公開日: 2015/01/15 (掲載号:No.102)
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此の国にも『日本企業』! 【第1回】「《カンボジア》 時計の小売業で勝負する~(株)ナガサワ~」

筆者: 西田 純

カテゴリ:

此の国にも『日本企業』!

【第1回】

「《カンボジア》 時計の小売業で勝負する~(株)ナガサワ~」

 

中小企業診断士 西田 純

 

-はじめに-

大企業による海外進出は、当たり前のものとされている昨今ですが、中小企業も負けてはいません。

新たな市場やビジネスチャンスを求めて、中には日本人に馴染みのない国へ積極的に進出している中小企業も少なくありません。

筆者は企業の海外進出をお手伝いさせていただいている関係で、こういった企業、従業員の方々が大変な苦労をされながらがんばっている姿を目の当たりにしています。

そこでこの連載では、海外で、しかもまだ日本の企業があまり進出していないような国で事業を行っている日本の中小企業について、ご紹介したいと思います。

〔今回の進出国〕

  • 国名:カンボジア(正式名称:カンボジア王国)

  • 面積:18.1万平方キロメートル(日本の約2分の1弱)
  • 人口:14.7百万人(2013年政府統計)
  • 首都:プノンペン
  • 民族:カンボジア人(クメール人)が90%とされている。
  • 言語:カンボジア語
  • 宗教:仏教(一部少数民族はイスラム教)
  • 主要産業:農業(GDPの33.6%e)、縫製業(GDPの9.9%e)、建設業(GDPの6.5%e)、観光業(GDPの4.6%e)(2012年速報値)
  • GDP:約142億米ドル(2012年推定値)
  • 1人当たりGDP:933米ドル(2012年推定値)

外務省ホームページより

 

〈イオンモールプノンペンの活況〉

2014年6月、カンボジアの首都・プノンペンを流れるトンレサップ川にほど近く、市内中心部から車で5分もかからない所に「イオンモールプノンペン」がオープンしました。経済規模から言っても、イオンモールクラスの大規模商業施設の開設は時期尚早ではないかと危ぶむ声もあった中で、開業当初から連日多くの人出で賑わっており、特に集客の面においては、周辺諸国の例を上回るほどの実績をあげているのだそうです。

それまで伝統的な路面市場や小規模なスーパーマーケット等が流通小売の主体であったカンボジア・プノンペンにおいて、超近代的な大規模業態を持ち込んだという意味で、いわば流通小売の革命とも呼べるこのモールには、日本のイオンモールと同じように各種専門店がテナントとして軒を連ねています。

90店ほど入居したテナントのうち、日系企業は約半数ということで、以前であればカンボジアでは目にすることはなかったであろう日本の有名店が一気にやってきた、という感があります。

 

〈現地市場を相手に小売業の販売力で挑む〉

その中で、イベントステージの真正面にあたるスペースに陣取っているのが「Time Station NEO Japan」という時計の専門店です。日本でも「Time Station NEO」の商号で時計店を展開する(株)ナカザワがテナントとして出店したお店です。

この事例の特徴は、セイコー・シチズン・カシオなど日本ブランドの時計を現地の代理店(卸売業者)から仕入れて、日本風の品揃え戦略と接客で勝負するという、いわば純然たる小売業(純小売業)の海外進出であったことです。

普通に現地の卸売業者から商材を調達するわけですから、競合相手となる地元の小売業とは仕入れ条件において対等以上ということはなく、純粋に現地の市場を相手にして小売業の販売力で勝負してゆくことになるわけです。

これまで、製造業もしくは製造+販売や、卸売(輸入)+小売という業態では比較的海外展開の事例が豊富だったのに比べて、純小売業においては向け先(中国など主要国の大都市が中心)や規模(大規模店が中心)が限られていて、特に中小企業が東南アジアに出店するというパターンは、飲食・サービス業を除くと決して多くはありませんでした。

今回、モールのテナントという形ではあるものの、これまでの例を打ち破る同社の実績には注目が集まるところです。

 

〈商材・人材の確保が悩みのタネ〉

同社国際企画部の石川部長によると、来店客の購買意欲は大変高く、同店開業後の実績は予想を上回るものだそうですが、それは良いとしても、①独占的な事業を行っている地元代理店との交渉が難しく、欲しい商材が入手困難になることがある、②継続的・安定的な従業員研修プログラムの実施が難しい、③良い人材の採用と教育には相応の努力が必要となる等、カンボジアならではの難しさも抱えながらの営業となっているそうです。

そうは言っても、時計の小売店という業態自身が日本では頭打ちになっているところ、ASEAN諸国をはじめとする新興国においてはまだまだこれから市場が広がる可能性が大きいことから、同社としても期待は大きいということですが、たとえば従業員研修を日本で実施したいと考えても、現行制度の下では、純小売業の店員は国の支援制度等を活用した招へいでないと日本入国のためのビザが取れにくく、今後の長期的な展開を考えるうえで悩みのタネになっているとのことです。

地方に行くと依然として文盲率も高いと言われるカンボジアにおいて、接客や品ぞろえが勝負のポイントとなる純小売業がどのように成功できるのか、今後の同社そしてイオンモールの展開から目が離せません。

(了)

「此の国にも『日本企業』!」は、以後毎月第2週に掲載されます。

此の国にも『日本企業』!

