2023年12月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.550を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第33回】 「重加算税に関する隠蔽・仮装行為主体問題と賦課判断の主観化の意義」 -重加算税判例における納税者以外の者との「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、重加算税の賦課要件(税通68条1項)のうち「隠蔽・仮装」要件の解釈適用をいわゆるつまみ申告に関して検討したが、今回は、隠蔽・仮装の行為主体要件としての「納税者」要件の解釈適用を、納税者本人以外の者が隠蔽・仮装を行った場合に関して、検討することにする。 この問題について筆者は以前「隠ぺい・仮装の行為主体問題」として検討したことがあるが(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)940頁[初出・2017年]。「隠ぺい」は当時の法文によった)、今回はその検討を基本的にベースにしながらその後考察したところも踏まえて、納税者以外の者が隠蔽・仮装を行った場合における納税者本人に対する重加算税賦課の問題を検討することにする。 Ⅱ 判例による「同視要件」の形成 隠蔽・仮装の行為主体問題に関するリーディング・ケースとして大阪地判昭和36年8月10日行集12巻8号1608頁(以下「昭和36年大阪地判」という)がしばしば引用される。この判決は次のとおり判示した(下線・【】の記載筆者)。 隠蔽・仮装の行為主体問題については、その後、下級審で数多くの判断が示され学説でも様々な議論がされたが(差し当たり前掲拙著944-947頁参照)、判例の立場は、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁及び最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁(両判決を以下では「平成18年最判」という)の次の判示(両判決の判示は次の限りで同じである。下線・【】の記載筆者)で確立された。 昭和36年大阪地判と平成18年最判は、判断枠組みの定立に当たって、基本的には同じ論理構成を採用したものと解される。その論理構成は次のようなものである。すなわち、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されないという解釈を重加算税制度の趣旨・目的(①)から導き出すという目的論的解釈を基本に据えながら、その導出過程に弊害防止論の観点(②)を織り込むことによって、納税者以外の者の行為を納税者本人の行為と「同視」することができるという考え方(以下では「同視思考」という)を構想し、同視思考によって上記目的論的解釈の結果を正当化する、というような論理構成である。 この論理構成にいう「弊害防止論」は、隠蔽・仮装の行為主体は納税者本人に限定されるという解釈を採用した場合に生ずる弊害を防止しようとする考え方であるが、その意味内容は、昭和36年大阪地判と平成18年最判とで異なる。 昭和36年大阪地判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、納税申告等の「実状」に関する認識に基づく制度機能不全防止論である。制度機能不全防止論は、同視思考の動機やそれに基づく立法論の論拠とはなり得るとしても、解釈論において同視思考を規範化しそれに基づく要件(同視要件)を正当化する根拠としては、不十分かつ薄弱であるといわざるを得ない。 しかも昭和36年大阪地判が、納税申告に係る他者の隠蔽・仮装の事実について、「[納税者本人が]本件確定申告に当り右事実を知つていたことを肯定するに足る証拠はない」と認定しつつ、その事実に関する納税者本人の認識を不要とする立場(以下「認識不要説」という)を前提にして示した判断であったこと(次のⅢでみるように、この点でも平成18年最判と異なる)とも相俟って、同判決の同視思考は、隠蔽・仮装行為主体の範囲を、したがって重加算税賦課の範囲を、無制限に拡大するいわば「無差別爆撃的な『同視』」(須貝脩一「判批」シュトイエル6号(1962年)45頁、48頁)をもたらすものとして、厳しく批判されたのである。 にもかかわらず、その後も、認識不要説が「多数説」(小貫芳信「連載課税訴訟研究 附帯税をめぐる訴訟(1)~重加算税の賦課要件を中心として」税理38巻14号(1995年)198頁、199頁)であった。ただ、学説判例においては、同視要件の正当化をめぐって様々な議論がされてきた。その議論の詳細にはここでは立ち入らないが、そこでの理論構成は、㋐「関係性理論」(納税者本人と隠蔽・仮装行為者との一定の事実上の関係又は法的な関係を根拠にして同視要件を正当化する理論構成)、㋑「帰責性理論」(関係性理論を前提にしながら、納税者本人の有責性によって同視要件に対して更なる根拠及び制限を付与・付加しようとする理論構成)及び㋒「個別具体的判断理論」(関係性理論や帰責性理論と同じレベルでの「理論構成」とはいえないが、それらの理論構成を採用する種々の見解で考慮されている要素も含め「同視することを正当化するに足りる個別具体的な特殊事情」(田中治「判批」シュトイエル365号(1992年)1頁、11頁)の個別具体的検討が必要であるとする「理論構成」)という3つに整理することができる(詳しくは前掲拙著945-946頁参照)。 Ⅲ 「同視思考」の正当化と「同視要件」の厳格化 これに対して、平成18年最判における弊害防止論は、前掲判示中の下線部(②)で説示されているように、昭和36年大阪地判における制度機能不全防止論とは異なり、制度趣旨・目的没却防止論であり、その意味で、重加算税制度の趣旨・目的を考慮する目的論的解釈の枠内に収まりやすく、同視要件を正当化する根拠として説得力をもつものである。換言すれば、平成18年最判は昭和36年大阪地判に比べて目的論的解釈を「純化」したものといってもよかろう。 