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役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第3回】「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に関する改正」

役員給与等に係る平成29年度税制改正 【第3回】 「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に関する改正」   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子   1 特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)に関する改正 特定譲渡制限付株式は、平成28年度税制改正により導入された、事前確定届出給与として損金算入が認められる株式報酬(法人税法34条1項2号・5項)をいう。 その主要な要件は以下のとおりである。 (※1) 市場価格のある株式と交換される株式、例えば、上場会社が発行する非上場の種類株式であって取得請求権の行使等により市場価格のある株式が交付されるものも含まれる。 (※2) 「関係法人」には、50%超の株式又は持分を保有する関係にある法人が含まれる(法人税法2条12号の7の5、法人税法施行令71条の2)。 平成29年度税制改正による改正点は、上記の要件②及び④に関するものである。 具体的には、上記要件②に関しては、平成29年度税制改正前は、特定譲渡制限付株式として認められるために必要な無償取得事由は、その株式の交付を受けた役員等につき「譲渡制限期間内の所定の期間勤務を継続しないこと」、「個人の勤務実績が良好でないこと」その他の「当該個人の勤務の状況に基づく事由」、又は株式の発行法人につき「法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないこと」その他の「法人の業績その他の指標の状況に基づく事由」(法人税法施行令111条の2第1項2号、所得税法施行令84条1項2号参照)のいずれかから選択することが求められていた。 しかし、平成29年度税制改正により、事前確定届出給与として損金算入が可能な特定譲渡制限付株式は、「役務の提供期間に応じて」無償取得されるものに限られることとなった(法人税法34条1項2号・5項)。これは、平成29年度税制改正において、金銭、株式又は新株予約権という報酬の支給手段を問わず、役員給与全般について損金算入の要件を統一化するとの横断的な整理が行われたことに伴い、特定譲渡制限付株式についても、事前に確定した給与を付与するとの性質を有するもののみが事前確定届出給与の対象とされ、業績に連動する無償取得事由を付したものは事前確定届出給与の対象外とされたことによる。 なお、特定譲渡制限付株式の割当契約書等において、無償取得事由として、会社に対する非違行為があった場合や、禁固以上の刑に処せられた場合等に特定譲渡制限付株式の全てが没収される旨を規定することがあるが、このような無償取得事由については「役務の提供期間以外の事由により無償取得される株式数が変動する」には該当しないと考えられ、上記②の要件の充足を阻害するものとはならない(経済産業省産業組織課「『攻めの経営』を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引き~」(平成29年4月28日時点版)(以下「経産省手引き」という)Q20・21参照)。 また、要件④に関しては、平成29年度税制改正前は、市場価格のある株式との要件は課されていない一方、役務提供を受ける法人又はその法人の直接かつ完全親法人の株式(改正前法人税法施行令111条の2第1項2号、所得税法施行令84条1項2号参照)に限られるとされていた。 平成29年度税制改正によって、上記の要件に関しては、市場価格のある株式に限られる一方(法人税法34条1項2号ロ・3号柱書)、関係法人、つまり50%超の株式又は持分を直接又は間接に保有する関係にある法人の発行する株式まで含まれることとなった。そのため、交付対象となる役員等の範囲につき、例えば、持株会社傘下の直接の完全子会社の役員に限られず、50%超の子会社の役員まで含むことが可能となった。 なお、市場価格のある株式との要件に関し、市場価格があることの判定は、報酬決定時点で行われるため、例えば、近く上場を予定している会社であっても、報酬決定時に非上場で市場価格がない場合には損金算入の対象とならない点には念のため留意が必要である。   2  発行スケジュールに関する留意点 上記の特定譲渡制限付株式に関する、事前確定届出給与としての損金算入要件に関する改正(厳格化)の適用は、本稿【第1回】に記載のとおり、平成29年10月1日以後に支給又は交付に係る決議が行われるものとするとの経過措置が設けられている(所得税法等の一部を改正する等の法律(平成29年法律第4号)附則14条3項)。 また、特定譲渡制限付株式について、事前確定届出給与としての事前届出が不要とされるためには、平成29年度税制改正前と同じく、以下の要件を満たす必要がある(法人税法施行令69条3項)。 なお、上記(ア)の報酬債権額の確定と、(イ)の株式交付のための取締役会決議(発行決議)は、上記のとおり、同日であることは求められていないが、実務上、2つの決議は同時に行う必要が生じる。これは、発行決議においては、有利発行となることを避けるため、通常、発行決議の前日の終値を基礎に1株あたりの払込金額を決定するが、(払込金額に基づき決定される)現物出資に充てるべき金銭報酬債権額は「確定額」としなければならないという事前確定届出給与の要件を同時に満たすためには、2つの決議を同時に行う必要があることによる。 また、上記の要件を満たすためには、(イ)の株式交付のための取締役会決議(発行決議)において定められる払込期日(現物出資の給付期日)は、(ア)の報酬債権額の確定日(つまり発行決議日)から1ヶ月以内の日とする必要がある。 〔図表1〕は、2017年6月に定時株主総会が開催される会社において、譲渡制限期間を3年間(かつ、原則として3年間、役務提供を継続しない場合には無償取得されること)とする特定譲渡制限付株式を付与するケースにおいて、上記の要件を満たすスケジュールの概要を示したものである。 〔図表1〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成29年度税制改正後の事前確定届出給与としての損金算入の要件の適用を受けることとなる特定譲渡制限付株式は、〔図表1〕における、②取締役会(指名委員会等設置会社においては取締役又は執行役の報酬額決定についての報酬委員会)の決議が、平成29年10月1日以後となる場合ということとなる。 そのため、(定時株主総会から②の決議まで1ヶ月の期間を置くことを前提とすると)本年9月以降に定時株主総会が開催される会社において、特定譲渡制限付株式の発行を検討するに際しては、平成29年度税制改正後の要件に即した設計となっているかを確認する必要があることとなる。   3 損金算入に関する改正 特定譲渡制限付株式に関する税務・会計上の取扱いの主要な点については、平成29年度税制改正による変更はなく、従前どおりである(特定譲渡制限付株式に関する税務及び会計上の取扱いに関しては、経産省手引きQ47を参照されたい)。 もっとも、平成29年度税制改正により、損金算入の時期については、その法人において、その役員等における所得税の課税時期に関し、「給与等課税額が生ずることが確定した日」(改正前は「給与等課税事由が生じた日」)にその役務提供を受けたものとされ、その役務提供に係る費用の額を、同日の属する事業年度において損金の額に算入することとされた(法人税法54条1項)。 当該改正の具体的な適用については、当局のより具体的な解説が待たれるところであるが、譲渡制限期間満了よりも前に、無償取得されないことが確定した場合には(一例として、譲渡制限期間を3年間とするが、無償取得事由として1年間の勤務継続を要件とした場合であって、1年間の勤務を満了した場合)、当該時点において損金算入が可能となり得ると考えられる。 また、非居住者に関しては、平成29年度税制改正前は、非居住者である役員等に交付した特定譲渡制限付株式は損金算入の対象外であったが、平成29年度税制改正において、役員等が非居住者である場合にも、その役員等が居住者であるとしたときに給与等課税額が生ずることが確定した日において、役務提供を受けたものとして、その役務提供に係る費用の額が損金算入されるとの改正がなされている(法人税法54条1項、法人税法施行令111条の2第3項)。 (了)

