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プロフェッションジャーナル No.551が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年1月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.551を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/01/11

monthly TAX views -No.131-「歳出改革と国民負担の微妙な関係」

monthly TAX views -No.131- 「歳出改革と国民負担の微妙な関係」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   新年早々、年末の予算編成での少子化対策の財源議論を通じて、歳出改革と国民負担について考えるところがあったので、述べてみたい。 *  *  * 問題意識の出発点は、昨年6月に3.6兆円規模の少子化対策を閣議決定(こども未来戦略方針)した際、岸田総理が「実質的な追加負担を求めない」と強調したことである。 その後11月末に、「実質的な追加負担なし」というのは「社会保障にかかる国民負担率で判断する」と説明した。国民所得を分母に、社会保障の負担を分子とした割合で判断するという趣旨は、今年の春闘で民間企業の賃上げによる所得増が予想され分母が増えるので、医療や介護の保険料が多少上がっても、負担率は抑えられるということである。 民間企業が行う賃上げを前どりして「追加負担なし」とするのは違和感があるが、その後の国会答弁でも、「賃上げと歳出改革によって、国民負担の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することにより、実質的な追加負担は生じない」と説明した。 その後12月11日に草案が公表され、同月22日決定された「こども未来戦略」では、この辺りがより明確になった。 2028年度までに3.6兆円の安定財源を確保して行う。その内訳は、歳出改革で1.1兆円、支援金の創設で1兆円、規定予算の活用で1.5兆円とする。 具体的には、歳出改革による公費節減と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で、2026年度から段階的に2028年度にかけて、健康保険料に上乗せする形で徴収をする「支援金制度」を構築し、2028年度に1兆円程度の規模を目指す。 新たに設けられる支援金制度は、企業や個人から健康保険料に上乗せして1兆円規模の負担を求めるが、それに伴う負担増(個人でいえば、毎月1人500円程度の増)を相殺する歳出改革、具体的には社会保障の支出抑制を行うことによって実質的な国民の負担増はないようにする、という説明だ。 一方、歳出改革の中身はどうか。「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)における医療・介護制度等の改革を実現することを中心に取り組」むとされ、6年ぶりに医療と介護報酬を同時改定する2024年度予算では、相当規模の歳出改革が期待された。 財務省は、診療所の経営状況が良好なことを受け、診療報酬本体(医師や看護師の人件費等)についてマイナス改定を求めたが、日本医師会や政治家が反対し、0.88%のプラス改定となった。また、予定していた介護保険の利用者負担(2割負担)の範囲の見直し(拡大)は、とん挫した。 この結果、歳出改革による保険料負担の軽減は約3,300億円となったが、一方で新たに負担増となる医療や介護の現場で働く人の賃上げなどに必要な約3,400億円については実質的な負担には含めないとして、「実質的な追加負担なし」と説明された。これに対しマスコミは、「ごまかし」「詭弁」との評価を下した。 このような経緯を経て、2024年度予算案の社会保障費は37.7兆円と前年度に比べて約8,500億円増え、少子化対策として「こども・子育て支援特例公債」という名目のつなぎ国債が2,200億円程度発行されることとなった。生まれてくる子供のための施策を彼ら(子ども世代)が負担するというパラドックスが生じたのである。 では来年度以降、どのような歳出改革が予定されているのだろうか。 昨年暮れに決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」では、全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋における医療・介護制度等の改革となる「能力に応じた全世代の支え合い」として、次のことが掲げられている。 金融資産や金融所得を勘案するには、金融資産や金融所得の正確な把握が必要であり、預貯金口座にマイナンバーを付番することが不可欠となる。しかし、口座付番に国民の合意を得ることは容易ではない。そうなると、これらの歳出改革は絵に描いた餅になりかねない。その場合は、つなぎ国債のはずの「こども・子育て支援特例公債」が赤字国債になる。 *  *  * 歳出改革は、無駄な歳出を抑えるということだが、国民負担が消えてなくなるわけではない。その本質は、「ゆとりのある者に追加負担をしてもらう」ということで、そこに歳出改革の難しさがある。 (了)

