件すべての結果を表示
New
労務・法務・経営
経営
〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例106】ニデック株式会社「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」(2025.5.8)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例106】 ニデック株式会社 「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する 公開買付けの撤回に関するお知らせ」 (2025.5.8) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ニデック株式会社(以下「ニデック」という)が2025年5月8日に開示した「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの撤回に関するお知らせ」である。タイトルどおり、同社は株式会社牧野フライス製作所(以下「牧野フライス」という)に対してTOB(株式公開買付け)を行っていたのだが、それを撤回することにしたという内容である。 2 事前接触も同意もない買収 牧野フライスは2025年4月10日に「第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保すべきことに鑑みたニデック株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」を開示し、ニデックによるTOBに対して反対意見を表明しており、ニデックによるTOBは「同意なき買収」であった。なお、「同意なき買収」とは、以前「敵対的買収」といわれていたものであり、経済産業省が2023年に公表した「企業買収における行動指針」において、そのように言い換えられることになった(筆者個人としては、そうした言い換えに意味があるとは思わないが)。 また、ニデックによるTOBは牧野フライスの同意を得ていないだけでなく、牧野フライスに対して事前接触も行っていなかった。ニデックは2024年12月27日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を開示し、2025年4月4日から牧野フライスに対するTOBを開始する予定であるとしていたのだが、そこには次のような記載があった(下線は筆者による)。 事前接触を行わなかった理由は、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとされている。 3 買収への対応方針 牧野フライスは2025年3月19日に「買収への対応方針」の導入を決定し、「ニデック株式会社による当社株式に係る公開買付け(予告)につき、第三者提案の具体化・検討のために必要な時間を確保することのみを目的とする、当社の会社の支配に関する基本方針及び当社株式の大規模買付行為等への対応方針(買収への対応方針)の導入に関するお知らせ」を開示しており(「買収への対応方針」とは、以前「買収防衛策」といわれていたものであり、これも「企業買収における行動指針」において言い換えられることになった)、そこには次のような記載がある。 この「買収への対応方針」は、あくまで牧野フライスの株主が判断する時間を確保することが目的であり、ニデックがTOBの開始を2025年5月9日以降に遅らせるか、ニデックよりも良い条件を示す買収者が現われれば、廃止するとしている。 しかし、ニデックが2025年4月3日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示し、予定どおり2025年4月4日にTOBを開始したため、牧野フライスは2025年4月10日に「買収への対応方針」に基づき新株予約権無償割当てを決定し、「買収への対応方針(時間確保措置)に基づく新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定、及び、株主意思確認を第86回定時株主総会において行うことのお知らせ」を開示した。 それに対して、ニデックは2025年4月16日に新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てを行い、「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立てに関するお知らせ」を開示した(あえてなのか、あるいは気付かなかったのかは不明だが、ニデックは「買収への対応方針」ではなく「買収防衛策」という用語を使っている)。なお、その開示の最後には次のような記載がなされ、詳細は適時開示されていない。 4 株主のため? しかし、ニデックによる差止仮処分の申立ては却下され、同社は2025年5月7日に「株式会社牧野フライス製作所(証券コード:6135)の買収防衛策に基づく新株予約権無償割当ての差止仮処分の申立て却下決定に関するお知らせ」を開示した。今回の開示には、TOBを撤回することにした理由について次のように記載されている。 ニデックは、牧野フライスに対して事前接触を行わなかった理由について、牧野フライスの株主が正しい選択を行うことができるようにするためであるとしていた。そうであるならば、TOBの開始時期を延ばして、判断する時間をより多く与えた方がいいだろうし、より良い条件を示す買収者の出現を待ってあげた方がいいのではないだろうか。 ニデックは、牧野フライスの株主のためではなく、自社のために事前接触を行わなかったのだと思われる。牧野フライスにホワイトナイトを探す隙を与えず、TOBを自社に有利な条件で済ませたいために、そのようにしたのだろう。それが本当の理由だとしたら、ニデックは開示に虚偽の理由を書いたことになる。 牧野フライスは結局他社に買収されることになりそうである。同社が2025年6月3日に開示した「MM ホールディングス合同会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」によると、MM ホールディングス合同会社によるTOBの買付価格は11,751円であり、ニデックによるTOBの買付価格11,000円よりも高い。牧野フライスの株主のためには、こちらの方が良い。 (了)
お知らせ
その他お知らせ
【期間限定】無料公開記事を更新しました!
