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《速報解説》 会計士協会、J-SOXの改訂等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書を公表~全社的な内部統制評価の適切な見直しが行われているかの確認の重要性に言及~

《速報解説》 会計士協会、J-SOXの改訂等を受けた 内部統制監査上の留意事項に関する周知文書を公表 ~全社的な内部統制評価の適切な見直しが行われているかの確認の重要性に言及~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年9月28日、日本公認会計士協会は、財務報告内部統制監査基準報告書第1号周知文書第1号「「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月)等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書」を公表した。 周知文書は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)などの改訂内部統制基準及び内部統制実施基準等に基づく内部統制監査業務を実施するに当たって、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資するために公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 内部統制の基本的枠組みの改訂 内部統制の目的と基本的要素が、企業を取り巻く環境の変化に合わせて改訂されたほか、経営者による内部統制の無効化に関する記載の追加などが行われている。   Ⅲ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告の改訂 経営者による内部統制の評価範囲の決定において、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すべきことが改めて強調されている。   Ⅳ 内部統制監査における留意事項 監査人は、改訂後の内部統制の基本的枠組みに準拠して、経営者が内部統制の整備及び運用並びに評価を行っているかについて留意する。 特に、全社的な内部統制の評価に当たっては、内部統制の基本的な要素ごとに例示されている42項目が広く実務に利用されているが、監査人は、これらの評価項目が今回の改訂を踏まえ、必要に応じて、適切に見直しが行われているかについて確認することが重要である。 また、経営者による内部統制の評価範囲の決定について、数値基準を機械的に適用すべきでないこと、トップ・ダウン型のリスク・アプローチの再確認が行われている。 特に、連結集団を構成する個々の会社単位で全社的な内部統制を評価することのみではなく、企業集団全体の観点から全社的な内部統制の整備及び運用状況の評価を適切に実施しているかという点についても留意する(親会社による子会社に対する管理体制など)。 (了)

#阿部 光成
2023/09/29

プロフェッションジャーナル No.537が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年9月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.537を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/09/28

