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平成29年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第9回】「地方税率の改正時期の変更他」

平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第9回】 (最終回) 「地方税率の改正時期の変更他」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [11] 地方税率の改正時期の変更 平成28年11月28日公布の「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律等の一部を改正する法律」により消費税率の10%への引上げ時期が平成31年10月1日に延期されたことに伴って、地方税率の改正についても実施時期が変更されている(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律等の一部を改正する法律)。 改正後の法人税、地方税の税率と税効果会計で適用される法定実効税率を示すこととする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以上のように、平成30年4月1日以後開始事業年度と平成31年10月1日以後開始事業年度について、合計の法定実効税率は30.62%で変わらないため、単体納税の税効果会計(繰延税金資産の計算)には影響は生じない。 一方、法人税及び地方法人税の法定実効税率と住民税の法定実効税率の内訳が変わるため、連結納税の税効果会計において、法人税及び地方法人税と住民税で将来減算一時差異等の回収可能額が異なる場合、計算される繰延税金資産についても異なることとなる。   [12] 組織再編税制に係る改正 連結納税における組織再編税制の取扱いについては、次に掲げる条文以外、単体納税と同じ条文が適用され、単体納税と同じ取扱いになる(法法81の3)。 したがって、組織再編税制の適用範囲、適格要件、適格・非適格の譲渡資産・保有資産の取扱い、株主課税(株式譲渡損益とみなし配当)などは、連結納税を採用している場合も、単体納税と同じ取扱いとなる。 一方、連結納税特有の取扱いのうち、次に掲げるものについて、組織再編税制の取扱いが影響を与える。 そして、平成29年度税制改正のうち、組織再編税制に係るものについては、以下の改正項目があるが、【第2回】「スクイーズアウトにおける特定連結子法人の範囲の拡大」で解説した改正内容を除いて、連結納税における取扱いは単体納税と同じ取扱いになる。 そのため、具体的な改正内容は、組織再編税制に係る他の改正記事を参照してほしい。   [13] タックス・ヘイブン税制の総合的見直し 連結法人に係る外国子会社合算税制は、租税特別措置法第68条の90で定められているが、その内容は、租税特別措置法第66条の6で定める内国法人(単体申告法人)に係る外国子会社合算税制と同じである。 そして、平成29年度税制改正では、BEPS報告を踏まえて、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度について、内国法人の外国子会社合算税制(措法66の6)について、抜本的な改正が行われているが、連結法人に係る外国子会社合算税制(措法68の90)についても同じ内容の改正が行われている(平成29年所法等改正法附則1五、85①②)。 したがって、具体的な改正内容は、外国子会社合算税制に係る他の改正記事を参照してほしい。 なお、単体申告法人と異なり、連結親法人がまとめて、各連結法人に係る次に掲げる外国関係会社の財務諸表等を連結確定申告書に添付しなければならない(措法68の90⑪、66の6⑪)。   (連載了)

#No. 232(掲載号)
#足立 好幸
2017/08/24

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第1回】「範囲と定義」

収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第1回】 「範囲と定義」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 本シリーズでは、平成29年7月20日から意見募集が開始された「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)についての解説を行う。 収益認識会計基準(案)は、わが国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発として公表されたものである。意見募集は平成29年10月20日までである。 今回は、収益認識会計基準(案)における「範囲と定義」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 範囲 1 収益認識会計基準(案)の対象 収益認識会計基準(案)は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される(3項)。 次の事項に注意する(95項)。 次の取引は収益認識会計基準(案)の適用範囲から除かれている(3項、96項~100項)。 収益認識会計基準(案)の適用範囲については、次の事項にも注意する(101項~102項)。 なお、参考までに記載すると、固定資産の売却に関しては、平成16年2月13日に、企業会計基準委員会から「不動産の売却に係る会計処理に関する論点の整理」が公表されており、不動産の売却の会計処理の考え方などが述べられている。 2 留意点 収益認識会計基準(案)は「企業会計原則」に優先することから(1項)、今後は、実現主義の原則(「企業会計原則」 第二 損益計算書原則 三 B)とは異なる考え方で会計処理及び開示を行うことになると考えられるので、収益認識会計基準(案)の全体像を理解することが必要になると考えられる。 収益認識会計基準(案)の開発に当たっての方針は次のとおりであり(91項~94項)、その適用に当たっては、下記(2)の重要性等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針(案)91項から102項)を用いるかどうかなどを含めて、実務上の適用方法を早めに検討することが考えられる。 〈方針(1)〉 ▷具体的な規定 ・収益認識会計基準(案)の13項から76項 ・収益認識適用指針(案)の4項から88項及び103項 〈方針(2)〉 ▷具体的な規定 ・収益認識適用指針(案)の91項から102項(次の事項) 〈方針(3)〉 3 廃止される会計基準等 収益認識会計基準(案)等が会計基準等として確定した場合、次の会計基準等は廃止される予定である(86項、90項)。 このため、従来、これらの会計基準等を適用している会社は、収益認識会計基準(案)に従って会計処理等をする場合の影響について検討することが必要と考えられる。   Ⅲ 定義 収益認識会計基準(案)は、次の定義を設けている(4項~12項)。 契約、顧客、債権、契約資産及び契約負債など重要な定義が規定されている。 『契約』 【定義】 法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう。 『顧客』 【定義】 対価と交換に企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財又はサービスを得るために当該企業と契約した当事者をいう。 『履行義務』 【定義】 顧客との契約において、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束をいう。 ① 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束) ② 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス) 『取引価格』 【定義】 財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)をいう。 (※1) 収益認識適用指針(案)の「Ⅲ.我が国に特有な取引等についての設例」の「[設例28]消費税等」では、その前提条件において、「売上に係る消費税等は、第三者である国や都道府県に納付するため、第三者に支払うために顧客から回収する金額に該当することから、取引価格には含まれない(会計基準第44項)」と記載されている。 (※2) 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の「審議事項(3)-7」の11項では、第三者に代わって回収する金額に該当するか否かの判断に迷う可能性がある事項として、次のものが検討されている。 ① 消費税等(消費税及び地方消費税) ② 電気事業における再生可能エネルギー発電促進賦課金 ③ クレジットカード会社に支払う手数料 ④ 小型家電等のリサイクル費用 ⑤ パートナー企業と収益の配分割合を取り決めている契約 ⑥ 旅行業界における燃油サーチャージや空港利用税等 ⑦ 航空業界における共同運航に関する収益 ①消費税等については、国内において広く見られる重要な取引であるため、我が国の実務における会計処理の多様性を軽減する観点から、今後検討すべき課題の候補とすることが考えられるがどうかとする一方、②から⑦の「判断の困難さがあるケース」については、いずれも「審議事項(3)-7」の14項に記載の趣旨に当たるほどの重要性はないと考えられるがどうかと述べられている。 『独立販売価格』 【定義】 財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう。 『契約資産』 【定義】 企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、債権を除く)をいう。 (※) 契約資産及び契約負債に関する会計処理については、収益認識適用指針(案)の設例を参照していただきたい。 『契約負債』 【定義】 財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいう。 『債権』 【定義】 企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいう。 対価に対する企業の権利が無条件である(収益認識会計基準(案)11項)とは、当該対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるものをいう(129項)。 『工事契約』 【定義】 仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいう。 「受注制作のソフトウェア」とは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいう。 (※) 「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)を踏襲している(104項)。 (了)

