〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例23】 株式会社JPホールディングス 「第三者委員会調査報告書に基づく当社の対応に関するお知らせ」 (2017.12.22) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社JPホールディングス(以下「JPホールディングス」という)が平成29年12月22日に開示した「第三者委員会調査報告書に基づく当社の対応に関するお知らせ」であるが、最初に次のような記載がある(下線は筆者による)。 タイトルのとおり、第三者委員会調査報告書の指摘への対応の基本方針を決定したという内容なのだが、注目していただきたいのは、下線を付した「公表(当社ホームページ)」という箇所である。平成29年12月5日に「第三者委員会調査結果報告書(詳細版)の受領に関するお知らせ」を公表したというのだが、それは同社のホームページ上に掲載したのみで、TDnet上への適時開示は行っていないのである。 それより前にも、同社は、平成29年11月16日に「調査報告書(要点版)」を、平成29年11月17日に「第三者委員会調査結果報告書の受領に関するお知らせ」を、いずれもTDnet上への適時開示は行わず、ホームページ上にのみ掲載している。 いずれも重要性の高い情報だと思われるし、何より「第三者委員会の設置に関するお知らせ」は平成29年10月17日にTDnet上で適時開示しているのだから、その後の経過もTDnet上で適時開示すべきである(東証による指導は無かったのだろうか?)。これらは開示漏れではない。開示すべき情報を意図的に開示しなかったのだから、開示漏れよりも悪質である。 2 社長交代の本当の理由 今回の開示に至る経緯について説明するには、JPホールディングスが平成27年2月17日に開示した「代表取締役社長の異動に関するお知らせ」にまで遡らなければならない。 同社創業者の山口洋氏(以下「山口氏」という)から現代表の荻田和宏氏(以下「荻田氏」という)に代表取締役社長が交代するという内容で、その「異動の理由」には、「体調不良による入院のための辞任」とだけ記載されていた。しかし、後に同社は、それが本当の理由ではなかったという開示を行うことになる(したがって、厳密にいうと、虚偽開示を行ったということになるのだが)。 それから2年半ほど経った平成29年9月28日、同社は「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」を開示したのだが、それは、山口氏が同社に対して臨時株主総会の招集請求を行ったという内容だった。山口氏の提案は、定款変更、現任取締役解任、新たな取締役選任の3つであったが、同社は、平成29年10月17日、「臨時株主総会の開催及び株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」を開示して、それら全てに対して反対の意見を表明した。 反対する理由の1つに「請求人が当社の経営に関与する人物として不適格であること」があげられており(同社は、山口氏が同社の経営に関与することを意図して、それらの提案をしていると考えていた)、その記載は次のとおりである。社長交代の本当の理由はセクシャル・ハラスメント(以下「セクハラ」という)だったというのである。 3 適時開示しなかった理由 そして、JPホールディングスは、同じ平成29年10月17日、「第三者委員会の設置に関するお知らせ」を開示した。その「第三者委員会設置の経緯」は次のように記載されている。山口氏によるセクハラの事実を明らかにして、山口氏の提案を否決に導こうという意図である。 結果はどうだったか。確かに、山口氏がセクハラだけでなくパワーハラスメント(以下「パワハラ」という)も行っていたという事実が明らかにされたのだが、明らかにされたのは、それだけではなかった。 同社が平成29年11月16日にホームページ上にのみ掲載した「調査報告書(要点版)」では、「現代表者及びその他の役員によるパワーハラスメントの存否」として次のように記載されている。 同社により設置された第三者委員会ゆえだろうか。随分と回りくどい言い方だが、荻田氏によるパワハラもあったのである。また、「現代表者及びその他の役員によるセクシュアルハラスメントの存否」としては、次のように記載されている。荻田氏の方も、パワハラとセクハラの両方を行っていたのである(職場環境を害しないセクハラとはどのようなものなのか、極めて興味深いが)。 4 本当に必要な対応とは? 今回取り上げた開示においては、今後パワハラやセクハラが生じないようにするための対応の基本方針を決定したとされている。今後、その基本方針に沿って具体的な施策を実行していくとのことだが、それにどのような効果があるのだろうか。 問題なのは、現代表の荻田氏によるパワハラとセクハラである。従業員によるパワハラとセクハラに対しては効果があるかもしれないが、代表者によるパワハラとセクハラに対して効果がないことは明らかである。 山口氏の提案は結局否決されたが(平成29年11月22日開示「臨時株主総会開催結果に関するお知らせ」)、今度は別の株主がJPホールディングスに対して臨時株主総会の招集請求を行うことになる。荻田氏の解任を提案するものであり、その理由は、同社が平成30年1月31日に開示した「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」によれば、荻田氏が同社の「コーポレート・ガバナンスを担う役員として不適切かつ不適格な人物であるため」とのことである。 同社は、その提案に対しても、平成30年2月20日に「臨時株主総会の開催及び株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」を開示して反対しているが、その理由には全く説得力がない(平成29年10月17日の開示に記載された反対理由にも、説得力があるとは言い難いが)。自分で自分を正当化しているに過ぎないからである。 パワハラとセクハラだけでなく、開示に対する姿勢を見ても、荻田氏には、上場会社の経営者としての資質が欠けていると言わざるを得ないだろう。同社が、あるいは荻田氏がとるべき対応は限られているのではないだろうか。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第7回】 「デジタルで実現する未来の会計監査」 新日本有限責任監査法人 アシュアランス・イノベーション・ラボ 統括責任者 公認会計士 加藤 信彦 公認会計士 小形 康博 会計監査はイノベーションの過渡期にある。第3次ブームとも言われるAI(人工知能)の進展と普及、業務の自動化を実現するRPA(robotic process automation)に注目が集まり、監査先企業に限らず筆者ら監査法人にとってもデジタル戦略が重要な経営課題になっている。 