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2025年7月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.627を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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日本の企業税制 【第141回】「日本企業の海外展開動向を踏まえた国際課税制度のあり方」
日本の企業税制 【第141回】 「日本企業の海外展開動向を踏まえた国際課税制度のあり方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 〇経済産業省研究会が報告書公表 経済産業省は6月30日、「日本企業の海外展開動向を踏まえた国際課税制度のあり方に関する研究会」の最終報告書を公表した。同研究会は、経済産業政策局投資促進課が主管し、学者、実務専門家、企業関係者が参加して、昨年11月から5月までの合計4回に及ぶ会合開催を経て、報告書を取りまとめた。 昨今の経済のグローバル化やデジタル化の進展により日本企業の海外展開が加速し、直接投資による収益が拡大している。これを背景として、外国子会社合算税制(CFC税制)とグローバル・ミニマム課税をはじめとした国際課税制度について、日本企業の国際競争力の維持・向上の阻害要因とならないよう、改めて課題等を整理し、今後のあり方を検討したものである。 特に、CFC 税制における主な課題として、制度趣旨の不明確さ、合理的な経済活動の実体がある外国子会社への過剰課税、グローバル・ミニマム課税とCFC税制の併存による膨大な事務負担を整理した上で、各課題の解決のためのCFC税制の見直しの方向性が示されている。また、諸外国の税制措置とグローバル・ミニマム課税の関係についても、現状が整理されている。 〇制度の変遷 わが国のCFC税制は、外国子会社等を利用した租税回避を防止するため、外国子会社等の活動実体に基づかない所得を日本親会社等の所得に合算して法人税を課税する制度で、制度創設は昭和53年度税制改正に遡る。 当時、いわゆるタックスヘイブンに子会社等を設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図る事例が見受けられたため、所要の立法措置が必要であったことが理由である。当初は指定された軽課税国等に所在する外国子会社等を対象として合算課税する制度であったが、平成4年度税制改正において、個々の外国子会社が合算対象に該当するか否かを租税負担割合(トリガー税率)で判定する制度に変更された。その後も幾度となく制度変更が加えられており、主な改正内容は下記【表1】のとおりである。 制度目的としては、内国法人に配当せずに外国子会社等に利益を留保することによる課税繰延の防止であったものの、平成21年度税制改正により、外国子会社配当益金不算入制度が導入されたことから、CFC税制の目的を課税繰延の防止と捉えることは困難となった。そのため、令和5年6月の税制調査会答申では、CFC税制は軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになった。 つまり、CFC税制は経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とする。これに対して、グローバル・ミニマム課税は、各国共通の最低税率の導入により法人税引下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものであり、両者は目的を異にする別個の仕組みであると整理され、国際的なルールにおいても、両制度は併存するものと位置づけられている。 【表1:主なCFC税制の改正内容(報告書より抜粋)】 〇CFC税制の課題と見直しの方向性 報告書では、日本企業の外国子会社数や外国子会社における売上高及び経常利益は増加傾向にあることから、合理的な経済活動の実体のある外国子会社の所得が、日本親会社においてCFC税制の合算課税の対象となるケースが生じていること、平成29年度税制改正に伴い制度判定の対象となった外国子会社数の増加により、CFC税制に係る企業の事務負担が増大していること、グローバル・ミニマム課税の導入による膨大なコンプライアンスコストが生じていることを背景として、制度見直しの必要性が指摘されている。主な課題と見直しの方向性については、それぞれ次のとおりである。 (1) 制度趣旨が不明確 近年の最高裁判決では、租税回避防止に加え、法的安定性や予測可能性の確保を重視する考えが示されているが、制度上で設定された判定基準等とビジネスの現状に乖離が生じているとすれば、当該判定基準等に基づき形式的に課税対象が判定されることにより、本来の制度趣旨に反して課税されることが懸念される。 現在のCFC税制は、経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とし、基本的には軽課税国への所得移転による日本の課税ベースの浸食を防止するものと整理できると考えられる。そのため、日本の課税ベースを浸食していないことが明らかであるにもかかわらず、合算対象となっているケースについては、優先的に取扱いの見直しを検討する必要がある。 例えば、海外M&Aにより取得した外国関係会社において、買収完了前に既に生じていた所得が買収後に実現したと考えられる場合については、明らかに日本の課税ベースを浸食していない。 他方で、買収価格にはその所得分も織り込まれていると考えられるため、その所得分にも合算課税がなされれば、二重で支出が生じる結果となりかねない。実際に、日本企業が海外M&Aを行う場合において、買収に伴い生じるCFC課税が要因となって買収を断念したケースが報じられている。 (2) 過剰課税の発生 企業からは、特に現地進出・撤退時の取扱いや経済活動基準等の判定において、海外での事業活動が阻害されている可能性が指摘されている。例えば、海外M&Aによる現地企業の取得におけるPMI特例について、買収後資本関係の整理に着手するまでに長期間を要し、さらに整理の際に現地で必要な手続にも時間を要すること等から、ペーパーカンパニー等の整理にあたって生じる株式譲渡益の控除が認められる買収日等から原則として2年以内の事業年度という期間要件を満たせないケースが多いなど、厳格な要件の見直しが求められる。 また、現地事業からの撤退時において、通常は清算手続により外国子会社を解散し、法人格が消滅するのが一般的であるが、現地法令上必要とされる手続に長期間を要することも多い。