#No. 232(掲載号)
#阿部 光成
2017/08/24

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第16回】「実務の現場における判断能力の判定方法(その2)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第16回】 「実務の現場における判断能力の判定方法(その2)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   前回に続いて、実際に実務の現場で関係者の判断能力を判定する方法、3ステップ方式について解説する。3ステップ方式の概要は次の通りである。 今回は第2ステップを解説したい。   ▷第2ステップ:医師の手を借りた確認を行う  1 第1ステップの結果をふまえた振り分け 前回解説したとおり、第1ステップ(予備面談を行う)を実施した結果、最も判断に迷うのが、(ハ)簡単な質問は理解し、何とか答えられるが、少し込み入った質問となると適切な回答ができない場合である。 このような場合、①聞き手の理解のペースに合わせて、ゆっくり、丁寧に話をしていけば、こちらが言うことをおおよそ理解できるという場合も多い。そこで、このようにゆっくり丁寧に話をしていくことで本人とのコミュニケーションが成立し、話の内容もほぼ理解できるという感触が得られた場合には、次の第3ステップへ進んでよいだろう。 他方、②ゆっくり丁寧に話をしても、どうしても会話が噛み合わないところが部分的にあり、本人がどこまで理解できているのか判断しかねるという場合も中にはありうる。 このような場合には、医師の手を借りなければ的確な判断能力の判定ができないため、これから説明する第2ステップへ進むことになる。 2 医師の手を借りる前に確認すべきこと 第2ステップは、医師の手を借りて判断能力を確認していくことになるが、すぐに医師の協力を仰ぐのではなく、事前に確認すべき事項がある。 それは、高齢者本人の判断能力について、これまでに何らかの形で医師の診断がなされていないかを確認するということである。 この点、「判断能力・意思能力の判定にあたって証拠となり得るもの」については、既に解説編【第5回】で説明した。そこに掲載されているような検査結果や医学的資料が入手できれば、それらを参考にすることができる。 これ以外にも、例えば、高齢者本人が要介護状態となっており介護保険の適用を受けている場合には、介護保険の申請時に作成されている「主治医意見書」等における心身の状況の記載が参考になる場合がある。 これらにおいて、過去の時点で既に「判断能力に問題がある」という趣旨の診断が下されているならば、多くの場合、認知機能の低下は年々進行していくという一般論を考え合わせると、「現時点の判断能力はない」という方向で処理していくべきであろう。 この点、法曹実務家向けの一般的な解説書の中には、判断能力に疑義があるケースにおいては、どのような場合であっても医師の診断を得ることを勧めているものもある。たしかに、それが最も確実な方法であるとは言えるかもしれない。 しかし、医師による診断・意見を得るには費用もかかるし、何より時間を要する。その先にある契約締結のタイミングまで考えると、判断能力そのものの判定に時間がかかりすぎることは現実的ではない。 そこで、特に医師の手を借りなくとも「判断能力なし」として判断できるようなケースでは、わざわざ医師による診断等を経ないでも「判断能力がない」ことの判定がすみやかにできるように、上記のように工夫すべきであろう。 3 どの医師に、どのような依頼をすればよいか? 過去の検査結果や医師による診断が入手できず、医学的資料が参照できない場合や、これらの資料を参照してもどうしても判定ができないような場合には、いよいよ医師の手を借りることになる。 この点、このように判断能力について疑義が生じているような場合には、通常は、既に通院して認知症の治療を受けていたり、普段からかかりつけの主治医がいることが多い。 そこで、本人の家族に依頼して、現時点での判断能力の有無や心身の状況等につき、主治医の診断書を取得してもらうのがよいであろう。 この場合、書式としては、成年後見申立用のものと同形式の診断書作成を依頼するのがわかりやすい。なお、最高裁判所事務総局家庭局による「成年後見制度における診断書作成の手引」では、p8以下に診断書の様式や記載例が掲載されており参考になる。 仮にかかりつけ医がいない場合、あるいは、かかりつけ医が診断書の作成を固辞するような場合(診療科目の違い等により、判断能力に関する診断書を作成することに難色を示す医師もいる)には、精神科もしくは神経内科を専門としている医師を探し、診察と診断書の作成を依頼するのがよいであろう。 このようにして診断書を取得した上で、記載内容について確認したい点があったり、契約締結のための準備として「本人の判断能力が回復している時間帯やタイミングがあるのか。あるとすれば具体的にいつか」等につき突っ込んだアドバイスを受けたい場合には、診断書を作成した医師に面談あるいは電話にて直接確認していくことになる。 4 第2ステップの小括 このようにして、第2ステップでは、医師の意見を参考にしたうえで、①本人が現時点において判断能力を欠く状態にある、もしくは、判断能力が著しく不十分な状態であると判定される場合には、今回の取引を取り止めにするということになる。 他方、②一般的見地から最低限の判断能力は兼ね備わっていると判定される場合には、今回の契約内容につき具体的に確認していく第3ステップに進むことになる。 (次回に続く)

