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山本守之の法人税“一刀両断” 【第24回】「租税法の解釈①」-租税法律主義とその問題点ー

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第24回】 「租税法の解釈①」 -租税法律主義とその問題点-   税理士 山本 守之   1 租税法律主義の考え方 租税の賦課、徴収は、必ず法律の根拠に基づいて行われなければなりません。 これを租税法律主義といいます。近代法治主義では、権力の分立を前提とし、公権力の行使は法律の根拠に基づいてこれを認め、それによって国民の自由と財産の保護を保障する政治及び憲法原理ですから、国民の富の一部を国家の手に移す租税の賦課、徴収は法律の根拠なくしてこれをなし得ないのです。 したがって、租税法律主義は租税における近代法治主義の表れといってよいでしょう。 日本国憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定しています。 これは、租税法律主義の諸原則のうちの課税要件法定主義を示したもので、狭義の租税法律主義と考えることもできます。 また、同法第30条では、「国民は法律の定めるところにより、納税の義務を負う」と規定しています。 憲法の下では租税法は侵害規範ですから、納付すべき租税の限界を示したものであり、納税義務はこのような租税法の性格を前提として国民が主体的、かつ、自律的に自らの生活と福祉のために税を負担することを明らかにしたと考えるべきなのでしょう。 また、租税法律主義は、取引を決断するに当たって納税者の課税予測可能性を担保する機能も持っています。 納税者は、取引を行うに当たって、その取引の結果、どの程度の税を負担するかを事前に測定することによって取引を行うか否かを決断するものです。例えば、ある取引を行うに当たって、その取引がどの程度の利益をもたらすかは、税引後の利益をもって測定します。 つまり、その取引についてどの程度の税が課され、その税を納付したとしてもその取引が利益をもたらすか否かを予測した上で取引の決断をするのです。 その意味からすれば、租税が法律によって明確にされ、その課税要件が明らかになっていることが必要となります。 わが国の税実務の中では、法律でもない「通達」が幅を効かせており、通達で課税要件を規定するのを当然と考える向きがありますが、これは違法です。 租税の賦課、徴収は必ず法律の根拠に基づいて行わなければならないという「租税法律主義」は、罪刑法定主義とともに近代民主主義の柱になっています。 また、租税法律主義は、取引を判断するに当たって納税者の課税予測可能性を担保する根拠を持っています。納税者は取引を行うに当たって、その取引の結果、どの程度の税を負担することになるかを事前に測定することによって取引を行うか否かを決断するのです。   2 武富士事件の考え方 租税法律主義を楯に租税回避による贈与税の課税を免れた事件(武富士事件)があります。 この事件において、最高裁の須藤裁判長の次のような補足意見が注目されます。 裁判長としては、やりきれない気持ちがありながら納税者の租税回避を容認せざるを得なかったのです。 この須藤裁判官の補足意見は、租税法律主義、法の支配を明確にしたものです。 確かに筆者も租税回避ともいえるスキームで行われた場合に課税できないとすることに違和感を持っています。しかし、法の規定がないのにこのスキームを否認することはできないとしているのです。 それにしても、租税回避ともいえる行為を弁護したのがヤメ検、ヤメ裁、ヤメ国税であったのはやりきれません。 (注) ○納税者勝訴 ●納税者敗訴   3 不確定概念の位置付け (1) 不確定概念の問題点 租税法律主義は、次のような内容によって構成されていると考えることができます。 「課税要件明確主義」とは、税法の規定も、その委任を受けた政省令の規定も可能な限り一義的でしかも明確でなければならないとするものです。 これらの規定が明確でなければ、その規定を読む者によって解釈を異にするようになると、租税を法(又はその委任を受けた命令)によって規制する意味がなくなり、結果として行政庁に一般的・白紙的に委任をすることと同じとなり、租税法律主義に反するからです。 つまり、租税法において行政庁の自由裁量を認める規定を置くと、課税要件を法律に規定するという課税要件法定主義が形骸化するばかりでなく、権力を持つ課税庁の解釈が法そのものとしてワークしてしまう恐れがあるのです。 (2) 不確定概念の適用例 課税要件明確主義にもかかわらず、現行の租税法及びその委任を受けた政令の中では、数多くの不確定概念が使われています。 例えば、法人税法では、役員給与、役員退職給与について「不相当高額」な部分については損金の額に算入しない(法34、36)としています。ここで問題になるのは「不相当高額」とは何を基準とするかです。役員の退職給与については政令で「・・・当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし・・・」(令70)としているだけで、具体的な計算手段は示されていません。 このため、裁判例では「功績倍率法」「1人当たり平均額法」「国家公務員退職手当との比準」「公表利益との標準偏差法」など多様な手法が使われており、他法人との比較についても、比準要素となった法人名が具体的に示されていないのが実情です。これでは、納税者はどのような資料を入手し、どのような計算手法で「不相当高額」か否かを判定すべきか戸惑ってしまいます。 更に、最近では沖縄の酒造メーカー事件のように退職給与を支給された当事者が、比準法人の役員よりも大きな功績があるので功績倍率法等を適用すること自体が不適正であるとした判決例があります。 (3) 不確定概念のあり方 ① 不確定概念とは 法令、通達等を読むとさまざまな不確定概念が目につきます。その内容を抽出した守之会(筆者の主催する研究団体、20年間にわたり論文集、市販本を発刊している)ではその多さ(数千項目)に驚き、抽出だけで3年を要しました。 不確定概念とは、例えば、「相当程度」「相当期間」「不当に」「正当な理由がある場合」「著しい低下」「おおむね」・・・などです。 租税法における課税要件明確主義の立場からすれば、これらの不確定概念の存在は問題でありますが、かといって法令に「〇年以内」「〇%以内」というように具体的数値を示すと法規自体が硬直的になり、取引の背景を配慮した適正な法解釈ができなくなってしまうおそれがありますし、通達に「〇%以内」「〇年以内」とすると、法律によらないで課税要件を定めたという問題が生じます。 不確定概念は納税者の税務処理を阻害するという側面があるものの、不確定概念を完全に排除してしまうことにより租税法における納税者の解釈権を奪うことも心配です。 このため、実務家は判例、裁決例などを背景としてこれらの概念の正しい解釈、あり方等を追及する必要があります。特に国税庁ホームページで公表されるQ&Aなどの情報によって課税要件が安易に歪められないよう注意する必要があります。 ② 不確定概念の解釈 法人税基本通達9-6-1(4)は、貸倒れとする場合の例示として「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」(下線筆者)と定めていますが、ここに「相当期間」という不確定概念があります。これをかつて課税庁では内部研修等で「相当期間とは3年ないし5年をいう」と教えていました。そこで債務超過が1年である場合は「まだ早い」として否認する場合もあったのです。現に国税OBの書いた質疑応答集には「ここで相当期間とは3年~5年をいいます」としてあります。 法人の取引先の中には、債務超過の状態にあるものが少なからず存在し、それだけで債権者が回収を断念することはないでしょう。 金銭債権の回収に関してはさまざまな方途を講じ、回収に関して努力するものと思われます。しかし、やがて回収を断念しなければならない時期が到来するかもしれません。 「相当期間」は、債務者の経営状態を見るために、ある程度のウォッチ期間が必要であり、最終判断のための見極めをつける期間という意味を持っているのです。 したがって、債務者が天災地変などで回収不能の損害を受け、それが基因となって債務超過の状態になった場合や、債務者の親会社が倒産し、債務者が連鎖倒産した場合は、経営状態の判断と回収不能の判断はごく短期間でつくと考えられます。これに対して、取扱商品に対する消費者のニーズが低下したため慢性的に経営状態が悪化していく場合は、新製品の発売等により反発する機会も十分あるのですから、ある程度長期的に経営状態を判断しなければならないでしょう。 「相当期間」は、回収不能を判断することについて合理的と認められる期間と解すべきであって、一律に3年ないし5年と固定すべきものではありません。 幸いなことに、平成24年11月2日に国税庁ホームページを改訂し、「『債務者の債務超過の状態が相当期間継続』しているという場合における『相当期間』とは、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいいますから、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なることになります。」としています。   4 通達の考え方 通達は、国家行政組織法に基づいて発せられるものですが、同法第14条第2項では、「各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。」としています。 課税要件明確主義において最も問題になるのは、この「通達」の存在です。 