プラス思考の経済効果 【第23回】 「大谷選手のドジャース入団による2024年の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2023年12月9日(日本時間10日)に大谷翔平選手は2024年からドジャースに入団することを発表しました。ドジャースへの移籍は予想通りでしたが、驚いたのは契約金が10年でなんと7億ドル(約1,015億円)の史上最高額であることと、「10年間の契約期間終了後、約97%の契約金を後払いする」という前代未聞の条件が付いていたことでした。 今回は、この契約金と付帯条件を考慮した2024年のドジャース大谷選手の経済効果を推計することにします。 2 2024年の経済効果 (1) アメリカ国内の直接効果 ① ドジャー・スタジアムの観客増加による消費増加額 ドジャースは人気球団ですので、主催ゲームにおいて2023年のシーズンでMLB最高の約384万人のファンを集めました。2023年にエンゼルスにおいて大谷選手が活躍した期間に、1試合当たり3万2,883人の観客を集めましたが、これは対前年度で約8.2%の増加率でした。これを2024年のドジャースにあてはめると、ドジャースは年間約31万人の観客の増加が見込まれ、観客1人当たり約1万円の消費支出とすると、約31億円の消費増加額になります。 ② 大谷選手の年俸 大谷選手のドジャースとの契約は、10年契約で約7億ドル(約1,015億円)であると言われています。ただし、最初の10年間で契約金の約3%(約30億円。年間約3億円)を受け取り、残りの97%(約985億円)はドジャースを退団してから10年間に渡って支払われる契約になっています。大部分は後払いされ、最初の年である2024年は約3億円が支払われるだけです。 ③ 大谷選手のスポンサー契約料 2023年に大谷選手は、シューズメーカーの「ニューバランス(NB)」と新規契約を締結しました。この時、アメリカの経済雑誌「フォーブス」は2023年の大谷選手のスポンサー収入は、日本の企業とアメリカの企業を合わせて約49億円であると発表しています。大谷選手は2023年には日本とアメリカの企業17社とスポンサー契約を結んでいます。「USAトウディ」のボブ・ナイチンゲール記者は「2024年の大谷選手はエンドースメントの収入で5,000万ドル(約73億円)を稼ぐと予想されている」と述べています。本稿では大谷選手のスポンサー契約料は約70億円と予想することにします。 (※) 「エンドースメント」とは、有名なスポーツ選手や音楽家などと肖像権や商品化等に関して結ぶ契約のことです。日本ではスポンサー契約とも言われることがあります。 ④ 大谷選手による放映権収入 日本のNHKとMLBの契約を見てみましょう。2023年の契約金は約8,000万ドルと言われていますが、放送の大半が大谷選手の試合の放映であることを考えれば、そのうちの約7割の5,600万ドル(約81億円)が大谷選手の試合の放送分であると考えてもよいでしょう。2024年もほぼ同額の約81億円が、MLBが大谷選手の活躍により日本から得ている放映権収入であると推定します。 ⑤ グッズの売上額 大谷選手のグッズの売上はMLBでトップクラスであり、ファンの多い人気チームのドジャースに移籍すると2023年の約11億円を上回り約13億円になると推定されています。 ⑥ ドジャー・スタジアムなどへの日本企業の広告料 大谷選手の活躍で日本企業がエンゼル・スタジアムなどエンゼルス関係の野球事業に宣伝広告を出しています。ドジャースに移籍した場合は人気球団であるので、金額は跳ね上がり総額約15億円と想定されています。 (2) 日本における直接効果 ① 大谷選手応援ツアーの売上高 2024年はMLBでの大谷選手の活躍を応援に行くツアーは、観光地のロサンゼルスにある人気球団のドジャースですから年間約1万人が約1週間の予定で行くと想定されます。費用は1人当たり約30万円で総額約30億円となります。 ② 日本におけるグッズの売上高 日本における大谷グッズの売上は、ファンの多いドジャースに行くことにより約4億円になると想定されています。 3 2024年の経済効果 この直接効果を基にして経済効果を計算すると、2024年の大谷選手がドジャースに移籍した時の経済効果は約533億5,200万円となります。 〈ドジャースに移籍した時の2024年の経済効果〉 4 まとめ (1) 最近の大谷選手の経済効果の推移 大谷選手の2021年以後の経済効果は以下のとおりです。 〈大谷選手の経済効果(2024年は予測値)〉 2024年に大谷選手が名門ドジャースに移籍した時の経済効果は約533億5,200万円になるので、エンゼルスに在籍していた2023年と比べると、年俸がたった3億円になるにもかかわらず経済効果は約29億円増加することになります。これは、ドジャースがMLBで最も多い観客動員数を記録している人気チームであるからです。 (2) ドジャースは採算が合うのか 多くの野球ファンは、「ドジャースは10年契約で約1,015億円の契約金を払って採算が合うのか?」と考えているかもしれません。筆者は、これだけの契約金を払っても、「大谷選手が2年目から二刀流で、10年間故障なく活躍してくれれば、ドジャースが毎シーズン優勝争いをして、数年に1度は優勝すれば、十分採算が取れる」と計算していると考えています。 それは、ドジャースの観客動員力、毎年の大谷選手のスポンサー契約料、球場などへの広告料、大谷選手のグッズ売上金、そして莫大な放送権収入などから計算していると思われるからです。筆者の推計ではドジャースは大谷選手の入団により、年間約150~200億円の収入増加があり、10年間では約1,500~2,000億円になります。したがって、大谷選手に10年間で約1,050億円を支払っても採算が合うと考えていると推察しています。 (3) 契約金の後払いについて 大谷選手が10年間で契約金約1,015億円の契約をして、最初の10年間で約3%の契約金(年間約3億円)を受け取り、残りの約97%(約985憶円)を後払いで受け取るという長期契約には驚きました。 筆者も若い頃アメリカに留学していて、アメリカ人の金銭感覚を見てきていましたが、一般的にはアメリカ人はこのような契約はしない傾向にあると言えます。例えば、最初の10年間で1,015億円を受け取り、そのお金を資金運用会社に委託すると、現在であれば年利約5%で運用してくれます。 そうすると、ドジャースを退団してからの10年間(つまり契約締結後20年)で、複利計算では約985億円は約1,604億円になります。つまり、大谷選手は約619億円の利益を得るチャンスを自ら放棄することになります。また、現在は円安ですが、日本の金利が上がって為替レートが円高の方向に動けば、大谷選手の年俸は円換算ではかなり減少する可能性もあります。 