外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第3回】 「外国人留学生(大学生)を社員として雇うとき (「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への変更)①」 ~手続き・制度の概要~ 社会保険労務士・行政書士 永井 弘行 1 「在留資格の変更許可申請」の手続きとは これまで外国人を社員として雇ったことのない会社の人事担当者や経営者にとって、「就労ビザの仕組み・制度は、よくわからない」ということが少なくありません。 このようなケースで、会社と本人(外国人留学生)が必要な手続きについて見ていきます。なお、留学生の就職先や従事業務によっては、「研究」や「教育」などの在留資格に変更する場合がありますが、以下では最もケースが多い「技術・人文知識・国際業務」の在留資格について説明します。 外国人留学生を社員として雇用する場合は、会社に入社する前に、外国人本人が「留学」の在留資格から、「技術・人文知識・国際業務」などの就労の在留資格に変更することが必要です。 これが「在留資格の変更許可申請」の手続きです。 「本人が用意する書類」、「会社が用意する書類」をそれぞれ準備し、入国管理局に申請します。3月卒業、4月入社の場合は、前年の12月から申請が受付されます。11月~12月には書類を準備して、12月~1月には申請するのが賢明です。 留学生の採用が決まり、内定通知を出している場合でも、入国管理局から就労の在留資格が許可されなければ、会社で勤務することができません。在留資格の許可を得ずに働くと、外国人本人だけでなく、会社も「不法就労」として罰せられることになります。 外国人留学生の雇用は、こうした点が日本人学生とは大きく異なります。日本人学生と全く同じようには雇用できない場合がありますので、注意が必要です。 2 就労を目的とする外国人の受入方針(日本の入国管理行政) 現在の日本は、移民を受け入れていません。これは、外国人が「どんな仕事でも良いから、日本で働きたい。」と希望しても、日本政府は、就労の在留資格や日本での在留を許可しない、ということです。 では、現在の日本の入国管理行政の考え方は、どうなっているのでしょうか。 (大阪外国人雇用サービスセンター作成資料より抜粋) このように、現在の入国管理行政は、「単純労働に従事することを目的とした在留資格」を設けていません。 例えば、外国人留学生がアルバイト先(飲食店、コンビニ、工場など)から仕事ぶりを認められて「卒業後は正社員として働きませんか?」と誘われても、入管法で定められた要件を満たしていなければ、就労の在留資格が許可されません。 日本人学生であればすぐに就職が決まるケースでも、在留資格が許可されないために外国人留学生は仕事に就けない場合があるのです。 3 留学ビザから就労ビザへの変更手続き 留学ビザから就労ビザへの変更に必要な手続きの概要について、5W1Hでまとめると、次のようになります。 4 入国管理局に申請する時期は 上述したように、「在留資格の変更許可申請」の手続きは、大学生など3月卒業で4月入社の場合、前年の12月から入国管理局で申請が受付されるのが一般的です。 入国管理局のQ&Aでは「日本国内の大学に在籍する留学生の場合は、卒業見込証明書の提出があれば、申請を受け付けることとします。」と書かれています。 なお、審査後に許可されて、新しい在留資格に変更されるのは、留学生が大学を卒業後に「卒業証明書」を入国管理局に提示した後になります。これは「大学(短大を含む)を卒業していること」が許可の要件になっているからです。 つまり12月以降に申請して、1月や2月に許可予定の通知を得ても、大学の卒業式が3月の場合、「技術・人文知識・国際業務」などの在留カードを得るのは、卒業式の日以降になります。 申請から許可までの時期を図示(イメージ図)すると、次のとおりです。 〈申請から許可までのイメージ図〉 (注) 入社予定日が決まっていても、在留資格変更が許可されなければ、就労できません。その場合は、入社日を後ろにずらす(許可日以降にする)ことが必要です。 5 在留資格の活動内容と許可の基準は 日本の大学を卒業した留学生が、「留学」から「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更するには、まず、日本で行う就労活動(会社での業務内容)が、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に当てはまることが必要です。 入管法の別表第一の「本邦において行うことができる活動」として、次のように書かれています。 つまり、「大学で専攻した知識や技術を必要とする業務」、または「外国人の語学力を必要とする業務」に従事することが必要です。 このように、入国管理局の審査では、まず、「どのような業務に従事するか」が重要なポイントになります。 次に、入管法や基準省令で定められた要件を満たしていることが必要になります。 主な要件は次のとおりです。 次の表をご覧ください。 〈入管法第7条第1項第2号(入国審査官の審査)の基準を定める省令(基準省令)の要旨〉 (注) それぞれの職種は、あくまでも例示です。会社で従事する業務内容と、大学・専修学校等で履修した科目等の専門的知識、技術との関連性があること、入管法の定める基準を満たすことが必要です。 入国管理局の審査は、個別の内容により判断されます。詳細は申請先の入国管理局に確認することが重要です。 少し専門的になりますが、この表の「活動内容」の欄に書かれていることを『在留資格該当性』と言います。「在留資格が許可される活動内容か(従事業務か)」ということです。 また、「許可基準」の欄に書かれた内容を『基準適合性』と言います。 「留学」から「技術・人文知識・国際業務」に変更するときは、入管法で定められた『在留資格該当性』と『基準適合性』の両方を満たさなければ、許可されないということです。 極端な例ですが、大学の経営学部でマーケティングを専攻した留学生が、コンビニのレジ担当者として正社員になることを希望しても、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は許可されません。入国管理局は、コンビニのレジ担当の業務は「人文科学の分野に属する技術または知識を要する業務」ではない、と判断するからです。 一方、小売業の会社で、経営学部の留学生が店舗経営や企画、マーケティングの担当者として勤務する場合は、「人文科学の分野に属する技術または知識を要する業務」ですので、許可される可能性があります。この場合でも、給料の水準や、会社の事業の安定性(決算状況)、継続性、その他の要件が、個別に審査されます。 6 留学生の採用選考時に注意・確認することは 在留資格の活動内容と許可の基準を理解したうえで、面接や採用選考を行います。 まず会社は、「在留資格が許可される範囲の従事業務」を予定します。つまり今回の場合、「専門的・技術的な分野の従事業務」や「外国人の語学力を必要とする業務」の採用を予定するということです。 次に、履歴書等の情報をもとに、大学の専攻(学科、専門分野)や職歴・実務経験年数の有無などで、在留資格が許可される可能性のある外国人を選考します。入社後の従事業務が「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格の基準を満たしているか、という視点で確認します。さらに面接では、学歴、専攻、前職がある場合の従事業務や経験年数などの詳細を確認します。 なお、内定を出すときには、あらかじめ「就労の在留資格が許可されなければ、内定は無効」である点を伝えるのが賢明です。 