谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第48回】 「租税法律主義の基礎理論」 -合法性の原則と行政裁量の統制- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、租税法律主義の内容のうち税法の執行上の原則として合法性の原則を取り上げて検討する。 合法性の原則は、税務行政の合法律性の原則とも呼ばれるように(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)31頁、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【37】参照)、税務行政の分野における法律による行政の原理を意味する。法律による行政の原理は、明治憲法で租税法律主義が宣明されて以来、わが国における租税法律主義の基本的性格を構成してきたと解されるが(第43回、拙稿「租税法律主義(憲法84条)」日税研論集77号(2020年)243頁、250頁等参照)、以下では、そのような理解に基づき、合法性の原則の性格(「出自」)・意義を明らかにすることにする(Ⅱの検討内容は、前掲・拙稿の検討をベースにしたものである)。その上で、【補論】として、行政裁量に対する統制についても検討しておきたい(Ⅲ)。 Ⅱ 合法性の原則の性格(「出自」)・意義 1 租税法規の「強行性」 金子宏教授は合法性の原則について次のとおり説明しておられる(同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)87頁)。 合法性の原則については、金子教授の上記の説明に関する、「この説明から明らかなように、実質的な面での合法性の原則の『出自』は租税公平主義にある。」という理解を前提にして、「課税要件法定主義と予測可能性原則とに二層化された租税法律主義の中に合法性の原則の居場所をみつけることは困難になる。」ことから、「合法性の原則を租税法律主義の内容から除外しようとする」見解(佐藤英明「租税法律主義と租税公平主義」金子宏編『租税法の基本問題』(有斐閣・2007年)55頁、69頁)があるが、しかし、そもそも、その前提となる理解は妥当であろうか。合法性の原則の「出自」については、どのように考えるべきであろうか。 金子教授は前記の説明を、当初は、次の表現(同「租税法律主義について」税経通信20巻5号(1965年)20頁、22頁)で、行っておられた。 この表現による説明のうち前半部分からすると、合法性の原則は、財政民主主義の具体化として民主主義的に再構成された租税法律主義(課税要件法定主義)が納税者にとって有利な取扱いについても法律の根拠を要求すること(第34回Ⅱ3参照)を意味し、また、後半部分にいう「考え方」は、金子教授が「租税法規の特色」の1つとして次のとおり述べておられる租税法規の「強行性」(金子・前掲書33頁。下線筆者)を基礎とする考え方であると解される。 ここでは、租税法規の「強行性」は、多数の納税義務者に対する画一的取扱いを意味し、これによって「納税者相互間の公平」が維持される、とされているのであるが、それは、田中二郎教授によって「租税債権の特質」(これはとりもなおさず「租税債務の特質」であるが)の1つとして次のとおり説かれる「法律による画一的規制」(同『租税法〔初版〕』(有斐閣・1968年)140頁。同書の第3版(1990年)153頁も基本的に同旨。下線筆者)と同じ意味であると解される。次の引用文のうち第1文(下線部)から明らかなように、「法律による画一的規制」という租税債権(租税債務)の特質は、租税債務関係説に基づくものと解される。 以上のように考えてくると、合法性の原則は、租税法律主義の債務関係説的再構成(第3回Ⅲ、第34回Ⅲ、第43回Ⅳ、第45回Ⅲ参照)の下での「法律による画一的規制」の要請に基づく効果裁量否定論を意味すると解される。 そうすると、合法性の原則の「出自」は、実質的な面においても、租税法律主義にあると考えられる。金子教授による前記の説明の中の「税負担の公平が維持できなくなる」という部分は、合法性の原則の「出自」を示すものではなく、「租税法律主義の当然の帰結・・・・・である課・徴税平等の原則」(スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁。太字・傍点筆者。第2回Ⅳ参照)に対する違反を示すものと解される。 2 租税法律主義に関する「今の新しい考え方」 ここで注目されるのが、「租税法研究会」における田中二郎教授の次の発言(租税法研究会編『租税法総論』(有斐閣・1958年)35-36頁。下線筆者)である。 この発言(特に2つ目の下線部)は、合法性の原則の「出自」を的確に示していると解される。すなわち、合法性の原則は、「元来」は、「法律できめた限度を越えて税をとることができないという考え方」(侵害留保原理)から「出発」したが(第34回Ⅱ、第43回Ⅲ参照)、「現在」では、「すべての人が協力して自主的に国費を負担するという考え方」(この考え方は「民主主義的租税観」(前掲・拙著【14】、第2回Ⅲ2等参照)に相当するものと解される)を媒介として、納税者にとって有利な取扱いの場面も含めて、租税法律主義の民主主義的再構成(課税要件法定主義)と債務関係説的再構成(効果裁量否定論)との「結合」により成立した要請となっている、と解されるのである。 このように考えてくると、合法性の原則は、税務行政を名宛人とする租税法律主義のいわば「別称」というのが適切であるように思われる。合法性の原則は、納税者にとって不利な税務行政上の取扱い(課税処分、徴収処分等)についてだけでなく有利な税務行政上の取扱い(納税義務の減免、徴収猶予等)についても、法律の根拠と効果裁量の否定を要求する法原則であるが、法律による行政の原理の伝統的な理解(侵害留保原理)によると、特に後者の取扱いについてはそれらの要求が軽視されがちになるおそれがあることから、戦後における租税法律主義に関する「今の新しい考え方」(民主主義的再構成及び債務関係説的再構成)を受けて、特に後者の取扱いの場面における法律の留保と効果裁量の否定を想定して、合法性の原則という「呼称」が用いられるようになったものと考えられる。 3 合法性の原則の「内在的例外」 なお、合法性の原則の性格・意義に関連して、同原則の例外について検討しておくことにする。