#No. 232(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/08/24

法務・会計・税務からみた循環取引と実務対応 【第6回】「循環取引の実務対応②(初動対応後)」

法務・会計・税務からみた循環取引と実務対応 【第6回】 (最終回) 「循環取引の実務対応②(初動対応後)」   弁護士・公認不正検査士 下尾 裕   1 初動対応後の実務対応に関する留意点 初動対応後の検討事項については、一般の企業不祥事(特に会計不正案件)と大きく変わることはないが、検討すべき事項を列挙すると以下のとおりである。   2 再発防止策の策定 企業においては、社内調査等によって判明した循環取引発生の背景事情等を踏まえ、その原因等を分析した上、適切な再発防止策を策定する必要がある。 再発防止策の策定は、企業の将来的な損害を防止するのは勿論のこと、金融機関等の債権者を含むステークホルダーとの関係において信用回復を図るとともに、特に上場企業等においては、内部統制システムがなお有効に機能していることを明らかにする意味合いがあり、いずれにしても非常に重要である。 【第1回】で述べたとおり、循環取引に関しては、不正の兆候が表れにくいという特徴はあるものの、循環取引を可及的に未然に防止する又は早期に発見するという観点からは、各取引における実需(目的物の完成又は引渡し等)の有無を如何に確認するか、また、債権額が雪だるま式に膨らんでくるという循環取引の特徴を踏まえ、取引先との関係で如何に与信枠の管理等を行うかが1つの視点になると思われる。   3 関与した役員・従業員等に対する責任追及・社内処分 社内調査等を踏まえ循環取引における自社の役員・従業員の関与の有無及び程度、さらには首謀者が誰かということなどが判明した場合には、関与した役員・従業員について責任追及・社内処分を行うかどうかを検討する必要がある。 (1) 責任追及 企業から関与した役員・従業員に対する責任追及としては、任務懈怠又は不法行為を理由として損害賠償請求を行うことが考えられる。 特に、役員のうち取締役については、内部統制システム構築義務(会社がその事業内容や規模に応じて適切にリスクを管理できるような体制を構築する義務、最高裁平成21年7月9日判決等)又は監視・監督義務(さらには不正調査実施義務)、監査役については、内部統制システム構築に係る助言等を行う義務(大阪高裁平成27年5月21日判決)又は適切な監査を行うなどの義務をそれぞれ負っていることから、循環取引に積極的に関与していた場合のみならず、循環取引を防止又は早期発見できる体制を構築していなかった(監査役についてはそれに関する助言等を行っていなかった)場合においても損害賠償責任を負うことになる。 (2) 社内処分 まず、関与した役員については、仮に任務懈怠があるとまでは認定できない場合でも、ステークホルダーとの関係で、道義的責任等を明確にする趣旨で月額報酬の減額ないし自主返還等を行うかどうかを検討する必要がある。 次に、関与した従業員に対する社内処分としては、人事権行使の範疇で行われる役職の引下げ及び懲戒権の行使として行われる職能資格の引下げ、譴責・減給・解雇等が検討対象となる。 関与した従業員に対していかなる社内処分を行うかは、あくまで当該対象者の関与の程度等を踏まえた総合判断となる。この点、人事権行使については企業に広い裁量が認められているのに対し、懲戒権の行使については、就業規則に定める懲戒事由への該当性が厳格に問題となることから、特に懲戒権を行使する場面においては事後的にその相当性が争われるリスクを踏まえ、慎重に判断する必要がある。   4 刑事告訴 故意に循環取引に関与していた役員等、さらには社外の首謀者については、(特別)背任罪(企業における職務に違反して、企業に損害を与えたという犯罪)、詐欺罪等による刑事告訴を行うかどうかを検討する必要がある。 企業が刑事告訴を行うかどうかの判断にあたっては、犯行態様の悪質性、損害額の程度、被害回復の有無及び程度、社内モラル維持の必要性の程度、社外への影響の程度、犯罪を立証できる資料の有無等を踏まえた総合考慮によることになる。 刑事告訴については、特にその対象が自社の役員等である場合には抑制的になる傾向があるように見受けられるが、刑事告訴、さらにはプレスリリース等をしないままに、事後に企業が循環取引に関与していたことが明らかになった場合には、企業の信用に深刻なダメージを与える可能性があることから、慎重な判断が必要になる。   5 民事上の債権回収 (1) 循環取引に基づく債権行使 前回述べたとおり、循環取引発覚時には、企業の循環取引に基づく債権(売掛金)が未回収になるケースがあることから、特にこれに対応する債務(買掛金)を支払済である場面においては、未回収債権を請求するかどうかの検討が必要になる。 循環取引に基づく債権行使に関する法的整理については、【第2回】において詳述したとおりであり、社内調査等の結果を踏まえ、当該企業の勝訴可能性等を事前に見極めた上で、請求の当否を判断すべきである。 また、別の視点として、企業が当該債権を回収するため民事訴訟を提起した場合、権利行使する原告側が循環取引であることを認識していたかどうかが1つの争点となり、その結果、企業側の理解に反して、裁判所より、原告である企業側が循環取引であることを認識していたと認定されるリスクがあることから、この場合のレピュテーションリスクも十分に考慮に入れる必要があろう。 (2) 首謀者に対する損害賠償請求 企業としては、不法行為を根拠として、循環取引の首謀者に対する損害賠償請求を行うことも考えられるが、現実問題としては、循環取引発覚時には首謀者には資力がないことが多く、回収は現実的ではない場合が多い。   6 (上場企業等)訂正報告書及び改善報告書の提出等 【第3回】及び【第5回】で述べたとおり、上場企業等においては、不適切な会計処理を前提に株主総会における決算承認等、適時開示又は有価証券報告書等の提出が行われることになることから、速やかに会計処理を修正再表示した上、次の株主総会における過年度決算報告等の処理を行うとともに、並行して、既に提出した有価証券報告書等との関係で訂正報告書、また、証券取引所との関係では、適時開示、さらには改善報告書の提出(東証上場規程第502条第1項第1号)等の対応を行う必要がある。 なお、循環取引の発覚が企業の事業年度末に近接した時期であった場合には、不適切会計処理を是正した上での会社法上の計算書類等の作成が間に合わず、定時株主総会の延期又は続行(会社法第317条)等を検討する必要が生じるとともに、有価証券報告書等の提出遅延回避のための対応が必要になることに留意が必要である。   7 過年度の税務処理に関する検討 企業においては、会計上の遡及修正方式に沿って、過年度における法人税及び消費税を再度計算した上、その結果に応じて更正の請求等の対応を検討する必要がある。 詳細については、【第4回】を参照されたい。   (連載了)