本稿では、デジタルを起点に、会計監査の将来像を示してみたい。なお、技術の進展は目覚ましく、あくまで執筆時点における筆者個人の一考察であることをお断りしておく。 ◆デジタル情報とアナログ情報 多くのビジネスの現場では、デジタルとアナログが混雑している。 例えば、文章作成ソフトを使用して社内文書を作成し、それを印刷して承認者の上司の捺印をもらう。前半はデジタル情報であったものが、紙にした途端にアナログ情報になる。この場合、会計監査では上司が捺印した紙の資料を提示してもらい、アナログ情報を監査することになる。 ところが、社内イントラネット上で上司の承認が完結されるようペーパーレスが進めば、会計監査ではそのデジタル情報を監査できることになる。もっとも情報がデジタルになることで、情報を保存するサーバの保守やデータへのアクセス管理といった別の内部統制の検証が監査手続として必要になってくる。 監査先企業の子会社や事業部ごとにデータの形式が異なることは珍しいことではないが、今後、形式の整ったデータが揃うことで、監査の範囲を効率的に飛躍的に拡大できる環境が整う。データの標準化は監査法人側に限らず、生産・販売管理、コンプライアンスなど監査先企業においても統合的な経営管理の重要な武器になる。 こうしたデジタル化は、監査先企業とそれを監査する監査法人のニーズが一致するのである。 ◆変わりつつある会計士の仕事 会計監査ではこれまで、表計算ソフトを用いて監査先企業から入手した財務データを加工し、経験をもとに異常点を識別していたが、前捌きである大量データ処理に時間を費やすことが多かった。 最近はデータをわかりやすく可視化するソフトウェアが普及し、ある程度のデータ加工はソフトウェアが担ってくれるため、会計士はデータをさまざまな角度から分析する時間に充てることができるようになった。円の大きさや色から視覚的に瞬時にリスクを捉えたり、子会社や商品などデータの並びを自在に変えたりすることで、短時間で様々な角度からの分析が可能となった。 財務データの動きから監査先企業の異常な取引やビジネスの変化を捉え、新たなリスクを識別した場合は早期に監査先企業に伝える。ようやく会計監査の仕事の醍醐味を多く感じることができるようになった。 ◆データ・アナリティクス人材の育成 当監査法人が加盟するEYは、昨年11月、EY Badges(バッジ)というデータ・アナリティクスやAIなど最先端技術のスキル取得を後押しする社内資格認定制度を導入した。 ドメイン(専門領域)ごとに「ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナ」という4段階のレベルを設け、「研修・経験・貢献」の3つの視点からデジタルバッジを付与する。デジタル時代に即し、現在そして将来の会計監査を見据えた人材育成に活用し始めている。 特徴は、AI、RPA、ブロックチェーンといった最先端技術と並ぶもう1つの大きなドメインに、データ・アナリティクスを位置付けた点にある。例えば、データの可視化(data visualization)というサブ・ドメインでは専門研修を受けること、監査で実践した経験、分析結果を生かした業務改善などの貢献の3つを考慮し、デジタルバッジが与えられる。 制度導入から間もなく、日本エリアにおけるバッジ取得者第1号が監査法人で誕生した。 彼女はITとデータ分析を得意とするプロフェッショナルで、実は会計士ではない。 そうしたITリテラシーを備え、新たな領域に挑戦できる人材が、今後の会計監査の重要な戦力になってくるのではないか。 ◆大学との連携 データ・アナリティクスは、米国の大学で会計学を学ぶ学生にとって必要不可欠になりつつあるようである。 米国のEYでは現地の大学と連携し、その大学の学生が履修できるデータ・アナリティクスの専門プログラムを設けている。大学に分析ツールと分析データ(架空の企業のもの)を提供し、学生のデータ・アナリティクスのスキル養成を支援している。 非常に実践的なプログラムで、将来を担う会計人材の早期育成にもつながっているようである。 ◆AIと会計監査 AIについても少し触れておきたい。AIはデータ・アナリティクスを高度化させる要素技術の1つになる。 当監査法人では、分析に用いるデータを大きくマクロ情報とミクロ情報に区分し、AIの研究と監査業務での実用化を進めている。 まず、当法人では2016年7月より、有価証券報告書などの公開情報(マクロ情報)に機械学習を活用した「不正会計予測モデル」を実用化させ、昨年12月より一部の機能が監査チーム側でも利用可能になった。同業他社と時系列で比較した監査先企業の財務状況や、監査先企業で注目されているキーワードをワードクラウドで可視化するなど、監査現場で活用し始めている。 もう一方のミクロ情報については、昨年11月、監査先企業の会計仕訳データに機械学習を適用し膨大な仕訳データからの異常検知を効率的に行う「AIによる会計仕訳の異常検知アルゴリズム」を実用化させている。 これまでの勘定科目間の相関分析といえば、売上・売掛金・現金といった少数の勘定科目の相関に着目することが多かったが、このアルゴリズムは監査先企業が使用する全ての勘定科目の相関に着目する。実証実験では、約700科目間の相関を分析し、その中から異常な仕訳を識別した例もある。 膨大なデータを解析することに長けたAIの活用によって、効率的に監査範囲を拡大し、会計士に新たな示唆を提供してくれると期待している。 ◆未来の会計監査 当監査法人では昨年、少し先の未来の会計監査を描いたイメージ動画を制作した。 そのような未来の会計監査の姿とプロフェッショナルの将来像を示した。 なお、すでに一部の技術は実用化を進めている。 先端デジタル技術がいかに進展しても、会計監査の主役は人である。 私たちプロフェッショナルが長年の会計監査で培った知見・経験に先端デジタル技術を融合させ、デジタル時代に相応しい高品質な会計監査の実現、そして次世代の監査人の育成に注力していく所存である。 ➤➤アシュアランス・イノベーション・ラボ 未来の監査「Smart Audit」実現を目指す研究組織。公認会計士を中心に、コンピュータ・サイエンティストやデータ・サイエンティストらが関与し、AI・RPA・Blockchain・Droneを監査業務に実用化する研究開発を進めている。 開発した監査アプローチ・監査ツールを監査チームに組織的に展開する役割を担うDigital Audit推進部とともに、総勢100名以上の体制で、未来の監査「Smart Audit」実現を目指している。 (了)
