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所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第85回】「所得区分と損益通算/給与所得を有する社会保険労務士の相談業務に係る損失(さいたま地方裁判所令和6年12月11日判決)」

租税争訟レポート 【第85回】 「所得区分と損益通算/給与所得を有する社会保険労務士の相談業務に係る損失 (さいたま地方裁判所令和6年12月11日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈さいたま地方裁判所令和6年12月11日判決の概要〉   【事案の概要】 青色申告の承認を受けている、社会保険労務士である原告が、平成28年分から令和2年分までの所得税及び復興特別所得税について、社会保険労務士として行った相談業務から生じた所得は事業所得に該当するとの前提に立って他の所得金額と損益通算する内容の確定申告をしたのに対し、処分行政庁である上尾税務署長は、相談業務から生じた所得は事業所得には該当せず、雑所得に該当するから、他の所得との損益通算はできないなどとして、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。 本件は、原告が、①相談業務から生じた所得は雑所得ではなく事業所得に該当する、②上尾税務署長による各処分の前提となる調査に各処分の取消原因となる瑕疵があった、③各処分の理由の付記に不備があったから、各処分は違法であると主張して、被告に対し、その取消しを求めるとともに、原告が各処分に従って令和4年3月18日に納付した37万800円につき、各処分の取消しがされたときは債務不履行となると主張して、同金員に対する令和4年3月18日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。   【争点】   【さいたま地方裁判所の判断】 本稿では、原告が相談業務に従事したことによって生じた所得が、事業所得又は雑所得のいずれの所得に区分されるかが中心的な争点であるため、まずは、前掲の争点(2)に対する原告と被告双方の主張を確認した上で、裁判所の判断を検討したい。 裁判所が判決の中で認定した原告の平成28年分から令和2年分までの収入金額と必要経費をまとめると次のとおりである。 原告は、相談業務で生じた所得を「事業所得」として申告していることから、給与所得金額と事業所得に係る損失金額を損益通算して申告したところ、処分行政庁は、相談業務で生じた所得は「事業所得」ではなくて「雑所得」であるから、損益通算はできず、雑所得は「0円」として更正処分を行ったものである。 (参考)   1 争点(2)に対する主張 (1) 被告の主張 被告である国・処分行政庁は、まず、特定の経済的活動から生じた所得が事業所得又は雑所得のいずれに該当するかは、①営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無のほか、②自己の危険と計画による企画遂行性の有無、③当該経済的行為に費やした精神的・肉体的労力の有無、④人的、物的設備の有無、⑤当該経済的行為をなす資金の調達方法、⑥その者の職業、経歴、社会的地位及び生活状況並びに当該経済活動をすることにより相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するかどうか等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきであるところ、原告については、次のアからカまでの事情によると、相談業務から生じた所得は、社会通念に照らして事業所得に該当するとは認められず、その他の種類の所得にも該当しない以上、雑所得に該当するとした。 (2) 原告の主張 被告の主張に対し、原告は、被告の主張は否認し争うとした上で、次のアからカまでの事情によると、本件業務から生じた所得は事業所得に該当するとした。   2 さいたま地方裁判所による判決の概要 さいたま地方裁判所は、原告の請求について、処分行政庁による課税処分の取消しについてはこれを却下し、各処分にしたがって納付した金員の返還を求める請求については棄却する判断を行っている。 各争点に関する裁判所の判断について、見ておきたい。 (1) 平成28年分更正処分から令和2年分更正処分までの取消しを求める部分の適法性 裁判所は、申告納税方式によるものとされている所得税等の国税においては、納付すべき税額は、原則として納税者のする申告により確定し(国税通則法15条1項、16条1項1号、2項1号)、納税者が申告の内容を自己の利益に変更するためには、更正の請求(国税通則法23条)によらなければならないものとされており、申告納税方式が採られている国税において、確定申告書に記載された事項の過誤の是正につき更正の請求という特別の制度が設けられたのは、課税標準等の決定については、最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限るものとすることが、租税債務を可及的速やかに確定させるべき国家財政上の要請に応ずるものであり、納税者に対しても過度の不利益を強いるおそれがないと考えられるからであると解されると述べる。 その上で、裁判所は、更正の請求の制度の趣旨に照らせば、申告に係る納付すべき税額等を更正する処分を受けた納税者は、申告の過誤が客観的に明白かつ重大であって更正の請求以外に是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限り、当該更正処分のうち申告に係る納付すべき税額を超えない部分については、上記更正の請求の手続を経ない限り、取消訴訟において取消しを求めることはできないというべきであると判示した。 こうした判示事項を踏まえて、裁判所は、本件においては、特段の事情があるとはうかがわれないから、原告の訴えのうち、①平成28年分更正処分のうち、総所得金額44万288円、納付すべき税額マイナス18万3,872円を超えない部分、②平成29年分更正処分のうち、総所得金額70万4,665円、納付すべき税額マイナス16万1,424円を超えない部分、③平成30年分更正処分のうち、総所得金額マイナス14万7,296円、納付すべき税額マイナス15万3,451円を超えない部分、④令和元年分更正処分のうち、総所得金額64万1,319円、納付すべき税額マイナス16万3,910円を超えない部分、⑤令和2年分更正処分のうち、総所得金額121万9,408円、納付すべき税額マイナス21万3,766円を超えない部分の取消しを求める部分は、いずれも不適法であるという判断を示した。 (2) 相談業務から生じた所得は事業所得又は雑所得のいずれに該当するか 裁判所は、事業所得とは、所得税法27条1項ないし所得税法施行令63条に列挙された事業から生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く)をいい、より一般的には、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと、最高裁判決を引用して定義した。 