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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《税金費用・税金債務》編 【第1回】「源泉所得税、法人税、住民税及び事業税」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《税金費用・税金債務》編 【第1回】 「源泉所得税、法人税、住民税及び事業税」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに 法人税、住民税及び事業税に関しては、中小企業会計指針においても、上場企業等の会計処理の取扱いと同様に、損益計算書上、現金基準ではなく発生基準により計上することとされています。今回は法人税、住民税及び事業税の会計処理を、法人税法規定による処理との差異と税務調整も含めて紹介します。 【設例1】 (1) A社(外形標準課税適用外の法人)の当期(X1年4月1日~X2年3月31日)に係る法人税、住民税及び事業税の実際納付額は、下記のとおりです。 上記中間予定納付額303,600円は、支払時にとりあえず仮払金に計上しています。また、上記期末確定申告納付額は、決算締切時に算定完了しました。 (2) 預金利息や以前から所有してきた株式の配当金で、当期の入金の際に源泉された所得税は、15,315円であり、入金時にとりあえず租税公課に計上(源泉税控除前の利息又は配当金の額を受取利息配当金に計上)しています。 (3) 前期末貸借対照表に計上した未払法人税等の金額は、X1年5月31日に納付した前期末確定申告納付額よりも30,000円過大でした。その結果、決算修正前試算表上、未払法人税等が30,000円残っています。なお、X1年5月31日に納付した前期末確定申告納付額のうち事業税と特別法人事業税の合計額は115,000円でした。   1 A社の源泉所得税、法人税、住民税及び事業税に係る決算時仕訳 A社の源泉所得税、法人税、住民税及び事業税に係る決算時仕訳は、次のとおりです。 〈X2年3月31日〉 (1) 予定納付額を「法人税、住民税及び事業税」へ振替 (2) 税額控除適用の源泉所得税を「法人税、住民税及び事業税」へ振替 (3) 前期末の未払法人税等過大分を「法人税、住民税及び事業税」へ振替 (4) 当期末の未払法人税等を計上 法人税、住民税及び事業税に関しては、現金基準ではなく発生基準により、当期に負担すべき金額に相当する額を損益計算書に計上します(中小企業会計指針 「税金費用・税金債務」要点)。当期に負担すべき金額とは、当期の税引前当期純利益に対し税法特有の調整項目を加算・減算することによって算定した課税標準から計算される法人税、住民税及び事業税です。 設例では、当期に負担すべき金額は、X1年11月30日納付の当期予定納付額303,600円とX2年5月31日納付の当期末確定申告納付額646,600円の合計950,200円です。当期中に支払をした額の合計(X1年5月31日納付の前期末確定申告納付額とX1年11月30日納付の当期予定納付額の合計)ではありません。 また、当期末時点における未納付の税額は、その金額に相当する額を「未払法人税等」として貸借対照表の流動負債に計上し、還付を受けるべき税額がある場合には、その金額に相当する額を「未収還付法人税等」として貸借対照表の流動資産に計上します(中小企業会計指針59)。設例の場合、期末確定申告納付額646,600円は、決算締切時点で算定完了しているので、この金額をそのまま未払法人税等に計上します(上記仕訳(4))。 しかし、決算スケジュール上、法人税等の確定申告書作成時点よりも早く決算を確定しなければならない会社においては、決算上の未払法人税等を概算計上する場合があります。その場合、未払法人税等計上額と法人税等の期末確定申告納付額とに差異が生じるのが一般的です。この差異は、できるだけ少額になるように決算時点で見積計上すべきです。 この設例では、前期末貸借対照表に計上した未払法人税等の金額は、X1年5月31日に納付した前期末確定申告納付額よりも30,000円過大であり、決算修正前試算表上、未払法人税等が30,000円残っていました。当期末においてはこの30,000円を未払法人税等に残しておく必要がないため、これを取り崩します(相手科目は「法人税、住民税及び事業税」が一般的です。上記仕訳(3))。 また、決算整理前試算表では仮払金計上されていた予定納付額303,600円を「法人税、住民税及び事業税」へ振替計上(上記仕訳(1))します。この結果、当期損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」計上額は、X1年11月30日納付の当期予定納付額303,600円とX2年5月31日納付の当期末確定申告納付額646,600円の合計950,200円よりも30,000円だけ少ない920,200円となります。 なお、受取配当や利子に関する源泉所得税のうち、税法上、税額控除の適用を受ける金額については、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて計上します(中小企業会計指針60)。設例では、源泉所得税15,315円全額が当期末確定申告納付法人税額から控除されていることとして、同額を「法人税、住民税及び事業税」へ振替計上します(上記仕訳(2))。 以上により、損益計算書上の「法人税、住民税及び事業税」は、下記のとおりです。 以上、A社が外形標準課税適用外の法人であるケースです。外形標準課税適用法人(資本金1億円超の法人)であるケースでは、事業税の所得割は「法人税、住民税及び事業税」のままですが、付加価値割と資本割は、利益に関連する金額を課税標準とする事業税ではないと判断されるため、「法人税、住民税及び事業税」ではなく、原則として「販売費及び一般管理費」として表示します(合理的な配分方法に基づきその一部を売上原価として表示することができます)。   2 決算書の金額 決算書の金額は、次のとおりです。 X2年3月31日決算期 〈当期末貸借対照表〉 〈当期損益計算書〉   3 損益計算書の当期純損益(「法人税、住民税及び事業税」引後)から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 損益計算書の当期純損益(「法人税、住民税及び事業税」引後)から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整は、次のとおりです。 〈当期法人税申告書別表四〉 法人税法上、法人税、地方法人税、都道府県民税及び市民税は損金不算入です。また、事業税及び特別法人事業税は原則として納付した事業年度の損金の額に算入されます。これらの法人税法上の取扱いと決算書上の費用計上方法との差について、上記のように損益計算書の当期純損益(「法人税、住民税及び事業税」引後)から当期の課税所得を算出する際に、加算・減算調整が必要となります。 (了)