この点、清算中の外国関係会社について、清算前は事業を行っていて経済実体を有しCFC税制の適用対象外であったものの、清算プロセスの過程における事業用資産の売却や従業員の解雇等により経済実体を失い、清算事業年度においてCFC税制上のペーパーカンパニーと判定され、清算事業年度に生じたあらゆる所得が全部合算の対象となるケースがある。 加えて、清算事業年度前の事業年度において生じた欠損金額を控除することは認められないほか、最終局面において日本親会社等による債務免除が行われる場合に、外国子会社に形式的に生じる債務免除益が、経済的な実質が乏しいにもかかわらず、CFC税制の下で合算対象となるケースがある。このため、清算中の外国関係会社の取扱いや適切な課税範囲について見直しを行う必要があると考えられる。 経済活動基準等については、グループ単位では合理的な経済活動を行っているにもかかわらず、また、日本からの所得移転といった問題は生じていないにもかかわらず、独立した企業としての実体が厳格に求められることで管理支配基準を満たせない場合には、合算課税の対象となる可能性が生ずる。現地統括会社傘下に複数国の子会社が存在するケースや、国・地域単位ではなく事業セグメント単位等で経営を行うケースなど、ビジネスの実態と制度に乖離が見られることから、合理性が客観的に認められる場合については、管理支配基準の充足を認める取扱いを明確にすることが考えられる。 さらに、中間SPCなどを含め、ペーパーカンパニー特例が認められる範囲の拡大や、形式的に事実上のキャッシュ・ボックスと判定されるケースに対する措置を検討することも考えられる。 (3) 事務負担の増大 判定対象となる外国関係会社数が大幅に増加する中、CFC税制に係る業務プロセスにおいて、サブ連結子会社(孫会社)まで含めた必要情報の入手、現地税法への理解などに相当な負担が生じている現状がある。また、合算所得が生じない外国関係会社についても申告書作成や書類添付等に膨大な作業を強いられている。 例えば、大規模な海外展開を行っている企業や、事業上の必要性からペーパーカンパニーを活用した海外展開を行っている企業の多くはグローバル・ミニマム課税の適用対象企業であるが、これらの企業では、特に事務負担が大きく、判定対象となる外国関係会社の絞り込みによる事務負担の軽減が必要であると考えられる。 現在の本邦法人税の実効税率約30%の半分であることや、グローバル・ミニマム課税において基準税率が15%と国際的に合意されたこと等を踏まえ、適用免除税率を現行の20%以上から15%以上に引き下げることにより、大幅な実務負担の軽減が見込まれる。 加えて、グローバル・ミニマム課税(IIR)とCFC税制は、目的を異にする別個の仕組みであると整理されている一方で、親会社等において外国子会社等の所得に対して課税するという点で類似する性質を有することから、可能な限り両制度の共通化を図ることも考えられる。 報告書では、その他に内国法人の取扱いの整合性や他国のCFC課税との二重適用の問題、機動的なグループ内再編の阻害防止、税務調査における課題なども列挙されている。 グローバル・ミニマム課税の導入も背景に、諸外国での制度改正を含めて、日本企業を取り巻く国際課税環境に大きな変化が生じていることから、CFC制度の重要性を再認識しつつも、国際課税制度が日本企業の国際競争力を阻害することのないよう、ビジネスの実態を踏まえてCFC税制の見直しを行い、過剰課税や過度なコンプライアンスコストを軽減することが必要である。 (了)
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令和7年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】
令和7年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅱ スピンオフ等に伴うグループ通算離脱時の分配割合等の計算の見直し 1 改正の概要 通算法人の株主がその通算法人の行った株式分配により完全子法人の株式等の交付を受けた場合の所有株式の譲渡損益の計算の基礎となる完全子法人株式対応帳簿価額等について、株式分配の直前の所有株式の帳簿価額に乗ずる割合等につき、その分母及び分子に簿価修正相当額の金額を加減算する等の見直しを行う(分割型分割に係る分割割合の計算についても同様の見直しを行う。法令8①十五・十七・②、23①二・三・②、119の8、119の8の2、法規8の2の3②、8の5の2②)。 [スピンオフ等に伴うグループ通算離脱時の分配割合等の計算の見直し] [グループ通算離脱を伴うスピンアウトの分配割合計算上の課題と改正の目的] ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 これは、次の【ケース1】【ケース2】【ケース3】のように、通算子法人のスピンオフのために行われる株式分配又は分割型分割で適用される取扱いとなる。 【ケース1】通算親法人が通算子法人株式を株式分配(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース2】通算親法人が通算子法人株式を分割型分割(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース3】通算子法人が他の通算子法人株式を分割型分割(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース1】の株式分配によるスピンオフが行われる場合、通算親法人の株主において、スピンオフ後の完全子法人株式の取得価額及び通算親法人株式の取得価額の計算や通算親法人株式の譲渡損益の計算(金銭等交付株式分配の場合に発生する)を行う際に、その計算要素として、通算親法人から通知される分配割合が必要となる。 ただし、通算親法人が分配割合を計算するためには、投資簿価修正後の完全子法人株式の帳簿価額を計算する必要がある。 しかし、その完全子法人(離脱法人)において離脱直前事業年度(離脱日の前日を終了日とする事業年度)に係る確定申告書の作成が完了しない限り、通算親法人において完全子法人株式(離脱法人株式)の投資簿価修正額は計算できない。 そのため、スピンオフが行われた日である離脱日から相当の期間が経過してから、通算親法人はその株主に分配割合を通知することとなるため、結果、通算親法人の株主において、スピンオフに係る課税関係の確定や確定申告が速やかにできない、あるいは、いったん確定申告をしておいて分配割合が通知された後に修正申告を行わざるを得ないという問題が生じていた。 そこで、令和7年度税制改正において、分配割合の計算において、投資簿価修正額ではなく、それに相当する金額(簿価修正相当額)を使用することとし、その簿価修正相当額を離脱法人の前期末の簿価純資産価額に基づき計算できるように改正が行われることとなった。 また、【ケース2】【ケース3】の分割型分割によるスピンオフにおける分割割合の計算についても同様の改正が行われた。 この改正は、令和7年4月1日以後に行われる分割型分割及び株式分配について適用される(令7改法令附5、6)。 (続く)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第73回】「課税要件明確主義と『不相当に高額な部分の金額』」
