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給与計算の質問箱 【第40回】「締め日又は支給日を基準とした書類の作成」

給与計算の質問箱 【第40回】 「締め日又は支給日を基準とした書類の作成」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 社会保険の書類や税金の納付書には給料の締め日を基準に作成するものと支給日を基準に作成するものがあるそうですが、末日締めの翌月20日払いのケースと20日締めの当月末日払いのケースを例にご教示ください。 A 給料の締め日もしくは支給日を基準に作成する労働保険料申告書、算定基礎届、源泉所得税納付書における「末日締めの翌月20日払いのケース」と「20日締めの当月末日払いのケース」は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 労働保険料申告書 労働保険料申告書は締め日ベースで作成する。 労働保険料申告書は毎年6月1日から7月10日の間に前年4月締めの給料から当年3月締めの給料を集計して労災保険料と雇用保険料の申告・納付をする。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 前年4月30日締め5月20日支給の給料から当年3月31日締め4月20日支給の給料を集計する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 前年4月20日締め4月30日支給の給料から当年3月20日締め3月31日支給の給料を集計する。   2 算定基礎届 算定基礎届は支給日ベースで作成する。 算定基礎届は毎年7月1日から7月10日の間に当年4月支給、5月支給、6月支給の給料を記入して提出する。後日、当年9月から翌年8月までの社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)が決定される。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 〈20日締めの当月末日払いのケース〉   3 源泉所得税納付書 源泉所得税納付書は支給日ベースで作成する。 源泉所得税は1月分から6月分を7月10日まで、7月分から12月分を翌年1月20日までに納付する。1月分から6月分の給料にかかる源泉所得税については、以下のとおり記入する。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 12月31日締め1月20日支給の給料より天引きした源泉所得税から5月31日締め6月20日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 1月20日締め1月31日支給の給料より天引きした源泉所得税から6月20日締め6月30日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 (了)
#516(掲載号)
#上前 剛
2023/04/20
労務・法務・経営 法務

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第40回】「新規地代を求める新しい考え方」~賃貸事業分析法という手法~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第40回】 「新規地代を求める新しい考え方」 ~賃貸事業分析法という手法~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回は、事業用不動産、すなわちその収益性が事業の経営動向に強く影響を受けるものにつき、建物施設等の支払賃料等相当額を売上高をベースに求める手法について解説しました。そこでは、数ある事業形態のうち、賃貸・運営委託方式(=不動産の賃借人が事業経営を行い、運営をマネジメント会社に委託する方式)を前提とした場合に、賃借人の売上高から推してどれだけの賃料の支払いが可能か(=負担可能賃料はどこまでか)という視点から考え方を紹介しました(これは、不動産鑑定評価基準では「収益分析法」という手法の1つに含まれますが、前回の解説ではこの用語そのものは取り上げませんでした)。 今回は、(これも非常に紛らわしい概念で恐縮ですが)事業者が土地を賃借し、その契約内容に基づく予定建物(敷地を含む)を一括してテナントに新規に貸し付けること(イメージは〈資料1〉)を想定した場合の期待家賃を出発点として新規地代相当額を試算する考え方を紹介します(この手法を「賃貸事業分析法」と呼んでいます)。 〈資料1〉賃貸事業分析法の前提 この手法は、後掲の一連の作業過程を経て、建物が生み出す純収益と土地が生み出す純収益をそれぞれ査定し、土地が生み出す純収益をもって新規地代相当額とみなす点に特徴があります。 税理士の皆様にとっては、あまり見かけることのない手法であると思いますが、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正に伴って追加されていますので、参考までに紹介させていただきます。   2 賃貸事業分析法という手法が新たに導入された背景 旧借地法においても新しい借地借家法においても同じことがいえますが、建物所有を目的として土地を長期間貸し出した場合、貸主に余程の事情がない限り土地は半永久的に戻って来ないのが実情です(ただし、新しい借地借家法で創設された定期借地権を設定した場合は別です)。そのため、親族間あるいは親子会社間等の特殊な関係や一部の例外を除き、新規に借地権(普通借地権)を設定するケースは現時点ではほとんど見受けられません。 このようなことから、従来、新規地代の鑑定評価の依頼を受けるケースは、実際問題として珍しかったといえます。もちろん、不動産鑑定評価基準には新規地代を求める手法として、土地価格に期待利回りを乗じて得た額に公租公課等の必要諸経費を加算して求める方法(積算法)(※1)や賃貸事例比較法(※2)等が規定されていますが、普通借地権の設定事例が収集しにくいため地代相場をつかむことが困難であり、仮に新規地代の鑑定評価を依頼された場合でも積算法のみに頼らざるを得ないというのが正直なところでした。 (※1) この手法を適用して試算した賃料を「積算賃料」と呼んでいます。 (※2) この手法を適用して試算した賃料を「比準賃料」と呼んでいます。 