〈外国人の採用手続き:入社までの主な流れ〉 7 在留資格の変更申請に必要な書類は 最後に、入国管理局に申請する書類は、何が必要かを見ていきます。 入国管理局は、留学生と会社の両方を書類審査します。 現在の制度では、会社は事業規模等に応じて次のように「カテゴリー1」~「カテゴリー4」に区分され、上場企業(カテゴリー1)や、年間で1,500万円以上の所得税を支払っている会社など(カテゴリー2)の場合には、申請時の必要書類が少なくて済みます。 具体的には、下記(1)、(2)の書類のうち、在留資格変更許可申請書以外の大半の提出が免除されます(ただし、ケースによっては、申請後に書類の追加提出を求められることがあります)。 一方、年間で支払う所得税の総額が1,500万円未満の規模の会社など(カテゴリー3、4の会社)は、下記(1)、(2)の書類をそろえて申請する必要があります。 8 規模の大きな会社は提出書類が免除される 先述のカテゴリー1~4の関係を図示すると、次のとおりです。 在留資格の変更許可申請では、外国人と会社の両方が審査されます。ここで、上場企業(カテゴリー1)などは、書類提出が免除されています。「会社の書類審査を行うまでもない」ということです。 〈在留資格変更許可申請の提出書類 「技術・人文知識・国際業務」〉 (※) 法務省ホームページを元に筆者作成 * * * 今回は制度の全体像について見てきました。次回は、具体的な事例や、より詳しい事項について説明する予定です。 法務省入国管理局が公開しているガイドラインなどは次のとおりです。 【参考】 ▷在留資格関係公表資料 ▷留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」への変更許可のガイドライン ▷「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について (了)
これからの会社に必要な 『登記管理』の基礎実務 【第4回】 「定期メンテナンスの入り口」 -定款を活用した任期到来の時期の特定①- 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 はじめに 登記管理をするうえで、役員改選の登記手続としての定期メンテナンスを中長期的にわたって漏れなく運用する視点が欠かせない。その流れを作るためには、①役員の任期到来の時期を特定することによって、定期メンテナンスの入り口を明確にし、つづいて②任期管理の体制づくりによって、中長期的な定期メンテナンスの実現を図る必要がある。 【例:役員の任期4年のイメージ図】 具体的には、まず自社や顧問先の会社の役員について直近の任期到来の時期を特定する。そのうえで、役員の任期が4年であれば、4年後、8年後、12年後・・・と、定期的に漏れなく役員改選の登記手続を行うために、任期管理の体制づくりに着手する。 最新の定款が必須 本稿では、①定期メンテナンスの入り口として、役員の任期到来の時期を的確に特定するうえで必須となる定款に着目して解説する。なお【第3回】で解説したとおり、定款には役員の任期規定がある。その定款を参照する際には、内容が“最新”であることが前提となる。 それでは以下のフローチャートに沿って、定款管理について確認してみよう。 【定款管理の簡易チェックフローチャート】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ①定款の有無 定款は会社の本店に備え置かなければならない(会社法第31条第1項)が、長年定款を外部に提出する機会がなく、紛失していることがある。もし定款の所在が不明である場合には、以下の表を参照して、外部から定款を入手できるかを検討する。 ②外部から定款を入手する方法 外部から定款を入手する方法をまとめると、次の通りである。 《原始定款》 会社の設立手続の一環で定款認証をした公証役場では、原始定款が20年間保存されている(公証人法施行規則第27条第1号)。役員改選の登記手続の時期をはじめて迎える比較的新しい会社は、原始定款と現在の定款の内容が一致することが多い。また定款の保存期間の観点からも、入手ルートの一つとして有力である。 《各種届出等で使用した定款》 士業による各種届出等で定款を使用する場合がある。例えば、司法書士では登記申請、税理士では税務署への届出、行政書士では許認可申請、社会保険労務士では助成金申請といった場面で定款が用いられることがある。 《登記申請の附属書類》 登記受付日から5年以内であれば、登記申請をした法務局に保存されており、閲覧することができる(商業登記規則第34条第4項第4号)。 《定款の所在が不明の場合》 上記いずれによっても定款を入手できない場合には、定款変更の株主総会議事録や登記記録等の情報を参考にして定款を全面的に復元することになる。 ③現行法に沿った内容で整備されているか 平成18年の会社法施行前の制度に関する表記が記載されている場合がある。もしそのような記載があれば、定款が長年更新されていないことを意味する。 【会社法施行前と現行法の用語の比較:例】 ④株式の整備 現行法の表記に定款を整備したり、紛失等により定款を全面的に復元したりするには、株主総会の特別決議を経る必要がある(会社法第309条第2項第11号・第466条)。株主総会の特別決議は、原則として、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければならない。 ここで、株主総会の特別決議が成立するか、株主構成や議決権数の割合をみてもらいたい。総議決権の3分の2以上の株式を有する株主の同意を得られるかどうかが一つの目安となる。 株主総会の特別決議に必要な株主の同意を得られないとなれば、商号や目的の変更等の定款変更や、合併や会社分割の組織再編等といった、会社の重要な意思決定を円滑に行えず、【第1回】でいう会社の履歴書が更新されない状態といえる。 この場合、会社の意思決定が滞りなく行われるよう、株主総会の特別決議の成立に必要な株式の整備が急務となる。詳しくは「株主管理」のテーマ時に解説する。 ⑤役員の任期変更に関する株主総会の決議があるか 株主総会の特別決議によって役員の任期を変更することができ(会社法第309条第2項第11号・第466条)、その旨を定款に反映する必要がある。任期は定款には記載されるが、登記記録で明示されるものではない。 定款は会社が自ら管理するものであり、なかには定款の更新が滞ってしまうことがある。定款が更新されないと、誤って古い内容を参照し、役員の任期到来の時期を見誤ってしまうおそれがある。 そこで、最新の定款をもとに任期等を精査するために、変更の決議ごとに定款の更新を行ったり、変更の決議の履歴を明示したりする等の工夫が求められる。詳しくは「議事録管理」のテーマ時に解説する。 ⑥定款と登記記録の内容が一致しているか 役員の任期の規定のほかに、定款と登記記録の記載が一致しているかを精査する。目的、商号、発行可能株式総数といった項目は、定款、登記記録いずれにも記載される項目である。登記はされているにもかかわらず、定款が更新されていない場合は、登記記録や、登記申請の添付書面である株主総会議事録をもとに定款に反映する。 * * * 以上、役員の任期到来の時期を的確に特定するために、任期規定のある定款を確認するだけでも、定款の保管状況や株主構成等、メンテナンスする項目が多岐にわたる点に着目してもらいたい。 次回は、最新の定款の内容を前提として、役員の任期到来の時期を特定する方法について引き続き解説していく。