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《速報解説》 ASBJ、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表~コメント受けファンド・オブ・ファンズの取扱いについて規定を追加~
《速報解説》 ASBJ、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表 ~コメント受けファンド・オブ・ファンズの取扱いについて規定を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表した。これにより、2024年9月20日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価するようにすみやかに会計基準を改正すべきとの要望を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式を中心とする範囲に限定し、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いを見直すものである(308-2項)。 1 組合等の範囲 対象となる組合等の範囲に関して、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等とそれ以外の組合等を明確に区分することは困難と考えられたため、ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等を直接的に定義することは行っていない(308-3項)。 一方、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、組合等の範囲に関して、次の要件を設ける(132-2項)。 2 組合等の運営者 「組合等の運営者」とは、我が国におけるベンチャーキャピタルファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられる。また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられる(308-3項)。 3 時価をもって評価している場合 「時価をもって評価している」場合とは、組合等が適用している会計基準により市場価格のない株式について時価評価が求められている場合のほか、市場価格のない株式について時価評価する会計方針を採用している場合が含まれると考えられる(308-3項)。 時価評価の方法としては、「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)に基づいた時価で評価する場合のほか、IFRS第13号「公正価値測定」又はFASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」に基づいた公正価値で測定している場合が含まれると考えられる(308-3項)。 4 任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理 金融商品実務指針132項にかかわらず、上記1の要件を満たす組合等への出資は、当該組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができる。この場合、評価差額の持分相当額は純資産の部に計上する(132-2項、308-4項)。 5 132-2項の適用に際しての留意点 次のことに留意する(132-3項、132-4項、308-5項、308-6項)。 公開草案に対するコメントを受けて、ファンド・オブ・ファンズのように組合等が別の組合等に出資しているケースの取扱いについて規定されている(308-5項。コメントNo.4)。 また、「組合等への出資時」とは、組合等への出資の会計処理を行う時期を想定しているが、本公開草案第132-3項における本公開草案第132-2項の定めの適用対象かどうかの決定は、組合等への出資後最初に到来する出資者側の決算時までに判断することになると考えられるとのことである(コメントNo.24)。 6 注記 132-2項の定めを適用する組合等への出資については、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第31号)24-16項で定める事項の注記に併せて、次の事項を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(132-5項)。 Ⅲ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から2025年改正実務指針を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)
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《速報解説》 企業会計基準委員会、2024年年次改善プロジェクトとして、包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正
《速報解説》 企業会計基準委員会、2024年年次改善プロジェクトとして、 包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正」を公表した。これにより、2024年11月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要とその対応も公表されている。また、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)に関する今後の基準開発の方向性についてのコメントも公表されている。 これは、2024年年次改善プロジェクトにおいて検出された事項について、改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 包括利益の表示関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 包括利益の表示について、これまでに公表されている会計基準等で使用されている「純資産の部に直接計上」などの用語について、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えるための変更を行う。 株主資本等変動計算書について、個別株主資本等変動計算書に関する定めと連結株主資本等変動計算書に関する定めを分けたうえで、連結株主資本等変動計算書の用語についての見直しなどを行う。 3 適用時期等 改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。 ただし、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用することができる。この場合、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度に係る中間連結財務諸表及び四半期連結財務諸表については改正包括利益会計基準を適用しないこと、また、当該連結会計年度に係る中間連結財務諸表については改正株主資本適用指針を適用しない。 