内定・採用に関する「よくある質問」
【第1回】
「履歴書等の虚偽記載による採用取消しは認められるのか」
社会保険労務士 菅原 由紀
採用内定取消しの法的性格
新規学卒者については「学校を卒業」するという条件や入社日の到来という始期が付いていることから、最高裁(大日本印刷事件 昭和54年7月20日 最高裁二小判決)では採用内定について、就労の「始期付解約権留保付労働契約」が成立したものとその判断を示している。
一般的には、会社が採用選考の結果、学生に対して、内定通知書と誓約書等を交付し、学生が会社に誓約書等を提出した段階等で採用内定となると解されている。
採用内定取消しが認められるのは、上記の最高裁判決においても
採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる
と判示している。
誓約書の記載事項
採用内定時に学生が会社に提出する誓約書等には、所定の時期に間違いなく入社することのほかに、次のような内定取消事由が列挙され、これに該当する場合には、採用が取り消される旨が記載されているケースがほとんどだと考えられる。
① 所定の時期(通常は入社年の3月)に卒業できなかったとき
② 採用試験時に提出した書類に重大な偽りがあったとき
③ 病気・けが・事故等により、就労に耐えられないとき
④ 刑事事件で有罪の判決を受けたとき
⑤ その他前各号に準ずる不都合があったとき
前述の通り、「始期付解約権留保付労働契約」とは、採用内定によって労働契約の効力は発生しているとはいうものの、採用取消事由が生じた場合には、会社はこの労働契約を解消する権利を留保していることになる。
したがって、誓約書等に記載されている採用内定取消事由が発生した場合、会社は留保されていた解約権を行使することができるとされている。
「客観的に合理的と認められる正当な事由」とは
しかし、会社側からの内定取消しについては、誓約書等の内定取消事由のすべてが直ちに適用されることが許されるわけではなく、「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と是認される場合」に限られる。
具体的には、卒業予定だった内定者が単位不足で卒業できず、4月1日からの就業が不可能な場合には、内定取消しもやむなしとなるであろう。
つまり、採用内定の取消しは、会社が、採用内定当時には知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが、留保解約権の趣旨・目的に照らして客観的・合理的と認められ、社会通念上相当と認められるものに限られているのである。
偽りの履歴書の記載への対応
虚偽記載については、事案ごとに判断されるものであるが、例えば、実際には取得していないMBAを取得していると偽ることは経歴詐称であり、一般的には「採用試験時に提出した書類に重大な偽りがあったとき」に該当し、内定取消しの事由に該当するのではないかと考えられる。
(了)