#No. 551(掲載号)
#森信 茂樹
2024/01/11

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第127回】「消費税法判例解析講座(その4)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第127回】 「消費税法判例解析講座(その4)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   ヘ 消費税法30条7項は仕入税額控除の適用要件か(承前) 上記の点は、東京地裁平成11年3月30日判決(訟月46巻2号899頁)(※1)からも判然とする。 (※1) 判例評釈として、西山由美・税務事例32巻9号1頁(2000)、畑山茂樹・税務事例31巻7号20頁(1999)、高正臣・税通57巻2号90頁(2002)など参照。 同地裁は、次のように説示する。 ト 仕入税額控除の実質的権利性 しばしば、消費税法は仕入税額控除を権利として規定していないと論じられる。 例えば、西山由美教授は、「日本の消費税法では、仕入税額控除をそもそも権利として位置づけていないために、請求権の行使時期に関する規定はない。確定申告に関する規定(消費税法45条1項)において、事業者は課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等に係る課税標準の合計額(課税標準額)に対する消費税額と、当該課税期間中に国内で行った課税仕入れに係る支払対価の金額に108分の6.3を乗じた金額(同法30条1項)を記載することが定められているのみである。」とされる(※2)。 (※2) 西山由美「消費課税におけるインボイスの機能と課題:EU域内の共通ルールと欧州司法裁判所判例を素材として」法学新報123巻11=12号127頁(2017)。 また、仕入税額控除があくまでも税額控除とされていて、課税標準は売上であることからすれば、現在の消費税は売上税としての性質を有するものであるとの議論が展開されているように思われる。 例えば、金子友裕教授は、日本の消費税を、賦課課税かそれとも取引高税かという見地から捉えた場合、最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決(集民215号1005頁)に付された滝井繁男裁判官の反対意見が、仕入税額控除を「単なる申告手続上の特典ではない」と位置付けていることを反対解釈し、「我が国の消費税法は、仕入税額控除を『単なる申告手続き上の特典』のように位置付けていることになり、取引高税(aモデル)に恩典的な仕入税額控除を含めたものとして捉えている」と論じられる(※3)。 (※3) 金子友裕「消費税法における仕入税額控除の考察」税法学585号3頁(2021)。 また、今村隆教授は、「仕入税額控除を税額控除のbenefitにとどめている。そうすると、共通対応課税仕入れに区分することにより、仕入税額控除が一部遮断されるとしてもあくまでもbenefitの問題にとどま〔る〕」とされる(※4)。かように、仕入税額控除が権利として規定されていないことや、税額控除に置かれている点には十分な関心を寄せるべきであろう。 (※4) 今村隆・ジュリスト1563号134頁(2021)。 しかしながら、そのような消費税法の構造が認められるとしても、そうであるからといって、仕入税額控除に関して、税制改革法の理念が消費税法に承継されていないとみるべきなのであろうか。再説するが、税制改革法10条2項では、「消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式によるもの〔下線筆者〕」とする考え方が掲げられているのである。 消費税法上の仕入税額控除が否認要件として位置付けられるとする卑見を前提とすれば、一定の要件が充足されない限り仕入税額控除は否認されないという建付けであることになる。 別言すれば、原則と例外の関係に当てはめると、仕入税額控除の適用は原則であり、例外的に一定の否認要件が充足されると同控除が受けられなくなるという構造である。帳簿・請求書等が不保存でない限り、事業者は仕入税額控除を受けることができると考えるべきなのではなかろうか(なお、ここにいう帳簿・請求書等の不保存の中には、帳簿・請求書等が法定要件を充足していないことをも包摂される。)。 この点は、帳簿書類等の不存在についての主張・立証責任が課税庁側に負わされているという点からも判然とするのである。このように考えると、仕入税額控除の否認には一定のハードルが用意されているというべきである。 もっとも、平成9年度税制改正以前には、「帳簿又は請求書等」の保存がない場合に仕入税額控除の適用がないとされていた消費税法30条7項は、同年の税制改正において、「帳簿及び請求書等」の保存がない場合に仕入税額控除の適用がない旨に改正された。すなわち、帳簿だけの不保存では足りず、請求書等の不保存についても課税庁側は主張・立証をしなければならなくなったのである。一般的に、そのような理解はされていないようであるが、文理に忠実に解釈すれば、仕入税額控除の否認要件が厳しいものとなったとみることができるのである。このように考えると、必ずしも仕入税額控除の否認のハードルが緩和されたとだけみるのは正解とはいえまい。 あくまでも、平成9年度税制改正前は、帳簿「又は」請求書等の保存がないとの主張立証に成功すれば、課税庁側は仕入税額控除の適用を否認することができたのであるが、同年度改正によって、帳簿「及び」請求書等の両方の不存在の主張立証に成功しなければ、仕入税額控除の適用を否認することができなくなったのである(そのことを考慮に入れる必要があると思われるが、この点については、別に論稿を用意することとしたい。)。 チ 本件事案における「保存」 このように、帳簿書類等の保存に係る主張立証については課税当局側に課されていることからすれば、課税庁は、帳簿書類等が存在しないことに対する主張立証責任を負っているということになる。しかし「存在しない」ことの証明とは、いわば「悪魔の証明」であるといってもよい。物が存在しないという点についての証明は事実上不可能であるといってもよいからである。 そこで、この規定を意味のあるものとするには、かかる主張立証活動について一定の緩和が用意されるべきであるということにもなろう。このままの主張立証責任の分配論では、そもそも証拠との距離が遠い税務当局側に保存がないこと、すなわち悪魔の証明に係る責任を課すこととなり、あまりにも均衡を欠くともいえるからである。 その主張立証責任を緩和するためには、例えば、消費税法30条7項にいう帳簿・請求書等の「保存」という概念の意味内容に、帳簿・請求書等の「提出」を読み込ませることとなれば、「保存」のないことに対する主張立証責任が過度に重すぎるという問題は一応解決できるし、このように解せば、悪魔の証明問題も解決することができることになる。 しかしながら、「保存」という概念に「提出」なる意味を読み込ませることは、文理解釈上無理があるといわざるを得ない。そこで、本連載の始めに確認した最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決(以下「最高裁平成16年判決」ともいう。)もそのような安易な解釈論に導かれることを避け、「保存」の意味を、あくまでも日本語として通常理解し得る「保存」の意味の範囲内において解釈を展開しているのである。すなわち、「保存」の状態論に持ち込んでいるといってもよいと思われる。 最高裁平成16年判決は、消費税法30条7項の「保存」について、如何なる状態で「保存」することを指すのかという点から議論を展開し、「税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存」することを説示したのである。「保存」にもさまざまな態様による保存があり得る中、消費税法が予定している「保存」については、適宜にこれを提出できる「状態での保存」と読み込むことによって、証拠との距離の遠い課税庁にも主張立証を可能なものとして「保存」の意義を解釈したとみることができるのではなかろうか。 このような考察の上で最高裁平成16年判決を再読すると、同最高裁は、「法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、法30条7項にいう『事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合』に当た〔る〕」こととなり、その場合には仕入税額控除が否認されることになる。税務当局がかかる立証活動に成功すると仕入税額控除は否認されることになるのであるが、他方で、「事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明」することができれば、仕入税額控除が否認されることを障害することになると説示していると解することができるのではなかろうか。 (了)