その上で、裁判所は、認定した事実によれば、原告においては、各年分において、社会保険労務士法において作成や保存が義務付けられている帳簿は作成されておらず、総勘定元帳等によっても、相談業務による個別の売上金額がいくらであったか、その相手方が誰であったかを確認することができない以上、各年分として申告された売上金額が正確であるか定かでない上、仮に正確であるとしても、相談業務においては、その売上金額に比して著しく多額の経費を要しており、営利性が極めて乏しいといわざるを得ず、また営業活動や広告活動もその効果は限定的であり、業務拡大、収益改善のための取組みもあまり見られず、原告は勤務先からの給与所得によって十分生活できる程度の所得を得ており、むしろ、かかる給与所得によって本件業務の経費の大半を補填していたこと等を踏まえれば、本件業務は営業面でも経理面でも事業実態に乏しい空疎なものであって、それ自体で安定的な収益を発生させるような独立した業務とは評価できないとして、相談業務から生じた所得は事業所得には該当しないというべきであるとする判断を行った。 そして、裁判所は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう(所得税法35条1項)ところ、原告による相談業務から生じた所得が雑所得を除くその他の種類の所得のいずれにも該当しないことは明らかであるから、相談業務から生じた所得は雑所得に該当するというべきであると結論づけた。 (3) 処分行政庁による調査に各処分の取消原因となる瑕疵があったか 裁判所は、税務調査の手続は、租税の公平、確実な賦課徴収のため課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査する手段として認められた手続であって、調査手続の単なる瑕疵は更正処分に影響を及ぼさないものと解すべきであり、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当であると一般論を述べる。 その上で、裁判所は、本件における処分行政庁の調査については、反面調査を含め、職員をして基本的には所定の手続を必要かつ相当な範囲で履践させていたものと認められ、わずかに瑕疵といえるのは令和3年11月19日の面接の際に職員が原告に対して延滞税について誤った説明をした点に限られるという事実認定に基づき、原告が延滞税のことはあまり気にかけることなく修正申告には応じられないとの意思決定をしたことに照らせば、少なくとも調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反する、社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどと評価することはできず、原告の主張する信義則違反、行政手続法32条2項違反、裁量の逸脱・濫用があったなどということもできないことから、処分行政庁の職員による調査に各処分の取消原因となる瑕疵があったとはいえないと判断した。 (4) 処分行政庁による各処分の理由の付記に不備があったか 裁判所は、理由付記について、青色申告制度を採用し、青色申告書に係る所得の金額の計算については、当該計算が法定の帳簿書類による正当な記載に基づくものである以上、その記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正をする処分行政庁の判断の慎重さや合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解されると述べた。 その上で、帳簿書類の記載自体を否認することなく更正をする場合においては、更正通知書記載の更正の理由が、更正の根拠を前記の処分行政庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記の制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、所得税法の要求する更正の理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当であると判示した。 そして、本件について、裁判所は、各年分の更正処分に係る通知書に付記された処分理由は、いずれも処分理由として、事業所得がどのようなものかを説明した上、処分行政庁が本件業務の態様、本件業務に係る人的・物的設備、原告の経歴・社会的地位等について認定した具体的な事実を指摘して、それらによれば相談業務から生じた所得が事業所得に該当するとはいえないこと、そして相談業務から生じた所得は雑所得に該当することになること、申告されていた必要経費は当年分の雑所得に係る必要経費に算入されること等が記載されており、理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されているものと認められ、裁判における全証拠によっても、この認定を覆すに足りる事情はうかがわれないことから、本件各処分の理由の付記に不備があったとはいえないと結論を述べた。 (5) 結論 裁判所は、原告が種々主張するところは、上記で認定、判示したところに照らして、いずれも採用することができないとした上で、本件訴えのうち、平成28年分更正処分から令和2年分更正処分までについて、取消しを求める部分はいずれも不適法であるから、これを却下し、原告のその余の請求は、各処分の取消しがされたことを前提とする金銭請求を含め、いずれも理由がないから、これを棄却するという判決を行った。   【判決の特徴】 前回に引き続き、「士業」である個人に対する課税処分をめぐる判決を取り上げた。ただ、本判決に注目したのは、「士業」である個人に対する課税処分というだけではなく、近年、副業を事業所得として損失計上して、給与所得など他の所得と損益通算をすることによる節税策が広く人口に膾炙した結果、課税庁側の「事業所得」認定が厳しくなって、「雑所得」として更正処分を受ける事案が増加しているのではなないかという、筆者の問題意識にも起因するものである。 なお、本判決は、国家資格を有し、士業として正式に登録をしている者であっても、それだけでは「事業所得」の要件を具備していないという判断が下されたという点で注目される判決であり、控訴審による審議中ということもあって、引き続き注視していきたい。   1 雑所得と損益通算の可否 商品先物取引から生ずる所得が事業所得か雑所得かの区分が争われた福岡高等裁判所昭和54年7月17日判決の評釈(※)で、弁護士の大石篤史氏は、雑所得については、もともと損益通算が認められていたものの、昭和43年度税制改正により損益通算の対象から除外されたという歴史的経緯を述べた上で、当時の解説を引用する形で、損益通算から除外された理由について、①雑所得については必要経費がほとんどかからない、かかっても収入を上回ることのないものが大部分であり、また、②ある程度支出を伴うものについても、その支出内容に家事関連費的な支出が多く、損益通算を存置する場合にはかえって本来の所得計算のあり方について混乱を招くおそれがあるためと説明している。 (※) 「51 雑所得と損益通算の可否」別冊ジュリスト207号『租税判例百選[第5版]』有斐閣、2011年、88-89頁 このような理由には一部で批判はあるものの、課税実務では、前提条件として受容されており、本稿で取り上げた訴訟でも、所得区分は争点となっているが、雑所得がなぜ損益通算できないかという論点は争点となっていない。 (参考:改正前の所得税法第69条第1項)   2 「事業所得」と認定させるためには何が必要だったか 裁判所の事実認定から、本件において、「雑所得」と認定されたポイントについて、「事業所得」と認めさせるために必要な条件を検討してみたい。   (了)
#671(掲載号)
#米澤 勝
2026/06/04