したがって、この契約はいかにも自分の利益よりもドジャースの勝利を優先させた大谷選手らしい選択であると言えます。約985億円を後払いにすることにより、球団はMLBに「ぜいたく税」をほとんど払わなくて済み、大谷選手に1度に支払うべきお金とMLBに支払うべき「ぜいたく税」を、山本由伸選手はじめ他の選手の獲得資金に使うことができるからです。つまり、大谷選手は自分個人のお金よりもドジャースが良い選手をとって優勝することを第一目標にしていると考えられます。 勝利を第一目標にしている大谷選手と山本選手がドジャースにおいてこれからどのような旋風をMLBで巻き起こすかが今から楽しみです。 (※) 本稿における円換算の記載は、その当時の為替レートによります。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2024(令和6)年1月18日、「令和5年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、相続税法関係が3件、国税通則法関係が2件、法人税法関係と租税特別措置法関係が各1件で、合わせて7件となっている。 【表:公表裁決事例令和5年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、無予告の税務調査が違法又は不当ではないとした裁決(前掲表①)、一括購入した土地及び建物について各資産の取得価額の算定に当たり不動産鑑定評価による按分が合理的であるとした裁決(前掲表③)、相続開始の時に空室であった貸室について賃貸されていたのと同視し得る状況にはないから、賃貸されていなかったものとは認められないとした裁決(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心となった争点のみに絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 無予告の税務調査が違法又は不当であるかどうかが争われた事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、ブロック工事業を営む個人事業者で、G社の代表者である審査請求人に対して、原処分庁が行った調査に基づき、所得税等及び消費税等の更正処分等をしたところ、審査請求人が、①調査手続には当該更正処分等を取り消すべき違法がある、②審査請求人の所得税等の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべきである、③当初の調査結果の説明の際に認めていた消費税の仕入税額控除を認めるべきであるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、原処分庁による税務調査が違法又は不当であるとして、次のように主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、審査請求人の主張に対し、次のような判断を示して、事前通知をしなかったことに違法又は不当はなく、また、原処分庁が行った新型コロナウイルス感染症に対する感染防止策は適切であることから、本件調査が不当に行われたとは認められないこと、さらに、調査結果の内容の説明がなかったことをもって、原処分の取消事由となるべき違法があるとは認められないことから、本件調査に原処分の取消事由となるべき違法又は不当があるとは認められないという裁決を判示して、審査請求を棄却した。 ① 事前通知のない税務調査について 審査請求人は、各年分の所得税等の各確定申告書には、「収入金額等」欄の各欄にいずれも金額を記載せず、また、事業所得に係る収支内訳書も添付していないなど、所得税法の規定に基づかない確定申告書を提出しており、そのような事業所得の金額の計算の明細が必ずしも明らかではない状況の下ではあったが、原処分庁が保有する情報及び審査請求人の各確定申告書の記載内容を検討した結果、売上除外等が想定されたため、調査が実施されたものであり、原処分庁は、事前通知をすることにより、審査請求人が売上に係る原始記録及び帳簿書類等を破棄するなど不正取引の把握を困難にするおそれがあるとして、国税通則法第74条の10に規定する事前通知を要しない場合に該当すると判断したものであり、その判断に、全く事実に基づかず明白に合理性に欠けるなど裁量権の範囲を超え、又はその濫用があったとは認められないことから、原処分庁が事前通知をしなかったことに違法又は不当はない。 ② 新型コロナウイルス感染症に対する感染防止策について 調査担当職員は、審査請求人の自宅へ臨場するに当たり、「新型コロナウイルス感染症の感染防止策チェックリスト(連記式)」と題する書面に基づき、自ら確認を行い、管理者からも実施状況の確認を受けていたことが認められ、これは、国税庁がホームページで公表している新型コロナウイルス感染症の感染防止策に則っていることからすれば、調査の初日における調査官の人数や調査を続行したことについて、裁量権の逸脱又は濫用があったとは認められず、調査が不当に行われたとは認められない。 ③ 調査結果の内容説明について 調査担当職員は、相当の回数をもって税理士に調査結果の内容を伝えるべく連絡しているにもかかわらず、税理士は、調査担当職員からの連絡に一度も対応することがなかったことに加え、折り返して返答することもしなかったことから、税理士は、調査担当職員による調査結果の内容の説明を忌避する目的で、調査担当職員の調査結果の内容の説明に関する連絡に応じなかったものであり、審査請求人は、国税通則法第74条の11第2項に規定する調査結果の内容の説明を受ける機会を自ら放棄したものと認められる。 また、課税処分に関する証拠収集手続に重大な違法があり、調査を全く欠くのに等しいとの評価を受ける場合には、課税処分の取消事由となると解されるところ、調査結果の内容の説明は調査終了の際の手続であって、既に行われた証拠収集手続自体に影響を及ぼすものではないことからすれば、審査請求人に対する本件調査に係る調査結果の内容の説明がなかったことをもって、原処分の取消事由となるべき違法があるとは認められない。 