#No. 551(掲載号)
#酒井 克彦
2024/01/11

令和5年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「令和5年入居の場合の住宅借入金等特別控除」

令和5年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「令和5年入居の場合の住宅借入金等特別控除」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   ここ数年にわたり、新型コロナウイルス感染症への対応も含め、住宅借入金等特別控除に関する改正や新たな措置が相次いだ。そこで連載第2回は、令和5年中に居住を開始した場合に適用される住宅借入金等特別控除についてまとめることとする。   【1】 制度の概要(令和5年居住開始分) 個人が、国内において、居住用家屋の新築や取得をして、令和5年内に居住の用に供した場合、適用される住宅借入金等特別控除の概要は次のとおりである(措法41)。 (注1) 所得税から控除しきれない場合には、翌年の住民税から控除される(上限9.75万円)。 (注2) 令和5年分の確定申告に関係はないが、令和6年以降に新築の建築確認を受けた家屋を、令和6年又は7年に居住の用に供する場合には、省エネ基準を満たさない住宅(上表の「その他」)は、住宅借入金等特別控除の対象外となる。ただし、令和5年12月31日までに新築の建築確認を受けていて、令和6年又は7年に居住の用に供する場合には、省エネ基準を満たさない住宅であっても制度の適用対象となる(借入限度額2,000万円、控除期間10年、控除率0.7%)。   【2】 用語の定義 本制度の適用に際し、理解しておくべき用語の定義は次のとおりである。 (※1) 日本住宅性能表示基準における断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上の性能を有する家屋、建設住宅性能評価書の写し又は住宅省エネルギー性能評価書のいずれかで証明できる。 (※2) 日本住宅性能表示基準における断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上の性能を有する家屋、建設住宅性能評価書の写し又は住宅省エネルギー性能評価書のいずれかで証明できる。 制度の適用を受けるための手続や証明書の申請先等の詳細については、国土交通省の「住宅ローン減税Q&A」を参考にされたい。   【3】 適用要件 令和5年内に居住を開始した場合の住宅借入金等特別控除の適用要件をまとめると、次のとおりである(措法41、措令26、42の2の2、措規18の21)。 (※3) 建築確認を令和5年末までに受けた新築住宅でその床面積が40㎡以上50㎡未満の場合には、合計所得金額が1,000万円以下であれば制度の適用を受けることができる。   【4】 おわりに 住宅借入金等特別控除の適用には、住宅の環境性能等に応じて要件が詳細に決められており、かつ、確定申告書に添付が求められる書類も様々である。取得等する住宅の状況に合わせて、事前に書類を準備しておく必要がある。 なお、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」による、住宅借入金等特別控除についての各種対応(契約期限の延長及び居住開始期限の延長、床面積用件の緩和)と、令和3年度税制改正による特例措置は、期限の到来をもって終了されている。 *  *  * 次回(第3回)は、確定申告実務に関する留意点をQ&A方式で解説する予定である。   (了)   