【期間限定】 無料公開記事を更新しました Profession Journal(プロフェッションジャーナル) は、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスですが、下記の記事については期間限定で、プレミアム会員以外の方でもご覧いただけます。不定期の公開となりますので、早めにご覧ください。 (※) 一般会員の方も速報解説がご覧いただけるようになりました。くわしくは[こちら]。 ◆現在連載中の記事、及び連載が終了した記事の一覧表は[こちら]をご覧ください。 FOLLOW US!!
お知らせ
会計
会計情報の速報解説
税務・会計
財務会計
速報解説一覧
開示関係
《速報解説》 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正府令が公布される~新リース会計基準等の公表を受け、新たな注記事項等を規定~
《速報解説》 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正府令が公布される ~新リース会計基準等の公表を受け、新たな注記事項等を規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年6月25日、「特定目的信託財産の計算に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第62号)が公布された。これにより、2025年4月28日から意見募集されていた改正(案)が確定することになる。改正(案)に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 以下では、「特定目的信託財産の計算に関する規則」について解説する。 「投資信託財産の計算に関する規則」などの主な改正内容も基本的に同様である。 1 定義 賃貸等不動産の定義について、「所有する不動産」を「所有し、又はリースにより使用する権利を有する不動産」と改正する(2条2項11号)。 また、使用権資産を定義し、リースの対象となる資産を使用する権利をいうとする(2条2項12号)。 ファイナンス・リース、所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リースも定義する(2条2項13号~15号)。 2 資産及び負債 資産の内容において、使用権資産を規定し、また、負債の内容において、リース負債を規定する(17条、26条)。 3 注記 「リースに関する注記」において、次の事項の注記を規定する(重要性の乏しいものを除く。22条)。 ただし、金融商品取引法24条5項において準用する同条1項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない受託信託会社等以外の受託信託会社等は、当該事項の注記を要しない(22条1項)。 「特定目的信託財産の計算に関する規則」22条1項の規定にかかわらず、ファイナンス・リースの借手である受託信託会社等が当該ファイナンス・リースについて資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合におけるリースに関する注記は、リースの対象となる資産(固定資産に限る)に関する事項とする(22条2項)。 この場合において、当該資産の全部又は一部に係る次に掲げる事項(各資産について一括して注記する場合にあっては、一括して注記すべき資産に関する事項)を含めることを妨げない(22条2項)。 「金融商品に関する注記」において、金融商品(リース負債を除く)の時価に関する事項と改正する(8条の2)。また、「賃貸等不動産に関する注記」も改正する(8条の3)。 Ⅲ 施行期日等 公布の日(2025年6月25日)から施行する。 経過措置に注意する。 (了)
お知らせ
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
財産評価
速報解説一覧
《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の業種目を改定~3業種目の新設、1業種目の統合により類似業種の業種目数は113から115へ~
《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の業種目を改定 ~3業種目の新設、1業種目の統合により類似業種の業種目数は113から115へ~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和7年6月9日(国税庁ホームページでの掲載は令和7年6月16日)に「類似業種比準価額計算上の業種目分類について(情報)」を公表した。 上記情報において類似業種比準方式で評価する場合における業種目分類を、下記の別添のとおりとすることとしている。 1 改定の内容 「日本標準産業分類」は前回改定(平成25年)から10年が経過し、その間の経済・社会の状況に変化が生じたことを踏まえ、第14回改定が行われた(令和6年4月施行)。 これに伴い、令和7年分の類似業種株価等通達について、業種目の見直しを行った。 また、標本会社の業種目の判定を行った結果、標本会社が少数となる業種目については、特定の標本会社の個性が業種目の株価等に強く反映されることとなることから、このような影響を排除するため、業種目の統合を行うとともに、標本会社が多数となる業種目については、業種目の新設を行った。 (注) 「日本標準産業分類」は、統計を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財及びサービスの生産又は提供に係る全ての経済活動を分類するものであり、行政機関が作成する公的統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として、総務大臣が公示している。 