#No. 221(掲載号)
#柴田 寛子
2017/06/08

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第17回】「「買換えの特例」の適用後における更正の請求又は修正申告」-更正の請求及び修正申告-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第17回】 「「買換えの特例」の適用後における更正の請求又は修正申告」 -更正の請求及び修正申告-   税理士 大久保 昭佳   Q 「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けて申告した後、買換資産の見積額と実際の取得額が異なることとなった等の場合には、譲渡資産の譲渡の日の属する年分の所得税について、更正の請求又は修正申告をすることになるのですが、その場合の提出期限等について説明してください。 A 次の解説のとおりとなります。 ●○●○解説○●○● 1 更正の請求 譲渡資産を譲渡した年(以下「譲渡年」という)の翌年中に取得する見込みの買換資産の見積額を、譲渡価額よりも少なく見積もってこの特例を受けた場合には、買換資産の実際の取得価額がその見積額を上回ることとなり、当初申告した所得税額が本来納付すべき所得税額に比し過大となることがあります。 この場合には、買換資産の取得をした日から4ヶ月以内に更正の請求をし、その過大となった所得税額の還付を受けることができます(措法36の3②)。   2 修正申告 「買換えの特例」の適用を受けて申告した者が、本来納付すべき所得税額に不足額が生じることとなった場合にする修正申告書の提出期限は、その態様に応じ次のとおり区分されます(措法36の3①~③、措通36の3-1(修正申告書の提出期限))。 (1) 譲渡年中に買換資産の全部を取得した場合 (2) 買換資産の全部又は一部を譲渡年の翌年中に取得する見込みで申告した場合 (3) 譲渡年の翌年又は翌々年に、その譲渡資産と一体として居住の用に供されていた家屋又は土地等を譲渡した場合 (了)

#No. 221(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/06/08

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第24回】「雑収入(受取利息)」~受取利息の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第24回】 「雑収入(受取利息)」 ~受取利息の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「受取利息の計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた京都地裁昭和54年2月23日判決(訟月25巻6号1680頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本件理由付記は、素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。   2 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、加算の対象となる勘定科目、金額以外に加算理由を明示しているため、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 (2) 理由付記の十分性   3 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が受取利息に計上していないX社名義以外の定期預金に係る利息を、X社の受取利息として計上すべきであるとするものである。そうであれば、受取利息に計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、表に記載されているS銀行G支店ほか8口の定期預金の受取利息を当期の益金の額に算入することを記載するのみである。これによって、加算の対象たる受取利息に係る定期預金の名義人や口座番号等を特定することは可能である。しかしながら、本件理由付記は、いかなる理由から、X社が受取利息に計上していない、しかもX社以外の名義で作成された定期預金に係る利息を、X社の受取利息として計上すべきであると判断したのか、その具体的な根拠や資料を記載していない。例えば、X社が当該各口座に係る通帳等を管理していたとか、当該各口座にはX社の売上金が入金されているとか、当該各口座からX社の費用が支出されているといった、当該各口座がX社に帰属することを裏付ける具体的な根拠や資料が記載されていないのである。したがって、本件理由付記は、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していないことになる。 また、仮に、本件理由付記の記載程度で十分であるとすると、課税庁は、当該各口座がX社に帰属することを裏付ける具体的な事実や証拠を把握していない段階で、恣意的ないし強引な課税処分又は憶測に基づく課税処分を行うことができてしまうといえるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的に適うものとはいえない。 以上からすれば、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 (3) 更なる議論① ~過年度の申告の内容を処分の根拠としている旨の記載を欠く理由付記~ 本判決に係る訴訟において、課税庁は、要旨次のとおり、X社が提出した前々事業年度の修正申告の内容が本件更正処分の根拠となっている旨主張している。 このようにX社が提出した前々事業年度の修正申告の存在及びその内容を念頭に置いて、本件理由付記を読むならば、本件理由付記から、上記主張のような課税処分の理由を推し量ることは容易である。 このことから、本件理由付記程度の記載であっても、理由付記の趣旨目的に適うものであるとか、あるいは、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示する必要はない、といった主張が成り立つ余地もある。 しかしながら、これに対しては、課税庁は、X社が提出した前々事業年度の修正申告の内容を受け入れて、これに基づいて、本件更正処分を行っていることを明示的に記載すべきであるという反論も予想される。 議論のあるところであるが、ここでは、過年度の申告の内容を処分の根拠ないし前提としていることが明らかであるような場合には、当該処分に係る理由付記にその旨の記載がないとしても、一律に理由不備となるものではないと解しておく。 (4) 更なる議論② ~本件修正申告を提出するに至った経緯が与える影響~ X社が本件修正申告を提出するに至った経緯に目を向けると、更に議論を展開することの必要性が見えてくる。当該経緯について、本判決は、要旨次のとおり判示している(下線は筆者)。 これを見ると、本件更正処分の前提ないし根拠であるX社が課税庁に提出した前々事業年度の本件修正申告は、各預金口座が一体誰に帰属するのかという点に関して、課税庁が調査を尽くさぬまま、あるいは確固たる資料を入手しないままに、X社に帰属するものとして、X社に対して修正勧奨したことによって提出されたという経緯があることがわかる。このことを考慮すると、そもそも本件修正申告において上記定期預金がX社に帰属するものとされていることを前提として本件更正処分を行うこと自体に問題があるという特段の事情が存在するといえる。 このような特段の事情の存在は、本件理由付記程度の記載では、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していない、あるいは更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的に適うものではないという評価へと導くものである。 さらにいえば、たとえ、本件理由付記に、本件更正処分は本件修正申告の内容に依拠して行われたものであることが明記されていたとしても、理由付記としては十分なものではないという評価にもつながり得る。すなわち、理由付記において帳簿書類の記載以上の信憑力のある資料として本件修正申告の存在及び内容を摘示していたとしても、これらはおよそ「帳簿書類の記載以上に信憑力がある」資料とはいえないとか、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨目的と適合しないという観点から、理由付記としては十分なものではないという評価へと接続するのである。 *  *  * 次回は、「新株引受権に係る受贈益計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 221(掲載号)
#泉 絢也
2017/06/08