世間的には、公租公課の何倍という地代の取り決めも行われていますが、不動産鑑定評価基準には直接この手法が登場しているわけではありません(【第6回】の本連載でも取り上げましたが、他の手法で求められた結果の検証手段としての位置付けにあります)。 その後、新しい借地借家法(平成4年8月1日施行)により定期借地権の制度が創設されたこともあり、これを活用した建物賃貸事業が増えてきました。これに伴い、事業者にとっては賃貸建物の敷地が定期借地権によることから、その地代をどのように決めるかが重要な関心事となってきました。このような状況を踏まえ、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正時に、宅地の新規賃料を求める手法として新たに賃貸事業分析法が追加されたという背景があります。   3 賃貸事業分析法の流れ ここで、賃貸事業分析法の大まかな流れを表わしたものが〈資料2〉であり、その前提となっている考え方は以下のとおりです。 〈資料2〉 (出所) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)。 なお、上記(5)に掲げた建物所有者(借地権者)に帰属する純収益の査定に当たっては、建物の初期投資額や借地期間満了時の取壊費用の合計額に利回り(正確には元利均等償還率と呼ばれるもの)を乗じて求めることが基本となります。 また、その結果を土地建物に帰属する純収益から控除して土地所有者(借地権設定者)に帰属する純収益を求めた場合でも、定期借地権の性格(土地の賃借開始後、建物を建築し賃貸に供するとともに、借地期間満了時までに建物を取り壊して更地で返却すること)を踏まえれば、借地期間の前後に建物賃貸収益の未収入期間が発生します。そのため、この影響も考慮(補修正)して新規地代を求めることが必要とされています(※3)。 (※3) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)の解説部分によります。 ただし、これに関する正確な解説を加えようとすればかなり煩雑となり、また、本稿の狙いも賃貸事業分析法の大まかなイメージを理解していただくことにあるため、詳細は割愛させていただきます。   4 まとめ 前回と今回の2回にわたり、賃料を試算する新しい手法について解説を試みました。 なお、前回取り上げた事業用不動産の賃料を求める手法(収益分析法)にしても、今回取り上げた賃貸事業分析法にしても、現時点では積算賃料や比準賃料に比べ、その説得力が一般的に劣ると考えられることから比較考量すべきもの(※4)とされています。 (※4) その趣旨については上記(※3)に解説があります。 その理由は、これらの試算過程には(本文で述べた内容からも察せられるとおり)想定要素が少なからず含まれており、加えて市場における検証を経た結果ではないという事情が存するものと思われます。しかし、今般紹介したそれぞれの手法は不動産の賃貸借をめぐる時代の新しい流れに対応しようとするものであり、決して軽視することのできないものであるといえます。 (了)
#516(掲載号)
#黒沢 泰
2023/04/20
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《速報解説》 JICPAより「監査報告書の文例」及び「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正案が公表される~報酬関連情報の開示の新設に対応し記載例や留意事項を解説する設問を追加~

《速報解説》 JICPAより「監査報告書の文例」及び「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正案が公表される ~報酬関連情報の開示の新設に対応し記載例や留意事項を解説する設問を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年4月18日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書700 実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700 実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年10月の「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」(監査基準報告書700)の改正を受けて、所要の改正を行うものである。 意見募集期間は2023年6月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 監査報告書の文例の改正案 改正倫理規則(2022年7月25日変更)において、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity:PIE)である場合、報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示が要求事項として新設されたことに対応し、その他の報告責任区分における報酬関連情報の記載例を追加する。 倫理規則の規定(セクション410)では、監査報告書において報酬関連情報(監査報酬及び監査以外の業務の報酬並びに報酬依存度)の開示を行うことが示されている。 「監査報告書の文例」では、その他の報告責任(監基報700第39項)として、監査報告書において報酬関連情報を記載する場合、「報酬関連情報」という見出しを付した区分を「利害関係」の直前に設けて記載することとしている(26-2項)。 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年3月27日、内閣府令第21号)は、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示について規定している。 2 監査報告書に係るQ&Aの改正案 監査報告書において報酬関連情報の開示を行う場合の具体的な留意事項の解説として、Q1-10「監査報告書における報酬関連情報開示の適用範囲」及びQ1-11「監査報告書における報酬関連情報開示の省略等」を新設している。 フロー図によるパターンの整理がなされている。   Ⅲ 適用時期等 改正後の実務指針は、2023年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査から適用する予定である。 ただし、改正後の実務指針を、倫理規則(2022年7月25日変更)と併せて2023年4月1日以後終了する事業年度に係る財務諸表の監査から早期適用することを妨げないとする予定である。 (了)