筆者は、合法性の原則に対する例外を、①税法の執行上の原則としての租税平等主義(平等取扱原則ないし課・徴税平等の原則)との関係での例外を「合法性の原則の内在的例外」、②信義則との関係での例外を「合法性の原則の外在的例外」と呼んで、それぞれの意味内容を検討してきたが(前掲・拙著【81】【82】参照)、ここでは、前記の「出自」に関する私見を補足する意味も込めて、前者について述べておくことにする。 先に、合法性の原則の「出自」に関して、スコッチライト事件・大阪高判の判示にいう「租税法律主義の当然の帰結・・・・・である課・徴税平等の原則」(傍点筆者)に言及したが、この原則は、合法性の原則が租税法規の平等な適用を前提にして成立する法原則であること、換言すれば、合法性の原則が税法の適用の場面における「含み公平観」(租税負担の公平は租税法律を通じて実現されなければならず、租税法律を離れて実現されてはならない、という公平観)の現れであること(第3回Ⅳ参照)を意味するものと解される。 このように租税法規の不平等な適用が合法性の原則の枠外にあることは、固定資産税における固定資産の評価に関する金子宏教授の次の見解(同『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)85頁[初出・1974年])からも、読み取ることができるように思われる。 この見解によれば、平等取扱原則によって、一般的な低評価が「適法」とされているのではなく、特定の者に対する高評価が「違法」とされているだけであって、結局、両者とも「違法」であり合法性の原則の枠外にある、ということになる。このことを筆者は合法性の原則の「内在的例外」と呼んでいるのである。なお、前者の一般的な低評価が問題とされないのは、納税者も税務行政もこれを争わないからである。 Ⅲ 補論:行政裁量の統制とその課題 租税法律主義は、わが国では、法律による行政の原理を起点として、民主主義的再構成及び債務関係説的再構成を通じて、行政裁量に対する統制を強化・厳格化してきた。すなわち、法律の留保の原則を前提にして、課税要件法定主義は行政立法裁量を、課税要件明確主義は要件裁量を、合法性の原則は効果裁量をそれぞれ厳格に統制してきたのである(第45回Ⅱ、前記Ⅱ参照)。 とりわけ課税要件明確主義と合法性の原則は、租税法律主義の債務関係説的再構成の下で成立する「1個の事実に対する、課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」と結びついて、前者が要件裁量否定論を、後者が効果裁量否定論を根拠づけると考えられる(第3回Ⅲ、第34回Ⅲ、第45回Ⅲ、前記Ⅱ参照)。 もっとも、要件裁量否定論及び効果裁量否定論をもって、税務行政による税法の執行の過程から裁量が完全に排除されるわけではない。すなわち、上記の「1個の事実に対する、課税要件と納税義務との1対1対応の考え方」は、「1個の事実」が認定されたことを前提として成立する考え方であるが、そこで前提とされている事実(課税要件事実)の認定それ自体については、以下で述べるとおり、裁量が認められるのである。 課税要件事実の認定は、税法の適用の前提(法的三段論法における小前提)となる行為である。一般に、法の適用とは、法適用者が①一般的抽象的な法規範と②個別的具体的な事実との間で視線を往き来させ(いわゆる「視線の往復運動」)、③両者を「同化」させることによる、当該個別事案における具体的規範の確定をいうが(前掲・拙著【41】)、「大前提」としての①については法解釈(による規範の定立)が、「小前提」としての②については事実認定が、「結論」としての③については包摂(当てはめ)がそれぞれ必要になる。 要件裁量は、行政による法の適用(による行政処分)に関する上記の判断過程における「要件認定に関する裁量」(芝池義一『行政法総論講義〔第4版補訂版〕』(有斐閣・2006年)72頁)をいうが、これについて次の説明(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)139-140頁)がされている。 課税要件明確主義の観点から説かれる要件裁量否定論は、このような要件裁量の観念を前提にして、次の引用文(曽和俊文『行政法総論を学ぶ』(有斐閣・2014年)160-161頁)にいう「②」の場合において全面的に裁判所の審査を認める考え方(裁判所による解釈代置許容論)である(金子・前掲『租税法』86頁参照。筆者はこれを租税法律主義の債務関係説的再構成と結びつけて説いている。前掲・拙著【12】【34】参照)。 このように、要件裁量否定論は、「要件の認定」のうち要件解釈に関する限りでは、貫徹されていると考えられるが、ただ、「要件裁量に関わりかつそれとは区別すべきもの」とされる「事実認定そのものに関する裁量」(芝池・前掲書72頁)は、裁判官による事実認定に関する自由心証主義に相当する判断の余地として、法律上特段の制限(例えば青色更正に係る推計課税の禁止[所税156条、法税131条])がない限り、許容されると考えられる。 事実認定に関する裁量については、「A[=事実認定]のレベルは当然裁判所の審理・判断の対象とされた」(塩野・前掲書139-140頁)というのであれば裁判所が自己の事実認定と置き換えることになり、裁量が否定されることになるのではないかという疑問なり批判があるかもしれない。しかし、そもそも、弁論主義の下では、当事者の主張しない事実は裁判の基礎にしてはならないのであるから、その意味では、事実認定に関する裁量は裁判所によって尊重されるのである。弁論主義の下では、事実認定に関する裁量に対する統制は、むしろ納税者の主張立証活動にかかっているというべきであろう。 もっとも、自由心証主義に相当する判断の余地といっても、①裁判官による個別事案における事実認定と②行政庁による大量反覆的な事実認定とでは、判断基準に異なるところがあると考えられる。すなわち、②については、①において妥当する経験則や論理則だけでなく、それらを専門分野ごとに一般化して定立された事実認定に係る裁量基準(例えば、固定資産税の分野における固定資産評価基準、相続税・贈与税及び地価税の分野における財産評価基本通達)が妥当すると考えられるのである。 事実認定に関する裁量については、税法の分野では、古くから、課税要件事実の認定に関する実質主義の問題が論じられてきた(前掲・拙著【57】参照)。この連載では、課税要件事実の認定に関する裁量の限界ないし統制について、「税法上の目的論的事実認定の過形成」の観点から検討したが(第8回、第9回、第11回参照)、今後、そのような検討を更に続けていくと同時に、事実認定に関わる手続(税務調査、理由附記等)について手続的保障原則(前回参照)の観点からも裁量統制を検討する必要があると考えるところである。 