2 一括購入した土地及び建物について各資産の取得価額の算定方法が争われた事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、不動産の所有、賃貸及び管理業等を営む法人である審査請求人が、売買により一括して取得した土地及び建物について、これらの売買代金の総額から路線価を基に算出した当該土地の売買代金相当額を差し引く方法によって算定した建物の売買代金相当額に基づき、法人税の減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算して確定申告をしたところ、原処分庁が、建物の売買代金相当額については、これらの売買代金の総額を当該土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比で按分する方法によって算定すべきであるとして、これを基に更正処分等をしたのに対し、審査請求人が、原処分庁による更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、審査請求人が取得した各物件(3件)については、いずれも土地及び建物の各々の売買金額並びに消費税等相当額が売買契約上明らかでないことから、各建物の減価償却費の額及び各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、合理的な方法によって各物件の売買代金を各土地及び各建物の各々の売買代金相当額に区分することが必要となるとしたうえで、建物2と建物3については、簡易宿所施設へと改修するための相応の規模の工事が行われ、建物2及び建物3の時価を増加させるものであったことを認定した。 そのうえで、国税不服審判所は、建物2及び建物3については、審査請求人が依頼した不動産鑑定士が行った鑑定は、不動産鑑定評価基準に沿って鑑定評価を実施しており、その実施過程に不適切ないし不合理な点は見当たらず、公平な鑑定評価を実施したことに疑いを持たせるような事情も認められないことから、土地2積算価格と建物2積算価格との価額比及び土地3積算価格と建物3積算価格との価額比については、審査請求人による取得時点における土地及び建物の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、一定の合理性が認められるというべきであるとの判断を示した。 一方、建物1について、国税不服審判所は、固定資産税評価額は、土地及び建物の各々の時価を推認する手がかりとして一般的な合理性を有するものであるから、同一年度における土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比についても、これらの価額が同一の公的機関によって同一時期に評価されたものであることに照らし、同一時点における土地及び建物の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、同じく一般的な合理性を有しているというべきであると述べたうえで、審査請求人の主張はいずれも合理的な算定方法とはいえず、固定資産税評価額比按分法以外に合理的な方法は認められないという判断を示した。 この結果、原処分は、国税不服審判所によってその一部が取り消された。 3 相続開始の時に空室であった貸室について、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用が争われた事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、相続により取得した宅地に小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、当該宅地の一部は当該特例を適用することができないとして相続税の更正処分等をしたのに対し、審査請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 審査請求人が相続により取得した土地及びその上に存する建物は共同住宅の用に供され、相続開始の直前において、木造2階建て全8部屋のうち3部屋が貸し付けられていたが、5部屋は空室であった。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、相続開始の直前において空室であった各部屋について、102号室、202号室及び203号室については、平成27年4月以前から空室であり、少なくとも4年6ヶ月以上の長期にわたって空室の状態が続いていたのであるから、客観的に空室であった期間だけみても、実質的にみて賃貸されていたのと同視し得る状況にはなかったというべきであるから、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないとの判断を示した。 一方、201号室及び205号室については、相続の開始の約2ヶ月前又は約5ヶ月前にそれぞれ入居者が退去しており、空室であった期間は長期にわたるものではないものの、積極的に新たな入居者を募集していたとはいえないことから、入居者が退去した後は、賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかないから、実質的にみて本件相続の開始の時に賃貸されていたのと同視し得る状況にはなく、一時的に賃貸されていなかったものとは認められないとの判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、各空室部分に係る宅地の部分は、被相続人の貸付事業の用に供されていたとは認められず、また、審査請求人が相続の開始の時から申告期限までの間に被相続人の貸付事業を引き継ぎ、宅地を貸付事業の用に供していたとも認められないから、租税特別措置法第69条の4第3項第4号に規定する「貸付事業用宅地等」に該当しないと結論づけ、審査請求を棄却した。 (了)
《速報解説》 JICPAが「監査事務所における品質管理に関するツール (実務ガイダンス)」を改正 ~大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定の下、品質管理システムの評価の記載等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年1月17日付けで(ホームページ掲載日は2024年1月19日)、日本公認会計士協会は、「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」の改正を公表した。 これにより、2023年10月16日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対しての特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、品質管理システムの評価に当たっての具体的な手順や文書等について検討したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定して作成して いる。 実務ガイダンスで提供している様式例は次のとおりである。 