〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例11】 株式会社東芝 「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について」 (2016.12.27) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社東芝(以下「東芝」という)が平成28年12月27日に開示した「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれん及び損失計上の可能性について」である。この連載で同社の開示を取り上げるのは2回目であり、【事例1】で同社が平成27年11月17日に開示した「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について」を取り上げた。 今回の開示も、【事例1】の開示と同様、ウェスチングハウス社に関連する内容であり、また、のれんの減損に関するものである。この開示の最初に次のように記載されているのだが、要するに、ウェスチングハウス社を通じて行った企業買収に伴い計上した数千億円ののれんの一部または全部を減損しなければならないというのである。 2 前月の上方修正 東芝は、この開示の1月半ほど前、平成28年11月8日に「業績予想の修正に関するお知らせ」を開示し、売上高と利益を上方修正している。しかし、今回ののれんの減損により、上方修正後の当期純利益は吹き飛ぶことになる。額はわからないまでも、のれんの減損の可能性を少しでも認識していたならば、上方修正には慎重になるはずである。このとき、同社はのれんの減損の可能性をまったく認識できていなかったのだろうか。 【事例1】で、筆者は、「お粗末?悪質?」として、次のように述べたのだが、今回の開示に対して受ける印象も同様である。平成28年11月8日の時点でのれんの減損の可能性をまったく認識できていなかったのであれば、極めてお粗末と言わざるを得ないであろうし、もしも今回ののれんの減損を何とか隠蔽しようといったことを考えていたのだとしたら、極めて悪質である。なお、東芝は、マスコミの報道を受けて、今回の開示を行っている(同じ平成28年12月27日に「CB&Iの米国子会社買収に伴う業績影響に関する一部報道について」を開示)。 この開示漏れが意図的なものであったのか否かはわからない。もちろん東芝は意図的なものではないと主張し、東京証券取引所もそのように判断している。それが本当であれば、適時開示についての知識が欠落していたか、適時開示の対象となる情報を収集する体制が整っていなかったわけで、極めてお粗末な開示義務違反である。しかし、もしも意図的なものであったのならば(連結財務諸表に計上されないことをいいことに、適時開示を行わないことにしようと判断したのならば)、極めて悪質な開示義務違反といえるだろう。 3 特設注意市場銘柄の指定継続 東芝は、今回の開示の直前、平成28年12月19日に「当社株式の特設注意市場銘柄の指定継続に関するお知らせ」を開示していた。次のような理由により特設注意市場銘柄の指定が継続されることとなったため、 今後は次のように取り組んでいくとしている。 しかし、今回の開示を見ると、お粗末であったとしても、悪質であったとしても、いずれであっても、「内部管理体制等の確立」への道は極めて険しいように思われる。同社は、平成29年3月15日以後に証券取引所に対して内部管理体制確認書を再提出するのだが、それによっても内部管理体制等の改善が認められない場合、同社株式は上場廃止となる。 (了)
顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第2回】 「面談が苦手だからこそ、ここはサービス業と割り切って!」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。初回のお話はいかがでしたか? 今回からは各論として、面談の苦手意識を克服していただくためのあれこれをお話していきます。 この連載をはじめるにあたり、私なりに、皆さんのおかれているお立場を少し勉強させていただきました。そんな私の目がまず留まったのは、皆さんがよくご存じの税理士法第1条でした。 私のような素人がこの条項を見ても、税理士の皆さんには高い使命感と職業倫理が求められていることが分かります。特に、下線部分が大変だろうと想像しました。なぜならば、納税義務者によっては、税務当局が絶対に認めないであろう様々な要望も出してくるだろうからです。さらに税理士である皆さんは、そのどちらにも偏しない独立した公正な立場で行動し、判断を下さなければならないだろうからです。 きっと新米税理士の皆さんにとって、そんなお客様と面談するときなど、難しい場面がたくさんあるのではないかと想像しました。 「接客」という観点で考えてみましょう。 例えば、市役所や区役所などの窓口。突然大きな声で怒鳴り散らしている人を見かけたことはありませんか? 大声で怒鳴り散らしているのは、公務員ではなく市民や区民です。