「通達」は各行政庁の長ごとのものがあり、上級官庁が下級官庁に発する命令であり、執行通達と解釈通達に区分されます。執行通達は行政における執行手続や行事要領等を定めるものですから、ここでは問題にしません。 租税法の上で問題になるのは、国税庁長官が発する解釈通達です。租税法の適用について各税務署又は税務職員ごとにその解釈を異にすると課税の公平を保てないので、解釈の統一を図るために発せられるのが解釈通達です。 もちろん、通達は行政庁の下級官庁への命令ですから、国税庁長官の発する通達は、下級庁たる国税局や税務署の職員を拘束します。しかし、納税者は独自の租税法解釈権を持っているので通達に拘束されません(昭和38.12.24、最高裁第三小法廷)。裁判所ももちろん通達には拘束されません(昭和35.8.2、東京地裁)。 国税不服審判所は、国税庁の附属機関ではありますが、国税通則法第99条により通達に拘束されないことになっています。 国税通則法では、国税不服審判所長が通達に示されている法律の解釈と異なる解釈によって裁決しようとするときは、あらかじめ国税庁長官にその意見を申し出ることになっており、国税庁長官はこの意見を相当と認めれば申出変更のとおり処理して差し支えないと指示し、相当と認めなければ国税審査会の議決が必要となります(国税通則法99)。 すでに述べたように、国税庁長官の発する解釈通達は、課税庁内部における法解釈の統一を図ることを目的としていますから、行政組織内部は拘束しますが、納税者を拘束するものではありません。しかし、課税庁は通達による解釈に基づいて課税執行を行いますから、納税者がこれに反する税務上の解釈により納税申告を行うとすれば、更正等の処分を受けることを予想し、最終的には、訴訟を行うことを覚悟しなければならず、訴訟を行っても必ず勝訴するとは限らないから、ある意味では賭を行うことにもなりかねません。この意味では、通達は事実上納税者の権利、義務に重要な影響を与えています。 問題は、通達で課税要件を定めることですが、さらにQ&Aやホームページなどで通達と異なる取扱いを定め、通達自体を改正していないことです。 (了) 山本守之の法人税“一刀両断” 【特別寄稿】 「ついに発表された消費税軽減税率の取扱い」   税理士 山本 守之   1 はじめに 国税庁では本年4月12日、次の文書を公開しました。これによって消費税の軽減税率制度に対する取扱いが明示されたといってよいでしょう。 なお、同時に次の文書も公開されています。 本稿では、これらのうち実務に必要な重要な事項について解説することにします。   2 軽減税率制度に関する法令解釈 (1) 飲食料品の範囲等 ① 「食品」とは 軽減税率の対象品目である「飲食料品」(注)とは、食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)をいいます。 ここでいう、「食品」とは、人の飲用又は食用に供されるものをいいますので、人の飲用又は食用以外の用途で取引されるものは、飲食が可能であっても、「食品」には該当しません。 (注) 「飲食料品」、「一体資産」 「食品」と「食品」以外の資産が一の資産を形成、又は構成しているもので一定のものの譲渡も「飲食料品」の譲渡として軽減税率が適用されます。 これを「一体資産」といいますが、次のイ、ロのいずれにも該当するものです。 これとは逆に、食品と食品以外の詰め合せ商品の価格がそれぞれ提示されているものや消費者に食品と食品以外の商品をその場で組み合わせて販売するものは「一体資産」に該当しません。 したがって、このような商品の販売は、食品については軽減税率が、食品以外の商品については標準税率がそれぞれ適用されます。→ いわゆる「一括譲渡」に該当します。 同通達は次のようになっています。 「一体資産」の譲渡は、次のイ、ロの要件のいずれも満たすものに限って、軽減税率が適用されます。 一体資産の価額のうちに食品に係る部分の価額の占める割合については、事業者の合理的な計算に基づき判断することとなります。また、他の事業者が組成した詰合せ商品等を仕入れた事業者においては、詰合せ商品を組成した事業者が合理的な方法により判断した結果に基づいて判断することができます。 (出所:国税庁「軽減税率制度に関する法令解釈通達等について」平成28年4月12日) 「食品」の範囲については、取扱通達では次のように規定されています。 ② 食品に関する個別事例 ③ 適用税率の判定時期 取引の軽減税率の適用については、事業者が課税資産の譲渡等を行ったときに判断されます。人の飲用又は食用に供されるものとして事業者が販売した場合には、その取引には軽減税率が適用されますので、購入者が結果として人の飲用又は食用に供さなかったとしても適用税率が適用されます。 人の飲用又は食用でないものを人の飲用又は食用に供されるものとして販売したとしても、当然に軽減税率は適用されません。 (2) 「酒」、「医薬品・医薬部外品」について 酒税法に規定する「酒」は、消費税法上で飲食料品から除くこととされています。 食品の製造原料として「酒」を販売する場合は軽減税率が適用されないのです。 また、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に規定する「医薬品」、「医薬部外品」、「再生医療等製品」は、食品表示法上の「食品」から除かれています。 したがって、これらは軽減税率の対象品目ではありません。 (3) 飲食料品の販売に係る包装材料等 飲料食品の販売に付帯して使用される容器、包装等で通常必要なものは、これら容器も含め、飲料食品の譲渡に該当します。例えば、ジュースなどの飲料を販売するときの容器である缶やペットボトル、精肉や魚を販売するときのトレーなどです。 (※) 容器・包装材の販売者が、飲料メーカーに販売する缶やペットボトル、また、スーパー等の小売店に販売するトレーは、容器そのものの販売ですので軽減税率は適用されません。 なお、販売する商品代金とは別途対価を定めて、贈答用の化粧箱や特殊なラッピングなどを行う場合がありますが、これらの代金は化粧箱やラッピングの対価であり、「飲食料品の譲渡」の対価ではありませんので、「標準税率」が適用されます。 また、飲食料品を販売する容器として陶磁器やガラス食器など、食品と食品以外の商品が一体となって取引されているものは、「一体資産」に該当し、一定の要件を満たすものに限り軽減税率が適用されます。 (4) 食品と食品以外の商品の「一括譲渡」を行った場合の留意点等 食品と食品以外の商品を一括して譲渡した場合には、食品には軽減税率が、食品以外の商品には標準税率が適用されることとなります。この場合に、一括して値引きを行う場合には、それぞれの対価の額を合理的に区分していただく必要があります。 例えば、顧客に交付するレシート等に、どの商品からいくらの値引きを行ったのか明示することも合理的な方法のひとつです。 (5) 外食の範囲 ① 軽減税率の適用対象外となる「外食」 軽減税率の適用対象外となるいわゆる「外食」とは、飲食店業等の事業を営む者が行う食事の提供をいい、具体的には、(イ)飲食設備がある場所で、(ロ)顧客に飲食させるサービスとしています。 注意したいのは食品衛生法に規定する飲食店営業、喫茶店営業を営む者が行うものでなくとも、上記の(イ)(ロ)の要件を満たす場合には軽減税率適用外の「外食」に該当します。 ② 飲食店業等の事業を営む者が行う食事の提供とは 「飲食店業等の事業を営む者が行う食事の提供」とは、食品衛生法施行令第35条第1号(営業の指定)に規定する飲食店営業及び同条第2号に規定する喫茶店営業を行う者だけでなく、飲食料品をその場で飲食させる事業を営む者が食事の提供を行う全てが該当します。 つまり、軽減税率制度の適用対象外となる「外食」等は、以下のものをいいます。 ③ 飲食設備とは 飲食に用いられる設備であれば、その規模や目的は問われません。また、飲食料品を提供する事業者と飲食設備を設置する事業者が異なっていても、飲食料品を提供する者が当該設備を利用することにつき設置者との合意等があれば、その設備はその飲食料品を提供する事業者にとっての飲食設備に該当することにしています。 (6) その他 「飲食料品」の譲渡であれば、自動販売機や通信販売による販売であっても軽減税率が適用されます。 また、飲食料品の販売の際に、品質を保つためにサービスで保冷剤等が付くことがありますが、このような飲食料品の販売も軽減税率の対象となります。ただし、保冷剤等、飲食料品以外のものやサービスについて別途対価を徴している場合には、その対価部分については軽減税率は適用されません。   3 全体を通じたコメント 前回は客が「テイクアウトします」と言って軽減税率の税を払いながら、お店の椅子に座って飲食した場合は、客の申出がない限り標準税率と軽減税率の差額を徴収しないという税執行について述べていました。 今回は「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」(平成28年4月12日)の11に「持ち帰りのための飲食料品の譲渡か否かの判定」で次のように述べていますので、その意味を考えてみましょう。 ここでは、客がテイクアウトと意思表示しながら「店内飲食」をしたら、「軽減税率の適用にならない」と通達で明示しています。 しかし、「消費税の軽減税率制度に関するQ&A」(個別事例編)では、次のように述べています。 ここでは通達の本文と「Q&A」の内容が異なっています。私たちはこれを執行の洒落と受け取るべきでしょうか。 *   *   * 消費税の増税の執行が2019年10月まで延期されることになりました。 時間がまだあるのなら、Q&Aは納税者も交えて考え直したらどうでしょうか。 (了)