なお、日本標準産業分類は、以下の総務省統計局のホームページで閲覧することができる。 2 具体的な改定内容 評価会社の業種目は、直前期末以前1年間における取引金額に基づき、総務省の日本標準産業分類に基づいて区分することとされている。標本会社の業種目の判定についても、同様に日本標準産業分類に基づいて区分されている。 そして、日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目の対応関係を一覧にしたものが「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」(以下『対比表』という)として公表されており、今回、その『対比表』が改定となった。これまでは平成29年分として公表されていたものを使用していたが、令和7年以降は、今回公表された『対比表』を使用することになる。 改定により業種目が統合されたものが1つ、新設されたものが3つあるため、類似業種の業種目の数は113(平成29年以降の『対比表』)から115(令和7年以降の『対比表』)となった。 今回、統合されたものと新設されたものは、下記の通りとなる。 ① 統合されたもの ② 新設されたもの ■改定前の『対比表』(平成29年分)一部抜粋 ■改定後の『対比表』(令和7年分)一部抜粋 3 業種目の判定手順 評価会社の業種目は、下記の通り行うことになるが、正確に業種目を判定するためには、日本標準産業分類で分類項目を確認した後で、『対比表』に基づき業種目を特定する必要がある。 上記の判定の際に類似するか類似しないかの判断が必要となるが、その判断は、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(下記参照)の分類の一番下に「その他の〇〇業」があるか否かで判断することになる。例えば、各種商品小売業(79番)と飲食料品小売業(81番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類(小売業)の中に2以上の類似する中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の中にある類似する中分類のその他の小売業(83番)が業種目となる。 これに対して、各種商品小売業(79番)と無店舗小売業(86番)の売上の構成比がそれぞれ40%ずつある場合には、1つの大分類の業種目中の2以上の類似しない中分類の業種目別の割合の合計が50%超に該当し、その大分類の業種目として小売業(78番)が業種目となる。 なお、特定した業種が小分類に区分されているものにあっては小分類による業種目、中分類のものにあっては中分類の業種目、大分類による場合には大分類の業種目を使用することになる。ただし、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を使用することができるため、小分類又は中分類に分類された業種目がある場合には、それぞれ中分類又は大分類の業種目でも計算し、いずれか有利な方を選択することになる(評価通達181)。 4 実務上の影響 多くの業種目については影響がないものの番号が変更になっているため、令和7年以降の相続、遺贈又は贈与により取得した非上場株式の評価明細書を作成する際に注意が必要となると共に最新の「日本標準産業分類」と令和7年分の『対比表』を基に評価会社の業種目を判定する必要がある。 なお、上記の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」の下の注意書きにも記載のとおり、令和7年2月が課税時期である場合には、類似業種株価は、令和7年2月、1月、令和6年12月、令和6年平均株価及び令和7年2月以前2年間の平均株価のうち最も低いものを使用することになるが、今回の改定で令和6年と令和7年で業種目が異なることになった場合には、令和6年12月の金額は、令和6年が課税時期であった場合に適用される類似業種株価と異なることになる。実務的には、令和7年以降のものについては、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和7年分)」を確認すれば問題はない。 (了)
お知らせ
会計
会計情報の速報解説
監査
税務・会計
速報解説一覧
《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表~監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正等行う~
《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の 適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表 ~監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正」を公表した。 これにより、2025年5月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 ガイドラインの判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも1つの目安であり、【重要な不備事項】とされる状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断することもあるとのことである。 Ⅲ 適用時期等 2025年6月19日改正のガイドラインは、2025年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 上記にかかわらず、Ⅰ-2-5-2の判断基準⑤及び⑥については、2026年7月1日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 (了)