#No. 232(掲載号)
#下尾 裕
2017/08/24

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例18】株式会社大戸屋ホールディングス 「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」(2017.6.29)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例18】 株式会社大戸屋ホールディングス 「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」 (2017.6.29)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社大戸屋ホールディングス(以下「大戸屋」という)が平成29年6月29日に開示した「第34回定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」である。 同社は、平成29年5月10日、従業員等に対してストックオプションを付与するという内容の「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」を開示していた。そのストックオプションの付与が、平成29年6月28日開催の定時株主総会において否決されたのである(翌日の平成29年6月29日ではなく平成29年6月28日中に開示すべきであったが)。   2 可決された議案 大戸屋は、平成29年5月10日、「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」とともに「創業者功労金の贈呈に伴う特別損失の計上に関するお知らせ」も開示している。創業者功労金として2億円を支払うという内容だが、その決定理由として次のような記載がある。 同社の創業者の「功績と在任中の労に報いる」ことが目的だが、「故三森久実氏」とあるとおり、その創業者は故人である。この創業者功労金は、創業者本人に対してではなく、創業者の遺族に対して支払われるものなのである。 この創業者功労金の支払いも、平成29年6月28日開催の定時株主総会に付議されたが、こちらは可決された。   3 鍵を握っていたのは なぜ、創業者本人ではなくその遺族に対する創業者功労金の支払いという、疑問符が付きそうな議案が可決され、従業員等に対するストックオプションの付与が否決されたのだろうか。 鍵を握っていたのは、おそらく創業者の遺族だろう。 創業者の遺族は、大戸屋の株式を約2割保有している。約2割しか保有していないのであれば、その株主総会での影響力は限定的に見えるが、そうとは限らない。株主総会に出席した株主の数によって変わってくる。 株主総会における普通決議は、総議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の過半数の議決権により、特別決議は、総議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席株主の3分の2以上の議決権により可決される。 今回の株主総会において、創業者功労金の支払いは普通決議が、ストックオプションの付与は特別決議が必要な議案だった。出席株主の数によっては、創業者の遺族が、創業者功労金の支払いを可決に、ストックオプションの付与を否決に導く上で強い影響力を持ち得たのである。   4 なぜストックオプションの付与に反対したのか 創業者の遺族が、自分達に対する創業者功労金の支払いに賛成するのは容易に理解できる。しかし、ストックオプションの付与に反対する理由はどうだろうか。 ストックオプションは、経営者や従業員と株主の利害を一致させることを目的とするものである。「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」には、付与理由として次のような記載がある。従業員等のやる気が高まり、会社の業績そして株価が向上すれば、従業員等と株主の双方に利益がもたらされることになる。 詳細は、大戸屋が平成28年10月3日に発表した第三者委員会調査報告書を参照していただきたいが、創業者の遺族は、同社の経営に関与したいという意向を持っていた。ストックオプションが付与された場合、その行使により株式が発行され、自分達の議決権比率が低下し、同社への影響力が小さくなってしまう可能性がある。それを懸念して、ストックオプションの付与に反対したという推測は成り立つだろう。 もとより、創業者の遺族だからという理由だけで上場会社の経営に関与することなど、認められるはずがない。ましてや、もしも従業員への配慮を忘れ、自分達の利益のためだけにストックオプションの付与を否決に導いたのならば、絶対に認められないだろう。そうだとしたら、同社の株式を即刻売却し、同社との関係を一切絶つべきだろう。 (了)