#阿部 光成
2023/04/19
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《速報解説》 令和5年度税制改正を受け法人税申告書(別表)様式を定めた改正法人税法施行規則が公布~連納関係様式は削除、別表8(1)及び同付表1は過年度改正により統合~

《速報解説》 令和5年度税制改正を受け法人税申告書(別表)様式を定めた 改正法人税法施行規則が公布 ~連納関係様式は削除、別表8(1)及び同付表1は過年度改正により統合~   Profession Journal編集部   令和5年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則(財務省令第34号)が、4月14日付官報号外第81号で公布された。これら改正後の様式は原則、令和5年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。官報同号では地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 今回の様式改正では連結納税制度の廃止に伴う各様式内の「連結事業年度」等の記載削除や関連様式(別表4の2、5の2、6の2関係等)の削除が行われているほか、5年度改正で控除率・控除上限等が見直された研究開発税制に係る「別表6(9) 一般試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書」が事業年度毎の記載追加など全体的に見直され、オープンイノベーション型に新規高度人件費割合に係る措置が追加されたことで新たに「別表6(14)付表1 新規高度人件費割合等に関する明細書」が新設された。 〈別表6(9) 一般試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(14)付表1 新規高度人件費割合等に関する明細書〉 また、オープンイノベーション促進税制に係る「別表10(6) 特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の特別勘定の金額の損金算入に関する明細書」及び同付表1(各特定株式の特別勘定の金額に関する明細書)も所得控除を受けるための対象となる取得株式(特定株式)に関する要件見直しによって全体的な見直しが行われている。 なお令和2年度税制改正において「連結納税制度の見直しに伴うグループ法人税制等の見直し」の1つとして受取配当等の益金不算入制度(関連法人株式の負債利子控除の計算方法)が見直され令和4年4月1日以後開始事業年度から不要となった欄が今回削除されたことで、「別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書」及び同付表1(支払利子等の額及び受取配当等の額に関する明細書)は下記の通り、別表8(1)の1枚へ統合された。 〈別表8(1) 受取配当等の益金不算入に関する明細書〉 ちなみに既報のとおり、記載誤りが多いとして3月に国税庁が注意喚起を行った賃上げ促進税制は今年度、軽微な改正にとどまっていることから、関連様式である別表6(31)は番号が別表6(26)へ繰り上げられた上、番号変更に伴う記載の見直しのみ行われている。 国税庁では今後、今回の改正省令に対応した申告書様式のページが公表される予定。 (了)
#Profession Journal 編集部
2023/04/18
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《速報解説》 国税庁、令和5年度改正受け「インボイス制度Q&A」を改訂~2割特例や少額特例、少額返還インボイス等に係る15問を追加~

《速報解説》 国税庁、令和5年度改正受け「インボイス制度Q&A」を改訂 ~2割特例や少額特例、少額返還インボイス等に係る15問を追加~   Profession Journal編集部   国税庁は4月14日、インボイス制度Q&A(「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」)を改訂(前回改訂は令和4年11月25日)、新たに15問を追加し25問の改訂を行った。 また、同日には「お問合せの多いご質問」の更新や「令和5年度税制改正関係(インボイス関連)」ページにおいて「令和5年4月 インボイス制度に関する改正について」のリーフレットの公表もしている。 令和5年度税制改正ではインボイス制度導入に係る激変緩和措置として2割特例等、小規模事業者に向けた措置等が講じられているが、今回の改訂ではこれらに係る設問を含め、追加等がされている。 今回の更新で追加、改訂された設問については以下のとおり。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#Profession Journal 編集部
2023/04/17
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プロフェッションジャーナル No.515が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年4月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.515を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2023/04/13
税務 税務・会計 解説 解説一覧