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第73回】 「課税要件明確主義と『不相当に高額な部分の金額』」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 課税要件明確主義 租税法律主義とは憲法84条を根源とする考え方であり、「法律の根拠に基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の納付を要求されることはない」と説明されている。そして租税法律主義の内容として「『課税要件法定主義』、『課税要件明確主義』、『合法性原則』および『手続的保障原則』の4つ」があり、このうち課税要件明確主義は、「法律またはその委任のもとに政令や省令において課税要件および租税の賦課・徴収の手続に関する定めをなす場合に、その定めはなるべく一義的で明確でなければならない」という内容であるとされている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)77頁、80頁、84頁。 役員給与の論点においてこれを考える場合、法人税法34条2項の「不相当に高額な部分の金額」という部分は、課税要件明確主義に反しているかどうかということが問題となると思われる。 なお、この点に関して、「中間目的ないし経験概念を内容とする不確定概念であって、これは一見不明確に見えても、法の趣旨・目的にてらしてその意義を明確になしうるもの」であれば、法の解釈の問題であり課税要件明確主義に反しないと整理されることもあるため(※2)、役員給与に関して争われた裁判例に触れながらみていこう。 (※2) 金子・前掲(※1)85頁。 (2) 法人税法34条2項の合憲性が争われた事例 法人税法34条2項の合憲性の判断を裁判所が示した最近の事例として、東京地裁平成28年4月22日判決がある(※3)。いわゆる残波事件と呼ばれる著名裁判例であり、本連載でも時折触れている。本稿では、合憲性の論点に絞ってこの裁判例の概要を紹介する。 (※3) 税務訴訟資料266号順号12849。なお、控訴及び上告がなされているが、納税者の違憲の主張に関しては、高裁は地裁判決の判断を支持し、最高裁は上告を棄却等しているため、ここでは地裁判決を取り上げている。東京高裁平成29年2月23日判決(税務訴訟資料267号順号12981)、最高裁平成30年1月25日決定(税務訴訟資料268号順号13118)。 この裁判例は、法人税法34条2項の合憲性について裁判所が正面から示したという意味でも意義があるといえる。納税者は、同業類似法人における役員給与の支給状況を用いなければ職務対価相当額が導かれないのであれば、納税者の予測可能性が害された違憲の課税である旨を主張したが、上記の通りこの主張は退けられている。 なお、本件裁判例に関しては、「課税要件明確主義違反になるかどうかの判断をこのような議論ですましてよいのか、検証過程に疑問なしといえない」とする批判がある(※4)。 (※4) 木山泰嗣「判決から読む憲法解釈第41回 過大役員給与規定と租税法律主義」税理60巻(2017)6号105頁。 他にも、同様に憲法84条が争点となった裁判例として、名古屋地裁平成6年6月15日判決がある(※5)。こちらも同様に「不相当に高額な部分の金額」について違憲か否かが争点となっているため、この点に絞って概要を紹介する。 (※5) 税務訴訟資料201号485頁。なお、控訴及び上告がなされているが、納税者の違憲の主張に関しては、高裁は地裁判決の判断を支持し、最高裁は上告を棄却しているため、ここでは地裁判決を取り上げている。名古屋高裁平成7年3月30日判決(税務訴訟資料208号1081頁)、最高裁平成9年3月25日判決(税務訴訟資料222号1226頁)。 この裁判例も、裁判所によって納税者の違憲主張が退けられている。納税者は、法人税法34条1項に規定する「不相当に高額な部分の金額」という要件は、納税者が具体的に判断できるだけの明確性を備えていなければならないが、積極的に定義づけることが困難な概念である等と主張した。しかし、結果は上記の通りであり、納税者が判断し難いと主張したことに対しては、申告時において納税者が判断可能であるとして切り捨てられている。 なお、この裁判例に関する評釈において、現在の法人税法34条2項について、「職務執行の対価として相当かどうかのみで判定されるべきである」と指摘した上で「税法典から排除すべきである」という批判的意見がある(※6)。 (※6) 齋藤滋「不相当に高額な役員給与に関する公正基準」租税訴訟9巻(2016)386頁。 (3) 裁判所の姿勢と実務上の対応 これらの裁判例は、いずれも、納税者が予見可能性の困難さから違憲であると主張したところ、納税者の予見可能性がある程度担保されている等として退けられている。また、不相当に高額な役員給与の論点が争点となった事例において、納税者が違憲性の主張まで行うケースは他にもみられるが、同旨の内容が示されている(※7)。 (※7) 例えば、札幌地裁平成11年12月10日判決(税務訴訟資料245号703頁)、東京地裁平成29年10月13日判決(税務訴訟資料267号順号13076)等がある。 役員給与の論点以外にも、納税者と課税庁との間で争いとなり、それが憲法問題となるケースは存在しており、例えば、最高裁昭和60年3月27日判決では(※8)、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである」と判示している。そして、この最高裁判決が現れたことで、「それが判例法として機能し、各裁判所は違憲判断について極めて慎重になっている」という指摘があり(※9)、役員給与の論点においても同様となっていると思われる。 (※8) 税務訴訟資料144号936頁。