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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第13話】「重加算税と延滞税」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第13話】 「重加算税と延滞税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「それで・・・納税者には修正申告を勧奨したの?」 中尾統括官は税務六法を手に取り、国税通則法74条の11第3項をみる。 「はい・・・納税者は『修正申告書を提出する』と言いましたが・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、困った表情をする。 「ただ、納税者からどれぐらいの税金を負担しなければならないのかと・・・具体的な金額を尋ねられまして・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「そんな計算・・・簡単にできるだろう?」 中尾統括官の言葉に、浅田調査官は苦笑いしながら、頭をかく。 「まあ、そうなんですが・・・納税者との話し合いで・・・修正申告に、重加算税を賦課することになりまして・・・」 浅田調査官はバツの悪い表情になる。 「話し合いって?・・・どういう意味だ??」 中尾統括官の声が高くなる。午後からは税務調査のため所得課税第三部門は皆出張していて、2人以外、誰もいない。 「国税通則法68条に・・・重加算税の賦課要件として、隠蔽・仮装があるだろう・・・納税者は、どういう内容の申告をしていたんだ?」 中尾統括官は、税務六法のページをめくりながら尋ねる。 「・・・経費の中に、個人的なものを故意に入れており・・・しかも、領収書を改ざんして、あたかも事業用の経費であるかのように装っていたので・・・」 浅田調査官の説明は、歯切れが悪い。 「納税者は・・・それで納得しているの?」 中尾統括官は、再び尋ねる。 「はい、それで納税者は了解しました・・・ただ、その代わりに、一部の経費については、事業用の必要経費として認めました・・・」 浅田調査官は照れ笑いをする。 「それは・・・君が納税者と交渉して、重加算税を無理矢理、取ってきたといった感じだな・・・」 中尾統括官は顔をしかめる。 「しかし、納税者は、それでかまわないと言っていまして・・・ただ、資金繰りが悪いので、税金の負担を少なくしてもらいたいと・・・」 浅田調査官は真面目な表情になって答える。 「所得税そのものは3年分で150万円なのですが・・・それに35%の重加算税を課すると200万円を超えてしまうのです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の机の前に立ちながら説明する。 「確かにそうだが・・・ただ、それ以上に・・・延滞税もバカにならないだろう?」 中尾統括官が付け加える。 「延滞税・・・ですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔をみる。 「延滞税の計算は・・・確か1年間という特例規定があったと思いますが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の机の上に置いてある税務六法を開く。 「国税通則法61条1項1号では、延滞税はこのように、1年間で計算することになっています。」 浅田調査官は、条文を確認する。 「・・・それは通常の場合で・・・その条文のカッコ書きで、『偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた納税者が当該国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知して提出した当該申告書を除く』と書かれているだろう・・・そうすると、偽りその他不正の行為の場合には、計算を1年間に限定するという特例規定は適用されない。」 浅田調査官は、中尾統括官の示す箇所を見る。 「でも・・・これは『偽りその他不正の行為』であって、『隠蔽・仮装』ではないのですが・・・」 浅田調査官は抵抗する。 「延滞税については、「延滞税の計算期間の特例規定の取扱いについて」(直所1-18/昭和51年6月10日)という通達がある。・・・この通達では、①重加算税が課される場合、②通告処分若しくは告発がなされた場合には、特例規定は適用しないとしている。」 中尾統括官は、机の引き出しから通達集を取り出して、浅田調査官に見せる。 「ということは・・・国の解釈としては、条文上の表現は異なるけれど、『隠蔽・仮装=偽りその他不正の行為』と考えているんですね・・・そうすると、特例規定が適用できない場合、法定納期限の翌日から修正申告書の提出日までの期間が延滞税の計算対象となるので・・・延滞税の金額もバカになりませんね。」 そう言うと、浅田調査官は腕を組んで、思案顔になる。 (つづく)

