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平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】

平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】 (最終回)   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋     Ⅸ 収益認識   日本では、現行、収益認識に関する規定としては、企業会計原則の損益計算書原則(売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る)及び企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準(以下、「工事基準」という)」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針(以下、「工事指針」という)」、実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「ソフト実務」という)」に規定があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていない。 一方、IASB及びFASBは、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、IASBから平成26年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されている。 (注) その後、平成28年4月12日にIFRS第15号の明確化が公表されている。IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から適用される 。 これらの状況を踏まえ、ASBJでは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後、平成28年2月4日に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表した。 その後、意見募集に寄せられた意見を踏まえ、検討を重ね、企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)(以下、「収益認識基準案」という)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「収益認識指針案」という)」を公表した。 公開草案に対するコメント募集は平成29年10月20日に終了し、「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」は、平成30年3月までに確定する予定である。 ここでは、収益認識基準案及び収益認識指針案の概略を解説する。   1 開発に当たっての基本的な方針 収益認識基準案及び収益認識指針案の基本的な方針は以下のとおりである。 (1) 基本的な方針 収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定める。 これまで日本で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加する。 (2) 連結財務諸表における開発の方針 IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れる。 適用上の課題に対応するために、代替的な取扱いを追加的に定める。代替的な取扱いを追加的に定める場合、国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとすることを基本とする。 (3) 個別財務諸表における開発の方針 基本的には、連結財務諸表と個別財務諸表において同一の会計処理を定める。   2 適用範囲 収益認識基準案及び収益認識指針案は、以下のものを除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(収益認識基準案3)。 (※1) 固定資産売却損益は適用対象には含まれない(収益認識基準案101)。 (※2) IFRS第15号における契約コスト(契約獲得の増分コスト及び契約を履行するためのコスト)については、収益認識基準案及び収益認識指針案の範囲に含まれていない(収益認識基準案102)。 (※3) 工事基準、工事指針、ソフト実務は廃止される(収益認識基準案86)。   3 収益認識のための5つのステップ 収益認識基準案及び収益認識指針案では、以下の5つのステップに従って収益を認識する。   4 適用時期等 (1) 適用時期 適用時期は以下のとおりである(収益認識基準案78~80)。 (2) 会計方針 会計方針の取扱いは以下のとおりである(収益認識基準案81) ① 原則的な取扱いの場合の実務上の負担を軽減する取扱い 原則的な取扱いに従って遡及適用する場合、以下の(ⅰ)から(ⅳ)の方法の1つ又は複数を適用することができる(収益認識基準案82)。 ② 容認処理の場合の実務上の負担を軽減する取扱い 容認処理を採用する場合、以下の方法を適用することができる(収益認識基準案83)。   Ⅹ 税効果会計の改正   日本における税効果会計に関する会計基準として、平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に関する会計基準(以下、「税効果基準」という)」が公表され、当該会計基準を受けて、日本公認会計士協会から実務指針が公表された。 これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきたが、ASBJは、基準諮問会議の提言を受けて、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について、ASBJに移管すべく審議を行った。 このうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行うこととし、主として開示に関する審議が行われた。 そして、平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等がASBJから公表された。 改正前の日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針と改正後のASBJにおける会計基準等の関係は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【出所:ASBJ「企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P8に筆者加筆】 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(以下、「税効果基準改正」という)」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、「税効果指針」という)」、企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(以下、「中間税効果指針」という)」が新たに作られ、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収可能性指針」という)」が改正されている。なお、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」は「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に統合されている。   1 表示・注記事項の取扱いの見直し 繰延税金資産及び繰延税金負債の表示方法等及び注記について、以下の3つについて見直しが行われている。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 税効果基準改正では、税効果基準の「第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法」1及び2が、以下のとおり改正されている(税効果基準改正2)。 (2) 評価性引当額の内訳に関する情報 税効果基準注解(注8)が以下のとおり、改正されている(税効果基準改正4)。 ① 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるもの 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるものとして、以下の2つが挙げられている(税効果基準改正32、税効果指針98)。 ② 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断として、以下の2つの観点が挙げられている(税効果基準改正30)。 なお、税効果基準改正では、具体的な重要性の数値基準を設けていない。企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、 税効果基準改正30(上記、表参照)の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正31)。 ③ 評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合における変動内容の記載内容 評価性引当額の変動の内容は企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該主な変動内容にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正では、特段定められていない(税効果基準改正35)。したがって、各企業が適切に判断して、記載する。 ④ 評価性引当額の変動内容の記載の要否に関する重要性の判断 評価性引当額の変動の主な内容(税効果基準改正4注解(注8)(2))については、主として税負担率の分析に資する情報であることを踏まえると、「重要な変動が生じている場合」には、例えば、税負担率の計算基礎となる税引前純利益の額に対する評価性引当額(合計額)の変動額の割合が重要な場合が含まれる。ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、企業の状況に応じて適切に判断する。 なお、税負担率と法定実効税率との間に重要な差異がなく、税率差異の注記を省略している場合(例えば、当該差異が法定実効税率の100分の5以下である場合)、当該変動の主な内容を注記することは要しない(税効果基準改正36)。 (3) 税務上の繰越欠損金に関する情報 税効果基準注解(注9)が新規に追加されている(税効果基準改正5(注9))。 繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別の数値情報、重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由(定性的な情報)を注記する。 ① 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載する場合の年度の区切り方 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載するにあたっては、主として株価予測を行う財務諸表利用者が将来2年から5年後の予想財務諸表を用いて税負担率の予測を行っていることを踏まえ、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられる。一方、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況は様々であり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無は様々であると考えられる。 そのため、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるため、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正42)。そのため、各企業において、適切に判断する。 また、連結財務諸表作成会社において、繰越欠損金の「残高」の情報について親会社が子会社から入手していることは今までも多かったと考えられるが、今後は、子会社も含め、税務上の繰越欠損金の「繰越期限別」の情報を入手する必要がある。 ② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載内容 回収可能と判断した主な理由は、企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該理由にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正46)。したがって、各企業において、適切に判断する。 ③ 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載の要否に関する重要性の判断 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由は、主として繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資する情報であることを踏まえると、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合」における「重要な」場合には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれる。 ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、上記の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正47)。 【注記例】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【出所:ASBJ「「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P12に筆者加筆】 (4) 個別財務諸表における注記事項 財務諸表利用者の分析において、連結財務諸表における注記事項の理解に重要な影響が生じることは比較的限定的であると考えられるため、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において以下の注記事項の記載を要しない(税効果基準改正50)。 したがって、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報(上記(2)参照)のみを追加する(税効果基準改正51)。   2 会計処理の見直し 会計処理についても、以下の3つについて見直しが行われている。 (1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い 改正前では、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異(会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合を除く)について、一律、繰延税金負債を計上することになっていたが、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上するという取扱いに見直している(税効果指針8(2))。 (※) 会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合や組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合の取扱いについては、改正はない。 (2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い 改正前は、(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとなっていたが、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損(※)について、企業が当該子会社を精算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられるため、「原則として、」繰延税金資産の全額について回収可能性があるというように改正されている(回収可能性指針18、67-4)。 (※) 完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号)にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異(将来減算一時差異)に該当すると整理している(回収可能性指針67-2、67-3)。 (3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い 投資「時」における子会社の留保利益の取扱いを引き継いでいない(税効果指針24、113)。なお、投資「後」における子会社の留保利益の取扱いは従前どおりである。   3 適用時期 適用時期は以下のとおりである(税効果基準改正6、7、税効果指針65、回収可能性指針49、中間税効果指針22、23)。 ▷補足POINT なお、【第2回】の「Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理」「Ⅴ 仮想通貨の会計処理(3月確定予定)」及び今回の「Ⅸ 収益認識(3月確定予定)」「Ⅹ 税効果会計の改正」で解説したとおり、新たに適用される会計基準がある。そのため、期末時点では、公表されているが、適用自体が、翌期となる場合、「未適用の会計基準」の注記が必要となる(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12)。      ⅩⅠ 監査報告書の透明化   日本では、今まで株主等に対して、会計監査の内容等に関する情報提供は充実していたわけではない。一方、諸外国では、監査報告書の透明化を進めるべく、制度変更が行われている。 そして、日本でも平成29年6月26日に金融庁より「「監査報告書の透明化」について」が公表され、「監査報告書の透明化」へ向けて議論が本格的にスタートしている。 そして、監査報告書の透明化の最大のポイントは、「KAM(Key Audit Matters)」である。 (注) 以下では、既に制度変更が行われている国際監査・保証基準審議会(IAASB)の基準をベースに解説している。   1 KAMとは 国際監査・保証基準審議会(IAASB)におけるKAMの定義、決定方法、監査報告書の記載事項は以下のとおりである。   2 監査報告書 現在は、無限定適正意見の場合、定型的な記述しか監査報告書に記載されないが、KAM導入後は、定型的な記述にプラスして、個々の会社ごとに監査上、特に重要なポイントが記載されることになる。 言い換えると、監査報告書が会社ごとに異なるということである。   3 KAMの具体的な記載例 海外の事例であるが、KAMと決定した理由の記載事例として、以下がある。 【出所:企業会計審議会第38回監査部会(2017年10月)配布資料1「「監査報告書の透明化」について(金融庁)」P15】 また、同様に海外の事例であるが、監査人の対応の記載事例として、以下がある。 【出所:企業会計審議会第38回監査部会(2017年10月)配布資料1「「監査報告書の透明化」について(金融庁)」P16】   4 適用時期 イギリスでは、2012年10月1日以後開始する事業年度から適用されている。また、EUでも2016年6月17日以後開始する事業年度から適用されている。そして、アメリカでも大規模早期提出会社(時価総額7億ドル以上の会社)は、2019年6月30日以降に終了する事業年度から適用され、それ以外のSEC登録会社は、2020年12月15日以降に終了する事業年度から適用されることが決定されている。 日本では現在、議論が行われているが、適用時期は決まっていない。また、対象も金融商品取引法監査のみとするか、会社法監査まで広げるか決まっていない。 (連載了)

