平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第2回】 「貸倒引当金制度の縮減と 寄附金の損金算入限度額の見直し」 アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩 〈貸倒引当金制度の改正の概要〉 平成23年12月改正において、貸倒引当金制度の改正が行われた。 この改正により、貸倒引当金制度の適用対象となる法人は、①中小法人等、②銀行・保険会社等、③リース会社、信販会社等に限定され、適用対象法人以外の法人については、貸倒引当金制度が廃止されることとなった。 つまり、資本金が1億円を超える一般の事業法人は、貸倒引当金制度が廃止されるのである。 この貸倒引当金制度の改正に当たっては、経過措置が設けられている。 その経過措置の内容は、貸倒引当金の繰入限度額を段階的に1/4ずつ縮減させていくというものである。 経過措置が適用される期間は、平成24年度(平成24年4月1日以後に最初に開始する事業年度)から平成26年度(平成26年4月1日以後に最初に開始する事業年度)までの3事業年度となる。 平成24年度は4分の3、平成25年度は4分の2、平成26年度は4分の1となり、平成27年度で廃止となる。 なお、この貸倒引当金制度の改正は、個別評価貸倒引当金と一括評価貸倒引当金のいずれにも適用される。 間もなく決算を迎える3月決算法人においては、平成25年3月期が経過措置事業年度の最初の事業年度となる。 【3月決算法人の繰入限度額の経過措置】 《イメージ図》 繰入限度額の経過措置 (国税庁「平成23年度法人税関係法令の改正の概要」より) 〈貸倒引当金制度の適用対象となる限定法人〉 今回の改正で貸倒引当金制度の適用対象となる法人は、次の3区分のいずれかに該当する法人に限定されることになる。 なお、③の法人については、法人の種類ごとに設定対象となる金銭債権が限定されているので、特に注意が必要である。 【③に区分される法人と設定対象となる金銭債権】 (国税庁「平成23年度法人税関係法令の改正の概要」より) 〈平成25年3月期の申告におけるポイント〉 経過措置中の事業年度では、新法と経過措置の選択適用が認められている。 平成25年3月期の申告においては、新法と経過措置のいずれか有利な制度を選択適用することができる。 個別評価金銭債権については、金銭債権ごとに選択することができ、一括評価金銭債権については、事業年度ごとに選択することができる。 中小法人等は、改正後においても貸倒引当金制度の対象となることに変わりはなく、今までの申告と同じになる。 一方、中小法人等以外の法人については、貸倒引当金制度の対象外となるので、限度額が残る経過措置を適用した方が有利であると考えられる。 ただし、上記③の法人については、一定の金銭債権について繰入れが認められるため、経過措置の適用を受けるか、新法の適用を受けるか、といった有利不利が発生するものと考えられる。 〈寄附金の損金算入限度額の見直しの概要〉 寄附金については、一般の寄附金の損金算入限度額が縮減され、一方、特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額が拡充されることになった。 適用は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度となり、3月決算法人は平成25年3月期から適用される。 (1) 一般の寄附金の損金算入限度額の縮減 法人が支出する一般の寄附金の損金算入限度額は、次のように縮減された。 ① 資本等のある法人 ② 資本等のない法人 (2) 特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額の拡充 法人が支出する特定公益増進法人、認定特定非営利活動法人及び仮認定特定非営利活動法人に対する寄附金に係る特別損金算入限度額は、次のように拡充された。 ① 資本等のある法人 ② 資本等のない法人 《イメージ図》 改正前、改正後の寄附金の損金算入限度額 (国税庁「平成23年度法人税関係法令の改正の概要」より) ― 記 入 例 ― ※法人税申告書 別表14(2)より抜粋 (了)
平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第2回】 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (第1章 制度の概要) 1-3 制度創設の背景 本制度創設の背景としては、 が挙げられるであろう。 財務省の資料では、以下のように説明している。 (財務省ホームページ「平成24年度税制改正の解説(一 国外財産調書制度の創設)」) (1) 個人の国外財産に係る申告漏れの増加 政府税制調査会資料では、個人所得税や相続税・贈与税の税務調査において、国外財産に係る所得税や相続税・贈与税の申告漏れが把握されるケースが増加していることが背景あるとしている。 平成23年11月8日の税制調査会提出資料によると、平成21年度の所得税調査で国外財産に係る申告漏れがあったものの1件あたり申告漏れ所得金額は3,390万円、同じく相続税調査では1憶661万円と、3年前に比べ、それぞれ1.8倍から2.3倍に増加している。 また、同資料の中で以下のような事例が紹介されている。 (2) 国外財産に関する情報収集の困難性 イ 従来の報告制度:所得2,000万円超の財産債務明細書 所得税については、従来から財産債務明細書(所法232①)という制度があった。 これは、合計所得金額が2,000万円超の者について「財産及び債務の明細書」の提出を求めるものであるが、財産の所在地は国内・国外を問わない、所得税確定申告書の添付書類である、財産の合計価額は関係ない、資産だけでなく債務の状況も報告する、提出しないことに対する罰則はない、といった点で、国外財産調書とは大きく異なるものである。 