#No. 288(掲載号)
#八ッ尾 順一
2018/10/04

《速報解説》 経済産業省、コーポレート・ガバナンス改革の深化に向け「CGSガイドライン」を改訂~社長・CEOの指名及び後継者計画記載を全面見直し~

《速報解説》 経済産業省、コーポレート・ガバナンス改革の深化に向け 「CGSガイドライン」を改訂 ~社長・CEOの指名及び後継者計画記載を全面見直し~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年9月28日、経済産業省は、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を改訂し公表した。 CGSガイドラインは、平成29年3月31日に公表されたものであるが、その後、平成30年5月18日に「CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)(第2期)中間整理」が公表され、その提言を受けて、今般、コーポレート・ガバナンス改革を形式から実質へと深化させていく上で重要と考えられる事項に関し、CGSガイドラインを改訂するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改訂内容 CGSガイドラインは、表紙を含め146ページに及ぶものであり、また、今回の改訂も多岐にわたっているので、以下では主な改訂内容について解説する。 1 社長・CEOの指名と後継者計画 社長・CEOは、優れた後継者に自社の経営を託すために、その重要な責務として、自らリーダーシップを発揮して後継者計画に取り組むことが期待されている。 そこで、社長・CEOは、就任したときから、自らの交代を見据えて後継者計画に着手することを検討すべきであると記載されている。 また、経営トップの交代と後継者の指名は、企業価値を大きく左右する重要な意思決定であることを踏まえて、優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するため、十分な時間と資源をかけて後継者計画に取り組むことを検討すべきであると記載されている。 このように、社長・CEOの指名と後継者計画に関する記載を全面的に改訂し、その重要性や、客観性・透明性を確保する意義について改めて整理している。 新たに別紙4「社長・CEOの後継者計画の策定・運用の視点」が作成されており、次の7つのステップに分けて検討することが有益と考えられると記載されている。 2 取締役会議長 各社には取締役会の監督機能を強化することが求められている。 そこで、監督を受ける立場にある社長・CEO等が取締役会議長を兼ね、そのイニシアティブで議案の選定や議事進行を行うよりも、取締役会議長は監督を行う立場にある社外取締役などの非業務執行取締役が務め、執行側は業務執行に関する説明を行う役割に徹する方が、取締役会の監督機能の実効性を確保しやすいと考えられると記載されている。 他方、取締役会の意思決定機能も重視する企業では、社外取締役が取締役会議長を務める場合には、必ずしも社内の情報に精通しているわけではない社外取締役が適切に議案選定や議事進行を行うことを可能とするための環境整備が必要と考えられるとし、取締役会における決議事項・報告事項等を改めて整理することに加えて、取締役会議長を務める社外取締役の十分な時間を確保することなどが記載されている。 3 指名委員会・報酬委員会の活用 本年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、指名委員会・報酬委員会の設置が原則化したことを踏まえ、委員会の構成については、社外取締役が原則であることを明確化した上で、①社外役員が少なくとも過半数であるか、または、②社外役員とそれ以外の委員が同数であっても委員長が社外役員であることを検討すべき旨を記載している。 4 社外取締役の活用 社外取締役が実質的な役割・機能を果たす上では、必要な資質・背景を有していることに加えて、アベイラビリティ(社外取締役として必要な時間や労力を自社のために費やせること)や、責任感と覚悟(自社の企業価値向上への意思・意欲があること)も重要であると記載されている。 例えば、適格性の確認の一環として、社外取締役候補者の本業や兼職の状況を確認することや、あらかじめ社外取締役の兼職数の上限の目安を設けておくことなども検討に値すると記載されている。 また、社外取締役の再任基準を設けておくことを検討すべきであると記載されている。 5 相談役・顧問 平成30年1月1日、東京証券取引所により「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の様式及び記載要領の一部改訂が行われ、代表取締役社長等を退任した者の相談役や顧問などへの就任の有無の記載欄が新設された。 代表取締役社長等を退任した者が、引き続き、相談役や顧問などに就任している場合には、その氏名、役職・地位、業務内容等を記載することが望まれている。 企業においては、この欄を利用して積極的に情報発信を行うことが期待されている。 (了)