#No. 260(掲載号)
#西田 友洋
2018/03/15

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第28回】「またしても「個別B/Sのその他利益剰余金」でミス」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第28回】 「またしても「個別B/Sのその他利益剰余金」でミス」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例28-1】 表示すべき項目が抜け落ちている。 【事例28-1】は、計算書類の貸借対照表のうち「純資産の部」を抜粋したものです。この「純資産の部」には、抜け落ちている項目が1つあります。 どこだかわかりますか?   2 抜け落ちていたのはこの項目 抜け落ちているものを見つけるのは結構大変です。記載されている事項の正誤をチェックするのと違って、記載されていない事項に気がつくには、正しい姿がしっかりと頭に入っていなければなりません。 実務では、あらかじめ「抜け落ちている項目が1つある」と教えられているわけではありませんので、なおさらです。 ではさっそく、答えを見てみましょう。 抜け落ちていたのは、以下のとおり、「その他利益剰余金」でした。 【事例28-1】では、利益準備金のすぐ下に繰越利益剰余金が表示されていましたが、正しくは上の正答のとおり、利益準備金の次にその他利益剰余金を表示し、その他利益剰余金の内訳科目として繰越利益剰余金を表示します。 この事例では、内訳科目が1科目なので「その他利益剰余金=繰越利益剰余金」となり、その他利益剰余金をわざわざ表示する必要性を感じないかもしれませんが、その他利益剰余金は省略不可の項目なのです。   3 「その他利益剰余金」省略不可の根拠 その他利益剰余金が省略不可である根拠は、会社計算規則にあります。 会社計算規則76条5項により、その他利益剰余金は、利益剰余金の内訳項目として区分表示しなければならないとされています。また、同条6項では、その他利益剰余金は適当な名称を付した項目に細分することができるとあり、【事例28-1】では、繰越利益剰余金がこの細分した項目に該当します。 この条文を素直に読む限り、細分した場合に「その他利益剰余金」を表示しなくてよいとは受け取れませんので、【事例28-1】は誤りということになります。   4 うっかりミス多発箇所 【事例28-1】をご覧になった時、「またこの項目か」と思った方はいませんでしたか。 貸借対照表の純資産の部の中の「その他利益剰余金」は、ミスの多発箇所です。本連載でも【第1回】及び【第2回】で「その他利益剰余金」のところで起きたうっかりミスの事例を紹介しています。 【第1回】では、その他利益剰余金の数字が前期数値となっている事例を紹介しました。そして【第2回】は、その他利益剰余金の数字欄が未入力(空欄)になっている事例でした。 今回はこれに加えて、その他利益剰余金の項目そのものが抜け落ちている事例を紹介しましたが、もう1つ事例を紹介します。 【事例28-2】 繰越利益剰余金が1マス下がっていない。 繰越利益剰余金は、その他利益剰余金の内訳科目なので、その他利益剰余金よりも1マス下げてあげた方が見やすい表示になります。 そうしなければならないというルールは特にありませんが、実務上の常識のようなものです。【事例28-2】の状態だと、利益剰余金の内訳科目として、3つの科目(利益準備金・その他利益剰余金・繰越利益剰余金)が並列しているように受け取られる可能性があります。 以上のように「その他利益剰余金」は何かとミスが起こりやすいので、ミスがないかどうか必ず確認すべきところです。 なお、今回取り上げた【事例28-1】と【事例28-2】については、ミスを防げなかった要因が同じです。 それは、「その他利益剰余金の内訳科目が1つだけしかない」ということです。 その場合、今回のような事例のミスがあっても気がつきにくいです。 内訳科目が1つしかない場合は、こうしたミスがないかチェックしてみてください。   〈今回のまとめ〉 貸借対照表の「その他利益剰余金」はミス多発箇所なので、十分に注意しましょう。 (了)