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第30回】「誤還付「過納金」相当額の「納付」に係る延滞税の賦課と課税上の衡平」-延滞税不発生事件・最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第30回】 「誤還付「過納金」相当額の「納付」に係る延滞税の賦課と課税上の衡平」 -延滞税不発生事件・最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、納税義務の消滅原因(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【104】)の1つである還付金等の充当(同【116】)の前提として整理した還付金等の意義(同【115】)に関連して、過納金相当額の不当利得の返還を認めた判例を取り上げ検討したが、今回は還付金等のうち過納金の還付に関連して、「過納金」相当額の誤還付に伴う「納付」(いわば返納)に伴う延滞税の賦課が争われた事件において延滞税の納付義務の不存在を確認した最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(以下「本判決」という)を検討する。本判決には少数意見として千葉勝美裁判官の補足意見と小貫芳宣裁判官の意見が表示されている。 本件は、納税者(上告人ら)が相続税の期限内申告及び納付をした後で更正の請求をしたところ、所轄税務署長において、相続財産(土地)の評価の誤りを理由に減額更正をし、その減額分相当額を過納金として還付した後、自ら当該減額更正の内容を覆しこれに係る相続財産の評価の誤りを理由に増額更正を行い、これにより「新たに」納付すべきこととなった本税額につき、平成28年度税制改正前の国税通則法60条1項2号、2項及び61条1項1号に基づき、法定納期限の翌日から完納の日までの期間に係る延滞税の納付の催告をしたことから、納税者が国(被上告人)を相手に、上記の延滞税は発生していないとして、その納付義務がないことの確認を求めた事件である。 本件においては、期限内申告及び納付に基づく相続税額が誤った減額更正により過納金として還付された後、正しい増額更正がされ当該過納金相当額の納付に伴い延滞税の賦課が問題となったのであるが、そもそも、本件で還付された金額が過納金(納税義務の誤った確定に基づく納付であるが故に、当該租税の納付それ自体が、不適法である場合に、返還されるべき税額に相当する金額。前掲拙著【115】)といえるかどうかも検討すべき論点であるが、本判決はこの点は特に問題としていないものの、結論からみれば、本件における還付は法的根拠のない誤った金員の返還(誤還付)であったが故に、納税者による納付は有効に存続しており、延滞税を課すべき事由は存在しなかったことを認めたものと解することもできる(誤還付の問題については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第17回参照。前掲拙著【117】も参照)。 この点は措くとして、今回は、延滞税の不発生に関する論理構成を中心に本判決を検討することにするが、本判決については、以前、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第16回で検討したので、今回は、基本的にはそこでの検討を再録することとし、これに若干の加筆修正を施すにとどめた。そこでは、本判決の論理構成を目的論的限定解釈及び目的論的限定適用とみて検討したのであるが、その上で目的論的解釈の納税者に有利な「過形成」の観点から小貫芳宣裁判官の意見を支持した筆者の見解は今日でも変わっていない。 なお、「過形成」とは、そもそもは医学用語の「hyperplasia」の訳語で「細胞の増加による組織の過度の発育」(森岡恭彦総監訳『カラー図説 医学大事典』(朝倉書店・1985年)111頁)をいうが、ここでは、法創造を意味する法の継続形成(Rechtsfortbildung)をイメージしながら、租税法規の趣旨・目的という「細胞」の増加によって税法の解釈という「組織」が「過度の発育」を遂げて税法の解釈の許容限度を超えることを意味する言葉として、「過形成」という言葉を使用している(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)222-223頁[初出・2015年]参照)。   Ⅱ 多数意見の「目的論的限定解釈」に対する少数意見の立場 1 多数意見 本判決は、次のとおり判示して(下線筆者)、納税者の請求を認容した。 本判決については、「課税上の衡平」という法創造根拠理由に基づき納税者の個別的救済を図った判決として高く評価するものであり(前掲拙著『税法創造論』136頁[初出・2021年]。なお、「法創造根拠理由」の意味については同132頁注57参照)、本連載にいう「税法基本判例」の1つであると考えるところである。「衡平」については、「とくに法による正義の実現との関連では、衡平(equity)という観念が重要な位置を占め・・・・・・、実定法の一般的な準則をそのまま個別的事例に適用すると、実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果が生じる場合に、その法的準則の適用を制限ないし抑制する働きをする。」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)323頁)といわれている。 本判決の示した解釈(最後の下線部)については、千葉勝美裁判官が補足意見において、「この解釈は、法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もある」と述べているところである。ここでいわれる「目的論的限定解釈」について、本判決における少数意見では、以下で述べるように、2通りの異なる立場が示されている。 2 千葉勝美裁判官補足意見 千葉勝美裁判官は補足意見において、前記の引用部分に続けて、次のとおり述べている(下線筆者)。 ここで示された考え方は、多数意見において国税通則法60条1項2号の解釈(目的論的限定解釈)によって定立された延滞税不発生に係る規範を「例外的な事案」(千葉裁判官補足意見)に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を説き、もって多数意見の説得力を強めようとしたものと解される。 3 小貫芳宣裁判官意見 他方、小貫芳宣裁判官は意見において、まず、次のとおり述べ(下線筆者)、本件の事実関係に即して、国税通則法60条1項2号の規定について延滞税の発生要件の欠缺を認めている。 その上で、小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を、次のとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている(下線筆者)。 以上のように、小貫裁判官の意見は、結論の点では、多数意見と同じく、本件における延滞税の不発生を認めるものではあるが、その理由づけを、多数意見とは異なり、延滞税の発生要件の欠缺に見出すものであると解される。 この点に関し、千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもな」り、「延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。」という的確な指摘を行っている(下線筆者)。小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を問題にするが、その欠缺は、論理的には、千葉裁判官の上記の指摘のように、延滞税の発生要件に係る消極要件ないし適用除外要件の欠缺とみるべきであろう。