開始する事業年度(課税期間)開始の日から1ヶ月以内に提出する必要があります。 下記【記載例】にあるとおり、例えば3月決算法人の場合には、2020年4月30日までに納税地の所轄税務署長へ当該届出書を提出する必要があります。 また、「e‐Taxによる申告の特例に係る届出書」は、電子申告の義務化が始まる前から既に申告書をe‐Taxで提出している法人であっても提出する必要がありますが、届出書の提出義務がある法人に対して、事前に所轄税務署から通知等を行うことは予定されていませんので、届出書の提出もれにご注意ください。 なお、減資により、資本金の額等が1億円以下となった場合等により義務化対象法人でなくなった場合にも、届出書の提出が必要となる予定です。 【記載例・・・2020年3月31日以前に設立された3月決算の義務化対象法人】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 287(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/09/27

〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q10】「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算」-(3)分割等が行われた場合の調整計算(分割法人等)-

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q10】 「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算」 -(3)分割等が行われた場合の調整計算(分割法人等)-   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q10] (再掲) 平成30年度の税制改正によって、組織再編を行った場合の比較雇用者給与等支給額に関する調整計算はどのように変更されたのでしょうか。   [A10] (再掲) ◆新たに「基準日」という概念が設けられ、基準日から適用年度開始の日の前日までの期間が「調整対象年度」と定義されました。 ◆具体的な調整計算については大きな変更はありませんが、計算期間が「前年度」から「各調整対象年度」に変更されています。 【解説】 (3) 分割等が行われた場合の調整計算(分割法人等) ① 適用年度において分割等が行われた場合 適用年度に分割等(分割、現物出資、現物分配)が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割承継法人等に引き継いだ国内雇用者に対する給与等支給額が発生しなくなることから、雇用者給与等支給額が大きく減少することとなる。 このとき、分割法人等の比較雇用者給与等支給額については、調整対象年度ごとに、分割承継法人等に移転したと考えられる金額として、各調整対象年度に係る分割法人の移転給与等支給額のうち、分割等の日から適用年度終了日までの期間の月数に対応する金額を減算調整した金額に基づき計算することとされた。これにより適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 分割法人等の各調整対象年度に係る給与等支給額から、以下の算式によって計算した金額を控除する(措令27の12の5⑨一イ)。 ここで「移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の当該分割等の日前に開始した各事業年度等に係る給与等支給額(分割事業年度等にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額)に当該分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であった者に限る)の数を乗じて、これを当該分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいう(措令27の12の5⑪)。 計算式で表現すると以下のようになる。 このように、分割等によって分割承継法人等に移転した分割法人等の国内雇用者の数に対応する給与等支給額を「移転給与等支給額」として計算し、これに月数補正を加味したものを、調整対象年度における分割法人等の給与等支給額から控除するという調整を行っているということである。   ② 基準日から適用年度開始の日の前日までの期間に分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じてすべて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内において分割等が行われている場合、分割法人等の調整対象年度に係る給与等支給額から、当該分割法人等の当該調整対象年度に係る移転給与等支給額を控除する(措令27の12の5⑨一ロ)。 この点に関し、移転給与等支給額の計算基礎となる分割法人等の各事業年度の給与等支給額の算定に当たり、その事業年度が分割等の日を含む事業年度(分割事業年度等)である場合には、「当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額」とされている点に留意が必要である。 これは、移転給与等支給額の按分計算が必要なのは、あくまでも、分割前の企業規模を前提に支給された給与等の額のみであって、分割後の給与等支給額を按分計算に含めるのは適切でないという考え方によるものである。 したがって、調整対象年度に分割等の日が含まれている場合における移転給与等支給額の計算は、基準日から分割等の日の前日を1事業年度とみなして、その事業年度中に損金の額に算入される給与等支給額を基礎として計算することとなる。   (了)