#No. 232(掲載号)
#鈴木 広樹
2017/08/24

プロフェッションジャーナル No.231が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年8月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.231を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/08/17

日本の企業税制 【第46回】「個人所得課税における納税環境の整備(電子化)に向けた動向」

日本の企業税制 【第46回】 「個人所得課税における納税環境の整備(電子化)に向けた動向」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   政府税制調査会においては、4月下旬から5月上旬にかけて、経済活動のICT化や多様化を踏まえ、税務手続の利便性向上及び適正公平な課税の実現に向けた検討のため、諸外国の納税実務に係る諸制度やその実際の運用について調査を行い、6月19日の第10回総会で報告を行っている。 9月以降、審議が再開され、年末の平成30年度税制改正にもその成果が反映されることが期待されている。   〇所得税に係る年末調整の電子化 6月9日に閣議決定された「規制改革実施計画」においては、所得税に係る年末調整手続の電子化の推進が盛り込まれており、「平成29年度検討・結論」とされている。 給与所得に係る源泉徴収制度・年末調整制度は、所得税の納税者の多数を占める給与所得者(被用者)の納税手続を簡便化し、社会的なコストを抑制する仕組みとして長年用いられている。なかでも、年末調整制度は、毎月の源泉徴収税額の累積額と、年間を通じた給与所得に係る年税額の差を12月に精算する仕組みであり、年末調整を実施している者は4,300万人にのぼっており、扶養家族の変更や源泉徴収税額に反映されない生命保険料控除(3,100万人)、地震保険料控除(700万人)、住宅ローン控除(300万人)といった控除を年税額計算に反映させ税額を確定・精算している現状がある。 また、諸外国の制度をみると、概ね、わが国やドイツなど利子・配当・キャピタルゲインについて源泉分離課税ないしは源泉徴収により申告不要としている国においては年末調整を採用している一方、米国やフランスなど総合課税の国においては、年末調整は採用されていない。 このような現状からすれば、わが国において年末調整を廃止することは難しいものと見られる。 「規制改革実施計画」でも、年末調整制度の存在を前提としつつ、ICTの一層の活用等により、被用者・雇用者を含めた社会全体のコストを削減する観点から、電磁的な方法による年末調整関係書類の提出を原則全て可能とすること、被用者が電磁的に交付された控除証明書を活用して簡便に控除申告書を作成し、雇用者に提供することができる仕組みの構築について検討し、結論を得ることとされている。 また、年末調整全体のプロセスの更なる合理化を図る観点から、 も掲げられている。 〇個人住民税の特別徴収税額通知の電子化 「規制改革実施計画」では、地方税の個人住民税の特別徴収税額通知の電子化も取り上げられている。 まず、特別徴収義務者用の通知に関しては、正本の電子交付を行っていない市区町村に対し、電子交付の導入の意義・効果に関する助言など電子交付の推進に必要な支援を行うこととされている。 すでに平成28年7月15日付け総務省自治税務局市町村税課長通知「個人住民税における特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の電子化推進について」(総税市第65号)において、正本の電子交付を特別徴収義務者の事務効率化や特定個人情報保護の観点等から、積極的に取り組むよう、通知がされている。 他方、納税義務者用の通知に関しては、事業者の負担を軽減しつつ全体としての事務の効率化を図るため、事業者に電子的に送信して従業員が取得できるようにする、マイナポータルを利用して事業者を経由せずに従業員が取得できるようにするなどの可能性を検討し、できるだけ早期に結論を得ることとされている。   〇国税と地方税との情報連携 これら他にも、6月30日に、財務省、総務省から公表された「行政手続コスト削減のための基本計画」では、電子的提出の一元化の観点から、地方団体で作成した所得税確定申告書について、e-Taxへのデータによる引継ぎを推進することとされている。 また、国税当局、地方税当局それぞれに提出している給与・公的年金等の源泉徴収票及び支払報告書の、eLTAXでのデータの一括作成及び提出を推進することとされている。 いずれの制度もすでに平成29年1月から可能となっているものである。 (了)

#No. 231(掲載号)
#小畑 良晴
2017/08/17

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第6回】「[設備種別]適用税制の選択ポイント②(ソフトウェア)」

