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消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例160(消費税)】 「特定期間の課税売上高が1,000万円超であったため、給与等支払額の合計額が1,000万円以下であったにもかかわらず「2割特例」を適用しないで申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例160(消費税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆特定期間における納税義務の免除の特例(消法9の2①) その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その事業年度に係る特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6月間をいう)の課税売上高が1,000万円超であるときは、その事業年度における課税資産の譲渡等については納税義務が免除されない。 なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定については、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することができる。したがって、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額の合計額が1,000万円以下であれば、免税事業者となれるため、「2割特例」は適用できる。 ◆適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)(平成28年改正法附則51の2①②) (1) 経過措置の内容 「2割特例」とは、インボイス発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になったこと又は免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることにより、納付税額をその課税標準に対する消費税額の20%とすることができる経過措置である。 したがってインボイス発行事業者となる前から課税事業者である場合等には適用できない。 (2) 適用できる期間 「2割特例」を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間である。このため、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日から登録を受けた場合には、令和6年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から令和9年3月決算分までの計4回の申告に適用することができる。 〈法人(3月決算の場合)〉 (出典) 財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」より一部抜粋 (3) 適用できない場合 次のような場合には「2割特例」の適用はできない。 (4) 適用を受けるための手続き 「2割特例」の適用に当たっては、事前の届出は必要ない。消費税の確定申告書に「2割特例」の適用を受ける旨を付記することにより、適用を受けることができる。       (了)
#678(掲載号)
#齋藤 和助
2026/07/23
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

[令和8年度税制改正解説]関連者間取引に係る書類の整理保存の特例創設の影響と実務対応 【前編】「改正の背景と特例措置の内容」

  1 はじめに 令和8年度税制改正により、関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置が創設されることとなった。本連載では、この新たに創設された関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置について解説する。 【前編】では、まず改正の背景と特例措置の内容について確認する。   2 改正の背景 企業グループ内の法人間取引、特に共通費用の配賦を伴う取引は、取引条件や対価の算定過程が不明確になりやすく、恣意的な支払額の調整が行われやすい傾向にある。現状、取引内容や支払額の根拠を詳細に確認できる資料が受領・作成されていない事例も見られ、既存の保存書類だけでは経費の支払額の適正性を十分に検証できず、正確な実態把握が困難であった。こうした弊害を解消すべく、本特例措置が設けられるに至った。   3 関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置 (1) 概要 企業グループ内の関連者(下記(3)参照)との間で関連者間取引(詳細は【後編】にて解説)を行った場合には、支払いを行う法人の法人税の課税所得の計算上保存が義務付けられている書類等にその取引に関する資産又は役務の提供の明細、その取引における支払金額の計算の明細及びその取引に係る支払金額を算定するために必要な事項の記載等がないときは、これらの事項を明らかにする書類等を取得・作成し、保存することを義務付けられることとなる。 (2) 適用対象法人 青色申告の承認を受けている内国法人、内国法人である普通法人等(普通法人、協同組合等並びに収益事業を行う公益法人等及び人格のない社団等)が適用対象となる一方、外国法人はその対象から除外されている(法規59の2、67の2)。 (3) 関連者の範囲 関連者は、対象法人との間に次の関係があるものをいう。移転価格税制における関連者と同様の基準により判定するが、移転価格税制と異なり外国法人に限定されないため、関連者には内国法人も含まれる点に留意したい(法規59の2③)。 ① 資本関係 イ 親子関係 2つの法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等(自己株式を除く)の50%以上を直接又は間接に保有する関係(法規59の2③一) ロ 兄弟姉妹関係 2つの法人が同一の者によってそれぞれその発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される場合におけるその2つの法人の関係(法規59の2③二) ② 実質支配関係 次の事実その他これに類する事実(特定事実)が存在することにより2つの法人のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係(法規59の2③三) 基本的には資本関係により判定するが、役員の派遣、取引の依存状況、資金の貸付けなどによって実質的に法人の意思決定を支配しているケースを考慮し、実質支配関係も含まれる。 ③ 資本関係と実質支配関係の連鎖がある場合 イ 2つの法人が資本関係又は実質支配関係にある複数の法人を介して連鎖がある場合における2つの法人の関係(法規59の2③四) ロ 2つの法人が、同一の者との間で資本関係又は実質支配関係にある複数の法人を介して連鎖がある場合における2つの法人の関係(法規59の2③五) ④ 間接保有の計算 資本関係の場合、直接に保有する株式等の保有割合に間接に保有する株式等の保有割合とを合計した割合によって、50%以上の資本関係があるか否かを判定することとなっている(法規59の2④)。 なお、ここでいう間接保有の株式等の割合は、50%以上の出資の連鎖がある場合に足し算方式で計算する(法規59の2⑤)。これは掛け算方式による割合ではない点に留意が必要である。 (4) 関連者の判定時期 関連者に該当するかどうかは、それぞれの取引が行われた時の現況により判定する(法規59の2⑧)。 (5) 罰則 青色申告の承認の取消事由の一つに、その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が法人税法126条(青色申告法人の帳簿書類)1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこととある(法法127①一)。 したがって、財務省令(法規59の2)で定められている一定の事項を記載した書類の保存がない場合には、青色申告の承認の取消事由となり得る。 (6) 適用開始時期 令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行う関連者間取引について適用される(改正法規附則8)。   (了)
#678(掲載号)
#川瀬 裕太
2026/07/23
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】

令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   (2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) ① 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ② 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とします。 ③ 通算法人の繰越税額控除額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (3) 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) ① 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ② 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とします。   (続く)