なお、金子宏教授は、合法性の原則の下では「納税義務の内容や徴収の時期・方法等について租税行政庁と納税義務者との間で和解なり協定なりをすることは許されない(ただし、立法で要件を明定して和解を認めることはできる)。・・・・・・このような和解や協定は無効であって拘束力をもたない、と解される」(同・前掲『租税法』87頁)と述べ、これに続けて次のとおり述べておられる(同88頁)が、そこで示された見解は、事実認定に関する裁量の許容性を前提とするものと解される。 Ⅳ おわりに 今回は、租税法律主義の内容のうち税法の執行上の原則として合法性の原則についてその性格(「出自」)・意義を検討し、その結果として、合法性の原則が、法律による行政の原理という租税法律主義の基本的性格を受け継ぎ、租税法律主義の民主主義的再構成及び債務関係説的再構成を通じて、税務行政上の取扱いのうち納税者にとって不利な取扱い(課税処分、徴収処分等)についてだけでなく有利な取扱い(納税義務の減免、徴収猶予等)についても法律の根拠と効果裁量の否定を要求する法原則であることを確認した。 その上で、課税要件法定主義及び課税要件明確主義も視野に入れて、【補論】として、税務行政の裁量に対する統制について検討し、要件裁量に関連して課税要件事実の認定に関する裁量に対する統制が課題として残されていることを指摘した。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第13回】 「グループ通算制度の開始・加入」 公認会計士 佐藤 信祐 《第9章:グループ通算制度》 1 グループ通算制度の開始・加入 (1) 時価評価 グループ通算制度を開始した場合には、グループ通算制度を開始する前の事業年度において、時価評価課税と繰越欠損金の切捨てが行われる(法法64の11、57⑥)。さらに、グループ通算制度を開始した後に、他の法人に対する通算親法人による完全支配関係が成立した場合には、当該他の法人がグループ通算制度に加入するため、グループ通算制度を開始した場合と同様に、グループ通算制度に加入する前の事業年度において、当該他の法人の保有する資産に対する時価評価課税と繰越欠損金の切捨てを行うことになる(法法64の12、57⑥)。 グループ通算制度のうち、グループ通算制度の開始に伴う時価評価については、組織再編税制との整合性が配慮されているとは言い難いが、グループ通算制度の加入に伴う時価評価については、組織再編税制との整合性が配慮されているということが言える。具体的には、以下の通りである。 第1回で解説したように、いきなり通算子法人となる法人の発行済株式の全部を取得するのではなく、通算子法人となる法人の発行済株式総数の100分の70に相当する数の株式を取得し、数ヶ月後に100分の30に相当する数の株式を取得すれば、加入の直前に支配関係があることから、上記 (ⅱ)の ハの(ニ)、(ホ)の要件を満たす必要がなくなるという問題がある。現行制度上はやむを得ないのかもしれないが、組織再編税制との整合性を図るという意味では、第6回でまとめたような組織再編税制の抜本的な見直しが必要になる。 さらに、上記 (ⅱ)の ハでは、金銭等不交付要件及び株式継続保有要件が課されていない。通算子法人の旧株主等が通算親法人株式を取得するわけではないことから、当然のことなのかもしれないが、組織再編税制との整合性を考えると、組織再編税制において金銭等不交付要件を課す必要がないということが言える。もちろん、共同事業を行うための組織再編成であれば、被合併法人の株主等に対して金銭を交付してしまうと共同事業性がなくなってしまうことから、金銭等不交付要件を課す必要はあるが、グループ内の組織再編成であれば、金銭等不交付要件を課さないほうがグループ通算制度と整合的であるということが言える。この点については、第6回でまとめたように、完全支配関係内の適格組織再編成を廃止するとともに、支配関係内の組織再編成に対して金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件及び事業継続要件を課さないようにすることで達成することができる。 なお、細かい点であるが、事業関連性要件における「子法人事業」は、通算子法人となる法人にとっての主要な事業ではなく、通算子法人となる法人の属するグループ内における主要な事業であり(※1)、「親法人事業」は、通算親法人だけでなく、他の通算法人が行う事業も含まれる。そうなると、事業規模要件の判定において、グループ全体で判定するのか、法人ごとに判定するのかという点が問題になり、子法人事業を行う法人が複数ある場合には、そのすべての法人の特定役員が退任した場合に限り、特定役員引継要件に抵触するのかが問題となる。この点については、子法人事業の定義からは読み取りにくいが、親法人事業の定義として、「当該通算親法人又は当該完全支配関係を有することとなる時の直前において当該通算親法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人(括弧内省略)の完全支配関係発生日前に行う事業のうちのいずれかの事業(法令131の16④)」と規定されており、法人ごとに判定することが読み取れることから、子法人事業においても、法人ごとに判定すべきであると考えられる。 (※1) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』913頁(注3)(財務省ホームページ) ただし、本来であれば、グループ全体の事業関連性を判定するのであれば、事業規模要件についても、グループ全体で判定すべきであると考えられる。そして、グループ全体で売上金額を判定するのであれば、他の通算法人に対する売上金額を除外する必要がある。さらに、特定役員引継要件についても、子法人事業を行う法人の特定役員では対象が広くなりすぎることから、通算子法人の特定役員のすべてが退任した場合に限り、特定役員引継要件に抵触するという制度にすべきであろう。 このようなグループ全体で事業関連性要件及び事業規模要件を判定するという考え方は、持株会社を合併法人又は株式交換完全親法人とする吸収合併又は株式交換において、合併法人又は株式交換完全親法人の100%子会社を含めたうえで事業規模を判定することができるようになることから、組織再編税制においても導入すべきであると考えられる。 (2) 繰越欠損金 グループ通算制度の開始・加入において、時価評価課税の対象にならない法人は、当該法人の個別所得の範囲内でグループ通算制度の開始・加入前の繰越欠損金を使用することができるが、時価評価課税の対象になる法人がグループ通算制度の開始・加入前に有していた繰越欠損金は切り捨てられることになる(法法57⑥)。グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入した場合には、共同事業要件を満たさない法人が時価評価課税の対象になることから、不当な繰越欠損金の利用を防ぐために、グループ法人税制に加入する前に有していた繰越欠損金を切り捨てるべきである。 そして、時価評価課税の対象にならない法人についても、組織再編税制との整合性の観点から、支配関係が生じてから5年以内であり、かつ、みなし共同事業要件を満たさない場合には、一定の制度が設けられている(法法57⑧、64の6①、64の14①、法令112の2③④、131の8①②、131の19①②)。 このうち、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合に繰越欠損金が切り捨てられ、かつ、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課された制度趣旨として、欠損金又は含み損を有する法人を買収して通算グループに加入させた後に、通算グループで行っていた黒字事業をその法人に移転すること又は新たに黒字事業を開始することによって特定欠損金の制度を潜脱することを防ぐためであると説明されている(※2)。さらに、多額の減価償却費が生じる場合についても、法定耐用年数が経済的耐用年数より短い等の理由により、多額の減価償却費を生み出す資産を有する法人を買収する租税回避を防ぐために、通算グループ内で生じた欠損金額について、損益通算の対象外としたうえで、特定欠損金として取り扱っている(※2)。 (※2) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』908頁(財務省ホームページ) これらの取扱いは、グループ通算制度ならではの議論であり、組織再編税制において導入する必要はない。ただし、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合の取扱いについては、グループ法人税制において導入する余地はある。 本連載で何度か触れたように、支配関係の定義を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係」としたうえで、グループ法人税制の対象を支配関係のある法人との取引にまで広げるべきであると考えている。このような制度になった場合には、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合の取扱いと欠損等法人の制度(法法57の2)を整合性の保たれた制度にすべきであると考えられる(ただし、個人による支配関係が生じる場合があるため、欠損等法人の規制を完全に廃止することは難しいと思われる)。 * * * 次回では、グループ通算制度の離脱に伴う時価評価について解説する予定である。 (了)
〈令和2年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「ひとり親控除・寡婦控除及び所得金額調整控除に関するQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 シリーズ最終回は、年末調整実務について、本年分から適用される改正事項を中心にQ&A形式で解説を行う。 取り上げる事項は以下のとおりである。 なお、以下の拙稿にも年末調整に関係する事例を紹介しているので、あわせてご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 《ひとり親控除・寡婦控除①》 - 解 説 - 第2回【1】で解説したとおり、ひとり親控除の創設と寡婦控除の見直しに関しては、令和2年分に限り源泉徴収と年末調整で取扱いが異なる。令和2年分の源泉徴収は改正前の制度に基づいて徴収額を計算し、年末調整では改正後の制度に基づいて年税額を計算する(附則8⑦)。 このとき、改正前後で取扱いが変わる者は、令和2年の最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に扶養控除等(異動)申告書を提出しなければならない(附則8③~⑤)。 第2回で確認したフロー図のとおり、改正前の寡夫に該当する者は、事実婚の状況になければ改正後のひとり親に該当する。この場合、年末調整時の申告は不要であるので、特段の手続なく年末調整でひとり親控除の適用を受けることができる。 なお、年末調整時の申告は不要であるが、控除額は改正前の寡夫控除(27万円)から、改正後のひとり親控除(35万円)に引き上げられているので、注意が必要である(所法81①)。 《ひとり親控除・寡婦控除②》 - 解 説 - ひとり親又は改正後の寡婦の要件には、事実婚の状況にないことが含まれている(所法2①三十イ(3)、ロ)。また、改正後は、すべての寡婦に合計所得金額500万円以下という所得要件が設けられている(所法2①三十イ(2)、ロ)。これらの要件を満たしていない場合には、令和2年分以後の所得税においてひとり親控除又は寡婦控除の適用を受けることはできない。 改正前後で取扱いが変わる具体的なケースについては、以下の拙稿をご参照いただきたい。 《所得金額調整控除①》 - 解 説 - 第1回【5】で解説したとおり、所得金額調整控除には2つの種類(①子ども等を有する場合の調整、②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整)があり、①の調整は年末調整においても適用を受けることができる(措法41の3の3①②、41の3の4)。 年末調整で①の調整の適用を受ける場合、給与等の収入金額が850万円を超えるかどうかは、年末調整の対象となる主たる給与等のみを対象として判定することとされている。すなわち、年末調整の対象とならない従たる給与等(主たる給与等の支払者以外の給与等の支払者から支払を受けた給与等)は含めずに判定することになる。 よって、年末調整の対象となる主たる給与等が850万円を超えていなければ、年末調整で①の調整の適用を受けることはできない。 なお、確定申告においては、その年のすべての給与等の合計額により適用の有無を判定することになる。 《所得金額調整控除②》 - 解 説 - 2つの所得金額調整控除のうち②の調整は、年末調整で適用を受けることはできない(措法41の3の4①)。