〔小説〕
『東上野税務署の多楠と新田』
~税務調査官の思考法~
【第3話】
「売上急増、所得低調」
税理士 堀内 章典
《前回までの主な登場人物》
◆多楠調査官
東上野税務署に入って2年目、今回初めて調査部門である法人課税第5部門に配属。
◆新田調査官
多楠の調査指導役、調査はできるが、なぜか多楠には冷たく当たる、近づきがたい先輩調査官。
◆田村統括官
法人課税第5部門の責任者である統括官、定年まであとわずか、小太りで好人物。
◆法人課税第5部門のメンバー
・三浦上席調査官(淡路の調査指導役)
・小泉調査官(調査経験4年目、寡黙な調査官)
・淡路調査官(多楠と同じ調査1年目の女性調査官)
準備調査
7月の異動から早くも1月が経過し、お盆休みもあっという間に終わってしまった。
いよいよ今日から、調査部門が税務調査の最盛期に入る。
お盆休み中一斉に休暇をとる調査部門の調査官は、里帰りや家族サービスなど各々の時間を過ごし、十分に英気を養ったあと、人事評価の裁定期間となる12月まで、調査に没頭するのである。
多楠調査官はというと、異動後、税務大学校そして城東地区の税務署が持ち回りで行う調査1年目研修で1月ほどを費やしていた。
あの部門での顔合わせ、その後の赤羽のスナック「かわばた」での新田の奇異な立ち振る舞いは、多楠にとって強烈なインパクトとして残ったのは事実であるが、今となるとはるか以前に起きた出来事のように思えた。
その後、新田とは仕事上の最小限しか会話をしていない。
これから“あの”新田と一緒に仕事をするかと思うと、気が重くなる多楠であった。
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