お知らせ
会計
会計情報の速報解説
監査
税務・会計
速報解説一覧
《速報解説》 会計士協会、倫理規則の改正に伴い「監査ツール(実務ガイダンス)」を改正
《速報解説》 会計士協会、倫理規則の改正に伴い「監査ツール(実務ガイダンス)」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年6月19日付けで(ホームページ掲載日は2025年6月20日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」を公表した。 これにより、2025年4月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、倫理規則改正に伴う記載の変更などである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 次のとおりである(主な様式)。 (了)
お知らせ
国税通則
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
速報解説一覧
《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和6年10月~12月)」~注目事例の紹介~
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和6年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2025(令和7)年6月18日、「令和6年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税徴収法関係が3件、国税通則法関係及び法人税法関係が各2件、相続税法関係が1件で、合計8件となっている。公表された裁決には「全部取消し」となった事例はなく、1件のみ「一部取消し」であったが、他は「棄却」となっている。 【表:公表裁決事例令和6年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された8件の裁決事例のうち、e-Taxでの電子申告の誤操作を正当な理由と認めなかった事例(②)、固定資産の取得対価の一部が寄附金であると認定した事例(③)及び換価の猶予の不許可処分が争われた事例(⑧)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 e-Taxシステムの誤操作による期限後申告に対する無申告加算税の賦課決定処分・・・② (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、所得税等の期限後申告書を提出したことから、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、期限内申告書を提出できなかったのは国税電子申告・納税システム(e-Taxシステム)に誤操作を生じさせる問題があったためであり、正当な理由があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 審査請求人は、令和5年3月1日、e-Taxシステムの確定申告書等作成コーナーを利用して、令和4年分の所得税等の確定申告書のデータ並びに令和4年12月31日分財産債務調書等のデータを作成したうえ、同日、財産債務調書等データを送信した。 次いで、審査請求人は、令和5年3月2日、消費税及び地方消費税の納付書を利用して、確定申告書のデータにより算出した令和4年分の所得税等の納付すべき税額に相当する金額を納付した。 令和5年6月29日、審査請求人は、e-Taxシステムを利用して確定申告書データを送信することにより、本件確定申告書を提出した。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であると述べたうえで、認定事実から、審査請求人は、法定申告期限後である令和5年6月29日に、e-Taxシステムを利用して本件申告データを送信し、確定申告書を提出したことから、確定申告書は期限後申告書に該当し、単に期限後申告書を提出したという客観的な事実のみにより、原則として、請求人に無申告加算税が課されることとなるという判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、審査請求人による「利用者の意思に反する誤操作が生じてしまうe-Taxには、システム上の問題がある」という主張に対しては、e-Taxシステムにおいては、利用者が財産債務調書のみを提出する場合も想定し、「財産債務調書を送信する」という項目が用意されていることからすれば、審査請求人が操作を誤って「財産債務調書を送信する」を選択して送信したからといって、そのことをもってe-Taxシステムに、システム上の問題があるとはいえないし、e-Taxシステムには、申告等データが正常に受信されないといったシステム上の障害は確認されていないことを踏まえると、審査請求人が期限内申告書を提出しなかったのは、請求人が、e-Taxシステムの操作を誤って財産債務調書等データの送信しか行っていなかったにもかかわらず、財産債務調書等データの即時通知を見て、申告データも送信されたと誤って認識したという審査請求人自身の主観的な事情によるものにほかならないというべきであるとして、審査請求には理由がないから棄却する裁決を行った。 