もしかしたら、市民や区民としての義務を果たさないまま、文句だけを公務員につけているクレーマーかもしれません。 公務員の難しさは、そんなクレーマーを目の前にしても、皆さんと同じで、決して市民・区民側の要望に偏ることはできない、という点にあります。クレームをなだめるだけではダメで、義務をきちんと遂行してもらえるように説得をしなければならないからです。 市役所や区役所などでも少なからず研修をさせていただいている私は、研修の中で、よく申し上げる言葉があります。「公務員の皆さんこそ、“究極のサービス業”かもしれません」と。 今や時代は大きく様変わりし、昔はお上(おかみ)とまで言われることのあった公務員も、もはや“サービス業”という視点を外すことはできません。例えば、ある店で不愉快な思いをした客は、二度とその店には行かないはずです。しかし区役所や市役所で、職員の言動に対し不愉快な思いをしたとしても、その地域に住んでいる限り、市民や区民はその役所でしか用を足すことができないからです。 公務員こそ、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の世界ではありませんが、市民や区民に対する“サービス業”という気持ちを忘れてしまっては、“全体の奉仕者”としての使命を果たすことができないということ。そしてもう一つ大切な“満足感”を市民や区民に与えることができないということです。 そういう意味では、お客様のご要望を何とか受け入れたくても、申告納税制度と法に基づき公正な援助をしなければならない皆さんにも共通点があることがお分かりいただけるはずです。公務員に対してはもとより、今や総理大臣や大統領に対しても国民の目は厳しいものです。ましてや決して安くない報酬を支払う側の顧客にとって、税理士の皆さんに万が一、落ち度があれば、寛大であろうはずがありません。 ただし、顧客からのクレームはよほどのことがない限り、直接的には税理士の皆さんへは向かわないものです。 クレームを受けるのは、まず皆さんの周りにいる職員さんたち。 職員さんたちは、皆さんの常識のない態度や振る舞い、言動に対してクレームをいう顧客に対し、ただひたすら「申し訳ありません」と謝らなければならないときがあります。 職員さんたちのミスではないにも関わらずです! ですから新米税理士の皆さん。実務がパーフェクトにできることは当たり前、その上で、接客・接遇を含む面談という対人関係能力を決して疎かにできないということを、税理士になりたての今だからこそ、しっかりと理解して、常に意識していただきたいのです。 もしかして、皆さんの中には、 といったお考えで、この道を選んだ方はいらっしゃらないでしょうか(はなはだ失礼な推測だとお叱りを受けそうで恐縮です)。 確かに「士業」という専門家として社会貢献を目指す道を選ばない大多数の若者の中にも、「自分が苦手なこと、嫌なことを仕事にしたくない」という気持ちがあるのは自然なことだと思います。 しかし、もし皆さんがそんなふうに自分の未来の職業を消去法で考え「税理士という道」を選んだとしても、実は税理士業も“サービス業”であったのだということを、この場でしっかりと認識してくださいませ! ◆ ◆ ◆ 最後に、顧客心理についてお話します。 いつでも、どこでも、気持ちの良い“もてなし”を受けたい。 これがどんな業種にも当てはまる顧客心理です。 “もてなし”という言葉からは、お客様に対し、お茶だけでなく、例えば名のある高級なお菓子を添えて出すとか、高級なフランス料理を一流レストランで振る舞うなどがイメージできると思います。 しかし、この“もてなし”は、皆さんの日々の業務でもできることなのです。 この“もてなし”こそ、皆さんのような士業者にとって、面談の場で相手に表現することができるはずです。 お茶と名のある和菓子を出すということではなく、「なんて感じのよい先生だろうか」「なんて分かりやすい説明だろうか」とお客様に感じてもらうことができれば、それこそが皆さんのお客様に対する“もてなし”。 そしてそのもてなしが、顧客満足につながるのです。 これこそが、ライバルの同業者と差をつけるために、非常に大切な観点だと言っても過言ではありません。 * * * いかがでしたか。今回は皆さんのお仕事にも“サービス業”という意識が必要不可欠である、というお話をさせていただきました。 次回は、対人関係能力の中で一番大切な、「第一印象」についてお話します。どうぞお楽しみに。 (続く)