#No. 287(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/09/27

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第30回】「別表6(24) 中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第30回】 「別表6(24) 中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の 法人税額の特別控除に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 前々回より、平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、賃上げ・投資促進税制(改正前 所得拡大促進税制)関連の別表を次の適用パターンごとに分けて採り上げている。 ※ 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいい、それ以外を大企業等という。 今回は、パターン③の場合における、「別表6(24) 中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する中小企業者等が平成30年度改正後の租税特別措置法第42条の12の5第2項の規定の適用を受ける場合に作成する。 本制度は、平成30年度改正のいわゆる賃上げ・投資促進税制のうち、前回解説した大企業等向けの制度より要件等が緩和された中小企業者等に対する措置であり、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において、以下の要件を満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給額(注2)の対前年度増加額について、その一定割合の税額控除ができる(当期の法人税額の20%が上限)制度である。 (注1) 国内雇用者とは、法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち国内事業所に勤務する雇用者(労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者)をいう。 (注2) 給与等支給額とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合はその金額を控除した額)をいう。 (注3) 継続雇用者給与等支給額とは、雇用者給与等支給額のうち継続雇用者(適用年度及び適用年度の前事業年度の期間内の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する当該適用年度の給与等の支給額をいう。 ▼ 注意!▼ 上記の継続雇用者は、雇用保険の一般被保険者に該当するものに限られる。また、継続雇用制度(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項第2号に規定する制度)の対象者は除く。 ▼ 注意!▼ 改正前の旧所得拡大促進税制における「継続雇用者」は、適用年度及びその前年度において給与等を受けた国内雇用者をいうので、当期と前期にそれぞれ1ヶ月以上の支給実績があれば継続雇用者に該当したが、改正後の新制度では2期間内のすべての月で支給実績がなければ該当しないことに留意する。   この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 給与等支給増加額(給与等支給額-前事業年度の給与等支給額)×15%+加算額※1 ※1 さらに以下の(イ)及び(ロ)の要件を満たした場合、15%の税額控除に10%上乗せした25%の税額控除とすることができる(当期の法人税額の20%が上限)。 (注4) 教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるための費用で次のものをいう。 (注5) 中小企業比較教育訓練費の額とは、適用年度開始の日の前1年以内に開始した各事業年度の所得の計算上損金の額に算入される教育訓練費の額(当該各事業年度の月数とその適用年度の月数とが異なる場合には、その各事業年度の教育訓練費の額にその適用年度の月数を乗じてこれをその各事業年度の月数で除して計算した金額とする)の合計額を当該1年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう。 (注6) 具体的には、以下の書類を確定申告書等に添付する必要がある。   Ⅲ 「別表6(24)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後開始する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔継続雇用者給与等支給増加割合の計算〕欄 〔教育訓練費増加割合の計算〕欄 〔中小企業者等税額控除限度額の計算〕欄 〔比較雇用者給与等支給額の計算〕欄 〔継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額の計算〕欄 〔中小企業比較教育訓練費の額の計算〕欄 (了)

#No. 287(掲載号)
#菊地 康夫
2018/09/27

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第2回】「非課税措置の対象となる公益法人等とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第2回】 「非課税措置の対象となる公益法人等とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 非課税措置の対象となる公益法人等とは、どのような法人ですか。   - 回 答 - 非課税措置の対象となる「公益法人等」とは、国又は地方公団体、 公益社団法人、公益財団法人、特定一般法人(一般社団法及び一般財団法人のうち法人税法に掲げる一定の要件を満たす法人)及びその他公益を目的とする事業を行う法人(例えば、社会福祉法人、学校法人、宗教法人など)をいいます。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 非課税措置の対象となる法人は、国・地方公共団体、公益社団・財団法人、特定一般法人及びその他公益を目的とする事業を行う法人となっています(措法40①後段)。 特定一般法人とは、一般社団法人・一般財団法人のうち、以下の要件のすべてを満たす法人をいいます。 なお、一般法人のうち税務上の非営利型法人(※)には、 の2種類がありますが(法法2九の二、法令3)、特定一般法人はこのうち①の非営利性が徹底された法人となります。 (※) 非営利型法人とは、収益事業のみ課税される法人をいいます。 また、その他公益を目的とする事業を行う法人とは、 を行う法人をいい、その事業の遂行に伴い収益を生じているかどうかは問われません。 具体的には、学校法人、社会福祉法人等が該当します。 (了)