そこで、以下では、小貫裁判官の意見にいう延滞税の発生要件の欠缺について、「延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺」という表現を用いることにする。 このように考えると、小貫裁判官の意見は、国税通則法60条1項2号の規定について、目的論的制限(teleologische Reduktion)という一種の法創造(法の継続形成)の方法によって消極要件ないし適用除外要件を創造し、本件においてこの要件の適用によって延滞税の不発生を結論づけたものであると解される。 目的論的制限とは、法の欠缺のうちいわゆる隠れた欠缺(verdeckte Lücke)すなわち適用除外規定の欠缺についての欠缺補充方法をいう(前掲拙著『税法基本講義』【46】。ほかに、広中俊雄『民法解釈方法に関する十二講』(有斐閣・1997年)64頁、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)特に第1章第2節参照)。これは、法の欠缺補充の方法であるが故に、狭義の法解釈(可能な語義の枠内での法解釈)とは区別される法創造ないし法の継続形成の領域に属するものであるが、法的思考方法の点では依然としてなお「解釈的」方法を用いるもの(「解釈的」方法による法創造。谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回Ⅱ参照)である。   Ⅲ 納税者に有利な「過形成」の許容性 1 目的論的限定適用と目的論的制限との異同 千葉裁判官の補足意見と小貫裁判官の意見とは、以上で検討してきたとおり、法解釈適用方法論の観点からすると、法の趣旨・目的を考慮する点では同じであるが、その内容や法的性格の点では、目的論的限定適用と目的論的制限として区別すべきものであると考えられる。このことは、以下でみるように、小貫裁判官の意見と多数意見との違いに関する千葉裁判官によるこれまた的確な整理の中から、読み取ることができる。 千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、前記のとおり「解釈により不文の消極要件を作ることにもなること」を指摘しているが、その前の文章では、次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、千葉裁判官は次のとおり述べている(下線筆者)。 他方、千葉裁判官は、多数意見について、次のとおり述べている(下線筆者)。 なお、この叙述からも、千葉裁判官が目的論的限定適用の観点から多数意見の説得力を強めようとしたことを読み取ることができよう。 千葉裁判官による以上の整理からすると、小貫裁判官の意見における目的論的制限は、「租税の画一性と大量処理の観点」から、延滞税の不発生の処理に関して、「全体的な影響」を及ぼすことになるという意味で、税法の目的論的解釈の「過形成」として性格づけることができるように思われる。もっとも、税法の目的論的解釈の「過形成」といっても、納税者に不利な「過形成」(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回、第10回~第15回参照)とは異なり、延滞税の不発生という納税者に有利な結果をもたらす「過形成」(納税者に有利な「過形成」)である。 2 延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺に対する立法的対応 では、千葉裁判官の補足意見(目的論的限定適用)と小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、いずれが妥当であろうか。 確かに、目的論的限定適用の方が、目的論的制限に比べて「全体的な影響が少なくて済む点」(千葉裁判官補足意見)で、個別事案の解決のための司法判断としては、妥当であるようにも思われる。 しかし、司法の役割は、個別事案の解決のみに尽きるのであろうか。いやむしろ、司法は、そのような役割に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。そうすることも、三権分立制の下での司法の役割であると考えるところである。 このように考えると、本件当時の延滞税規定(平成28年度税制改正前税通60条・61条)について延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を認め得るか否かあるいは認めるべきか否かが、小貫裁判官の意見の妥当性ないし目的論的制限の許容性を判断する上で、決定的な意味をもつように思われる。 小貫裁判官は、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を、前記Ⅱの3でみたとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている。これらのうち、②の観点は、千葉裁判官が補足意見において目的論的限定適用を理由づけるために依拠した観点(前記Ⅱの2参照)と基本的に同じものといってよかろう。 したがって、小貫裁判官が意見において延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺の存在を指摘するに当たって、決定的な意味をもったのは、前記の①の観点であると考えられる。この観点は、以下でみるとおり、延滞税の根本的な存在意義ないし終局的な趣旨・目的に照らして極めて重要であり、決して等閑視すべきものではない。 本判決においては、多数意見も少数意見も、延滞税の趣旨・目的を「期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すこと」(多数意見)として捉える点では、一致している。ただ、このような趣旨・目的は、いわば「中間的な趣旨・目的」であって、「終局的な趣旨・目的」は申告納税制度の適正な実施の確保にあるとみるべきである。 前記の①における法定期限内の納税の事実という「厳然として存在した」(小貫裁判官意見)事実を、延滞税の課税上なかったことにするとすれば、そのような「フィクション」(同)は、申告納税制度に対する納税者の信頼を大きく損ない、同制度の適正な実施を阻害することになるといっても過言ではなかろう(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第17回も参照)。 立法者としては、そのような事態が現実のものとなることは阻止しなければならない。その意味で、平成28年度税制改正における延滞税の計算期間等の見直し(税通61条2項。財務省「平成28年度税制改正の解説」867頁以下参照)は、適切な立法的対応といえよう。   Ⅳ おわりに 以上を要するに、小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、延滞税規定の目的論的限定解釈(多数意見)や目的論的限定適用(千葉裁判官補足意見)に比べ、本件における納税者の救済を図るにとどまらず、更に一歩踏み込んで、目的論的限定解釈の「過形成」によって、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を補充し、延滞税の発生要件を適正化し、もって申告納税制度の適正な実施を確保しようとしたものとして、妥当な考え方であるといえよう。 しかも、本判決は事例判決ではあるが、小貫裁判官の意見は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」が許される場合を明らかにしたものとして、より広い射程を有すると考えるところである。 (了)