#No. 416(掲載号)
#前原 啓二
2021/04/22

税理士事務所の労務管理Q&A 【第1回】「税理士等の士業事務所の社会保険の加入」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第1回】 「税理士等の士業事務所の社会保険の加入」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   税理士事務所等の士業の労務管理は、一般企業と異なる面があります。第1回目は士業の社会保険の加入について解説します。 社会保険に加入する場合は、事業所(事務所)が適用事業所になっていなければなりません。 健康保険と厚生年金は、法人と個人では適用事業所の範囲が異なります。 また、個人事業の場合は、常時5人以上の従業員を使用し、適用業種(※)に該当していなければ、適用事業所になりません(下表参照)。 〈社会保険の適用事業所の範囲〉 (※) 製造業、土木建築業、鉱業等の16業種。 * * 解 説 * * 1 健康保険・厚生年金への加入 適用事業所になると、医療保険は健康保険(協会けんぽ)に、年金は厚生年金に加入することになります。現在、医療保険が税理士国民健康保険組合であれば、加入の手続き時に健康保険の適用除外申請を行い、認められれば税理士国民健康保険組合に引き続き加入することも可能です。   2 健康保険・厚生年金に加入するメリット 従業員には、給付及び費用の両面にわたって大きなメリットがあります(下表参照)。 (1) 給付面でのメリット 給付面においては、健康保険に加入すると、国民健康保険には原則ない傷病手当金(傷病時の生活保障)、出産手当金(産休時の生活保障)、育児休業期間中の健康保険料・厚生年金保険料免除の制度があります。 年金も厚生年金に加入することにより、将来の年金額は確実に増えます。ただし、国民年金基金に加入していた場合は、脱退しなければなりません。 また、扶養家族がいる場合には、健康保険には被扶養者の制度があり、60歳未満配偶者であれば国民年金第3号被保険者になり、国民年金の保険料の負担がなくなります。 〈医療保険(国民健康保険と健康保険(協会けんぽ)との相違)〉 〈年金保険(国民年金と厚生年金との相違)〉 (2) 費用面でのメリット 費用面においては、国民健康保険より健康保険に加入した方が、保険料は安く済む場合が多いです。 〈国民健康保険料と健康保険料の比較(介護保険料を含む)〉   3 事務所の負担(健康保険料・厚生年金保険料) 適用事業所に該当した場合には、従業員の給料(標準報酬)の約15%が健康保険料・厚生年金保険料の事務所負担となります。 したがって、従業員が6名で給料が平均して月額30万円であれば、事務所の負担は月額約27万円になります。 〈保険料の算定〉   4 法人化した場合 事務所を法人化した場合、従業員にとっては個人事業が適用事業所になったときと変わりませんが、個人事業の場合は、代表者である所長は、健康保険・厚生年金に加入することはできませんが、法人になれば所長(法人から報酬を得ている場合)も含めて加入することができます。   5 留意点 常時従業員5人未満の事務所であれば、改正の影響を受けませんが、例えば、正社員3人(加入の対象者)とパート従業員(非加入対象者)2名を常時使用している場合は、常時5人以上の計算になります。常時従業員数は、「加入すべき従業員の数」ではありませんので注意が必要です。 また、適用事業所でありながら、所定の手続きを取らなかった場合は、適用事業所であると認められる事務所に対して、立入検査等が行われることがありますので、適用事業所に該当したときは、直ちに手続きをしてください。 (了)