【第1回】

「《カンボジア》 時計の小売業で勝負する~(株)ナガサワ~」

 

中小企業診断士 西田 純

 

-はじめに-

大企業による海外進出は、当たり前のものとされている昨今ですが、中小企業も負けてはいません。

新たな市場やビジネスチャンスを求めて、中には日本人に馴染みのない国へ積極的に進出している中小企業も少なくありません。

筆者は企業の海外進出をお手伝いさせていただいている関係で、こういった企業、従業員の方々が大変な苦労をされながらがんばっている姿を目の当たりにしています。

そこでこの連載では、海外で、しかもまだ日本の企業があまり進出していないような国で事業を行っている日本の中小企業について、ご紹介したいと思います。

〔今回の進出国〕

  • 国名:カンボジア(正式名称:カンボジア王国)

  • 面積:18.1万平方キロメートル(日本の約2分の1弱)
  • 人口:14.7百万人(2013年政府統計)
  • 首都:プノンペン
  • 民族:カンボジア人(クメール人)が90%とされている。
  • 言語:カンボジア語
  • 宗教:仏教(一部少数民族はイスラム教)
  • 主要産業:農業(GDPの33.6%e)、縫製業(GDPの9.9%e)、建設業(GDPの6.5%e)、観光業(GDPの4.6%e)(2012年速報値)
  • GDP:約142億米ドル(2012年推定値)
  • 1人当たりGDP:933米ドル(2012年推定値)

外務省ホームページより

 

〈イオンモールプノンペンの活況〉

2014年6月、カンボジアの首都・プノンペンを流れるトンレサップ川にほど近く、市内中心部から車で5分もかからない所に「イオンモールプノンペン」がオープンしました。経済規模から言っても、イオンモールクラスの大規模商業施設の開設は時期尚早ではないかと危ぶむ声もあった中で、開業当初から連日多くの人出で賑わっており、特に集客の面においては、周辺諸国の例を上回るほどの実績をあげているのだそうです。

それまで伝統的な路面市場や小規模なスーパーマーケット等が流通小売の主体であったカンボジア・プノンペンにおいて、超近代的な大規模業態を持ち込んだという意味で、いわば流通小売の革命とも呼べるこのモールには、日本のイオンモールと同じように各種専門店がテナントとして軒を連ねています。

90店ほど入居したテナントのうち、日系企業は約半数ということで、以前であればカンボジアでは目にすることはなかったであろう日本の有名店が一気にやってきた、という感があります。

 

〈現地市場を相手に小売業の販売力で挑む〉

その中で、イベントステージの真正面にあたるスペースに陣取っているのが「Time Station NEO Japan」という時計の専門店です。日本でも「Time Station NEO」の商号で時計店を展開する(株)ナカザワがテナントとして出店したお店です。

この事例の特徴は、セイコー・シチズン・カシオなど日本ブランドの時計を現地の代理店(卸売業者)から仕入れて、日本風の品揃え戦略と接客で勝負するという、いわば純然たる小売業(純小売業)の海外進出であったことです。

普通に現地の卸売業者から商材を調達するわけですから、競合相手となる地元の小売業とは仕入れ条件において対等以上ということはなく、純粋に現地の市場を相手にして小売業の販売力で勝負してゆくことになるわけです。

これまで、製造業もしくは製造+販売や、卸売(輸入)+小売という業態では比較的海外展開の事例が豊富だったのに比べて、純小売業においては向け先(中国など主要国の大都市が中心)や規模(大規模店が中心)が限られていて、特に中小企業が東南アジアに出店するというパターンは、飲食・サービス業を除くと決して多くはありませんでした。

今回、モールのテナントという形ではあるものの、これまでの例を打ち破る同社の実績には注目が集まるところです。

 

〈商材・人材の確保が悩みのタネ〉

同社国際企画部の石川部長によると、来店客の購買意欲は大変高く、同店開業後の実績は予想を上回るものだそうですが、それは良いとしても、①独占的な事業を行っている地元代理店との交渉が難しく、欲しい商材が入手困難になることがある、②継続的・安定的な従業員研修プログラムの実施が難しい、③良い人材の採用と教育には相応の努力が必要となる等、カンボジアならではの難しさも抱えながらの営業となっているそうです。

そうは言っても、時計の小売店という業態自身が日本では頭打ちになっているところ、ASEAN諸国をはじめとする新興国においてはまだまだこれから市場が広がる可能性が大きいことから、同社としても期待は大きいということですが、たとえば従業員研修を日本で実施したいと考えても、現行制度の下では、純小売業の店員は国の支援制度等を活用した招へいでないと日本入国のためのビザが取れにくく、今後の長期的な展開を考えるうえで悩みのタネになっているとのことです。

地方に行くと依然として文盲率も高いと言われるカンボジアにおいて、接客や品ぞろえが勝負のポイントとなる純小売業がどのように成功できるのか、今後の同社そしてイオンモールの展開から目が離せません。

(了)

「此の国にも『日本企業』!」は、以後毎月第2週に掲載されます。

連載目次

筆者紹介

西田 純

(にしだ・じゅん)

中小企業診断士

FSコンサルティング
http://fs-consultant.net/

1959年北海道生まれ。北海道大学経済学部卒。新日本製鐵(株)、国際機関勤務を経て2008年に独立・開業。
中小企業の海外進出支援を手掛ける傍ら、技術協力分野の専門家として国際協力機構、国連工業開発機関、欧州復興開発銀行等で中小企業育成事業に携わる。

現在は中小企業向け戦略構築・人材育成ツール「Future SWOT©」の普及を手掛けている。

【著書】
『基礎から財務分析までみるみるわかるフィージビリティスタディ入門』(2008年、日刊工業新聞社)

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