#No. 174(掲載号)
#山本 守之
2016/06/23

空き家(被相続人の居住用家屋)に係る譲渡所得の特別控除の特例のポイント 【第1回】「適用に当たっての留意事項」

空き家(被相続人の居住用家屋)に係る 譲渡所得の特別控除の特例のポイント 【第1回】 「適用に当たっての留意事項」   税理士 内山 隆一   ▷はじめに 平成28年度税制改正により、近年増加する空き家について、地域住民の生活環境への悪影響を未然に防ぎ、より住みやすい環境を確保する観点から、相続によって適切な管理が行われない空き家の増加を抑制するため、相続により取得した一定の家屋で旧耐震基準しか満たしていないものを耐震改修して売却した場合や、家屋を取り壊して敷地を売却した場合の譲渡所得について、3,000万円特別控除を適用できる制度が導入された。   1 制度の内容及び適用要件 相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ)によって次の(1)に掲げる被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得した個人が、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に、次の(2)に掲げる対象譲渡をした場合には、居住用財産を譲渡したものとみなして3,000万円特別控除を適用できる。 (1) 被相続人居住用家屋(措法35④) 相続開始直前において被相続人(包括受遺者を含む。以下同じ)の居住の用に供されていた家屋のうち、次に掲げる要件を満たすものをいう。 (2) 対象譲渡 相続の開始があった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に行った譲渡対価の額が1億円以下の次に掲げる譲渡で、相続税額の取得費加算の適用を受けないものをいう。 ① 被相続人居住用家屋の譲渡又は被相続人居住用家屋及びその敷地の譲渡の場合 【図表1】 ② 被相続人居住用家屋を取壊し等した後におけるその敷地の譲渡の場合 【図表2】   2 申告要件 本特例は、確定申告書に、本特例の適用を受けようとする旨等を記載し、かつ、その譲渡による譲渡所得の金額の計算に関する明細書、被相続人居住用家屋及びその敷地の用に供されていた土地等が上記1の要件を満たすことを地方公共団体の長等が確認した旨を証する書類等の添付がある場合に限り適用する。   3 譲渡対価の額が1億円以下であるかどうかの判断基準 本特例は、譲渡対価の額が1億円を超える場合には適用できないこととされているが、被相続人居住用家屋等を分割して譲渡する場合や、贈与(低額譲渡を含む)が行われた場合には、次のように取り扱う。   4 上記2(2)に該当する場合における義務的修正申告   5 他の相続人に対する通知等 (了)

#No. 174(掲載号)
#内山 隆一
2016/06/23

平成28年度税制改正における役員給与税制の見直し 【第2回】「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)及び利益連動給与に係る改正事項」