#No. 416(掲載号)
#佐竹 康男
2021/04/22

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例58】株式会社小僧寿し「通期業績予想の公表に関するお知らせ」(2021.3.1)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例58】 株式会社小僧寿し 「通期業績予想の公表に関するお知らせ」 (2021.3.1)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社小僧寿し(以下「小僧寿し」という)が2021年3月1日に開示した「通期業績予想の公表に関するお知らせ」である。同社は同年2月19日に「2020年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示したのだが、そこでは次のように記載して、来期の業績予想は未定としていた。それから10日経った3月1日に業績予想を開示することにしたのである。   2 黒字は何年ぶり? 小僧寿しが2月19日に開示した2020年12月期の業績だが、黒字だった(営業活動によるキャッシュフローはマイナスだが)。現在開示されている同社の有価証券報告書で確認できる限りでは、2012年12月期以降、2019年12月期までずっと赤字だった。果たして何年ぶりの黒字なのだろうか。黒字になった理由について、決算短信には次のように記載されている。 コロナ禍においてテイクアウトとデリバリーの需要が増大したことが、同社の業績に貢献したようだが、特にデリバリー事業の伸びによるところが大きかった。実は持ち帰り寿し事業は未だ赤字であり、同社の黒字化はデリバリー事業の黒字によるものである。   3 妥当な予想? 今回開示した2021年12月期の業績予想は、その2020年12月期よりも増収増益である。「公表の理由」には次のような記載があるが、テイクアウトとデリバリーの需要はまだ続くと考えているようである。 2020年12月期の売上高が6,130百万円だったのに対して、2021年12月期の予想売上高は6,617百万円(前期比7.9%増)とされており、今年は元の状況に戻らないと考えるならば、妥当な予想と言えるのかもしれない。   4 対照的な会社も 株式会社あみやき亭(以下「あみやき亭」という)は決算短信の開示が非常に早い会社として有名だが、さすがに昨年は少し遅れて、「2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」を2020年4月15日に開示した(それでも、すごく早いのだが)。そして、来期の業績予想も、次のように記載して未定としていた。 しかし、今年はいつもどおりの早さで、「2021年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」を2021年4月2日に開示した。ただし、同社としては初めての赤字、しかも14億円の赤字という厳しい内容だった。 業績予想も、「今後の見通し」に次のような記載をしながらではあるが、開示している。黒字予想である。2022年3月期の予想売上高を28,200百万円としているが、これは2020年3月期の31,877百万円と2021年3月期の22,137百万円との間の真ん中あたりの額である。コロナ前のようにはいかないが、前期よりは良くなるだろうと考えているのだろうか。   5 この状況下での業績予想 小僧寿しとあみやき亭は、それぞれ業績予想を修正せずに済むのだろうか。この状況がいつまで続くのか分からない現在、両社の業績がどうなるのかも分からないはずである。そもそもこの状況下で通期の業績予想を開示すること自体が果たして適切なのだろうか。 筆者の生家も飲食店だったため(回転しない鮨屋)、飲食業の現在の大変さは理解できる。自分が子供の頃に生家がこうした状況に遭遇していたらと想像すると、正直ぞっとしてしまう。無責任なことは言えないが、元のやり方に固執せず、なり振り構わぬ工夫をして頑張ってもらいたいと思う。 ちなみに、生家の鮨屋では、店舗で鮨を提供するほかに、お持ち帰りはもちろん、出前も行っていた(「デリバリー」なんて言葉は使わず「出前」)。 (了)