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第6回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント②(ソフトウェア)」   アースタックス税理士法人 代表社員  税理士 島添 浩  シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志   【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第6回】は、ソフトウェアについて紹介する。   1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【ソフトウェアにおける適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されている。  承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討も要する。 ソフトウェアにおいては、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は対象外となるため、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の選択となる。 【第2回】及び【第3回】で確認したとおり、中小企業経営強化税制は、原則としてソフトウェアを取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、中小企業投資促進税制に比べ特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 ソフトウェアの範囲は、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制とで同じであるが、中小企業経営強化税制では、中小企業等経営力強化法における経営力向上計画の認定を受ける必要があることから、経営力向上に特に資するものでないソフトウェアは対象外となり、中小企業投資促進税制の適用を検討することとなる。 そこで、中小企業経営強化税制のA類型(生産性向上設備)の場合には、「設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの」という要件に注意を要する。 申請手続きは、基本的にソフトウェアを導入する法人から依頼を受けた設備メーカー(ソフトウェアの開発元の事業者等)と工業会等(ソフトウェアで情報収集・分析・指示機能を有するものについては、「一般社団法人情報サービス産業協会」)とで行われるため、ソフトウェアの導入を検討している法人は、事前に設備メーカー(ソフトウェアの開発元の事業者等)へ要件を満たすか否か確認する必要がある。 なお、ソフトウェアは無形減価償却資産であるため、固定資産税の特例措置(課税標準の特例)の適用はない。   2 具体例(特別償却準備金、税額控除) 今回は【第5回】と異なり、特別償却に代えて特別償却準備金を選択した場合と税額控除を選択した場合について確認する。 - 前 提 - 小売業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数80人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、既存顧客のリピーター増加を促し、収益力の向上を図る目的で顧客管理システム(ソフトウェア)を導入し、事業の用に供した。 【顧客管理システム(ソフトウェア)の詳細】 取得価額:3,000,000円 法定耐用年数:5年 (定額法償却率:0.200) 取得日:平成29年12月1日 事業供用日:平成29年12月1日 普通償却費:200,000円 普通償却限度額:200,000円 (1) 特別償却準備金を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として900,000円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 ソフトウェアについては、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として2,800,000円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 特別償却準備金のポイント 前回【第5回】で確認した特別償却の場合と同様に、適用を受ける税制に係る特別償却の付表を添付するとともに、別表16(9)(特別償却準備金の損金算入に関する明細書)も添付して、特別償却準備金の積み立てによる損金算入額を記載する必要がある。 なお、翌期以降は当該別表の「翌期繰越額の計算 22欄から28欄」を使用して、特別償却準備金の取り崩しによる益金算入額を記載することとなる。 (2) 税額控除を選択適用した場合 資産区分や金額等は異なるが、前回【第5回】と同様の記載内容である。 ① 中小企業投資促進税制 調整前法人税額は1,668,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 ソフトウェアについては、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 調整前法人税額は1,668,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 *  *  * 次回【第7回】では、器具備品についての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)