2 固定資産の取得対価の一部が寄附金であると認定した事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、農業生産法人である審査請求人が、取得した固定資産について工事請負契約書等に基づく支出金を取得価額として資産計上し、減価償却費等の額を損金の額に算入して法人税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該固定資産の取得に係る支出金には請求人の関連法人に対する寄附金の額が含まれており、かつ、当該工事請負契約書等は仮装されたものであるとして、更正処分、重加算税等の賦課決定処分及び青色申告の承認の取消処分をしたのに対し、請求人が、当該固定資産の取得に係る支出金には対価性があるから、原処分庁が当該支出金の一部を寄附金として認定したのは事実誤認であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、(争点2)について、建設会社及び建築士の申述に基づき、審査請求人が、支払った固定資産の取得対価のうちから、審査請求人の代表取締役が代表取締役を務める審査請求人の関連法人等に、指定した金額を振り込ませたのは事実であり、建設会社及び建築士は、審査請求人の関連会社から役務の提供(反対給付)は受けておらず、審査請求人が建設会社及び建築士を介して、審査請求人の関連会社に対し金銭を対価なく移転するもの(資金の贈与)であると認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が当該資金の贈与を行うことに通常の経済取引として是認することができる合理的理由は認められないことから、建設会社及び建築士に振り込ませた金額は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当するものと認めるのが相当であるという結論を導いたものである。 なお、原処分庁が寄附金と認定した3件の固定資産の取得対価のうち、1件については、国税不服審判所は、建設会社が審査請求人の関連法人に対し組立作業等及び農業用資材の購入の対価として支払をしたものと認められることから、その支払額は、審査請求人が建設会社を介して、関連法人に対し金銭を対価なく移転するもの(資金の贈与)であると認めることはできないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 3 換価の猶予の不許可処分・・・⑧ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、原処分庁に対し、売上げの減少により納税資金を捻出することが困難であるとして換価の猶予の申請を行ったところ、原処分庁が、請求人は申請に係る国税を一時に納付することができないとは認められないとして不許可処分をし、また、請求人の滞納国税を徴収するため、債権の差押処分をしたのに対し、請求人がこれらを不服として原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 審査請求人は、本件猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあったと認められるか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、国税徴収法第151条の2が規定する換価の猶予の制度は、滞納者につき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、税務署長が納付を困難とする金額を限度として、その申請に基づき、1年以内の期間に限り、原則毎月の分割納付を条件として、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができるという制度であり、納税者が個人であるときは、①事業に不要不急の資産を処分するなど事業経営の合理化を行った後においても、なお国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足を生じ、その結果、滞納者がその事業を休止若しくは廃止せざるを得ない又はこれと同等の状態に至るおそれがあると認められる場合、又は②国税を一時に納付することにより、滞納者の必要最小限の生活費程度の収入が確保できなくなると認められる場合のいずれかに該当する場合をいうものと解されるという見解を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることから適用に当たっては、納税者間において不公平が生じることを回避し、税務行政の適正妥当な執行を確保する必要があるため、猶予取扱要領 により、一定の判断基準及び運用方針を定めており、その趣旨に鑑みると、猶予取扱要領の定めが合理性を有するものと認められる場合には、これを当該事案に適用することが不合理であるという特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきであるとして、猶予取扱要領65の定めに基づき、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した納付困難な額が算定されるか否かを検討した結果、本件猶予申請においては、納付困難な額が算定されないこと、提出された証拠資料等によっても、審査請求人につき、猶予取扱要領の定める基準を適用することが不合理であるといえる事情もないことから、国税徴収法第151条の2第1項に規定する国税を一時に納付することによりその事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあったとは認められないという判断を示したうえで、審査請求は理由がないから、棄却する裁決を行った。 (了)
お知らせ
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
速報解説一覧
《速報解説》 国税庁が「インボイスの取扱いに関するご質問」を6/10付けで更新~適格請求書の交付に当たって金銭的負担を求めることの適否など計3問を追加~