この事例は、給与所得者と事業所得者等との間における取扱いの差が不平等ではないかという納税者の主張がなされ、所得税法28条について憲法14条違反の有無が争われた事例である。 (※9) 品川芳宣「役員報酬(給与)・役員退職給与の相当額(過大額)の認定」T&A master 2016年9月26日号。 この問題に関しては、上記批判的意見の他にも「課税要件明確主義からすると法人税法34条及び同法施行令69条1号自体が違憲と解される」という指摘等があり(※10)、引き続き議論の発展が待たれるところである。納税者においては、同業類似法人の実情を事前に完全に把握することは難しいという実情があると思われるが(※11)、実務上は当該実情を踏まえた対応が行われている。特に、「不相当に高額な部分の金額」の論点が問題となる場合、役員退職給与の損金算入の可否について争う場面が多いと思われるが、この場合には功績倍率法による妥当な水準で支給することが標準的な対応となっているだろう。 (※10) 三木義一『現代税法と人権』(勁草書房、1992)222頁。 (※11) この点について、「有価証券報告書などでデータを知りうる公開会社などは別として、競争会社に『御社の役員報酬はいくらですか』ときくようなことは非常識であろう。まして、類似企業のない、あるいは遠隔の地にしかないというような事業の場合、企業の立場としては無理な場合が多いのである」という、中小企業における実態の核心を突くような批判も古くから存在している。平石雄一郎「経営対価の過大認定化傾向とその対抗理論」税理30巻(1987)14号38頁。 (了)
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給与計算の質問箱 【第67回】「事前確定届出給与を2回以上支給する場合の注意点」
給与計算の質問箱 【第67回】 「事前確定届出給与を2回以上支給する場合の注意点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 事前確定届出給与を2回以上支給する場合の注意点についてご教示ください。 A 以下に解説する。 * * 解 説 * * 1 同一事業年度に2回以上支給する場合 1回でも不支給や一部支給があれば、事前確定届出給与に関する届出書通りに支給した事前確定届出給与も含めて損金不算入になる。 〈具体例〉 2 事業年度をまたいで2回以上支給する場合 当期において事前確定届出給与に関する届出書通りに支給すれば、翌期に不支給や一部支給であっても、当期の事前確定届出給与だけは損金算入できる。 一方、当期において不支給や一部支給があれば、翌期に事前確定届出給与に関する届出書通りに支給しても、翌期も含め損金不算入になる。 〈具体例〉 (了)
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相続税の実務問答 【第109回】「遺産分割期限の延長が認められるやむを得ない事情の承認申請者」
相続税の実務問答 【第109回】 「遺産分割期限の延長が認められるやむを得ない事情の承認申請者」 税理士 梶野 研二 [答] あなたは、相続税の申告期限から3年が経過する日の翌日から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しておらず、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割ができなかったやむを得ない事由について税務署長の承認を受けていません。たとえ、妹さんがやむを得ない事由の承認を受けており、そのやむを得ない事由があなたと共通のものであったとしても、あなたの特例の適用に関して税務署長の承認を得ているわけではありませんので、あなたが審判の確定により取得することとなった自宅建物の敷地について小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、妹さんは、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を受けていることから、審判があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることによりアパートの敷地について小規模宅地等の特例を適用することができます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 未分割の宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用 (1) 申告期限において、宅地等の分割がされていない場合 被相続人又は被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用又は事業の用に供されていた宅地等(以下「特例対象宅地等」といいます)であっても、相続税の申告書の提出期限(以下「申告期限」といいます)までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないものについては、租税特別措置法第69条の4第1項に規定する「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地等の特例」といいます)を適用することはできません(措法69の4④本文)。 ただし、その分割されていない宅地等が、申告期限から3年以内に分割された場合には、その分割された宅地等については、この特例を適用することができます(措法69の4④ただし書き)。申告期限において未分割の宅地等について、3年以内に分割し、小規模宅地等の特例を適用しようとする場合には、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます(措法69の4⑦、措規23の2⑧六)。 (2) 申告期限から3年以内に宅地等の分割がされていない場合 相続税の申告期限から3年が経過するまでに分割されていない特例対象宅地等については、上記(1)のとおり、原則として、小規模宅地等の特例を適用することができません。 しかしながら、特例対象宅地等が申告期限から3年を経過するまでに分割されなかったことについて一定のやむを得ない事情がある場合に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」(以下「承認申請書」といいます)を所轄税務署長に提出し、その承認を受けたときには、未分割であった特例対象宅地等の分割ができることとなった日から4ヶ月以内に分割がされれば、その特例対象宅地等について小規模宅地等の特例を適用することができることとされています(措法69の4④ただし書きのかっこ)。 