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第118回】「節税商品取引を巡る法律問題(その12)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第118回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その12)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅸ 節税商品取引に係る情報提供の重要性(承前) 2 文書回答手続(承前) (3) 文書回答手続と節税商品取引 さて、国税庁の実施する文書回答手続は、具体的に節税商品取引における課税上の取扱いに係るグレーゾーンを排除することに資するのであろうか。 イ これまでの文書回答手続の改正 事務運営指針に基づく文書回答手続が開始されたのは、平成13年9月のことである。これは、事前照会のうち、その内容が同じような取引を行う多数の納税者の適切な申告等に役立つと認められるなど、一定の要件を満たす照会について、国税に関する法令の適用等について予測可能性を与えることを目的としてスタートしたものである。 その後、照会内容を公表することにより納税者の予測可能性を向上させるという文書回答手続の趣旨や濫用防止の観点から、これまで文書回答手続には何度かの見直しが行われてきた。 主なものとして、平成16年に、それまで文書回答手続の対象外であった「特定の納税者の個別の事情に係るもの」を新たに対象とするとともに、手続の濫用防止のための措置が整備された。この背景には、租税法の適用等についての予測可能性を高めるため、対日投資会議専門部会報告(平成15年3月)などを踏まえ、一層適切な運用に向けて、グローバルスタンダートな納税者ガイダンスの仕組みを整備するとの観点から、我が国との経済的な結びつきの強いアメリカなどの制度も参考にして、見直されたのである(※)。 (※) かかる改正については、酒井克彦「事前照会に対する文書回答手続をめぐる考察と提言(上)(中)(下)」税理50巻15号50頁(2007)、同51巻2号52頁、同巻3号104頁(2008)を参照。 そして、平成20年の見直しは、自由民主党の平成20年度税制改正大綱を受けて、利用者便宜の観点から、それまで文書回答手続の対象取引が確実なものであることを要求していたところ、かかる要件を緩和し、将来行う予定の取引についてもその対象に含めることとし、回答までの期間について、「3か月以内の極力早期」という努力目標が設定された。 平成23年の見直しでは、「情報提供手続の創設」と「非公表期間の延長」が行われた。前者については、文書回答担当者は、照会文書が受付窓口に到達した日からおおむね1か月以内に、それまでの検討状況から見た文書回答の可能性及び処理の時期の見通し等について、事前照会者に対し口頭で示すこととされた。後者については、公表は、原則として文書回答後2か月以内に行うこととされているが、事前照会者から一定の期間内(改正前は180日を超えない期間内)につき公表しないことを求める申出があった場合で、例えば、照会に係る新たな金融商品の内容が一般に明らかとなる前に公表されるとその金融商品の販売に支障が生じ得るといった、その申出に相当の理由があると認められるときには、当該申出に係る期間後に公表することとするとされていた。この期間が改正後は、「1年を超えない期間内」とされた。 また、平成29年の見直しにより、事務運営指針に定められた照会対象のうち「将来行う予定の取引等」の範囲が明確になった。自己に有利な回答を引き出すために照会内容の一部を変更するなどして照会を繰り返すなど、租税回避に悪用される可能性が考えられる「仮定の事実関係に基づく」照会は、文書回答手続の照会範囲から除かれている。しかしながら、例えば、認可申請予定の金融商品など近い将来販売を予定しているものの照会などは、本来は照会の対象となるにもかかわらず、照会者において「仮定の事実関係に基づく」照会に該当し、照会の対象外であると誤解し、文書回答に至っていない状況が一部に見られたことから、「将来行う予定の取引等」に係る事前照会には、照会の前提とする事実関係について選択肢があるものは含まれない旨が示され、その範囲が明らかとなった。 ロ 令和3年6月の文書回答手続改正 令和3年6月に国税庁は、国税庁長官通達(課審1-15ほか9課共同)「『事前照会に対する文書回答の事務処理手続等について』の一部改正について(事務運営指針)」(令和3年6月21日付け)を発遣し、文書回答手続をさらに改正した。 すなわち、これまで文書回答の対象となる事前照会等の範囲については、事務運営指針及び同業者事務運営指針において複数の要件が定められていたが、この要件については、項目が多く、類似するものや、抽象的な表現もあり、文書回答の対象になるかどうかの判断が難しい、といった意見が国税当局に寄せられていたところ、かような意見を踏まえ、これらの事務運営指針において定められている要件のうち、類似する要件を統合するとともに、事前照会の段階において確定的に判断が困難な要件を削除するなど、要件の整理・合理化が行われたのである。 そこでの文書回答手続きに係る改正内容のうち、特に注目すべきは、「税の軽減を主要な目的とするもの」が文書回答手続の対象外とされていたところ、かかる要件が削除された点にある。いわゆる節税相談と位置付けられる文書回答手続に門戸が開かれたのである。これにより納税者等の予測可能性のより一層の充実が図られることとなると思われる。 また、従来の事務運営指針では、文書回答の対象となる照会に当たらないとされていた「通常の経済取引としては不合理と認められるもの」という文言も、令和3年6月の見直しで削除されている。 すなわち、それまでは、節税商品取引についてその課税上の取扱いが必ずしも明確ではないなかで、勧誘者から、課税上の取扱いについて都合のよい解釈を前提とした勧誘がなされる可能性があっても、かかる解釈が果たして妥当なものであるのか否かについて確定的な判断をし辛い状況にあったのである。ましてや、節税に係る質問に関しては、国税庁は文書回答手続を受け付けないという態度を示してきていたからなおさらである。 しかしながら、国税庁は文書回答手続の改正をして、節税に関する質問にも門戸を開くことになったのである。そうなれば、今後、かかる文書回答手続が多く利用され、情報が共有されることによって、上述したような解釈の不明な部分の領域が狭まる可能性はあろう。かような意味において、文書回答手続の改正は、節税商品取引における投資者保護の視角からみると評価できるところである。 (続く)
#515(掲載号)
#酒井 克彦
2023/04/13