《速報解説》 国税庁が「インボイスの取扱いに関するご質問」を6/10付けで更新 ~適格請求書の交付に当たって金銭的負担を求めることの適否など計3問を追加~ 税理士 石川 幸恵 令和7年6月10日、国税庁はホームページ上で「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年6月10日更新)」を掲載し、「適格請求書の交付に当たっての金銭的負担」を含む計3問を公表した。 今回公表された3問は次のとおり。 1 適格請求書の交付に当たっての金銭的負担(問Ⅴ) 適格請求書は書面による交付に代えて電子データで提供することも可能である。書面と電子データのいずれによるかは取引の相手方との関係性を踏まえて事業者が判断することとなる。 問Ⅴでは、電子データによる提供を原則としている場合で、取引先から書面での交付を求められたときに社会通念上相当と認められる程度の手数料を徴収することは差し支えない点を明らかにしている。なお、手数料の徴収にも適格請求書の交付義務が生じることとなる点には留意が必要である。 一方で、取引上の地位に差のある相手に、著しく高額な手数料負担を求めるような場合には、独占禁止法の優越的地位の濫用に該当する恐れがあるので注意されたい。 2 適格請求書の交付に当たっての期間制限(問Ⅵ) 小売業は適格簡易請求書の交付が認められている。顧客からレシートの亡失を理由に再交付を求められたときに、レジシステムの機能上、再交付できないケースの対応が問Ⅵの論点である。 問Ⅵでは既に適格簡易請求書を交付していれば、交付義務は果たされているものとされ、改めて交付する必要はないとしている。一方で、そもそも一度も交付していない場合で、出力可能期間の徒過等により出力できなくなったときは、手書きなど他の手段により交付しなければならない。 問Ⅵでは触れられていないが、再交付を受けられなかった顧客はどうしたらよいのだろうか。再交付を受けられなかった場合、適格簡易請求書の保存要件を満たせないため、原則として仕入税額控除は認められない。ただし、令和11年9月30日までは経過措置により税込1万円未満の課税仕入れについては帳簿の記載のみで、仕入税額控除が可能とされている(インボイスQ&A問111、28年改正法附則53の2、改正令附則24の2①)。この経過措置を受けられるのは一定の規模以下の事業者に限られるため、適用の有無について確認が必要である。 3 プラットフォーム課税の対象となる取引に係る適格請求書等(問Ⅶ) 令和7年4月1日よりプラットフォーム課税がスタートした。以前、下記拙稿にて、プラットフォーム課税が適用される取引に関する適格請求書の交付について言及したが、今回公表された国税庁の問Ⅵにより、特定プラットフォーム事業者により交付されることが確認された。また、電子データによって交付された時の保存についても改めて確認している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
お知らせ
その他お知らせ
プロフェッションジャーナル No.623が公開されました!~今週のお薦め記事~
2025年6月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.623を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
国際課税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
日本の企業税制 【第140回】「アメリカの税制改正の行方」
日本の企業税制 【第140回】 「アメリカの税制改正の行方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 〇One Big Beautiful Bill Act トランプ政権の関税政策が世界中で話題となっている一方、アメリカの連邦議会で審議が進むOne Big Beautiful Bill Act(OBBBA)の行方にも高い注目が集まっている。 既に5月22日には下院で法案が可決されており、現在、ステージは上院での審議に移っている。法案に含まれる「報復措置」による影響が欧州のみならず日本でも甚大になる恐れがあることから、上院での審議を経た上での上下両院での修正作業がどの程度の期間で完了するのか、内容的にどういった修正が施されるのかなどについて、税制関係者の間で話題になっている。 〇近年の大型税制改正 アメリカでは、第一次トランプ政権とバイデン政権の間に2度の大型税制改正を実施してきた。 前者は、2017年のTax Cuts and Jobs Act(TCJA)である。TCJAでは、1.5兆ドルもの財政赤字を前提とした大型の減税を実施した。例えば、法人税率の35%から21%への引下げや個人所得税の減税、外国子会社の配当免除、過大利子費用控除制限などを行ったほか、国際課税に関してBEAT(Base Erosion and Anti-Abuse Tax)やGILTI(Global Intangible Low Tax Income)、FDII(Foreign Derived Intangible Income)を導入した。 後者は、2022年のInflation Reduction Act(IRA)である。財政支出増と増税・歳入増が均衡した財政中立を前提とした制度改正で、IRAはエネルギーインフラ整備、製造業の競争力向上、気候変動対策強化の実現に予算的な道筋をつけたほか、新型コロナ対策としての財政支出も含んでいた。税制関連では、大企業に対する会計上利益15%の代替ミニマム税の導入や内国歳入庁(IRS)の執行能力の強化、自社株買いにおける市場価格の1%の物品税の課税、気候変動対策に関する大幅な税額控除などが措置された。 今般のOBBBAでは、トランプ大統領が選挙公約として掲げてきた税制改正項目の実現に向けて、議会での調整が進んでいる。 