主な改正内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 令和6年分所得税の定額減税(特別控除)ついて 源泉徴収義務者に向けた実施要領案が公表される Profession Journal 編集部 令和6年度税制改正大綱では、定額減税(所得税3万円・個人住民税1万円)の実施が織り込まれ、今週末に召集される通常国会で改正法案が審議されるが、給与所得者に対する所得税の減税措置は本年6月1日以降の源泉徴収時から実施されるため、大綱に「源泉徴収義務者が早期に準備に着手できるよう法案の国会提出前であっても制度の詳細についてできる限り早急に公表」するとしていた通り、1月19日付けで財務省及び国税庁は各ホームページにおいて、源泉徴収義務者に向けた、定額減税の実施要領案を公表した。 実施要領案では、次の1~5の項目を掲げており、それぞれについて大綱では不透明だった実務に係る事項等について言及している。 例えば、「1.令和6年分所得税の定額減税の概要(対象者等)」では、居住者の所得税額から、定額減税に係る額(特別控除の額)を控除する際にはその者の令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下である場合に限るとしているが、源泉徴収税額からの特別控除に際しては、年末調整を除き、合計所得金額に関わらず実施し、年末調整時において合計所得金額が 1,805万円超になると見込まれる場合(ただし年末調整の対象となる者に限る)には控除実施済額について調整するとしているほか、「2.源泉徴収税額からの控除の実施者」では、主たる給与等の支払者のみが特別控除を実施することとし、従たる給与等の支払者は行わないことが示されている。 また、「3.源泉徴収税額からの控除の実施方法」では、この減税の実施のために改めて扶養控除等申告書の提出を求める必要はなく、源泉徴収義務者はその時点で現に把握している情報に基づき計算することが示されたが、15歳以下の扶養親族については令和6年6月1日以後最初の給与支払日までに新たに「源泉徴収に係る申告書」の提出を求める必要がある(ただし当該申告書の記載情報に代えて、一定の確認の下、扶養控除等申告書の「住民税に関する事項」を参照して計算することも可能)とされている。 その他「4.源泉徴収票等の記載事項」では「令和6年6月1日以後に年末調整をして作成する源泉徴収票の摘要欄の記載事項」や「令和6年6月1日以後に交付する給与明細等の記載事項」の記載例が示され、「5.その他」では源泉徴収した所得税及び復興特別所得税を納付する場合、所得税徴収高計算書には定額減税の控除後の源泉徴収税額を記載する(本定額減税の実施のための源泉徴収票様式・所得税徴収高計算書様式の改訂は予定していない)ことなどが明らかとなった。 なお財務省ホームページでは今回公表された要領案について、「あくまでも源泉徴収義務者が早期に準備に着手できるようあらかじめ周知・広報するものであり、令和6年度税制改正のための税制改正法案については、今後国会に法案を提出し、国会審議を経ることが前提となることにご留意いただきたい」としている。 また、減税を受ける納税者向けの情報については今後、概要資料等を順次公表することとしている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 令和6年能登半島地震により被害を受けた土地及び家屋に係る 令和6基準年度向け評価等に関する情報を総務省が公表 ~賦課期日に家屋が滅失した場合の取扱い~ 税理士 菅野 真美 令和6年1月1日に発生した能登半島地震により被害を受けた土地及び家屋に係る令和6年基準年度の固定資産税評価額の取扱いに関する情報が、令和6年1月16日に総務省から公表された。 以下において、この情報に基づいて説明する。 * * * 土地、家屋の固定資産税は 土地又は家屋の価格で課税台帳に登録されたものが課税標準で、毎年1月1日(賦課期日)に所有者として登記簿や課税台帳に登記又は登録された者が納税義務者となり、所在する市町村(東京都特別区は東京都)に納付する市町村民税である。市町村長は、天災等で固定資産税の減免を必要と認められる者については、条例により固定資産税を減免することができる。 今回の情報においては、土地や家屋の評価は、被災の状況に基づくが、土地や家屋の被害の状況によっては、「東日本大震災により被害を受けた地方団体等における平成24年度の固定資産の評価替えについて」による簡易評価も可能として提示している。 能登半島地震は、令和6年1月1日の16時過ぎに発生した。固定資産税の賦課期日は1月1日であるが、1月1日0時の時点と1月1日17時の時点では、固定資産の評価額は大きく異なることになる。今回の地震による評価減等は、すべて減免等を通じて行われるのではないかと思うかもしれない。しかし、情報によると、「固定資産税においては1月1日中に生じた事情を同日を賦課期日とする年度の税額等に反映させることが基本です。このため、1月1日中に滅失した家屋に対しては課税されないものと解されますので、ご留意願います。また、例えば、1月2日以後に滅失した家屋については、1月1日の現況に基づき課税することになりますが、納税者の置かれた状況に十分配意して減免等を行うなど、適切に対応するようお願いします。」と述べられている。 この賦課期日の取扱いは、能登半島地震以外の家屋の滅失に関してもあてはまるのだろうか。たとえば、1月1日に所有していた家屋を取り壊した場合の家屋についての評価はどのようになるのか。1月1日は、滅失登記の申請をしたくとも、法務局は開局されていない。この件に関して、東京都主税局に電話で確認したところ、1月1日付の解体証明書等を入手し、滅失登記を行った場合は、家屋に係るその年の固定資産税は課税されないと回答を得た。 このように家屋の滅失に関しては、災害に限らず、滅失が1月1日に行われたならば、登記は後日行われたとしてもその年の家屋に係る固定資産税は課されないと考える。 (了)
2024年1月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.552を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第123回】 「災害に係る主要な税制措置」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 年初に発生した能登半島地震の被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げたい。 政府は1月11日の持ち回り閣議で、能登半島地震を激甚災害と特定非常災害に指定した。 地震や津波に加え、台風、豪雨、豪雪等の自然災害が頻発している状況を踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、平成29年度税制改正において、災害への税制上の対応の規定が常設化され、発災後速やかに税制上の措置の実施が可能となっている。 平成29年度税制改正以前においても、災害が発生した際の被災者や事業者への対応については、国税通則法、災害減免法、所得税法をはじめとした各税法において、申告、納付期限の延長や、税の減免措置などが実施されていた。