#No. 260(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/03/15

連結会計を学ぶ 【第14回】「未実現損益の消去」

連結会計を学ぶ 【第14回】 「未実現損益の消去」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 親会社と子会社で取引が行われる場合(連結会社相互間の取引高)、それは企業集団としては内部取引であることから、連結損益計算書の作成に際して、相殺消去する必要がある(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)35項)。 連結グループ(企業集団)の外部に、連結会社相互間の取引の対象となった棚卸資産などが売却されていない場合には、当該売却による利益は未実現ということになる。 今回は、未実現損益の消去に関する会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 未実現損益の消去 例えば、外部から仕入れた商品について、子会社から親会社へ売り上げたが、親会社ではまだ外部に売却しておらず棚卸資産(商品)として残っている場合を考える。 この場合、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産などの資産が、連結グループ(企業集団)内にとどまっており、連結グループの外部に売却されていないときには、子会社で計上した商品の売却益は、未実現ということになる。 連結会計基準は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益は、その全額を消去すると規定している(連結会計基準36項)。 この際、未実現損失については、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は消去しないと規定されていることに注意が必要である(連結会計基準36項)。 公認会計士・監査審査会が公表した平成29年版の「監査事務所検査結果事例集」(平成29年7月26日公表)では、次の事例を紹介している(89ページ)。 連結会計基準は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益と規定しているが、例えば、次のような取引が考えられる。 (注) 親子会社間における利息の収受は、本シリーズ【第13回】の連結精算表との比較のために記載している。 作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。 【図表:連結損益計算書の作成プロセスのイメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   Ⅲ 連結精算表の作成 ① 親会社と子会社の個別損益計算書における商品取引 子会社(100%の持分比率)は親会社に商品を売上げ(20,000)、親会社では当該仕入れ分のすべてが商品(20,000)として期末に残っている。 連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別損益計算書と子会社の個別損益計算書を単純に合算すると、「売上高20,000」と「売上原価20,000」が二重計上となってしまうので、相殺消去する。 ② 未実現損益の消去 子会社から仕入れた商品(20,000)が、親会社では「商品」として個別財務諸表に計上されている。 当該商品に関して、子会社の個別損益計算書では、「売上高20,000」とこれに対応する「売上原価12,000」が計上されているものとする(利益率0.4=1-売上原価12,000/売上高20,000)。 当該取引に関して、子会社で計上した利益は8,000(=売上高20,000×利益率0.4)であるので、売上原価を増額する会計処理(利益としては減額になる)とともに、棚卸資産を減額する会計処理により、未実現損益の消去を行う。 未実現損益の消去に関する連結修正仕訳は次のとおりである。 ③ 親会社と子会社の個別損益計算書における利息の支払取引 子会社は、親会社から資金を借り入れ、利息を支払っている(300)。 親会社は、子会社に対する貸付金により、利息を受け取っている(300)。 連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別損益計算書と子会社の個別損益計算書を単純に合算すると、「受取利息300」と「支払利息300」が二重計上となってしまうので、相殺消去する。 連結損益計算書に関係する連結修正仕訳を示す趣旨から、貸付金と借入金の相殺消去については省略することとする(貸倒引当金の調整も同様に省略)。 ④ 連結精算表 連結精算表は次のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (注) 上記の連結精算表には示していないが、連結貸借対照表では、商品(期末の棚卸資産)について未実現利益である8,000千円が減額されている。   Ⅳ 子会社に非支配株主が存在する場合 上記の設例は、100%の持分比率の子会社を前提に解説している。 もし、子会社の持分比率が80%のように、商品の売手側の子会社に非支配株主が存在する場合には、未実現損益は、親会社と非支配株主の持分比率に応じて、親会社の持分と非支配株主持分に配分することとなる(連結会計基準38項)。 この場合、Ⅲの「②未実現損益の消去」は次のようになる。 子会社で計上した利益は8,000(=売上高20,000×利益率0.4)であるので、売上原価を増額する会計処理(利益としては減額になる)とともに、棚卸資産を減額する会計処理により、未実現損益の消去を行う。 未実現損益8,000について、親会社(80%)と非支配株主(20%)の持分比率に応じて、親会社の持分(6,400=未実現損益8,000×80%)と非支配株主持分(1,600=未実現損益8,000×20%)に配分する。 (了)