〇議会の勢力図と仕組み 2024年11月に大統領選挙と同時に実施された連邦議会議員選挙の結果、下記【図1】の通りに共和党が連邦議会の上院及び下院ともに多数派となったことを踏まえると、下院を通過した税制改正法案が大幅に覆ることは考え難い。トランプ大統領とベッセント財務長官は、7月4日の独立記念日までの法案成立を期待している。 【図1】2024年に実施された連邦議会議員選挙結果 アメリカの上院における審議において、通常、反対の立場にある少数党は「フィリバスター」と呼ばれる議事妨害行為を実施する。これは、オランダ語の「海賊」に由来する言葉で、法案を阻止するために少数派が際限のない審議を要求して時間稼ぎをすることで、法案を廃案に追い込む牛歩戦術である。 アメリカの連邦議会上院規則において、いかなる上院議員も、他の議員の討論を、その議員の同意無しには中断させることができないと定められ、原則的に議員の発言時間が無制限となっていることを利用し、長時間にわたり討論を続けることで議事進行を意図的に遅延させる行為である。また、上院の法案は会期を越えて審議を行うことができないため、フィリバスターを活用し、会期終了まで審議を引き延ばせば、法案を廃案に追い込むことが可能である。 ただし、それではフィリバスターが際限なく認められることで、議会が機能不全に陥る恐れがあることから、現在は全上院議員の5分の3以上(60議席以上)の賛成を得て「クローチャー(討論終結)」と呼ばれる決議を行えば、議員の発言時間に制限が設けられ、討論を終了させて議決に持ち込むことができる仕組みとなっている。 さらに、予算決議の審議プロセスでは、フィリバスターを回避できる「財政調整措置」が設けられている。これは、本来は財政収支の改善を目的として、財政調整法案に関する審議のスピードを速めるためのものである。そのため、TCJAにおいても同措置を活用して、過半数の支持で減税を成立させるための手段として用いられた。 ここで注意が必要になるのが、財政調整法は予算の対象期間に限定された時限立法であり、予算の対象期間を超えると効力を失う等の制限が設けられていることである。2018年度予算案は、将来10年で1.5兆ドルの財政赤字拡大を許容限度とする一方で、2027年度以降の財政赤字拡大を禁止する前提で成立したのである。その財政収支を実現するために、TCJAには個人所得税減税の2025年末での失効と、2026年以降の法人税増税項目がビルトインされていたことから、このまま何も措置しなければ、近い将来に増税が見込まれることになる。 〇トランプ大統領の選挙公約項目と下院法案の内容 トランプ大統領は選挙公約として法人税、個人所得税、関税について主に次のような項目を掲げて当選した。 OBBBAでは、法人税及び個人所得税について上記項目のほとんどを含んだ形で、合計3.9兆ドルに及ぶ減税規模を見込んでいる。 例えば、国内研究開発費については、納税者の選択により、①即時損金化、②資産化した上で耐用期間(最低5年)による償却、③資産化した上で10年間での償却、のいずれかを、2025年度以降2029年末までに開始する課税年度に支払いあるいは発生した費用に適用するなどの企業の競争力強化に向けた方策が盛り込まれている。国際課税においても、GILTI、FDII、BEATにかかる措置の延長が含まれている。 〇内国歳入法899条の創設 OBBBAの中で最も注目すべきは、内国歳入法899条の創設である。具体的には、「unfair foreign tax(DST、UTPR等)を持つ国(discriminatory foreign country)」の居住者、法人に対する次の追加課税を適用するとしている。 日本が対象国に該当する場合、日本法人を親会社とするグループの米国外法人にも適用があることも懸念される。ただし、下院法案における「discriminatory foreign country」である「unfair foreign taxを持つ国」の定義が不明確であり、立法していることを意味するのか、適用していることを意味するのかによって扱いが異なる可能性もある。 適用時期については、源泉税以外の税率引上げ及びBEAT厳格化では、次のうち最も遅い日より後に開始する「課税年度」から適用するとされている。 日本の場合、UTPRの適用開始が2026年4月1日からとなるため、3月決算日本法人の場合は2027年4月1日からと考えられる。 源泉税率の引上げは、外国法人が適用対象者である期間に開始する「暦年」における支払いから引上げ幅を適用開始するとされている。ただし、当該国がアメリカの財務省が公表するdiscriminatory foreign countryのリストに記載されている場合のみに適用される。 日本の場合、UTPRの適用開始が2026年4月1日からとなるため、2027年1月1日からの支払いより5%の引上げが開始すると考えられる。親子間の配当や利子等について、租税条約で源泉税免税だった場合は0%から50%まで5%ずつ引き上げられると考えられる。 〇今後の動き 今後は上院での審議結果にもよるが、仮に下院法案の微修正に留まる場合には、両院協議会による調整が迅速に進み、7月4日までに上下院で再度修正法案を可決した後にトランプ大統領が署名することで法案が成立する。他方、上院での法案修正の程度によっては、その後の両院協議会による調整が難航し、議会の夏季休暇を挟んで9月まで結論を持ち越す可能性もある。 既にUTPRあるいはDSTの適用を開始している欧州諸国やオーストラリア、韓国などの国々にとっては、こうした「報復措置」が早期に適用される可能性がある。そのため、各国政府による政府間交渉や企業及び業界団体によるロビイングが、ワシントンDCや法案の鍵を握る連邦議員の地元を中心に、積極的に繰り広げられていると考えられる。わが国にとっても、企業のビジネスモデルによって現状で日米間での配当や利子、ロイヤリティの支払いが多く発生している場合など、多大な影響が生じるリスクが高いため、注意が必要である。 (了)