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第10回】 「死後に遺言書の無効が争われるケース(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問10] 【設問09】では、死後に遺言書の有効性が争われたケースにつき、遺言書の無効を主張する立場にたって検討した。 今回は、逆の立場、すなわち、遺言者本人及び有効な遺言書を残してもらうことにメリットを有する相続人の立場にたった紛争予防策、あるいは万一の場合に備えた準備事項を解説したい。 1 「遺言書を残す者/残してもらう者」ができることとは? 生前に遺言書を残した本人は、当然ながら、自分の死後には遺言書通りの遺産の承継が円滑に実現することを希望するだろう。 同様に、遺言者本人から生前に知らされていたかどうかはともかくとして、遺言書により遺産を相続する立場の相続人としても、遺言書の有効性を主張するのが通常であろう。 ところが、本人の死後に遺言書の有効性が争われる余地もあることは、【設問09】で見たとおりである。 そこで、遺言書を残す本人、もしくはこの者に遺言書を残してもらうことに利益を有する者としては、遺言書の有効性を確保するためにどのような予防策が取れるであろうか。 2 遺言書の有効性を担保するための方法(その1) -公正証書遺言にする 死後に争われにくい遺言書の作成を考えるのであれば、自分自身で作成する自筆証書遺言ではなく、公証役場にて公正証書遺言を作成すべきである。 公正証書遺言であれば、公証人のチェックのもとで遺言書が作成されるため、法律上要求されている記載要件を書き漏らす心配はない。また、不動産の相続等に関しては自筆証書遺言の場合には対象物件の特例の仕方が厳密ではない場合も多く、相続登記の申請の際に遺言書を使えない場合も多い。しかし、公正証書遺言であれば、通常、そのようなことはない。 加えて、遺言無効確認訴訟において必ず争点になると行ってよい「判断能力(遺言能力)の有無」の点も、公証人により遺言者本人の状態の観察・確認が行われ、判断能力には問題ないと判断されて初めて遺言書が作成されるのである。 他方、遺言書作成時に既に判断能力を完全に喪失しているようなケースでは、遺言書の作成に応じてくれないことは勿論である。 このように、遺言書の作成に公証人が関与することの大きなメリットの一つは、通常はなかなか決定的な証拠を確保しておくことが困難である遺言能力につき、有力な証拠を確保することできるということである。 遺言書が有効であると主張する側は、公正証書を作成した公証人がまだ存命であれば、この者に照会をし、公正証書遺言作成当時の遺言者の状態等につき回答してもらうことができる。回答内容は、遺言能力があったとする内容であろうから、遺言書の有効性を主張する側にとっては非常に大きな証拠となる。 同様に、必要に応じて、証人尋問において遺言書を作成した公証人に出廷してもらい、証言してもらうことも可能である。 なお、公正証書遺言を作成することを躊躇し、自筆証書遺言にこだわるケースにおいて当事者にその理由を聞くと、余計な費用がかかることを気にかけている場合がある。 公証人に支払う手数料は、遺言書作成時点における所有資産の総額に応じて異なる。通常の場合、概ね数万円から十万円前後程度の費用で作成できる(間に士業に入ってもらって条項等を調整していく場合は、その者に対する報酬が別途必要となる)。 これを安いと見るか高いと見るかはそれぞれであるが、前述のように死後に遺言書の効力を争われた場合の強力な備えが確保できると考えれば、決して高い費用ではないであろう。 3 遺言書の有効性を担保するための方法(その2) -各種資料を残す 以上に加えて、遺言書作成当時の遺言能力の存在を基礎づける資料、たとえば、①遺言書作成当時における医師の診断書、②入通院先の診療録、看護記録、③本人の状態を記録した映像や文書等といった資料を予め確保しておけば、より万全と言えよう。これら資料の確保については、解説編【第5回】を参照されたい。 加えて、④遺言書の有効性判断の一つの考慮要素とされる「遺言で定めた内容に至った動機・経緯」に関して、なぜ遺言者が今回のような遺言内容と決めたのかにつき、それまでの経緯(人間関係や生前贈与の有無・金額等を含む)や本人の心情等については、手紙に残すなどしておいてもらった方が良いであろう(これらを、遺言書末尾の付言事項に記載するケースもある)。 なぜならば、遺言書作成の動機・経緯は遺言者本人もしくは近親者しか知り得ない事項であり、後日にこれを記憶喚起し、証拠化しようとしても困難を伴うからである。 4 公正証書遺言であるにも関わらず、無効とされる場合があるか? 実際上、本人の死後に公正証書遺言が無効とされるケースは少数であるといえるが、裁判例を見ていると決して皆無というわけでもない。実際、公正証書遺言の無効を争う訴訟の件数は、判例データベースや公刊物等を見る限り、増加していると感じられる。 これらには、遺言書作成当時の診療記録を見ると認知症等による判断能力の減弱が見られるにも関わらず、遺言書作成時における公証人による遺言能力の確認が不十分であり、そのため遺言能力の存在に疑義が生じているというケースが多い。 公正証書遺言が無効とされた裁判例は公刊され、判例雑誌等でも取り上げられていることから、現在の公証役場においてはより一層、遺言能力の確認には慎重を期していると聞く。 たとえば、①公証役場に来た、あるいは病院における遺言者の身体の状態や行動をよく観察する、②遺言者とたわいのない雑談をし、その反応や受け答えの内容を観察する、③作成しようとする遺言書の概要を言えるかを確認する等した上で、それらの結果を執務記録に書き残しておくというようにである(記念撮影と称して、作成当日の遺言者の様子を写真撮影しておく公証人もいると聞く)。 遺言書を残す側としては、公証人にも遺言能力を十分確認してもらうことはもちろん、前記3で述べたような各種資料を生前から入手し、確保しておくことで万全を尽くすべきであろう。 (了)
コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第2回】 「社外取締役の活用の在り方について」 PwCあらた有限責任監査法人 シニアマネージャー 公認会計士 手塚 大輔 本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、ガバナンスへの取り組みを深化させる目的で策定されたものである。 今回は、CGSガイドラインから、「3.社外取締役の活用の在り方」を取り上げる。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。 〔社外取締役活用への提言〕 CGコードにおいて導入された、複数の独立社外取締役選任に関する原則(原則4-8)は、平成26年改正会社法で導入された、社外取締役を選任しない企業に説明責任を課す規定とともに、日本におけるコーポレートガバナンス改革を象徴する取り組みの一つといえる。 日本におけるコーポレートガバナンス改革は、日本再興戦略(2013年6月閣議決定)において、社外取締役の機能を積極活用することにより、攻めの会社経営を後押しすることが掲げられたように、日本企業の中長期的な収益性の向上によって、日本経済の停滞を打破するという成長戦略の重要施策の一つとして進められたものである。 CGコード導入から2年経過した現在、企業に期待されることは、複数の独立社外取締役の選任による「コンプライ」に満足せず、社外取締役を活用してコーポレートガバナンスを深化させることといえる。 