#No. 537(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/09/28

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第31回】「〔第4表〕非経常的な利益金額の判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第31回】 「〔第4表〕非経常的な利益金額の判定」   税理士 柴田 健次   Q A社の類似業種比準価額の計算をする場合において、1株当たりの年利益金額の計算上、「非経常的な利益金額」は除外されていますが、次の❶から❸までの各項目は、「非経常的な利益金額」に該当することになりますか。 なお、A社は7月決算であり、課税時期は令和5年9月1日となります。 A ❶機械装置の売却益及び❷保険差益は、「非経常的な利益金額」に該当しませんが、❸雇用調整助成金は、「非経常的な利益金額」に該当することになります。  ◆  ◆  ◆ ① 「非経常的な利益金額」の取扱い 1株当たりの年利益金額を算定する場合には、法人税の課税所得金額から固定資産売却益、保険差益等の「非経常的な利益金額」を除くこととされています(評価通達183(2))。これは、類似業種比準価額を算出するときの比準要素である利益金額として、臨時偶発的に生じた収益力を排除し、評価会社の営む事業に基づく経常的な収益力を株式の価額に反映させるためのものと解されています。 あくまでも「非経常的な利益金額」を除外しているのみとなりますので、非経常的な損失の額は、反対に加算する必要はありません。例えば、死亡退職金9,000万円の損失と固定資産税売却益7,000万円がある場合には、これらを相殺し損失の額は2,000万円(9,000万円 - 7,000万円)となりますので、「非経常的な利益金額」は0となります。反対に死亡退職金7,000万円の損失と固定資産売却益9,000万円がある場合には、これらを相殺し利益の額は2,000万円(9,000万円 - 7,000万円)となりますので、「非経常的な利益金額」は2,000万円となります。 実務的には、損益計算書に記載されている営業外収益、特別利益、営業外費用及び特別損失に対応する勘定科目内訳明細の確認が必要となり、内容に不明点や確認事項があれば、会社の経理担当者等に確認する必要があります。   ② 「非経常的な利益金額」の判断 「非経常的な利益金額」に該当するかどうかについて争われた事例として、東京地裁令和元年5月14日判決(TAINSコード:Z269-13269)があります。納税者は、クレーン車売却益が「非経常的な利益金額」に該当すると主張したのに対し、東京地裁は、本件会社が行うクレーン事業に係る損益には、クレーン車のオペレーティングリース事業のほか、クレーン車売却による損益も経常的に含まれ、クレーン車の売却が一定の期間において反復継続的に行われていること、建設業法に規定する損益計算書や金融機関に提出する損益計算書においても「特別損益」ではなく「完成工事高」や「クレーン収入」として記載されていることなどを考慮して、実体的にも経常損益に該当すると判断し、クレーン車売却益は「非経常的な利益」に該当しないとして、納税者の主張を退けました。 東京地裁は、「非経常的な利益金額」の判断をどのように行うかについて、下記の通り判示しています。 (下線部は筆者による) したがって、①その利益が評価会社の事業の内容とどのように関係していたのか、②その利益が発生した原因は何か、③その利益は、反復継続的又は臨時偶発的であるのかを確認する必要があります。そしてこれらを総合勘案し、評価会社の経常的収益力を適切に株価に反映させるためにその利益を除外するべきかどうかを判断する必要があります。   ③ 本問の場合の当てはめ ❶ 機械装置の売却益 機械装置の売却益は金属製品製造業を営む上で発生し、特別償却をしたことに伴い発生しているため過去の減価償却との関係性があり、反復継続的に発生していることから、経常的な利益であると考えられ、「非経常的な利益金額」には該当しないと判断できます。 ❷ 保険差益 保険差益は、A社の事業とは直接関係はありませんが、A社の事業で生じた利益を圧縮する目的及び資産運用の目的で保険加入を行い、支払時に一部を損金として計上した結果、利益が発生しており、反復継続的に発生していることから、経常的な利益であると考えられ、「非経常的な利益金額」には該当しないと判断できます。 ❸ 雇用調整助成金 雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業等に要した費用を助成する制度となりますので、雇用を維持する上で、A社の事業と大きく関係があります。また、3年間継続して受け取っていた点を考慮すると反復継続的であると判断でき、経常的な利益であるとの考え方もあるかと思います。 ただし、雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)の経過措置は、令和5年3月31日をもって終了しており、また、新型コロナウイルス感染症の位置づけは、令和5年5月8日から「5類感染症」になりましたので、あくまでも臨時偶発的な利益であり、A社の事業に基づく経常的な収益力ではないと判断することが相当と考えられますので、「非経常的な利益金額」に該当すると判断できます。   ☆実務上のポイント☆ 勘定科目だけで「特別な利益金額」に該当するかどうかは判断できませんので、評価会社の事業の内容、その利益の発生原因、その利益が反復継続的又は臨時偶発的であるか否か等を総合勘案して判断する必要があります。 (了)