罰則がなかったことから、実効性に不十分な点があったようだ。 こうした状況において、適正な課税及び徴収に資するため、より実効性のある国外財産の報告制度が必要とされる状況になっていた※1。 ※1 国外財産調書の提出義務がある場合でも、財産債務明細書の提出要件に該当する場合には引き続き提出を求められる。ただし、両方を提出する場合、国外財産調書に記載した事項を財産債務明細書に重複して記載する必要はなく、「国外財産調書に記載」と書けばよいとされている。 ロ 国境を越えた質問検査権の行使の困難さ 所得税や相続税の適正な申告納税を確保するためには、納税者の保有する資産や異動に係る重要な情報を税務当局が適時に容易に入手できることが必要である。 この点、国税当局は、国内に所在する資産や国内で行われる取引については、課税情報を入手することが比較的容易にできる。しかし、国外に所在する財産や、国外で行われた取引については、情報の範囲の広さ、情報量、正確性等の面で入手可能性が大幅に低下する。 上記(1)の税制調査会資料で紹介された課税漏れ事案のうち所得税の事案では、B社が内国法人であれば原則として配当金支払時に源泉徴収が行われるとともに、配当金の支払調書がB社から税務署に提出され、税務当局においてAの所得税の申告書の配当所得の内訳と支払調書を突き合わせれば、申告漏れになっていることは容易に把握される。 ハ 租税条約上の情報交換の限界 上記の例において、B社が外国法人であっても、その所在地国が日本と租税条約を締結している国であり、その国が非居住者への配当の支払いについて条約相手国に自動的に情報を提供する仕組みを採用していれば、我が国の税務当局が当該配当金受取りに関する情報を把握することは可能である。 しかし、租税条約相手国でない場合にはそうした情報が提供されることはなく、条約相手国であってもすべての配当金支払いに関する情報が自動的に提供されるというものでもない(【参考】参照)。 租税条約上の情報交換には、 の3つの類型がある。 しかし、どの程度の情報を提供するかは、統一的な決まりがあるわけではない。 そもそも我が国からの情報提供によって相手国において課税が行われた結果が、必ずしも我が国の税収の増加に直接つながるものではないのであり、情報交換制度はあくまでも相互互恵の観点に立った行政執行上の協力という意味を持つものである。 相手国が情報を提供してくれることを期待して、こちらからも相手国にとってメリットのある情報を提供しようというものである。 相手国の情報交換に対するスタンスによって、情報提供の範囲等は様々であり、情報の範囲、時期、内容等について詳細な決まりがあるわけではない。将来はどうなるかわからないが、少なくとも現状においては、日本の居住者の保有する国外財産に関する情報が自動的に国税当局に入ってくるといった状況にはない。 (了)
法人の破産をめぐる税務 【その3】 ―破産会社の債権者の税務 (貸倒引当金及び貸倒損失)― ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 はじめに 前回までは破産会社特有の税務処理について解説した。 今回から2回にわたり、破産した会社(以下「破産会社」という)を取り巻く利害関係者(破産会社の債権者、役員、株主)の破産特有の税務処理について述べていく予定である。 まず、本稿では、破産会社の債権者に関する税務処理(法人税の取扱いに限り、組織再編及び連結納税制度に関連する事項を除く)を中心に解説する。 1 債務者が破産手続開始の申立てを受けた場合の個別評価による貸倒引当金の繰入れ (1) 概要 法人(破産会社の債権者)が、事業年度終了時に有する金銭債権(個別評価金銭債権)に係る債務者について破産手続開始の申立てがあった場合には、貸倒れ等の損失の見込額として各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち(2)の繰入限度額に達するまでの金額を、各事業年度の所得の金額の計算上、損金算入することになる(法法52①、法令96①三ハ)。 なお、損金算入された引当金は、いわゆる洗替え処理により翌事業年度に益金算入される(法法52⑩)。 ただし、税務上の貸倒引当金の計上は、平成24年度税制改正により以下の法人(いわゆる中小法人や金融機関等)に限定されることとなった(法法52①一~三)。 また、破産手続開始の申立ての前に、法人税法施行令96条1項1号及び2号に基づき、既に回収不能見込額として引当て計上している場合(例えば、①金銭債権に係る債務者の会社更生法による更生計画認可の決定により弁済が猶予された一定の金銭債権の額に対して、又は、②金銭債権に係る債務者の債務超過状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないことなどにより、既に個別評価による貸倒引当金を計上している場合)には、この制度を適用できない点に留意が必要である(法令96①三カッコ書)。 (2) 繰入限度額 繰入限度額は、破産会社に対する金銭債権×50%に相当する金額により計算される(法令96①三)。 この場合、繰入れ対象となる金銭債権の額からは、破産会社からの債務で金銭債権と相殺可能な実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関や保証機関による保証債務の履行等により回収の見込みがある部分の金額は除かれる。 また、平成24年度税制改正により、上記(1)⑤のリース会社等一定の法人が有する金銭債権に関しては、繰入れ対象となる金銭債権が限定されている(法令96①三、法法52⑨一)。 (3) 書類の保存 引当金の繰入れは、法人(破産会社の債権者)において破産手続開始の申立ての事実を証する書類や、担保権の実行等により回収の見込みがある場合にその金額を明らかにするための書類を保存する必要がある(法規25の4)。 