#No. 551(掲載号)
#篠藤 敦子
2024/01/11

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第22回】「国税通則法60条(~63条)・64条」-附帯税(1) 延滞税と利子税-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第22回】 「国税通則法60条(~63条)・64条」 -附帯税(1) 延滞税と利子税-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法60条(延滞税)・64条(利子税)   1 附帯税の意義と種類 附帯税とは、「国税のうち延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税」(税通2条4号)をいい、これらの租税は国税通則法第6章(60条~69条)に規定されている。 附帯税も国税(税通2条1号)ではあるが、講学上は、本来的な意味での租税すなわち「国家が財政需要を充たすために議会制定法に基づく一方的義務として課す無償の金銭的給付」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【9】。大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁のほか、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回も参照)ではない。この点に着目して、本来の意味での租税は附帯税に対して「本税」と呼ばれる(なお、本税を「実質税」、附帯税を「形式税」という用語法については中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])I3頁[波多野弘執筆]参照)。なお、附帯税は講学上は本税と区別されるが、本税の額を計算の基礎として本税に附帯して課される金銭的負担であるので、実定税法上は、本税である税目に含めることとされている(税通60条4項、64条3項、69条。例えば所税45条1項2号・3号、法税38条1項柱書括弧書・同項3号参照。ただし、異なる用語法として例えば税通60条1項3号括弧書、法税55条4項1号参照)。 本税と附帯税とは、また、各附帯税相互間は、一般論としては、目的の点で区別される。すなわち、本税の目的は財政需要を充たすという資金調達目的であるのに対して、附帯税の目的はこれとは異なり、延滞税と利子税の目的は負担調整目的であり、加算税の目的は制裁目的である。延滞税による負担調整は、本税の納税義務に係る履行遅滞に対する損害賠償であり、利子税による負担調整は、本税につき納付又は申告に係る本来の期限は経過しているが税法上履行遅滞とされない期間に応じた金利分の調整であり、加算税による制裁は、納税申告義務違反及び源泉徴収・特別徴収に係る徴収納付義務違反に対する行政上の制裁である。もっとも、以上の区別は、歴史的にみると、また、個別具体的にみると、相対的なものであることを忘れてはならない(この点について詳しくは中川=清永編・前掲書I1-I8~16頁[波多野執筆]、志場喜徳郎ほか編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)696-703頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)3313-3322頁等参照)。 今回は延滞税と利子税を取り上げ、加算税は次回から取り上げることにする。   2 延滞税の意義と趣旨・目的 延滞税は、納税者が本税である国税の全部又は一部を法定納期限内に納付しない場合に、その未納に係る期間(延滞税の計算期間)に応じ、その未納に係る税額(延滞税の計算基礎税額)に対して課される附帯税であり(税通60条1項・2項)、その納税義務は、本税の納税義務につき法定納期限の経過の時すなわち履行遅滞が生じた時に成立すると同時に確定する(税通15条3項7号。延滞税の納税義務の成立時期については、明文の定めはないが、志場ほか編・前掲書711頁、武田監修・前掲書3331頁、清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)198頁参照。なお、異なる見解として金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)888頁のほか大阪高判昭和39年7月7日行集15巻7号1307頁も参照)。 延滞税の趣旨・目的について、延滞税不発生事件・最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(以下「平成26年最判」という)は、「延滞税は、納付の遅延に対する民事罰の性質を有し、期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すことを目的とするものである」と判示しているが、この判示の内容それ自体については、異論はなかろう(志場ほか編・前掲書711頁、武田監修・前掲書3327頁、金子・前掲書898頁等参照)。 ただ、平成26年最判は、延滞税が「納付の遅延に対する民事罰」すなわち履行遅滞に基づく損害賠償(遅延賠償)たる遅延利息の性質を有することを認めつつも、その一方で、「法60条1項等において延滞税の発生につき納税者の帰責事由が必要とされていない」と判示しているが、この判示については、慎重な検討が必要であるように思われる(以下の検討については、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第30回参照)。この点については、平成26年最判において小貫芳宣裁判官が次の意見(下線筆者)を述べていることが注目される。 小貫裁判官の意見はこのように延滞税の発生要件の欠缺を問題にし「解釈により不文の消極要件を作ることにもな」り「延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる」(千葉勝美裁判官の補足意見。下線筆者)が、そのような「不文の消極要件」ないし「ただし書き」は、上記引用意見中の最初の下線部の説示内容からすると、納税者の帰責事由の欠如を延滞税の発生要件に係る適用除外要件とするものであると解される。 確かに、「本件の多数意見による処理は、極めて例外的でかつ延滞税不発生となるのが明らかな場合にされるものである点で、全体的な影響が少なくて済む」(千葉裁判官補足意見)が故に、平成26年最判の判断は司法判断としては妥当なものと考えることはできよう(筆者としては小貫裁判官の意見をより妥当なものと考えるところであるが)。しかし、租税立法が「タックスポリシーの受け皿」であるだけでなく「法律問題の解決のための受け皿」でもあること(金子宏『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣・2010年)416頁[初出・1978年])を考慮すると、租税立法者が、平成26年最判によって「明らかに課税上の衡平に反する」と判断された課税上の不当な「帰結」を、延滞税の課税要件の中で斟酌し、もって平成28年度税制改正において、減額更正後に増額更正等がされた場合に係る延滞税の計算期間を見直したこと(税通61条2項の新設による「延滞税負担の適正化」)は、適切な立法的対応であったといえよう。 その計算期間の見直しは、「厳然として存在した法定納期限内の納税の事実」(小貫裁判官意見)を直視・尊重し、その納税に係る期間を延滞税の計算期間から控除し(税通61条2項1号)、かつ、「増額更正等により納付すべき税額については、更正の請求という納税者の意思に基づく減額更正によって未納付の状態が作出された結果発生したものであるとの考え」(財務省「平成28年度税制改正の解説」870頁)に基づき納税者の帰責事由の観点を勘案し、その減額更正がされた日から1年間を限度とする期間は延滞税の計算期間から控除しない(同項2号括弧書)こととするものである(利子税について税通64条3項、過少申告加算税について同65条4項2号も参照)。 なお、平成26年最判は延滞税を「納付の遅延に対する民事罰」として性質決定したが(金子・前掲書898頁も同旨)、それは、延滞税が単なる損害賠償にとどまらず「延滞を続ける納税者への制裁との意味」(野一色直人『国税通則法の基本』(税務研究会出版局・2020年)74頁)をもつことを考慮したからであると解される。そのことは、延滞税が加算税と同じく必要経費不算入(所税45条1項2号・3号)・損金不算入(法税55条4項1号)とされていることからも、読み取ることができる(損害賠償金の必要経費不算入及び損金算入については前掲拙著【320】参照)。   3 利子税の意義と趣旨・目的 利子税は、本税につき納付又は申告に係る本来の期限は経過しているが個別実定税法が本税の納税義務に係る履行遅滞とはせず本来の期限の延長を認める場合に、その延長に係る期間(利子税の計算期間)に応じ、その延長に係る税額(利子税の計算基礎税額)に対して課される附帯税である(税通64条1項。「延納若しくは物納又は納税申告書の提出期限の延長」に関する個別実定税法の規定(所税131条3項、136条、相税52条、53条、法税75条7項、75条の2第8項等)については志場ほか編・前掲著777-787頁、武田監修・前掲書3491-3498頁参照)。利子税の納税義務は、本税に係る本来の納期限又は申告期限の経過の時に成立すると同時に確定する(税通15条3項7号。利子税の納税義務の成立時期についても、延滞税の場合と同じく、明文の定めはないが、清永・前掲書198頁参照。なお、異なる見解として金子・前掲書888頁のほか前掲大阪高判も参照)。 利子税の趣旨・目的について、東京高判昭和43年12月10日税資58号786頁は、「延滞利子税は右の当然納入すべきであつた本税を延滞したことによる利子で、刑罰に当らないことはもとより、いわゆる行政罰にも当らない。」と判示し、本来の期限の延期に応じた金利分の調整を目的とする附帯税であることを明らかにしている。 もっとも、沿革的には、昭和40年の法人税法全文改正前は、法人税の納税申告書の提出期限の延長については延滞税が課されることとされていたが、同改正に伴う国税通則法の改正(昭和40年3月31日法律第36号)によってその延長期間中も利子税が課されることとなり、利子税から遅延利息の性質が取り除かれ金利分の調整措置として純化された(税通64条2項も参照)。なお、利子税の性質について「約定利息」(金子・前掲書902頁、武田監修・前掲書3506頁、野一色・前掲書76頁)といわれることがある。それは、本来の納期限又は申告期限の延長が納税者の申請という意思表示に基づくものであることや利子税が延滞税と異なり遅延利息の性質をもたないことを考慮して「約定利息」というのであろうが、利子税の割合が法定されている以上、正確には、「法定利息」の性質をもつというべきである。 (了)