しかし、第2回【4】で解説したとおり、基礎控除申告書の合計所得金額を計算するときには、②の調整も考慮する。 また、基礎控除申告書において給与所得の金額を計算する場合には、年末調整の対象とならない従たる給与等も含めて計算した①の調整の額を控除する(※)。 (※) 年末調整において給与等の支払者が算出する①の調整は、年末調整の対象となる主たる給与等のみを対象として計算した額である。 本ケースの場合、基礎控除申告書の「本年中の合計所得金額の見積額」の計算過程は、次のとおりとなる。 《所得金額調整控除③》 - 解 説 - 所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)は、給与等の収入金額が850万円を超える居住者のうち、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当する場合に適用される(措法41の3の3①)。 上記(イ)については、対象が控除対象扶養親族に限定されていないことから、16歳未満の扶養親族である子を有する場合にも適用を受けることができる。 また、第2回【4】にも記載しているが、所得金額調整控除は扶養控除とは異なり、要件を満たしていれば夫婦双方で適用を受けることができるという点にも注意しておきたい(所法85⑤、措通41の3の3-1)。 今回の改正点については、国税庁ホームページで公開されている下記FAQも参考にされたい。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第6回】 「家屋の一部を賃貸している場合」 -店舗兼住宅等の居住用部分の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは2階建の家屋のうち、1階部分を自己の居住の用に供し、2階部分は他人に賃貸していました。 本年、その賃借人が立ち退いて直ぐに、その家屋をその敷地とともに売却したところ多額の譲渡損失が発生し、銀行で住宅ローンを組んで新宅を購入して、現在、居住の用に供しています。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A Xの居住用部分に対応する譲渡損失のみ、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 賃貸していた部分は、居住の用以外の用に供されていることから、その賃貸に係る家屋部分とそれに対応する土地部分は、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができません(措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住用部分の判定)、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第47回】 「相続税の外国税額控除と日米相続税条約」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(無制限納税義務者)は、夫から相続により米国の不動産を取得しました。私の日本における相続税は、配偶者の相続税額の軽減により納税額は生じませんが、私も夫も米国の非居住者であることから米国において多額の遺産税が生じるようです。何かいい節税方法はありませんか。 ▷相続税の外国税額控除 相続税の外国税額控除とは、相続又は遺贈により取得した財産について、日本以外の財産所在地において、その地の相続税に相当する税が課されたときは、限度額の範囲内で、その課せられた税額が控除できるものである(相法20の2)。 その財産のある地の相続税に相当する税であることから、被相続人について、外国の相続財産についてその国以外の第3国で課された相続税額までは控除することが認められていない。 また、相続税に相当する税であることから、たとえば、相続税の代わりに被相続人の最終年度において時価で相続財産を譲渡したものとみなして税が課されるような制度の場合、その課された税は相続税というより譲渡所得税のようなものであるから相続税の外国税額控除の対象にはならないと考えられる。 外国財産の場合、評価額は現地通貨から円に換算しなければならないが、財産の場合は、相続開始時のTTB(売却時の為替レート)(評基通4-3)が基準であるが、外国税額控除の対象となる外国税額の場合は、その納付すべき日のTTS(取得時の為替レート)(相基通20の2-1)となる。 ▷控除限度額 所得税や法人税と同様に相続税の外国税額控除においても控除限度額がある。控除限度額は次の計算式で算出する(相法20の2、相基通20の2-2)。 したがって、配偶者の税額軽減の適用を受けた結果、納付すべき相続税額が0となった場合、相続税の外国税額控除を適用することはできない。 ▷実は相続税の外国税額控除を利用する相続人は少ない 所得税や法人税と比較すると相続税の外国税額控除の規定はシンプルであるが、実際に外国税額控除を適用した相続人はどのくらいいるのだろうか。国税庁が公表した平成30年度の統計情報によると、平成30年中に相続開始となった被相続人から財産を取得した者について、令和元年10月31日までに申告をした相続人のうち算出相続税額のあった相続人は315,925人であったが、そのうち外国税額控除の適用を受けた相続人は82人である。つまり、約0.026%と非常に少ない。しかし、外国税額控除額の総計が14億1,100万円であることから、相続人1人当たりの外国税額控除額は約1,700万円と高額になる。 国外財産を相続により取得した相続人の数はおそらく増加傾向にあるが、外国税額控除の適用を受けた相続人が少ないのは、相続財産に占める国外財産が少ないというよりも、高額な国外財産を持っている人が富裕層に偏っていることと、相続税が課せられる国が限定されることが考えられる。 ▷米国の遺産税 米国の相続のシステムは日本と異なり、相続により被相続人の財産がいったん遺産財団に移行するシステムなので、相続税の体系も遺産税体系となる。米国では連邦遺産税と州遺産税があるが、連邦遺産税の場合は、被相続人の生前の贈与と相続を合算してそこから基礎控除を差し引いて税額を計算することになる。 米国の居住者(又は市民権のある者)である被相続人の基礎控除額は、1,158万ドル(2020年)と巨額である。他方、非居住者の場合は6万ドルに限定される。日本に居住している日本人が米国に遺した財産に係る遺産税の基礎控除額は、連邦遺産税の原則に従うと6万ドルとなるから6万ドルを超える相続財産が米国にある場合は遺産税が課される可能性がある。 ▷日米相続税条約 日本は米国との間においては相続税や贈与税についての租税条約を締結している。相続税や贈与税に係る租税条約は米国に限定されている。この租税条約により米国の居住者(又は市民権のある者)に認められている基礎控除に2重課税となった米国の財産の価額が相続財産全体に占める割合を乗じて計算した金額までは控除が認められることになる(日米相続税条約4)。 この制度を利用することにより、米国での遺産税の納付額を減額させることは可能であるが、申告期限(原則、被相続人の死亡日から9ヶ月以内)に相続に関する情報を米国のIRS(内国歳入庁。日本の国税庁に相当)に提供する必要がある。 なお、日米相続税条約の適用を受けることができるのは連邦遺産税であり、州の遺産税には適用されない(日米相続税条約1(1)(a))。 * * * このような遺産税の減額で、税理士ができることは、日本の相続税の申告に必要な書類を集め、英文に翻訳して、現地の専門家に送付し、質問があったら対応することである。顧問先から相談があった場合は期限も決まっており、翻訳という追加作業もあることから早めに対応すべきである。 (了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第7回】 「重加算税における『隠蔽』又は『仮装』の意義」 弁護士 下尾 裕 本稿からは、加算税の中でも最も実務的論点の多い重加算税、その中でも重加算税の要件である「隠蔽」又は「仮装」の意義を取り上げる。 1 重加算税の概要 本連載【第6回】でも触れたとおり、重加算税は過少申告等を行った納税者等に「隠蔽」又は「仮装」等がある場合における加重制裁として位置づけられている。このような重加算税の性質上、重加算税が賦課される場面においては、基礎となる過少申告加算税、無申告加算税又は不納付加算税は賦課されない。 重加算税の税率等の概要を整理すると以下のとおりとなる。 (※) 重加算税は、増差税額のうち、「隠蔽」又は「仮装」が存在した部分についてのみ賦課される。また、過少申告加算税又は無申告加算税において増差税額が50万円(過少申告の場合は当初申告税額といずれか多い方の金額)を超える場合の加算部分が存在する場合については一定の調整がなされる(国税通則法施行令第27条の3第1項・第2項)。 なお、地方税において重加算税に相当するものとして、重加算金が賦課される取扱いとなっている。 2 重加算税の課税要件及び適用除外事由 (1) 重加算税の課税要件 重加算税の課税要件は、端的には、無申告、過少申告又は源泉税の不納付があった場合において、①「隠蔽」又は「仮装」行為(以下「仮装隠蔽行為」という)があること、②当該行為が「納税者」の行為として行われたことである。これらのうち、前者は、重加算税の前提となる行為内容に関する要件、後者は当該行為の行為主体に関する要件であるが、詳細については、本稿も含め回をまたぎつつ、改めて説明する。 (2) 重加算税の適用除外 重加算税は、例外的に、以下の場面では課税されない。 ただ、重加算税は、上記のとおり仮装隠蔽行為の存在を前提とするものであることから、納税者自身が自ら過少申告等の存在を明らかにすることは想定されず、それゆえ、必然的に税務調査後の修正申告又は更正処分により増差税額が発生した場合に賦課されることが大半であり、現実には②の適用場面は限定されている。 これらの適用除外要件の意義については、仮装隠蔽行為が前提となる重加算税の賦課の場面で問題になることは少ないが、基本的な考え方については、【第6回】の過少申告加算税の説明において述べたところと同様と考えて差し支えないと思われる。 なお、上記①について、国税通則法第68条第1項は、過少申告について仮装隠蔽行為があった場合について、「正当な理由がある場合」を適用除外事由としては定めていない。無申告等の場合と比較してこのような差異を定めている理由は明確ではなく、実務的に「正当な理由」を主張するケースは多くないと思われることから実務的な影響は軽微であるものの、念のため留意が必要である(関連する判例として、最高裁平成18年4月25日判決・民集60巻4号1728頁、TAINSコード:Z256-10377)。 3 仮装隠蔽行為とは何か ここでの仮装隠蔽行為は、国税の課税標準や税額計算の基礎となるべき「事実」につき、仮装隠蔽を行うものである。このうち、仮装行為の典型例としては、二重帳簿作成、売上除外、架空経費の計上、隠蔽行為の典型例としては他人名義による取引、虚偽答弁等が想定される。 以下においては、仮装隠蔽行為に関連する問題点の概要を整理してみたい。 (1) 納税者にどの程度の認識が必要か この点については、最高裁昭和62年5月8日判決・税資158号592頁(TAINSコード:Z158-5922)は、以下のとおり判示して、前提となる行為そのものの認識は必要だが、過少申告そのものの認識は不要という整理を行っている。 このような判例の考え方は、過少申告の「故意の立証は不要」(志場喜徳郎他「国税通則法精解(平成31年改訂)」(大蔵財務協会、2019年)P813以下)という見解に依拠するものと想定される国税当局との間ではやや温度差がある可能性があるものの、概ね現在の実務通説を形成しているものと考えられる。 (※) 下線筆者 (2) 仮装隠蔽行為の分水嶺 上記で述べた重加算税が賦課される場面の典型例はいずれも納税者が積極的な工作を行う場面であり、これらの場合について重加算税が賦課されることについては概ね異存はないものと思われる。 一方、実際に、納税者において重加算税の適法性が争われるケースにおいては、多額の過少申告が行われているものの、典型的な工作行為が存在しないケースも多く、加重要件としての仮装隠蔽行為の有無が争いになる場合が多い。 ① 判例の考え方 最高裁平成7年4月28日判決・民集49巻4号1193頁(TAINSコード:Z209-7518)は、会社役員が株式売買にかかる雑所得につき、事前に納税が必要になる場合等について説明を受け、顧問税理士からの再三の確認を受けたにもかかわらず、当該税理士に所得がないと回答した上で、申告をしなかったという事例において、以下のとおり判示した上、上記税理士との関係でのやりとりを「特段の行為」とみて重加算税の賦課を認めており、この判例の考え方が現在の実務通説であるとみてよいと考えられる。 (※) 下線筆者 ② 最近の重加算税取消事案 上記のとおり、仮装隠蔽行為かどうかの判断においては、上記「特段の行為」の有無を前提に判断するという枠組みそのものは固まりつつあるが、実際の適用においてはなお曖昧さを払しょくできているとはいいがたい。 