しかも、平成18年最判は、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題について初めて判断を示した最判平成17年1月17日民集59巻1号28頁(以下「平成17年最判」という)を踏まえて、従来の裁判例における認識不要説の立場ではなく、認識必要説の立場に立つことによって、昭和36年大阪地判に対する前記の「無差別爆撃的な『同視』」というような厳しい批判を免れようとしたものと解される。 平成17年最判は、次のとおり判示し(下線筆者)、「意思の連絡」論を説いた。 この判示にいう「意思の連絡」は、税理士の隠蔽・仮装による税負担減少の企図に関する納税者本人の「了知」及び「容認」と当該税理士による納税者本人の「容認」の「認識」という双方の主観的要素によって、構成されるものと解される。平成17年最判は「意思の連絡」を、これらの主観的要素によって基礎づけ、もって「重加算税賦課の制限要素」(神山弘行「判批」法学協会雑誌125巻5号(2008年)1133頁、1153頁)としたものと解される。 もっとも、平成17年最判は、「国税通則法68条1項の解釈上、納税者以外の第三者による隠ぺい・仮装行為について、いかなる場合に納税者本人に対し重加算税を賦課し得るのかという一般論に立ち入ることなく、・・・・・・、同項の適用の前提となる事実についての原審の認定に経験則に違反する違法があるとして、原判決を破棄したものである。」(増田稔「判解」最判解民事篇(平成17年度(上))24頁、35頁。下線筆者)と解説されていることからすると、「意思の連絡」論は、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」ではなく、「重加算税の賦課において納税者本人の主観的側面を重視するという最高裁の態度」(神山・前掲「判批」1153頁)の現れと解すべきであろう。その態度は、次にみるように、平成18年最判において、より明確な形で現れることになる。 平成18年最判は、納税者以外の者が税理士である場合について、次のとおり判示し(下線・【】内の記載筆者)、隠蔽・仮装の行為主体問題に関する「一般論」(川神裕「判解」最判解(平成18年度(上))579頁、600頁)を述べた。 この判示は同視要件をⓐ~Ⓒの要件として個別具体化したものと解されるが(Ⓒは隠蔽・仮装の行為主体問題固有の要件ではないが。神山・前掲「判批」1148-1149頁も参照)、そのうちⓐで認識必要説の立場を明確にし、かつ、ⓑで(関係性理論を前提とする)帰責性理論に基づき納税者本人の防止措置の期待可能性を要件とする旨を説示することによって、平成17年最判で示された最高裁の態度を「一般論」としてより明確にし、もって同視要件を厳格化したものと解される。 もっとも、最高裁が隠蔽・仮装の行為主体問題に関して納税者本人の主観的要素ないし主観的側面を重視する態度を示すに当たって、何ら制約なしにそのような態度を示したものとは解されない。このことは、平成18年最判が前掲判示の中で税理士の選任・監督責任の問題をⓑの要件と明確に区別していることからも明らかである。また、そもそも、認識必要説については次のような「疑問」(小貫・前掲論文199頁)が指摘されてきたところであり、それらが一定の合理性をもつと考えられることから、最高裁もそれらを無視したものとは解されないのである。 Ⅳ おわりに 今回は、重加算税の賦課要件に関する隠蔽・仮装の行為主体問題について、判例による同視要件の形成を検討した。同視要件は、当初は、重加算税制度に関する目的論的解釈と制度機能不全防止論によって、認識不要説を前提にして形成されたが、後に最高裁において、目的論的解釈が「純化」されるとともに、認識必要説の立場が採用されることによって、厳格化された。 同視要件のこのような形成過程は、判例における重加算税賦課判断の「主観化」の傾向と無関係ではないように思われる。ただし、重加算税賦課判断の「主観化」は、前回みたように、いわゆるつまみ申告の場合には厳しい批判を受けたところであるが、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては、むしろ認識不要説に基づく重加算税賦課の範囲の拡大を制限する考え方として肯定的に評価されているように思われる。 重加算税は刑罰ではないものの、過少申告加算税に比して「主観的責任の追及という意味での制裁的な要素」(平成18年最判のうち4月20日判決)が強い以上、重加算税賦課判断の「主観化」は、確かに、隠蔽・仮装の行為主体問題に関しては一定の合理性をもつ考え方であろうが、ただ、認識必要説について前記のような「疑問」がある以上、厳格かつ慎重に検討・適用していくべきであろう。 (了)
令和5年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「令和5年分の申告から適用される改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 令和5年分の確定申告の受付は、令和6年2月16日(金)から3月15日(金)まで行われる。還付申告は、令和6年2月15日(木)以前でも行うことができる。 なお、e-Taxを利用する場合は、令和6年1月4日(木)から3月15日(金)の間であれば、メンテナンス時間(3月11日を除く毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き、24時間(※1)申告書を送信することが可能である。 (※1) 1月4日(木)は8時30分から、3月15日(金)は24時まで 今回から3回シリーズで、令和5年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回は、令和5年分の確定申告から変更となる次の事項を取り上げる。 なお、確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。 (注) 上記の記事については、掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。 