《速報解説》 ASBJ、実務対応報告第38号 「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」を公表 ~ICOの取扱いについては今後の状況を踏まえ対応を判断~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年3月14日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(実務対応報告第38号)を公表した。 これにより、平成29年12月6日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という)が改正され、仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入されたことに対応し、必要最小限の項目について、仮想通貨の会計処理及び開示を規定するものである(実務対応報告2項、22項)。 なお、実務対応報告公開草案第53号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されているので、本実務対応報告の理解に資するものと考えられる。 例えば、いわゆるICO(Initial Coin Offering)に関する会計上の取扱いについて検討すべきとのコメントに対しては、実務対応報告は、自己の発行した仮想通貨の会計処理を取り扱っておらず、今後、市場関係者からの要望の状況を踏まえ、別途の対応を図ることの要否を判断することになると考えられるとの対応が示されている(論点の項目(16))。 後述するように、国税庁から、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 範囲 実務対応報告は、資金決済法に規定する仮想通貨を対象としている(3項)。 ただし、自己(自己の関係会社を含む)の発行した資金決済法に規定する仮想通貨は、実務対応報告の範囲から除かれている(3項、26項)。 いわゆる「マイニング」(採掘)などにより取得した仮想通貨は、通常、自己(自己の関係会社を含む)以外の者により発行されているため、ここでいう自己(自己の関係会社を含む)の発行した仮想通貨には該当しないことから、実務対応報告の範囲に含まれるとされている(26項)。 資金決済法では、前払式支払手段発行者が発行するいわゆる「プリペイドカード」や、ポイント・サービス(財・サービスの販売金額の一定割合に応じてポイントを発行するサービスや、来場や利用ごとに一定額のポイントを発行するサービス等)における「ポイント」は、資金決済法上の仮想通貨には該当しないとされている。また、いわゆる仮想通貨が資金決済法上の仮想通貨に該当するか否かは、個別事例ごとに取引の実態に即して実質的に判断されるとされている(25項)。 2 定義 例えば、次の用語が定義されている(4項(1)(2)(3))。 3 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理 仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、次のように会計処理する(5項~7項)。 仮想通貨の売却損益の認識時点に関して、仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、仮想通貨の売却損益を当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識すると規定されている(13項)。 4 活発な市場の判断規準 実務対応報告5項における活発な市場が存在する場合とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(8項)。 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格や、仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱いについても、規定されている(9項~12項)。 5 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨については、次のように会計処理する(14項~15項)。 6 開示 表示及び注記について、次のように規定している(16項~17項)。 公開草案に対しては、貸借対照表、損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書における表示区分を定めて欲しいとのコメントが寄せられたが、表示区分に関する論点については、各企業の状況に応じてそれぞれ判断することになると考えられるとの対応が示されている(論点の項目(10))。 Ⅲ 適用時期等 平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、本実務対応報告の公表日(平成30年3月14日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 Ⅳ 国税庁Q&A 国税庁から次のものが公表されている。 上記①では、Q&A形式により、具体的な数値例などを用いて次のことが記載されているので、ぜひ、お読みいただきたい。 (了)
《速報解説》 平成30年度税制改正関連法案、今国会の状況を踏まえ審議動向に注視 ~過年度の国会成立時期を確認~ Profession Journal 編集部 財務省の決裁文書の書換えをめぐり今国会での法案審議に支障が生じかねない状況だが、既報のとおり2月はじめに国会へ提出された平成30年度税制改正関連法案は同月28日に衆議院で可決され、3月9日から(※)参議院へと審議の場が移されている。 (※)(追記:2018/3/19)地方税法の改正法案は3月16日から。 例年であれば3月末日の官報による公布(原則4月1日施行)に向け参議院において法案が可決・成立される流れになっている。 ここで財務省ホームページをもとに過年度の税制改正関連法案の成立日を遡って確認すると、次のようになっている(地方税も同様の日程)。 上記を確認すると、3月末日ぎりぎりの成立になっている年も見られることから、残り2週間の国会(参議院)における審議の動向には注意が必要だ。 (※)(追記:2018/3/27)衆議院の議決を受け取った後30日以内に参議院において議決できない場合は、衆議院の議決がそのまま国会の議決となります。 なお、ねじれ国会や東日本大震災の発生により3月末までの法案成立に至らなかった平成23年度のケースでは、その年の3月末で期限切れとなる租税特別措置の3ヶ月の延長等を定めたいわゆる「つなぎ法案」を成立させ、6月に税制改正関連法案が成立している(同年4月・12月にも震災対応の改正が行われた)。 (※) 財務省ホームページより (了)