すなわち、取締役会での議論を一層活性化させ、ステークホルダーとのエンゲージメントによって、取締役会における議論に対する支持を得て、十分な経営資源を成長戦略に投入することによって持続的な収益力を高めるという一連のプロセスを継続的に実行することである。 そして、取締役会の議論を充実させるために、社外取締役の知見・経験に基づく助言や監督が期待されている。 〔社外取締役の活用の在り方についてのガイドラインの内容〕 CGSガイドラインは、コーポレートガバナンスに取り組みたいものの、具体的に何をすれば有益なのかといった実務上の参考となるガイダンスを望む声に応えて、有益と考えられる検討事項や取り組みを紹介すべく取りまとめられたものである。すなわち、CGSガイドラインの内容は、企業に押し付けられるものではなく、自社に適したガバナンスについて議論する際に参考情報として活用されることが期待されていることに留意が必要である。 社外取締役の活用の在り方では、社外取締役の「活用に向けて」及び、社外取締役の「人材の拡充に向けて」について提言されている。 「社外取締役の活用に向けて」においては、①社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面、②社外取締役を探し、就任を依頼する場面、③社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面、④社外取締役を評価し、選解任を検討する場面の、それぞれに応じて企業が行うべきことを提案しており、さらに、【別紙2:社外取締役活用の視点】において具体的な提言を行っている。 「社外取締役の人材の拡充に向けて」においては、経営経験者が退任者・現役者を問わず、積極的に他社の社外取締役を引き受けることを検討することを提言している。これは、企業からは、社外取締役に経営経験者を望む声が多いが、その人材市場には十分な厚みが足りていないという現状認識を踏まえたものである。これには一企業の努力だけでは改善が困難であるため、ガイドラインを通じて広く働きかけを行ったものといえる。 以下、「社外取締役の活用に向けて」が提案する、4つの「検討の場面」及び場面ごとの「検討事項(ステップ)」について紹介していく。 場面1 社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆自社の取締役会の在り方を検討する。 ◆社外取締役に期待する役割・機能を明確にする。 ◆役割・機能に合致する資質・背景を検討する。 企業の置かれた状況は各社各様であり、取締役会の在り方も多様であることから、社外取締役の選任の要否、期待する役割・機能、人数・割合が異なりうることを認識することが必要である。したがって、目指すべき自社の取締役の姿を自覚的に整理することが有益であると提言している。 CGSガイドラインでは、次のように、取締役会の在り方において、(1)経営において社長・CEO に権限を集中させたいのか否か(横軸)、また、(2)取締役会でなるべく個別の意思決定まで行いたいのか否か(縦軸)という視点から検討する方法を参考として図示している。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「CGSガイドライン」p11より) 社外取締役に期待する役割・機能が明確でない場合には、社外取締役の候補者の選任や評価が困難になるため、これを明確にすることを提言している。CGSガイドラインでは、期待される役割・機能だけでなく、期待しない役割・機能も例示している。 次に、明確にした役割・機能に合致する資質・背景を検討することになる。ここでは、特に、社外取締役の活用を有効にするためには、経営経験を有する社外取締役の選任を提言していることに特徴がある。社外取締役に期待される役割・機能を一人の社外取締役が果たすことは難しいケースもあるため、その場合には多様な資質・背景を有する人材の組み合わせにより、社外取締役全体として機能させることも有益であるとしている。 CGSレポートと合わせて公表された「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」からは、社外取締役に他社の経営陣幹部の経験を求めるという回答が非常に多いことが示されたが、財務・会計や法務などの専門知識を期待する意見も相当程度あり、多様な人材の組み合わせにより社外取締役全体を機能させるという提言の背景を示すものとなっている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p99より) 場面2 社外取締役を探し、就任を依頼する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆求める資質・背景を有する社外取締役候補者を探す。 ◆社外取締役候補者の適格性をチェックする。 ◆社外取締役の就任条件(報酬等)について検討する。 CGSガイドラインp58には社外取締役候補者を探す選択肢が示されているが、それぞれに懸念すべき点があり、経営経験者が積極的に他社の社外取締役を引き受けることが望まれるという、社外取締役の人材の拡充への提言に繋がっている。 (経済産業省「CGSガイドライン」p58を基に筆者作成) 就任条件のうち報酬については、以下のような観点を検討すべきことが提言されている。 場面3 社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面 《検討事項(ステップ)》 ◆就任した社外取締役が実効的に活動できるようにサポートする。 社外取締役が活躍するために実施している工夫について、「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」では、取締役会以外の自由闊達な議論の場を設けているという回答が最多であった。また、独立社外者のみの会合はCGコード補充原則4-8①、筆頭独立社外取締役の設定は補充原則4-8②で示されている内容である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p101より) 場面4 社外取締役を評価し、選解任を検討する場面 《検討事項(ステップ)》 ◆社外取締役が、期待した役割を果たしているか、評価する。 ◆評価結果を踏まえて、再任・解任等を検討する。 社外取締役が常に優れているとは限らず、社外取締役の質の向上の観点からも期待される役割を果たしているかの評価が必要であり、また、社外取締役の評価を踏まえ、再任・解任等について検討すべきと提言している。また、社外のステークホルダーから見た場合に、会社内における社外取締役の活躍の状況を把握できる情報が乏しいため、このような情報を積極的に発信することや、社外取締役が株主等と対話する機会を設けることを提言している。 なお、就任期間の長さについて、事業に対する理解や経営陣への影響力などで好ましい点がある一方、会社からの独立性の維持の観点から疑念が生じる可能性があるため、定量的な就任期間の目安(例えば10年)を定めることや、社外者中心の指名委員会等を活用し再任・解任等の適否を判断することを提言している。 〔おわりに〕 CGSガイドラインのうち、社外取締役の活用の在り方は、別紙を含めるとガイドラインの多くの割合を占めている。これは、取締役会に対する監督機能の中心の一つとなるべき社外取締役の活用が重視される中で、実感のある形で活用が進んでいないという現状認識が反映されたものと考えられる。 コーポレートガバナンスは、中長期的な観点で企業の在り方を反映すべきものであり、間に合わせの対応が可能なものでもない、じっくりと腰を据えて取り組むことが期待されるものである。