【1】 控除対象となる国外居住親族の範囲の見直し 令和2年度税制改正により、令和5年分の所得税から扶養控除の対象となる国外居住親族の範囲の見直しが行われた。 見直しの詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 扶養親族が国外居住親族である場合には、確定申告書第二表「配偶者や親族に関する事項」の「国外居住」欄の「 」に、国外居住親族の区分に応じて該当する数字(下記《表1》参照)を記入する。 なお、扶養親族が国外居住親族に該当し、年末調整において扶養控除又は障害者控除の適用を受けている場合には、「年調」に〇をつける。 《表1》 (注1) 「5」に該当する場合は、扶養控除の適用外である。 (注2) ①及び②の両方、②及び③の両方又は①~③のすべてに該当する場合は「3」を記入する。 (注3) ②に該当せず、①及び③の両方に該当する場合には、添付又は提示する書類が「留学ビザ等書類」であれば「2」を、「38万円送金書類」であれば「4」を記入する。 国外居住親族について確定申告で扶養控除の適用を受けるには、「親族関係書類」、「送金関係書類」(※2)を添付又は提示する必要がある(所法120③三)。 (※2) 「 」に「2」を記入した場合には「留学ビザ等書類」、「4」を記入した場合には「38万円送金書類」を添付又は提示する。外国語で作成されている書類の場合には、その翻訳文も必要である。 ただし、給与所得者や公的年金等の受給者が、源泉徴収又は年末調整の際に源泉徴収義務者に対して提出又は提示した書類については、確定申告書に添付又は提示する必要はない。 【2】 申告の利便性の向上 令和5年分の確定申告から、国税庁の確定申告書等作成コーナーにおいて、以下のサービスが開始される(令和6年1月上旬予定)。 ◎マイナポータル連携の範囲の拡大 令和5年分の確定申告からマイナポータル連携(※3)の対象に、「給与所得の源泉徴収票」、「国民年金基金掛金の控除証明書」、「小規模企業共済等掛金控除証明書(小規模企業共済掛金と個人型確定拠出年金掛金(iDeCo)に限定)」が加わる。 (※3) マイナポータル連携:マイナポータル経由で控除証明書等の必要書類のデータを一括取得し、各種申告書の該当項目へ自動入力する機能 ただし、「給与所得の源泉徴収票」については、給与等の支払者(勤務先)が税務署にe-Taxで源泉徴収票(マイナンバー、氏名(カナを含む)、住所、生年月日等の情報が漏れなく正しく入力されているもの)を提出している(※4)必要がある。 また、控除証明書については、証明書の発行主体がマイナポータル連携に対応している(※5)ことが前提となる。 (※4) 「給与所得の源泉徴収票」は、一定の提出基準を満たしたもののみ税務署に提出することとされている。なお、提出基準に該当しないものをe-Taxで税務署に提出している場合には、それもマイナポータル連携の対象となる。 (※5) マイナポータル連携に対応している発行主体は、国税庁の「マイナポータル連携可能な控除証明書等発行主体一覧」で確認することができる。 令和5年分の確定申告において、マイナポータル連携の対象となる控除証明書等をまとめると次のとおりとなる。 (注) が令和5年分の確定申告から対象となるもの。 なお、マイナポータル連携を行うには、事前の準備が必要となる。事前の準備については、下記の国税庁ホームページを参考にされたい。 【3】 その他 その他、令和5年から適用される改正事項として次のようなものがある。 (1) 特定非常災害の指定を受けた災害により生じた損失に係る純損失の繰越控除及び雑損失の繰越控除の特例の創設 (2) 給与所得者の特定支出控除の特例の改正(キャリアコンサルタントによる証明制度) (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第48回】 (最終回) 「家屋の取壊し前の売買契約日を収入時期として申告した場合」 -家屋の取壊し時期と譲渡所得の収入すべき時期との関係- (令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡) 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年2月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、買主側の希望によって敷地のみを売買対象として、家屋は売主側の責任で取り壊し、譲渡することとなりました。 売買契約を締結したのは昨年の10月で、本年の1月にその家屋を取り壊し、同年の2月にその敷地を引き渡しました。 相続の開始の直前までは父親がその家屋に1人暮らしをし、取壊し時までは空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 譲渡所得に係る申告に当たっては、売買契約日(契約日基準)である昨年分の収入として申告しようと考えています。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 令和6年1月1日以後に行う譲渡であれば、売買契約の効力の発生の日を譲渡の日(契約日基準)として申告する場合であっても、その譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に被相続人居住用家屋の取壊し等が行われていることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「令和5年度税制改正」前においては、「相続空き家の特例」の対象となる被相続人居住用家屋の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後に、被相続人居住用家屋の敷地を譲渡した場合には、この特例を受けることができることとされ、その譲渡の時までにその家屋が取り壊されていることが要件の1つとされていました。 