#No. 287(掲載号)
#阿部 光成
2018/10/01

《速報解説》 消費税率の10%引上げまで1年を切る~あらためて最新情報の確認を~

《速報解説》 消費税率の10%引上げまで1年を切る ~あらためて最新情報の確認を~   Profession Journal編集部   2019年10月1日の消費税率の10%への引上げ、及びそれに伴う8%の軽減税率導入まで、いよいよ1年を切った。日本商工会議所が9月28日付で公表した「中小企業における消費税の価格転嫁および軽減税率の準備状況等に関する実態調査 調査結果について」でも約8割の事業者が「(軽減税率制度については)準備に取り掛かっていない」と回答するなど、準備不足の企業が非常に多い現況が見て取れる。 一方で、税率引上げ前後の景気変動対策を除き、来年10月以降の新制度について、法令通達の改正による整備は完了したと言っていいだろう。国税庁が6月に公表したインボイスの取扱通達及びQ&A、8月に公表した3パターンによる「軽減税率制度に対応した申告書の作成手順」は新しい情報だが実際に関係する場面はまだ先で、当面は区分記載請求書等保存方式による対応となり、これらに関する情報の多くは既に2年ほど前に公表されているものだ。 この消費税率に係る改正への対応については、大きく「税率の引上げ」と「軽減税率の導入」に分けて考えたほうがよいだろう。 まず、軽減税率に関する情報は、国税庁HPにおける特設ページ(消費税の軽減税率制度について)においてまとめられており、上記の通達やQ&Aなどのパンフレットを確認することができる。 税率引上げに係る消費税法の改正当時は意識して情報を収集していたが、二度にわたる引上げ時期の延期もあって、その後公表された情報で未確認のものが存在する可能性もある。また、初めて公表されてから現在までの間に内容が改訂されている資料もあるため、上記特設ページに掲載された最新の情報について、(改訂の有無も含めて)あらためてチェックしておきたい。 さらに全国の税務署が主催する説明会も盛んに開催されており(国税庁HP「消費税軽減税率制度説明会の開催予定一覧」)、「消費税軽減税率電話相談センター(軽減コールセンター)」では電話による問い合わせを行っているため(電話代は自己負担)、上記資料の確認だけでは不安の残る場合、直接質問のできるこれらの機会も活用を検討したい。さらに飲食業など影響の大きい業界によっては、業界団体が統一的に対応を図っている場合も考えられる。広報誌などにセミナー等情報が掲載されていないか、今一度確認しておきたい。 また、中小事業者が軽減税率への対応としてレジや受発注システムの改修を行う際に受けられる軽減税率対策補助金については、昨年、補助事業の完了期限が「平成30年1月31日までに申請したもの」から「平成31年9月30日までに事業完了したもの」へ延長されたものの、冒頭のアンケート結果などから、今後、駆け込みの申請が急増することも十分想定される。 一方で中小企業庁からは、公募要領や申請の手引きなどをしっかりと読み込まずに申請して却下されるケースや、不適切と思われる申請案件が多くあるとの注意喚起がなされており、不正と疑われる案件については補助金の返還を求められることもあるとしているため、慎重かつ速やかな対応が望まれるところだ。 これら軽減税率をめぐっては、マスコミによる報道等の効果もあって比較的意識が向けられている面もあるが、来年10月から消費税の税率が2%引き上げられる(変更となる)ことへの実務上の対応については、二度の延期という経緯もあり、意識の薄れという印象も否めない。 この点について当面留意したいのが、8%の引上げ時にも問題となった「経過措置」、すなわち、税率引上げ後においても旧税率が適用される取引の存在だ。国税庁が公表した「消費税法改正のお知らせ(平成28年4月)(平成28年11月改訂)」には主な経過措置の内容が示されているため、自社にこれらに係る取引形態のものが存在する場合は、契約書の日付や更新時期、消費税の取扱いに関する条項などを確認しておきたい。なお、軽減税率が適用される取引については経過措置が適用されないケースもあるため、この点も留意しておきたい。 また、法令上求められる対応を前提として、実際に自社がどのような手順でどのような対応をとるべきかについては、2014年4月1日に5%から8%への税率引上げが行われた前後において、どのような対応を行ったか、またはどのような問題が起きたか、という点も参考となる。経理や法務、システム等の担当者が当時と異なる場合は、当時の担当者へのヒアリングや社内記録の確認などを行うことも有効といえよう。 ここで、前回の引上げと異なり、今回はその時期が10月1日であるという点も留意しておきたい。つまり3月決算法人の場合、事業年度途中に税率が変更されるということは、様々な準備を行う上で意識しておくべだろう(本件については11月に本誌で解説記事を掲載する予定です)。 なお、最新の情報がまとめられた次のDVDや書籍についても有効に活用し、社内研修等で従業員への周知を図っていただきたい。 (了)

#No. 287(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/10/01

《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会が報告書「監査活動の現状と監査役の役割・責任について」を公表~昨今のコーポレートガバナンス改革に伴い監査役監査全般について課題・問題点をとりまとめ~