平成28年度税制改正における 役員給与税制の見直し 【第2回】 「特定譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)及び 利益連動給与に係る改正事項」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 改正の概要(条文番号は改正後) 前回紹介した役員給与をめぐる状況を踏まえ、平成28年度の税制改正では、わが国経済の「稼ぐ力」向上に向けた「攻めの経営」を促すべく、企業経営者に適切なインセンティブを付与するため、役員給与における多様な株式報酬や業績連動報酬の導入促進等を図る観点から、事前確定届出給与及び利益連動給与の取扱いについて、下表の通り2点の改正が行われた。 また、損金算入される役員給与として新たな株式報酬が追加されたことに対応して、新たに「譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例」が追加され(法法54)、これまで法人税法第54条とされていた「新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等」の条文番号が繰り下げられた(法法54の2)。 以下、それぞれの改正項目について詳細に解説を加える。   2 リストリクテッド・ストックに係る改正事項 (1) 概要 事前確定届出給与のうち、届出書の提出が不要なものの範囲として、「特定譲渡制限付株式」(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)が追加された(法法34①二)。 (※) 承継譲渡制限付株式についての説明は省略する。 (2) 特定譲渡制限付株式の意義 特定譲渡制限付株式とは、以下の①及び②の要件を満たした株式(譲渡制限付株式)のうち、③及び④の要件を満たした株式をいう(法法54①、法令111の2②)。 (3) 事前確定届出給与の対象となる「特定譲渡制限付株式」 内国法人がその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて、特定譲渡制限付株式による給与を支給する場合には、事前確定届出給与として、損金の額に算入されることとなる(法法34①二)。 具体的には、役員の職務執行開始日(原則として定時株主総会の日)から1月を経過する日までに、株主総会等の決議によって確定報酬額を定め(その決議の日から1月を経過する日までに、その職務につきその役員に生ずる債権の額に相当する特定譲渡制限付株式を交付する旨の定めに限る)、その定めに従って交付することが必要である(法令69②)。 3月決算法人を前提とすると、以下のようなスケジュールが想定される。 【参考図】 (出典:『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引き~(平成28年6月3日時点版)』(経済産業省資料)p.28) (4) 特定譲渡制限付株式による給与の損金算入時期 (3)の手続に従い役員等に対して交付された特定譲渡制限付株式は、その後、その譲渡制限が解除された日において給与所得等として課税されることとなる(給与等課税事由)。 役員等に対し、事前確定届出給与に該当する特定譲渡制限付株式を交付した法人は、その役員等に給与等課税事由が生じた日において、その法人がその役員等から役務の提供を受けたものとして、特定譲渡制限付株式にかかる株式報酬費用を給与等課税事由の生じた日(譲渡制限解除日)の属する事業年度の損金の額に算入する(法法34①二、54①)。 このとき、当該株式報酬費用は「事前確定届出給与」として損金の額に算入されることとなるが、これについては、同族会社に該当しない内国法人の非常勤役員と同様、事前確定届出給与の届出が不要とされている。 (5) 適用時期 平成28年4月1日以後にその交付に係る決議をする特定譲渡制限付株式について適用される。 なお、「特定譲渡制限付株式による給与」について事前確定届出給与の届出を不要とする措置については、平成28年4月1日以後開始事業年度より適用される。   3 利益連動給与に係る改正事項 (1) 概要 利益連動給与の算定指標の定義が「利益に関する指標」から「利益の状況を示す指標」に改正され、有価証券報告書等に記載されている純粋な利益指標(営業利益、経常利益、当期純利益等)のほかに、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)等の一定の利益関連指標に基づき算定することが可能となった(法法34①三)。 なお、上記以外の利益連動給与の損金算入に関する要件(【第1回】の2(1)の③に記載した表の要件)については改正されていないため、念のため留意されたい。 (2) 算定指標に用いることのできる利益関連指標 下表のうち、2号以下の指標が新たに追加された(法令69⑧)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引き~(平成28年6月3日時点版)』(経済産業省資料)p.32)を元に筆者作成 (3) その他の留意点 今回の利益連動給与の改正について、上記経済産業省資料から留意事項を拾い出すと次の通りである。 ① 役員間で異なる指標を採用することの可否 利益連動給与の支給額の算定方法に関する要件の1つとして、「他の業務執行役員に対して支給する利益連動給与に係る算定方法と同様のものであること」があるが、この要件については、例えば、営業部門担当役員については営業利益を指標とし、財務部門担当役員についてはROEを指標とする等、役員の職務の内容等に応じて有価証券報告書に記載されている指標を用いて合理的に定められている場合には、役員ごとに指標が異なることを妨げるものではないと解されている。 ② 支給額の算定方法に利益連動給与としての要件を満たす部分と満たさない部分とが混在する場合 利益連動給与としての要件を満たす部分を明示的に切り分けられる場合には、利益連動給与の要件を満たす部分については利益連動給与に該当し、原則として損金算入ができると解される。 ③ 持株会社が連結ベースの指標を用いることの可否 金融商品取引法等に基づいて連結財務諸表を提出している持株会社が、利益の状況を示す指標としてその連結財務諸表の指標を用いることは、連結ベースでの利益の状況に基づき株主等から評価がなされていることから、一定の合理性があると考えられる。 (4) 適用時期 平成28年4月1日以後開始事業年度より適用される。 (連載了)

#No. 174(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2016/06/23

連結納税適用法人のための平成28年度税制改正 【第1回】「法人税率等の改正」

連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第1回】 「法人税率等の改正」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   ~はじめに~ 前年に引き続いて、連結納税適用法人を対象に平成28年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人にとって、税制改正とは次の4種類に分類される。 そして、平成28年度税制改正については、連結法人税率の引下げ(②)、連結欠損金の繰越控除制度の見直し(①)、雇用促進税制の見直しや企業版ふるさと納税の創設(②)、減価償却制度の見直しや事業税の見直し(④)などがあり、今年度も連結納税適用法人にとって税負担及び実務への影響が大きい改正となっている。 一般に、税制改正に関する専門誌等では、連結納税制度に係る取扱いについて、「連結納税制度の場合についても、同様の改正が行われています。」という一言で片づけられてしまうことが多いため、連結納税適用法人は、単体納税の税制改正の内容を参考にして、 連結納税ではどう取り扱われるのか? 上記①~④のいずれに該当するか? を自ら確認しなくてはいけない。 そこで、本連載では、上記①~③に限定することなく、連結納税適用法人(注)に関係するすべての改正項目について、その取扱いを解説していくこととする。 (注) 本連載でいう「連結納税適用法人」は普通法人であるものとする。したがって、連結親法人が協同組合等の場合は本連載の対象外としている。 なお、本連載の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。   [1] 連結法人税、連結地方法人税、住民税、事業税の税率の改正 (1) 連結法人税の税率の改正 連結法人税の税率(改正前:23.9%)について、次のとおり、段階的に引き下げる(法法81の12①、平成28年所法等改正法附則1、27)。 なお、連結法人税の個別帰属額の計算に適用される税率も、同様に引き下げられることとなる(法法81の18①、平成28年所法等改正法附則27)。   (2) 連結地方法人税の税率の改正 連結地方法人税の税率を10.3%(改正前:4.4%)に引き上げ、平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用する(地方法10①・11、平成28年地方法改正法附則30①)。 なお、連結地方法人税の個別帰属額の計算に適用される税率も、同様に引き下げられることとなる(地方法15①、平成28年地方法改正法附則30①)。   (3) 住民税の税率の改正 住民税の法人税割の税率を次のとおりとし、平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(地法51①、314の4①)。 なお、東京都の都民税については、道府県民税及び市町村民税の法人税割の税率を合計した率となる。 (4) 事業税の税率の改正 資本金の額又は出資金の額が1億円超の普通法人の事業税の標準税率を次のとおりとし、平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(地法72の24の7①、地方法人特別税等に関する暫定措置法2①、平成28年地法改正法附則1)。 なお、外形標準課税適用法人以外の法人については、事業税の税率については改正されていない。 (注1) 所得割の税率下段のカッコ内の率は、 地方法人特別税等に関する暫定措置法適用後の税率であり、 当該税率の制限税率を標準税率の2倍(改正前:1.2倍)に引き上げる。 (注2) 3以上の都道府県に事務所又は事業所を設けて事業を行う法人の所得割に係る税率については、 軽減税率の適用はない。 そして、外形標準課税適用法人の事業税の税率(標準税率)の改正を受けて、外形標準課税に超過課税を課している東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、宮城県、静岡県、京都府、兵庫県の自治体において、超過税率の見直しに係る税条例の改正が行われている(東京都の超過税率については、下記2参照)。 また、外形標準課税適用法人に係る事業税の税率が改正されたことに伴い、事業税の税率の改正に伴う負担変動の軽減措置が見直されている。 具体的には、資本金1億円超の普通法人のうち、次の事業年度に係る付加価値額が40億円未満の法人について、次の金額を事業税額から控除する(平成28年地法改正法附則5②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩、1、1三・五)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 税負担増加の要件の判定及び事業税額から控除される金額の計算については、都道府県ごとにその都道府県の事業税率(超過税率を含む)を使って行う。   (5) 地方法人特別税の税率の改正 資本金1億円超の普通法人の地方法人特別税の税率を次のとおりとし、平成28年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(地方法人特別税等に関する暫定措置法9、平成28年地法改正法附則1、30①)。 なお、外形標準課税適用法人以外の法人については、地方法人特別税の税率については改正されていない。 そして、平成29年4月1日以後に開始する事業年度から地方法人特別税は廃止され、事業税に一本化される(平成28年地法改正法9、平成28年地法改正法附則1三、31①)。   2 改正後の税率及び法定実効税率の一覧 上記1の改正後の税率及び連結納税の税効果会計において適用される将来の事業年度ごとの法定実効税率をまとめると次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 174(掲載号)
#足立 好幸
2016/06/23