#No. 537(掲載号)
#柴田 健次
2023/09/28

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例126(所得税)】 「先代名義のままであった居住用家屋につき被相続人を経由せず直接相続人名義で登記したため、「空き家に係る3,000万円の特別控除」が適用できなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例126(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35③) 相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人が、その取得をした被相続人居住用家屋又はその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に譲渡し、次の要件に当てはまるときは、居住用財産を譲渡したものとみなして、3,000万円の特別控除の適用を受けることができる。なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、被相続人の居住用家屋に該当するものとして特例の適用を受けることができる。 〈適用要件〉 なお、次のいずれかに該当する場合には「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用は受けられない。 〈適用除外・・要件〉 ◆「被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした個人」の範囲(措通35-9) 「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人」とは、相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋と被相続人居住用家屋の敷地等の両方を取得した相続人に限られるから、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋のみ又は被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得した相続人は含まれない。 ◆税賠保険の免責事由 免責条項のうち主なものは以下になる。以下の事由によって生じた損害については、保険金支払いの対象にはならない。       (了)

#No. 537(掲載号)
#齋藤 和助
2023/09/28

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第26回】「上村工業第一事件-残余利益分割法が適用された事例-(地判平29.11.24、高判令1.7.9、最判令2.3.20)(その2)」~租税特別措置法66条の4第2項ほか~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第26回】 「上村工業第一事件 -残余利益分割法が適用された事例- (地判平29.11.24、高判令1.7.9、最判令2.3.20)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第2項ほか~   税理士・特定社会保険労務士 森田 國弘     《論点2:「同種」の問題》 次にK社取引及びP社取引が比較対象となるかの条件として、T社取引及びU社取引と、K社取引及びP社取引が「同種」及び「同様の状況」にあるかが問題となり、争われた。まず、「同種」についての両者の主張は主に次のとおりである。 ① 当事者の主張 Xは、「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって、T社及びU社へ提供されたノウハウもK社及びP社へ提供されたノウハウも製品種類が同じであれば、使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし、製品種類が異なっても、ロイヤリティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえるのであって、T社ライセンス取引の対象とされているノウハウは、K社及びP社ライセンス取引の対象とされているノウハウと同様に、めっき薬品の製造に係るノウハウであり、種類を同じくする製品を対象とするものであり、その対価に影響を与えるような差異もないから、「同種」の無形資産の取引といえると一審で主張した。 また、Xは二審において、めっき薬品については、その製造ノウハウは複数の原料を一定の比率で投入し攪拌することにあり、また、同一の設備で製造が可能であり、別のめっき薬品の製造に際して大きな追加投資やリスク負担は生じない。したがって、それぞれの取引は「同種」の要件を満たす、と主張した。 Yは、棚卸資産について「同種」と認められるためには、性状、構造、機能等の面で相当程度の類似性が必要であり、無形資産についても同様であり、取引の形態、無形資産の種類、保護の期間と程度、その無形資産によって期待される利益の程度を考慮して判断すべきであると主張した。 まず、無形資産の使用許諾の対象製品の種類別で比較すると、T社取引、U社取引とK社取引、P社取引とでは、そもそも使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるから、使用を許諾した無形資産が「同種」といえないことは明らかであり、使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえない。 次に、用途別に見ると、T社では、PWB(プリント配線板)関連が圧倒的に多く、汎用がわずかであるのに対し、K社では、汎用がPWB関連を大幅に上回っている。同種のめっき薬品であっても、用途が異なれば、それに伴う製造プロセスや品質管理、必要な技術フォロー体制の場面でも差異が生じ、各契約における価格決定等にも当然違いをもたらすから、この観点からも使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえない。 また、役務提供の内容について見ても、T社取引においては、無電解金めっき液を使用しためっき工程についての技術助言、ユーザー対応等のために、緊急の要請に応えた臨時の出張も行うなど頻繁に出張がされているのに対して、K社及びP社に対する役務提供はそのような内容ではなく、「同種」であるとはいえないと一審で主張した。 ② 判決 一審判決では、地裁はYの主張をほぼ認め、使用許諾の対象製品の種類に明確な差異が存在すること、用途についても差異が存在していること、役務提供についても頻度及び程度に相当程度の差異が認められるところから「同種」とはいえないと判示した。 二審の高裁では、本件において独立企業間価格の算定及び比較可能性の判断の単位となる取引は、一の単位としてのT社取引及びU社取引であるから、これらの各取引に含まれる個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引との比較可能性を問題にするXの主張は、前提を欠き、採用することができないと全面否定した。 ③ 評釈等 Xは、「同種」か否かの判断対象はノウハウであって生み出される製品ではないと主張するのに対して、Yも裁判所も生み出される製品の種類、用途について大きな差異が存在することを主張した。 すなわち、Xは製造技術そのものは同じ種類の製品であれば何ら変わりはなく、単純に配合比に基づいて原料を投入し、攪拌するだけの技術であり、ノウハウそのものについては同じであると述べた。 これに対してY及び裁判所はノウハウ提供の対象製品の種類、用途の違いを主張して同種ではないと決めつけるが、この判断は本事件の大きなポイントである。 《論点3:「同様の状況」の問題》 続いて、「同様の状況」についてみてみる。 ここでは、製造地域、販売地域、市場等地域の差異、契約形態、条件等の差異、技術指導等、役務提供の差異などが論点となる。 ① 当事者の主張 Xは、本件取引において、市場となる国、地域や、権利の独占性の有無、対象製品の市場におけるシェアなどにおいて、差異はあるがいずれも価格に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかであるといえる証拠は何も存在しないので「同様の状況の下での取引」ではないと判断することはできず、「同様の状況」の要件を満たすと主張した。 これに対してYは、独立価格比準法又はこれと同等の方法における比較対象取引は「同様の状況」の下でされた取引であることを要し、「同様の状況」の下でされた取引といえるかは、取引段階、取引数量、取引時期、引渡条件、取引市場等が考慮されるべき重要な要素となり、以下の点に照らし「同様の状況」の取引とはいえないと主張した。 まず、製造・販売地域が明らかに異なる。一方は台湾、マレーシアであるのに対し、他方は韓国、タイである。 続いて、契約形態・条件が異なる。本件国外関連取引では、独占的権利が付与されているが、K社取引では非独占的契約となっており、その差異を調整することはできない。次いで上記「論点2:「同種」の問題」でも説明したが、役務提供の頻度及び程度が異なる。 そして、市場の状況が異なる。T社ライセンス製品は、台湾のPWB用途のめっき薬品の市場で約80%のシェアを占めているが、K社の韓国におけるPWB関連向けのシェアは約14.6%にすぎず、その違いは価格競争力等に影響する。また、生産実績から見てもT社とK社とでは大きな差があるなど、その差異を調整することはできないと一審で主張した。 ② 判決 地裁は、ほぼYの主張を支持し、次のように判示した。 そもそも、T社取引は、台湾の法人を相手方とする無形資産等の取引であるのに対し、K社取引は韓国の法人を相手方とするものである。 無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の市場となる国・地域が異なれば、景気の状況は当然異なるし、同一製品でも販売価格に差異が生じ得る。製造・販売地域の違いは、当該製品に係る無形資産等の対価の額に影響を及ぼす事情といえる。 T社取引においては、T社に対して対象地域における独占的権利が付与されているがK社取引においてK社に付与されているのは非独占的権利である。このように無形資産の使用許諾が独占的なものであるか否かの違いは、その対価の額に影響を及ぼす事情というべきである。 台湾のPWB用途のめっき薬品の市場において、T社ライセンス製品は約80%のシェアを占めているのに対し、韓国の同市場においては、K社の製品は約14.6%のシェアを有するにすぎない。