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第13回】「国税通則法23条(2)」-通常の更正の請求と特別の更正の請求-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第13回】 「国税通則法23条(2)」 -通常の更正の請求と特別の更正の請求-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法23条(更正の請求)   1 過誤要件の意義と内容 国税通則法23条1項は、納税者の提出した納税申告書(同法2条6号)に係る課税標準等(同号イ~ハ。同法19条1項柱書参照)又は税額等(同法2条6号ニ~ヘ。同法19条1項柱書参照)の記載の中に、納税者に不利な一定の過誤(同法23条1項1号~3号)があることを要件(過誤要件)として、これが充足された場合に、当該課税標準等又は当該税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができると定めているが、この請求が「更正の請求」といわれるものである(同条2項柱書参照。以下「1項更正の請求」という)。 過誤要件は、内容的には、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことという理由(過誤理由。その内容については後記4参照)により、①当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であること(税通23条1項1号)、②当該申告書に記載した純損失等の金額が過少であること、又は当該申告書に純損失の金額の記載がなかったこと(同項2号)、及び③当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過少であること、又は当該申告書に還付金の額に相当する金額の記載がなかったこと(同項3号)である。 ここで過誤要件の充足の有無は、納税者の提出した納税申告書に係る課税標準等又は税額等を基準として判断されるが、当該課税標準等又は税額等に関し更正(税通24条、26条)があった場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等を基準として判断される(税通23条1項柱書括弧書参照)。 この点に関連して問題になるのは、上記の場合すなわち納税者の提出した納税申告書に係る課税標準等又は税額等に関し更正があった場合に、更正の請求をしないで当該更正の取消しを求めることができる範囲である。この問題について、泉徳治ほか『租税訴訟の審理について〔第3版〕』(法曹会・2018年)51-53頁(下線筆者)は次のとおり述べている。 この引用部分(特に1つ目の下線部)で述べられている考え方は、裁判例でも採用されてきていると解されるところ(東京高判平成18年12月27日訟月54巻3号760頁、大阪地判平成21年1月30日訟月57巻2号344頁、名古屋地判平成26年9月4日訟月62巻11号1968頁等参照)、筆者はこの考え方を「条件付却下説」と呼んで、司法的救済保障原則(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【27】)の見地から批判してきた(詳しくは拙著『税法創造論』(清文社・2022年)1022頁以下[初出・2016年]参照)。 条件付却下説は、更正の請求の機能(前回3参照)の観点からみて、その本来的機能(適法性保障機能)と派生的機能(権利救済機能)との明確な区別を前提として立論されてこなかった点が問題であり、その区別を明文化した平成23年度[11月]改正後の国税通則法の建前(74条の11第3項参照)の下では、採用することはできないものである。また、前記の引用部分で「参考」として援用している最判昭和57年2月23日民集36巻2号215頁の判示は、上記の両機能を混同するものであり、上記改正後は、国税通則法の建前に照らして見直されるべきである。   2 後発的理由発生要件の意義と内容 以上で解説・検討した過誤要件のほかに(後の3で述べるように、これと同列に位置づけられるものではないが)、更正の請求の許容要件として後発的理由発生要件ともいうべきものが定められている。 国税通則法23条2項によれば、納税申告書を提出した者又は決定(同法25条)を受けた者は、法定申告期限後に発生した一定のやむを得ない理由(後発的理由。同法23条2項1号~3号)があることを「要件」(後発的理由発生要件。なお、同項柱書では「理由」という文言が使われている)として、これが充足される場合に、更正の請求をすることができるとされている(以下「2項更正の請求」という)。 国税通則法23条2項は、そのような後発的理由として、①その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(裁判上の和解を含む)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したこと(同項1号)、②その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他の課税物件が他の者に帰属するものとする、当該他の者に係る国税の更正又は決定があったこと(同項2号)、並びに③その他当該国税の法定申告期限後に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があること(同項3号、同法施行令6条1項)を定めている(各後発的理由の内容については後記4参照)。なお、これらのほか、個別税法が定める後発的理由もある(所税152条、法税82条、相税32条1項等)。 2項更正の請求も「同項[=同条1項]の規定による更正の請求」(税通23条2項柱書)であるので、過誤要件が充足された場合に行うことができるものであるが、2項更正の請求については、その場合には後発的理由発生要件が充足されていなければならない。換言すれば、後発的理由発生要件の充足を前提として過誤要件が充足された場合でなければならないのである。 このことから、2項更正の請求は「後発的理由による更正の請求」と呼ばれることがあるが(例えば金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)970頁参照。ほかに、野一色直人『国税通則法の基本』(税務研究会出版局・2020年)16頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1441頁等は「後発的事由に基づく更正の請求」と呼んでいる)、この呼称は適切であろうか。この点について、項を改め、更正の請求制度における後発的理由発生要件の構成要素ごとに検討することにする。   3 後発的理由発生要件の構成要素 後発的理由発生要件は、前述のとおり、過誤要件の充足の有無を判断する場合においてその前提となる要件である。過誤要件が、過大申告等の基因となる過誤理由を内容とする、更正の請求の実体的要件であるのに対して、後発的理由発生要件は、過誤要件という実体的要件の適用のための発動要件であり、その要件の構成要素は、当該理由が①法定申告期限後に発生すること(時間的要素)と②やむを得ない理由であること(性質的要素)の2つの要素である。 ①後発的理由発生要件の時間的要素 まず、後発的理由発生要件の時間的要素は、一見すると、1項更正の請求と2項更正の請求とを区別する決定的な要素であるかのように思われる。しかしながら、国税通則法23条2項柱書は「次の各号のいずれかに該当する場合」につき「納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了日後に到来する場合に限る。」という括弧書を定めていることからすると、後発的理由発生要件充足後2か月の期間の満了する日が法定申告期限から5年経過後に到来する場合における更正の請求のみが2項更正の請求に該当し、その日が法定申告期限から5年以内に到来する場合における更正の請求は1項更正の請求に該当することになるのである(大阪高判平成30年10月19日判タ1458号124頁も同旨)。 このような整理は、国税通則法の昭和45年改正が同法に2項更正の請求を追加した趣旨が、「期限内に[減額更正を請求する]権利が主張できなかつたことについて正当な事由があると認められる場合の納税者の立場を保護するため、後発的な事由により期限の特例が認められる場合を[個別税法で規定されていた場合よりも]拡張し、課税要件事実について、申告の基礎となつたものと異なる判決があつた場合その他これらに類する場合を追加する」(税制調査会「税制簡素化についての第三次答申」(昭和43年7月)54頁。前回1参照)ことにあったことにも、適合するものである。 そうすると、後発的理由発生要件の時間的要素は、1項更正の請求と2項更正の請求とを区別する決定的な要素とはいえない。むしろ、2項更正の請求が後発的理由発生要件の充足に対応して更正の請求の「期限の特例」を設定するための措置であることからすると、同要件の時間的要素の観点からは、1項更正の請求と2項更正の請求とは、減額更正に係る期間制限の原則(税通70条1項1号。通常の期間制限。前掲拙著『税法基本講義』【144】参照)と特例(同71条1項2号。特別の期間制限。同【145】参照)に対応して、「通常の更正の請求」と「特別の更正の請求」と呼ぶのが適切であろう(同【135】参照)。 なお、1項更正の請求と2項更正の請求の関係について、前者を「申告当初から過大であった場合の更正の請求(いわば原始的・・・事由)」、後者を「申告後の事情の変動で過大になった場合の更正の請求(いわば後発的・・・事由)」とみて、「その『事由』をより端的・・・・・・・・ にあらわした名称という意味で・・・・・・・・・・・・・・」、前者につき「原始的・・・事由による更正の請求」、後者につき「後発的・・・事由による更正の請求」という名称を用いる見解(木山泰嗣『国税通則法の読み方』(弘文堂・2022年)139頁。太字傍点原文)もあるが、この名称を用いると、「後発的・・・事由による更正の請求」も、後発的事由の発生後2か月の期間の満了する日が法定申告期限から5年以内に到来する場合には、1項更正の請求であることに注意しなければならない。 ②後発的理由発生要件の性質的要素 次に、後発的理由発生要件の性質的要素(前記②)は、以上で述べたとおり、2項更正の請求にだけでなく1更正の請求にも認められるものであるが、ただし、2項更正の請求については必須の要素であるのに対して、1項更正の請求についてはそうではない。確かに、㋐過誤要件が法定申告期限後に充足される場合に1項更正の請求が認められるには、過誤要件の発動がやむを得ない理由に基づくことが必要であるが、しかし、㋑過誤要件が既に法定申告期限前に充足されている場合には、過誤要件の発動がやむを得ない理由に基づくか否かにかかわらず、1項更正の請求が認められるのである。 そもそも、更正の請求は、前回1でその制度と沿革について述べたように、申告納税制度の下、その建前と現実との乖離に鑑み、それに基因する過誤(納税義務の過大確定)を納税者が自ら是正するための手続として、導入されたものであることからすると、申告納税制度の「基本」であり納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」である期限内申告(現行法上は税通17条。期限内申告のこのような位置づけについては第11回1~3参照)に関する過誤(過大申告)の是正こそが、更正の請求にそもそも期待された役割である。 そうすると、前記㋑の場合が更正の請求制度がその導入当初から想定していた場面であって、前記㋐の場合は、前述のとおり、国税通則法の昭和45年改正によって「期限内に[減額更正を請求する]権利が主張できなかつたことについて正当な事由があると認められる場合の納税者の立場を保護するため」、更正の請求ができる場合として追加されたものであると解すべきであろう。その意味でも、1項更正の請求を「通常の更正の請求」、2項更正の請求を「特別の更正の請求」と呼ぶのが適切であろう。 これに加えて、2項更正の請求を「特別の更正の請求」と呼ぶのは、後発的理由が「無申告のため決定を受けた納税者についても生ずる可能性がある」(武田監修・前掲書1427頁)ことを考慮して、国税通則法が2項更正の請求を特に決定(税通25条)を受けた者についても認めていることからしても、適切であろう。 (了)
#515(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/04/13
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第7回】「株式譲渡損と受取配当の両建て」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第7回】 「株式譲渡損と受取配当の両建て」   公認会計士 佐藤 信祐     9 株式譲渡損と受取配当の両建て (1) 問題の所在 被買収会社の株主等が内国法人である場合には、株式譲渡前に剰余金の配当を行うことにより、株式譲渡益を受取配当に付け替えることができる。受取配当等の益金不算入が二重課税の排除を目的にしていることを考えれば、その範囲内で行われる限り、租税回避として認定することはできない。 これに対し、下記のように、株式譲渡損と受取配当が両建てになる場合には、二重課税の排除という制度趣旨を逸脱していることから、租税回避として認定される余地がある。具体的には、以下の事例を参照されたい。 【特殊なケース】 〈前提条件〉 ※ 純資産の内訳 このようなケースにおいて、P氏からX社にS社株式を譲渡した後に、X社から買収会社(Y社)にS社株式を譲渡するものと仮定する。