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第64回】「外貨建取引における為替差益の発生の時期、外貨取得時の円換算額」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第64回】 「外貨建取引における為替差益の発生の時期、外貨取得時の円換算額」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 外国に所在する不動産の購入費用の支払いとして、保有していた同国通貨建て外貨預金を充当した場合、外貨建取引として為替差損益は計上されるのでしょうか。 〔A〕 国外資産の取得等のために払い出された外貨の払出時における円換算額から当該外貨の取得時の円換算額を控除した差額が正である場合には、当該外貨が当該資産に置き換わったことにより、為替差益に相当する経済的価値が確定し、所得として実現したといえるという考え方が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 所得税法における為替差損益の算定方法について 本連載【第41回】の解説を参照されたい。 近年、個人の為替差損益に対する課税が直接又は間接に問題となる事例が増えている(※1)が、以下では、外貨建取引における所得の把握について争われた事例について検討する。 (※1) 本連載【第58回】で取り上げた東京地裁判決及びその控訴審である東京高裁令和5年5月24日判決(TAINSコード:Z273-13852)、その他東京地裁令和4年7月14日判決(TAINSコード:Z272-13732)及びその控訴審である東京高裁令和5年4月19日判決(TAINSコード:Z273-13843)等がある。   2 裁判例 《東京地裁令和7年2月5日判決(TAINSコード:Z888-2740)》 (1) 事案の概要 原告Xは、複数の預金口座において外国通貨(以下「外貨」という)である米ドル及びユーロを保有していたところ、平成29年から平成30年にかけて、米国に所在する不動産(以下「本件各不動産」という)をドル建てで購入するなどの複数の外貨建取引を行ったが、Xは、これらの取引につき、為替差益に係る所得はないとの前提で平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という)の所得税等の確定申告を行ったところ、所轄税務署長Yは、それらの外貨建取引につき為替差益が生じており、当該為替差益が雑所得に該当するとして、本件各年分の所得税等について各更正処分等をした。本件は、Xが、上記各処分が違法であると主張して、各更正処分等の取消しを求める事案である。 Xは平成17年から同28年まで、8の金融機関にX名義の外貨建預金口座(以下「本件外貨建預金口座」という)を順次開設し、各年分においてドル及びユーロを保有し、さらに平成29年9月15日から同30年7月10日にかけ、計4回ドルを借り入れた(以下「本件各借入れ」といい、各借入金を「本件各借入金」という)。その間、下表のとおり、平成29年10月4日、及び同30年2月13日から7月10日までの間、計4回にわたり不動産を購入した(以下「本件各不動産取引」という)。下表中「外貨払出時為替レート」とは、本件外貨建預金口座へ入金(本件各借入金による入金額を含む)した都度総平均法により計算した為替レートで、本件各不動産購入直前のものを示している。Xは平成24年3月から同年9月にわたり、本件外貨建預金口座に多額のドル(約4,580万ドル)を入金しており、当時の為替レートは1ドル80円前後であったため、下表の「外貨払出時為替レート」も80円台という水準のものとなっており、各不動産取得時の実勢レートと30%前後の乖離が生じていたため、右欄のとおりの為替差益が生じていた。 なお、Yにより雑所得とされた為替差益の金額は、不動産購入時だけでなく、外貨出金時及び本件各借入金に係る利息支払時にも、総平均法に基づき計算されているため、更正処分の対象となった雑所得の金額は、上記を含み、平成29年分が113,388,472円、平成30年分が257,705,765円とされた。 (2) 争点とXの主張 本件の争点は、①本件各不動産取引によってXに為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるか、②為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法、の2点である。 本件に係るXの主な主張は次のとおり(※2)。 (※2) Yの主張はほぼ裁判所に採用されているため省略。 ① 争点1について 所得税法36条1項は所得の実現について権利確定主義を規定しているところ、権利確定主義における「権利の確定」があったといえるためには、(イ)当該権利が発生したこと、及び(ロ)当該権利の実現の可能性が増大したことを客観的に認識できるようになったことが必要である。 (イ) 権利の発生について Xは、本件各借入れによって一時的に調達したドルを使用して本件各不動産を取得したにすぎず、本件各不動産の取得によっても、X個人の資産として計上される資産の勘定科目が手段である外貨預金から本来の目的である不動産に変化しただけであり、取引の前後でXの純資産の増加はなく、資産状況に実質的な変化はないから、新たな経済価値は流入しておらず、人の担税力を増加させる経済的価値は生じていない。 (ロ) 権利の実現について 本件各不動産の取得は、当初から想定されていた取引にすぎず、本件各不動産の取得のタイミングでドルからドル建て資産に転換しただけであって、為替差益に係る所得の実現可能性が高まったものではない。 ② 争点2について 所得税法上、外貨と暗号資産は、いずれも不特定の者に対して使用することができる財産であり、かつ、譲渡所得の基因となる資産に該当しないという共通した性質を持つものであるところ、為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定においても、取得価額を平均化することが実態に合わないといえるような場合には、所得税法119条の2第2項が採用する個別法によることが相当である。 (3) 裁判所の判断 東京地裁は、次のとおり、Xの請求はいずれも理由がなく、これらを棄却すると判示した。 ① 争点1について (イ) 為替差益に係る所得の把握において基準とすべき通貨について (ロ) 為替差益に係る所得の発生ないし実現について ② 争点2について (4) 検討 ① 所得の発生ないし実現について 所得税法は、包括的所得概念を前提としながらも、未実現の利得には原則課税しないという立法政策を採用しているため、資産の所有期間中の価値の増加には課税されず、その所有者が当該資産を手放したとき、過去の値上がり分に対し課税される(譲渡所得に係る清算課税説)(※3)。 (※3) 佐藤英明『スタンダード所得税法〔第2版補正版〕』(弘文堂、2018年)85~86頁参照 本件で、東京地裁は、「単に外貨を保有し続けている状況において、為替レートの変動により当該外貨につき為替差益が生じたとしても、そのことだけでは、当該為替差益は所有資産の価値の増加(評価差額)にすぎず、未実現の利得であって、『収入すべき金額』に該当しない。」と述べており、この判示は、所得区分は異なるとはいえ、清算課税説と整合的である。ここでいう資産を手放したときとは、他の資産と交換したときと等価であり、本件においては、外貨預金が不動産に変容したときがそのタイミングとなろう。 ② 為替差益の計上時期 判決文に添付される別表によれば、本件各借入れの時期と借入金額は、上記(1)の表中の本件各不動産取引の時期及び購入金額と概ね符合しており、それが、上記(2)①(イ)のXの主張の前提となっている(※4)。 (※4) 藤岡裕治「為替差損益による所得の把握において基準とすべき通貨」(ジュリスト、2025年11月)11頁は、「Xは、(中略)その借入金に相当する現金で不動産を購入したため、純資産に増減はなく、為替差益による所得はないという認識であったと考えられる。両者の隔たりの原因は、国境を越えて経済活動を行う納税者が経済的利益を複数の通貨を基準として把握するのに対し、課税実務が経済的利益の発生を円という単一の通貨のみで把握しようとすることにある。本判決は、為替差益による所得の把握において邦貨である円を基準とすることを初めて示した点に意義がある。」と述べている。 Xはその主張を補強するため、日本公認会計士協会「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(※5)、及び所得税基本通達57の3-2の注書きの4を引用している。 (※5) 外貨建債券等に係る受取外貨額を、円に転換することなく当初から予定されていた外貨による資産の取得に充てた場合、当該換算差額は繰り延べるとの取扱いが規定されている。 東京地裁は、前者について、同実務指針の取扱いが所得税法の法解釈を拘束する根拠はないとし、後者については、同通達が「本邦通貨により外国通貨を購入し直ちに資産を取得し若しくは発生させる場合の当該資産、又は外国通貨による借入金に係る当該外国通貨を直ちに売却して本邦通貨を受け入れる場合の当該借入金については、現にその支出し、又は受け入れた本邦通貨の額をその円換算額とすることができる。」と定めるところ、「これは、外貨建取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされた場合には、一般に、為替差損益がほとんど発生していないことを踏まえ、簡素化の観点から、実際に外貨と交換した邦貨の額を円換算額とするとの例外的な取扱いを認めたものと解され、本件各不動産取引のように、取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされていない事例において参考になるものではない。」と判示し、通達が想定する適用場面が本件とは異なるとしてXの主張を排斥している。 仮に、上記(1)にいう、Xによる平成24年3月から同年9月にわたる多額のドルの本件外貨建預金口座への入金がなかったとしたら、入金時と払出時の為替レートがほぼ等しくなって入居時と払出時の為替レートがほぼ等しくなって為替差益の計上は不要とされた可能性がある。もとより「お金に色はついていない」のであり、本判決では、外国通貨と有価証券との性質の同一性に鑑み、2回以上にわたって取得した同一種類の外国通貨に対し為替差益の額を算定する際の取得時の円換算額の算定においては、単価を平均する総平均法に準ずる方法を適用するのが最も合理的であると判示した。 ③ 為替差損の取扱い 本件において多額の為替差益が計上されたのは、平成24年上半期当時、1ドル80円前後という著しい円高局面にあったということが背景にある。現在は1ドル150円台という(当時から見て)相当の円安局面にあるが、仮に為替レートが本件とは真逆の動きを見せたとしたらどうなるのだろうか。為替差益が雑所得である以上、為替差損はマイナスの雑所得となり、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額は、損益通算の対象とはならず打ち切られる(所法69①)。外国不動産への投資を一体のものとして見た場合、為替差益は所得として課税されるのに対し、為替差損は損益通算できないというのは、現行制度上やむを得ないとはいえ、いかにもバランスが悪いといえないだろうか。   (了)
#671(掲載号)
#霞 晴久
2026/06/04
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連結会計を学ぶ(改) 【第22回】「持分法の意義」

連結会計を学ぶ(改) 【第22回】 「持分法の意義」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 持分法に関する会計処理等は、「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)及び「持分法会計に関する実務指針」(移管指針第7号。以下「持分法実務指針」という)において規定されている。そのほか、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 持分法の意義 1 持分法の適用範囲 非連結子会社及び関連会社に対する投資については、原則として持分法を適用する(持分法会計基準6項)。 「関連会社」とは、企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含む)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業をいう(持分法会計基準5項)。 「子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合」については、持分法会計基準5-2項に規定されており、より詳細には、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号)を参照していただきたい。 重要性の原則の適用については、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号)を参照していただきたい。 2 基本的な会計処理 「持分法」とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう(持分法会計基準4項)。 持分法適用会社の純資産又は資本には、資本連結手続の対象となる子会社の資本と同様、新株予約権は含まれないことに留意する(持分法実務指針2項、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)6項等)。 3 持分法と連結の関係 前回までの本連載では、連結財務諸表の作成に関する会計処理等について解説してきた。 連結は、連結会社の財務諸表を勘定科目ごとに合算することによって企業集団の財務諸表を作成するので、完全連結(ライン・バイ・ライン・コンソリデーション又はフル・ライン・コンソリデーション)といわれる(持分法実務指針2項)。 一方、持分法による処理は、被投資会社の資本及び損益に対する投資会社の持分相当額を、原則として、貸借対照表上は投資有価証券の修正、損益計算書上は「持分法による投資損益」によって連結財務諸表に反映することから、一行連結(ワン・ライン・コンソリデーション)といわれる。 連結と持分法による処理との間には、連結財務諸表における連結対象科目が全科目か一科目かという違いはあるが、その親会社株主に帰属する当期純利益及び純資産に与える影響は、持分法実務指針2-2項に記載する事項を除いて、同一である。 4 持分法と連結の会計処理の相違 持分法と連結の会計処理の相違として次のことが規定されている(持分法実務指針2-2項)。 