特に近年、計上時期(「期ずれ」)を問題にする事案等において、当該売上又は費用の前提となる請求書のやりとりが仮装隠蔽行為であるかどうかが問題になる事案がある。 最近の裁決事例を例にとると、賃貸用建物に発生した雨漏りを防止する修繕工事について、建物の賃貸人である会社の代表取締役が、工事を発注した事業年度の終了の日までに当該工事が開始すらしていないことを認識した上で、修繕工事の施工業者に依頼して納品日欄に本件事業年度内の日付を記載した請求書を発行させ、修繕費を損金の額に算入したという事案において、国税不服審判所令和2年3月10日付裁決(金沢支部 裁決番号:令010009)は概ね以下のように判示して、請求書の発行が仮装隠蔽行為であるとしてなされた重加算税の賦課処分を一部取り消している。 この裁決では、請求書が発行された経緯を詳細に認定した上で、①請求書発行時の発行者の認識、②請求書の記載内容に虚偽が含まれているかといった点に着目をして仮装隠蔽行為の存在を否定している。 結局のところ、いかなる行為をもって仮装隠蔽行為としての「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」を認めるのかは総合判断とならざるを得ないが、納税者の立場で重加算税の賦課を争うにあたっては、上記裁決における請求書の発行等といった外形的事情について、過少申告を意図したものでなかったことを基礎づける合理的な説明ができるかどうかが鍵になるものと考えられ、本件のようなケースは1つの分水嶺として実務上の参考になるものと思われる。 * * * 次回は、重加算税における「納税者」の意義を中心に解説を行う。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例92(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除(措法42の12の5①②) 青色申告法人が、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、次の要件を満たすときは、「雇用者給与等支給増加額」(給与等支給総額の前年度からの増加額)の15%相当額の税額控除が受けられる。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。なお、中小企業者等については③に該当しない場合でも特別控除の適用が受けられる。 ◆特別控除の適用要件(措法42の12の5⑤) 「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」は、確定申告書等に特別控除の対象となる「雇用者給与等支給増加額」、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細並びに「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。 この場合において、控除される金額の計算の基礎となる「雇用者給与等支給増加額」は、確定申告書等に添付された書類に記載された「雇用者給与等支給増加額」を限度とする。したがって、更正の請求による「雇用者給与等支給増加額」の訂正は認められない。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第42回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 イ 役務提供 他方、役務提供について、法人税法22条の2第4項は、「その提供をした役務につき通常得べき対価の額」としており、どの時点の対価の額であるかという点を明記していない。 このことから、「資産の販売又は譲渡に係る『収益の額』とすべき資産の『時価』に関して、時点を示して『資産の引渡し時における価額』と規定するのであれば、本来は、役務の提供に係る『収益の額』とすべき役務の『時価』に関しても、同様に、時点を示して規定するべきである」という批判も示されている(朝長・前掲論稿25頁)。 収益の計上額に係る時価の測定時期として約定日などの近接日を採用する余地がないのかという点について、今後争点となる事例が登場する可能性は否めない。もっとも、法文の「通常得べき対価の額」という部分において、役務提供がいつなされたものであるかといった時間的要素を考慮するという見解が成り立つ可能性もある。 また、法は、「その提供をする役務」ではなく「その提供をした役務」としており、その役務が実際に提供された(費消された)時点の時価で益金算入することを求めているというような解釈も検討の余地がある。 これは、役務は、資産と異なり、提供の時に消費されると考えられるため、「提供の時における」と時点を明示して特定する必要がなかったとする見解(片山智裕『ケーススタディでおさえる収益認識会計基準』36頁(第一法規2019)参照)と接続する解釈である。 この点について、法人税法22条の2第4項は、「役務提供時に」通常得るべき対価の額に相当する金額と規定するものであるという見解も示されている。 例えば、酒井克彦教授は、法人税法22条の2第4項について、「収益の額は、『資産引渡時の価額』または『役務提供時に通常得るべき対価の額に相当する金額』と規定する〔下線筆者〕」と説明される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕』20頁(中央経済社2018)、同『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』226頁(中央経済社2019)。谷口勢津夫『税法基本講義〔第6版〕』378頁(弘文堂2018)も同旨)。 かかる説明の根拠は必ずしも明らかではないが、法文に明記されていない以上、例えば、「通常得べき」対価の額とは、時間的なタイミングとしては「役務提供時」を基準とするものであるといった補充的な解釈を施したものと思われる。 ところで、法人税法22条による無償取引の収益計上とセットで考慮されるべき寄附金の損金不算入規定である法人税法37条は、その7項において、「当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする〔下線筆者〕」と定めている。このことと比較すると、上述のとおり、資産の「引渡しの時」という時間的特定を意味する語が役務提供の部分には付されていないことは、意識的になされたというべきか。 