この場合に、X社が受取配当等の益金不算入のメリットを享受するために、株式譲渡前にS社からX社に対して剰余金の配当を行うものと仮定する。具体的には、以下の仕訳がX社において生じることになる。 〈S社株式の取得〉(単位:百万円) 〈配当金の受領〉(単位:百万円) 〈S社株式の譲渡〉(単位:百万円) このように、X社を経由することにより、X社において株式譲渡損(2,900百万円)と受取配当(2,900百万円)が両建てになっている。その結果、短期所有株式等に該当する場合を除き、原則として、株式譲渡損を損金の額に算入しながらも、受取配当等の益金不算入(法法23)を適用することにより、X社における法人税の負担を軽減することが可能になる。 本件取引では、X社を経由する経済合理性がなく、これら一連の取引については、X社において株式譲渡損と受取配当の双方を認識するためだけの行為であったと考えられる。さらに、S社から受け取る配当等の額はS社において課税済みの利益であるものの、X社からS社に対する投資が9,000百万円であることから、S社からX社が受け取る配当等の額については当該投資の回収に過ぎず、受取配当等の益金不算入の適用を受けることは、制度趣旨から逸脱しているとも考えられる。 そのため、平成22年度税制改正では、グループ法人税制が導入されることにより、完全支配関係のある内国法人の株式等に対するみなし配当事由に該当するときは、株式譲渡損益を損金の額又は益金の額に算入できないことになった(法法61の2⑰)。そして、自己株式の取得により生じたみなし配当のうち、みなし配当の生ずる基因となる事由が生ずることを予定して株式等を取得した場合には、受取配当等の益金不算入が適用されないことになった(法法23③)。 さらに、令和2年度税制改正では、特定関係子法人から受ける配当等の額が株式等の帳簿価額の100分の10に相当する金額を超える場合には、その対象配当金額のうち益金不算入相当額をその株式等の帳簿価額から引き下げることになった(法令119の3⑩~⑯)。 このように、株式譲渡損と受取配当の両建てを防ぐための規定が設けられているものの、すべての事案に対応したものではなく、未だに株式譲渡損と受取配当の両建てが可能になっている。 本稿では、このような規制を免れたものに対して、同族会社等の行為計算の否認(法法132)が適用されるかどうかについて検討を行うものとする。 (2) 特定関係子法人から除外されている事案 令和2年度税制改正により、受取配当等の益金不算入(法法23)、外国子会社から受ける配当等の益金不算入(法法23の2)又は適格現物分配による益金不算入(法法62の5④)の規定により益金の額に算入されない金額があるときに、特定関係子法人から配当等の額を受け取った場合における株式等の帳簿価額の引下げに係る制度の適用を受けることになった。 この制度は、ソフトバンクグループが行った海外取引により、株式譲渡損と受取配当の両建てを行うことにより、株式譲渡損を損金の額に算入しながらも、外国子会社から受ける配当等の益金不算入を適用することにより、法人税の負担を減少させたことをきっかけに導入されたといわれている(※20)。そのため、国際課税を強く意識したものとなっており、内国普通法人である特定関係子法人の設立の時から特定支配関係発生日までの期間を通じて、その発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の90以上の株式又は出資の数又は金額を内国普通法人若しくは協同組合等又は居住者が有している場合には、この制度の対象から除外されている(法令119の3⑩一)。その結果、設立以後の株主等に外国法人、非居住者又は公益法人等が含まれていない場合には、この制度は適用されないことになる。 (※20) heukocpa「【令和2年税制改正】ソフトバンクグループ対策税制(特定支配配当の簿価減額規定)の最速詳細分析」、大勝英輔「子会社からの配当と子会社株式の譲渡が『租税回避』?」辻・本郷税理士法人、朝長英樹「第4回子会社株式の帳簿価額を修正する租税回避防止措置の改正」TKCグループHP。 このように、発行法人及び株主等の全てが内国普通法人又は居住者である場合には、特定関係子法人に係る規定は適用されないものとされている。このような制度になっている理由として、「配当法人、旧株主及び現株主のすべてが内国法人である場合には、我が国において、配当法人が稼得した利益に対して課税が行われたうえで、旧株主においても配当法人の留保利益の蓄積に対応する部分に対して株式譲渡益課税が行われます。そのため、平成13年度税制改正におけるみなし配当に係る改正の経緯・考え方等を踏まえると、配当法人、旧株主及び現株主のすべてが内国法人等である場合に、旧株主における譲渡益課税を現株主における譲渡損失と相殺することにより我が国における法人段階の重複課税を排除するために、現株主における譲渡損失の計上を認めるという現行の取扱いには、一定の合理性があるものと考えられます。」(※21)と説明されている。 (※21) 瀧村晴人ほか「国際課税関係の改正」『令和2年度税制改正の解説』482頁(令和2年)。 すなわち、①被買収会社の株主等が居住者であることから、配当所得よりも譲渡所得が有利であるという理由により株式譲渡方式を採用した場合、②被買収会社の株主等が内国法人であるものの、繰越欠損金を多額に有することから、株式譲渡方式でも構わない場合には、前述の事例にあるように、他の内国法人(X社)を経由することにより、当該他の内国法人において株式譲渡損と受取配当等の両建てを行ったとしても、被買収会社の株主等において株式譲渡益が生じていることから、制度趣旨には反しないという結論になってしまう。 本来であれば、グループ通算制度にあるように、被買収会社の株主等が保有している株式等に対する投資簿価修正(法令119の3⑤~⑧)を行うことにより、被買収会社の株主等において、被買収会社の利益積立金額に相当する金額が株式譲渡損益を構成させないようにすることで、二重課税が生じないようにすることが望ましいと考えられる。しかしながら、現行法上、このような制度になっていないことから、被買収会社(S社)、被買収会社の既存株主等(P氏)及び他の内国法人(X社)の3者で総合的に二重課税にならないようにしたため、他の内国法人(X社)だけをみれば、株式譲渡損と受取配当の創出により、法人税の負担が減少してしまっているということがいえる。 