《速報解説》 日本監査役協会、「監査役等と内部監査部門との連携について」を公表 ~各社の連携の実態を踏まえた具体的な提言を示す~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 公益財団法人日本監査役協会(以下「監査役協会」と略称する)監査法規委員会は、1月13日、「監査役等と内部監査部門との連携について」を、監査役協会会員会社に対するアンケート結果とともに公表した(以下、公表された文章を「本レポート」、添附されたアンケート集計結果を「本アンケート」と略称する)。 昨年11月24日に監査役協会会計委員会が公表した「会計不正防止における監査役等監査の提言-三様監査における連携の在り方を中心に-」と題された提言集に続くもので、「監査役制度への抜きがたい不信感が国内外で高くなっていたというのが、ここ数年の実情です」(※)と評されることもある監査役等の機能を、いかに高めていくかについて、監査役協会が危機感を持って取り組んでいる様子がうかがえる。 (※) 高桑幸一・加藤裕則編著『監査役の覚悟』(同文館出版、平成28年6月) 第2部「『監査役の覚悟』を考える」第4章「監査役は機能しているか-東芝事件・CGコードが投げ掛けるもの」(板垣隆夫、144頁) 監査役等(引用者注:監査役、監査委員及び監査等委員の総称。以下同じ)と内部監査部門の連携ついては、「法的に担保されたものではなく」、「監査制度のビルトインされたものではない」ことから、監査役等と会計監査人との連携に比較して「相対的な弱さは否めない」としつつ、その重要性について、次のようにまとめている(2ページ)。 1 本レポートの概要 本レポートに附された目次の大項目は、以下のとおりである。 2 日本企業における内部監査部門の実態 アンケート結果によると、内部監査を担当する専任部署を設置している企業は82.9%であり、内部監査を兼務している部署を設置している企業12.6%を合わせると、95.5%の企業が内部監査機能を有していると言える。専任職員数の平均は4.01人、兼任職員数の平均は0.77人であるが、「企業規模が小さくなるにつれて専任職員の数が少なくなる」ことが指摘されている。 内部監査部門の組織上の位置づけについては、全体の80.5%は社長に直属しており、監査役等・監査役会等に直属している企業は0.8%、数にして5社と、大多数の企業で、社長をはじめとする業務執行部門に直属していることが判明している。 社長直属としていることについては、「平時における内部監査部門の独立性・中立性担保の方策として認識されている」とまとめている。 3 日本企業における内部監査部門と監査役等の連携の実態 本アンケート結果によれば、監査役等と内部監査部門の間における情報交換は約8割の企業で行われている。 興味深いのは本アンケート「問24」(66ページ)で、監査役等又は監査役会等が、内部監査部門に対して、調査等を指示する権限が社内規則で付与されているかどうかを聞いたところ、規定されている企業が32.6%、規定されてはいないが、権限に基づかない依頼をしたことがある企業が34.8%となっており、規則の外側で(必要に迫られて)、連携自体が進んでいることがうかがえる。 4 英米における内部監査部門の位置づけ 本レポートでは、アメリカとイギリスについて、内部監査部門の位置づけを調査し、報告している。まず、日本における監査役会設置会社と英米の上場会社の機関設計を図示したうえで、日本では業務執行機能の中で内部監査が行われている一方、英米では、内部監査部門はAudit Committeeの監督のもと、Managementを監査するという違いがあることを説明している。 法的に内部監査部門の設置が必須とされるのはNew York Stock Exchange上場規則のみであり、英国のDisclosure Rulesには、内部監査機能に関する規定は存するが、内部監査機能を必置としていない。なお、ご承知のとおり、日本においては、内部監査部門は、法令に基づく設置義務はない。 5 あるべき連携を目指してー監査法規委員会からの提言 本レポートの眼目である「提言」は、大きく次の4点に集約されている。 説明のための機関設計の図(10ページ)では、業務執行機能の枠内に置かれた内部監査部門と監査役会等の間の矢印が、これまでの「連携」に加えて、内部監査部門から監査役会等へ上記(1)の報告のラインが加わり、監査役会等から内部監査部門に向かっては上記(2)(3)の指示・承認、関与のラインが附されるとともに、従来の「連携」のラインに上記(4)協議・協働の機能が追記されている。 以下、具体的な提言内容を見ておきたい。 (1) 内部監査部門から監査役等への報告 具体的な提言として、監査役等の情報収集体制の強化のため、会社法第381条第2項及び第3項に規定する監査役の報告徴求権を、社内ルールにより具体化・明文化するとともに、内部監査部門による報告を監査役等に対して並行して行うこともルール化すべきである、としている。 (2) 内部監査部門への監査役等の指示・承認 上述のとおり、本アンケートに答えた企業のうち約3分の1においては、社内規則により、監査役等が内部監査部門に指示する権限が付与されているが、本提言では、 ① 内部監査部門職員を監査役等の補助使用人とすることを定める ② 監査役等が内部監査部門職員に一定の指示・承認を行う権限を規定する という、具体的な提言を行っている。 (3) 内部監査部門長の人事への監査役等の関与 本アンケート結果によれば、回答企業の22.7%では、内部監査部門長の人事について、監査役等は事前の協議・相談を受けていることがわかった。 本提言では、監査役等が事前報告を求めることは会社法第382条第2項の規定に即して可能であるとしながらも、事前報告を超えた協議・承認については、内部統制基本方針等により、制度的に担保する必要がある、としている。 (4) 内部監査部門と監査役等の協力・協働 本提言では、「内部監査と監査役往査は、その内容が必ずしも同一ではない」としつつも、「相互の連携を図ることにより」、「各々の実効性を高める」ことが可能である、としている。 また、特に中堅・中小企業について、内部監査部門、監査役等の体制が不十分でない場合には、「合同監査や合同往査などの手法が検討されてもよい」としている。 6 解説-内部監査部門の位置づけはどうあるべきか- 回答企業のうち80.5%が「内部監査部門は社長直属の組織としている」というアンケート結果以上に興味深いのが、「内部監査部門を、社長等執行のトップではなく、取締役会、監査役等、監査役会等の直轄とすることについて」の意見を聞いた「問33」であった(59ページ)。 その結果は、「賛成17.6%」、「反対18.7%」、「どちらともいえない60.5%」であり、現状のままがいい(反対)という答えは2割に満たなかった。 アンケートに寄せられた意見の一部を引用してみたい。 監査役協会会計委員会が公表した「会計不正防止における監査役等監査の提言-三様監査における連携の在り方を中心に-」の速報解説でも触れたとおり、内部監査部門を監査役会等の直轄とする動きが出てきているのは事実であり、今後も内部監査部門の位置づけに関する議論が継続されるものと思料するところであるが、社長直属の組織であることの是非に関して、「どちらともいえない」という回答が60%を超えているところに、この問題の難しさがあるといえよう。 つまり、法律により設置が義務づけられた機関ではない内部監査部門であるから、その直属を社長にするのか、取締役会又は監査役会にするのかは、企業が判断すべきものであると考えられるが、それゆえに、正解は1つではないことが、このアンケートからもうかがえる。 最後に、いささか余談ではあるが、アンケートの中に、「内部監査部門職員が有する資格」について問うもの(問10)があり、あまり公表されないデータであると思料するので、引用しておきたい(41ページ)。 公認不正検査士(CFE)の資格保有者である筆者は、かねてから、CFEの認知度が低いと感じていたところであるが、こうしたアンケートの回答項目に「公認不正検査士(CFE)」が挙げられるようになったことは一歩前進である感じつつも、その保有者が回答企業621社のうち19社、数にして23人に止まっていることには複雑なものを感じた次第である。 (了)
2017年1月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.202を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第39回】 「外国子会社合算税制の抜本的見直し」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 平成29年度税制改正大綱では、外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン税制)の抜本的な見直しが行われることとされた。 もっとも注目されるのが、いわゆるトリガー税率の廃止である。そして、トリガー税率の廃止に伴い、合算のルートが3つ用意されることとなる。 ▷トリガー税率の廃止 現行制度では、外国関係会社のうちその所得に対して課される税負担がわが国において課される税負担に比して著しく低いものが、「特定外国子会社等」として合算対象となる。この判定基準となる租税負担割合のことをトリガー税率と一般に呼んでおり、現行制度では20%未満とされている。したがって、税負担水準が20%以上でさえあれば、たとえ経済実体を伴わない所得であったとしても合算対象とならず、申告の必要もない。 今回の改正では、このトリガー税率を廃止することとされており、これに伴い「特定外国子会社等」の概念もなくなり、外国関係会社はすべて合算対象となる可能性があることになる。 与党税制改正大綱の「補論」において、「日本からの直接投資残高の伸びが最も大きな国は、過去20年のGDP成長が顕著な中国及び様々な税制上の優遇措置を持つことで知られるオランダとなっている」と指摘されているとおり、日本からの対外直接投資残高は過去20年で約5倍に増加する中(1996年30兆円→2014年143兆円)、中国及びオランダ向け投資が10倍以上に拡大しているという現状がある。 トリガー税率の廃止により、中国やオランダの外国関係会社も合算対象となる可能性が出てくることになる。 ▷合算のルート 現行制度では、まずトリガーを税率により、合算対象となりうる特定外国子会社等とそれ以外にふるい分けられ、適用除外基準のいずれかを満たさない場合には特定外国子会社等の所得の全部の合算、適用除外基準の全てを満たした場合でも資産性所得がある場合は資産性所得のみの合算という2つのルートが用意されている。 改正後は、トリガー税率が廃止され、最初のスクリーニングなしに、外国関係会社すべてについて(後述のように、実務負担を考慮した制度適用免除基準が存在することに注意)、3つの合算のルートを吟味することとなる。 (1) 特定の外国関係会社の会社単位の合算 第一は、「特定の外国関係会社の会社単位の合算」である。一定の要件に該当するペーパーカンパニー等は、それだけをもって、全ての所得が合算されることとなる。これは現行制度にはないルートである。租税負担率にかかわらず(日本の法人実効税率を上回る(具体的には30%以上)場合は適用免除)、租税回避リスクの高いものを一網打尽にするルートである。 具体的には、事業所等の固定施設を有していること、及び、その本店所在地国において事業の管理、支配、運営を自ら行っていることの両方の要件を満たさない外国関係会社(ペーパーカンパニー)や、総資産の額に対する受動的所得の合計額の割合が30%を超える企業で、総資産の額に対する金融資産等の割合が50%を超える外国関係会社(事実上のキャッシュボックス)、租税に関する情報の交換に非協力的な国または地域として財務大臣が指定する国または地域(ブラックリスト国)に本店等を有する外国関係会社が対象となる。 なお、ペーパーカンパニーの判定については、外国関係会社がその要件のいずれも満たすことを明らかにする書類等の提出等を内国法人に対して国税当局の職員が求めた場合に、期限までに提出等がないときは、ペーパーカンパニーであると推定することとされている。 (2) 会社単位の合算、一定所得の部分合算 第二、第三のルートは、現行制度と類似しており、経済活動基準(現行の適用除外基準を課税要件に衣替えしたもの)のいずれかを満たさない場合には、「会社単位の合算」、全部満たす場合には「一定所得の部分合算」となる。 経済活動基準(事業基準、実体基準及び管理支配基準、所在地国基準、非関連者基準)においては、事業基準を見直し、従来はそれのみで適用除外基準を満たせなかった航空機リースについて、一定の要件を満たすものは事業基準をクリアできることとし、また、所在地国基準においては、従来争いのあった、いわゆる来料加工の取扱いが明確化されることとなっている。 一方、非関連者基準については第三者介在取引による合算の潜脱を防止するために、非関連者との間で行う取引の対象となる資産、役務その他のものが、関連者に移転又は提供されることがあらかじめ定まっている場合には、その非関連者との間の取引は、関連者との間で行われたものとみなして非関連者基準の判定を行う等の見直しを行うこととされている。 なお、経済活動基準の全てを満たしても満たさなくても、会社単位か一定所得かの違いはあれ、合算となるわけであるが、制度適用免除基準が最後に用意されており、会社単位の租税負担率が20%以上であれば、合算は行われない。 したがって、実務的には、上記のペーパーカンパニー等に該当しない限り、これまでどおり、租税負担率20%をふるい分けの基準として実質的には使えるということになる。 (了)
平成28年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「平成28年分の申告から取扱いが変更となるもの①」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 平成28年分の確定申告の受付は、平成29年2月16日(木)から3月15日(水)まで行われる。還付申告は、2月15日(水)以前であっても行うことができる。 なお、e‐Taxを利用する場合には、1月16日(月)の午前8時30分から3月15日(水)の間であれば、メンテナンス時間を除き24時間申告書を送信することが可能である。 今回から4回シリーズで、平成28年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 【第1回】と【第2回】は、平成28年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、確定申告実務に影響があると考えられる事項について解説する。 なお、「確定申告実務の留意点」については毎年本誌上にて掲載しており、28年分の実務においても影響のある事項があるため、必要に応じ下記拙稿も合わせてご参照いただきたい。 (1) マイナンバー関連 ① マイナンバーの記載 平成28年分の確定申告は、マイナンバー制度導入後、初めての実務となるため、留意が必要である。 平成28年分の確定申告書には、マイナンバー(個人番号)を記載する欄が新たに設けられている。マイナンバーの記載が必要となる対象者は、次のとおりである。 - 参 考 - (※) 国税庁ホームページより ② 本人確認書類の提示又は写しの添付 確定申告書を書面で提出する際、本人確認書類(番号確認書類+身元確認書類)を提示するか、その写しを添付する必要がある。写しを添付する場合には、「添付書類台紙」に貼付する。 なお、確定申告書を電子申告する場合には、電子証明書をe‐Taxに登録するため、「本人確認書類の提示又は写しの添付」は不要である。 ③ マイナンバーカードを利用して電子申告を行う場合 マイナンバーカードには、電子証明書が標準的に組み込まれている。マイナンバーカードを利用して電子申告を行う場合には、マイナンバーカードの電子証明書をe‐Taxに登録する必要がある。 