破産の申立てがあった場合には、裁判所は債権者に破産手続開始の申立てがあった旨の通知は行わず、通常は申立人において、破産手続開始の申立てについての「受理票」が裁判所から交付され、その写しを債権者に送付することが行われるようである。 したがって、破産手続開始の申立ての事実を証する書類に関しては、破産手続開始申立書を受け付けた際に、この「受理票」を申立ての事実を証する書類として保存することが考えられる。 もし、書類が保存されていない場合には、税務当局に破産手続開始の申立ての事実が生じていないとみなされ、引当金の計上が認められない可能性があるため、疎明資料の準備を適切に行う必要がある(法令96②)。 ただし、その書類の保存がなかったことについてやむを得ない事情があると税務当局から認められた場合には、この限りでない(法令96③)。 (4) 手続規定 引当金の繰入れは、確定申告書に引当金繰入れの損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用される(法法52③)。 ただし、その明細の記載のない確定申告書の提出があった場合において、やむを得ない事情があると税務当局から認められた場合には、この限りでない(法法52④)。 2 法人が破産した場合の貸倒損失に係る税務処理 破産会社は、破産手続終結や破産手続廃止の決定などにより、法人格が消滅することになる。 税務上は、この時点で破産会社に対する金銭債権の全額が回収できないことが明らかとなり、法基通9-6-2に基づき、その全額が回収できないことが明らかとなった事業年度において貸倒損失として損金経理することにより損金算入が可能と考えられる(法基通9-6-2)。 参考までに、個別評価による貸倒引当金と貸倒損失の計上のタイミングを図で示すと、以下のようになると考えられる。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第6回】 弁護士 木村 浩之 5 過大給与 (1) 過大給与該当性の判断基準 法人が役員に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分(過大給与)については、損金算入が否定される。 給与の額が過大であるか否かについては、原則として、次の2つの基準によって判断されることになり、いずれか多い方の部分が損金不算入となる(法令70①一)。 (2) 実質基準について ア 具体的な判断要素 実質基準は、形式基準と異なり、「相当かどうか」という抽象的な基準であり、様々な事情を総合的に評価して判断することにならざるを得ないこと、また、納税者にとっては、類似法人における役員給与の支給状況の把握が困難であることから、実務上、実質基準を用いた過大給与の該当性が争われることは多い。 相当性の判断に当たって考慮すべき要素としては、 が定められているが、実質基準における具体的な判断要素としては、次のようなものが挙げられる。 実務上は、以上の判断要素のうち、類似法人の抽出が適正になされれば、役員給与の平均支給額・最高支給額が明らかとなり、具体的な金額として比較の対象となりやすいことから、これらとの比較を基本的な判断要素とした上で、その他の判断要素を補充的・修正的に用いる傾向にあるといえる。 イ 参考となる裁判例 実質基準の適用が争われた裁判例(名古屋地判平成6年6月15日税資201号485頁)において、①類似法人の抽出基準、②役員報酬額の相当性について具体的な判断が示されているので参考になる。 まず、①類似法人の抽出基準については、「報酬額の比較のための資料である以上、業種、業態、規模(売上金額、期末資産合計額、従業員数)、収益状況等できるだけ当該法人と類似するものであることが望ましいものの、その報酬額は客観的に相当な金額を算定するための一資料として用いられるに過ぎないものであることからすれば、その類似性は厳密なものでなくとも資料としての意義は失われないものと考えられる」と判示し、結論として、地域、業種、売上金額の3点によって類似法人の抽出がなされることを認めている。 本件では、具体的には、対象法人が所在する市を含む5つ程度の市にまたがる地区が選定された上で、その地区に所在する法人のうち、日本産業分類によって対象法人と同業種であると分類された法人が抽出され、さらに、そこから売上金額に応じて、いわゆる倍半基準(2分の1から2倍の範囲に含まれるものを抽出すること)によって類似法人の抽出がなされている。 次に、②役員報酬額の相当性については、「類似法人の役員報酬額の平均値を基準とし、これを増減すべき固有の特別事情があるか否かを検討すべきである(平均値が原則的に相当な報酬額の上限である)」との課税庁の主張は否定したものの、対象法人の売上金額は類似法人の平均とほぼ同じであるにもかかわらず、対象法人の代表取締役の報酬額は類似法人の平均の約2.93倍であり、最高額の約2.14倍であることを重視して、「類似法人と比較して、役員報酬額が著しく多くなっていることは明らかである」と判示している。 そして、具体的な相当額については、「売上金額の前年比(約1.43倍)を基本とし、これに売上総利益の前年比(約2.25倍)を加味して、前年度の1.5倍までの範囲で増額がされた場合には、相当な報酬の範囲内にあるものといえる」と判示し、売上金額の前年比を重視した判断がなされている。 ウ まとめ 前記イの裁判例では、過大給与に当たるかどうかの一次的な判断については、類似法人との比較が検討され、具体的な相当額の認定に当たっては、売上金額の前年比を重視した判断がなされている。 実際には、役員給与の支給額が職務の対価として相当かどうかについては、個別の具体的な事案ごとに重視すべき要素が異なり得るので、前記アで述べたような判断要素を十分に検討し、判断する必要があるといえる。 (3) 使用人兼務役員について 過大給与の対象となる給与には、使用人兼務役員に対する使用人分の給与も含まれることになる。 したがって、実質基準においては、使用人分給与を含めて、支給額が職務の対価として相当かどうかを判断することになるので、その点の留意が必要である。 