《速報解説》 日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会が報告書 「監査活動の現状と監査役の役割・責任について」を公表 ~昨今のコーポレートガバナンス改革に伴い監査役監査全般について課題・問題点をとりまとめ~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年9月27日(ホームページ掲載日)、日本監査役協会関西支部監査役スタッフ研究会は「監査活動の現状と監査役の役割・責任について-コーポレートガバナンス改革を受けた実効的な監査役監査を目指して-」(以下「報告書」という)を公表した。 これは、平成27年5月に改正会社法、改正会社法施行規則の施行、同年6月にはコーポレートガバナンス・コードの適用が開始され、約3年が経過したこともあり、改めて監査役監査全般について、各社の監査活動の現状を調査し、それぞれの活動における課題や問題点等について研究を行ったものである。報告書にはアンケート結果も記載されているので、実務の動向などを知ることができる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 報告書は、第1章に機関設計毎の監査役の責任と権限に関する解説、第2章に監査活動に関する今回のアンケート結果、第3章にスタッフ研究会としての意見という構成となっている。 以下では主な内容について解説する。 1 重要会議(経営会議、常務会等)への出席 重要会議(経営会議、常務会等)にどの程度出席しているかについては、大会社以外を含め、90%以上の会社が大半又はすべての会議に出席しており、監査役が重要視していることが伺えるとのことである(15ページ)。 その他の会議への出席については、代表取締役及び取締役が出席する会議(予算策定・決算報告の事前会議、投融資会議、保安防災・安全会議等)、内部統制システムに係る重要な会議・委員会(内部統制委員会、リスク・マネジメント委員会等)、その他情報収集のための必要な会議等が挙げられる(18ページ)。 2 役職員からの非定例報告(リスク情報の聴取) 役職員からのリスク情報(事件・事故・不祥事情報、法令違反、セクハラ・パワハラ・メンタル疾患の発生など)の聴取での工夫に関して、事実を正確に聴取し、情報の信頼性を確認することを重視し、複数の関係者から事情聴取を行ったり、聴取前に事前調査を実施したりすることや、気になることや疑問点があれば積極的に事情聴取を実施していることなどが記載されている(23ページ)。 3 子会社の役職員からの報告聴取など 子会社往査を報告聴取の場として活用する会社が多いが、子会社の重要性等により頻度や報告方法を変えるなど、メリハリをつけて実施しているという回答も多数見られるとのことである(26ページ)。 子会社との定期的なミーティングや、質問票の事前送付、報告書の事前提出などにより、効率化の工夫をしている事例も見られるが、それでもなお、子会社を多く有する会社では、報告聴取の機会づくりは、限りある要員と時間の中で課題となっているようであるとのことである(26ページ)。 また、子会社への往査の手法としては、面談・ヒアリングと現地視察が会社区分にかかわらず80%以上と最も多いとのことである。常勤監査役が直接子会社へ赴き、面談・ヒアリングを行うケースが多いと思われるが、内部監査部門や会計監査人に同行するケースは半数以下であった(30ページ)。 4 会計監査人との連携 監査役(会)と会計監査人との連携は、四半期毎に実施している会社が多いとのことである。会計監査の実施状況だけでなく、双方が様々な事象やリスクについて忌憚のない意見交換ができるよう、代表社員以外の実務担当者ともコミュニケーションの機会を設けており、会計監査人の監査によって得られた情報を、監査役監査にも生かせるよう工夫を行っているものと考えられるとのことである(40ページ)。 5 計算関係書類の監査 会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類を作成した取締役から計算関係書類を受領し、監査役の視点から監査を実施するが、その後、会計監査人から会計監査報告を受領し、会計監査人の監査の方法及び監査の結果について意見表明、監査報告の作成を行う(41ページ)。 したがって、計算関係書類の監査については、第一義的には職業的専門家である会計監査人が行うことになるが、監査役としても、計算関係書類の記載項目の適法性、計算関係書類の数値の適正性について監査することが必要である(41ページ)。 大会社では、会計監査人の監査結果の確認と経理部門からの説明により計算書類関係の適法性、適正性の確認を行っているケースが多いが、重要な項目については、根拠資料を自ら確認し、会計監査人の監査結果への意見形成の材料とする必要があるとのことである(42ページ)。 6 会計監査人の相当性の判断 会計監査人の相当性判断において、70%を超える会社に基準があり、そのうち85%の会社がチェックリストを作成しているとのことである(45ページ)。 監査計画や監査の実施状況を、会計監査人からの報告聴取や監査立会いで確認している会社が多いと思われるが、相当性の判断では、監査役との適切なコミュニケーションや監査計画の妥当性、監査チームの体制等が重視されているとのことである(45ページ)。 7 有価証券報告書等の監査 監査役による有価証券報告書の記載内容の監査については、法令上義務付けられていないが、取締役の職務執行の監査の一環として、虚偽記載がなく適正に作成・報告されていることを確認する(45ページ)。 しかしながら、監査の方法については、取締役会での報告・聴取だけでよいのか、さらに根拠資料の確認まで実施するべきではないのかなど、一律的なルールではなく、開示資料の重要性や作成プロセスの適切性に対する監査役としての判断が重要になってくると考えられるとのことである(47ページ)。 (了)

#No. 287(掲載号)
#阿部 光成
2018/10/01

《速報解説》 改正相続法で新設される預貯金債権の仮払い制度、単独行使による金融機関ごとの払戻し限度額は150万円に~改正法務省令案がパブコメに付される~

《速報解説》 改正相続法で新設される預貯金債権の仮払い制度、 単独行使による金融機関ごとの払戻し限度額は150万円に ~改正法務省令案がパブコメに付される~   Profession Journal編集部   本年7月6日に成立し同月13日に公布された民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律、いわゆる民法(相続法制)の見直しについては、遺言書制度の見直しや配偶者居住権の創設等の一部を除き、施行は公布日から1年以内とされている。 法務省はこのほど9月28日付で、改正民法に関する法務省令案を公表し意見募集を行っている(意見・情報受付締切日は10月27日)。 今回パブコメに付された法務省令案は、次の事項について定められたもの。 平成28年12月19日の最高裁決定によって、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、共同相続人による単独での払戻しができないこととされたため、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金が必要な場合にも、遺産分割が終了するまでの間は被相続人の預金の払戻しができないという問題が指摘されていた。 このため改正民法では、一定の条件下で、次の2つの方法によって、遺産分割前でも被相続人の預金の払戻しが受けられる仮払い制度が創設されることとなった。 上記のうち①の方法については、家庭裁判所への申立てが必要とされ、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができるとされ(改正家事事件手続法200条3項)、仮払いの額については家庭裁判所の判断によるものとされている(詳しくはこちらを参照)。 一方で②の方法による場合、家庭裁判所への申立ては必要とされず、共同相続人が単独で(他の共同相続人の同意がなくても)以下の【計算式】で求められる金額まで払戻しを受けることができる(改正民法909条の2)。 ただし、この場合の払戻し金額には上限が設けられており、改正民法では下記のとおり、その具体的な限度額については、法務省令に委ねられていた。 今回パブコメに付された法務省令案では次のとおり、その限度額を150万円と定めている。 これまで法制審議会では金融機関1つあたりの上限を100万円で検討していたが、法務省はパブコメの補足説明において、150万円という限度額を定める際の考慮要素として、上記改正民法にて「標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案」するとされていることから、「標準的な生計費の額」として世帯人員が1名の標準生計費は1ヶ月当たり12万円弱、「平均的な葬式費用の額」として150万円前後という数値を各種統計情報から導き出し、さらに金融機関における平均口座保有数が約3.5個であることから、複数の金融機関から合計で150万円を超える金額を払い戻すことも可能であるとしている(根拠となる統計情報については補足説明を参照)。 また法務省は、仮に単独による預貯金の払戻しによって必要となる生計費等の額をまかなうことができない場合には上記①の方法によることもでき、さらに、払戻しをすることのできる金額が多額になると、具体的相続分を超過した払戻しがされた場合に他の共同相続人の利益を害する程度が大きくなることをその理由として説明している。 なお、今回の法務省令案については、冒頭述べたとおり意見・情報受付締切日は10月27日とされ、改正民法の施行の日から施行される。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 257(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/09/28