#No. 287(掲載号)
#中村 友理香
2018/09/27

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第21回】「国外転出時課税と贈与、低額譲渡」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第21回】 「国外転出時課税と贈与、低額譲渡」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私甲は外国籍ですが、日本に永住者として長年住んでいます。また、日本で会社(日本法人)を経営していますが、株式の評価額が高く、将来の相続税対策が心配です。 最近、株価が下がってきているので、海外に在住して子会社経営をしている次男乙(外国籍)へ、今のうちに贈与したいと考えています。 この場合、贈与税だけを考えればよいのでしょうか。国外転出時課税も問題になるのですか。それでは低額で譲渡をした場合はどうなるのでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国外転出時課税とは 国外転出時課税は平成27年に創設された制度である。 この制度が創設される前は、居住者が有価証券を売却した場合、譲渡所得として所得税等を課税できるにもかかわらず、有価証券を保有したまま外国に移住した後に売却した場合は、国内法において所得税課税の対象外となり、あるいは、国内法で所得税課税の対象となっても租税条約によっては課税対象外となるため、これらを利用した節税策が富裕層の間で行われているとの指摘があり、当局も頭を悩ましていた。 そこで、平成27年度の税制改正で、平成27年7月1日以後に、1億円以上の有価証券を有している者が外国に移住して居住者から非居住者になる場合、出国時において、保有する有価証券を譲渡したものとみなして所得税課税を行う制度、国外転出時課税制度が創設された。   ▷なぜ贈与の場合も国外転出時課税があるのか? 国外転出時課税は、有価証券を有している本人が海外移住するケースのみ適用される制度のように思われるが、実は、居住者が非居住者に有価証券を贈与した場合や、居住者が死亡して非居住者である相続人や受遺者が有価証券を取得した場合においても、国外転出時課税の適用がある。贈与した居住者が外国籍の場合は在留資格により適用の有無があるものの、永住者の場合は日本人と同様と考え国外転出時課税が適用される(所法170の2①、170③一)。 なぜならば、贈与や相続の時点では譲渡所得課税は生じず、相続人や受贈者は被相続人や贈与者の取得費を引き継ぐためである(所法59②、60)。つまり、贈与や相続によって非居住者に有価証券が移転した後に、その非居住者が海外で有価証券を売却した場合は、本人が海外に移住して有価証券を売却した場合と同様に、日本での所得税課税の課税漏れという現象が起こる可能性がある。 そこで、平成27年度の税制改正では、本人が外国に移住した場合と同様の制度が、非居住者に贈与や相続により有価証券が移転した場合にも創設されることとなった(所法60の3)。 本事例においても、贈与者甲が保有する有価証券の評価額が1億円以上の場合で、有価証券を非居住者である次男乙へ贈与した場合は、たとえ贈与した有価証券の評価額が1億円未満であったとしても、国外転出時課税の対象となる(所法60の3)。 ここで注意すべき点は、この有価証券の評価額は、相続税評価額と必ずしも一致するとは限らないということだ。例えば、非上場株式の場合で譲渡者が発行法人にとって中心的同族株主に該当する場合の株式の評価額は小会社(原則的には純資産価額)で評価し、法人が有する土地や上場株式は時価で評価し、かつ評価差額の法人税等控除は認められない(所基通60の2-7、59-6)。 なお、贈与から5年内に受贈者が日本に帰国した場合は、将来、日本で所得税課税ができることから、課税を取り消すことができる(所法170の2⑥)。   ▷贈与の場合の課税関係 本事例において、贈与の場合の課税関係はどうなるのだろうか。贈与であるから、もちろん贈与税の課税について考えなければならない。本事例では、贈与者も受贈者も外国籍である。外国籍の贈与者が贈与時に日本に住所を有したとしても贈与財産が国内財産に該当するケースもあるが、本事例では贈与者が永住者であるから日本国籍の人と同様に取り扱われ、国内外財産いずれであったとしても日本での贈与税課税の対象となる(相法1の4①・③一)。 このため乙は、贈与年の翌年3月15日までに贈与税の申告書を提出しなければならない(相法28)。ただし、乙は非居住者であることから、申告納税については納税管理人が行うことになる(国通法117)。 また、国外転出時課税に係る申告納税は甲が行うこととなるが、甲は居住者であることから、一般的な所得税の確定申告と同様に、贈与した年の翌年の3月15日までに所得税の確定申告を行わなければならない(所法120)。 このように贈与の場合は、贈与税の納税義務者と所得税の納税義務者が異なることから、相続税の債務控除のような二重課税を防ぐ方法がない。   ▷国外転出時課税に係る納税猶予 国外転出時課税はみなし譲渡課税であり、対価の支払いがないことから担税力に乏しい場合も考えられるが、その解決方法として納税猶予を選択することができる(所法137の3)。納税猶予期間は5年間が原則で、10年間に延長することができる(所法137の3①③)。 納税猶予を選択する場合は、贈与税の確定申告期限までに担保を提供しなければならない(所法137の3①)。担保提供については国税通則法において定められており、非上場株式も可能だが、担保提供をするためには株券を発行して供託しなければならない(所基通137の3-2、137の2-8、国通法54、国通達54②)。また、株券不発行会社が株券を発行するには、定款変更のため株主総会の特別決議が必要となる(会社法466、309②)。   ▷低額譲渡の場合の課税関係 上述したように、有価証券を非居住者に贈与した場合は、贈与税及び国外転出時課税による二重の負担(Wパンチ)となる。ここで、贈与と似たような方法として、時価よりも低い価格で売買した場合、つまり低額譲渡がある。相続税法においては、低額譲渡の場合もみなし贈与として、相続税法上の時価と対価の差額について贈与税が課税される(相法7)。では、国外転出時課税における取扱いはどうなるのか。 所得税法においては、贈与と低額譲渡は別ものとして取り扱われ(所法59、60)、低額譲渡を贈与に含めるという文言はどこにもない。もちろん、国外転出時課税の贈与の規定においても、低額譲渡という文言は見られない。このため、贈与という文言に低額譲渡も含まれていると解釈するのは無理があるようにも思えることから、低額譲渡の場合は国外転出時課税の適用外と考えられる。   (了)