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第27回】「賃料増額請求事件」~最判昭和53年2月24日(民集32巻1号43頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第27回】 「賃料増額請求事件」 ~最判昭和53年2月24日(民集32巻1号43頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 221(掲載号)
#菊田 雅裕
2017/06/08

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第7回】「クレジットカード利用時に付加されるポイントを利用した場合の会計処理」

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第7回】 「クレジットカード利用時に付加されるポイントを利用した場合の会計処理」   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A 周知のとおり、クレジットカードはキャッシュ・レスで物品の購入ができることに大きな特徴があるのだが、それに加え、利用者の購買意欲の促進を企図して、利用額に応じてポイントが付与されることがもはや当然のものとなっている。また、特定の期間にカードを利用することで付与されるポイントが通常の〇倍になるといった具合に、さらなる利用促進を行うケースも目立つ。 そこで本稿では、これらのポイントを利用した場合の会計処理について検討してみたい。   1 会計処理 〈ポイント①〉 値引と同様、ポイント使用後に実際に支払った金額で経理処理する。 (1) 減額後の金額で経理する もはや説明するまでもないことと思われるが、物品購入の際にクレジットカードのポイントを利用することにより、購入者はその代金の全額もしくは一部について、減額された金額でその物品を取得することになる。 この減額をどのように考えるべきだろうか。 これは、一種の値引と同等の取引と考えられることから、購入した物品を資産ないしは費用に計上する際に、減額金額を除く実際に支出した金額で計上することになり、これ自体については特段の違和感はないのではないかと思われる。 会計理論的には、取得原価主義のもとでは、資産・費用の計上額をその支出額に基づき測定することになるから、ポイント利用により減額された金額で取得した以上、その取得に当たって支払われた減額後の金額により経理処理することが合理的である。 このことを図示すると以下のようになる。 (2) 物品の全額についてポイントを利用した場合 物品の全額についてポイントを利用した場合には、支払額はゼロ、つまり支払が発生しないことになる。この場合であっても、上記と同様に考えることができる。すなわち支払額がゼロである以上、経理処理は発生しない。 一方、全額減免という事実はもはや値引と同等と考えることはできず、物品の無償取得であるという整理の仕方も成り立つのではないだろうか。そして、これが成り立つのであれば、無償による資産の取得として、会計的にはその物品の時価(この場合であれば定価)で計上することになるがどうだろうか。 結論としては、成り立たないと筆者は考える。 なぜなら、ポイントを利用して物品を購入するという行為は、法人が現物寄付を受ける場合のような、本来的な無償取引ではなく、あくまでも有償取引であり、金銭の代わりにポイントという対価を支払う行為であるからである。 こちらも同様に図示すると以下のようになる。   2 会社経費の精算時に従業員の個人所有クレジットカードに付与されるポイントの取扱い 〈ポイント②〉 本来的には会社に帰属する財産であり、何らかの対応が望まれる。 従業員による経費の立替払い時に個人所有のクレジットカードの使用を認めている会社は多い。ただ、その際に疑問が生じるのが、当該個人所有のクレジットカードに付与されたポイントの取扱いである。 便宜上、従業員所有のクレジットカードに付与されたものであっても、それが会社経費の支払によって生じたものである以上は、本来的には会社財産であり、このポイントの処分権を有するのは会社であるはずだが、事務処理上の便宜から何らかの「返還手続き」はされておらず、結果としてこれらのポイントを従業員が自身のものとして自由に使用していることも多いのではないかと思われる。 個人所有のクレジットカードと一口にいっても、信販会社や使用時期によりポイント還元率も異なり、カードの利用によって一体いくらのポイントが付与されたのかの捕捉が非常に困難ではあるが、従業員のモラル醸成の観点からは、何らかの方法で会社に「返還」してもらうことが望ましいと考えられる。 経費精算については個人所有のクレジットカードの使用を認めないようにしたり、それが難しければ、個人所有のクレジットカードによる経費精算にあたっては一定のポイント還元率を社内で定め、これを支給金額から差し引くなどの方法が考えられる。 (了)