他方、形式基準においては、使用人分給与を含めないで限度額が定められている場合には、使用人分給与として相当な範囲の金額を除いた上で、限度額を超過するかどうかの判断をすることになる。 ここでいう「相当な範囲」については、その使用人兼務役員が現に従事している使用人としての職務と概ね類似する職務に従事している他の使用人に対する給与との比較、その使用人兼務役員の役員就任前の給与との比較で、概ね同程度の金額であれば、相当な範囲に含まれるものと解される。 なお、使用人兼務役員の使用人分の賞与については、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給した場合(例えば、役員と使用人で支給時期が異なっており、役員の支給時期に合わせて使用人分賞与を支給した場合)には、その支給分は自動的に過大給与として損金不算入となる(法令70三)ので、この点も留意が必要である。 (了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第10回】 税率変更の問題点(9) 「短期前払費用の取扱い」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 消費税の計算上、前払費用については、その役務の提供を受けていないことから、原則として、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことはできないが、一定の要件を満たした短期前払費用につき所得税法又は法人税法の規定により必要経費又は損金としている場合には、その支出した課税期間において仕入税額控除を行うことを認めている。 この短期前払費用の特例を適用している場合おいて、当該前払費用の支出した日が施行日前でその対象期間が施行日後にかかる場合に、どのように取り扱うかが問題となる。 そこで、以下ではこの問題点について解説していくこととするが、まず、前払費用の原則的な取扱い、法人税法における短期前払費用の取扱いを確認した上で、今回の税率改正に伴う消費税法における取扱いについて事例を用いて検討する。 1 前払費用の原則的取扱い 前払費用とは、法人が一定の契約により継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいい、以下の4つの要件を満たすものをいう。 この前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時点で損金の額に算入することとなっている。 前払費用の具体例としては、以下のようになる。 また、上記事例の場合における消費税の計算においても、1月分から3月分までの家賃分30万円が課税仕入れとして認識され、未経過分である90万円については、翌期の課税仕入れとなる。 2 法人税法における短期前払費用の取扱い 法人税法基本通達2-2-14では、上記1で述べた前払費用の原則的な取扱いにかかわらず、法人が支払う地代家賃、保険料、支払利息などの前払費用において、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合、その支払った金額を継続してその事業年度の損金の額に算入しているときは、その支払った時点で損金の額に算入することを認めている。 具体的には、以下のような要件を満たすものをいう。 これらの要件を満たせば短期前払費用の特例を適用できることから、上記【事例1】の場合には、この特例により賃料を支払った事業年度において全額損金に算入することができる。 他に認められる事例としては、以下のようなものがある(法人税法64条の2第3項に規定する売買取引とされるリース取引に該当する場合を除く)。 なお、上記の要件から、2年分の前払費用を支払った場合など1年を超えて費用を支払った場合やその費用を決算時までに未払いであった場合には、この規定の適用はない。 同様に、売上原価となる費用や借入金を預金や有価証券などで運用する場合の借入金の支払利息のように、収益と対応させる必要がある費用については、たとえ1年以内の短期前払費用であったとしても、支払時点で損金の額に算入することは認められない。 また、3月決算法人で当期の2月に支払う翌期4月からの1年間の年額家賃については支払日から1年以内ではないことから、この特例は認められず、全額資産計上となる。 この特例は、1年以内の短期前払費用について、企業会計上の重要性の原則に基づいて、支払時に一括して費用とする会計処理を税務上においても認めることを前提としているものであり、利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出、収益との対応期間のズレを放置すると課税上の弊害が生ずるものについては認められないので注意が必要である。 3 消費税法における短期前払費用の取扱い及び税率改正に伴う問題点 消費税における課税仕入れの時期は、所得税法又は法人税法と同様に、原則として資産の引受け、資産の借受け、役務の提供を受けた時点とされている。 例えば、機械などの資産の購入について前払金を支払っていたとしても、その支払いの時期に関係なく、実際に引渡しを受けた時点や役務の提供を受けた時点が課税仕入れの時期となる。 同様に、資産の購入について未払金がある場合も、その代金の決済時期に関係なく、資産の引渡しを受けた時点が課税仕入れの時期となる。 したがって、上記1の前払費用についても、実際に役務の提供を受けた時期に税額控除の対象となるのが原則であるが、所得税又は法人税との取扱いを統一するため、その前払費用を支出した課税期間において税額控除の対象とすることを消費税法基本通達11-3-8により認めている。 その内容は以下のとおりである。 この通達は、所得税又は法人税との取扱いを統一することが前提となるため、所得税又は法人税において短期前払費用の特例により支払った時点で必要経費又は損金として処理をしていなければ、消費税においても支払った課税期間で仕入税額控除を行うことができないことに注意しなければならない。 