このような市場におけるシェアの違いは、当該製品の価格競争力や収益力に影響を及ぼし、引いては当該製品に係る無形資産等の対価の額にも影響を及ぼす事情といえる。 このようなことから、T社取引とK社取引及びP社取引は「同様の状況」ということはできないと判示した。二審判決もこれを支持した。 ここにおいて、基本三法と同等の方法を用いることはできないと認められ、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法(租税特別措置法66条の4第2項2号ロ)を用いるべきと判示され、次に「残余利益分割法と同等の方法」の適用の可否について争われた。 ③ 評釈等 比較可能性について、OECDの移転価格ガイドライン(1995年)はパラ1.17において、重要な属性として移転された資産又は役務の特性、(使用した資産や引き受けたリスクを考慮して)当事者が果たす機能、契約条件、当事者の経済環境、及び当事者が遂行している事業戦略などがあげられるとしている。 今村隆氏は、「5つの要素のうちの、資産、役務の特性と契約条件が本質的に異なっているということで、内部コンパラになり得ない、比較可能性がないということで、この判決に賛成です。」(※2)と述べ、対象製品の種類や用途の違い、技術支援のサポート体制の違い、独占、非独占の契約条件の違いを指摘する。 (※2) 今村隆「移転価格税制についての最近の裁判例と諸問題-デジタル課税における同税制の今後の役割」租税研究838号(2019年)、228頁 (3) 「残余利益分割法と同等の方法」が相当であることの可否 Yによれば、本件国外関連取引に基づいて製造販売されたXライセンス製品は、T社の所在する台湾や、T社及びU社の製品を販売しているS社の所在するシンガポールを含むASEAN諸国において、Xの製造技術・ノウハウが提供されることにより、他社よりも優位な競争上の地位を築いたと主張した。これはXが、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、〔1〕めっき薬品等の製造及び販売に関する技術情報やノウハウを提供し、〔2〕国外関連者やその顧客に対し技術支援を行うことによってXライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させたことによるものであり、この〔1〕及び〔2〕はXの無形資産である。 また、T社及びS社についてはXの支援を受けながら、〔3〕顧客に対する営業・技術サポートを行うことでXライセンス製品のイメージを浸透及び普及させて付加価値を創出し、Xライセンス製品を台湾等において製造及び販売してきたのであり、この〔3〕はT社とS社の無形資産である。 これらの無形資産を総合的に活用することによって、本件国外関連取引は事業成果を上げているといえるのであるから、上記〔1〕ないし〔3〕の無形資産は、超過利益の源泉である重要な無形資産である。 したがって、本件国外関連取引の独立企業間価格については、その他の方法である利益分割法(租税特別措置法施行令39条の12第8項)と同等の方法の中でも、X、T社及びS社の有する重要な無形資産が利益獲得に寄与する点に着目し、通常得られる利益をそれぞれに配分した残余の利益をその重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分して独立企業間価格を算定する「残余利益分割法(租税特別措置法通達66の4(4)-5)と同等の方法」を適用して算定するのが相当であると主張した。 地裁も高裁もこれを全面的に支持し、「残余利益分割法と同等の方法」を用いるのが合理的であるということができると判示した。 独立企業間価格の算定について、X及びT社、S社それぞれが重要な無形資産を有するとして「残余利益分割法と同等の方法」を用いることができるとした判決について、今村隆氏は、「本判決が指摘するような本件国外関連取引の特徴からして、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが合理的である」(※3)と判決を支持している。 (※3) 前掲(※1)書134頁 ただ、平成18年の更正処分時点においては、残余利益分割法については、租税特別措置法関係関係通達66の4(4)-5に規定があるだけで、法的には租税特別措置法施行令39条の12第8項に利益分割らしき記述のみで、残余利益分割法が明確に規定されたのは、平成23年政令第199号による改正で、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号ハにおいて、利益分割法の下位分類として規定されており、事件当時は基本三法優位の時代であることに留意すべきである。 Xが、「残余利益分割法と同等の方法」より「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を主張する背景には上記の事情がある。 (4) 「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」の適用は可能ではないか ① 当事者の主張 Xは、仮にT社取引及びU社取引とK社取引及びP社取引が「同種」又は「同様の状況」が認められず、「独立価格比準法と同等の方法」が認められなかったとしても、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」に該当し、「残余利益分割法」よりも独立企業間価格に近似する価格を算定し得る場合には、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」となると解して、他の方法との比較において最も近似する価格(理想的な価格)を独立企業間価格とすべきであると主張し、Xが設定しているロイヤリティ料率は業界の一般的な水準をもって設定されているので、「理想的な価格」からの乖離も大きくなく、信頼性に疑問を感じさせる残余利益分割法よりも適切であると主張した。 これに対してYは、Xの主張する独立企業間価格(理想的な価格)がいくらであるか客観的に明らかでなければ、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」と他の方法とのどちらが独立企業間価格の近似値を算定し得るのかは判断できないはずである。また複数の算定結果から「理想的な価格」の「近似値」を選択するための方法についての説明もないため、結局のところ、「本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」が「理想的な価格」の「近似値」を算定できるはずだという結論ありきの失当なものであると主張した。 ② 判決 地裁は、本件T社取引及びU社取引とK社取引及びP社取引とは、相当程度の差異が存在することからすれば、K社取引及びP社取引を比較対象として、独立企業間価格を的確に算定する具体的な方法を見出すことはできないから、本件国外関連取引について「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することが合理的ということはできないと、Xの主張を退けた。 高裁は、「本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」と「残余利益分割法」のいずれが当該「理想的な価格」と近似する価格を算出する方法であるのか特定できることが前提となるが、およそ現実的とはいえないとし、したがって、Xの主張は独自の見解であるといわざるを得ず、これを採用することはできないとした。 上記のとおり地裁、高裁ともにXの主張を退けた。 ③ 評釈等 基本三法に準ずる方法については、「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(国税庁)に「基本三法に準ずる方法は、基本三法の考え方から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用する途を残したものと解されている」とあり、合理的な例としては、商品取引所相場など市場価格等の客観的かつ現実的な指標に基づき算定する方法等をあげており、ただ、基本三法に準ずる方法は、基本三法において比較対象取引として求められる比較可能性の要件(租税特別措置法関係通達66の4(2)-3(※4)に規定する諸要素の類似性)まで緩めることを認めるものでなく、当該要件を満たしていない取引については、基本三法に準ずる方法においても比較対象取引として用いることができないことに留意する必要があるとある。 (※4) 租税特別措置法関係通達66の4(2)-3 (比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素) (1)棚卸資産の種類、役務の内容等(2)取引段階(小売り又は卸売、一次問屋又は二次問屋等の別をいう)(3)取引数量(4)契約条件(5)取引時期(6)売手又は買手の果たす機能(7)売手又は買手の負担するリスク(8)売手又は買手の使用する無形資産(9)売手又は買手の事業戦略(10)売手又は買手の市場参入時期(11)政府の規制(12)市場の状況 金子宏氏は、「基本三法に準ずる方法とは、取引内容に適合し、かつ基本三法の考え方から乖離しない合理的な方法を意味すると解すべき。」(※5)と述べる。 (※5) 金子宏『租税法〈14版〉』弘文堂(2009年)、430頁 これらを総合勘案すると、客観的かつ現実的な指標というものが求められることが分かる。 Xの主張は、Xが設定しているロイヤリティ料率が一般的な水準として設定されているので、理想的な価格として適切であると主張するが、客観的かつ現実的な指標としては認めにくい。そのため地裁、高裁の判決は妥当なところである。 なお、この事件では(争点2)として、本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定として残余利益分割法を採用して算定する上で、分割対象利益の算出(営業利益の算定方法)、基本的利益及び残余利益の算定、及び無形資産の価値の算定について、その方法に問題があるとして争われた。本稿においては省略するが、これについてもYの主張が認められた。 (5) 総括 この事件は、調査開始から最終決着まで22年、また更正処分からでも16年という長い年月を経ている。 また、二国間の相互協議、異議申立て、不服審判所、地裁、高裁、最高裁(不受理)の全てを経過しており、移転価格を学ぶ上で、特に残余利益分割法を研究する上で大変参考になる事件である。 このあと、上村工業第二事件へと続くのであるが、第二事件は地裁のみで控訴しなかったので、ここで全てが完結した。 (了)