2018年3月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.260を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第53回】 「会社法改正と税制との関係」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 2月28日、法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会から中間試案が公表された。 今回の中間試案では、株主総会関係(株主総会資料の電子提供、株主提案権)、取締役関係(報酬、会社補償、役員等賠償責任保険契約、社外取締役)、社債、株式交付、その他(議決権行使書面の閲覧、会社代表者の住所が記載された登記証明書など)等に関する規律の見直し・創設が提案されている。 これらの中でいくつかの項目は、税制上の取扱いにも関連する事項が含まれている。 〇役員報酬(株式報酬等) 取締役に対し、いわゆるインセンティブ報酬を付与する場合については、すでに平成28年度税制改正、29年度税制改正において、利益連動給与から業績連動給与への損金算入対象の拡大や譲渡制限付株式を役員給与とする場合の取扱いなどの手当てがなされてきた。 一方、こうしたインセンティブ報酬について、会社法における取締役の報酬等に関する規律がどのように適用されることとなるかが必ずしも明確でないという指摘もあったことから、今回の中間試案では、例えば、会社法第361条第1項第3号の「具体的な内容」として財産上の利益をどこまで特定しなければならないか明確化を図っている。 また、現行法上、募集に係る株式の発行又は自己株式の処分においては、募集株式の払込金額又はその算定方法を常に定めなければならないこととされている(会社法199①②)。そのため、取締役の報酬として株式を交付する場合には、実務上、金銭を取締役の報酬等とした上で、同項の募集を行い、取締役に募集株式を割り当て、引受人となった取締役に会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付するということがされている(いわゆる相殺構成による交付)。 なお、新株予約権については、株式とは異なり、募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることが認められている(会社法238②)が、実務上は株式の場合と同様、いわゆる相殺構成による交付が行われている。また、現行法上、新株予約権については、その行使に際して必ず財産の出資をしなければならないこととされているため(会社法236①二)、実務上、行使価額を1円にすることにより、実質的に行使に際する財産の出資を要しない新株予約権を交付するということも行われている。 こうしたことを踏まえ、今回の中間試案では、取締役の株式報酬については、募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を募集事項として定めることができるものとし、また、新株予約権による取締役の報酬については、新株予約権の行使に際して出資を要しない旨をその内容とすることができるものとしている。 このような払込みのない株式の交付を行った場合、税法上の取扱いを検討する必要が生じる。取締役の報酬として損金を計上することができるのか、また、株式を発行するものの払込みがないことから資本金等の額を変える必要があるのかどうか、株式の交付を受けた取締役は株式の時価で給与課税を受けるのか、などが課題となる。 〇役員等賠償責任保険(D&O保険)契約 会社法上、株式会社がD&O保険に係る契約を締結することに関する規定はないことから、今回の中間試案では、契約の内容の決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならないものとすることを提案している。さらに、公開会社である場合には、①保険契約の被保険者、②保険契約の内容の概要、を事業報告の内容に含めなければならないものとすることを提案している。 すでに平成28年2月24日付で、経済産業省からの照会に対して、国税庁から、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を、①取締役会の承認及び②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全委員の同意の取得のもと会社法上適法に負担する場合には、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はないとの見解が示されている。 今回の中間試案に基づき会社法上の手続きが明確化された場合、役員個人対する給与課税の有無に影響がないか検討する必要がある。 〇株式交付 今回の中間試案で創設が提案されている「株式交付」とは、株式会社が他の株式会社(これと同種の外国会社を含む)をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、その譲渡人に対して当該株式会社の株式を交付することをいう。つまり、株対価M&Aのことである。 すでに平成30年度税制改正では、事業者が、産業競争力強化法の認定特別事業再編事業者(産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行の日から平成33年3月31日までの間に産業競争力強化法の特別事業再編計画について認定を受けた事業者に限る)の行ったその認定に係る特別事業再編計画に係る特別事業再編によりその有する他の法人の株式を譲渡し、その認定特別事業再編事業者の株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式等の譲渡損益を計上しないこととする措置が創設されている(措法37の13の3、66の2の2、 68の86)。 平成30年度税制改正の措置は、あくまでも産業競争力強化法に基づく認定を前提とした租税特別措置として、買収に応じた株主の譲渡損益を計上しないこととするものであるが、会社法上の制度として「株式交付」が創設された場合、租税特別措置法ではなく、法人税法や所得税法で規定を設けることになるのであろうか。 (了)
〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第1回】 「押さえておきたい10のポイント」 税理士 長谷川 太郎 ▷ポイント1 租税負担割合が20%以上でも合算課税の対象となる規定が創設された 「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」とのBEPSプロジェクトの基本的な考え方に基づき、合算課税の対象を外国子会社の租税負担割合(トリガー税率)により把握する制度から、所得や事業の内容によって把握する制度に改められている。 これにより、租税負担割合が20%以上の場合でも、利子・配当・使用料等の「受動的所得」しか得ていないようなペーパー・カンパニー等は「特定外国関係会社」として、経済活動基準(改正前の適用除外基準)の判定を経ずに「会社単位の合算課税」が適用されることになった(ただし、租税負担割合が30%以上の場合を除く)。 「特定外国関係会社」となる外国関係会社の概要は以下の通りである。 ▷ポイント2 改正により制度が大幅に見直されたものの骨格は維持されている 改正前の制度においては、外国関係会社のうち、「本店所在地国における課税がない場合又は租税負担割合(トリガー税率)が20%未満の会社」を「特定外国子会社等」として定義し、合算対象となる外国法人を入口で絞っていたが、今回の改正で合算課税の有無を所得や事業の内容によって把握するという考え方に改めているため、入口での租税負担割合による判定基準は設けられていない。 しかしながら、事務負担等を勘案し、適用免除基準として租税負担割合を採用しているため、実務上の手続きに関しては改正前からの継続性がある程度担保されている。 なお、前述の特定外国関係会社については租税負担割合が30%以上の場合、特定外国関係会社以外の外国関係会社は租税負担割合が20%以上の場合には、合算課税は適用免除となる。 ▷ポイント3 50%:50%の合弁会社は、外国関係会社から除外されることが明確に 外国関係会社の判定における間接保有割合が、「掛け算方式」から50%超の株式の保有を通じた「連鎖方式」に改正されている。この結果、内国法人と外国法人で出資割合が50%:50%となる合弁会社は原則として外国関係会社に該当しないこととなった。 改正前の「掛け算方式」においては、合弁会社のパートナーである相手方の外国法人の株式を内国法人や日本居住者が1株でも保有していれば外国関係会社に該当することになるため、外国法人が上場企業等の場合には実務上この取扱いが問題となっていた。 ▷ポイント4 外国関係会社の判定、納税義務者の判定及び課税対象金額の計算において実質支配基準を導入 改正前は、外国法人との資本関係を持たず、契約関係等により実質的に外国法人を支配すれば外国子会社合算税制を回避することが可能であったが、改正により居住者または内国法人と外国法人との間に実質支配関係がある場合におけるその外国法人が外国関係会社の範囲に追加されている。また、納税義務者の判定や課税対象金額の計算においても実質支配による影響を加味することとなっている。 なお、「実質支配関係」とは、 とされている。 ▷ポイント5 無税国に本店がある場合でも租税負担割合で判定 改正前は、法人の所得に対して課される税が存在しない国等に本店等を有する外国関係会社については、租税負担割合の判定をすることなく「特定外国子会社等」に該当することとされていた。改正後は、租税負担割合を使用する適用免除基準の判定において、このような規定は設けられていないため、本店所在地国において税が課されない場合であっても、租税負担割合を計算して適用免除の判定を行うこととされている。 ▷ポイント6 経済活動基準(改正前の適用除外基準)の見直し 適用除外基準が経済活動基準と改められ、一部見直し(緩和)が行われている。 主な改正内容は以下の通りである。 ▷ポイント7 推定課税制度の導入 税務調査等において、外国関係会社で租税負担割合が30%以上である事実が客観的に確認することができない場合には、実体基準及び管理支配基準を充足する(ペーパー・カンパニーに該当しない)事実を明らかにする書類等の提示または提出を求められることがあり、定められた期間内に書類等の提示または提出をしない場合には、当該外国関係会社について、特定外国関係会社に該当すると推定される(会社単位の合算課税が適用される)こととされている。 また、特定外国関係会社に該当しないことが確認され、かつ租税負担割合が20%以上である事実が客観的に確認することができない場合には、経済活動基準を充足する事実を明らかにする書類等の提示または提出を求められることがあり、定められた期間内に書類等の提示または提出をしない場合には、当該外国関係会社について、経済活動基準を充足しないと推定される(会社単位の合算課税が適用される)こととされている。 現在、法定税率ベースで税率が30%以上となっている国は限定的であり、企業側においては租税負担割合が明らかに20%以上でこれまで特に何も対応をしていなかった外国法人についても、今後はペーパー・カンパニーに該当しないことを明らかにする書面を予め準備しておく必要があると考えられる。 ▷ポイント8 受動的所得の見直し(対象範囲の拡大と複雑化) 部分合算対象所得である受動的所得(改正前の「資産性所得」)は、その対象範囲が拡大され、かつ制度が複雑化している。 改正前は資産性所得の合算課税が生じるケースはかなり限定的であり、特定外国子会社等の損益計算書等からデミニマス基準を超えないことを確認をする程度の作業で足りたケースも多くあったと思われるが、改正により対象範囲が拡大等されたことにより、合算課税の検討による事務負担が増加することが予想される。 また、部分課税対象金額が課税対象金額に相当する金額を超えるときは、改正前であれば課税対象金額に相当する金額が合算課税されることになっていたが、改正によりこの取扱いが廃止されているため、能動的所得が赤字となっている場合には、会社単位の合算課税制度よりも受動的所得の合算課税の金額が大きくなることもあり得る。 ▷ポイント9 外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用 改正後の規定は、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。合算課税を行うタイミングについては、従前通りとなっているため、内国法人における改正後の最初の適用事業年度は以下の通りとなる。 ▷ポイント10 平成30年度税制改正の内容も同じタイミングで適用開始 平成30年度税制改正(本稿執筆時点で法案未成立)において外国子会社合算税制の改正が予定されているが、適用開始時期については平成29年度税制改正と同様に外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用とされている。 改正内容は、平成29年度税制改正の内容を整備するような内容が主なものとなっているが、外国企業を買収した後に行うグループ内再編に伴い発生する株式譲渡益について、一定の要件・期間のもと、適用対象金額から控除する規定が創設されることが見込まれている。 * * * 本改正後の適用判定をフローチャートで示すと下図のようになる。 