#No. 260(掲載号)
#阿部 光成
2018/03/15

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q11】「企業が合併した場合、労働保険に関してどのような手続きが必要か」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q11】 企業が合併した場合、労働保険に関してどのような手続きが必要か   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 労働保険に関しては、存続会社の事業所を管轄する労働基準監督署において、合併後の事業所の設置状況と指定事業・被一括事業の関係を整理した上で必要な手続きを行う。    継続事業の一括 労働保険においては、原則として労働者を1人以上雇用する事業所ごとに手続き事務(労働保険料の申告納付)を行うが、事務簡便の観点から事業の種類が同じ等の一定の要件を満たす場合は、所定の手続きを行うことにより、複数の事業所の手続き事務を1つの事業所でまとめて行うことができる。 これを「継続事業の一括」といい、手続き事務をまとめて行う事業所を「指定事業」、指定事業でまとめて手続き事務が行われる事業所を「被一括事業」という。 一般的には、同じ会社に複数の事業所がある場合でも、この継続事業の一括の手続きを行って、本社等で労働保険の手続き事務をまとめて行っていることが多い。    合併後の事業所の整理 合併後は、事業所の統廃合が行われたり、指定事業・被一括事業が変更となることが多いため、まずは、労働保険における事業所の関係を整理する必要がある。 ここでは、合併前後の事業所の設置状況が下記の前提で、必要な労働保険の手続きを確認する。なお、事業所はすべて継続事業で事業の種類は同一とする。 《合併前》 ◇A社(消滅会社) ◇B社(存続会社) 《合併後》 ◇B社(存続会社) ※a1事業所・a2事業所は廃止    労働保険の手続き 指定事業であるb1事業所を管轄する労働基準監督署において次の①から④の手続きを、また、a1事業所を管轄する労働基準監督署において⑤の手続きを行う。 ①は、a1からa4の4つの事業所に関する指定事業をb1事業所に変更する手続きとなる。①の申請による認可の通知を受領した後に、②から⑤の手続きを行う。 ②は、a3及びa4の合併後存続する2つの事業所に関する名称を合併後の名称に変更する手続きとなる。 ③は、a1及びa2の2つの事業所を廃止する手続きとなる。 ④は、労働保険概算保険料を追加申告する手続きとなり、合併によりb1の指定事業に関する労働保険概算保険料の基礎となる賃金総額の見込額が当初の申告より2倍を超えて増加し、かつ、概算保険料の額が申告済の概算保険料よりも13万円以上増加する場合に必要となる。 ⑤は、消滅会社の廃止に関わる労働保険料の確定申告をする手続きとなる。確定申告により労働保険料の還付が必要となる場合は、合わせて還付請求書の提出が必要となるが、還付金の振込先を存続会社の金融機関の口座とする場合は、合併契約書等の添付が必要となる。 労働保険の手続きにあたっては、事業所の整理状況により取扱いが異なるため、事前に労働基準監督署等に確認することをお勧めしたい。 (了)