Ⅲ 特別法人事業税関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 3 適用時期等 改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。この場合、2025年改正会計基準と同時に改正された「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)についても同時に適用する必要がある。ここで、早期適用を行う場合であっても、当該連結会計年度及び事業年度の中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表については、2025年改正会計基準を適用しない。 経過措置などに注意する。 Ⅳ 種類株式関係 1 改正の対象となる会計基準等 2 改正の内容 実務対応報告第10号の適用対象となる種類株式について、会社法108条1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式として定義する。 会社法108条1項を参照する定義とすることにより、実務対応報告第10号の適用対象が開発時において想定されていなかった種類株式に拡大することとなる。 3 適用時期等 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する。 2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式のうち、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の前連結会計年度及び前事業年度の末日において保有する種類株式については、次のいずれかの方法を選択できる。 (了)
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《速報解説》 ASBJが「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」の公開草案を公表~いわゆる“バーチャルPPA”に関する会計上の取扱いを規定~
《速報解説》 ASBJが「非化石価値の特定の購入取引における 需要家の会計処理に関する当面の取扱い」の公開草案を公表 ~いわゆる“バーチャルPPA”に関する会計上の取扱いを規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年3月11日、企業会計基準委員会は、「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第70号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆるバーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement)(バーチャルPPA)に関する会計上の取扱いを規定するものである、 意見募集期間は2025年5月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 範囲 非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売が想定されておらず、発電事業者から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうちおおむね次の特徴を有するものに適用する(2項)。 「需要家」とは、2項に掲げる特徴を有する契約を締結する者のうち、非化石価値を自己使用目的で購入する者をいう(3項(2))。 2 非化石価値を受け取る権利及び対価の支払義務に関する会計処理等 次のように会計処理する(4項~6項)。 Ⅲ 適用時期等 20XX年4月1日[2026年4月1日を想定している]以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本実務対応報告を適用することができる。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)
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《速報解説》 国税庁、「インボイスの取扱いに関するご質問」を公表~記載事項をHP上で公表する場合の取扱いなど含む計4問を示す~
《速報解説》 国税庁、「インボイスの取扱いに関するご質問」を公表 ~記載事項をHP上で公表する場合の取扱いなど含む計4問を示す~ 税理士 石川 幸恵 令和7年2月25日、国税庁はホームページ上で「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年2月25日更新)」を掲載し、「適格請求書の記載事項のインターネットでの公表(問Ⅳ)」を含む計4問を公表した。 今回公表された4問は次のとおり。 上記のうち、問Ⅳが株式会社や個人事業者など一般の事業者の実務に幅広く関係すると思われるため、問Ⅳから確認したい。 1 適格請求書の記載事項のインターネットでの公表(問Ⅳ) 記載事項の一部が省略された適格請求書であっても、適格請求書に記載されたURLにアクセスすることで省略事項が補完される(下図を参照)のであれば、適正な適格請求書として取り扱えることが示された。 (※) 国税庁「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年2月25日更新)」問Ⅳより抜粋 ホームページにアクセスすることで、適格請求書の発行事業者の氏名又は名称及び登録番号、税率(上図は適格簡易請求書として消費税額不要)を確認することができる。 (1) 買手が適格請求書を確認する際のポイント 「領収書には登録番号が記載されていないが、企業名を検索してホームページを見ればわかる」だけでは不十分であり、領収書にURLが記載されているなどの関連付けが必要である。 売手が下記(2)のポイントを満たしている限り、買手は該当のホームページをダウンロードして保存する必要はない。 (2) 売手のポイント 適格請求書に関する情報のページを、各税法に定められた保存期間が満了するまで随時確認可能な状態で提供を続ける必要がある。 青色申告法人の欠損金が生じた事業年度については、帳簿書類の保存期間が「事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日から10年(法法59②、法規26の3)」とされていることを考慮すると、URL等を変更せず、可能な限り恒久的に掲載し続けることが望ましい。 2 現金主義を適用する事業者における仕入税額控除のタイミング(問Ⅰ) 現金主義の特例の適用を受ける個人事業者は、支出した日の属する課税期間において仕入税額控除を受けることができる。支出した日の属する課税期間において適格請求書の交付を受けられなかった場合でも、事後的に交付される適格請求書を保存すれば差し支えない。 (1) 現金主義の特例の適用を受けられる事業者の要件 消費税の計算において現金主義の特例の適用を受けられるのは、所得税における現金主義の規定の適用を受ける個人事業者に限られる(消法18)。所得税法では次のような要件を定めており、自らの判断で現金主義とすることはできない点に注意されたい。 (2) 金額に変動があった場合 事後的に交付された適格請求書により仕入税額控除の額が変動した場合は、適格請求書の交付により確定した日の属する課税期間における課税仕入れに係る消費税額に加算又は減算する。 3 任意組合に関する取扱いの整理(問Ⅱ、Ⅲ) (1) 任意組合の構成員が帳簿へ記載すべき課税仕入れの相手方の氏名又は名称(問Ⅱ) 任意組合の構成員は帳簿の「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」に「幹事会社の名称及び幹事会社を経由して行った課税仕入れである旨」を記載すればよいことが示された。ただし、適格請求書発行事業者と適格請求書発行事業者以外の事業者からの仕入れがある場合には区別して記載することに注意されたい。 (2) 任意組合の組合員のうち事業の損益の配賦を受けない者の取扱い(問Ⅲ) 問Ⅲでは世界中に組合員が存在している任意組合の取扱いについて整理している。 任意組合等が事業として行う資産の譲渡等について適格請求書を交付するためには、次のような要件がある。 問Ⅲでは、組合員のうち日本で課税資産の譲渡等を行っておらず、日本における事業の損益の配賦を直接又は間接にも受けない者がいる場合には、その組合員については任意組合員等の届出書の対象としなくても差し支えないことが示された。 (了) ↓お勧め連載記事↓
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プロフェッションジャーナル No.609が公開されました!~今週のお薦め記事~
2025年3月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.609を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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monthly TAX views -No.145-「「103万の壁」をめぐる議論を振り返る」
monthly TAX views -No.145- 「「103万の壁」をめぐる議論を振り返る」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 少数与党になった自公政権は、予算の年度内成立をめぐって政党間での政策協議を行ってきた。日本維新の会との間では教育無償化などの協議が整い、2025年度予算案の修正で正式に合意した。一方、国民民主党とは所得税の「103万円の壁」の引上げをめぐり協議が決裂した。本稿では、No.143に続き「103万円の壁」の問題について、改めて筆者の考えを述べてみたい。 * * * 国民民主党が若者を中心に支持を得たのは、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計である「103万円の壁」を崩し「手取りを増やす」という公約の存在が大きい。最初はパート主婦を念頭に置いた話で、配偶者控除が103万円であった時代の逆転現象はすでに解決済みということに同党は気が付いた。 そこで大学生アルバイト(特定扶養控除)の話に比重が移った。自公との協議でこれの手当てがなされると、今度は「生存権」の話を展開した。憲法25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は生活保護と深く関連しているが、基礎控除と連動しているという議論は政府税制調査会でも行われていない。 国民民主党は、このように論点をずらしてきたように思われる。そして自公との協議で「バナナのたたき売り」が行われたのだが、彼らの賛同は得られず、中途半端で複雑な所得税制だけが残ってしまった。 そもそも国民民主党の最初の主張から考えてみたい。 与党・財務省がこだわったのは財源の問題だ。国民民主党の主張する基礎控除103万円から178万円へ75万円の引上げは、機械的計算で7~8兆円の減収を招く。これは納税者数のブラケットごとに単純計算して減収額を積み上げたもので、減税の経済効果まで見込んだものではない。 なぜ国民民主党は財源としての代替案を提示しなかったのか、筆者には不思議に思える。もう1つの壁である「1億円の壁」、つまり金融所得税制の見直しで数千億単位の財源を見つけることは可能なはずだ。玉木代表が一度ネットテレビで金融所得税制に触れた際には多くの反対が寄せられ、このテーマから早々に手を引いたようである。しかし、わが国で総資産1億円を超える人は全世帯の約2.7%ほどであり、国民民主党の支持者においても金融所得を含め1億円の申告所得を得ている者は限られると思われる。最後まで財源提示なし、所得制限なしの無責任な対応だったのではないだろうか。 わが国の財政赤字は国債で賄われているわけだが、国債マーケットを見ると日本銀行が金融政策正常化を進め、国債買入れ予定額を毎四半期0.4兆円程度減額しつつある状況で、国債を買ってくれる投資家は先細りつつある。すでに昨年末には1.1%だった10年債の金利は、2月20日には1.4%を超える水準になっている。7~8兆円の恒久財源を失うことになれば金利は更に上昇し、国民生活に大きな影響を与えたであろう。 筆者が問題と考えるのは税制のあり方だ。所得控除を拡大することは、高所得者の減税が多くなる(これを逆累進性と呼ぶ学者もいる)という点で、格差拡大の方向に働く。インフレ調整分の引上げの必要性は認められるが、それを超えての所得控除の大幅な引上げは所得再分配に逆行する。 この点を、先進諸外国の所得税制を参考に考えてみたい。 米国や英国では、人的控除や基礎控除の控除額に一定の上限を設け、所得の増加に応じて控除額を逓減・消失させる仕組みを採用している。わが国もこの例に習い、2018年度税制改正で、基礎控除について所得金額2,400万円から逓減し2,500万円で消失する制度を導入した。 カナダでは、低所得者部分について所得控除を税額控除して負担を軽減している。ドイツ、フランスでは、同様のことを課税所得の一部にゼロ税率を適用して行っている。所得控除という累進機能・所得再分配機能を強化するため、基礎控除などには所得制限がついているのである。 このことについては、平成27年11月の税制調査会答申「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」の7~8頁に詳しく記載されている。 今回の103万円の壁の問題は、現行の所得控除は維持しつつ、カナダ型の税額控除を導入すれば、壁が右に移動する一方で、高所得者への課税(税負担)は現行のままに維持できる。こちらの方が税制は簡素になるし、執行も容易なはずだ。 * * * 最後に、このような財政ポピュリズムが国民の支持を増やした背景は、アベノミクス以降社会保障の手薄なギグワーカーの増加など中間層が二極分化し格差問題が深刻化していることや、わが国の社会保障が高齢者に手厚く偏るというシルバー民主主義への若者世代の抵抗がある。 前者については、リスキリングなど人的資本向上とセットでの低所得者へのセーフティネットの拡充を行うことが必要だ。 後者については、医療・介護保険における金融所得や金融資産の勘案、医療・介護の3割負担(「現役並み所得」)の判断基準の見直しなどの対応を進め、社会保険料負担の基準に資産や資産所得も含めることなど応能負担の徹底を進めていく必要がある。 (了)