#No. 287(掲載号)
#菅野 真美
2018/09/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例66(所得税)】 「法人において支給した退職金のうち個人事業時代に該当する部分につき、退職金支給日の翌日から2ヶ月以内に所得税の更正の請求を行わなかったため、経費計上ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例66(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆法人において個人事業当時の退職金も含めて支給した場合(原則) 個人事業当時に雇用していた使用人が法人成り後も使用人として勤務していた場合において、その使用人が退職した時に支払う退職金は、個人事業当時の勤続年数分は個人事業主の必要経費になり、法人成り後の勤続年数分は法人の損金の額に算入する。 ◆法人において個人事業当時の退職金も含めて支給した場合(特例)(法基通9-2-39) 個人事業を引き継いで設立された法人が個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与全額を法人の損金の額に算入することができる。 ◆事業を廃止した場合の必要経費の特例(所法63) 居住者が事業所得等を生ずべき事業を廃止した後において、当該事業に係る費用又は損失で当該事業を廃止しなかったとしたならばその者のその年分以後の各年分の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額が生じた場合には、当該金額は、その者のその廃止した日の属する年分又はその前年分の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する。 ◆個人事業を引き継いで設立された法人の損金に算入されない退職給与(所基通63-1) 個人事業を引き継いで設立された法人が、個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その支給した金額のうちに、個人事業当時の事業主の負担すべきものとして当該法人の所得の金額の計算上損金に算入されなかった金額があるときは、その金額については、その者のその廃止した日の属する年分又はその前年分の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する。 ◆各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例(所法152) 確定申告書を提出した居住者は、当該申告書に係る年分の各種所得の金額につき、事業を廃止した場合の必要経費の特例に規定する事実が生じたことにより、更正の請求に該当する事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から2月以内に限り、税務署長に対し、更正の請求をすることができる。       (了)

#No. 287(掲載号)
#齋藤 和助
2018/09/27

企業結合会計を学ぶ 【第2回】「取得の会計処理の概要」

企業結合会計を学ぶ 【第2回】 「取得の会計処理の概要」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第1回】では、企業結合の分類として、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引があることを解説した。 今回は、吸収合併の例を用いて、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離適用指針」という)に規定する「取得」の会計処理の概要について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 吸収合併 吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものである(会社法2条27号)。 〔例〕 次の条件による吸収合併を行った。   Ⅲ 取得の会計処理に関する論点 「取得」とは、ある企業が他の企業又は企業を構成する事業に対する支配を獲得することをいう(企業結合会計基準9項)。 取得の会計処理は、パーチェス法となり、被取得企業から受け入れる資産及び負債の取得原価を、原則として、対価として交付する現金及び株式等の時価を用いて会計処理する(企業結合会計基準17項、結合分離適用指針29項)。 パーチェス法は、取得企業の観点から企業結合をみるもので、取得企業は企業結合日において被取得企業が企業結合日前に認識していなかったものも含めて、受け入れた資産及び引き受けた負債のうち識別可能なものに取得原価を配分する(結合分離適用指針30項)。 取得原価と取得原価の配分額との差額がのれん(又は負ののれん)であり、のれんについては20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、合理的な方法により規則的に償却する(企業結合会計基準32、33項)。 例えば、上記〔例〕の吸収合併を行う場合には、次の事項を検討し、会計処理することになる。   Ⅳ 取得企業の決定方法 取得とされた企業結合においては、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定する(企業結合会計基準18項)。 「結合当事企業」とは、企業結合に係る企業をいう。このうち、他の企業又は他の企業を構成する事業を受け入れて対価(現金等の財産や自社の株式)を支払う企業を「結合企業」といい、当該他の企業を「被結合企業」という。また、企業結合によって統合された1つの報告単位となる企業を「結合後企業」という(企業結合会計基準13項)。 取得企業の決定は次のように行う(企業結合会計基準18項、78項)。 (了)