#No. 231(掲載号)
#アースタックス税理士法人
2017/08/17

〈平成29年度改正対応〉所得拡大促進税制の実務 【第6回】「組織再編が行われた場合の取扱い(その2:分割等)」

〈平成29年度改正対応〉 所得拡大促進税制の実務 【第6回】 (最終回) 「組織再編が行われた場合の取扱い(その2:分割等)」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 分割等が行われた場合の調整計算の概要 前回解説した「合併」と同じく、分割等(分割、現物出資及び現物分配)が行われた場合にも、企業規模が著しく変動することとなるため、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額について一定の調整が必要となる(措法42の12の5⑤)。 具体的には、分割法人等(分割法人、現物出資法人、現物分配法人)及び分割承継法人等(分割承継法人、被現物出資法人、被現物分配法人)のそれぞれについて調整計算が定められており(下表A及びB)、分割承継法人等については、新設分割及び現物出資による設立の場合についてさらに別の取扱いが定められている(下表C)。 以下、それぞれの調整計算の内容について解説する。   2 分割法人等における調整計算 (1) 適用年度に分割等が行われた場合 適用年度に分割等が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割法人等の企業規模が小さくなり、給与等支給額も減少することとなる。 そこで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額についても、分割等の日の属する月から事業年度末までの月数について、分割承継法人等に移転した給与等支給額の水準(移転給与等支給額)を減算する調整を行うことで、適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 この図より一目瞭然であるが、分割等実施後の雇用者給与等支給額の水準(上図③)と同じような図形になるように、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を調整していることがイメージできれば、理解も早まると思う。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象基準年度に係る給与等支給額から、以下の算式によって計算した金額を控除する(措令27の12の5⑧一イ)。 【比較雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象前年度に係る給与等支給額から、以下の算式によって計算した金額を控除する(措令27の12の5⑬一イ)。 ここで「移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の各事業年度の給与等支給額(分割事業年度等にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額)に当該分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であったものに限る)の数を乗じてこれを当該分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいう(措令27の12の5⑩)。 計算式で表現すると以下のようになる。 以上要するに、分割等によって分割承継法人等に移転した分割法人等の国内雇用者の数に対応する給与等支給額を「移転給与等支給額」として計算し、これに月数補正を加味したものを、調整対象基準年度又は調整対象前年度における給与等支給額から控除するという調整を行っているということである。 (2) 基準年度開始の日から適用年度開始日の前日までに分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じてすべて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、基準年度及び前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象基準年度に係る給与等支給額から、当該分割法人等の当該調整対象基準年度に係る移転給与等支給額を控除する(措令27の12の5⑧一ロ)。 【比較雇用者給与等支給額の調整】 調整対象前年度において分割等が行われている場合(※1)、分割法人等の調整対象前年度に係る給与等支給額から、当該分割法人等の当該調整対象前年度に係る移転給与等支給額を控除する(措令27の12の5⑬一ロ)。 (※1) 調整対象基準年度開始の日から調整対象前年度開始の日の前日までに分割等が行われている場合には、調整対象前年度においても、年度を通じて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるため、特段の調整は不要である。 この点に関し、移転給与等支給額の計算基礎となる分割法人等の各事業年度の給与等支給額の算定に当たり、その事業年度が分割等の日を含む事業年度(分割事業年度等)である場合には、「当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額」とされている点に留意が必要である。これは、移転給与等支給額の按分計算が必要なのは、あくまでも、分割前の企業規模を前提に支給された給与等の額のみであって、分割後の給与等支給額を按分計算に含めるのは適切でないという考え方によるものである。 したがって、調整対象基準年度又は調整対象前年度中に分割等の日が含まれている場合における移転給与等支給額の計算は、その事業年度開始の日から分割等の日の前日を1事業年度とみなして、その事業年度中に損金の額に算入される給与等支給額を基礎として計算することとなる。   3 分割承継法人等における調整計算(4の適用を受けるものを除く) (1) 適用年度に分割等が行われた場合 適用年度に分割等が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割法人等から引き継いだ従業者に対する給与等支給額が加味されて、雇用者給与等支給額が大きく増加することとなる。 そこで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額についても、分割等の日の属する月から事業年度末までの月数について、分割法人等において計算された「移転給与等支給額」を加算する調整を行うことで、適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧二イ)。 ・分割承継法人等の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・分割承継法人等の調整対象基準年度に含まれる月の、当該分割等に係る分割法人等の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図④)に、当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬二イ)。 ・分割承継法人等の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・分割承継法人等の調整対象前年度に含まれる月の、当該分割等に係る分割法人等の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑤)に、当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) ここで「月別移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の各事業年度の移転給与等支給額をそれぞれ当該各事業年度等の月数(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数)で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月)に係るものとみなしたものをいう(措令27の12の5⑨)。 すなわち月別移転給与等支給額は、分割法人等において算定された「移転給与等支給額」に基づくものであるが、その月別変動を平準化させるために、月平均額を算定しているものである(合併における月別給与等支給額と同趣旨(前回参照))。 (2) 基準年度開始の日から適用年度開始日の前日までに分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じて全て分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、基準年度及び前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧二ロ)。 ・分割承継法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・分割承継法人の調整対象基準年度に含まれる月の、当該分割に係る分割法人の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 調整対象前年度において分割等が行われている場合(※2)、以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬二ロ)。 ・分割承継法人の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・分割承継法人の調整対象前年度に含まれる月の、当該分割に係る分割法人の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑤) (※2) 調整対象基準年度開始の日から調整対象前年度開始の日の前日までに分割等が行われている場合(上図⑤が存在しない場合)には、調整対象前年度においても、年度を通じて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるため、特段の調整は不要である。 以上、3で説明した分割承継法人等に関する取扱いは、結果的には、吸収合併における合併法人の調整計算とほぼ同じ計算構造になっている(合併のケースと同じ図になる)。 そして次に説明する4(新設分割・現物出資設立)も、新設合併における取扱いとほぼ同じ考え方に基づき調整計算が規定されている。   4 新設分割又は現物出資設立に係る分割承継法人等における調整計算 (1) 適用年度に新設分割又は現物出資設立が行われた場合 新設分割又は現物出資設立の場合には、分割承継法人等は分割等の日に成立するため、前年度以前の給与等支給額は発生していないが、分割等に係る分割法人等の給与等支給額に基づき、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を計算することとなる。 また、適用年度は分割等の日(会社成立日)から開始するため、通常の事業年度よりも短いことが一般的である。この場合、基準事業年度及び比較事業年度と適用年度の月数が異なることとなるため、その調整も必要となるので留意が必要である(措法42の12の5②四ロ・六ロ。詳細は【第1回】を参照)。 新設分割及び現物出資設立に特有の取扱いとして、当該分割等に係る分割法人等のうち、どの分割法人等の給与等支給額を基礎として合算調整を行うかを決定する必要がある。対象となる分割法人等を「基準分割法人等」といい、分割法人等のうち当該分割等の直前の時における資本金の額又は出資金の額が最も多いものをいう(措令27の12の5⑧三)。 そのうえで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額は以下のように調整される。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧三)。 ・基準分割法人等の調整対象基準年度における移転給与等支給額(上図①) ・基準分割法人等以外の分割法人等の調整対象基準年度における月別移転給与等支給額の合計額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬三)。 ・基準分割法人等の調整対象前年度における移転給与等支給額(上図③) ・基準分割法人等以外の分割法人の調整対象前年度における月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑥) (2) 基準年度開始の日から適用年度開始の日の前日までに新設分割又は現物出資設立が行われた場合 この場合には、分割承継法人として前事業年度が存在するため、比較雇用者給与等支給額については特段の調整は必要とされず(ただし、前年度と適用年度の月数が異なる場合の調整は必要)、基準雇用者給与等支給額についてのみ調整計算が定められている。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧三)。 ・基準分割法人等の調整対象基準年度における移転給与等支給額(上図①) ・基準分割法人等以外の分割法人等の調整対象基準年度における月別移転給与等支給額の合計額(上図③) 【比較雇用者給与等支給額】 特段の調整はない(上図⑤)。この点に関し、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合には、月数補正の調整が必要となる。   5 その他の留意点 合併、分割又は現物出資により設立された法人については、『基準事業年度がない場合において最も古い事業年度の雇用者給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とする取扱い』は適用されないので留意が必要である(措法42の12の5②四ハ)。   (連載了)