この譲渡の時とは、原則として、資産の引渡しがあった日(引渡日基準)によりますが、売買契約の効力発生の日を譲渡の日(契約日基準)として申告しても差し支えないこととされています(所基通36-12)。 したがって、当該改正前は、本事例の場合のように「引渡日基準」によらず「契約日基準」により売買契約締結日の昨年10月を譲渡の時として申告している場合は、その譲渡の時まで家屋を取り壊していないことから、この特例を受けることができませんでした(【第34回】を参照)。 しかし、その被相続人居住用家屋を相続した相続人が高齢者である場合やその被相続人居住用家屋の所在地から遠隔地に居住している場合等においては、その譲渡の時までに上記の要件を満たす工事を行うことが負担となり、結果としてその被相続人居住用家屋が空き家のまま放置されるケースが考えられます。そのようなケースにおける負担を解消し、相続により取得した利用目的のない被相続人居住用家屋の譲渡を促すために改正が行われ、令和6年(2024年)1月1日からの譲渡については、その譲渡の時からその譲渡の属する年の翌年2月15日までの間に、その家屋が耐震基準に適合することとなった場合、又は、全部を取壊し若しくは除却・滅失をした場合は、特例の適用が受けられるようになりました。 本事例の場合は、その家屋の取壊し後の引渡し日(引渡日基準)によらず、取壊し前の売買契約日の昨年10月(契約日基準)を譲渡の時として申告しているものの、その譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間にその家屋の取壊しが行われていることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることができます。 (連載了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第33回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 5 マイニング所得と雑所得 マイニングに係る所得が、事業所得ではなく、雑所得に該当するとされた国税不服審判所令和4年1月7日裁決(裁決事例集未登載)について、国税不服審判所ホームページの裁決要旨を参考にしつつ、判断内容を確認する。 〈裁決要旨〉 (1) マイニングとは 暗号資産の基盤技術であるブロックチェーンのように、中央に台帳を管理する者がいない分散型台帳の場合、ネットワークの参加者が、新規のトランザクション(取引)について、不正や二重払いがないかなど、その正当性を検証・承認して、台帳にデータを追加する作業を行います。このような作業をマイニングという。 マイニングを行うマイナーは、マイニングを行う機械(マイニングマシン)を使ってマイニングを行い、報酬として、新規に発行された暗号資産を得たり、トランザクションを行ったユーザーから取引手数料を得たりする。 単独で行うソロマイニング、複数のマイナーが協力して行うプールマイニング(マイニングプール)などがある。大規模なマイニング施設はマイニングファームと呼ばれる。 暗号資産の中には、マイニング報酬が半減する時期(半減期)を設定し、インフレや価格下落の対策を行っているものがある。 (2) 事案の概要 投資コンサルタント会社の役員である請求人(納税者)が、個人として行っているアフィリエイト、リース、レンタル及びマイニングに係る各所得を事業所得として確定申告をした。 請求人は、原処分庁(課税庁)の調査を受け、その結果について、リース、レンタル及びマイニングに係る各所得については雑所得となる旨の説明を受けた。 その直後に、請求人は修正申告を行った。その内容は、上記原処分庁の説明の内容と異なり、アフィリエイトに係る所得のみを雑所得とし、アフィリエイトに係る接待交際費の一部を必要経費不算入とするものだった。 これに対して、原処分庁は、次の処分を行った。 請求人は、上記①の処分の一部の取消し、上記②の処分の全部の取消しを求めて、国税不服審判所に審査請求を行った。 この事案の争点は複数あるが、以下、マイニングに関するものだけを取り上げる。 (3) 基礎事実(請求人による仮想通貨のマイニングについて) 請求人は、経済産業大臣から、マイニングマシンを中小企業等経営強化法13条3項に規定する経営力向上設備等とする投資計画が同法施行規則8条1項2号及び同条2項2号の要件を満たすことの確認を受け、同月14日付で、当該マイニングマシンを経営力向上設備等とする経営力向上計画について、同法13条1項の規定に基づく認定を受けた。 請求人は、平成30年12月27日、N社(マイニングマシンの販売元の会社)からマイニングマシン100台を合計で税込38,880,000円(1台当たり税込388,800円)で取得した(以下、請求人が取得したマイニングマシンを併せて「本件マイニングマシン」という)。そして、同日、仮想通貨のマイニング業務を同社へ委託する契約を締結し、これにより収益を得るようになった(以下「本件マイニング」という)。 (4) 当事者の主張と争点 (※) その特定経営力向上設備等の取得価額から普通償却額を控除した金額に相当する金額の特別償却(即時償却)と取得価額の10%相当額の税額控除(一定の限度額あり)との選択適用ができる税制措置。ただし、令和5年度税制改正により、特定経営力向上設備等の対象からコインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く)の用に供する設備等でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものが除外されている(中小企業等経営強化法施行規則16②)。 (5) 審判所の判断 ア 審判所の判断枠組み 国税不服審判所令和4年1月7日裁決は、「ある経済的行為が『対価を得て継続的に行なう事業』によるものといえる場合、当該行為から生ずる所得は事業所得に該当する(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)」とした上で、事業所得と雑所得を区別する判断基準について、次のように述べている。 