社外取締役の活用は、日本におけるコーポレートガバナンス改革における最重要の取り組みの一つであるが、多くの企業にとって、その取り組みはまだ始まったばかりである。 複数の社外取締役を選任後、直ちに業績の向上やステークホルダーの理解が得られなくとも、社外取締役の活用に効果がないと早計にするのではなく、CGSガイドラインや先進の事例を参考としながら、前向きで中長期的な取り組みが望まれる。 次号(第3回)では、「経営リーダー人材育成についてのガイドラインの概要」を取り上げる予定である。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第21話】 「未分割と更正の請求」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「これは・・・法の欠缼(けんけつ)では・・・?」 谷垣調査官は田中統括官の机の前で頸を傾げている。 「何が・・・問題だって?」 田中統括官は頭を掻きながら、うるさそうな顔をしてペンを止めた。第三部門の来月以降の実行(調査)計画等を策定していたところである。 「ええ・・・第2次相続に係る相続税の申告をした後、第1次相続について分割が確定したケースなんですが・・・」 谷垣調査官はすぐさま説明を始める。 田中統括官は事務計画の作成を諦め、仕方なく谷垣調査官の話を聞くことにした。 「それで、当初、第1次相続が未分割であったために、第2次相続の財産は、法定相続分50で申告したのですが、それが、後にゼロと確定したため、第2次相続の相続人乙・丙が更正の請求をできるのか・・・ということなのです。」 谷垣調査官は困ったような表情をする。 田中統括官は谷垣調査官の話を聞きながら罫紙に図を描いた。 「君の話では・・・こんな状況の申告をしたということだね。」 田中統括官は、自分の描いた図を見せる。 「そうです。甲は配偶者ですから、100の1/2である50が法定相続になります。そして第2次相続では、その50を子供2人が乙30と丙20で分割した・・・」 そこまで言うと、谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「例えば、配偶者甲の50が、遺産分割ではゼロに確定したとすると、第2次相続の財産はなくなるので、乙30と丙20に係る相続税については、還付がなされなければならない・・・そのためには、相続税法32条1項1号の規定に基づく更正の請求ができなければならない・・・しかし、これはダメなんですよね。」 谷垣調査官は恨めしそうに言う。 田中統括官は腕を組んで黙ったまま「税務六法」を開いた。 「この相続税法32条1項1号は・・・」 田中統括官は、条文を見ながら説明する。 「・・・同法55条の規定により分割されていない財産について、民法の規定による相続分の割合によって課税価格が計算された場合において、その後にその財産の分割が行われ、共同相続人がその分割により取得した財産に係る課税価格がその相続分の割合に従って計算された課税価格と異なったことのケースを掲げているから・・・」 さらに田中統括官は説明を続ける。 「・・・すなわち、相続税法32条1項1号に基づく更正の請求は、同号に規定する事由に該当した場合に限って認められるのであって、同号は、未分割の遺産につき、一旦相続税法55条の規定による計算で税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した相続税額が過大になるという相続税に固有の後発的事由について規定したものであって、その規定に基づく更正の請求は、当初の申告(第1次相続)に存在するとされる過誤の是正を「第2次相続」で求めるものではないと解されている・・・」 そう言うと、田中統括官は再びペンをとって、図を描く。 「しかし、乙や丙は、結局、相続財産がなくても、当初(第2次相続)の申告に係る更正の請求ができなければ、おかしなことになります・・・」 谷垣調査官はキッパリと言う。 「・・・確かに・・・君の言うとおりだ・・・」 田中統括官は大きく頷く。 「・・・このケースのように、納税者に対して、課税上、著しく不公平になる場合には、国税通則法71条2号の規定(下記の下線部分)を適用して・・・納税者を救済することはできる・・・かもしれない。・・・ただ、未分割を分割(確定)にすることは、『無効な行為』や『取消しうべき行為』とは異なるものだと思うけど・・・」 田中統括官は「税務六法」を開いて谷垣調査官に条文を見せた。 「・・・しかし、この条文の見出しは、『国税の更正、決定等の期間制限の特例』と題しているように、課税庁側の規定で、納税者から減額更正を求めることができる規定ではありません・・・」 谷垣調査官は不満そうに言う。 「この規定は、納税者側から是正する手続がない場合で、これを放置すると納税者に課税上著しい不公平が生ずるときには税務署長が減額更正できるという・・・まあ、一種の納税者を救済する規定なのだから・・・」 そう言い終わると、田中統括官は再び机上にある実行(調査)計画等の書類に目を向けた。 (つづく)
《速報解説》 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する 財務諸表等規則等が改正 ~PFI事業の注記を新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年5月25日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第28号)が公表された。これにより、平成29年2月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、企業会計基準委員会が、平成29年5月2日に公表した「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第35号)に対応するものである。 公開草案に対するコメントへの対応として、「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 財務諸表等規則及び連結財務諸表規則の改正 「公共施設等運営事業に関する注記」を新設する(財規8条の31、連結財規15条の25)。 公共施設等運営事業における公共施設等運営権者である場合には、次に掲げる事項を公共施設等運営権ごとに注記しなければならない(財規8条の31第1項、連結財規15条の25第1項)。 更新投資については、次の区分に応じ、公共施設等運営権ごとに注記する(財規8条の31第2項、連結財規15条の25第2項)。 一定の場合には各事項を集約して記載することができること、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には記載することを要しないことも規定されている(財規8条の31第3項、4項、連結財規15条の25第3項)。 財務諸表及び連結財務諸表の表示に関して次の規定を新設する(貸借対照表及び連結貸借対照表の様式も改正)。 2 財規ガイドライン及び連結財規ガイドラインの改正 財規ガイドラインに次の規定を設ける(連結財規ガイドラインは15の25を新設し、財規ガイドラインを準用)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