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金融・投資商品の税務Q&A 【Q91】「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」
金融・投資商品の税務Q&A 【Q91】 「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 導入の背景 所得税は累進課税により所得水準が高くなるほど負担が大きくなることが知られていますが、累進課税が適用される総合課税の対象とならず、分離課税の対象となる株式の譲渡による所得などを多額に有するような高所得者層にあっては、結果として所得に対する税負担率が累進税率と比較して低くなる傾向があります。いわゆる、「1億円の壁」といわれる問題です。 これに対応して税負担の公平性を確保する観点から、令和7年分の所得税より、概ね30億円を超える所得水準の個人に対して、最低限の負担を求める措置(特定の基準所得金額の課税の特例)が導入されました。 2 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の概要 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置とは、その年分の基準所得金額が3億3,000万円を超える個人について、その超える部分の金額の22.5%に相当する金額からその年分の基準所得税額を控除した金額に相当する所得税を課すという制度です。この22.5%は、累進税率による最高税率である45%の2分の1が根拠であるとされています。 基準所得金額とは、所得税法第2条第1項第30号で規定される「合計所得金額」と異なり、制度の潜脱を防ぐことを目的として、確定申告を要しない上場株式等の配当等に係る配当所得等及び源泉徴収を選択した特定口座で保有することにより確定申告を要しない上場株式等の譲渡による譲渡所得等を含めて計算することとされています。 また、基準所得税額とは、本措置の適用がないものとして計算した所得税の税額をいいます。そして、本措置の適用によって上記の超過額に係る税額が生ずる場合は、基準所得金額の計算をする際に適用しないこととした上場株式等の配当等や譲渡所得等の特例(申告不要制度)は、確定申告の際にも適用されないことになります。 なお、復興特別所得税は本措置適用後の所得税を課税標準とすることとなりますが、住民税は所得金額が課税標準となるため本措置の影響は受けないこととなります。 3 本件へのあてはめ 非上場株式の譲渡に係る譲渡益は、一般株式等に係る事業所得、雑所得及び譲渡所得として、申告分離課税の対象となり、適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。 したがって、令和7年以降に、経営する会社の株式をファンドに譲渡して譲渡益が生じるときは、当該譲渡益に対して20.315%の税負担となると考えられます。しかしながら、その譲渡した年分の課税所得の状況によっては、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置が適用される可能性があります。 具体的には、役員報酬、株式の譲渡益などすべての所得を合計した基準所得金額から3億3,000万円を控除した金額に22.5%を乗じて計算した金額が、本措置の適用がないものとして計算した所得税額(基準所得税額)を上回るかどうかを確認し、上回る場合には、確定申告により当該上回る部分に係る税額を納付する必要があります。 なお、株式の譲渡益など分離課税の対象となる所得の割合が高くなく、総合課税の対象となる所得(役員報酬など)が多い場合は、そもそも累進税率の適用により22.5%よりも高い税負担となりますので、本措置の対象にはならないと考えられます。 (了)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例72】「事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性」
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例72】 「事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関東地方のある県庁所在地に隣接する市に本社を置き自動車部品等製造業を営む株式会社X(資本金20億円で3月決算法人)において、経理部長を務めております。 わが国の経済は戦後一貫して製造業が牽引してきたものと考えられますが、バブル崩壊後の失われた30余年を経過する中で、それにもだいぶ陰りが見えてきたのは、至極残念なところです。その中でも、世界に名だたるトヨタをはじめとするわが国の自動車メーカー各社は、今でも比較的好業績を維持しており、わが社もその恩恵にあずかっているところですが、将来展望は必ずしも明るくありません。 その原因の1つはEV化の波が一気に押し寄せて、アメリカのテスラや中国のBYDといった新興メーカーが市場を席巻しているという点です。日本の自動車メーカーの強みは次世代自動車の中のハイブリッド車や燃料電池車で、EV市場では正直出遅れていますが、今後EV化が一気に進むのかについては、まだ予断を許さないと考えております。 もう1つは、アメリカにおいて第二次トランプ政権が誕生したことです。ご承知の通り、トランプ大統領は予測不可能な言動を繰り返し、諸外国との軋轢をいとわず取引(ディール)により主張を通そうとします。その際活用するのは関税で、わが国の自動車業界は追加関税の発動によりどれほどの悪影響を被るのか、戦々恐々としています。 さて、そのような国際情勢の中、先週より税務調査を受けておりますが、役員給与について問題となっております。すなわち、わが社の場合、役員に対しても従業員と同様に賞与を支払うため、事前確定届出給与によりその支払った役員給与につき損金算入しています。 ところが、調査官は事前確定届出給与の届出額と実際の支給額が異なるため、支払った金額の全額が損金不算入と主張しております。 確かに賞与の支給分につき一部届出額と異なる金額がありますが、それはあくまで未払分に過ぎず、遅れて支払ったものだから問題ないと思われます。また、届出通り実際に支払った金額さえも損金算入を認めないのは、どう考えてもやりすぎかと思いますが、税法上はどう考えるのが適切なのでしょうか、教えてください。 