また、本裁決は、このような業務から生ずる所得であっても事業所得に該当せず雑所得に該当する場合がありうるところ、当該所得が事業所得と雑所得のいずれに該当するかの判断においては、所得税法が、租税負担の公平を図るため、所得を上記のように分類し、その種類に応じた課税を定めている趣旨、目的に照らし、次の事情を総合考慮して、当該業務が事業というべきものか否かを客観的、実質的に判断すべきであるとしている。 イ 結論と理由 本裁決は、本件マイニングに係る所得は雑所得に該当する、と結論付けた。 本裁決は、本件マイニングに係る所得は、「対価を得て継続的に行なう事業」とはいえず、このような業務から生じる所得は事業所得に該当せず、かつ、事業所得以外の他のいずれの所得にも該当しないから、雑所得になると判断している。 なぜ、「対価を得て継続的に行なう事業」とはいえないと判断したのだろうか。 この点について、審判所は、次の①~③を考慮したうえで、次のとおり述べている。 個人が、マイニングによる節税効果を宣伝する事業者からマイニングマシンを購入したうえで、その運営や判断をその事業者等に委託している場合のそのマイニングに係る所得については、本裁決と同様に雑所得に該当するという判断がなされる可能性が高そうである。 なお、所得税法施行令63条12号は事業の範囲に「対価を得て継続的に行なう事業」を含めているところ、マイニング報酬がそもそも所得税法施行令63条12号でいう「対価」に該当するのかという点について、裁決では詳しい検討はなされていない。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例129(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等の特例)(措法42の12の5②) 中小企業者等が、平成30年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の雇用者給与等支給額からその比較雇用者給与等支給額を控除した金額のその比較雇用者給与等支給額に対する割合が1.5%以上であるときは、その事業年度の控除対象雇用者給与等支給増加額の15%相当額の法人税額の特別控除が受けられる。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 ◆雇用者給与等支給額(措法42の12の5③九) 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。 ◆資産の取得価額に算入された給与等(措通42の12の5-4) 「所得拡大促進税制」における「給与等の支給額」は、当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものが対象になる(発生ベース)のであるが、例えば、自己の製造等に係る棚卸資産の取得価額に算入された給与等の額や自己の製作に係るソフトウエアの取得価額に算入された給与等の額について、法人が継続してその給与等を支給した日の属する事業年度の「給与等の支給額」に含めて計算する(支給ベース)こととしている場合には、その計算を認める。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第34回】 「移転価格税制と住民訴訟(地判平7.3.6、高判平8.3.28)(その3)」 ~旧日米租税条約11条、25条1項、租税条約実施特例法7条、8条、国税通則法23条2項3号、同施行令6条1項4号~ 税理士 中野 洋 9 検討 (1) 本件日米合意の租税条約適合性 ◎適合しない課税の対象について(「条約」か「規定」か) 第一審判決では、「条約に適合しない課税」については、特に判示することもなく、前記6(1)②の判示のとおり、同条約における経済的二重課税に対して相互協議の申立てを行うことができるとした。 控訴審判決では、租税条約の「目的」や「常識」という概念により広く解し、「移転価格の調整によって生ずる経済的二重課税は、少なくとも租税条約の精神に反する」というOECD租税委員会の見解を根拠とした。 第一審、控訴審ともに、どの条項に適合しない課税をいうのかについて、具体的な判示をしておらず、これらの考え方によると、条約の目的や精神から経済的二重課税があれば、日米条約25条1項にいう「この条約に適合しない課税」ということになりかねない。では、その場合には寄附金による二重課税はどうなるのか。寄附金課税が国内立法であることから、寄附金課税を直接禁止する条項が租税条約に存在せず、特殊関連企業条項に違反しているわけではない点などから、相互協議の対象にはならないと考えられている(※13)。しかしながら、締約国間の経済的二重課税と広く解した場合には、相互協議の対象になると解さざるを得なくなる。 (※13) 国際税務研究グループ前掲(※12)書258頁。 そこで、経済的二重課税といった基準によって広く解釈するのではなく、具体的にどの条項に違反しているから「この条約の規定に・・・適合しない」(※14)といったアプローチが必要である。この点については「一方の締約国により独立企業の原則に基づく移転価格課税が行われた場合には、他方の締約国においてそれに対する対応措置が行われるまでは『適合しない課税』が存在することとなり、移転価格課税が相互協議の対象とされる直接の根拠は、経済的二重課税の存在そのものではなく『特殊関連企業条項に適合しない課税』である」(※15)という解釈が適切であろう。また、前記8(1)②の金子教授の解釈は、条約執行説を基礎に置くものであるが、同説の是非はさておき、「適合しない課税」を特殊関連企業条項との関係で整理しようとしている点に賛同する。 (※14) この点については、当時と現在の日米条約の国税庁資料にも表れている。例えば、当時の日米条約についての『租税関係法規集』国税庁(1998年)では、「この条約に適合しない」となっているのに対して、現在は「この条約の規定に・・・適合しない」となっている。 (※15) 国際税務研究グループ前掲(※12)書242頁~243頁。さらに「経済的二重課税が存在するから相互協議を行わなければならないのではなく、条約の規定に適合しない課税が存在するから相互協議を行い、それを回避することにより二重課税が結果的に排除されることになるのである」と続ける(同243頁)。 (2) 本件国税処分の適法性 第一審と控訴審の判示の違いとして、特例法7条は必要ではないと判示した第一審とは異なり、控訴審では、本件日米合意が特例法7条の施行後に成立していることから問題なしとした。さらに、控訴審判決は、特例法7条には対応的調整を遡ってなし得る期間についてなんらの制限がないとして、通常の更正の請求期限を経過した期間の対応的調整も可能であるとした。 当時においても国内的調整措置としては、既に国通法23条2項3号、国通令6条1項4号があった。これらの規定で十分であったかどうかについては「国税一般について、更正の請求の手続きを一般的に定めたものであり、これらに該当することを理由として更正の請求がなされた場合には、個々の税法の課税要件の実体規定に基づいて、その内容を吟味して判断すべきであり、この規定のみで直ちに更正の請求が認められるわけではない」(※16)とする見解がある。特例法7条もまた手続規定であり、実体規定ではないものの、このような理解に基づけば、第一審判決の見解は妥当ではなく、少なくとも特例法7条は必須であったと思われる。 (※16) 荻野豊『実務 国税通則法』大蔵財務協会(1994年)149頁 小松教授は「対応調整の直接的な法的根拠は、租税条約の相互協議条項に求めることになる。租税条約の相互協議条項に基づく対応調整の義務を履行するための国内法上の実施規定である特例法7条(対応調整)が導入された趣旨は、相互協議条項では具体的な調整の方法などについては必ずしも明らかになっているとは言いがたい。そこで、・・・我が国が行う対応調整についても国内法上の取扱いを明確にしようとしたもの」(※17)と述べている。 (※17) 小松芳明『国際租税法講義[増補版]』税務経理協会(1999年)269頁。この見解は、『昭和61年度版 改正税法のすべて』大蔵財務協会(1986年)214頁の特例法の改正の趣旨と同様のものである。このような対応的調整の直接的な法的根拠を相互協議条項に求める解釈は、日米条約25条2項及び4項が対応的調整の役割を果たす規定であるからであろう。2項では所得又は所得控除、税額控除その他の租税の減免の配分について、合意するように努めるため協議できる旨規定しており、4項では合意に達した場合、合意に従って租税の還付等を行う旨規定されている。 一方、谷口教授は、特例法7条を実体法との関係においても整理する。曰く「特殊関連企業条項を一方の締約国における移転価格課税の側面と他方の締約国における対応的調整の側面とを併有する規定であると考えると、特殊関連企業条項こそが対応的調整の実体法的根拠であり、しかも同条項は課税制限規範として国内で直接適用され、対応的調整を直接根拠づけると解されるから、7条の規定は、実体法的には特殊関連企業条項との関係で、手続法的には相互協議条項との関係でそれぞれ確認規定であると解すべきであろう」(※18)。なお、ここでいう特殊関連企業条項は、日米条約11条1項を指している。 (※18) 谷口勢津夫『租税条約論』太陽社(1999年)頁45頁 このような解釈は倉内氏の見解と共通の認識に立っている。倉内氏は「特殊関連企業条項(第一項)は、発生の経緯、置かれている位置から考えて、二重課税を回避するために課税権を配分する目的を担った規定という一面があると解される。したがって、この第一項により、課税権の配分を行うには独立企業の原則によるべきであることと、独立企業の原則に従って課税権の配分を行う限りにおいて、他方の国の課税権に優先することという効果が生じると解される。したがって、独立企業の原則に従った課税は他方の国の課税権に優先し、第二項がなくとも他方の締約国に対応的調整の義務を発生させる」(※19)としている。このような点を踏まえると、適合するかしないかの対象は、独立企業原則に適合するかしないか、というふうに言い換えることができる。 (※19) 倉内敏行「相互協議の対象について-「租税条約に適合しない課税」の解釈に関する一考察-」税務大学校論叢27号(1996年)169頁 最後に、対応的調整の定義について考えてみる。モデル条約の特殊関連企業条項(1項の独立企業原則による配分と2項の対応的調整)は、米国のIRC482条をなぞった規定である。そして、対応的調整は、所得振替防止の観点から、所得等を配分する際の他方の減額調整を指す。IRC482条は国内外を通じて適用される規定であるところ、国内取引の場合には、自動的な調整機能としての側面を有する。すなわち、一方の所得の増額に対応して、他方の所得を減額することであり、所得振替防止の観点からは、課税庁の権限において、他方の対応的調整を要件として、一方の所得を増額することが認められる(※20)。しかしながら、国際取引の場合には、国家間の利害が対立するため、自動的な調整というわけにはいかない。課税管轄が異なるため、他方の減額調整は、相互協議による合意と合意後の国内実施手続きの両方を含めた概念ということになる。 (※20) 増井良啓『結合企業課税の理論』東京大学出版会(2002年)187頁~190頁 国際取引における対応的調整は、実務手続きの観点からは、合意後の国内実施手続きを指すが、機能的な観点からは相互協議による合意を含めた概念ということができる。他方の減額調整は、手続的側面からは、相互協議における合意と合意後の国内実施手続に分けて考える必要があるところ、控訴審判決は混同していた。その原因はこの辺りにあるのではないかと考える。 10 総括 本件においては、特殊関連企業条項の独立企業原則に適合しない課税として、個別事案協議の申出を行い、合意に基づいて、対応的調整を行うという流れになる。したがって、日米条約25条1項の協議は、日米条約11条1項に適合しない課税を理由に行われるので、モデル条約9条2項の対応的調整に相当する規定の有無は何ら関係がないという理解となる。