2 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書 上記1の承認申請は、相続税の申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に、遺産分割により取得することとなる特例対象宅地等について小規模宅地等の特例を適用する可能性のある相続人等が、それぞれ提出します(措令40の2㉓、相令4の2)。相続税の申告期限から3年を経過した後に行われた遺産分割により、小規模宅地等の特例の適用要件を満たす宅地等を取得することができたとしても、この承認申請を行わなかった者は、小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、同特例の適用を受ける相続人等が2人以上いるときは、実務的には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の様式(国税庁ホームページ)の「〇相続人等申請者の住所・氏名等」欄に各相続人等が連署して、税務署長に申請することが多いと思われますが、他の相続人等と共同して提出することができない場合は、各相続人等が別々に申請書を提出することとなります。 3 ご質問の場合 あなたは、相続税の申告書の提出期限から3年を経過した日の翌日から2ヶ月以内に承認申請書を提出していませんし、妹さんが提出した承認申請書にもあなたの住所氏名の記載はなかったとのことです(※)。そうしますと、たとえ、妹さんが税務署長の承認を受けたやむを得ない事由があなたと共通のものであったとしても、あなたの特例の適用に関して、あなたがやむを得ない事由がある旨の税務署長の承認を得ているわけではありませんので、あなたが審判の確定により取得した自宅建物の敷地について小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、妹さんは、承認申請書を提出し、税務署長の承認を受けていることから、取得したアパートの敷地が貸付事業用宅地等に該当すれば、審判があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることにより小規模宅地等の特例を適用することができます。 (※) 妹さんが提出した「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の「〇相続人等申請者の住所・氏名等」欄にあなたの住所氏名が記載されていたならば、あなたも妹さんとともに承認申請を行ったこととなります。ただし、この場合、あなたの承認申請の意思が前提であり、明示又は黙示によるあなたの意思がなく、同欄にあなたの住所氏名が記載されていた場合については、厳密にいえば、あなたの承認申請が有効ではないといえます。なお、令和3年度の税制改正(税務関係書類における押印義務の見直し)を受けて、令和3年4月1日付課資6-11による資産税事務提要(様式編)の改正により、同様式の「相続人等申請者の住所・氏名等」欄の押印が廃止されました。この結果、主たる申請者以外の相続人等の連署の認識が希薄になったのではないかと思われます。 (了)
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〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第10回】「用語を確認しよう!」-サステナビリティ情報・ESG情報・気候関連情報-
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第10回】 「用語を確認しよう!」 -サステナビリティ情報・ESG情報・気候関連情報- 公認会計士 石王丸 香菜子 上場企業を中心に、サステナビリティ情報の開示が普及しています。サステナビリティ・レポートや統合報告書、ウェブサイトなどにおける任意開示が行われるほか、2023年3月期からは法定開示書類である有価証券報告書にも「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が導入されています。2025年3月、我が国のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)から3つのサステナビリティ開示基準(※1)が公表されました。これらの基準の公開草案にコメントを寄せた団体・個人は100超。注目の高さをうかがい知ることができますね。今後プライム市場の上場企業は、これらの基準に準拠してサステナビリティ情報を有価証券報告書で開示することが求められるようになる見込みです。 こうした動向を背景に、有価証券報告書における財務情報の作成を担う経理部も、サステナビリティ情報開示の概要を把握する必要性が高まっています。本連載の後編では、経理部の方を主な対象として、サステナビリティ情報開示のうち気候関連開示の概要をやさしく学びます。 それでは、「サステナビリティ推進室」を立ち上げたばかりのジャーナル食品社をのぞいてみましょう! (※1) 「サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」」 「サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」」 「サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」」 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * 上場企業を中心に、組織内にサステナビリティ推進室(推進部)を設ける事例が増えています。 サステナビリティ推進室は、主に、サステナビリティに関連する経営戦略の立案・推進や、サステナビリティ情報の開示などの業務を担当する部署です。従前の組織にはない部署のため、立ち上げ当初は既存部署の一部であったり、メンバーが他部署と兼任したりする事例も多いようです。 * * * * * * 「持続可能性」を意味する「サステナビリティ(Sustainability)」。 1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会」により公表された報告書「Our Common Future」の中でsustainable development(持続可能な開発)という表現が用いられて以降、サステナビリティは社会に広く浸透する概念となりました。 