《速報解説》 金融庁、「監査上の主要な検討事項」(KAM)記載に対応した「財務諸表等の監査証明に関する改正内閣府令(案)」等を公表

《速報解説》 金融庁、「監査上の主要な検討事項」(KAM)記載に対応した 「財務諸表等の監査証明に関する改正内閣府令(案)」等を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年9月26日、金融庁は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(企業会計審議会、平成30年7月5日)により、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」を記載することなどを受けたものである。 意見募集期間は平成30年10月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」(案) 監査報告書等の記載事項について、次のように規定する。 2 「企業内容等の開示に関する内閣府令」(案) 「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条の臨時報告書の記載内容等に関する改正である。   Ⅲ 適用時期等 改正後の府令は公布の日から施行する。 なお、以下の経過措置が規定される予定である。 また、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の一部改正に伴う経過措置も規定される予定である。 (了)

#No. 287(掲載号)
#阿部 光成
2018/09/27

《速報解説》 BEPS防止措置実施条約、2019年1月1日の発効が明らかに~条件を満たした租税条約相手国は現在5ヶ国~

《速報解説》 BEPS防止措置実施条約、2019年1月1日の発効が明らかに ~条件を満たした租税条約相手国は現在5ヶ国~   弁護士 木村 浩之   1 BEPS防止措置実施条約の発効 平成30年9月27日付けで、財務省は、BEPS防止措置実施条約(税源浸食及び利益移転を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約)が、日本について、2019年1月1日に発効することを公表した。 これにより、同日以降、関係する各国との租税条約(所得に対する租税に関する二重課税防止のための条約)が、BEPS防止措置実施条約に従って修正され、適用されることになる。   2 BEPS防止措置実施条約とは 平成27年10月にOECDがBEPSプロジェクトの最終報告書を公表したが、それには租税条約の改正に向けた内容が含まれる。これを受けて、平成29年11月にはOECDモデル租税条約の改正がなされた。 ところが、租税条約は通常二国間で締結されるものであるところ、モデル条約の改正はあくまでも将来の二国間の交渉によって租税条約を新規に締結する場合や改正する場合に参照されるべきものであり、過去に締結された租税条約を書き換える効力を有するものではない。すでに締結されている租税条約は3,000を超えて存在しており、実際にこれらが改正されるには非常に長い年月を要する。 このようなことから、既存の租税条約の改正をより迅速かつ効率的に実現するため、多数国間でBEPS防止措置実施条約が締結された。これに日本も含まれており、今般、その発効に必要な手続が完了したものである。   3 BEPS防止措置実施条約の適用関係 BEPS防止措置実施条約は、適用関係がやや特殊であり、各国が相互に相手国との間の租税条約について適用することを選択し、かつ、必要な手続を経て各国について本条約が発効した場合に適用される。 日本に関しては、かかる条件を満たした租税条約の相手国は次のとおりとされる(平成30年9月26日現在)。 また、本条約は様々な規定を含むものであり、各国が必ず適用しなければならない規定と各国が任意に適用を選択できる規定があるが、いずれにしても双方の国で適用することが選択された規定のみが適用される。 日本では、次のとおり規定の適用について選択がなされている。   4 実務上の留意点 二国間の租税条約を適用するに当たっては、否応なく、BEPS防止措置実施条約の適用関係を踏まえて、既存の租税条約にどのような修正がなされているかを確認する必要がある。本稿は、日本の租税条約についての適用関係の概要を述べたものであるが、海外に子会社を有する企業にとっては、日本の租税条約のみならず、日本が当事者とはなっていない租税条約についての適用関係も検討する必要がある。 これはかなり複雑な作業となりうるが、OECDにおいて、各国の選択や本条約の発効状況についての取りまとめがなされている。その上で、簡易に適用関係が確認できるデータベース(ベータ版)が提供されているので、これを活用することが有用である。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 287(掲載号)
#木村 浩之
2018/09/27

プロフェッションジャーナル No.287が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年9月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.287を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/09/27