#No. 221(掲載号)
#八代醍 和也
2017/06/08

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第59回】GMOアドパートナーズ株式会社「第三者委員会中間調査報告書(平成29年3月30日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第59回】 GMOアドパートナーズ株式会社 「第三者委員会中間調査報告書(平成29年3月30日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【調査委員会の概要】   【GMOアドパートナーズ株式会社の概要】 GMOアドパートナーズ株式会社(以下「AP」と略称する)は、1999(平成11)年9月設立。総合ネットメディア・広告事業を主たる事業とする。資本金約13億円。売上高30,494百万円、経常利益275百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)。従業員数813名。本店所在地は東京都渋谷区。JASDAQ上場。 今回、一部の売上計上根拠の信憑性に疑義があることが発覚したのは、連結子会社であるGMO NIKKO株式会社(以下「NK」と略称する)で、エージェンシー(広告代理店)事業を行っている。資本金100,000千円、売上高18,246百万円(数字は、いずれも平成28年12月期)、本店所在地は東京都渋谷区。   【第三者委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 APは、平成28年12月決算において、同社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」と略称する)から、連結子会社であるNKと取引先Aとの間の売上計上根拠の信憑性に疑義があり、第三者委員会を設置して事実調査を行うことが望ましいとの要請を受けたため、APは、平成29年2月27日付で、APと利害関係を有しない外部の専門家から構成される第三者委員会を設置した。 なお、トーマツが、疑義であると判断した契機は、以下の2つの事象の発生による。 2 調査結果の概要 (1) NKにおける業務フロー(調査報告書p.19以下) NKでは、営業担当者が社内システムを用いて業務推進部に対し請求書発行依頼を行い、業務推進部の担当者は書面による請求書を作成し営業担当者の確認を受けた後、顧客へ郵送するという業務フローを実施していたが、売上計上されているにもかかわらず、請求書発行依頼がなく、請求書が未発行になっている案件が存在していた。 業務推進部の担当者は、こうした未請求取引について、営業担当者ごとにアラートを行っていたが、こうした未請求取引に対するアラートの実施を義務付ける社内規程等は存在せず、業務推進部担当者には、アラートに対して回答が得られなかった場合の調査権限も付与されていなかった。 (2) 調査の対象となった未請求売掛金残高(調査報告書p.11、p.24以下) 第三者委員会が取引の実在性に疑義が認められるとした取引先ごとの売掛金残高と未請求残高は次のとおりであり、そのうち、調査に基づいて、売上の取消処理を行うべきとされた金額を右欄に追記する。なお、金額は千円単位であり、売掛金残高・未請求残高は消費税額等を含んだ金額になっているが、取消処理をすべき売上高の金額は税抜きで表示している。 (3) 第三者委員会が売上高の取消処理をすべきであると判断した理由 第三者委員会は、各取引先からの発注書、各取引先の従業員及びNKにおける取引先担当者からのヒアリングによって、各未請求売掛金の大半を、「発生原因となる取引の実在性を根拠づける客観的な事実の存在は認められなかった」と結論づけて、売上高の取消処理をすべきであると判断した。 3 不正の動機(報告書p.36以下) 上記の不適切な売上計上のうち、取引先Eに対するもの以外の3取引先の担当者は、NK従業員のAとされており、第三者委員会のヒアリングを受けている。その中では、従業員Aにとって取引先Aは重要な顧客であり、競合他社に対してNKの優位性を保ち続け、関係を維持する強いインセンティブがあったことを推認しており、そのため、競合他社に比べ安いコストで良質な業務を提供する必要性から、採算が合わないことを認識しつつ、きわめて安価な価格でサービスを提供するようになったとしているが、これが、いわゆる架空売上の計上にどうつながるのか、報告書では必ずしも明示されていない。 提供したサービスに係る売上原価を、請求可能な売上高に負担させると取引先Aとの間の取引が赤字になるため、実在性のない受注・売上を計上してそこに原価を負担させ、しかも請求書を発行しないことによって、売掛金の回収遅延を回避するという意図があったのではないかと、報告書からは読み取れなくもないが、少し説明不足の感が否めない。 また、従業員Aは、取引先担当者から送信されたメールを改竄して、受注したかのように装ったり、メールを捏造して滞留債権の存在を装ったりしていた事実が明らかにされているが、報告書には、こうした偽造メールの送信に関する動機の記述もなく、従業員Aにおける動機の解明については、全般に説明が足りないのではないだろうか。 なお、従業員Aに類似する呼称として、調査報告書8ページには、「元従業員A」という記載があり、「事情聴取に協力することを依頼したが、聴取を実施できていない」とされているが、この「元従業員A」と「従業員A」は同一人物ではないという理解で報告書を読み進めたのだが、公表されている「別紙1(聴取対象者一覧)」が空白とされているために、同一人物かもしれないとの疑問の残るところである。 4 再発防止策の提言 第三者による再発防止策の提言は、4月14日付「追加調査報告書」に記載がある。   【調査報告書の特徴】 本件は、不正に売上計上した金額や不正の手法から見れば、大きな不正ではないのだが、第三者委員会の調査結果の公表手続きが、これまでとは異なるものであり、不正調査実務の参考になるのではないかと考えて、取り上げた次第である。 1 事実関係の調査結果である「中間報告書」と責任追及と再発防止策を提言した「追加調査報告書」 第三者委員会は、不正が行われたかどうか、どこに問題点があるかといった事実関係の調査結果を「中間調査報告書」として3月30日に会社に提出し、その後、追加調査を行ったうえで、責任の所在と再発防止策の提言をまとめた「追加調査報告書」を4月14日に提出した。これを受けて、APは、4月20日に、調査報告書の全文を公表している。 こうした第三者委員会の報告手法は、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の指針のうち、「調査報告書の事前非開示」には準拠していないと言えるが、責任の所在の追及にあたって、事実関係の誤りがないかを確認させることは、第三者委員会における事実認定の誤りを未然に防ぎ、会社側にも手続き面での保障を与えることとなり、昨年あたりから増え始めた、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」には準拠しているが、「第三者委員会ガイドライン」の一部には準拠していないことを明言する調査報告書(※)の公表方法の新しい形を示すものであると評価できる。 (※) 本連載【第53回】「高田工業所第三者委員会調査報告書」にも同様の記述がある。 2 売上計上済み未請求売掛金残高に対する認識 第三者委員会は、APグループ役職員において、未請求売上取引に対するリスク感度が全社的に高くないことを指摘しているが、やや表現が手ぬるいように感じる。一般的には、売上計上したにもかかわらず、請求書の発行を行わない取引はきわめてイレギュラーなものであり、多くの経理担当者はそこに不正の端緒を見るのではないかと思われる。 しかし、第三者委員会による再発防止策の提言には、「売上計上と同時に請求書が発行されるように業務プロセスを改める」といった内容はなく、現状の「売上を計上しても営業担当者が依頼するまでは請求書が発行されない」業務フローはそのままに、業務推進部の機能・権限の強化によって、再発を防止する内容となっているが、制度設計は「性悪説」に立ったものでなければ、実効性が欠けるのではないだろうか。 3 APによる再発防止策の内容 APが、4月28日公表した「当社連結子会社における不適切な売上計上に関する再発防止策について」というリリースによれば、APは、第三者委員会による再発防止策の提言をそのまま受け容れるとともに、「決算にかかる内部統制の強化について」として、以下の項目を追加している。 「3ヶ月の発行遅延を認める」内容になっていることに、賛否はあろうが、第三者委員会の提言から自社の業務を考量して、さらなる再発防止策の実効性を高めようとするものであり、一定の評価は可能であろう。 4 関係者の処分 不正実行者である「従業員A」の動機が判然としない点は、上述のとおりであるが、さらに不正実行者(従業員Aと従業員B)及びその上長である者の処分内容についても、報告書、APによるリリースともに記述がない。 一方、第三者委員会「追加調査報告書」により、「責任がある」と認定された取締役らについては、4月28日付「役員報酬の返上に関するお知らせ」というリリースで、月額報酬の10%から30%を1ヶ月から3ヶ月の間返上することによって、経営責任を明確にすることが公表されている。 5 特別調査費用等の開示 APが、5月29日公表したリリース「特別調査費用等の特別損失の計上に関するお知らせ」によれば、第三者委員会の調査費用と追加監査に伴う監査法人への支払報酬額は合計で133百万円と確定したということで、APはこれを平成29年12月期第2四半期決算において、特別損失として計上する見通しである、ということである。 不正な売上計上額が220百万円余りであるにもかかわらず、その調査に要した費用が133百万円という金額に達することを、不正防止策の採用にあまり積極的ではない経営者には、ぜひ、認識してもらいたいものである。なお、APがトーマツに支払っている監査証明業務に基づく報酬は年間27百万円である(平成28年12月期有価証券報告書)。 第三者委員会による調査費用などが公表される事例はあまり多くないので、取り上げておきたい。 (了)