【A】 役員給与のうち事前確定届出給与については、仮に事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員給与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ「枠取り」をしておき、その後、届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額を操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨に反し、課税の公平を害することになりかねません。 そこで、臨時改定事由及び業績悪化改定事由に該当しない限り、その支給額全額が損金不算入となるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員給与の損金性 法人の役員は、法人に対して使用人とは異なる特殊な関係、すなわち使用人の場合のような雇用関係ではなく委任類似の関係(会社法330)に立っている。これが、法人税法上、役員給与が使用人に対する給与と異なる取扱いとされる根拠である。 伝統的に、わが国では、法人税法上、役員への報酬のうち賞与は損金不算入とされてきた(平成18年度改正前の法人税法)。これは、商法及び企業会計の取扱いにおいて役員賞与は利益の処分であると考えられていたことに基づくものである。しかし、商法から会社法が切り離されて立法されるときに、賞与を取締役の職務執行の対価であると位置づけられるようになる(会社法361①)など、役員賞与の取扱いに変動が生じることとなった。 このような動きの中で、法人税法における役員報酬や賞与の取扱いの「再考」が求められ、平成18年度の税制改正では、以下に掲げる3種類の「役員給与」については損金算入を認めるように整理されることとなった(法法34①)。 (2) 事前確定届出給与の損金性 上記(1)でみたとおり、平成18年度の税制改正で、役員給与として損金算入されることとなった類型の1つが、事前確定届出給与である。 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の「定め」に基づいて支給する給与(定期同額給与及び業績連動給与を除く)で、一定の届出期限までに所定の事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に届け出ることにより損金算入が認められる役員給与である(法法34①二)。事前確定届出給与を用いることにより、あらかじめ定められた役員報酬の一部を一定の時期(使用人に対する賞与と同時期等)に支給する賞与についても、損金算入が認められるというメリットがある(従来の役員賞与に該当する(※1))。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)403頁。 ところで、仮に、事前に届け出た役員給与の内容(金額)と実際に支給された内容(金額)とが異なる場合には、一般に事前確定届出給与には該当せず、損金算入も認められないものと考えられる(※2)。しかし、以下の事由が生じたときには、変更の届出を行うことにより損金算入が認められることとなる(※3)。 (※2) 年2回賞与を支払う旨事前に届け出たが、冬期分は届出通りであったものの、夏期分は届出分より少額だった場合において、その全額が損金に算入できないとされた裁判例(東京地裁平成24年10月9日判決・訟月59巻12号3182頁、控訴審東京高裁平成25年3月14日・訟月59巻12号3217頁も同旨)がある。 (※3) さらに宥恕規定がある(法令69⑦)。 (3) 事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、事前確定届出給与の届出額と支給額が異なるときの損金性が争われた事例(東京地裁令和6年2月21日判決・TAINSコード:Z888-2700)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、原告が原告代表者らに対して支払った本件事業年度の賞与につき、法人税法第34条第1項第2号イ所定の給与(以下「事前確定届出給与」という)に該当するとして、本件事業年度における原告の法人税に係る所得の金額の計算上、上記賞与の金額を損金の額に算入して法人税の確定申告等をしたところ、処分行政庁から、本件各支給給与額は原告が法人税法第34条第1項第2号イ及び法人税法施行令第69条第4項第1号に基づいて届け出た金額と異なることなどから、上記賞与は事前確定届出給与に当たらず、本件各支給給与額は損金の額に算入されないなどとして、本件各処分を受けたため、本件各処分の取消しを求めた事案である。 役員給与の支払い等に関する事実関係は以下のとおりである。 ② 事案の争点 本件の主たる争点は、本件各支給給与額は損金の額に算入されないとしてされた本件法人税更正処分の適法性であり、より具体的には、本件各支給給与の事前確定届出給与(法法34①二)該当性である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴され係属中である。 ④ 本裁判例から学ぶこと 前述(2)の通り、事前に届け出た役員給与の内容(金額)と実際に支給された内容(金額)とが異なる場合には、一般に事前確定届出給与には該当せず、損金算入も認められないものと考えられる。それでは、例えば、冬の賞与につき未払計上した場合、形式的には事前確定届出給与に関する定めの通り支給したことにはならないが、損金算入もできないといえるのであろうか。これについては、役員給与が未払いとなった経緯が判断のポイントとなるものと考えられる。 すなわち、例えば、支給額を(実際に支払う予定の金額より)高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことで、あらかじめ損金算入額の「枠取り」をしておき、その後、利益の出具合や資金繰りにより届出通り支給するかどうかを調整するようなケースにおいては、裁判所が言うように「損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」ことから、損金算入を認めるような合理性に乏しいといえる。他方で、取引先の倒産により資金繰りが大幅に悪化し、従業員の賞与の支払いを優先して役員への支給を遅らせ、その分をいったん未払計上するといったケースにおいては、客観的に見てやむを得ない事情であると考えられ、資金繰りの都合がついたタイミングで実際に支給していれば、損金算入が認められる余地があるものと考えられる。 本件はそもそも未支給の差額分を未払計上しておらず、また、変更後の定めの内容に関する届出(法令69⑤)も行っていないことから、裁判所が判断する通り、損金算入が認められることはないものと考えられる。 (4) 本件へのあてはめ 役員給与のうち事前確定届出給与については、仮に事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員給与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、支給額を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ「枠取り」をしておき、その後、届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額を操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨に反し、課税の公平を害することになりかねないところである。 したがって、臨時改定事由及び業績悪化改定事由に該当しその旨の届出を行わない限り、その支給額全額が損金不算入となるものと考えられる。 (了)