#No. 551(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/01/11

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第13回】「国税通則法第63条の延滞税の取消しの主張は認容されるか」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第13回】 「国税通則法第63条の延滞税の取消しの主張は認容されるか」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 大阪国税不服審判所平成26年9月5日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 延滞税及び人為災害通達の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥   2 法令解釈の出所 上記1(3)の法令解釈は、前半は東京地裁平成21年11月13日判決(TAINSコード:Z777-2143)を、後半は大阪国税不服審判所平成16年11月18日裁決を参考に組み立てられているようである。 本件に限らず、延滞税の処分の取消しを求める審査請求事件が稀に発生するが、延滞税は時の経過と法定納期限までに完納されていないという事実に基づいて、特別の手続を要することなく法律上当然に発生するものであるから、延滞税を通知する行為は、その賦課決定でもなく納税の請求手続でもなく、単にその納付義務が存在する旨の観念の通知にすぎず、これを行政処分に当たるということはできないものとされている(福岡地裁平成5年10月28日判決(TAINSコード:Z199-7215)など)。 したがって、延滞税の処分の取消しを求める審査請求事件については、処分の不存在として却下(いわゆる門前払い)になる可能性が高い。 なお、本稿において取り上げた裁決に係る審査請求事件は、督促処分という不利益処分の取消しを求めており、却下ではなく棄却(実質審理を経て原処分を取り消す理由はないと判断された)となったようである。 (了)

#No. 551(掲載号)
#大橋 誠一
2024/01/11

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第34回】「令和6年度税制改正大綱を受けて行われた消費税経理通達等の改正の概要とポイント」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第34回】 「令和6年度税制改正大綱を受けて行われた 消費税経理通達等の改正の概要とポイント」   税理士 石川 幸恵   【Q】 令和5年12月27日付けで、国税庁より「『消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)」等が公表されました。改正の概要と実務におけるポイントを教えてください。 〔ポイント〕 (1) 今般の「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(以下「消費税経理通達」といいます)等の一部改正は、令和6年度税制改正大綱(令和5年12月22日閣議決定)を受けて行われたものです。消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)の改訂版も併せて公表されました。 (2) 税抜経理方式で経理した場合、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れは税務上、仮払消費税等の額はないことになります(28年改正法附則52、53によるいわゆる8割・5割控除の経過措置期間中は仕入税額相当額の8割、5割を仮払消費税等の額とします)が、消費税経理通達の改正で、簡易課税又はいわゆる2割特例(28年改正法附則51の2①)の適用を受ける事業者(以下「簡易課税制度適用者等」といいます)は、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れについても支払対価の額の110分の10(軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には108分の8)を仮払消費税等の額とする処理が認められることを明確にしています。 (3) 消費税経理通達関係Q&Aでは簡易課税制度適用者等が免税事業者から取得した建物について支払対価の額の110分の10を仮払消費税等の額として経理した場合の法人税法における損金経理に言及しており、注目すべきポイントと考えられます。 *  *  * 【A】 (1) 改正の背景 ① 税抜経理方式の税務上の取扱い 適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れについては、税務上、次の仕訳例のように取り扱う必要があります。 (例) 適格請求書発行事業者以外の者に税込み110,000円(標準税率適用)の材料代を支払った場合の仕訳(8割控除の経過措置あり) ② 簡易課税制度適用者等の事務処理負担 簡易課税制度適用者等は仕入税額控除額の計算にあたり、適格請求書等の交付を受けたか否かを区分する必要がありません。しかしながら、税抜経理方式を適用する場合には、上記①のような処理をするために適格請求書等の確認が必要となり、事務処理負担が増加してしまいます。そのため、令和6年度税制改正大綱で経理処理の見直しに言及していました。 なお、令和6年度税制改正大綱での見直しについては下記拙稿もご参照ください。   (2) 改正の概要 ① 簡易課税制度適用者等の事務処理に関する負担軽減措置 簡易課税制度適用者等で税抜経理方式により経理している事業者は、継続適用を条件として、すべての課税仕入れについて課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とする経理処理も認められるとされました(消費税経理通達1の2、消費税経理通達関係Q&A問1-2)。 ② 税込経理方式への変更も可 上記の負担軽減措置を講じてもなお税抜経理方式には一定の事務処理負担が発生すると考えられることから、簡易課税制度適用者等がインボイス制度導入を契機として税込経理方式に変更することは法人税法上、特に問題とならないとしています(消費税経理通達関係Q&A問1-2)。 ③ 8割控除・5割控除の経過措置の適用を受ける課税仕入れの経理処理に関し、すべての事業者に対する負担軽減措置 8割控除、5割控除の経過措置は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に2段階に分けて切り替わります。しかしながら、段階的にシステム改修を行うことの事務負担に配慮する観点から、経過措置期間終了後の原則となる取扱いを先取りして、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れにつき仮払消費税等の額と取引の対価の額を区分しないで経理(下記仕訳例)したときは、仮払消費税等の額はないものとして法人税の所得金額の計算を行うことも認められるとされました(経過的取扱い(3))。 (例) 適格請求書発行事業者以外の者に税込み110,000円(標準税率適用)の材料代を支払った場合の仕訳(経過的取扱い(3)による場合) 実務上の注意点として、8割控除・5割控除の経過措置を受けるためには帳簿の記載が必要(インボイスQ&A問113)ですから、課税対象外取引と同様に取り扱うことはできません。また、申告書に経過措置の対象額を計上するため、集計できるようにしておく必要があります。   (3) 法人税での取扱い 法人税の課税所得金額の計算上、次のような影響があります。 ① 簡易課税制度適用者等と原則課税の適用を受ける事業者の違い 11,000,000円の建物を取得し(消費税経理通達関係Q&A問3)、次のような仕訳をした場合、簡易課税制度適用者等は税務上、この仕訳も認められます。 この仕訳が認められるか否かの大きな違いは取得価額の扱いです。原則課税適用者が上記の仕訳をした場合には法人税法上、別表調整が必要となります。 課税売上割合が80%未満となり、控除対象外消費税額等の損金算入限度額の計算が必要な場合も仮払消費税等の額として経理した金額に基づいて損金算入限度額を計算(法令139の4③、④)することができます(消費税経理通達関係Q&A問5。問5は上記と異なる金額で解説しています)。 ② 8割・5割控除の経過措置期間中に免税事業者からの課税仕入れにつき仮払消費税等の額を区分しない場合 原則課税適用者か簡易課税制度適用者等かに関係なく、経過措置の適用期間であっても仮払消費税等の額を区分せず上記のような仕訳を行い、13,200,000円を取得価額として減価償却費を計算することも認められます。この場合、別表調整は不要です(消費税経理通達関係Q&A問10)   (了)