#No. 260(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2018/03/15

2018年株主総会における実務対応のポイント

2018年株主総会における 実務対応のポイント   三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠   昨年に続き本年の株主総会でも大きな制度改正対応は見当たらない。しかしながら、足元では適用開始後3年目を迎えるコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)の改訂作業が進められており、相談役・顧問制度についての任意開示がこの1月から始まったことなども話題を集めている。加えて総会実務に大きく影響する招集通知の電子提供を可能とする会社法改正についても中間試案が公表されるなど、株主総会実務を取り巻く環境は引き続き変化の只中にあるといえる。 ガバナンスについても「形式」から「実質」への深化に向けた取組みが進められており、株主総会においてもガバナンスへの取組みを積極的にアピールする会社もみられ、さながら一面として株主総会はガバナンスのショールームの様相を示しているといえるだろう。 本年もこの流れは変わることはないと考えられ、以下では足元の環境変化の動向も踏まえたうえで、株主総会における実務対応上の留意点を解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。   1 招集通知関係 (1) 発送前開示 CGコードでも要請されている招集通知の発送前のウェブ開示(補充原則1-2②)については、昨年6月総会で実施した会社は8割に達している。 すでに実施を検討していた会社はほぼ対応したものと考えられるが、昨年も発送日の1日前の日に開示をした会社が最も多い(発送前開示を実施した会社のうち約26%の会社が1日前に開示)ことから、本年も昨年に続きさらに開示日の前倒しが期待されるところである。 (2) 英訳等 CGコードで要請されている議決権電子行使プラットフォームの採用や招集通知の英訳(補充原則1-2④)についても、採用会社は年々増加している。自社のウェブサイト等に英文招集通知を掲載している会社は約3割強までになっている。 議決権電子行使プラットフォームの採用や収集通知の英訳は、海外機関投資家に対する議決権行使促進策としても定着しつつあるといえる。 (3) 記載の工夫 株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報について、招集通知に適宜記載する取組みも年々採用する会社が増加している。 ① 取締役・監査役候補者の個々の指名理由(原則3-1(ⅴ)) CGコードで要請されている取締役・監査役候補者の個々の指名理由については、すでに約6割程度の会社で選任議案等に記載している状況であり、役員選任議案における一般的な記載事項となっている。具体的な記載箇所のイメージについては全株懇モデル(※1)なども参照されたい。 (※1) 平成29年10月20日付けにて各種全株懇モデルが改正されている。 「各種モデルの改正について」 ② 中期経営計画の説明(原則3-1(ⅰ)、補充原則4-1②) 中期経営計画について事業報告等に記載している会社は3割程度となっている。CGコードでは、株主に対して中期経営計画の説明をすべきとされていることに加え、総会の場でも株主からは今後の業績見通しや中期経営計画の進捗状況を問う質問が増えていることに対応したものである。 なお、記載の箇所としては、事業報告の「対処すべき課題」に記載する事例が多いようである。「対処すべき課題」は今後の事業戦略等についての会社の方針・考え方を記載する部分であることから、中期経営計画の説明にはふさわしいと思われる。 ③ ESGへの取組みに関する説明(原則2-3、補充原則2-3①等)  非財務情報であるESG要素を考慮するESG投資は拡大を続けており、会社のESGへの取組みついて積極的にアピールする会社もみられるようになってきた。 ESGへの取組みを招集通知に記載する場合には、中期経営計画のときと同様に、事業報告の「対処すべき課題」に記載することも考えられるが、トピックスの扱いとして招集通知の末尾に記載する事例もみられる。そのほかSDGs(持続可能な開発目標)への対応に関しても、会社の取組みをアピールする観点から、同様に記載する事例が増えるだろう。 ④ CGコード改訂に関する対応事例 CGコードの改訂に際しての注目論点(※2)としては、政策保有株式への対応(原則1-4)、CEOの選解任についてのガバナンス強化(原則4-3等)、経営陣の報酬決定(補助原則4-2①)、取締役会の構成の多様性(原則4-11)などが注目されている。これらについても事業報告に記載することが考えられる。 (※2) 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」資料等を参照。 実際に事業報告に記載するほか、質問された場合に備え、想定問答を準備しておくことも考えられる。 (4) 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組みについて 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示については、かねてより取組みが進められてきたところ、昨年12月にその方向性に向けた文書が公表され(※3)、その動きにも進展が見られた。 (※3) 経済産業省他「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示に向けた取組について」(平成29年12月28日) その取組みに関連して有価証券報告書に対応する開示府令の改正が実施され(※4)、事業報告に対応する会社法施行規則の改正も改正手続き中であり(※5)、いずれも平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書及び事業報告から適用予定である。 (※4) 金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(平成30年1月26日) (※5) 「「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集」 改正内容の概要は下記のとおりである。 ① 有価証券報告書関連 ② 事業報告関連 (5) 元号表記について 天皇陛下の退位日が平成31年4月30日に決定し、新たしい元号がまだ決められていない状況において、これを期に招集通知の元号表記を西暦表記に変更することが考えられる。 すでに西暦表記を実施している会社はまだ1割程度であり徐々に増加しているが、今年は西暦表記へ変更する動きが加速することが考えられる。   2 機関投資家対応 昨年5月に日本版スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家の個別の議決権行使結果の開示がスタートした。昨年は初年度ということもあって個別の議決権行使結果状況が注目され、議案においては反対票の増加もみられたようである。 昨年の議案において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合には、行使結果開示から反対の理由を分析して投資家との対話(エンゲージメント)の要否について検討することになる(補充原則1-1①)。 そのほか、議決権行使助言会社の議決権行使助言基準の変更は以下のとおり。 (※6) ISS「2018年版 日本向け議決権行使助言基準」 (※7) グラスルイス「2018年 議決権行使助言方針」 いずれも詳細は各助言会社のガイドラインを参照願いたいが、グラスルイスの女性役員を求める行使助言基準については、来年の適用ではあるものの取締役会のダイバーシティ向上を促進するものとして注目を集めている。 今後のCGコードの改訂に際しても女性取締役を置くことについて報じられていることから(※8)、今年の総会では引続き女性役員確保への取組み等について株主の質問が想定されるところである。 (※8) 日本経済新聞2018年3月2日朝刊「首相、女性取締役「1人以上登用促す」企業統治指針で」   3 フェア・ディスクロージャー・ルールへの対応 上場会社又は上場会社の役員・使用人等が未公表の決算情報などの重要情報を証券アナリストなどの取引関係者に提供した場合、提供と同時に、又は提供後速やかに当該情報を会社のウェブサイトに掲載するなどの公表を求めるフェア・ディスクロージャー・ルール(以下、FDルールという)が、本年4月より適用される(※9)。 (※9) FDルールの概要及び対応については以下の資料などを参照されたい。 ▷金融庁「「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」に対するパブリックコメントの結果等について」 ・パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 ・金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルール・ガイドライン) ▷日本IR協議会「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針」(平成30年2月28日) FDルールの導入により、発行者側の情報開示ルールが整備・明確化されることで、発行者による早期の情報開示、ひいては投資家との対話が促進されるという積極的意義があると説明されている。 FDルールの詳細については割愛するが、主には役員や広報・IR担当者が証券アナリストにIR説明をする場面を想定しているものの、株主総会における役員と株主との質疑応答場面などでもFDルールの適用があると考えられる。すなわち、役員と株主とのやり取りにおいて、役員が未公表の決算情報等の重要情報を提供した場合には、速やかに会社のウェブサイト等で公表する必要がある。 しかしながら、従前より株価に影響を与える可能性のある未公表の情報について、株主総会では回答しないことを徹底している場合には、FDルールの適用開始後においても特段の影響はないと考えられる。   4 相談役・顧問制度の開示 本年1月以降に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」から、代表取締役社長等を退任したものが相談役・顧問等に就任している場合に、任意ではあるが、その者の氏名、役職・地位、業務内容及び勤務形態・条件等について記載することが可能となった。相談役・顧問制度については任意開示が始まったこともあって、会社の対応状況が注目されている。 この機会に制度の廃止を公表する会社もみられるところであるが、総会対応としては必要に応じて想定問答に加えておくこととなる。 (了)