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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第50回】「国外関連者に対する寄附金」
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第50回】 「国外関連者に対する寄附金」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 法人税法37条の寄附金規定と移転価格税制はどちらが優先して適用されるのでしょうか。 〔A〕 寄附金の額に該当する場合には、まず、法人税法37条の規定の適用があるものとして取り扱い、寄附金の額に該当しないものについては、移転価格税制上損金算入させないという条文構造とされています。 ●●●〔解説〕●●● 1 国外関連者に対する寄附金と移転価格税制 (1) 国外関連者に対する資産の贈与又は経済的利益の無償の供与 法人が資本等取引以外の取引を行った場合には、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引に係る収益の額を益金の額に算入することとされている(法法 22②)。このため、法人が国外関連者に対して資産の販売や金銭の貸付け、役務の提供等を行ったにもかかわらず、収益の額とすべき金額の計上がない場合には、租税特別措置法(以下「措置法」という) 66条の4第3項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなるか、あるいは移転価格税制に基づく課税の対象となるかについて検討し、適切に処理を行う必要がある。 すなわち、法人が国外関連者との取引に係る収益を計上していない場合において、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められるときには、当該法人が収益として計上すべき金額は国外関連者に対する寄附金となり、措置法66の4第3項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなる(事務運営指針3-20イ)(※1)。 (※1) 国税庁「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」【事例28】114~116頁 さらに、上記移転価格の事務運営指針3-20は、当事者間で対価の支払があるものについても措置法66条の4第3項の規定が適用される場合として、次に掲げるロ及びハの事実を挙げている。 なお、「法人が国外関連者に対して財政上の支援等を行う目的で国外関連取引に係る取引価格の設定、変更等を行っている場合において、当該支援等に基本通達9-4-2(※2)の相当な理由があるときは、措置法第66条の4第3項の規定の適用がないことに留意する」こととされている(事務運営指針3-20(注))。 (※2) 子会社等を再建する場合の無利息貸付け等について相当の理由があると認められるときは、当該経済的利益の額につき寄附金の額に該当しないと規定されている。 (2) 寄附金規定と移転価格税制の関係 措置法66条の4第4項は、国外関係取引の対価の額と当該国外関連取引に係る「独立企業間価格との差額(寄附金の額に該当するものを除く。)は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に該当しない。」と規定し、括弧書きの記載で、寄附金の額に該当する場合には、まず、法人税法37条の規定の適用があるものとして取り扱い、寄附金の額に該当しないものについては、移転価格税制上損金算入させないという条文構造になっている(※3)。すなわち「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められない場合には、当該取引は移転価格税制に基づく課税の対象として取り扱うこととなることになる(※4)。 (※3) 藤枝純=角田伸広『移転価格税制の実務詳解』(中央経済社・2017年)128頁は、「条文上は、国外関連取引についてまず寄附金課税の適用の有無を検討し、その適用が認められない場合に初めて移転価格税制の適用の有無を検討するものと理論的に整理できます。但し、上記法人税法37条8項の寄附金課税の適用の有無は『実質的に』贈与(寄附)したと認められるか否かによるので、実務上は、その適用の場面と移転価格税制の適用場面の区分は必ずしも明確ではないように思われます。」と述べている。同様の指摘として、増井良啓=宮崎裕子『国際租税法[第4版]』(東京大学出版会・2019年)243頁は「取引の対価の一部が寄附金かもしれないという場合には、独立企業間価格の決定がなかなか一義的にはできないことも相俟って、法人税法37条の7項、8項と租税特別措置法66条の4(特に3項)との関係をめぐって、実務上は非常に困った問題が起きることもある。」と述べている。 (※4) 前掲(※1)参照 なお、法人及び国外関連者が、国外関連取引に係る取引時の価格を事後的に変更、確定等して国外関連取引に係る対価の額を遡及して調整し、当該調整に係る金額を価格調整金等の名目で授受、又は当該国外関連取引に係る費用、収益等として計上することがある。かかる価格調整金等についても、それが合理的でないと判断されるときには、措置法66条の4第3項の規定の適用があり得る。具体的には上記参考事例集の【事例29】(※5)を参照されたい。 (※5) 前掲(※1)117~119頁 以下では、措置法66条の4第3項適用の有無が問題となった、寄附金課税事件を取り上げる。 2 過去の裁判例 《【第一審】東京地裁平成21年7月29日判決(税資第259号-139(順号11252))》(※6) 《【控訴審】東京高裁平成22年3月25日判決(税資第260号-49(順号11405))(確定)》(※7) (※6) TAINSコード:Z259-11252 (※7) TAINSコード:Z260-11405 (1) 事件の概要 本件は、内国法人X(原告・控訴人)が、オランダ法人C社に対する貸付債権のうち約238億円を放棄し、この金額を「子会社株式整理損」として損金に算入したのに対し、所轄税務署長が、上記債権放棄の額は、国外関連者に対する寄附金に該当するから損金算入は認められないとして更正処分等をした事案である。Xはこれを不服として東京地裁に提訴した。 