同規定は確認規定である。 租税条約における特殊関連企業条項と国内法との関係を整理すれば、筆者は制限効果説の立場から、特殊関連企業条項が両締約国の国内法を制限するという解釈に注目している(制限効果説に基づく特殊関連企業条項違反説(※21))。この説によると、特殊関連企業条項に適合しない課税は、この条項によって制限された締約国の国内法にも違反することになり、その違反の効力は、移転価格課税を行った一方の締約国のみならず、対応的調整をしない他方の締約国にも及ぶ。そして「一方の締約国の移転価格課税がこの独立企業原則に適合するものである場合には、他方の締約国が対応的調整義務を負う」ことになる(※22)。 (※21) 谷口前掲(※18)書116頁~117頁 (※22) 谷口前掲(※18)書111頁~114頁 本事案に関する村井正先生の一角塾の講評では「当時はラフな議論をしていたし、移転価格税制に関する誤解も多かった」という意見があった。諸外国(主に米国)に対する牽制として、あるいは、伝家の宝刀として導入すべし、という議論もあった(※23)。伝家の宝刀ということは滅多に抜くわけにはいかない。モデル条約9条2項を自動的調整規定と誤解していた可能性も否定できず、当時は、制度に対する理解も定着していなかったものと思われる(※24)。 (※23) 金子前掲(※5)書363頁~364頁 (※24) また、移転価格税制が導入される約7年前の解説本ではあるが、五味雄治・小沢進『日米租税条約逐条別解説[非売品]』日本租税研究協会(1979年)53頁によると、第11条(特殊関連企業)の冒頭に「本条項は、『特殊関連者の行為計算否認』を規定するものである」と解説している。また、第一審のXの主張においては「我が国においては・・・脱税防止等の観点から税務当局が企業全体の総所得を見直した上で必要な課税処分をすることができるという税制(移転価格税制)は採用されておらず」と述べており、導入前は脱税防止のための行為計算否認規定と理解されていた可能性もある。 11 終わりに この事件では「移転価格税制の適用によって、地方団体が莫大な税収を、その徴収からはるか後に失うこととなる可能性を示し・・・地方団体が関与する余地がなく、国の決定に一方的かつ全面的に拘束される(※25)」という点が詳らかになったが、このことは一方では、わが国で移転価格課税による増額更正が行われた場合、地方公共団体にとっては思わぬ税収となることを示唆しているし、納税者の立場から見れば、国税の増額更正処分に連動して、多額の地方税の追徴課税が生じることを意味している。 (※25) 渋谷雅弘『所得課税の理論と実務―移転価格と金融取引』有斐閣(1997年)181頁 本事案は移転価格税制の適用に付随する対応的調整についての問題であったが、移転価格課税に連動した付随的な課税という意味では、第二次調整という問題がある。本件の場合でいうと、米国子会社への輸出価格が独立企業間価格に比べて高額であるとして、課税上の取引価額を減額したわけだが、これはあくまで課税上の措置であり、実際の取引価格は減額されていない。米国は第二次調整を行う国であるため、実際の取引価格と課税上の取引価格の差額については、子会社から親会社に対して配当があったとして、みなし配当課税がされるはずである。また、相手国でみなし配当課税された源泉所得税は、わが国で外国税額控除の対象とならない。対応的調整によって、関連当事者間の経済的二重課税が解消されたと思ったら、別の二重課税が待ち受けているのである。しかも、第二次調整は国内法の問題であるとされているため、通常は、相互協議の対象とならない。わが国は第二次調整による課税を行わないことから、第二次調整による課税リスクは、相手国の国内法によって引き起こされる。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第2回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第1【企業の概況】4【関係会社の状況】から5【従業員の状況】までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2023年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 【関係会社の状況】の作成実務ポイント ここでの関係会社の範囲とは、連結子会社、持分法適用関連会社、親会社、その他の関係会社(提出会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等)をいい、当連結会計年度の関係会社の状況について記載する。作成ポイントは、以下のとおりである。 (※1) 特定子会社とは、以下の特定関係のいずれか1つ以上に該当する子会社をいう。 ・提出会社の最近事業年度に対応する期間において、提出会社に対する売上高の総額又は仕入高の総額が提出会社の仕入高の総額又は売上高の総額の10%以上 ・提出会社の最近事業年度の末日において純資産額が提出会社の純資産額の30%以上に相当する場合(提出会社の負債の総額が資産の総額以上である場合を除く) ・資本金の額又は出資の額が提出会社の資本金の額の10%以上に相当する場合 (※2) 主要な損益情報等は、内部取引消去前の金額で記載することが考えられる。 【事例:東京汽船(株)2023年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 2 【従業員の状況】の作成実務ポイント 従業員の状況では、当連結会計年度末の従業員の状況を記載する。作成ポイントは、以下のとおりである。 