また、平成7年の阪神・淡路大震災、平成23年の東日本大震災の2つの大震災においては、上記の制度に加えて、被災者の救済、生活再建の支援等のため、震災特例法が制定され、雑損控除や災害減免法の適用範囲の拡大等の措置が講じられてきた。 平成29年度税制改正では、阪神・淡路大震災や東日本大震災で制定された震災特例法を踏まえて、①被害の状況や規模などによらず、災害一般に適用することが適当なもの、②被災は生活再建支援法などの下、他の支援施策が講じられている場合に適用することが適当なもの、について、あらかじめ規定を整備する方針の下で、所得税、法人税、相続税、贈与税、酒税、自動車重量税など広範に特例が設けられている。特例の対象となる災害については、阪神・淡路大震災、東日本大震災などの大規模災害に限定されず、後述の住宅ローン減税の特例措置に見られるように、被災者生活再建支援法が適用される災害も対象となるなど、幅広い災害が特例の対象とされている。 以下、主要な税制上の措置について整理したい。 〇申告期限等の延長等 国税通則法により、災害等の理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までに、これらの行為をすることができないと認められる場合には、災害等の理由のやんだ日から2ヶ月以内の範囲において、その期限の延長ができる。 特に、今回の地震のように、都道府県の全部又は一部にわたり、期限までに申告等の行為をすることができないと認められる場合には、国税庁長官が告示により、その地域及び期日を指定して期限を延長することとされている(地域指定)。 1月12日には、富山県及び石川県をその地域として指定する告示が行われた。なお、期限をいつまで延長するかについては、今後、被災者の状況に十分配慮しつつ検討することとされている。 〇住宅ローン減税の特例 災害により家屋を居住の用に供することができなくなった場合において、災害がなければ、その控除を受けることができた期間について、継続して住宅ローン控除の適用を受けることができる。 なお、被災した家屋を他の用途に転用した場合、被災した家屋又はその敷地を譲渡して税制上の特例措置(譲渡損失の損益通算、繰越控除)の適用を受ける場合、新たに住宅の新築取得等をした家屋について住宅ローン減税の適用を受けた場合には、被災した家屋に係る住宅ローン減税の継続適用は打ち切られる。 もっとも、被災者生活再建支援法が適用された市区町村の区域内に所在する住宅用家屋については、その被災した家屋に係る住宅ローン減税と一定期間内に新たに住宅用家屋の再取得等をした場合の住宅ローン減税との重複適用が可能である。 〇住宅取得等資金に係る贈与税の特例 住宅取得等資金に係る贈与税の特例の適用要件の緩和等が措置されている。 具体的には、災害により住宅が滅失した場合の居住要件の免除、贈与税の申告後に被災した場合における居住期限の延長、住宅の取得前に被災した場合の取得期限の延長などが挙げられる。 〇法人税法上の措置 法人税法においては、①災害損失欠損金の繰戻し還付、②仮決算による中間申告における所得税額の還付、③中間申告書の提出不要制度が設けられている。 第一に、災害のあった日以後1年以内に終了する事業年度において、災害損失欠損金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額のうち欠損金額に達するまでの金額)がある場合には、その事業年度開始の日前1年(青色申告書の場合には2年)以内に開始した事業年度の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。 第二に、災害のあった日以後6ヶ月以内に終了する中間期間において、災害損失金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額)がある場合には、仮決算の中間申告において、控除しきれなかった所得税額の還付を受けることができる。 第三に、国税通則法第11条(災害等による期限の延長)に基づく申告期限の延長により、中間申告書の提出期限とその中間申告書に係る確定申告書の提出期限とが同一の日となる場合には、その中間申告書の提出を要しない。 また、租税特別措置法においては、被災代替資産等の特別償却制度が設けられている。今回の能登半島地震のように特定非常災害として指定された災害について、その発生日から同日の翌日以後5年を経過する日までの期間内に、被災代替資産等の取得等をして事業の用に供した場合には、特別償却をすることができる。 〇消費税の届出等に関する特例 特定非常災害の被災者である事業者が、被災したことにより、簡易課税制度の適用を受けることが必要となった場合、又は受けることの必要がなくなった場合には、承認申請書(提出期限:災害等のやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内)を税務署長に提出し、承認を受けることにより、当該災害等の生じた日の属する課税期間から、簡易課税制度の適用を受けること、又はやめることができる。 (了)
令和5年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「特に注意したい事項Q&A」 -NFTに関する税務上の取扱い等- 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 本連載最終回は、最近注目されているNFTに関する税務上の取扱い等、確定申告において注意が必要と考えられるもののうち、過去に取り上げていない5項目をQ&A形式でまとめることとする。 なお、本稿では、特に指定のない限り令和5年分の確定申告を前提として解説を行う。 〈固定資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却〉 【Q1】 令和2年10月に購入した乗用車(非業務用)を、令和5年1月より個人事業の用に供している。令和5年分の事業所得の計算において、必要経費に算入する減価償却費はどのように計算するのか。 【A1】 非業務用として使用していた期間に係る「減価の額」を計算し、乗用車の取得価額から当該「減価の額」を控除した残額を算出する。この残額を、個人事業の用に供した日における乗用車の未償却残高とする。 次に、個人事業の用に供した後の減価償却費の計算は、この未償却残高又は取得価額を基礎として、一般の減価償却と同様に行う。 -解説- 固定資産を非業務用から業務用に転用した場合、業務の用に供した後における資産の償却費の額は、業務の用に供した日に資産の譲渡があったものとみなして計算した取得費に相当する金額を、業務の用に供した日における資産の未償却残高相当額として計算する。 具体的な計算過程は、次のとおりである(所法38②、所令85、135)。 (1) 業務の用に供した日における資産の未償却残高相当額の計算 業務の用に供した日における資産の未償却残高相当額は、資産の取得価額から、資産を非業務用として使用していた期間に係る「減価の額」を控除することにより求める(所法38②二、所令135)。 資産を非業務用として使用していた期間に係る「減価の額」は、当該資産と同種の減価償却資産に係る耐用年数に1.5を乗じて計算した年数を使って旧定額法に準じて計算した金額に、非業務用として使用していた期間(年数)を乗じて計算する(所令85)。 (注1) 1.5倍を乗じて計算した年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てる(所令85②一)。 (注2) 非業務用として使用していた期間の年数に1年未満の端数があるときは、6ヶ月以上は1年とし、6ヶ月未満は切り捨てる(所令85②二)。 (注3) 「減価の額」が取得価額の95%に達している場合には、取得価額の5%から1円を控除した金額を5年間で均等に償却する(所令134②)。 (注4) 昭和27年12月31日以前に取得した資産である場合には、昭和28年1月1日現在の相続税評価額と昭和28年1月1日以後に支出した設備費、改良費などの資本的支出の合計額を基にして、昭和28年1月1日から業務の用に供した日の前日までの期間について減価の額を計算する(所法61③)。 (2) 業務の用に供した後の減価償却費の計算 業務の用に供した後の減価償却費は、(1)で計算した未償却残高相当額又は取得価額を基にして計算する。 資産を業務の用に供した後の減価償却の方法は、資産の取得年月日(業務用への転用日ではない)により、次のとおりとなる(所令120、120の2、125)。 (注) 網掛部分は、法定償却方法 (3) 事例のケース ① 令和5年1月1日現在の未償却残高相当額 ② 令和5年の必要経費に算入する減価償却費 〈年金受給者が老齢給付金の一部を一時金で支給を受けた場合〉 【Q2】 60歳で定年退職し、確定給付企業年金規約(老齢給付金の一部又は全部を一時金として支給することができる)に基づいて、老齢給付金の50%を一時金として受け取り、残りは年金として受給開始年齢(60歳)から受給している。退職時に受け取った一時金は退職所得として課税され、年金として支給を受けている分については公的年金等として課税されている。 65歳となった令和5年に、将来の年金給付額の一部(全体の25%)について一時金として支給を受け、残額は引き続き年金により支給を受けることとした。令和5年に支給を受けた一時金も退職所得になるのか。 【A2】 令和5年に支給を受けた一時金は、退職所得ではなく原則として一時所得となる。 -解説- 確定給付企業年金法の規定に基づいて支払われる一時金で、加入者の退職により支払われるものは退職手当等とみなされる(所法31三)。また、確定給付企業年金規約に基づいて支払われる年金の受給資格者に対し、その年金に代えて支払われる一時金のうち「退職の日以後当該年金の受給開始日までの間に支払われるもの」及び「年金の受給開始日後に支払われる一時金のうち、将来の年金給付の総額に代えて支払われるもの」も退職手当等とみなされる(所基通31-1(1))。 事例のケースは、年金の受給開始後に、将来の年金給付の一部について一時金による支払いを受けている。これは、将来の年金給付の総額に代えて支払われるものには該当しないため、退職所得ではなく原則として一時所得となる(所法34、所基通31-1(1))。 〈NFTを第三者に転売した場合の取扱い〉 【Q3】 デジタルアートの制作者から購入したデジタルアートを紐づけたNFTを、マーケットプレイスを通じて第三者に転売した。取引の概要は下記の〈資料〉のとおりである。所得税の取扱いはどのようになるのか。 〈資料〉 【A3】 デジタルアートを紐づけたNFTを転売したことにより得た利益は、所得税の課税対象となり、原則として譲渡所得(総合)に区分される。なお、NFTを売買する場合、決済手段としてイーサリアム等の暗号資産を利用することが多いが、暗号資産の譲渡による所得とNFTの譲渡による所得は別々に計算することになる。 -解説- (1) NFTの譲渡による所得 転売取引により、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められることから、当該転売取引は所得税の課税対象となる。具体的には「デジタルアートの閲覧に関する権利」の譲渡に該当し、当該転売取引から生じた所得は、原則として譲渡所得(総合)に区分される(所法33①)。なお、NFTの譲渡が、棚卸資産若しくは準棚卸資産の譲渡又は営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当する場合には、事業所得又は雑所得に区分される(所法27、35①②)。 総合課税の譲渡所得に区分される場合、NFTの譲渡に係る所得金額は次の算式で計算する(所法33③)。 転売収入をマーケットプレイス内の通貨として流通するトークンで受け取った場合には、そのトークンの時価が転売収入となる。そのトークンの時価の算定が困難な場合には、転売したNFTの市場価額(市場価額がない場合には、転売したNFTの取得費等)をそのトークンの時価と取り扱って差し支えない。 なお、総合課税の譲渡所得の金額の計算上損失が生じた場合には、他の所得との損益通算が可能であるが、NFTが主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有していたものである場合には、他の所得との損益通算はできない(総合課税の譲渡所得内での通算は可能)(所法69、所令178①)。 (2) 暗号資産の譲渡による所得 暗号資産から生じた所得は、原則として、雑所得(その他雑所得)に区分される。 暗号資産の所得区分及び譲渡原価の計算方法については、下記拙稿をご参照いただきたい。 (3) 事例のケース ① NFTの譲渡による所得(総合課税の譲渡所得(短期)) ② 暗号資産の譲渡による所得(雑所得(その他雑所得)) 〈ゲームの報酬としてゲーム内通貨を取得した場合の取扱い〉 【Q4】 ブロックチェーンゲームのプレイにより、ゲーム内通貨(トークン)を取得した。所得税の取扱いはどのようになるのか。 【A4】 ブロックチェーンゲームで得た報酬は、原則として、所得税の課税対象(雑所得(その他雑所得))となる。 -解説- ブロックチェーンゲームで得た報酬は、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められることから、当該報酬は所得税の課税対象となる。 ただし、取得したゲーム内通貨(トークン)が、ゲーム内でしか使用できない場合(ゲーム内の資産以外の資産と交換できない場合)には、所得税の課税対象とはならない(※)。 (※) ゲーム内通貨(トークン)の時価が算定困難な場合には、時価を0円として差し支えない。この場合、ゲーム内通貨(トークン)を暗号資産と交換できる他のトークンに交換した時に所得税が課税される。 ブロックチェーンゲームの報酬に係る雑所得の金額は、次の算式で計算する(所法35②二)。 〈収入金額〉 収入金額は、ブロックチェーンゲームで得たゲーム内通貨(トークン)の総額となる。なお、ゲーム内通貨(トークン)の評価は、通貨の取得の都度行うことになるが、ゲーム内通貨(トークン)ベースで増減額を管理し、月末又は年末に一括で評価することもできる。 〈必要経費〉 必要経費は、ブロックチェーンゲームの報酬を得るために使用したゲーム内通貨(トークン)の取得価額の総額となる。取得価額とは、購入したゲーム内通貨(トークン)については購入価額、ブロックチェーンゲームで取得したゲーム内通貨(トークン)については、収入金額として計算された金額となる。 〈簡便法〉 ゲーム内通貨(トークン)の取得や使用が頻繁に行われ、取引の都度の評価は煩雑と考えられることから、ゲーム内通貨(トークン)ベースで所得金額を計算し、年末に一括で評価する簡便法によって雑所得の金額を計算することもできる。 〈NFTの財産債務調書への記載〉 【Q5】 マーケットプレイスで購入したNFTを12月31日現在保有している場合、保有しているNFTは財産債務調書へ記載するのか。 【A5】 保有しているNFTが、12月31日において暗号資産等の財産的価値を有する資産と交換できるものである場合、財産債務調書へ記載する必要がある。 -解説- 財産債務調書とは、12月31日現在において保有する財産の種類、数量、価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載して、その年の翌年6月30日までに、所得税の納税地の所轄税務署長に提出することが求められている調書である(国外送金等調書法6の2①)。 財産債務調書は、次のいずれかに該当する者が提出する(国外送金等調書法6の2①③)。 (※1) 申告分離課税の所得がある場合には、特別控除後の所得金額の合計額を加算する(純損失や雑損失の繰越控除を受けている場合等には、その適用後の金額) 上記①②のいずれかに該当する者が12月31日においてNFTを保有しており、そのNFTが暗号資産等の財産的価値を有する資産と交換できるものである場合には、財産債務調書への記載が必要になる(※2)。 (※2) NFTを購入したマーケットプレイスの所在が国内か国外かに関わらず、財産債務調書へ記載する。 なお、財産債務調書には、NFTの種類別(アート、音楽、スポーツ、ゲーム等)、用途別及び所在別に記載する。 また、財産債務調書合計表においては、「財産の区分」欄の「その他の財産(上記以外)」欄に記載する。 以上の他、NFTに関する税務上の取扱いについては、国税庁の「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」を参考にされたい。 (連載了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第34回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 6 異なる種類の暗号資産同士の交換は課税イベントか 所得税法は、肝心の所得の概念について詳しい説明をしていないが、包括的な所得区分である雑所得を設けるとともに、一時所得や譲渡所得などの臨時的・偶発的な所得についても所得区分を設けていることなどから、包括的な所得概念を採用していると解されている。 そうすると、保有する資産の含み益(値上がり益、評価益)も所得に含まれることになるが、時価評価が難しい場合があるし、単に値上がりしたにすぎず、いまだ譲渡して換金していない段階で課税すると納税資金の問題が出てくることになる。そこで、実際の所得税法は、所得が実現して初めて課税するという実現主義を採用している。 つまり、未実現の利得には課税しないことになるが、その所得税法上の根拠として、同法が外部からの経済的価値の流入を表す「収入」を所得計算の出発点に据えている点を挙げることができる(所法23~35、36)。 資産について含み益が発生した時点では、いまだ外部からの経済的価値の流入はないため、未実現であるということになる。 「実現」の意義については様々な見解がある。 例えば、アメリカ法を前提として、実現について、次のように述べる見解がある(渡辺徹也「実現主義の再考」税研147号70頁)。 上記見解は、ここから、いまだ実現に至らない未実現の状態として、次の3つを提示している。 上記の見解を踏まえて、資産の含み益と実現の関係等について整理すると下図のようになる。 実定税法上の条文の根拠との関係では、上記の実現の意義のうち、例えば、資産を手放すという点は所得税法33条の「譲渡」、その代わりに別の資産をもらうというのは同法36条の「収入」を想起させる。 所得税法36条の収入との関係について、同条の収入は、金銭のみならず、「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」でもよいとされている(所法36①)。そして、「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」をもって収入する場合の収入すべき金額は、「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」となる(所法36②)。 かくして、一定の場合を除き(※)、資産の交換(基本的には、「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転すること」(民586)をいうものと考えて構わない)も課税イベントになると考えられている。課税イベントとは、含み損益に対する課税の契機となる事象(含み損益を課税所得に反映させる事象)を意味する。 (※) 例えば、納税資金の問題や同一資産の保有が継続しているといえるような一定の固定資産の交換の場合については、含み損益を「認識」しない(譲渡がなかったものとみなす)などの規定が用意されている(所法58等)。 以上から、異なる種類の暗号資産同士の交換も課税イベントになる。 この点について、国税不服審判所令和4年3月23日裁決(裁決事例集未登載:TAINSコードF0-1-1362)において、納税者は、要旨次のとおり、暗号資産同士を交換しても権利が確定したとはいえない旨主張した。 しかしながら、本裁決は、次のとおり判断し、納税者の上記主張を採用していない。 上記の判断は、譲渡所得課税の趣旨を説明する清算課税説と親和性を有するように見える。よって、暗号資産の譲渡による所得の所得区分について、暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にするため、譲渡所得には該当せず、原則として雑所得に該当するという国税庁の見解(本連載第26回)と整合するのか、という疑問が生じる。 (了)