C社はXの元代表者乙が全額出資する外国法人であり(※8)、C社が外部の金融機関から融資(以下「本件各借入れ」という)を受けた自動車レース(以下「本件F1事業」という)のための資金について、Xが債務保証し、X所有の株式を同金融機関に差し入れた(以下「本件各担保提供」という)ところ、当該株式の株価が下落したため、同金融機関から担保の追加を求められた。そこでXは、所有株式を売却する等して資金を調達し、C社に金銭を貸し付けた(以下「本件各資金提供」という)が、当該貸付を含むXのC社に対する債権が回収不能になったとして、C社のXに対するすべての債務の弁済を免除することを合意し(以下「本件債権放棄」という)、その回収不能とされた額を損金の額に算入した上で確定申告をした。 (※8) 国側Yの主張によれば、XとC社との間には資本関係はなく、C社は乙個人がF1事業を行うために設立した法人である一方で、Xが、F1事業に関して受領することができる経済的利益は、債務保証契約に基づく債務保証手数料のみであったとのことである。 (2) 主な争点 本件各資金提供又は本件債権放棄により給付又は供与された金銭その他の資産又は経済的利益が措置法66条の4第3項及び旧法人税法37条6項(現同条7項)に定める「寄附金」に該当するか否か(他の争点は省略)。 (3) 当事者の主張の要旨 ① Yの主張 Xは、本件各担保提供の時点で、本件F1事業が失敗し、C社の債務を終局的に肩代わりすることを想定しており、Xが貸付けの形で本件各資金提供を行い、その後本件債権放棄をしたことは、実質的にみれば、C社の債務を無償で引き受けたか、又はC社に対して利益供与若しくは贈与をしたものと同視することができ、通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しないから、本件各資金提供に係る金銭は、「寄附金」に該当する。 ② Xの主張 本件では、本件各担保提供当時、C社に対する求償権の行使がC社の無資力のために不能となるか又は著しく困難となる危険が客観的に予測されていたとはいえない。また、債権放棄については、C社からの回収が明らかに不可能であったため免除することとして、本件債権放棄をしたものであり、債権回収の可能性があるにもかかわらずあえて債権放棄をしたものではない。よって、本件各資金提供による貸付けに係る金銭及び本件債権放棄による経済的利益が「寄附金」に該当するか否かが問題になり得るとしても、本件においては、上記「寄附金」に該当しない。 (4) 裁判所の判断 本件第一審の東京地裁は以下のように判示した。 ① 法令解釈 ② 認定事実及び当てはめ ➤C社の国外関連者該当性について ➤「寄附金」該当性について Xは上記判決を不服として控訴したが、控訴審である東京高裁は原審を支持し、本件は確定した。 3 検討 移転価格税制と寄附金課税の適用関係が問題となる場合、そもそも、取引価格が観念できるか否かで検討すべきという指摘がある(※9)。本件では、様々な認定事実から、C社に対し、贈与又は無償の利益供与を行う合理的理由が説明できないため、取引価格が観念できず、結果的に措置法66条の4第3項を適用して請求棄却に至ったものと思われる。 (※9) 木村浩之編著、野田秀樹=佐藤修二著『対話でわかる国際租税判例』(中央経済社・2022年)123頁は、「国外関連者に対する寄附金課税が問題となるのは、みなし規定(引用者注:移転価格税制は、国外関連者との間の取引価格を独立企業間価格であると『みなす』規定であるという意味)が適用されない場合、すなわち、本件のような資金提供(金銭の贈与)や債権放棄(債務免除)がなされる場合など、独立企業間においても取引価格(取引の対価性)がおよそ観念できない場合に限定されるというべきである。」と述べている。 ところで、移転価格税制と寄附金課税のどちらを適用するかにより、いずれかの制度適用の結果生ずる国際的な二重課税の救済方法に関する議論が提起され得る。すなわち、前者によれば、租税条約に基づく相互協議により救済の途が開かれているのに対し、後者については、あくまで日本の租税政策として設けられている損金算入制限に過ぎず、同じような経済的二重課税が生じているにもかかわらず、相互協議の俎上に載せられないのではないかという懸念である。これに対しては、租税条約上の相互協議の対象にするという実務上の取扱いを確立すべきという意見(※10)や、租税条約上の関連企業条項(OECDモデル租税条約9条参照)の適用対象であり、相互協議の対象になると解することが相当という見解(※11)もある点指摘しておきたい。 (※10) 前掲(※3)129頁参照 (※11) 前掲(※9)126頁参照 (了)
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2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】
2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第1回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅰ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 有価証券報告書作成において留意すべき「企業内容等の開示関する内閣府令」等の改正が、以下のとおり行われている。 1 重要な契約の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正 2023年12月22日に金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「内閣府令」という)等の改正が公表され、諸外国に比べて「重要な契約」に関する開示が不足していると考えられていたことから、有価証券報告書への「重要な契約」等の開示について改正が行われた。 (1) タイトルの変更 有価証券報告書及び有価証券届出書(以下、「有価証券報告書等」という)について、現行は、「経営上の重要な契約等」というタイトルで重要な契約について記載していたが、改正後は「重要な契約等」にタイトルが変わる。 (2) 開示内容の追加 有価証券報告書等の「重要な契約等」に、以下①から③の開示が必要となる。 ① 企業・株主間のガバナンスに関する合意 ② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 ③ ローン契約と社債に付される財務上の特約 (※1) 法的拘束力を有する合意が開示対象となるため、口頭の合意であっても、法的拘束力を有する場合には、開示の対象になる(「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、「コメント対応」という)6)。 (※2) 一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきである。例えば、合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいものや、事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているなど、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当する(コメント対応13~17)。 (※3) 記載すべき事項の全部又は一部を他の箇所において記載した場合には、その旨を記載することによって、他の箇所において記載した事項の記載を省略することができる(内閣府令 第二号様式 記載上の注意(以下、「記載上の注意」という)(33)f,g,h)。 (※4) 法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらない(コメント対応21)。 (※5) 保有株式の譲渡に関する制限は、株主に一方的に不利になりうるため、これが単独で合意されるのではなく、当該合意に付随又は関連して他に取り決めが行われていることがある。ここで、保有株式の譲渡制限等に関する合意に付随し又は関連してされている合意を常に開示することまでは求められていない。しかし、必要に応じて、当該合意に関する開示事項(合意の目的等)の中で付随する合意に開示することが考えられるほか、付随する合意自体が提出会社にとって重要な契約等である場合には、記載上の注意(33)aに基づいて開示を行う必要がある(コメント対応50)。 (※6) 提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができない事由が生じたことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約に限る(内閣府令19⑳)。 (※7) 純資産額維持や利益維持等、財務指標の維持を目的としその抵触時の効果が期限の利益を喪失するものについては「財務上の特約」に該当するが、財務指標の維持を目的とするものではない、配当制限や担保提供制限といった財務制限条項やレポーティング・コベナンツそれ自体については、「財務上の特約」に該当しない(コメント対応72)。 (※8) コベナンツ抵触時の効果が期限の利益を喪失するものでなく、利率の引上げ等に留まる場合には、「財務上の特約」には該当しない(コメント対応72)。 (※9) 「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には、特定融資枠契約(一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約)は含まれない(「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下、「ガイドライン」という)5-17-2、コメント対応80)。 (※10) 特定融資枠契約(コミットメントライン)は、「財務上の特約が付された金銭消費貸借契約」には含まれず、同契約に基づいて、実際に資金の借入れを行った場合、当該借入額が一定の基準を超えるときに臨時報告書を提出する必要がある(コメント対応80)。 (※11) 属性の具体的な記載方法としては、「個人」や「事業会社」のほか、金融機関については、金融庁のホームページに掲載されている免許の区分に応じ、都市銀行、地方銀行等といった記載を行うことが考えられる。なお、個社名を開示することも可能である(コメント対応94、95)。 (※12) 「担保の内容」は、財務諸表の担保付資産の注記等を参考に具体的な記載を行うことが考えられる(コメント対応96)。 (※13) 「特約の内容」は、抵触事由の基準となる財務指標の内容やその値、財務上の特約に抵触した際の効果等を記載することが考えられる(コメント対応96)。なお、投資者の理解を損なわない程度に要約して記載することも可能である(ガイドライン5-17-4)。 (3) 臨時報告書の提出事由の追加 以下のとおり、臨時報告書の提出事由が追加されている(内閣府令19)。 (※14) 期限の利益を喪失する旨の特約を解除するために担保権を設定した場合には、財務上の特約の内容に変更があった場合として、臨時報告書の提出が必要になる(コメント対応80)。 (※15) 金銭消費貸借契約の終了又は社債の償還があった場合には臨時報告書の提出は不要であるが、金銭消費貸借契約の弁済期限変更や社債の償還期限の変更があった場合には、臨時報告書の提出が必要となる。また、金銭消費貸借契約や社債に付された財務上の特約を削除する場合は、財務上の特約の内容の変更として、臨時報告書の提出が必要となる(コメント対応104、110)。 (4) 適用時期 ① 有価証券報告書等 上記(1)及び(2)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則3①②)。 ② 臨時報告書 上記(3)の適用時期は、以下のとおりである(内閣府令附則2①②)。 2 政策保有株式の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正 金融庁は、有価証券報告書の「株式の保有状況」の開示のうち、いわゆる政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているとの課題を識別した。そのため、純投資へ保有目的を変更した株式について、透明性を確保するための改正が行われた。 (1) 改正内容 当事業年度を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る)について、以下を開示する(記載上の注意(58)f)。言い換えると、政策保有目的から純投資目的に変更した株式については、5年間以下の開示が必要となる。 また、開示内容の改正前と改正後は以下のとおりである。 (※1) 保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更した後、当該銘柄について買い増しした株式は、開示対象に含まれない(コメント対応12)。 (※2) 売却を行う方針である株式については、売却予定時期を明示することが考えられる。それが困難である場合、売却を実現する際の考慮要素など、売却の時期に関する会社の考え方を具体的に記載することが考えられる(コメント対応13~15)。 また、従来、「純投資目的」の考え方について、具体的な規定はなかったが、以下のとおり、明確化されている。 (2) 適用時期 2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。 したがって、2025年3月期の有価証券報告書においては、2021年3月期以降に保有目的を変更した株式が開示対象となる。 Ⅱ 未適用の会計基準等の注記 2024年9月に「リースに関する会計基準」及び「リースに関する会計基準の適用指針」等が公表されている。 当該基準等は、多くの会社にとって相当程度の影響がある基準であると考えられるため、有価証券報告書では「未適用の会計基準等に関する注記」の記載を検討する必要がある(税務諸表等規則8の3の3、連結財務諸表規則14の4)。 なお、計算書類においては、会社計算規則上、必ずしも注記は求められていない。 なお、連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表において注記する必要はない。 【事例:(株)ネクステージ 2024年11月期有価証券報告書】 (了)