サステナビリティは、環境保全や社会的公正と経済発展のバランスを取りながら、持続可能な状態を実現することを指します。 * * * (※2) CSR:Corporate Social Responsibilityの略。企業が果たすべき社会的責任のこと。 * * * 2006年、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクト(UNGC)は、PRI(Principles for Responsible Investment;責任投資原則)を策定しました。PRIは、投資活動において環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)という3つの要素を考慮することで、長期的なリターンと持続可能な社会を両立させることを目的とするものです。PRIには多くの機関投資家(保険会社・年金基金・投資顧問会社などの大口の投資家)が署名しています(※3)。 (※3) 2024年9月末時点でPRIへの署名機関は5,300を超える。日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年に署名している。 * * * * * * ESG投資の拡大は、企業がサステナビリティに関する取り組みを積極的に行う理由の1つとなっています。 * * * * * * 金融庁から公表された資料(※4)によれば、サステナビリティ情報には、例えば、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得るとされています。 (※4) 金融庁「記述情報の開示に関する原則(別添) ―サステナビリティ情報の開示について― 」 * * * * * * なお、米国ではいわゆる「反ESG」の動きも存在し、2025年のトランプ大統領就任を引き金に、この動きが急加速しています(※5)。 (※5) 例えば、米国大手金融機関がネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)から相次いで脱退するといった動向がある。NZBAは、銀行の投融資ポートフォリオのGHG排出量をネットゼロにすることを目指す国際的な金融機関の連携組織をいう。 * * * 企業によるサステナビリティへの取り組みに関して登場する概念の1つに「マテリアリティ(materiality)」があります。 マテリアリティは、さまざまなサステナビリティ課題のうち自社が優先的に取り組むべき「重要課題」を指しますが、サステナビリティ情報の開示という文脈では、開示すべき情報を判断するための「重要性」を意味します。 重要性がある(material)情報は、開示が必要と判断されます。 マテリアリティには、主に「シングル・マテリアリティ」と「ダブル・マテリアリティ」という2つの考え方があります。 シングル・マテリアリティは、環境や社会といった要素が企業の財務面にどのような影響を与えるかという視点で、情報の重要性を判断するものです。 一方、ダブル・マテリアリティは、先述の影響に加え、企業の事業活動が環境や社会にどのような影響を与えるかという視点も合わせて、情報の重要性を判断するものです。 * * * * * * 開示するサステナビリティ情報の利用者として主に投資家を想定する場合、投資家は自らの投資意思決定に資する情報にニーズを持つことから、シングル・マテリアリティの考え方がなじみます。 一方、投資家以外にもさまざまな利害関係者を利用者として想定する場合は、企業活動が環境や社会に及ぼすインパクトに関する情報へのニーズもあるため、ダブル・マテリアリティの考え方が採られます。 * * * * * * Q 企業が開示するサステナビリティ情報って何? A サステナビリティは、環境保全や社会的公正と経済発展のバランスを取りながら、持続可能な状態を実現することを指します。企業が開示するサステナビリティ情報は、中長期的な持続可能性に係る広い情報を指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の要素が中核となっています。気候関連情報は、サステナビリティ情報のうち環境の要素に属する情報の1つです。 (了)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第67回】「定期借地権設定契約に登場する前払地代方式の特徴」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第67回】 「定期借地権設定契約に登場する前払地代方式の特徴」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 定期借地権設定契約を締結する際に、権利金や保証金に代えて前払地代方式を採用するケースが増えています。 前払地代方式とは、文字どおり地代の一部または全部を一括して前払いする方式です。 税理士の方々を前にこのようなお話をするのは恐縮ですが、前払方式が採用されている契約では税務処理に特徴がみられるため、不動産鑑定士としても関心を集めるところとなっております。 今回は、定期借地権設定契約に登場する前払地代方式の特徴と鑑定評価のかかわりについて述べてみたいと思います。 2 前払地代方式とは 定期借地権の特徴として、次の点が鑑定評価における留意事項としてあげられています(不動産鑑定評価基準運用上の留意事項Ⅷ.1.(3).③)。 定期借地権は平成4年8月1日から施行された借地借家法に根拠を置くものであり、それ以前に(=旧借地法の時代に)設定された借地権にみられるような権利金の授受が行われている例はきわめて少ないといえます。これに代えて多く授受されてきているのが前払地代というものです。 ちなみに、ここにいう前払地代とは、地代の一部または全部を一括して前払いした場合の一時金のことを指します。特に定期借地権の前払地代については、これが契約期間にわたって賃料の一部または全部に充当される仕組みとなっています。 3 前払地代方式が採用された背景 定期借地権にかかる前払地代方式が採用された背景として、税務上の取扱いが明確にされたことが指摘されています。これは、平成16年12月16日付で国土交通省土地・水資源局長より発出された「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取り扱いについて(照会)」に対してなされた平成17年1月7日付国税庁課税部長による回答によるものです。 すなわち、契約期間の満了前における契約解除または中途解約時の未経過部分に相当する金額の借地権者への返還等を取り決めている場合には、契約時に一時金として授受されていても、当該年分の賃料に相当する金額での税務処理が可能となっているためです。