今回の税率改正に伴い、この短期前払費用の通達により前払費用を支出した課税期間において税額控除の対象とした場合、当該前払費用の支出した日が施行日前であり、その対象期間が施行日後にかかるような場合に、どの税率を適用するのかといった問題が生じることとなる。 例えば、短期前払費用の特例を適用している3月決算法人で、その年の1月に支払った前払費用で対象期間が12月までの場合には、4月以降の期間に係る部分につき新税率を適用して税額控除を行うことが可能かどうかということであるが、支払った消費税により、以下のような取扱いとなる。 上記内容について、具体例を示すと以下のようになる。 上記の場合において、〈ケース③〉については、法人税の取扱いと消費税の取扱いが異なることとなる。 このように、短期前払費用について、支払った日から1年以内の期間が施行日を含めた期間となる場合には、その課税されている税率など支払った内容を確認した上で処理しなければならないことから注意が必要である。 また、長期前払費用については、支出した費用のうち施行日後に係るものについては、新税率が適用されることとなるので注意しなければならない。 (了)
租税争訟レポート【第5回】 税理士の過失による 損害賠償義務の範囲 (税理士損害賠償請求事件第一審判決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、税理士である被告が、人材派遣業を営む株式会社である原告から委任を受けて、その税務申告を行ったところ、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の額を誤って過少に申告し、原告が過少申告加算税や延滞税の納付を要することとなったとして、原告が、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。 被告税理士が、自らの責任を認め、過少申告加算税及び延滞税の賠償については争わなかったため、それ以外に原告が受けた損害の範囲、過失相殺、被告税理士による税務調査の立合報酬などに関して、相殺の抗弁が認められるかどうかが争点となった。 【過少申告に至った経緯】 ① 原告経理担当者が、会計システムの初期設定を行った際、「労務賃金」について、原告と雇用関係にある派遣対象者に対する賃金・給料等の支払いを示す科目であるにもかかわらず、誤って課税仕入れの対象に設定し、勘定科目一覧表を被告税理士に送信、内容の確認を依頼したところ、問題はないとの回答を受けた。 ② 被告は、原告の消費税等の申告に当たり、試算表、消費税集計表、勘定科目別税区分表の送付を受け、これらに基づき、消費税等を申告したが、送付を受けた税区分表について、帳簿等と対照するなどの調査・確認は行わず、その結果、原告の消費税等の申告において、課税仕入れ額に「労務賃金」として計上された額が含まれたままとなった。 ③ その後の税務調査により、上記の過誤が判明し、原告が納付すべき消費税等の額が、本来納付すべき税額よりも過少に申告されていたことが判明した。 【原告が求めた損害賠償の範囲と裁判所の判断】 【被告税理士による過失相殺・未払報酬との相殺の抗弁】 【解説】 消費税等の過少申告につき、税理士に過失があった場合に、納税者に生じた損害のどこまでが賠償の対象となるかが争われた事案である。原告の主張で注目されるのは、損害賠償金の受領に伴って増加する法人税額等についてまで、これを損害と主張したことである。一方、被告税理士は、自らの責任を認めながら、原告経理担当者の過失による相殺を求めた。 東京地方裁判所は、法人税額等については損害賠償を認めなかったが、被告の求める過失相殺を一蹴する中で、「被告による善管注意義務違反の程度は相当大きいものであると評価できることなどを考慮すれば、公平の見地からみて、過失相殺を認めることは相当ではない」として、被告税理士の専門家責任の重さを強調した。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載6〕 管理部門を分割した場合における事業性 税理士 村木 慎吾 Question 当社は、同業他社と協力し管理部門をアウトソーシング化することを考えています。 そこで、同業他社と共同でアウトソーシング会社(A社)を設立し、当社からは経理部門を分社型分割によりA社へ移転させることを計画しています。 しかし、当社とA社は60%の資本関係となるため、本件分割が適格要件を満たすためには「事業継続要件」などを満たす必要があります。 この事業継続要件などでは、事業が移転することが前提となりますが、当社のように経理部門を分割するケースでも、「経理事業という事業が移転している」と考えることができるのでしょうか? なお、当社内においては、従来より事業部制の観点から、部門間での費用等の付け替え処理をしており、経理部門においても内部売上が計上されています。 Answer 貴社からA社へ分社型分割により移転する経理部門は、分割前に他社からアウトソーシングを受けて外部売上を計上しているようなケースでない限り、分割前に貴社で営まれている「事業」に該当しないと考えられるため、分割による事業の移転がないことから適格要件を満たせず、非適格分社型分割として取り扱われると思われます。 解説 50%超100%未満(支配関係)のグループ内分割における適格要件は、分割事業に係る主要な資産負債が分割承継法人に移転することなど、分割により事業が移転することが前提とされています(法法2十二の十一ロ)。そのため、そもそも事業の移転を伴わない分割であれば、適格要件を満たすことができず、非適格分割として取り扱われます。 この分割による事業の移転に関して、会社法上は分割を「事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させること」と定義していることから、事業の移転を伴わない分割も可能であると解されています(会社法2二十九、三十)。