山本守之の法人税“一刀両断” 【第51回】「協同組合等の性質と税制の対応」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第51回】 「協同組合等の性質と税制の対応」   税理士 山本 守之   1 普通法人、一般社団法人又は人格のない社団等の法人税率 (1) 法人税率(原則) ①の法人については、法人税率は次のようになっています。 ②の法人については、法人税率は次のようになっています。 ①及び②において、平成28年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する事業年度にあっては、「23.2%」とあるのは「23.4%」となります。 なお、各事業年度の所得に対する法人税額を計算する場合に、課税標準に1,000円未満の端数があるときはその端数を、課税標準の金額が1,000円未満であるときは、その全額を切り捨てます(通則法118①)。 (注1) 「大法人」とは、次の法人をいいます。 ① 資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人 ② 相互会社又は外国相互会社 ③ 法人課税信託の受託法人 (注2) 「一般社団法人等」とは、法人税法別表第二に掲げる一般社団法人及び一般財団法人並びに公益社団法人及び公益財団法人をいいます。 (注3) 年800万円以下の金額=800万円×当該事業年度の月数÷12 (2) 中小法人等の軽減税率の時限的引下げ 上記(1)①の法人の平成24年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額に対する軽減税率は15%とします。   2 公益法人等、協同組合等の法人税率 (1) 法人税率(原則) 公益法人等、協同組合等の法人税率は次のようになっています。 なお、公益法人等には、一般社団法人等は含まれません。また、協同組合等のうち、特定の地区又は地域に係るもので、物品供給事業に係る収入金額の総収入金額に占める割合が50%超、組合員数が50万人以上、かつ、店舗において行われる物品供給事業に係る収入金額が1,000億円以上である事業年度にあっては、所得金額のうち10億円を超える部分に対する税率は22%となります。 (2) 軽減税率の時限的引下げ 公益法人等、協同組合等の平成24年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額に対する軽減税率は15%となります。 上記のように法人の所得金額によって軽減される税率は異なりますが、これらは担税力の有無によって定められています。 しかし、各法人は担税力を配慮して税額で区分すればよいのでしょうか。法人の種類によって課税標準の計算手法を変えなければならないのではないでしょうか。   3 協同組合等が支出する災害見舞金等 現在の取扱通達では、協同組合等が支出する災害見舞金については、交際費等ではなく損金の額に算入することにしているため、課税しないことになっています。 農業協同組合にとっての組合員である農家、中小企業等協同組合にとっての組合員である中小企業は、いずれも一般消費者に該当しません。むしろ取引態様からみて、これらの組合員は協同組合等の得意先又は仕入先であるともいえます。 このような視点から観察すれば、協同組合等がその組合員の災害等に際して災害見舞金を支出したときは、得意先、仕入先等に対する慶弔、禍福に際して支出する金品であるから、交際費等に該当するという考え方ができなくもありません。 課税庁ではこのような考え方から、かつて新潟地震による災害見舞金(物品を含む)について交際費として取り扱った時期もありました(昭39直審(法)144通達「11」)。 (注4) 現行の取扱いでは、「法人が、被災前の取引関係の維持、回復を目的として災害発生後相当の期間内にその取引先に対して行った災害見舞金の支出又は事業用資産の供与若しくは役務の提供のために要した費用は、交際費等に該当しないものとする。」(措通61の4(1)-10の3)としています。 しかし、協同組合等は、もともと事業を行う法人又は個人が相互扶助の理念に基づいて協同して事業を行うために存在するもので、組合員の福利厚生は本来の目的事業の1つといえます。 このような意味からすれば、本来事業の1つとして組合員に災害見舞金を支出した事実をとらえて、「得意先、仕入先等の慶弔、禍福に際して支出する金品」に該当するとして交際費課税の対象とするのは、実情に即した取扱いとはいえません。 つまり、災害見舞金が交際費等となるためには、「付き合いとしての贈答」であることが必要ですが、協同組合等が組合員に支出する災害見舞金は、助け合い(相互扶助)を目的とする協同組合の存立目的からみて、本来事業としての福利厚生であり、これを「見舞金」という単純な発想から交際費等とするのは誤りなのです。 幸いなことに、課税庁でもこの誤りに気付き、昭和54年10月18日の通達改正に際し、次のような措置法関係通達(措通61の4(1)-11)を新設して交際費等としないこととしました。 この通達に関する解説(「措置法通達逐条解説 法人税関係」(桜井巳津男・松橋行雄他著、財経詳報社)では次のように述べています。 条理からみて、当然のことを解説しているに過ぎません。