項目 内容 (1) 時価により評価する子会社の資産及び負債の範囲 ① 連結の場合、時価により評価する子会社の資産及び負債の範囲については、非支配株主持分に相当する部分を含めてすべてを時価評価する方法(全面時価評価法)のみとされている(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)20項。以下「連結会計基準」という)。 ② 持分法の場合、投資会社の持分に相当する部分に限定する方法(部分時価評価法)により、原則として、投資日ごとに当該日における時価によって評価する(持分法会計基準 26-2項)。 (2) 段階取得の会計処理 ① 連結の場合、支配獲得日における時価と支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。 ② 持分法において、投資が段階的に行われている場合には、原則として、投資日ごとの原価とこれに対応する被投資会社の資本との差額は、のれん又は負ののれんとして処理する(連結会計基準 23項(1)、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)25項(2)、持分法会計基準26-3項)。 (3) 取得関連費用 ① 取得した会社が連結の範囲に含まれる場合、連結財務諸表上、取得関連費用を発生した連結会計年度の費用として処理する(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号)8項)。 ② 被投資会社が持分法の適用範囲に含まれる場合、連結財務諸表上、個別財務諸表上で株式の取得原価に含まれた付随費用は投資原価に含まれる(持分法実務指針36-4項)。 (4) 資本剰余金 ① 連結の場合、子会社株式の追加取得や一部売却等(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る)の際に生じる追加取得持分と追加取得額との差額又は売却(減少)持分と売却価額(払込額)との差額は資本剰余金として処理する(連結会計基準28~30項)。 ② 持分法の場合、持分法適用会社株式の追加取得や一部売却等の場合に、追加取得持分と追加取得額との差額又は売却(減少)持分と売却価額(払込額)との差額は、のれんもしくは負ののれん又は売却損益の調整として処理する(持分法実務指針16~18項)。   (了)
#671(掲載号)
#阿部 光成
2026/06/04
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A【第1回】「小規模事業場のストレスチェック義務化にあたっての罰則の有無」

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A第1回 小規模事業場のストレスチェック義務化にあたっての罰則の有無社会保険労務士富山 直樹   ― 連載開始にあたって ―「ただでさえ通常業務だけで忙しいのに、また新しい義務が増えて・・・」 法改正により、これまで努力義務であった50人未満の小規模事業場にもストレスチェックが義務化されることになり、従業員を抱える経営者の皆様にとってはそんな感想が正直なところではないでしょうか。 余計な手間や費用が増え、億劫なのはごもっとも。しかし、これを「優秀な従業員が定着するための投資」と考えてみてはいかがでしょうか。労働者が心身とも健康的に働ける環境を整えることは、企業の生産性向上や離職防止にも寄与すると考えられます。 本連載では来る全事業所への義務化に向けて、経営者が感じるであろう疑問をQ&A形式で解説してまいります。「やらされる義務」から「攻めの経営戦略」へのヒントになることを願って、執筆していけたらと思います。  QUESTION 労働安全衛生法の改正により小規模事業場においてもストレスチェック制度が義務化されると聞きましたが、税理士事務所の所長である私とスタッフ2名の小規模な事務所においてもストレスチェックの実施を怠ると罰則はあるのでしょうか。  ANSWER ストレスチェックの実施を怠ることでの直接的な罰則は定められていません。 しかし、次の観点において罰則等が発生する可能性があるので注意が必要です。 ① 報告義務違反 ② 安全配慮義務違反 ③ 労働基準監督署からの是正勧告 ― 解 説 ― 1小規模事業場のストレスチェック義務化 2015年より始まったストレスチェックは、これまで労働者数50人以上という比較的中規模以上の事業者に実施義務が課されてきた。50人未満の事業場に関しては努力義務であったが、2025年5月の法改正により今後は全事業所に実施義務が課せられることになる。 (※) 2026年5月18日、厚生労働省より「2028年4月から全事業所義務化の方針」と具体的な実施時期が示された。 義務化拡大におけるポイントについては、ぜひ過去の拙稿も参照いただければ幸いである。 関連記事 〈労働安全衛生法の一部改正に伴う〉ストレスチェック義務化対象拡大等のポイント   2罰則等の発生可能性 ①報告義務 ストレスチェックを行った場合、実施結果を労働基準監督署へ報告する義務があるが、この報告義務は「労働者数50人以上の事業場」に義務付けられており、50人未満は不要となる。今回のストレスチェックの全事業所への義務化に伴い、50人未満の事業所にも報告が義務化される可能性も考えられたが、令和8年2月に公開された実施要項でも「不要」のままとなっていた。 ストレスチェックに関しては一般的な健康診断と異なり、労働者に受験義務が課されていない。できる限り対象者全員の受験が望ましいとされているが、使用者が業務命令のような形で受験を強要することはできない。そのため、推測ではあるが少人数の事業所において、労働者が受験を拒んだケースへの配慮として、50人未満は引き続き報告不要となった可能性も考えられる(なお、未受験者に対して委託先の外部機関が受験を勧奨する等の方法で、配慮を行なった上で、「受験の勧奨」を行うことはできる)。 そして、報告義務がある事業所が報告義務を怠った場合、最大で50万円以下の罰金が課せられる可能性がある(労働安全衛生法第120条第5号「第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者」)。 また、人数のカウント等については、次の点にも注意が必要である。  CHECK POINT  常時使用している労働者数「常時使用している労働者」とは、契約期間や労働時間ではなく、常態として使用されているかどうかで判断される。そのため、短時間労働者、パートタイマー/アルバイト、派遣労働者であっても、継続して雇用している状態としていればカウントされることになる(※なお、派遣労働者についての実施義務は派遣元にある)。  CHECK POINT  事業場工場、事務所、店舗など同一事業所にあるものを一の事業場と考える。そのため、企業として総従業員が50人を超えていたとしても、事業場単位で見た場合に50人を超えていなければ不要となる。逆に50人を超えるような事業場が複数あるような企業であれば、事業場ごとに報告義務が発生する。 ②安全配慮義務 労働契約法において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められており、これが一般的に言われる「安全配慮義務」というものである(労働契約法第5条)。 条文に定められている「生命、身体等の安全」には「心身の健康」も含まれている。 そして、労働安全衛生法等に定められている、事業主が講ずべき具体的な措置は当然に遵守されなければならないものであり、この観点からストレスチェックを怠ると「安全配慮義務」を怠ったとみなされる可能性が考えられる。 