そのため、税務上では、分割により事業が移転しているか否かを別途検討する必要がありますが、この「事業」の定義については、規定が設けられていません。 一方、50%以下の資本関係にある法人間における組織再編成で用いられる適格要件においては、「事業」の定義が定められています(法規3①一)。そこで、50%超100%未満のグループ内分割における適格要件における「事業」の判定においても、当該定義規定を類推適用し、事業性の有無を検討することが合理的と思われます。 当該定義規定では、「固定施設の所有(又は賃借)」、「従業員の存在」及び「売上の計上」の3要素を満たすものを「事業」として定義しています(法規3③)。また、このうち「売上の計上」とは、自己の名義をもって、自己の計算において次のいずれかの行為をしていることとされています。 そもそも、事業の移転が適格再編の要件とされている理由は、その再編による資産及び負債の移転が、独立した事業単位で行われたものである必要があるからと考えられます。 ならば、再編後に移転したとされる事業は、再編前時点で既に存する、独立した事業であることが当然に必要です。 その意味で、再編前の時点で直接外部からの収益を生まない管理部門に関しては、分割前において、独立した事業単位を備えていたとは評価できません。たとえ、企業内部において管理会計の視点で内部売上を計上していたとしても、それはあくまでも計算上の仮定計算に過ぎません。 そのため、再編以前において直接外部からの収益を生まない管理部門(研究開発部門等を除く)に関しては、原則として分割前に営んでいた「事業」には該当しないものと考えられます。 一方で、平成21年3月13日付の照会(投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について)では、以下のようにも解説されており、文理解釈だけではなく個別に事業関連性要件を判定することが公表されています。 この照会を参考にすれば、この事例でも個別の事情を加味したところで判定すべきとも考えらえます。 しかし、「合併法人にのみ不動産を賃貸している不動産賃貸事業を営む被合併法人との合併は、合併後において当該不動産が自社所有となり不動産賃貸事業の売上が計上されないことから、事業継続要件を満たさない」(注)との国税当局側の考え方があります。この考え方は、合併後に事業が継続しているかどうかの判断で、今回のケースとは事業の消滅と発生という意味でスキームが逆ですが、この考え方との整合性を取ろうとするならば、今回のケースでは、事業性がないと考えざるを得ないのでしょう。 (注) 山田弘一「企業組織再編税制について」(『租税研究』(2009年9月号)) (了)
会計リレーエッセイ 【第2回】 「社会人に求められる会計リテラシー」 中央大学大学院戦略経営研究科 特任教授 藤沼 亜起 公認会計士としての経験を活かし、実務家教員として中央大学大学院のビジネススクール(通称)に奉職して、今年の4月で6年目を迎える。 生徒は30~40代の社会人が多く、人気のある研究テーマは「企業戦略」が第一位で、その他は、「マーケティング」、「人的資源管理(ヒューマン・リソーセス)」及び「企業法務」などがある。 しかし、会計を含む「ファイナンス」の分野については興味が湧かないのか、メジャーな科目とはなっていないのが残念である。 企業の経営幹部を志望している社会人にとって、程度の差はあれ、会計リテラシーの習得はビジネスをする際の必要最低限の知識であるのだが、大学の学部教育で選択しなかったからなのか、会計は生徒にとって取っ付きづらいというのが実情のようだ。 会計を経営に活かす、つまり会計的思考がビジネス上求められることは必然であるが、ビジネス分野に限らず、例えば公的分野で活躍する公務員や政治家にとっても、会計リテラシーは基礎的な素養の一つであることに変わりはないと思う。 公認会計士としての約40年弱の実務経験の中で、国際会計士連盟会長(2000~2002年)及び日本公認会計士協会の会長(2004~2007年)という公務を引き受けたことは、任期中は苦難の連続と感じていたが、今から振り返ってみると、大変に貴重な経験をしたと思っている。 特に内外の組織のリーダーシップとはいかなるものか、会計職業人(Accounting Profession)のバックボーンとなる職業倫理や守るべき公益(Public Interest)とは何か、国際的な基準設定の重要性とこれら基準等へのコンプライアンスについての考え方など、自らの職業をグローバルな観点やより大きな視点から考えなおす機会を与えられた。 このような経験が、現在のIFRS財団の評議員(Trustees)としての仕事にも影響を与えているものと思う。 今までに国内外で知遇が得られた人々は、必ずしも同業者だけではなく、内外の企業経営者を含むビジネス関係者、レギュレータ(規制当局者)や官僚、政治家、国際機関の職員、アカデミア、ジャーナリストなど多くの異なる分野の人たちであったが、交流を通じて気づいた点は、有能な人は、程度の差はあるものの、健全な会計リテラシーの持ち主であるという点である。 さて、昨年末に誕生した安倍政権は、成長重視の政策転換を掲げて昨年12月の衆議院選に大勝した。大胆な金融政策、機動的な財政政策そして民間投資を喚起する成長戦略という「三本の矢」を統合し、名目3%の成長を目指す「アベノミクス」を発表した。 今のところ内外の市場の反応も良く、株価も為替も良い方向に向かっていることは歓迎すべきである。 しかし、バブルの崩壊後のデフレ経済が約20年間続き、巨額の財政出動によっても一時的な景気回復しか達成できず国の借金が膨れ上がってしまった過去の政策運営の失敗の轍を踏むことがないように、新政権には細心の注意を払って国の舵取りをしていただきたいというのが国民の本音であると思う。 