これに伴い、平成26年の不動産鑑定評価基準改正時には、定期借地契約において授受される前払地代を新たな一時金として位置付けています。 4 不動産鑑定士の目からみた前払地代方式の特徴 不動産鑑定評価基準の考え方に基づけば、旧借地法の下においては、実際に授受している地代がその土地の時価(経済価値)に見合った地代と比べて著しく低廉であることから、借地権者に借り得部分(経済的利益)が生じ、これが借地権価格を構成する大きな源泉となるというとらえ方が1つの拠り所とされていました。 しかし、前払地代方式で賃料の一部を一括前払いしている場合には、期間が経過するごとに前払地代のうちの一年分がその年の地代に加算されるため、ケースによっては借り得部分が生じなくなる場合も考えられます。特に、事業用定期借地権については契約時に設定した賃料の利回りが高い事例も見受けられることから、これに前払分が加算された場合には然りです。 加えて、借地権設定の対価としての性格を有する一時金(権利金)も授受されていない状況では、定期借地権は旧借地法の下における借地権と比べて経済的基盤の上でも弱い面があり、定期借地権の価格の存在を裏付ける根拠は希薄となります 5 不動産鑑定士の価値判断を難しくさせている要因 定期借地権の経済的側面に関しては上記のとおり様々な問題点が指摘されますが、不動産鑑定士にとっても価値判断を難しくさせている要因が他にも潜んでいます。 すなわち、定期借地権といえども、契約期間の長短はあるものの普通借地権(旧借地法の下における借地権も含めて)と同様に「土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益」(※)を有しているといえるからです。その反面、定期借地権はその性格からして、ある一定期間を経過すれば契約期間の満了時期が近づくにつれてその価値がゼロに近づくというとらえ方も合理性を有するといえます。 (※) 「借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することにより借地権者に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含む。)を貨幣額で表示したものである。 借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎とするものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。 ア 土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益 イ 借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分 」(不動産鑑定評価基準各論第1章第1節Ⅰ.3.(1).①) 定期借地権の経済的性格に関しては上記のとおり相反する側面も混在し、さらに前払地 代方式も採用されていることを踏まえれば、不動産鑑定士としては今後の市場動向や定期借地権の取引事例による検証に十分な留意を払う必要があると考えています。 (了)
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《税理士のための》登記情報分析術 【第26回】「相続登記について」~遺産分割協議書の作成~
《税理士のための》 登記情報分析術 【第26回】 「相続登記について」 ~遺産分割協議書の作成~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 相続人の確定や財産調査が終われば遺産の名義変更などの承継手続を行っていくことになる。遺言書があれば遺言書に基づいて行うことになるが、ない場合には遺産分割を行うことになる。税務申告のために税理士が遺産分割協議書の作成をサポートすることがあると思われるが、不動産の名義変更である相続登記の観点から注意点を解説する。 1 不動産の記載は登記記録に合わせる 税理士が案文を作成した遺産分割協議書に基づいて相続登記の依頼を受けることがあるが、不動産の記載が不適切で相続登記には利用できないケースがある。代表的な例は、不動産の記載が「住居表示」で記載されている場合である。 【住居表示で不動産が記載されている遺産分割協議書の例】 このような記載方法だと、法務局では地番、家屋番号などにより不動産を管理しているため、不動産の特定ができないとして登記を進めてもらえないことがある。 また、本記載例のように「自宅」、「マンション」のような記載ぶりだと、建物だけを相続するのか、敷地を含むのかが判然としない。法務局に指摘されると、改めて遺産分割協議書の作成が必要になるため注意が必要である。 【登記記録に準じて不動産が記載されている遺産分割協議書の例】 2 分譲マンションの敷地権の記載に注意 遺産にいわゆる分譲マンション(区分建物)が含まれる場合も、不動産の記載に注意が必要である。 分譲マンションは建物については一室ごとに独立した登記記録が存在する。土地については、建物の所有者で共有することになるが、全共有者を記載すると登記記録の判読が困難になる。建物所有者が100人存在する場合、土地の登記記録には100人の共有者が記載されることをイメージすると、困難さがイメージしやすいだろう。 そのため、通常は分譲マンションの土地の権利については、「敷地権化」という措置がされていることが多い。これは建物の登記記録に「敷地権」として、土地の利用権を一体化させることである。 分譲マンションの登記記録を見たことがある人であれば、「敷地権」という記載がされているのを目にしたことがあるだろう。 【分譲マンションの登記記録例】 遺産分割協議書に分譲マンションを記載する際には、登記記録にある「一棟の建物の表示」や「敷地権」の記載を行わないと登記ができないことになるため注意が必要である。 【分譲マンションの遺産分割協議書への記載の仕方】 3 不動産の利用状況に応じた遺産分割をしたい場合 税理士が作成をサポートした遺産分割協議書では、1筆の土地を利用状況に応じて承継者を定めているものを見ることがある。例えば、以下のような記載である。 【1筆の土地について利用状況に応じて承継者を定めている例】 このような記載方法でも、当事者間で合意ができているのであれば、遺産分割協議書自体は有効といえるのかもしれないが、1筆の土地を利用状況に応じて所有者を登記することは登記制度としてできないため、相続登記には使用できないことになる。 もし、利用状況に応じて不動産を承継させたいのであれば、分筆を行ったうえで相続登記を行うなどの対応が必要となる。 4 遺産分割協議書に司法書士のチェックを 本稿で紹介したように、遺産分割協議書には相続登記の観点から様々な注意点がある。顧客からすれば「税理士のサポートを受けた遺産分割協議書であれば安心だ」と考えることが通常であると思われる。 もし、相続登記に使用できないとなると信頼を損ねる可能性もあるため、不安がある場合には司法書士のチェックを受けるとよいだろう。 (了)