この労働契約法第5条は義務として規定されているものの、違反には直接的な罰則は明記されていない。 しかし、ストレスチェックを実施せずに放置した結果、労働者がメンタル不調に陥るような事態になった場合、使用者が安全配慮義務違反として損害賠償を請求される恐れも考えられ、金銭的もさることながら、社会的信頼の失墜というリスクも抱えることになる。 ③労働基準監督署からの是正勧告 労働基準監督署の調査が行われた際に未実施が発覚した際には、是正勧告の対象となる可能性が高いと考えられる。 労働基準監督署では、労災事故が発生した場合や通報があった場合などに行われる調査のほか、管轄内の事業所を定期的に無作為に選出され行われる調査がある。後者は無作為であり、筆者の顧問先でも開業以来まだ実施されたことがない会社もあれば、開業から間もないにもかかわらず調査が行われた会社も存在する。 こうした調査の際には、就業規則や労働条件通知書は勿論、出勤簿や賃金台帳、健康診断の実施記録の提出も求められる。こうしたチェック項目の中に「ストレスチェックの実施記録」が含まれるようになる可能性は高い。 仮に実施を怠り是正勧告を受けた場合は、期日を指定され、是正(ストレスチェックの実施)のうえ、労働基準監督署への報告を行う必要がある。 ― あ と が き ― 本連載執筆にあたり、筆者は他士業や経営者の仲間に「ストレスチェックが義務化されるにあたり、どのような質問があるか?」と投げかけてみたところ、結果、最も多かった質問がこの罰則に関する質問であった。「義務化」と言われ「罰則」が気になるのは当然ではあるが、本稿で述べた通り、ストレスチェックに関する罰則は直接的なものはなく、間接的なものとなっている。 しかし、「直接的な罰則がない」からと言って対応が後手に回ったり、実施を怠ったりという安易な判断は、コンプライアンス的な側面でも、経営的な側面でもリスクを抱えることになる。 通常業務だけで忙しい中、さらなる対応も求められる使用者の心中は察するに余りあるが、労働者のメンタルヘルスケアは、コストではなく投資と考えてはいかがだろうか。労働者が心身ともに健康的に働ける環境を整えることは、生産性の向上や離職防止という企業の成長にもつながる。前向きに取り組んでいただければ幸いである。 (了)
#671(掲載号)
#富山 直樹
2026/06/04
労務・法務・経営 法務

空き家をめぐる法律問題 【事例76】「空き家特措法に関する指導を受けた場合の対応」

空き家をめぐる法律問題 【事例76】 「空き家特措法に関する指導を受けた場合の対応」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私と妹は、父が約10年間所有していた古い木造住宅を共同相続しました。当時はまだ倒壊の危険まではなく、相続登記も未了のままにしていました。 ところが、ある日、木造住宅のある市役所から「雑草や雨どいの破損、ゴミの散乱について近隣から苦情が入り、『〇月末までに清掃と仮補修を行うように』」との空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく通知書が届きました。 私は、この通知書に対して、どのように対応すればよいでしょうか。   1 検討の視点 遠方の実家を相続した場合のように、遠方に所有する建物については管理を十分に行えないことがあり、建物の管理が適切に行われないと、隣人との間の紛争が生じる可能性があるだけでなく、思わぬ行政上の不利益を受ける可能性もある。このような問題は、近年「実家じまい」の問題としても注目されているところである。 そこで、本事例では、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空き家特措法」という)を念頭に対応を検討する。   2 空き家特措法の概要 (1) 空き家特措法の対象となる空家等 空き家特措法は、当初、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の空家等を含む4つの状態類型を「特定空家等」として定義し、行政機関による助言・指導、勧告、措置命令と代執行を通じて、危険な空き家が存在する状態を改善することを想定していた。 しかし、空き家特措法の施行後も空き家数は増加の一途を辿り、その中には、空き家特措法に規定する「特定空家等」にまで至らない程度の空き家も相当数含まれており、より早い時期から対策を講じることが期待されていた。そこで、このような「特定空家等の予備軍」のような空家等も、空き家特措法の対象とするために令和5年に改正が行われ、新たに「管理不全空家等」のカテゴリーが追加された。 (2) 管理不全空家等に対する規制の仕組み 管理不全空家等とは、空家等が適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にある空家等のことをいう(空き家特措法第13条第1項)。ここでいう「おそれ」は、そのまま放置した場合の悪影響が社会通念上予見可能な状態をさすものであって、実現性に乏しい可能性まで含むものではないと考えられている。 実際には、「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」に示された4類型ごとの基準を踏まえて、個別具体的に判断することになる。例えば、管理不全空家等に関する例として、清掃等がなされておらず、散乱し、又は山積したごみ等が敷地等に認められる状態や、雨樋等の破損した状態が示されている。 管理不全空家等に該当する空家等がある場合、市町村長は、①管理不全空家等の所有者等に対して、管理不全空家等が特定空家等になることを防止するために必要な措置を講じるよう指導することができる(空き家特措法第13条第1項)、また、②市町村長は、指導をしても、管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれが大きいときは、特定空家等になることを防止するために必要な措置を勧告することができる(同法第2項)。 管理不全空家等について勧告を受けると、特定空家等の場合と同様に、管理不全空家等の敷地が住宅用地特例制度(小規模住宅用地1/6、一般住宅用地1/3への課税標準軽減)の対象から除外されることになり、翌年度分以降の固定資産税等が増額されることになる(地方税法第349条の3の2、第702条の3)。 なお、管理不全空家等については、特定空家等の場合と異なり、措置命令の対象にはなっていないが、管理不全空家等が特定空家等の状態に至った場合には、措置命令や代執行の対象になることから早期の対応が期待される。   3 本事例において 市役所から届いた通知書の記載内容からすると、空き家特措法に基づく管理不全空家等の指導に留まる通知書であると想定される(実際の通知書にその旨の記載があるはずである)。相談者としては、勧告を回避するとともに、特定空家等の状態にならないようにするため妹と話し合い、通知書に記載された清掃や仮補修を行うことになろう。 妹との話合いが進まない場合には、共有物の保存行為は共有者単独で行うことができるため、相談者において当面の費用を負担して最低限の清掃や仮補修を行い、事後的に妹との間で費用負担の話合いを行うことになる。 このような対応をとったとしても、その後も実家の継続的な管理が必要になることや、その都度、妹との話合いをする必要が生じうることから、将来的な負担を回避するために、実家の売却も視野に入ってくるところであり、この場合には妹の同意を得て売却を行うことになる。 なお、相談者や妹が実家の売却をするか否かに関わらず、令和6年4月から相続登記が義務化されており、過去に相続した物件であっても対象になることから、早期に対応しておくことが期待される。 (了)