#No. 416(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/04/22

《速報解説》 「都市計画道路予定地」及び「電話加入権」に係る財産評価基本通達の改正案がパブコメに付される~電話加入権の「国税局長の定める標準価額による評価」は廃止へ~

《速報解説》 「都市計画道路予定地」及び「電話加入権」に係る財産評価基本通達の改正案がパブコメに付される ~電話加入権の「国税局長の定める標準価額による評価」は廃止へ~   Profession Journal編集部   国税庁は4月20日(火)付けで「「財産評価基本通達」の一部改正(案)」を公示しパブリックコメントを開始した(意見募集は「2021年5月20日」まで)。 今回のパブコメでは「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)」及び「電話加入権の評価(評基通161、162)」において見直しが行われており、令和3年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価から適用するとされている。 まず、都市計画法に基づき将来道路用地となることが決まっている土地の評価を行う場合に、自用地価額に乗じる補正率を定めた「都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)」について、容積率の区分の整理及びこれに伴う補正率の見直しが行われる。 具体的には、地区区分(「ビル街地区、高度商業地区」「繁華街地区、普通商業・ 併用住宅地区」「普通住宅地区、中小工場地区、大工場地区」)における容積率の区分が、下記のように見直される(下線部が変更箇所)。 また上記区分変更に伴い、一部補正率の見直しも行われている。 次に、「電話加入権の評価(評基通161、162)」について、現行では①取引相場のある電話加入権の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価し、②それ以外の場合は売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価するとしており、②の標準価額は国税庁の財産評価基準ページで確認できるものの、全国一律1,500円とされている。 今回のパブコメでは、上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額や国税局長の定める標準価額による評価が廃止され、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するかたちへ見直される。 なお申告に当たっては、財産評価基本通達128により一括評価する家庭用動産等(1個又は1組の価額が5万円以下のもの)に、「電話加入権を含めることとして差し支えないものとする予定」とのことだ。 また、「1番から10番まで若しくは100番のような呼称しやすい番号又は42番、4989番のような誰もが嫌がる番号」といった特殊な番号の電話加入権の評価について定めた財産評価基本通達162は削除される。 (了)

#No. 415(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/04/20

《速報解説》 令和3年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに~改正法人税法施行規則公布、DX/カーボンニュートラル税制は同一様式~

《速報解説》 令和3年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに ~改正法人税法施行規則公布、DX/カーボンニュートラル税制は同一様式~   Profession Journal編集部   令和3年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則が4月15日付官報号外第88号で公布された。これら改正後の様式は、原則令和3年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。 今回の税制改正により税務関係書類の押印義務原則廃止が行われたことを受け、別表1など各様式における代表者等の押印欄が削除されている。 以下、新設された様式を中心に紹介する。 令和3年度税制改正で新設された「①デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制」及び「②カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設」は、改正税法では共に「事業適応設備を取得した場合等の特別償却又は法人税額の特別控除」(措法42の12の7)において規定されている(同条1項・2項は①の特別償却、3項は②の特別償却、4項・5項は①の税額控除、6項は②の税額控除を規定)。 税額控除の控除上限が両税制合わせて当期の法人税額の20%を上限とされていることもあり、税額控除に係る明細書は新様式「別表6(32) 事業適応設備を取得した場合等の法人税額の特別控除に関する明細書」にまとめられている。 〈別表6(32)事業適応設備を取得した場合等の法人税額の特別控除に関する明細書〉 なお、DX投資促進税制では、いわゆる繰延資産の特別償却が認められるため、「別表16(6) 繰延資産の償却額の計算に関する明細書」も様式が一新されている。 さらに、上記のようにDX、カーボンニュートラルや、事業再構築・再編等を行う企業がコロナ禍の影響で欠損金額を生じた場合に、一定の範囲で最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大100%とする特例(認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例(措法66の11の4))が創設されたが、この特例措置に関しては別表7(1)の付表として「付表5 認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例に関する明細書」が新設されている。 〈別表7(1)付表5 認定事業適応法人の欠損金の損金算入の特例に関する明細書〉 次に中小企業の経営資源の集約化に資する税制としてM&A実施後のリスクに備えるために創設された「中小企業事業再編投資損失準備金制度(措法55の2)」に関し、「別表12(2) 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書」が新設された。 〈別表12(2) 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書〉 ここまで紹介した新様式については、国会で審議中の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」の施行の日以後の適用となる(改正法規附則1二)。 令和3年度改正における既存制度の見直しに関する様式変更としては、まず、研究開発税制において、新たに、基準年度と比べて売上が2%以上減少し、かつ、その事業年度の試験研究費を増加させた場合には控除税額の5%上乗せする措置が講じられるが、この計算を行う様式として「別表6(11) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における基準年度比売上金額減少割合及び基準年度試験研究費の額の計算に関する明細書」が新設、合わせて既存の別表6(8)等も見直しが行われている。 〈別表6(11) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における基準年度比売上金額減少割合及び基準年度試験研究費の額の計算に関する明細書〉 次に、「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除(措法42の12の5)」については、設備投資要件を除外した上で、新規採用人材への投資に重点を置いた制度(人材確保等促進税制)へと見直されたことに伴い、既存制度の様式(別表6(24)・中小企業向けは6(25))については一部見直しを行い、新たな様式「別表6(27) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(中小企業向けは「別表6(28)」)が設けられた。 〈別表6(27) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 なお、別表4、5(1)、5(2)については、項目内の文言の見直しは行われているものの、項目(欄)の新設や番号の変更は行われていない。 なお、官報同号では地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われているほか、今般の改正を受けグループ通算制度対応の別表様式を定めた「法人税法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年財務省令第56号)」の一部改正も行われているため留意されたい。 また、冒頭で紹介したDX投資促進税制は税額控除との選択制として特別償却の適用も可能だが、こちらは後日、この通達改正により付表様式が定められる。 国税庁では今後、今回の改正省令に対応した申告書様式のページが公表される予定となっている。 (了)