むしろ、税に携わる者として、この通達は他にも大きな意味を持っています。 わが国の法人税法は、営利法人である株式会社等だけを対象としたものではなく、協同組合など非営利法人の税務についても共通して適用されています。しかし、対象となる法人はそれぞれ存立目的を異にしており、法人税法はその存立目的を十分配慮した上で解釈適用されなければなりません。つまり、法人の存立目的に配慮しながら課税所得計算に関する解釈原理が樹立されなければならないのです。 例えば、営利法人である株式会社にとってみれば交際費等に該当するものであっても、協同組合等にとっては通常の事業経費であるという場合は数多く存在します。しかし、法解釈に携わる者がともすれば画一的な解釈基準のなかに埋没して、個別的な実情を配慮しないということを長い間行ってきたのです。 この通達は、このような考え方を反省し、法人の存立目的にまで目を向けて、実情に即した取扱いをすることを明らかにしたものです。今後は、この通達だけではなく、他の取扱いについても、このような考え方に基づいて見直しを行うべきでしょう。 なお、通達における「災害見舞金」は単なる例示で、組合員等に対する福利厚生事業の一環として一定の基準に従って行われるものである限りは、慶弔、禍福のすべての支出金を交際費等としないという意味です。 残念なことに、法人の存立目的による解釈を明示したのはこの通達だけですが、寄附金課税等についても、株式会社と協同組合等ではその解釈基準が異なることを念頭に置いた通達等が整備されることを望みます。   4 保険会社の契約者配当の損金算入と協同組合等の事業分量配当等の損金算入  (1) 契約者配当金の場合 法人が行う利益又は剰余金の分配は資本等取引に含まれ、各事業年度の所得の金額の計算には関係がないものとされているので、保険会社の行う契約者配当も形式的には資本等取引に該当し、その事業年度の損金の額には算入されないこととなります。 ところで、相互保険会社における契約者配当金は、「配当金」という名称を用いていますが、実質はその保険料の割戻し若しくは将来の保険料の引下げを意味します。また、相互保険会社は、保険契約者が保険契約者たる地位と相互会社の社員たる地位とを合わせ持つ法人ですから、この契約者に支払われる配当は、単に「保険料の割戻し」という意味のほかに、社員総会によって決定され支払われる利益配当の形式をとることになります。 しかし、この場合においても、その性格は保険料の割戻し若しくは保険料の引下げを意味するものなので、これを利益の処分とすることは適当ではありません。そこで、これを利益処分として行う場合にも、本来の性格に応じて損金の額に算入することを明らかにするとともに、その損金算入限度額を定めています。 なお、法人税法第60条は、株式会社の場合にも適用されるのであり、株式会社については、本条の規定を待つまでもなく契約者配当は損金経理により損金の額に算入されることから、ただし書が適用され株式会社についての損金算入の限度額が定められていることになります。 (2) 協同組合等の事業分量配当金の場合 協同組合等は、組合員の公正かつ自主的な経済活動を促進し、その経済的地位の向上を図るために、組合員の事業についての共同行為を行うことを目的とする特別の法人です。つまり、助け合いによる割戻しの性格となっています。 この協同組合等の剰余金のうちには、組合員との間における取引から生ずるものが大部分を占めています。したがって、協同組合等に生ずる利益については、法令又は定款の定めるところにより、出資に応ずる配当のほか組合員の組合事業の利用分量に応ずる配当をすることができることになっています。 このような事業分量配当は、協同組合等の利益をその本来の享受者たるべき組合員に帰属させようとするものであって、その性格は、組合員に対する一種の割戻しの性格を持つものであると考えられます。 しかし、組合員は「組合組織の利用者としての地位」と、あくまでも「法人たる組合に対する資本主としての地位」という両面を持っているので、共同事業によって得た利益をすべて事業の利用分量に応じて分配してしまったときは、出資者としての利益が害されるおそれがあります。 したがって、この組合員の性格からして、協同組合等の利益の分配については、剰余金の処分によるべきことになっているのですが、原則として、利益又は剰余金の分配は資本等取引として各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないこととされていることから(法22条)、その利益の分配については、その性格が割戻しの性格を有することに着目し、特に別段の定めにより損金の額に算入することを認めることとしているのです。   5 税制調査会の誤り 平成28年度与党税制改正大綱(p5)では、協同組合税制について次のように書かれています。 ここでは、事業分量配当金の損金算入を「過剰な支援」としていますが、事業分量配当金は一種の売上割戻しとみて損金算入をしているので、決して支援ではありません。この点は財務省の説明も同様です。 協同組合等に対する事業分量配当金は税理論からみても一種の売上割戻しとして損金算入を認めているので、決して税の優遇ではないのです。財務省も政治家も、もっと税理論を勉強してほしいものです。 (了)