#No. 260(掲載号)
#斎藤 誠
2018/03/15

AIで士業は変わるか? 【第6回】「AIにできること、ヒトだけができること」

AIで 士業は変わるか? 【第6回】 「AIにできること、ヒトだけができること」   TAC株式会社 代表取締役社長 斎藤 博明   1 ネアンデルタール人とホモサピエンスの比較 ネアンデルタール人は、今から約20万年から3万年前くらいの間にヨーロッパと西アジアに住んでいた腕の良い賢い狩猟採集者で、石器を使い、火を使って食物を調理していました。 彼らは筋肉質の体格で、原牛やシマ馬や鹿などの大型動物を仕留め、生活していました。彼らもホモサピエンスと同様、氷河期の厳しい環境の中を生き延びました。 ホモサピエンスはネアンデルタール人よりも狩猟や運動能力の面で劣っていましたが、暗い洞窟の中で動物や星座の絵を描いたり、言語を創り出したり、神や死後の世界を想像し、虚構(フィクション)により、神と悪、国家、民族、貨幣、法律、企業、自由、民権、平等などの概念を生み出していました。   2 古代アンデス文明展とホモサピエンス 今年2月、私は上野の国立科学博物館で開催された「古代アンデス文明展」を見学しました。 古代アンデスの人々は、ジャガーを神として崇め、金製のジャガーのマスクを造っていました。森に住むジャガーのスピードや強さの中に神性を見出したのでしょう。 彼らは神と思ったものを金で表現しました。実に見事な芸術品でしたが、残念なことにスペイン人ピサロ一行の手によりインカ帝国は滅ぼされ、多くの金製品が溶かされヨーロッパへと運ばれたため、今はほとんど残っていません。 また、アンデスには「人は死後もミイラとして生き続ける」というミイラ信仰がありました。アンデスの人々はミイラを崇拝し、死者がミイラとして残っていれば、いつまでも子孫を守ってくれると信じていました。そのため、ミイラには服が着せられ、食事が与えられ、生きている家族の一員のように暮らしていました。同展では少女のミイラが三体展示されていました。   3 人の考える“善と悪”の戦い 一方で私は映画「スターウォーズ」を久しぶりに観て、その広大な世界観に感激しました。 邪悪な軍隊で銀河の完全な支配を目指す悪の台頭に立ち向かうレジスタンスの一軍の戦いが画面上で繰り広げられていました。 人間の考えた正義と悪の戦いが、映画の画面上でダイナミックに展開され、映画は、まさに人の創造性が機械によって拡張されていました。   4 美を求める心 また私は、国立近代美術館で熊谷守一の油絵に感動しました。彼は16歳の時に脳卒中で倒れてから、シンプルな線と色の絵を描くようになりました。 小林秀雄は昭和32年、54歳の時に小学生・中学生に向けて、「美を求める心」を次のように語りました。 熊谷守一は自宅の庭で多くの美術作品を生み出しました。私は中でも「猫」や「蟻」の絵が好きです。どう考えてもロボットに絵は描けないし、ロボットは美術を見て感動することもありません。   5 士業に訪れようとする淘汰の波 これまで、会計事務所の仕事の大半は申告書や決算書の作成という「作業」でしたが、今後はそのような作業は人工知能に代替され、会計事務所は企業の財務アドバイスをするコンサル的な付加価値の高い仕事にシフトすると考えられます。 ただし、現在の会計事務所にはコンサルのできるコミュニケーション能力を持つ人材は少ないので、実際に士業に淘汰の波が訪れたとしても、コンサル的分野では圧倒的に人間の方が強いです。 一方で、疲れずに24時間働き、永遠に学習を続け、機械同士で対話ができるという驚くべき強さがAIにはあります。   6 論理的な説得ができないため、コンサルタントに不向きなAI 今は税理士と公認会計士が圧倒的に不足していて、人手不足が深刻化しています。 そのため、自動化は必然的に進み、申告書や決算書の作成といった「作業」はAIによって処理され、会計事務所は企業の財務アドバイザーのような、コンサル的な付加価値の高い仕事へシフトすると考えられます。 コンサル的分野ではクライアント企業の担当者とコミュニケーションをとり、説得する論理的な能力が求められます。ところが、AIには一般常識がないため、コミュニケーション能力が著しく低いのです。 また、論理的な説得力もAIには皆無です。AIは深層学習するため「なぜそういう答えになったのか」を論理的に説明することができないのです。 論理展開が不透明で答えだけのAI。通常のコンピュータプログラムは中身を調べると処理過程がわかります。それでも脳の働きを模した神経回路網を何層にも重ねた深層学習の場合は、そこから「論理」が読めないのです。 「AIがこう言っている」との結論だけでは、相手が納得してくれるアドバイスを贈ることはできません。 かくしてAIには、コンサルタントの仕事は難しいことになります。 AIは記憶力、計算力、分析力は強みですが、人の心を打つような説得力がありません。よってコンサルタントには人間の方が向いています。 会計事務所の「作業」はAIに代替されますが、付加価値の高いコンサルタントの仕事は、人間にしかできない仕事として残るのです。   7 ヒトとAI、どちらが安いか 最後に、ヒトとAIとの代替関係では、「どちらが安いか」という観点は相変わらず重要です。 特に、膨大な開発費が必要なAIの実用化においては、規模の経済の概念が重要です。このため「タスク分析」を十分に行う必要があります。 (了)