2017年5月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.219を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第35回】 「租税法の「解釈」を考える」 税理士 山本 守之 1 解釈手法の分類 税理士は税法規定を正しく解釈すべきですが、そこには厳しいルールがあることを知ってほしいと考えます。 租税法は侵害規範ですから、解釈の手法としては原則として文理解釈によるべきで、それが法的安定性の立場から当然と考えられており、みだりに拡張解釈や類推解釈をすることは許されません。しかし、文理解釈によっては規定の意味内容が不明確である場合に、規定の趣旨、目的等を考慮しながら管理的解釈をしなければならないことがあります。 法令の解釈手法を分類してみると、次のようになります。 2 法規的解釈 「法規的解釈」とは、法令の解釈上の疑問を立法的に解決し、その解釈を法規制定の権限ある機関が定めるもので、法令の定義規定などが代表的なものです。 例えば、法人税法2条3号で内国法人を「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう」として本店所在地主義を明らかにしていますが、管理支配基準を持ち出して反論しようとしても、ここにはいわゆる法令解釈の入り込む余地はありません。この意味では、法規的解釈は最も有権的なものといえましょう。 みなし規定も同様です。「人格のない社団等は法人とみなしてこの法律を適用する」(所得税法4、法人税法3、国税通則法3)は、本来法人でない人格のない社団等を法人とみなすことを法律のなかで規定するものです。 3 文理解釈 「文理解釈」とは、法令の規定をその文字や文章の意味するところに即して文法的に解釈することをいいます。 この場合に、私法上で用いられている概念で、一般的法律制度において確立している用語は租税法においてもそのまま用いられます。例えば民法における親族、配偶者、相続、遺贈、社団、財団、所有権、地上権、地役権などや、商法における会社、解散、合併、清算、社債、株式、出資などは、租税法でも同じ概念として用います(これを「借用概念」といいます)。 「借用概念」は租税法においても他の法分野と同義に解することが租税法律主義に基づく法的安定性の要請にも合致しています。もともと経済取引や経済現象は第一次的には私法によって規律されていますから、これらを納税義務の基因となる課税要件等に取り込むに当たって、租税法が私法上と同じ概念として用いることが法的安定性の点からも望ましいからです。 この点については、「現行の租税に関する法規が、一般私法において使用されていると同一の用語を使用している場合にはそれは勿論租税法上の概念として使用されているに相違ないけれども、特に租税に関する法規が明文をもって他の法規と異なる意義をもって使用することを明らかにしている場合もしくは租税法規の体系上他の法規と異なる意義をもって使用されていることが明らかな場合又は特に他の法規と異なる意義をもって使用されていると解すべき実質的な理由がない限り、私法上使用されていると同一の意義を有する概念として使用されているものと解すのが相当である」(昭和34年2月11日東京地裁)とする判示があります。 これに対し、他の法分野で用いられておらず、租税法が独自に用いている概念があります。これを「固有概念」といいます。 固有概念は租税法独自の見地からその内容を決めるべきです。租税法のなかで「所得」という概念があっても、所得税法上の「所得」は帰属を主体としてとらえ、法人税法上の「所得」は発生を主体としてとらえるといったように、異なる概念として用いることがあります。 同一の法律のなかでも似かよった表現をしていますが、異なる実体を示していることがあります。例えば、所得税法のなかの「納税義務者」と「納税義務がある者」は、明らかに異なる実体です。 所得税法では、居住者、非居住者、内国法人及び外国法人についてそれぞれ納税義務があることを規定しており、これらの規定に基づいて本来の納税義務者が定められていますが、これが「納税義務者」で、このほかに、源泉徴収義務があり、質問検査権の対象となるのは、本来の納税義務者のほかに源泉徴収義務のある者も含んでいるので「納税義務のある者」と表現しているのです。 このほかに、国税通則法では「納税者」という用語を使っていますが、これは所得税法の「納税義務のある者」から源泉徴収を受ける者を除いた概念です。 文理解釈は成文法の解釈においても最も重要なもので、用語、字句の解釈からはじまりますが、文章は法令の趣旨、目的、前後の関係に配慮して行うべきものといえましょう。用語についても多分相対的なもの多義的なものがあることを理解すべきです。 4 論理解釈 (1) その考え方 「論理解釈」は文理解釈と対立する解釈手法で、用語や文章だけでなく、条理や論理的思考に基づいて解釈する手法です。つまり、法令が制定された目的、趣旨に重点を置き、これに適合する妥当な結果を導き出せるよう配慮しながら解釈するもので、目的論的解釈ともいわれ、条理解釈といわれることもあります。 立法趣旨は、立法当時公表された理由書、提言者の説明、国会での質疑と答弁の議事録、税制調査会の答申などが参考となります。また、負担の公平が租税における社会正義ともいえますから、その趣旨に沿った目的論的な解釈といえるでしょう。 立法的解釈の手法のひとつとして確認規定があります。「確認規定」とは、新しい法律関係を創設する創設規定とは異なり、既存の規定によりすでに設定されている法律関係について問題が生ずる恐れのある部分を念のため補強し、確認的に規定することによって解釈上の疑義を防止するためで、「・・・適用があるものとする」「・・・は、第〇条〇に該当するものとする」という規定の仕方をします。 その意味では、「内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。」(法法37⑧)という規定は確認規定です。 もちろん、租税法律主義の下では、解釈によって法律に規定していないものまで課税物件に取り入れるという拡張解釈は許されません。 この点については、「税法の解釈適用に当たっては、法の予想を超えて実質的に新たな課税対象を創設し、もしくは課税対象を拡張しまたは納税者の不利益を来たすような方向において類推ないし拡張解釈を行うことは慎しまるべきものである」(昭和39年5月28日東京地裁)とした判示があります。 (2) 縮小解釈と反対解釈 「縮小解釈」とは、法令の規定の文字を通常意味するところよりも狭く解釈する方法で、制限解釈ともいいます。 例えば、「譲渡」というのはある者が有する権利を他の者に移転することをいい、通常の売買のほか交換、収用、贈与、現物出資なども含まれます。しかし、動産を担保の目的で形式的に譲渡する場合(譲渡担保)は、形式的には資産の譲渡ですが、その担保になった資産を債務者が従来どおり使用収益して利子相当額の支払を行っているという実態であるときは、譲渡所得課税の目的からいって、その「譲渡」には含まれないものと解して扱われていますが、これは縮小解釈の一例です。 「反対解釈」は、法令で一定の要件を付しているときに、その要件に該当しない場合はその規定の適用がないとする一種の類推解釈です。 例えば、法人税法33条では、資産の評価損を損金の額に算入しないことを定義していますが、「災害による著しい損傷その他の政令で定める事実」があるときは、時価を限度として評価額を損金の額に算入することにしています。この場合の反対解釈とすれば、「政令に定める事実」に該当しなければ、損金の額に算入する余地はないと解するのです。 (3) 類推解釈 「類推解釈」とは、類似した一方についてのみ規定があった場合に、規定のない類似の事柄について同じ趣旨の規定がされているものとして解釈する方法です。例えば、所得税法及び法人税法では「国内にある資産」とは何かにふれていませんが、相続税法10条では「財産の所在」について詳細な規定があるので、同条の規定を基にして類推解釈ができます。 