#No. 287(掲載号)
#阿部 光成
2018/09/27

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第10回】「固定資産の分析(その3)」-その他固定資産-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第10回】 「固定資産の分析(その3)」 -その他固定資産-   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   ▷その他固定資産 〔分析の対象となる主な勘定科目〕 その他固定資産は、貸借対照表上無形固定資産や投資その他の資産に表示されており、法律上の権利などの物理的な実体や具体的な形のないものである。主な会計上のその他固定資産の内容は、下記のとおりである(法律上の正確な定義ではなく、会計上の概念である)。   ▷通常の会計処理 特許権、意匠権、実用新案権、商標権、ソフトウェアなどの償却資産の償却については、以下のような特徴がある。 ソフトウェアについては、有形固定資産と同様に過去の投資の状況の確認が必要である。例えば、基幹システム等の重要なシステムに、適切なアップデートが行われていない場合に、投資後メンテナンス費用が多額にかかる場合がある。 また、地上権、借地権、電話加入権などについては、有形固定資産の土地と同様に減価償却を行わない。ただし、無形固定資産としては、のれんや借地権など、投資その他の資産としては長期前払費用に計上されている権利金などが減損処理の対象となることに留意を要する。 ◆主な対象資産の耐用年数表 (出典) 無形減価償却資産の耐用年数表(別表第三)   ▷その他固定資産のデューデリジェンスにおける主な調査手続 主な調査手続やポイントの考え方は、基本的に有形固定資産と概ね同一である。 例えば、借地権などについては、有形固定資産の土地同様に不動産鑑定評価のような時価評価が必要な場合がある(有形固定資産のデューデリジェンスにおける主な調査手続については【第8回】を参照)。   ▷重要な知的財産権を保有する場合の評価 対象会社が重要な知的財産権を保有している場合、必要に応じて法務デューデリジェンスチームと連携して、当該権利の内容や存続期間等を詳細に把握する必要が生じてくる。 つまり、通常であれば、知的財産権が生み出すキャッシュフローを独立して捉えるのではなく、他のキャッシュフローに含有し営業キャッシュフロー全体と捉えて評価すれば足りると考えられるが、重要であれば独立して捉えて評価する必要がある。 ◆知的財産評価フロー及び評価項目(例) (筆者作成) このような重要な知的財産権の評価は、一般的な他の資産の評価方法と同様、大きく分類してコストアプローチ、マーケットアプローチ及びインカムアプローチの3つの方法が存在する。評価対象となる知的財産権の性質や、評価目的等を勘案し、多面的な検討を行う必要がある。 例えば、特許権の場合は、特許を確立する技術開発資金と特許権価値の関連性を把握するのが困難であることや、類似特許の売買事例が検出不能であることから、コストアプローチ及びマーケットアプローチによる評価方法は採用されないことが多い。 特許権の評価においては、下記の条件がそろった場合に、インカムアプローチによる評価方法を採用することが一般的である。 また、例えば、商標権の場合は、広告宣伝費や販売促進費を費やしても現在と同じ商標の地位が確立され、同じ経済的便益が享受されるとは限らないこと、また、評価対象会社を含む商標権の関係当事者が価値構築のために支出した金額の推定も困難であることから、このような場合には、コストアプローチによる評価は採用されない。 また、評価対象会社が保有する商標権の譲渡やライセンス取引もないケースが多く、このような場合には、マーケットアプローチによる評価は採用されない。評価対象の商標権が、事業展開において中核をなす権利と考えられ、商標権を核とした製品・事業の収益性に着目してその価値評価を行うことが妥当である場合が多く、このような場合にはインカムアプローチを採用することが一般的である。 (了)

#No. 287(掲載号)
#松澤 公貴
2018/09/27
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