【適用判定フローチャート】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第29回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第4章》 平成13年から平成17年までの議論 1 法人税基本通達の公表 (1) 1株に満たない端数の処理 すでに解説したように、平成14年2月15日に「法人税基本通達等の一部改正について」が公表された。山本守之氏が述べられたように、異論があるとして取り上げるようなことはほとんどなく、むしろ当然のことと思われる内容が記載されていたのがほとんどであった(※1)。 (※1) 山本守之(発言)阿部泰久ほか「企業組織再編通達をめぐって」税務弘報50巻5号61頁(平成14年)。 その後の会社法改正、グループ法人税制の導入により大幅に改正されたものもあるため、以下では、現行法上も有効なものについてのみ解説を行う。 まず、法人税基本通達1-4-2では、以下のように規定された。 すでに解説したように、1株に満たない端数の譲渡代金を株主に交付したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないと解されていたが、本通達はこれを明らかにしたものであると言える。 さらに、(注)において、共同事業要件の1つである株式継続保有要件の判定では、1株に満たない端数について、議決権のないものに該当するとしている。株式継続保有要件では、議決権のある株式と議決権のない株式の両方を交付している場合には、議決権のある株式には株式継続保有要件が課されるものの、議決権のない株式には株式継続保有要件が課されないとしている。 本通達では、1株に満たない端数を議決権のない株式とすることで、株式継続保有要件の対象から除外することが明らかにされている。 (2) 名義株 法人税基本通達1-4-3、12-1-2、12の2-2-1では、支配関係、完全支配関係の判定において、「株主名簿又は社員名簿に記載されている株主等により判定する」ことを原則としながらも、「その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する」ことが明らかにされた。 この点については、結局は事実認定の問題になるため、通達で明記されたとしても、現場のトラブルが解消されるわけではないという指摘がある(※2)。 (※2) 山谷耕平(発言)前掲(※1)63頁。 (3) 従業者の範囲 法人税基本通達1-4-4、12-1-3、12の2-2-2では、「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、被合併事業等に現に従事する者をいうことを原則としながらも、これらの事業に従事する者であっても、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者について、法人が従業者の数に含めないこととしている場合は、これを認めることとしている。なお、「従事した日ごとに給与等の支払を受ける者」と規定されたため、月払い、週払いのパート、アルバイトについては、従業者に含めるべきであると考えられる。 さらに、(注)において、①出向により受け入れている者等であっても、被合併法人の合併前に営む事業、分割事業又は現物出資事業に現に従事する者であれば従業者に含まれる、②下請先の従業員は、例えば自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しない、③分割事業又は現物出資事業とその他の事業とのいずれにも従事している者については、主として当該分割事業又は現物出資事業に従事しているかどうかにより判定することがそれぞれ明らかにされている。 ただし、上記②について、平成14年当時では、派遣社員についても従業者から除外されるのではないかという議論があった(※3)。これは、派遣社員という形態が新しく、国税庁も現状を認識していなかったためであると思われる(※4)。この点については、平成14年4月4日に公表された「平成14年2月15日付課法2-1「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明について(情報)」では、派遣社員を従業者に含めることが明らかにされている。 (※3) 山谷耕平(発言)前掲(※1)64-65頁。 (※4) 阿部泰久(発言)前掲(※1)65頁。 なお、上記①との関連により、同通達1-4-10において、 と規定された。分割法人から分割承継法人に出向したということは、分割承継法人の従業者になったことを意味するからである。 実務上、分割法人と分割承継法人との間の給与体系が異なることから、転籍ではなく、出向にしたいというニーズが強いが、本通達により従業者引継要件に抵触しないことが明確にされている。 (4) 主要な事業、売上金額等に準ずるもの 法人税基本通達1-4-5、12-1-3、12の2-2-2では、 と規定され、同通達1-4-6では、 と規定された。 これだけだと、あまり意味のない通達のように見えてしまうが、同通達1-4-6(注)において、 と規定されていることに注目したい。 条文上、事業規模要件の判定は、「若しくは」と規定されていることから、いずれか一の指標で判定することは明らかであるが、通達において、そのことを確認したものと思われる。 * * * 次回では、法人税基本通達1-4-7以降について解説を行う予定である。 (了)
「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第6回】 「執行役員に関する税務上の留意点②」 ~所得税基本通達30-2の2について~ 税理士 大塚 進一 今回は、所得税基本通達30-2の2《使用人から執行役員への就任に伴い退職手当等として支給される一時金》を見ることにより、執行役員制度の違いによって生じる差異から、執行役員は使用人か役員かについて、再度確認してみたい。 1 使用人から執行役員への就任に伴う退職金の取扱い ここまで述べてきたように、一般的に執行役員は使用人とされている。しかし、税務上は直ちに使用人とは言いきれず、役員であるとも言えない。そのあたりを本通達から読み解いていく。 執行役員制度を導入する場合、その執行役員との契約には委任契約と雇用契約がある。この契約の違いによりその執行役員がみなし役員とされることはないが、使用人から執行役員への就任による退職金の打ち切り支給に関しては差があり、(所基通30-2の2)において、以下のように取り扱われている(下線筆者)。 ここで執行役員との契約を「委任契約の場合」と「雇用契約の場合」とに分けている論拠は、「所得税基本通達30-2の2《使用人から執行役員への就任に伴い退職手当等として支給される一時金》の取扱いについて(情報)別紙」(以下、「所基通30-2の2情報」と略す)に詳しいので、順次見ていくことにする。 (a) 委任契約の場合 退職とは、 とされており(最高裁昭和58年12月6日判決)、その使用人から執行役員への就任が退職とみなせるか判断は、それぞれの執行役員制度に応じて、最高裁判決でいう「特別の事実関係」の有無によることとしている。 そこでこの通達要件を、次のように解説している。 よって、本通達要件を満たす執行役員制度では、その使用人から執行役員への就任について、単なる従前の勤務関係の延長ではなく「特別の事実関係」があると認められる。このため、打切支給される退職給与については、税務上も退職所得として取り扱うこととしている(所基通30-2の2情報【解説】)。 (b) 雇用契約の場合 執行役員が雇用契約の場合は、使用人から執行役員へ就任したとしても、雇用契約は継続しており、会社との契約関係には変動はない。たとえ役員に準じた報酬、福利厚生、服務規律等であっても、労働法上は労働者のままであり、労働者として保護を受けることとなるので、勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があるとは、一般的には認められない。すなわち、雇用契約である執行役員は、地位や役職が変更しただけで使用人には変わりないと言える。 よって、その執行役員就任時に支払われる退職手当は、原則として、給与所得(賞与)として取り扱われる(所基通30-2の2情報Q&A[問1])。 2 所基通30-2の2(情報)のうち執行役員と使用人に関して言及しているもの (a) 「取締役から執行役員へ」又は「執行役員から取締役へ」就任した場合の退職金 本通達要件を満たす執行役員制度において、執行役員は、会社法、法人税法及び所得税法上はあくまでも使用人であって役員ではないのに対し、取締役は会社法において各種の権限や義務が規定された純然たる役員であることから、①取締役から執行役員への就任、あるいは、②執行役員から取締役への就任については、いずれもその者の法令上の地位に明確な変動があるとして、原則いずれも退職所得として取り扱うこととしている。 ただし、執行役員と取締役との間の就任・退任を繰り返すような場合において、勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があると認められない場合は、たとえ打切支給するものでも、退職所得ではなく給与所得(賞与)として取り扱うこととなる(所基通30-2の2情報Q&A[問2])。 (b) 使用人の最上級職との位置付けから本通達要件を満たす執行役員制度に変更した場合 当該執行役員の位置付けは、役員に準じたものとされているものや使用人の最上級職とされるものなど区々となっている、としており、使用人の最上級職との位置付けである執行役員は、会社とは雇用契約の関係にあり、労働法上の労働者としての地位を有していることから、使用人から当該執行役員に就任したとしても、一般的には労働条件等に重大な変動があって「特別の事実関係」があるとは認められない。 これに対して、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員は、会社とは委任契約の関係にあり、服務規律等も役員に準じたものとなっているため、労働基準法等の適用においても自ずと制限があり、使用人と当該執行役員とでは、労働条件等に重大な変動があって「特別の事実関係」があると認められる。 したがって、使用人の最上級職との位置付けである執行役員から上記通達に定める要件を満たす執行役員制度の執行役員に就任させた場合には、勤務関係の性質、内容、労働条件等に重大な変動があって従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があるといえるので、打切支給する制度改変までの勤続期間に係る退職手当は、退職所得として取り扱って差し支えないとしている。 なお、執行役員が使用人としての最上級職との位置付けのため、執行役員就任時に退職金を支給していない場合において、取締役等の役員に就任した時に使用人期間及び執行役員期間を通算して打切支給する退職金については、本通達により退職所得として取り扱われる(所基通30-2の2情報Q&A[問3])。 (c) 使用人としての職制上の地位を有する執行役員に就任させた場合 使用人との雇用契約をいったん解除し、新たに委任契約を締結して執行役員に就任させ、その業務執行範囲を明確にするため、「執行役員営業部長」といった使用人としての職制上の地位も付与する場合、 執行役員が使用人としての職制上の地位を有する場合であっても、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員であれば、会社との法律関係、労働条件等及び会社に対する責任の違いから、一般の使用人とは労働条件等に重大な変動があって特別の事実関係があるといえる。 よって、打切支給される執行役員就任前の勤続期間に係る退職手当等は、原則として、退職所得として取り扱って差し支えないとしている(所基通30-2の2情報Q&A[問5])。 (d) 所基通30-2の2の要件を満たす執行役員はみなし役員に該当するか 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る)以外の者でその法人の経営に従事しているものは、税務上役員とされる。ところで、執行役員制度とは、取締役会の担う①業務執行の意思決定と②取締役の職務執行の監督、及び代表取締役等の担う③業務の執行のうち、この③業務の執行を「執行役員」が担当するというものである。 この執行役員制度の下での執行役員は、一般に、代表取締役等の指揮・監督の下で業務執行を行い、会社の経営方針や業務執行の意思決定権限を有していないことから、「法人の経営に従事しているもの」には該当しないものと考えられる。 したがって、本通達に定める要件を満たす執行役員制度の下での執行役員が、直ちにみなし役員に該当するとは限らない。なお、個々の執行役員制度によっては、その執行役員が会社の経営方針や業務執行の意思決定に参画することも予想され、その場合にはみなし役員に該当することとなる(所基通30-2の2情報Q&A[問7])。 3 所基通30-2の2の要件を満たす執行役員は使用人か 上記通達の解説である「所基通30-2の2情報」を見ていく限り、本通達要件を満たす執行役員が、使用人であるか否かがはっきりしない。 (a)では「執行役員は、会社法、法人税法及び所得税法上はあくまでも使用人であって役員ではない」と執行役員を区別せず使用人としているのに対し、(b)では「使用人の最上級職である執行役員は、会社とは雇用契約の関係にあり、労働法上の労働者としての地位を有し」、「本通達要件を満たす執行役員は、会社とは委任契約の関係にあり、使用人と当該執行役員とでは、労働条件等に重大な変動」と執行役員でも制度設計により、同様にできないとしており、(c)においても「本通達要件を満たす執行役員は、一般の使用人とは労働条件等に重大な変動」として一般の使用人とは異なる言及をしている。 