#No. 287(掲載号)
#山本 守之
2018/09/27

これからの国際税務 【第9回】「税の透明性プロジェクトと金融口座情報の自動的交換」

これからの国際税務 【第9回】 「税の透明性プロジェクトと金融口座情報の自動的交換」   早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二   1 国際的課税逃れ対策は 多国籍企業向けBEPSプロジェクトにとどまらない 本年7月にブエノスアイレスで開催されたG20財務大臣等会合共同声明では、税源浸食・利益移転(BEPS)プロジェクトの勧告内容の実施と並んで、「2018年中に税に関する金融口座情報の自動的情報交換」を予定通り実行すべきと勧告した。 非居住者に係る金融口座情報(氏名・住所、納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等)は、「共通報告基準(CRS)」と呼ばれるフォーマットに従い、本年末までに多くのタックスヘイブンを含む102の国・地域によって、相互に居住地国当局に対し第1回目の交換が実施されることが合意されていたが、その実現に向けた政治の強いコミットメントが公表されたのである。 本件データの年1回の定期的情報交換は、パナマ文書やパラダイス文書の開示を契機として海外の金融機関を利用した国際的な脱税・租税回避と戦っている課税当局にとっては、非居住者の海外活動や資産保有を明らかにするための新たな情報源となり、牽制効果も期待されている。 なお、G20では、この自動的情報交換を中心とした税の透明性に向けた各国の取組ぶりにつき参加国間でピアレビューを行い、その結果非協力な国・地域と特定された場合は、その名を公表するとともに防御的措置と呼ばれる対抗策を行うと警告している。 以下では、本件国際協調の内容と我が国における取組状況を解説する。   2 金融口座に関する税の情報交換 本件プロジェクトを実行するのは、OECD加盟国に非加盟国を含めた153ヶ国・地域が参加する「税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム」であり、米国が国内法(外国口座税務コンプライアンス法)の下で開始した米国市民の外国金融口座情報入手制度を手本として、OECDの起草の下で情報交換のマルチ合意にまで高められたものである。 日本の金融機関は非居住者の口座情報を、外国の金融機関は日本の居住者の口座情報を、それぞれ自国の税務当局に提供し、それを受領した当局間では、租税条約に基づく情報交換の仕組みにより電子データを交換する。なお、受け皿となる租税条約は、従来はもっぱら二国間条約であったが、2011年からはG20により署名勧告が行われた「税務行政執行共助条約」という多国間条約への参加国の拡大により、交換可能国数が飛躍的に拡大している(我が国にとっては、二国間条約を根拠とするもの81ヶ国・地域、多国間条約を根拠とするもの45ヶ国・地域)。 ところで、上記制度の運用に際しては、租税回避目的で報告対象要件への該当性を人為的に外す取極め等が活用される懸念もぬぐいされない。この対応策もOECDで議論され、2018年3月にOECDの「共通報告基準回避取極め等の強制的開示規則」モデルが公表された。 これは、「非居住者の金融口座情報」という報告対象となる要件への該当性を、人為的な取決めによって回避する試みに対抗するものであり、国内実体法における一般的否認規定(GAAR)の、情報交換手続法に関するバージョンともいえるものである。具体的には、共通報告基準を回避する取極めとオフショアの仕組み(適用要件該当をすり抜ける取極め又は資産や所得の受益者を隠匿する取極め)であり、プロモーターや仲介業者(補充的に納税者自身も)にスキームの開示義務を課すべきとしている。   3 我が国における実施状況と納税者の備え 我が国は、条約で約束した金融口座情報交換を担保するための国内法改正を平成27年度改正で行い、国内に所在する金融機関から非居住者が保有する口座の情報について報告を受ける制度を導入した(租税条約実施特例法10条の5、以下「実特法」と呼ぶ)。 報告義務を課せられる金融機関は、銀行等の預金機関、証券会社等の保管機関、投資信託等の投資事業体、生保・損保等の特定保険会社とされている。報告金融機関により報告対象となる口座等はそれぞれ異なるが、報告対象者(租税条約の適用がある自動的情報交換の相手国の居住者)が直接保有する口座のみならず、自ら支配する受動的非金融機関事業体を通じて間接保有する金融口座も対象とされている。 報告金融機関は、まず口座保有者の居住地国を特定して、報告すべき口座を選別しなければならない。これらは共通報告基準に定められた手続に従うことが予定されている(実特法10条の5第2項)が、基本的な判断資料は、報告対象となる「特定取引」を行う者が報告金融機関の長に新規取引開始の際提出すべきとされる情報等(氏名・名称、住所、居住地国、外国の納税者番号等)である。 ただし、新規の口座開設か既存口座の取引か、更には金額の多寡によって、以下の通り居住地特定手続きが区分されている。 (注) 財務省ウェブサイト掲載「平成27年度税制改正の解説」P.627より抜粋 なお、届出書の提出義務及び報告事項の提供義務違反に対しては、罰則が規定されている(実特法13条1項)。 なお、これからの執行本格化にあたって懸念されるのは、名宛人でなく受益者に着目した情報交換という情報の真実性の維持をどのように担保するのかという課題であると思われる(実特法10条の5第1項では特定取引を行う者については事業体の場合「実質所得者」ベースでの居住認定が必要としている)。この点では、マネーロンダリング対応での経験も生かした各国の取組みが今後参照されるとも思われるので、口座保有者及び報告金融機関においても、十分慎重な対応が求められることとなろう。 実特法に基づく金融口座情報報告制度は、平成29年1月から施行され第1回目の税務署長への報告は、平成30年4月30日までに前年の非居住者情報分につき終了し、現在はOECDが開発した共通送受信システム(暗号化や電子証明書による認証などセキュリティ対策を装備)を利用して当該非居住者の居住情報に加え口座残高、利子・配当等の年間受取総額等が、すでに送受信が可能な状態にあると思われる。 (了)

#No. 287(掲載号)
#青山 慶二
2018/09/27
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