それでは、現行法上、株式譲渡損と受取配当の創出により法人税の負担を減少させることが租税回避に該当するのかという点を検討すると、たしかに、他の内国法人だけをみれば、二重課税の排除という受取配当等の益金不算入の制度趣旨を逸脱しているといえるが、上記のような解説がある以上は、制度趣旨に反しているとまではいえなくなるため、租税回避に該当しないという結論になる。おそらく、ソフトバンクグループが行った節税(※22)に対して、同族会社等の行為計算の否認(法法132)又は包括的租税回避防止規定(法法132の2)を適用することができなかった理由も、そのような背景があったと推定される。 (※22) heukocpa「ソフトバンクのARM再編によるタックスプランニング徹底解剖」 そのため、現行法上、株式譲渡損と受取配当の創出により法人税の負担を減少させることに対して、租税回避として否認することは難しいと考えられる。 (3) グループ法人税制の対象から除外されている事案 前述のように、平成22年度税制改正によるグループ法人税制が導入され、完全支配関係のある内国法人との間で自己株式を買い取らせた場合には、株式譲渡損益を損金の額又は益金の額に算入させず(法法61の2⑰)、資本金等の額の増減項目として取り扱うこととされた(法令8①二十二)。この取扱いは、その他資本剰余金の配当、残余財産の分配、非適格合併又は非適格分割型分割のように、みなし配当が生じる他の事由についても同様である。さらに、現金交付型合併における抱き合わせ株式の処理についても、株式譲渡損益を認識せず(法法61の2③)、株式譲渡損益に相当する部分の金額が資本金等の額として取り扱われることになった(法令8①五)。 そのため、グループ法人税制が適用されない①完全支配関係のない法人の株式等又は②完全支配関係のある外国法人の株式等について、それぞれ株式譲渡損とみなし配当が両建てになるケースが存在し得るということになる(※23)。 (※23) ただし、現金交付型合併に係る抱き合わせ株式については、完全支配関係のない法人の株式等に係るものであっても、株式譲渡損益を認識することはできない。 さらに、極端な事例を考えると、被買収会社の発行済株式総数の100分の99に相当する数の株式を取得し、当該被買収会社から事業を譲り受けた後に、当該被買収会社を解散した場合には、残余財産の分配により株式譲渡損とみなし配当の両建てが生じやすく、かつ、グループ法人税制の対象外となりやすい。このような事案については、わざわざ少数株主を残していることの経済合理性が問題となりやすく、かつ、現金交付型合併を選択しなかったことの経済合理性も問題となり得る(※24)。 (※24) このような場合には、まずは名義株であるという点が疑われやすいが、残余財産の分配が少数株主に対して行われているなどの形式的な外観が整備されている限り、名義株であるという認定は難しいと思われる。 そのため、本来であれば、同族会社等の行為計算の否認又は包括的租税回避防止規定を検討すべきであるように思われる。しかしながら、前述のように、株式譲渡損と受取配当の両建てについては、必ずしも制度趣旨に反するとはいい難く、実務上は、租税回避であるという認定は難しいと思われる。 (了)
#515(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/04/13
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第25回】「美容師が適格請求書発行事業者の登録をすべきか検討するポイント」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第25回】 「美容師が適格請求書発行事業者の登録をすべきか検討するポイント」   税理士 石川 幸恵   【Q】 美容業は消費者向けのサービスなので、適格請求書発行事業者の登録は必要ないと思っています。 美容師が適格請求書発行事業者の登録をすべきかどうか、検討にあたってのポイントを教えてください。 〔ポイント〕 (1) 美容師には様々な働き方があり、一概に「美容業=消費者向けのサービス」とまとめることはできません。例えば業務委託契約で働く美容師(いわゆるフリーランス)は、対事業者のサービスとなります。 (2) 業務委託の委託側は、フリーランスの美容師への支払いについて仕入税額控除をしています。このためフリーランスの美容師は、適格請求書発行事業者の登録について検討する必要があります。 *  *  * 【A】 美容師の働き方には、「自身で店舗を経営する」「従業員として働く」「業務委託で働く」など、様々な形態があります。以下ではこれらの働き方ごとに、インボイス制度への対策の必要性を検討します。 (1) 独立して店舗を経営 美容師自身が営業施設を設け、消費者を主な顧客として美容室経営をしている場合、インボイス発行事業者の登録をしなくても、売上への影響はほぼないと考えられます。 ただし、芸能人やホステスなど職業上の必要性から美容室を利用している顧客は、美容代について仕入税額控除の対象としている可能性があります。 このため、インボイス制度の施行前である本稿公開時点で、顧客から「適格請求書(インボイス)発行事業者ですか」といった問い合わせがある場合は、適格請求書発行事業者の登録について検討が必要です。 (2) 従業員として働く 美容室の経営者と雇用契約を締結し従業員として働いている場合は、インボイス制度の影響はありません。担当した顧客へのサービスの対価が年間1,000万円を超えていたり、1年分の給与収入が1,000万円を超えていたとしても、給料としてもらっている限り、影響はありません。 (3) 業務委託(フリーランス) 美容業界では、「フリーランスの美容師が美容室の経営者と業務委託契約を結んで働く」という形態があります。 このような形態では、美容室経営者とフリーランスの美容師は、経理上、次のようになっていると考えられます。 業務委託契約では、美容室経営者が課税事業者か免税事業者か、原則課税か簡易課税かによって、次のような検討が必要です。 (4) 面貸し 美容室の一部を借り、個人事業主として独立した形でサービス提供する形態です。美容室には時間や売上額に応じて使用料を支払います。メニューは独自のものとなりますので、1つの店に別の店があるようなイメージです。 面貸しの場合、顧客へのサービスの対価が自身の売上となりますので、適格請求書発行事業者の登録に対する考え方は、上記「(1)独立して店を経営」する場合と同じです。 (了)
#515(掲載号)
#石川 幸恵
2023/04/13
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