#No. 551(掲載号)
#石川 幸恵
2024/01/11

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第38回】「債務免除を受けた場合のみなし贈与の計算上の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第38回】 「債務免除を受けた場合のみなし贈与の計算上の留意点」   税理士 柴田 健次   Q A株式会社の取締役である甲はA社に対して50,000千円の貸付金がありますが、令和5年10月5日に全額債権放棄を行いました。A社の株主は甲の甥である乙のみで発行済株式数200株を所有しています。債務免除を受けたことによりA社は債務免除益として法人税等が課税され、A社株主である乙には、甲から乙に贈与があったものとして贈与税が課税されることになると思いますが、実際の贈与税の計算はどのように行うのでしょうか。 A社の会社の規模区分は中会社の大に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。また、A社は9月決算であり、9月末時点と債務免除を受けた10月5日時点において甲のA社に対する貸付金に変動はないものとします。純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 債務免除前の令和5年10月5日時点における取引相場のない株式(出資)の評価明細書の第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 債務免除前におけるA社株式の1株当たりの価額及び乙が所有している株式の価額は、下記の通りとなります。 A 乙は甲から10,098,000円(※)の贈与を受けたものとして、2,349,200円の贈与税が課税されることになります。 (※) 贈与税の課税価格の計算  ◆  ◆  ◆ ① 債権放棄を行った場合の課税関係 (1) 法人の課税関係 債権放棄を行ったことにより法人は債務免除を受けたことになりますので、債権放棄を受けた金額が債務免除益として益金に算入されることになります(法法22②)。本問の場合には、債務免除益50,000千円に対して法人税等が課税されることになります。 (2) 法人株主の課税関係 法人株主は、法人が債務免除を受けたことにより株式の価値が増加しますので、その価値増加部分について債権放棄をした者からその株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。本問の場合には、甲から乙に対して贈与がされたものとされ、贈与税が課税されます。   ② 贈与税の計算 乙は直接甲から利益を受けたわけではなく、A社が債務免除を受けたことに伴い乙が所有していた株式の価値が増加したに過ぎません。したがって、贈与を受けた金額は、債務免除益50,000千円ではなく、債務免除後の乙所有のA社株式の相続税評価額と債務免除前の乙所有のA社株式の相続税評価額の差額となります。あくまでも贈与税課税の計算となりますので、相続税評価額を基に計算することになります。なお、課税時期は債務の免除があった時となります。 債務免除後のA社株式の相続税評価額の計算は、下記の点に留意する必要があります。 実際の債務免除後における取引相場のない株式(出資)の評価明細書第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。   ☆実務上のポイント☆ 債権放棄を行う場合には、法人税等の影響及び株主の贈与税の影響を考慮して債権放棄の金額を決定する必要があります。なお、債務免除後において株式の価額が0円である場合には、贈与税の課税問題は発生しませんので、法人税等の影響のみを考えることになります。 (了)