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第25回】「年金制度改正法の成立と適用拡大」
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第25回】 「年金制度改正法の成立と適用拡大」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇財政検証の結果と年金制度改正の背景 6月13日に年金制度改正法が成立しました。今回の改正は2024年に実施された財政検証の結果を踏まえて立案された極めて重要な改正です。 今般の財政検証では、厚生年金の財源が適用拡大により社会保険加入の就労者が増えたことで大きく改善され、マクロ経済スライド終了の目処がたったこと、一方で、国民年金の財源の脆弱さが明らかになりました。 そのため、適用拡大は事業規模を問わずにスピード感をもって展開することと基礎年金の底上げの必要性が昨年末から頻繁に議論されるようになりました。しかしその後SNS等で異議を唱える声が大きくなったこともあり、基礎年金の底上げの検討は5年後の財政検証に持ち越され、「あんこの入っていないあんパン」と揶揄されました。 また年金財源の改善に寄与した適用拡大の推進は当初のスケジュール展開のスピードを大幅にスローダウンすることになりました。 〇適用拡大の2つの目的 適用拡大には2つの目的があります。1つは、社会保険加入要件を拡大することにより、短時間労働であったとしても厚生年金に加入させ、将来の低年金者の発生を防ごうというものです。この目的の推進は事業規模の大きいところから実行され、その成果が今回の財政検証で明らかになったところです。 そのため今後の適用拡大は、労働時間が同じであれば、勤め先の事業規模によって厚生年金への加入の可否に差がつくことなく公平にしていこうという、2つ目の目的に移行しています。 〇現行の社会保険加入要件とその変更 適用拡大は、厚生年金加入の要件を「年収130万円から106万円に引き下げる」ことで進めていますが、詳しくは以下の4つの条件を満たすことが社会保険に加入する要件です。 厚生年金に加入ができると老齢基礎年金(国民年金)の上乗せで老齢厚生年金を受給できるため、低年金を防ぐことができます。また、障害厚生年金や遺族厚生年金も受けられるので保障も手厚くなりますし、健康保険にも加入できるので、傷病手当金や出産手当金など被用者保険の給付のメリットも受けられます。さらにこれまで国民年金に加入していた第1号被保険者については、厚生年金加入により会社が保険料を半分負担してくれるため、今までより個人で負担する社会保険料が軽減されます。 前述した4つの要件のうち、②の給与が88,000円以上という要件は、今後3年以内に撤廃の見通しです。これは最低賃金が上がると、労働時間が週20時間に達しなくとも給与が88,000円以上になるためです。これに伴い、今後社会保険加入の要件は、①週の勤務が20時間以上であることと、よりシンプルになります。ただし、これは最低賃金の上昇が前提であるため、そのタイミングは確定していません。 〇適用拡大の展開スケジュール これまでの適用拡大の実施は事業規模別に進んできました。2016年10月からは従業員501人以上の企業、2022年10月からは従業員101人以上の企業、2024年10月からは従業員51人以上の企業で導入されました。 そして今後は50人以下の企業に10年の月日をかけて展開されていきます。 具体的には、36人以上の企業は2027年10月から、21人以上の企業は2029年10月から、11人以上の企業は2032年10月から、10人以下の企業は2035年10月からとなります。ただし、このスケジュールに則らずとも、労使合意に基づき加入することも可能です。 〇個人事業所の取扱い また今回の改正では、常時5人以上の者を使用する個人事業所は、現在の17種類(※)に限らず全業種の事業所が社会保険に加入することになりました。しかし例外として、2029年10月時点ですでに存在している事業所は当分の間対象外となりました。また5人未満の個人事業所は現行通り社会保険加入の対象外のままとなりました。 (※) 法律で定める17種類 ①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業 〇適用拡大が進まない理由 このように今回の年金法改正においては、財政検証で効果が確認され進めるべきであると明言された適用拡大が10年という長い時間をかけて小規模事業所に展開していくことになりました。また「すべての働く人に等しい厚生年金加入要件を」という目的は果たされることなく例外が残ることになりました。 適用拡大のさらなる展開に時間を要しているのは、社会保険料の負担が重くのしかかる小規模事業を経営する事業主への配慮もありますが、いわゆる専業主婦などの「扶養から外れたくない、外れたら損だ」という声の強さもあるようです。いわゆる「年収の壁」による雇い控え、働き控えです。 〇短時間労働者への支援措置 しかし、昨今は人材不足です。少しでも年収の壁による雇い控え、働き控えを解消しようと、今回の改正では社会保険の加入拡大の対象となる短時間労働者を支援するため、特例的・時限的に保険料負担を軽減する保険料調整の措置を実施することになりました。 対象は、従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が12.6万円以下である方です。 社会保険料は労使折半ですが、この措置の利用を希望する事業主は、事業主の負担割合を増やし、被保険者の負担を軽減することができます。また事業主が追加負担した分については、その全額を制度全体で支援することになっています。 3年間だけの時限措置ではありますが、これを機に短時間勤務の従業員の処遇を見直し、働く環境を整えていきたいという事業者にとってはメリットのある仕組みと言えるでしょう。 以上今回は、今般成立した年金制度改正法から適用拡大について抜粋してお伝えしました。小規模事業所への適用拡大は、今後確実に進んでいきますので制度理解の参考にしていただけましたら幸いです。 (了)