#678(掲載号)
#足立 好幸
2026/07/23
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第62回】「実際に検収を行わずに検収書を作成し、機械装置の取得があったものとして税務処理をしたことは、単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎないとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第62回】 「実際に検収を行わずに検収書を作成し、機械装置の取得があったものとして税務処理をしたことは、単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎないとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された事例」   税理士 菅野 真美   ▷重加算税が課されるためには 重加算税は、納税者が隠蔽又は仮装により適正な申告よりも過小な申告をし、又は申告自体しなかった場合のペナルティとして課される加算税の一つである。 重加算税が課されるためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その行為を原因として過少申告の結果が発生すること(昭和62年5月8日最高裁判所判決、TAINSコード:Z158-5922)が必要となる。 納税者の故意(主観的な意思)を外部から推し量るのは困難であるが、国税庁の「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」において、たとえば、帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っている場合は、重加算税の対象とされる。 それでは、現品が到着した機械装置について、実際に検収を行わなかったにもかかわらず、検収書を作成し、納品請求書を取得し、機械装置として計上し、特別償却や普通償却を計上することは、重加算税の対象となる隠蔽又は仮装な行為に該当するか。この件で争われた事案を検討する。   ▷事案の概要 納税者は、主に土木設計、測量等を営んでいる1月決算の法人である。納税者は、車両に搭載するシステムと新車を注文した。なお、システム搭載後の車両のことを本件機械装置という。 本件機械装置は、旧措置法42条の6第2項に規定する特定生産性向上設備等に該当するものだった。 納税者は、平成29年1月25日、本件機械装置の検収書に同日付を記載し署名押印した検収書を提出し、同日付の納品請求書を受け取った。 納税者は、平成29年2月16日から17日にかけて、本件機械装置の概要説明と走行訓練の講習会に従業員を参加させ、講習会終了後、動作確認等の検査を完了した本件機械装置の引渡しを受けた。 納税者は、平成29年1月期に本件機械装置を総勘定元帳に計上するとともに、この事業年度において、本件機械装置の特別償却費と普通償却費を損金に算入する申告を行った。そして、課税庁は、平成31年1月28日付で、特別償却費等は損金の額に算入できないとして、法人税及び地方法人税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分、消費税の仕入税額控除ができないとして消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行った。納税者がこれを不服として審査請求したのが本件である。   ▷争点 争点は、以下の3点である。   ▷裁決 裁決は、(1)と(2)は適法であるが、(3)は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき、違法であり取り消すのが相当であるとした。 (1) 平成29年1月期に本件機械装置を事業の用に供したと認められるか否か 資産を事業の用に供したと認められるか否かは、業種、実態、その資産の構成及び仕様の状況を総合的に勘案し、その資産をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したと言えるか否かによって判断するのが相当である。 本件機械装置について平成29年1月20日付で構造等変更の自動車検査の手続きを終え、1月25日に納品し、2月9日及び14日に機械装置の検査等を行い検査成績書等を作成し、その後、講習会終了後に引渡しを受けたことからすれば、機械装置をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したといえるのは、2月17日以降になることは明らかだ。だから平成29年1月期において本件機械装置を事業の用に供したとは認められない。 (2) システムの「課税仕入れを行った日」は、平成29年1月期に属する日であるか否か 固定資産の課税仕入れを行った日について、資産の「引渡しがあった日」を原則とするものと解されるところ、納税者は、講習会終了後に機械装置の引渡しを受けたことからすれば、システムの「課税仕入れを行った日」は、平成29年2月17日となり、平成29年1月25日とは認められない。 (3) 通則法68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か 重加算税の適用要件が満たされるのは、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合である。 システムの販売担当者は、納税者に対し、経理上、検収書の提出を受けなければ納品請求書が発行できない旨説明し、機械装置に係る構造等変更の自動車検査を終了した後に検収書様式を送付するとともに、署名押印した後の検収書を提出するように依頼した。検収書の提出を受けた後に問題が生じた場合には、メーカーによる1年間の瑕疵担保責任により対応させることとしており、検収が実際に行われていたか否かではなく、検収書が存在することが重要であると認識していたと認められ、納税者が機械装置の検収を行った事実を確認していなかった。これらからすると検収書を単に事務的又は形式的に提出させたとみるのが相当だ。 納税者の代表者は、検収について、基本的に相手方から求められたら行うという程度であり、動作確認等を含めて必ず行っているものではない。納税者は、本件機械装置に限らず、実際の検収を伴わない形式上の検収でも問題は生じないとして、検収書を事務的に交付・提出したものとみるのが相当である。 そうすると、納税者が本件納品請求書の交付を受けるためにあえて作成・提出したと認めることはできない。したがって納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、外部からうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、法人税、地方法人税及び消費税等の過少申告をしたと認められる事実はないから、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。   ▷なぜ、実際に検収せずに検収書を送ったのか? このように、審判所は、「単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎず、隠蔽し、又は仮装には該当しない」として、重加算税の決定処分については取り消した。 ところで、裁決書を読むと、納税者の主張として「本件機械装置を所有しなければ入札できない案件への事業提案及び参加表明を平成29年1月に行っている。」という極めて興味深い記載がある。 納税者としては、どうしても受注したい事業の入札があり、そこに参加するためには「1月中」に本件機械装置を所有していることが必須条件だったため、実際の検収を待たずに、検収書に署名押印して送り返したのが事実に近いのではないだろうか。しかし、もし税務調査や不服申立ての場で「1月の入札に間に合わせるために、あえて形式だけ1月中に取得したことにした。」と主張してしまえば、それこそ「過少申告の意図をもった仮装隠蔽」ととらえられ、重加算税を免れ得なかった可能性が高い。 そこで納税者は、「過少申告の意図はなく、あくまでも日常的な事務処理上の問題(ルーズさ)にすぎない。」という方向性で一貫して主張を展開した。その結果、見事に重加算税の取消しを勝ち取ったのだとすれば、これは納税者側の見事な「戦術の勝利」であったと言えるだろう。 (了)
#678(掲載号)
#菅野 真美
2026/07/23