#No. 537(掲載号)
#森田 國弘
2023/09/28

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第30回】「民事再生により経営権を取得した法人は、ゴルフ場利用税の特別徴収義務者である共同事業者と認めることができないとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第30回】 「民事再生により経営権を取得した法人は、ゴルフ場利用税の特別徴収義務者である共同事業者と認めることができないとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷ゴルフ場利用税とは ゴルフ場利用税は、ゴルフ場の利用に対し、利用の日ごとに定額によって、当該ゴルフ場所在の道府県において、その利用者に課する(地法75)地方税の1つである。 ゴルフをプレーした利用者が納税義務者であり、ゴルフ場利用税の標準税率は、1人1日につき800円である(地法76①)。利用者が申告納税するのではなく、特別徴収義務者が利用者からゴルフ場利用税を徴収して納付することになる。特別徴収義務者は、ゴルフ場の経営者その他徴収の便宜を有する者で、その道府県の条例によって指定されたものである(地法83①)。共同事業に係る地方団体の徴収金は、特別徴収義務者である共同事業者が連帯して納入する義務を負う(地法10の2②)ことになるが、共同事業者は、どのような者が該当するのか法律では具体的に定められていない。 今回は、民事再生手続きの過程で、経営権を取得した法人を共同事業者であると認定し、連帯納付義務があるにもかかわらず申告納税を行っていないことから、ゴルフ場利用税の決定処分を行ったことについて、その決定処分の取消しを求める審査請求を行った事案について検討する。   ▷共同事業者に関する当事者の主張 本件は、民事再生手続きによりゴルフ会社(乙社)の経営権を取得した甲社がゴルフ場利用税の共同事業者になるか否かが争点となっている。甲社の主張と鳥取県の主張をそれぞれ整理すると、主に次のようになる。   ▷審査庁鳥取県の判断 裁決では、甲社はゴルフ場の共同事業者であるとする処分庁の主張は採用することができないから、甲社に納税義務があることを認めることはできないとした。その理由は主に以下のとおりである。 *   *   * このように、ゴルフ場利用税において、共同事業者というのは、経営支配権を誰が持っているのか、支払いを誰が行っているのかではなく、企業の取引で生じた債権・債務が誰に帰属しているかで判断されている。共同事業者とならない場合は、連帯納付義務は発生しない。共同事業者について具体的に法令で定められていないため、このように判断せざるを得ないのだろう。   (了)

#No. 537(掲載号)
#菅野 真美
2023/09/28

リース会計基準(案)を学ぶ 【第6回】「借手のリースの会計処理②」-借手のリース期間-

リース会計基準(案)を学ぶ 【第6回】 「借手のリースの会計処理②」 -借手のリース期間-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回(第5回)に続き、借手のリースの会計処理について解説する。今回は、借手のリース期間について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 借手のリース期間 1 リース期間 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する「解約不能期間」に、次の①及び②の両方の期間を加えて決定する(リース会計基準(案)29項)。 イメージで示すと次のようになる。 借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する(リース会計基準(案)29項)。 貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる(リース会計基準(案)29項)。 2 「合理的に確実」の用語 前述のように、借手のリース期間に関して、リース会計基準(案)は、「合理的に確実」の用語を用いている。 これは、IFRS第16号の“reasonably certain”の用語であるが、同第16号では「合理的に確実」に関する具体的な閾値の記載はない(リース適用指針(案)BC22項)。 米国会計基準では、「合理的に確実」が高い閾値であることを記載した上で、米国会計基準の文脈として発生する可能性の方が発生しない可能性より高いこと(more likely than not)よりは高いが、ほぼ確実(virtually certain)よりは低いであろうことが記載されているとのことである(リース適用指針(案)BC22項)。 3 「合理的に確実」であるかどうかを判定するにあたっての経済的インセンティブ 借手は、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮する(リース適用指針(案)15項)。 これには、例えば、次の要因が含まれる(リース適用指針(案)15項)。 このため、借手のリース期間の決定に際しては、経営者の意図や見込みのみに基づく年数ではなく、借手が行使する経済的インセンティブを有するオプションのみを反映させるとされている(リース適用指針(案)BC23項)。 例えば、借手が原資産を使用する期間が超長期となる可能性があると見込まれる場合であっても、借手のリース期間は必ずしもその超長期の期間となるわけではない(リース適用指針(案)BC23項)。 借手のリース期間は、借手が延長オプションを行使する経済的インセンティブを有し、当該延長オプションを行使することが合理的に確実か否かの判断の結果によることになる(リース適用指針(案)BC23項)。 また、借手が特定の種類の資産を通常使用してきた過去の慣行及び経済的理由が、借手のオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性がある(リース適用指針(案)BC26項)。 ただし、一概に過去の慣行に重きを置いてオプションの行使可能性を判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要がある。合理的に確実か否かの判断は、諸要因を総合的に勘案して行うことに留意する必要があるとのことである(リース適用指針(案)BC26項)。 前述のとおり、「合理的に確実」の用語の説明はあるものの、それに関する具体的な閾値の記載はないこともあり、リース会計基準(案)等の開発に際して、「合理的に確実」の判断にばらつきが生じる懸念及び過去実績に偏る懸念が示されている(リース適用指針(案)BC21項)。 実務上、借手のリース期間の決定に際しては、具体的な数値基準(例えば、可能性が○%である)を示すことは困難な場合が多いのではないかと思われ、リース適用指針(案)15項の例示などに基づき、具体的な判断の過程を文書化するなどにより対応することが考えられる。 4 リース物件における附属設備の耐用年数と借手のリース期間(不動産リース) 普通借地契約及び普通借家契約に係る借手のリース期間を判断することの困難さについては、実務上の判断に資するため、設例が設けられている(リース適用指針(案)BC27項、[設例8-1]から[設例8-5])。 借手のリース期間を判断する際の思考プロセスが具体的に記載されており、リース会計基準(案)を実務で適用するにあたって、非常に参考になるものと考えられる。 また、リース適用指針(案)では、不動産リースに関する具体的な懸念として、リース物件における①附属設備の耐用年数や②資産計上された資産除去債務に対応する除去費用の償却期間と③借手のリース期間との整合性を考慮する場合、実務上の負荷が生じる可能性があると記載されている(リース適用指針(案)BC21項(2)②)。 実務上、リース会計基準(案)の適用に際しては、これら3つの要素の整合性に注意する必要があると考えられる。 リース適用指針(案)では、リース物件における「附属設備の耐用年数」と「借手のリース期間」の関係について、次のように記載されている(リース適用指針(案)BC27項)。 特に、下記の②の記載は、リース会計基準(案)を実務で適用するにあたって、参考になるものと考えられる。   (了)