ウ 法人税法61条の2第1項との比較 法人税法61条の2第1項は、有価証券の譲渡をした場合に、「その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」と「その有価証券の譲渡に係る原価の額」との差額を、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度において、譲渡利益額として益金算入し、又は譲渡損失額として損金算入することを定めている。後述するように、立案担当者は、同項が法人税法22条の2第4項の「別段の定め」であると整理している(ただし、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』255~257頁(中央経済社2019)は反対か)。 この規定と法人税法22条の2第4項を比較することで浮かび上がる諸点を指摘しておこう。 ① 法人税法61条の2第1項1号は有価証券という「資産」に関して、「有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」としている。他方、法人税法22条の2第4項は、資産の販売又は引渡しには「価額相当額」、役務提供には「通常得べき対価の額相当額」としており、資産と役務提供で益金に算入する額の表現を使い分けている。用語法の相違が有意であるのか、両規定の解釈論に影響があるのか、という疑問がある。 ② 法人税法61条の2第1項1号と異なり、法人税法22条の2第4項には「有償による」という語がなく、「相当額」という語がある、同項は「譲渡」ではなく目的物の「引渡」という語を使用している。用語法の相違が有意であるのか、両規定の解釈論に影響があるのか、という疑問がある。 ③ 法人税法61条の2第1項によると、契約日(約定日)基準で益金の額又は損金の額を計上することになるが、譲渡利益額又は譲渡損失額の算定のベースはその有価証券の「譲渡の時における」有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額である。同項の適用場面において、「譲渡をした日」、「引渡しをした日」、「契約をした日」の相違が今後、問題となり得る。 上記①に関して、法人税法22条の2第4項や同法61条の2第1項は、❶資産又は役務の時価そのものを対象としているのか、あるいは❷より広く、資産又は役務の時価をベースとしつつ取引条件等も考慮した場合に、第三者との取引において通常得べき対価の額(通常成立する価額)を対象としているのか、という疑問が生じることを指摘しておく。 ❷は、資産の時価をベースとしつつも、例えば、相手方が得意先であるか、消費者であるか、取引条件はいかなるものかなど種々の要素を考慮して、第三者との取引において通常得べき対価の額を想定している。 条文の文言や法人税法37条との整合性などの観点から❶を支持する見解が成り立つが、法人税法22条2項の趣旨や取引の実情という観点から❷を支持する見解もあろうか。 上記③に関して、立案担当者は、法人税法61条の2第1項は「約定時点の時価で」譲渡損益を認識するように定めたものである旨説明していることに留意が必要である(財務省『平成30年度 税制改正の解説』276~277頁参照)。同項1号は、譲渡利益額や譲渡損失額に係る算定要素の1つとして、「その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」を定めている。上記説明は、その譲渡する有価証券の「譲渡の時における」「通常得べき対価の額」は「約定時の時価」であると解しているのであろう。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第5回】 「“連結パッケージの提出期日”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第53回】 「製品保証引当金」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 家電量販店で電化製品を販売した場合に、当該製品が故障した時に一定期間内であれば無償修理等に応じる無償保証契約を締結するケースがある。このような場合に、当該契約の履行に要する(無償修理等の)支出に備え、製品・商品の販売時に製品保証引当金を計上する。今回は、製品保証引当金について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 過去に販売した製品・商品に故障等が生じた場合に、販売後の一定期間、製品・商品の修理や交換に無償で応じる無償保証契約を締結するケースがある。このような契約に基づいて負担する費用は、その発生が当期以前の事象に起因するため、過去の実績等から費用の発生見込額を合理的に見積もることができる場合には、製品・商品の販売時に「製品保証引当金」を計上する必要がある(企業会計原則注解18)。 そのため、無償保証契約に基づき無償で修理や交換に応じた過去の実績から、将来発生するであろう費用を見積る必要がある。例えば、過去3期分の(無償の修理や交換にかかった費用)÷(無償保証契約に係る売上)の平均を算定し、当期の無償保証契約に係る売上に乗じる等が考えられる。 【STEP1】で集計した過去の実績等に基づき、製品保証引当金を計上する。 (※) 製品保証引当金繰入額は、「売上原価」又は「販売費及び一般管理費」に計上する。 無償修理等に応じた際には、以下のとおり、製品保証引当金の取り崩しが必要である。 また、製品保証引当金の金額と実際に要した費用を比較し、次の決算時の見積りにあたって、より合理的に見積りが行えるように分析を行うことが望まれる。 (1) 「実際に要した費用=製品保証引当金の計上額」の場合 (※1) ここでは、修理等において外部の業者等に支払いが行われたと仮定し、現金及び預金勘定を使用している。 (2) 「実際に要した費用>製品保証引当金の計上額」の場合 (※2) 実態に応じて勘定科目を決定する。 (※3) 実際に要した費用と製品保証引当金計上額との差額。製品保証引当金繰入額と同じ区分(売上原価又は販売費及び一般管理費)に計上する。 (3) 「実際に要した費用<製品保証引当金の計上額」の場合 (※4) 実際に要した費用と製品保証引当金計上額との差額。製品保証引当金戻入益は、製品保証引当金繰入額と相殺して表示する。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)