#No. 415(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/04/16

《速報解説》 会計士協会、監基報810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正案を公表~「要約財務諸表に対する報告書」及び「その他の記載」の定義・検討について示す~

《速報解説》 会計士協会、監基報810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正案を公表 ~「要約財務諸表に対する報告書」及び「その他の記載」の定義・検討について示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年4月14日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正を反映させるためのものである。 意見募集期間は2021年5月14日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 報告書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施した監査人が、監査済財務諸表を基礎として作成された要約財務諸表に関して報告業務を行う場合における監査人の責任について、実務上の指針を提供するものである(1項)。 「要約財務諸表」とは、一定時点における企業の経済的資源もしくは義務又は一定期間におけるそれらの変動に関して、財務諸表ほど詳細ではないが、それと整合する体系的な情報を提供するために、財務諸表を基礎として作成された過去財務情報である(3項(4))。 1 「その他の記載」の定義 「その他の記載」とは、要約財務諸表を含む開示書類のうち、当該要約財務諸表と要約財務諸表に対する報告書とを除いた部分の記載をいう(3項(2))。 2 「その他の記載」の検討 監査人は、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載を通読し、その他の記載と要約財務諸表の間に重要な相違があるかどうかを検討しなければならない(13項)。 そして、監査人は、重要な相違を識別した場合には、当該事項について経営者と協議し、要約財務諸表及びその要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類の要約財務諸表又はその他の記載を修正する必要があるかどうかを判断しなければならない(14項)。 13項及び14項では、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載に関連する監査人の責任を扱っており、ここでのその他の記載には、次のものが含まれる場合がある(A12項)。 3 要約財務諸表に対する報告書 監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正に対応し、「要約財務諸表に対する報告書」の記載内容を整理するとともに、「監査済財務諸表に対する監査報告書への参照」について詳細に規定している(15項~19項)。 18項は、監査済財務諸表に対する監査報告書において、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に従った監査上の主要な検討事項の報告が含まれている場合には、その旨を要約財務諸表に対する報告書に含めることを監査人に要求している(A21項)。 しかしながら、監査人は要約財務諸表に対する報告書において、監査上の主要な検討事項を個別に記載することは要求されていない(A21項)。 報告書の19項により要求される記述は、このような事項に注意を喚起することを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書を代替するものではない。また、この記述は、当該事項の内容を伝えることを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書の関連する文章を繰り返して記載する必要はない(A22項)。   Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度に係る要約財務諸表に関する報告業務から適用する。 (了)

#No. 415(掲載号)
#阿部 光成
2021/04/15

《速報解説》 監査役協会・会計士協会が「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正を確定~「監査基準における規定」をはじめ、KAMや「その他の記載内容」等につき追加等行う~