「もちろん解釈」も類推解釈の一種といえます。例えば、譲渡所得の基因となる財産に行政庁の免許、許可等によって設定された権利が含まれるか否かについては、特に規定を置いていません。しかし、制限納税義務者である非住居者の納税義務にはこれらの譲渡による所得も含むことが明らかにされています。無制限納税義務者である住居者の譲渡所得の対策には、もちろんこれらの権利の譲渡を含むと解するのです。 5 実質主義と税法の解釈適用 租税法における最も重要な原則は負担の公平であり、租税は各種の課税物件に経済的な租税負担能力を認めて課せられるものですから、租税法の解釈に当たってもこのような租税の性質を考慮しなければならないという主張があります。 1976年に廃止されたドイツ租税調整法1条2項では、「租税法の解釈に当たっては、国民の通念、租税法の目的及び経済的意義並びに諸事情の発展が考慮されなければならない。」とし、同条3項では「要件争点の判定についても同様とする」としていました。 この条文は、複雑多岐にわたる経済事象に租税法が対処するためには、租税法の目的を確実に捉え、租税法の文言に捉われることなく、経済的、実質的意義を考えて合目的的に解釈すべきだというのです。 かつて、ベッカーは、税法の経済的意義を強調し、租税法の解釈に当たっては、その法条に用いられている文言の外形、概念に何ら拘束されることなく、むしろ、その文言によって表現された実質的な経済的意義を基礎として解釈すべきであると主張しましたが、これを経済的観察法(Wirtschaftliche Betrachtungsweise)又は経済的実質主義といいます。 経済的実質主義が租税法に内在する解釈原理であるという考え方には批判があります。 それは、経済的実質主義は立法の指向であって実定法上に条理として内在するものではないから、法的関係を離れ経済的実質によれば恣意的課税の温床となり、納税者の課税予測可能性が奪われ、ひいては租税法律主義からみて適当でないという考え方です。 確かに、租税法は侵害規範であり、租税法の文理的規定を離れ、論理的解釈が濫用されたり、取引の法的関係を離れて経済的観察法が優先されると、租税法の基本原則である租税法律主義が崩壊してしまいます。 ただ、租税公平主義の立場から、納税者が税法上の課税要件とされている私法上の形式と異なる形式を採ることによって結果的には同一の経済的効果を実現しながら租税負担を回避すること(租税回避行為)は防止しなければなりません。 例えば、旧法時代には被合併法人の繰越欠損金を合併法人から控除できなかったため、本来合併法人となるべき黒字法人を被合併法人とし、本来被合法人となるべき赤字法人を合併法人とするなど「逆合併」という租税回避行為が行われました。 (注) 合併法人は被合併法人との事業の継続性がなく、ペーパーカンパニーであり、逆合併は租税の軽減以外のその理由が見出せない場合です。 このような場合には、経済行為がどのような私法上の形式によって行われたかだけでなく、その行為の経済的実質によって租税法規の解釈適用をすべきでしょうが、これも無制限に行うのではなく、その否認根拠を法定すべきでしょう。 ドイツ租税調整法では、第6条に「納税義務は、民法の形式又は形成可能性を乱用することによって回避し又は軽減することはできない。乱用が存在する場合においては、租税は、経済上の行為・事実及び諸関係に適合する法的形態に即して徴収されるべき額において徴収しなければならない。」と規定されていました。わが国では、昭和36年7月の税制調査会答申において、次のように国税通則法に実質課税原則及び租税回避否認の一般規定を設けるように指摘しました。 ただ、この答申に対しては多くの税法学者から「恣意的課税の温床となる」との批判を受け、結局、国税通則法から実質課税の原則を外して制定したといういきさつがあります。 ドイツ法の規定がナチス時代に拡大的に解釈され国民の権利を無視した課税が行われたことへの反省とともに、経済的観察法を国税通則法に規定した場合に考えられる課税手続に対して信頼がなかったというべきでしょうか。 このため、わが国の実定法上は、所得の帰属に関する実質主義と認識に関する実質主義としては「同族会社等の行為計算否認規定」が存するに過ぎません。こうなると、明文の規定のない場合でも、解釈論として行為計算否認の規定を準用して否認権を認めることができるのかについて争いが起きます。これを否認している裁判例(昭和39年7月24日大阪高裁)もありますが、学説上は税法上の公平負担の原則をふまえて積極に解する見解と、租税法律主義の観点からは消極に解する見解とが対立しています。 同族会社等の行為計算否認規定とは、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところによって、その法人の課税標準若しくは欠損金額又は法人税額を計算することができる(法人税法132)というものです。 その規定の趣旨は、「元来、法人税法は、法人が純経済人として、経済的に合理的に行為計算等を行なうべきことを前提として、かような合理的行為計算に基づき生ずべき所得に対し課税し、租税収入を確保しようとするものであるから、法人が通常経済的に合理的に行動したとすればとるべきはずの行為計算をとらないで法人税回避もしくは軽減の目的で、ことさらに不自然、不合理な行為計算をとることにより、または直接法人税の回避軽減を目的としないときでも、経済的合理性をまったく無視したような異常、不自然な行為計算をとることにより、不当に法人税を回避軽減したこととなる場合には、税務当局は、かような行為計算を否認して、経済的に合理的に行動したとすれば通常とったであろうと認められる行為計算に従って課税を行ないうることは当然である」(昭和40年12月15日東京地裁)と説明されています。 もっとも、「課税要件事実の認定にあたって、行為の実質及び経済的効果を参酌考量して租税負担の公平が図られねばならないが、納税義務者、課税標準及び徴収手続が法律で定められることを要請する租税法律主義のもとにおいて、右認定は不当に私的自治を侵すものであってはならない。」(昭和39年9月24日大阪高裁)という考え方も念頭に置かなければなりません。 (了)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第2回】 「土地の評価地目について」 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 相続税等における財産評価の基礎とされる土地の価額は、原則として地目の別に評価するものと定められています。 この場合の「地目」は、評価実務においてどのように区別されているのでしょうか。また、この地目の具体的な認定はどのように行えば、良いのでしょうか。 これらの論点を実務上の目線から検討してみることにします。 解決への指針 (1) 原則的な土地の評価上の区分 評価通達7(土地の評価上の区分)の定めでは、土地の価額は、原則として次に掲げる9つの地目の別に評価するものとされています。 なお、地目は、課税時期の現況によって判定するものとされています。 (2) 具体的な地目の判定方法 上記(1)に掲げる地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則(平成17年2月25日付民二第456号法務省民事局長通達)(以下「準則」といいます。)第68条(地目)及び第69条(地目の認定)に準じて行うものとされています。 そうすると、評価通達の定めに従って、地目の別に評価する場合においては、上記の準則の内容を理解しておくことが重要となります。 次に、準則第68条(地目の認定)をご紹介いたします。 