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例39(所得税)】 「遺産分割につき誤った説明をしたため「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用が受けられなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例39(所得税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(租税特別措置法35条) 個人が居住の用に供している家屋とその敷地を譲渡したときは、居住用財産の譲渡所得の特別控除として、その譲渡所得の金額から3,000万円が控除される。この特例の対象となる居住用財産は、現に自己の居住の用に供している家屋又は生計を一にする親族の居住の用に供している家屋で一定のものとその敷地の用に供されている土地等に限られる。 ◆生計を一にする親族の居住の用に供している家屋(租税特別措置法通達31の3-6) 次に掲げる要件のすべてを満たしているときは、その家屋はその所有者にとって「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことができるものとする。       (了)

#No. 174(掲載号)
#齋藤 和助
2016/06/23

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第17回】「同族非同族対比基準」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第17回】 「同族非同族対比基準」   公認会計士 佐藤 信祐   前回は、争点9(不当の意味と課税要件明確主義)として紹介されている最高裁昭和53年4月21日判決について解説を行った。 本稿では、争点10(同族非同族対比基準)として紹介されている東京高裁昭和49年6月17日判決について解説を行うこととする。 12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344) (1) 事実関係 控訴人は、砂糖の精製、販売等を業とする株式会社であるが、控訴会社の株主であった亡竹腰進一が、昭和35年4月1日台糖株式会社に対して控訴会社の発行済株式の全部に当たる1万6,000株(額面合計800万円)を代金4,000万円で譲渡し、台糖から同月2日1,000万円、同月30日2,000万円、同年12月24日1,000万円を収受したのが、その実質において、控訴会社の粗糖外貨割当権の譲渡であって、控訴会社は、右4,000万円を受領すべき権利を取得したものと認めて、課税処分を行った事件である。 当時の所得税法では、株式譲渡益は非課税とされていたことから、粗糖外貨割当権の譲渡を行うよりも、株式譲渡を行った方が有利であったことが前提の事件である。 (2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 このように、株式譲渡を事業譲渡とみなして否認をすることは許されないとしたものの、株式買収後に、控訴会社から買収会社である台糖に対して無形資産である割当権を無償で移転した行為については、経済人として不自然、不合理なものとして、同族会社等の行為計算の否認が適用された。 判決文の内容はやや分かりにくいが、結局のところ、買収時点で無形資産の時価を計算できるにもかかわらず、無償で移転することは許されないとしていることから、単なる寄附金の事件であると思われる。なお、判決文では、「割当権の無償移転行為が右法条の予想する寄附行為に該当するものとは解されない」としているが、現行法上は、寄附行為に該当するものとして否認されるべきものと考えられる。 そして、判決文では、「乙会社が甲会社の全株式を取得することによって両会社が親子会社の関係に立つとしても、甲会社が乙会社と独立して存在する経済人である以上、有償(時価相当価額)でこれを譲渡するのが普通であって、無償でこれを移転することは、異例、不自然の行為といわねばならない」としており、独立の第三者との間の取引と比較しており、日本IBM事件の控訴審判決にあるように、このような考え方は同族会社等の行為計算の否認が適用される場合の一類型に位置付けることができるのかもしれない。この点についても、いずれ本連載で明らかにしていく予定である。 さらに、本事件では、「普通、とったであろうと認められる行為計算が行われた場合と同視して法人税を課することができるものとする趣旨」としていることから、同族会社等の行為計算の否認は、事業目的があれば適用されないというものではなく、事業目的の見地から、複数の選択肢のうち、選択された行為が他の代替的な手法に比べて有利な手法であること(または少なくとも不利な手法ではないこと)まで求められていると解すべきであると思われる。 これに対し、株式譲渡を事業譲渡とみなして否認することができない理由として、被買収会社の株主が達成しようとする経済目的を、投下資本及び清算利益を一挙に回収することであるとしたうえで、「会社ぐるみ譲渡ということが、もっとも簡便、合理的な方法ということができる」とし、買収会社が達成しようとする経済目的を、経営を支配し、その資産を自由にし得る地位を取得することとしたうえで、「この目的のためになされた全株式の取得行為をもって、不自然、不合理の行為とはいい得ないことはむろんのことである。」と判示している。 現行法上、オーナー会社を対象とするM&Aでは、譲渡所得に対する所得税が安いことから、事業譲渡よりも株式譲渡の方が有利であることは知られているが、本事件を参考にすれば、それだけを理由として租税回避行為と認定することはできないということになる。 次回では、役員、従業員との取引に対して争われた事件について解説を行う予定である。 (了)

#No. 174(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/06/23

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第30回】「収入印紙によらない納付方法①(書式表示)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第30回】 「収入印紙によらない納付方法①(書式表示)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は飲食チェーン店です。各店舗において、売上代金は社員のほかに、アルバイトなどもレジを利用し、領収しています。売上代金を現金で領収した場合、手書きの領収書のほかに、レジから出力されるレシートや領収書についても、5万円以上の領収には収入印紙の貼付が必要である旨は、社員等に伝えてはいますが、レジの混雑時など収入印紙の貼付漏れが発生しないか心配です。 いちいち収入印紙を貼付せずに印紙税を納める方法はないでしょうか。   印紙税は、課税文書に収入印紙を貼付し、消印をすることにより納付するのが原則だが、納付の特例として、書式表示による申告納付の方法がある。 この書式表示による方法は、税務署長の承認を受けてレシート等に所定の表示をすることにより、収入印紙を貼付せず、金銭をもって印紙税を納付する方法である。 承認の要件は以下のとおり。 【手続き】 印紙税の書式表示による申告納付の特例制度の適用を受けるに当たっては、あらかじめ課税文書を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。また、承認を受けた者は書式表示による申告書を毎月、作成した翌月末までに承認をした税務署長に提出し、申告書の提出期限までに国に納付を行わなければならない。   [検討] 書式表示にするメリット、デメリット (メリット) 収入印紙を購入する必要がないため、各店舗における収入印紙の受払管理をする手間が省ける。 貼付漏れを防ぐことができる。 (デメリット) レジの場合は、システムの修正が必要。 1月ごとに集計し申告納付するための事務担当者が必要。   ▷ まとめ   (了)