《速報解説》 監査役協会・会計士協会が「監査役等と監査人との 連携に関する共同研究報告」の改正を確定 ~「監査基準における規定」をはじめ、KAMや「その他の記載内容」等につき追加等行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年4月14日、日本監査役協会と日本公認会計士協会は、「「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」の改正について」を公表した。 これにより、2021年1月27日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 これは、監査基準の改訂等を反映させるためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 監査基準における規定 「2.監査役等と監査人との連携と効果」の「① 監査基準等における関連規定」において、「監査基準における規定」を追加し、「監査上の主要な検討事項」(KAM)などについて記載している。 2 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」関係 監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に関連して、次の記載を行っている。 3 「その他の記載内容」関係 「その他の記載内容」(監査人が監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容)について、「4.連携の時期及び情報・意見交換すべき基本的事項の例示」などにコミュニケーション項目(入手時期等)を記載している。 「その他の記載内容」に関して、「注3」に次の記載を行っている。 (了)

#No. 415(掲載号)
#阿部 光成
2021/04/15

プロフェッションジャーナル No.415が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年4月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.415を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/04/15

日本の企業税制 【第90回】「米国バイデン政権の税制改革計画」

日本の企業税制 【第90回】 「米国バイデン政権の税制改革計画」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   米国バイデン政権は4月7日、「メイド・イン・アメリカ税制計画(Made in America Tax Plan)」を発表した。この税制計画の目的は、3月31日に公表された「米国雇用計画(American Jobs Plan)」に盛り込まれたインフラ投資、研究開発、製造業支援等の8年で約2.25兆ドルにも上る支出をまかなうための財源的な手当である。今回の税制計画では15年で約2.5兆ドルの税収増が見込まれている。 税制計画の基本的な考え方は、米国企業と労働者の競争力を高めることを念頭に置き、現行のいわゆるトランプ税制(2017 年 Tax Cuts and Jobs Act(TCJA))を否定し、連邦法人税率を21%から28%に引き上げるとともに、各国による法人税率の引下げ競争を終わらせるため国際的な最低税率の導入を目指すというものである。また、化石燃料の生産者への長年にわたる補助金を廃止し、クリーンエネルギーの生産者に対する税制優遇措置を提供する方針も示されている。 4月5日には、上院財政委員会の民主党メンバーから国際課税に関する租税政策フレームワークも発表されており、今後、具体的な税制改正法案が議会において議論される見込みである。すでにペロシ下院議長(民主党)は、米国雇用計画と税制計画の双方を実現する法案を本年7月4日までに下院で成立させる目標を示している。   〇2017年のTCJA まず、今回の税制計画で否定されている2017年のTCJAについて振り返っておきたい。 TCJAでは、法人税率の恒久的な大幅引下げ(35% ⇒ 21%)や固定資産の即時償却、及び、AMT(代替ミニマム税)の撤廃に加えて、国際課税の分野では海外配当益金不算入制度(テリトリアル課税)を導入する一方で、税源浸食防止規定(BEAT課税)の創設、グローバル無形資産低課税所得(GILTI)への課税制度の創設、外国源泉の無形資産関連所得(FDII)に対する所得控除制度の創設など特徴的な制度の創設が目玉であった。 (1) BEAT課税 BEAT課税とは、米国法人税申告時に損金算入されている一定の外国関連者に対する支払い(償却資産の取得対価や支払い利子等)を通常の課税所得に加算調整して算出される修正後課税所得にBEAT適用税率(10%)を乗じて再計算される金額が、通常の法人税額(R&D税額控除等適用後)を超過する場合に、超過額(プレミアム)を追加的に納税する制度である。 (2) GILTI合算課税 CFC(10%以上保有の米国外会社)の米国税法ベースで計算した課税所得の持分相当額の全世界ベースの合計額から、黒字のCFCの有形償却資産の定額償却ベース簿価の10%からすべてのCFCで損金算入された支払い利子を減額した金額を控除(QBAI控除)したものをGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)として米国の株主(親会社)の課税所得に合算して課税する制度である。なお、いったん合算された後、GILTI50%相当額の所得控除が認められている。また、CFCの課税所得に対応する外国法人税の持分相当額の80%が外国税額控除の対象額となる。 このような計算を単純化してみれば、GILTI合算による税額の増加額は「CFCの課税所得×50%×21%(法人税率)」となり、外国税額控除額は「CFCの課税所得×80%×外国法人税率」となることから、両者を比較すると、外国法人税率が13.125%に満たない場合に、この制度による税負担の増が生じる結果となる。 (3) FDIIに対する所得控除制度 外国源泉の無形資産関連所得(Foreign-Derived Intangible Income(FDII))に対して37.5%の所得控除を認めるものであり、米国法人による外国での所得稼得活動を奨励する趣旨であるといえる。   〇メイド・イン・アメリカ税制計画 今回の税制計画では、冒頭に述べたように、連邦法人税率を21%から28%に引き上げることに始まり、会計上の利益に対する15%ミニマム税の創設(これはTCJAで廃止されたAMTの復活ともいえよう)、BEAT課税の見直し、GILTI合算課税の強化、FDIIに対する所得控除制度の廃止と、ことごとくTCJAの逆を行く提案となっている。 BEAT課税については、損金不算入の対象となる支払いをミニマム税未導入の低税率国の関連者に対する支払いに限定し、その趣旨を税率引下げ競争に終止符を打つということに転換し、名称もSHIELD(Stopping Harmful Inversions and Ending Low-tax Developments)と変えることとしている。 GILTI合算課税については、QBAI控除を廃止することとともにGILTIの半額の損金算入を縮減し25%の損金算入にとどめることが盛り込まれている。 (了)