#No. 221(掲載号)
#米澤 勝
2017/06/08

「法定相続情報証明制度」の手続ポイント

「法定相続情報証明制度」の手続ポイント   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   1 はじめに 平成29年5月29日、いわゆる法定相続情報証明制度(以下、「本制度」という)が施行された。本制度の概要については下記の通り、既に本誌上にて解説を行っているが、本稿では、施行により明らかになった具体的な手続等について解説を行う。 なお、本稿の内容については筆者個人の見解であり、所属する団体等の見解を代表するものではないことを申し添える。   2 本制度の影響を受ける税理士実務 本制度の影響を受ける税理士実務としては、まず戸籍謄本等が添付書類とされている相続税申告手続が考えられる。 この点、相続税申告手続に関する添付書類は、相続税法施行規則等の法令に定められており、添付書類として法定相続情報一覧図の写しを戸籍謄本等の代わりとして許容するためには、法令改正が必要となる。 添付書類を定める法令に改正がない限り、本制度施行後直ちに影響はないといえるが、今後改正される可能性は十分考えられる。 また、相続税申告手続には対応していなくとも、今後法定相続情報一覧図の写しが、戸籍謄本等の代わりとして社会に出回ることに変わりはない。 税理士は、顧問等としてエンドユーザーに密接に関与することが多く、相続が発生した場合に、税務申告のほか、不動産登記手続、預金の名義変更等の相続関連手続についても専門家紹介等を通じて関与することが多い。 そのため、税理士としても本制度の理解を深めることは必須といえる。   3 申出について (1) 申出ができる者 本制度により、法定相続情報一覧図の保管及び写しの交付の申出ができる者は、被相続人の相続人(数次相続の相続人を含む)に限られる(不動産登記規則247条1項、以下、本稿において不動産登記規則を単に「規則」という)。 複数相続人が存在する場合には、各相続人がそれぞれ申出を行うことができる。よって、被相続人ひとりについて、数種類の法定相続情報一覧図が存在する可能性はある。 申出を代理人により行うことも可能であるが、代理人となることができるのは、申出人の法定代理人のほか、委任による代理人になることができるのが、①親族、②税理士・公認会計士・司法書士・弁護士等の戸籍法10条の2第3項に定められた、いわゆる士業に限られる(規則247条2項)。 (2) 申出書について 申出書には、①申出人の氏名、住所、連絡先及び被相続人との続柄、②代理人によって申出をする場合には、代理人の氏名又は名称、住所及び連絡先等、③利用目的、④交付を求める通数、⑤被相続人名義の不動産があるときは、不動産の所在事項等の不動産を特定する情報、⑥申出の年月日、⑦送付の方法により法定相続情報一覧図の写しや添付書類の返却を求めるときは、その旨を記載する。申出書は郵送にて提出することもできる。 申出書の書式は次のとおりである(申出書の記入例については法務局ホームページを参照されたい)。 〈法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書(書式)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 法務局ホームページではワードデータで入手可能 (3) 添付書類について 申出人は申出を行う場合、申出書のほか、次の書類を添付書類として提出する。 登記官はこれらの添付書類を元に、提出された法定相続情報一覧図に記載された情報が正確か否かの確認を行う。 (4) 管轄について 申出をすることができる管轄登記所は、申出人の利便に資するため複数の管轄が認められており、①被相続人の本籍地、②被相続人の最後の住所地、③申出人の住所地、④被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所に申出をすることができる(規則247条1項)。 (5) 受付後の手続 管轄登記所により若干の相違があるが、登記所内に専門の受付窓口が設けられている。 上述の通り、提出された法定相続情報一覧図が正確かどうかを、添付書類として提出された戸籍謄本等を元に審査をするため、受付から交付までには数日の期間を設ける場合があるようである。申出人には受付時に交付予定日を記載した引換証が交付される登記所もある。 このあたりは今後統一されていくものと考えられる。   4 法定相続情報一覧図について (1) 形式について 法定相続情報一覧図の形式については、前回の解説でも掲載したが、より詳細な形式が法務局のウェブサイトに紹介されている。 法定相続情報一覧図は、被相続人の死亡時点の相続関係を表すものである。相続放棄の有無、遺産分割協議の内容は反映されない。よって、遺産分割協議などの情報の反映には、別途提出が必要となる。推定相続の廃除があった場合には、当該廃除された者の記載はなされない。数次相続が発生している場合には、数次相続をまとめて記載することはできない。被相続人一人ずつにつき、それぞれ作成する必要がある。 (2) 保管期間、再交付について 法定相続情報一覧図の保管期間は、作成の年の翌年から5年間とされた(規則28条の2第6号)。これにより保存期間を経過した場合は、廃棄される。 申出人が、法定相続情報一覧図の写しの再交付を希望する場合には、当初申出をした登記所に、保管期間内は再交付の申出をすることができる。再交付の申出をすることができるのは、保管の申出をした相続人に限られる(規則247条7項)。 〈法定相続情報一覧図の再交付の申出書(書式)〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 法務局ホームページではワードデータで入手可能 (3) 法定相続情報に変更があった場合 被相続人の死亡後に子の認知があった場合、被相続人の死亡時に胎児であった者が生まれた場合、法定相続情報一覧図の保管及び写しの交付後に廃除があった場合など、当初の法定相続情報に変更が生じた場合には、再度の申出をすることができる。 (4) 有効期限 法定相続情報一覧図の写しには、規則上有効期限の定めはない。そのため、仮に交付から相当な期間が経過した法定相続情報一覧図の写しを元に手続を行う場合、手続実施時点において、有効な法定相続情報を反映しているかは別途確認が必要になる場合がある。   5 終わりに 本制度が広がることにより、相続手続において必要とされていた「戸籍謄本」等という膨大な書類が法定相続情報一覧図の写し1枚で置き換えることができるようになる。 これはペーパレス化の流れに沿ったものであり、筆者個人としては今後浸透していくことになるのではないかと考える。 読者の方々においても、本稿をきっかけに本制度に関心を強めていただければ幸いである。 (了)