住民基本台帳カードの電子証明書をすでにe‐Taxに登録している場合にも、マイナンバーカードの電子証明書を再登録しなければならない。 (2) 親族関係書類及び送金関係書類の添付 国外に居住する親族を扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除、障害者控除の対象とする場合には、確定申告書に親族関係書類及び送金関係書類を添付(又は提示)しなければならない(所法120③二、所令262②)。 親族関係書類や送金関係書類に関する解説等、本制度についての詳細は、すでに本誌上で掲載された下記拙稿において解説しているため、ご参照いただきたい。 * * * 次回も引き続き、平成28年分の所得税計算から取扱いが変わるものについて解説を行う予定である。 (了)
相続税の実務問答 【第7回】 「負担不履行を理由とする遺産分割の解除」 税理士 梶野 研二 [答] 遺産分割協議において、合意された債務を履行しないことを理由とする遺産分割の解除は認められません。 仮に遺産分割協議に負担を履行しない相続人が同意したことにより、新たに当初の遺産分割の全部又は一部を変更する内容の合意がされたとしても、そのことによって相続税の課税関係の是正はしません。 なお、この場合、新たな合意の内容によっては、贈与税や所得税(譲渡所得)の課税関係が生じることがあります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 負担の不履行を理由とする遺産分割の解除 高齢化社会が進み、高齢者の介護については社会的な問題になっており、各家庭においても、高齢の親の面倒を誰がみるのかなど、難しい問題を抱えていることも多いでしょう。 遺産分割協議において、相続人の一部に一定の債務を負担させる合意をすることも珍しいことではありません。最近は、相続人のうちの1人が親の身の回りの世話を引き受けることなど一定の債務を負担することを前提に、その相続人が他の相続人よりも多額の遺産を取得することもあります。 遺産分割協議によって一定の債務を負うこととなった相続人が、分割協議で合意したとおりに債務を履行すれば問題はないのですが、その相続人がその債務を履行しない場合、あるいは履行できなくなる場合もあります。 このような場合、他の相続人からは、遺産分割の解除の申立てがされることもあるでしょう。しかし、判例は、このような解除の申立てについては認めていません。 2 遺産分割の解除に同意した場合 裁判において、遺産分割協議の解除の請求が認められないとしても、債務を負っていた相続人が、他の相続人からの申入れを受けて、遺産分割協議のやり直しに応じるならば、そのこと自体、否定されるものではありません。 しかし、そのような流れで行われた遺産分割のやり直しは、通常は、相続人間の新たな合意による法律行為であって、遺産分割とは別のものであると考えられます。 そうしますと、再分割協議によって当初の遺産分割とは異なる結果となったとしても、相続税の更正の請求や修正申告によって相続税の課税関係の是正を図ることは認められません。また、新たな合意の内容によって、贈与税や所得税(譲渡所得)の課税関係が生じることがあります (【第6回】「遺産分割協議のやりなおし」参照)。 3 ご質問の場合 ご質問は、お母様の身の回りの世話をするという遺産分割協議の際の合意を、お兄様がきちんと履行しないので、遺産分割協議を解除して、再度、遺産分割を行うこととした場合に、課税上の問題が生じるのかというものです。 遺産分割協議が成立した後に、遺産分割の際の合意内容が守られなかったことを理由に、遺産分割協議の解除を申し入れても、原則として、それは認められません。 もちろん、お兄様が、あなたからの申し入れに対して、再度の分割協議に応じてもよいとの意思表示をすることはあるでしょうし、私法上、そのような再度の遺産分割協議が否定されるものではありません。しかし、そうした遺産の再分割協議の結果、当初の遺産分割協議内容と異なる結果となったとしても、相続税の課税関係を是正することはありませんし、逆に、贈与税や所得税(譲渡所得)の課税関係が生じることがありますのでご注意ください。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第44回】 「一の文書に該当する場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 基本契約書と付属覚書を同時に作成し、袋綴じにして保管する予定ですが、この場合の印紙税の取扱いはどうなりますか。 袋綴じされた基本契約書と覚書が同一日に作成されていることと、契約書に署名、押印等をした契約名義人が同一であり、後日、切り離して保存することを予定していないことから、袋綴じされた文書は「一の文書」に該当する。 したがって、事例の文書については第2号文書(請負に関する契約書)と第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当することとなるが、記載金額の計算ができることから、所属の決定により記載金額444万円((10万円+12万円+15万円)×12ヶ月)、印紙税額は2,000円の第2号文書となる。 [検討] 一の文書とは 印紙税は、一の文書であればその内容に課税物件表の2以上の号の課税事項に該当している場合であっても、そのうちの1つの号に所属することとなる。 そのため、基本契約書と覚書が一の文書と認められれば、基本契約書と覚書双方の内容により課否判定を行い、所属が判定される。 【一の文書であると認められる場合(次のいずれにも該当するもの)】 契印等により、その文書の形態からみて1個の文書と認められ、それぞれの文書を切り離して行使または保存することを予定していないもの。 袋綴じされた文書の契約日が同一である。 契約書、覚書等に署名、押印した契約名義人が同一である。 ▷ まとめ (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q28】 「個人が任意組合契約に基づき利益の分配を受ける場合の所得認識の時期」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 任意組合とは 任意組合とは、民法第667条に定める、各当事者が出資をなして共同の事業を営むことを約する合意によって成立する団体です。任意組合には、法人格はなく、各組合員の出資その他の組合財産は総組合員の共有に属します。 2 任意組合の税務上の取扱い 日本の税務上、任意組合自体に法人税が課税されることはありません。法人税法上、「人格のない社団等」は法人とみなされ、法人税法の規定が適用されますが、民法第667条に規定される任意組合は、人格のない社団等には含まれないとされています。 所得税基本通達及び法人税基本通達では、任意組合等(任意組合、投資事業有限責任組合、有限責任事業組合をいいます。以下同様)において営まれる事業に係る利益や損失については、分配割合に応じて、各組合員に直接帰属することが規定され、任意組合等については構成員課税(パススルー課税)が適用されることが明らかにされています(ただし、分配割合が組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していないと認められる場合にはこの限りではないとされています)。 3 任意組合員の所得認識の時期 所得税基本通達によれば、任意組合の組合員(個人)の組合事業に係る利益又は損失は、その年分の各種所得の金額の計算上、総収入金額又は必要経費として算入する、とされています。ただし、組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期に計算し、かつ、組合員への個々の損益の帰属が当該損益発生後1年以内である場合は、任意組合の計算期間を基として計算し、当該計算期間終了の日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費として算入することとされています。 すなわち、暦年による所得計算を行うことが原則とされているものの、一定の要件(組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期に計算し、かつ、各組合員への個々の損益の帰属が損益発生後1年以内である場合)を満たす場合は、任意組合の計算期間に合わせて組合事業に係る利益の額又は損失の額の計算を行い、各計算期間の終了する日の属する年分の組合員の各種所得の金額として認識することになります。 なお、具体的な利益等の額の計算及び所得分類については次回の【Q29】において解説します。 4 本件へのあてはめ 本件の任意組合の計算期間は4月1日から3月31日で、組合は組合事業に係る損益を毎年1回以上一定の時期において計算しています。また、本任意組合は直接不動産に投資しており、個々の組合員への損益の帰属も損益発生後1年以内となると認められることから、任意組合の計算期間終了の日である3月31日の属する年の組合員の所得として、組合からの利益を所得認識する必要があるものと考えられます。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第31回】 「租税回避と実務上の問題点②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、①株式譲渡損益とみなし配当、②税制適格要件について検討を行った。本稿では、①欠損等法人、②適格合併による繰越欠損金の利用、③損失の二重利用について解説を行う。 4 欠損等法人 包括否認本(拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定(中央経済社、平成21年)』)の第4章では、欠損等法人について解説を行った。当時、想定していたスキームは、法人税法57条の2の適用から除外するために、複数の者で欠損等法人を買収するというものであった。しかし、繰越欠損金の繰越期限が10年にまで伸びてしまうと、買収してから事業を開始するまで、5年間待つというスキームの方が現実的であろう。 