#No. 415(掲載号)
#小畑 良晴
2021/04/15

船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の取消訴訟において全部取消が認められた事例-東京地裁令和2年10月1日判決(平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第1回】

船舶の評価を巡る贈与税決定処分等の 取消訴訟において全部取消が認められた事例 -東京地裁令和2年10月1日判決 (平成28年(行ウ)第413号:贈与税決定処分等取消請求事件)- 【第1回】   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   1 はじめに 相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価による旨規定する。そして、この財産の評価に関する基本的な取扱いを定める財産評価基本通達(以下「評価通達」という)は、船舶の価額について、原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとし、これが明らかでない船舶については、同種同型の船舶を課税時期において新造する場合の価額から償却費等を控除した価額によって評価するものとしている(評価通達136)。 かかる船舶の評価が争点となった贈与税決定処分等の取消訴訟において、東京地方裁判所は、令和2年10月1日、原告側の主張を認め、贈与税決定処分等の全部を取り消す判決を下したため、事例判断ではあるが、今後の実務の参考として紹介する(同月16日判決確定)。   2 事案の概要 海上運送業等を事業の目的とするA社の代表取締役であるX(原告)は、平成21年2月28日(以下「本件贈与日」という)、Xの母から、同じく海上運送業等を事業の目的とするB社の株式20株の贈与を受けたが、平成20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショックの影響等により、B社株式の価額は0円であり、贈与税額は生じないと考えて、法定申告期限までに贈与税の納税申告書を提出しなかった。 なお、B社株式は、評価通達168(3)の「取引相場のない株式」で、かつ、評価通達189の「特定の評価会社の株式」のうち(4)「開業後3年未満の会社等の株式」に該当するものであったため、その価額は、評価通達185所定の「純資産価額方式」によって評価される。 一般的に、我が国の海運業においては、日本法人が海外子会社(多くはペーパーカンパニー)を設立し、当該海外子会社に船舶を所有させる仕組み(いわゆる便宜置籍船の仕組み)が広く採用されている。これにより、船舶は外国籍となるため、日本籍船と比べて、税負担や船舶の登録費用が安くなる等のメリットを享受することができる。 B社も便宜置籍船の仕組みを採用しており、本件贈与日当時、パナマ共和国を本店所在地とするM社の発行済み株式の全部を保有し、このM社が合計70隻の船舶(以下「本件各船舶」という)を所有していた。 したがって、純資産価額方式によってB社株式を評価するにあたっては、B社の海外子会社であるM社が所有する本件各船舶の評価がその算定の基礎となる。 処分行政庁(税務署長)は、本件各船舶の価額を約2,226億円と評価したうえで、M社株式の価額(純資産価額)を約374億円と評価し、更にこれに基づいて、B社株式の価額を評価したところ、B社株式の価額は約43億円となったことから、平成25年7月8日、Xに対し、贈与税約21億円の決定処分及びこれに伴う無申告加算税約4億円の賦課決定処分を行った。 Xは、上記各処分を不服として、不服申立手続を行ったところ、裁決により上記各処分の一部が取り消されたため、残部(贈与税額約5億円)の取消しを求め、平成28年9月9日、Y(国・被告)を相手に提起した取消訴訟が本件である。 