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第97回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第97回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   32 暗号資産と税務調査③:損益計算の困難性と税務執行上の問題 国税庁が暗号資産に関して、調査選定を効率的に行い、また、課税処分を適正に行うためには、暗号資産取引に係る損益の計算を一定の精度で行うことが必須である。 しかしながら、暗号資産の損益計算は驚くほど難しい。 その難しさは、単に取引件数が多いという量的問題にとどまらず、取引形態の多様性や評価方法の選択などに関わる質的問題を含んでいる。 例えば、株式取引であれば「購入⇒保有⇒売却」という比較的単純な構造であるのに対し、暗号資産では、トークン同士の交換、LPトークンの受領、報酬トークンの自動付与、クロスチェーンブリッジなど、法的及び経済的実態の把握自体が容易でない取引が多数存在する。 この損益計算の困難性は、暗号資産に特有のものであり、暗号資産の匿名性や分散性が引き起こすものとは別に、現在、国税庁が直面している暗号資産に係る最も重要な税務執行上の問題である。 (1) 暗号資産の損益計算の手順と重要性 ア 概要 暗号資産取引に係る所得税は、まず、暗号資産の損益を計算し、これを基に、所得税法の規定に従って税額を計算することで算出される。 損益計算段階での誤りは、そのまま税額計算全体に波及する。 この際、暗号資産取引の損益を適正―できる限り正確―に計算することが極めて重要である。 この点について、暗号資産に関する税務処理の95%は、収入を計算し、さまざまなカテゴリーに仕分けすることに費やされ、残りの5%は、それぞれのカテゴリーに対する課税上の取扱いや税率を決定することに費やされるという見解が示されている(※)。 (※) See KIRK D. PHILLIPS, THE CRYPTO TAX BLUEPRINT: HOW TO AVOID EXPENSIVE CRYPTO TAX MISTAKES & AUDIT-PROOF YOUR TAX RETURN 9(2023). この見解は、税率や所得区分の検討よりも前に、収入のカテゴリーに係る事実関係の整理と数値の確定が決定的に重要であることを示唆している。 暗号資産の損益計算は、一般に、CEXやウォレットなどから取引やトランザクションのデータを取得し、暗号資産の損益計算ソフトに取り込むことで行われる(暗号資産の取引数が極端に少ない場合には損益計算ソフトを使わずに損益計算をすることが可能だが、そのようなケースは検討の対象外とする)。 ここで重要なのは、ブロックチェーン上のデータだけでは損益計算は完結しないという点である。 ブロックチェーンには「いつ・どのアドレスから・どのアドレスへ・どれだけの数量が移転したか」という情報は記録されているが、それだけでは損益を計算することはできない。 次のような情報は、ブロックチェーンの記録だけからは直ちには読み取れない。 そのため、損益計算を行うためには、①取引所の取引履歴(約定価格・手数料情報)、②当時の市場価格(時価情報)、③ウォレットの入出金履歴、④納税者の取引メモや契約内容などを突き合わせながら整理する必要がある。 実務上は、これらの情報のいずれかが欠落しているだけでも、損益計算が停止することがある。 このように、複数の情報を照らし合わせながら1つの取引の経済的実態を確定していく作業が不可欠となる。 イ 損益計算の基本的手順 (ア) 税額計算との関係 暗号資産の損益計算の基本的手順を簡単に示すと次のようになる。 (※1) 数量エラー(ポジション不足の取引)、未対応のトークン、価格データ未取得のトークン (※2) 損益取引か、貸借取引かの判断を含む 実務上、上記③の工程こそが最大のボトルネックとなることが多い。 この工程は、単なるデータ修正作業ではなく、各取引の経済的実態を把握した上で、それを税法上どのように評価するかを判断する作業を含む場合がある。 また、実務においては、上記③の年末数量不一致(残高不一致)を解消するための調整処理を行うことがあり、この処理の妥当性が、税務調査において争点となる場合もある。 暗号資産取引に係る収入としては、暗号資産の譲渡や交換、マイニング、ステーキング、レンディング、流動性供給といった様々な取引タイプに係る報酬がある。必要経費としては、暗号資産の譲渡原価や手数料の比重が大きい。 このため、上記の手順を経ることによって暗号資産取引に係る収入や必要経費の多くがカバーされ、その計算結果はほぼ直接的に所得金額の多寡を左右する。 上記④の後に、損益計算の結果に基づいて課税関係を検討することになるが、暗号資産の損益計算の際に、どのような取引タイプが課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)になるか、暗号資産による支払が必要経費になるかなどの税務処理も加味して行うことが通常である(※)。 (※) 損益計算を請け負う者が税理士ではない場合には、税理士法違反の問題が生じ得ることにも注意が必要である。 例えば、トークン同士の交換を譲渡とみるか否か、エアドロップの取得時点をいつとみるか、ガス代を必要経費に算入できるか否か等の判断が、最終的な損益額に重大な影響を与える。 また、複数ウォレット間の内部移転が正確に「移転」として認識されず、誤って「売却」と扱われる場合には、架空の利益が計上される危険がある。 例えば、自己が管理するウォレットAから同じく自己が管理するウォレットBへ1BTCを移転したトランザクションが、損益計算ソフト上で「BTC売却→BTC再取得」として処理された場合には、多額の架空利益が計上される可能性がある。 以上のとおり、暗号資産に係る所得税額の計算過程においては、損益計算の比重が極めて大きいといえる。損益計算の精度こそが、課税の適正性を左右する中核的要素となっているのである。 なお、DeFiにおける流動性供給報酬やガバナンストークンの付与など、従来の議論や国税庁の暗号資産FAQでは整理しきれていない取引形態も多く、損益計算時に頭を悩ますことも少なくない(本連載第65回~第72回参照)。 (イ) 税務調査との関係 これまで考察してきた税務調査の観点からみても、暗号資産取引の損益計算は重要である。 調査選定の場面において、ブロックチェーン分析により、同一人物によって管理されているCEXの口座やウォレットアドレス、あるいは適正に申告していないことが疑われる不審な口座やウォレットアドレスを抽出することができたとしても、申告漏れ所得金額や税額を推算するためには、結局、暗号資産の損益計算が必要となる。 「誰が取引をやっているか」、「誰が管理する暗号資産か」が分かっても、「いくら儲けているか」がわからなければ課税処分できないからである(ただし、ブロックチェーンから得られる情報が損益計算に重要な役割を果たす場合もある)。 同様に、個別の税務調査の場面において、調査対象者である納税者が申告をしていないCEXの口座やウォレットアドレスが把握されたとしても、申告漏れ所得金額や税額を算出するためには、やはり、暗号資産の損益計算が必須となる。 このように、調査選定と個別の調査の場面の双方で、暗号資産の損益計算の重要性が際立つ。 (2) 暗号資産の損益計算に必要な知識やスキル 暗号資産の損益計算を適正に行うには、税法に関するもの以外にも、程度の差こそあれ、資金決済法、金融商品取引法などの関連法令やガイドライン、暗号資産・ブロックチェーン・関連ビジネスなどに関する知識のほか、各種データ等の取得方法、ブロックチェーンエクスプローラーや損益計算ソフトの操作等に関するスキルが求められる。 これらは、一般の税理士にとって一種の参入障壁となっている。 単に税法を理解しているだけでは足りず、技術的理解とデータ処理能力を併せ持つことが求められる点に、この分野の特殊性がある。 補足すると、ブロックチェーンのトランザクションを追跡したり、暗号資産の残高を確認したりする際に、Etherscanなどのブロックチェーンエクスプローラーを利用することがある。 ブロックチェーンエクスプローラーは、ブロックチェーン上のオンチェーンアクティビティを検索等するためのユーザーフレンドリーなインターフェースを提供しており、トランザクション履歴の確認、ウォレットアドレスの検索と残高確認、ブロック情報の確認などのために利用されている。 一般の暗号資産利用者がトランザクション履歴を確認する場合、ブロックチェーンエクスプローラーなどのサービスを利用することが通常である。 後述するが、エクスプローラーは、基本的には、トークンの移転等の履歴を可視化するツールであり、税務上必要となる取得価額や円換算額、取引の法的性質(売買か、貸借か、報酬か)までを自動的に示してくれるわけではない。 したがって、エクスプローラーの画面を見ただけで損益計算が完結することはなく、その情報をどのように損益計算や税額算定に落とし込むのかという判断が不可欠となる。 いずれにしても、次回以降の(3)及び(4)の考察を踏まえると、現時点では、国税庁が、複数の海外CEX、DEX、プライベートウォレットを利用している納税者に係る暗号資産の損益計算を1つの誤りもなく正確に行うことは相当困難であり、やや現実的ではない。   (了)
#678(掲載号)
#泉 絢也
2026/07/23