これを否認するための手法として、同族会社等の行為計算の否認が考えられるが、欠損等法人の買収は、欠損等法人の行為ではないため、課税減免規定の限定解釈の方が現実的である。当時は、清水一夫教授が本則的規定と解しているのに対し(※1)、政策目的規定と解する余地があるのではないかと考えた。 (※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号345頁 しかし、ヤフー・IDCF事件では、政策目的規定とは考えにくい組織再編税制に対して、制度の濫用により否認していることから、政策目的規定ではなくても、課税減免規定の限定解釈(【第29回】参照)が適用される余地はあると思われる。 ただし、ヤフー事件の第一審において、 と判示されている。 これを根拠とするわけではないが、「5年待つ」という単純な行為に対して租税回避行為と認定し難いのも事実であり、やや否認のハードルは高いという印象を受ける。 5 適格合併による繰越欠損金の利用 包括否認本の第5章では、適格合併による繰越欠損金の利用について解説を行った。具体的には、①特定資本関係(支配関係)が生じてから5年を経過するまで待つ場合、②みなし共同事業要件を形式的に充足させる場合、③繰越欠損金を利用するための適格合併、④繰越欠損金を利用するための企業買収と適格合併、⑤100%子会社化後の適格合併、⑥繰越欠損金飛ばしスキームについて解説を行った。 グループ法人税制後の動きは、①繰越欠損金の繰越期限が10年に延びたこと、②100%子会社を清算した場合に繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったことと、③ヤフー・IDCF事件があったことの3つである。 このうち、①については、欠損等法人のところで解説したように、5年間待つという租税回避が行われやすいため、立法論的解決が図られるべきであろう。そして、②については、100%子会社であるペーパー会社を清算することにより繰越欠損金を引き継ぐことができるようになったため、100%子会社であるペーパー会社との合併のような事案において経済合理性の説明をしなければならないことはほとんどないと思われる。 さらに、③ヤフー・IDCF事件の影響であるが、前回解説した税制適格要件と同様に、迂回取引を行ったり、個別の要件に無理矢理当てはめたりすることにより、みなし共同事業要件を満たすような行為については、包括的租税回避防止規定が適用されやすくなったということが言える。 税制適格要件と同様に、やや安易に要件を満たそうとする行為が見受けられる箇所であるため、慎重な対応が必要になる。 6 損失の二重利用 包括否認本の第6章では、損失の二重利用について解説を行った。当時と異なり、グループ法人税制が導入されたことから、例えば、グループ内で子会社株式を譲渡したとしても、その段階では子会社株式の譲渡損が実現しないという問題があるが、その後、当該子会社を被合併法人とする吸収合併を行えば、株式譲渡損が実現できるため、当時の議論とほとんど変わらないと思われる。 当時の議論に加え、大きく変わったと言えば、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返した行為について租税回避行為として否認された事例(※2)(「Sスキーム事件」ともいう)が公表されたことである。 (※2) 平成24年2月12日、読売新聞報道 本事例は、例えば、X社が保有する帳簿価額10億円、時価が1億円であるような土地を適格現物出資により新しく設立したY社に移転させた後、当該Y社株式を適格現物出資により新しく設立したZ社に移転させるなど、上記の含み損を無限増殖させようとした事案である。このような含み損を作り出すこと以外に何ら目的がない行為については租税回避行為として認定されやすいのは事実である。 さらに、上記の事案では、含み損を実現させるためのY社株式、Z社株式の譲渡を自然人に対して行うことも想定される。グループ法人税制は、内国法人間の取引であることから、自然人に対する株式譲渡は対象から除外される。すなわち、含み損を増殖させた後に自然人に対して売却するという租税回避行為は、現行法人税法でも可能であり、類似の行為を行った場合には、包括的租税回避防止規定が適用される可能性は否めない。 さらに、上記の事例では、適格現物出資の段階で、土地を取得したY社では土地の含み損を9億抱え、株式を取得したX社ではY社株式の含み損を9億抱えというように、適格現物出資、適格分社型分割及び株式移転により含み損を増殖させることができるという、組織再編税制の法体系の問題がある。 本来であれば、立法論的解決が図られるべき箇所であるが、実務上は、このような含み損の増殖が可能であり、それを逆手に取った節税対策に対しては、包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるという点に留意が必要である。 次回では、清算所得課税とその他の論点について解説したうえで、実務上の留意事項についての解説を行う予定である。 (了)