#No. 174(掲載号)
#山端 美德
2016/06/23

ストーリーで学ぶIFRS入門 【第4話】「概念フレームワークを学ぶ(後編)」

ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第4話】 「概念フレームワークを学ぶ(後編)」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美   6月23日木曜日、午前7時30分。桜井と藤原の早朝IFRS勉強会も、今日で3回目だ。 「入社3年目、経理部のホープ桜井弘樹は、頼りがいのある藤原先輩の下、今日も概念フレームワークの勉強に勤しんでいるのであった。」 桜井は、椅子ごと回転させて隣の藤原に向き直った。 「先輩、缶コーヒーをマイク代わりに変なナレーションをつけるの、止めてください。」 「悪い、悪い。」 「それよりもIFRS導入のプロジェクトの方は、順調なんですか?」 そもそも桜井がIFRSの勉強をすることになったのは、会社がこれからIFRSを導入するか検討を始めたためである。IFRS任意適用会社は順調に増加傾向ではあるが、桜井の勤めるような中堅の上場会社はまだ相対的に少ない。 「んー、まあ予定通り、ってところだな。」 藤原にしては歯切れの悪い返事が返ってきたので、桜井は意外に感じた。 「あれ?藤原君に桜井君じゃない。早いのね。」 そこに、同じ経理部の橋本が近くのカフェのタンブラーを片手にオフィスに入ってきた。 「おはようございます。橋本さんこそ、今日は早いですね。」 橋本は派遣社員を除くと経理部唯一の女性社員で、主に税金関係を担当している。まだ子供が小さいことから時短勤務で働いているため、早朝出社は珍しい。 「今日はダンナが有休取ったから、子供の保育園の送りを任せてきちゃったの。ほら、6月ってまだ忙しいじゃない?朝だったら邪魔されずに自分の仕事できるでしょ?」 そう言いながら、橋本はテキパキと荷物を置き、パソコンを立ち上げる。 「僕たちは、IFRSの勉強会なんですよ。藤原先輩から教わっているんです。」 「えー、藤原なんかに教えてもらって・・・大丈夫?」 「藤原なんか、って失礼ですよ。俺だって後輩指導くらいできます。」 「そっかぁ、藤原君ももうそんなになっちゃったのね~」 橋本は椅子の背もたれに寄りかかりながら、向かいの藤原を感慨深げに見上げる。桜井は、橋本が藤原よりも前に入社しているのは知っていたが、具体的に何年に入社したかは知らなかった。逆算すると年齢が分かるため、橋本の入社年は無言の箝口令が経理部内で敷かれているからだ。 「そんなに、って、どんなになってるんですか、俺は。」 「やだ、褒めてるのよ、これでも。大丈夫。ジャマはしないから、2人とも気にせず続けて。」 そう言うと、橋本はバッグからイヤホンを取り出し、仕事に没頭し始めた。 「じゃあ、俺たちも始めるか。」 毒気を抜かれた藤原は「コホン」と咳払いをして桜井に話しかけた。桜井も素直に頷く。    財務諸表を構成する要素の定義、認識及び測定 「上の図を覚えているか?」 「はい。前回から勉強している概念フレームワークで取り扱っている範囲のリストですよね。」 「そうだ。今日は3つ目の項目、『財務諸表を構成する要素の定義、認識及び測定』について勉強していく。今日が概念フレームワークでは一番のメインになるから、しっかり理解しろよ。」 それを聞いて、桜井は少し緊張した面持ちで頷いた。だが、ふと疑問に思い、質問した。 「どうして、ここが肝になるんですか?」 「IFRSの特徴の原則主義に関する説明でも言った通り、IFRSでは細かい論点までは取り扱わないからだ。」 「確か・・・」と言いながら、桜井は藤原に教えてもらった記憶をたどる。 「会計基準がすべての事象を網羅しているわけではないから、IFRSに規定のない事象が発生することがあるという話ですよね。その場合、その事象に類似する事項や関連する事項を取り扱っている他のIFRSの定めがあればそれを参照できますが、参照できない場合には、概念フレームワークに基づいて会計方針を判断するんでしたね。」 藤原は、そうだ、と頷いた。 「そのためには構成要素の定義や、認識及び測定の理解は必須になるだろ?だから、この部分は特に重要なんだ。」 今度は桜井が頷く番だった。 ◆財務諸表を構成する要素 「まずは、財務諸表を構成する要素とは何か、という話から始めよう。この図を見てくれ。」    財務諸表を構成する要素  「この図の一番下に並んでいる5つの項目が構成要素ですか?」 「そうだ。まず、財務諸表の構成要素には、「財政状態の構成要素」と「業績の構成要素」の2つに分けられる。その下の構成要素については、問題ないか?」 「はい。財政状態の構成要素はいわゆるB/S項目の資産、負債、持分ですね。そして、業績の構成要素はP/L項目の収益及び費用というわけですね。」 「大丈夫そうだな。じゃあ、各構成要素の定義に入っていくぞ。」 財政状態の構成要素の定義 「まずは、財政状態の構成要素の定義からだ。上の図だと左側にある緑色の『資産(asset)』、『負債(liability)』、『持分(equity)』の3要素だな。そして、その構成要素の定義をまとめたものが下の図だ。」 桜井は藤原の示した図の定義に目を通した。  財政状態の構成要素の定義  「いいか?IFRSは資産負債アプローチを採用しているから、資産及び負債をまず定義して、その差額が持分、つまり資本と定義されている。」 「はい。そうですね。」 「定義についてのポイントは定義の文中で太字にしている3点だ。 過去の事象から生じていること 現在会社が支配または債務を負っていること それらが将来経済的便益(economic benefits)の変動をもたらすものであること この3点を満たすものが、資産または負債として計上すべきものになる。」 修繕引当金は負債なのか? 「ん?ちょっと待ってください。」 藤原は、持っているペンで定義のポイントを聞いて戸惑っている桜井を指し、「はい、桜井くん、どうぞ。」と促す。 「ちょっと、茶化さないでくださいよ。 その定義に当てはめると、将来発生する費用のために積み立てている修繕引当金は負債に該当しなくなりますよね?過去の事象から発生しているわけでもないですし、現在の債務かと言われると、自主的に積んでるので債務とは言えません。ということは、IFRSを導入すると僕の切る伝票が1つ減ることになるんですか?」 「最後の部分はちょっと聞き捨てならんが、結論は負債に該当しないということになるだろうな。修繕引当金を計上するには、IAS第37号の『引当金、偶発債務及び偶発資産』の基準で定められている引当金の要件を満たす必要がある。その要件の1つに『過去の事象の結果として現在の債務を有すること』という概念フレームワークの定義と重なる要件があるんだが、修繕引当金はこの要件を満たさないと考えられる。したがって、修繕引当金は現在の債務とは言えないから計上は認められないだろう。」 「なるほど。それでは、日本基準では当たり前のように計上しているけど、IFRSでは計上が認められないものが他にもありそうですね。」 「ほかには繰延資産があるな。日本基準では、既に過去に対価を支払っているが、効果が将来及ぶと考えられることから資産計上される。一方、概念フレームワークの定義に当てはめると、将来の経済的便益が増加することはないから、資産性はないということになるんだ。」 「へぇ。今まではただ教えられたとおりの科目で伝票を切っていたので、資産性があるか、負債性があるかということは考えたことがありませんでした。これからは意識してみると面白いかもしれませんね。」 桜井の言葉を聞いて、藤原は満足そうな表情を浮かべた。 