#No. 221(掲載号)
#北詰 健太郎
2017/06/08

家族信託による新しい相続・資産承継対策 【第14回】「信託契約作成上の留意点①」-事前コンサルティングの実施-

家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第14回】 「信託契約作成上の留意点①」 -事前コンサルティングの実施-   弁護士 荒木 俊和   家族信託は極めて柔軟性の高い仕組みであることから、事案に適した家族信託を設定するためには信託契約の内容を十分に吟味する必要がある。 逆の言い方をすれば、信託契約の内容いかんで家族信託がうまく進むかどうかが決定されることになる。 このため、信託契約の内容は極めて重要であるが、その作成にあたっては専門的な見地からの意見が求められる部分がある。 今回から数回に分けて、信託契約作成上の留意点について述べたい。   1 事前コンサルティングの必要性 信託契約は非定型的な契約であり、信託の目的、委託者・受託者・受益者の設定、対象とする財産(信託財産)、信託の終了事由、信託終了後の財産の帰属等、変則的な要素が相当程度多く存在する。 信託契約のうち、家族信託に係るものであっても、家族構成、財産の状況、本人(委託者)の希望は事案によって異なるのであり、必ずしも定型的な処理はできない。 また、実務的には、想定外の課税がなされるおそれがないか、受託者が信託財産を処分する際に障害になるようなことはないか、信託終了時のオペレーションで躓くことはないか等についても考慮に入れておく必要がある。 このため、信託契約の作成に先立って家族構成、財産の状況、本人(委託者)の希望等を整理しておくとともに、信託開始後のトラブルの種がないか、ある場合にはどのように対処すべきかを事前に検討しておく必要がある。 家族信託の依頼に対応する専門家としては、事前にコンサルティングの形で十分なスキーム検討を行っておく必要があろう。   2 コンサルティングの内容 (1) 委託者の財産の種類・金額 家族信託の内容を決定するにあたり、「何を対象財産にするか」を決める必要がある。「何を対象財産にするか」は、「信託の目的がどこにあるのか」による。 代表的な家族信託の目的としては、以下のようなものがある。 これらの目的は必ずしも背反するものではなく、複数の目的を持つ信託も考えられる。 一般的に家族信託の対象とすることが望ましいとされるのは、①本人の手元に置いておいたほうがよい資産以外で、②子らに引き継いでおく予定があり、③相続時にトラブルになりやすい不動産や自社株等の処分が容易ではない資産であるとされている。 (2) 本人の健康状態・意向 家族信託の設定にあたっては信託契約を結ぶ必要があるのであるから、本人(委託者)が意思能力を保有している必要がある。意思能力を失っていると認められる場合には契約行為を行うことはできず、家族信託の設定はできない。 専門家としては、本人の子らから相談を受けることも多いと思われるが、本人が高齢(概ね80歳以上)の場合には、認知能力を含めた本人の健康状態を事前に確認しておく必要がある。また、本人の健康状態を確認した際にいかなる場合であれば意思能力があると判断するか、判例等を参考にして基準を設けておくべきであろう。 意思能力に問題がないと認められる場合であっても、本人が資産承継対策について明確な希望を持っておらず、子らが主導的に進めているような場合には、本人の意向に反しないか明確に確認しておくことが必要である。 さらにスキームの策定にあたっては、関係者が死亡したり、認知症になるリスクがどの程度あるのか、また、それらの時系列的な順序はどうかを見積もっておく必要もあろう。 (3) 家族構成 家族信託は必ずしも家族内だけで完結させなければならないものではないが、多くの場合、家族が受託者となるため、受託者の適任者を探しておく必要がある。受託者が委託者よりも先に死亡するリスクを避ける場合には、次の受託者候補者も検討する必要がある。 また、信託財産は相続の対象にならないものの、信託によって移転した財産は遺留分減殺請求の対象になるとするのが多数説であるとされている(【第9回】参照)。このため、委託者の死亡により信託を終了する場合で、帰属権利者を特定の者とするときには、遺留分減殺請求を受ける可能性がないのか、遺留分減殺請求を受けた場合でも問題なく対処できるかについては検討しておく必要がある。 さらに、信託契約は契約である以上、委託者と受託者の合意が成立すれば他の者に告知する義務はないが、委託者と受託者の間で合意されたことを他の家族が知らなかった場合、委託者の死亡時に感情の対立が起こり、トラブルとなる可能性がある。 このため、信託契約の内容を事前に家族に説明するかどうかを検討しておく必要がある。 (4) 信託の終了時点 「信託をいつ終了させるか」という点については、上述したような信託の目的に依存する部分が大きい。 すなわち、資産管理、認知症対策、遺言代用の目的であれば委託者死亡時に終了させることが通常であると考えられるが、二次相続対策、福祉型信託の目的の場合には、委託者の死亡によっても終了させないとしておく必要がある。 また、不慮の事情により思わぬタイミングで早期に信託が終了してしまわないように留意しておく必要がある。 (5) 課税関係 受益権の移転や信託の終了に伴う信託財産の移転等により、思わぬところで課税がなされないように検討しておく必要がある。 特に弁護士や司法書士等が単独で信託契約を作成するような場合には、税務関係を意識してスキーム作りを行うよう心掛ける必要がある。 本来的にはコンサルティング段階から税理士が関与し、税務面の検討も万端にしておくことが望ましいといえる。   3 まとめ 以上のように、信託契約の内容については個別性が高く、検討すべき事項が多い。 このことから、信託契約のひな型を入手し、それを安易に流用することは絶対に避けるべきである。 家族信託の設定にあたっては、スキーム策定が家族信託の成否の大きな部分を占めること意識して対応する必要があろう。 (了)