#No. 551(掲載号)
#柴田 健次
2024/01/11

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第16回】「制度濫用論への対応」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第16回】 「制度濫用論への対応」   公認会計士 佐藤 信祐     18 制度濫用論への対応 (1) 概要 【第15回】で解説したように、ヤフー事件に係る調査官解説では、以下の点を考慮しながら、包括的租税回避防止規定の適用を判断すべきであるとされている。 そして、上記④については、事業目的があればよいというわけではなく、事業目的が税負担の減少目的に比べて同等以上である必要があるとされている。さらに、上記③についても、行為計算の不自然さ、不合理さの程度が問題となるのであり、わずかな不自然さ、不合理さを理由に、包括的租税回避防止規定を適用することはできない。 例えば、P社の100%子会社であるA社が10か所のホテルを保有している場合において、当該A社をM&Aの対象にしようとしたところ、3つのホテルのみが欲しいという話になったときに、通常の感覚であれば、当該3つのホテルを事業譲渡又は分割により買収会社に移転するようにも思われる。しかしながら、P社の中では、A社を譲渡するという話ですでに動いてしまっているとすると、7つのホテルをP社又はそのグループ会社に移転したうえで、A社株式を譲渡するという話になってしまうことは、不自然であるとも、事業目的がないともいい難い。その結果、P社においてA社株式譲渡損が認識できたり、A社が保有する繰越欠損金を買収会社又はそのグループ会社に適格合併で引き継いだりと、税負担が減少するようなことがあっても、それだけの理由で租税回避とすることはできず、補強的な根拠が必要になってくる。 (2) 税負担減少の意図 税務調査において、税負担減少の意図を探るために、メールの履歴を確認したり、関係者に質問をしたりすることが増えている。【第1回】で解説したように、ヤフー事件の調査官解説では、「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであること(租税回避の意図)」とされていることから、税負担が減少することを知っていたとか、事業目的が主目的であったとはいえ税負担減少をも意図していたという程度では、税負担減少の意図があったとまではいえない。 しかしながら、税務調査で示された「論点整理表」において、税負担減少の意図があったことの証拠として、税理士に相談をしながらストラクチャーを検討していたとか、社長や経理担当者が頻繁に打ち合わせに参加していたといったことまで記載されていたという話を聞いたことがある。また、税務訴訟における国側の主張を見てみても、納税者が税負担を減少させるために組織再編成を行ったという心証を裁判官に与えるための訴訟戦術としか思えない主張が少なくなく、租税回避かどうかという本質的な議論からは外れているように思われる。 こうなってくると、税負担減少の意図があったことを税務調査及び税務訴訟において否定することは困難ないしは不可能であるといわざるを得ない。そうなると、事業目的及び経済合理性があったということを主張することで、租税回避目的ではないと主張すべきであるようにも思われるが、後述するように、水掛け論に陥りやすいという問題がある。 (3) 事業目的と経済合理性 前述のように、事業目的があればよいというわけではなく、税負担の減少目的といずれが上位にあるのかが重要になる。そして、不自然かどうか、不合理であるかどうかは、その程度が問題となる。 例えば、PGM事件に係る国税不服審判所では、事業目的と税負担の減少目的のいずれが上位であるかを検討しているように思われる。そのため、本来であれば、納税者の立場としても、税務調査において主張しやすいはずである。しかし、事業目的が全くない組織再編成というのは珍しいことから、水掛け論に陥りやすい要素があるという問題がある。 そして、PGM事件に係る国税不服審判所において、原処分庁が「適格合併において通常想定されている事業の移転・継続という実態を備えておらず、適格合併において通常想定されていない手順や方法に基づくもので、かつ、実態とはかい離した形式を作出するものであり、不自然なものといえる。」という主張をしているように、制度趣旨に反するかどうかという点と経済合理性があるかどうかという点が混在しているようにも思える。この点については、制度濫用論に基づくと、制度趣旨を拠り所にしたうえで、経済合理性の判断をすべきであるため、この主張そのものに問題はない。しかしながら、言うまでもないことであるが、事業上、経済合理性のある行為を行った結果として制度趣旨に反する形で法人税の負担が減少してしまうことは十分に考えられるが、これは制度に欠陥があっただけの話であり、それを理由に租税回避と認定すべきではない。すなわち、事業上の経済合理性が十分に認められる限りにおいては、①行為・計算の不自然性が認められないと判断するか、②制度趣旨に反する結果となったことについての合理的な理由となる事業目的が十分に存在すると判断することにより、包括的租税回避防止規定の射程から除外すべきであると考えられる。 さらに、原処分庁は、平成15年度税制改正で正面から認めたはずの二段階組織再編成を不自然であると主張しているのだから、平成15年度税制改正が想定していた組織再編成の内容について主張する必要があるにもかかわらず、そのような主張がなされていない。すなわち、不自然さ、不合理さについての原処分庁の主張は、やや不十分であるという印象を受ける。 いずれにしても、事業目的と税負担の減少目的のいずれが上位にあるのか、看過できないほどの不自然・不合理な取引が行われているのかという点については、明確な答えが出せるものではないという問題がある。もちろん、税務調査において、これらを主張できるようにしておくことは有用であるが、課税当局との議論が嚙み合わないリスクを常に想定しておく必要があると考えられる。 (4) 制度趣旨の理解 そうなると、制度趣旨に反しない取引であることを主張することで、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクを軽減すべきであると考えられる。例えば、疑似DESを行った場合には、DESを行った場合と異なり債務消滅益課税が発生しないとされている。それでは、これが不自然、不合理な取引なのかといえば、一般的に行われている手法であることから、不自然、不合理とすべきではないが、金銭の払込みを行わないDESのほうが簡便な手法であるとして、包括的租税回避防止規定(法法132の2)や同族会社等の行為又は計算の否認(法法132)の適用を検討する税務調査官がいるのかもしれない。 この点については、新株予約権を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないときは、その満たない部分の金額に相当する金額は、発行法人の課税所得の計算上、損金の額に算入されないこととされており、新株予約権の発行の時の価額を超えるときは、益金の額に算入されないこととされている(法法54の2⑤)。法人税法上、発行法人において、新株予約権を負債として取り扱うことから、あえてこのような規定が設けられているが、この規定が設けられた趣旨として、「すなわち、新株予約権を利用した取引は従前より資本等取引に類似した取引と考えられていましたが、発行の場面においては資本等取引と同様に発行法人側に損金及び益金が生じないことを処理面から明確にしたものです。なお、この規定は、新株予約権者の取扱いに何ら影響を与えるものではありません。」(※57)と解説されている。 (※57) 『平成18年版改正税法のすべて』349頁(大蔵財務協会、平成18年)。 すなわち、資本等取引の類似取引である新株予約権の発行において、時価と異なる価額であったとしても、損金の額及び益金の額に算入しないと考えられているのであるから、株式の発行においては、時価を超える金銭の払込みであっても資本等取引と考えることにより、受贈益を課すべきではないと主張することができる。他の取引との組み合わせにより制度趣旨に反する取引を行ったという証拠がない限り、包括的租税回避防止規定や同族会社等の行為又は計算の否認の適用は困難であると考えられる。 このように、事業目的や経済合理性を検討するまでもなく、制度趣旨に合致していれば、包括的租税回避防止規定と同族会社等の行為又は計算の否認の適用は困難であるため、水掛け論に陥りやすい事業目的や経済合理性の議論よりも税務調査において主張しやすいように思われる。ただし、組織再編税制に係る制度趣旨の全部が明確に示されているわけでもないという問題もあるため、そのような場合には、事業目的が税負担の減少目的よりも上位にあること、経済合理性のある取引であることをそれぞれ主張できるようにしておくことで対応せざるを得ない。 (5) 小括 このように、税務調査では、事業目的や経済合理性を主張することも重要であるが、制度趣旨に反しないことを主張することも重要である。ただし、制度趣旨については、必ずしも明らかではないという問題があり、例えば、TPR事件では完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転が必要だという判示がされ、そのような趣旨は明確に示されていなかったとして多くの批判があった。さらに、【第15回】で解説したように、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日判例集未登載では、「例えば、適格合併が企業グループ内の法人の有する未処理欠損金額の企業グループ内の他の法人への付替えと同視できるものであるなど適格合併の場合に未処理欠損金額の引継ぎを認めることとした前提を欠くような場合にまで、未処理欠損金額の引継ぎを認めることを想定した規定ではない」と判示したことからも、TPR事件で示された制度趣旨に誤りがあった可能性があり、そうなると、税務調査において、どのように制度趣旨を主張すればよいのかという点が問題になる。 さらに、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日では、「企業グループ内の他の法人への付替え」を認める趣旨ではないと判示したという問題がある。もちろん、他の法人への繰越欠損金の付替えを認めるべきではないことから、この判示を否定するつもりはないが、「○○を認める趣旨ではない」という主張は、フィーリングによる制度趣旨の創出に繋がりかねないことから、あまり望ましいものではないと思われる。 例えば、【第6回】で解説したように、適格分社型分割により二重に損失を計上することが可能になっているという点を利用した租税回避が想定され得るが、そもそも完全支配関係継続要件は二重の損失計上を防ぐための規定ではないことから、移転資産に対する支配が継続しているにもかかわらず、「二重の損失計上を認める趣旨ではない」という主張により包括的租税回避防止規定の適用を検討すべきではない。仮にそのような主張が認められたとしても、適格分社型分割の時点では二重に含み損を創出しただけであり、分割承継法人株式に係る含み損を実現させる意図はあったものの、分割承継法人に移転した資産に係る含み損を実現させる意図がなく、数年後の後発事象により分割承継法人に移転した資産に係る含み損も実現してしまっていた場合には、適格分社型分割の時点では、二重の損失を利用する意図はなかったのだから、それを根拠として包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 このように、必ずしも制度趣旨が明らかではなく、課税当局との間で見解の相違が生じかねない場合には、補強的に事業目的や経済合理性を明確にしておく必要があると考えられる。 (了)