#671(掲載号)
#羽柴 研吾
2026/06/04
読み物 連載

〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~【第5話】「義足の浅川審判官①」

〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第5話 義足の浅川審判官① 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   永途が、審理部のドアを開けると、末席に座っている葛本審査官が、熱心に議決書を読んでいる。 葛本審査官の机の上には、書類が高く積まれている。 「・・・あの・・・」 永途は、葛本審査官の机の傍らに行き、声をかける。 審理部はシーンとしている。 職員は、黙々と書類を読んで、誰も喋っていない。 そのとき、小柄なメガネをかけた初老の職員が立ち上がった。 初老の職員は、永途を見ると、ニコッと笑いかけて、ドアに向かう。 少し足を引きずるように歩くので、そのたびに床の音が響く。 「・・・永途さんか」 葛本審査官は、顔を上げて、永途を見る。 永途は、慌てて、ドアから葛本審査官に振り向く。 「・・・ちょっと、事案についてお伺いしたいことがあって・・・」 永途は、持参してきた袋の中から事案の綴りを取り出す。 葛本審査官は、頷きながら、静かに立ち上がって、座席から少し離れたところにあるテーブルに永途を導く。 「どんな質問ですか?」 葛本審査官は、椅子に座ると、小さな声で訊ねる。 「・・・あの・・・交際費の件ですが・・・」 永途もつられて、小声になる。 「・・・交際費と会議費の区分なのですが・・・」 永途は、言葉を続ける。 「・・・通達で・・・交際費に該当しないものとして『会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用』となっています・・・この場合、会議の場所は、問われないのでしょうか?」 「・・・会議の場所・・・どういうことですか?」 葛本審査官は、永途の顔を見る。 永途は、袋に入っていた通達集を取り出し、それを開く。 「措置法通達61の4(1)-16では、次のように規定されています」 そう言うと、永途は、同通達を読み上げる。 「・・・このように、通達では、交際費か会議費かの区分について、会議としての実体があるかどうか、すなわち、実質的に判断すると規定しています・・・」 「・・・永途さんの事例は、どのようなケースなんですか?」 葛本審査官が再び訊ねる。 「ええ、審査請求人は、スナックの費用も会議費だと主張するのですよ・・・実際、そこで、会議を行っているのだから、交際費ではないと・・・」 永途は、苦笑しながら言う。 「・・・実質的判断ですか・・・」 そう言いながら、葛本審査官は、永途の持っている通達集を借りて、今度は、措置法通達61の4(1)-21を開く。 「・・・これも通達だけれど・・・会議費は、『通常会議を行う場所において』・・・となっていることから、スナックや料亭などは・・・一般的に、会議を行う場所でないことから、会議費とは認められず、交際費として扱われるだろう・・・」 葛本審査官は、通達を見ながら、言う。 「・・・審査請求人は・・・ドイツから取引先が来て、その担当者がたまたま日本のビールが飲みたいと言ったので、会社の近くのスナックに、その外人を連れて行き、そこでビールを飲みながら、日本で取扱う商品についての打ち合わせをしたと審査請求書で主張しているのです・・・ドイツでは、ビールは水と同じレベルの飲み物だと・・・」 永途は、審査請求人に同情的である。 「・・・法令では・・・会議の場所について・・・通達に書かれているように『会議に際して社内又は通常会議を行う場所』とは規定していないでしょう・・・」 こんどは、永途は法令集を袋から取り出す。 「・・・交際費の定義は、措置法61条の4第6項に規定していますが、その中で1号から3号まで、次のようになっています・・・」 「・・・この3号については、措置法施行令37条の5第2項で、1号から3号まで挙げていますが、『通常会議を行う場所』との規定はどこにもありません・・・」 永途は、自信を持って答える。 (つづく)
#671(掲載号)
#八ッ尾 順一
2026/06/04
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 金融商品会計

《速報解説》ASBJが「金融商品に関する会計基準」等の改正を公表~譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲を明確化~

《速報解説》 ASBJが「金融商品に関する会計基準」等の改正を公表 ~譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲を明確化~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年6月2日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準」(改正企業会計基準第10号)、「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)等を公表した。 これにより、2026年2月27日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 これは、金融資産の譲渡において、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 金融資産の消滅の認識要件 金融商品会計基準の(注4)を次のように改正し、特別目的会社が発行する「証券」を保有している投資者と特別目的会社に対して「貸付け」を行っている融資者とで異なる取扱いを設ける特段の理由はないと考えられるため、特別目的会社に対する融資者を特別目的会社に対する投資者と同様に取り扱うことを示す(アンダーラインが改正点)。 上記の改正に合わせて、「金融商品会計に関する実務指針」35項、40項など、「連結財務諸表に関する会計基準」7-2項なども改正(新設を含む)する。   Ⅲ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から適用する。 上記の定めにかかわらず、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から2026年改正会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)
#阿部 光成
2026/06/03
お知らせ 所得税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税庁が「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表〜令和9年1月1日以後に生ずる所得から源泉徴収実務に影響、合計税率2.1%は据置き〜