#No. 221(掲載号)
#荒木 俊和
2017/06/08

税理士業務に必要な『農地』の知識 【第8回】「市民農園とその税制」

税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第8回】 「市民農園とその税制」   税理士 島田 晃一   今回は市民農園について、その概略を説明する。市民農園は特に都市部に住む人の農業体験の場として近年需要が高まっている。以下では、市民農園の概略に加え、市民農園として提供した土地の相続税評価などの税務についても解説していく。   1 市民農園とその開設方法 市民農園とは、サラリーマンなどが、レクリエーションとしての自家用野菜・果樹などの栽培、農業体験学習などの目的で利用する区割りされた小規模農地をいう。 市民農園を開設するのは、主として地方公共団体や各地域のJAである。ただし、農地所有者が自ら開設したり、農地を所有していない法人やNPOが開設する場合もある。 市民農園の開設形態は、「特定農地貸付法」による開設、「市民農園整備促進法」による開設、「農園利用方式」による開設の3つがある。平成28年度末の段階では、特定農地貸付法による開設件数は約3,700件、市民農園整備促進法による開設件数は約500件である。   2 特定農地貸付法による開設 特定農地貸付法による開設は、開設者が「地方公共団体又はJAの場合」、「農業者(農地所有者)の場合」又は「企業・NPOの場合」の3つに分けられる。 開設手続きは、地方公共団体又はJAが開設者となる場合は、開設者が農園利用者に対する貸付規定を作成し、農業委員会に特定貸付けの承認を受ける。また、市民農園となる農地については、開設者が農地所有者(JAの場合は組合員)から借り受ける。 一方、農業者(農地所有者)が開設する場合、「適正な農地利用を確保する方法等を定めた貸付協定」を市町村との間で締結したうえで、農業委員会に特定貸付けの承認を受ける。企業・NPOが開設する場合は、地方公共団体・農地中間管理機構等から農地を借り受け、開設者、市町村、農地借受先との3者間による貸付協定を締結する形になる。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 特定貸付けとは、次の要件を満たす農地の貸付けをいう。 特定貸付けの承認を受けた場合、農地所有者(JAの場合は組合員)から農地を借り入れる際の権利設定について、農地法第3条の許可は不要になる。なお、市民農園を開設する場所は、後述する市民農園整備促進法による場合と異なり、特に制限はない。   3 市民農園整備促進法による開設 市民農園整備促進法による場合は、まず各都道府県が「市民農園整備基本方針」を策定する。市民農園を開設する者はその基本方針に沿った整備運営計画を作成し、各市町村の認定を受け市民農園を開設する。また、市民農園を開設する区域は各市町村が指定する。ただし、その農地が市街化区域内にあるときは、開設区域の指定は不要である。 市町村が整備運営計画を認定した場合、農地の貸付けについて「特定農地貸付法」に基づく特定貸付の承認を受けたものとみなされる。また、農地を農園施設(休憩所や駐車場など)用地に転用する場合は農地法の転用許可は不要になるとともに、施設の建設に伴う開発許可も不要になる。 単に区画割りされた農地のみを貸し付けるのではなく、農園施設用地を併設する場合には、市民農園整備促進法による方式が採用される。   4 農園利用方式による開設 農園利用方式とは、農家等が相当数の人を対象として同条件で農園利用契約を締結し、利用者は営利目的以外で農作業を行う方式である。ただし、利用者は観光ぶどう園などのように収穫だけを行うのではなく、農家のアドバイスや管理のもと、種まきなど年に複数回農作業を行う。 この場合、日常の農作業は農園開設者である農業者が行うため、農地に対して賃借権や使用収益権などの権利の設定はされない。   5 市民農園の相続税評価 農地所有者が市民農園の開設者に農地を賃貸したときは、農地法における法定更新の対象外になるため、その農地については耕作権の目的となっている農地に該当しない。そのため農地評価の際には、「1-耕作権割合」を乗じるのではなく、生産緑地の利用制限に係る斟酌と賃貸借契約の制限期間に係る斟酌を行う。 ただし、農園利用方式による市民農園については農地に対して賃借権や使用収益権などの権利の設定はされないため、賃貸借契約の制限期間に係る斟酌は行われない。 具体的な計算方法は、当該農地の価格に生産緑地の買取申出可能時点までの期間に応じた減額割合及び賃貸借契約の制限期間の減額割合を乗じる。賃貸借契約の制限期間の減額割合は、原則として賃貸借の残存期間に応じ、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される法定地上権の2分の1に相当する割合となる。 なお、当該農地が所在する地方公共団体の条例により定められた市民農園(契約期間が20年以上など一定の要件を満たすもの)である場合については、賃貸借契約の制限期間に係る斟酌を適用するのではなく、生産緑地の減額割合を乗じた金額から2割相当が減額される。 さらに、「特定市民農園」といい次の要件を満たす市民農園については、生産緑地の減額割合を乗じた金額から3割相当が減額される。 地方公共団体の条例により定められた市民農園の2割減額又は特定市民農園に係る3割減額を受ける際には、相続税・贈与税の申告書に一定の書類を添付する必要がある。   6 市民農園と納税猶予 市民農園として地方公共団体等に賃貸している農地は、農業経営を行っているとされないため納税猶予の対象にならない。相続税又は贈与税の納税猶予を受けている農地を市民農園として地方公共団体等に賃貸したときは、納税猶予は打ち切られ、猶予されている税額及び利子税を賃貸した日から2ヶ月以内に納税する必要がある。 一方、農園利用方式により市民農園を開設した場合は、農地所有者が主体として農業経営を行っているとされるため納税猶予の対象になり、納税猶予を受けている農地を市民農園にしても納税猶予の打ち切りの対象にはならない。 *  *  * 以上、市民農園の概要とその税制について見てきた。現段階(平成29年6月現在)においては、前述したように市民農園として地方公共団体等に賃貸している農地は納税猶予の対象にならないが、将来の改正において、このような農地についても納税猶予の対象になる可能性がある。 そのため、各年度の税制改正については常に注意を払っておきたいところである。 (了)

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#島田 晃一
2017/06/08

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第3回】「経営陣のリーダーシップ強化の在り方について」~「経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」の概要~