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第100回】「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その1)」~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第100回】 「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その1)」 ~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~   滋賀大学准教授・税理士 金山 知明     1 税務行政執行共助の概要 国家間の税務行政共助手続としては、大きく分けて税務情報の交換、徴収における支援の2つを挙げることができるが、本稿では、税務行政執行共助条約における租税債権の徴収支援のうち、保全の措置が問題となった裁判例を取り上げる。そこで、まずは税務行政相互支援に関する条約と国内法に定められた共助規定につき、その概要について確認することとする。 (1) 情報交換と徴収支援 税務情報交換は、主として課税処分より前の調査の段階における支援措置であり、徴収支援は、課税処分により生じた租税債権を回収(徴収)する局面における共助手段といえる。 情報交換は最終的に納税者に対する課税を目的とするものと考えられるが、仮に課税処分をしたとしても、その納付がされず、かつ納税者の財産が海外にある場合、課税した税額を実際に徴収することが困難となる。各国の税務当局は原則として他国において直接徴収権限を行使することができないからである(※1)。 (※1) 赤松晃「徴収法の国際的側面―徴収共助に係るOECDモデル租税条約の進展とわが国の方向―」租税法研究33号(2005)47頁。 徴収支援はこのような場面において条約締約国同士が、相互に租税の徴収に関する協力をする枠組みである。近年、経済取引のグローバル化が進展し、国境を超える取引が恒常的に行われるようになるなか、租税条約に基づき国家相互間で相手国の租税債権を徴収する仕組みが整備されてきた。 OECDモデル租税条約に基づく二国間条約においては、多くの場合情報交換規定(典型的には26条)、及び徴収支援規定(同じく27条)が定められるが、この二国間租税条約方式とは別に、OECDと欧州評議会(Council of Europe)は共同で情報交換や徴収協力に関する多国間条約を立案してきた。両者により1988年に策定された多国間条約である税務行政執行共助条約(※2)(以下「共助条約」という。)は、1995年に効力を生じ、2010年における改正を経て、これまで段階的に批准国数を増やしてきている(※3)。日本は平成23年(2011年)11月において共助条約に署名し、平成25年(2013年)10月に発効を経ている。 (※2) OECD and Council of Europe, The Multilateral Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters: Amended by the 2010 Protocol, 2011. (※3) 国税庁「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」(2026)別紙1によれば、2026年1月1日現在、本条約への加盟国数は我が国を含め128か国。 また、共助条約への署名を受けて、我が国では平成24年度(2012年度)に国内法である租税条約等実施特例法(以下「実特法」という。)を改正し、租税条約上の徴収・保全共助や文書送達についての具体的規定が整備され、実際に共助行為が可能となった(※4)。 (※4) 増井良啓「マルチ税務行政執行共助条約の注釈を読む」租税研究775号(2014)254頁。大蔵財務協会『平成24年度改正税法のすべて』(2012)510頁。 (2) 共助条約における徴収・保全等に係る相互支援 共助条約上、徴収における支援には、租税債権徴収と保全措置が含まれ、これとは別に文書送達が定められている。それら手続の概要は以下のとおりである。 ① 租税債権徴収 租税債権徴収は11条に規定され、その1項において、被要請国は要請国の租税債権を「自国の租税債権を徴収する場合と同様に徴収」すると規定されている。この徴収の方法は、被要請国が自らの租税債権を徴収する手段と同様であるため、差押え、自国内で行使可能な強制徴収手続といった滞納処分が全て含まれる(※5)。 (※5) 森浩明「国際間の徴収共助―条約上の徴収共助条項の考察を中心として―」税務大学校論叢44号(2004)397頁。 ② 保全措置 保全措置は共助条約12条に規定されており、共助対象外国租税債権について要請国において争いがあるときであっても、共助対象外国租税の徴収を確保するために、被要請国における共助対象者の財産について保全措置をとることを内容とする。この保全措置には、財産の差押えや資産凍結が含まれる(※6)。 (※6) OECD, Text of the Revised Explanatory Report to the Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters as Amended by the Protocol, 2010, para. 123. ③ 文書送達 文書送達は共助条約17条に規定されており、要請国から発出される文書で共助対象外国租税に関するものを、被要請国において名宛人に送達することを内容とする共助である。共助条約には文書送達に関して、被要請国の法令に従って行われるべきこと、必要に応じて被要請国の公用語等による翻訳文の添付を行うこと等を定めている。 (3) 共助条約における手続規定等 ① 要請に係る手続 共助条約における徴収・保全措置要請時の要請国による手続規定として、13条1項では、租税債権がこの条約の対象となる租税に関するものである旨の宣言に加え、徴収の場合には租税債権が争われていない旨(※7)、要請国における執行を許可する文書の公式な写し等を被要請国に提供すべき旨規定される。 (※7) 共助条約11条2項において、存否が争われている租税債権は徴収共助の対象とすることができない旨規定される。 また、18条1項では、要請国は共助対象者の情報、徴収・保全を要する租税債権の性質・内容等を記載した共助要請関連情報を被要請国に提供すると規定される。 ② 争訟手続 税務執行共助に関する争訟について、共助条約23条1項は、被要請国が採った措置についての争訟の手続は、被要請国の適当な機関にのみ提起することができるとし、同条2項では、徴収の分野に関連して、租税債権の存否・金額等についての争訟の手続は、要請国の適当な機関にのみ提起することができると定める。 ③ 共助効力発生時期 共助対象外国租税となり得る租税について、共助条約28条6項は、原則として、締約国について共助条約が効力を生じた年の翌年の1月1日以後に開始する課税期間以後に課される租税であると定める。したがって、我が国では平成26年1月1日以後開始課税期間に係る租税が対象となる。 ただし、その例外として28条7項は、要請国の刑事法に基づいて訴追されるべき故意による行為に係る租税事件(要訴追故意事案)に係る租税であれば、上記課税期間より前に開始する課税期間に課される租税であっても、共助対象とすることができる旨を定める。 (4) 関連する国内規定 争訟手続に関しては、実特法11条13項においても、共助対象者は、不服申立て及び訴えにおいて、当該共助対象者に係る共助対象外国租税の存否又は額が当該共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができないと規定する。 また、実特法11条1項では、所轄国税局長等は、共助の要請があったときは、実特法上の共助不実施事由があるときを除き、当該要請に係る徴収・保全共助実施の決定を行うこととされる。このとき、徴収・保全共助実施決定は、所轄国税局長等が、徴収・保全共助実施決定通知書を共助対象者に対し送達して行う(同条2項)。 また、国税通則法(以下「通則法」という。)14条1項では、要送達書類について、その送達を受けるべき者の住所等が明らかでない場合又は送達困難事情があると認められる場合には、税務署長その他の行政機関の長は、その送達に代えて公示送達(※8)をすることができると定める。 (※8) 公示送達とは、要送達書類の名称、送達を受けるべき者の氏名、及び税務署長等がその要送達書類をいつでも送達を受けるべき者に交付する旨を行政機関の掲示場に掲示して行われる(通則法14条2項)。そして同掲示を始めた日から起算して7日を経過したときは、要送達書類の送達があったものとみなされる(同条3項)。   2 事案の概要 (1) 前提事実 原告Xは、平成14年(2002年)3月に英国領ケイマン諸島において設立された法人である。 Cは、Xの元代表者であり、他の複数の会社を通じて韓国、日本及び香港において海運業に携わっている。Cは、平成23年(2011年)、韓国において、特定経済犯罪加重処罰等に関する法律違反の嫌疑により、公訴を提起され、同法律違反のうち租税ほ脱の嫌疑については、平成18年(2006年)及び平成20年(2008年)の各課税期間に係る部分を無罪とする一方で、平成19年(2007年)の租税ほ脱に係る部分を有罪とする旨の判決の宣告を受け、同判決は、平成28年(2016年)2月18日、韓国において確定した。 (2) 本件保全共助の要請 韓国の国税庁は、日本の国税庁に対し、令和2年6月4日付けの「Request for Assistance in Recovery of Tax Claims」と題する書面(保全共助要請書)を送付し、Xについて、韓国の所得税(保全共助対象外国租税)を保全共助対象外国租税とする保全共助要請をした。この保全共助要請書には、保全共助要請の内容・経緯等に関し、大要以下のように記載されている。 (※9) 具体的には、当該外国租税債権につき、日本が徴収共助を行わない権利を留保していないものであること、当該外国租税債権は、韓国法の下で保全措置を行うことができるものであること、韓国法が当該外国租税債権の存否又は額を争う機会を保障していること、韓国の税務当局が韓国内で当該外国租税債権を徴収するために採り得る全ての手段を採っていること、本件保全共助要請が、韓国の法令及び行政上の慣行に従ったものであること、本件保全共助要請に係る情報及び添付された書類の内容は正しいことをそれぞれ宣言している。 (3) 本件保全共助実施決定と保全共助 我が国国税庁は、令和2年6月12日、本件保全共助要請を受理し、Xの財産の所在地を管轄する東京国税局長は、本件保全共助要請についての所轄国税局長等として、同月30日付けで、本件保全共助実施決定をした。 東京国税局長は、本件保全共助実施決定をその共助対象者であるXに通知するに際し、保全共助実施決定通知書を本件記載所在地に送達するについては、送達困難事情があると認めたことから、これを公示送達することとし、令和2年7月1日から同月8日までの間、本件保全共助実施決定通知書に係る公示送達書を東京国税局の掲示場に掲示した。 東京国税局長は、令和2年7月15日、本件保全共助対象外国租税を徴収するための財産の保全として、XがB銀行に対して有する本件保全差押債権の保全差押処分をし、B銀行に対し、本件処分に係る差押通知書を送達するとともに、同日付けで本件保全差押債権3,339万9,766円を取り立てた。 東京国税局長は、本件保全差押処分をXに通知するに際し、本件保全差押調書謄本を本件記載所在地(ケイマン)に送達するについては、送達困難事情があると認めたことから、これを公示送達することとし、令和2年7月16日から同月23日までの間、本件保全差押調書謄本に係る公示送達書を東京国税局の掲示場に掲示した。 東京国税局長は、令和2年7月22日、本件保全差押処分により差し押さえた金銭を東京法務局に供託した。 (4) 図解 (5) 訴えの提起 Xは、東京国税局長に対する再調査の請求、国税不服審判所長に対する審査請求をしたが、いずれも同請求のうち、本件保全共助実施決定の取消しを求めるものについては棄却し、本件保全差押処分の取消しを求めるものについては却下する旨の決定、裁決を受けた。 Xは、令和4年3月15日、国Yを被告として、本件訴訟を提起した。   3 争点と主張 (1) 争点 (2) 争点に関する当事者の主張の要旨 ① 本件訴えのうち本件保全差押処分の取消しを求める部分に訴えの利益はあるか《争点1》 《争点1》について、本件保全差押処分の取消しを求める部分に訴えの利益があるとのXの主張に対し、Yは保全共助実施決定に基づき、所轄国税局長において既に差し押さえた債権を取り立てており、債権保全差押処分の目的を達し、法的効果も消滅しているため、もはや保全差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益はないと主張している。 ② 本件保全共助対象外国租税は、我が国において共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえるか《争点2》 《Xの主張の要旨》 本件保全共助対象外国租税は、我が国において共助条約が適用される課税期間(平成26年1月1日以降の課税期間)より前の課税期間に課される租税である。要訴追故意事案とは、現在訴追されている事案又は将来の訴追が予定されている事案のみを意味し、訴追されて既に確定判決を経ており、再び訴追を受けることのない事案はこれに含まれない。既に本件確定外国判決を経ている本件外国訴追事案は、要訴追故意事案には該当しない。 《Yの主張の要旨》 本件保全共助対象外国租税は外国訴追事案に係るものであるから、要訴追故意事案に係る租税(共助条約28条7項)に該当する。そのため、本件保全共助対象外国租税は、共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえる。 要訴追故意事案を、将来訴追される可能性がある事案に限定する文言上の根拠はなく、広く訴追されるべき責任を負うべき悪質な事案が含まれると解するのが自然な文言解釈であるから、既に有罪の確定判決を経ている本件外国訴追事案も当然にこれに含まれる(※10)。 (※10) このほか、Xは共助条約28条7項の規定そのものが、遡及処罰の禁止(憲法39条前段)に反して違憲無効である旨主張しているが、Yは本件は刑事上の責任を問われていなかった行為について、遡及的に刑事上の責任を追及するものではないから、遡及処罰の禁止(憲法39条前段)に反するものではないと反論している。 ③ 本件保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分は違法となるか《争点3》 《Xの主張の要旨》 本件保全共助対象外国租税は、滞納外国租税の一部についての第二次納税義務に係る租税であるところ、滞納外国租税には本件確定外国判決において存在しないことが確定した部分が含まれているし、その余の部分も納付により消滅している。そのため、本件保全共助対象外国租税は、本件各処分の時点において、存在していなかった。 存在していない外国租税を保全共助の対象とすることはできないから、本件保全共助実施決定や保全差押処分は違法である。 《Yの主張の要旨》 共助条約に基づき要請国が採った措置、特に、徴収の分野に関連して、共助対象外国租税債権の存在若しくは額又はその執行許可文書に関して採られた措置についての争訟の手続は、要請国の適当な機関にのみ提起することができ(共助条約23条2項)、共助対象者は、不服申立て及び訴えにおいて、当該共助対象者に係る共助対象外国租税の存否又は額が当該共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない(実特法11条13項)。 ④ 韓国の税務当局との間での情報交換をする義務の不履行があったことを理由として、本件各処分は違法となるか《争点4》 Xは、本件保全共助要請書上の情報が不足していたにもかかわらず、東京国税局長が韓国の税務当局との間で追加の情報交換をする義務を怠ったことに基づき違法性を主張するが、Yは、当該要請書上の情報に不足はなく、さらなる情報交換を行う必要性も法的義務もなかったと反論している。 ⑤ 本件各公示送達は適法な送達であるといえるか《争点5》 Yが、新型コロナウイルスの流行により、ケイマン諸島行きの国際郵便引受けが停止されていたことは送達困難事情に当たり、公示送達は適法であったと主張したのに対し、Xは送達困難事情の不存在のほか、翻訳書添付義務の不履行、公示送達が共助条約上の秘密保護規定に反する旨主張する。   4 判決の要旨 第一審(東京地判令和4年11月30日)で裁判所は大要以下のように判示し、Xの本訴に係る訴えの利益は認めつつ、その他のXの主張をいずれも退けている。 (1) 《争点1》(本件訴えのうち本件保全差押処分の取消しを求める部分に訴えの利益はあるか)について 処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(行政事件訴訟法9条1項)。 保全共助として所轄国税局長等による租税債権の取立てが行われたとしても、これによって直ちに保全共助対象外国租税の徴収の効果が生じたことにはならず、所轄国税局長等としては、当該保全共助対象外国租税について徴収共助の実施決定がされるまで、同取立てに係る金銭を保管のために供託しなければならない。 共助対象者としては、その間は、供託原因である当該保全差押処分を取り消す旨の確定判決を得ることにより、当該供託の効果を覆滅させるとともに、取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)を通じて、当該供託に係る金銭の返還を受けることができる。 そのため、共助対象者Xには、少なくとも、保全共助対象外国租税について徴収共助の実施決定がされるまでの間は、当該供託に係る金銭の返還を受けることができる余地が残されており、この点につき、法律上の利益を有する。 (2) 《争点2》(本件保全共助対象外国租税は、我が国において共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえるか)について 本件保全共助対象外国租税は、我が国において共助条約が原則的に適用される課税期間(平成26年1月1日以降の課税期間)より前の課税期間に課される租税であるといえる。 しかし、本件共助対象外国租税は、有罪確定ほ脱租税のうち平成19年(2007年)の課税期間に係るものについてXが第二次納税義務を負うものとして特定されているから、本件外国訴追事案に係る租税であるといえる。 実際に、本件確定外国判決においては、平成19年(2007年)の課税期間の租税について、Cが違法な租税ほ脱行為をした旨の認定がされていること、本件共助要請書の記載については、韓国国税庁によって、その内容が正しいものである旨の宣言がされていることなどからすれば、本件外国訴追事案は要訴追故意事案(共助条約28条7項)に該当する。 したがって、本件保全共助対象外国租税は、平成26年1月1日より前の課税期間に課される租税ではあるものの、我が国において共助条約の適用のある課税期間に課される租税であるといえる(※11)。 (※11) このほか判決は、共助条約28条7項が憲法39条前段に反する旨のXの主張に対し、共助条約28条7項は、ある国について共助条約が効力を生じた年の翌年の1月1日より前に開始する課税期間(課税期間がない場合には同日より前)に課される租税についても、共助条約を適用する旨を定めた規定にとどまり、ある国において刑事上の責任を問われていなかった行為について、遡及的に同国において刑事上の責任を追及することができる旨を定めた規定ではないから、遡及処罰の禁止に触れるものではないと判断している。 