相続税の実務問答 【第91回】 「第一次相続と第二次相続の相続人が1人となった場合の第二次相続の小規模宅地等の特例の適用」 税理士 梶野 研二 [答] お父様及びお母様の相続人はあなた1人となってしまいましたから、もはやお父様の遺産について分割協議をすることはできません。しかしながら、お父様の遺産について分割協議ができないということは、お父様の遺産である各財産は、法定相続分の割合であなたとお母様の共有財産であることが確定したということです。このため、お母様はA建物及びその敷地についてその法定相続分どおりの2分の1の共有持分として有していたこととなります。そうしますと、相続税の申告期限までA建物に居住し、かつ、この敷地の保有を継続すれば、小規模宅地等の特例を適用することができます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 第一次相続に係る相続人と第二次相続に係る相続人が同一の1人の者である場合の遺産分割 はじめの相続(第一次相続)の遺産の分割が未了のまま第一次相続の相続人(第一次相続人)が亡くなってしまい(第二次相続)、第一次相続人のうち第二次相続の開始時において生存している者と第二次相続に係る相続人(第二次相続人)が同一の者で、その者以外に第一次相続及び第二次相続に係る相続人がおらず、かつ、両相続に係る包括受遺者がいない場合には、【第89回】「第一次相続と第二次相続の相続人が1人となった場合の遺産分割と相続税」で説明したように、その1人の者によっては第一次相続の被相続人の遺産を自由に分割することはできず、その遺産は第一次相続人に法定相続分の割合で確定的に帰属することとなります。 2 小規模宅地等の特例の適用 租税特別措置法第69条の4第1項に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下、この特例を「小規模宅地等の特例」といいます)は、被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した個人が一定の要件を満たす場合に、当該事業の用又は居住の用に供されていた宅地等について相続税の課税価格に算入する価額を減額する特例制度です(措法69の4①②③)。 この小規模宅地等の特例は、相続税の申告書の提出期限までに、遺産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない場合には、その分割されていない財産については、適用することができません(措法69の4④)。ただし、分割されていない宅地等が相続税の申告期限から3年以内(この期間が経過するまでの間に遺産が分割されなかったことについて、相続又は遺贈に関して訴えの提起がされたことその他の一定のやむを得ない事情がある場合において、税務署長の承認を受けたときは、財産の分割ができることとなった日の翌日から4ヶ月以内)に分割された場合には、その分割された宅地等について更正の請求等によりこの特例を適用することができます(措法69の4④ただし書き)。 この「分割されていない宅地等」には、そもそも分割をするまでもなく、特定の相続人又は受遺者が相続又は遺贈により取得した宅地等は含まれません。これには次のような場合が該当します。 3 第一次相続人と第二次相続人が同一の1人である場合の第二次相続における小規模宅地等の特例の適用 上記2のとおり、相続人及び包括受遺者の間で遺産分割がされていない財産については、小規模宅地等の特例を適用することはできません。この特例規定を適用した後に、遺産分割が行われ、その結果、この規定を適用した者以外の者が被相続人の財産を取得することによってこの規定の趣旨に反した適用が行われることを防止するためです。 しかしながら、上記2の枠内に掲げる場合のようにそもそも遺産分割をすることなく、確定的に特定の相続人や受遺者に帰属することとなる財産については、この規定を適用することができると解されます。 ところで、第一次相続の遺産である宅地等が未分割のまま第二次相続が開始した場合において、第二次相続に上記2の枠内に掲げるようなケースがあったとしても、第二次相続に係る相続税について、当該宅地等に小規模宅地等の特例を適用することはできないと考えられます。 しかしながら、第二次相続開始時に生存している第一次相続人と第二次相続人が同一の者で、その者以外に第一次相続人及び第二次相続人や包括受遺者がいない場合には、たとえ第二次相続の開始の直前において第一次相続に係る遺産が未分割であったとしても、その1人の者のみによっては、第一次相続に係る被相続人の遺産を分割することはできず、第一次相続に係る被相続人の遺言がない限り、第一次相続に係る遺産は、確定的に、法定相続分の割合により第一次相続人に帰属することとなります。そうしますと、もはや小規模宅地等の特例の趣旨に反した適用も起こりえないこととなります。 したがって、このような場合には、第二次相続に係る相続税の申告において、第二次相続の開始の直前において未分割であった宅地等についても、租税特別措置法第69条の4第1項から第3項までの要件を満たせば、小規模宅地等の特例を適用することができると考えられます。 4 ご質問の場合 お母様の相続開始の直前において、お父様の遺産であるA建物の敷地は未分割財産でしたので、あなたが未分割財産であるA建物の敷地を取得したとすると、この敷地については小規模宅地等の特例を適用することができないのではないかとの疑義が生じます。 しかしながら、あなたとお母様の間でお父様の遺産の分割が行われる前に、お母様がお亡くなりになり、お父様の相続人で生存している者はあなた1人となり、お父様の相続人であったお母様の相続人もあなた1人となりました。また、お父様の相続にも、お母様の相続にも包括受遺者はいないとのことです。そうしますとお父様の遺産である各財産は、お母様の相続開始により、あなたとお母様に法定相続分の割合での共有が確定するとともに、お母様が取得したお父様の遺産はあなたが相続することとなります。この場合、A建物の敷地は「分割されていない宅地等」には該当しないこととなります。 そうしますと、A建物の敷地にはお母様の相続開始時にお母様とあなたが同居しており、お母様の相続開始後も引き続きあなたが居住しているとのことですから、このA建物の敷地は、被相続人をお母様とする相続税の申告書の提出期限まで引き続きあなたが居住を継続し、かつ、保有し続けている限り、租税特別措置法第69条の4第3項第2号に規定する特定居住用宅地等に該当することとなりますので、限度面積の範囲内で、同居親族であるあなたが小規模宅地等の特例の規定を適用することができます。 (了)