《速報解説》 国税庁が「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表 ~令和9年1月1日以後に生ずる所得から源泉徴収実務に影響、合計税率2.1%は据置き~   Profession Journal編集部   令和8年5月、国税庁は、「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表した。 これは、令和8年度税制改正により創設された防衛特別所得税及び改正された復興特別所得税について、源泉徴収義務者からの照会が想定される事項を整理したものであり、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する源泉徴収実務を見据えた取扱いの明確化を図るものである。   1 改正の概要 令和8年度税制改正により、所得税の源泉徴収義務者は、所得税を徴収する際に防衛特別所得税(源泉徴収すべき所得税の額の1%相当額)を併せて徴収し、所得税の法定納期限までに所得税と併せて納付しなければならないこととされた。 同時に、復興特別所得税については、税率が2.1%から1.1%に引き下げられるとともに、課税期間が令和19年12月31日までから令和29年12月31日までに10年間延長された。 これらの改正は、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税について適用される。 ここで実務上特に重要な点は、改正前(復興特別所得税2.1%)と改正後(防衛特別所得税1.0%+復興特別所得税1.1%)とで合計税率(2.1%)に変更はないということである。すなわち、源泉徴収税額の計算方法そのものに変更は生じない。   2 Q&Aの主な内容 公表されたQ&Aは全16問で構成されており、源泉徴収義務者、対象となる支払、税額の算出方法、年末調整、退職手当等、租税条約適用時の取扱い、法定調書等の各論点について取りまとめられたものである。主なポイントは以下のとおりである。 (1) 源泉徴収義務者及び対象支払(Q2、Q3) 防衛特別所得税及び復興特別所得税は、所得税の源泉徴収義務者が所得税と併せて源泉徴収することとされており、所得税の源泉徴収義務者がそのまま両税の源泉徴収義務者となる。源泉徴収の対象も、所得税法及び租税特別措置法の規定により所得税を源泉徴収すべきこととされている支払の全般に及ぶ。 (2) 源泉徴収税額の算出(Q5、Q6) 源泉徴収すべき税額は、支払金額等に合計税率(所得税率×102.1%)を乗じて算出し、1円未満の端数を切り捨てる。所得税率10%の場合の合計税率は10.21%、20%の場合は20.42%となる(改正前と同じ)。 端数計算については、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額で行う点に留意が必要である。 (3) 給与等及び年末調整(Q7、Q8) 毎月の給与等に係る源泉徴収については、各年分の「源泉徴収税額表」に当てはめて算出する。令和9年分以後の源泉徴収税額表は防衛特別所得税及び復興特別所得税を含んだ税額表となる予定であり、令和8年8月頃に国税庁ホームページに掲載される見込みである。 年末調整についても、年調所得税額に102.1%を乗じる方法に変更はなく、令和8年分と令和9年分とで計算方法に違いは生じない。 (4) 退職手当等(Q9) 退職所得の源泉徴収税額の速算表についても、令和8年分と令和9年分とで変更はない。「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合に退職手当等の収入金額に20.42%を乗じる取扱いも従前どおりである。 (5) 令和8年分年末調整の超過額の処理(Q11) 令和8年分の年末調整により生じた超過額を、令和9年1月以後に支払う給与等から源泉徴収した所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税から控除する場合であっても、所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による超過税額」欄にその控除額を記載する。令和8年分の年末調整には防衛特別所得税が含まれていないものの、納付書の記載方法は通常どおりで差し支えない点が明確化された。 (6) 租税条約等が適用される場合(Q13、Q14) 租税条約の規定により限度税率が適用される場合又は所得税が免除される場合、及び外国居住者等所得相互免除法の規定により税率が軽減される場合又は所得税が非課税とされる場合には、防衛特別所得税及び復興特別所得税は課されない。なお、非居住者等への支払について、両税が含まれた税額と含まれない税額の双方を同時に納付する場合には、それぞれ別葉の所得税徴収高計算書(納付書)による必要があるとされた。 (7) 既存の納付書の使用(Q15) 「令和○年○月支払分源泉所得税及び復興特別所得税」と印字された手元の納付書は、令和9年1月以後の納付にもそのまま使用することができる。「納期等の区分」等の補正も不要である。 (8) 法定調書の記載(Q16) 「給与所得の源泉徴収票」「利子等の支払調書」等の法定調書の「源泉徴収税額」欄には、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額を記載する。   3 実務上の留意点 今回のQ&Aから読み取れる実務対応の要点は、以下のとおりである。 第一に、合計税率2.1%は変わらないため、毎月の給与等の源泉徴収や年末調整の計算について、源泉徴収義務者側の事務処理に大幅な変更は生じない。ただし、令和9年1月1日以後に生ずる所得から適用が開始されるため、令和9年分以後の源泉徴収税額表への切替えや、給与計算システムにおける税額の内訳(所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税)の表示・集計方法の見直しが必要となる場合がある。 第二に、令和9年1月1日「以後に生ずる所得」の判定について、Q1の(注)に給与等の場合の判定基準(支給日基準、株主総会決議日基準、給与規程改訂による遡及支給の場合の取扱い等)が示されており、年末年始をまたぐ支給に係る適用関係の判定実務において、当該基準の確認が必要である。 令和9年分の源泉徴収税額表の公表(令和8年8月頃予定)等に合わせて追加情報が示されることが見込まれるため、実務担当者においては国税庁ホームページの更新情報に引き続き留意する必要がある。 (了)
#Profession Journal 編集部
2026/06/01
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令和6年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

令和6年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和6年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/05/28
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プロフェッションジャーナル No.670が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年5月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.670を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/05/28
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