※この記事は会員以外の方もご覧いただけます。
実務家による実務家のための
ブックガイド
-No.2-
太田哲三 著
『固定資産会計』
〈評者〉
公認会計士 阿部 光成
日々研鑽を積まれている会計士諸氏は、太田哲三の『固定資産会計』(昭和26年、国元書房。同書は中央経済社からも発刊されている)を読んでみてはいかがか。発刊からだいぶ経つので、古書店で入手するか、図書館などで借りることになると思われるが。
さて、平成28年6月17日、企業会計基準委員会は「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第32号)を公表したが、そこには次の記載がある(15項)。
(略)抜本的な解決を図るために減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを速やかに行うことを前提として、第2項に記載する実務上の取扱いを定めることとした。(略)
Ⅰ 「連続意見書第三」の基盤の1つとなった1冊
減価償却については、「企業会計原則」に規定があり、また、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」第三「有形固定資産の減価償却について」(昭和35年6月22日、企業会計審議会。以下「連続意見書第三」という)において詳細に説明がなされている。つまり、最近、設定された会計基準というわけではない。
連続意見書第三の起草は、諸井勝之助先生が担当されたとのことであり、太田哲三の『固定資産会計』をはじめ多くの文献に目を通し、それらを参考にして草案を書き上げたとのことであるから、本書もその基盤の1つになったと考えられる(諸井勝之助『私の学問遍歴』(2002年9月、森山書店)104ページ、109ページ)。
Ⅱ 減価償却研究の困難さを今に伝える
『固定資産会計』を読むと、連続意見書第三に記載されていることだけでなく、配分理論の発展、「償却」の字義、減価償却の理念、「正規の減価償却」と表現した理由、利子の原価性、のれんの資産性など多岐にわたる論点が研究されている。
そのうえで、太田は、減価償却は単なる理論としては成立するが、事実においては成立しないものであると断定しなければならないと述べ、減価償却の会計理論としての価値はいずれの点にあるのだろうかと設問したあと、
(略)償却は主として財務的なものであり、投下資本を回収する手段となるのであり、これをただ計画的に行う方法に過ぎないというのである。迷ってここに至る。減価償却については終に或る意味で否定論に到達せざるを得なくなってしまった。
連続意見書第三の起草に際して参考とされた『固定資産会計』において、減価償却の否定論が述べられていることは、実に興味深いことではないだろうか。それはある意味、減価償却の本質に関する研究の難しさについて示唆しているとも解釈できよう。
減価償却の本質を探った『固定資産会計』は、改めて読むべき価値があると言えよう。
(了)
〔書籍情報〕
固定資産会計 太田 哲三 国元書房・中央経済社、1951年11月 |
「実務家による実務家のためのブックガイド」は不定期連載です。