公開日: 2017/09/21 (掲載号:No.236)
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〈ドローン・ビジネス関係者は必ず知っておきたい〉ドローンをめぐる法律と規制の基礎知識

筆者: 森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会

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〈ドローン・ビジネス関係者は必ず知っておきたい〉

ドローンをめぐる法律規制基礎知識

 

森・濱田松本法律事務所
ロボット法研究会
弁護士 戸嶋 浩二
弁護士 林 浩美 
弁護士 岡田 淳 
弁護士 増田 雅史

 

1 はじめに

「ドローン・ビジネス」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。高精細カメラによるニュース映像や災害情報の無人空撮、離島や山間部など自動車交通が難しい地域での食品や日用品の宅配ビジネス、群体飛行する小型ドローンが織りなす夜空のライトショー・・・いずれも、情報通信技術やGPSの発達により技術上は既に十分な実現可能性のあるビジネスである。地上に暮らす我々にとって、一部の限られた移動手段を除きほとんど利用されることのなかった広大な上方空間は、地球上で最後のフロンティアといえるかもしれない。

他方、個人所有のドローンが急速に普及したことで、後述する「首相官邸ドローン侵入事件」のように、ドローンによる事件や事故も頻発することとなった。

このような背景から、ドローン・ビジネスの産業としての発展、安全・安心の確保、という異なる命題をバランスよく実現するため、航空法の改正後も望ましい法制度の在り方が継続的に検討されている。本稿では、改正航空法のポイントを簡潔に紹介したい。

 

2 首相官邸ドローン侵入事件と航空法の改正

安倍政権がドローンを含むロボットの活用を成長戦略に掲げた矢先の2015年4月、首相官邸の屋上に落下している小型のマルチコプター型ドローンが発見された。同事件は後に意図的なものであったことが判明し、これを契機としてドローン規制の機運が高まった。そして2015年9月、ドローンを新たな規制対象とする改正航空法が異例のスピードで成立した。

それまでの航空法は、人を乗せることが可能な航空機のみを念頭に置いたものであって、ドローンの飛行について具体的なルールを定めた法令はなかった。

そこで同改正法は新たに「無人航空機」を定義し、重量200gを超えるドローンを正面から規制対象とした。なお、この「重量」とは本体とバッテリーの合計重量を指し、着脱可能な付属品の重量は含まれない。

では、どのような規制があるのか見ていこう。

 

3 規制その1:飛行空域の制限

まずは飛行空域の制限である。下記の2つの制限がある。

 航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある空域

 人又は家屋の密集している地域の上空

このうち、特にドローン・ビジネスとの関係で問題になりやすいのがの人口集中地区(Densely Inhabited District:DID)だ。どの地域が対象となるかは、国土地理院ホームページ「人口集中地区(DID)平成27年」や、政府統計の総合窓口が提供している「地図による小地域分析」(jSTAT MAP)で確認できる。東京都では、例えば23区は全域が人口集中地区である。

制限空域内でドローンを飛ばすためには、国土交通省の許可が必要となる。ただし、屋内(上方・四方をネットで囲われドローンが飛び出すことのない場所を含む)であれば許可は不要である。

なお、国会議事堂、首相官邸など、一部枢要施設の周辺に関しては、2016年3月に成立した別の特別法により、ドローンの飛行は一律に禁止されている。このほか、地方自治体によっては条例等による規制もあるため注意を要する。

 

4 規制その2:飛行方法

飛行方法についても、下記のルールを守って飛行する必要がある。これに従わない方法で飛行するには、国土交通省の承認が必要となる。

 日中(日の出から日没までの間)に飛行させること

 操縦者自身の目視(直接肉眼による)により無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること

 地上・水中の人又は物件(建物含む)との間に30m以上の距離を保って飛行させること

 祭礼、縁日、展示会など多数の者の集合する催し場所の上空で飛行させないこと

 爆発物など危険物を輸送しないこと

 無人航空機から物件を投下しないこと(置くのはOK)

特にドローン・ビジネスの障害となりそうなのは、目視要件である。GPSやカメラのみの情報に頼った飛行は原則不可ということになる。また、30m要件も、30mの範囲内に人又は物件が一切ない地域というのは日本国内では珍しく、ドローン・ビジネスに際して承認が必要となる原因の1つである。

 

5 許可・承認の申請

飛行空域の許可、飛行方法の承認を得るためには、地方航空局等に対して少なくとも10開庁日前までに申請する必要がある。申請の混雑などにより、許可・承認が10開庁日以内に出されないこともあるため注意が必要だ。申請方法は国土交通省ホームページ「3. 許可・承認手続きについて」にまとめられている。