新政権の進める経済政策等により持続的な成長を達成できるか否かが新政権の評価のポイントとなるはずで、会計的な視点からは、今や我が国はゴーイングコンサーン(永続企業)として存続できるかがが問われていると思う。 「アベノミクス」の行方について、会計リテラシーの観点から気になる点が2つある。 まず第一は、我が国の公会計制度改革の遅れである。 現在の公会計制度は原則として現金収支に基づく単年度決算をその特徴としているが、企業会計制度で求められている複式簿記による会計記帳と発生主義に基づく会計処理が採用されておらず、固定資産の減価償却という概念がない制度である。 したがって、国及び地方自治体の財政状況や行政活動の成果が、一部の専門家以外の者には容易に理解できない制度となっているため、財務情報のデスクロージャーを通じて組織としての報告責任を果たすという会計本来の役割を果たしていないという問題がある。 公的分野の会計基準についても、世界各国で普及し始めた国際公的分野会計基準(IPSAS)が設定されており、将来は国際会計基準(IFRS)と同様に公的分野の世界基準となる可能性がある。 石原慎太郎氏は都知事時代に東京マラソンの開催やオリンピック招致でリーダーシップを発揮したが、東京都に初めて複式簿記による会計制度を導入した点において大きな成果を上げている。 国政レベルにおいても複式簿記制度による公会計制度改革の法案を提出するとの新聞報道があったが、その成果を大いに期待したい。 第二の点は、国の政策立案に係る人たちの会計リテラシーの問題である。 新政権の成長戦略の中で、民間資金の呼び水として、政府資金を使って官民共同で投資法人を立ち上げるなどの案が議論されているが、国の資金が主役の役割を果たす投資法人であっても現行の企業会計原則の適用対象になるということを、きちんと理解しているかという問題である。 国の関与度合いが高い法人は、その法人の設置目的を遂行することが第一で、その障害となるような厳格な会計基準の適用は望ましくないという観点から、会計基準の適用を軽視したり避けたりする結果、損失の先送り、つまり実際の損失の認識がだいぶん後になって発生するという問題が生じる可能性があるからである。 噂ではあるが、国債の大量発行で将来国債の価格が暴落した時を見越して、金融商品への時価会計適用を凍結すべきという意見を言って回っている人たちがいるという話を聞いたが、このような現行会計基準からの逸脱は国家を挙げての粉飾決算をするようなものであり、事態を好転させるどころか、かえって深刻化させるだけの話である。 会計は、ビジネスの世界のみならず、公的分野に関与する人々にとっても必要かつ有益なリテラシーであることを再確認した上で、会計を大学の文科系学部の必須科目にすることを提案したい。 (了)
訂正報告書に見る 不適正会計処理の現状(1) 大阪経済大学教授 小谷 融 1 金融庁の不適正会計に対する対応 金融庁においては、オリンパスをはじめとする相次ぐ会計不祥事で損なわれた我が国証券市場の信頼回復を目指し、次の2つの検討がなされている。 一つは、平成24年10月1日から適用されている臨時報告書提出事由の拡大だ。 オリンパスは、有価証券の損失隠しを解消するために、売上高等の小さい会社を多額の資金で買収することにより、買収費用の資産化(のれん)を図った。多額の資金を使用した子会社の取得が適時に投資家に開示されていれば、経営トップによる、長年にわたる悪質な不正会計を防げたのではないかとの指摘がある。 それを受け、臨時報告書提出事由に、売上高の小さい会社に係る高額な対価による子会社取得が追加された。 あと一つは、平成24年12月11日に企業会計審議会監査部会から公表された「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定について」の公開草案だ。 この公開草案によると、監査人は「目的の不明な特別目的会社(SPC)が多数ある」などの不正リスクが認識された場合には、抜打ち監査や監査時期の変更など企業が想定しにくい監査手続をとらなければならない。 また、オリンパスの監査法人の交代で引継ぎが不十分だった反省から、前任と後任の監査法人が情報を共有するよう詳細な引継ぎ義務を課している。 2 訂正報告書 有価証券報告書提出会社が過去の財務諸表に関連して不適正な会計処理を発見した場合、その財務諸表の訂正と訂正後の財務諸表に対する監査証明を付した訂正報告書を金融庁に提出しなければならない。 この2月に清文社から刊行した拙編著『不適正な会計処理と再発防止策』において、平成19年7月1日から24年6月30日までの間に提出された訂正報告書について、①提出理由、②不適正な会計処理の内容、③不適正な会計処理が行われた背景、及び④その再発防止策の検討・分析を行ったところである。 これらの傾向や分析において判明した不適正な会計処理の特徴を、2回に分けてご紹介する。 なお詳細については、同書を参照されたい。 3 上場市場別の傾向 不適正な会計処理を行ったとして訂正報告書を提出した会社は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡の5証券取引所にまんべんなく見られる。 上場会社数に対する不適正な会計を行った会社の比率は、新興市場銘柄が本則市場銘柄よりも高くなっている。 その背景として、次のようなことが指摘されている。 (1) 企業の規模の違い 会社の規模が大きく、また複数の事業部門を抱えている場合、特定の部門において不適正な会計処理が行われたとしても、全社的に見ると財務上の影響は限定的なものにとどまる。そのため、金額的に重要性の範囲内に収まる。 しかし、会社規模が小さく事業部門も少ない場合や新興市場の会社の場合には、会社全体の財務へ重要な影響を与える。 (2) オーナ経営者による不適正行為 金融商品取引法に基づく内部統制制度等の整備により、上場会社の開示の正確性を担保する制度的な枠組みは、以前よりも構築されてきた。