〈「管理職に占める女性労働者の割合」、「男性労働者の育児休業取得率」、「労働者の男女の賃金の差異」について、法律と開示義務の関係〉 【事例:持田製薬(株)2023年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【事例:(株)ミンカブ・ジ・インフォノイド2023年3月期の有価証券報告書】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第18回】 「賃貸等不動産に関する注記」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における賃貸等不動産に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 賃貸等不動産に関する注記は、重要性の乏しいものを除き、次の事項を記載することとされています。 ① 賃貸等不動産の状況に関する事項 ② 賃貸等不動産の時価に関する事項 なお、連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しないため、連結計算書類の作成義務のある会社では個別注記表における当該注記は不要です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 賃貸等不動産に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき賃貸等不動産に関する注記事項は次のとおりです。なお、重要性が乏しい場合は注記を省略できます(会社計算規則第110条第1項)。 (※1) 連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しません(会社計算規則第110条第2項)。 (2) 注記事項の解説 賃貸等不動産の時価に関する注記は、時価情報に対するニーズが拡大している等の背景を踏まえ、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る観点から求められるようになりました。 「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファイナンス・リース取引の貸手における不動産を除く)をいいます。したがって、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれません。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [三愛オブリ株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※三愛オブリ株式会社「第92回定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」8頁より抜粋。 [東急不動産ホールディングス株式会社 2023年3月期 連結注記表] ※東急不動産ホールディングス株式会社「第10回定時株主総会 その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」23頁より抜粋。 * * * 次回の第19回は、「関連当事者に関する注記」をテーマに解説します。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第17回】 「休日労働と代休、休日の振替」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 法定休日に労働した場合は、35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。 休日労働について代休付与や休日の振替で対応している事業所もあります。今回は、休日労働と代休や休日の振替との関係について解説します。 * * 解 説 * * 1 休日労働 休日は、原則として毎週1回以上与えなければなりませんが、4週間を通じ4日以上の休日を与える変形休日制を採用することも可能です。この法定休日に労働させた場合には、35%以上の割増賃金が必要となります。 〈法定休日に労働させた場合〉 法定休日を日曜日にした場合は、土曜日や国民の祝日など他の休日に労働しても休日労働にはなりません。したがって、土曜日の労働に対しては35%以上の割増賃金の支払いは必要ありません。ただし、その日の労働時間が8時間を超えた場合や、以下のとおり1週間の労働時間が40時間を超えた場合は時間外労働になりますので25%以上の割増賃金が必要になります。 〈法定休日以外の休日に労働させた場合〉 同じ休日でも法定休日とそれ以外の休日では割増率が違ってくるため、労使間で十分協議の上、就業規則で法定休日を規定してください。 2 休日労働と代休 休日労働をした場合は、後日代休を与えたからといっても、法定休日に労働したという事実は変わりませんので、35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。 代休とは、実際に休日に労働させた後に、その代償として他の労働日の労働義務を免除することをいいますが、労働基準法では、代休について規定がありません。 代休を取った場合にその日の賃金をどうするかは、労使間で協議の上、定めることになります。有給でも無給でも構いません。 3 休日の振替 休日の振替とは、業務等の都合によりあらかじめ休日と定められた日を労働日とし、他の特定の労働日を休日とすることです。 例えば、以下のようにもともと休日であった日曜日をその週の水曜日と振り替えた場合、日曜日が労働日になり水曜日が休日になります。この場合、日曜日は休日ではないので、休日労働に対する割増賃金の支払義務は生じません。 〈日曜日と水曜日を振り替えて日曜日に労働させた場合〉 ただし、その日の労働時間が8時間を超えた場合や振り替えたことにより、その週の労働時間が40時間を超えるときは、時間外労働に対する割増賃金が発生します。 休日の振替を行う場合には、就業規則において、できるだけ休日振替の具体的な事由と振り替えるべき日を規定することが望ましく、また、振り替えるべき日については、振り替えられた日以降できる限り近接している日が望ましいとされています。 以下の就業規則例を参考にしてください。 〈就業規則例〉 (了)