#No. 537(掲載号)
#阿部 光成
2023/09/28

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第15回】「損益計算書に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第15回】 「損益計算書に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における損益計算書に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 会社計算規則上、連結注記表においては損益計算書に関する注記は求められていません。一方、個別注記表では、関係会社との営業取引による取引高の総額及び営業取引以外の取引による取引高の総額を記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表においては連結損益計算書に関する注記の記載例はなく、個別注記表のみ次のような注記例が記載されています。 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 損益計算書に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき損益計算書に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第104条)。 (※1) 会社計算規則第98条第2項第4号において、連結注記表では、損益計算書に関する注記を表示することを要しないと規定されています。 (2) 注記事項の解説 会社計算規則では、連結注記表において損益計算書に関する注記が求められていないことから、連結損益計算書に関する注記は記載されないことが多いです。 しかし、上場会社の場合、追加情報として連結損益計算書に関する注記を記載することもあります。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社ドウシシャ 2023年3月期 個別注記表] ※株式会社ドウシシャ「第47回定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」23頁より抜粋。 [株式会社伊藤園 2023年4月期 連結注記表] ※株式会社伊藤園「第58回定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」21頁より抜粋。 [古河電気工業株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※古河電気工業株式会社「第201回定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」7頁より抜粋。 *  *  * 次回の第16回は、「株主資本等変動計算書に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 537(掲載号)
#竹本 泰明
2023/09/28

〈一問一答〉副業・兼業に関する担当者のギモン 【第4回】「ルール違反の副業・兼業への対処」

〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第4回】 「ルール違反の副業・兼業への対処」   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 就業規則におけるルールの整備 労働者の副業・兼業を認める場合、副業・兼業の内容や稼働状況によっては、労務提供上の支障、企業秘密の漏洩、長時間労働の発生等のリスクも認められることから、会社としては、就業規則等の社内規則において、副業・兼業に関する一定のルールを定めておく必要がある。 具体的なルールの内容としては、許可制・届出制の別、申請先・申請期限、申請書の記載内容・添付書類、副業・兼業開始後の継続的な報告・確認フローなどの手続的なルールと、副業・兼業の制限事由(不許可事由)・許可基準(【第2回】、【第3回】参照)、ルールに違反した場合の措置や処分などの実体的なルールのそれぞれについて規定しておくことが考えられる。 労働者が就業規則に定めたルールに違反して副業・兼業に従事していることが判明した場合、会社の主な対応としては、懲戒処分、副業・兼業許可の取消し、注意・指導などの措置が考えられるが、いずれの措置が適切かは、個別具体的な事案ごとに、違反の程度や会社の業務に与えている影響の大きさなどを考慮して判断することとなる。   2 懲戒処分 無許可のまま競合他社において兼業に従事していたような場合など、労働者が就業規則上のルールに違反して副業・兼業を行っていることが判明したときは、会社は、当該労働者に対して、懲戒処分を行うことが考えられる。 会社が労働者を懲戒処分するためには労働契約上の根拠が必要となるところ、就業規則の懲戒処分に関する規定において、懲戒事由として、「就業規則に違反する行為があったとき」などの規定がなされているのであれば、副業・兼業に関する就業規則上の定めに違反したことをもって、懲戒処分の根拠とすることが可能である。 他方、就業規則の規定上、ルールに違反する副業・兼業が懲戒処分の対象となり得ることが明確でない場合には、就業規則上の懲戒事由として、「この規則に違反して副業・兼業に従事していたとき」などの規定を設け、制限事由に該当するような副業・兼業に従事した場合、あるいは、許可申請の手続を経ずに副業・兼業に従事した場合などの懲戒処分の根拠を明確にしておく必要がある。 また、懲戒処分は、処分の内容が社会通念上相当であると認められない場合(行為と処分のバランスが相当でない場合)は、権利の濫用として無効と評価されてしまう(労働契約法第15条)。 この点、労働時間以外の時間をどのように利用するかは本来労働者の自由であることから、会社の企業秘密を漏洩したり、会社の信用を毀損したりするなどして、会社に大きな損害が発生しているような場合を除き、副業・兼業に関する就業規則上のルールに違反したことをもって、懲戒解雇等の重い処分が有効と判断されるケースは必ずしも多くない。 同様に、就業規則上のルールに違反して、事前の許可申請をせずに副業・兼業に従事していたものの、当該副業・兼業が就業規則の定める制限事由(不許可事由)に該当しない内容であった場合には、会社の業務に与える影響も少なく、事前の許可を得なかったという手続違反に留まる場合も多いことから、このようなケースでは、仮に懲戒処分を行う場合であっても、処分の相当性の観点から、軽度の処分に限定する必要がある。   3 許可の取消し 労働者からの許可申請に対し、いったんは副業・兼業を許可したものの、その後、就業規則上のルールとして定められた許可条件を満たさないことが判明した場合や事後的な事情の変更により許可条件を満たさない状況となった場合には、副業・兼業の許可を取り消すことが考えられる。 副業・兼業が原則として労働者の自由であることに鑑みると、いったんなした副業・兼業の許可の取消しについても明確な根拠規定を定めておくことが相当であり、就業規則において、「会社は、許可を行った場合であっても、その後、許可条件を満たしていないことが判明した場合、または、不許可事由に該当する事情が生じた場合には、許可を取り消すことができる」などの規定を定めておくことが考えられる。   4 注意・指導 会社は、労働者との間の労働契約の範囲内で労働義務の内容を具体的に決定・変更する権利として労務指揮権(指揮命令権)を有しており、かかる労務指揮権に基づく業務命令として、業務の遂行上、相当の必要性が認められる場合には、労働者に対し、服務上の措置を命じることができる。 したがって、副業・兼業について、懲戒処分の対象となるような重大な違反がなかったとしても、会社が定めたルールの違反が認められる場合には、労働者に対する業務命令の一環として、違反する副業・兼業への従事をやめ、違反状態を是正するよう注意・指導することが可能である。 会社がかかる注意・指導を行ったにもかかわらず、労働者がこれに従わなかったような場合には、副業・兼業に関するルール違反の程度が重くなることに加え、業務命令違反の懲戒事由にも該当することとなるため、別途、懲戒処分を行うことが可能となる。 (了)

#No. 537(掲載号)
#木下 雅之
2023/09/28
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