しかし、(d)におけるみなし役員の判定では、使用人であるかどうかには直接言及せず、「法人の経営に従事している」ことのみで行っている。すなわち「法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているものは、税務上役員とされる。」としたところで、「一般に執行役員は、意思決定権限を有していないことから、「法人の経営に従事しているもの」には該当しない」ので「直ちにみなし役員に該当するとは限らない。」と結論付けしている。 このことから、執行役員なら直ちに使用人であるとの断定はできず、個々の判断が必要となる。 執行役員の地位により税務上の取扱いが違うため、執行役員の制度設計において、その位置づけに注意する必要がある。 以上をまとめると、おおよそ次の〈図6-1〉のようになると考えられる。 〈図6-1〉 「執行役員就任時の退職金」及び「みなし役員の判定」 (了)
相続税の実務問答 【第21回】 「遺産分割が調ったことによる相続税額の調整 (更正の請求をしない場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出期限において、遺産が未分割であったため、法定相続分に従って遺産を取得したものとして相続税の申告をしていた場合に、その後の遺産分割により、法定相続分よりも少ない財産しか相続しないこととなり、遺産分割の結果に基づいて計算した相続税額が、当初申告において計算した相続税額よりも少なくなるときには、相続税の更正の請求を行うことにより、差額の相続税額の還付を受けることができます。 しかし、更正の請求をするかどうかは、その相続人の任意の選択に委ねられており、更正の請求を行わずに、当初の申告において計算した相続税額を各相続人の最終的な相続税額としたとしても、贈与税の課税の問題が生じることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の申告 相続税の申告書の提出期限までに、相続人間で遺産の分割がされなかった場合には、各相続人が民法に規定する相続分の割合(法定相続分)に従って遺産を取得したものとして、課税価格を計算して、相続税の申告をすることとされています(相法55)。 その後、遺産の分割が行われ、各相続人が遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した課税価格と異なることとなった場合には、遺産分割の結果に従って相続税の額の再計算をし、これに基づいて納税者が修正申告書を提出すること、もしくは更正の請求をすること、又は税務署長が更正処分若しくは決定処分を行うことができることとされ(相法55ただし書き)、相続税法にはその手続きが定められています。 2 遺産分割に伴う相続税額の調整 申告書の提出期限において、遺産が分割されていなかったことから、法定相続分に従って課税価格の計算をして相続税の申告が行われた場合において、その後、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より小さくなったことにより、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときには、遺産分割があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に、相続税の更正の請求を行うことができることとされています(相法32①一)。 また、遺産の分割が行われ、遺産分割によって取得した財産を基に計算した課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より大きくなったことから、相続税額に不足が生じることとなったときには、修正申告書を提出することができることとされています(相法31①)。 このような相続税法の定めから、遺産分割の結果、既に行った申告に係る相続税額に過不足が生じることとなった場合において更正の請求や修正申告をするかしないかは、各相続人の任意の選択に委ねられているといえます。現行の相続税法がいわゆる「法定相続分課税方式」を採用しており、遺産分割がどのように行われたとしても、原則として相続税の総額に異動は生じないため、相続税法は相続税の再計算とそれに応じた調整の手続きを行うことを納税者の義務とはしていないものと考えられます。 したがって、更正の請求や修正申告を行わずに、当初の申告に係る各相続人の相続税額をもって、その相続人の最終的な相続税額とすることもできることとなります。 (注)遺産分割の結果、既に行った申告に係る相続税額が過大となった相続人から、相続税法第32条第1項第1号の規定による更正の請求が行われ、この更正の請求に基づき、税務署長が当該相続人の相続税額について減額更正を行った場合には、税務署長は他の相続人の相続税額について、更正処分を行うこととなります(相法35③一)。 3 相続税額の調整の手続きを行わない場合 上記2のとおり、遺産分割の結果生じた相続税額の過不足について、更正の請求や修正申告の手続きによる調整をすることなく、分割以前に行われた申告や更正処分等による相続税額が各相続人の最終的な相続税額となった場合に、当該過不足の調整をしなかったことにより、相続税額が過大となった者から相続税額に不足を生じることとなった者への贈与(みなし贈与)が生じることとなるのではないかとの疑義が生じます。 しかしながら、遺産分割前において確定している各相続人の相続税額は、相続税法等の規定により適法に確定した税額であり、また、遺産分割後に更正の請求又は修正申告による相続税額の調整の手続きは任意であり、これらの手続きを採らなかった場合には、遺産分割前に確定している各相続人の相続税額が、その者の相続税法等に基づく相続税額ということになり、一方の相続人の相続税額を他方の相続人が負担したという関係は生じません。したがって、贈与税の課税の問題は生じないと考えられます。 4 ご質問の場合 遺産分割の結果を基に相続税額の再計算を行うとすれば、法定相続分(2分の1)を下回る5分の2相当の遺産しか取得しなかったあなたにとっては、当初申告に係る相続税額は過大であり、反対に5分の3相当の遺産を取得した弟さんの相続税額には不足が生じることとなりますが、あなたが更正を行うかどうかは任意ですし、仮に更正の請求を行わないとすれば、法定相続分に従って遺産を取得したものとして既に行った相続税の申告に係る相続税が、あなたと弟さんの適法に確定したそれぞれの相続税額ということになります。 したがって、あなたが相続税の更正の請求を行わないとしても、弟さんへの贈与税の課税の問題は生じません。 (了)