空域や飛行方法の制限範囲は上記のとおり広いので、新たなドローン・ビジネスを考える場合、許可・承認申請はほぼ必須となる。改正航空法の施行から1年間だけを見ても、12,300件の申請が行われ、10,120件の許可・承認があった。

申請の審査は、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に従って行われる。具体的には、下記の3つの「基本的な基準」と「飛行形態に応じた追加基準」に従って判断される。

 機体の機能及び性能

 無人航空機を飛行させる者の飛行経歴・知識・能力

 安全を確保するための体制

「追加基準」の中には、目視外飛行を行う場合の記載もあるが、そこには飛行経路全体を見渡せる位置に補助者を配置することなどが定められている。補助者を置かずにGPSやカメラを利用して自律的な飛行を行う場合、承認を得るには困難が伴うだろう。

 

6 おわりに

上記のとおり、航空法上の規制は、大枠として安全なもの以外を禁止した上で、個々の事案を吟味して許可・承認を与えるという構造となっている。ドローン・ビジネスの発展・誕生にとっては、許可・承認に関する事例の蓄積を踏まえつつも、機体に関するテクノロジー(自律飛行、バッテリー)の向上等の将来的な動きを見すえて、安全確保とビジネス成長のバランスが取れた法規制に関する議論が今後求められるだろう。

航空法以外でも、例えば、他人の土地の上を飛行できるのか、ドローンを操作する電波については電波法の規制、撮影される映像についてはプライバシー権の保護、ドローンが事故を発生させた場合の責任の所在はどこにあるかなど、ドローンに関する法律問題は極めて多岐にわたっており、その議論は緒に就いたばかりである。

筆者らが所属する森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会は、上記のような法規制等をより詳細に解説した国内初のドローン法律本である『ドローン・ビジネスと法規制』(清文社)を本年5月に上梓したが、今後も研究成果を積極的に公表し、制度整備にも関わっていきたい。

(了)

ドローンをめぐる法規制等の最新動向と
飛行ルール、許可・申請を詳細に解説!

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  • 著 者:
    森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会編
    弁護士 戸嶋浩二、弁護士 林浩美、弁護士 岡田淳 編集代表
  • 発 行:2017年5月22日
  • 判 型:A5判264頁
  • ISBN:978-4-433-67257-7
  • 定価:3,024円(税込)
  • 会員価格:2,722円(税込)

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弁護士 戸嶋 浩二
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1 はじめに

「ドローン・ビジネス」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。高精細カメラによるニュース映像や災害情報の無人空撮、離島や山間部など自動車交通が難しい地域での食品や日用品の宅配ビジネス、群体飛行する小型ドローンが織りなす夜空のライトショー・・・いずれも、情報通信技術やGPSの発達により技術上は既に十分な実現可能性のあるビジネスである。地上に暮らす我々にとって、一部の限られた移動手段を除きほとんど利用されることのなかった広大な上方空間は、地球上で最後のフロンティアといえるかもしれない。

他方、個人所有のドローンが急速に普及したことで、後述する「首相官邸ドローン侵入事件」のように、ドローンによる事件や事故も頻発することとなった。

このような背景から、ドローン・ビジネスの産業としての発展、安全・安心の確保、という異なる命題をバランスよく実現するため、航空法の改正後も望ましい法制度の在り方が継続的に検討されている。本稿では、改正航空法のポイントを簡潔に紹介したい。

 

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安倍政権がドローンを含むロボットの活用を成長戦略に掲げた矢先の2015年4月、首相官邸の屋上に落下している小型のマルチコプター型ドローンが発見された。同事件は後に意図的なものであったことが判明し、これを契機としてドローン規制の機運が高まった。そして2015年9月、ドローンを新たな規制対象とする改正航空法が異例のスピードで成立した。

それまでの航空法は、人を乗せることが可能な航空機のみを念頭に置いたものであって、ドローンの飛行について具体的なルールを定めた法令はなかった。

そこで同改正法は新たに「無人航空機」を定義し、重量200gを超えるドローンを正面から規制対象とした。なお、この「重量」とは本体とバッテリーの合計重量を指し、着脱可能な付属品の重量は含まれない。

では、どのような規制があるのか見ていこう。

 