要訴追故意事案の原文である「intentional conduct which is liable to prosecution under the criminal laws of the applicant Party」という文言からは、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠を見いだすことはできないし、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案であると解したとしても、そのような租税事案について、再度、刑事上の責任を追及するために訴追することを許容することにはならないから、実質的にも、過去に刑事訴追を受けて既に確定判決を経た租税事案を要訴追故意事案から除外すべき根拠はない(※12)。 (※12) これに加えて判決はYの主張を認めて次のように説示する。「有罪の確定判決を経ておらず、将来、無罪となる可能性がないとはいえない租税事案に係る租税債権を共助の対象とする一方で、有罪の確定判決を経た租税事案に係る租税債権を共助の対象とすることができないとの解釈は不合理であるといわざるを得ない。」 (3) 《争点3》(保全共助対象外国租税の不存在を理由として、本件各処分は違法となるか)について 実特法11条13項により、共助対象者Xは、実特法上の処分についての国内での不服申立て及び訴えにおいて、共助対象外国租税の存否又は額が当該共助対象外国租税に関する法令に従っているかどうかを主張することができない。 共助条約23条2項は、この条約に基づき要請国が採った措置、特に、徴収の分野に関連して、共助対象外国租税債権の存在若しくは額又はその執行許可文書に関して採られた措置についての争訟の手続は、要請国の適当な機関にのみ提起することができる旨を定めているから、Xは、これらの措置について不服がある場合には、要請国である韓国の適当な機関に争訟の手続を提起すべきであって、我が国において、これらの措置についての争訟を提起することはできない。 (4) 《争点4》(韓国の税務当局との間での情報交換をする義務の不履行の有無)について 韓国で課税処分がなされている以上、本件保全共助対象租税の存否、金額等について我が国において争うことはできないから、我が国の税務当局において、積極的にそれら項目につき韓国国税庁との情報交換を行う義務はない。 (5) 《争点5》(本件公示送達は適法な送達であるといえるか)について 本件各処分がされた時点では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、ケイマン諸島宛て国際郵便物の一時引受停止措置が解消される具体的なめどは立っていなかったといえるため、本件各通知書をケイマン諸島にある原告の所在地宛てに郵便等により送達するについては、送達困難事情があったといえる。 ケイマン諸島における公用語による翻訳や要約文書の作成がされなかったからといって、本件各公示送達が違法な送達になると解すべき根拠はない。本件各公示送達は、通則法14条に従い、各公示送達書を東京国税局の掲示場に所定の期間、掲示して行われたものであるから、共助条約22条の秘密保護義務に反した違法な送達であるということはできない。 (6) まとめ 第一審においては以上の判示により、《争点1》を除いてYの主張を認め、Xの請求を棄却した。なお、控訴審(東京高判令和5年7月19日)も概ね同様の判断をしているが、判決において高裁は、本件保全処分時においてはすでに滞納税額は納付されており、保全対象となる租税債権は存在していなかったというXの主張に対し、仮にそうであったとしても要訴追故意事案に該当する事実は変わらず、納付の有無や内訳等について我が国の税務当局が韓国国税庁と積極的に情報交換を行うことも予定されていないと述べて退けている。 ((その2)へ続く)
#678(掲載号)
#金山 知明
2026/07/23
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【新基準対応版】〈一から学ぶ〉リースの会計と税務 【第4回】「リースの識別とリース期間」

【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第4回】 「リースの識別とリース期間」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   【第3回】では、一般的なリース取引の流れについて整理しました。今回は、リース会計の出発点となる「リースの識別」と「リース期間」について見ていきます。   1 新リース会計基準への改正 従来のリース会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類していました。ファイナンス・リースのみ資産・負債を計上する一方、オペレーティング・リースは資産・負債を計上せず、リース料を費用として処理するオフバランス処理が認められていたのです。 しかし、2016年にIFRS・米国会計基準がともに、借手のリースについて、原則として資産・負債として計上する新しい会計基準が公表されました。日本でも、これに合わせて、2024年9月に新しいリース会計基準が公表され、借手は原則として、すべてのリースについて資産・負債を計上することになりました。 【第1回】でも確認しましたが、「リース」とは「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」をいいます(会計基準第6項)。 簡単に言うと、リースは「一定期間、お金と引き換えに、ものを使う権利をもらう/あげる約束」でした。ポイントは、「もの」そのものではなく、「ものを使う権利」に着目していることです。リースに該当する場合は、借りている「ものを使う権利」を資産として計上します。 また、新しいリース会計基準は、契約の名前に関係なく、契約内容に基づいて適用されます。例えば、事務所等の不動産賃貸借契約、ネットワーク・サービスの利用契約であっても、契約の中にリースが含まれている可能性があります。そのため、契約を締結したときは、契約内容にリースが含まれるか判断する必要があります。これが「リースの識別」です。   2 リースの識別 「契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合」、その契約にリースを含むとされています(会計基準第26項)。 具体的には、次の2つの条件をどちらも満たす場合です。 次に、上記2つの条件について、具体的にみていきましょう。 ① 資産が特定されていること リースでは、まず「どの資産を使うのか」が決まっている必要があります。通常は、具体的なシリアルナンバーなどが契約に明記されています。たとえば、営業車やコピー機を借りるときは、車名や型番、ナンバーなどが決められていると、特定された資産といえるでしょう。一方、借手が使うときに、貸手の空いている車を借りる場合は、特定された資産とはいえません。 なお、以下2つにあたるときは、特定された資産に該当しないとされています。 【例外】 (1)のように、借手に貸している営業車を貸手の都合で、別の車にいつでも交換できる場合は、資産が特定されているとはいえず、リースには該当しません。 また、(2)は、たとえば、借手が貸手の指定する貯蔵タンクの容量の70%までガスを保管できる契約の場合、残り30%部分は貸手や他の借手がガスを貯蔵することができるため、借手が使用できるのは資産の稼働能力の一部分となり、資産は特定されていないと判断されます。一方、容量の99.9%まで保管できる場合は、資産の稼働能力のほとんどすべてとなり、特定された資産として扱うことになります。 ② 資産の使用を支配する権利が移転していること 簡単に言うと、借手が契約期間中に、借りているものを自由に使うことができるか?ということです。具体的には、以下2点をどちらも満たす場合、資産の使用を支配する権利が移転しているとされています(適用指針第5項)。 (1)の借りているものから生じる経済的利益とは、借りているものを使うことで得られるメリットということです。たとえば、営業車を1台借りた場合、その営業車を使って、営業活動を行ったり、取引先を訪問したりすることで得られるメリットは、借手だけが受けることになります。 (2)は言い換えると、契約の範囲内で、借手が「いつ」「どのように」使うかを決められるということです。たとえば、特定の1台の営業車を借りる場合、使用期間中は、使う時間やルートを借手が自由に決められたら、資産の使用を支配する権利は借手に移転しているといえるでしょう。また、資産の使用方法が事前に決められている場合で、使用期間を通じて、借手だけが資産を使うことができたり、借手が資産の使用方法を事前に決めるように資産の設計が行われたりするときも、(2)に該当することになります(適用指針第8項)。 このように、「資産が特定されていること」と「資産の使用を支配する権利が借手に移転していること」の2つを満たす場合、その契約にはリースが含まれていると判断します。 以下に簡単なリースの識別フローを記載します。もっと詳細なフローを確認したい場合は、適用指針(設例1)をご参考ください(なお、契約によっては、契約内容をより詳細に確認しなければならない場合もありますが、本連載では理解のしやすさを優先し、基本的な考え方を中心に説明しています)。   3 リース期間 契約にリースを含むと判断したら、次は「何年間リースとして会計処理するか」を決めます。これがリース期間です。リース期間は、契約書に書かれている契約期間と必ずしも一致するとは限りません。 