#No. 260(掲載号)
#斎藤 博明
2018/03/15

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第12回】「撤退に向けた調査段階で海外派遣者が果たすべき役割」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第12回】 (最終回) 「撤退に向けた調査段階で海外派遣者が果たすべき役割」   中小企業診断士 西田 純   市場環境の急激な変化や取引先との関係が作用して、海外子会社を至急売却しなくてはいけない、というような場合を除き、海外事業の整理についてはある程度しっかりした調査を行う必要があります。 具体的には、清算と売却のそれぞれのケースについて、想定される損益及び課税の内訳と、清算も売却もせずに会社を休眠扱いにした場合のメリット・デメリットの比較がそれに当たります。税務会計の専門的な知識も要求されるため、通常は本社の経理部などから専門のスタッフを出張させるケースが多いと思います。 対象子会社が黒字である場合、通常は日本法人たる親会社の税務上の負担を考慮して、利益配当として還流させる資金と清算・売却益として還流させる資金のバランスをどのように考えるかなどの施策が求められるため、ある程度のリードタイムを織り込んだ調査が望ましいと言えます。 この際、現地事業の責任者である海外派遣者と出張者がしっかりとコミュニケーションをとり、税務会計以外の要素によって撤退の手続きが影響を受けないよう配慮しなくてはなりません。 具体的には、従業員との雇用契約、工場や事務所の賃貸借を含む諸契約、生産設備の処分、現地政府との関係、派遣者及び家族の生活基盤の整理などがあります。 以下に、清算を想定した留意点を挙げてみましょう。 (1) 従業員・地元対策 「出張者による撤退に向けた調査が行われている」という情報が従業員の間に伝わると、噂となって従業員の間に不安が広がり、欠勤が相次いだり集団退職につながったりするなど、士気に関わる問題を引き起こしてしまうことがあります。 このため、合弁パートナーや現地の会計責任者などとも従業員対策の重要性を確認し、情報管理を徹底させることが重要です。 また、実際に撤退プロセスに入ることが予想される場合には、雇用契約を意識しつつ転職先の紹介や退職に伴う負担の軽減策などを予め準備し、従業員対策が撤退の足かせにならないよう配慮する必要があります。 何より、それまで会社のために頑張ってくれた現地従業員を解雇することになるわけですから、会社として礼を尽くし、地元社会から後ろ指をさされないための対策をしっかり講じる必要があります。特に合弁パートナーがいる場合は、綿密なコミュニケーションをとって地元対策に遺漏のないよう努めることが重要です。 そうでない場合は、地元政府関係者、取引先、同業者などへ、いつ・どのように話をするのか、以下で触れる契約管理や設備処分なども考慮して段取りを決めなくてはなりません。 (2) 工場や事務所の賃借契約など現地での契約管理 従業員や地元社会への情報漏れが起きる1つのパターンが、工場や事務所の賃借契約に関する業者への事前照会です。 この場合も、合弁パートナーがいればある程度の対策を相談することが可能ですが、そうでない場合も含め、日頃から解約プロセスについてのシミュレーションをしておくなどの準備が望ましいと言えます。 業者に対して解約の手順などを直接確認しやすいのは、入居時または契約の定期更新をした直後であろうと思われます。特に入居時の問い合わせは警戒されにくいので、退去要件について突っ込んだ確認をしておくチャンスです。 (3) 設備の処分 製造業の場合、特に気を遣うのが生産設備の処分だろうと思います。 途上国の場合、中古機械の流通市場が必ずしも整備されているわけではないため、同業者が近くにいて、設備を引き取ってくれる等の支援が期待できると良いのですが、そうでない場合にはスクラップ処分を覚悟しなくてはならないかもしれません。 最近の生産設備はデジタル化が進んでおり、スクラップにする場合でも情報管理の面でデータやソフトウェアの遺漏がないことを確認するようにします。 また、製造工程で薬品や化学物質等を使用していた場合には工場・敷地の汚染などが問題にならないよう、退去前に対策を講じる必要があります。除染証明書がないと会社の清算が認められない、というような場合もありますので、注意するようにしてください。 (4) 許認可その他 清算に向けて、法人登記の取消しや会社解散の届出をすることになりますが、工業団地などの場合を除き、いつまでに何をすれば良いのか情報整備がされていない場合もありますので、前広に確認するようにしましょう。 国にもよりますが、このプロセスにかかる手数料などについても忘れずに合わせて確認しておいてください。銀行口座解約と合わせて、撤退時の資金計画に影響する場合があります。 *  *  * 地元政府からすると、税金と雇用確保の担い手が失われるため、基本的に清算による撤退は歓迎されません。規模縮小でも操業を継続できないか、せめて売却による事業継続ができないのかなど、さまざまな問い合わせがあるものと思われます。政治家やメディアからの圧力を受ける事例もあるかもしれません。 他方で、自由貿易協定や経済連携協定など貿易・投資の自由化に関わる枠組みを持っている国々とは、基本的に自由主義の考え方に基づいて議論ができるため、最低限の下支えはなされているものと整理できます。その場合は比較的フェアな取引ができるのではないかと思われます。 ◆おわりに◆ さて、ここまで1年間にわたり、海外勤務の適任者を選ぶヒントについてお伝えしてきました。 結論としては、「海外勤務ポストだから要求条件はコレ!」と言えるほどの決定的な条件は存在しない、ということになるかもしれません。 むしろ、①本社との連携、②地元社会や合弁パートナーとの関係づくり、③家族との連帯、そして、④トラブル対策に対応できると思われるだけのエネルギーと使命感があれば十分とも言えるでしょう。 これまでのお話が、少しでも皆さんの事業に役立つことを祈ってやみません。 (連載了)

#No. 260(掲載号)
#西田 純
2018/03/15

《速報解説》 事業承継税制の特例制度、適用対象の非上場株式の確認にあたっては現行制度の名称変更にも留意

 《速報解説》 事業承継税制の特例制度、適用対象の非上場株式の確認にあたっては 現行制度の名称変更にも留意   Profession Journal 編集部   平成30年度税制改正において創設される「事業承継税制の特例制度」は、既報のとおり、納税猶予の対象となる非上場株式の範囲拡充や従業員の雇用確保要件の実質的な撤廃、複数人から複数人への承継パターンも適用可能とするなど、事業承継問題を抱える中小企業にとってはぜひ適用を検討したい新制度だ。 そもそも平成21年度改正で創設された現行の事業承継税制は、次の法律で構成されている。 次に、創設される特例制度はその名のとおり事業承継税制の特例的位置づけであり、本稿公開日現在、参議院で審議中の税制改正法案によると、その構成は次の通り。 特例制度を定めた措置法70条の7の5~8は現行の事業承継税制(措置法70条の7~7の4)に比べ複数人への承継パターンなどに対応した複雑な規定となっているものの、概ね現行制度をベースとした構成となっており、例えば現行の事業承継税制(贈与税の場合)では適用対象となる受贈者を「経営承継受贈者」、適用対象の会社を「認定贈与承継会社」としているが、特例制度ではそれぞれ「特例経営承継受贈者」「特例認定贈与承継会社」と定義するなど新旧制度が対照的に理解できる形になっている。 ここで注意したいのが、30年度改正では現行の事業承継税制にも一部用語の見直しが行われているという点だ。具体的には、現行の事業承継税制において、納税猶予の対象となる非上場株式の名称が次のように変更されている。 その上で、事業承継税制の特例制度において、対象となる非上場株式の名称は次のように定義されている。 これらをまとめると、下表のようになる。 もともと現行の事業承継税制が特例措置として創設されたことから、対象となる非上場株式にも「特例」と付けられていたところ、今回のさらなる特例措置の創設により名称に誤解が生じないよう対応を図ったものと思われるが、いずれにせよ類似した表記となっているため、改正後の法令において新旧制度を比較・検討する際は混同しないよう注意が必要だ。 なお、上記の通り創設される特例制度は現行の事業承継税制をベースに設計されたものであることから、その制度を理解するにあたっては、現行制度についてもあらためて理解しなおす必要があるといえよう。 (了)