#No. 231(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2017/08/17

平成29年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】「連結法人の申告期限の延長の見直し」

平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】 「連結法人の申告期限の延長の見直し」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [10] 連結法人の申告期限の延長の見直し 平成29年度税制改正においては、「攻めの経営」を促すコーポレートガバナンス税制の一環として、企業と株主・投資家との充実した対話を促すため、上場企業等が定時株主総会の開催日を柔軟に設定できるよう、決算日から3ヶ月を超えた日に定時株主総会を開催する場合(例えば3月期決算企業が定時株主総会を7月以降に開催する場合)、定時株主総会後に法人税の確定申告を行うことを可能とする措置が講じられた。 具体的には、連結確定申告書について、平成29年4月1日以後に申請するものについて、次のように取り扱われることとなる(新法法81の24①、平成29年所法等改正法附則1)。 なお、既に2ヶ月間の延長の適用を受けている場合は、改正後も2ヶ月間の延長が認められる(平成29年所法等改正法附則25①②)。   1 法人税の申告期限の延長について (1) 2ヶ月間の延長 連結親法人の連結確定申告書の提出期限は、原則、各連結事業年度終了の日の翌日から2月以内であるが、次に掲げる理由がある場合、2ヶ月間延長することができる(新法法81の24①、81の22①)。 この点、〈例2〉のように、定時株主総会が3ヶ月超、4月以内の場合は、次の(2)ではなく、この(1)の定めに従って延長が行われることとなる点に注意が必要である。 そして、連結納税の申告期限の延長について、改正前は〈例1〉のケースしか存在しなかったであろうが、改正後は〈例2〉のケースが生じることが想定される。 (2) 2ヶ月超4ヶ月以内の延長 今回の改正によって、次に掲げる場合について。2ヶ月超4ヶ月以内の延長が認められることとなった。 ① 連結親法人が、会計監査人を置いている場合で、かつ、定款等の定めにより各連結事業年度終了の日の翌日から4ヶ月以内に決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められる場合には、その定めの内容を勘案して4ヶ月を超えない範囲内において税務署長が指定する月数の期間の延長を認めることとする(新法法81の24①一)。 ② また、特別の事情があることにより、各連結事業年度終了の日の翌日から4ヶ月以内に決算についての定時株主総会が招集されない常況にあること、あるいは、4ヶ月以内に連結法人税の額等の計算が終了できない常況にあることその他やむを得ない事情があると認められる場合、税務署長が指定する月数の期間の延長を認めることとする(新法法81の24①二)。 なお、会計監査人を置いていない場合、あるいは、定款等の定めによらない場合で、連結子法人が多数に上ることを特別の事情として、上記②の2ヶ月を超える申告期限の延長が認められるかであるが、このような場合に、すでに(1)で2ヶ月の延長を認めている以上、連結子法人が多く決算が締まらないことを理由として、税務署長が、(2)よりもさらに最大2ヶ月の延長を認めることは、想定されていないと思われる。 ▷決算日と定時株主総会開催月と申告期限の関係 以下、定款等の定め、会計監査人の設置など他の延長要件が満たされていることを前提とする。 (※) 連結子法人が多数に上ること等により、2ヶ月以内に連結確定申告書を提出することができない場合は7月末まで延長が認められる。   2 法人税の申告期限の延長の申請期限について 「申告期限の延長の特例の申請書」に定款等の写し及びケースごとに必要となる書類を添付し、延長の適用を受けようとする連結事業年度終了の日の翌日から45日以内に納税地の所轄税務署に提出する必要がある(新法法81の24②、75の2③④)。 また、住民税について、各連結法人は、連結確定申告書の提出期限の延長の処分があった日から7日以内に「法人税に係る申告書の提出期限の延長の処分等の届出」(東京都様式:申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書)を都税事務所、県税事務所、市区町村に提出する必要がある。   3 事業税の申告期限の延長について 各連結法人の事業税の申告期限についても、法人税と同期間の延長が可能となる(新地法72の25⑤、72の28②)。 延長が認められる要件についても法人税と同じである(新地法72の25⑤)。 また、各連結法人は、事業税の申告期限の延長の適用を受けるためには、法人税の申請とは別に、延長の適用を受けようとする事業年度終了の日の翌日から45日以内に「事業税等に係る申告書の提出期限の延長の承認申請」(東京都様式:申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書)を都税事務所、県税事務所に提出する必要がある。 なお、添付書類も法人税と同様に、定款等の写し及びケースごとに必要となる書類を添付する必要がある(新地令24の4③、24の4の3①)。   (了)

#No. 231(掲載号)
#足立 好幸
2017/08/17
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