まず、リース期間は、契約上、途中で解約できない期間(解約不能期間)を基礎とし、次の2つを考慮して決定します(会計基準第31項)。 オプションとは「選ぶ権利」のことで、延長オプションは契約を延長する権利、解約オプションは契約を途中で終了する権利です。 たとえば、契約上、借手も貸手も5年は途中解約できない場合、解約不能期間は5年になります。それに、「希望すればさらに3年間延長できる」と契約で定められており、その延長オプションを行使することが合理的に確実と判断した場合、リース期間に3年を追加します。 「合理的に確実」とは、ある事象が起きることは絶対ではないけれど、ほぼ間違いなくそうすると考えられる状態といえそうです。つまり、100%確実という意味ではありませんが、「たぶんそうする」程度よりも高い可能性が求められます。 「合理的に確実」かどうかは、次のような事情を考慮して判断します(適用指針第17項)。 このような事情は経済的インセンティブといい、簡単にいうと「その行動をする方が、お金の面で有利になる理由」のことです。たとえば、延長後の賃料が周辺相場よりかなり割安な場合は「延長する方が得」と考えられるため、延長する経済的インセンティブがあるといえ、延長オプションを行使する可能性は高いと判断できます。一方、途中解約をすると多額の違約金が発生する場合は「契約を続ける方が得」と考えられるため、解約オプションを行使する可能性は低いと考えられます。 また、(2)大幅な賃借設備の改良の有無とは、たとえば、リース開始時に多額の設備投資を行っており、リース契約終了時には設備を除却する必要がある場合、延長オプションを行使する可能性は高くなるといえるでしょう。(4)企業の事業内容に照らした原資産の重要性とは、借りているものが企業の事業活動において重要か、また、代替資産があるかなどを検討することになります。 このように、リース期間は契約期間だけで決まるものではありません。解約不能期間を基礎として、延長オプションと解約オプションを考慮して決定します。 最後に、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実な場合と借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実な場合のリース期間を図で表すと以下のようになります。 (了)
#678(掲載号)
#喜多 弘美
2026/07/23
労務・法務・経営 経営

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例117】東芝テック株式会社「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」(2026.6.8)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例117】 東芝テック株式会社 「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」 (2026.6.8)   公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、東芝テック株式会社(以下「東芝テック」という)が2026年6月8日に開示した「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」である。 同社は、社名からわかるとおり、株式会社東芝(以下「東芝」という)の子会社である。東芝は2023年12月20日をもって上場廃止になっているのだが(2023年12月19日開示「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」)、社名に「東芝」が付く東芝テックはまだ上場している。 なお、東芝は、本連載で最も多く取り上げた企業であり、【事例1】、【事例11】、【事例16】、【事例21】、【事例61】と合計で5回取り上げている(ちなみに、次に多いのは、【事例85】、【事例94】、【事例106】、【事例113】と合計4回取り上げたニデック株式会社)。もちろんそれらは望ましい内容ではなかった。今回取り上げる東芝テックの開示も、望ましい内容ではない。   2 2023年9月21日に行うべきだった開示 今回の開示は、親会社の異動に関する開示なのだが、タイトルの最後に「(開示遅延)」と付されているとおり、遅延開示である。その主文の記載は次のとおりである。 親会社が東芝ではなくなったのかと思ったのだが、そうではなかった。東芝がTBJH株式会社(以下「TBJH」という)の子会社となったため、TBJHとその親会社のTBJホールディングス株式会社(以下「TBJホールディングス」という)が、新たに東芝テックの親会社になったのである。 また、遅延も、数日の遅延かと思ったのだが、そうではなかった。TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社になったのは2023年9月27日とされている。今回の開示が行われたのは2026年6月8日である。3年近くの遅延であり、筆者がこれまで目にした開示遅延の中では最長である。 さらにいえば、この開示が行われるべきだったのは、2023年9月27日ではなく同年9月21日である。東芝は、2023年9月21日に「TBJH合同会社による当社株式に対する公開買付けの結果並びに親会社及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を開示している。その主文の記載は次のとおりである。 発生事実に関しては、発生後速やかにではなく、発生を認識できた時点で速やかに開示する必要がある。TBJHとTBJホールディングスが東芝テックの親会社になることも、当然、2023年9月21日にわかっており、今回の開示は同日に行われるべきだったのである。   3 なぜ遅延したのか? なぜ今回の開示は遅延したのだろうか。その「適時開示が遅延した理由及び再発防止策」の記載は次のとおりである。なお、「本来は、当社の親会社である(株)東芝が2023年9月27日をもってTBJH(株)の子会社となった後速やかに適時開示を実施すべきでしたが」と記載されているが、上述のとおり、実施すべきだったのは2023年9月21日である。 「当時の確認が不十分であったため、適時開示を実施しておりませんでした」と記載されているが、親会社である東芝との間で十分な確認が取れていなかったため、開示が漏れてしまったのだろうか。果たしてそんなことがあるだろうか。当時、TBJH(当時は「TBJH合同会社」)が東芝に対して株式公開買付けを行っていたこと、そして、それが成立して、TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社となることは、東芝が開示しており、東芝との間で十分な確認など取れなくても、東芝テックは認識できたはずである。 おそらく、当時、東芝テックは、東芝の親会社となるTBJHとTBJホールディングスが自社の親会社にもなることを認識していなかったのだと思われる。自社の議決権を直接所有して、自社を支配している会社だけでなく、子会社を通じて自社を支配している会社、すなわち親会社の親会社も自社の親会社になる(会社法2条4号、会社法施行規則3条2項・3項1号)。そんな常識的なことを、プライム市場上場会社である東芝テックが認識していなかったというのは、にわかには信じがたいが、そうなのだろう。当時、同社の開示担当者も役員も皆、認識していなかったようである。   4 なぜ今指摘? 今回の開示の「適時開示が遅延した理由及び再発防止策」には、「今般、東京証券取引所より適時開示が未了であることを指摘されたことから、本日の適時開示に至りました」と記載されている。なぜ東京証券取引所(以下「東証」という)は、当時(2023年9月21日)ではなく、今になって指摘したのだろうか。 当時、既に東芝は上場廃止になっていて、TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社となることに関する開示を東芝が行っていなかったのならば、東証としても、その事実を認識することが難しかったかもしれない。しかし、そうではなく、上述のとおり、当時、東芝はまだ上場しており、TBJHとTBJホールディングスが親会社となることに関する開示を行っていた。そのため、東芝の子会社である東芝テックにおいても同様の開示が必要になることを、東証は認識していた。少なくとも容易に認識できたはずである。遅延開示の責任はあくまで東芝テックにあるものの、東証の指摘はなぜ今になってしまったのだろうか。 (了)
#678(掲載号)
#鈴木 広樹
2026/07/23
読み物 連載

書く論 【第7回】「校正には種類が(≒人には限界が)ある」