業績の構成要素の定義 「続いて、業績の構成要素の定義に移ろう。業績の構成要素は『収益(income)』及び『費用(expense)』の2つだ。上の図だと右側の最下段にある緑色の2つのボックスだな。」 「はい。そして下の図に業績の構成要素の定義がまとめてあるんですね。」  業績の構成要素の定義  「ここでのポイントは次の2点だ。 資産または負債の変動に伴って生じたものであること 資本取引は含まれない この2点を押さえておけば大丈夫だろう。」 「分かりました。ここは大丈夫そうです。」と答えると、桜井は藤原の指摘したポイント部分にマーカーを引いた。 ◆財務諸表の構成要素の認識と測定 「次に、構成要素の認識『(recognition)』と『測定(measurement)』について説明していこう。概念フレームワークもあともうひと踏ん張りだから、頑張れ。」 少し疲れてきていたが、桜井は気合いを入れて返事をした。 「はい。頑張ります!」 「上の図は財務諸表の構成要素の認識規準と測定基礎をまとめたものだ。といっても、いきなり、認識とか測定とか言われても分からないだろう。まずは、それぞれの言葉を説明しよう。」 「よろしくお願いします。」 『認識規準』や『測定基礎』といった耳慣れない単語に戸惑っていた桜井はホッとした表情を見せた。 「まず、認識とは、構成要素の定義を満たし、B/SまたはP/Lに組み入れる過程のことだ。そして、測定とは、B/S及びP/Lで認識され計上されるべき財務諸表の構成要素の金額を決定するプロセスのことを指すんだ。」 「えーと、つまり、認識は『何』の科目をどのタイミングで計上するのか、測定はいくらで計上するのかという話ですか?」 「そういうことだ。そして、認識するための2つの規準と測定するための4つの測定基礎が概念フレームワークで定められているんだ。図の中の白いブロックに書いてある項目がそうだ。」 構成要素の認識規準   「認識と測定の意味が分かったところで、認識の規準から順番に説明していくぞ。上の図では左半分に該当する。」 「ここでも、〇〇性とかいう抽象的な要件があるんですね・・・」 桜井は図を見ながら、ため息をついた。 「そんな嫌そうな顔をするなよ。まず、各構成要素を認識するのは、蓋然性規準と信頼性規準という2つの規準に当てはまるときだ。」 「『蓋然性』は『ガイゼンセイ』と読むんですね。僕、『蓋』という漢字、初めて見ました。」 桜井の言葉に苦笑しながら、藤原は説明を続けた。 「蓋然性規準というと難しそうに聞こえるが、要は、ある項目に関連する将来の経済的便益が、企業に流入または流出する可能性が高い(probable)ことを意味しているんだ。 信頼性規準は、その項目が信頼性をもって測定することができる原価または価値を有している、ということだ。」 「つまり、将来の経済的便益がもたらされるまたは流出する可能性が高くて、かつ、その金額を信頼性を持って測定できるときに構成要素を認識することになる、ということですか?」 「そうだ。この認識は、資産、負債だけではなく、収益、費用についても同じく適用される。」 桜井は一度頷いて理解していることを藤原に伝えると、藤原は話を続けた。 費用収益対応の原則 「ただし、費用については、費用収益対応の原則(matching of cost with revenues)に従う必要がある。簿記でも習っただろ?」 「えーと、費用収益対応の原則とは、発生した原価と特定の収益項目の稼得との間に直接的に関連がある場合に、収益認識時にその原価を同時にまたは結びつけて認識すること、でしたよね。」 「そうだ。それに加えて、経済的便益が複数の会計期間にわたって発生することが予想され、かつ収益との関係が概括的または間接的にのみ決定される場合には、費用は規則的かつ合理的な配分手続に基づいてP/Lに認識されることになるんだ。具体的には、有形固定資産の減価償却費なんかがあるな。」 財務諸表の構成要素の測定基礎 「認識の2つの規準と費用収益対応の原則については、理解できました。 次の測定についてですが、いくらで計上するか、という金額面の話ですよね。」 「そうだ。上の図でいうと、右半分のブロックだな。概念フレームワークでは測定基礎として次の4つの項目を挙げている。 取得原価(historical cost)、現在原価(current cost)、実現可能(決済)価額(realisable (settlement) value)、現在価値(present value)だ。 どうだ、結構馴染みのあるものばかりだろう?」 「本当ですね。取得原価をはじめ、日本基準でも見かける測定基礎ばかりです。」 4つの測定基礎の定義 「下の図が測定基礎の定義をまとめたものだ。」 「一つひとつ、順番に説明していこう。 取得原価はもっとも一般的だな。資産または負債を取得した時に支払った対価または受け取った対価で測定するというものだ。 次の現在原価は少し聞きなれないが、内容は難しくない。現時点で資産または負債を取得または決済する際に必要な対価で測定する。 この2つはタイミングは違うが、資産負債を取得する際の対価というコスト面からの測定基礎だ。」 「あ、なるほど。確かに、英語で見てみると上の2つの測定基礎はcostとなっていますね。一方で、下の2つの測定基礎はvalueなんですね。」 「よく気がついたな。では、下の2つの測定基礎について説明するぞ。」 「はい。」 「3つ目に挙げられている実現可能(決済)価額は資産と負債で別々に説明したほうが分かりやすいな。 資産の方では、現時点で売却したら得られるであろう金額で測定する。負債は将来決済時に支払う予定額の割引前の金額で測定するんだ。」 「あれ?負債の測定については、現在原価と似てませんか?どちらも決済に必要な対価で測定するんですよね?」 「そうだな。負債の測定については現在原価と混同しやすいが、現在原価では現時点で決済する対価であるのに対し、実現可能(決済)価額では決済時点が将来という点が異なるんだ。」 「あ、本当ですね。決済時点が違うんですね。」 「最後の現在価値は将来の正味キャッシュ・インフローまたはキャッシュ・アウトフローの割引現在価値で資産または負債が測定されるというものだ。実現可能価額では割り引かないが、現在価値は割り引くという点が特徴だな。」 「現在価値はよく目にする測定基礎なので、バッチリですよ。」 桜井が理解できたのを確認して、藤原は先を続けた。 「これは参考だが、概念フレームワークではどの測定基礎が優位であるかは書かれていないんだ。ただ、『これらの測定基礎が異なる程度に、また種々の組み合わせによって使用される』とだけ書かれている。例えば、棚卸資産は通常取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い金額で計上されるし、年金債務は現在価値で計上されるといった感じだ。 今日教えた認識規準と測定基礎をまとめた図と測定基礎の定義の表を参考にするといいぞ。」 そういうと、藤原はコーヒーの空き缶を捨てようと席を立った。桜井が時計を確認するとちょうど始業10分前だ。 「さすが、先輩。時間配分もばっちりですね。今日の朝礼の1分間スピーチもジャスト1分狙えるんじゃないですか?今日、先輩の当番でしたよね?」 にっこりと笑いかける桜井とは対照的に、藤原の顔は引きつっている。 「やベっ、何も考えてなかった!桜井、俺が空き缶捨ててきてやるから、その間にネタ考えておいてくれ。概念フレームワークを教えてやった礼にさ。」 「え~、無茶言わないでくださいよ!」 桜井は、逃げるようにオフィスから立ち去る藤原の後ろ姿を見ながら、ため息をつく。 「やっぱり、藤原君らしいわね。」 その様子を見ていた橋本がぽそりと言った。   (了)