コーポレート・ガバナンス・システムに関する 実務指針(CGSガイドライン)の解説 【第3回】 「経営陣のリーダーシップ強化の在り方について」 ~「経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」の概要~   PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー 米国公認会計士 阿部 環   本シリーズでは、2017年3月31日に経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を取り上げている。CGSガイドラインは、2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、CGコード)の内容を補完し、企業価値向上のための具体的な行動を示す目的で取りまとめられたものである。 今回は、CGSガイドラインの別添「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」(以下、経営人材育成ガイドライン)を取り上げ、その概要を解説する。 なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りする。   〔経営人材育成ガイドラインの主旨〕 CGSガイドラインでは以下の4つの提言を行っているが、別添の経営人材育成ガイドラインは、このうち提言4を補足するものである。 CGSガイドライン提言4においては、現在のCEOや退任したCEOの役割を説明しているのに対し、経営人材育成ガイドラインにおいては将来のCEO等(いわゆる後継者)の選別、育成、環境整備について具体的に触れている。 経営人材育成ガイドライン作成の発端には、各企業の検討・取り組みにおける課題の1つとして「CEO・経営陣に求められる資質や後継者の育成方針が明確でない。」という声があった。当ガイドラインでは、タイトルが示す通り、社内でいかにして将来の経営トップを育成するかという視点が、全体を貫く問題意識となっている。 当ガイドラインは、社内で適当な人材がいない場合には外部人材を充当するというスタンスをとっている。そして、経営リーダー人材の育成がうまくいけば、経営陣のリーダーシップの強化につながり、延いてはガバナンスの強化となるというロジックである(図1参照)。 図1:「経営リーダー人材の育成」と「コーポレートガバナンス」の関係 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p2より)   〔経営人材育成ガイドラインの内容〕 経営人材育成ガイドラインは、コーポレートガバナンスに取り組みたいものの、具体的に何をすれば有益なのか、実務上の参考となるガイダンスが欲しいとの声に応えて、有益と考えられる検討事項や取り組みを紹介すべく取りまとめられたものである。したがって、当ガイドラインの内容は、企業に押し付けられるものではなく、自社に適したガバナンスについて議論する際に参考情報として活用されることが期待されていることに留意が必要である。 1 PDCAサイクルを回す 上場企業の経営者及び人材育成責任者を対象としたアンケートの結果を踏まえ、以下の4つのフェーズに分けて、検討すべきこと・実施すべきことが提示されている。 経営リーダー人材の育成にあたっては、各フェーズにおいて、5つの部門(①経営層、②取締役会、③人材委員会、④人事部門、⑤事業部門等)の関係者が相互に連携しながら、各々の果たすべき役割を十分に果たした上で、PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回し続けることが重要であるとしている。 当ガイドラインは、経営リーダー人材育成において企業が取り入れるべき施策・制度を各フェーズに分け、図2のように説明している。 図2:経営リーダー人材育成を行うにあたって企業が取り入れるべき施策・制度 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p9より) また各フェーズについて、ガイドラインでは具体的な手法や各企業の実際の施策が示されているので、自社が直面している課題があれば参照するとよいだろう。 2 各プレイヤーに求められる役割 上記1では「①経営層、②取締役会、③人材(指名)委員会、④人事部門、⑤事業部門等の関係者が相互に連携しながら」と述べたが、これらのプレイヤーの関係性を整理したのが図3である。 図3:5つのプレイヤーの関係性 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「経営人材育成ガイドライン」p30より) 当ガイドラインではこの5つのプレイヤーに求められる役割についてもフェーズごとに明確にしており、主旨をまとめると図4のようになる。中でも、取締役会における社外取締役のプレイヤーとしての役割が重要視されている。 図4:各フェーズにおけるプレイヤーの役割 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (経済産業省「経営人材育成ガイドライン」を基に筆者作成) CGSレポートと合わせて公表された「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」では、図5のように、次期社長・CEOの育成状況に関し、指名委員会で議論していない、もしくは、議論しても結果が取締役会に報告されていない会社が半数近く(約48%)存在することが示されており、経営人材育成ガイドラインにおける各プレイヤーの役割を明確にした背景を示すものとなっている。 図5:後継者の育成状況についてのアンケート調査 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する企業アンケート調査結果」p38より)   〔おわりに〕 経営人材育成ガイドラインの冒頭《日本における状況》の章では、日本型雇用システムを「メンバーシップ型」と呼び、日本における「管理職への登用年齢の高さ」を欧米の一部の国と比較している。この2つの特徴は、教育制度や国民の意識の違いからくるものであろう。 欧州の一部を例にとると、入社の時点で出身大学別に職階が決まっているのが通常であり、ある特定の学校を出た者のみがマネージメント枠で採用され、新卒でも部長補佐くらいのポジションから始める。この時点で当ガイドラインのフェーズ2で説明している「人材の把握・評価と経理リーダー人材育成候補者の選抜・確保」の作業はほぼ終了していると捉えることができる。 また欧米では、小学校から飛び級があり、早期に様々なことへの向き・不向きが判断され、本人も周囲も幼い頃より十分に「違い」の意識を持つ。「得意なことを伸ばす」という欧米諸国に見られる考え方は、メンバーシップ型の雇用システムを生み出す基となっている日本の教育システムとは対極にある。生まれた頃より「選抜する・される」ことに慣れている社会と比較すると、日本のシステムの中においては、「選抜する」というフェーズ2の作業は困難を伴うであろう。 こうした背景の違いから、日本型リーダー育成のあるべき姿を追究する手本となるものが海外の事例には少なく、時間を要するのではないか。PwCが実施した「企業取締役調査(2015年/英文)」において、次期CEO候補となる人材が社内で十分に育成されていると答えた取締役は27%であったという結果が出ている。このことから、社内での後継者育成は世界で共通の課題であることがわかる。後継者計画に関する世界の動向については「ガバナンスを考える:CEO後継者計画について」を参照されたい。 よって、海外の事例をある程度参考にしつつ、経営人材育成ガイドラインの《本ガイドラインの意義・狙い》の章にあるように、「我が国で『ベスト・プラクティス』が着実に増え、本ガイドラインで提示する育成サイクルをまわし続け、それを踏まえて将来に渡ってガイドラインが改訂されていく事が望ましい」と考える。 何度もPDCAサイクルを繰り返すことで、日本の企業にしかできない積極的な育成プランが熟成することが期待されているのである。 次号(第4回)では、「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」(競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会)」を取り上げる予定である。 なお、CGSガイドラインの全容については、時系列的な経緯とあわせて本解説シリーズの【第1回】でご紹介しているので、ぜひ参照されたい。 (了)

#No. 221(掲載号)
#阿部 環
2017/06/08
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