本件の主たる争点は、本件各船舶の評価であった(全70隻の本件各船舶のうち3隻については当事者間に争いがなく、実際に争点となったのは、その余の67隻の価額である)。なお、本件各船舶には、本件贈与日当時、いずれも定期傭船契約(※1)が付されていた。 (※1) 船舶所有者が船員を乗船させ、備品等を備えた運航可能な状態にして船舶を傭船者に貸し渡し、傭船者がその対価として契約期間(傭船期間)につき定額の傭船料(定期傭船料)を支払う契約。   3 各当事者が依拠する本件各船舶の価格鑑定に用いられた鑑定方法 前述のとおり、船舶の評価は、「精通者意見価格」等を参酌して評価するものとされているところ(評価通達136)、X及びYは、それぞれ別の船価鑑定業者に鑑定を依頼し、かかる「精通者意見価格」を参酌して、本件各船舶の評価額を主張した。 (1) Y(被告)の依拠する価格鑑定に用いられた鑑定方法の概要 Yが船価鑑定を依頼した鑑定業者P社は、本件各船舶(全70隻)のうち34隻については「取引事例比較法」により価格鑑定を行い、その余の36隻については「建造船価償却法」によって価格鑑定を行った。 P社の採用する「取引事例比較法」は、本件贈与日に近接した平成21年1月から同年2月までの2ヶ月間の売買実例から、個別の評価対象船舶の比較対象となる売買実例を抽出し、その価格に、①船齢差による調整、②積載能力差による調整、③装備等(クレーン等の荷役装置の有無等)の差異による調整を行うほか、④定期傭船料に係る調整を行うことによって、本件各船舶の評価額を算定していた(※2)。 (※2) 中古船市場において定期傭船契約が付されたままの状態の船舶が取引されることはほとんどないため、抽出される売買実例は、いずれも定期傭船契約が付されていない船舶の価格である。しかし、評価対象船舶は、本件贈与日当時、いずれも定期傭船契約が付されていたことから、P社は、比較対象となる売買実例に①~③の調整を加えることによって、定期傭船契約が付されていない場合の評価対象船舶の価格を算定し、さらに、これに定期傭船料に係る調整を行うこととした。 このうち④について、P社は、具体的には、個別の評価対象船舶に付された定期傭船契約の契約傭船料と本件贈与日における定期傭船料の市場水準(市場傭船料)との差額に基づく調整額を加減算することで評価対象船舶の価格を算定したが、市場傭船料の指標となるデータが、傭船期間3年までのものしか公表されていなかったため、評価対象船舶に付された定期傭船契約の残存傭船期間が3年以下の場合はその全部を調整の対象とし、3年を超える場合には3年の限度で調整の対象とすることとしていた。 その結果、P社が取引事例比較法を用いて評価した本件各船舶(当事者間において価格に争いのない1隻を除く33隻)のうち、10隻は残存傭船期間が3年以下であったため、残存傭船期間の全部が調整の対象となったが、その余の23隻は残存傭船期間が3年を超えていたことから、残存傭船期間の全部についてではなく、いずれも3年の限度でのみ定期傭船料の調整が行われた。 P社の採用する「建造船価償却法」は、上記の「取引事例比較法」において価格算定の参考となり得る売買実例を収集することができなかった船型の船舶について、建造船価を基準に、建造時から本件贈与日までの経過年数に基づく減価修正(償却)を行うことで、本件各船舶(当事者間において価格に争いのない2隻を除く34隻)の評価額を算定していた。 (2) X(原告)の依拠する価格鑑定に用いられた鑑定方法の概要 Xが船価鑑定を依頼した鑑定業者Q社は、本件各船舶(全70隻)のうち当事者間に争いのある67隻すべてについて、「収益還元法(DCF法)」により価格鑑定を行った。 Q社の採用する「収益還元法(DCF法)」は、定期傭船契約の契約期間(傭船期間)中の収益価値に、契約終了時の船舶価値を加えることによって(いずれも現在価値に割り引いたもの)、本件各船舶の評価額を算定していた。 (続く)

#No. 415(掲載号)
#木下 雅之
2021/04/15
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