3 規制その1:飛行空域の制限

まずは飛行空域の制限である。下記の2つの制限がある。

 航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある空域

 人又は家屋の密集している地域の上空

このうち、特にドローン・ビジネスとの関係で問題になりやすいのがの人口集中地区(Densely Inhabited District:DID)だ。どの地域が対象となるかは、国土地理院ホームページ「人口集中地区(DID)平成27年」や、政府統計の総合窓口が提供している「地図による小地域分析」(jSTAT MAP)で確認できる。東京都では、例えば23区は全域が人口集中地区である。

制限空域内でドローンを飛ばすためには、国土交通省の許可が必要となる。ただし、屋内(上方・四方をネットで囲われドローンが飛び出すことのない場所を含む)であれば許可は不要である。

なお、国会議事堂、首相官邸など、一部枢要施設の周辺に関しては、2016年3月に成立した別の特別法により、ドローンの飛行は一律に禁止されている。このほか、地方自治体によっては条例等による規制もあるため注意を要する。

 

4 規制その2:飛行方法

飛行方法についても、下記のルールを守って飛行する必要がある。これに従わない方法で飛行するには、国土交通省の承認が必要となる。

 日中(日の出から日没までの間)に飛行させること

 操縦者自身の目視(直接肉眼による)により無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること

 地上・水中の人又は物件(建物含む)との間に30m以上の距離を保って飛行させること

 祭礼、縁日、展示会など多数の者の集合する催し場所の上空で飛行させないこと

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飛行空域の許可、飛行方法の承認を得るためには、地方航空局等に対して少なくとも10開庁日前までに申請する必要がある。申請の混雑などにより、許可・承認が10開庁日以内に出されないこともあるため注意が必要だ。申請方法は国土交通省ホームページ「3. 許可・承認手続きについて」にまとめられている。

空域や飛行方法の制限範囲は上記のとおり広いので、新たなドローン・ビジネスを考える場合、許可・承認申請はほぼ必須となる。改正航空法の施行から1年間だけを見ても、12,300件の申請が行われ、10,120件の許可・承認があった。

申請の審査は、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」に従って行われる。具体的には、下記の3つの「基本的な基準」と「飛行形態に応じた追加基準」に従って判断される。

 機体の機能及び性能

 無人航空機を飛行させる者の飛行経歴・知識・能力

 安全を確保するための体制

「追加基準」の中には、目視外飛行を行う場合の記載もあるが、そこには飛行経路全体を見渡せる位置に補助者を配置することなどが定められている。補助者を置かずにGPSやカメラを利用して自律的な飛行を行う場合、承認を得るには困難が伴うだろう。

 

6 おわりに

上記のとおり、航空法上の規制は、大枠として安全なもの以外を禁止した上で、個々の事案を吟味して許可・承認を与えるという構造となっている。ドローン・ビジネスの発展・誕生にとっては、許可・承認に関する事例の蓄積を踏まえつつも、機体に関するテクノロジー(自律飛行、バッテリー)の向上等の将来的な動きを見すえて、安全確保とビジネス成長のバランスが取れた法規制に関する議論が今後求められるだろう。

航空法以外でも、例えば、他人の土地の上を飛行できるのか、ドローンを操作する電波については電波法の規制、撮影される映像についてはプライバシー権の保護、ドローンが事故を発生させた場合の責任の所在はどこにあるかなど、ドローンに関する法律問題は極めて多岐にわたっており、その議論は緒に就いたばかりである。

筆者らが所属する森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会は、上記のような法規制等をより詳細に解説した国内初のドローン法律本である『ドローン・ビジネスと法規制』(清文社)を本年5月に上梓したが、今後も研究成果を積極的に公表し、制度整備にも関わっていきたい。

(了)

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  • 著 者:
    森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会編
    弁護士 戸嶋浩二、弁護士 林浩美、弁護士 岡田淳 編集代表
  • 発 行:2017年5月22日
  • 判 型:A5判264頁
  • ISBN:978-4-433-67257-7
  • 定価:3,024円(税込)
  • 会員価格:2,722円(税込)

筆者紹介

森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会

森・濱田松本法律事務所 ロボット法研究会は、同事務所弁護士が構成するAI・IoTビジネスの法律問題研究グループ。
近著は「ドローン・ビジネスと法規制」(清文社 2017年5月刊)。

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ドローン・ビジネスと法規制

森・濱田松本法律事務所 AI・IoTプラクティスグループ 編 弁護士 戸嶋浩二 編集代表 弁護士 林 浩美 編集代表 弁護士 岡田 淳 編集代表

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