なお、上記(1)④(評価通達に定める土地の評価上の区分に当たって山林と判定されるもの)には、上記準則第68条の「(20)保安林」を含むものとされ、また、上記(1)⑨(評価通達に定める土地の評価上の区分に当たって雑種地と判定されるもの)には、上記準則第68条の「(12)墓地」から「(23)雑種地」まで(「(20)保安林」を除きます。)に掲げるものを含むものとされています。 (3) 専門職への依頼 上記(1)及び(2)に掲げるとおり、税理士等が行う相続税等の土地の評価に当たっては、準則に従って土地の地目を認定する作業が不可欠とされます。ただし、当該地目の認定は税理士等の税務従事者の職域外であって適確にこれを遂行することには困難を伴うのが一般的であると考えられます。 そこで、このような場合に専門職として頼りになるのが「土地家屋調査士」です。 土地家屋調査士は、登記用紙の表題部の記載事項である「地目」の認定を行うことを業務の1つとしています。税理士等の税務従事者にとって判断が困難な土地の地目認定の良き相談相手としてお付き合いを深めておきたい専門職のお一人であると考えられます。 (4) 地目の判定事例 それでは、本稿のまとめとして事例を1つ検討してみることにします。下記の写真を参照してください。美しく整備された芝生やバンカーが確認できるゴルフ場を撮影したものです。 (了)
役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第1回】 「改正の全体像」 -損金算入要件に関する横断的な整理- 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 1 はじめに 平成27年6月30日閣議決定による「『日本再興戦略』改訂2015」において、経営陣へのインセンティブ付与として、株式報酬及び業績連動報酬等の導入促進が謳われ、また、コーポレートガバナンス・コードにおいても、上場会社に対して、「中長期的な業績と連動する報酬の割合」や「現金報酬と自社株報酬との割合」の適切な設定を検証することが求められる(補充原則4-2①)等、株式報酬及び業績連動報酬の導入を促進する役員報酬制度改革が急務となっている。 これらを背景として、昨年度(平成28年度)税制改正により、日本版リストリクテッド・ストックと呼ばれる特定譲渡制限付株式が導入され、さらに平成29年度税制改正においては、役員給与税制全体に関するより抜本的な改正が行われ、また、新制度導入から1年を待たずに特定譲渡制限付株式の見直しもなされた。 そこで、本稿では、平成29年度税制改正における役員給与税制全体に関する重要な改正点を解説し、次回以降、法人税法34条1項各号に基づき損金算入が認められる役員給与の3類型(定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与)毎に、その重要な改正点について解説することとする。 2 役員給与の損金算入可能性に関する横断的な整理 平成29年度税制改正前から、法人税法34条1項各号は、損金算入が認められる役員給与の3類型(定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与)を定めていた。もっとも、これらは原則として金銭を支給するものを対象とし、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式による株式報酬については、事前確定届出給与として損金算入が認められたものの、これ以外の株式報酬やストック・オプションは、法人税法34条1項の対象外とされていた。また、退職給与についても、過大役員給与等(法人税法34条2項)に該当する場合以外は損金算入が認められ、法人税法34条1項の適用対象外とされていた。 平成29年度税制改正は、これを改め、金銭、株式又は新株予約権という報酬の支給手段を問わず、また、退職給与か否かとの支給名目を問わず、役員給与全般について損金算入の要件を統一化し、原則として法人税法34条1項各号の定める3類型のいずれかに該当する場合に損金算入を認めるとの横断的な整理を行うものである。 平成29年度税制改正後の定期同額給与、事前確定届出給与及び利益連動給与の3類型の要件の具体的内容については後述するが、各類型に該当する役員給与の概要及び具体例を平成29年税制改正前後で対比したものが〔図表1〕である。 〔図表1〕 (※1) 「業績連動指標」とは「利益の状況を示す指標」、「株式の市場価格の状況を示す指標」又は「これらの指標と同時に用いられる売上高の状況を示す指標」を指す(法人税法34条1項3号、同法施行令69条10項)。 (※2) 「業績連動要件の付された退職給与」とは、退職給与の支給額が業績目標達成度合いに応じて決まるものや、支給額の算定に株価を参照しているものが考えられる。一方、業績連動要件が付されていない退職給付(例えば、勤務期間×最終月額報酬×給付乗率(功績倍率)に基づき算定される退職給与)は、改正前同様、過大役員給与等に該当しない限り、損金算入が認められる。 (※3) 業績連動要件が付されたストック・オプションとしては、権利行使により取得可能な株式数が業績連動指標の達成度合いにより決まる等の行使条件が付されたストック・オプションが考えられる。 3 ストック・オプションに関する損金算入要件の整理 平成29年度税制改正により、実務上、もっとも大きな影響を受ける可能性がある報酬類型は、ストック・オプションであろう。 ストック・オプションは、平成29年度税制改正前は、税制適格ストック・オプションを除き、原則としてすべて損金算入可とされていた。しかし、平成29年度税制改正により、報酬の支給手段を問わず、損金算入の可否について横断的な整理がなされた結果、ストック・オプションについては、原則として事前確定届出給与又は利益連動給与(法人税法34条1項2号・3号)のいずれかの要件を満たす場合に限り、損金算入が認められることとなった。ストック・オプションに関しては、損金算入が認められにくくなる改正ともいえる。 平成29年度改正前後でのストック・オプションの損金算入可能性を対比したものが〔図表2〕である。 〔図表2〕 (※1) 退職給与となるストック・オプションとは、権利行使期間が退職から10日間等の限定が付され、所得税法30条1項に規定する「退職により一時に受ける給与」と認められるものをいう(株式会社伊藤園からの事前照会に対する平成16年11月2日付け東京国税局審理課長回答にて閲覧可能)。 4 適用時期 役員給与に関する平成29年度税制改正は、原則として平成29年4月1日以後に支給又は交付に係る決議(当該決議が行われない場合には、その支給又は交付)をする給与について適用される。 例外として、改正前は損金算入が認められていたものが、改正により認められなくなるもの、具体的には、①業績に連動した退職給与に係る改正、②無償取得事由に役務の提供期間以外の事由(業績の達成度合い等)を含む特定譲渡制限付株式に係る改正、又は③新株予約権に係る改正については、平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議(当該決議が行われない場合には、その支給又は交付)をする給与から、改正法が適用される。 なお、改正法の適用時期を決める上記の「支給又は交付に係る決議」とは、報酬上限額等に関する株主総会決議や新株発行・自己株式処分の取締役会決議ではなく、株主総会又は取締役会等における役員報酬の具体的な内容を決定する決議又は決定を指すとされている(そのため、ストック・オプションに関しては、新株予約権の具体的な内容が決定される発行決議となる)。 (了)