しかし、規模の小さい新興市場の会社では、管理部門が脆弱で、経営トップや稼ぎ頭の中核幹部の発言力が圧倒的なことから、不適正な会計処理やその発覚の遅れにつながる。 特に経営トップ自らが適正な開示・会計処理に対する自覚を欠く場合には、これを阻止することは事実上困難な場合が多い。 (3) ビジネスモデルが発展途上 新興市場の上場会社の中には、ビジネスモデルが発展途上である社が多い。そのような状況の中で、経営トップが、上場企業としての株価等を気にするあまり、あるいは、第三者からの期待又は要求に応えなければならない過大なプレッシャーを受けることにより、粉飾に手を染めるリスクがある。 上記1で述べた「監査における不正リスク対応基準」においては、このような不正リスク要因が「付録1」として公表されている。 4 不適正な会計処理の発覚経緯 不適正な会計処理が発覚した経緯は、個別的要素が強く多岐にわたるが、次のような類型に分類することができる。 それぞれについて、代表的な事例を掲げておく。 ① 証券取引等監視委員会による立入り調査 立入り調査を受け、その調査により、過年度にわたり不適正な会計処理が行われていたとの疑義が生じたことから、証券取引等監視委員会から社内にて調査するように指示を受けた。 ② 国税局の税務調査・監督官庁による調査 税務調査により、不適正な会計処理が行われている旨の指摘を受け、第三者委員会を設置して、それによる調査が開始され判明した。 ③ 取引先からの照会 取引関係業者から当社経理部に支払予定のない支払いの確認と支払要請があったことから、担当社員に問い質したところ、その社員が不適切な取引の事実関係を認めたことにより発覚した。 ④ 内部告発・外部告発 当社内部者から監査役会に対して内部告発があったことを受け、内部調査委員会による調査が開始され判明した。 ⑤ 内部監査・社内調査 受注後工事が延期となっていた案件の仕掛原価が増加していたため、事実関係の調査を行った結果、判明した。 ⑥ 子会社からの報告 子会社から不適正な会計処理を行っていた旨の報告があり、これを踏まえて社内調査を実施したところ、判明した。 (以下、次回に続く) (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第3回】 「繰延税金資産の回収可能性の 判断ポイント」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 繰延税金資産の回収可能性 1 繰延税金資産の回収可能性の判断は慎重に行うこと 一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払いが見込まれない税金の額を除いて、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)16項)。 繰延税金資産については、将来の回収の見込みについて毎期見直しを行わなければならない。 繰延税金資産の回収可能性とは、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかであり、この判断を適切に行うためには、将来の課税所得の十分性やタックスプランニングの存在等について、慎重な検討が必要となる。 その理由は、将来の課税所得の十分性などについては、将来事象の予測や見積りに依存することとなり、その客観性を判断することが困難な場合が多いためである。 また、繰延税金資産については、会社法上、特段の配当制限がなされていないため、その金額が分配可能額の算定に影響することも注意しておく必要があると考えられる。 繰延税金資産の回収可能性の判断のポイントは、次の事項と考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 2 収益力に基づく課税所得の見積り 個別税効果会計実務指針21項では、繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたり、大きく分けて を規定している。 本稿では「① 収益力に基づく課税所得の十分性」を用いて、繰延税金資産の回収可能性の基本的な考え方を解説する。 [数 値 例] (前提) ① 滞留棚卸資産 1,500千円について評価減 1,000千円を行い、帳簿価額を 500千円とした。 ② 評価減 1,000千円は税務上、損金とならないので、別表四で申告加算し、別表五で繰り越している。 ③ 法定実効税率は40%とする。 ※1 : (税引前当期純利益5,000+評価減1,000)×法定実効税率40% = 2,400 ※2 : 評価減1,000(=税務上の帳簿価額1,500-会計上の帳簿価額500)×法定実効税率40% = 400 (仕訳) 繰延税金資産(BS) 400 / 法人税等調整額(PL) 400 上記の例では、税務上の帳簿価額1,500と会計上の帳簿価額500により、将来減算一時差異1,000が発生している。 当該将来減算一時差異1,000が、将来のどの事業年度において解消し、税務上、損金算入となる見込みかについて、スケジューリングを行うことになる。 Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性の判断手順 「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、次のように、繰延税金資産の回収可能性の判断手順を述べている。 Ⅲ 適用に当たっての留意点 将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、多くの場合、それらと相殺可能な将来加算一時差異が少ないことから、将来の課税所得の発生に大きく依存することになる。 そこで、入手可能な情報や資料に基づき将来の課税所得の発生の可能性を毎決算期に見積もり、評価しなければならない(「税効果会計に関するQ&A」Q1)。 見積り・評価に当たって以下の状況にある場合には、より慎重な対応が要求される。 (了)