#No. 551(掲載号)
#佐藤 信祐
2024/01/11

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第150回】「2023年における調査委員会設置状況」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第150回】 「2023年における調査委員会設置状況」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2023年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2023年において、調査委員会の設置を公表した会社は71社であり、2021年の61社、2022年の57社を大きく上回っている。71社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社が以下のとおり6社あったため、設置が公表された調査委員会の数は78となる。 これらの6社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 設置が公表された78の調査委員会のうち14の委員会は、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち5つの調査委員会については、設置そのものが12月であり、まだ調査が終わっていないと考えられる。なお、2022年については、本連載【第136回】執筆時点で15の委員会が報告書を公表していなかったが、2023年においてそのうち8委員会が報告書を公表している。   【市場別分類】 市場別分類では、東証プライム上場会社が41社と全体の約58%を占めた(複数市場に上場している会社は東証の市場区分に含めている)。上場会社数は2023年12月31日現在。 東京証券取引所以外では、TOKYO PRO Marketに上場している株式会社エージェント及び札幌証券取引所に上場している日糧製パン株式会社、非上場のダイハツ工業株式会社が調査委員会の設置と調査報告書を公表している。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた会社が47社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が24社となり、ここ数年増加していた中堅以下の監査法人のクライアントの比率が、2023年では大きく下がっている。なお、12月1日付で、PwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人とが合併して、PwC Japan有限責任監査法人として業務を開始しているため、PwC京都監査法人が会計監査を担当していた4社は、大手4大監査法人に含めている。 大手4大監査法人のなかでは、EY新日本有限責任監査法人のクライアントで調査委員会の設置を公表した会社が19社と最も多く、有限責任監査法人トーマツのクライアントが10社、有限責任あずさ監査法人とPwC Japan有限責任監査法人のクライアントがそれぞれ9社となっている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、太陽有限責任監査法人が4社で最も多く、仰星監査法人、BDO三優監査法人及び霞友有限責任監査法人が各2社となっている。   【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は42あり、過半数を上回っている。 また、2018年から続いていた、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする傾向については、2023年も7社が「非公表」としており、このうち4社は、調査報告書も公表していない。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された50件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 上記表では、「会計不正」を対象とした調査委員会の数は50となっているが、1つの事案で複数の委員会を設置した重複分を控除した結果、「会計不正」と分類できる内容で設置された調査委員会は49となる(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 551(掲載号)
#米澤 勝
2024/01/11
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