〈執筆:編集X〉 書く論 第7回 「校正には種類が(≒人には限界が)ある」 今回は「書く」から少し離れ、その先にあるお話を。 書き上げた原稿を依頼先(出版社など)に送って安心していると、ほどなく編集者から校正紙(ゲラ刷り)が送られてきます。 そして、こうお願いされます。 「先生、○○日までに校正をお願いします」 この際、具体的にどのような作業をお願いしたいのか、出版社などから細かい説明がある場合は良いのですが、意外となかったりします。 このため「校正?・・・そうか、間違いがないか読めばいいのか」と考えるのですが、いろいろな誤解から著者校正が機能しないことも多く、その後に大きな問題となることもあります。 では著者の方々は、どのような誤解をされやすいのでしょうか。 まずよくあるのが、図表に関するものです。「原稿段階で完璧に仕上げた図表だから、修正(校正)するような箇所はない」と思われがちですが、WordやExcel、PowerPointなどでいただいた原稿データと、出版に使用するDTPシステムには、以前より改善されたとはいえ完全な親和性はありませんので、基本的には印刷会社などで一から制作(作図)し直します。 また、図表データ内の文字(テキスト)データを流用することもありますが、使用しやすいデータになっているかなどデータの作り込みや仕様によって異なりますので、必ず流用されるとは限りません(そこは印刷会社などの現場で判断されます)。 このため、どうしても人為的なミスが発生したり、著者のこだわりに気づけないこともあり、校正紙の図表は「原稿段階で完璧に仕上げた図表」通りにはなりません(もちろん、著者のこだわりをすべて把握した担当編集者が隙のない指定をすれば完璧に近くはなりますが、リスクはゼロではありません)。 このため、図表についてもしっかり校正していただく必要があるのです。 ちなみに、解像度などの条件をみたせば、いただいた原稿データをそのまま画像として載せる(使用する)こともできますが、その後に文字や罫線、アミ掛けなどの修正を行わないことが前提であり、やむを得ず(画像を)修正した場合は見た目の違和感を生じさせることが多いです。そういうこともあって、基本的には一からの作図が前提になります(申告書・申請書の様式など、公官庁から公表された(追加訂正リスクのない)データであれば、そのまま掲載することもあります)。 次に、図表だけでなく文章についても、いくらしっかり書き上げた自信がおありでも、校正紙として客観的に見ると、いろいろな問題に気づき、直したい箇所が出てくるものです。この点も認識していないと、1回目の校正でさっと読んだ後、2回目以降の校正でその点に気づき大幅な修正を行った結果、スケジュール含むもろもろに影響が出てしまうことも(すごくよく)あります。 3つ目の誤解が、「出版社側(編集者や校正者)がしっかり校正してくれるから大丈夫」というものです。もちろん、それぞれプロの立場からしっかりした校正が行われますが、特に専門的な内容については100%の校正が難しい。そして、誤字脱字などの校正についても、人為的なミスがある限り、校正する人(目)の数は多い方がいい(実際に複数人が何度チェックしても、びっくりするような誤植は起こり得ます)。 なのでやはり、文章部分についても校正をしていただく必要があります。 ここで、ひとことで「校正」と言っても、巷に業界関係者による関連書籍がいくつかあるように(ドラマや小説などのテーマにも取り上げられるように)、その内容はとても深いものがあります。 では校正によって発見され、修正されるべきものは、何でしょうか? それは「誤字脱字」だけでなく、「字句の不統一」「計算の誤り(=検算を行う)」「日本語としての表記の誤り」「日本語としてより分かりやすくする」「文脈のつながり(前後の内容の矛盾など)」「見出しの構成(番号飛ばしなど)」「図表の体裁のズレや見やすさを調整」「法令の正しさ(改正のアップデート)」等々、非常に多岐にわたります。 さらに校正を行う作業は、当然ながら集中する必要がありますが、不安やストレス、恐怖心と向き合う時間でもあります。 そのような中で、かつ、限られた時間で、上記で列挙したような「発見され、修正されるべきもの」を同時並行的にチェックできるのか。 あえて言えば、人にはできません。 つまり、字句の統一を行っていると字句の統一しか目に入らず、法令の誤りには気づけません。日本語としての分かりやすさに終始していると、前半と後半で違うことを主張しているのにスルーしてしまいます。 意外とこの事実に気づかず、「『校正』という作業で一度にやれる」と考えている人は、同業者にも多いと感じます。 現場頻出の悪い事例を1つ。 最初の校正紙(初校)というのは、上述したように図表などが原稿通りになっておらず、編集者による朱書き(訂正の指示)も多く入っています。著者から見ると、それら体裁の朱書きばかりに目が向いてしまい、完璧に仕上げた図表がその通りになっていない動揺もあって、とにかく体裁のチェックばかりを行い、それで「校正できた」と納得してしまう。 そこに、著者だから気づける内容の誤り(≒編集者としてはそのチェックを重点的にお願いしたい)があったとしても、見逃されてしまうのです。 もしくは、発刊に向けた最終段階の校正で字句の不統一が気になり、その作業に大切な時間を取られた結果、解説内容の大きな穴や矛盾に気づかないまま発刊してしまう。 ではどうすればいいのか? 編集Xは、校正作業には種類があると考えています。 ・誤字脱字、字句統一の校正 ・校正紙が原稿通りになっているかという校正 ・文章や図表をより分かりやすくできないかという校正 ・文脈に矛盾がないかという校正 ・法令等の誤りはないか(アップデートしているか)という校正 ・他に、ページ番号に抜けはないか、柱に誤りはないか 等々 実際にはもう少し細かい区分けもできますが、校正を行う前には「今からこのチェックを行う」と決めて、何度かに分けて取り掛かるのがよいでしょう。このようにタスクごとに行う方が、すべてを同時並行で行うよりも、結果として作業を早く確実に終わらせることができます。 さらに、著者と編集者が二人三脚で、これらのリスクを共有し分担して取り組めば、より校正の精度と効率性は上がり、リスクを1つずつ抑えることができると思います。 最後に、発刊直前の最終段階での、時間がなく、かつ、高ストレス下で行う校正は、体裁や字句統一は置いておき、人名や組織名・法令名などの固有名詞の誤り、数値(計算式含む)の誤り、明らかな内容の誤りのチェックに注力すべきでしょう。これらを見逃すことは、その実務書にとって大きな痛手となるためです。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
#678(掲載号)
#編集X
2026/07/23
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《速報解説》 金融庁等がコーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定を公表~各原則の実効的な実施支援のための「解釈指針」を新設~

《速報解説》 金融庁等がコーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定を公表 ~各原則の実効的な実施支援のための「解釈指針」を新設~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年7月21日、金融庁、東京証券取引所から、コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定が公表された。 これにより、2026年4月10日から意見募集されていた改訂案が確定することになる。改訂案に対するご意見の概要及びそれに対する考え方も公表されており、表紙などを含めて454ページに及ぶものである。また、「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」も公表されている。 今般の改訂は、コーポレートガバナンス・コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返るためのいわば「コードの実質化」を狙いとしているとのことである。「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実効的な実施を支援するための具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」が新設されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 成長投資の促進 改訂版コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の役割・責務として、成長投資等に向けた取組みの重要性を明記している。 例えば以下のことである。 現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきであることなどが記載されている。   Ⅲ 取締役会の機能強化 改訂版コーポレートガバナンス・コードは、取締役会における独立社外取締役が占める割合が増加し、独立社外取締役の主たる役割・責務である監督機能をより効果的に果たすための環境が整いつつあることも踏まえ、特に独立社外取締役の実効性向上に向け、独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性を強調している。   Ⅳ 有価証券報告書の定時株主総会前の開示 改訂版コーポレートガバナンス・コードの原則において、有価証券報告書を株主総会前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として記載している(【原則1-2.株主総会における権利行使】)。   Ⅴ 改訂版コーポレートガバナンス・コードの適用 上場会社は、遅くとも2027年7月までに、改訂版コーポレートガバナンス・コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出する。 (了)
#阿部 光成
2026/07/22
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