#No. 174(掲載号)
#関根 智美
2016/06/23

〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第6回】「税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合」

〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第6回】 「税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合」   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵     1 過去の誤謬に起因するものか否かの判断 《解説》 まず、税務調査により指摘されたX2年度の申告漏れが、過去の誤謬に起因するものかどうかを判断する必要がある。 例えば、A社がX1年度の期首に固定資産(キャビネット)を取得したとする。キャビネットの法人税法に定める耐用年数(以下、「法定耐用年数」)は、主として金属製のものは15年、その他のものは8年と定められている(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一6器具及び備品より)。 ここでA社の取得したキャビネットが全体として金属製であるにもかかわらず、A社の経理担当者が誤って法定耐用年数を15年ではなく8年としていたとする。 正しい耐用年数である15年よりも短い8年という償却期間に基づき減価償却費が計算されるため、税務上は減価償却超過額が生じ、会計上は減価償却費の過大計上となる。しかし、A社は申告書で加算の調整をしておらず、また損益計算書上も過大な減価償却費を計上していた。 その結果、X1年度及びX2年度の所得がその分だけ少なくなり、納税額が本来納付すべき金額より過少となっていたため、X3年度の税務調査でX1年度及びX2年度における申告漏れを指摘され、A社はX3年度中に修正申告をして追加納付している(なお、会計上の観点からも、税務調査の指摘のように、耐用年数を法定耐用年数である15年とすることが合理的であった)。 これは、入手可能である法定耐用年数に関する情報を誤用し、結果として会計上の減価償却費が過大となっているので、「① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り」に該当し、過去の誤謬となる。このような場合は、「2 遡及修正(修正再表示)の要否」を検討する。 一方で、先ほどとは異なり、A社の取得したキャビネットが金属と金属以外の素材の両方を使って作られていたとする。A社の経理担当者は、当該キャビネットのフレームは金属製であるが、主要構造部分は木製であったため、主として金属製のものには該当しないと判断し、法定耐用年数を8年とした(なお、会計上の観点からも、企業の状況に照らし、耐用年数を法定耐用年数である8年とすることに不合理と認められる事情はなかったと仮定する)。 8年という正しい償却期間に基づき減価償却費を計算しているため、X1年度及びX2年度において、税務上の減価償却超過額も発生せず、会計上も適切な減価償却費が計上されていた。しかし、X3年度の税務調査において、キャビネットのフレームは金属製であるため当該キャビネットは主として金属製のものに該当し、法定耐用年数15年に基づき減価償却するべきだと指摘された。 A社は、税務署の指摘も一理あると思い、税務上は償却期間を15年として減価償却費を計算し、会計上の減価償却費(償却期間8年)との差額(減価償却超過額)を加算調整した修正申告を行った。A社は、X3年度中に修正申告をして追加納付をした。 これは、税務署と会社との見解の相違であり、法定耐用年数に関する情報を誤用したわけではなく、会計上も適切な減価償却費が計上されていたと考えられるため、過去の誤謬には該当しない。このような場合は、「3 過年度法人税等の計上」を検討する。   2 遡及処理(修正再表示)の要否 《解説》 前述の事例に基づき、A社がX3年度にX1年度及びX2年度の財務諸表の修正再表示を行う必要があるか否かを考える。 A社の経理担当者は15年とすべき耐用年数を8年として固定資産の減価償却費を計算していた。よって、X1年度及びX2年度における当該固定資産に係る減価償却費が過大計上され、それにより法人税等及び未払法人税等の計上額が過少となっていた。 この法人税等及び未払法人税等の過少計上額、並びに減価償却費の過大計上額について、A社はX1年度及びX2年度の財務諸表に影響額を反映させなければならない。そして、X3年度においては、修正後のX2年度末の貸借対照表に計上された未払法人税等を追加納付時に取り崩すこととなる。 A社は上場企業であるため、X1年度及びX2年度の財務諸表を修正再表示する場合はX1年度及びX2年度の有価証券報告書について訂正報告書を提出する必要がある。 また、X3年度において、会社法の計算書類にはX3年度の計算書類への影響額を、有価証券報告書にはX2年度に係る財務諸表へ影響額を注記する必要がある。 一方で、当該影響額に重要性が認められない場合は、修正再表示しないこともできる。その場合は、X3年度の修正申告により納付する税額を、当期の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することになると考えられる。   3 過年度法人税等の計上 《解説》 前述の事例に基づき、税務調査の指摘がA社と税務署との見解の相違によるものであった場合の会計処理について考える。 まず、A社はX1年度及びX2年度の申告に係る税務署の指摘は、見解の相違によるものであるとしながらも、税務署の指摘も一理あると納得し、X3年度に修正申告をして税金を追加納付している。 このような場合は、X1年度及びX2年度において誤謬があったわけではないため、過去の財務諸表は修正せずに、X3年度の損益計算書に修正申告により納付する税額を計上することで足りる。追加納付する税額は「法人税、住民税及び事業税」の次に、その内容を示す名称を付した科目(「過年度法人税等」など)をもって記載する。 なお、当該税額の金額的重要性が乏しい場合は、X3年度の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することもできると考えられる。   【検討事項のチェックリスト】 ~税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 174(掲載号)
#渡邉 徹、永井 智恵
2016/06/23

金融商品会計を学ぶ 【第23回】「ヘッジ会計④」

金融商品会計を学ぶ 【第23回】 「ヘッジ会計④」   公認会計士 阿部 光成   引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ ヘッジ対象 ヘッジ会計を行うに際して、ヘッジ対象を識別することが必要となる(金融商品実務指針148項、149項)。 ヘッジ対象の識別は、資産又は負債等について取引単位で行うことが原則である(金融商品実務指針151項)。 ただし、市場におけるヘッジ手段の最低取引単位が対象とする資産又は負債等の取引単位より大きい場合やヘッジ取引のコスト又は信用リスクを軽減しようとする場合に、企業内部の部門ごと又はその企業において、リスク(例えば、金利変動リスク)の共通する資産又は負債等をグルーピングした上で、ヘッジ対象を識別する方法(包括ヘッジ)もある(金融商品実務指針151項)。   Ⅱ ヘッジ指定 ヘッジ対象は、ヘッジを行うに際して、リスクを有する資産又は負債等の中からヘッジを意図する期間にわたりヘッジ指定によって識別し、識別したヘッジ対象は当該ヘッジ手段と対応させることになる(金融商品実務指針150項)。 以下の事項に留意する(金融商品実務指針150項、152項、153項)。   Ⅲ ヘッジ有効性の評価方法 1 有効性の評価方法の一貫性 企業が当初決めた有効性の評価方法を変更した場合には、ヘッジ関係の指定の見直しを行い、新たにヘッジ会計の要件を満たすと判定されたヘッジ関係についてはその時点からヘッジ会計の適用を開始し、ヘッジ会計の要件を満たさなくなったものについては、金融商品実務指針180項に従って処理する(金融商品実務指針155項)。 2 有効性の判定基準 ヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する。両者の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められる(金融商品実務指針156項、323項)。 以下の事項に留意する(金融商品実務指針156項、323項)。 (了)

#No. 174(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/23
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