#No. 259(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/03/14

《速報解説》 ASBJ、マイナス金利下の割引率の取扱いを定めた実務対応報告第34号について当面の間適用を継続するとした取扱いを確定

《速報解説》 ASBJ、マイナス金利下の割引率の取扱いを定めた 実務対応報告第34号について 当面の間適用を継続するとした取扱いを確定   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年3月13日、企業会計基準委員会は、「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い」(実務対応報告第37号)を公表した。 これにより、平成29年12月7日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」で示されていた適用時期(平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで)を改正するためのものである。 なお、実務対応報告公開草案第54号「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されているので、本実務対応報告の理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 実務対応報告第34号3項を次のように改正する(2項)。 《現行規定》 《改正》 なお、渡部仁委員が本実務対応報告の公表に反対する意見を述べている(4項)。   Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、公表日(平成30年3月13日)以後適用する。 (了)

#No. 259(掲載号)
#阿部 光成
2018/03/13

《速報解説》 OECD移転価格ガイドラインの改正を受け、移転価格事務運営要領等が改正~グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の簡易な算定方法を追加~

《速報解説》 OECD移転価格ガイドラインの改正を受け、 移転価格事務運営要領等が改正 ~グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の簡易な算定方法を追加~   弁護士 木村 浩之   1 移転価格事務運営要領等の改正 平成30年2月16日付け(ホームページ公表日は2月23日)で、国税庁は、移転価格事務運営要領及び関連する事務運営要領の一部改正を行った。これは昨年11月から12月にかけてパブリックコメントが実施されていたものである。 主な改正点は、①グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の算定方法についての改正、②独立企業間価格や恒久的施設帰属所得の算定に当たっての事前確認手続についての改正である。 本稿では、実質的な取扱い内容の変更である①の点に係る移転価格事務運営要領の改正について解説する。   2 グループ内役務提供取引の問題点 企業は集団(グループ)を形成することで取引コストを削減し、規模の利益を享受することが可能である。このような企業グループでは、独立した単独の企業と異なり、グループの内部での取引が多くみられることになる。そのような取引には売買取引もあれば役務提供取引もある。 企業グループが国境を越えてグループ内で売買取引や役務提供取引をするとすれば、移転価格の観点から、その取引対価を独立企業間価格に設定することが求められる。この点、売買取引については、その取引を把握し、対価設定の要否を判断することが比較的容易であるのに対して、役務提供取引については、その性質が様々であり、そもそも対価設定が必要な取引を把握することが容易ではない場合があり、かつ、仮に取引を把握できたとしても、その付加価値が低い場合には対価設定は煩雑なものとなる。 このようなことから、グループ内役務提供取引に係る対価の設定については、移転価格税制の適用に当たっての判断を容易にするための一定の基準が必要であるとされてきた。   3 OECD移転価格ガイドラインの改正 OECDでは、各国が移転価格税制を執行するに当たっての基本的な考え方を共通にするためのガイドラインを制定している。このガイドラインが平成29年7月に改正され、①どのような場合にグループ内役務提供取引について独立企業間価格の設定が必要となり、また、②どのような場合に低付加価値の役務提供取引として簡易な方法での対価設定が認められるかについての基準が示されている。 具体的には、①については、役務提供を受ける企業が便益を享受しており、独立企業であれば対価の支払がなされるものであるかどうかという一般的な基準が示された上で、親会社が子会社に対して株主としての活動として役務提供がなされる場合(これを「株主活動」という)など、一定の場合には対価設定が不要であることが明確にされている。また、②については、一般に企業が価値を生み出すのに重要でない一定の付随的な役務提供については簡易な算定方法として、実際に役務提供に要した費用に5%を上乗せ(マークアップ)した対価設定が認められるものとされている。 今回の移転価格事務運営要領等の改正は、基本的には、上記のOECDガイドラインの改正との整合性を図るために改正されたものである。   4 株主活動の例示の追加(移転価格事務運営要領3-9の改正) 従前の移転価格事務運営要領でも、どのような場合にグループ内役務提供取引について対価設定が必要となるかについての基準が示されていたが、今回の改正では、OECD移転価格ガイドラインとの整合性を図るために、さらに対価設定が不要となる株主活動の例示が追加されるなどした。 例えば、親会社の上場コスト、子会社株式取得のための資金調達コスト、親会社のコンプライアンスやコーポレートガバナンスに要するコストなどは、仮に子会社が親会社の活動によって何らかの便益を反射的、間接的に享受するものであっても、それは親会社が株主として自己のためになされるものであり、対価設定は不要であることが明確にされた。   5 簡易な算定方法の追加(移転価格事務運営要領3-10の改正) 今回の改正で新たに簡易な算定方法が追加された。すなわち、グループ内で役務提供がなされても、その付加価値が低いとされる一定の場合には、簡易な算定方法として、役務提供に要した費用に5%を乗じた金額を加算した金額をもって独立企業間価格として取り扱うことが認められるものとされた。これは従来の算定方法(ベンチマーキングなどによる独立企業間価格の算定)と選択的であり、企業がいずれか有利な算定方法を選択することができるものとされている。 ある役務提供について簡易な算定方法の適用が認められるためには、①支援的な性質のものであって中核事業に直接関連するものではないこと、②無形資産に関するものでないこと、③重要なリスクに関するものでないこと、④研究開発、製造、販売及び金融等に該当しないこと、⑤同種の役務提供を第三者に行っていないこと(本業としての役務提供ではないこと)といった要件をすべて満たす必要があるとされている。 この改正により、企業にとっては、低付加価値のグループ内役務提供取引について対価設定をする際に、5%のマークアップという簡易な方法での対価設定が認められ、事務負担が軽減することになる。ただし、これは日本側で認められるということであり、そのような5%のマークアップが相手国でも許容されるかについては、相手国の移転価格税制の執行状況を勘案する必要があることに留意されたい。 (了)

#No. 259(掲載号)
#木村 浩之
2018/03/12
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